説明

極微小水滴を含有する油剤を用いた切削・研削加工方法

【課題】加工効率面からは潤滑性と冷却性の両方をバランスよく満たし、しかも腐敗しにくく、また環境面からは廃液処理性に優れた切削・研削加工用油剤を用いて、切削・研削加工する方法を提供すること。
【解決手段】被加工部材を切削・研削加工する方法において、極微小水滴からなる水分を組成物全量に対し0.01〜20質量%含有する切削・研削加工用油剤を加工部位に供給することを特徴とする、潤滑性、冷却性ともに優れ、しかも廃液処理が容易な切削・研削加工方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被加工部材を切削・研削加工する方法に関する。詳しくは、特定の切削・研削加工用油剤を用いる切削・研削加工方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
切削・研削加工においては、加工に用いられるドリル、エンドミル、バイト、砥石等の工具の寿命延長や被加工物の表面粗さの向上、並びにそれによる加工能率の向上といった機械加工における生産性の向上を目的として、通常切削・研削加工用油剤が使用されている。
切削・研削加工用油剤は、界面活性剤および潤滑油成分を水に希釈して使用する水溶性切削・研削加工用油剤と、鉱物油を主成分として原液のままで使用する不水溶性切削・研削加工用油剤との2種類に大別される。
水溶性切削・研削加工用油剤は冷却性能に優れているが、潤滑性能が劣り、また過冷却による切削性能の低下という問題もある。また使用に伴い、微生物の発生によって液の安定性が低下して成分の分離が生じたり、衛生環境を著しく低下させる場合がある。不水溶性切削・研削加工用油剤は潤滑性能に優れているが、冷却性が不十分であって、通常の切削・研削加工においては、1分間に数リットルから場合によっては数10リットルもの大量の不水溶性切削・研削油剤を循環させる必要があり、また火災発生の危険をはらんでいる。
一方、環境に対する負荷の観点から見ると、水溶性切削・研削加工用油剤は界面活性剤を多量に使用しているため、廃棄するに際して油剤の油水分離に多くの手間と時間がかかり、処理費用も高い。不水溶性切削・研削加工用油剤であっても、酸化の進行によって生じる酸性成分が金属材料を腐食させたり、粘度の著しい変化を生じてその使用が不可能となる場合があり、また難削材加工、難加工では多量の極圧剤を含むため廃油処理性を損なう場合もある。
【0003】
このような場合には劣化した油剤を廃棄して新しい油剤が使用される。このときに廃棄物として排出される油剤は環境に影響を及ぼさないように様々な処理が必要になる。例えば、作業能率の向上を優先させて開発されてきた切削・研削加工用油剤には、焼却処理時に有毒なダイオキシンを発生させる可能性のある塩素系化合物が多く用いられているが、これらの化合物の除去処理などが必要になる。このため、塩素系化合物を含まない切削・研削加工用油剤も開発されているが、例えかかる有害な成分を含まない切削・研削加工用油剤であっても廃棄物の大量排出に伴う環境への影響という問題がある。また、水溶性油剤の場合には環境水域を汚染する可能性があるため、高いコストをかけて高度な処理を施す必要がある。
【0004】
また、その一方で、新規な加工方法として、極微量油剤供給方式切削・研削加工方法の開発が進められている。この方法は、通常の切削・研削加工における油剤の使用量に比べて1/100000〜1/1000000程度の極微量の油剤を圧縮流体(例えば圧縮空気)と共に被加工部材に供給しながら切削・研削を行うものである。このシステムでは、圧縮空気による冷却効果が得られ、また極微量の油剤を用いるために廃棄物量を低減することができ、従って廃棄物の大量排出に伴う環境への影響も改善することができる。したがってこの方法は、非鉄金属のみならず、鉄系金属その他あらゆる金属の加工方法として適用されるようになった(特許文献1〜2)。
【0005】
極微量油剤供給方式の場合、油剤の供給量が極微量であっても良好な表面の加工物を得ることができ、また工具等の摩耗も少なく、切削・研削を効率よく行えることが必要であり、従って切削・研削加工用油剤にはより高い性能が要求される。また、廃棄物処理や作業環境の点から、生分解性に優れた油剤であることが望ましい。
また、極微量油剤供給方式の場合、良好なオイルミストを生じさせることが非常に重要である。オイルミストの状態が悪いと、配管詰まりが起こって加工点に到達するオイル量が不十分となり、切削性能の低下や工具寿命の低下が起こりやすくなる。その一方で、オイルが過剰にミスト化された場合には、吐出されたオイルミストが飛散し、作業環境を汚染することになる。また、この場合もオイルミストが飛散することによりオイル量の損失が生じるため、加工点に到達するオイル量が不十分となり、切削性能の低下や工具寿命の低下が起こりやすくなる。
【0006】
更に、極微量油剤供給方式では、油剤はオイルミスト化されて供給されるため、安定性の悪い油剤を使用した場合、工作機械内部、ワーク、工具、ミストコレクター内等に付着してべたつき現象の原因となり、取り扱い性において支障を来し、作業能率が低下する。そのため、極微量油剤供給方式に用いる油剤はべたつきを生じにくいことが望ましい。
また、オイルミストと水ミストの混合物(オイル4〜60cc、水100〜1200cc)を噴霧して加工を行う方法(特許文献3)、水滴の表面に油膜を形成させた油膜付水滴を噴霧して加工を行う方法(一例として油剤10ml/h、水100ml/h)(特許文献4)などの新しい潤滑方式も知られており、これらは加工抵抗を下げる効果はあるが、工作機械の主軸を通じて吐出させた場合、水ミストの粒径が大きいことから、主軸内で閉塞を起こし、加工初期に油剤が供給されない、加工が不安定になるなどの問題点が指摘され、また廃液が一日あたり1〜10L程度出るなどの問題もある。
【特許文献1】特許第3860711号公報
【特許文献2】国際公開第2002/083823号パンフレット
【特許文献3】特開2000−218466号公報
【特許文献4】特開2001−150294号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前記したように、水溶性切削・研削加工用油剤と不水溶性切削・研削加工用油剤はそれぞれに利害得失があるため、優れた加工性能を有し、環境への負荷が小さいという両者を兼ね備えた切削・研削加工用油剤の提供、およびそれらを用いた切削・研削方法の開発が市場から切望されていた。すなわち、加工効率面からは潤滑性と冷却性の両方をバランスよく満たし、また環境面からは廃液処理性に優れた切削・研削加工用油剤を用いた切削・研削加工方法を提供することが現時点の課題である。
【0008】
本発明は、このような実状に鑑みなされたものであり、高い加工性能を維持しつつ環境に対する負荷の小さい切削・研削加工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、被加工部材を切削・研削加工する方法において、極微小水滴からなる水分を組成物全量に対し0.01〜20質量%含有する切削・研削加工用油剤を加工部位に供給することにより、潤滑性、冷却性ともに優れ、しかも廃液処理が容易な切削・研削加工方法を提供することで、上記課題が解決されることを見出し、本発明を完成するに至ったものである。本発明に用いる切削・研削加工用油剤は、油剤中に0.01〜20質量%の水分を含むが、主要部分は油分であるため高い潤滑性能が維持され、しかも含有水分による高い冷却性能を有する。さらに、油剤中に水分が微細に分散されているため、ミスト化させた場合、水ミスト単独と比較してミスト粒径が細かくなり、主軸の閉塞を起こしにくく加工の安定化が図られる。また本発明の方法によれば、界面活性剤をほとんど含有することなく極微小水滴に分散可能のため、廃液の油水分離も非常に簡易に行うことができる。
【0010】
すなわち、本発明は、被加工部材を切削・研削加工する方法において、極微小水滴を0.01〜20質量%含有する切削・研削加工用油剤を加工部位に供給することを特徴とする切削・研削加工方法に関する。
また本発明は、極微量油剤供給方式により被加工部材を切削・研削加工する方法において、極微小水滴を0.01〜20質量%含有する切削・研削加工用油剤を加工部位に供給することを特徴とする極微量油剤供給式切削・研削加工方法に関する。
また本発明は、切削・研削加工用油剤がエステルを含有することを特徴とする前記記載の切削・研削加工方法に関する。
また本発明は、被加工部材が難削材または非鉄金属であることを特徴とする前記記載の切削・研削加工方法に関する。
また本発明は、極微小水滴を含有する切削・研削用油剤を供給して、被加工部材を切削・研削加工する方法において用いることを特徴とする、極微小水滴からなる水分を組成物全量に対して0.01〜20質量%含有する切削・研削加工用油剤組成物に関する。
【発明の効果】
【0011】
被加工部材を切削・研削加工する方法において、極微小水滴からなる水分を組成物全量に対し0.01〜20質量%含有する切削・研削加工用油剤組成物を加工部位に供給する本発明の方法により、潤滑性、冷却性ともに優れ、しかも廃液処理が容易な切削・研削加工方法が提供される。この方法によれば、工具への溶着や加工抵抗の増加の抑制をはじめとした、切削性能の向上および工具の長寿命化を達成できる。また本発明の極微小水滴を含有する切削・研削加工用油剤を、極微量油剤供給方式の切削・研削加工方法と組み合わせた場合には、極微量油剤供給方式の優れた効果と極微小水滴を含有する切削・研削用油剤使用の効果が相乗的に作用して、より高い加工性能およびより低い環境への負荷が達成される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0013】
本発明は、極微小水滴からなる水分を組成物全量に対し0.01〜20質量%含有する切削・研削加工用油剤組成物を加工部位に供給することを特徴とする、被加工部材を切削・研削する方法であって、潤滑性、冷却性ともに優れているほか、廃液処理が容易であるという優れた特長を有する。
本発明の切削・研削加工方法で用いることのできる切削・研削加工用油剤は、潤滑油分と極微小水滴とから構成される。
【0014】
本発明における極微小水滴の直径の上限値は50μm以下であることが好ましく、より好ましくは30μm以下、さらに好ましくは20μm以下である。直径が50μmを超えると水分が凝集分離するおそれがある。極微小水滴の直径の下限値は0.1μm以上であることが好ましく、より好ましくは0.5μm以上、さらに好ましくは1μm以上である。直径が0.1μm未満の水滴とするには製造上の困難が伴う。
また、生成された極微小水滴の粒度分布の幅が小さいほど好ましい。すなわち水滴の径が揃っていると、水滴の安定化が図られるとともに寿命も長くなる傾向にある。
切削・研削加工用油剤中の極微小水滴の水分量の上限は20質量%以下であり、好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下である。水分量が20質量%を超えると水分が凝集分離するおそれがある。また切削・研削加工用油剤中の水分量の下限は0.01質量%以上であり、好ましくは0.3質量%以上、より好ましくは1%以上である。水分量が0.01質量%未満では十分な冷却性能が得られないおそれがある。
【0015】
極微小水滴を含有する油剤を得る方法としては種々の方法を用いることができ、例えば以下の方法を挙げることができる。
極微小水滴を含有する油剤を得る第一の方法としては、潤滑油分を満たした開放容器および水を満たした密閉容器を導管で連結した装置を用い、水を満たした密閉容器を加熱することにより、機械的動力源を用いることなく、静的な条件で、極微小水滴が潤滑油分中に安定に分散した油剤を得る方法が挙げられる。この方法は、(1)水を加熱して蒸気を得る気化工程、(2)潤滑油分中に吐出量を調整しつつ蒸気を吐出して初期気泡を生成させる吐出工程、(3)吐出工程で生成した初期気泡が凝集して潤滑油分中に極微小水滴を生成する凝縮工程、からなる。
極微小水滴を含有する油剤を得る第二の方法としては、超音波振動子を用いて潤滑油分中に水を微細分散させる方法が挙げられる。
極微小水滴を含有する油剤を得る第三の方法としては、ホモジナイザーを用いて潤滑油分中に水を微細分散させる方法が挙げられる。
なお、上記第二の方法の場合は、多量の水滴の微細化に時間がかかり、上記第三の方法の場合は、水滴の直径の調整が難しいため、本発明においては第一の方法による方が特に好ましい。
【0016】
本発明の切削・研削加工方法において使用しうる潤滑油分に特に制限はなく、鉱油、油脂、合成油またはこれらの混合物のいずれでも使用することができるが、合成油のうち水溶性のものは水滴が溶解するおそれがあるため好ましくない。
【0017】
鉱油としては、例えばパラフィン基系原油または混合基系原油を常圧蒸留および減圧蒸留して得られた潤滑油留分、あるいは潤滑油脱ろう工程により得られるワックス(スラックワックス等)および/またはガストゥリキッド(GTL)プロセス等により得られる合成ワックス(フィッシャートロプシュワックス、GTLワックス等)を原料とし、溶剤脱れき、溶剤抽出、水素化分解、水素化異性化、溶剤脱ろう、接触脱ろう、水素化精製、硫酸洗浄、白土処理等の精製処理を1つ又は2つ以上適宜組み合わせて精製したパラフィン系鉱油、ナフテン系鉱油、ノルマルパラフィン系基油、イソパラフィン系基油が挙げられる。
【0018】
また、合成油としては、具体的には、プロピレンオリゴマー、ポリブテン、ポリイソブチレン、炭素数5〜20のα−オレフィンのオリゴマー、エチレンと炭素数5〜20のα−オレフィンとのコオリゴマー等のポリオレフィンまたはこれらの水素化物;モノアルキルベンゼン、ジアルキルベンゼン、ポリアルキルベンゼン等のアルキルベンゼン;モノアルキルナフタレン、ジアルキルナフタレン、ポリアルキルナフタレン等のアルキルナフタレン、ジエステル、ポリオールエステル、トリメリット酸エステル等のエステル、ポリオキシアルキレングリコール、ポリフェニルエーテルなどが挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
また、油脂としては、パーム油、パーム核油、菜種油、大豆油、サンフラワー油、並びに品種改良や遺伝子組換操作などによりグリセリドを構成する脂肪酸におけるオレイン酸の含有量が増加したハイオレイック菜種油、ハイオレイックサンフラワー油などの植物油、ラードなどの動物油などの天然油脂が挙げられる。
本発明の方法においては、潤滑油分としてエステルを用いたときに最も優れた効果を発揮し、特に極微量油剤供給方式を適用した場合に顕著である。かかるエステルとしては、天然物(通常は動植物などの天然油脂に含まれるもの)であっても合成物であってもよい。本発明では、油剤組成物の安定性やエステル成分の均一性などの点からは、合成エステルを用いることが好ましい。
【0019】
合成エステルを構成するアルコールとしては1価アルコールでも多価アルコールでもよく、また、エステル油を構成する酸としては一塩基酸でも多塩基酸であってもよい。
【0020】
1価アルコールとしては、通常炭素数1〜24、好ましくは1〜12、より好ましくは1〜8のものが用いられ、このようなアルコールとしては直鎖のものでも分枝のものでもよく、また飽和のものであっても不飽和のものであってもよい。炭素数1〜24のアルコールとしては、具体的には例えば、メタノール、エタノール、直鎖状または分枝状のプロパノール、直鎖状または分枝状のブタノール、直鎖状または分枝状のペンタノール、直鎖状または分枝状のヘキサノール、直鎖状または分枝状のヘプタノール、直鎖状または分枝状のオクタノール、直鎖状または分枝状のノナノール、直鎖状または分枝状のデカノール、直鎖状または分枝状のウンデカノール、直鎖状または分枝状のドデカノール、直鎖状または分枝状のトリデカノール、直鎖状または分枝状のテトラデカノール、直鎖状または分枝状のペンタデカノール、直鎖状または分枝状のヘキサデカノール、直鎖状または分枝状のヘプタデカノール、直鎖状または分枝状のオクタデカノール、直鎖状または分枝状のノナデカノール、直鎖状または分枝状のイコサノール、直鎖状または分枝状のヘンイコサノール、直鎖状または分枝状のトリコサノール、直鎖状または分枝状のテトラコサノールおよびこれらの混合物等が挙げられる。
【0021】
