説明

椅子

【課題】着座する際に、座に座付勢手段以外の余分な上向きの付勢力が加わることのないようにして、快適に着座することができるようにした椅子を提供する。
【解決手段】支基5と背凭れ10の下部とを、リンク部材23により、背凭れ10が起立位置と後傾位置とに回動しうるだけの遊びをもって連結するとともに、支基5に、リンク部材23の下向き回動量を規制する下向き回動規制手段2628を設け、かつ背付勢手段32を、リンク部材23と背凭れ10の下部との間に設けることにより、背凭れ10を起立位置に向けて付勢するようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、椅子、特に、不使用状態では、座の後部が持ち上がり、着座者が着座する際には、座が、着座者の臀部に当接して、臀部とともにほぼ水平位置まで回動することにより、着座を誘導し、また着座者が立上る際には、座の後部が持ち上がって、起立を補助するようにした椅子に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の椅子としては、座を、椅子の下部構成体に対して、水平、または後下向きに傾斜する使用位置と、後上向きに傾斜する不使用位置との間を回動可能に支持し、前記座の後部に、背凭れを、起立位置と後傾位置とに回動可能として枢着し、前記座を、不使用位置に向かって付勢し、また前記背凭れを、起立位置に向かって付勢する付勢手段をそれぞれ設けることにより、着座者が立ち上がる際に起立補助を行うとともに、着座したまま背凭れを独立してリクライニングすることができ、かつ座が不使用位置から使用位置まで回動する間は、前記背凭れを起立位置に維持しうるようにしたものがある(例えば特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−104562号公報
【特許文献2】特許第4379538号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1に記載の椅子においては、4節リンク機構の一部と背凭れの下端部とを、直接ガススプリング等の背付勢手段により、また、特許文献2に記載の椅子においては、長手方向の中間部に背付勢手段を有するロッド(リンク)により、それぞれ連結して、背凭れを独立してリクライニングさせうるとともに、座が不使用位置から使用位置まで回動する間は、背凭れが起立状態に維持されるようにしてある。
【0005】
上記のように、4節リンク機構の一部と背凭れの下端部とを、背付勢手段により直接連結したり、長手方向の中間部に背付勢手段を有するロッドにより連結したりすると、4節リンク機構が回動して座が使用位置まで回動する際に、背付勢手段が若干圧縮させられ、その際の圧縮力が座に伝達されることにより、座には、その上向き付勢手段の付勢力の外に、背付勢手段による余分な上向きの付勢力が加わり、後上向きの不使用位置にある座に着座する際、座の下向き回動が重く感じられることがある。
【0006】
このような問題をなくすためには、4節リンク機構の配置や構造、4節リンク機構と背凭れに対する背付勢手段や、ロッドの連係形態や、伸縮ストローク等を適切に設計し、着座する際に座に余分な上向きの付勢力が加わることのないようにする必要があるが、座と背凭れの下方の限られた空間に、4節リンク機構や背付勢手段を適切に設計して組み込むことは難しく、かつ設計コストも増大する。
【0007】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたもので、着座する際に、座に座付勢手段以外の余分な上向きの付勢力が加わることのないようにして、快適に着座することができるようにし、かつ背付勢手段を、背凭れの後傾時にのみ効果的に圧縮させて、背凭れを快適にリクライニングさせうるようにした椅子を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によると、上記課題は、次の各項のようにして解決される。
