説明

樹脂コート紙用バリア剤、ポリエチレンラミネートコーティング紙、およびシリコーン剥離紙

【課題】バリア性、耐溶剤性および耐水性のいずれにおいても優れたバリア層を形成できる、新規なバリア剤を提供すること。
【解決手段】スチレン類(a1)、α,β不飽和ジカルボン酸類(a2)、および多官能ビニルモノマー(a3)を含む単量体群を重合してなる共重合体中和塩(A)を含有させ、樹脂コート紙用バリア剤とする。当該共重合体中和塩(A)およびカルボキシメチルセルロース中和塩(B)を含有する樹脂コート紙用バリア剤は、バリア性が更に向上する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエチレンラミネートコーティング紙、およびシリコーン離型紙等の各種樹脂コート紙に用いられるバリア剤、ならびに、ポリエチレンラミネートコーティング紙、およびシリコーン剥離紙等に関する。
【背景技術】
【0002】
紙は様々な用途に供されるが、水や油との接触を考慮して、その表面を種々の樹脂で被覆した樹脂コート紙として用いられることがある。樹脂コート紙としては、例えば、紙に防水性等を付与するために溶融ポリエチレンを塗工したポリエチレンラミネートコーティング紙や、離型性等を与えるためにシリコーン樹脂ワニスを塗工した離型紙等が知られており、前者は紙コップや紙皿等に、また後者は粘着ラベルの台紙等に加工される。
【0003】
ところで、紙はパルプ繊維の集合体であり、空隙を多く有していることから、コーティング樹脂を均一に塗工できない場合において種々の問題が生ずる。例えば、ポリエチレンラミネートコーティング紙の場合には、溶融状態のポリエチレンが紙に浸透しすぎるとポリエチレンの連続被膜が得られなくなるため、防水性等が損なわれることがある。また、離型紙の場合には、シリコーン樹脂ワニス中の溶剤(トルエン等)が紙に多く吸収されるとシリコーン樹脂被膜にピンホール等の塗膜欠陥が生じてしまい、離型性が低下することがある。
【0004】
そこで、コーティング樹脂の塗工に先立ち、紙を目止めしてバリア性を高める目的で、所謂バリア層を設けることがある。バリア層を構成するためのバリア剤としては、一般的には、エマルジョン系のものと、非エマルジョン系(水溶液タイプ)のものとに大別される。
【0005】
エマルジョン系のバリア剤としては、例えば、スチレン−マレイン酸共重合体のアルカリ中和塩および低分子量乳化剤の存在下で、ビニル系単量体を乳化重合して得られる共重合体エマルジョンからなるものが知られており、特に溶剤に対するバリア性(耐溶剤性)に優れるとされている(特許文献1を参照)。しかし、エマルジョン系のバリア剤は、製造時や塗工時に凝集物が発生したり、造膜させるために多くの熱量を必要としたり、十分なバリア性を得るために塗布量を多くする必要があったり等の本質的な不利益がある。また、低分子量乳化剤に起因して、バリア層の耐水性が不十分になることがある。
【0006】
一方、非エマルジョン系のバリア剤としては、ポリビニルアルコール、カゼイン、アクリルコポリマー、スチレン−無水マレイン酸共重合体中和塩等の各種ポリマーが知られている。これらの中でも特にスチレン−無水マレイン酸共重合体中和塩のようなカルボキシル基含有共重合体は安価であることから、例えば前記ポリエチレンラミネートコーティング紙用のバリア剤として汎用されている(例えば、特許文献2を参照)。しかし、一般的に、スチレン−無水マレイン酸共重合体中和塩は耐溶剤性が十分ではないため、例えば前記離型紙用のバリア剤としてはそのまま用いることが困難である。
【0007】
なお、エマルジョン系および非エマルジョン系のバリア剤の双方において、バリア性や耐水性、耐溶剤性等をバランスよく向上させる手段としては、例えば各種水溶性のポリマー(アクリルコポリマー、ポリアクリルアミド等)を配合することが考えられるが、いずれもその効果が充分ではなく、また、室温で経時的に分離するなど相溶性に問題が生ずることがある。
【0008】
【特許文献1】特開2001−262050号公報
