説明

椅子

【課題】座の後部を上方に付勢する力を大きくでき、これにより座の起立支援効果を向上させることができるとともに、付勢手段を小型化、かつ簡略化でき、コストダウンが可能な椅子を提供する。
【解決手段】脚4によって支持された支基5に、座6を左右方向を向く枢軸9をもって枢着することにより、後部が上下方向に回動可能とし、支基5に、座6における枢軸9よりも後部を上向きに付勢する付勢手段18を設ける。付勢手段18を、座6の下面に一端部が止着され、中間部が弾性撓曲させられ、かつ他端が支基5における枢軸9より下方の部分に止着された板ばねよりなるものとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、椅子に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、座が前後方向に傾動可能な椅子が提案されている(例えば、特許文献1参照。)この椅子は、座の前部が枢軸によって脚または脚によって支持される支基に枢支されるとともに、座の前部の枢軸周辺に、座の後部を上方に付勢する付勢手段が設けられている。そして、不使用状態では、座の後部が持ち上げられている。
【0003】
この椅子は、着座者が着座する時には、座の後部が付勢手段に対抗して下方に徐々に沈み込みほぼ水平になる。したがって、着座者が違和感を感じることなく着座できる。また、着座者が起立するときには、着座者の起立に合わせて、座の後部が付勢手段の力で浮き上がるので、起立支援の効果を得ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4379538号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記した従来の椅子は、座の前部の枢軸周辺に座を上方に付勢する付勢手段が設けられているので、付勢手段によって座の後部を持ち上げる力が弱くなり、着座者が起立するときの起立支援効果が低下するおそれがある。
【0006】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたもので、座の後部を上方に付勢する力を大きくでき、これにより座の起立支援効果を向上させることができるとともに、付勢手段を小型化、かつ簡略化でき、コストダウンが可能な椅子を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によると、上記課題は、次のようにして解決される。
(1)脚によって支持された支基に、座を左右方向を向く枢軸をもって枢着することにより、後部が上下方向に回動可能とし、前記支基に、座における枢軸よりも後部を上向きに付勢する付勢手段を設けた椅子において、前記付勢手段を、座の下面に一端部が止着され、中間部が弾性撓曲させられ、かつ他端が前記支基における枢軸より下方の部分に止着された板ばねよりなるものとする。
【0008】
このような構成とすると、板ばねにより、座の下面における枢軸より離れた部分を持ち上げることができるので、座の後部を持ち上げる力を大きくできる。したがって、座の起立支援効果を向上させることができる。また、板ばねを中間部で折り返すので、小型化できる。さらに、付勢手段として板ばねを用いるので、付勢手段の構成を簡略化でき、コストダウンが可能になる。
【0009】
(2)上記(1)項において、板ばねが、座に固着された上部取付部から後方を向く上片と、上片の後端から下方にほぼ半円弧状に湾曲し、かつ上端が座の下面に当接するようにした弾性撓曲部と、この弾性撓曲部の下端から前方または前下方を向く下片と、下片の前端に設けられ、かつ支基に取付けられる下部取付部とからなり、側面視において前方に向かって開口するU字状に弾性撓曲させられるようにする。
【0010】
このような構成とすると、板ばねの座に固着された部分から、支基に止着された部分までの長さを大とすることができるので、板ばねの可動範囲を広くできるとともに、板ばねの構造を簡略化することができる。
また、座の下向き回動時に、弾性撓曲部が座の下面に沿って漸次後方に移行するように弾性変形することによって、板ばねによる座の上向付勢力は、座の回動範囲のどの位置にあってもほぼ均一となる。
【0011】
(3)上記(1)または(2)項において、下片における左右方向の幅を、前方に向かって漸次狭くする。
【0012】