(1)脚体により支持された支基と、前記支基に左右方向を向く枢軸をもって枢着され、後部が不使用位置と使用位置とに上下方向に回動可能とした座と、前記支基に設けられ、前記座における前記枢軸より後部を上向きに付勢する座付勢手段と、前記座の後部に左右方向を向く支軸をもって枢着され、起立位置と後傾位置とに回動可能な背凭れと、前記背凭れを起立位置に付勢する背付勢手段とを備える椅子において、前記支基における前記枢軸よりも後方の部分と、前記背凭れにおける前記支軸より下方の部分とを、前後方向を向くリンク部材により、前記背凭れが起立位置と後傾位置とに回動しうるだけの遊びをもって連結するとともに、前記支基に、前記リンク部材の下向き回動量を規制する下向き回動規制手段を設け、かつ前記背付勢手段を、前記リンク部材と前記背凭れの下部との間に設けることにより、前記背凭れを起立位置に向けて付勢するようにする。
【0009】
このように、支基と背凭れの下端部とをリンク部材により、背凭れが起立位置と後傾位置とに回動しうるだけの遊びをもって連結し、リンク部材と背凭れとの間に背付勢手段を設けてあるので、座に着座する際、背付勢手段は、リンク部材と共に下向きに回動するのみとなり、座には背付勢手段の上向き付勢力、すなわち座付勢手段以外の余分な上向きの付勢力が加わることがない。従って、座の下向き回動が重く感じられることはなく、快適に着座することができる。
また、リンク部材の下向き回動が下向き回動規制手段により停止させられ、座が使用位置まで回動してから、背凭れを後傾させることにより、背付勢手段が効果的に圧縮させられので、背凭れを快適にリクライニングさせることができる。
【0010】
(2)上記(1)項において、リンク部材に、背凭れの支軸を中心とする円弧状の長孔を設け、この長孔に左右方向を向く連結軸を摺動自在に嵌合することより、前記リンク部材の後端部を、背凭れの下端部に、背凭れが起立位置と後傾位置とに回動しうるだけの遊びをもって連結し、かつリンク部材の後端部と背付勢手段の後端部とを、前記共通の連結軸をもって背凭れの下部に連結する。
【0011】
このような構成とすると、背凭れを後傾させた際、リンク部材の後部の連結軸が、円弧状の長孔により案内されて円滑に移動するので、背凭れを、その支軸に過大な曲げモーメントを作用させずに円滑にリクライニングさせることができる。
また、リンク部材の後端部と背付勢手段の後端部とを、共通の連結軸をもって背凭れの下部に枢着してあるので、部品点数が少なく、構造を簡素化しうるとともに、背凭れへのリンク部材と背付勢手段との枢着作業が容易となる。
【0012】
(3)上記(2)項において、リンク部材を、上方に開口する収容凹部を有するケース状とし、このケース状としたリンク部材の両側壁に長孔を設け、前記収容凹部内に収容した背付勢手段の後端部を、前記両長孔に挿通した連結軸の中央部により支持する。
【0013】
このような構成とすると、リンク部材の両側壁の長孔により、連結軸の両端部が安定よく支持され、かつ収容凹部内に収容した背付勢手段の後端部が、連結軸の中央部により安定よく支持されるので、背付勢手段に曲げ荷重が加わることがなく、これを長手方向に向かって確実に伸縮させることができる。
【0014】
(4)上記(3)項において、リンク部材の収容凹部内に、座付勢手段と背付勢手段とを収容して組み付けることにより、リンク部材と座付勢手段と背付勢手段とをユニット化する。
【0015】
このような構成とすると、支基、座、及び背凭れへのリンク部材と座付勢手段と背付勢手段との組み付け性が向上するので、椅子の組立てを能率的に行うことができる。
【0016】
(5)上記(3)または(4)項において、座付勢手段と背付勢手段とを、それぞれリンク部材の収容凹部内の前部と後部に、互いに前後に位置をずらして、かつ座付勢手段が斜め後上方を向くように収容する。
【0017】
このような構成とすると、座付勢手段と背付勢手段とは、リンク部材の収容凹部内に収容され、目立たないので、椅子の体裁がよく、かつ座が使用位置にあるときの高さを低くすることができる。
また、座の下方の限られた空間に、座付勢手段と背付勢手段とを、互いに干渉させることなくコンパクトに配設することができる。
【0018】
(6)上記(3)〜(5)項のいずれかにおいて、背付勢手段を、左右1対よりなるものとし、この1対の背付勢手段を、リンク部材の収容凹部内に収容する。
【0019】
このような構成とすると、背凭れの付勢力が大となるので、小型の背付勢手段を使用でき、かつこれを、リンク部材の収容凹部内にコンパクトに収容することができる。
