説明

植物を主成分とする不燃材の製造方法

【課題】 燃焼時に有毒ガス等の発生するおそれのない、環境保護に配慮した不燃材の製造方法を提供することである。
【解決手段】 植物を主成分とする原材料を、硫酸アンモニウム(NH42 SO4、リン酸アンモニウム(NH43 PO4 および水H2 Oを成分とする不燃液剤に含浸させ、又は原材料に不燃液剤を噴霧する工程を含むことを特徴とする不燃材の製造方法が提供される。好ましくは、不燃液剤の濃度は、3容量%〜60容量%である。不燃液剤を含浸・噴霧する前に、原材料を100°C〜600°Cで焼成する工程を含んでもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物を主成分とする不燃材の製造方法に関する。本発明の方法によって製造される不燃材には、不燃断熱材も含まれる。本発明の方法によって製造される不燃材は、建築資材の他、船舶、鉄道車両、航空機、食品等移送用コンテナに用いられる断熱材、車両の内装用断熱材、自動販売機用の断熱材、非難用防炎具、耐火被覆材、電気器具のシールド材や吸音材として利用することができる。
【背景技術】
【0002】
従来、不燃材としては、ロックウール、グラスウール、ウレタン、発泡ウレタン等が用いられている。また、炭化した籾殻を建物に吹き付けて、不燃材として用いている例もある。さらに、防炎被覆材として、アスベストが使用されている場合もある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、従来の不燃材のうち樹脂系接着剤を使用しているものは、火災燃焼時に有毒ガスや悪臭等が発生するという課題がある。また、解体時に廃棄処理する場合に、手間がかかるという弊害がある。また、樹脂系接着剤を使用している不燃材は、自然循環型再利用ができないという課題がある。また、炭化した籾殻を用いている場合には、建築物内で生ずるすきま風等の対流により、防ぎようのない汚れが発生するという課題がある。さらに、アスベストについては、有害物質として問題視されているにもかかわらず、未だ有効な対処法が見い出されていないのが現状である。
【0004】
本発明は、このような状況に鑑みて開発されたものであって、燃焼時に有毒ガス等の発生するおそれのない、環境保護に配慮した不燃材の製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の請求項1に記載された不燃材の製造方法は、植物を主成分とする原材料を、硫酸アンモニウム(NH42 SO4 、リン酸アンモニウム(NH43 PO4 および水H2 Oを成分とする不燃液剤に含浸させ、又は前記原材料に前記不燃液剤を噴霧する工程を含むことを特徴とするものである。
【0006】
本発明の請求項2に記載された不燃材の製造方法は、前記請求項1の方法において、前記不燃液剤の濃度が、3容量%〜60容量%であることを特徴とするものである。
【0007】
本発明の請求項3に記載された不燃材の製造方法は、前記請求項1又は2の方法において、前記含浸・噴霧工程の前に、前記原材料を100°C〜600°Cで焼成する工程を更に含むことを特徴とするものである。
【0008】
本発明の請求項4に記載された不燃材の製造方法は、前記請求項1から請求項3までのいずれか1項の方法において、前記原材料が、木材、木質ファイバー、籾殻又は紙スラッジであることを特徴とするものである。
【0009】
本発明の請求項5に記載された不燃材の製造方法は、前記請求項1から請求項4までのいずれか1項の方法において、前記含浸・噴霧工程の後に、前記原材料を圧縮成型する工程を更に含むことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、原材料として植物性材料(籾殻、紙スラッジ等)を使用しているため、最終的に廃棄処理をする際に土に戻すことが容易であり、環境保護の観点から望ましい効果が得られるとともに、火災発生時に有毒ガス等の発生するおそれがない。また、本発明の方法によって製造される不燃材は、植物性材料を原材料としているため、基本的に人体に無害である。さらに、本発明の方法によって製造される不燃材は、結露対策にも有効である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
次に、本発明の好ましい実施の形態に係る、植物を主成分とする不燃材の製造方法について説明する。本発明の製造方法に使用する原材料としては、木材、木質ファイバー、籾殻、紙スラッジ等の植物を主成分とする廃棄物が用いられる。
【0012】
本発明の製造方法は、植物を主成分とする廃棄物を100°C〜600°Cの温度で焼成する工程を含む。
【0013】
次いで、焼成した原材料に所定の不燃液剤を噴霧する工程を含む。ここで、「所定の不燃液剤」とは、硫酸アンモニウム(NH42 SO4 およびリン酸アンモニウム(NH43 PO4 に所定量の水H2 Oを加えたものである。不燃液剤における硫酸アンモニウムとリン酸アンモニウムの容積比率は、2対1程度であるのが好ましい。不燃液剤の濃度は、3容量%〜60容量%であるのが好ましい。
【0014】
なお、上述の工程において、不燃液剤を噴霧する代わりに、原材料を不燃液剤に含浸させてもよい。
【0015】
不燃液剤を噴霧・含浸させた原材料を、所定の型に入れて圧縮成型することによって、建材に加工してもよい。
【0016】
本発明の製造方法に使用する原材料は、籾殻焼成体100容量%のものが好ましく、また、紙スラッジを混入する場合には、籾殻焼成体50容量%、紙スラッジ50容量%のものが好ましいが、これらの比率に限定されるものではない。
【0017】