多価アルコールとしては、通常2〜10価、好ましくは2〜6価のものが用いられる。2〜10価の多価アルコールとしては、具体的には例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール(エチレングリコールの3〜15量体)、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール(プロピレングリコールの3〜15量体)、1,3−プロパンジオール、1,2−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、2−メチル−1,2−プロパンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,2−ペンタンジオール、1,3−ペンタンジオール、1,4−ペンタンジオール、1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール等の2価アルコール;グリセリン、ポリグリセリン(グリセリンの2〜8量体、例えばジグリセリン、トリグリセリン、テトラグリセリン等)、トリメチロールアルカン(トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、トリメチロールブタン等)およびこれらの2〜8量体、ペンタエリスリトールおよびこれらの2〜4量体、1,2,4−ブタントリオール、1,3,5−ペンタントリオール、1,2,6−ヘキサントリオール、1,2,3,4−ブタンテトロール、ソルビトール、ソルビタン、ソルビトールグリセリン縮合物、アドニトール、アラビトール、キシリトール、マンニトール等の多価アルコール;キシロース、アラビノース、リボース、ラムノース、グルコース、フルクトース、ガラクトース、マンノース、ソルボース、セロビオース、マルトース、イソマルトース、トレハロース、スクロース等の糖類、およびこれらの混合物等が挙げられる。
【0022】
これらの多価アルコールの中でも、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール(エチレングリコールの3〜10量体)、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール(プロピレングリコールの3〜10量体)、1,3−プロパンジオール、2−メチル−1,2−プロパンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、ネオペンチルグリコール、グリセリン、ジグリセリン、トリグリセリン、トリメチロールアルカン(トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、トリメチロールブタン等)およびこれらの2〜4量体、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、1,2,4−ブタントリオール、1,3,5−ペンタントリオール、1,2,6−ヘキサントリオール、1,2,3,4−ブタンテトロール、ソルビトール、ソルビタン、ソルビトールグリセリン縮合物、アドニトール、アラビトール、キシリトール、マンニトール等の2〜6価の多価アルコールおよびこれらの混合物等が好ましい。さらに好ましくは、エチレングリコール、プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ソルビタン、およびこれらの混合物等である。これらの中でも、より高い熱・酸化安定性が得られることから、ネオペンチルグリコール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、およびこれらの混合物等が最も好ましい。
【0023】
エステルを構成するアルコールは、上述したように1価アルコールであっても多価アルコールであってもよいが、より優れた潤滑性が達成可能となる点、並びに流動点の低いものがより得やすく、冬季および寒冷地での取り扱い性がより向上する等の点から、多価アルコールであることが好ましい。また、多価アルコールのエステルを用いると、切削・研削加工において、加工物の仕上げ面精度の向上と工具刃先の摩耗防止効果がより大きくなる。
【0024】
また、エステルを構成する酸のうち、一塩基酸としては、通常炭素数2〜24の脂肪酸が用いられ、その脂肪酸は直鎖のものでも分枝のものでもよく、また飽和のものでも不飽和のものでもよい。具体的には、例えば、酢酸、プロピオン酸、直鎖状または分枝状のブタン酸、直鎖状または分枝状のペンタン酸、直鎖状または分枝状のヘキサン酸、直鎖状または分枝状のヘプタン酸、直鎖状または分枝状のオクタン酸、直鎖状または分枝状のノナン酸、直鎖状または分枝状のデカン酸、直鎖状または分枝状のウンデカン酸、直鎖状または分枝状のドデカン酸、直鎖状または分枝状のトリデカン酸、直鎖状または分枝状のテトラデカン酸、直鎖状または分枝状のペンタデカン酸、直鎖状または分枝状のヘキサデカン酸、直鎖状または分枝状のヘプタデカン酸、直鎖状または分枝状のオクタデカン酸、直鎖状または分枝状のヒドロキシオクタデカン酸、直鎖状または分枝状のノナデカン酸、直鎖状または分枝状のイコサン酸、直鎖状または分枝状のヘンイコサン酸、直鎖状または分枝状のドコサン酸、直鎖状または分枝状のトリコサン酸、直鎖状または分枝状のテトラコサン酸等の飽和脂肪酸、アクリル酸、直鎖状または分枝状のブテン酸、直鎖状または分枝状のペンテン酸、直鎖状または分枝状のヘキセン酸、直鎖状または分枝状のヘプテン酸、直鎖状または分枝状のオクテン酸、直鎖状または分枝状のノネン酸、直鎖状または分枝状のデセン酸、直鎖状または分枝状のウンデセン酸、直鎖状または分枝状のドデセン酸、直鎖状または分枝状のトリデセン酸、直鎖状または分枝状のテトラデセン酸、直鎖状または分枝状のペンタデセン酸、直鎖状または分枝状のヘキサデセン酸、直鎖状または分枝状のヘプタデセン酸、直鎖状または分枝状のオクタデセン酸、直鎖状または分枝状のヒドロキシオクタデセン酸、直鎖状または分枝状のノナデセン酸、直鎖状または分枝状のイコセン酸、直鎖状または分枝状のヘンイコセン酸、直鎖状または分枝状のドコセン酸、直鎖状または分枝状のトリコセン酸、直鎖状または分枝状のテトラコセン酸等の不飽和脂肪酸、およびこれらの混合物等が挙げられる。これらの中でも、潤滑性および取扱性がより高められる点から、特に炭素数3〜20の飽和脂肪酸、炭素数3〜22の不飽和脂肪酸およびこれらの混合物が好ましく、炭素数4〜18の飽和脂肪酸、炭素数4〜18の不飽和脂肪酸およびこれらの混合物がより好ましく、炭素数4〜18の不飽和脂肪酸がさらに好ましい。べたつき防止性の点からは炭素数4〜18の飽和脂肪酸が好ましい。
【0025】
多塩基酸としては炭素数2〜16の二塩基酸およびトリメリット酸等が挙げられる。炭素数2〜16の二塩基酸としては、直鎖のものでも分枝のものでもよく、また飽和のものでも不飽和のものでもよい。具体的には例えば、エタン二酸、プロパン二酸、直鎖状または分枝状のブタン二酸、直鎖状または分枝状のペンタン二酸、直鎖状または分枝状のヘキサン二酸、直鎖状または分枝状のヘプタン二酸、直鎖状または分枝状のオクタン二酸、直鎖状または分枝状のノナン二酸、直鎖状または分枝状のデカン二酸、直鎖状または分枝状のウンデカン二酸、直鎖状または分枝状のドデカン二酸、直鎖状または分枝状のトリデカン二酸、直鎖状または分枝状のテトラデカン二酸、直鎖状または分枝状のヘプタデカン二酸、直鎖状または分枝状のヘキサデカン二酸、直鎖状または分枝状のヘキセン二酸、直鎖状または分枝状のヘプテン二酸、直鎖状または分枝状のオクテン二酸、直鎖状または分枝状のノネン二酸、直鎖状または分枝状のデセン二酸、直鎖状または分枝状のウンデセン二酸、直鎖状または分枝状のドデセン二酸、直鎖状または分枝状のトリデセン二酸、直鎖状または分枝状のテトラデセン二酸、直鎖状または分枝状のヘプタデセン二酸、直鎖状または分枝状のヘキサデセン二酸およびこれらの混合物等が挙げられる。
【0026】
エステルを構成する酸としては、上述したように一塩基酸であっても多塩基酸であってもよいが、一塩基酸を用いると、粘度指数の向上、べたつき防止性の向上に寄与するエステルが得られやすくなるので好ましい。
【0027】
エステルを形成するアルコールと酸との組み合わせは任意であって特に制限されないが、本発明で使用可能なエステルとしては、例えば下記のエステルを挙げることができる。
(a)一価アルコールと一塩基酸とのエステル
(b)多価アルコールと一塩基酸とのエステル
(c)一価アルコールと多塩基酸とのエステル
(d)多価アルコールと多塩基酸とのエステル
(e)一価アルコール、多価アルコールとの混合物と多塩基酸との混合エステル
(f)多価アルコールと一塩基酸、多塩基酸との混合物との混合エステル
(g)一価アルコール、多価アルコールとの混合物と一塩基酸、多塩基酸との混合エステル
【0028】
これらの中でも、切削および研削加工においてより優れた潤滑性が得られる、加工物の仕上げ面精度の向上と工具刃先の摩耗防止効果がより大きい、流動点の低いものがより得やすい、粘度指数の高いものがより得やすく冬季および寒冷地での取り扱い性が向上する、ミスト性に優れる、等の点から(b)多価アルコールと一塩基酸とのエステルであることが好ましい。
【0029】
天然物由来のエステルの中では、潤滑油の安定性の点から、オレイン酸の含有量が増加したハイオレイックな天然油脂が好ましく、脂肪酸とグリセリンとのトリエステル(以下、単に「トリエステル」という)であって、該脂肪酸中の40〜98質量%がオレイン酸のものが特に好ましい。かかるトリエステルを用いることによって、潤滑性と熱・酸化安定性との双方を高水準でバランスよく達成することができる。また、当該トリエステルを構成する脂肪酸中のオレイン酸の含有量は、潤滑性と熱・酸化安定性との双方を高水準でバランスよく達成できる点から、好ましくは50質量%以上、より好ましくは60質量%以上、更に好ましくは70質量%以上であり、また、同様の点から好ましくは95質量%以下、より好ましくは90質量%以下である。
なお、上記のトリエステルを構成する脂肪酸(以下、「構成脂肪酸」という)中のオレイン酸の割合や、後述するリノール酸等の割合は、日本油化学会制定の基準油脂分析法2.4.2項「脂肪酸組成」に準拠して測定されるものである。
【0030】
また、トリエステルの構成脂肪酸のうち、オレイン酸以外の脂肪酸としては、潤滑性および熱・酸化安定性を損なわない限り特に制限されないが、好ましくは炭素数6〜24の脂肪酸である。炭素数6〜24の脂肪酸としては、飽和脂肪酸でもよく、不飽和結合を1〜5個有する不飽和脂肪酸でもよい。また、当該脂肪酸は直鎖状、分枝鎖状のいずれであってもよい。さらに、分子内にカルボキシル基(−COOH)以外に水酸基(−OH)を1〜3個有していてもよい。このような脂肪酸としては、具体的には、カプロン酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキン酸、ベヘニン酸、リグノセリン酸、ラウロレイン酸、ミリストレイン酸、パルミトレイン酸、ガドレイン酸、エルシン酸、リシノール酸、リノール酸、リノレン酸、エレオステアリン酸、リカン酸、アラキドン酸、クルバドン酸等が挙げられる。これらの脂肪酸の中でも、潤滑性と熱・酸化安定性との両立の点で、リノール酸が好ましく、トリエステルを構成する脂肪酸の1〜60質量%(より好ましくは2〜50質量%、更に好ましくは4〜40質量%)がリノール酸であることがより好ましい。
【0031】
更に、上記のトリエステルにおいては、潤滑性と熱・酸化安定性との両立の点で、構成脂肪酸中の0.1〜30質量%(より好ましくは0.5〜20質量%、更に好ましくは1〜10質量%)が炭素数6〜16の脂肪酸であることが好ましい。炭素数6〜16の脂肪酸の割合が0.1質量%未満であると熱・酸化安定性が低下する傾向にあり、他方、30質量%を超えると潤滑性が低下する傾向にある。
【0032】
また、上記のトリエステルの総不飽和度は0.3以下であることが好ましく、0.2以下であることがより好ましい。トリエステルの総不飽和度が0.3より大きくなると、本発明にかかる油剤組成物の熱・酸化安定性が悪くなる傾向にある。なお、本発明でいう総不飽和度とは、ポリウレタン用ポリエーテルの代わりにトリエステルを用いる以外はJIS K 1557−1970「ポリウレタン用ポリエーテル試験方法」に準じて、同様の装置・操作法により測定される総不飽和度をいう。
【0033】
トリエステルとしては、構成脂肪酸中のオレイン酸の割合等が上記の条件を満たすものであれば、合成により得られるものを用いてもよく、或いは当該トリエステルを含有する植物油等の天然油を用いてもよいが、人体に対する安全性の点から、植物油等の天然油を用いることが好ましい。かかる植物油としては、菜種油、ひまわり油、大豆油、トウモロコシ油、キャノーラ油が好ましく、中でもひまわり油、菜種油および大豆油が特に好ましい。
【0034】
ここで、天然の植物油の多くは総不飽和度が0.3を超えるものであるが、その精製工程で水素化等の処理により総不飽和度を小さくすることが可能である。また、遺伝子組み替え技術により総不飽和度の低い植物油を容易に製造することができる。例えば総不飽和度が0.3以下でありかつオレイン酸が70質量%以上のものとして高オレイン酸キャノーラ油等、80質量%以上のものとして高オレイン酸大豆油、高オレイン酸ひまわり油、高オレイン酸菜種油などを例示することができる。
【0035】
アルコール成分として多価アルコールを用いた場合に得られるエステルは、多価アルコール中の水酸基全てがエステル化された完全エステルでもよく、水酸基の一部がエステル化されず水酸基のまま残存する部分エステルでもよい。また、酸成分として多塩基酸を用いた場合に得られる有機酸エステルは、多塩基酸中のカルボキシル基全てがエステル化された完全エステルでもよく、あるいはカルボキシル基の一部がエステル化されずカルボキシル基のままで残っている部分エステルであってもよい。
【0036】
エステルの沃素価は、好ましくは0〜80、より好ましくは0〜60、更に好ましくは0〜40、更により好ましくは0〜20、最も好ましくは0〜10である。また、本発明にかかるエステルの臭素価は、好ましくは0〜50gBr/100g、より好ましくは0〜30gBr/100g、更に好ましくは0〜20gBr/100g、最も好ましくは0〜10gBr/100gである。エステルの沃素価や臭素価がそれぞれ前記の範囲内であると、得られる潤滑油のべたつき防止性がより高められる傾向にある。なお、ここでいう沃素価とは、JIS K 0070「化学製品の酸価、ケン化価、エステル価、沃素価、水酸基価および不ケン化価物の測定方法」の指示薬滴定法により測定した値をいう。また臭素価とは、JIS K 2605「化学製品―臭素価試験方法−電気滴定法」により測定した値をいう。
【0037】
また、更に良好な潤滑性能を付与するためには、エステルの水酸基価が0.01〜300mgKOH/gであり、ケン価が100〜500mgKOH/gであることが好ましい。本発明において更に高い潤滑性を得るためのエステルの水酸基価の上限値は、より好ましくは200mgKOH/gであり、最も好ましくは150mgKOH/gであり、一方その下限値は、より好ましくは0.1mgKOH/gであり、更に好ましくは0.5mgKOH/gであり、更に好ましくは1mgKOH/gであり、更により好ましくは3mgKOH/gであり、最も好ましくは5mgKOH/gである。また、エステルのケン化価の上限値は更に好ましくは400mgKOH/gであり、一方その下限値は更に好ましくは200mgKOH/gである。なお、ここでいう水酸基価とは、JIS K 0070「化学製品の酸価、ケン化価、エステル価、沃素価、水酸基価および不ケン化価物の測定方法」の指示薬滴定法により測定した値をいう。またケン化価とは、JIS K 2503「航空潤滑油試験方法」の指示薬滴定法により測定した値をいう。
【0038】
エステルの動粘度については特に制限はないが、40℃における動粘度は、好ましくは200mm/s以下であり、より好ましくは100mm/s以下であり、更に好ましくは75mm/s以下であり、特に好ましくは50m/s以下である。また、エステルの動粘度は、好ましくは1mm/s以上であり、より好ましくは3mm/s以上であり、更に好ましくは5mm/s以上である。
【0039】
エステルの流動点および粘度指数には特に制限はないが、流動点は−10℃以下であることが好ましく、更に好ましくは−20℃以下である。粘度指数は100以上200以下であることが望ましい。
【0040】
また、本発明の切削・研削加工方法において用いることのできる油剤は、切削性能および工具寿命がより高められる点から、油性剤を含有することが好ましい。かかる油性剤としては、(A−1)アルコール、(A−2)カルボン酸、(A−3)不飽和カルボン酸の硫化物、(A−4)下記一般式(1)で表される化合物、(A−5)下記一般式(2)で表される化合物、(A−6)ポリオキシアルキレン化合物、(A−7)多価アルコールのヒドロカルビルエーテル、(A−8)アミンなどを挙げることができる。
【0041】
【化1】

