説明

水硬性組成物、グラウトモルタル及びその硬化体

【課題】低温環境下において、優れた流動性及び短時間の凝結性を有し、強度発現性に優れたグラウトモルタル硬化体を得ることができる水硬性組成物を提供する。
【解決手段】ポルトランドセメント、流動化剤、蟻酸塩を含む凝結調整剤、無機系膨張材、金属系膨張材及び細骨材を含む水硬性組成物であり、流動化剤が、水硬性成分100質量部に対して、側鎖長さが50nm超であるポリカルボン酸系流動化剤を0.1質量部以上含み、側鎖長さが50nm以下であるポリカルボン酸系流動化剤を0.1〜0.2質量部含む、水硬性組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低温環境下において優れた流動性、強度発現性及び寸法安定性を有し、グラウト材として好適に用いられる水硬性組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
土木工事又は建築工事では、構造物などの隙間を埋めるために、充填材又はグラウト材と呼ばれるセメントモルタル系の水硬性組成物が広く用いられている。水硬性組成物は、水と混練してグラウトモルタルとして用いられる。低温環境下においても強度発現性に優れ、流動性の良好なグラウト材として、特許文献1にセメント、膨張材、減水剤及び水を含有し、固形成分中の粒子径が5μm以下の粒子の容積が45%以上であるグラウト材が開示されている。
【0003】
土木・建築分野において使用され、低温時の強度発現性が良好なコンクリートが得られるセメント組成物として、特許文献2及び特許文献3に、3CaO・SiO含有量が60重量%以上のポルトランドセメント、無水セッコウ、蟻酸類、減水剤を含有したセメント組成物が開示されている。
【0004】
特許文献4には、ポルトランドセメント、凝結調整剤、無機系膨張材、金属系膨張材及び細骨材を含む水硬性組成物であり、凝結調整剤が、蟻酸塩及び硫酸アルミニウムより選ばれる成分を少なくとも1種含むことを特徴とする水硬性組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−162576号公報
【特許文献2】特開平9−20544号公報
【特許文献3】特開平9−20545号公報
【特許文献4】特開2007−261845号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
グラウト材の主要成分であるセメント等の水硬性成分の水和反応は、使用する温度条件に影響を受け、低温環境下では強度発現性の低下が見られ、特に初期材齢において所定の強度を得ることが難しい場合がある。本発明は、低温環境下において、優れた流動性及び短時間の凝結性を有するグラウトモルタルを得ることができ、強度発現性に優れたグラウトモルタル硬化体を得ることができる水硬性組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、水硬性組成物が所定のポリカルボン酸系流動化剤を二種類含むことにより、その水硬性組成物を用いて得られるグラウトモルタルが、優れた流動性、短時間の凝結性及び優れた強度発現性を有することができることを見出し、本発明に至った。
【0008】
すなわち、本発明は、水硬性成分、流動化剤、蟻酸塩を含む凝結調整剤、無機系膨張材、金属系膨張材及び細骨材を含む水硬性組成物であり、水硬性成分がポルトランドセメントであり、流動化剤が、水硬性成分100質量部に対して、側鎖長さが50nm超であるポリカルボン酸系流動化剤を0.1質量部以上含み、側鎖長さが50nm以下であるポリカルボン酸系流動化剤を0.1〜0.2質量部含む、水硬性組成物である。本発明の水硬性組成物を用いるならば、低温環境下において、優れた流動性、短時間の凝結性及び優れた強度発現性を有するグラウトモルタルを得ることができる。
【0009】
本発明の水硬性組成物の好ましい態様を以下に示す。本発明では、これらの態様を適宜組み合わせることができる。
(1)側鎖長さが50nm超であるポリカルボン酸系流動化剤を構成するポリマーが、カルボン酸エステルを有しないポリオキシエチレン鎖の側鎖を含み、ポリオキシエチレン鎖の繰り返し単位構造数nが50〜200である。所定の流動化剤を用いることにより、低温環境下において、優れた流動性、短時間の凝結性及び優れた強度発現性を有するグラウトモルタルを確実に得ることができる。
