説明

有機無機複合体の製造方法及び、有機無機複合体

【課題】 ポリアミドイミド樹脂をマトリクスポリマーとし、無機化合物が微細に均一な状態で分散された有機無機複合体を提供することにある。
【解決手段】 芳香族トリカルボン酸無水物モノハライド(a)を含有する有機溶剤溶液(1)と、ジアミン(b)と、金属酸化物、金属水酸化物及び金属炭酸化物からなる群から選ばれる少なくとも1つのアルカリ金属を含む2つ以上の金属元素を有する金属化合物(c−1)又は珪酸アルカリ(c−2)とを含有する水溶液(2)とを、少なくとも一部が相溶した状態に保ち又は分離した状態で共存させることで、ポリアミド樹脂と、金属化合物もしくは酸化ケイ素からなる無機微粒子を同時に生成する工程1と、工程1により得られた前記ポリアミド樹脂を分子内脱水反応させる工程2とを有することを特徴とする、有機ポリマー成分としてポリアミドイミド樹脂を有する有機無機複合体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐熱性が高い熱可塑性樹脂であるポリアミドイミド樹脂をマトリクスポリマーとした有機無機複合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリアミドイミド樹脂は、連続使用温度250℃という高い耐熱性を有し、寸法安定性、電気的特性、難燃性、摺動特性、耐薬品性に優れ、高温下での高い耐クリ−プ性や疲労特性等を示すことから、エンジニアリングプラスチックとして多岐分野に渡り使用されている。
【0003】
ポリアミドイミド樹脂は、成形加工性を高くすることや、さらに各種強度特性を向上させることを目的として、例えば、雲母やガラスフレーク、タルク、セリサイト、カオリナイト、窒化ほう素、黒鉛、金属フレークなどの板状でアスペクト比の大きな無機フィラーを添加することが行われている(例えば非特許文献1参照)。しかしこれらの場合、無機フィラーが一般に凝集性が強いため、少ないフィラー量では補強効果が十分ではないことから、目的とする特性を得るためにフィラーを30〜60質量部も添加する必要があった。しかし無機フィラー量を増やすことにより、粗大無機粒子部分へ応力が集中し成型品の衝撃強度が低下する問題や、樹脂組成物の加熱時の流動性が低下することで薄肉や細かい形状の成型品を作製できなくなる問題や、比重が大きくなるなどの問題があった。更に、溶融温度が350℃以上の芳香族ポリアミドイミド樹脂と無機フィラーとを溶融混練法により混練させる場合は、該樹脂を溶融させるために多量の熱エネルギーを必要とする問題や、無機フィラーに微小粒径のものを用いようとした場合、溶融混練装置への導入操作がしにくくなる問題点もあった。
【0004】
一方、樹脂に無機粒子を複合化させる方法として、樹脂を合成しながら同時に無機化合物を析出させ、樹脂中に微細な無機化合物を均一に分散させた複合体を、簡易な合成操作で、且つ珪酸ナトリウムやアルミン酸ナトリウム等の安価な無機原料を用いて製造できる方法が知られている(例えば特許文献1〜3参照)しかし、これらの方法で得られるマトリクスポリマーとなる樹脂は、ポリアミド、ポリエステル、ポリ尿素、あるいはポリウレタンに限られていた。これらの樹脂は耐熱性があまり高くないため、得られる有機無機複合体は、エンジニアリングプラスチック用途のように熱的に過酷な使用条件下では劣化が生じる可能性があり、用途が限られていた。
【0005】
また、特許文献1〜3に記載の製造法ではいずれも、原料として、ジクロライド等の2価の酸ハロゲン化物、ジクロロホーメート化合物、もしくはホスゲン系化合物の、2箇所に重縮合反応を生じうる部位を持つモノマー成分を必須としている。該製造法を応用して、ポリアミドイミド樹脂を合成しながら同時に無機化合物を析出させた複合体を得ようとする場合、ベンゼン環上の隣接した部位を含む3箇所に酸ハライドをもつ化合物(例えば、1,2,4−ベンゼントリカルボン酸トリクロリド等)が必要となるが、このような化合物は試薬を含めて実質的に入手が困難である。また仮に入手できたとしても、該製造方法は、珪酸ナトリウム等の無機原料を合成系中に導入するために無機原料用溶媒として水が必須であるが、3価の酸ハライド化合物は水に対して不安定であり、合成反応を目的どおり行うことが困難であると予測される。従って、特許文献1〜3に記載の製造方法をそのままポリアミドイミド樹脂をマトリクスポリマーとする有機無機複合体を製造するために応用することは困難であった。