【0020】
(7)上記(1)〜(6)項のいずれかにおいて、座付勢手段の前端部とリンク部材の前端部とを、左右方向を向く共通の軸をもって支基に枢着する。
【0021】
このような構成とすると、部品点数が少なく、構造を簡素化しうるとともに、支基への座付勢手段とリンク部材との枢着作業が容易となる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、座には、座付勢手段以外の余分な上向きの付勢力が加わることがないので、座の下向き回動が重く感じられることはなく、従って、快適に着座することができる。
また、リンク部材の下向き回動を下向き回動規制手段により停止し、座が使用位置まで回動してから、背凭れを後傾させることにより、背付勢手段が効果的に圧縮させられので、背凭れを快適にリクライニングさせることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の椅子の一実施形態の不使用状態における正面図である。
【図2】同じく、側面図である。
【図3】同じく、使用状態における側面図である。
【図4】同じく、使用状態において、背凭れを後傾させたときの側面図である。
【図5】同じく、不使用状態の椅子における中央部分を、座のクッション材を省略して示す拡大中央縦断側面図である。
【図6】同じく、使用状態の椅子の拡大中央縦断側面図である。
【図7】同じく、支基と支基に装着された部材とを、斜め前上方より見た斜視図である。
【図8】リンク部材を斜め下方より見た斜視図である。
【図9】支基の斜視図である。
【図10】背付勢手段の分解斜視図とそれが組み込まれるリンク部材の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態を、図面に基づいて説明する。
図1〜図4に示すように、この椅子は、先端部にキャスタ1を備える放射状をなす5本の脚杆2を有する脚体3を備えている。脚体3の中央には、ガススプリング(図示略)を備える伸縮式の脚柱4が立設され、脚柱4の上端には、前方を向く支基5の後部が固着されている。なお、支基5と脚柱4と脚体3とを一体化して実施してもよい。
【0025】
支基5は、アルミニウム合金等により一体成形され、図7に示すように、前方に向かって拡開する平面視三角形の浅い皿状をなすとともに、側面視において前上方に向かって傾斜している。また、図1に示すように、支基5は、前方より見て上向きコ字状をなし、前方に開口しているので、支基5への部材の取付け作業時に、側方や後方だけでなく、前方からも部材や工具等を挿入し易いようになっている。
【0026】
座6は、合成樹脂製の座板7と、その上面に取付けられたクッション材8とからなり、座板7の前端両側部を、支基5の前端両側部に左右方向を向く枢軸9をもってそれぞれ枢着することにより、図2に示すように、後上向きに傾斜する不使用位置と、図3に示すように、水平、または後下向きに傾斜する使用位置とに、枢軸9を中心として回動可能である。この回動範囲は、ほぼ15度程度とするのが好ましい。なお、座6の回動範囲は、これを使用位置にしたとき、着座者が前方に自然に位置ずれしない程度に前傾し、また不使用位置としたとき、ほぼ水平となるように設定してもよい。
【0027】
座板7の後部両側には、背凭れ10の下部両側より前方を向く延出部10aの前部が、脚柱4よりも後方に位置するようにして、左右方向を向く支軸11をもってそれぞれ枢着され、背凭れ10は、図2および図3に示すように、ほぼ上方を向く起立位置と、図4に示すような後傾位置とに、支軸11を中心として回動可能となっている。なお、支軸11とそれが挿通される延出部10aには、背凭れ10が起立位置からそれ以上前方に回動するのを規制するストッパ手段(図示略)が設けられている。
【0028】
図7に示すように、支基5には、座6の後部を上向きに付勢する座付勢手段12が設けられている。
この座付勢手段12は、支基5における枢軸9より下方の部分と座6における枢軸9より後方の部分とを連結する弾性伸縮手段13と、この弾性伸縮手段13の両側方において、座6の下面に前上端部が固着され、中間部が側面視において前方に向かって開口するU字状に弾性撓曲させられ、かつ前下端部が支基5における枢軸9より下方の位置に止着された左右1対の弾性撓曲手段14、14とを備えている。