(2)側鎖長さが50nm以下であるポリカルボン酸系流動化剤を構成するポリマーが、ポリオキシエチレン鎖を有するカルボン酸エステルの側鎖を含み、ポリオキシエチレン鎖の繰り返し単位構造数nが20〜40である。所定の流動化剤を用いることにより、低温環境下において、優れた流動性、短時間の凝結性及び優れた強度発現性を有するグラウトモルタルをさらに確実に得ることができる。
(3)蟻酸塩が、蟻酸カルシウム、蟻酸マグネシウム及び蟻酸ナトリウムより選ばれる少なくとも1種である。凝結調整剤が所定の蟻酸塩であることにより、低温環境下におけるポルトランドセメントの水和反応を好適に促進させることができる。
【0010】
また、本発明は、水硬性組成物と水とを混練したグラウトモルタルであって、5℃で養生した材齢1日のグラウトモルタル硬化体の圧縮強度が、8.0N/mm以上、好ましくは9.0N/mm以上、より好ましくは10.0N/mm以上、さらに好ましくは11.0N/mm以上、特に好ましくは11.5N/mm以上であり、5℃での凝結終結時間が10時間以内であり、且つJロート流下時間が6〜10秒である、グラウトモルタルである。
【0011】
また、本発明は、水硬性組成物と水とを混練したグラウトモルタルを硬化させて得られるグラウトモルタル硬化体である。本発明のグラウトモルタル硬化体は、優れた強度発現性を有することができる。
【0012】
また、本発明は、上述の水硬性組成物を貯蔵するタンクを備えた水硬性モルタル調製・施工用トラックに搭載したミキサーを用いて、水硬性組成物と水とを連続的に混練してグラウトモルタルを調製する工程と、前記トラックに搭載されたスラリーポンプによりスラリーホースを介してグラウトモルタルを施工箇所へ連続的に供給・打設して硬化させる工程とを含む、グラウトモルタル構造物の施工方法である。
【発明の効果】
【0013】
本発明の水硬性組成物を用いたグラウトモルタルは、低温環境下において、流動性、強度発現性及び寸法安定性に優れた水硬性組成物であり、例えば気温5℃といった低温環境下において、土木工事又は建築工事に用いられる充填材やグラウト材としての要求性能を兼ね備えていて好適に用いられる。すなわち、本発明により、低温環境下において、優れた流動性及び短時間の凝結性を有するグラウトモルタルを得ることができる。また、低温環境下において、そのグラウトモルタルを用いることによって、強度発現性に優れたグラウトモルタル硬化体を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】水硬性組成物を貯蔵するタンク及びスラリー製造・供給装置を搭載したグラウトモルタル調製・施工用トラックの全体構成を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の水硬性組成物は、水硬性成分、流動化剤、蟻酸塩を含む凝結調整剤、無機系膨張材、金属系膨張材及び細骨材を含み、水硬性成分がポルトランドセメントである。本発明の水硬性組成物は、側鎖長さが50nm超、好ましくは60nm以上、より好ましくは70nm以上であるポリカルボン酸系流動化剤(「流動化剤a」という)及び鎖長さが50nm以下、好ましくは40nm以下、より好ましくは30nm以下であるポリカルボン酸系流動化剤(「流動化剤b」という)の二種類の流動化剤を含むことに特徴がある。本発明の水硬性組成物が流動化剤a及び流動化剤bを含むことにより、得られるグラウトモルタルの材料分離を抑制しつつ適度な流動性を確保し、硬化体の強度を高め、且つ、乾燥収縮を低減させることができる。
【0016】
本発明の水硬性組成物に含まれる水硬性成分として、ポルトランドセメントを用いることができる。本発明の水硬性組成物に含まれるポルトランドセメントは、特に限定されるものではなく、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、超早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント及び低熱ポルトランドセメント等の中の一種又はそれらの混合物を用いることができる。また、本発明の水硬性組成物に含まれる水硬性成分として、ポルトランドセメントに高炉スラグ、シリカフューム、フライアッシュ又は石灰石微粉末等を混合した高炉セメントやフライアッシュセメントなどの混合セメントを用いることができる。本発明の水硬性組成物は、特に低温環境下で用いることから、強度発現性が良好な早強ポルトランドセメント、超早強ポルトランドセメント又はそれらの混合物を使用することが好ましい。
【0017】
