説明

植物の二酸化炭素吸収または排出機能の評価装置

【課題】 自然環境下において、簡易かつコンパクトで、精度の高い植物の光合成による二酸化炭素の吸収または排出機能の評価を行うことができる装置を提供すること。
【解決手段】 大気が導入され、植物を内部に収容するチャンバ2と、該植物に光を照射する光源部3と、該光源部の光量を調整する光量調整部4と、設置された条件下における大気中の二酸化炭素濃度を測定するバックグランド二酸化炭素濃度測定部5と、前記チャンバから導出されたガス中の二酸化炭素濃度を測定するチャンバ二酸化炭素濃度測定部5と、を備え、光量調整部4は、バックグランド二酸化炭素濃度測定部5の測定値に基づいて、その測定値からチャンバ二酸化炭素濃度測定部5の測定値を変化させるよう光源部3の光量を調整することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物の二酸化炭素吸収または排出機能の評価装置に関し、自然環境下における植物の光合成による二酸化炭素吸収または排出機能の評価装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球環境の大きな改善テーマの1つとして、地球の温暖化の防止、具体的には温暖化ガスの低減があり、植物の光合成による二酸化炭素の吸収は、そうした温暖化ガスの低減方法の1つとして考えられている。従って、自然環境における植物の光合成による二酸化炭素の吸収のプロセスを明確にするために、模擬的に自然環境を再現し、実際の植物の光合成による二酸化炭素の吸収のメカニズムを解析する種々の試みがなされている。
【0003】
例えば、図5に示すように、閉鎖式の同化箱を利用した光合成測定方法が提案されている。つまり、空気の循環経路を構成した同化箱51内に測定対象の植物52を入れ、同化箱51内の空気を循環させながら二酸化炭素濃度の経時的変化により光合成速度を測定する方法において、同化箱51の気密性は高いものの、完全気密ではないものを使用するとともに、植物52を入れない状態において換気率を測定し、植物52を入れて所定時間経過後に測定した二酸化炭素濃度の変化分から、換気による二酸化炭素濃度の変化分を除いたものにつき光合成速度を算出することができる(例えば特許文献1参照)。
【0004】
【特許文献1】特開平08−172913号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の方法では、以下の示すいくつかの課題があった。
(i)植物用チャンバに空気を供給して試験した場合において、供給された空気中の二酸化炭素濃度と植物用チャンバ出口の二酸化炭素濃度との比較では、自然環境下における正確な光合成の評価ができないことがある。つまり、一般に植物は、光合成による二酸化炭素の吸収と同時に、植物の生物機能の維持から二酸化炭素を発生することから、自然環境下における両者のバランスを把握しないと正確な植物の光合成による二酸化炭素の吸収のメカニズムを解析することができない。
(ii)また、自然環境化においては、外光が大きく変化し、その変化に伴う光合成による二酸化炭素の吸収量の変動が大きく、正確な植物の光合成による二酸化炭素の吸収のメカニズムを解析することが難しい。
(iii)さらに、植物の光合成による二酸化炭素の吸収のメカニズムは、植物の種類・生育条件とともに、周囲の自然環境において大きく異なることから、現地での二酸化炭素の吸収機能の評価を簡易に行うことができる装置が不可欠であり、現状こうした要請に答える装置は実現されていない。特に、自然環境下における研究や学校教育などにおいては、こうした装置に対して強い要請があった。
【0006】
そこで、この発明の目的は、自然環境下において、簡易かつコンパクトで、精度の高い植物の光合成による二酸化炭素の吸収または排出機能の評価を行うことができる装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、鋭意研究を重ねた結果、以下に示す植物の二酸化炭素吸収または排出機能の評価装置によって、上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに到った。
