説明

本革表皮材の成形方法

【課題】表皮材の表面に形成されている凹凸模様の消滅を防ぎつつ、立体的な形状を有する本革表皮材を成形によって形成する。
【解決手段】本発明は、表皮材2の表面にシボ模様が形成されている本革表皮材1の成形方法であって、表皮材2の裏面に液状のアクリル樹脂40を塗布する塗布工程と、アクリル樹脂40が塗布された表皮材2から表皮材2に含まれている水分を除去させる表皮材水分除去工程と、アクリル樹脂40が塗布された表皮材2をアクリル樹脂40の軟化温度以上の温度に加熱したプレス機70に載置し、熱プレスにより表皮材2を立体的な形状に賦形する熱プレス工程と、熱プレス後、プレス機70による賦形状態を維持して表皮材2を冷却し、プレス機70から表皮材2を脱型する脱型工程とからなるところに特徴を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、本革表皮材の成形方法に関する。
【背景技術】
【0002】
車両用シートのシートクッションなどは、クッション材を表皮材によって被覆した構成であり、表皮材は立体的な形状を有している。この表皮材の材料として本革を用いた本革表皮材は、下記特許文献1に記載のように、公知である。下記特許文献1に記載の本革表皮材は、所定形状に裁断された皮革片を寄せ縫いし、クッション材の表面形状に合致した立体形状に縫製することにより、袋状に形成している。この本革表皮材は、皮革片を縫製によってつなぎ合わせた構成である。
【特許文献1】特開2006−204326公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記構成では、縫製ラインが外観に表れてしまい、本革表皮材の外観意匠が制約される。そこで、外観意匠の制約を受けることを回避すべく、本革表皮材を成形によって立体的な形状に形成することが考えられる。ところが、本革には水分が含まれているため、熱プレスの際に水分が蒸発して水蒸気が発生すると共にプレス機がアイロンとなって、スチームアイロンの役割を果たすことにより、本革の表面に形成されているシボ模様などの凹凸模様が平面状となって消滅するおそれがある。
【0004】
本発明は上記のような事情に基づいて完成されたものであって、表皮材の表面に形成されている凹凸模様の消滅を防ぎつつ、立体的な形状を有する本革表皮材を成形によって形成することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、表皮材の表面に凹凸模様が形成されている本革表皮材の成形方法であって、表皮材の裏面に液状の熱可塑性樹脂を塗布する塗布工程と、熱可塑性樹脂が塗布された表皮材から表皮材に含まれている水分を除去させる表皮材水分除去工程と、熱可塑性樹脂が塗布された表皮材を熱可塑性樹脂の軟化温度以上の温度に加熱したプレス機に載置し、熱プレスにより表皮材を立体的な形状に賦形する熱プレス工程と、熱プレス後、プレス機による賦形状態を維持して表皮材を冷却し、プレス機から表皮材を脱型する脱型工程とからなるところに特徴を有する。
【0006】
このような本革表皮材の成形方法によると、表皮材水分除去工程を設けたから表皮材に含まれている水分を除去することができ、熱プレスの際に水蒸気が発生することを防ぐことができる。よって、プレス機により表皮材を立体的な形状に賦形しても水蒸気が存在しないため、プレス機がスチームアイロンとして機能することがなく、表皮材の凹凸模様を維持したまま成形することができる。また、成形によって立体的な形状を有する本革表皮材を形成可能にしたことで、裁断、縫製工程を削減することができる。
【0007】
本発明の実施の態様として、以下のようにすることが好ましい。
表皮材水分除去工程では熱可塑性樹脂が塗布された表皮材を加熱することによって水分を除去してもよい。
このように表皮材を加熱することによって水分を除去すると、表皮材が加熱によって収縮するため、その後熱プレスによって表皮材が伸びた場合でも初期状態からの伸び量を低く抑えることができる。
【0008】
熱可塑性樹脂は、アクリル樹脂としてもよい。