[式(1)中、Rは炭素数1〜30の炭化水素基を表し、aは1〜6の整数を表し、bは0〜5の整数を表す。]
【0042】
【化2】

[式(2)中、Rは炭素数1〜30の炭化水素基を表し、cは1〜6の整数を表し、dは0〜5の整数を表す。]
【0043】
(A−1)アルコールは、1価アルコールでも多価アルコールでもよい。より高い切削性能および工具寿命が得られる点から、炭素数1〜40の1価アルコールが好ましく、更に好ましくは炭素数1〜25のアルコールであり、最も好ましくは炭素数8〜18のアルコールである。具体的には、上記基油のエステルを構成するアルコールの例を挙げることができる。これらのアルコールは直鎖状でも分枝を有していてもよく、また飽和でも不飽和でもよいが、べたつき防止性の点から飽和であることが好ましい。
【0044】
(A−2)カルボン酸は、1塩基酸でも多塩基酸でもよい。より高い切削性能および工具寿命が得られる点から、炭素数1〜40の1価のカルボン酸が好ましく、更に好ましくは炭素数5〜25のカルボン酸であり、最も好ましくは炭素数5〜20のカルボン酸である。具体的には、上記基油としてのエステルを構成するカルボン酸の例を挙げることできる。これらのカルボン酸は、直鎖状でも分枝を有していてもよく、飽和でも不飽和でもよいが、べたつき防止性の点から飽和カルボン酸であることが好ましい。
【0045】
(A−3)不飽和カルボン酸の硫化物としては、例えばオレイン酸の硫化物を挙げることができる。
【0046】
(A−4)上記一般式(1)で表される化合物において、Rで表される炭素数1〜30の炭化水素基の例としては、例えば炭素数1〜30の直鎖または分枝アルキル基、炭素数5〜7のシクロアルキル基、炭素数6〜30のアルキルシクロアルキル基、炭素数2〜30の直鎖または分枝アルケニル基、炭素数6〜10のアリール基、炭素数7〜30のアルカリール基、および炭素数7〜30のアラルキル基を挙げることができる。これらの中では、炭素数1〜30の直鎖または分枝アルキル基であることが好ましく、更に好ましくは炭素数1〜20の直鎖または分枝アルキル基であり、更に好ましくは炭素数1〜10の直鎖または分枝アルキル基であり、最も好ましくは炭素数1〜4の直鎖または分枝アルキル基である。炭素数1〜4の直鎖または分枝アルキル基の例としては、メチル基、エチル基、直鎖または分枝のプロピル基および直鎖または分枝のブチル基を挙げることができる。
【0047】
水酸基の置換位置は任意であるが、2個以上の水酸基を有する場合には隣接する炭素原子に置換していることが好ましい。aは好ましくは1〜3の整数であり、更に好ましくは2である。bは好ましくは0〜3の整数であり、更に好ましくは1または2である。一般式(1)で表される化合物の例としては、p−tert−ブチルカテコールを挙げることができる。
【0048】
(A−5)上記一般式(2)で表される化合物において、Rで表される炭素数1〜30の炭化水素基の例としては、前記一般式(1)中のRで表される炭素数1〜30の炭化水素基の例と同じものを挙げることができ、また好ましいものの例も同じである。水酸基の置換位置は任意であるが、2個以上の水酸基を有する場合には隣接する炭素原子に置換していることが好ましい。cは好ましくは1〜3の整数であり、更に好ましくは2である。dは好ましくは0〜3の整数であり、更に好ましくは1または2である。一般式(2)で表される化合物の例としては、2,2−ジヒドロキシナフタレン、2,3−ジヒドロキシナフタレンを挙げることができる。
【0049】
(A−6)ポリオキシアルキレン化合物としては、例えば下記一般式(3)または(4)で表される化合物を挙げることができる。
【0050】
O−(RO)−R (3)
[式(3)中、RおよびRは各々独立に水素原子または炭素数1〜30の炭化水素基を表し、Rは炭素数2〜4のアルキレン基を表し、eは数平均分子量が100〜3500となるような整数を表す。]
【0051】
A−[(RO)−R (4)
[式(3)中、Aは、水酸基を3〜10個有する多価アルコールの水酸基の水素原子の一部または全てを取り除いた残基を表し、Rは炭素数2〜4のアルキレン基を表し、Rは水素原子または炭素数1〜30の炭化水素基を表し、fは数平均分子量が100〜3500となるような整数を表し、gはAの水酸基から取り除かれた水素原子の個数と同じ数を表す。]
【0052】
上記一般式(3)中、RおよびRの少なくとも一方は水素原子であることが好ましい。RおよびRで表される炭素数1〜30の炭化水素基としては、例えば上記一般式(1)のRで表される炭素数1〜30の炭化水素基の例と同じものを挙げることができ、また好ましいものの例も同じである。Rで表される炭素数2〜4のアルキレン基としては、具体的には例えば、エチレン基、プロピレン基(メチルエチレン基)、ブチレン基(エチルエチレン基)を挙げることができる。eは、好ましくは数平均分子量が300〜2000となるような整数であり、更に好ましくは数平均分子量が500〜1500となるような整数である。
【0053】
また、上記一般式(4)中、Aを構成する3〜10の水酸基を有する多価アルコールの具体例としては、グリセリン、ポリグリセリン(グリセリンの2〜4量体、例えば、ジグリセリン、トリグリセリン、テトラグリセリン)、トリメチロールアルカン(トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、トリメチロールブタン)およびこれらの2〜4量体、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、1,2,4−ブタントリオール、1,3,5−ペンタントリオール、1,2,6−ヘキサントリオール、1,2,3,4−ブタンテトロ−ル、ソルビトール、ソルビタン、ソルビトールグリセリン縮合物、アドニトール、アラビトール、キシリトール、マンニトール、イジリトール、タリトール、ズルシトール、アリトールなどの多価アルコール;キシロース、アラビノース、リボース、ラムノース、グルコース、フルクトース、ガラクトース、マンノース、ソルボース、セロビオース、マントース、イソマントース、トレハロース、およびシュクロースなどの糖類を挙げることができる。これらの中でもグリセリン、ポリグリセリン、トリメチロールアルカン、およびこれらの2〜4量体、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、ソルビトール、またはソルビタンが好ましい。
【0054】
で表される炭素数2〜4のアルキレン基の例としては、上記一般式(3)のRで表される炭素数2〜4のアルキレン基の例と同じものを挙げることができる。またRで表される炭素数1〜30の炭化水素基の例としては、前記一般式(1)のRで表される炭素数1〜30の炭化水素基の例と同じものを挙げることができ、また好ましいものの例も同じである。g個のRのうち少なくとも一つが水素原子であることが好ましく、全て水素原子であることが更に好ましい。fは、好ましくは数平均分子量が300〜2000となるような整数であり、更に好ましくは数平均分子量が500〜1500となるような整数である。
【0055】
(A−7)多価アルコールのヒドロカルビルエーテルを構成する多価アルコールの例としては、エステルの説明において例示した多価アルコールと同じものを挙げることができ、更に好ましい例についてもエステルの説明において例示した多価アルコールと同じものを挙げることができる。更に多価アルコールとしては、溶着と加工抵抗の増加を防止して優れた切削性能および工具寿命を達成できる点から、グリセリンが最も好ましい。
【0056】
(A−7)多価アルコールのヒドロカルビルエーテルとしては、上記多価アルコールの水酸基の一部または全部をヒドロカルビルエーテル化したものが使用できる。溶着と加工抵抗の増加とを防止して優れた切削性能および工具寿命を達成できる点からは、多価アルコールの水酸基の一部をヒドロカルビルエーテル化したもの(部分エーテル化物)が好ましい。ここでいうヒドロカルビル基とは、炭素数1〜24のアルキル基、炭素数2〜24のアルケニル基、炭素数5〜7のシクロアルキル基、炭素数6〜11のアルキルシクロアルキル基、炭素数6〜10のアリール基、炭素数7〜18のアルカリール基、炭素数7〜18のアラルキル基等の炭素数1〜24の炭化水素基を表す。
【0057】
炭素数1〜24のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、直鎖または分枝のペンチル基、直鎖または分枝のヘキシル基、直鎖または分枝のヘプチル基、直鎖または分枝のオクチル基、直鎖または分枝のノニル基、直鎖または分枝のデシル基、直鎖または分枝のウンデシル基、直鎖または分枝のドデシル基、直鎖または分枝のトリデシル基、直鎖または分枝のテトラデシル基、直鎖または分枝のペンタデシル基、直鎖または分枝のヘキサデシル基、直鎖または分枝のヘプタデシル基、直鎖または分枝のオクタデシル基、直鎖または分枝のノナデシル基、直鎖または分枝のイコシル基、直鎖または分枝のヘンイコシル基、直鎖または分枝のドコシル基、直鎖または分枝のトリコシル基、直鎖または分枝のテトラコシル基等が挙げられる。
【0058】
炭素数2〜24のアルケニル基としては、ビニル基、直鎖または分枝のプロペニル基、直鎖または分枝のブテニル基、直鎖または分枝のペンテニル基、直鎖または分枝のへキセニル基、直鎖または分枝のヘプテニル基、直鎖または分枝のオクテニル基、直鎖または分枝のノネニル基、直鎖または分枝のデセニル基、直鎖または分枝のウンデセニル基、直鎖または分枝のドデセニル基、直鎖または分枝のトリデセニル基、直鎖または分枝のテトラデセニル基、直鎖または分枝のペンタデセニル基、直鎖または分枝のヘキサデセニル基、直鎖または分枝のヘプタデセニル基、直鎖または分枝のオクタデセニル基、直鎖または分枝のノナデセニル基、直鎖または分枝のイコセニル基、直鎖または分枝のヘンイコセニル基、直鎖または分枝のドコセニル基、直鎖または分枝のトリコセニル基、直鎖または分枝のテトラコセニル基等が挙げられる。
【0059】
炭素数5〜7のシクロアルキル基としては、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基等が挙げられる。炭素数6〜11のアルキルシクロアルキル基としては、メチルシクロペンチル基、ジメチルシクロペンチル基(全ての構造異性体を含む。)、メチルエチルシクロペンチル基(全ての構造異性体を含む。)、ジエチルシクロペンチル基(全ての構造異性体を含む。)、メチルシクロヘキシル基、ジメチルシクロヘキシル基(全ての構造異性体を含む。)、メチルエチルシクロヘキシル基(全ての構造異性体を含む。)、ジエチルシクロヘキシル基(全ての構造異性体を含む。)、メチルシクロヘプチル基、ジメチルシクロヘプチル基(全ての構造異性体を含む。)、メチルエチルシクロヘプチル基(全ての構造異性体を含む。)、ジエチルシクロヘプチル基(全ての構造異性体を含む。)等が挙げられる。
【0060】
炭素数6〜10のアリール基としては、フェニル基、ナフチル基等が挙げられる。炭素数7〜18のアルカリール基としては、トリル基(全ての構造異性体を含む。)、キシリル基(全ての構造異性体を含む。)、エチルフェニル基(全ての構造異性体を含む。)、直鎖または分枝のプロピルフェニル基(全ての構造異性体を含む。)、直鎖または分枝のブチルフェニル基(全ての構造異性体を含む。)、直鎖または分枝のペンチルフェニル基(全ての構造異性体を含む。)、直鎖または分枝のヘキシルフェニル基(全ての構造異性体を含む。)、直鎖または分枝のヘプチルフェニル基(全ての構造異性体を含む。)、直鎖または分枝のオクチルフェニル基(全ての構造異性体を含む。)、直鎖または分枝のノニルフェニル基(全ての構造異性体を含む。)、直鎖または分枝のデシルフェニル基(全ての構造異性体を含む。)、直鎖または分枝のウンデシルフェニル基(全ての構造異性体を含む。)、直鎖または分枝のドデシルフェニル基(全ての構造異性体を含む。)等が挙げられる。
【0061】