本発明の水硬性組成物は、水硬性成分100質量部に対し、細骨材を好ましくは30〜300質量部、さらに好ましくは40〜250質量部、より好ましくは50〜220質量部、特に好ましくは60〜200質量部を配合することが好ましい。本発明の水硬性組成物が適切な量の細骨材を含むことにより、グラウトモルタルを硬化して得られるグラウトモルタル硬化体は、適切な強度を有することができる。
【0018】
本発明の水硬性組成物に含まれる細骨材として、粒度が3.5mm以下の珪砂、川砂、陸砂、海砂、砕砂などを用いることができる。
【0019】
細骨材の粒度は、3.5mm以下のものを用いることが好ましい。細骨材100質量%中に、粒度0.15〜2mmの細骨材が好ましくは60質量%以上であり、さらに好ましくは65質量%以上、特に好ましくは70質量%以上含むものを用いることにより、優れた流動性のグラウトモルタルを得ることができる。なお、細骨材の粒度は、JIS・Z−8801で規定される呼び寸法の異なる数個のふるいを用いて測定することができる。
【0020】
本発明の水硬性組成物は、減水効果を合わせ持つ所定の流動化剤を二種類含む。二種類の流動化剤とは、側鎖長さが50nm超であるポリカルボン酸系流動化剤(「流動化剤a」という)及び鎖長さが50nm以下であるポリカルボン酸系流動化剤(「流動化剤b」という)である。本発明の水硬性組成物が流動化剤a及び流動化剤bを含むことにより、得られるグラウトモルタルの材料分離を抑制しつつ適度な流動性を確保し、硬化体の強度を高め、且つ、乾燥収縮を低減させることができる。
【0021】
本発明の水硬性組成物に含まれる流動化剤aは、側鎖にカルボン酸エステルを有しないポリマーにより構成されるポリカルボン酸系流動化剤であることが好ましい。流動化剤aとして用いることのできるポリカルボン酸系流動化剤を構成するポリマーは、好ましくは、少なくとも下記化学式で示される構造単位A2を含み、特に下記化学式で示される構造単位A2及び構造単位Bを含む。構造単位A2は、ポリオキシエチレン鎖の側鎖(−(OC−H)を含むが、カルボン酸エステルではない。流動化剤aのポリカルボン酸系流動化剤を構成するポリマーは、より好ましくは、下記化学式で示される構造単位A2及び構造単位Bからなる。
【0022】
【化1】

【0023】
構造単位A2は、カルボン酸エステルを有しないポリオキシエチレン鎖を有する側鎖を有する。ポリオキシエチレン鎖の単位構造(POE)の繰り返し数(繰り返し単位構造数)をnとすると、本発明の水硬性組成物に含まれる流動化剤aのポリカルボン酸系流動化剤では、繰り返し単位構造数nが50〜200の範囲であることが好ましく、nが80〜190であることがより好ましく、nが120〜180であることがさらに好ましい。繰り返し単位構造数nは具体的には、160であることができる。
【0024】
本発明の水硬性組成物に含まれる流動化剤aのポリカルボン酸系流動化剤を構成するポリマーは、誘導結合プラズマ(ICP)発光分析装置によりNa量の測定をした場合、ポリカルボン酸系流動化剤aを構成するポリマー中のNa量が、好ましくは2000超〜3500μg/g、より好ましくは2200〜3300μg/g、さらに好ましくは2400〜3000μg/g、特に好ましくは2600〜2800μg/gであることが好ましい。流動化剤aのポリカルボン酸系流動化剤を構成するポリマー中のNa量は、具体的には、2700μg/gであることができる。
【0025】
本発明の水硬性組成物に含まれる流動化剤bは、ポリカルボン酸系流動化剤である。流動化剤bとして用いることのできるポリカルボン酸系流動化剤を構成するポリマーは、好ましくは、少なくとも下記化学式で示される構造単位Cを含み、特に下記化学式で示される構造単位A、構造単位B及び構造単位Cを含む。流動化剤bのポリカルボン酸系流動化剤を構成するポリマーは、より好ましくは、下記化学式で示される構造単位A、構造単位B及び構造単位Cからなる。
【0026】
【化2】

【0027】
構造単位Cは、ポリオキシエチレン鎖を有するカルボン酸エステルの側鎖を有する。ポリオキシエチレン鎖の単位構造(POE)の繰り返し数(繰り返し単位構造数)をnとすると、本発明の水硬性組成物に含まれる流動化剤bのポリカルボン酸系流動化剤を構成するポリマーでは、繰り返し単位構造数nが20〜40の範囲であることが好ましく、繰り返し単位構造数nが21〜35であることがより好ましく、nが22〜30であることがさらに好ましい。繰り返し単位構造数nは具体的には、24であることができる。
【0028】