【0008】
つまり、本発明に係る植物の二酸化炭素吸収または排出機能の評価装置は、大気が導入され、植物を内部に収容するチャンバと、該植物に光を照射する光源部と、該光源部の光量を調整する光量調整部と、設置された条件下における大気中の二酸化炭素濃度を測定するバックグランド二酸化炭素濃度測定部と、前記チャンバから導出されたガス中の二酸化炭素濃度を測定するチャンバ二酸化炭素濃度測定部と、を備え、前記光量調整部は、前記バックグランド二酸化炭素濃度測定部の測定値に基づいて、その測定値から前記チャンバ二酸化炭素濃度測定部の測定値を変化させるよう前記光源部の光量を調整することを特徴とする。
【0009】
こうした構成あるいは機能を有する簡易かつコンパクトな評価装置によって、自然環境下において光合成による二酸化炭素濃度の変化量、つまり二酸化炭素の吸収または排出機能が定量的に、容易に把握することが可能となった。また、本発明は、あらゆる植物に適用することが可能であり、かつ精度の高い植物の光合成の二酸化炭素の吸収または排出機能の評価装置あるいは評価方法の提供が可能となった。ここで、「大気」とは、本評価装置が設置された周囲環境雰囲気の「大気」をいう。
【0010】
つまり、試験用チャンバ(チャンバ)、光源部、二酸化炭素濃度測定部等、非常に簡易な構成を有する評価装置あるいはこうした機能を基に操作する評価方法を用い、大気を環境雰囲気とする自然環境下における植物の二酸化炭素の授受がバランスする状態を基準としてステップ状に光量(以下「シフト光量」という)を上昇させることによって、自然環境下における植物の二酸化炭素の吸収または排出機能を正確に測定することが可能となった。また、自然環境下における外光の影響を排除し、制御された光源部からの光を照射することによって、安定的かつ客観的な定量的評価を行うことが可能となった。
【0011】
本発明は、上記植物の二酸化炭素吸収または排出機能の評価装置であって、前記光量調整部は、前記バックグランド二酸化炭素濃度測定部の測定値と前記チャンバ二酸化炭素濃度測定部の測定値がほぼ一致するように前記光源部を第1の光量に調整し、その後、前記チャンバ二酸化炭素濃度測定部の測定値を変化させるよう前記光源部を第2の光量に調整することを特徴とする。二酸化炭素の吸収は、生命体である植物にとっては代謝機能を意味するものであり、バックグランド二酸化炭素濃度とチャンバ二酸化炭素濃度が一致するように植物に照射された光量から、植物の代謝機能のメカニズムをも把握することが可能となる。
【0012】
また、本発明は、上記植物の二酸化炭素吸収または排出機能の評価装置であって、前記第2の光量は、前記チャンバ二酸化炭素濃度測定部の測定値が変動を生じない条件以上の光量で調整することを特徴とする。「前記チャンバ二酸化炭素濃度測定部の測定値が変動を生じない条件以上の光量」とは、例えば光飽和点(光合成速度が最大になる光強度)以上の光量をいう。
【0013】
本発明は、上記植物の二酸化炭素の吸収または排出機能の評価方法であって、前記チャンバ二酸化炭素濃度測定部における測定値を表示する表示部を備え、
該表示部は、前記バックグランド二酸化炭素濃度測定部の測定値または前記チャンバ二酸化炭素濃度測定部の測定値に基づいて、表示可能な二酸化炭素濃度範囲を変更することを特徴とする。
【0014】
本発明は、上記植物の二酸化炭素の吸収または排出機能の評価方法であって、設置された条件下における大気を導入するとともに、前記チャンバに接続され、前記植物によって二酸化炭素が吸収または排出されたガスを導出する第1流路と、設置された条件下における大気を導入する第2流路と、それら第1および第2流路に接続される流路切換部と、その切換部に接続され、バックグランド二酸化炭素濃度測定部とチャンバ二酸化炭素濃度測定部とを一体化した1つの二酸化炭素濃度測定部を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
