説明

気液溶解装置

【課題】 装置の高さを低くすることが可能な気液溶解装置を提供すること。
【解決手段】気液混相流体を撹拌して気体成分を液体に溶解させる撹拌溶解室6と、撹拌溶解室6の下に連通し、気液混相流体を送出する逃がし孔71を下部に設けた整流室7と、気液混相流体を貯留して液体を気体から分離する気液分離室8と、気液分離室8で分離された気体を脱気するガス抜孔81と、気液分離室8で分離された気体溶存濃度を高めた液体を排出する吐出口82と、気液分離室8内に配し、開放された上部を有し上部にいくに従って先細りに形成して気液混相流体の旋回流を生じさせる隔壁体9と、を有し、撹拌溶解室6は、下面中心部が開口した扁平な円筒形状であって、中心から所定距離離れた位置より側面へ向けて延伸する邪魔板62を軸対称に複数設けて乱流ないし噴流を発生させるようにした気液溶解装置1。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気体成分を高濃度に溶かし込んだ液体を連続的に生成する気液溶解装置に関し、特に、水深の浅い水中への設置も可能な高さの低い気液溶解装置に関する。
【背景技術】
【0002】
内湾や河川下流といった海水や汽水域の底層、または、ダムや湖沼といった淡水域の底層には、陸上から流入する生活廃水や農耕廃水に起因した有機物、または、この有機物を栄養源として増殖した水生植物やプランクトンの遺骸が堆積している。これらの有機物や堆積物は、底層水中の酸素を消費しながら分解しているため、底層には貧酸素化した水域が発生する。
【0003】
貧酸素化した水域とは、酸素の溶存濃度(DO値)が3mg/l以下の領域をいい、これは水面付近の10mg/lより遙かに低い値である。特に、貧酸素化した水域は、新たに流入する有機物がさらに堆積していくため、水質悪化の悪循環に陥る。
【0004】
底層の貧酸素化は、水質環境に様々な悪影響を及ぼすことが知られている。例えば、底層が貧酸素な状態であると底生生物が死滅してしまう場合がある。また、底層が貧酸素化すると、還元雰囲気となり、周辺岩石やヘドロから金属が溶出し水質の悪化を招く場合もある。
【0005】
このような貧酸素状態を解消するため、本願発明者らにより出願された再表2005/075365「気液溶解装置」や特開2007−075749「気液溶解装置」に開示される技術が知られている。これらの装置によれば、貧酸素化した水域の溶存酸素濃度を著しく高めることができる(図6参照)。
【0006】
特に、上記装置では、
1)気体成分が高濃度に溶存し泡を含まない液体を安定的かつ連続的に供給可能となる、
2)気泡による底質の巻き上げを防止して貧酸素化した水域の酸素濃度を効率よく高めることができる、
3)気体と液体の溶解効率を高め、溶解しなかった気体の分離効率を高めることができる、
という画期的な作用効果を奏する。
【0007】
ここで、装置を水中に設置する場合、例えば、装置の頭が水上に出てしまうと、風や波の影響を受けやすく装置の安定的な駆動が妨げられる可能性がある。また、装置の頭が水上にあると、水圧の関係から、装置へ気液混相流体を供給する供給部に高出力のポンプが必要となり、装置構成や制御が大がかりとなってしまう場合がある。従って、装置を水中に設置する場合には、装置を水中に完全に沈めて駆動したいという潜在的な要請が存在する。
【0008】
一方で、従来の上記装置では、気体成分(酸素)を液体に溶解させるべく、ドーム状ないし半球状の構造を上部に設けるため、ある程度の高さが必要となる。
【0009】
加えて、海水では気泡が微細化しやすく、また、微細化した気泡は表面張力の関係で短時間では大きな気泡にまとまらないので、気液分離のために装置の鉛直方向の長さを長くとる必要がある。
【0010】
すなわち、従来の装置では、ある程度の装置の高さが必要となり、浅瀬、特に水深の浅い海には設置しづらいという問題点があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】再表2005/075365
【特許文献2】特開2007−075749
