説明

構造体の振動抑制装置

【課題】大型化やコストアップを招かないコンパクトな構成で効果的に構造体の振動を抑制する。
【解決手段】門形マシニングセンタのコラム3の振動抑制装置は、コラム3に設けられ、回転駆動によって回転トルクを発生可能な制振用サーボモータ8と、サドル5の直線移動制御に係る速度指令と同期して制振用サーボモータ8への回転速度指令を出力し、コラム3に加わる力を打ち消す回転トルクを発生させる制振装置30とを備えてなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工作機械等の各種機械の構造体において生じる振動を抑制する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
工作機械等の各種機械において、構造体に沿って移動する移動体を設けた場合、当該移動体が加減速する際の反力等によって構造体に振動が発生することがある。例えば工作機械の一例である門形マシニングセンタにおいては、ベッドに立設された構造体としてのコラムの前面に、水平なクロスレールを上下移動可能に設け、そのクロスレールの前面に、主軸頭を備えたサドルを移動体として水平移動可能に設けている。このサドルが水平移動する際の反力によって、コラムにたわみや振動が発生して、機械の精度が損なわれることになる。また、このような振動は、移動体の移動に伴う反力に限らず、外部からの力によっても生じることがある。
【0003】
構造体の振動を抑制するには、構造体自体の断面二次モーメントを高めることで解決できるが、機械の大型化やコストアップを招く。そこで、特許文献1には、移動体を備えるものにおいて、移動体の運動方向と平行で移動体の重心を通る軸に沿って反作用相殺力ベクトル(移動体の質量とその直線加速度との積に等しい大きさを持つベクトル)を構造体に加えるアクチュエータを設置する発明が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−329962号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1の発明においては、横向きに設置されるベース上をステージ(移動体)が水平移動する場合において、構造体の外部で固定されるアクチュエータによってベースの側面から反作用相殺力ベクトルを加えるようになっている。このため、コラムに設けたクロスレールに沿ってサドルが水平移動する工作機械のように、重量の大きい移動体が水平移動する場合では、移動体に対して絶対的な固定物(例えば数百トンの塊)を隣設する必要があって実現は難しく、たとえ可能であったとしても機械全体の大型化やコストアップに繋がってしまう。従って、工作機械のように空間的に制約がある機械への設置は困難となっている。
【0006】
そこで、本発明は、大型化やコストアップを招かないコンパクトな構成で効果的に振動の抑制が可能となる構造体の振動抑制装置を提供することを目的としたものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、直線移動制御される移動体を備えた構造体に設けられ、前記移動体の直線移動に伴って前記構造体に加わる力によって前記構造体に発生する振動を抑制する装置であって、前記構造体に設けられ、回転駆動によって回転トルクを発生可能な回転アクチュエータと、前記移動体の直線移動制御に係る速度指令と同期して前記回転アクチュエータへの回転速度指令を出力し、前記構造体に加わる力を打ち消す回転トルクを発生させる制振手段と、を備えたことを特徴とするものである。
請求項2に記載の発明は、請求項1の構成において、前記制振手段は、前記構造体の固有振動数を含む所定の周波数帯域で前記速度指令を抽出するバンドパスフィルタを備え、前記バンドパスフィルタを通過した前記速度指令に基づいて前記回転速度指令を出力することを特徴とするものである。
請求項3に記載の発明は、請求項2の構成において、前記回転速度指令に、予め設定した所定の回転速度を加算する加算手段を備えたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0008】
請求項1に記載の発明によれば、大型化やコストアップを招かないコンパクトな構成で効果的に構造体の振動の抑制が可能となる。
請求項2に記載の発明によれば、請求項1の効果に加えて、回転アクチュエータ等のサイズが大きくなっても過度の回転トルクを発生させることがなく、制振対象である構造体の特性に応じた適切な振動抑制が可能となる。