以上のように、本発明に係る二酸化炭素吸収または排出機能の評価装置によれば、自然環境下において、簡易かつコンパクトで、精度の高い植物の光合成による二酸化炭素の吸収または排出機能の評価を行うことができる。また、学校教育などにおいて要請される、視覚的に変化を容易に把握する表示機能を確保した装置を提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
【0017】
<本発明に係る植物の二酸化炭素吸収または排出機能の評価装置の全体構成>
本発明に係る植物の二酸化炭素吸収または排出機能の評価装置(以下「本装置」という)の構成例を図1に示す。本装置は、大気を給送する手段1と、光合成を行う植物Tを内部に密閉可能な試験用チャンバ2と、植物Tに光を照射する光源部3と、光源部3の光量を調整する光量調整部4と、大気の一部を試験用チャンバ2に導入する流路L2と、大気中の二酸化炭素濃度Daおよび試験用チャンバ出口ガス中の二酸化炭素濃度Dsを測定するCO分析計(二酸化炭素濃度測定部に相当)5と、これらを制御し、CO分析計5の出力の演算等の処理を行う制御演算処理部6と、二酸化炭素濃度等を表示する表示部7を有する。
【0018】
大気は、1次フィルタF1を介してポンプP1,P2(大気を給送する手段1を構成)によって採取される。ポンプP2で吸引された大気は、流路L2において、試験用チャンバ2に導入され、その流量を、その下流に配設された調節弁NV2によって調整され、流量計M2によって検知されるとともに、切換弁SV2を介してCO分析計5に導入される。試験用チャンバ2の内部には、植物Tが密封状に充填され、その周囲に配設された光源部3から照射される光によって、光合成を行い、二酸化炭素を吸収する。一方、ポンプP1で吸引された大気は、流路L1において、調節弁NV1、流量計M1および切換弁SV1を介してCO分析計5に導入される。CO分析計5の上流には、気液分離用のタンク8および除塵用の2次フィルタF2が配設されている。
【0019】
ここで、植物Tは、試験用チャンバ2内に配置できる樹木や草花あるいは広くコケ等の地衣類など種々の植物を対象とすることができる。後述する実施例においては、サマードレスやペンタスなどの草花を対象とした。
【0020】
試験用チャンバ2は、光合成を行う植物Tを設置するとともに大気を通気させるとともに、試験期間中の外部の影響を排除するために密閉することが好ましい。試験用チャンバ2は、植物Tの種類や形状などによって、大きさや形状や風速、あるいは植物Tの設置条件などを任意に設定することができる。また、自然環境と同じ温度とすることが好ましいが、外部の温度変化の影響を排除するために、例えば4〜50℃の範囲において温度制御された試験用恒温槽内に配設することが好ましい。さらに、自然光と近似する条件とするため、光源部3からの光を特定方向から均一に植物に照射するように試験用チャンバ2の一面を光源部3でカバーする構成が好ましい。
【0021】
光源部3は、日光のうち光合成および葉緑素活性化に必要な波長を持つ光量子を可変的に照射させることができる素子で構成される。具体的には、400〜700nmの波長域の光を含む白色蛍光ランプや発光ダイオード(LED)を用いることが好ましく、試験用チャンバ2の一面全体に複数個配置して、自然環境に近い条件を作り出すことが好ましい。光源部3の波長域の選択性は、白色蛍光ランプやLEDの特性によって選定可能な場合には、例えば赤色LEDや青色LEDまたは白色LEDなどの素子を利用することによって確保することができる。従って、評価試験においては複数の波長域の素子を準備し、適宜交換することによって波長を変更する方法を採ることができる。こうした素子での選択性の確保ができない場合には、光源部3に所望の波長域を透過する光学フィルタを用いることによって選択性を確保することができる。従って、評価試験においては、複数の波長域の光学フィルタを準備し、適宜交換することによって波長を変更する方法を採ることができる。
【0022】