次に、本発明の好ましい実施の形態に係る方法によって製造された不燃材の効果を検証するために実施した試験の結果について説明する。図1は、本発明の方法によって製造された不燃材の防炎性能を確認するための試験の結果である。この試験においては、原材料としてパルプ70容量%を含んだ試験片を用いた。試験の結果、試験片を1分間加熱した場合、着炎後3秒加熱した場合のいずれにおいても、残炎時間、残じん時間の両方とも「0」であり、消防法施行規則第4条の3の合格基準に適合し、良好な防炎性能を有することが確認された。
【0018】
図2は、上述の試験片を、総務省令防炎性試験方法に従って試験した場合の結果を示した表である。この試験の場合においても、残炎時間、残じん時間のいずれも「0」であり、良好な防炎性能を有することが確認された。
【0019】
原材料として木質ファイバーを用いた場合の不燃材の効果についても検証した。図3は、この試験で準備した粒度の異なる3種類の木質ファイバー(ファイバーA、ファイバーB、ファイバーC)の粒度分布を示したグラフである。このうち繊維長が比較的短いファイバーCに関して所定の難燃処理を施したものについて燃焼試験を行った。燃焼試験は、JIS A9523(吹込み用繊維質断熱材)の附属書2およびJIS A1321(建築物の内装材料及び工法の難燃性試験方法)の表面試験に従って行われた。この表面試験における評価基準は、図4に示すとおりである。図4において、TC は排気温度曲線が標準温度曲線を超える時間、tdθは排気温度曲線が標準温度曲線を超えている部分の、排
気温度曲線と標準温度曲線によって囲まれた部分の面積(°C・min)を示している。
【0020】
図5は、無処理木質ファイバーの燃焼試験結果を示したグラフである。試験箱へのファイバー充填量を多くし、比重を大きくする程、発熱性の指標であるtdθが大きくなり、残炎時間が長くなった。また、TC が早くなるのは、初期発熱が大きくなることを意味する。これに対し、発煙性の指標であるCA は全て難燃2級の規格値内であった。
【0021】
図6は、リン酸アンモニウム処理した木質ファイバーの燃焼試験結果を示したグラフである。リン酸アンモニウム処理した木質ファイバーは、ファイバーへの不燃液剤添加量20%程度で、いずれの比重においても難燃2級の規格値を満足し、不燃液剤添加量30%でtdθがほぼ0となったが、不燃液剤添加量が多くなるほどCA が大きくなる傾向にあった。一方、硫酸アンモニウム処理した木質ファイバーは、ファイバーへの不燃液剤添加量20%程度では、tdθおよび残炎時間が難燃2級の規格値を超えたが、リン酸アンモニウムほどCA を増加させなかった(図示せず)。これらの結果から、木質ファイバーの不燃処理には、発熱抑制効果に優れるリン酸アンモニウム並びに発煙抑制効果を示す硫酸アンモニウムを配合した不燃剤を用いるのが適当であることが検証された。
【0022】
本発明は、以上の発明の実施の形態に限定されることなく、特許請求の範囲に記載された発明の範囲内で、種々の変更が可能であり、それらも本発明の範囲内に包含されるものであることはいうまでもない。
【0023】
例えば、前記実施の形態において、原材料を焼成する工程が含まれているが、この焼成工程を省略してもよい。また、木質ファイバーについては、厚みに関係なく、成型板にプレス加工したものも含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の好ましい実施の形態に係る製造方法によって製造された不燃材の効果を検証するために行われた試験の結果を示した表である。
【図2】本発明の好ましい実施の形態に係る製造方法によって製造された不燃材の効果を検証するために行われた別の試験の結果を示した表である。
【図3】原材料として木質ファイバーを用いた場合における不燃材の効果についての検証試験に使用した原材料の粒度分布を示したグラフである。
【図4】表面試験における評価基準を示したグラフである。
【図5】無処理木質ファイバーの燃焼試験結果を示したグラフである。
【図6】リン酸アンモニウム処理した木質ファイバーの燃焼試験結果を示したグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
不燃材の製造方法であって、
植物を主成分とする原材料を、硫酸アンモニウム(NH42 SO4 、リン酸アンモニウム(NH43 PO4 および水H2 Oを成分とする不燃液剤に含浸させ、又は前記原材料に前記不燃液剤を噴霧する工程を含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記不燃液剤の濃度が、3容量%〜60容量%であることを特徴とする請求項1に記載された方法。
【請求項3】
前記含浸・噴霧工程の前に、前記原材料を100°C〜600°Cで焼成する工程を更に含むことを特徴とする請求項1又は2に記載された方法。
【請求項4】
前記原材料が、木材、木質ファイバー、籾殻又は紙スラッジであることを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載された方法。
【請求項5】
前記含浸・噴霧工程の後に、前記原材料を圧縮成型する工程を更に含むことを特徴とする請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載された方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−32810(P2011−32810A)
【公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−182277(P2009−182277)
【出願日】平成21年8月5日(2009.8.5)
【出願人】(597133293)
【出願人】(599025031)
【Fターム(参考)】