炭素数7〜18のアラルキル基としては、ベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基(プロピル基の異性体を含む。)フェニルブチル基(ブチル基の異性体を含む。)、フェニルペンチル基(ペンチル基の異性体を含む。)、フェニルヘキシル基(ヘキシル基の異性体を含む。)等が挙げられる。
【0062】
これらの中では、溶着と加工抵抗の増加とを防止して優れた切削性能および工具寿命を達成できる点から、炭素数2〜18の直鎖または分枝のアルキル基、炭素数2〜18の直鎖または分枝のアルケニル基が好ましく、炭素数3〜12の直鎖または分枝のアルキル基、オレイル基(オレイルアルコールから水酸基を除いた残基)がより好ましい。
【0063】
(A−8)アミンとしては、モノアミンが好ましく使用される。モノアミンの炭素数は、好ましくは6〜24であり、より好ましくは12〜24である。ここでいう炭素数とはモノアミンに含まれる総炭素数の意味であり、モノアミンが2個以上の炭化水素基を有する場合にはその合計炭素数を表す。
モノアミンとしては、第1級モノアミン、第2級モノアミン、第3級モノアミンの何れもが使用可能であるが、溶着と加工抵抗の増加とを防止して優れた切削性能および工具寿命を達成できる点から、第1級モノアミンが好ましい。
モノアミンの窒素原子に結合する炭化水素基としては、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、アルキルシクロアルキル基、アリール基、アルカリール基、アラルキル基等の何れもが使用可能であるが、溶着と加工抵抗の増加とを防止して優れた切削性能および工具寿命を達成できる点から、アルキル基またはアルケニル基であることが好ましい。アルキル基、アルケニル基としては、直鎖状のものであっても分枝鎖状のものであっても良いが、溶着と加工抵抗の増加とを防止して切削性能および工具寿命を向上できる点から、直鎖状のものが好ましい。
【0064】
モノアミンの好ましいものとしては、具体的には例えば、ヘキシルアミン(全ての異性体を含む)、ヘプチルアミン(全ての異性体を含む)、オクチルアミン(全ての異性体を含む)、ノニルアミン(全ての異性体を含む)、デシルアミン(全ての異性体を含む)、ウンデシルアミン(全ての異性体を含む)、ドデシルアミン(全ての異性体を含む)、トリデシルアミン(全ての異性体を含む)、テトラデシルアミン(全ての異性体を含む)、ペンタデシルアミン(全ての異性体を含む)、ヘキサデシルアミン(全ての異性体を含む)、ヘプタデシルアミン(全ての異性体を含む)、オクタデシルアミン(全ての異性体を含む)、ノナデシルアミン(全ての異性体を含む)、イコシルアミン(全ての異性体を含む)、ヘンイコシルアミン(全ての異性体を含む)、ドコシルアミン(全ての異性体を含む)、トリコシルアミン(全ての異性体を含む)、テトラコシルアミン(全ての異性体を含む)、オクタデセニルアミン(全ての異性体を含む)(オレイルアミン等を含む)およびこれらの2種以上の混合物などが挙げられる。これらの中でも、溶着と加工抵抗の増加とを防止して優れた切削性能および工具寿命を達成できる点から、炭素数12〜24の第1級モノアミンが好ましく、炭素数14〜20の第1級モノアミンがより好ましく、炭素数16〜18の第1級モノアミンがさらに好ましい。
【0065】
本発明の切削・研削加工方法において用いることのできる油剤は、上記油性剤(A−1)〜(A−8)の中から選ばれる1種のみを用いてもよく、また2種以上の混合物を用いてもよい。これらの中でも、溶着と加工抵抗の増加とを防止して優れた切削性能および工具寿命を達成できる点から、(A−2)カルボン酸油性剤および(A−8)アミン油性剤から選ばれる1種または2種以上の混合物であることが好ましい。
【0066】
油性剤の含有量には特に制限はないが、溶着と加工抵抗の増加とを防止して優れた切削性能および工具寿命を達成できる点から、油剤組成物全量基準で、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.05質量%以上、更に好ましくは0.1質量%以上である。また、安定性の点から、油性剤の含有量は、油剤組成物全量基準で、好ましくは15質量%以下、より好ましくは10質量%以下、更に好ましくは5質量%以下である。
【0067】
また、本発明の切削・研削加工方法において用いることのできる油剤は、溶着と加工抵抗の増加とを防止して優れた切削性能および工具寿命を達成できる点から、極圧剤を更に含有することが好ましい。特に、極圧剤を上記した油性剤と併用すると、これらの相乗作用により、溶着と加工抵抗の増加とを防止して一層優れた切削性能および工具寿命を達成することが可能となる。
【0068】
極圧剤としては、後述する(B−1)硫黄化合物および(B−2)リン化合物が挙げられる。
【0069】
(B−1)硫黄化合物としては、油剤組成物の特性を損なわない限りにおいて特に制限されないが、ジヒドロカルビルポリサルファイド、硫化エステル、硫化鉱油、ジチオリン酸亜鉛化合物、ジチオカルバミン酸亜鉛化合物、ジチオリン酸モリブデン化合物およびジチオカルバミン酸モリブデンが好ましく用いられる。
【0070】
ジヒドロカルビルポリサルファイドとは、一般的にポリサルファイドまたは硫化オレフィンと呼ばれる硫黄系化合物であり、具体的には下記一般式(5)で表される化合物を意味する。
−S−R(5)
[式(5)中、RおよびRは同一でも異なっていてもよく、それぞれ炭素数3〜20の直鎖状または分枝状のアルキル基、炭素数6〜20のアリール基、炭素数6〜20のアルカリール基あるいは炭素数6〜20のアラルキル基を表し、hは2〜6、好ましくは2〜5の整数を表す。]
【0071】
上記一般式(5)中のRおよびRとしては、具体的には、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、直鎖または分枝ペンチル基、直鎖または分枝ヘキシル基、直鎖または分枝ヘプチル基、直鎖または分枝オクチル基、直鎖または分枝ノニル基、直鎖または分枝デシル基、直鎖または分枝ウンデシル基、直鎖または分枝ドデシル基、直鎖または分枝トリデシル基、直鎖または分枝テトラデシル基、直鎖または分枝ペンタデシル基、直鎖または分枝ヘキサデシル基、直鎖または分枝ヘプタデシル基、直鎖または分枝オクタデシル基、直鎖または分枝ノナデシル基、直鎖または分枝イコシル基などの直鎖状または分枝状のアルキル基;フェニル基、ナフチル基などのアリール基;トリル基(全ての構造異性体を含む)、エチルフェニル基(全ての構造異性体を含む)、直鎖または分枝プロピルフェニル基(全ての構造異性体を含む)、直鎖または分枝ブチルフェニル基(全ての構造異性体を含む)、直鎖または分枝ペンチルフェニル基(全ての構造異性体を含む)、直鎖または分枝ヘキシルフェニル基(全ての構造異性体を含む)、直鎖または分枝ヘプチルフェニル基(全ての構造異性体を含む)、直鎖または分枝オクチルフェニル基(全ての構造異性体を含む)、直鎖または分枝ノニルフェニル基(全ての構造異性体を含む)、直鎖または分枝デシルフェニル基(全ての構造異性体を含む)、直鎖または分枝ウンデシルフェニル基(全ての構造異性体を含む)、直鎖または分枝ドデシルフェニル基(全ての構造異性体を含む)、キシリル基(全ての構造異性体を含む)、エチルメチルフェニル基(全ての構造異性体を含む)、ジエチルフェニル基(全ての構造異性体を含む)、ジ(直鎖または分枝)プロピルフェニル基(全ての構造異性体を含む)、ジ(直鎖または分枝)ブチルフェニル基(全ての構造異性体を含む)、メチルナフチル基(全ての構造異性体を含む)、エチルナフチル基(全ての構造異性体を含む)、直鎖または分枝プロピルナフチル基(全ての構造異性体を含む)、直鎖または分枝ブチルナフチル基(全ての構造異性体を含む)、ジメチルナフチル基(全ての構造異性体を含む)、エチルメチルナフチル基(全ての構造異性体を含む)、ジエチルナフチル基(全ての構造異性体を含む)、ジ(直鎖または分枝)プロピルナフチル基(全ての構造異性体を含む)、ジ(直鎖または分枝)ブチルナフチル基(全ての構造異性体を含む)などのアルカリール基;ベンジル基、フェニルエチル基(全ての異性体を含む)、フェニルプロピル基(全ての異性体を含む)などのアラルキル基;などを挙げることができる。これらの中でも、一般式(5)中のRおよびRとしては、プロピレン、1−ブテンまたはイソブチレンから誘導された炭素数3〜18のアルキル基、または炭素数6〜8のアリール基、アルカリール基あるいはアラルキル基であることが好ましく、これらの基としては例えば、イソプロピル基、プロピレン2量体から誘導される分枝状ヘキシル基(全ての分枝状異性体を含む)、プロピレン3量体から誘導される分枝状ノニル基(全ての分枝状異性体を含む)、プロピレン4量体から誘導される分枝状ドデシル基(全ての分枝状異性体を含む)、プロピレン5量体から誘導される分枝状ペンタデシル基(全ての分枝状異性体を含む)、プロピレン6量体から誘導される分枝状オクタデシル基(全ての分枝状異性体を含む)、sec−ブチル基、tert−ブチル基、1−ブテン2量体から誘導される分枝状オクチル基(全ての分枝状異性体を含む)、イソブチレン2量体から誘導される分枝状オクチル基(全ての分枝状異性体を含む)、1−ブテン3量体から誘導される分枝状ドデシル基(全ての分枝状異性体を含む)、イソブチレン3量体から誘導される分枝状ドデシル基(全ての分枝状異性体を含む)、1−ブテン4量体から誘導される分枝状ヘキサデシル基(全ての分枝状異性体を含む)、イソブチレン4量体から誘導される分枝状ヘキサデシル基(全ての分枝状異性体を含む)などのアルキル基;フェニル基、トリル基(全ての構造異性体を含む)、エチルフェニル基(全ての構造異性体を含む)、キシリル基(全ての構造異性体を含む)などのアルカリール基;ベンジル基、フェニルエチル基(全ての異性体を含む)などのアラルキル基が挙げられる。
【0072】
さらに、上記一般式(5)中のRおよびRとしては、溶着と加工抵抗の増加とを防止して優れた切削性能および工具寿命を達成できる点から、別個に、エチレンまたはプロピレンから誘導された炭素数3〜18の分枝状アルキル基であることがより好ましく、エチレンまたはプロピレンから誘導された炭素数6〜15の分枝状アルキル基であることが特に好ましい。
【0073】
硫化エステルとしては、具体的には例えば、牛脂、豚脂、魚脂、菜種油、大豆油などの動植物油脂;不飽和脂肪酸(オレイン酸、リノール酸または上記の動植物油脂から抽出された脂肪酸類などを含む)と各種アルコールとを反応させて得られる不飽和脂肪酸エステル;およびこれらの混合物などを任意の方法で硫化することにより得られるものが挙げられる。
【0074】
硫化鉱油とは、鉱油に単体硫黄を溶解させたものをいう。硫化鉱油に用いられる鉱油としては特に制限されないが、具体的には、原油に常圧蒸留および減圧蒸留を施して得られる潤滑油留分を、溶剤脱れき、溶剤抽出、水素化分解、溶剤脱ろう、接触脱ろう、水素化精製、硫酸洗浄、白土処理などの精製処理を1つ又は2つ以上適宜組み合わせて精製したパラフィン系鉱油、ナフテン系鉱油などが挙げられる。また、単体硫黄としては、塊状、粉末状、溶融液体状等いずれの形態のものを用いてもよいが、粉末状または溶融液体状の単体硫黄を用いると基油への溶解を効率よく行うことができるので好ましい。なお、溶融液体状の単体硫黄は液体同士を混合するので溶解作業を非常に短時間で行うことができるという利点を有しているが、単体硫黄の融点以上で取り扱わねばならず、加熱設備などの特別な装置を必要としたり、高温雰囲気下での取り扱いとなるため危険を伴うなど取り扱いが必ずしも容易ではない。これに対して、粉末状の単体硫黄は、安価で取り扱いが容易であり、しかも溶解に要する時間が十分に短いので特に好ましい。また、本発明にかかる硫化鉱油における硫黄含有量に特に制限はないが、通常、硫化鉱油全量を基準として好ましくは0.05〜1.0質量%であり、より好ましくは0.1〜0.5質量%である。
【0075】
ジチオリン酸亜鉛化合物、ジチオカルバミン酸亜鉛化合物、ジチオリン酸モリブデン化合物およびジチオカルバミン酸モリブデン化合物とは、それぞれ下記一般式(6)〜(9)で表される化合物を意味する。
【0076】
【化3】