また、光量は、400〜700nmの波長域において、光合成有効光量子束密度(PPFD)が0〜500[μmol/m・sec]であることが好ましく、評価試験においては、印加電圧を制御することによって、光量を変化する方法を採ることができる。光量調整部4は、例えば印加電圧を制御するCPUであっても、光量増減指示するダイヤル式つまみなどからの信号を電圧制御信号に変える変換器であってもよい。さらに、光源の照射時間は、自然環境に近い条件としては、プログラムによるON−OFF制御による方法、あるいは加速試験や自然環境と異なる条件での試験では、パルス点灯式の白色蛍光ランプやLEDなどの場合にはそのパルス幅(デューティ)を変更する方法などを採ることが可能である。本装置においては、制御演算処理部6からの指令により、ステップ状に光量(シフト光量)を変化させる機能および大気中の二酸化炭素濃度に対応してシフト光量を増減させる機能を有することが好ましい。また、このとき試験用チャンバ2の内部に光センサ(図示せず)を設け、光源部3からの光量をモニタすることが可能である。こうした光センサの出力に基づき調整することによって、実際に植物Tに照射される光量の調整を行うことができる。
【0023】
CO分析計5は、上記のように二酸化炭素の吸収または排出機能を高い測定精度により把握することを目的とすることから、高精度の測定部として、非分散式赤外線分析計(NDIR)を用いることが好ましい。また、分解能が高く、応答が速い連続測定が可能な分析計として本発明には最適である。なお、NDIR式のCO分析計5にあっては、分析計自体が雰囲気影響(雰囲気中の二酸化炭素の光学系への混入による影響)を受ける可能性があるため、不活性ガス(例えば窒素ガス)によるパージを行うことが好ましい。具体的には、図1において、窒素ガス供給部9から流量計M3を介して少量(例えば数mL〜数100mL/min程度)の窒素ガスをCO分析計5に導入することによってパージすることができる。
【0024】
制御演算処理部6は、光量調整部4からの情報出力やCO分析計5からの濃度出力あるいは温度や流量等の情報を受け、光源部3の光量や切換弁SV1,SV2等の制御を担うとともに、以下の機能を有する。
(i)CO分析計5によって測定された大気中の二酸化炭素濃度Daと試験用チャンバ2の出口ガス中の二酸化炭素濃度Dsを比較し、
(ii)二酸化炭素濃度DaとDsが一致するように光源部3の光量を調整するとともに、
(iii)光量が調整された状態から光源部3の光量を上昇させ、
(iv)光量変化によって生じた試験用チャンバ2の出口ガス中の二酸化炭素濃度の変化量ΔDsから、植物Tによって吸収された二酸化炭素の量を算出する。
【0025】
制御要素は、大気の流量、温度、湿度および二酸化炭素濃度、光源部の波長、光量および照射時間、試験用チャンバ内の温度、湿度および風速などを対象とすることが好ましい。各制御要素は、それぞれを指標として植物の光合成による二酸化炭素の吸収または排出機能の評価に利用することができる。また、制御方法は、本発明においては、植物Tに近接した位置の温度など正確な制御を必要とすることから、各制御要素の測定値に基づいてフィードバック制御を行うことが好ましい。
【0026】
以上の構成からなる本装置を用いることによって、大気中の二酸化炭素濃度、光源部3の光量および照射時間、試験用チャンバ2内の温度および風量、を指標として、精度の高い植物Tの光合成による二酸化炭素の吸収または排出機能を評価することが可能となる。なお本装置における表示部7については、後述する。
【0027】
<植物の光合成による二酸化炭素の吸収または排出機能の評価方法>
次に、具体的な植物の光合成による二酸化炭素の吸収または排出機能の評価方法について述べる。本発明においては、図2に示すように、以下の各工程を有する方法を構成する。また、このときの大気中の二酸化炭素濃度Daおよび試験用チャンバ2の出口ガス中の二酸化炭素濃度Dsの時間変化を、図3に例示する。
【0028】
(1)大気中の二酸化炭素濃度Daを測定