このような構成とすると、板ばねの下片の周囲のスペースを広くできるので、このスペースに他の部品を収容することができる。
【0013】
(4)上記(1)〜(3)項のいずれかにおいて、付勢手段を、座の下方に設けた左右1対の板ばねからなるものとする。
【0014】
このような構成とすると、左右の板ばねによって座を安定よく支持できるとともに、座の付勢力を大とすることができる。
【0015】
(5)上記(4)項において、左右の板ばねを、平面視において互いに後方に向かって拡開するように配設する。
【0016】
このような構成とすると、左右の板ばねによって、座の後部を安定よく支持することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によると、座の後部を持ち上げる力を大きくでき、これにより、座の起立支援効果を向上させることができる。また、付勢手段を小型化、および簡略化できるので、コストダウンが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の椅子の一実施形態の不使用状態の正面図である。
【図2】同じく、側面図である。
【図3】同じく、使用状態の側面図である。
【図4】同じく、使用状態において、背凭れを後傾させたときの側面図である。
【図5】同じく、不使用状態の椅子における中央部分を、座のクッション材を省略して示す中央縦断側面図である。
【図6】同じく、支基と支基に装着された部材とを斜め上方より見た一部分解斜視図である。
【図7】板ばねの平面図である。
【図8】板ばねの側面図である。
【図9】圧縮ばねの平面図である。
【図10】圧縮ばねの側面図である。
【図11】図9のXI−XI線断面図である。
【図12】背凭れの分解斜視図である。
【図13】背枠と座板との結合構造を示す要部の拡大斜視図である。
【図14】座板の凹部、嵌合孔およびストッパを示す斜視図である。
【図15】図2のXV−XV線断面図図である。
【図16】不使用状態における背枠と座板との位置関係を示す縦断側面図である。
【図17】背凭れを後傾させたときの背枠と座板との位置関係を示す縦段側面図である。
【図18】中間連結杆の嵌合凹部および嵌合部材を示す分解斜視図である。
【図19】図1のXIX−XIX線拡大断面図である。
【図20】図1のXX−XX線拡大断面図図である。
【図21】図1のXXI−XXI線拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の一実施形態を、添付図面に基づいて説明する。
図1〜図4に示すように、この椅子は、先端部にキャスタ1を備える放射状をなす5本の脚杆2を有する脚体3を備えている。脚体3の中央には、ガススプリング(図示略)を備える伸縮式の脚柱4が立設され、脚柱4の上端には、前方を向く支基5の後部が固着されている。なお、支基5と脚柱4と脚体3とを一体化して実施してもよい。
【0020】
支基5は、図6に示すように、前方に向かって拡開する平面視三角形の浅い皿状をなすとともに、側面視において前上方に向かって傾斜している。また、図1に示すように、支基5は、前方より見て上向きコ字状をなし、前方に開口しているので、支基5への部材の取付け作業時に、側方や後方だけでなく、前方からも部材や工具等を挿入し易いようになっている。
【0021】
座6は、合成樹脂製の座板7と、その上面に取付けられたクッション材8とからなり、座板7の前端両側部を、支基5の前端両側部に左右方向を向く枢軸9をもってそれぞれ枢着することにより、図2に示すように、後上向きに傾斜する不使用位置と、図3に示すように、水平、または後下向きに傾斜する使用位置とに、枢軸9を中心として回動可能である。この回動範囲は、ほぼ15度程度とするのが好ましい。
【0022】
座6は、後述する付勢手段12により、常時不使用位置に向かって上向きに付勢されている。
図2に示すように、座6が不使用位置にあるとき、着座者が座ろうとする際に最初に当接する初期当接部Pが、脚柱4の中心線Oよりも後方に位置するようにしてある。
この初期当接部Pは、座6が使用位置にあるときは、着座者が適正な着座姿勢で着座したとき、その臀部である座骨部付近を安定よく支持する安定支持部と一致するように定めておくのが好ましい。
【0023】
この初期当接部Pを、座6が不使用位置にあるとき、脚柱4の中心線Oよりも後方に位置するようにしておくと、着座者が不使用位置にある座6に着座する際に、着座者の臀部が座6の初期当接部Pに当接したとき、椅子が後方に移動するという不都合が生じるおそれはない。
