説明

板状部材

【課題】相手材との間で高い接合強度を保つことができる板状部材を提供する。
【解決手段】板状部材の一例としての裏板1は摩擦材2との接合面1aに複数の括れ形状の突起3を全体にわたって有している。前記突起3の高さが0.3〜3.0mm、突起数が5〜100個/cmであることが好ましい。板状部材の材質は鉄鋼、アルミニウム、銅、チタン、マグネシウム、これらをベースとした合金、又は樹脂である。板状部材は材料を溶融し、金型を用いて鋳造又は成形により製造されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブレーキパッド、ロッカーアーム、チェーンテンショナ、ピストンストラットなどにおいて使用される板状部材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、相手材と接合される金属製の板状部材として、ブレーキパッドの裏板、ロッカーアーム先端部の耐摩耗性チップ部材、チェーンテンショナにおけるチェーンガイド本体、ピストン補強用のストラットなどが存在する。
【0003】
板状部材を使用している代表例としてブレーキパッドがある(特許文献1、特許文献2参照)。特許文献1では、表面に複数の尖鋭突起部を形成した裏板と摩擦材は、接着剤により、あるいは裏板表面上に摩擦材を形成する原料である粉末を配置した後、加圧及び加熱の成形処理を行なうことにより接合する。摩擦材は裏板の複数の尖鋭突起部が差し込まれて強固に固定され、摩擦材が高速で摩擦されても裏板上で変位するのを防ぐことができる。特許文献2では、裏板(プレッシャプレート)表面に乾燥条件下で所定の粒径の投射材を投射することにより表面に微細な凹凸を形成し、裏板と摩擦材を接着剤により接合する。裏板表面に微細な凹凸を形成することで接着面積が増加し、接合強度を向上させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実用新案登録第3151864号公報
【特許文献2】特開平2008−2653号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1には、裏板表面に複数の尖鋭突起部を形成して摩擦材との接合強度を増大させる記載があるが、先の尖った突起では摩擦材に大きな摩擦力がかかった場合、強いせん断力によって摩擦材が裏板から剥離する可能性がある。また、特許文献1には、尖鋭突起部の高さ及び個数と接合強度との関係について一切記載がない。特許文献2についても同様である。
【0006】
本発明の目的は、相手材との間で高い接合強度を保つことができる板状部材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、相手材に接合される板状部材において、相手材との接合面に複数の括れ形状の突起を有していることを特徴とする。板状部材は平板の他、2次元あるいは3次元の曲率を持った板状部材も含まれる。括れ形状の突起は、突起の太さが先端部よりも中間部が細い形状(きのこ形状や鼓形状等)の突起である。
【0008】
前記突起の高さが0.3〜3.0mm、突起数が5〜100個/cmであることが好ましい。
【0009】
前記板状部材の材質が鉄鋼(鋳鉄、鋼等)、アルミニウム、銅、チタン、マグネシウム、これらをベースとした合金、又は樹脂であることが好ましい。アルミニウム、銅、チタン、マグネシウム、これらをベースとした合金、又は樹脂は軽量化に適している。銅又は銅合金は熱伝導性向上に適している。
【0010】
前記板状部材は材料を溶融し、金型を用いて鋳造又は成形により製造されていることが好ましい。複数の括れ形状の突起は、鋳造又は成形時、例えば、珪藻土、ベントナイト(粘結剤)、水、及び界面活性剤を所定の割合で混合した発泡性離型剤を用いることにより形成できる。
【0011】
板状部材が鉄鋼、アルミニウム、銅、チタン、マグネシウム、これらをベースとした合金から形成される場合、板状部材の製造には遠心鋳造法、重力鋳造法、振動を加えた重力鋳造法、あるいはダイカスト法等が用いられる。板状部材が樹脂から形成される場合、板状部材の製造には射出成形法、圧縮成形法、注型成形法等が用いられる。
【発明の効果】
【0012】
本発明の板状部材によれば、板状部材が接合する相手材との間で括れ形状の突起によるアンカー効果によって高い接合強度を保つことができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施形態であるディスクブレーキパッドを示す縦断面図である。
