説明

永久磁石形回転機の回転子

【課題】磁石埋め込み型回転電機の回転子を対象に、部品種類の削減,製造コストの低減が図れるように改良した回転子構造を提供する。
【解決手段】コアプレート2の積層ブロック1に永久磁石3を埋め込み、積層ブロックの両端に端板4を重ねてボルト5で締結した上で、回転子軸6にマウントした永久磁石形回転機の回転子で、そのコアプレートには磁石挿入穴2a,回転子軸穴,締結ボルト穴,および回転子軸穴の周上にキー溝2dを打ち抜き形成したものにおいて、コアプレート2のキー溝と2d磁石挿入穴2aの中心位置との間に周方向の相対的ズレ角度θを設定した上で、キー溝2dを基準に積層ブロック1はコアプレート2を同じ向きに揃えて積層し、積層ブロック1の両端には磁石抜け止め用の端板4として、積層ブロックのコアプレート2と表裏逆向きにしたコアプレートを重ね合わせて一体にボルト締結する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、永久磁石形回転電機の回転子構造に関する。
【背景技術】
【0002】
永久磁石形回転電機の回転子として、円盤状コアプレートの積層ブロックに永久磁石を埋め込み、かつ前記積層ブロックの両端に端板を重ねて一体にボルト締結した上で、回転子コアの組立体を回転子軸にマウントした磁石埋め込み型回転子が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
次に、磁極数6,スキュー無しの磁石埋め込み型回転子を例に、その従来構造を図4に示す。図4(a)〜(c)において、1は円盤状のコアプレート2(電磁鋼板)を軸方向に積層した回転子コアの積層ブロック、3は積層ブロック1に埋め込んだ立方体形状の永久磁石、4は積層ブロック1の両端に重ねて永久磁石3を抜け止めする端板、5は積層ブロック1と端板4を一体に締結する締結ボルト、5aはナット、6は回転子軸、7は回転子コア組立体を回転子軸6に結合するキー(沈みキー)である。
【0004】
ここで、図4(c)で示すように、コアプレート2には円盤の中心Oを基準に磁極数(6極)に対応する磁石挿入穴2a、4本の締結ボルト5を通すボルト穴2b、回転子軸6を通す回転子軸穴2c、および回転子軸穴2cの周上に外接するキー溝2dが打ち抜き形成されている。なお、磁石挿入穴2aについては、永久磁石3の外形に対応する穴が正六角形の各辺を形成するようにコアプレート2の外周に沿って割り付けられている。また、ボルト穴2bはコアプレート2の中心Oに対し90°間隔で4箇所に穿孔されている。
【0005】
一方、コア積層ブロック1の両端に配して磁石挿入穴2aの端面を塞ぐ磁石抜け止め用の端板4は、永久磁石3の漏れ磁束を防ぐために、真鍮,銅,ステンレスなどの非磁性材製として端板4自身が漏れ磁束の磁路を形成しないようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−354722号公報(図3、図4)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前記した従来の回転子構造では、永久磁石3の漏れ磁束を防ぐためにコア積層ブロック1の両端に配した端板4をステンレスなどの非磁性材で構成している。このために、組立部品の種類が増え、端板の製作コストも加わって回転子の製品コストがアップする。
【0008】
なお、先記した特許文献1には、非磁性材の端板を用いる代わりに、回転子コア全体を樹脂モールドして永久磁石を抜け止めするようにした構成が開示されているが、製造,組立ラインに樹脂モールド設備を要するなど、実際には製造コストの低減化が困難である。
【0009】
本発明は上記の点に鑑みなされたものであり、部品種類の削減,製造コストの低減化を狙いに従来構造における非磁性材の端板を不要とし、その代わりに回転子コアの積層部品であるコアプレートを端板に転用して埋め込み磁石の抜け止め,および漏れ磁束の低減を確保し、併せて段スキューの形成にも簡単に対応できるように改良した永久磁石形回転機の回転子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明によれば、円盤状コアプレートの積層ブロックに永久磁石を埋め込み、かつ前記積層ブロックの両端に端板を重ねて一体にボルト締結した上で、回転子軸にマウントした構成になる永久磁石形回転機の回転子で、そのコアプレートに磁石挿入穴,回転子軸穴,締結ボルト穴,および回転子軸穴の周上にキー溝を打ち抜き形成したものにおいて、
前記コアプレートのキー溝と磁石挿入穴の中心位置との間に周方向の相対的ズレ角度θを設定した上で、そのキー溝を基準に前記積層ブロックはコアプレートを同じ向きに揃えて積層するとともに、該積層ブロックの両端には、磁石抜け止め用の端板として積層ブロックのコアプレートと表裏逆向きにしたコアプレートを重ね合わせて一体にボルト締結する(請求項1)。
【0011】
また、前記の回転子コア組立構造において、コアプレートの積層ブロックを軸方向で二つのブロックに区分した上で、その一方のブロックはコアプレートを表向き,他方のブロックはコアプレートを裏向きに積層して、そのブロック相互間にコアプレートのズレ角度θに相応する段スキュー角2×θを形成する(請求項2)。
【発明の効果】
【0012】