本発明の水硬性組成物に含まれる流動化剤bのポリカルボン酸系流動化剤を構成するポリマーの、構造単位Aの数と、構造単位Cの数との割合(構造単位Aの数:構造単位Cの数)は、好ましくは8:2〜6:4、より好ましくは7.5:2.5〜6.5:3.5、さらに好ましくは7.6:2.4〜6.4:3.6、特に好ましくは7.2:2.8〜6.8:3.2である。構造単位Aの数と、構造単位Cの数との割合(構造単位Aの数:構造単位Cの数)は、具体的には、7:3であることができる。
【0029】
本発明の水硬性組成物に含まれる流動化剤bのポリカルボン酸系流動化剤を構成するポリマーは、誘導結合プラズマ(ICP)発光分析装置によりNa量の測定をした場合、ポリカルボン酸系流動化剤bを構成するポリマー中のNa量が、好ましくは1000〜2000μg/g、より好ましくは1200〜1900μg/g、さらに好ましくは1400〜1800μg/g、特に好ましくは1500〜1700μg/gであることが好ましい。流動化剤bのポリカルボン酸系流動化剤を構成するポリマー中のNa量は、具体的には、1600μg/gであることができる。
【0030】
本発明の水硬性組成物に対する流動化剤a(側鎖長さが50nm超であるポリカルボン酸系流動化剤)の添加量は、水硬性成分100質量部に対し、0.1質量部以上であり、好ましくは0.1〜5質量部、より好ましくは0.0.1〜2質量部、さらに好ましくは0.1〜1質量部、特に好ましくは0.1〜0.5質量部の範囲で使用することができる。
【0031】
本発明の水硬性組成物に対する流動化剤b(側鎖長さが50nm以下であるポリカルボン酸系流動化剤)の添加量は、水硬性成分100質量部に対し、0.1〜0.2質量部であり、好ましくは0.1〜0.18質量部、より好ましくは0.1〜0.17質量部、さらに好ましくは0.1〜0.16質量部、特に好ましくは0.1〜0.15質量部の範囲で使用することができる。
【0032】
本発明の水硬性組成物中の流動化剤a及び流動化剤bの添加量が上述の範囲であることにより、本発明の水硬性組成物を用いて得られるグラウトモルタルが、低温環境下において、優れた流動性、短時間の凝結性及び優れた強度発現性を有することを確実にすることができる。
【0033】
なお、一般的に用いられる流動化剤としては、減水効果を合わせ持つ、メラミンスルホン酸のホルムアルデヒド縮合物、カゼイン、カゼインカルシウム、ポリエーテル系、ポリカルボン酸系、ポリカルボン酸ポリエーテル系等、市販のものを挙げることができる。これらの一般的に用いられる流動化剤は、本発明の水硬性組成物の特性を損なわない範囲で、さらに添加することができる。しかしながら、本発明の水硬性組成物を用いて得られるグラウトモルタルが、低温環境下において、優れた流動性、短時間の凝結性及び優れた強度発現性を有することをより確実にするために、流動化剤は、上述の流動化剤a及び流動化剤bからなることが好ましい。
【0034】
本発明の水硬性組成物に含まれる無機系膨張材及び金属系膨張材は、グラウトモルタルの硬化過程で生じる体積変化を補償し、グラウトモルタル硬化体の寸法安定性の向上に不可欠なものであり、建築物や構造物との密着性向上に有効である。
【0035】
無機系膨張材は、カルシウムサルフォアルミネート系としてはアウイン、石灰系としては生石灰、生石灰−石膏系、仮焼ドロマイト等が挙げられ、これらから選ばれた少なくとも1種を使用できる。石灰系膨張材としては、生石灰、生石灰−石膏系を用いることが好ましく、特に生石灰−石膏系を用いることが好ましい。無機系膨張材としては、例えば遊離生石灰を膨張成分として含むものや、カルシウムサルフォアルミネート等のエトリンガイト形成物質を膨張成分とする市販品を使用することができる。好ましくは、収縮補償効果とともに反応時の水和発熱によって低温環境下の強度増強効果を有する生石灰を有効成分として含む膨張材を用いることが特に好ましい。この場合、膨張材中の生石灰含有量は特に限定されないが、生石灰含有量が高いもの(100重量%を含む)では水和反応が急激に進行することがあるので80重量%以下の生石灰含有量のものを用いることが好ましい。
【0036】
無機系膨張材の添加量は、水硬性成分100質量部に対して、好ましくは1〜30質量部、より好ましくは2〜25質量部、さらに好ましくは3〜20質量部、特に好ましくは4〜15質量部を用いることが好ましい。無機系膨張材の添加量が1質量部よりも少ないと、その効果が不充分である場合があり、また30質量部より多いと水和反応による膨張量が増加して目的の強度を得られなくなる場合があるので好ましくない。
【0037】