【0077】
[式(6)〜(9)中、R10、R11、R12、R13、R14、R15、R16、R17、R18、R19、R20、R21、R22、R23、R24およびR25は同一でも異なっていてもよく、それぞれ炭素数1以上の炭化水素基を表し、XおよびXはそれぞれ酸素原子または硫黄原子を表す。]
【0078】
ここで、R10、R11、R12、R13、R14、R15、R16、R17、R18、R19、R20、R21、R22、R23、R24およびR25で表される炭化水素基の具体例を例示すれば、メチル基、エチル基、プロピル基(すべての分枝異性体を含む)、ブチル基(すべての分枝異性体を含む)、ペンチル基(すべての分枝異性体を含む)、ヘキシル基(すべての分枝異性体を含む)、ヘプチル基(すべての分枝異性体を含む)、オクチル基(すべての分枝異性体を含む)、ノニル基(すべての分枝異性体を含む)、デシル基(すべての分枝異性対を含む)、ウンデシル基(すべての分枝異性対を含む)、ドデシル基(すべての分枝異性対を含む)、トリデシル基(すべての分枝異性対を含む)、テトラデシル基(すべての分枝異性対を含む)、ペンタデシル基(すべての分枝異性対を含む)、ヘキサデシル基(すべての分枝異性対を含む)、ヘプタデシル基(すべての分枝異性対を含む)、オクタデシル基(すべての分枝異性対を含む)、ノナデシル基(すべての分枝異性対を含む)、イコシル基(すべての分枝異性対を含む)、ヘンイコシル基(すべての分枝異性対を含む)、ドコシル基(すべての分枝異性対を含む)、トリコシル基(すべての分枝異性対を含む)、テトラコシル基(すべての分枝異性対を含む)などのアルキル基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基などのシクロアルキル基;メチルシクロペンチル基(すべての置換異性体を含む)、エチルシクロペンチル基(すべての置換異性体を含む)、ジメチルシクロペンチル基(すべての置換異性体を含む)、プロピルシクロペンチル基(すべての分枝異性体、置換異性体を含む)、メチルエチルシクロペンチル基(すべての置換異性体を含む)、トリメチルシクロペンチル基(すべての置換異性体を含む)、ブチルシクロペンチル基(すべての分枝異性体、置換異性体を含む)、メチルプロピルシクロペンチル基(すべての分枝異性体、置換異性体を含む)、ジエチルシクロペンチル基(すべての置換異性体を含む)、ジメチルエチルシクロペンチル基(すべての置換異性体を含む)、メチルシクロヘキシル基(すべての置換異性体を含む)、エチルシクロヘキシル基(すべての置換異性体を含む)、ジメチルシクロヘキシル基(すべての置換異性体を含む)、プロピルシクロヘキシル基(すべての分枝異性体、置換異性体を含む)、メチルエチルシクロヘキシル基(すべての置換異性体を含む)、トリメチルシクロヘキシル基(すべての置換異性体を含む)、ブチルシクロヘキシル基(すべての分枝異性体、置換異性体を含む)、メチルプロピルシクロヘキシル基(すべての分枝異性体、置換異性体を含む)、ジエチルシクロヘキシル基(すべての置換異性体を含む)、ジメチルエチルシクロヘキシル基(すべての置換異性体を含む)、メチルシクロヘプチル基(すべての置換異性体を含む)、エチルシクロヘプチル基(すべての置換異性体を含む)、ジメチルシクロヘプチル基(すべての置換異性体を含む)、プロピルシクロヘプチル基(すべての分枝異性体、置換異性体を含む)、メチルエチルシクロヘプチル基(すべての置換異性体を含む)、トリメチルシクロヘプチル基(すべての置換異性体を含む)、ブチルシクロヘプチル基(すべての分枝異性体、置換異性体を含む)、メチルプロピルシクロヘプチル基(すべての分枝異性体、置換異性体を含む)、ジエチルシクロヘプチル基(すべての置換異性体を含む)、ジメチルエチルシクロヘプチル基(すべての置換異性体を含む)などのアルキルシクロアルキル基;フェニル基、ナフチル基などのアリール基;トリル基(すべての置換異性体を含む)、キシリル基(すべての置換異性体を含む)、エチルフェニル基(すべての置換異性体を含む)、プロピルフェニル基(すべての分枝異性体、置換異性体を含む)、メチルエチルフェニル基(すべての置換異性体を含む)、トリメチルフェニル基(すべての置換異性体を含む)、ブチルフェニル基(すべての分枝異性体、置換異性体を含む)、メチルプロピルフェニル基(すべての分枝異性体、置換異性体を含む)、ジエチルフェニル基(すべての置換異性体を含む)、ジメチルエチルフェニル基(すべての置換異性体を含む)、ペンチルフェニル基(すべての分枝異性体、置換異性体を含む)、ヘキシルフェニル基(すべての分枝異性体、置換異性体を含む)、ヘプチルフェニル基(すべての分枝異性体、置換異性体を含む)、オクチルフェニル基(すべての分枝異性体、置換異性体を含む)、ノニルフェニル基(すべての分枝異性体、置換異性体を含む)、デシルフェニル基(すべての分枝異性体、置換異性体を含む)、ウンデシルフェニル基(すべての分枝異性体、置換異性体を含む)、ドデシルフェニル基(すべての分枝異性体、置換異性体を含む)、トリデシルフェニル基(すべての分枝異性体、置換異性体を含む)、テトラデシルフェニル基(すべての分枝異性体、置換異性体を含む)、ペンタデシルフェニル基(すべての分枝異性体、置換異性体を含む)、ヘキサデシルフェニル基(すべての分枝異性体、置換異性体を含む)、ヘプタデシルフェニル基(すべての分枝異性体、置換異性体を含む)、オクタデシルフェニル基(すべての分枝異性体、置換異性体を含む)などのアルカリール基;ベンジル基、フェネチル基、フェニルプロピル基(すべての分枝異性体を含む)、フェニルブチル基(すべての分枝異性体を含む)などのアラルキル基などが挙げられる。
【0079】
上記硫黄化合物の中でも、ジヒドロカルビルポリサルファイドおよび硫化エステルからなる群より選ばれる少なくとも1種を用いると、溶着と加工抵抗の増加とを防止して一層高水準の切削性能および工具寿命を達成できるので好ましい。
【0080】
また、(B−2)リン化合物としては、具体的には例えば、リン酸エステル、酸性リン酸エステル、酸性リン酸エステルのアミン塩、塩素化リン酸エステル、亜リン酸エステルおよびフォスフォロチオネート、下記一般式(10)または(11)で表されるリン化合物の金属塩等が挙げられる。これらのリン化合物は、リン酸、亜リン酸またはチオリン酸とアルカノール、ポリエーテル型アルコールとのエステルあるいはその誘導体が挙げられる。
【0081】
【化4】