また、着座者の臀部が座6の初期当接部Pに当接した後、座6は、着座者の臀部とともに、付勢手段12の付勢力に抗して使用位置まで回動し、着座者の臀部を安定支持点まで誘導して、着座者が迅速に適正な着座姿勢を取ることができるとともに、着座者の荷重が脚柱4よりも後方に加わるので、座6の後部により、着座者の臀部を安定よく支持することができる。
【0024】
不使用位置に位置しているときの座6の後上向き傾斜角度は、大とすればするほど、初期当接部Pが前方に移動して、脚柱4に接近するか、もしくはその前方に位置するようになるが、上記のように、初期当接部Pが、脚柱4の中心線Oよりも後方に位置するように、不使用位置に位置しているときの座6の後上向き傾斜角度を制限するのが好ましい。
【0025】
座板7の後部両側には、背凭れ10の下部両側より前方を向く延出部10aの前部が、脚柱4の中心線Oよりも後方に位置するようにして、左右方向を向く支軸11をもってそれぞれ枢着され、背凭れ10は、図2および図3に示すように、ほぼ上方を向く起立位置と、図4に示すような後傾位置とに、支軸11を中心として回動可能である。なお、この背凭れ10およびその枢着部分の具体的な構造については、本発明と直接関係しないので、その詳細な図示および説明は省略する。
【0026】
支基5には、座6の後部を上向きに付勢する付勢手段12が設けられている。
この付勢手段12は、支基5における枢軸9より下方の部分と座6における枢軸9より後方の部分とを連結する弾性伸縮手段13と、この弾性伸縮手段13の両側方において、座6の下面に前上端部が固着され、中間部が側面視において前方に向かって開口するU字状に弾性撓曲させられ、かつ前下端部が支基5における枢軸9より下方の位置に止着された左右1対の弾性撓曲手段14、14とを備えている。
【0027】
弾性伸縮手段13は、この例では、図2、図5および図6に示すように、前端部が支基5に左右方向の軸15をもって枢着され、かつ後端部が座6の下面における前後方向の中間部に左右方向の軸ピン16をもって枢着された、ロック機能のないガススプリング17としてある。しかし、ロック機能を有するガススプリングや、圧縮コイルばね、またはオイルダンパもしくはエアダンパ等とすることもできる。
ロック機能を有するガススプリングとする場合には、そのロック解除操作手段を、例えば肘掛け(図示略)の一部等に設けるのが好ましい。
【0028】
左右の各弾性撓曲手段14は、この例では、図5〜図8に示すように、座6の下面における両側前部に止めねじ等により止着された前後方向に長い長方形の上部取付部18aと、この上部取付部18aから後方に延出する上片18bと、上片18bの後端から前下方へ向かってほぼ半円弧状に湾曲する弾性撓曲部18cと、弾性撓曲部18cの下端から前方または前下方に延出する下片18dと、下片18dの前端に設けられ、かつ支基5に取付けるための下部取付部18eとを有する合成樹脂製の左右1対の板ばね18、18からなるものとしてある。なお、各板ばね18は、金属製としてもよい。
【0029】
左右の板ばね18、18における両下片18d、18dの左右方向の幅は、前方に向かって漸次小としてある。これは、ガススプリング17や後述する押動杆23との干渉を避けて、座6の下方の狭い空間内に、それらを集約的に収容するためである。
【0030】
また、左右の板ばね18、18は、図6に示すように、その両下片18d、18d同士が、平面視において互いに後方に向かって拡開するように配設するのが好ましい。さらに、両上片18b、18b同士も、平面視において互いに後方に向かって拡開するように配設するのが好ましい。そのようにすることによって、座6の後部を安定よく支持することができる。
【0031】
左右の板ばね18、18における下部取付部18e、18eは、上記軸15の両側端部に枢着されている。
【0032】
軸15は、次のようにして、支基5の前部上面に固定されている。すなわち、図5および図6に示すように、支基5における枢軸9より下方の前部の底面に、左右方向を向く凹部5aを設け、この凹部5a内に左右方向に並べて設けた複数の突部19の上面に、上方および左右両方向に開口するU字状の凹溝20をそれぞれ設け、各凹溝20に軸15を嵌合したのち、各突部19の上面に、押え金具21を、ねじ22、22をもって止着することにより、軸15は、回動不能(回動可能としてもよい)として支基5の前端部上面に固定されている。
