説明

椅子

【課題】 前方位置へ移動したときの衝撃を低減できると共に、座体の移動を容易に行うことができる椅子を提案する。
【解決手段】 椅子1における座体10は、前脚30,後脚40,および脚座20によって前後方向に揺動して移動可能に支持される。座体10が後方位置(A)から第2基準位置(C)までの間に位置するときに、座体10はガススプリング50の付勢力により前方位置の方向に付勢される。また、座体10が第1基準位置(B)から前方位置(D)までの間に位置するときに、上述したように座体10は自重で前方に移動する。このように座体10は、(A)−(B)間はガススプリング50のみにより前方に移動し、(B)−(C)間はガススプリング50と自重とにより前方に移動し、(C)−(D)間は自重のみにより前方に移動する。即ち、座体10に外力が加わらない場合、自動的に(D)の位置まで移動することとなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、机と組み合わせて使用される椅子であって、座体が前方に移動した前方位置と、後方に移動した後方位置と、の間で移動可能に構成された椅子に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば学校の講義室のように、机および椅子が群設されている場所においては、机と椅子との間を人が容易に移動できるように、着席時には着座用の座体が後方に移動した後方位置に移動し、非着席時には座体が前方に移動した前方位置に移動可能に構成された椅子が用いられている。
【0003】
このような椅子は、非着席時においては確実に前方位置に座体が位置することが好ましいため、座体を前方位置に移動させることができるように、椅子の座体あるいは座体を支持する支持手段を付勢する付勢手段を設けることがある。このような付勢手段が設けられた椅子では、座体が前方位置に移動したときに座体や支持手段がストッパなどに衝突したときの衝撃で椅子が破損したり、大きな衝撃音が発生して不快感を与えることがあった。
【0004】
そこで、前方位置に移動するスピードを抑制するために、緩衝手段を設けた椅子が提案されている(特許文献1,2参照)。このような椅子では、ダンパや圧縮ばねなどの緩衝手段により座体が前方位置に移動するスピードが抑制されるため、前方位置に移動したときの衝撃が低減される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】実開平05−21745号公報
【特許文献2】特開2008−272456号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら上記特許文献1,2の椅子では、付勢手段が常時座体を前方に移動させる方向に付勢している。そのため、緩衝手段を設けても、充分に衝撃が低減できない場合があった。また、前方位置から後方位置に座体の移動を開始するときに非常に大きな力が必要となるという問題があった。
【0007】
本発明は、上述した問題に鑑みてなされたものであり、その目的は、前方位置へ移動したときの衝撃を低減できると共に、座体の移動を容易に行うことができる椅子を提案することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した問題を解決するためになされた請求項1に記載の発明は、人が着席するための着座面を有する座体と、前記座体が前方に移動した前方位置と、前記座体が前記前方とは反対側の方向である後方に移動した後方位置と、の間で移動可能に前記座体を支持する支持手段と、を備える椅子に関するものである。
【0009】
上記椅子は、前記支持手段が、前記前方位置と、前記前方位置よりも前記後方位置側に位置する第1基準位置と、の間の領域に前記座体が位置する場合には、前記座体が前記前方位置へ自重により移動するように前記座体を支持する。そして、前記第1基準位置と前記前方位置との間であって、かつ前記前方位置から距離を有する位置である第2基準位置と、前記後方位置と、の間に前記座体が位置するときには、前記座体を前記前方位置の方向に付勢する一方、前記第2基準位置と、前記前方位置と、の間に前記座体が位置する時には、前記座体を付勢しないように構成された付勢手段を備えることを特徴とする。
【0010】
このように構成された椅子では、座体が後方位置から第2基準位置までの間にある場合には、座体は付勢手段に付勢されて少なくとも第2基準位置よりも前方位置側に移動する。そしてその位置は第1基準位置と同じか、またはそれよりも前方位置側であるため、座体は前方位置まで自重で移動する。即ち上記椅子は、座体を手で引くなど外部からの荷重を加えない状態においては、座体が自動的に前方位置まで移動する。