【特許文献2】特開2003−155700号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、バリア性、耐溶剤性および耐水性に優れたバリア層を形成できる、非エマルジョンタイプの樹脂コート紙用バリア剤を提供することを主たる課題とする。また、該樹脂コート紙用バリア剤に、これと相溶する水溶性ポリマーを配合してなる、非エマルジョンタイプの樹脂コート紙用バリア剤を提供することを更なる課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は鋭意検討した結果、水溶液タイプ(即ち、乳化剤を用いない非エマルジョンタイプ)のバリア剤として下記構成からなるものが適切であることを見出した。
【0011】
即ち本発明は、スチレン類(a1)、α,β不飽和ジカルボン酸類(a2)、および多官能ビニルモノマー(a3)を含む単量体群を重合してなる共重合体中和塩(A)を含有する樹脂コート紙用バリア剤(以下、第一のバリア剤ということがある);さらに、カルボキシメチルセルロース中和塩(B)を含有する樹脂コート紙用バリア剤(以下、第二のバリア剤ということがある);該樹脂コート紙用バリア剤をバリア層としてなる、ポリエチレンラミネートコーティング紙;該樹脂コート紙用バリア剤をバリア層としてなる、シリコーン剥離紙、に関する。なお、以下、第一のバリア剤と第二のバリア剤は、単にバリア剤と略称ないし総称することがある。
【発明の効果】
【0012】
本発明のバリア剤によれば、バリア性、耐溶剤性および耐水性のいずれにおいても優れるバリア層を形成することができる。また、本発明の第二のバリア剤は相溶性にも優れており、長期間保存しても分離等が生じ難い。本発明のバリア剤は、各種樹脂コート紙(ポリエチレンラミネートコーティング紙、剥離紙、オフセット印刷用紙、グラビア印刷用紙、インクジェット印刷用紙、カップ原紙等)のバリア剤として好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の第一のバリア剤は、スチレン類(a1)(以下、(a1)成分という)、α,β不飽和ジカルボン酸類(a2)(以下、(a2)成分という)、および多官能ビニルモノマー(a3)(以下、(a3)成分という)を含む単量体群を重合してなる共重合体中和塩(A)(以下、(A)成分という)を含有することを特徴とする。また、該単量体群には、前記(a1)成分〜(a3)成分以外の共重合性単量体(以下、(a4)成分という)を含有させることもできる。
【0014】
(a1)成分としては、各種公知のものを特に制限なく使用することができる。具体的には、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、t−ブチルスチレン、ジメチルスチレン、アセトキシスチレン、ヒドロキシスチレン、ビニルトルエン、クロルビニルトルエン、スチレンスルホン酸、α−メチルスチレンスルホン酸等が挙げられ、これらは1種を単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの中でも、前記耐水性の観点よりスチレンが好ましい。
【0015】
(a2)成分としては、各種公知のものを特に制限なく使用することができる。具体的には、例えば、無水マレイン酸、マレイン酸、イタコン酸、フマル酸、ムコン酸、シトラコン酸等や、これらに炭素数1〜18程度のアルキル基(直鎖状、分岐鎖状、環状のいずれであってもよい)を有するアルコールを反応させてなるエステルなどが挙げられ、1種を単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。なお、該エステルとは、ジエステルまたはモノエステルをいう。これらの中でも前記バリア性の観点よりマレイン酸、無水マレイン酸、およびマレイン酸エステルからなる群より選ばれる少なくとも1種が好ましい。
【0016】
なお、該(a2)成分は、予め各種中和剤により中和されていてもよい。該中和剤としては、アルカリ金属化合物類〔水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等〕、アンモニア類〔アンモニア、炭酸アンモニウム等〕、炭素数1〜12程度の脂肪族アミン類〔モノメチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、モノエチルアミン、ジエチルアミン、モノブチルアミン等〕、脂環族アミン類〔シクロヘキシルアミン等〕、芳香族アミン類〔アニリン等〕などが挙げられ、1種を単独で、あるいは2種以上を用いることができる。
【0017】
