説明

水田用除草具

【課題】田植え後二週間以上たって根が張った雑草でも、大掛かりな農業機械を使用することなく容易に除草ができ、米生産者の労力軽減に資する水田用除草具を廉価に製作可能とする技術の提供。
【解決手段】持ち手部20と作土層浮体板部30と雑草抜脱部40とからなる水田用除草具10であって、持ち手部と作土層浮体板部は、取り付け角度調整機構50及び固定機構60を介して傾動及び固定可能に結合され、作土層浮体板部は、水田における苗の株間又は条間方向を長手方向とする略長方平板形状の四隅に面取り及びアール加工が施され、持ち手部と雑草抜脱部とを合わせた重量及び浮力との関係で田面水に沈み作土層に浮く板状体であり、雑草抜脱部は、抜脱用ワイヤー70と、該抜脱用ワイヤーを作土層浮体板部の底面に張着状態で横架垂設するための二本の突出軸80から構成され、該一組以上の雑草抜脱部が、作土層浮体板部の底面に具設される水田用除草具とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は水田用除草具に関する。
【背景技術】
【0002】
米は、日本人の健康にとってかけがえがないものであり、まぎれもなく主食と言えるものである。米の蛋白質含有量はパンよりやや少ないが、米の蛋白質には人体に必要なアミノ酸が9割近く含まれ、1日3合食べればカロリーの必要量も満たすことができ、日本の伝統食といえる米を主食とすることは、ヒトの食性から言っても理に叶って健康的であり、世界的にも注目されている。また、我が国では、主食として食べる他にも、酒や餅、味噌、醤油などの日本を代表するとも言うべき調味料や加工食品の原料としても用いられ、日本国民にとっては欠かせない食材である。
【0003】
米作りは、まず田んぼに肥料を入れて寝かせ、大切な苗を健康に育てられるように土作りをすることから始まり、次に、育てた苗を水田に植えかえて、健康で上部な稲に育てていく。この過程において、良質の米を作るために重要なのは除草作業である。雑草の発生は水田の栄養分を余計に消費し、また、稲への日照の妨げにもなるからであり、良い米作りは除草作業を惜しむことが許されない。しかし、除草作業は米の生産過程において最も過酷な重労働であり、係る除草作業の負担をいかに軽減できるかは、米の生産に従事する者にとって大きな課題といえる。特に、農業後継者が少なく、農場従事者の平均年齢が50代中盤の我が国では、高齢の方の体力的労働負担や、腰痛などの健康上の負担も大きいものとなっている。
【0004】
このような労力等の軽減手段としては、水田除草剤を用いることが考えられる。しかし、近年においては、農薬や化学肥料を用いない米に人気があり、市場ニーズに応える必要がある。特にオーガニック米などでは高額であっても需要があるため、多くの米生産者は無農薬、有機栽培へと移行している現状にある。また、機械による除草方法もあるが、水田の規模等によっては費用的負担が大きくなり過ぎるという問題がある。
【0005】
そこで、これまでも無農薬・有機栽培の除草方法として、いろいろな方法が米の生産者により取り入れられてきた。例えば、水を濁らせて光合成を阻害し、雑草の発生を抑制するために、コイやアイガモを水田に放す方法がある。これは、コイが土中のエサを求めて土壌表面を盛んに撹拌する行動を利用したり、アイガモの足の動きによって水を濁らせることを上手く利用したものである。また、アイガモは雑草の種子や直接雑草を食べ、足の動きによって雑草を根ごと浮かせることで枯れさせたり、雑草を土中に踏みこんで枯れさせてくれるなど有効な除草方法といえる。
【0006】
しかし、田植え後二週間以上たって根が張った雑草は、水を濁らせてもその育成を抑制できず、また、土をかき混ぜても根ごと浮き上がらせることもできず、引き抜くか土中に埋め込んで雑草の成長を抑止するしかない。
【0007】