請求項3に記載の発明によれば、請求項2の効果に加えて、同じ位置での揺動運動を回避してフレッチング摩耗の発生を防止でき、耐久性の低下を生じさせない。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】門形マシニングセンタの説明図である。
【図2】サーボモータの制御装置及び制振用サーボモータの制振装置のブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1に、本発明の振動抑制装置が搭載される工作機械の一例として門形マシニングセンタを示す。門形マシニングセンタ1において、ベース2上に立設される構造体としてのコラム3の前面には、クロスレール4が設けられ、そのクロスレール4の前面に、移動体としてのサドル5が水平方向へ直線移動可能に設けられている。このサドル5は、クロスレール4に設けられたボールネジ6及びサーボモータ7により移動制御される。
【0011】
一方、コラム3の上部でサーボモータ7と反対側には、回転アクチュエータとしての制振用サーボモータ8が組み込まれている。この制振用サーボモータ8は、ロータ10を前向きにした姿勢でステータ9がコラム3と一体に連結されて、ロータ10には、負荷イナーシャを付与するために、質量のある円盤11が連結されている。よって、制振用サーボモータ8が駆動すると、ステータ9を介してロータ10及び円盤11の回転方向と反対方向でコラム3に回転トルクが印加されることになる。
【0012】
そして、図2に、サーボモータ7の制御装置20と、制振用サーボモータ8を回転制御する制振手段としての制振装置30とのブロック図を示す。
まず、サーボモータ7の制御装置20は、NCプログラムに基づいて生成された位置指令値Xiに基づいて速度指令値を出力する位置制御部21と、位置制御部21からの速度指令値に基づいてトルク指令値を出力する速度制御部22と、トルク指令値に基づいてサーボモータ7を駆動制御する電流制御部23とを備える。24,25は減算器で、ここでは、サーボモータ7に設けた回転検出器26から得られる位置フィードバック信号と位置指令値Xiとの偏差が0となるような位置ループが組まれており、位置ループの内側には、回転検出器26からの出力信号を微分器27によって微分して得られる速度フィードバック信号と速度指令値との偏差を0とする速度ループが組まれている。
【0013】
次に、制振装置30は、サーボモータ7への位置指令値Xiの出力と同期して制振用サーボモータ8を駆動制御するもので、サーボモータ7への位置指令値Xiを微分器31で微分して得られる速度指令値から、コラム3の固有振動数を含む所定の周波数帯域での速度指令波形を抽出するバンドパスフィルタ32と、その速度指令波形に予め設定した係数を乗じて制振用の速度指令値を出力する制振ゲイン部33と、その速度指令値に予め設定した回転速度を加算器35において加算する回転速度オフセット部34とを備えている。なお、バンドパスフィルタ32を用いることで信号の遅れが生じる場合を考慮して、サーボモータ7の制御装置20には、位置制御部21への位置指令値Xiの入力を遅らせるディレイ部28が設けられている。
【0014】
回転速度オフセット部34で修正された制振用の速度指令値は、制振装置30に設けられた速度制御部36に入力されて、ここから出力されるトルク指令値に基づいて電流制御部37が制振用サーボモータ8を駆動制御するものとなっている。なお、ここでも制振用サーボモータ8に回転検出器38が設けられて、回転検出器38からの出力信号を微分器39によって微分して得られる速度フィードバック信号を減算器40で減算して速度指令値との偏差を0とする速度ループが組まれている。
この制振装置30と制振用サーボモータ8とでコラム3の振動抑制装置が構成される。
【0015】
以上の如く構成された振動抑制装置においては、サドル5への位置指令値Xiが出力されると、これと同期して制振装置30の微分器31、バンドパスフィルタ32を介して得られる速度指令値から制振ゲイン部33で制振用の速度指令値が算出され、回転速度オフセット部34及び加算器35で修正される。この修正された制振用の速度指令値に基づいて制振用サーボモータ8が駆動制御されることになるため、サドル5の動作に合わせて制振用サーボモータ8が動作して円盤11を回転させ、コラム3に円盤11の回転方向と反対方向の回転トルクを印加する。よって、加減速に比例した回転トルクがコラム3に発生し、サドル5の移動に伴ってコラム3に発生するたわみや振動を打ち消すことができる。