【0006】
【非特許文献1】旭化成アミダス株式会社、プラスチックス編集部「プラスチック・データブック」工業調査会出版発行、1999年12月1日発行、991頁
【特許文献1】特開平10−176106号公報
【特許文献2】特開2005―036211号公報
【特許文献3】特開2003−252974号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、ポリアミドイミド樹脂をマトリクスポリマーとし、無機化合物が微細に均一な状態で分散された有機無機複合体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決する手段として、芳香族トリカルボン酸無水物モノハライドを有機溶剤に溶解し、一方ジアミンと金属酸化物等のアルカリ金属を含む2つ以上の金属元素を有する金属化合物や珪酸アルカリを水に溶解し、それぞれの溶液を混合することで、ポリアミド樹脂と金属化合物もしくは酸化ケイ素からなる無機微粒子を同時に生成させ、次に、得られた前記ポリアミド樹脂を分子内脱水反応させることで、ポリアミドイミド樹脂をマトリクスポリマーとする有機無機複合体が容易に得られることを見出した。
【0009】
すなわち、本発明は、芳香族トリカルボン酸無水物モノハライドを含有する有機溶剤溶液と、ジアミンと、金属酸化物、金属水酸化物及び金属炭酸化物からなる群から選ばれる少なくとも1つのアルカリ金属を含む2つ以上の金属元素を有する金属化合物又は珪酸アルカリとを含有する水溶液とを、少なくとも一部が相溶した状態に保ち又は分離した状態で共存させることで、ポリアミド樹脂と、金属化合物もしくは酸化ケイ素からなる無機微粒子を同時に生成する工程1と、
工程1により得られた前記ポリアミド樹脂を分子内脱水反応させる工程2とを有することを特徴とする、有機ポリマー成分としてポリアミドイミド樹脂を有する有機無機複合体の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、ポリアミドイミド樹脂をマトリクスポリマーとし、無機化合物が微細に均一な状態で分散された有機無機複合体を容易に得ることができる。
本発明の製造方法は、常温、常圧の反応条件で、ポリアミドイミド複合体の前駆体であるポリアミド樹脂と無機化合物からなる複合体を得る工程1と、該複合体を分子内脱水反応してポリアミド樹脂をイミド化させる2つの工程を有し、少なくとも該2つの工程のみで有機無機複合体を得ることができる。合成反応は安定に短時間で行うことができ、無機含有率が15質量%以上と高含有率で有り、且つ無機化合物が微細に均一な状態で分散された複合体を安定に得ることができる。
更に該反応は、汎用の攪拌装置を用いて、常温常圧下、短時間の1ステップで行うことが可能である。また、使用する無機原料として、アルミン酸アルカリや珪酸アルカリを使用すると、原料費も非常に安価で済む。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の製造方法における工程1は、ポリアミドイミド樹脂の原料である芳香族トリカルボン酸無水物モノハライド(a)及びジアミン(b)と無機原料である金属化合物(c−1)または珪酸アルカリ(c−2)の何れの材料とも、反応前はいずれかの溶媒に溶解状態であり、有機溶剤溶液(1)と水溶液(2)とを、少なくとも一部が相溶した状態に保ち又は分離した状態で共存させることで、ポリアミドイミド樹脂の前駆体であるポリアミド樹脂の合成と無機化合物の析出とが同時に生じるボトムアップ型合成であることが特徴である。相溶あるいは分離の状態で有機溶剤溶液(1)と水溶液(2)とが同一容器即ち1つの反応容器中に存在し、且つ有機溶剤溶液(1)の一部もしくは全部と水溶液(2)の一部もしくは全部とが接触する。各々の溶液の一部が接触する場合とは、見た目反応容器中で分離した状態を指し、通常界面重合により反応は進む。一方各々の溶液の全部が接触する場合とは、見た目反応容器中で相溶した状態を指し、通常溶液重合により反応は進む。これらの重合形態は任意である。