そこで、係る問題に鑑み、種々の技術が提案されている。例えば、従来の三角鍬の機能に加えて、草抜き作業のできる構造と、かき集める作業のできる構造を備えて、多目的に対応できる農具がある(特許文献1参照)。係る技術によれば、軽い農具を使って、しかも立った姿勢で根こそぎ抜き取る事ができ、更には同一農具で抜いた雑草をかき集める事ができて大きく労力の軽減につながる効果を狙ったものである。しかしながら、係る技術では同一範囲の株間または条間を一回の往復では除草できず、複数回の往復が必要であり時間がかかる。また、V字型の切り込み両サイドの面積が広いため、鍬が作土層に入った状態で前後に動かすには抵抗があり、大きな力が必要になってしまう。さらに、係る技術は、V字型の切り込みにより雑草を引っかけて抜脱させようとするものであるが、水田に発生する多くの雑草は、根の成長をまず下方向に向けるものが大半であり、先端の切り込みが縦方向である当該技術では、ほとんど引っかからないものと考えられる。
【0008】
さらに、前進に伴って水田土壌から除草した雑草を水中に浮遊させて枯死する方式の除草を可能とした除草機と、水田に米糠を散布して水田土壌の表面に米糠による還元層を形成するための米糠散布機とをトラクタに搭載した水田の除草装置がある(特許文献2参照)。係る技術も立ったままの楽な姿勢で、除草作業ができる効果がある。しかしながら、係る技術は、除草機の構造が回転する除草爪 によって土壌表面から抜き取るものであるため、苗を傷つけやすいという問題があり、また、機械機によると装置購入に費用がかかるという前記問題の解決を図ることができない。
【0009】
またさらに、左右一対の中心に傾斜した、上部が円錐堆状の外面に有する複数の羽根が傘状を成し、羽根と羽根との間の土を縦軸による回転で連続的に移動させることで株間の除草をする回転羽根、及び、複数の傘状の羽根が全て下方に直線状に開き、土と接しても突起や凹みが無いことで草や根等の異物が引っかからないことを特徴とする前記記載の水田用株間除草回転羽根もある(特許文献3参照)。係る技術は手作業で草を取る重労働作業が楽にできるようになったこと、また草や根等の異物が絡まりにくく、幼い稲を傷つけにくくなるなどの効果を狙ったものである。しかしながら、回転羽根が苗に接触すれば、苗を痛めてしまうことは避けられないし、苗自体までも浮かせてしまう原因となるおそれもある。また、回転羽根が作土層に作用しているのは苗周辺付近のみであり、株間または条間を広範囲に除草できないという問題がある。
【0010】
さらにまた、株間の除草を、先端に錘部材を設け、そこにある噴出穴から空気などを噴出させて田の土壌表面をかき回して雑草が土壌から離れる、或いは土壌表面そのものが雑草の根ごと水中に舞い上げて雑草を除去する技術がある。係る技術によれば、稲株が活着不十分の時期でも、回転などのような機械的な攪拌の場合と異なり、稲を浮きあがらせてしまうという問題を回避した除草作業ができる。しかしながら、田植え後二週間以上たって根が張った雑草では、田面水を空気でかき混ぜても根ごと浮き上がらせることはできず、また、装置購入に費用がかかるという前記問題の解決を図ることができない。
【0011】
上記問題点を整理すると、大きく二つの問題が解決されていないといえる。一つは人的作業による場合の労力軽減に資する除草具の技術提案として、その効果が十分といえるものが未だに存在しないということ。一つは機械化により労力軽減を図ろうとする手段では費用がかかってしまうということである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】実用新案登録第3119843号公報
【特許文献2】特開2004-180628号公報
【特許文献3】特開2005-13170号公報
【特許文献4】特開2008-22722号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、前記問題に鑑み、田植え後二週間以上たって根が張った雑草でも、大掛かりな農業機械を使用することなく容易に除草ができ、米生産者の労力軽減に資する水田用除草具を廉価に製作可能とする技術の提供を図るものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