【0029】
弾性伸縮手段13は、この例では、図2及び図5〜図7に示すように、前端部が支基5に左右方向の基軸15をもって枢着され、かつ後端部が座6の下面における前後方向の中間部に、左右方向の軸ピン16をもって枢着された、ロック機能のないガススプリング17としてある。しかし、ロック機能を有するガススプリングや、圧縮コイルばね、またはオイルダンパ、もしくはエアダンパ等とすることもできる。
【0030】
左右の各弾性撓曲手段14は、この例では、図5〜図7に示すように、座6の下面における両側前部にねじ止め等により止着された前後方向に長い長方形の上部取付部18aと、この上部取付部18aから後方に延出する上片18bと、上片18bの後端から前下方へ向かってほぼ半円弧状に湾曲する弾性撓曲部18cと、弾性撓曲部18cの下端から前方または前下方に延出する下片18dと、下片18dの前端に設けた、支基5に取付けるための下部取付部18eとを有する合成樹脂製の左右1対の板ばね18、18からなるものとしてある。なお、各板ばね18は、ばね鋼製とすることもある。
【0031】
左右の板ばね18、18における両下片18d、18dの左右方向の幅は、前方に向かって漸次小としてある。これは、上述したガススプリング17、後述するリンク部材23や背付勢手段24との干渉を避けて、座6の下方の狭い空間内に、それらを集約的に収容するためである。
【0032】
また、左右の板ばね18、18は、図7に示すように、その両下片18d、18d同士が、平面視において互いに後方に向かって拡開するように配設するのが好ましい。さらに、両上片18b、18b同士も、平面視において互いに後方に向かって拡開するように配設するのが好ましい。このようにすることによって、座6の後部を安定よく支持することができる。
【0033】
左右の板ばね18、18における下部取付部18e、18eは、上記基軸15の両側端部に枢着されている。
【0034】
基軸15は、次のようにして、支基5の前部上面に固定されている。すなわち、図5〜図7に示すように、支基5における枢軸9より下方の前部の底面に、左右方向を向く凹部5aを設け、この凹部5a内に左右方向に並べて設けた複数の突部19の上面に、上方および左右両方向に開口するU字状の凹溝20をそれぞれ設け、各凹溝20に基軸15を嵌合したのち、各突部19の上面に、押え金具21を、ねじ22、22をもって止着することにより、基軸15は、回動不能(回動可能としてもよい)として支基5の前端部上面に固定されている。
【0035】
座付勢手段12を、弾性伸縮手段13と、この弾性伸縮手段13の両側方に配設した左右1対の弾性撓曲手段14とを備えるものとしてあるので、座6の後部を、左右のバランスよく持ち上げることができるとともに、座6を安定よく支持することができる。
また、弾性伸縮手段13と弾性撓曲手段14とを、小型化して、座6の下方にコンパクトに配設することができるので、椅子の体裁をよくすることができる。
【0036】
上記のように、弾性伸縮手段13をガススプリング17とし、弾性撓曲手段14を板ばね18とすると、弾性伸縮手段13および弾性撓曲手段14の構造は簡素化され、安価に製造することができる。
【0037】
また、弾性伸縮手段13の前端部と弾性撓曲手段14の下側の前端部とを、左右方向を向く共通の基軸15をもって支基5に枢着してあるから、構造を簡素化できるだけでなく、支基5への弾性伸縮手段13と弾性撓曲手段14との枢着作業を簡略化することができる。
【0038】
弾性撓曲手段14である板ばね18における後部の側面視半円弧状の弾性撓曲部18cの上面は、座6の下面に当接しており、座6の下向き回動時に、板ばね18における上部取付部18aと下部取付部18eとの間隔が縮まることにより、下片18dが後上方に押し出され、弾性撓曲部18cが、座6の下面に沿って漸次後方に移行するように、板ばね18は弾性変形する。
このように板ばね18が弾性変形することによって、板ばね18の同一箇所に応力が集中するのを防止し、板ばね18の耐久性を向上することができるとともに、板ばね18の反力を増大させることができる。
結果的に、板ばね18の反力は、座6を下向き回動させればさせるほど大となる。
【0039】