また、得られたポリアミド樹脂を分子内脱水反応させてポリアミドイミド樹脂とする工程2は、無機微粒子が複合化された状態のままで、加熱脱水処理、もしくは化学的脱水処理等で行うことができるので、非常に容易にポリアミドイミド樹脂をマトリクスポリマーとし、無機化合物が微細に均一な状態で分散された有機無機複合体を得ることができる。
【0012】
(工程1 合成機構)
本発明の製造方法における工程1の合成機構は以下のように推定される。
ポリアミドイミド樹脂の前駆体であるポリアミド樹脂は、水溶液(2)中のジアミンと、有機溶媒溶液(1)中の芳香族トリカルボン酸無水物モノハライドとが接触することにより、芳香族トリカルボン酸無水物モノハライド中の酸無水基と−COCl基等の酸ハライドのそれぞれがジアミンと反応してアミド結合を生成することにより生じる。ジアミンと−COCl基等の酸ハライドの重縮合反応の方が、ジアミンと酸無水基の付加重合反応よりも反応速度が早いために優先的に反応が進む。該付加重合反応により同時に塩酸等のハロゲン化水素が発生し、水溶液(2)中の金属化合物(c−1)や、珪酸アルカリ(c−2)のアルカリ金属と反応するので、同時に無機微粒子が析出される。一方、ジアミンと酸無水基の付加重合反応も、常温常圧で迅速に進む。該付加重合反応により得られたアミド結合はベンゼン環の隣接した部位にカルボキシル基を有しているため、得られたポリアミド樹脂は、後述の工程2即ち分子内脱水反応させると、閉環しイミド結合が生成してポリアミドイミド樹脂に転化することができる。
前記付加重合反応の際に副生するNaCl等のハロゲン化アルカリは、合成系中の水や洗浄水に溶解することで合成系外に排出される。従って、得られる有機無機複合体中の無機成分は、実質無機原料に由来するアルカリ金属を含有せず、より耐熱性等にすぐれた有機無機複合体を得ることができる。
【0013】
前述のように、ポリアミド樹脂の合成反応と無機微粒子の析出反応は同時に進行するので、ポリアミド樹脂中に無機成分が微分散した有機無機複合体が得られるのだと推定している。一方の反応のみが一方的に生じることは殆どない。この理由として、ポリアミド樹脂の合成反応は、この反応に伴い発生するハロゲン化水素が除去されないと進行しないことや、無機微粒子の析出反応はポリアミド樹脂の合成反応に伴い発生する酸ハロゲン化物がないと生じ得ないことが挙げられる。
【0014】
(有機溶剤溶液(1))
本発明で使用する有機溶剤溶液(1)は、ポリアミドイミド樹脂の原料の一つである、芳香族トリカルボン酸無水物モノハライドを含有する。
【0015】
(芳香族トリカルボン酸無水物モノハライド)
本発明で使用する芳香族トリカルボン酸無水物モノハライドは、酸無水基と−COCl基等の酸ハライドの両方を同一分子内に持つ化合物であり、酸無水基と−COCl基等の酸ハライドの双方とも常温付近の温和な条件下でジアミンと反応してアミド結合を生成する化合物である。更に、酸無水基とジアミンの反応で生成するポリアミド結合は、加熱により分子内脱水してイミド結合を生成することができる。
これらの化合物の例としては、トリメリット酸無水物モノハライド、1,2,3−ベンゼントリカルボン酸無水物モノハライド、3,4,4´−ビフェニルトリカルボン酸無水物モノハライド、3,4,4´−ジフェニルメタントリカルボン酸無水物モノハライド、3,4,4´−ベンゾフェノントリカルボン酸無水物モノハライド、1,2,4−ナフタリントリカルボン酸無水物モノハライド、1,4,5−ナフタリントリカルボン酸無水物モノハライド等を例示することができる。なかでも、トリメリット酸無水物モノハライドは入手しやすく、かつ1つのベンゼン環より構成されるためにモノマー質量当たりの無機微粒子析出量を多くでき、得られる複合体の無機含有率を高くすることができるので好ましい。
【0016】
(有機溶剤)