(a3)成分は、(A)成分に架橋構造や分岐構造を導入し、前記バリア性や耐水性等を向上させる目的で必須使用する。該(a3)成分としては、各種公知のもの、特に、2〜4官能性のビニルモノマーを好適に用い得る。具体的には、2官能性ビニルモノマー〔ジ(メタ)アクリレート類(1,6ヘキサンジオールジアクリレート等のジオールジ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、グリセリンジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート等のアルキレングリコールジ(メタ)アクリレート)、ビス(メタ)アクリルアミド類(メチレンビス(メタ)アクリルアミド、エチレンビス(メタ)アクリルアミド、ヘキサメチレンビス(メタ)アクリルアミド等)、ジビニルエステル類(アジピン酸ジビニル、セバシン酸ジビニル等)、その他、ジアリルジメチルアンモニウム、ジアリルフタレート、ジアリルクロレンデート、ジビニルベンゼン等〕、3官能性ビニルモノマー〔1,3,5トリアクロイルヘキサヒドロ1,3,5トリアワン、ペンタエリスリトールトリアクリレート、1,3,5トリアクリロイルヘキサヒドロ−S−トリアジン、トリアリルイソシアヌレート、トリアリルアミン、トリアリルトリメリテート、N,N−ジアリルアクリルアミド、トリビニルベンゼン等〕、4官能性ビニルモノマー〔テトラメチロールメタンテトラアクリレート、テトラアリルピロメリテート、N,N,N’,N’−テトラアリル−1,4ジアミノブタン、テトラアリルアミン塩、テトラアリルオキシエタン等〕等が挙げられ、これらは1種を単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0018】
(a4)成分としては、各種公知のものを特に制限なく使用することができる。具体的には、例えば、α−オレフィン類〔1−ヘキセン、1−オクテン、1−デセン、1−ドデセン、1−テトラデセン、1−ヘキサデセン、1−オクタデセン、1−エイコセン、1−テトラコセン、1−トリアコンテン、ジイソブチレン、3−メチル−1−ブテン、3−メチル−1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、シクロヘキセン、メチルシクロヘキセン、ビニルシクロヘキサン、4−ビニルシクロヘキセン、シクロペンテン、メチルシクロペンテン等〕、炭素数1〜18のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル類〔(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸sec−ブチル、(メタ)アクリル酸tert−ブチル、(メタ)アクリル酸n−オクチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸ヘキサデシル、(メタ)アクリル酸オクタデシル、(メタ)アクリル酸オクタデセニル、(メタ)アクリル酸イコシル、(メタ)アクリル酸ドコシル(メタ)アクリル酸シクロペンチル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル等〕、(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキル類〔(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシメチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシブチル、グリセリンモノ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールモノ(メタ)アクリレート、(メタ)アリルアルコール等〕、アミド系不飽和単量体類〔(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N−エチル(メタ)アクリルアミド、N−ブチル(メタ)アクリルアミド、N−オクチル(メタ)アクリルアミド、N−メトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N−エトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N−プロポキシメチル(メタ)アクリルアミド、N−ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N−2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジヒドロキシエチル(メタ)アクリルミド、(メタ)アクリルアミドグリコール酸等〕、アミノアルキル系不飽和単量体類〔(メタ)アクリル酸アミノエチル、(メタ)アクリル酸アミノプロピル、(メタ)アクリル酸アミノブチル、(メタ)アクリル酸N−メチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸N−メチルアミノプロピル、(メタ)アクリル酸N−メチルアミノブチル、(メタ)アクリル酸N,N−ジメチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸N,N−ジメチルアミノプロピル、(メタ)アクリル酸N,N−ジメチルアミノブチル、(メタ)アクリル酸N,N−ジエチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸N,N−ジエチルアミノプロピル、(メタ)アクリル酸N,N−ジエチルアミノブチル等〕、ポリオキシアルキレン系不飽和単量体類〔ポリオキシアルキレン(メタ)アクリル酸エステル類、ポリオキシアルキレングリセリン(メタ)アクリル酸エステル類、ポリオキシアルキレンモノアルキル(メタ)アクリル酸エステル類、ポリオキシアルキレン(メタ)アリルエーテル、ポリオキシアルキレングリセリン(メタ)アリルエーテル等〕、スルホン酸系不飽和単量体類〔ビニルスルホン酸、2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、(メタ)アリルアミド−N−メチルスルホン酸、(メタ)アクリルアミドフェニルプロパンスルホン酸、(メタ)アリルスルホン酸、(メタ)アクリル酸スルホエチル、(メタ)アクリル酸スルホプロピル、(メタ)アクリル酸スルホ2−ヒドロキシプロピル等〕、硫酸エステル系不飽和単量体類〔(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチルの硫酸エステル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシプロピル硫酸エステル、(メタ)アクリル酸ポリオキシアルキレン硫酸エステル、硫酸(メタ)アリルエステル、アリロキシポリオキシアルキレン硫酸エステル等〕等が挙げられ、これらは1種を単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0019】
前記(a1)成分〜(a4)成分の使用量は特に制限されず、(A)成分の製造時の作業性や、前記バリア性や耐水性等を考慮して適宜決定できる。具体的には、(a1)成分〜(a4)成分の総量を100重量%とした場合において、通常、(a1)成分が30〜70重量%程度(好ましくは40〜60重量%)、(a2)成分が70〜30重量%程度(好ましくは60〜40重量%)、(a3)成分が0.01〜2重量%程度(好ましくは0.01〜1重量%)、(a4)成分が0〜1重量%程度である。
【0020】
(A)成分の製造法は特に限定されず、各種公知の方法を利用できる。例えば溶液重合法による場合には、まず、前記(a1)成分〜(a3)成分(および必要に応じて(a4)成分)を、重合開始剤および溶媒(水や有機溶剤)およびの存在下、80〜130℃程度において、1〜10時間程度、ラジカル重合反応させて共重合体を製造する。そして、該(a2)成分として中和物を用いた場合には、当該共重合体がそのまま(A)成分となり、また、そうでない場合には、得られた共重合体(未中和物)を、前記各種中和剤で中和することにより(A)成分を得ることができ、また、両方法は併用することもできる。
【0021】
重合開始剤としては、各種公知のものを特に制限なく使用することができる。具体的には、例えば、有機過酸化物系開始剤〔過酸化ベンゾイル、クメンハイドロパーオキシド、t−ブチルハイドロパーオキサイド、t−ブチルパーオキシ2エチルヘキサノエート、ジクミルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド等〕、アゾ系開始剤〔2,2′−アゾビスイソブチロニトリル、2,2′−アゾビス−2,4−メチルバレロニトリル等〕、これらと還元剤(亜硫酸水素ナトリウム等)とを組み合わせたレドックス系開始剤等が挙げられ、これらは1種を単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。重合開始剤の使用量は特に限定されないが、通常は、単量体群の総重量に対して0.1〜10重量%程度である。