図5〜図7に示すように、支基5における枢軸9より下方の部分と、背凭れ10における上記支軸11より下方の部分とは、硬質合成樹脂により一体成形された前後方向を向くリンク部材23により連結されている。なお、リンク部材23の材質としては、アルミニウム合金等でもよい。
リンク部材23は、底壁23a、左右1対の側壁23b、23b、前壁23c、及び後壁23dを備える前後方向に長いケース状をなし、内部には、上方に開口する前後方向の収容凹部24が形成されている。底壁23aの前部と前後に幅広とされた左右の側壁23bの前部は、支基5の中央部上面に向かって斜め前下方に屈曲されている。
【0040】
また、底壁23aと左右の側壁23bの後部は、背凭れ10における下端部の前面に向かって斜め後上方に折曲されている。
リンク部材23における左右の側壁23b、23bのほぼ後半部の上面は、座板7の後半部下面の下向き凸円弧状の曲面と整合するように、下向きの凹状曲面に湾曲させてあり、着座時に、座板7の後半部下面がリンク部材23の後半部上面と広範囲に近接または当接しうるようになっている(図5、図6参照)。なお、上記とは反対に、左右の側壁23b、23bの後半部の上面を凹状曲面に、座板7の後半部下面を凸円弧状の曲面としてもよい。
【0041】
底壁23aと両側壁23bの後端部は、後壁23dよりも後方に延出され、図5に示す不使用状態において、底壁23aの延出部23eの後端部が、背凭れ10の下端部の前面と近接するようにして、座6が使用位置まで回動したとき、底壁23aの後端部と背凭れ10の下端部との間に指等が入り込まないようにしてある。
【0042】
図5及び図8に示すように、リンク部材23の前端部には、その前壁23cを側面視山形状断面をなすように折曲することにより、山形状の上向凹部25が形成されている。山形状断面に折曲した前壁23cにおける基軸15よりも後方の前部側の斜め後上方を向く傾斜部は、リンク部材23及び座6の下向き回動規制手段を構成する被ストッパ部26となっている。
【0043】
図5及び図9に示すように、上記上向凹部25と対向する支基5の中央部上面には、上向凹部25が嵌合可能な側面視山形状断面の上向凸部27が突設されている。この上向凸部27における基軸15よりも後方の前部側の斜め後上方を向く傾斜部は、リンク部材23及び座6の下向き回動規制手段を構成するストッパ部28となっている。すなわち、被ストッパ部26とストッパ部28とにより、リンク部材23及び座6の下向き回動規制手段が構成され、座6が使用位置まで下向きに回動した際に、上記被ストッパ部26の下面が、ストッパ部28の前面に面で当接して、リンク部材23の下向き回動が停止させられることにより、リンク部材23と座6の最大下向き回動量が規制されるようになっている(図6参照)。
【0044】
支基5の上向凸部27の左右寸法は、その左右の外側面がリンク部材23の上向凹部25の内側面と摺接する寸法とされ、また上向凸部27の上部は、座6が不使用状態にあるときにも、リンク部材23の上向凹部25内の下部に突入するようにしてある。このようにすると、支基5に対し、リンク部材23及び座6が左右方向にぐらつくのが防止されるとともに、リンク部材23の下端部の枢着部や基軸15に曲げ荷重が加わるのが防止される。また、ストッパ部28は上向凹部25内に位置し、上向凹部25内において、被ストッパ部26がストッパ部28に当接するので、互いの当接面が外部に露呈せず、従って、座6が下向きに回動する際に、支基5の側方から被ストッパ部26とストッパ部28との当接面に指等が入り込んで挟まれる恐れをなくすことができる。
【0045】
図5に示すように、リンク部材23における被ストッパ部26よりも後方の下面、すなわち上向凹部25の後下縁と連続する底壁23aの下面には、支基5の上面に向かって延出する下向きの折曲部23fが形成されている。
また、支基5における上向凸部27の直後の上面には、上記折曲部23fと、それに連続する上向凹部25の斜め前上方を向く傾斜部25aとで形成されるV字状断面の下向突部25bが嵌合可能な嵌合溝5bが形成されている。下向突部25bの下端は、図5に示す座6が不使用位置にあるときでも、嵌合溝5bの後部の開口縁と近接するように、僅かに嵌合溝5b内に突入するようにしてある。
【0046】