【図2】裏板の一部分を示す拡大断面図である。
【図3】本発明の別の実施形態であるロッカーアームを示す一部断面正面図である。
【図4】本発明の更に別の実施形態であるチェーンテンショナを示す正面図である。
【図5】本発明の更に別の実施形態であるピストンを示し、(a)は正面図、(b)はそのA−A線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の好適な実施形態を図面を参照しながら説明する。
【0015】
図1はディスクブレーキパッドを示しており、1はステンレス鋼やアルミニウム合金等から形成された裏板で、摩擦材2との接合面1aに全体にわたって括れ形状の突起3(図2参照)が複数形成されている。突起3の高さは0.3〜3.0mm、突起3の個数は5〜100個/cmである。
【0016】
突起3の高さが0.3mm未満の場合は、相手材との接合強度が不充分となり、また製造時の突起の成形性が低下するため、充分な数の突起を形成しにくくなる。3.0mmより大きくなると、突起3が折れやすくなり、また突起3の高さが不均一になりやすい。突起3の個数が5個/cm未満であると相手材との接合強度が不充分となり、100個/cmより多くなると突起3間の隙間が小さくなるため、相手材との接合に用いる接着剤などが突起3間の隙間に充分に充填されなくなり、相手材との間に空隙ができて接合強度が不充分になる。
【0017】
摩擦材2は繊維基材、樹脂結合剤及び充填剤からなり、熱成形により形成されたもので、裏板1の接合面1aに一体に接合されている。
【0018】
裏板1は各種鋳造法(遠心鋳造法、重力鋳造法、振動を加えた重力鋳造法、あるいはダイカスト法等)により製造できる。
【0019】
珪藻土、ベントナイト(粘結剤)、水、及び界面活性剤を所定の割合で混合した離型剤を金型の内面に塗布して離型層を形成する。界面活性剤の作用により、離型層内から発生する蒸気の泡によって離型層に複数の凹穴が形成される。離型層を乾燥後、金型内に金属溶湯が鋳込まれると、離型層の凹穴に溶湯が充填され、均一な複数の突起が形成される。溶湯が硬化して裏板が形成された後、離型層とともに裏板が金型から取り出される。ブラスト処理により、離型剤が除去され、括れ形状を有している複数の突起を接合面の全体にわたって有する裏板が製造される。
【0020】
ディスクブレーキパッドは熱成形により製造される。すなわち、予備成形された摩擦材と、摩擦材との接合面に予め接着剤を塗布した裏板とを熱成形金型にセットし、加熱下で加圧成形する。これにより、摩擦材と裏板とが接合され、一体化する。
【0021】
図3は本発明の別の実施形態であるロッカーアームを示す。アルミニウム合金等から形成されたロッカーアーム本体4の先端部には動弁部材(図示せず)との接触面に凹部5が形成され、この凹部5に平板状の耐摩耗性チップ部材6が収納されて一体的に固定されている。チップ部材6は鉄系合金等から形成された平板で、ロッカーアーム本体4の凹部5の底面との接合面6aには、上記実施形態の裏板1と同じように、括れ形状の突起が全体にわたって複数形成されている。突起の高さは0.3〜3.0mm、突起の個数は5〜100個/cmである。
【0022】
ロッカーアーム本体4はロッカーシャフト7に支持され、カムプロファイルに応じて軸方向に往復動するプッシュロッド8を介して揺動し、先端部のチップ部材6が当接する動弁部材を開閉駆動する。
【0023】
平板状のチップ部材6は上記実施形態で示した裏板1と同様に各種鋳造法により製造できる。
【0024】
ロッカーアームは鋳造法により製造される。すなわち、チップ部材を金型にセットし、溶融金属を金型に供給することによって、チップ部材がロッカーアーム本体の先端部の凹部内に鋳包まれたロッカーアームが製造される。
【0025】
図4は本発明の更に別の実施形態であるチェーンテンショナを示している。チェーンテンショナは内燃機関におけるカム軸の駆動用チェーンの張力を一定に保持する。カム軸駆動用チェーン9に接触するチェーンガイド10は軸11を中心として揺動自在に支持されている。チェーンガイド10はチェーンガイド10の突出部10aに対向して配置されているテンショナ12によって押圧され、チェーン9を一定の張力に保持する。
【0026】
チェーンガイド10はチェーン9を押圧するように所定の曲率で曲がった円弧状のチェーンガイド本体13と、チェーンガイド本体13のチェーン9との接触面側の表面に接合されたチェーン接触部材14とからなっている。チェーンガイド本体13はアルミニウム合金等からなり、チェーン接触部材14は樹脂で形成されている。