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は上記に鑑みてなされたものであって、従来装置と同等の出力性能を維持しつつ装置の高さを低くすることが可能な改良型の気液溶解装置を提供することを目的とする。
【0013】
例えば、DO値20mg/lの高濃度に酸素の溶存した海水を毎分2000l吐出する気液溶解装置全体の高さは3.6メートル程になる。よって、本発明では、これより水深が浅くとも設置を可能とする装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
請求項1に記載の気液溶解装置は、液体と気体の気液混相流体を供給する供給部と、気液混相流体を撹拌して気体成分を液体に溶解させる撹拌溶解室と、撹拌溶解室の下に連通し、気液混相流体を送出する逃がし孔を下部に設けた整流室と、整流室に貫入し、供給部が供給する気液混相流体を撹拌溶解室へ向けて上向きに噴出させるノズルと、撹拌溶解室および整流室を収容し、気液混相流体を貯留して液体を気体から分離する気液分離室と、気液分離室で分離された気体を脱気する脱気部と、気液分離室で分離された気体溶存濃度を高めた液体を排出する排出部と、気液分離室と、整流室および撹拌溶解室と、の間に配し、開放された上部を有し上部にいくに従って先細りに形成して気液混相流体の旋回流を生じさせる隔壁体と、を有し、撹拌溶解室は、下面中心部が開口した扁平な円筒形状ないし軸対称形状であって、中心から所定距離離れた位置より側面へ向けて延伸する邪魔板を軸対称に複数設けて乱流ないし噴流を発生させるようにしたことを特徴とする。
【0015】
すなわち、請求項1にかかる発明は、液体中の気体成分の溶存濃度を従来型と同程度に高めつつ装置の高さを低くすることができる。詳細には、邪魔板により乱流ないし噴流を積極的に発生させて液体と気体との接触面積および接触機会を高め、気体の溶解を促進することにより撹拌溶解室の高さを抑え、また、旋回流を発生させることにより微細気泡を効率的に収束させて流路長を短くし、一層の高さ抑制を実現する。このとき、先細り形状により上部にいくに従って旋回流の流速を増加させ、微細気泡の収束効率をなお一層高めるので、この点からも流路長さの短縮、すなわち高さ抑制を実現する。なお、撹拌溶解室では、下面を設けることにより流体の室内停留効率を高め、また、開口部を下面中心部に設けることにより、気液混相流が整流室の内側面を伝って直に逃がし孔から勢いよく流出するようなことがなく、逆に、ノズルからの上向きの流れとぶつかるようにしているため、気体の接触機会をさらに大きくして溶解効率を高めている。
【0016】
なお、上、下とは、それぞれ、装置を設置したときの鉛直上方側と、鉛直下方側をいう。供給部は、機能的に、気液混相流体をノズルへ供給できればその構成は特に限定されず、例えば、液体の供給部と気体の供給部が直接ノズルに接続される場合も含むものとする。側面へ向けて延伸するとは、部分的な仕切を意味し、邪魔板が側面に到達して仕切り塞ぐことを意味しない。これにより、隣とつながった部分ができ、逃げ道を求めながら気液混相流体が室内に停留するので効率的に乱流ないし噴流が生成される。なお、下面中心部が開口したとは、下面中心部分のみが開口しているということに限定されない。また、整流室の逃がし孔の径および個数は、旋回流が効率的に形成されるように適宜設計するものとする。
【0017】
なお、本発明による気液溶解装置を用いた高濃度酸素溶解水は、従来のように強制的にガス(空気または酸素)を溶解させるべく内圧を雰囲気圧力より過度に高圧にして生成したものではないので、貧酸素水域に戻しても圧力開放に基づく気泡が析出しない。また、高圧タンクのような密閉した反応容器や、その内圧および水位を制御するための設備も不要となり、装置自体の簡素化を図ることも可能となる。なお、気液混相流体を噴出させるための加圧(例えばプラス1気圧程度の加圧)は、水流を作るために必要であって前述した過度の高圧とするための加圧機構には該当しない。なお、以降では水とは、河川、湖沼やダムの水といった塩分を含まない水の他、海水や汽水といった塩分を含む水も含むものとする。特に、塩分を含む水(海水や汽水)は気泡が微細化しやすく、また微細化した気泡は接合しにくく短時間ではより大きな気泡にまとまっていかない。本発明によれば、旋回流により微細気泡を効率的にまとめることができる。