【0022】
有機溶剤としては、各種公知のものを特に制限なく使用することができる。具体的には、例えば、水や、芳香族炭化水素系溶剤〔ベンゼン、トルエン等〕、ケトン系溶剤〔アセトン、メチルエチルケトン等〕、アルコール系溶剤〔n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール等〕等が挙げられ、これらは1種を単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。溶媒の使用量は特に限定されないが、通常は、ラジカル重合反応系の固形分濃度が20〜60重量%程度となる範囲である。
【0023】
なお、一般に、非架橋状および/または非分岐状の共重合体(即ち、直線状の共重合体)は、連鎖移動性の有機溶剤中で製造した場合には、重量均分子量が相対的に小さくなる傾向にあり、そうした共重合体を用いても十分なバリア性を達成できないのが通常である。ここに、「連鎖移動性の有機溶剤」とは、前記した有機溶剤のうち、ラジカル重合反応(連鎖反応)において連鎖担体となりえるもの(例えば、トルエン、イソプロピルアルコール等)をいう。ところが、本発明の(A)成分は、これをなす共重合体が前記(a3)成分を必須構成としているので、当該共重合体が連鎖移動性有機溶媒(特にトルエン)中で製造された場合であっても、その重量均分子量を、十分なバリア性を発揮し得る程度に維持することができる。
【0024】
得られる(A)成分の物性は特に限定されないが、例えば、重量平均分子量(ゲルパーメーションクロマトグラフィーによるポリスチレン換算値)は、前記バリア性等の観点より、通常10000〜2000000程度、好ましくは60000〜100000である。また、pHは通常5.0〜11.0程度である。
【0025】
また、(A)成分のブルックフィールド粘度は特に限定されないが、通常、1000〜5000mPa.s(10重量%水溶液、25℃)程度、特に1500〜3000mPa.s(10重量%水溶液、25℃)であるのが好ましい。1000mPa.s未満であるとバリア性が不十分となる場合がある。また5000mPa.sを超えると、後述のカルボキシメチルセルロース中和塩(B)成分と相溶し難くなる傾向にある。なお、粘度測定は、ローターNo.3を用い、回転数12rpmで行なう。
【0026】
本発明の第二のバリア剤は、第一のバリア剤に、バリア性をさらに向上させる目的で、カルボキシメチルセルロース中和塩(B)(以下、(B)成分という)を含有させたものである。
【0027】
該(B)成分としては特に限定されず、各種公知のカルボキシメチルセルロース中和塩を用いることができる。なお、当該中和塩としては、例えばナトリウム塩などのアルカリ金属塩が挙げられる。また、(B)成分のグルコース残基当たりのカルボキシメチル置換度は、通常0.25〜0.50程度である。
【0028】
また、本発明においては、(B)成分の粘度(ブルックフィールド粘度)は特に限定されないが、通常、1000〜20000mPa.s(1重量%水溶液、25℃)程度、特に2000〜15000mPa.s(1重量%水溶液、25℃)であるのが好ましい。粘度が1000mPa.s未満であるとバリア性が不十分になる場合があり、また20000mPa.sを超えると(A)成分と相溶し難くなる傾向にある。なお、粘度測定は、ローターNo.3を用い、回転数6rpmで行なう。
【0029】
第二のバリア剤は、前記(A)成分と(B)成分を各種公知の手段で混合することにより調製することができる。また、バリア剤自体の粘度(ブルックフィールド粘度)は通常、10〜300mPa.s程度(4重量%水溶液、25℃)である。なお、粘度測定は、ローターNo.2を用い、回転数60rpmで行なう。
【0030】
第二のバリア剤における前記(A)成分と(B)成分の含有量は特に限定されないが、バリア性等の観点より、通常は、固形分重量比で95:5〜70:30程度である。また、本発明のバリア剤における前記(A)成分と(B)成分の合計重量%(濃度)も特に限定されないが、通常は0.1〜10重量%程度である。