請求項1に係る発明は、持ち手部と、作土層浮体板部と、雑草抜脱部と、からなる水田用除草具であって、前記持ち手部と前記作土層浮体板部は、取り付け角度調整機構及び固定機構を介して、傾動及び固定可能に結合され、前記作土層浮体板部は、水田における苗の株間又は条間方向を長手方向とする略長方平板形状の四隅に面取り及びアール加工が施され、持ち手部と雑草抜脱部とを合わせた重量及び浮力との関係で田面水に沈み作土層に浮く板状体であり、前記雑草抜脱部は、抜脱用ワイヤーと、該抜脱用ワイヤーを前記作土層浮体板部の底面に張着状態で横架垂設するための二本の突出軸から構成され、前記一組以上の雑草抜脱部が、前記作土層浮体板部の底面に具設されている構成の水田用除草具とした。なお、本書面において、前記作土層浮体板部の縦方向とは、水田における苗の株間又は条間方向を長手方向を意味し、横方向とはこれに対する垂直方向を意味するものとする。
【0015】
また、請求項2に係る発明は、前記雑草抜脱部において、前記抜脱用ワイヤーの深さを調整可能にするために、前記突出軸の突出量を調整可能な深さ調整機構が設けられている構成の水田用除草具とした。
【0016】
また、請求項3に係る発明は、前記深さ調整機構が、作土層浮体板部の上面部に設けるフランジと略キャップ形状の締付カラーから成り、前記フランジは、前記突出軸を摺動可能に挿入するための貫通穴を有し、小径軸部の軸方向先端がテーパー状に形成され、周壁には軸方向にスリットを複数有し、外周面には雄ネジが形成され、前記締付カラーは、内周壁に前記雄ネジと組み合わされる雌ネジと、前記フランジ小径軸部の軸方向先端に形設されたテーパー軸部と対応するテーパ軸受部が形設され、該締付カラーの回転により、前記小径軸部が螺合により前記突出軸の軸部を締め付ける構造である構成の水田用除草具とした。
【0017】
また、請求項4に係る発明は、前記雑草抜脱部に、前記抜脱用ワイヤーを前記突出軸からワンタッチで取り外せる抜脱用ワイヤー取外機構が設けられ、該抜脱用ワイヤー取外機構が、屈曲部と直線状保持部から成り、前記屈曲部は、突出軸底部の抜脱用ワイヤー取付位置上部に、該突出軸を屈曲可能に軸支される分割構造を有して成り、前記直線状保持部は、前記突出軸を軸方向に対して直線状態を保持するための固定用カラーから成る構成の水田用除草具とした。
【0018】
また、請求項5に係る発明は、前記作土層浮体板部に幅変更機構が設けられ、該幅変更機構が、前記作土層浮体板部において、長手方向に一以上分割される構成から成り、該分割された各作土層浮体板部同士が摺動軸により、横方向に摺動することで前記作土層浮体板部の幅を変更可能にした構成の水田用除草具とした。上記手段によれば、以下のような作用が得られる。
【発明の効果】
【0019】
本発明の水田用除草具によれば、該除草具を持ち上げたり、作土内に突き刺したりすることもなく、ただ単に作土層上面に浮かぶ作土層浮体板部を前後に動かすだけで、根の張った雑草をくの字状に折り畳んで作土層内に埋め込み、または田面水に浮かせることで雑草を枯らすことができる。また、この場合において、抜脱用ワイヤーは表面積が極めて小さく、水や作土層内を移動する抵抗もこれに応じて極めて小さいため、感覚的には片手で床にモップをかける程度の腕力しか必要とせず、前記問題点である労力軽減に資するといった優れた効果を発揮する。
【0020】
また、本発明の水田用除草具によれば、作土層浮体板部が、持ち手部と雑草抜脱部とを合わせた重量及び比重との関係で田面水に沈み作土層に浮く板状体であるため、作土層にうねりがあるような場合であっても、作土層表面をキープするように浮遊し、該うねりを均し、作土層の表面を平坦化できるといった優れた効果を発揮する。
【0021】
また、本発明の水田用除草具によれば、抜脱用ワイヤーが作土層内を水平方向に横架されているため、根が縦方向に伸びる一年生雑草のノビエ、コナギ、アゼナ、キカシグサ、 ヒメミソハギ等や、多年生雑草のイヌホタルイ、ウリカワ、オモダカ、クログワイ等など、水田に発生する代表的な雑草のほとんどの除草に適しているという優れた効果を奏し得る。