【0018】
請求項2に記載の気液混相流体は、請求項1に記載の気液溶解装置において、隔壁体の先細りに開放された上部を、撹拌溶解室側にも延伸した管状に形成したことを特徴とする。
【0019】
すなわち、請求項2にかかる発明は、旋回流が早まり、気泡の収束効率が高まり、装置の高さをより低くすることができる。
【0020】
請求項3に記載の気液溶解装置は、請求項1または2に記載の気液溶解装置において、撹拌溶解室の高さと長径との比を、高さ/長径=1/2〜1/8としたことを特徴とする。
【0021】
すなわち、請求項3にかかる発明は、溶存効率を維持しつつ装置高さの設計自由度を高める。ここで、高さ/長径=1/2より大きくなると装置高の抑制効果が小さくなり、また、高さ/長径=1/8より小さくなると撹拌効率が小さくなる。よって、本発明では、高さ/長径=1/2〜1/8としている。なお、長径とは、撹拌溶解室の水平方向の長さの最も長い部分をいう。撹拌溶解室が例えば円筒形であれば長径とは直径を意味する。
【0022】
請求項4に記載の気液溶解装置は、請求項1、2または3に記載の気液溶解装置において、邪魔板は、撹拌溶解室の径方向に対して所定の角度をつけて配置したことを特徴とする。
【0023】
すなわち、請求項4にかかる発明は、一定方向の巨視的な流れが生じるため、撹拌効率が高まり、装置の高さをより低くすることができる。
【0024】
請求項5に記載の気液溶解装置は、請求項1〜4のいずれか一つに記載の気液溶解装置において、邪魔板が撹拌溶解室の上面にも下面にも接合した構造であることを特徴とする。
【0025】
すなわち、請求項5にかかる発明は、噴流等により内圧が高くなる構造であっても、邪魔板が撹拌溶解室の強度を高めるため、装置の寿命を長くすることができる。
【0026】
請求項6に記載の気液溶解装置は、請求項1〜5のいずれか一つに記載の気液溶解装置において、隔壁体の内面、および/または、撹拌溶解室と整流室の外面を、円筒形状ないし軸対称形状に形成したことを特徴とする。
【0027】
すなわち、請求項6にかかる発明は、停留なく旋回流が円滑に上昇し、気泡の収束効率をより高める。なお、円筒形状ないし軸対称形状とは、例えば、撹拌溶解室と整流室の外面に関しては、上部が半球形、側面が円柱形であるような場合をはじめとし、整流室の軸に垂直な断面の外形が円であって軸に沿って径が異なる場合を含むものとする。同様に、隔壁体の内面に関しては、中空円錐形状をはじめとし、軸を共通にした径の異なる中空円柱の結合体や、軸を共通にした径の異なる中空円柱を中空円錐でつないだようなものも含むものとする。
【0028】
請求項7に記載の気液溶解装置は、請求項1〜6のいずれか一つに記載の気液溶解装置において、逃がし孔は、整流室の径方向に対して所定の角度をつけて穿孔したことを特徴とする。
【0029】
すなわち、請求項7にかかる発明は、整流室の厚みを利用して、気液混相流体の出だしから旋回流を速やかに形成させ、気泡の収束効率をより高めて、装置の高さをより低くすることができる。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、従来装置と同等の出力性能を維持しつつ、浅瀬、特に水深の浅い海であっても設置が可能な気液溶解装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本実施の形態の気液溶解装置を海の浅い場所に設置した概要図である。
【図2】本実施の形態の気液溶解装置の主要部分の概略構成例を示した断面図である。
【図3】本実施の形態の気液溶解装置の撹拌溶解室の平面図である。
【図4】整流室下部に設けられた孔部分を含む装置断面図である。