【0031】
本発明のバリア剤には、適宜各種公知の添加剤を併用できる。具体的には、例えば、澱粉、ポリビニルアルコール、消泡剤、防滑剤、防腐剤、防錆剤、pH調整剤、酸化防止剤、顔料、染料、滑剤等が挙げられ、これらは1種を単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0032】
本発明のバリア剤は、各種樹脂コート紙のバリア層を形成するために用いられる。該樹脂コート紙をなす基材(原紙)としては、例えば、ポリエチレンラミネートコーティング紙、剥離紙、オフセット印刷用紙、グラビア印刷用紙、インクジェット印刷用紙、カップ原紙等が挙げられる。また、該基材をなすパルプとしては、例えば、針葉樹クラフトパルプ、広葉樹クラフトパルプ、砕木パルプ、サーモメカニカルパルプ、ケミサーモメカニカルパルプ、脱墨パルプ等が挙げられる。また、該基材を製造する際には、必要に応じて填料、サイズ剤、紙力向上剤、歩留まり向上剤、染料等が用いられていてもよい。
【0033】
バリア層は、本発明のバリア剤を各種公知の手段により前記基材(原紙)に塗工することにより形成できる。塗工手段としては、例えば、サイズプレス、ゲートロールコーター、バーコーター等が挙げられる。また、紙への塗工量は特に限定されないが、通常は乾燥固形分として0.1〜3g/m
程度、好ましくは0.05〜0.5g/m程度である。
【0034】
本発明のポリエチレンラミネートコーティング紙は、前記基材の少なくとも一方の面に本発明に係るバリア剤からなるバリア層と、ポリエチレンラミネート層とを積層したものである。なお、ポリエチレンラミネート層は、例えば、前記基材に本発明に係るバリア剤を塗工し、乾燥させた後に、ポリエチレンフィルムを溶融塗布することにより得ることができる。
【0035】
また、本発明のシリコーン剥離紙は、前記基材の少なくとも一方の面に本発明に係るバリア剤からなるバリア層と、シリコーン剥離層とを積層したものである。なお、シリコーン剥離層は、例えば、前記基材に本発明に係るバリア剤を塗工し、乾燥させた後に、シリコーン剥離剤溶液(トルエン溶液等)を塗工することにより得ることができる。
【実施例】
【0036】
以下、本発明を、実施例を通じて具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されない。なお、「%」は重量%、「部」は重量部を意味する。また、「重量平均分子量」は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(製品名「HLC8120GPC」、東ソー(株)製;使用カラム名「TSKgelSuperH−RC、TSKgel
SuperHM−L」、東ソー(株)製;展開溶媒THF)を使用して測定した、ポリスチレン換算値を意味する。
【0037】
製造例1
撹拌機、冷却管、窒素導入管および温度計を備えたフラスコに、スチレンを444部、無水マレイン酸を450部、トルエンを5549部、アジピン酸ジビニルを8.5部、ラウロイルパーオキサイド(商品名「パーロイルL」、日油(株)製)を6.5部仕込み、80〜85℃で2時間、ラジカル重合反応を実施した。反応終了後、水1350部を加えて水蒸気蒸留によりトルエンを留去した。次いで、水を2250部、および25%アンモニア水を342部加えて、共重合体中和塩(以下、(A−1)成分という)の水溶液(固形分濃度10%)を得た。当該(A−1)成分の重量平均分子量は67650であり、該水溶液のpHは6.4、粘度は1440mPa・sであった。
【0038】
製造例2
製造例1と同様のフラスコに、スチレンを444部、無水マレイン酸を450部、トルエンを5549部、57%ジビニルベンゼンを1.57部仕込んだ。ついで、反応液の温度を70℃にした後、ラウロイルパーオキサイド(商品名「パーロイルL」、日油(株)製)2.68部およびトルエン60部からなる混合液を仕込んだ。重合熱により反応温度が100℃以上に上昇した後、2時間保温し、ラジカル重合反応を実施した。反応終了後、水1350部を加えて水蒸気蒸留によりトルエンを留去した。次いで、水を2250部、および25%アンモニア水を342部加えて、共重合体中和塩(以下、(A−2)成分という)の水溶液(固形分濃度10%)を得た。当該(A−2)成分の重量平均分子量は106500、該水溶液のpHは6.4、粘度は2200mPa・sであった。