はじめに、自然環境下における大気を採取し、その中の二酸化炭素濃度Daを測定する。図3(1)に相当する。具体的には、本装置において、ポンプP1および切換弁SV1を起動し、1次フィルタF1から吸引された大気が、その流量を調節弁NV1によって調整され(通常1〜5L/min程度)、流量計M1によって検知されるとともに、切換弁SV1を介してタンク8および2次フィルタF2でさらに清浄化されてCO分析計5に導入され、二酸化炭素濃度Daが測定される。測定された二酸化炭素濃度Daはメモリされ、後述する試験用チャンバ2の出口ガス中の二酸化炭素濃度Dsと比較することによって、植物での二酸化炭素の吸収または排出機能を測定することができる。
【0029】
(2)大気を試験用チャンバへ導入
次に、上記大気を試験用チャンバ2に導入する。具体的には、本装置において、ポンプP2を起動することによって、1次フィルタF1から吸引された大気が試験用チャンバ2に導入され、調節弁NV2によって流量が調整され、流量計M2によって検知されるとともに、切換弁SV2を介して放出される。その流量は、予め植物Tに対応した風量から設定され、通常1〜5L/min程度に調整される。このとき、試験条件としては、大気を連続的に供給しながら行う場合と供給を停止し完全密閉状態で行う場合のいずれか、あるいはその切換を選択することも可能であるが、本装置では、自然環境を考慮し、前者を選択している。このとき、試験用チャンバ2内部の残留成分を除去するために所定の時間パージを行うことが好ましい。また、試験用チャンバの内部温度は、予め自然環境下の植物Tに対応した試験温度例えば10〜30℃の範囲内において設定し、試験用チャンバ2の内部温度をその設定温度になるように制御する。
【0030】
(3)試験用チャンバ内部に植物の設置
植物Tを試験用チャンバ2内の所定位置に配置する。このとき、例えば光源部からの光に対する葉の向きなど自然環境化における生育条件に近い状態に配置する。また、複数の草花を配置する場合であれば、草花間の距離などについても同様とする。こうした設置をすることによって、正しい評価を得ることができる。
【0031】
(4)植物へ光を照射
予め植物Tに対応した波長域の光源部3を選定し、光量および照射時間を予め設定した条件で制御し、光源部3を作動させて植物Tに光を照射する。このとき、自然環境同様、植物Tの略全面を照射するように複数の光源部3を用いることが好ましい。また、このとき試験用チャンバ2の内部に光センサが配設されていれば、光源部3からの光量をモニタし、こうした光センサの出力に基づき調整することができるとともに、光センサの出力をメモリすることによって、長時間に渡る試験の場合には、光源部3自体の変化などを確認することができる。
【0032】
(5)試験用チャンバ出口ガス中の二酸化炭素濃度Dsの測定
試験用チャンバ2から供出される出口ガス中の二酸化炭素濃度Dsを測定する。図3(5)に相当する。試験条件として大気を連続的に供給しながら行う場合には、連続的に測定し、供給を停止し完全密閉状態で行う場合には、バッチ的に測定し、その測定値は光合成による二酸化炭素の吸収または排出機能を評価するデータとして利用される。図3(3)は光源部3を稼動しない状態、つまり植物Tへの照射光がなく光合成が行われない場合を表し、植物Tの代謝による二酸化炭素の発生に伴う二酸化炭素の増加状態に相当する。
【0033】
(6)二酸化炭素濃度DaとDsを比較
上記(1)において測定した大気中の二酸化炭素濃度Daと上記(5)において測定した試験用チャンバ出口ガス中の二酸化炭素濃度Dsを比較する。つまり、上記(4)において設定した光量における植物Tの光合成に伴う二酸化炭素の吸収または排出機能と代謝に伴う二酸化炭素の発生機能のバランスの結果であり、この本装置が目的とする植物Tによる二酸化炭素の吸収または排出機能の評価においては、両者の一致点を始点とする。
【0034】
(7)二酸化炭素濃度DaとDsが一致するように光量を調整
上記(6)の比較に基づき、二酸化炭素濃度DaとDsが一致するように光量を調整する。二酸化炭素濃度DaとDsが一致するような光量とは、例えば光補償点付近の光強度の光量であるが、大気によるパージを行っている場合には、その効果により厳密な調整を必要としない光量とすることができる。図3(7)に相当する。植物Tによる二酸化炭素の吸収または排出機能の評価の始点となることから、このときの光量および二酸化炭素濃度Ds(=Da)はメモリされる。また、光量の調整に伴う二酸化炭素濃度Dsの変動が安定した時点において調整は完了する。