【0011】
そして、付勢手段は、座体が第2基準位置よりも前方位置側に移動すると座体を付勢しなくなる。つまり、座体が前方位置に移動したときには付勢手段による付勢力を受けていないため、座体が前方位置となるまで付勢力を受け続ける椅子と比較すると前方位置へ移動したときの衝撃を低減することができる。
【0012】
また上記椅子は、座体を手で引っ張るなどして前方位置から後方位置へ移動させる際に、前方位置付近において付勢手段による付勢力を受けない。座体の移動を開始するときは座体が静止していて摩擦係数が高くなっているため、仮に付勢手段によって前方位置方向の付勢力が加えられていると座体の移動を開始するために必要な力が非常に大きくなってしまうが、上記椅子は座体が前方位置にあるときには付勢力を受けないので、座体の移動を開始させるために必要な力が小さくなり、スムーズに座体を移動させることができる。
【0013】
なお上記椅子は、座体が第1基準位置よりも前方にあるときには、自重により前方位置へ移動することを特徴としているが、ここでいう自重による移動とは、座体が前方位置へ移動するように支持手段も併せて動作する場合を含む概念である。つまり、座体の重さのみでなく、座体を支持する支持手段の重さなども含めて座体が移動するように構成されていてもよい。
【0014】
また、第2基準位置は、第1基準位置と実質的に同じ位置であってもよい。少なくとも、付勢手段によって座体が後方位置側から前方位置方向に移動し、付勢手段による座体の移動が行われなくなる位置に座体が移動したときに、座体が自重で前方位置方向に移動するように構成されていればよい。
【0015】
また、上記付勢手段は、座体に直接荷重を加えて付勢するものであってもよいし、座体と連結する部材に荷重を加えるものであってもよい。
また、座体が第2基準位置よりも前方位置側に移動したときに付勢手段が座体に付勢力を伝えなくするための構造は様々なものが考えられるが、一例として、請求項2に記載の椅子のように構成してもよい。
【0016】
請求項2に記載の椅子は、請求項1に記載の椅子において、前記付勢手段が、前記座体または前記支持手段の所定の面に対して接触および離間可能に構成された押圧部を有しており、前記座体が前記後方位置と前記第2基準位置との間に位置するときには、前記押圧部が前記所定の面に接触して押圧することで前記座体を前記前方位置の方向に付勢し、前記座体が前記第2基準位置と前記前方位置との間に位置するときには、前記押圧部が前記所定の面から離間することで前記付勢を行わないように構成されていることを特徴とする。 このように構成された椅子では、座体が第2基準位置よりも前方位置側に移動すると、所定の面から押圧部が離間して押圧しなくなるため、座体が第2基準位置よりも後方位置側にあるときにのみ座体を付勢することができる。
【0017】
請求項3に記載の発明は、請求項1または請求項2に記載の椅子において、前記座体の前記前方位置への移動速度を抑制する緩衝手段を備えることを特徴とする。
このように構成された椅子では、緩衝手段(例えばダンパー)により座体が前方位置へ移動する速度を小さくでき、座体が前方位置に移動したときの衝撃をさらに低減することができる。
【0018】
なお、緩衝手段は座体がどの位置に存在するときに移動速度を抑制するように構成されていてもよい。例えば、座体が移動できる全ての範囲において移動速度を抑制するように構成してもよいし、一部の範囲のみであってもよい。例えば後方位置から第2基準位置までの間で移動速度を抑制すれば、付勢手段による座体の移動の速度を抑えることができ、前方位置へ移動したときの衝撃を低減できる。
【0019】
また、請求項4に記載の椅子のように、前記緩衝手段が、前記座体が前記第2基準位置と前記前方位置との間における少なくとも一部の領域に位置する場合に、前記座体の前記前方位置への移動速度を抑制するように構成されていてもよい。
【0020】
このように構成された椅子では、座体が付勢手段による付勢力を受けている状態においては緩衝手段による速度抑制がなされないため、座体をスムーズに前方位置へ移動させることができる。そして、自重のみで移動する座体の移動速度を前方位置付近で抑制するため、さらにソフトに座体を前方位置で静止させることができる。
【0021】
上述した支持手段の構造は特に限定されず、様々な構造をとることができる。例えば請求項5に記載の椅子のように構成することができる。
請求項5に記載の発明は、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の椅子において、前記支持手段が、床面に設置される脚座と、前記座体を支持しており、一端が前記脚座に連結し、当該連結部分を中心として前後に揺動可能に構成された脚部と、を備えることを特徴とする。