【0033】
付勢手段12を、弾性伸縮手段13と、この弾性伸縮手段13の両側方に配設した左右1対の弾性撓曲手段14とを備えるものとしてあるので、座6の後部を、左右のバランスよく持ち上げることができるとともに、座6を安定よく支持することができる。
また、弾性伸縮手段13と弾性撓曲手段14とを、小型化して、座6の下方にコンパクトに配設することができるので、椅子の体裁をよくすることができる。
【0034】
上記のように、弾性伸縮手段13をガススプリング17とし、弾性撓曲手段14を板ばね18とすると、弾性伸縮手段13および弾性撓曲手段14の構造は簡素化され、安価に製造することができる。
【0035】
また、弾性伸縮手段13の前端部と弾性撓曲手段14の下側の前端部とを、左右方向を向く共通の軸15をもって支基5に枢着してあるから、構造を簡素化できるだけでなく、支基5への弾性伸縮手段13と弾性撓曲手段14との枢着作業を簡略化することができる。
【0036】
弾性撓曲手段14である板ばね18における後部の側面視半円弧状の弾性撓曲部18cの上面は、座6の下面に当接しており、座6の下向き回動時に、板ばね18における上部取付部18aと下部取付部18eとの間隔が縮まることにより、下片18dが後上方に押し出され、弾性撓曲部18cが、座6の下面に沿って漸次後方に移行するように、板ばね18は弾性変形する。
このように板ばね18が弾性変形することによって、板ばね18の同一箇所に応力が集中するのを防止し、板ばね18の耐久性を向上することができるともに、板ばね18の反力を増大させることができる。
結果的に、板ばね18の反力は、座6を下向き回動させればさせるほど大となる。
【0037】
支基5における枢軸9より下方の部分と、背凭れ10における上記支軸11より下方の部分とは、前後方向を向く弾性伸縮可能の押動杆23により連結されている。
座6の不使用位置から使用位置への下向き回動時に、この押動杆23により、背凭れ10の下端部が後方に押動されて、背凭れ10は起立状態に維持され、また押動杆23が弾性収縮することにより、背凭れ10は、この押動杆23の弾性復元力に抗して、図4に示すように、後傾させることができる。
【0038】
図6および図9〜図11に示すように、押動杆23は、前端部が弾性伸縮手段13であるガススプリング17の両側方において、左右方向の軸15により支基5に枢着された硬質かつ非可撓性の左右1対の足片23a、23aと、両足片23a、23aの後端に連設された断面円形の後方を向く左右1対の弾性撓曲部23b、23bと、ガススプリング17の下方において両足片23a、23aの後端部同士を連結する硬質かつ非可撓性の連結片23cと、両弾性撓曲部23b、23bの後端部同士を連結する硬質かつ非可撓性の連結部23dとを有する圧縮ばねにより構成してある。
連結片23cの中央部は、ガススプリング17の下面と干渉しないように、下方に凹ませてある。なお、押動杆23は、例えばポリアミド系の硬質合成樹脂により一体成形するのが好ましい。
【0039】
左右の足片23a、23aの前端部には、軸15に挿通される左右方向の軸孔24が形成されている。
また、後端の左右方向に幅広の連結部23dにも、左右方向を向く軸孔25が設けられ、この軸孔25には、連結部23dを、背凭れ10の下端部前面の左右方向の中央部に前向き突設された左右1対の軸受片26に枢着するための軸ピン27が挿通されている(図5参照)。
【0040】
左右の弾性撓曲部23b、23bは、椅子の左右方向外方に向かって概ね凸円弧状に湾曲され、かつ断面形状はほぼ円形とされている。
押動杆23における左右の弾性撓曲部23b、23bと、それらの各端部同士を連結する連結片23c、および連結部23dとにより、平面視ほぼ円形の閉ループ状に形成されている。
【0041】
押動杆23を、両弾性撓曲部23b、23bが椅子の左右に並ぶように配設して、支基5と背凭れ10に連結することにより、背凭れ10の後傾時において、弾性撓曲部23b、23bは、図9に2点鎖線で示すように、互いに左右方向外向きに膨らむように弾性撓曲する。なお、左右の弾性撓曲部23b、23bを、上記とは反対に、互いに内向き円弧状に湾曲させて、両弾性撓曲部23bが、椅子の左右方向内方に向かって弾性撓曲するようにすることもある。
【0042】