【0039】
製造例3
製造例1と同様のフラスコに、スチレンを444部、無水マレイン酸を450部、トルエンを5549部、1,6ヘキサンジオールジアクリレートを6.3部、ラウロイルパーオキサイド(商品名「パーロイルL」、日油(株)製)を6.5部仕込み、80℃〜85℃で2時間、ラジカル重合反応を実施した。反応終了後、水1350部を加えて水蒸気蒸留によりトルエンを留去した。次いで、水を2250部、および25%アンモニア水を342部加えて、共重合体中和塩(以下、(A−3)成分という)成分の水溶液(固形分濃度10%)を得た。当該(A−3)成分の重量平均分子量は72750、該水溶液のpHは6.8、粘度は1750mPa・sであった。
【0040】
製造例4
製造例1と同様のフラスコに、スチレンを444部、無水マレイン酸を360部、無水マレイン酸ノルマルブチルモノエステルを158部、トルエンを5549部、1,6ヘキサンジオールジアクリレートを6.3部、ラウロイルパーオキサイド(商品名「パーロイルL」、日油(株)製)を6.5部仕込み、80℃〜85℃で2時間、ラジカル重合反応を実施した。反応終了後、水1350部を加えて水蒸気蒸留によりトルエンを留去した。次いで、水を2300部、および25%アンモニア水を308部加えて、共重合体中和塩(以下、(A−4)成分という)成分の水溶液(固形分濃度10%)を得た。当該(A−4)成分の重量平均分子量は85000、該水溶液のpHは6.9、粘度は2210mPa・sであった。
【0041】
比較製造例1
製造例1と同様のフラスコに、スチレンを444部、無水マレイン酸を450部、トルエンを5549部、ベンゾイルパーオキサイド(商品名「ナイパーBW」、日油(株)製)を5.9部仕込み、80〜85℃で2時間、ラジカル重合反応を実施した。反応終了後、水1350部を加えて水蒸気蒸留によりトルエンを留去した。次いで、水を2250部、および25%アンモニア水を342部加えて、非架橋状共重合体中和塩の水溶液(以下、(イ)成分という。固形分濃度10%)を得た。当該(イ)成分の重量平均分子量は35400、pHは6.8、粘度は510mPa・sであった。
【0042】
【表1】



【0043】
表1中、Stはスチレン、MA−AHは無水マレイン酸、MA−nBはマレイン酸ノルマルブチルモノエステル、ADVはアジピン酸ジビニル、DVBはジビニルベンゼン、1.6HDAは1,6ヘキサンジオールアクリレートを表す。
【0044】
(B)成分として、表2に示すカルボキシメチルセルロース中和塩(B−1)〜(B−3)を用いた。
【0045】
【表2】

【0046】
表2中、セロゲン3H、セロゲンBSH6およびセロゲンMP980Cは、いずれも第一工業製薬(株)製のカルボキシメチルセルロースナトリウム塩である。また、これらのブルックフィールド粘度は、いずれも1%水溶液、25℃において、ローターNo.3を用い、回転数12rpmで測定した値である。
【0047】
また、ビスカレックスHV30は、ニチゴー・モビニール(株)製、アルカリ増粘型アクリルコポリマーエマルジョン(固形分1.0重量%、pH8.9)である。また、KW−504とは、荒川化学工業(株)製のポリアクリルアミド系ポリマー水溶液(固形分1.0重量%)である。なお、いずれについても粘度測定は、25℃、ローターNo.3、回転数12rpmで行なったブルックフィールド値である。
【0048】
実施例1〜4
前記(A−1)〜(A−4)の各水溶液をそのままバリア剤として用いた。
【0049】
実施例5〜20
前記(A−1)成分と、(B―1)成分とを、固形分重量比で90:10となるように混合し、バリア剤を調製した。ついでその外観を目視評価し、以下の基準で相溶性を判断した。また、表3で示す組み合わせについても同様にて評価した。結果を表3に示す。
○:25℃で1日間放置しても分離せず
○△:25℃で12時間放置後に分離する。
×:25℃で混合した直後に分離する
【0050】
比較例1〜4
前記(B−1)成分〜(B−3)成分の各水溶液、および前記(イ)成分の水溶液を、そのままバリア剤として用いた。
【0051】
比較例5〜7