【図5】従来型の気液溶解装置の構成例を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は、本実施の形態の気液溶解装置を海の浅い場所に設置した概要図である。図2は、本実施の形態の気液溶解装置の主要部分の概略構成例を示した断面図である。図3は、本実施の形態の気液溶解装置の撹拌溶解室の平面図である。図4は、整流室下部に設けられた孔部分を含む装置断面図である。
【0033】
気液溶解装置1は、内湾Aの貧酸素水域Bから海水を取り込むポンプ3と、酸素を含んだガス(以下、酸素ガスと適宜称する。またこの酸素ガスとして空気を用いることができる。)を供給する酸素供給部4と、海水とガスとを上向きに噴出させるノズル5と、噴出された気液混相流体を撹拌して酸素を海水に溶解させる撹拌溶解室6と、撹拌溶解室6の下に一体的に連結された整流室7と、撹拌溶解室6および整流室7を内包し、溶解しなかった気体を溶存酸素濃度の高まった海水から分離する気液分離室8と、を有する。また、気液分離室8内には、整流室7からの気液混相流体に旋回流を生じさせる隔壁体9を設けている。
【0034】
次に主要部を解説する。撹拌溶解室6は、上面と下面を有する扁平な円筒形状であって高さ:直径を1:5としている。下面中心には、半径程度の孔61が空けられている。この孔61の中心(円筒中心)よりノズル5からの気液混相流体が流入し、また、孔61の外周部から室内で撹拌された気液混相流体が排出される。流体の出入口を一箇所としているので、室内で撹拌された気液混相流体の一部はノズル5からの流れに乗り再び内部に流入し再撹拌され、溶存濃度の向上に寄与する。
【0035】
また、撹拌溶解室6は、図3に示したように、邪魔板62を軸対称に4枚備える。この邪魔板62は、孔61の縁から径方向に対して直角に内周面付近まで延伸し、上下は撹拌溶解室6の上面と下面に接合している。各撹拌室63は中心でも外側でも連通し、図に示した邪魔板62の並びでは右回りの乱流が生じる。これにより、気体と液体の接触機会は重畳的に高まり、溶存酸素濃度が向上する。また、邪魔板62が上下に接合された構造であるため、撹拌溶解室6の強度も高まる。
【0036】
整流室7は、撹拌溶解室6の下に連結した同径の有底円筒形状である。見方を変えれば、整流室7の下面は、両室を連通する有孔の仕切板ということができる。整流室7の下部には、気液混相流体を送出する逃がし孔71を軸対称に2箇所設けている。整流室7内部は、付勢されて撹拌溶解室6から流れ出る気液混相流体の第1整流路の役割を果たし、また、整流室7外面と隔壁体9内面で形成される空間は旋回流を生じさせる第2整流路の役割を果たす。逃がし孔71は、径方向に対して45°の角度で気液混相流体を気液分離室8に送出する。
【0037】
気液分離室8は、円筒にドームが接合した形状であって、撹拌溶解室6と整流室7とを軸を共通にして収容し、かつ、その底面も整流室7の底面および隔壁体9の底面と共通にした構成としている。また、ドーム上部中心にはガス抜孔81を設け、最終的に気体として海水に溶けずに残ったガスを放出または再利用可能にしている。底面外周付近には吐出口82を設け、高濃度酸素溶解水を貧酸素水域Bに送り出すようにしている。なお、気液分離室8上部がドーム形状であるため、溶存酸素濃度の高まった海水はその内側面に沿って円滑に吐出口82に導かれる。
【0038】
隔壁体9は、円筒に切頭円錐が接合された形状である。逃がし孔71には角度がついているので、ここから送出される気液混相流体は中心軸を中心として旋回しながら上昇する。隔壁体9は上述のように先細りに形成されているので、旋回流は上にいくに従って加速されることとなる。これにより、まとまりにくい海水中の微細気泡が遠心効果によって軸中心で束となり、気泡の柱が形成され、そのまま真上のガス抜孔81から排出される。
【0039】
また、隔壁体9の上部先端には筒体91を設けている。この筒体91は、撹拌溶解室6側にも突き出すようにしている。本願発明者が鋭意検討した結果、このように内側に突き出させると、微細気泡の収束効率が高まり、隔壁体9の外側には微細気泡がほとんど漏出せず、一部漏出した場合でも気液分離室8上部に留まることを確認した。従って、筒体91を設けることにより、気液の分離効率を高めることができる。
【0040】