[式(10)中、X、XおよびXは同一でも異なっていてもよく、それぞれ酸素原子または硫黄原子を表し、X、XおよびXの少なくとも2つは酸素原子であり、R26、R27、およびR28は同一でも異なっていてもよく、それぞれ水素原子または炭素数1〜30の炭化水素基を表す。]
【0082】
【化5】

[式(11)中、X、X、XおよびXは同一でも異なっていてもよく、それぞれ酸素原子または硫黄原子を表し、X、X、XおよびXの少なくとも3つは酸素原子であり、R29、R30およびR31は同一でも異なっていてもよく、それぞれ水素原子または炭素数1〜30の炭化水素基を表す。]
【0083】
より具体的には、リン酸エステルとしては、トリブチルホスフェート、トリペンチルホスフェート、トリヘキシルホスフェート、トリヘプチルホスフェート、トリオクチルホスフェート、トリノニルホスフェート、トリデシルホスフェート、トリウンデシルホスフェート、トリドデシルホスフェート、トリトリデシルホスフェート、トリテトラデシルホスフェート、トリペンタデシルホスフェート、トリヘキサデシルホスフェート、トリヘプタデシルホスフェート、トリオクタデシルホスフェート、トリオレイルホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリキシレニルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、キシレニルジフェニルホスフェート等が挙げられる。
【0084】
酸性リン酸エステルとしては、モノブチルアシッドホスフェート、モノペンチルアシッドホスフェート、モノヘキシルアシッドホスフェート、モノヘプチルアシッドホスフェート、モノオクチルアシッドホスフェート、モノノニルアシッドホスフェート、モノデシルアシッドホスフェート、モノウンデシルアシッドホスフェート、モノドデシルアシッドホスフェート、モノトリデシルアシッドホスフェート、モノテトラデシルアシッドホスフェート、モノペンタデシルアシッドホスフェート、モノヘキサデシルアシッドホスフェート、モノヘプタデシルアシッドホスフェート、モノオクタデシルアシッドホスフェート、モノオレイルアシッドホスフェート、ジブチルアシッドホスフェート、ジペンチルアシッドホスフェート、ジヘキシルアシッドホスフェート、ジヘプチルアシッドホスフェート、ジオクチルアシッドホスフェート、ジノニルアシッドホスフェート、ジデシルアシッドホスフェート、ジウンデシルアシッドホスフェート、ジドデシルアシッドホスフェート、ジトリデシルアシッドホスフェート、ジテトラデシルアシッドホスフェート、ジペンタデシルアシッドホスフェート、ジヘキサデシルアシッドホスフェート、ジヘプタデシルアシッドホスフェート、ジオクタデシルアシッドホスフェート、ジオレイルアシッドホスフェート等が挙げられる。
【0085】
酸性リン酸エステルのアミン塩としては、前記酸性リン酸エステルのメチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、ペンチルアミン、ヘキシルアミン、ヘプチルアミン、オクチルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジブチルアミン、ジペンチルアミン、ジヘキシルアミン、ジヘプチルアミン、ジオクチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、トリペンチルアミン、トリヘキシルアミン、トリヘプチルアミン、トリオクチルアミン等のアミンとの塩等が挙げられる。
【0086】
塩素化リン酸エステルとしては、トリス・ジクロロプロピルホスフェート、トリス・クロロエチルホスフェート、トリス・クロロフェニルホスフェート、ポリオキシアルキレン・ビス[ジ(クロロアルキル)]ホスフェート等が挙げられる。
【0087】
亜リン酸エステルとしては、ジブチルホスファイト、ジペンチルホスファイト、ジヘキシルホスファイト、ジヘプチルホスファイト、ジオクチルホスファイト、ジノニルホスファイト、ジデシルホスファイト、ジウンデシルホスファイト、ジドデシルホスファイト、ジオレイルホスファイト、ジフェニルホスファイト、ジクレジルホスファイト、トリブチルホスファイト、トリペンチルホスファイト、トリヘキシルホスファイト、トリヘプチルホスファイト、トリオクチルホスファイト、トリノニルホスファイト、トリデシルホスファイト、トリウンデシルホスファイト、トリドデシルホスファイト、トリオレイルホスファイト、トリフェニルホスファイト、トリクレジルホスファイト等が挙げられる。
【0088】
フォスフォロチオネートとしては、トリブチルフォスフォロチオネート、トリペンチルフォスフォロチオネート、トリヘキシルフォスフォロチオネート、トリヘプチルフォスフォロチオネート、トリオクチルフォスフォロチオネート、トリノニルフォスフォロチオネート、トリデシルフォスフォロチオネート、トリウンデシルフォスフォロチオネート、トリドデシルフォスフォロチオネート、トリトリデシルフォスフォロチオネート、トリテトラデシルフォスフォロチオネート、トリペンタデシルフォスフォロチオネート、トリヘキサデシルフォスフォロチオネート、トリヘプタデシルフォスフォロチオネート、トリオクタデシルフォスフォロチオネート、トリオレイルフォスフォロチオネート、トリフェニルフォスフォロチオネート、トリクレジルフォスフォロチオネート、トリキシレニルフォスフォロチオネート、クレジルジフェニルフォスフォロチオネート、キシレニルジフェニルフォスフォロチオネート、トリス(n−プロピルフェニル)フォスフォロチオネート、トリス(イソプロピルフェニル)フォスフォロチオネート、トリス(n−ブチルフェニル)フォスフォロチオネート、トリス(イソブチルフェニル)フォスフォロチオネート、トリス(s−ブチルフェニル)フォスフォロチオネート、トリス(t−ブチルフェニル)フォスフォロチオネート等が挙げられる。
【0089】
また、上記一般式(10)または(11)で表されるリン化合物の金属塩に関し、式中のR26〜R31で表される炭素数1〜30の炭化水素基としては、具体的には、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、アルキルシクロアルキル基、アリール基、アルカリール基、アラルキル基等が挙げられる。
【0090】
上記アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基等のアルキル基(これらアルキル基は直鎖状でも分枝状でもよい)が挙げられる。
【0091】
上記シクロアルキル基としては、例えば、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基等の炭素数5〜7のシクロアルキル基を挙げることができる。また上記アルキルシクロアルキル基としては、例えば、メチルシクロペンチル基、ジメチルシクロペンチル基、メチルエチルシクロペンチル基、ジエチルシクロペンチル基、メチルシクロヘキシル基、ジメチルシクロヘキシル基、メチルエチルシクロヘキシル基、ジエチルシクロヘキシル基、メチルシクロヘプチル基、ジメチルシクロヘプチル基、メチルエチルシクロヘプチル基、ジエチルシクロヘプチル基等の炭素数6〜11のアルキルシクロアルキル基(アルキル基のシクロアルキル基への置換位置も任意である)が挙げられる。
【0092】
上記アルケニル基としては、例えば、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、ヘプテニル基、オクテニル基、ノネニル基、デセニル基、ウンデセニル基、ドデセニル基、トリデセニル基、テトラデセニル基、ペンタデセニル基、ヘキサデセニル基、ヘプタデセニル基、オクタデセニル基等のアルケニル基(これらアルケニル基は直鎖状でも分枝状でもよく、また二重結合の位置も任意である)が挙げられる。
【0093】
上記アリール基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基等のアリール基を挙げることができる。また上記アルカリール基としては、例えば、トリル基、キシリル基、エチルフェニル基、プロピルフェニル基、ブチルフェニル基、ペンチルフェニル基、ヘキシルフェニル基、ヘプチルフェニル基、オクチルフェニル基、ノニルフェニル基、デシルフェニル基、ウンデシルフェニル基、ドデシルフェニル基等の炭素数7〜18のアルカリール基(アルキル基は直鎖状でも分枝状でもよく、またアリール基への置換位置も任意である)が挙げられる。
【0094】
上記アラルキル基としては、例えばベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基、フェニルブチル基、フェニルペンチル基、フェニルヘキシル基等の炭素数7〜12のアラルキル基(これらアルキル基は直鎖状でも分枝状でもよい)が挙げられる。
【0095】
26〜R31で表される炭素数1〜30の炭化水素基は、炭素数1〜30のアルキル基または炭素数6〜24のアリール基であることが好ましく、更に好ましくは炭素数3〜18のアルキル基、更に好ましくは炭素数4〜12のアルキル基である。
26、R27およびR28は同一でも異なっていてもよく、それぞれ水素原子または上記炭化水素基を表すが、R26、R27およびR28のうち、1〜3個が上記炭化水素基であることが好ましく、1〜2個が上記炭化水素基であることがより好ましく、2個が上記炭化水素基であることがさらに好ましい。
また、R29、R30およびR31は同一でも異なっていてもよく、それぞれ水素原子または上記炭化水素基を表すが、R29、R30およびR31のうち、1〜3個が上記炭化水素基であることが好ましく、1〜2個が上記炭化水素基であることがより好ましく、2個が上記炭化水素基であることがさらに好ましい。
【0096】
一般式(10)で表されるリン化合物において、X〜Xのうちの少なくとも2つは酸素原子であることが必要であるが、X〜Xの全てが酸素原子であることが好ましい。
また、一般式(11)で表されるリン化合物において、X〜Xのうちの少なくとも3つは酸素原子であることが必要であるが、X〜Xの全てが酸素原子であることが好ましい。
【0097】
一般式(10)で表されるリン化合物としては、例えば、亜リン酸、モノチオ亜リン酸;上記炭素数1〜30の炭化水素基を1つ有する亜リン酸モノエステル、モノチオ亜リン酸モノエステル;上記炭素数1〜30の炭化水素基を2つ有する亜リン酸ジエステル、モノチオ亜リン酸ジエステル;上記炭素数1〜30の炭化水素基を3つ有する亜リン酸トリエステル、モノチオ亜リン酸トリエステル;およびこれらの混合物が挙げられる。これらの中でも、亜リン酸モノエステル、亜リン酸ジエステルが好ましく、亜リン酸ジエステルがより好ましい。
【0098】
また、一般式(11)で表されるリン化合物としては、例えば、リン酸、モノチオリン酸;上記炭素数1〜30の炭化水素基を1つ有するリン酸モノエステル、モノチオリン酸モノエステル;上記炭素数1〜30の炭化水素基を2つ有するリン酸ジエステル、モノチオリン酸ジエステル;上記炭素数1〜30の炭化水素基を3つ有するリン酸トリエステル、モノチオリン酸トリエステル;およびこれらの混合物が挙げられる。これらの中でも、リン酸モノエステル、リン酸ジエステルが好ましく、リン酸ジエステルがより好ましい。
【0099】
一般式(10)または(11)で表されるリン化合物の金属塩としては、当該リン化合物の酸性水素の一部または全部を金属塩基で中和した塩が挙げられる。かかる金属塩基としては、金属酸化物、金属水酸化物、金属炭酸塩、金属塩化物等が挙げられ、その金属としては、具体的には、リチウム、ナトリウム、カリウム、セシウム等のアルカリ金属、カルシウム、マグネシウム、バリウム等のアルカリ土類金属、亜鉛、銅、鉄、鉛、ニッケル、銀、マンガン等の重金属等が挙げられる。これらの中ではカルシウム、マグネシウム等のアルカリ土類金属および亜鉛が好ましい。
【0100】
上記リン化合物の金属塩は、金属の価数やリン化合物のOH基あるいはSH基の数に応じその構造が異なり、従ってその構造については何ら限定されないが、例えば、酸化亜鉛1molとリン酸ジエステル(OH基が1つ)2molを反応させた場合、下記式(12)で表される構造の化合物が主成分として得られると考えられるが、ポリマー化した分子も存在していると考えられる。
【0101】
【化6】

【0102】
また、例えば、酸化亜鉛1molとリン酸モノエステル(OH基が2つ)1molとを反応させた場合、下記式(13)で表される構造の化合物が主成分として得られると考えられるが、ポリマー化した分子も存在していると考えられる。
【0103】
【化7】