【0022】
また、請求項2または請求項3に係る本発明の水田用除草具によれば、抜脱用ワイヤーの深さを変えられるので、発芽した雑草の発育状態に応じて対応することが可能であるという優れた効果を奏し得る。例えば、湛水下の地表下2cm以内の浅い層から出芽してくるタマガヤツリ、キカシグサ、コナギやイヌホタルイ、イヌホタルイでは、根の長さを考慮すると、抜脱用ワイヤー深さを作土層上面から2cmから3cm程度とするのが望ましいが、本発明によれば、水田の状態や雑草の発育状態に応じてこれらの深さを微調整することが可能である。また、複数の抜脱用ワイヤーの深さを若干異相させた配置の組み合わせにより(例えば、2.0cmと2.5cmと3.0cmの組合せ等)、広範囲の種類の除草に対応できるといった優れた効果も奏し得る。
【0023】
また、請求項4または請求項5に係る本発明の水田用除草具によれば、前記抜脱用ワイヤーを前記突出軸からワンタッチで取り外せるので、抜脱用ワイヤーに雑草が絡みついた場合でも、容易に取り去ることが可能であるという優れた効果を奏し得る。
【0024】
また、請求項6に係る本発明の水田用除草具によれば、株間の寸法が田植機や米生産者により異なっても、これに応じて作土層浮体板部の幅を変更できるといった優れた効果を奏し得る。
【0025】
また、本発明に係る水田用除草具によれば、構造がシンプルであることから低コストで製造でき、高額な農業機械と比して経済的であるという優れた効果を発揮する。
【0026】
また、他の除草具や除草部を機械的に回転させる除草機などでは、深い層の種を掘り起こしてしまう弊害が生じやすいが、本発明に係る水田用除草具によれば、抜脱用ワイヤーが通過する部分の作土層にのみ作用するので、深い層の種を掘り起こすこともない。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明に係る水田用除草具の全体構成を示す説明斜視図である。
【図2】本発明に係る作土層浮体板部の底面図である。
【図3】本発明に係る角度調整機構及び固定機構の実施例を示す説明斜視図である。
【図4】本発明に係る雑草抜脱部の配置構成を示す説明図である。
【図5】本発明に係る深さ調整機構の実施例を示す説明図である。
【図6】本発明に係る抜脱用ワイヤー取外機構を示す説明平面図である。
【図7】本発明に係る幅変更機構を示す説明平面図である。
【図8】本発明に係る水田用除草具の使用方法及び状態説明図である。
【図9】本発明に係る水田用除草具の使用状態説明図である。
【図10】本発明に係る水田用除草具の使用状態説明図代用写真である。
【図11】本発明に係る水田用除草具の使用状態説明図代用写真である。
【図12】本発明に係る水田用除草具の使用状態説明図代用写真である。
【図13】本発明に係る水田用除草具の使用状態説明図代用写真である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明に係る水田用除草具10は、田面水に沈み作土層に浮く板状体の作土層浮体板部30底面に、雑草抜脱部40の抜脱用ワイヤー70が張着状態で横架垂設されていることを最大の特徴とする。以下、本発明の実施の形態を、添付図面を参照して説明する。
【実施例1】
【0029】
図1は、本発明に係る水田用除草具10の全体構成を示す説明斜視図である。水田用除草具10は、持ち手部20と作土層浮体板部30と雑草抜脱部40から構成される。図2は、本発明に係る作土層浮体板部30の底面図であり、雑草抜脱部40を六組備えた場合を示している。図2(a)は条間用を示し、図2(b)は株間用を示し、図2(c)は作土層浮体板部30の縁部が逆台形状に面取りされている形状を示している。
【0030】