前記(イ)成分の水溶液と、前記(B−1)成分の水溶液とを、固形分重量比で90:10となるように混合し、バリア剤を調製した。また、前記(A−3)成分の水溶液と、前記ビスカレックスHV30とを固形分重量比で90:10となるように混合し、バリア剤を調製した。また、前記(A−3)成分の水溶液と、前記KW−504とを同様にして混合し、相溶性を判断した。ついで、それぞれについて外観を目視評価し、前記基準で相溶性を評価した。結果を表3に示す。
【0052】
(塗工紙の作成)
各実施例、比較例のバリア剤を、中性上質原紙(坪量92g/m)と酸性上質未塗工原紙(坪量72g/m)の片面に、バーコーターNo.4を用いて、塗工量が固形分換算で約0.25g/mとなるように塗工した。次いで、得られた塗工紙を105℃で1分間乾燥し、23℃および50%RHの雰囲気中で24時間調湿することにより、試験用塗工紙を得た。また、表3で示す組合せにより、他の試験用塗工紙を得た。
【0053】
(バリア性)
各試験用塗工紙について、王研式平滑度透気度試験器を用い、JIS P8117に準じて透気度を測定した。また、中性上質原紙および酸性上質原紙自体について、ブランク試験を実施した(参照例1および2)。透気度はバリア性の指標となる。結果を表3に示す。
【0054】
(耐溶剤性)
各試験用紙の塗工面にトルエンを5μL滴下し、液滴が完全に浸透するまでの時間を測定した。また、中性上質原紙および酸性上質原紙自体について、ブランク試験を実施した。結果を表3に示す。
【0055】
(耐水性)
各試験用紙の塗工面に脱イオン水滴下量は5μLを滴下し、J.Tappi No32−2吸水性試験に準じて、液滴が完全に浸透するまでの時間を測定した。また、中性上質原紙および酸性上質原紙自体について、ブランク試験を実施した。結果を表3に示す。
【0056】
【表3】






【特許請求の範囲】
【請求項1】
スチレン類(a1)、α,β不飽和ジカルボン酸類(a2)、および多官能ビニルモノマー(a3)を含む単量体群を重合してなる共重合体中和塩(A)を含有する樹脂コート紙用バリア剤。
【請求項2】
α,β不飽和ジカルボン酸類(a2)がマレイン酸、無水マレイン酸、およびマレイン酸エステルからなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項1に記載の樹脂コート紙用バリア剤。
【請求項3】
多官能ビニルモノマー(a3)が、2〜4官能性のビニルモノマーである、請求項1または2に記載の樹脂コート紙用バリア剤。
【請求項4】
共重合体中和塩(A)をなす共重合体が、連鎖移動性有機溶媒中で製造されたものである、請求項1〜3のいずれかに記載の樹脂コート紙用バリア剤。
【請求項5】
連鎖移動性有機溶媒がトルエンである、請求項4に記載の樹脂コート紙用バリア剤。
【請求項6】
共重合体中和塩(A)の数平均分子量が10000〜2000000である、請求項1〜5のいずれかに記載の樹脂コート紙用バリア剤。
【請求項7】
共重合体中和塩(A)のブルックフィールド粘度が、1000〜5000mPa.s(10重量%水溶液、25℃)であることを特徴とする、請求項1〜6のいずれかに記載の樹脂コート紙用バリア剤。
【請求項8】
さらに、カルボキシメチルセルロース中和塩(B)を含有する、請求項1〜7のいずれかに記載の樹脂コート紙用バリア剤。
【請求項9】
カルボキシメチルセルロース中和塩(B)のブルックフィールド粘度が、1000〜20000mPa.s(1重量%水溶液、25℃)であることを特徴とする、請求項8に記載の樹脂コート紙用バリア剤。
【請求項10】
共重合体中和塩(A)とカルボキシメチルセルロース中和塩(B)の含有量が、固形分重量比で95:5〜70:30であることを特徴とする、請求項8または9に記載の樹脂コート紙用バリア剤。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれかに記載の樹脂コート紙用バリア剤をバリア層としてなる、ポリエチレンラミネートコーティング紙。
【請求項12】
請求項1〜10のいずれかに記載の樹脂コート紙用バリア剤をバリア層としてなる、シリコーン剥離紙。

【公開番号】特開2009−209508(P2009−209508A)
【公開日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−250721(P2008−250721)
【出願日】平成20年9月29日(2008.9.29)
【出願人】(000168414)荒川化学工業株式会社 (301)
【Fターム(参考)】