【0035】
(8)光量を上昇
上記(6)の調整に伴う二酸化炭素濃度Dsが安定し、二酸化炭素濃度Daと一致した時点で、光量を上昇させる。図3(8)に相当する。このときの光量は、評価対象の変更あるいは評価条件の変更等があっても、評価基準となることからメモリされる。また変化させる光量については、以下のような基準に基づき設定することができる。
(8−1)予め特定の植物Tにおけるシフト光量に対する変化量ΔDs(後述)との関連を求め、変化量ΔDsの変動が生じない条件(最大変化量ΔDs(max)という)以上の光量に設定する。最大変化量ΔDs(max)を指標として、各植物が有する最大の吸収または排出機能を基準に評価することができる。
(8−2)自然環境下における外光の光量を基準にシフト光量を設定する。地理的条件や周辺の森林・道路等地域の状況あるいは季節などに応じた基準を設けることによって、個別の自然環境に応じた評価をすることが可能となる。
(8−3)基準となる植物Toを設定し、その植物における上記(8−1)または(8−2)あるいは任意のシフト光量を設定する。シフト光量を一定値に設定することによって植物Tの種類や生育状況に応じた評価をすることが可能となる。
(8−4)なお、上記いずれにおいても、大気中の二酸化炭素濃度に対応して設定するシフト光量を増減させることが好ましい。大気中の二酸化炭素濃度の変化(上昇)は上記(7)における評価の始点における植物Tの吸収または排出機能の負荷を変化(増大)させることとなり、その変化(上昇)する量が大きくなれば、シフト量を一定にしても評価基準の標準化が難しい。従って、予め大気中の二酸化炭素濃度に対応した最適なシフト光量を求めておくことによって、等価な評価をすることが可能となる。
【0036】
(9)試験用チャンバ出口ガス中の二酸化炭素濃度の変化量ΔDsを検出
シフト光量を上昇させた後、試験用チャンバ2から供出される出口ガス中の二酸化炭素濃度Dsを測定するとともに、シフト前の二酸化炭素濃度Daとの差、つまり変化量ΔDsを検出する。図3(9)に相当する。
【0037】
(10)変化量ΔDsから植物によって吸収された二酸化炭素の量を演算
上記(9)によって得られた変化量ΔDsから、植物Tによって吸収された二酸化炭素の量を演算する。試験条件として(a)大気を連続的に供給しながら行う場合には、上記(1)あるいは(7)においてメモリした二酸化炭素濃度DaあるいはDs(=Da)を基準に演算する。演算は、試験時間における両者の積分値同士の差分を求める方法や両者の差分の積分値を求める方法などがあるが、二酸化炭素量の微量な変化を求めることから前者の方法が好ましい。また、(b)大気を連続的に供給しながら定期的に図1の切換弁SV1およびSV2を作動させて試験を行う場合には、(b−1)その作動の度にその基準値を変更する方法、(b−2)測定値に変化があれば作動間隔の変化を直線近似する方法、(b−3)作動の度の二酸化炭素濃度から近似曲線を求める方法、があり、それらを基準として、両者の積分値同士の差分を求めることによって、二酸化炭素の吸収または排出機能を演算することが可能となる。さらに、(c)大気の供給を停止し完全密閉状態で行う場合には、上記(1)あるいは(7)においてメモリした二酸化炭素濃度DaあるいはDsを基準に上記(a)と同様の演算を行うことによって、二酸化炭素の吸収または排出機能を演算することが可能となる。
【0038】
以上の光合成による二酸化炭素の吸収または排出機能評価方法によって、大気の温度および二酸化炭素濃度、光源部3の波長、光量および照射時間、試験用チャンバ2内の温度および風速、を指標として、精度の高い植物Tの光合成による二酸化炭素の吸収または排出機能を評価することが可能となる。
【0039】
<表示部について>