【0027】
チェーンガイド本体13は所定の曲率で曲がった円弧状の板材である。チェーンガイド本体13のチェーン接触部材14との接合面13aには、前記実施形態の裏板1と同じように、括れ形状の突起が全体にわたって複数形成されている。突起の高さは0.3〜3.0mm、突起の個数は5〜100個/cmである。
【0028】
曲板状のチェーンガイド本体13は前記実施形態で示した裏板1と同様に各種鋳造法により製造できる。
【0029】
チェーンガイド10は射出成形法により製造される。すなわち、チェーンガイド本体を金型にセットし、樹脂を射出成形することによって、チェーンガイド本体にチェーン接触部材が一体に接合されたチェーンガイドが製造される。なお、両者の接合は接着剤で行なうこともできる。
【0030】
図5は本発明の更に別の実施形態であるピストンを示している。アルミニウム合金製ピストン15においてピン孔16を有するピンボス部17の周囲にピストンストラット18が固定されている。ピストンストラット18は鉄鋼(鋳鉄、鋼等)等から形成され、所定の曲率で曲がった円弧状の板材で、ピストン15の内周面に形成された凹所19に一体的に接合され、ピストン15のピンボス部17周囲の強度を向上させる。ピストンストラット18のピストン凹所19の底面との接合面18aには、前記実施形態の裏板1と同じように、括れ形状の突起が全体にわたって複数形成されている。突起の高さは0.3〜3.0mm、突起の個数は5〜100個/cmである。
【0031】
曲板状のピストンストラット18は前記実施形態で示した裏板1と同様に各種鋳造法により製造できる。
【0032】
ピストン15は鋳造法により製造される。すなわち、ピストンストラットを金型にセットし、溶融金属を金型に供給することによって、ピストンストラットが内周面に鋳包まれたピストンが製造される。
【0033】
以上の実施形態では、金属製の板状部材を示したが、樹脂製の板状部材もある。樹脂製の板状部材も金属製の板状部材と同じ構成を有している。樹脂製の板状部材は射出成形法、圧縮成形法、注型成形法等により製造できる。例えば、成形型の内面に突起形状の複数の凹穴を有する離型層を形成し、成形型に樹脂を射出成形する。樹脂が硬化して板状部材が形成された後、離型層とともに板状部材が成形型から取り出される。ブラスト処理により、離型剤が除去され、括れ形状を有している複数の突起を接合面の全体にわたって有する樹脂製の板状部材が製造される。樹脂製の板状部材は、例えば樹脂又はゴム製の相手材に射出成形等により一体成形される。
【符号の説明】
【0034】
1・・裏板、1a・・接合面、2・・摩擦材、3・・突起、4・・ロッカーアーム本体、5・・凹部、6・・チップ部材、6a・・接合面、7・・ロッカーシャフト、8・・プッシュロッド、9・・カム軸駆動用チェーン、10・・チェーンガイド、11・・軸、12テンショナ、13・・チェーンガイド本体、13a・・接合面、14・・チェーン接触部材、15・・ピストン、16・・ピン孔、17・・ピンボス部、18・・ピストンストラット、18a・・接合面、19・・凹所。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
相手材に接合される板状部材において、相手材との接合面に複数の括れ形状の突起を有していることを特徴とする板状部材。
【請求項2】
前記突起の高さが0.3〜3.0mm、突起数が5〜100個/cmであることを特徴とする請求項1記載の板状部材。
【請求項3】
前記板状部材の材質が鉄鋼、アルミニウム、銅、チタン、マグネシウム、これらをベースとした合金、又は樹脂であることを特徴とする請求項1又は2記載の板状部材。
【請求項4】
材料を溶融し、金型を用いて鋳造又は成形により製造されていることを特徴とする請求項1、2、又は3記載の板状部材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−60974(P2013−60974A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−198281(P2011−198281)
【出願日】平成23年9月12日(2011.9.12)
【出願人】(000215785)TPR株式会社 (80)
【出願人】(591206120)TPR工業株式会社 (24)
【Fターム(参考)】