本発明で使用する有機溶剤は、前記芳香族トリカルボン酸無水物モノハライドを反応させずに溶解させることができる溶剤であれば特に制限はない。具体的な例としては、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類、n−ヘキサン等の脂肪族炭化水素類、テトラヒドロフラン、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、ジブチルエーテル、アニソール等のエーテル類、アセトン、2−ブタノン、シクロヘキサノン等のケトン類、酸酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル等の酢酸アルキル、クロロホルム、塩化メチレン等のハロゲン化炭化水素類、炭酸プロピレン等を例示することができる。これらは、芳香族トリカルボン酸無水物モノハライドを良好に混合させるために複数を組み合わせて用いても良い。
【0017】
有機溶剤として、テトラヒドロフラン、ジメチルエーテル、アセトン、酢酸エチル等の、水可溶性もしくは水溶性である有機溶剤を使用すると、得られる前記有機溶剤溶液(1)と後述の水溶液(2)とが相溶した状態で反応することとなり、反応場が均一な溶液中である溶液重合で反応が進行し、得られる有機無機複合体は粉末状となる。
一方、トルエン、キシレン、n−ヘキサン、ジブチルエーテル、アニソール、酢酸ブチル、クロロホルム、塩化メチレン等の、水難溶性もしくは水不溶性である有機溶剤を使用すると、得られる有機溶剤溶液(1)と後述の水溶液(2)とが分離した状態で反応することとなり、反応場が水と有機溶剤との界面である界面重合で反応は進行し、得られる有機無機複合体は繊維状または塊状となる。
【0018】
(水溶液(2))
本発明で使用する水溶液(2)は、ジアミン(b)と、金属酸化物、金属水酸化物及び金属炭酸化物からなる群から選ばれる少なくとも1つのアルカリ金属を含む2つ以上の金属元素を有する金属化合物(c−1)又は珪酸アルカリ(c−2)とを含有する。
【0019】
(ジアミン(b))
本発明で使用するジアミンは、前記芳香族トリカルボン酸無水物モノハライドと容易に反応するものであり、且つ水溶性また水易溶性であるならば特に限定はないが、得られるポリアミドイミド樹脂は主に耐熱性を要求される用途に使用されるために、得られるポリマーの耐熱性が高いジアミンであることが好ましい。このような構造としては、芳香族を主体として構成されている、メタフェニレンジアミン、パラフェニレンジアミン、クロロフェニレンジアミン、トルイレンジアミン、4,4´―ジアミノフェニルメタン、4,4´―ジアミノフェニルエーテル、1,5−ナフチレンジアミン、1,6−ナフチレンジアミン等のほか、側鎖を持たない短いアルキル鎖より構成されるエチレンジアミン、1,3−プロパンジアミン、1、4−ブタンジアミンが例示できる。
【0020】
(無機化合物のアルカリ金属塩)
本発明における無機微粒子の原料は、無機化合物のアルカリ金属塩である。具体的には、金属酸化物、金属水酸化物及び金属炭酸化物からなる群から選ばれる少なくとも1つのアルカリ金属を含む2つ以上の金属元素を有する金属化合物(c−1)(以下金属化合物(c−1)と略す)、又は珪酸アルカリ(c−2)が、入手が容易であり安価であり好ましい。金属化合物(c−1)を原料とした場合はアルカリ金属以外の金属元素を有する金属化合物が析出し、珪酸アルカリ(c−2)を原料とした場合はシリカ(酸化ケイ素)が析出する。
【0021】
(金属化合物(c−1))
本発明で使用する金属化合物(c−1)は、具体的には下記一般式(1)で表される。
【0022】
【化1】

【0023】
前記一般式(1)において、Aはアルカリ金属元素を表し、Mはアルカリ金属以外の金属元素を表し、Bは酸素原子、カルボキシ基、またはヒドロキシ基を表す。x、y、及びzは各々独立してA、MとBの結合を可能とする数である。(複合酸化物系の無機材料には不定比化合物(例えばNa1.6Al0.62.8 のような類)が多いために、xyzともに整数とも小数とも定義できない。そのため、安定して存在しえる数を指す。)
前記一般式(1)で表される化合物は、水に完全または一部溶解し塩基性を示すものが好ましい。且つ、析出する金属化合物が、水に殆どまたは全く溶解しない化合物であることが好ましい。
【0024】