このように熱可塑性樹脂としてアクリル樹脂を用いると、本革の特性(柔軟性など)を損ねることなく、容易に成形することができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、表皮材の表面に形成されている凹凸模様の消滅を防ぎつつ、立体的な形状を有する本革表皮材を成形によって形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
<実施形態>
本発明の実施形態を図1ないし図8の図面を参照しながら説明する。本実施形態における本革表皮材1は、車両用シート(図示せず)のシートクッションやシートバックなどに用いられるシート用表皮材である。このシート用表皮材は、クッション材などを内包し被覆した構成であり、大きい円弧形状や袋状(本発明の「立体的な形状」の一例)に成形されている。図1は、本革表皮材1の断面構造を示したものである。尚、図1の図示下側が本革表皮材1の表面側であり、同上側が本革表皮材1の裏面側である。
【0011】
本革表皮材1は、その表面側から順に、コーティング層10と、銀面層20と、繊維層30とを備えている。本革表皮材1の表面には、本革特有のシボ模様(本発明の「凹凸模様」の一例)が形成されている。銀面層20は、本革の表面層を構成しており、銀面層20と繊維層30とによって本革が構成されている。本革は、本革表皮材1の裏面側から表面側に向かうにつれて目が細かくなっており、本革の内部には水分が含まれている。コーティング層10は、本革の銀面層20を保護する目的でコーティングされた保護膜である。
【0012】
繊維層30は、複数の繊維が交絡することによって構成されており、これらの繊維間には隙間が形成されている。繊維層30の裏面(銀面層20と反対側の面)には、アクリル樹脂40が繊維の隙間に含浸され硬化されている。これにより、本革表皮材1は、柔軟性を有して一定の形態に保持されている。
【0013】
次に、本実施形態における本革表皮材1の製造方法について図2ないし図8の図面を参照しながら説明する。尚、以下の説明では、完成前の本革表皮材1を表皮材2という。本革表皮材1の母材となる表皮材2は、コーティング層10と、銀面層20と、アクリル樹脂40が含浸されていない繊維層30とを備えている。
【0014】
まず、液状の熱可塑性樹脂の塗布方法として、本実施形態ではロールコーター方式の塗工機60を用い、グラビア(凹版)式で回転方向が本革表皮材1の送り方向と同じである本革表皮材1の裏面(繊維層30)側の塗布ロール61に熱可塑性樹脂であるアクリル樹脂40を供給し、本革表皮材1を塗布ロール61と塗布ロール61に対向する送りロール62に挟み込んで送りながら本革表皮材1の裏面にアクリル樹脂40を塗布する。塗布ロール61と送りロール62の隙間間隔を本革表皮材1の厚さより狭くすることで塗布ロール61の押圧力によりアクリル樹脂40を繊維層30内部に含浸させることができる(塗布工程)。なお、繊維層30に塗布されたアクリル樹脂40の塗布量は、1g/dmとなるように設定する。
【0015】
塗布工程においてアクリル樹脂40が塗布された表皮材2は、図3に示すように、赤外線ヒータなどの乾燥装置50によって裏面側から加熱される。乾燥装置50は、基台51と、基台51上に載置された表皮材2に対して上方から赤外線53を放射し加熱する赤外線放射部52とを備えている。表皮材2の表面側は基台51に載置され、表皮材2の裏面側は赤外線放射部52に対向配置されている。赤外線放射部52は、基台51上に載置された表皮材2の温度が水分を蒸発可能な温度(100℃〜120℃)となるように設定されている。これにより、表皮材2は、繊維層30の裏面側が重点的に加熱されることにより繊維層30の内部に含まれている水分が除去される。表皮材2の含水率は、好ましくは10%以下がよく、さらに好ましくは5%以下がよい(表皮材水分除去工程)。
【0016】