持ち手部20は、本発明に係る水田用除草具10を操作するための略棒形状体である。長さや断面形状は特に限定されるものではないが、日本人男性の大人の平均身長は約170cmであるので、係る身長から一般的な腕の長さを考慮し、作土層浮体板部30との調整角度を35度から40度と想定した場合では約1m弱の長さが必要となるので、1.2m程度の長さとすればよいが、可能であれば長さ調整機能を持った構造とすることが望ましい。かかる長さの調整機構としては、物干し竿やのぼり用ポールなどに用いられている異径パイプを組み合わせてネジでテーパー部を締め付けるような一般的な長さ調整機構が考え得る。より具体的には、図5(b)の構造と同様である。また、断面形状は円形であることが握りやすいものと考えられる。素材についても特に限定されるものではないが、必要な剛性を有する軽量な素材を用いることが望ましい。例えば、木製の丸棒や、中空のアルミパイプまたは樹脂パイプ等である。なお、把手部には滑り止め用の溝を形成したり、滑りにくい素材のグリップ等を備えることが望ましい。
【0031】
作土層浮体板部30は、水田における苗Nの株間又は条間方向を長手方向とする略長方平板形状の四隅に面取り及びアール加工が施された田面水に沈み作土層に浮く板状体である。北海道地方(33cm)を除く一般的な条間は30cmであるため、該作土層浮体板部30の横幅Hは18〜26cm程度とし、縦方向の長さLは雑草抜脱部の数に応じて長くなる。また、雑草抜脱部40の数が少ない場合でも、水田用除草具10の重量に対し、これを作土層上面に浮かせるための浮力を得る体積を確保する必要があることは言うまでもない。なお、四隅に大きめの面取り及びアール加工を施すのは苗Nを痛めないようにすることと、水の抵抗を少なくして労力の軽減を図るためである。
【0032】
また、株間は、条間よりも狭いのが一般的であるが、株間の寸法は田植機や米生産者により異なる場合があるので、株間用の幅の狭い複数のサイズを用意するか、あるいは請求項6に係る構成の水田用除草具のように、作土層浮体板部30に幅変更機構を設けて横幅Hを可変させる。
【0033】
なお、作土層浮体板部30の縁部は図2(c)に示すように逆台形状に面取りされていることが望ましい。係る形状とした方が、土中へのもぐりこみを防止できるからである。
【0034】
作土層浮体板部30の体積は、持ち手部20と雑草抜脱部40とを合わせた重量及び浮力との関係で田面水に沈み作土層に浮く関係にすることが必要である。水の比重は1(4℃)であり、作土層の比重は含水率によって異なるものの、土粒子の比重は2.6程度のものが多いことから、水の単位体積あたりの重量と、本発明に係る水田用除草具全体の単位体積当たりの重量との比が1.0より大きく2.0程度の範囲内になるように設計する。この場合において、突出軸80や抜脱用ワイヤー70等の金属部分に鉄かステンレスを用いることが考えられるが、鉄もステンレスも比重はいずれも約7.8であるので、素材の変化による計算上の影響は少ない。しかし、作土層浮体板部30を木製とする場合は素材の選択に注意が必要となる。杉(比重:0.35)・檜(比重:0.40)・赤松(比重:0.48)・桐(比重:0.27)のような針葉樹は0.5以下と、その比重が小さいために水に浮き易く、前記金属部材の体積を大きくする必要が生じ得る。これに対し、ブナ(比重:0.62)・楢(比重:0.64)・アカガシ(比重:0.84)のような広葉樹では0.6から0.84と、針葉樹に比べるとその比重は大きく、中にはアカガシのように水の比重に近いものもある。したがって、前記金属部材の体積と、作土層浮体板部30の体積との関係で、前記設定範囲の単位体積あたりの重量となるように体積を決定する。具体的には、作土層浮体板部30の厚さで体積調整するか、バラストを用いることが考え得る。
【0035】
図3は、本発明に係る取付角度調整機構50及び固定機構60の実施例を示す説明斜視図である。前記持ち手部20と前記作土層浮体板部30は、取付角度調整機構50及び固定機構60を介して、傾動及び固定可能に結合される。取付角度調整機構50は、例えば、図3に示すように、持ち手部20の端部を凸形状とし、これを挟持する凹形状の支持体を作土層浮体板部30の上面略中央に形設し、これを傾動自在に軸支するなどが考え得る。また、固定機構60は、ハンドル61を回して前記軸支に用いる軸をネジによって締め付ける構造などが考え得る。使用時は所望する角度に固定でき、また、うねりや作土層の固さによっては固定せず、フリー状態で土上面に追従しやすくして使用してもよい。