なお、ノズル5は整流室7の軸中心に一致させて鉛直上向きに据える。先端は、撹拌溶解室6の下面付近に位置させるようにし、貧酸素水と酸素ガスとが混合した気液混相流体がある程度の水圧を以て撹拌溶解室6に向けて噴出させる。
【0041】
以上説明したように、気液溶解装置1は、従来はドーム状ないし半球状としていた気液溶解室(特許文献1および特許文献2参照)を、邪魔板62で区画した扁平な円筒形状および整流室7に置換でき、また、隔壁体9の先細り形状と筒体91とにより強力な遠心力を発生させて微細気泡の分離効率を高め流路短縮を実現し、これらにより装置の高さを抑制可能としている。この結果、水深の浅い海底にも総て浸からせることのできる装置を実現可能にしている。
【0042】
なお、本発明は、上記の構成に限定されることなく種々の形態を採用することができる。例えば、ノズル5は海水の噴出圧を利用して負圧を作り空気を自給させるようにしてもよい。この構成では、送気用ポンプが不要となり、空気の供給管の他端を取り回して水面より上にもってくるだけで空気供給が可能となる。なお、大気圧との関係から気液溶解装置の設置深さに制約が生じるが、本発明による気液溶解装置は、水深数mの浅瀬の設置を想定しているので不具合は生じず、むしろ装置構成を簡素化できるため好適である。
【0043】
この他、邪魔板62の数や逃がし孔71の数も適宜変更してもよい。隔壁体9の形状も先細りとするのであれば図示した以外の形状としてもよい。
【0044】
次に、気液溶解装置1の処理動作を以下に説明する。まず、ポンプ3を作動させて、貧酸素水域Bの海水を取り込みノズル5へと供給する。これと同時に、酸素供給部4が酸素ガスをノズル5へと供給する。供給された海水と酸素ガスとはノズル5内で気液混相流体を形成し、撹拌溶解室6へ向けて勢いよく噴出される。
【0045】
気液混相流体は、撹拌溶解室6の上面に衝突したのち径方向に広がり、邪魔板62により付勢され、各撹拌室63内で撹拌されるとともに隣の撹拌室63にも移動し、巨視的に旋回する乱流となる。この複雑な流れにより、気液混相流体中の酸素ガスは極めて細かな気泡となり、接触面積を著しく増大して海水と激しく幾度も接触する。
【0046】
また、撹拌溶解室6の孔61から下降しようとする気液混相流体とノズル5から噴出する気液混相流体とが衝突し、更なる接触および撹拌が起こる。これらにより、酸素ガスが海水に効率的に溶解し、撹拌溶解室6内で高濃度酸素溶解水が生成される。
【0047】
高濃度酸素溶解水は、水に溶けなかった酸素ガスの微細気泡と混在した状態で、勢いを弱めながら整流室7内で下降し、孔71を通って気液分離室8へと移動する。ここで、孔71は整流室7の下部側面に設けられているので、比較的大きな気泡は整流室7上部に残留し、微細気泡と高濃度酸素溶解水が気液分離室8へ移動することとなる。いわば、整流室7は、激しい水流を上部に閉じこめ、噴流が気液分離室8に出ないように整流して、泡が気液分離室8内で踊ってしまわないように流体を送り出す部位である。
【0048】
逃がし孔71から送出された気液混相流は、隔壁体9の作用により軸を中心とした旋回流を形成し順次上昇していく。撹拌溶解室6上部では隔壁体9の先細り形状により旋回流が加速され、遠心力および筒体91の作用により渦流が生じ、中心軸にそって微細気泡が束ねられる。この気泡の柱は、そのまま筒体91を通り抜け、竜巻状となってガス抜孔81から排出される。
【0049】
一方、微細気泡が取り除かれ溶存酸素濃度が高まった海水は、気液分離室8のドーム内面および円筒内側周を伝って静かに下降し吐出口82から排出される。これにより、気泡に基づく上昇水流が発生して底質を巻き上げてしまうことなく、溶存酸素濃度を高めた海水が定常的に供給される。
【0050】
<実験例>
特許文献2に開示される、上部がドーム状の従来型の気液溶解装置と、上述の改良型の気液溶解装置とを、そのドーム状部分の容積と撹拌溶解室との容積が同じとなるように作成して比較実験をおこなった。従来型で、気液溶解室の高さを1900mm、直径を820mmとして、ノズルからの気液混相流体の送出量を海水100l/分、酸素3ml/分として供給したところ、海水温18℃で7mg/lであったDO値は約22mg/lとなった。