上記のように、リンク部材23における上向凹部25の後方の下面、すなわち被ストッパ部26よりも後方の下面に折曲部23fを設けると、座6が使用位置まで下向きに回動する際に、被ストッパ部26とストッパ部28との当接面に支基5の後方より指等が入り込んで挟まれる恐れがなくなる。
【0047】
リンク部材23における左右の側壁23b、23bの後端部には、背凭れ10の支軸11を中心とする斜め前下方を向く長孔29、29が対向状に穿設され、この両長孔29に挿通した左右方向を向く連結軸30の左右の端部を、背凭れ10の下端部前面の左右方向の中央部に前向き突設された左右1対の軸受片31に嵌合することにより、背凭れ10が起立位置と後傾位置とに回動しうるように、リンク部材23の後端部が背凭れ10の下端部に回動可能に連結されている。
【0048】
図7に示すように、リンク部材23の両側壁23bの前端部は、支基5の中央部上面の突部19に、上述した板ばね18と共通の基軸15により回動可能に枢着されている。
【0049】
図5及び図7に示すように、上述したガススプリング17の大部分は、リンク部材23の収容凹部24内に収容され、この収容凹部24内においてガススプリング17の前端部は、板ばね18及びリンク部材23と共通の基軸15により回動可能に枢着されている。このように、リンク部材23の収容凹部24内にガススプリング17を収容すると、このガススプリング17を座6の下方の限られた空間にコンパクトに配設することができ、かつガススプリング17が目立たなくなるので、椅子の体裁がよくなる。なお、ガススプリング17は、基軸15をもって、リンク部材23に予め組み付けておくことができる。
【0050】
図5〜図7に示すように、リンク部材23の収容凹部24の後半部には、背付勢手段としての左右1対の圧縮コイルばね32、32が、次のようにして装着されている。
図10の分解斜視図にも示すように、左右の圧縮コイルばね32の前端部には、前面に左右方向を向く半円状の凹溝33を有する段付き円板状の座金34の小径部34aが嵌合されている。
【0051】
両圧縮コイルばね32には、前後方向を向き、かつ後部に上下寸法の大きな取付部35aを有するばね保持板35が、圧縮コイルばね32の後端に当接する座金36の長孔36aを貫通させて、後方より遊嵌されている。座金36は、取付部35aの上下の肩部35b、35bに当接することにより、後方に移動するのが阻止されている。ばね保持板35の前部には、前後方向のガイド長孔37が形成されている。
【0052】
ばね保持板35の前端部は、前部の座金34に設けた長孔38を貫通して前方に突出し、突出部においてガイド長孔37に左右方向を向く連結軸39を挿通することにより、左右の圧縮コイルばね32は、それぞれ、前後の座金34、36との間に、所要の初期圧縮力を付与された状態で縮設されている。前部の座金34における半円状の凹溝33は、連結軸39の後面に嵌合され、連結軸39に対し座金34が回動するのが阻止されている。
【0053】
左右のばね保持板35のガイド長孔37には、左右方向の連結軸39が挿通され、この連結軸39の左右両端部は、リンク部材23における側壁23b、23bの中間部の対向面に設けた、上方に開口する斜め前下方を向くU字状の支持溝40、40に、上方より着脱可能に嵌合して支持されている。
また、左右のばね保持板35の取付部35a、35aは、その後端部に穿設された軸孔41を、リンク部材23の両側壁23bの長孔29に摺動可能に嵌合した上記の連結軸30に挿通することにより、この連結軸30により支持されている。
【0054】
これにより、左右1対の圧縮コイルばね32は、リンク部材23の後半部の収容凹部24内における仕切片42を挟む両側に、互いに干渉するのが防止されて装着されている。なお、左右1対の圧縮コイルばね32は、上述したガススプリング17と共に、リンク部材23に予め組み込んでユニット化しておくことができるので、椅子への組付けが能率的となる。
【0055】
以上のような構成とした椅子は、図2に示す不使用状態では、座付勢手段12、すなわちガススプリング17と1対の板ばね18との付勢力によって、座6の後部が上方に持ち上げられ、座6は後上向きに傾斜する不使用位置に位置しており、背凭れ10は、左右1対の圧縮コイルばね32の付勢力により、リンク部材23を介してほぼ上方を向く起立位置に保持されている。