なお、図10に示すように、左右の弾性撓曲部23b、23bの中間部は、側面視においてわずかに下向き円弧状に湾曲され、両弾性撓曲部23bに前後方向の圧縮荷重が作用した際に、それらの中間部が、両弾性撓曲部23bを含む平面と直交する下方にも弾性変形しうるようにしてある。弾性撓曲部23bを、上記とは反対に、上向き円弧状に湾曲させてもよい。
【0043】
押動杆23として使用した圧縮ばねは、前後の両端間に前後方向の圧縮力が作用した際に、両弾性撓曲部23b、23bは、圧縮方向と直交する方向に弾性撓曲し、2部材(支基5と背凭れ10)の一方が、上記の背凭れ10のように回動しながら相対移動するものであっても、両弾性撓曲部23b、23bは効果的に弾性撓曲して、ばね力を発揮することができ、汎用性の高いものとなる。
【0044】
また、ガススプリング等のシリンダ式の圧縮ばねに比して、構造が簡単であるため、安価で軽量感のある圧縮ばねを提供することができる。
さらに、両弾性撓曲部23b、23bと、それらの端部同士を連結する前後の硬質の連結片23cおよび連結部23dとにより、平面視円形または非円形(互いに内方に弾性撓曲させる場合等)の閉ループ状に形成されているので、弾性撓曲部23bを効果的に弾性撓曲させて、大きなばね力を得ることができ、かつ繰り返し荷重に対しても十分な強度および耐久性を有することができる。しかも、各弾性撓曲部23bをほぼ円形断面としてあるので、どのような方向にも効果的に弾性変形させることができる。
【0045】
両弾性撓曲部23bを、それらを含む平面と直交する方向にも弾性変形しうるようにしてあるので、前後の端部間の相対移動量が大となり、背凭れ10を大きく後傾させることができる。
【0046】
上記のような圧縮ばねを、上記実施形態の椅子において支基5と背凭れ10との間に押動杆23として装着すると、背凭れ10を後傾させた際に、左右の弾性撓曲部23b、23bは、左右方向に弾性撓曲するので、支基5と座6との間に、押動杆23の上下方向の撓み空間を殆ど設ける必要がなく、座6が使用位置にあるときの高さを低く設定することができる。
【0047】
また、押動杆23とした圧縮ばねは、ガススプリングやゴムトーションスプリングのような背凭れ付勢手段に比して、構造が簡単で安価であるので、椅子を軽量化することができるとともに、コスト低減が図れる。
【0048】
さらに、押動杆23は、前部の左右1対の足片23aと、後部の左右方向に幅広の連結部23dとを、それぞれ左右方向の軸15および軸ピン27をもって、支基5と背凭れ10に枢着してあるので、それを安定よく弾性変形させることができる。
【0049】
押動杆23における足片23a、23aの前端部を、弾性伸縮手段13であるガススプリング17の前端部と、弾性撓曲手段14である左右の板ばね18、18の下部取付部18e、18eとともに、左右方向を向く共通の軸15をもって支基5に枢着してあるので、構造をさらに簡素化できるだけでなく、支基5への弾性伸縮手段13と弾性撓曲手段14と押動杆23との枢着作業をさらに簡略化することができる。
【0050】
次に、背凭れ10と座6との結合構造について説明する。背凭れ10は、図12に示すように、閉ループ状の背枠29と、この背枠29の表面29aに張設された張材30とを有している。背枠29の下枠部31は、平面視において前方に凹となるように湾曲することにより、その左右両側に上記延出部10aを形成する前向片32が設けられている。
【0051】
各前向片32の内面には、台座33を介して、背枠29の内方を向く比較的短い突軸34が設けら、これが支軸11をなしている。突軸34は、台座33より小径である。図13に示すように、この突軸34の内部空間には、十字形の補強リブ11aと、2個のねじ孔11b、11bとが設けられている。台座33の先端面寄りの外周面には外向突部35が設けられ、外向突部35の円周方向の一端には、台座33の中心方向に延伸する平面35aが設けられている。
【0052】
また、座板7の後側部には、互いに内方に向かって凹入する凹入段部36が設けられている。座板7の凹入段部36の左右方向を向く側面36aより内側の部分には、厚肉部37が設けられ、この厚肉部37に左右方向を向く嵌合孔38が設けられている。背枠29の前向片32の前縁32a、および座板7の凹入段部36における後方を向く前面36b(図14参照)は、ほぼ同一の曲率半径で湾曲形成されている。
【0053】