【0104】
また、これらの2種以上の混合物も使用できる。
【0105】
上記リン化合物の中でも、溶着と加工抵抗の増加とを防止して優れた切削性能および工具寿命を達成できる点から、リン酸エステル、酸性リン酸エステル、および酸性リン酸エステルのアミン塩が好ましい。
【0106】
本発明の切削・研削加工方法において用いることのできる油剤は、(B−1)硫黄化合物または(B−2)リン化合物の一方のみを含有するものであってもよく、双方を含有するものであってもよい。溶着と加工抵抗の増加とを防止して優れた切削性能および工具寿命を達成できる点からは、(B−2)リン化合物、あるいは(B−1)硫黄化合物と(B−2)リン化合物との双方を含有することが好ましく、(B−1)硫黄化合物と(B−2)リン化合物との双方を含有することがより好ましい。
【0107】
極圧剤の含有量は任意であるが、溶着と加工抵抗の増加とを防止して優れた切削性能および工具寿命を達成できる点から、油剤組成物全量基準で、0.005質量%以上であることが好ましく、0.01質量%以上であることがより好ましく、0.05質量%以上であることがさらに好ましい。また、異常摩耗の防止の点から、極圧剤の含有量は、油剤組成物全量基準で、15質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることがより好ましく、7質量%以下であることがさらに好ましい。
【0108】
上述の油性剤または極圧剤の一方だけを用いてもよいが、溶着と加工抵抗の増加とを防止して優れた切削性能および工具寿命を達成できる点から、油性剤と極圧剤とを併用することが好ましい。
【0109】
また、本発明の切削・研削加工方法において用いることのできる油剤は、溶着と加工抵抗の増加とを防止して優れた切削性能および工具寿命を達成できる点から、有機酸塩を含有することが好ましい。有機酸塩としては、スルフォネート、フェネート、サリシレート、並びにこれらの混合物が好ましく用いられる。これらの有機酸塩の陽性成分としては、ナトリウム、カリウムなどのアルカリ金属;マグネシウム、カルシウム、バリウムなどのアルカリ土類金属;アンモニア、炭素数1〜3のアルキル基を有するアルキルアミン(モノメチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、モノエチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、モノプロピルアミン、ジプロピルアミン、トリプロピルアミンなど)、炭素数1〜3のアルカノール基を有するアルカノールアミン(モノメタノールアミン、ジメタノールアミン、トリメタノールアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、モノプロパノールアミン、ジプロパノールアミン、トリプロパノールアミンなど)などのアミン、亜鉛などが挙げられるが、これらの中でもアルカリ金属またはアルカリ土類金属が好ましく、カルシウムが特に好ましい。有機酸塩の陽性成分がアルカリ金属またはアルカリ土類金属であると、より高い潤滑性が得られる傾向にある。
【0110】
スルフォネートは、任意の方法によって製造されたものが使用可能である。例えば、分子量100〜1500、好ましくは200〜700のアルキル芳香族化合物をスルフォン化することによって得られるアルキル芳香族スルフォン酸のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アミン塩およびこれらの混合物などが使用できる。ここでいうアルキル芳香族スルフォン酸としては、一般に鉱油の潤滑油留分のアルキル芳香族化合物をスルフォン化したものや、ホワイトオイル製造時に副生する、いわゆるマホガニー酸などの石油スルフォン酸や、洗剤の原料となるアルキルベンゼン製造プラントから副生したり、ポリオレフィンをベンゼンにアルキル化することにより得られる直鎖状または分枝状のアルキル基を有するアルキルベンゼンをスルフォン化したもの、あるいはジノニルナフタレンなどのアルキルナフタレンをスルフォン化したものなどの合成スルフォン酸などが挙げられる。また、上記のアルキル芳香族スルフォン酸と、アルカリ金属の塩基(アルカリ金属の酸化物や水酸化物など)、アルカリ土類金属の塩基(アルカリ土類金属の酸化物や水酸化物など)または上述したアミン(アンモニア、アルキルアミンやアルカノールアミンなど)とを反応させて得られるいわゆる中性(正塩)スルフォネート;中性(正塩)スルフォネートと、過剰のアルカリ金属の塩基、アルカリ土類金属の塩基またはアミンを水の存在下で加熱することにより得られるいわゆる塩基性スルフォネート;炭酸ガスの存在下で中性(正塩)スルフォネートをアルカリ金属の塩基、アルカリ土類金属の塩基またはアミンと反応させることにより得られるいわゆる炭酸塩過塩基性(超塩基性)スルフォネート;中性(正塩)スルフォネートをアルカリ金属の塩基、アルカリ土類金属の塩基またはアミンならびにホウ酸または無水ホウ酸などのホウ酸化合物と反応させたり、または炭酸塩過塩基性(超塩基性)スルフォネートとホウ酸または無水ホウ酸などのホウ酸化合物を反応させることによって製造されるいわゆるホウ酸塩過塩基性(超塩基性)スルフォネート;およびこれらの混合物などが挙げられる。
【0111】
フェネートとしては、具体的には、元素硫黄の存在下または不存在下で、炭素数4〜20のアルキル基を1〜2個有するアルキルフェノールと、アルカリ金属の塩基(アルカリ金属の酸化物や水酸化物など)、アルカリ土類金属の塩基(アルカリ土類金属の酸化物や水酸化物など)または上述したアミン(アンモニア、アルキルアミンやアルカノールアミンなど)とを反応させることにより得られる中性フェネート;中性フェネートと過剰のアルカリ金属の塩基、アルカリ土類金属の塩基またはアミンを水の存在下で加熱することにより得られる、いわゆる塩基性フェネート;炭酸ガスの存在下で中性フェネートをアルカリ金属の塩基、アルカリ土類金属の塩基またはアミンと反応させることにより得られる、いわゆる炭酸塩過塩基性(超塩基性)フェネート;中性フェネートをアルカリ金属の塩基、アルカリ土類金属の塩基またはアミンならびにホウ酸または無水ホウ酸などのホウ酸化合物と反応させたり、または炭酸塩過塩基性(超塩基性)フェネートとホウ酸または無水ホウ酸などのホウ酸化合物を反応させることによって製造される、いわゆるホウ酸塩過塩基性(超塩基性)フェネート;およびこれらの混合物などが挙げられる。
【0112】
サリシレートとしては、具体的には、元素硫黄の存在下または不存在下で、炭素数4〜20のアルキル基を1〜2個有するアルキルサリチル酸と、アルカリ金属の塩基(アルカリ金属の酸化物や水酸化物など)、アルカリ土類金属の塩基(アルカリ土類金属の酸化物や水酸化物など)または上述したアミン(アンモニア、アルキルアミンやアルカノールアミンなど)とを反応させることにより得られる中性サリシレート;中性サリシレートと、過剰のアルカリ金属の塩基、アルカリ土類金属の塩基またはアミンを水の存在下で加熱することにより得られるいわゆる塩基性サリシレート;炭酸ガスの存在下で中性サリシレートをアルカリ金属の塩基、アルカリ土類金属の塩基またはアミンと反応させることにより得られるいわゆる炭酸塩過塩基性(超塩基性)サリシレート;中性サリシレートをアルカリ金属の塩基、アルカリ土類金属の塩基またはアミンならびにホウ酸または無水ホウ酸などのホウ酸化合物と反応させたり、または炭酸塩過塩基性(超塩基性)金属サリシレートとホウ酸または無水ホウ酸などのホウ酸化合物を反応させることによって製造されるいわゆるホウ酸塩過塩基性(超塩基性)サリシレート;およびこれらの混合物などが挙げられる。
【0113】
有機酸塩の塩基価は、好ましくは50〜500mgKOH/gであり、より好ましくは100〜450mgKOH/gである。有機酸塩の塩基価が50mgKOH/g未満の場合は有機酸塩の添加による潤滑性向上効果が不十分となる傾向にあり、他方、塩基価が500mgKOH/gを超える有機酸塩は、通常、製造が非常に難しく入手が困難であるため、それぞれ好ましくない。なお、ここでいう塩基価とは、JIS K 2501「石油製品および潤滑油−中和価試験方法」の7.に準拠して測定される過塩素酸法による塩基価[mgKOH/g]をいう。
【0114】
また、有機酸塩の含有量は、油剤組成物全量基準で、好ましくは0.1〜30質量%であり、より好ましくは0.5〜25質量%であり、さらに好ましくは1〜20質量%である。有機酸塩の含有量が前記下限値未満の場合、その添加による溶着と加工抵抗の増加との防止に起因する切削性能および工具寿命の向上効果が不十分となる傾向にあり、他方、前記上限値を超えると油剤組成物の安定性が低下して析出物が生じやすくなる傾向にある。
【0115】
有機酸塩は単独で用いてもよく、あるいは有機酸塩と他の添加剤とを組み合わせて用いてもよい。溶着と加工抵抗の増加とを防止して優れた切削性能および工具寿命を達成できる点からは、有機酸塩を上記の極圧剤と組み合わせて用いることが好ましく、硫黄化合物、リン化合物および有機酸塩の3種を組み合わせて用いることが特に好ましい。
【0116】
また、本発明の切削・研削加工方法において用いることのできる油剤は酸化防止剤を更に含有することが好ましい。酸化防止剤の添加により、構成成分の変質によるべたつきを防止することができ、また、熱・酸化安定性を向上させることができる。
酸化防止剤としては、フェノール系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤、ジチオリン酸亜鉛系酸化防止剤、その他食品添加剤として使用されているものなどが挙げられる。
【0117】
フェノール系酸化防止剤としては、潤滑油の酸化防止剤として用いられる任意のフェノール系化合物が使用可能であり、特に制限されるものでないが、例えば下記の一般式(14)および一般式(15)で表される化合物の中から選ばれる1種または2種以上のアルキルフェノール化合物が好ましいものとして挙げられる。
【0118】
【化8】

[式(14)中、R32は炭素数1〜4のアルキル基を示し、R33は水素原子または炭素数1〜4のアルキル基を示し、R34は水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、下記一般式(i)または(ii)で表される基を示す。
【0119】
【化9】

(一般式(i)中、R35は炭素数1〜6のアルキレン基を示し、R36は炭素数1〜24のアルキル基またはアルケニル基を示す。)
【0120】
【化10】

(一般式(ii)中、R37は炭素数1〜6のアルキレン基を示し、R38は炭素数1〜4のアルキル基を示し、R39は水素原子または炭素数1〜4のアルキル基を示し、kは0または1を示す。)]
【0121】
【化11】

[一般式(15)中、R40およびR42は同一でも異なっていてもよく、それぞれ炭素数1〜4のアルキル基を示し、R41およびR43は同一でも異なっていてもよく、それぞれ水素原子または炭素数1〜4のアルキル基を示し、R44およびR45は同一でも異なっていてもよく、それぞれ炭素数1〜6のアルキレン基を示し、Aは炭素数1〜18のアルキレン基または下記の一般式(iii)で表される基を示す。
−R46−S−R47− (iii)
(一般式(iii)中、R46およびR47は同一でも異なっていてもよく、それぞれ炭素数1〜6のアルキレン基を示す。)]
【0122】
アミン系酸化防止剤としては、潤滑油の酸化防止剤として用いられる任意のアミン系化合物が使用可能であり、特に限定されるものではないが、例えば、下記の一般式(16)で表されるフェニル−α−ナフチルアミンまたはN−p−アルキルフェニル−α−ナフチルアミン、並びに下記一般式(17)で表されるp,p’−ジアルキルジフェニルアミンの中から選ばれる1種または2種以上の芳香族アミンが好ましいものとして挙げられる。
【0123】
【化12】

[式(16)中、R48は水素原子またはアルキル基を示す。]
【0124】
【化13】

[式(17)中、R49およびR50は同一でも異なっていてもよく、それぞれアルキル基を示す。]
【0125】
アミン系酸化防止剤の具体例としては、4−ブチル−4’−オクチルジフェニルアミン、フェニル−α−ナフチルアミン、オクチルフェニル−α−ナフチルアミン、ドデシルフェニル−α−ナフチルアミンおよびこれらの混合物などが挙げられる。
【0126】
ジチオリン酸亜鉛系酸化防止剤としては、具体的には、下記一般式(18)で表されるジチオリン酸亜鉛などが挙げられる。
【0127】
【化14】