【0036】
雑草抜脱部40は、抜脱用ワイヤー70と、該抜脱用ワイヤー70を前記作土層浮体板部30の底面に、張着状態で横架垂設するための二本の突出軸80から構成され、該一組以上の雑草抜脱部40が、前記作土層浮体板部30の底面に具設される。
【0037】
抜脱用ワイヤー70は、フレキシブル性があり、雑草Zの抜脱時にかかる引張応力に耐えうる0.5mmから2mm程度の線材であり、素材的には、金属線材や、テニスラケットに用いられるようなナイロン線材又はポリエステル線材や、心線材に引張り強度、屈曲疲労強度にすぐれたアラミド繊維であるケブラー(登録商標)等を用いたものなどが考えられる。金属であれば、例えば、より線のステンレスワイヤーのように、腐食しにくく伸びにくいものが好ましく、単線であれば、ピアノ線のような炭素鋼金属線を使用するのが望ましい。他方、所謂針金のようなスチール製の単線では塑性変形しやすく腐食もしやすいので好ましくない。
【0038】
突出軸80は、前記抜脱用ワイヤー70を、前記作土層浮体板部30の底面に張着状態で横架垂設するための二本の突出軸である。突出軸80の形状は略棒形状であり、作土層浮体板部30へ具設するために、作土層浮体板部30側端部を螺着や嵌着等により固設できる構造または形状とするか、若しくは、作土層浮体板部30に貫通穴を設けて、係る貫通穴内を軸部が摺動可能となる軸径及び形状として固定する。他方、抜脱用ワイヤー70取付側端部には、抜脱用ワイヤー70を係止する係止部を設ける。係る係止部の構造としては、例えば、U字形状の溝を有するクランプで抜脱用ワイヤー70を挟み、該クランプをネジで締め付ける構造や、先端部に抜脱用ワイヤー70を通すための貫通穴を設け、該貫通穴に抜脱用ワイヤー70を通した後、六角穴付き止めねじ(Hexagon Socket Setscrew)のような所謂セットスクリューで固定する構造などが考えられる。
【実施例2】
【0039】
図4は、本発明に係る雑草抜脱部40の配置構成を示す説明図であり、図4(a)は、雑草抜脱部40における抜脱用ワイヤー70の深さが作土層浮体板部に対して同一に並んでいる状態を示し、図4(b)は、雑草抜脱部40における複数の抜脱用ワイヤー70の深さが異なった深さの作土層に配置される状態を示している。本発明に係る第二の実施例は、図4(b)に示す構成のものであり、例えば、田面水から作土層の地表面までの深さが2cmの水田に用いる場合では、抜脱用ワイヤー70の位置が作土層浮体板部30の底面から2.5cm・3.0cm・3.5cmとなるように配置する。ただし、抜脱用ワイヤー70の位置が、すき床層まで届かない範囲内とすることが必要である。
【実施例3】
【0040】
図5は、第三の実施例に具設される深さ調整機構90を有する実施例を示す説明斜視図である。第三の実施例では、作土層浮体板部30に貫通穴を設けて、係る貫通穴内に突出軸80の軸部を挿入し、任意の位置において固定することで、作土層浮体板部30の底面から抜脱用ワイヤー70の位置を調整可能としている。係る長さ調整機構としては、例えば、図5(a)に示すように、突出軸80の軸部に複数の貫通穴96を設け、任意の位置で固定ピン93を差し込む構造や、図5(b)に示すように、突出軸80の軸部にネジ部95を形成し、該突出軸80を回転させて長さを調整し、ロックナット91で固定する構造などが考えられる。またさらに、図5(b)に示すように、突出軸80の軸部にネジ部を形成し、作土層浮体板部30の上面部または底面にフランジ92を設けて、該フランジ92の小径部の軸方向先端部にスリットを複数入れたテーパー部と、該小径部の外周面に雄ネジを形成し、該雄ネジと組み合わされる雌ネジを内設する締付カラー94により突出軸80の軸部を締め付ける構造なども考えられる。
【実施例4】
【0041】