【0022】
このように構成された椅子では、脚部が揺動することによって座体の移動を実現することができる。
なお、上述した脚部の形状は特に限定されず、一本の柱状の部材によってなるものであっても良いし、複数の柱状の部材からなるものであってもよい。
【0023】
上述した付勢手段としては様々なものを用いることができる。例えば請求項6に記載の椅子のように、付勢手段としてガススプリングを用いてもよい。
付勢手段としてガススプリングを用いることで、座体を付勢する速度をコントロールすることができる。それによって、前方位置に移動したときの座体の移動速度を抑制でき、衝撃を低減することができる。
【0024】
請求項7に記載の発明は、請求項1に記載の椅子において、前記付勢手段がガススプリングであり、前記支持手段が、床面に設置される脚座と、前記座体を支持しており、一端が前記脚座に連結し、当該連結部分を中心として前後に揺動可能に構成された揺動部と、を有するものであり、第1回動軸を中心に前記ガススプリングの一端と回動可能に連結するとともに、前記第1回動軸から距離をあけて配置された第2回動軸を中心に前記揺動部と回動可能に連結するリンクアームを備え、前記ガススプリングの他端は、前記座体の移動に伴って前記第2回動軸からの距離が変化する位置に設けられた第3回動軸を中心として回動可能に連結されており、前記ガススプリングは、前記第2基準位置と前記後方位置との間に前記座体が位置するときには、伸長または圧縮することにより前記座体を前記前方位置に付勢することを特徴とする。
【0025】
このように構成された椅子では、ガススプリングが伸長または圧縮することによって揺動部が前方に揺動し、その結果、座体が前方位置側に移動する。
そしてガススプリングは、座体が第2基準位置と前方位置との間にあるときには座体を付勢することがなく、座体が前方位置へ移動したときの衝撃を低減できる。
【0026】
また上記椅子において、ガススプリングの一端はリンクアームに連結されており、さらにリンクアームが揺動部と連結している。座体が移動すると、第2回動軸と第3回動軸との間の距離(以降、単に連結距離ともいう)は変化するが、ガススプリングの一端はリンクアームを介して揺動部に連結していることから、ガススプリングが伸縮しなくとも、リンクアームがガススプリングおよび揺動部に対して回動することにより、上記連結距離を変化させることができる。
【0027】
よって、座体が第2基準位置から前方位置までの間において移動するときには、ガススプリングを伸縮させずに連結距離を変化させることができ、座体が第2基準位置から前方位置までの間にある場合に座体を付勢しない、という構成が実現できる。
【0028】
なお、仮にガススプリングの一端が揺動部に固定された回動軸に連結されていて、座体の移動に伴って常にガススプリングが伸縮する場合には、座体がどの位置にあるかに関わらず、座体が移動するとガススプリングの付勢力が加わってしまうため好ましくない。
【0029】
また上記請求項7に記載の椅子は、請求項8のように、前記第1回動軸および前記第2回動軸のうち少なくともいずれか一方に配置され、前記座体の前記前方位置への移動速度を抑制するロータリーダンパを備えるように構成してもよい。
【0030】
このように構成された椅子では、ロータリーダンパの緩衝機能によって座体が前方位置へ移動する速度を小さくでき、座体が前方位置に移動したときの衝撃をさらに低減することができる。
【0031】
もちろん、ロータリーダンパを上記以外のそれ以外の場所に設ける構成であってもよいし、ロータリーダンパ以外の緩衝手段を設ける構成であってもよい。
また、上記請求項7または請求項8に記載の椅子は、請求項9のように、前記揺動部が、前記ガススプリングの伸長によって前記ガススプリングまたは前記リンクアームに押圧される当接面を有するように構成してもよい。このように構成された椅子では、ガススプリングは当接面を押圧することで座体を付勢することができる。
【0032】
請求項10に記載の発明は、請求項1に記載の椅子において、前記付勢手段がガススプリングであり、前記支持手段が、床面に設置される脚座と、一端が前記脚座に連結すると共に、他端が前記座体に連結しており、前記脚座を中心として揺動するように構成された揺動部と、を有する。そして、前記ガススプリングは、一端が前記揺動部に形成された長穴内を摺動可能に係合しており、他端が前記座体の移動に伴って前記長穴からの距離が変化する位置に設けられた回動軸を中心として回動可能に取り付けられていることを特徴とする。
【0033】
このように構成された椅子では、ガススプリングが伸長または圧縮することによって揺動部が前方に揺動し、その結果、座体が前方位置側に移動する。そしてガススプリングは、座体が第2基準位置と前方位置との間にあるときには座体を付勢することがなく、座体が前方位置へ移動したときの衝撃を低減できる。