また、表皮材2は、乾燥装置50による加熱によって加熱前の初期状態よりも収縮する。しかし、表皮材2は、後記するように、熱プレスによって伸ばされる場合があり、その場合には、初期状態からの伸び量を低減することができる。尚、繊維層30の裏面には、アクリル樹脂40が塗布されているものの、繊維の隙間が完全に塞がれているわけではなく、乾燥させることは可能である。仮に、表皮材2を乾燥させた後にアクリル樹脂40を塗布すると、塗布時に表皮材2が吸湿してしまうため、アクリル樹脂40が塗布された表皮材2を乾燥させる方が好ましい。
【0017】
表皮材2を乾燥させる方法としては、表皮材2に赤外線53をあてて乾燥させる方法以外に、表皮材2に温風をあてて乾燥させる方法や、表皮材2に常温で乾いた空気をあてて乾燥させる方法や、表皮材2を真空乾燥させる方法などを採用してもよい。また、塩化カルシウムやシリカゲルなどの乾燥剤を設置した乾燥室内に表皮材2を載置して乾燥させてもよいし、表皮材2をベルトコンベアに載せて搬送しながら加熱炉を通過させることによって乾燥させてもよい。
【0018】
このように表皮材水分除去工程は、繊維層30に含まれている水分を除去することを目的としており、単に水分を除去することが目的であれば、次述する熱プレス工程で熱プレスによって表皮材2を加熱すればよく、表皮材水分除去工程を設ける必要性がないようにも思える。しかしながら、熱プレスによって表皮材2を加熱すると、スチームアイロン効果によって表皮材2の表面に形成されているシボ模様が消滅してしまう。このため、本実施形態では熱プレス工程とは別に表皮材水分除去工程を敢えて設けているのである。
【0019】
表皮材水分除去工程において水分が除去された表皮材2は、プレス機70にセットされる。プレス機70は、上下方向に接近および離間可能な上下一対の成形型71,72を備えている。プレス機70の上型71は、本体部73と、本体部73に対して相対移動可能なスライドコア部74とから構成されている。一方、下型72は、凹部75を有し、凹部75の底面には、複数の吸着孔76が開口している。吸着孔76は、真空ポンプ77に連通しており、真空ポンプ77を駆動することによって真空引きが可能である。
【0020】
プレス機70の上下両型71,72は、アクリル樹脂40の軟化温度以上の温度(80℃〜120℃)に加熱されており、表皮材2は、図4に示すように、表面側を下型72側に向けて下型72における凹部75の外周部分75A上に載置される。次に、上型71の本体部73のみを下型72に向けて移動させることにより、図5に示すように、表皮材2を本体部73と凹部75の外周部分75Aとの間に挟み込む。このとき、本体部73と凹部75の外周部分75Aとの間隔は、表皮材2の板厚よりもやや大きめの間隔に設定されている。したがって、表皮材2は、本体部73と凹部75の外周部分75Aとの間を移動可能である。
【0021】
この後、真空ポンプ77を稼働させて吸着孔76を通じて凹部75内を真空引きし、表皮材2を凹部75の底面に引き込むと、表皮材2は、図6に示すように、吸着孔76により凹部75の底面に吸着された状態となる。この状態では、表皮材2は、凹部75の内面に沿った形態に賦形されている。そして、吸着孔76による賦形状態を保持したまま、上型71のスライドコア部74を下型72に向けて移動させると、図7に示すように、表皮材2は、凹部75の内面とスライドコア部74の外面との間に挟まれて熱プレスされることによって立体的な形状に賦形される(熱プレス工程)。
【0022】
熱プレス後、プレス機70による賦形状態を維持したまま表皮材2を冷却する。本革は、熱プレス後しばらくの間は、賦形状態を維持する性質を有しているため、アクリル樹脂40が軟化していても表皮材2が元の形状に戻ることはない。このため、上下両型71,72を型開きすると、アクリル樹脂40が固化して表皮材2が立体的な形状に保持される。この後、表皮材2をプレス機70から脱型することにより、図8に示すように、立体的な形状を有する本革表皮材1が得られる(脱型工程)。
【0023】