表示部7は、制御演算処理部6からの二酸化炭素濃度DaとDsおよびその変化量ΔDsの信号を受信する受信部(受信手段に相当)を有し、図4(A)あるいは図4(B)に例示するように、これらの信号に対応させて表示される。具体的には、図4(A)に例示する出力に相当する複数段に区分されたスイッチ7aおよび図4(B)に例示する濃度表示7bが配列され、スイッチ7aによって設定された二酸化炭素濃度Daに対応する濃度範囲の濃度表示7b、および光量のシフトに伴う変化量ΔDsに対応して変化する濃度範囲の濃度表示7bあるいはそれ以下の濃度範囲の濃度表示7b全てを点燈させることによって、即座にかつ可視的にその絶対値および変化を把握することができる。あるいは図4(B)に例示するように、濃度表示7bをコードバー状に配列することによって、さらに視覚的に把握し易く学校教育用等の装置として適切である。
【0040】
このとき、区分された濃度範囲の上限値あるいは下限値は自由に設定することができる構成とすることが好ましい。また、バックグランド二酸化炭素濃度測定部の測定値によって上限を設定することができる構成とすることが好ましい。さらに、チャンバ内の二酸化炭素濃度の変化量によって、濃度範囲を変更することができる構成が好ましく、表示される濃度目盛を1ppm、2ppm、3ppm等任意に設定することができる構成が好ましい。
【0041】
より具体的な操作は、以下の手順によって行うことができる。
(i)大気中の二酸化炭素濃度Daを測定するとき、指示値が安定していることを確認し、その値により、表示部7の濃度範囲を設定する。
(ii)各濃度範囲に相当するスイッチが下表1のように二酸化炭素濃度Daと各スイッチの上限値を比較し、安定値>上限値のスイッチを選択する。例えば、二酸化炭素濃度Daが408ppmならばスイッチNo3を選択する。
【表1】

(iii)次に、光量をシフトさせる(例えばパネルの操作スイッチを押す)。試験用チャンバ出口ガス中の二酸化炭素濃度Dsが測定され、その値により、表示部7の濃度範囲の濃度表示7bが順次点燈する。
【0042】
ここで、上記濃度範囲を光量切換え直後から順次縮小するように設定することが可能である。植物の二酸化炭素の吸収または排出機能は、光量のステップ状の変化に対応して初期的に大きな変化量となり、徐々に変化量が小さくなる傾向がある。一方表示機能においては、測定値の変化の状態を継続的に確認できることが好ましい。本装置は、光量の切換え直後からの変化量に対応して均等に表示の切換えを行うのではなく、光量切換え直後は大きな変化量のときに表示を切換え、光量切換え後所定時間経過後の変化量が少ない場合には、小さな変化量であっても表示を切換えることによって、変化の状態を正確に把握することができる。
【0043】
<実施例>
以上の植物の光合成による二酸化炭素の吸収または排出機能評価方法に基づき、実際に行った試験結果の一部について述べる。
【0044】
(1)試験条件
(1−1)大気の条件:流量1.5L/min、温度20℃、二酸化炭素濃度約400ppm
(1−2)光源部の条件:赤色LED(中心波長660nm)、PPFD102〜178[μmol/cm・sec]、連続照射
(1−3)試験用チャンバ内の条件:流量1.5L/min、温度20℃、二酸化炭素濃度約400ppm
(1−4)植物:サマードレスとペンタスを混ぜた草花(約125mm×125mm)
(1−5)二酸化炭素濃度の測定:上記プロセス(1)〜(10)を行い、流路や光量の切換えに伴う指示の安定を確認のため、各々約5分間測定を行い、5分後のデータを採用した。
【0045】
(2)試験結果
試験用チャンバ出口の二酸化炭素の濃度変化
下表2に示すように、各流路において安定した二酸化炭素濃度を示した。約30分の試験時間において、二酸化炭素濃度に関して、初期の光合成により約34〜40ppmの変化が見られた。各数値はCO濃度であり、単位はppmである。各々安定時間約5分後の測定結果である。再現性のよい実測データが得られている。なお、大気中の二酸化炭素濃度と、光量シフト前のチャンバ出口ガス中の二酸化炭素濃度が一致しているは確認している。
【0046】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0047】