【0034】
また上記椅子において、ガススプリングの一端は揺動部に形成された長穴と係合している。座体が移動すると、長穴と、ガススプリングの他端の回動軸と、の距離は変化するが、ガススプリングの一端は長穴に係合していることから、ガススプリングが伸縮しなくとも、ガススプリングの一端が長穴内を摺動することにより、上記連結距離を変化させることができる。
【0035】
よって、座体が第2基準位置から前方位置までの間において移動するときには、ガススプリングを伸縮させずに連結距離を変化させることができ、座体が第2基準位置から前方位置までの間にある場合に座体を付勢しない、という構成が実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】実施例の椅子を示す側面図
【図2】前脚および後脚の断面図
【図3】座体の移動を説明する側面図
【図4】変形例の椅子を示す側面図
【図5】変形例の椅子を示す側面図
【図6】変形例の椅子を示す側面図
【図7】変形例の椅子を示す側面図
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下に本発明の実施形態を図面と共に説明する。ただし、以下に説明する実施形態は、あくまでも例示にすぎず、本発明が、下記の事例以外にも様々な形態で実施できるのはもちろんである。
【0038】
[実施例]
(1)全体構成
本実施例の椅子1は、図1に示すように、座体10と、床面に設置される脚座20と、一端(下端)が脚座20に対して連結すると共に、他端(上端)が座体10と連結する前脚30および後脚40と、からなるものであって、講義室などの机2および椅子1が密集して配置される場所において、机2と組み合わせて前後左右に複数並べて用いられるものである。なお、図1、図3〜図7においては、椅子の構成要素を明確にする目的で、実際には他の部品の陰になって視認できない部分も実線で記載している。
【0039】
上述した座体10は、前後方向(図1における左右方向)に拡がる着座面11,および着座面11と交差する方向に拡がる背凭れ12を有している。椅子1を使用する際には、背凭れ12を手で後方に引いて(あるいは、背凭れ12に凭れて)座体10を机2から離した状態で着座面11に着席することができる。
【0040】
また、この座体10は、着座面11とは反対側の裏側となる領域に座受け13を備えている。座受け13は、前脚30の他端と連結する第1シャフト14と、第1シャフト14よりも後方(図1における右方向)に配置され、後脚40の他端と連結する第2シャフト15と、を備えている。
【0041】
上述した脚座20は、前脚30の一端と連結する第3シャフト21と、第3シャフト21よりも後方(図1における右方向)に配置され、後脚40の一端と連結する第4シャフト22と、を備えている。
【0042】
上述した前脚30および後脚40は、それぞれ第1シャフト14、第2シャフト15を回転軸として座体10に対して回動可能となっており、また、それぞれ第3シャフト21、第4シャフト22を回転軸として脚座20に対して回動可能となっている。これにより、座体10は前後方向に揺動可能となる。
【0043】
上述した前脚30および後脚40のA−A断面を図2に示す。前脚30および後脚40は、それぞれ横断面コの字状をなすと共に、そのコの字形状の開口部同士を向き合せて互いに緩く嵌り合っている。
【0044】
説明を図1に戻る。前脚30および後脚40で囲まれる空間には、座体10を前方に付勢するガススプリング50と、リンクアーム52とが設けられている。
ガススプリング50は、外力を加えて圧縮すると伸長状態に戻るバネ部材であり、内部に封入されたガスにより圧縮・伸長のスピードがコントロールされる。
【0045】
リンクアーム52は、ガススプリング50の一端(上端)に対して第1回動軸54を介して回動可能に連結している。またリンクアーム52は、その連結箇所(第1回動軸54の位置)から距離を空けた位置の第2回動軸56を中心として、前脚30に回動可能に連結されている。
【0046】
なお、第2回動軸56にはロータリーダンパ58が設けられており、リンクアーム52が前脚30に対して所定の方向に回転するときの速度を抑制する。その方向については後述する。
【0047】
また、ガススプリング50の他端(下端)は、後脚40に設けられた第3回動軸60を中心として、回動可能に後脚40に連結されている。
前脚30の内部にはストッパブロック62が設けられている。このストッパブロック62は、座体10の位置に応じてガススプリング50の一端およびリンクアーム52と接触する場合と離間する場合とがあるが、詳細は後述する。