以上のように本実施形態では、熱プレス工程の前に表皮材水分除去工程を設け、表皮材2を乾燥させた状態で熱プレスしているから、熱プレス時に水蒸気が発生することを防ぐことができる。よって、プレス機70がスチームアイロンの役割を果たしてシボ模様が消滅することを防ぐことができる。この結果、本革表皮材1を立体的な形状に成形することが可能となり、従来必要であった裁断、縫製工程を削除することができる。
【0024】
また、表皮材2を加熱することによって水分を除去したことに伴い、表皮材2が加熱によって収縮するものの、その後熱プレスによって表皮材2が伸びた場合に初期状態からの伸び量を低く抑えることができる。さらに、熱可塑性樹脂としてアクリル樹脂40を用いているから、本革の特性(柔軟性など)を損ねることなく、容易に成形することができる。
【0025】
<他の実施形態>
本発明は上記記述及び図面によって説明した実施形態に限定されるものではなく、例えば次のような実施形態も本発明の技術的範囲に含まれる。
(1)本実施形態では熱可塑性樹脂としてアクリル樹脂40を用いているものの、本発明によると、アクリル樹脂40には限定されず、他の熱可塑性樹脂を用いてもよい。
【0026】
(2)本実施形態ではロールコーター方式の塗工機60を用いて繊維層30にアクリル樹脂40を塗布しているものの、本発明によると図9のような噴射ノズル63を用いて繊維層30にアクリル樹脂40を吹き付けて塗布してもよい。
【0027】
(3)本実施形態では凹凸模様としてシボ模様を例示しているものの、本発明によると、梨地、木目、布目などとしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本革表皮材の断面構造を示した図
【図2】塗布工程においてロールコーター方式の塗工機を用いて表皮材にアクリル樹脂を塗布する様子を示した図
【図3】表皮材を乾燥させる表皮材水分除去工程を示した図
【図4】熱プレス工程において表皮材を下型に載置した状態を示した図
【図5】その上型の本体部を下型に移動させた状態を示した図
【図6】その表皮材を吸着孔で真空引きした状態を示した図
【図7】その上型のスライドコア部を下型に移動させた状態を示した図
【図8】上下両型を型開きして本革表皮材を脱型する脱型工程を示した図
【図9】塗布工程において噴射ノズルを用いて表皮材にアクリル樹脂を吹き付けて塗布する様子を示した図
【符号の説明】
【0029】
1…本革表皮材
2…表皮材
40…アクリル樹脂(熱可塑性樹脂)
50…乾燥装置
70…プレス機

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表皮材の表面に凹凸模様が形成されている本革表皮材の成形方法であって、
前記表皮材の裏面に液状の熱可塑性樹脂を塗布する塗布工程と、
前記熱可塑性樹脂が塗布された前記表皮材から前記表皮材に含まれている水分を除去させる表皮材水分除去工程と、
前記熱可塑性樹脂が塗布された前記表皮材を前記熱可塑性樹脂の軟化温度以上の温度に加熱したプレス機に載置し、熱プレスにより前記表皮材を立体的な形状に賦形する熱プレス工程と、
前記熱プレス後、前記プレス機による賦形状態を維持して前記表皮材を冷却し、前記プレス機から前記表皮材を脱型する脱型工程とからなることを特徴とする本革表皮材の成形方法。
【請求項2】
前記表皮材水分除去工程では前記熱可塑性樹脂が塗布された前記表皮材を加熱することによって前記水分を除去する請求項1に記載の本革表皮材の成形方法。
【請求項3】
前記熱可塑性樹脂は、アクリル樹脂からなることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の本革表皮材の成形方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−203418(P2009−203418A)
【公開日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−49536(P2008−49536)
【出願日】平成20年2月29日(2008.2.29)
【出願人】(000241500)トヨタ紡織株式会社 (2,945)
【Fターム(参考)】