金属系膨張材としては、アルミニウム粉、鉄粉等を用いることができる。特に、反応性が高いことから、アルミニウム粉の使用が好ましい。アルミニウム粉は、JIS・K−5906:1998「塗装用アルミニウム粉」の第2種に準ずるものが好適に使用できる。
金属系膨張材の添加量は、水硬性成分100質量部に対して、好ましくは0.0001〜0.01質量部、さらに好ましくは0.0002〜0.005質量部、より好ましくは0.0003〜0.004質量部、特に0.0005〜0.003質量部の範囲で用いることが好ましい。
【0038】
本発明の水硬性組成物に含まれる凝結調整剤は、蟻酸塩を含む。凝結調整剤として蟻酸塩を含むことにより、低温環境下におけるポルトランドセメントの水和反応を好適に促進させることができる。
【0039】
本発明で用いる蟻酸塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩、バリウム塩、アルミニウム塩、亜鉛塩、及びアンモニウム塩等が挙げられ、これらの塩からなる群のうちの一種又は二種以上を用いることができる。凝結促進効果、グラウトモルタルの流動性及び硬化体強度特性の点から、蟻酸塩としては、そのナトリウム塩、カルシウム塩及びマグネシウム塩からなる群のうちの一種以上が好ましく、特にカルシウム塩が好ましい。
【0040】
本発明の水硬性組成物に対する蟻酸塩の添加量は、水硬性成分100質量部に対して、好ましくは0.3〜5質量部、さらに好ましくは0.4〜4.5質量部、より好ましくは0.5〜4質量部、特に好ましくは0.6〜3質量部の範囲で好適な効果が得られる。蟻酸塩の添加量が0.3質量部未満では初期の強度発現性が不充分な場合があり、5質量部を越えて使用しても更なる添加効果の増進が期待できない。
【0041】
また、本発明の水硬性組成物に含まれる凝結調整剤としては、さらに硫酸アルミニウムを含むことができる。本発明で用いる硫酸アルミニウムは、特性を妨げない範囲で粒径を適時選択することができる。硫酸アルミニウムの添加量は、水硬性成分100質量部に対して、好ましくは0.3〜5質量部、さらに好ましくは0.4〜4.5質量部、より好ましくは0.5〜4質量部、特に好ましくは0.6〜3質量部の範囲が好適である。硫酸アルミニウムの使用量が0.3質量部未満では初期の強度発現性が不充分な場合があり、5質量部を越えて使用しても添加量の増加に見合った効果は期待できない。
【0042】
本発明の水硬性組成物に含まれる凝結調整剤としては、蟻酸塩のみを用いることがより好ましく、それにより低温環境下におけるポルトランドセメントの水和反応をより好適に促進させる効果がある。
【0043】
本発明の水硬性組成物は、所定量の消泡剤を含むことができる。消泡剤は、シリコン系、アルコール系、ポリエーテル系、鉱油系などの合成物質又は植物由来の天然物質など、公知のものを用いることができ、これらは単独で又は2種以上を混合して使用することができる。
【0044】
本発明の水硬性組成物は、消泡剤を水硬性成分100質量部に対して0.1質量部以上含むことが好ましい。水硬性組成物が流動化剤を含む場合、グラウトモルタルを混練する際に泡が発生する場合がある。泡の発生によって、得られるグラウトモルタル硬化体の表面の平坦性に問題を生じる。消泡剤を添加することにより、グラウトモルタルを混練する際に生じる泡の発生を防止することができる。なお、消泡剤の添加量の上限は、本発明の水硬性組成物の特性を損なわない範囲で添加することができ、水硬性成分100質量部に対して、2質量部以下であることが好ましく、1質量部以下であることがより好ましく、0.5質量部以下であることがさらに好ましい。
【0045】
本発明の水硬性組成物では上記の成分の他に、本発明の特性を損なわない範囲で必要に応じて、増粘剤及び有機系短繊維などの成分を少なくとも1種配合することができる。
【0046】
本発明の水硬性組成物は、増粘剤を含むことができる。本発明の水硬性組成物に含まれる増粘剤としては、ヒドロキシメチルセルロースを含むセルロース系、ラテックス系及び水溶性ポリマー系などの増粘剤を単独で、又は併用して使用することができる。本発明の水硬性組成物が増粘剤を含むことにより、適切な施工性を有するようにグラウトモルタルの粘度を調節することができる。
【0047】