【0048】
(2)椅子1の動作
椅子1における座体10は、前脚30,後脚40,および脚座20によって前後方向に揺動して移動可能に支持される。前後方向への揺動による状態変化を図3に示す。図3は(A)〜(D)の4つの状態を示しており、(A)は座体10が後方(図3における右方向)に最大限移動した後方位置にある状態を表しており、(D)は座体10が前方(図3における左方向)に最大限移動した前方位置にある状態を表している。なお、後方位置(A)が、椅子1に使用者が着席するときの位置であり、前方位置(D)が、非着席時に椅子1が机2側に寄ったときの位置である。
【0049】
また上記後方位置(A)と前方位置(D)との間において、後方側から順に(B),(C)の状態となる。(B)の位置は、この位置よりも前方側に座体10が位置するときには自重で座体10が前方に移動する基準となる第1基準位置である。また(C)の位置は、ガススプリング50による座体10の前方への付勢が終了する第2基準位置である。
【0050】
なお、後述する変形例においても、後方位置,第1基準位置,第2基準位置,前方位置とは上述した関係に準ずるものとする。
座体10が後方位置(A)から第2基準位置(C)までの間に位置するときに、座体10はガススプリング50の付勢力により前方位置の方向に付勢される。よって、外部からの荷重が加えられない限り、座体10は少なくとも第2基準位置(C)まで移動させられる。また、座体10が第1基準位置(B)から前方位置(D)までの間に位置するときに、上述したように座体10は自重で前方に移動する。
【0051】
このように座体10は、(A)−(B)間はガススプリング50のみにより前方に移動し、(B)−(C)間はガススプリング50と自重とにより前方に移動し、(C)−(D)間は自重のみにより前方に移動する。即ち、座体10に外力が加わらない場合、自動的に(D)の位置まで移動することとなる。
【0052】
この動作をより詳細に説明する。
座体10が後方位置(A)にあるとき、ガススプリング50の一端(上端)はストッパブロック62によって押圧され圧縮した状態となっている。このときのガススプリング50の長さをL1とし、床面と後脚40の側面との角度をΘ1とする。
【0053】
後方位置(A)に座体10を維持するためには、使用者が着席するなどしてガススプリング50を圧縮し続ける必要がある。着席者が立ち上がった場合など、座体10が後方位置(A)にある状態を維持するための外部からの荷重がなくなると、ガススプリング50は伸長する。ガススプリング50の一端およびリンクアーム52は、ストッパブロック62を押圧しながら、座体10が第1基準位置(B)を通過して第2基準位置(C)となるまで伸長する。
【0054】
座体10が第1基準位置(B)にあるときのガススプリング50の長さをL2、床面と後脚40の側面との角度をΘ2とし、座体10が第2基準位置(C)にあるときのガススプリング50の長さをL3、床面と後脚40の側面との角度をΘ3とし、また座体10が前方位置(D)にあるときの床面と後脚40の側面との角度をΘ4とすると、L3>L2>L1、および、Θ4>Θ3>Θ2>Θ1となる。L3はガススプリング50が最大に伸びた状態であって、これ以上はストッパブロック62を押圧しない。
【0055】
座体10が第2基準位置(C)まで付勢されて移動すると、座体10は自重で前方に移動するが、ガススプリング50の長さはそれ以上変化せず、リンクアーム52が第1回動軸54および第2回動軸56を中心に回動する。これにより、ガススプリング50の一端およびリンクアーム52はストッパブロック62から離間する。
【0056】
第2回動軸56に設けられたロータリーダンパ58は、座体10が第2基準位置(C)まで移動した後に、その緩衝機能を発揮する。ガススプリング50およびリンクアーム52がストッパブロック62に接触している状態では、リンクアーム52は前脚30に対して同じ位置関係のまま変位し(図3の後方位置(A)−第2基準位置(C)を参照)、第2回動軸56を中心として回動することはない。
【0057】
つまり、ガススプリング50の一端およびリンクアーム52がストッパブロック62に接触している間はロータリーダンパ58が機能せず、ガススプリング50の一端およびリンクアーム52がストッパブロック62から離間するとロータリーダンパ58が機能する。
【0058】
またロータリーダンパ58は、座体10が前方に移動する場合にのみ緩衝機能を発揮し、後方に移動する場合には緩衝機能を発揮しないように構成されており、座体10は前方位置(D)へは抑制された移動速度で移動する。
【0059】