図14に示すように、凹入段部36の側面36aには、嵌合孔38と同心かつ嵌合孔38より大径の円弧状のストッパ39が設けられている。ストッパ39の一端部には、嵌合孔38の中心方向に面する平面39aと、平面39aに対してほぼ直交する方向、すなわちストッパ39の接線方向に延びる補強リブ39bとが設けられている。
【0054】
背凭れ10を座6に連結する場合は、図13に示すように、突軸34の外周に鍔付きスリーブ40を鍔40aが外側になるようにして嵌入し、背凭れ10の前向片32を座板7の凹入段部36内に挿入する。そして、図15に示すように、突軸34を鍔付きスリーブ40とともに、座板7の外側から嵌合孔38に嵌入する。
【0055】
次に、突軸34の端面34cに、座板7の内側から嵌合孔38より大径の円板状の抜止め部材41をねじ42によって止着する。このとき、厚肉部37と抜止め部材41との間に、滑り部材43を挾むのがよい。これにより、抜止め部材41は、座板7の厚肉部37に対して回動自在に係止される。
【0056】
また、背枠29の前向片32を座板7の凹入段部36に挿入したときには、図16に示すように、前向片32の前縁32aと凹入段部36の前面36bとが僅かな隙間を空けて整合する。
【0057】
背凭れ10に後方への荷重が作用していないときには、図16に示すように、背枠29の突軸34の台座33に設けられた外向突部35の平面35aが、座板7に設けられたストッパ39の平面39aから離間している。
【0058】
背凭れ10に、着座者による後方への荷重が作用したときには、図17に示すように、背枠29が突軸34を回動中心として後方へ回動する。そして、背枠29が許容最大回動角度まで回動したとき、背枠29の外向突部35の平面35aが、座板7のストッパ39の平面39aに当接し、背凭れ10の回動が停止させられる。
外向突部35がストッパ39に当接したときの衝撃荷重は、補強リブ39bと同方向に作用するするので、ストッパ耐荷重性能が高まり、ストッパ39が破損するのを防止できる。
【0059】
背枠29と座板7とを結合した後、突軸34と嵌合孔38とによる結合部を覆うようにして、座板7にクッション材8を被覆する(図1参照)。
【0060】
次に、背枠29に対する張材30の張設構造について説明する。図12に示すように、背凭れ10の閉ループ状の背枠29における左右の側枠部44の間には、左右方向を向く中間連結杆45が設けられている。この中間連結杆45は、背枠29の上枠部46と下枠部31との間において、着座者の腰部に対応する位置、本実施形態では、下枠部31に比較的接近した位置に設けられている。下枠部31は、上下方向の幅が大きく、かつ比較的薄肉に形成されている。
【0061】
中間連結杆45は、背枠29の左右の側枠部44の内側に連結され、かつ斜め下方から後方に向かって湾曲する左右の連結部分47、47と、左右の連結部分47、47間に設けられた直線部分48とからなっている。直線部分48は、左右の側枠部41、41より後方に突出している。
【0062】
左右の連結部分47、47の表面47aには、湾曲面に沿って嵌合凹部49が設けられている。図18に示すように、嵌合凹部49内には、左右方向を向く位置決め用リブ50と、ねじ孔51とが設けられている。
【0063】
嵌合凹部49には、嵌合部材52が嵌合されている。この嵌合部材52の一端部には、ねじ取付け用の孔53が設けられている。また、嵌合部材52の底面52aには、嵌合凹部49の位置決め用リブ50に嵌合される位置決め用の溝54が設けられている。
【0064】
図19に示すように、左右の側枠部44は、その断面形状が前後方向に細長くかつ後端部から前端部に向かって漸次厚肉になるように形成されている。左右の側枠部44の中間連結杆45より上側の部分における表面44a寄りの外周面44bには、長手方向を向く凹溝55が外側に向けて開口するようにして設けられている。この凹溝55は、上枠部46の表面46a寄りの外周面46bにも設けられている。左右の側枠部44における凹溝55の長手方向における端縁の開口は、図18に示すように、中間連結杆45における連結部分48の嵌合凹部49内に向かって開口している。
【0065】
図20に示すように、嵌合凹部49に嵌合された嵌合部材52の表面52b(図18参照)寄りの外周面52cには、外周側に開口するようにして凹溝56が設けられている。嵌合部材52の凹溝56は、嵌合凹部49内に開口している左右の側枠部44の凹溝55(図18参照)に連続している。
【0066】