図6は、第四の実施例に設けられる抜脱用ワイヤーをワンタッチで取り外せる抜脱用ワイヤー取外機構110を示す説明平面図である。抜脱用ワイヤー取外機構は、突出軸80を屈曲部と直線状保持部とから構成される。
【0042】
屈曲部は、突出軸底部の抜脱用ワイヤー70の取付位置のやや上部に、分割された突出軸先端部を横方向に屈曲可能に軸支する屈曲軸111を有している
【0043】
直線状保持部は、前記突出軸先端部を軸方向に対して直線状態を保持するための固定具112から構成され、突出軸80を摺動状態で挿入できる内径の貫通穴を有するカラー形状であり、前記屈曲部を直線状態にして該固定具112をスライドさせ、突出軸80の屈曲部上下を被覆することで分割された突出軸80を直線状態に保持する。また、直線状保持部には、保持状態の位置で該固定具112が動かないようにするための位置決機構を設ける。該位置決機構は、簡易的なものとしては、図5(a)に示す構造と同様に、突出軸80の軸部及び固定具112に連通する貫通穴を設け、固定ピン93を差し込む構造が考え得るが、望ましくは、該固定具112の内壁に二つの半球形の溝とこれを結ぶ長溝を設け、突出軸80の所定箇所に鋼球を収容し、これを弾性部材によって該固定具112の内壁に押し付けることにより位置関係を保持する構造等が望ましい。
【実施例5】
【0044】
図7は、第五の実施例に設けられる幅変更機構100を示す説明平面図である。幅調整機構100は、作土層浮体板部30を、長手方向に一以上分割し、該分割された各作土層浮体板部同士が摺動軸101により、横方向に摺動及び固定することで前記作土層浮体板部30の幅を変更可能にしている。また、係る機構は、同時に抜脱用ワイヤー70の張力調整機能も発揮する。なお、抜脱用ワイヤー70の長さは、段階的に長さの異なるものを用意するか、若しくは最大幅に対応する長さを有する抜脱用ワイヤー70として、突出軸80の抜脱用ワイヤー70保持部において締付固定等により対応可能とする。
【0045】
つぎに、本発明に係る水田用除草具10の使用方法及び状態について説明する。図8は本発明に係る水田用除草具10の使用方法及び状態説明図である。図8(a)は抜脱による除草前の状態を示している。水田用除草具10は作土層浮体板部30の浮力により作土層上面に浮かんでおり、抜脱用ワイヤー70が作土層内に沈み込んでいる。図面では雑草Zが作土層の地表面に既に芽を出した状態の場合である。除草作業者は、作土層上面に浮かんだ水田用除草具10をただ単に前後に動かすだけでよい。図8(b)に示すように、前進時に雑草Zは抜脱用ワイヤー70に引っ掛かり、雑草Zはくの字状体に折り曲がる。そして、図8(c)に示すように、後退することで、雑草Zは土中に埋め込まれて光合成ができず枯れてしまうか、水面に浮き上がり、根付くことなない。
【0046】
また、図8(d)は、作土層にうねりがある場合でも、そのうねりに追従し、作土層を平坦に均す効果を示している。
【0047】
図9は、本発明に係る水田用除草具10の使用状態を正面から見た場合の説明図である。図9に示されるように、本発明に係る水田用除草具10は条間内または株間内を広範囲発生した雑草Z1に対して有効に除草可能である。また、雑草Z2のように地表下深い所で発芽するものに対しては、請求項2または請求項3の構成に係る水田用除草具10で対応する。
【0048】
図10から図13は、本発明に係る水田用除草具の使用状態説明図代用写真である。実際の作用効果を視覚的に明確にすべく写真で示す。図10は作業状態を示しており、作土層浮体板部30は田面水に浮かばず、作土層表面まで沈んでいる。作業者は立ち姿勢で水田を歩きながら水田用除草具10を前後に軽く動かすだけである。腕の力はほとんど必要なく、また、腰を曲げる必要もない。今まで重労働であった除草作業が極めて楽に行えるようになっている。図11は作業前の水田の状態を示しており、まだ濁っていない状態である。図11に示されるように、田植えから数日後、あるいは最初の除草作業から10日前後になると、このように、苗Nの周囲の作土層表面に雑草Zが複数発生し始めることが目視できるようになる。この状態を放置すると苗の発育に悪影響を及ばすため、除草が必要となる。図12及び図13は本発明に係る水田用除草具10を用いて除草作業を終えた後の水田の状態を示している。図12及び図13に示されるように、抜脱された雑草Zは水面に浮くか、作土層内に埋め込まれ枯れてしまう。