ところで、座体10を前方位置(D)から後方位置(A)に移動させるためには、手で座体10を後方に引っ張るなどの外力を加える必要がある。座体10の後方への移動に伴って、ガススプリング50およびリンクアーム52は、座体10が前方へ移動するときの動作と逆の動作をする。つまり、前方位置(D)から第2基準位置(C)まではガススプリング50は伸縮せずリンクアーム52が回動し、第2基準位置(C)から後方位置(A)まではガススプリング50がストッパブロック62に接触して押圧されて徐々に圧縮する。
【0060】
(3)発明の効果
本実施例の椅子1において、ガススプリング50は、座体10が第2基準位置(C)よりも前方位置(D)側に移動すると座体10を付勢しなくなるため、座体10が前方位置(D)へ移動したときの衝撃を低減することができる。
【0061】
また、ロータリーダンパ58は、座体10が第2基準位置(C)を超えて前方位置(D)側へ移動すると座体10の移動速度を抑制するため、前方位置(D)でさらに衝撃を低減することができるうえ、第2基準位置(C)を超えるまでは移動速度を抑制しないため、座体10をスムーズに前方位置(D)に移動させることができる。
【0062】
また上記椅子1は、座体10が前方位置(D)にある場合にガススプリング50によって付勢されておらず、またロータリーダンパ58は座体10が後方に移動する際の移動速度を低減するものではないので、座体10を手で引っ張るなどして前方位置(D)から後方位置(A)へ移動させる際に、前方位置(D)においてガススプリング50およびロータリーダンパ58による反力をうけることがないため、座体10の移動を開始させるために必要な力が小さくなり、スムーズに座体10を後方に移動させることができる。
【0063】
(4)対応関係
前脚30および後脚40が、本発明における脚部に相当し、前脚30が揺動部に相当し、ガススプリング50の一端が押圧部に相当する。
【0064】
[変形例]
以上、本発明の実施例について説明したが、本発明は、上記実施例に何ら限定されることはなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の形態をとり得ることはいうまでもない。
【0065】
例えば、上記実施例においては、ガススプリング50の一端およびリンクアーム52の両方がストッパブロック62に接触する構成を例示したが、いずれか一方のみがストッパブロック62に接触する構成であってもよい。
【0066】
また、リンクアーム52を用いない構成であってもよい。但し、リンクアーム52は、ガススプリング50の一端と連結することでガススプリング50が動き得る範囲を制限する機能も有しているため、実施例の椅子1において単純にリンクアーム52を除くと、座体10の移動に伴うガススプリング50の動きの制御が困難になってしまう。そこで、ガススプリング50の一端が動く範囲を制御できるように構成しておくことが望ましい。例えば、図4に示すように、前脚30に長穴64を形成し、ガススプリング66の一端の係合片68が長穴64内を摺動可能に係合するように構成することが考えられる。
【0067】
図4(A)は、座体10が後方位置にある状態、図4(B)は座体10が前方位置にある状態を示す。ガススプリング66の他端は、図4(A),(B)のように後脚40に連結されていてもよいが、後脚40以外であってもよく、座体10の移動に伴って長穴64における所定の位置(例えばガススプリング60が伸長するときに係合片68が当接する長穴64の上端の壁面(図4(A)参照)や、長穴64の中心点など)からの距離が変化する位置に設けられた回動軸を中心として回動可能に取り付けられていればよい。図4(A),(B)の場合は前脚30以外であればよく、例えば、脚座20に取り付けることが考えられる。
【0068】
なお、上述したように長穴64を形成する場合、図4(A)に示すように、長穴64の端部に係合片68が接触して前脚30を押圧することができ、その端部がストッパブロックの代わりとなる。
【0069】
また、上記実施例においては、座体10を前方に付勢する付勢手段としてガススプリング50を用いる構成を例示したが、付勢手段はガススプリングに限定されることなく、様々なものを用いることができる。また、付勢手段は様々な配置で取り付けることができる。
【0070】
ガススプリング以外の付勢手段としては、コイルバネを用いることが考えられる。また上記実施例では、外力を加えて圧縮させたときに、反力で伸長するガススプリングを例示したが、外力を加えて伸長させたときに、反力により縮むスプリングを用いてもよい。
【0071】