中間連結杆45の直線部分48は、図21に示すように、その断面形状が前後方向に細長く形成されている。この直線部分48の表面48a寄りの外周面48b側には、下方に向かって突出する長手方向を向く突条48cが設けられている。この突条48cの裏面側に、長手方向を向く凹溝57が設けられている。この凹溝57は、直線部分48と連結部分47との境界付近まで延びている。
【0067】
図12に示すように、背凭れ10の張材30は、メッシュ材料によって伸縮可能に形成されている。この張材30の周縁部30aは袋状に形成され、その中に縁材58(図19参照)が挿入されて縫着されている。縁材58は、弾性を有する合成樹脂により細長い平板状に形成されている。
【0068】
張材30を背枠29の表面側に張設する場合は、図20に示すように、中間連結杆45の嵌合凹部49に嵌合部材52を嵌合し、それぞれねじによって止着する。
【0069】
次に、周縁部30aに縁材58を縫着した張材30を、背枠29の中間連結杆45より上の左右の側枠部44の表面44a側、および上枠部46の表面46a側に被せた後、図19中に想像線で示すように、張材30の縁材58を適度な力で側枠部44の外周面44b側に引張する。次に、図19中に実線で示すように、縁材58を凹溝55に挿入する。同様にして、上枠部46の凹溝55および嵌合部材52の凹溝56にも張材30の周縁部30aにおける縁材58を挿入する。また、中間連結杆45の直線部分48の凹溝57は、後方に向かって開口しているので、張材30の下部を中間連結杆45の下面に沿って後方に引き出した後、下方の縁材58を凹溝57の後方から挿入する。
【0070】
それにより、縁材58は、張材30の張力によって背枠29の中間連結杆45より上の側枠部44および上枠部46の表面側に引張され、縁材58は凹溝55、56に係合される。これにより、張材30は背枠29における上枠部46、左右の側枠部44および中間連結杆45のそれぞれの表面側に張設された状態で維持される。また、中間連結杆45と下枠部31との間には、張材30が張設されていないので、図1に示すように、背凭れ10と座6との間には前後に連通する隙間59が形成される。
【0071】
以上のような構成とした椅子は、図2に示す不使用状態では、付勢手段12の付勢力によって、座6の後部が上方に持ち上げられ、座6は後上向き傾斜する不使用位置に位置しており、背凭れ10は、押動杆23の伸長により、ほぼ上方を向く起立位置に保持されている。
【0072】
この状態で、着座者が着座しようとすると、まず着座者の臀部が、上述したように座6の初期当接部Pに当接し、座6は着座者の臀部とともに、付勢手段12の付勢力に抗して、図3に示す使用位置まで回動させられ、着座者の臀部を安定支持点まで誘導し、着座者は迅速に適正な着座姿勢を取ることができる。
【0073】
図3に示す着座状態から、着座者が背中を背凭れ10に凭せかけて背を後方に倒すと、背凭れ10は、押動杆23を弾性収縮させつつ、支軸11を中心として、図4に示すような後傾位置まで回動させられる。この押動杆23の弾性収縮の初期に、硬質の連結部23dが軸ピン27により前方に押動され、そのときの左右の弾性撓曲部23b、23bにおける連結部23dへの結合部分が若干上下方向に捩れつつ、弾性撓曲部23b、23b全体が、図9に2点鎖線で示すように、互いに左右方向外向きに膨らむように弾性撓曲するとともに、上下方向にも若干蛇行するように弾性変形する。

【0074】
着座者が背中を前方に戻すと、背凭れ10は、押動杆23の弾性復元力による伸長によって、支軸11を中心として前方に回動させられ、元の起立位置まで戻される。
【0075】
図3に示す着座状態から、着座者が立上がろうとすると、座6は、弾性伸縮手段13と弾性撓曲手段14との相乗作用により、不使用位置に向かって上向き回動するように付勢され、着座者の起立をアシストすることができる。
【0076】
また、この椅子によれば、次のような効果を奏することができる。
(a)座6の上方への付勢手段として板ばね18が用いられているので、付勢手段の構成を簡略化でき、コストダウンが可能になる。
また、板ばね18により、座6の下面における枢軸9より離れた部分を持ち上げることができるので、座6の後部を持ち上げる力を大きくできる。したがって、座6の起立支援効果を向上させることができる。
【0077】