本発明のプレミックス粉体に対する増粘剤は、本発明の特性を損なわない範囲の添加量で添加することができる。本発明のプレミックス粉体に対する増粘剤の添加量は、水硬性成分100質量部に対し、好ましくは0.001〜2質量部、より好ましくは0.005〜1.5質量部、さらに好ましくは0.0075〜1質量部含むことが好ましい。増粘剤の添加量が多くなると、モルタル粘度が増加して流動性の低下をするおそれがあるので、増粘剤の添加量は上述の範囲であることが好ましい。
【0048】
本発明の水硬性組成物は、有機系短繊維を含むことができる。有機系短繊維としては、ポリエチレン、エチレン・酢酸ビニル共重合体(EVA)、ポリプロピレンなどのポリオレフィン、ポリエステル、ポリアミド、ポリビニルアルコール及びポリ塩化ビニルなどの樹脂成分からなる有機系繊維の短繊維を用いることができ、これらの一種又は二種以上の混合物として使用することができる。本発明の水硬性組成物が有機系短繊維を含むことにより、曲げ強度に優れ、クラックの生じにくい又は生じない硬化物を安定して得ることができる。
【0049】
本発明の水硬性組成物は、水の添加量を調整することにより、グラウトモルタルの流動性、可使時間、材料分離などの性状を調整することができる。
【0050】
水の添加量は、本発明の流動特性及び強度特性を損なわない範囲で添加できる。水硬性組成物の合計質量に対する水の質量の割合(水の質量/水硬性組成物の合計質量、「水比」という)は、好ましくは5〜30%、より好ましくは10〜25%、さらに好ましくは12〜20%であることにより、施工性の良好なグラウトモルタルを得ることができる。
【0051】
本発明の水硬性組成物は所定量の消泡剤を含む場合には、水と混練して得られるグラウトモルタルには、混練後に気泡の発生がないため好ましい。
【0052】
本発明の水硬性組成物は、低温環境下、すなわち気温が好ましくは2℃〜15℃、さらに好ましくは2℃〜13℃、より好ましくは2℃〜12℃、特に好ましくは、2℃〜10℃の範囲で好適な性能が発揮される。
【0053】
大規模な現場で大量のグラウトモルタルを限られた期間内に施工する場合には、特に、グラウトモルタルを連続的に製造し、離れた施工場所へ供給・施工できる図1に示すような水硬性組成物を貯蔵するタンクを備えたグラウトモルタル調製・施工用トラックを使用し、該トラックに搭載した連続混練ミキサーを用いて、水硬性組成物と水とを連続的に混練してグラウトモルタルを連続的に調製し、該トラックに搭載されたスラリーポンプによりスラリーホースを介してグラウトモルタルを施工箇所へ連続的に供給・打設する施工方法が、施工効率及び施工品質において極めて有効である。
本発明の水硬性組成物は、所定量の水と速やかに混練され、安定して優れた流動性状と良好な材料分離抵抗性とを有するグラウトモルタルが得られることから、前記の水硬性組成物を貯蔵するタンクを備えたグラウトモルタル調製・施工用トラックを使用したグラウトモルタル構造物の施工方法に好適に用いることができる。
【0054】
本発明の水硬性組成物を、水と混練したときのJロート流下値の上限は、充填性を損なわないために、好ましくは15秒以下、さらに好ましくは14秒以下、より好ましくは13秒以下、特に好ましくは10秒以下であり、また、Jロート流下値の下限は、材料分離抵抗性を損なわないために、好ましくは4秒以上、さらに好ましくは5秒以上、特に好ましくは6秒以上である。すなわち、本発明の水硬性組成物を、水と混練したときのJロート流下値の範囲は、具体的には、6〜10秒のものを得ることができる。なお、「Jロート流下値」は、土木学会充てんモルタル試験方法(案)(JSCE・F542−1993)J14ロートによる流下値を示す。
【0055】
本発明の水硬性組成物を用いて得られるグラウトモルタルの凝結時間の終結が、好ましくは10時間以内、より好ましくは9時間以内である。
【0056】
本発明の水硬性組成物を用いて得られるグラウトモルタルを硬化させることにより、圧縮強度(材齢1日)が、好ましくは8N/mm以上、さらに好ましくは9N/mm以上のグラウトモルタル硬化体を得ることができる。
【0057】
本発明の水硬性組成物を用いるならば、低温環境下において、優れた流動性及び短時間の凝結性を有することのできるグラウトモルタルを得ることができる。また、低温環境下において、そのグラウトモルタルを用いることによって、強度発現性に優れたグラウトモルタル硬化体を得ることができ、低温環境下で行われる土木建築分野の各種工事で、好適に利用されるグラウト材を提供するものである。
【実施例】
【0058】
以下、本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明する。但し、本発明は下記実施例により制限されるものでない。
【0059】