前記一般式(1)におけるBが酸素原子である化合物としては、例えば、亜鉛酸ナトリウム、アルミン酸ナトリウム、亜クロム酸ナトリウム、モリブデン酸ナトリウム、スズ酸ナトリウム、タンタル酸ナトリウム、亜テルル酸ナトリウム、チタン酸ナトリウム、バナジン酸ナトリウム、タングステン酸ナトリウム、ジルコン酸ナトリウム等のナトリウム複合酸化物や、亜鉛酸カリウム、アルミン酸カリウム、亜クロム酸カリウム、モリブデン酸カリウム、スズ酸カリウム、マンガン酸カリウム、タンタル酸カリウム、亜テルル酸カリウム、鉄酸カリウム、バナジン酸カリウム、タングステン酸カリウム、金酸カリウム、銀酸カリウム、ジルコン酸カリウム等のカリウム複合酸化物、アルミン酸リチウム、モリブデン酸リチウム、スズ酸リチウム、マンガン酸リチウム、タンタル酸リチウム、チタン酸リチウム、バナジン酸リチウム、タングステン酸リチウム、ジルコン酸リチウム等のリチウム複合酸化物のほかルビジウム複合酸化物が挙げられる。
【0025】
前記一般式(1)におけるBがカルボキシ基及びヒドロキシ基の両方を含む金属化合物(c−1)としては、例えば、炭酸亜鉛カリウム、炭酸ニッケルカリウム、炭酸ジルコニウムカリウム、炭酸コバルトカリウム、炭酸スズカリウム等が挙げられる。
前記金属化合物(c−1)は、水に溶解させて用いるために水和物であっても良い。また、各々を単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することもできる。
【0026】
金属化合物(c−1)の中でも、特に、アルミン酸アルカリ、スズ酸アルカリ、亜鉛酸アルカリ、炭酸ジルコニウムアルカリが特に好ましく用いられる。これらの金属化合物は、水溶性が高く溶解させた際の塩基性が強いため、前記マトリクスとなるポリマーの縮重合反応を進行させやすい。中でもアルミン酸アルカリは特に水溶性が高い上安価であるため最も好ましく用いられる。
【0027】
(珪酸アルカリ(c−2))
本発明で使用する珪酸アルカリ(c−2)は、例えば、珪酸ナトリウム(水ガラス)1号、2号、3号、4号が例となるMO・nSiOの組成式で、Mがアルカリ金属、nの平均値が1.8〜4のものが挙げられる。また、nの平均値が1.8以下でありMがナトリウムであるオルト珪酸ナトリウムやメタ珪酸ナトリウム、前記の珪酸ナトリウムのナトリウムが他のアルカリ金属に変更された、珪酸リチウム、珪酸カリウム、珪酸ルビジウム等も用いることができる。
【0028】
(水溶液(2)の溶媒)
水溶液(2)の溶媒の主体は水である必要があり、これにより高極性な化合物である無機化合物原料の金属化合物(c−1)や、珪酸アルカリ(c−2)を良好に溶解させることができる。但し、アルキル部分が大きいことにより水単独に溶解させにくいジアミンを用いる場合にはジアミンの溶解性を高くすることを目的としてアセトン、テトラヒドロフラン、n−メチルピロリドン等の極性有機溶媒を水溶液(2)の50質量%程度を上限にして混合しても良い。
【0029】
また、水溶液(2)にはポリアミドの合成を促進するために、水酸化アルカリ、炭酸アルカリ等の塩基性物質を溶解させてもよい。また、有機溶媒溶液(1)との混合性を高めるために界面活性剤等の添加剤を含有していても良い。
【0030】
(モノマー濃度)
本発明での有機溶媒溶液(1)と水溶液(2)中のそれぞれのモノマー濃度としては重合反応が十分に進行すれば特に制限されないが、各々のモノマー同士を良好に接触させる観点から、0.01〜3モル/Lの濃度範囲、特に0.05〜1モル/Lが好ましい。
【0031】
(有機無機複合体の合成反応場)
前記合成反応の反応場は、有機溶剤溶液(1)と水溶液(2)とが相溶するか、非相溶であるかにより異なる。
前述の通り、有機溶剤として、テトラヒドロフラン、ジメチルエーテル、アセトン、酢酸エチル等の、水可溶性もしくは水溶性である有機溶剤を使用すると、得られる前記有機溶剤溶液(1)と後述の水溶液(2)とが相溶した状態で反応することとなり、反応場が均一な溶液中である溶液重合で反応が進行し、得られる有機無機複合体は粉末状となる。この時得られるポリマーの分子量は低いものが多い。
一方、前述の通り、トルエン、キシレン、n−ヘキサン、ジブチルエーテル、アニソール、酢酸ブチル、クロロホルム、塩化メチレン等の、水難溶性もしくは水不溶性である有機溶剤を使用すると、得られる有機溶剤溶液(1)と後述の水溶液(2)とが分離した状態で共存し反応することとなる。このとき、反応場が水と有機溶剤との界面であると、界面重合で反応は進行し、得られる有機無機複合体は塊状〜粗大粒子状となる。この時得られるポリマーの分子量は高いものが多い。