またガススプリングの配置は、上記実施例1のように、一端がリンクアーム52を介して前脚30に連結しており、他端が後脚40に連結する構成に限られず、座体10の移動に伴って距離が変化する2点であれば、様々な位置をガススプリングの一端と他端を連結する位置とすることができる。例えば、前脚30を本発明における揺動部としたとき(あるいは前脚30および後脚40を本発明における脚部としたとき)の前脚30と座体10(座受け13)や、前脚30と脚座20、または、後脚40を本発明における揺動部としたとき(あるいは前脚30および後脚40を本発明における脚部としたとき)の後脚40と座体10(座受け13)や、後脚40と脚座20などにそれぞれ回動軸を設け、それらを連結するようにガススプリングを取り付けることが考えられる。
【0072】
また、上記実施例においては、第2回動軸56に設けられたロータリーダンパ58によって座体10の移動速度を抑制する構成を例示したが、ロータリーダンパ58は第2回動軸56以外の位置に設けられていても良い。例えば、ロータリーダンパを第1回動軸54の位置に設けることが考えられる。また、ロータリーダンパ以外の緩衝手段を用いてもよい。
【0073】
また、上記実施例においては、ロータリーダンパ58は第2基準位置(C)から前方位置(D)の間で緩衝機能を発揮する構成を例示したが、それ以外の位置に座体10が位置するときに緩衝機能を発揮する構成であってもよい。例えば後方位置(A)から前方位置(D)までの全ての範囲で緩衝機能を発揮するように構成してもよい。
【0074】
また、座体10を支持する支持手段としては様々なものを用いることができる。例えば上記実施例においては、座体10を、前脚30および後脚40の2本の脚にて支持する構成を例示したが、1本の脚で支持する構成であってもよい。図5に、一本の脚80にて支持される座体82を有する椅子84を示す。図5は(A)〜(C)の3つの状態を示しており、(A)は座体82が後方位置にある状態を表しており、(B)は座体82が第2基準位置にある状態を表しており、(C)は座体82が前方位置にある状態を表している。なお、図示しないが、後方位置(A)と第2基準位置(B)の間に第1基準位置が存在する。
【0075】
この椅子84において、脚80の上端は座体82に固定されており、脚80の下端は脚座86に回動可能に軸支されている。脚80の内部は中空状であって、ストッパブロック88が設けられており、またガススプリング90が配置されている。ガススプリング90の一端(上端)はリンクアーム92を介して脚80に連結されており、ガススプリング90の他端(下端)は脚座86に連結されている。また、ロータリーダンパなどの緩衝手段が設けられていてもよい。
【0076】
このような椅子84では、座体10の挙動は異なるが、上記実施例の椅子1と同様の作用、効果を得ることができる。
また、図6(A),(B)に示す椅子100ように、前脚102は固定されており、後脚104は揺動するように構成された椅子であってもよい。図6(A)は後方位置であり、図6(B)は前方位置である。図示しないが、後方位置(A)と前方位置(B)の間に、第1基準位置および第2基準位置が存在する。
【0077】
この椅子100では、座受け106に前脚102の上端と係合する長穴108が設けられており、座体110が移動すると前脚102の上端は長穴108内を摺動するように構成されている。そして、図示しないが、後方位置から第2基準位置まで座体110を付勢する付勢手段を設けるとよい。また、座体110の移動速度を抑制する緩衝手段を設けてもよい。
【0078】
また、図7(A),(B)に示す椅子120のように、座体122が支持台124の上で前後方向にスライド可能に構成されていてもよい。図示しないが、後方位置(A)と前方位置(B)の間に、第1基準位置および第2基準位置が存在する。この場合も、座体122が自重で前方(図7中右方向)に移動する第1基準位置まで付勢する付勢手段を設けるとよい。また、座体122の移動速度を抑制する緩衝手段を設けてもよい。
【0079】
また、座体10を支持する支持手段は、床面以外、例えば壁面や机に設けられるものであってもよい。
【符号の説明】
【0080】
1…椅子、2…机、10…座体、11…着座面、12…背凭れ、13…座受け、14…第1シャフト、15…第2シャフト、20…脚座、21…第3シャフト、22…第4シャフト、30…前脚、40…後脚、50…ガススプリング、52…リンクアーム、54…第1回動軸、56…第2回動軸、58…ロータリーダンパ、60…第3回動軸、62…ストッパブロック、64…長穴、66…ガススプリング、68…係合片、80…脚、82…座体、84…椅子、86…脚座、88…ストッパブロック、90…ガススプリング、92…リンクアーム、100…椅子、102…前脚、104…後脚、106…座受け、108…長穴、110…座体、120…椅子、122…座体、124…支持台

【特許請求の範囲】
【請求項1】