(特性の評価方法)
1)Jロート流下値(秒):土木学会充てんモルタル試験方法(JSCE・F541−1999)J14ロートによる流下値を示す。
2)フロー値
フロー値は、JASS・15M−103に準拠して測定する。厚さ5mmのみがき板ガラスの上に内径50mm、高さ102mmの塩化ビニル製パイプ(内容積200ml)を置き、練り混ぜたモルタルを充填した後、パイプを引き上げる。広がりが静止した後、直角2方向の直径を測定し、その平均値をフロー値とする。
3)凝結時間:JIS A−1147「コンクリートの凝結時間試験方法」に準じてプロクター貫入抵抗針により試験を行う。
4)圧縮強度(N/mm):試験体φ5×10cm、JIS・A−1108:2006に準じて行う。
【0060】
原料は以下のものを使用した。
1)水硬性成分:
・ポルトランドセメント(宇部早強ポルトランドセメント、ブレーン比表面積4500cm/g)。
【0061】
2)細骨材:
・珪砂a : S4(川鉄鉱業社製、細粒砂)。
・珪砂b : SN50(瓢屋社製、細粒砂)。
・珪砂c : SN70(瓢屋社製、微粒砂)。
・細骨材には、珪砂a、珪砂b及び珪砂cを、表2に示す割合で混合して使用した。珪砂a、珪砂b及び珪砂cの粒度について、篩を用いて測定した結果を表3に示す。
【0062】
3)流動化剤(減水剤):
・ポリカルボン酸系流動化剤a: BASFポゾリス社製、Melflux(登録商標)5581F。構造単位A2及び構造単位Bを有するポリカルボン酸系流動化剤である。構造単位Cは、ポリオキシエチレン鎖を有する側鎖を有する。側鎖は、カルボン酸エステルを有しない。構造単位A2のポリオキシエチレン鎖の繰り返し単位構造数n=160である。その他、詳細を表1に示す。
・ポリカルボン酸系流動化剤b: BASFポゾリス社製、Melflux(登録商標)AP101F。構造単位A、構造単位B及び構造単位Cを含むポリカルボン酸系流動化剤である。構造単位Cは、ポリオキシエチレン鎖を有するカルボン酸エステルの側鎖を有する。構造単位Cのポリオキシエチレン鎖の繰り返し単位構造数n=24である。その他、詳細を表1に示す。
【0063】
【表1】

【0064】
4)増粘剤:メチルセルロース系増粘剤ハイユーローズ(宇部興産株式会社製)。
5)無機系膨張材 : 生石灰−石膏系膨張材(太平洋マテリアル社製)。
6)金属系膨張材 : アルミニウム粉(粒度44μm以下を60質量%以上含有、大和金属粉工業社製、ALCファイン及びK−250の混合品)。
7)凝結調整剤:蟻酸カルシウム(朝日化学工業所社製)。
8)消泡剤:アデカネートB107F(旭電化工業社製)。
【0065】
[実施例1〜5及び比較例1〜2]
表2に示す成分を、アイリッヒミキサを使用して混合し、表2に示す組成の水硬性組成物を得た。
【0066】
低温環境を想定して、温度5℃、相対湿度65%の条件下で、25Lの金属製容器に水硬性組成物100質量部に対して水16〜17質量部を加え、タービン羽根を取り付けた0.62KWハンドミキサー(日立工機社製、品番:150mmUM15)を使用し、
1100rpmで攪拌しながら水硬性組成物を全量投入後、2分間混練して、グラウトモルタルを調製した。
【0067】
得られたグラウトモルタルのJロート流下時間、フロー値並びにグラウトモルタルの硬化体の凝結時間及び圧縮強度を評価した結果を表2に示す。なお、表2中、「評価」欄の記号の意味は、下記のとおりである。記号が「○」の場合には、使用可能条件を満たしているといえる。
・Jロート流下時間:6〜10秒の範囲:○、6〜10秒の範囲外:×。
・凝結終結時間:10時間以内:○、10時間超:×。
・材齢1日の圧縮強度:8N/mm以上:○、8N/mm未満:×。
【0068】
5℃の低温環境下での評価結果は以下のとおりである。流動化剤bのみを含む水硬性組成物を用いた比較例1の場合、Jロート流下時間は9.2秒で6〜10秒の範囲内で、材齢1日の圧縮強度は8.9N/mmで8N/mm以上であったが、凝結終結時間が10時間超であり使用可能条件を満たしていない。一方、流動化剤aのみを含む水硬性組成物を用いた比較例2の場合、凝結終結時間は5時間40分と短時間であり、また材齢1日の圧縮強度も11.2N/mmと8N/mm以上であったが、実施例1〜5の水比(16%)よりも高い水比(17%)で混練を行ったにもかかわらずJロート流下時間は10.5秒であり6〜10秒の範囲外となり、使用可能条件を満たしていない。これに対して流動化剤a及び流動化剤bを含む水硬性組成物を用いた実施例1〜5においては、Jロート流下時間は6〜10秒の範囲であり、凝結終結時間は10時間以内、最長でも8時間50分(実施例1)であり、材齢1日の圧縮強度は8N/mm以上、最低でも9.8N/mmであり、優れた流動性、短時間の凝結性及び優れた強度発現性を有するグラウトモルタルを得ることができた。