これらの重合方法は特に限定されず、所望する有機無機複合体の形状、ポリマーの分子量等により選択することが可能である。
【0032】
(有機溶剤溶液(1)と水溶液(2)の共存方法)
前記有機溶剤溶液(1)と前記水溶液(2)とを、少なくとも一部が相溶した状態に保ち又は分離した状態で共存させるには、有機溶剤溶液(1)と水溶液(2)とが接触する環境があれば特に限定はなく、通常は、攪拌翼を有する1つの反応釜に前記有機溶剤溶液(1)と前記水溶液(2)とを同時に仕込めばよい。反応温度は特に高く設定する必要は無く、例えば−10〜50℃の常温付近の温度範囲で十分に反応が進行する。また、加圧や減圧は特に必要としない。有機無機複合体の合成反応は、用いるモノマー種や反応装置、スケールにもよるが、通常30分以下の短時間で完結する。
【0033】
具体的には、前記有機溶剤溶液(1)または前記水溶液(2)を仕込んだ反応釜中に、攪拌しながらもう1方の溶液を添加していく方法が挙げられる。前記有機溶剤溶液(1)及び前記水溶液(2)の仕込み順序については特に限定はない。
【0034】
(工程2 分子内脱水反応)
工程1でジアミンと酸無水基との反応により生じたアミド結合を、分子内脱水反応により閉環させイミド化する工程が工程2である。イミド化する方法としては、加熱脱水処理、化学的脱水処理、及びこれらの併用が挙げられる。
加熱脱水処理は、分子内脱水が生じる温度であれば特に制限はなく、通常は100℃〜350℃の範囲で行う。中でも150℃〜300℃の範囲内が好ましい。100℃未満では分子内脱水によるイミド化が十分に進行しない恐れがあり、350℃を越える温度ではポリマーの分解が始まる恐れがある。該加熱脱水処理は、他の加熱工程と兼ねて行うことも可能である。
【0035】
化学的脱水処理は、具体的には、工程1により得た無機微粒子を含有するポリアミド樹脂を洗浄乾燥して得た粉末状、繊維状、バルク状等とし、化学的脱水剤に常温〜約50℃の範囲で最適な時間浸漬した後、濾過して回収する。副反応等を防止する観点から有機無機複合体の洗浄処理が終了した後に行うことが好ましい。
化学的脱水剤の例としては無水酢酸、無水プロピオン酸、無水コハク酸、無水安息香酸等のカルボン酸無水物と、キノリン、ピリジン等の有機塩基物質との混合物が好ましく使用される。
【0036】
(製造装置)
本発明で用いる製造装置の内、工程1のための製造装置(合成装置)としては、有機溶媒溶液(1)と前記水溶液(2)とを良好に接触反応させることができる製造装置であればとくに限定されず連続式、バッチ式のいずれの方式でも可能である。連続式の具体的な装置としては大平洋機工株式会社製「ファインフローミルFM−15型」、同社製「スパイラルピンミキサSPM−15型」、あるいは、インダク・マシネンバウ・ゲーエムベー(INDAG Machinenbau Gmb)社製「ダイナミックミキサDLM/S215型」などが挙げられる。また、バッチ式の場合は有機溶剤溶液と水溶液の接触を良好に行わせる必要があるので、マックスブレンド翼やファウドラー翼等の攪拌力が強い攪拌装置を用いるのが好ましい。
【0037】
工程2である分子内脱水反応に用いる装置としては、加熱脱水処理を行う場合には公知慣用の電気炉、乾燥機等の各種加熱装置が、化学的脱水処理を行う場合には複合体粒子と脱水剤とを分散させるための公知慣用のプロペラ翼やアンカー翼を持つバッチ式の攪拌装置が例示できる。
【実施例】
【0038】
(実施例1)
(工程1 合成反応)
トルエン38.8gとアセトン10.0gとの混合溶液にトリメリット酸無水物モノクロリドを3.496gを入れて常温下で5分間攪拌を行い完全に溶解させることにより淡黄色の透明均一な有機溶剤溶液(1)を得た。次に、蒸留水60.0gにメタフェニレンジアミン1.797gと水ガラス3号5.78gを入れて常温下で5分間攪拌することにより均質透明は水溶液(2)を得た。次に、水溶液(2)を300mLのステンレス製反応容器の中に入れ、アンカー翼を用いて常温下で200m−1で攪拌しつつ、30秒間で有機溶剤溶液(1)を導入し接触、反応させた。有機溶剤溶液(1)の導入に伴い淡茶色の生成物が急速に発生した。この状態で攪拌を30分間継続することで茶色の芳香族ポリアミド樹脂と酸化ケイ素との複合体を含有するスラリーを得た。