(b)板ばね18を中間部で折り返すので、小型化できる。また、板ばね18の座6に固着された部分から、支基5に止着された部分までの長さを大とすることができるので、板ばね18の可動範囲を広くできるとともに、板ばね18の構造を簡略化することができる。
また、座6の下向き回動時に、弾性撓曲部18cが座6の下面に沿って漸次後方に移行するように弾性変形することによって、板ばね18による座6の上向付勢力は、座6の回動範囲のどの位置にあってもほぼ均一となる。
【0078】
(c)板ばね18の下片18dにおける左右方向の幅を、前方に向かって漸次狭くしたので、板ばね18の下片18dの周囲のスペースを広くでき、このスペースに他の部品を収容することができる。
【0079】
(d)付勢手段を、座6の下方に設けた左右1対の板ばね18からなるものとしたので、左右の板ばね18、18によって座6を安定よく支持できるとともに、座6の付勢力を大とすることができる。
【0080】
(e)左右の板ばね18、18を、平面視において互いに後方に向かって拡開するように配設したので、左右の板ばね18、18によって、座6の後部を安定よく支持できる。
【0081】
本発明は、上記実施形態のみに限定されるものではなく、特許請求の範囲を逸脱しない範囲で、幾多の変形した態様での実施が可能である。
例えば、板ばね18を、1個または3個以上設けてもよい。
【符号の説明】
【0082】
1 キャスタ
2 脚杆
3 脚体
4 脚柱
5 支基
5a 凹部
6 座
7 座板
8 クッション材
9 枢軸
10 背凭れ
10a延出部
11 支軸
11a 補強リブ
11b ねじ孔
12 付勢手段
13 弾性伸縮手段
14 弾性撓曲手段
15 軸
16 軸ピン
17 ガススプリング
18 板ばね
18a上部取付部
18b上片
18c弾性撓曲部
18d下片
18e下部取付部
19 凸部
20 凹溝
21 押え金具
22 ねじ
23 押動杆(圧縮ばね)
23a足片(硬質部)
23b弾性撓曲部
23c連結片(硬質部)
23d連結部(硬質部)
24、25 軸孔
26 軸受片
27 軸ピン
29 枠体
29a 表面
30 張材
31 下枠部
32 前向片
32a 前縁
33 台座
34 突軸
34c 端面
35 外向突部
35a 平面
36 凹入段部
36a 側面
36b 前面
37 厚肉部
38 嵌合孔
39 ストッパ
39a 平面
39b 補強リブ
40 鍔付きスリーブ
40a 鍔
41 抜止め部材
42 ねじ
43 滑り部材
44 側枠部
45 中間連結杆
45a 表面
45b外周面
46 上枠部
46a 表面
46b外周面
47 連結部分
47a 表面
48 直線部分
48a 表面
48b 外周面
48c 突条
49 嵌合凹部
50 位置決め用リブ
51 ねじ孔
52 嵌合部材
52a 底面
52b 表面
52c 外周面
53 孔
54 溝
55 凹溝
56 凹溝
57 凹溝
58 縁材
59 隙間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
脚によって支持された支基に、座を左右方向を向く枢軸をもって枢着することにより、後部が上下方向に回動可能とし、前記支基に、座における枢軸よりも後部を上向きに付勢する付勢手段を設けた椅子において、
前記付勢手段を、座の下面に一端部が止着され、中間部が弾性撓曲させられ、かつ他端が前記支基における枢軸より下方の部分に止着された板ばねよりなるものとしたことを特徴とする椅子。
【請求項2】
板ばねが、座に固着された上部取付部から後方を向く上片と、上片の後端から下方にほぼ半円弧状に湾曲し、かつ上端が座の下面に当接するようにした弾性撓曲部と、この弾性撓曲部の下端から前方または前下方を向く下片と、下片の前端に設けられ、かつ支基に取付けられる下部取付部とからなり、側面視において前方に向かって開口するU字状に弾性撓曲させられた請求項1記載の椅子。
【請求項3】
下片における左右方向の幅を、前方に向かって漸次狭くした請求項1または2記載の椅子。
【請求項4】
付勢手段を、座の下方に設けた左右1対の板ばねからかるものとした請求項1から3のいずれか記載の椅子。
【請求項5】
左右の板ばねを、平面視において互いに後方に向かって拡開するように配設した請求項4記載の椅子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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