【0069】
以上のことから、本発明の水硬性組成物を用いるならば、優れた流動性、短時間の凝結性及び優れた強度発現性を有するグラウトモルタルを得ることができることが明らかとなった。本発明の水硬性組成物を用いるグラウトモルタルは、低温環境下、例えば気温5℃といった低温環境下において、土木工事又は建築工事に用いられる充填材やグラウト材としての要求性能を兼ね備えていて好適に用いることができることが明らかとなった。
【0070】
【表2】

【0071】
【表3】

【符号の説明】
【0072】
31 : グラウトモルタル調製・施工用トラック
32 : 水硬性組成物の供給口
33 : 水硬性組成物タンク
34 : グラウトモルタル
35 : 混練装置(ミキサー)
36 : ホッパー
37 : 水硬性組成物
38 : スクリューフィーダー
39 : 水タンク
40 : 水供給ポンプ
41 : 水供給パイプ
42 : 多重螺旋状攪拌板とパドル型攪拌板とを配置した複合攪拌羽根
43 : グラウトモルタルタンク(リザーバータンク)
44 : スラリーポンプ
45 : スラリーホース

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水硬性成分、流動化剤、蟻酸塩を含む凝結調整剤、無機系膨張材、金属系膨張材及び細骨材を含む水硬性組成物であり、
水硬性成分がポルトランドセメントであり、
流動化剤が、水硬性成分100質量部に対して、側鎖長さが50nm超であるポリカルボン酸系流動化剤を0.1質量部以上含み、側鎖長さが50nm以下であるポリカルボン酸系流動化剤を0.1〜0.2質量部含む、水硬性組成物。
【請求項2】
側鎖長さが50nm超であるポリカルボン酸系流動化剤を構成するポリマーが、カルボン酸エステルを有しないポリオキシエチレン鎖の側鎖を含み、ポリオキシエチレン鎖の繰り返し単位構造数nが50〜200である、請求項1に記載の水硬性組成物。
【請求項3】
側鎖長さが50nm以下であるポリカルボン酸系流動化剤を構成するポリマーが、ポリオキシエチレン鎖を有するカルボン酸エステルの側鎖を含み、ポリオキシエチレン鎖の繰り返し単位構造数nが20〜40である、請求項1又は2に記載の水硬性組成物。
【請求項4】
蟻酸塩が、蟻酸カルシウム、蟻酸マグネシウム及び蟻酸ナトリウムより選ばれる少なくとも1種である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の水硬性組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の水硬性組成物と水とを混練したグラウトモルタルであって、
5℃で養生した材齢1日のグラウトモルタル硬化体の圧縮強度が、8.0N/mm以上であり、5℃での凝結終結時間が10時間以内であり、Jロート流下時間が6〜10秒であるグラウトモルタル。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の水硬性組成物と水とを混練したグラウトモルタルを硬化させて得られるグラウトモルタル硬化体。
【請求項7】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の水硬性組成物を貯蔵するタンクを備えた水硬性モルタル調製・施工用トラックに搭載したミキサーを用いて、水硬性組成物と水とを連続的に混練してグラウトモルタルを調製する工程と、前記トラックに搭載されたスラリーポンプによりスラリーホースを介してグラウトモルタルを施工箇所へ連続的に供給・打設して硬化させる工程とを含む、グラウトモルタル構造物の施工方法。

【図1】
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【公開番号】特開2011−195403(P2011−195403A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−65667(P2010−65667)
【出願日】平成22年3月23日(2010.3.23)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)
【Fターム(参考)】