【0039】
(工程2 複合体の洗浄処理、脱水閉環処理)
このスラリーを95mmφのヌッチェ上に目開き5μmの濾紙を設置し15分間、0.015MPaで減圧濾過することにより淡茶色のペーストを得た。このペーストをメタノール200g中に分散させ常温下で30分間攪拌することによりメタノール洗浄を行い、その分散液を再度濾過した。次に蒸留水200g中に分散させ常温下で30分間攪拌することにより水洗浄を行い、その分散液を再度濾過した。これを95℃で5時間乾燥し、芳香族ポリアミド樹脂と酸化ケイ素との複合体である茶色粉末を得た。
次に該茶色粉末を、200℃で3時間加熱処理を行うことにより分子内脱水反応を行い、ポリアミドイミド樹脂と酸化ケイ素とからなる茶色の有機無機複合体を得た。
【0040】
(実施例2)
実施例1の水溶液(2)中の水ガラス3号を、浅田化学製粉末アルミン酸ナトリウムP−100(NaO37質量%、Al54質量%)1.485gに変更し、10分間攪拌することにより、透明淡黄色の水溶液(2)を得て、これを用いた以外は実施例1と同様な合成、洗浄、乾燥及び、脱水閉環処理を行うことにより、ポリアミドイミド樹脂と酸化アルミニウムからなる茶色の有機無機複合体を得た。
【0041】
(実施例3)
実施例1の水溶液(2)中の水ガラス3号を、日本軽金属製炭酸ジルコニウムカリウム水溶液ジルメル1000の5.45gに変更した水溶液(2)を用いた以外は実施例1と同様な合成、洗浄、乾燥及び、脱水閉環処理を行うことにより、ポリアミドイミド樹脂と酸化ジルコニウムからなる茶色の有機無機複合体を得た。
【0042】
(実施例4)
実施例1の水溶液(2)中のメタフェニレンジアミンを同量のパラフェニレンジアミンに変更した水溶液(2)を用いた以外は実施例1と同様な合成、洗浄、乾燥及び、脱水閉環処理を行うことにより、ポリアミドイミド樹脂と酸化ケイ素とからなる茶色の有機無機複合体を得た。
【0043】
(比較例)
樹脂溶融混練装置である、ラボプラストミルCタイプ((株)東洋精機製作所)を用いて以下の条件で溶融混練法により酸化ケイ素微粒子とポリアミドイミド樹脂を複合化する試験を行った。加熱温度365℃、ミキサー回転数150rpm、混練時間10分、混合試験物:ポリアミドイミド樹脂35g、ナノ酸化ケイ素微粒子(シーアイ化成製、平均粒径25nm)15g。本方法では無機微粒子の装置への導入が無機微粒子の飛散によりやや困難であった。
【0044】
(評価方法)
(1.無機微粒子の含有率の測定法)
前記実施例1〜4及び比較例にて得られた有機無機複合体を絶乾後に精秤(複合体質量)し、これを空気中、600℃で1時間焼成しポリマー成分を完全に焼失させ、焼成後の質量を測定し灰分質量とした。下式により無機成分含有率を算出した。
【0045】
【数1】

【0046】
(2.無機微粒子の検証)
(蛍光X線での測定)
実施例1〜4で得られた有機無機複合体粉末約1gを開口部が直径10mmの測定用ホルダ−にセットし測定用試料とした。該試料を理化学電気工業株式会社製蛍光X線分析装置「ZSX100e」を用いて全元素分析を行った。
【0047】
前記実施例1〜4で得られた有機無機複合体は、複合化する目的の無機物質中の元素(珪酸ナトリウムの場合がケイ素、アルミン酸ナトリウムの場合はアルミニウム、炭酸ジルコニウムカリウムの場合はジルコニウム)が大量に検出され、目的とする無機物質の複合化がされていることが示された。
一方、無機原料中のアルカリ金属(珪酸ナトリウム、アルミン酸ナトリウムの場合はナトリウム、炭酸ジルコニウムカリウムの場合はカリウム)は検出限界以下か、検出されたとしても痕跡程度しか検出されなかった。従って、無機微粒子の含有率の測定法で得られた灰分(すなわち無機物質)はアルカリ金属を実質的に含有しておらず、本発明では金属化合物(c−1)、又は珪酸アルカリ(c−2)からのアルカリ金属除去及び固体化反応が予測された反応機構の通り行われていることが明らかとなった。
【0048】
(透過型電子顕微鏡による分散状態の検証)