人が着席するための着座面を有する座体と、
前記座体が前方に移動した前方位置と、前記座体が前記前方とは反対側の方向である後方に移動した後方位置と、の間で移動可能に前記座体を支持する支持手段と、
を備える椅子において、
前記支持手段は、前記前方位置と、前記前方位置よりも前記後方位置側に位置する第1基準位置と、の間の領域に前記座体が位置する場合には、前記座体が前記前方位置へ自重により移動するように前記座体を支持しており、
前記第1基準位置と前記前方位置との間であって、かつ前記前方位置から距離を有する位置である第2基準位置と、前記後方位置と、の間に前記座体が位置するときには、前記座体を前記前方位置の方向に付勢する一方、前記第2基準位置と、前記前方位置と、の間に前記座体が位置する時には、前記座体を付勢しないように構成された付勢手段を備える
ことを特徴とする椅子。
【請求項2】
前記付勢手段は、
前記座体または前記支持手段の所定の面に対して接触および離間可能に構成された押圧部を有しており、
前記座体が前記後方位置と前記第2基準位置との間に位置するときには、前記押圧部が前記所定の面に接触して押圧することで前記座体を前記前方位置の方向に付勢し、前記座体が前記第2基準位置と前記前方位置との間に位置するときには、前記押圧部が前記所定の面から離間することで前記付勢を行わないように構成されている
ことを特徴とする請求項1に記載の椅子。
【請求項3】
前記座体の前記前方位置への移動速度を抑制する緩衝手段を備える
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の椅子。
【請求項4】
前記緩衝手段は、前記座体が前記第2基準位置と前記前方位置との間における少なくとも一部の領域に位置するときに、前記座体の前記前方位置への移動速度を抑制するように構成されている
ことを特徴とする請求項3に記載の椅子。
【請求項5】
前記支持手段は、
床面に設置される脚座と、
前記座体を支持しており、一端が前記脚座に連結し、当該連結部分を中心として前後に揺動可能に構成された脚部と、を備える
ことを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の椅子。
【請求項6】
前記付勢手段は、ガススプリングである
ことを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の椅子。
【請求項7】
前記付勢手段は、ガススプリングであり、
前記支持手段は、床面に設置される脚座と、前記座体を支持しており、一端が前記脚座に連結し、当該連結部分を中心として前後に揺動可能に構成された揺動部と、を有するものであり、
第1回動軸を中心に前記ガススプリングの一端と回動可能に連結するとともに、前記第1回動軸から距離をあけて配置された第2回動軸を中心に前記揺動部と回動可能に連結するリンクアームを備え、
前記ガススプリングの他端は、前記座体の移動に伴って前記第2回動軸からの距離が変化する位置に設けられた第3回動軸を中心として回動可能に連結されており、
前記ガススプリングは、前記第2基準位置と前記後方位置との間に前記座体が位置するときには、伸長または圧縮することにより前記座体を前記前方位置に付勢する
ことを特徴とする請求項1に記載の椅子。
【請求項8】
前記第1回動軸および前記第2回動軸のうち少なくともいずれか一方に配置され、前記座体の前記前方位置への移動速度を抑制するロータリーダンパを備える
ことを特徴とする請求項7に記載の椅子。
【請求項9】
前記揺動部は、前記ガススプリングの伸長によって前記ガススプリングまたは前記リンクアームに押圧される当接面を有する
ことを特徴とする請求項7または請求項8に記載の椅子。
【請求項10】
前記付勢手段は、ガススプリングであり、
前記支持手段は、床面に設置される脚座と、一端が前記脚座に連結すると共に、他端が前記座体に連結しており、前記脚座を中心として揺動可能に構成された揺動部と、を有するものであり、
前記ガススプリングは、一端が前記揺動部に形成された長穴内を摺動可能に係合しており、他端が前記座体の移動に伴って前記長穴からの距離が変化する位置に設けられた回動軸を中心として回動可能に取り付けられている
ことを特徴とする請求項1に記載の椅子。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2012−143352(P2012−143352A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−3150(P2011−3150)
【出願日】平成23年1月11日(2011.1.11)
【出願人】(000116596)愛知株式会社 (37)
【Fターム(参考)】