[式(18)中、R51、R52、R53およびR54は同一でも異なっていてもよく、それぞれ炭化水素基を示す。]
【0128】
また、食品添加剤として使用されている酸化防止剤も使用可能であり、上述したフェノール系酸化防止剤と一部重複するが、例えば、2,6−ジ−tert−ブチル−p−クレゾール(DBPC)、4,4’−メチレンビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノール)、4,4’−ビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノール)、4,4’−チオビス(6−tert−ブチル−o−クレゾール)、アスコルビン酸(ビタミンC)、アスコルビン酸の脂肪酸エステル、トコフェロール(ビタミンE)、3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシアニソール、2−tert−ブチル−4−ヒドロキシアニソール、3−tert−ブチル−4−ヒドロキシアニソール、1,2−ジハイドロ−6−エトキシ−2,2,4−トリメチルキノリン(エトキシキン)、2−(1,1−ジメチル)−1,4−ベンゼンジオール(TBHQ)、2,4,5−トリヒドロキシブチロフェノン(THBP)を挙げることができる。
【0129】
これらの酸化防止剤の中でも、フェノール系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤、並びに上記食品添加剤として使用されている酸化防止剤が好ましい。さらに、生分解性を重視する場合には、上記食品添加剤として使用されているものがより好ましく、中でもアスコルビン酸(ビタミンC)、アスコルビン酸の脂肪酸エステル、トコフェロール(ビタミンE)、2,6−ジ−tert−ブチル−p−クレゾール(DBPC)、3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシアニソール、2−tert−ブチル−4−ヒドロキシアニソール、3−tert−ブチル−4−ヒドロキシアニソール、1,2−ジハイドロ−6−エトキシ−2,2,4−トリメチルキノリン(エトキシキン)、2−(1,1−ジメチル)−1,4−ベンゼンジオール(TBHQ)、または2,4,5−トリヒドロキシブチロフェノン(THBP)が好ましく、アスコルビン酸(ビタミンC)、アスコルビン酸の脂肪酸エステル、トコフェロール(ビタミンE)、2,6−ジ−tert−ブチル−p−クレゾール(DBPC)、または3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシアニソールがより好ましい。
【0130】
酸化防止剤の含有量は特に制限はないが、良好な熱・酸化安定性を維持させるためにその含有量は、油剤組成物全量基準で0.01質量%以上が好ましく、更に好ましくは0.05質量%以上、最も好ましくは0.1質量%以上である。一方それ以上添加しても効果の向上が期待できないことからその含有量は10質量%以下であることが好ましく、更に好ましくは5質量%以下であり、最も好ましくは3質量%以下である。
【0131】
また、本発明の切削・研削加工方法において用いることのできる油剤は、極微小水滴のより安定な分散を得るために、必要によりアニオン系、ノニオン系またはカチオン系の界面活性剤を含有することができる。
アニオン系界面活性剤としては、脂肪酸塩、石油スルホン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、アルキル硫酸エステル塩、アルキルスルホコハク酸塩、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸塩、アルキルリン酸塩、ポリオキシアルキレンアルキルまたはアルキルアリル硫酸エステル塩、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物、硫酸化油(ロート油など)等が挙げられる。
ノニオン系界面活性剤としては、ポリオキシエチレンモノオレエート、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテルおよびこれらの混合物などに代表されるポリオキシエチレン系、ペンタエリスリトールジオレエート、ソルビタンモノオレエートで代表される多価アルコール系等が挙げられる。
カチオン系の界面活性剤としては、アルキルアミン塩、第4級アンモニウム塩、アルキルベタイン、アミンオキサイド等が挙げられる。
界面活性剤の含有量は特に制限はないが、極微小水滴の安定した分散を得るためにその含有量は、油剤組成物全量基準で0.01質量%以上が好ましく、より好ましくは0.1質量%以上、更に好ましくは0.5質量%以上である。極微小水滴の合一が起こらないよう維持する上でその含有量は、油剤組成物全量基準で20質量%以下が好ましく、より好ましくは15質量%以下、更に好ましくは10質量%以下である。
【0132】
また、本発明にかかる油剤組成物には、上記した以外の従来公知の添加剤を含有することができる。かかる添加剤としては、例えば、上記したリン化合物、硫黄化合物以外の極圧剤(塩素系極圧剤を含む);ジエチレングリコールモノアルキルエーテル等の湿潤剤;アクリルポリマー、パラフィンワックス、マイクロワックス、スラックワックス、ポリオレフィンワックス等の造膜剤;脂肪酸アミン塩等の水置換剤;グラファイト、フッ化黒鉛、二硫化モリブデン、窒化ホウ素、ポリエチレン粉末等の固体潤滑剤;アミン、アルカノールアミン、アミド、カルボン酸、カルボン酸塩、スルホン酸塩、リン酸、リン酸塩、多価アルコールの部分エステル等の腐食防止剤;ベンゾトリアゾール、チアジアゾール等の金属不活性化剤;メチルシリコーン、フルオロシリコーン、ポリアクリレート等の消泡剤;アルケニルコハク酸イミド、ベンジルアミン、ポリアルケニルアミンアミノアミド等の無灰分散剤;等が挙げられる。これらの公知の添加剤を併用する場合の含有量は特に制限されないが、これらの公知の添加剤の合計含有量が油剤組成物全量基準で0.1〜10質量%となるような量で添加するのが一般的である。
【0133】
なお、本発明の切削・研削加工方法において用いることのできる油剤は、上述のように塩素系極圧剤などの塩素系添加剤を含有してもよいが、安全性の向上および環境に対する負荷の低減の点からは、塩素系添加剤を含有しないことが好ましい。また、塩素濃度は、油剤組成物全量基準で、1000質量ppm以下であることが好ましく、500質量ppm以下であることがより好ましく、200質量ppm以下であることが更に好ましく、100質量ppm以下であることが特に好ましい。
【0134】
本発明の切削・研削加工方法において用いることのできる油剤の動粘度は特に制限されないが、加工部位への供給容易性の点から、40℃における動粘度は200mm/s以下であることが好ましく、より好ましくは100mm/s以下であり、更に好ましくは75mm/s以下であり、最も好ましくは50mm/s以下である。一方、その下限値は、1mm/s以上であることが好ましく、より好ましくは3mm/s以上であり、最も好ましくは5mm/s以上である。
【0135】
また、本発明の加工方法を適用しうる被加工材の材質に特に制限はなく、炭素鋼、ステンレス等の鉄系金属、銅、アルミニウム、アルミニウム合金、マグネシウム、マグネシウム合金、チタン等の非鉄金属などあらゆる金属の加工に適用できる。特に、アルミニウムなどの非鉄金属に適用した場合には、含有する水分のトライボケミカル的な要因により高い潤滑性能が得られ、またステンレスやインコネルなどの難削材に適用した場合は、含有する水分により、潤滑部分のみが適度に冷却されるため、高い潤滑性能が得られる。
【0136】
次に、本発明の極微小水滴を含有する油剤を得る具体的方法について説明する。
極微小水滴は種々の方法で得られるが、前記した第一の方法について説明する。すなわち、第一の方法は、図1に示すような一定温度に保持された容器8、断熱ジャケットで覆われた圧力容器4および両者を連結する導管からなる装置を用い、機械的動力源を用いることなく、静的な条件により、極微小水滴が潤滑油中に安定に分散した油剤を得る方法であって、(1)水を加熱して蒸気を得る気化工程、(2)潤滑油分中に吐出量を調整しつつ蒸気を吐出して初期気泡を生成させる吐出工程、(3)吐出工程で生成した初期気泡が凝集・液化して潤滑油中に極微小水滴を生成する凝縮工程、からなる。容器8には水を含有しない潤滑油10を充てんし、他方容器4には水11を充てんした後、容器4をサーモスタット6で制御されたヒーター5で加熱することにより水蒸気12を発生させ、上昇した圧力により保温された導管を通って水蒸気を容器8に導き、吐出口から蒸気を吐出させて、初期気泡9を潤滑油中に生成させる。導管の先端には流体の流通経路が吐出口に向かって縮径する形状を有するノズル7が取り付けられており、その前にはバルブ3を有する吐出制御部があって、バルブによって吐出量が制御され、その結果初期気泡の径が調整される。このバルブは手動であっても自動であってもよい。
【0137】
初期気泡9は吐出口を離脱した後、潤滑油によって冷却されて両物質同士の界面から凝縮していき、水蒸気泡13と水滴との2相状態となる。この状態から更に凝縮が進行し、潤滑油中に極微小水滴14が生成する。蒸気は凝縮により体積が約1000分の1に激減することから、潤滑油中に極めて小さい水滴が生成する。
吐出制御部において吐出量を制御することにより、吐出時の初期気泡の径が調整されることから、最終的に得られる水滴の径を的確に調整することができる。
また開放容器8への潤滑油の補給および極微小水滴含有油剤の排出を連続的に行うことにより、極微小水滴を含有した油剤を連続的に得ることができ、この油剤を通常の方法により加工部位に供給して、被加工部材の切削・研削を行うことができる。また前記した極微量油剤供給式切削・研削加工における油剤として用いた場合には更に優れた効果を得ることができる。
【実施例】
【0138】
以下、実施例および比較例に基づき本発明を更に具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
実施例1〜28および比較例1〜3においては、それぞれ以下に示す基油および添加剤からなる油剤組成物を調製して用いた。
【0139】
(1)基油
A:トリメチロールプロパンとオレイン酸とのトリエステル
(40℃における動粘度:46mm/s)
B:トリメチロールプロパンとn−C/n−C10酸とのトリエステル
(40℃における動粘度:20mm/s)
C:ネオペンチルグリコールとオレイン酸とのジエステル
(40℃における動粘度:24mm/s)
D:イソデシルアルコールとアジピン酸とのジエステル
(40℃における動粘度:14mm/s)
E:グリセリンとn−C/n−C10酸およびオレイン酸とのトリエステル
(40℃における動粘度:20mm/s)
F:高オレイン酸菜種油
(40℃における動粘度:39mm/s;酸組成はオレイン酸64質量%、リノール酸20質量%、パルミチン酸5質量%、ステアリン酸2質量%、その他の酸9質量%;総不飽和度0.26)
【0140】
(2)添加剤
a:オレイルアルコール
b:オレイン酸
c:オレイルアミン
d:グリセリンモノオレート
e:硫化エステル
f:酸性リン酸エステル
g:アルキルフェノール系界面活性剤1(合成1級アルコール系、HLB13)
h:アルキルフェノール系界面活性剤2(脂肪酸エステル系、HLB8.5)
i:DBPC
【0141】
実施例1〜28および比較例2においては、前記した方法により、水分量が0.5〜30質量%となるように各油剤組成物中に極微小水滴を封入した。また比較例1は水を含有しない油剤組成物、比較例3は通常の方法により水を含有させた油剤組成物である。
【0142】
また水添加法は、以下の条件にて行った。
(極微小水滴法)
内容積330mlの圧力容器中にイオン交換水100mlを入れ、ヒーターによる加熱により0.34MPa、140℃の過熱水蒸気を生成し、内径2mmのステンレス製ノズルから500ml容器内の常温潤滑油中に吹き込み、凝縮により極微小水滴を製造した。このときの水蒸気噴射時間により潤滑油相中の水分量を調整した。
(ホモジナイザー法)
ホモジナイザー(Heidolph DIAX600)中に仕込まれた潤滑油に規定量の水分を入れて、18000rpmで循環させて、油相中に水滴を分散させた。
(通常法)
水溶性切削油の希釈時の方法と同様、攪拌器と攪拌羽根にて1000rpmで油水混合物を攪拌して細かく破砕混合させた。
【0143】
実施例1〜28および比較例1〜3の油剤について、表1に示す装置を用いて、下記項目について評価を行った。得られた結果を表2および表3に示す。
【0144】
<切削性能評価>
(1)切削抵抗
キスラー社3分力動力計をワーク底部に固定し、スラスト方向の抵抗を検出する。
100穴目の平均スラスト抵抗をもって切削抵抗とする。
(2)工具外観評価
工具への被削材の溶着を目視5段階で評価する。
0:溶着全くなし、1:わずかに溶着あり、3:溶着あり、4:溶着大、5:全面溶着
【0145】
<外観>
水分添加5分後における分離水の有無を判定した。
<ミスト化性能>
7000rpmで回転時、工具の先から吐出されるミストを250ml(開口部φ30mm)容器にて捕集した量(g/h)。
【0146】
【表1】

【表2】

【表3】

【図面の簡単な説明】
【0147】
【図1】極微小水滴を含有する油剤を得る方法の一例を示す説明図である。
【符号の説明】
【0148】
1.安全弁
2.圧力計
3.バルブ
4.容器
5.ヒーター
6.サーモスタット
7.ノズル
8.容器
9.初期気泡
10.潤滑油
11.水
12.水蒸気
13.水蒸気泡
14.極微小水滴


【特許請求の範囲】
【請求項1】
被加工部材を切削・研削加工する方法において、極微小水滴を0.01〜20質量%含有する切削・研削加工用油剤を加工部位に供給することを特徴とする切削・研削加工方法。
【請求項2】
極微量油剤供給方式により被加工部材を切削・研削加工する方法において、極微小水滴を0.01〜20質量%含有する切削・研削加工用油剤を加工部位に供給することを特徴とする極微量油剤供給式切削・研削加工方法。
【請求項3】
切削・研削加工用油剤がエステルを含有することを特徴とする請求項1または2に記載の切削・研削加工方法。
【請求項4】
被加工部材が難削材または非鉄金属であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の切削・研削加工方法。
【請求項5】
極微小水滴を含有する切削・研削用油剤を供給して、被加工部材を切削・研削加工する方法において用いることを特徴とする、極微小水滴からなる水分を組成物全量に対して0.01〜20質量%含有する切削・研削加工用油剤組成物。

【図1】
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【公開番号】特開2008−208245(P2008−208245A)
【公開日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−47239(P2007−47239)
【出願日】平成19年2月27日(2007.2.27)
【出願人】(000004444)新日本石油株式会社 (1,898)
【出願人】(507064639)
【出願人】(304028346)国立大学法人 香川大学 (285)
【Fターム(参考)】