以上のように、この発明は、植物の光合成による二酸化炭素の吸収または排出機能評価だけではなく、植物の生育状態の評価を行うことも可能であり、植物に限らず、光合成を行うあらゆる生体をも対象とすることができる。さらに、植物の生育状態の評価を進めることによって、植物など植物の最適な生産条件を求めることが可能となり、評価結果を人工栽培あるいは製品改良や量産化に利用することも可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明に係る植物の二酸化炭素の吸収または排出機能の評価装置の構成例を示す説明図
【図2】本発明に係る植物の二酸化炭素の吸収または排出機能の評価方法の工程を例示する説明図
【図3】本発明に係る評価方法における二酸化炭素濃度の時間的変化を例示する説明図
【図4】本発明に係る評価装置の表示部を例示する説明図
【図5】従来技術に係る光合成測定方法の実施態様を示す説明図
【符号の説明】
【0049】
1 大気を給送する手段
2 試験用チャンバ
3 光源部
4 光量調整部
5 CO分析計(二酸化炭素濃度測定部)
6 制御演算処理部
7 表示部
8 タンク
9 パージガス
F1 1次フィルタ
F2 2次フィルタ
L1,L2 流路
M1〜M3 流量計
NV1,NV2 調節弁
P1,P2 ポンプ
SV1,SV2 切換弁
T 植物


【特許請求の範囲】
【請求項1】
大気が導入され、植物を内部に収容するチャンバと、該植物に光を照射する光源部と、該光源部の光量を調整する光量調整部と、設置された条件下における大気中の二酸化炭素濃度を測定するバックグランド二酸化炭素濃度測定部と、前記チャンバから導出されたガス中の二酸化炭素濃度を測定するチャンバ二酸化炭素濃度測定部と、を備え、
前記光量調整部は、前記バックグランド二酸化炭素濃度測定部の測定値に基づいて、その測定値から前記チャンバ二酸化炭素濃度測定部の測定値を変化させるよう前記光源部の光量を調整することを特徴とする植物の二酸化炭素吸収または排出機能の評価装置。
【請求項2】
前記光量調整部は、前記バックグランド二酸化炭素濃度測定部の測定値と前記チャンバ二酸化炭素濃度測定部の測定値がほぼ一致するように前記光源部を第1の光量に調整し、その後、前記チャンバ二酸化炭素濃度測定部の測定値を変化させるよう前記光源部を第2の光量に調整することを特徴とする請求項1記載の植物の二酸化炭素吸収または排出機能の評価装置。
【請求項3】
前記第2の光量は、前記チャンバ二酸化炭素濃度測定部の測定値が変動を生じない条件以上の光量で調整することを特徴とする請求項1または2記載の二酸化炭素吸収または排出機能の評価装置。
【請求項4】
前記チャンバ二酸化炭素濃度測定部における測定値を表示する表示部を備え、
該表示部は、前記バックグランド二酸化炭素濃度測定部の測定値または前記チャンバ二酸化炭素濃度測定部の測定値に基づいて、表示可能な二酸化炭素濃度範囲を変更することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の植物の二酸化炭素吸収または排出機能の評価装置。
【請求項5】
設置された条件下における大気を導入するとともに、前記チャンバに接続され、前記植物によって二酸化炭素が吸収または排出されたガスを導出する第1流路と、設置された条件下における大気を導入する第2流路と、それら第1および第2流路に接続される流路切換部と、その切換部に接続され、バックグランド二酸化炭素濃度測定部とチャンバ二酸化炭素濃度測定部とを一体化した1つの二酸化炭素濃度測定部を備えたことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の植物の二酸化炭素吸収または排出機能の評価装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−10(P2010−10A)
【公開日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−159783(P2008−159783)
【出願日】平成20年6月18日(2008.6.18)
【出願人】(000155023)株式会社堀場製作所 (638)
【Fターム(参考)】