【符号の説明】
【0049】
10 水田用除草具
20 持ち手部
30 作土層浮体板部
40 雑草抜脱部
50 取り付け角度調整機構
60 固定機構
70 抜脱用ワイヤー
80 突出軸
90 深さ調整機構
91 締付具
92 フランジ
93 固定ピン
94 締付カラー
95 ネジ部
96 貫通穴
100 幅調整機構
101 摺動軸
110 抜脱用ワイヤー取外機構
111 屈曲軸
112 固定具
H 横幅
L 長さ
Z 雑草
N 苗

【特許請求の範囲】
【請求項1】
持ち手部と、
作土層浮体板部と、
雑草抜脱部と、
からなる水田用除草具であって、
前記持ち手部と前記作土層浮体板部は、取り付け角度調整機構及び固定機構を介して、傾動及び固定可能に結合され、
前記作土層浮体板部は、水田における苗の株間又は条間方向を長手方向とする略長方平板形状の四隅に面取り及びアール加工が施され、持ち手部と雑草抜脱部とを合わせた重量及び浮力との関係で田面水に沈み作土層に浮く板状体であり、
前記雑草抜脱部は、抜脱用ワイヤーと、該抜脱用ワイヤーを前記作土層浮体板部の底面に張着状態で横架垂設するための二本の突出軸から構成され、
前記一組以上の雑草抜脱部が、前記作土層浮体板部の底面に具設されていることを特徴とする水田用除草具。
【請求項2】
前記雑草抜脱部において、前記抜脱用ワイヤーの深さを調整可能にするために、前記突出軸の突出量を調整可能な深さ調整機構が設けられていることを特徴とする請求項1に記載の水田用除草具。
【請求項3】
前記深さ調整機構が、
作土層浮体板部の上面部に設けるフランジと略キャップ形状の締付カラーから成り、
前記フランジは、前記突出軸を摺動可能に挿入するための貫通穴を有し、小径軸部の軸方向先端がテーパー状に形成され、周壁には軸方向にスリットを複数有し、外周面には雄ネジが形成され、
前記締付カラーは、内周壁に前記雄ネジと組み合わされる雌ネジと、前記フランジ小径軸部の軸方向先端に形設されたテーパー軸部と対応するテーパ軸受部が形設され、該締付カラーの回転により、前記小径軸部が螺合により前記突出軸の軸部を締め付ける構造であることを特徴とする請求項2に記載の水田用除草具。
【請求項4】
前記雑草抜脱部に、前記抜脱用ワイヤーを前記突出軸からワンタッチで取り外せる抜脱用ワイヤー取外機構が設けられ、
該抜脱用ワイヤー取外機構が、
屈曲部と直線状保持部から成り、
前記屈曲部は、突出軸底部の抜脱用ワイヤー取付位置上部に、該突出軸を屈曲可能に軸支される分割構造を有して成り、
前記直線状保持部は、前記突出軸を軸方向に対して直線状態を保持するための固定用カラーから成ることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の水田用除草具。
【請求項5】
前記作土層浮体板部に幅変更機構が設けられ、
該幅変更機構が、
前記作土層浮体板部において、長手方向に一以上分割される構成から成り、
該分割された各作土層浮体板部同士が摺動軸により、横方向に摺動することで前記作土層浮体板部の幅を変更可能にしたことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の水田用除草具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2011−254716(P2011−254716A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−129698(P2010−129698)
【出願日】平成22年6月7日(2010.6.7)
【出願人】(510158211)
【Fターム(参考)】