【0016】
このように、上記形態の振動抑制装置によれば、コラム3に設けられ、回転駆動によって回転トルクを発生可能な制振用サーボモータ8と、サドル5の直線移動制御に係る速度指令と同期して制振用サーボモータ8への回転速度指令を出力し、コラム3に加わる力を打ち消す回転トルクを発生させる制振装置30とを備えたことで、大型化やコストアップを招かないコンパクトな構成で効果的にコラム3の振動の抑制が可能となる。
【0017】
特にここでは、制振装置30は、コラム3の固有振動数を含む所定の周波数帯域で速度指令を抽出するバンドパスフィルタ32を備え、バンドパスフィルタ32を通過した速度指令に基づいて回転速度指令を出力するようにしているので、制振用サーボモータ8や円盤11のサイズが大きくなっても過度の回転トルクを発生させることがなく、制振対象であるコラム3の特性に応じた適切な振動抑制が可能となる。
【0018】
但し、このようにバンドパスフィルタ32を用いると、サドル5が加減速動作しない場合は制振用サーボモータ8は静止し、加減速動作に応じて揺動運動することになる。こうして同じ位置で揺動運動すると、軸受にフレッチング摩耗が発生し、耐久性を悪化させるおそれがある。
しかし、ここではバンドパスフィルタ32を通過して出力された回転速度指令に、予め設定した所定の回転速度を加算する回転速度オフセット部34及び加算器35を備えたことで、同じ位置での揺動運動を回避してフレッチング摩耗の発生を防止でき、耐久性の低下を生じさせない。
【0019】
なお、制振装置において、バンドパスフィルタや加算手段は省略することができるし、制振用サーボモータの回転検出器をなくして速度ループの構成を省略することもできる。
また、制振用サーボモータに負荷イナーシャを発生させる手段も、ロータに連結した円盤に限らず、ロータに錘を連結する等の他の手段によっても差し支えない。
さらに、回転アクチュエータもサーボモータに限らず、例えば構造体内部にボールネジやシリンダ等の一対のアクチュエータを設け、各アクチュエータの上端をそれぞれ構造体に連結して形成することもできる。この場合、両アクチュエータを互いに逆方向へ伸縮動作させることで回転トルクを付与可能となる。
【0020】
そして、構造体の態様としては、上記形態の門形マシニングセンタのコラムのように両端が固定された構造体に限らず、下端が固定される柱状の構造体等であってもよい。よって、本発明は工作機械に限らず、測定機や先行技術文献で挙げた投影露光装置等の各種機械に適用可能となる。
【符号の説明】
【0021】
1・・門形マシニングセンタ、2・・ベース、3・・コラム、4・・クロスレール、5・・サドル、6・・ボールネジ、7・・サーボモータ、8・・制振用サーボモータ、9・・ステータ、10・・ロータ、11・・円盤、20・・制御装置、21・・位置制御部、22,36・・速度制御部、23,37・・電流制御部、26,38・・回転検出器、28・・ディレイ部、30・・制振装置、32・・バンドパスフィルタ、33・・制振ゲイン部、34・・回転速度オフセット部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
直線移動制御される移動体を備えた構造体に設けられ、前記移動体の直線移動に伴って前記構造体に加わる力によって前記構造体に発生する振動を抑制する装置であって、
前記構造体に設けられ、回転駆動によって回転トルクを発生可能な回転アクチュエータと、
前記移動体の直線移動制御に係る速度指令と同期して前記回転アクチュエータへの回転速度指令を出力し、前記構造体に加わる力を打ち消す回転トルクを発生させる制振手段と、を備えたことを特徴とする構造体の振動抑制装置。
【請求項2】
前記制振手段は、前記構造体の固有振動数を含む所定の周波数帯域で前記速度指令を抽出するバンドパスフィルタを備え、前記バンドパスフィルタを通過した前記速度指令に基づいて前記回転速度指令を出力することを特徴とする請求項1に記載の構造体の振動抑制装置。
【請求項3】
前記回転速度指令に、予め設定した所定の回転速度を加算する加算手段を備えたことを特徴とする請求項2に記載の構造体の振動抑制装置。

【図1】
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【図2】
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