【0056】
この状態で、着座者が着座すると、座6は、背凭れ10と共に座付勢手段12の付勢力に抗して下向きに回動し、かつ後端部が背凭れ10の下端部に枢着されたリンク部材23も、基軸15を中心として下向きに回動する。リンク部材23が下向きに回動すると、図6に示すように、それに設けた被ストッパ部26が、支基5のストッパ部28と当接することにより、リンク部材23の下向き回動が停止され、かつこれに伴って、背凭れ10及び座6の最大下向き回動量が規制されるため、座6は、図3及び図6に示す使用位置まで回動し、その位置に維持される。なお、リンク部材23の下向き回動が停止したとき、その後半部上面に座6における座板7の後半部下面が当接して、使用位置に停止するようにしてもよく、こようにすると、座6がリンク部材23により安定よく使用位置に維持される。
【0057】
座6が使用位置まで回動する間は、左右の圧縮コイルばね32は、リンク部材23と共に下向きに回動するのみで、それには圧縮力が作用せず、圧縮コイルばね32の初期付勢力により背凭れ10は起立状態に維持される。この際、連結軸30は、リンク部材23の長孔29の上端に位置している。
【0058】
このように、被ストッパ部26をストッパ部28に当接させて、リンク部材23の最大下向き回動量を規制し、座6を使用位置に停止させたり、リンク部材23の後半部上面に座板7の下面を当接させて、座6を使用位置に停止させたりすると、ガススプリング17を最大限縮退させて、これを座6のストッパ代わりとする必要がないので、ガススプリング17に過大な負荷が加わるのが防止され、その耐久性を向上させることができる。
【0059】
図3に示す使用位置において、着座者が背凭れ10を後方に倒すと、図6に示すように、その下端部の軸受片31により支持された連結軸30が、リンク部材23の長孔29に沿って斜め下方に下限位置まで移動することにより、背凭れ10は、左右の圧縮コイルばね32を圧縮させながら、支軸11を中心として、図4に示すような後傾位置まで回動する。
【0060】
着座者が背中を前方に戻すと、背凭れ10は、圧縮コイルばね32の弾性復元力による伸長によって、支軸11を中心として前方に回動させられ、元の起立位置まで戻される。すなわち、背凭れ10を、長孔29の長さの範囲内でリクライニングさせることができる。
【0061】
図3に示す着座状態から、着座者が立上がろうとすると、座6は、ガススプリング17と1対の板ばね18との付勢力の相乗作用により、不使用位置に向かって上向きに回動するように付勢され、着座者の起立をアシストすることができる。
【0062】
以上説明したように、上記実施形態の椅子においては、支基5の中央部上面と背凭れ10の下端部とを、伸縮不能なリンク部材23により連結し、座6が使用位置まで回動する間は、リンク部材23内に収容した圧縮コイルばね32は、リンク部材23と共に下向きに回動するのみで、それには圧縮力が作用しないようにしてあり、またリンク部材23の被ストッパ部26が支基5のストッパ28と当接して、リンク部材23及び座6の下向き回動が停止させられ、この状態で背凭れ10を後傾させたときに、圧縮コイルばね32に効果的に圧縮力が作用するようになっている。従って、着座する際に、座6には、座付勢手段12以外の余分な上向きの付勢力が加わることがないので、座6の下向き回動が重く感じられることはなく、快適に着座することができる。
【0063】
座6及びリンク部材23の最大下向き回動量を規制する下向き回動規制手段、すなわち被ストッパ部26とストッパ部28を、支基5の上面と背凭れ10の下端部とを連結するリンク部材23を利用して、それらの上面と前端部とに設けてあるので、支基5と座6との対向面、または座6の枢軸9や座付勢手段12の基軸15等に、特別な形状のストッパを別途設ける必要がなく、それらの構造を簡素化しうるとともに、枢軸9等に曲げ荷重が作用したり、それを摩耗させたりする恐れがない。
【0064】
また、被ストッパ部26とストッパ部28とは面で接触し、当接時の面圧が小さくなるので、互いの当接面の摩耗を抑えることができる。
【0065】
さらに、ガススプリング17を最大限まで縮退させてそれをストッパ代わりとする必要がないので、ガススプリング17の耐久性を向上させることができる。