前記実施例1〜4及び比較例にて得られた有機無機複合体を300℃、100MPa/cmの条件で3時間熱プレスを行うことで有機無機複合体の成型板を得た。この板を、マイクロトームを用いて厚さ約75nmの超薄切片とした。得られた切片を日本電子株式社製、透過型電子顕微鏡「JEM−200CX」にて2.5〜50万倍の倍率で観察し透過型電子顕微鏡(TEM)写真を撮影した。このとき無機成分は暗色、有機成分は明色で観察される。各実施例で得られた複合体は、粒径が300nm以上となるような粗大粒子は見られず、無機微粒子がポリアミドイミド樹脂中に微分散しているのが観察された。また、いずれの複合体も無機微粒子が層状に分布する傾向が見られた。図1に実施例2で得られた、酸化アルミニウムとポリアミドイミド樹脂との複合体の透過型電子顕微鏡(TEM)写真を示す。
一方比較例では、多数の無機微粒子が凝集したと推定される粗大な無機微粒子が数多く散見された。
【0049】
以上の測定によって得られた有機無機複合体の各種物性、及びTEM写真からの測定結果について表1にまとめた。この表での、無機微粒子分散状態とは粒径300nm以上の粗大粒子が観察できない場合には○とした。また、粒径500nm以上の凝集体がみられた場合は×とした。
【0050】
【表1】

【0051】
以上の結果より、実施例1〜4では、無機化合物微粒子が有機ポリマーマトリクス中に微細に分散した極めて良好な有機成分と無機成分との複合化構造が得られた。このような微細構造を持つ複合体は樹脂へ無機微粒子を溶融混練する方法では基本的に製造しえない。加えて、無機化合物の含有率も20質量%以上と高くすることもでき、その無機成分は実質的にアルカリ金属フリーであった。
一方、比較例は、ナノ粒径の酸化ケイ素を用いて365℃と極めて高い温度で溶融混練したにも関わらず、無機微粒子が凝集物を形成し、ナノ粒径でポリマー中に分布していなかった。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】実施例2で得られた酸化アルミニウム/ポリアミドイミド複合体の倍率50万倍の透過型電子顕微鏡写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族トリカルボン酸無水物モノハライド(a)を含有する有機溶剤溶液(1)と、ジアミン(b)と、金属酸化物、金属水酸化物及び金属炭酸化物からなる群から選ばれる少なくとも1つのアルカリ金属を含む2つ以上の金属元素を有する金属化合物(c−1)又は珪酸アルカリ(c−2)とを含有する水溶液(2)とを、少なくとも一部が相溶した状態に保ち又は分離した状態で共存させることで、ポリアミド樹脂と、金属化合物もしくは酸化ケイ素からなる無機微粒子を同時に生成する工程1と、工程1により得られた前記ポリアミド樹脂を分子内脱水反応させる工程2とを有することを特徴とする、有機ポリマー成分としてポリアミドイミド樹脂を有する有機無機複合体の製造方法。
【請求項2】
前記芳香族トリカルボン酸無水物モノハライド(a)がトリメリット酸無水物モノハライドであり、且つ前記ジアミン(b)がメタフェニレンジアミン、パラフェニレンジアミンから選ばれる少なくとも1種である、請求項1に記載の有機無機複合体の製造方法。
【請求項3】
前記金属化合物(c−1)がアルミン酸アルカリ、スズ酸アルカリ、亜鉛酸アルカリ又は炭酸ジルコニウムアルカリである、請求項1に記載の有機無機複合体の製造方法。
【請求項4】
請求項1の製造方法により得た、平均粒径3〜300nmの無機微粒子を15質量%以上含有することを特徴とする、有機ポリマー成分としてポリアミドイミド樹脂を有する有機無機複合体。

【図1】
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【公開番号】特開2008−179711(P2008−179711A)
【公開日】平成20年8月7日(2008.8.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−14949(P2007−14949)
【出願日】平成19年1月25日(2007.1.25)
【出願人】(000002886)DIC株式会社 (2,597)
【Fターム(参考)】