【0051】
一方、改良型を、撹拌溶解室および整流室の高さを700mm(うち撹拌溶解室の高さ135mm)、直径を720mmとして、同一のノズルを用いて気液混相流体を送出したところ、DO値は同じ約22mg/lとなって性能に違いがないことを確認した。なお、筒体はφ216mm×390mmとした。
【0052】
この実験結果から、改良型では、高さを著しく低くできることを確認できた。なお、気液分離室を含めても、従来型ではおよそ高さが2500mm程度となるところ、新型では高さを1200mm程度とすることができることを確認した(いずれも、気液溶解室(新型の場合は整流室)、隔壁体の共通底面からの高さの場合)。すなわち、本発明によれば、装置主要部の高さを半分以下にすることができることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明を利用して、汽水湖やダム湖、または、閉鎖性海域(海水の出入りの少ない海域)を改質することができる。また、浅瀬に設置できるので、設営やメンテナンスコストを抑制することも可能となる。
【符号の説明】
【0054】
1 気液溶解装置
3 ポンプ
4 酸素供給部
5 ノズル
6 撹拌溶解室
61 孔
62 邪魔板
63 撹拌室
7 整流室
71 逃がし孔
8 気液分離室
81 ガス抜孔
82 吐出口
9 隔壁体
91 筒体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体と気体の気液混相流体を供給する供給部と、
気液混相流体を撹拌して気体成分を液体に溶解させる撹拌溶解室と、
撹拌溶解室の下に連通し、気液混相流体を送出する逃がし孔を下部に設けた整流室と、
整流室に貫入し、供給部が供給する気液混相流体を撹拌溶解室へ向けて上向きに噴出させるノズルと、
撹拌溶解室および整流室を収容し、気液混相流体を貯留して液体を気体から分離する気液分離室と、
気液分離室で分離された気体を脱気する脱気部と、
気液分離室で分離された気体溶存濃度を高めた液体を排出する排出部と、
気液分離室と、整流室および撹拌溶解室と、の間に配し、開放された上部を有し上部にいくに従って先細りに形成して気液混相流体の旋回流を生じさせる隔壁体と、
を有し、
撹拌溶解室は、下面中心部が開口した扁平な円筒形状ないし軸対称形状であって、中心から所定距離離れた位置より側面へ向けて延伸する邪魔板を軸対称に複数設けて乱流ないし噴流を発生させるようにしたことを特徴とする気液溶解装置。
【請求項2】
隔壁体の先細りに開放された上部を、撹拌溶解室側にも延伸した管状に形成したことを特徴とする請求項1に記載の気液溶解装置。
【請求項3】
撹拌溶解室の高さと長径との比を、高さ/長径=1/2〜1/8としたことを特徴とする請求項1または2に記載の気液溶解装置。
【請求項4】
邪魔板は、撹拌溶解室の径方向に対して所定の角度をつけて配置したことを特徴とする請求項1、2または3に記載の気液溶解装置。
【請求項5】
邪魔板が撹拌溶解室の上面にも下面にも接合した構造であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一つに記載の気液溶解装置。
【請求項6】
隔壁体の内面、および/または、撹拌溶解室と整流室の外面を、円筒形状ないし軸対称形状に形成したことを特徴とする請求項1〜5のいずれか一つに記載の気液溶解装置。
【請求項7】
逃がし孔は、整流室の径方向に対して所定の角度をつけて穿孔したことを特徴とする請求項1〜6のいずれか一つに記載の気液溶解装置。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−101867(P2011−101867A)
【公開日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−258407(P2009−258407)
【出願日】平成21年11月11日(2009.11.11)
【出願人】(500500446)松江土建株式会社 (11)
【Fターム(参考)】