【0066】
ガススプリング17の大部分と、圧縮コイルばね32とは、リンク部材23の収容凹部24内に収容されているので、椅子の体裁がよく、かつ座6が使用位置にあるときの高さを低く設定することができる。
【0067】
本発明は、上記実施形態のみに限定されるものではない。
上記実施形態では、背付勢手段に、安価な圧縮コイルばね32を用いたが、それに代えて、ロック機能のないガススプリング等を使用してもよい。
【符号の説明】
【0068】
1 キャスタ
2 脚杆
3 脚体
4 脚柱
5 支基
5a凹部
5b嵌合溝
6 座
7 座板
8 クッション材
9 枢軸
10 背凭れ
10a延出部
11 支軸
12 座付勢手段
13 弾性伸縮手段
14 弾性撓曲手段
15 基軸
16 軸ピン
17 ガススプリング(座付勢手段)
18 板ばね
18a上部取付部
18b上片
18c弾性撓曲部
18d下片
18e下部取付部
19 凸部
20 凹溝
21 押え金具
22 ねじ
23 リンク部材
23a底壁
23b側壁
23c前壁
23d後壁
23e延出部
23f折曲部
24 収容凹部
25 上向凹部
25a傾斜部
25b下向突部
26 被ストッパ部(下向き回動規制手段)
27 上向凸部
28 ストッパ部(下向き回動規制手段)
29 長孔
30 連結軸
31 軸受片
32 圧縮コイルばね(背付勢手段)
33 凹溝
34 座金
34a小径部
35 ばね保持板
35a取付部
35b肩部
36 座金
36a長孔
37 ガイド長孔
38 長孔
39 連結軸
40 支持溝
41 軸孔
42 仕切片

【特許請求の範囲】
【請求項1】
脚体により支持された支基と、
前記支基に左右方向を向く枢軸をもって枢着され、後部が不使用位置と使用位置とに上下方向に回動可能とした座と、
前記支基に設けられ、前記座における前記枢軸より後部を上向きに付勢する座付勢手段と、
前記座の後部に左右方向を向く支軸をもって枢着され、起立位置と後傾位置とに回動可能な背凭れと、
前記背凭れを起立位置に付勢する背付勢手段
とを備える椅子において、
前記支基における前記枢軸よりも後方の部分と、前記背凭れにおける前記支軸より下方の部分とを、前後方向を向くリンク部材により、前記背凭れが起立位置と後傾位置とに回動しうるだけの遊びをもって連結するとともに、前記支基に、前記リンク部材の下向き回動量を規制する下向き回動規制手段を設け、かつ前記背付勢手段を、前記リンク部材と前記背凭れの下部との間に設けることにより、前記背凭れを起立位置に向けて付勢するようにしたことを特徴とする椅子。
【請求項2】
リンク部材に、背凭れの支軸を中心とする円弧状の長孔を設け、この長孔に左右方向を向く連結軸を摺動自在に嵌合することより、前記リンク部材の後端部を、背凭れの下端部に、背凭れが起立位置と後傾位置とに回動しうるだけの遊びをもって連結し、かつリンク部材の後端部と背付勢手段の後端部とを、前記共通の連結軸をもって背凭れの下部に連結してなる請求項1記載の椅子。
【請求項3】
リンク部材を、上方に開口する収容凹部を有するケース状とし、このケース状としたリンク部材の両側壁に長孔を設け、前記収容凹部内に収容した背付勢手段の後端部を、前記両長孔に挿通した連結軸の中間部により支持してなる請求項2記載の椅子。
【請求項4】
リンク部材の収容凹部内に、座付勢手段と背付勢手段とを収容して組み付けることにより、リンク部材と座付勢手段と背付勢手段とをユニット化してなる請求項3記載の椅子。
【請求項5】
座付勢手段と背付勢手段とを、それぞれリンク部材の収容凹部内の前部と後部に、互いに前後に位置をずらして、かつ座付勢手段が斜め後上方を向くように収容してなる請求項3または4記載の椅子。
【請求項6】
背付勢手段を、左右1対よりなるものとし、この1対の背付勢手段を、リンク部材の収容凹部内に収容してなる請求項3〜5のいずれかに記載の椅子。
【請求項7】
背付勢手段の前端部とリンク部材の前端部とを、左右方向を向く共通の軸をもって支基に枢着してなる請求項1〜6のいずれかに記載の椅子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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