上記のように、キー溝と磁石挿入穴の中心位置との間に周方向の相対的ズレ角度θを設定した形状のコアプレートを積層コアの部品として、そのキー溝を基準にコアプレートを表裏逆向きに重ね合わせると、前記ズレ角度θによって磁石挿入穴同士が互いに斜めに交差し合うようになる。そこで、本発明ではコアプレートの積層ブロックに永久磁石を埋め込んだ状態で、その積層ブロックの両端に表裏逆向きにしたコアプレートを重ね合わせて一体にボルト締結する。これにより、積層ブロックの両端に配したコアプレートが永久磁石の抜け止め端板としての役目を果たすことになる。
【0013】
これにより、従来構造のようにコア積層ブロックの両端に非磁性材で作られた別部品の端板を配置することなく、回転子コアの積層部品であるコアプレートをそのまま端板に転用して回転子コアの積層ブロックに埋め込んだ永久磁石を抜け止め保持することができ、これにより回転子を構成する部品種類の削減,製造コストの低減化が図れる。
【0014】
しかも、コアプレートにはその略全周域に亙って磁石挿入穴が形成されているので、端板として積層ブロックの両端に配したコアプレート(電磁鋼板)に対しては、前記磁石挿入穴が磁路の空隙となって永久磁石の漏れ磁束が低減する。
【0015】
また、コア積層ブロックを軸方向で二つのブロックに区分けした上で、その一方のブロックはコアプレートを表向き,他方のブロックはコアプレートを裏向きに積層して回転子コアを組立てることにより、そのブロック相互間には前記のズレ角度θに相応した段スキュー角2×θが形成されて永久磁石形回転機のコギングトルク,トルクリップルを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施例1に係わる回転子の構成図であって、(a)は回転子軸方向に沿った回転子組立体の断面図、(b),(c)はそれぞれ(a)における矢視A−A,B−Bの断面図である。
【図2】図1におけるコアプレートの形状を表す図であって、(a),(b)はそれぞれコアプレートの表向き,裏向きの平面図である。
【図3】本発明の実施例2に係わる回転子の構成図であって、(a)は回転子軸方向に沿った回転子組立体の断面図、(b),(c),(d),(e)はそれぞれ(a)における矢視A−A,B−B,C−C,D−Dの断面図である。
【図4】磁石埋め込み型回転電機の従来における回転子構成図であって、(a)は回転子軸方向に沿った回転子組立体の断面図、(b),(c)はそれぞれ(a)における矢視A−A,B−Bの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態を図1〜図3に示す実施例に基づいて説明する。なお、実施例の図中で図4に対応する部材には同じ符号を付してその説明は省略する。
【実施例1】
【0018】
まず、図4と同様な6極,スキュー無しの磁石埋め込み型回転子を例に、本発明の実施例1に係わる回転子構造を図1(a)〜(c)で説明する。
図示実施例の回転子は基本的に図4の従来構造と同じであるが、コア積層ブロック1を構成する電磁鋼板のコアプレート2、および積層ブロック1の両端に配して永久磁石3を抜け止めする端板4については、磁石挿入穴2a,ボルト穴2b,回転子軸穴2c,およびキー溝2dが次記のような関係位置に打ち抜き形成されている。
【0019】
すなわち、図2(a),(b)に示す実施例のコアプレート2においては、プレート周域に割り付けて形成した磁石挿入穴2aの中心位置Pとプレート2の中心Oからキー溝2dを通る半径方向の仮想線との間には周方向に所定のズレ角度θ(例えば、θ=2.5°)が設定されている。なお、図示実施例では、キー溝2dを基準にしてコアプレート2の表向き(図2(a)参照)では前記ズレ角度θが時計方向に設定されており、このコアプレート2の向きを裏返すと(図2(b)参照)前記ズレ角度θは反時計方向に反転する。これにより、キー溝2dを基準に図2(a)の表向きコアプレートと図2(b)の裏向きコアプレートを重ね合わせると、ボルト穴2b,回転子軸穴2c,キー溝2dの位置は合致するが、磁石挿入穴2aは互いに斜めに交差し合うようになる。
【0020】
そして、前記コアプレート2を積層して図1の回転子コアを組み立てるには、まず前記コアプレート2のプレート面を表向き(図2(a))に揃えた上で、キー軸2d,またはボルト穴2bを基準にコアプレート2を軸方向に積層して積層ブロック1を構築し、この積層状態で磁石挿入穴2aに直方体の永久磁石3を側方から挿入して積層ブロック1に埋め込む。なお、積層ブロック1の組立てには、例えばボルト穴2bに立てた棒状の治具にコアプレート2を順に挿入して積層するようにし、永久磁石3は接着剤などを塗布して磁石挿入穴2aに装荷する。
【0021】
次に、永久磁石3を埋め込んだコア積層ブロック1の両端には、磁石抜け止め用の端板4として1枚ないし数枚のコアプレート2を裏向き(図2(b)参照)に重ね合わせ(キー溝2dを基準に重ね合わせる)、この状態でボルト穴2bに締結ボルト5を嵌挿し、ナット5aを締め付けて回転子コアを組み立てる。
【0022】
この回転子コアの組立状態では、図1(c)で示すように積層ブロック1に埋め込んだ永久磁石3(図1(b)参照)に対して、その軸方向の両端で裏向きに重ね合わせたコアプレート2(図2(b)参照)の磁石挿入穴2aが斜め交差して永久磁石3を部分的に外側から覆う。これにより、積層ブロック1に埋め込んだ永久磁石3は軸方向への抜けが阻止されて埋め込み位置に保持される。
【0023】
次に、前記工程で仮組立した回転子コアの組立体に回転子軸6を通し、キー溝2dにキー7(沈みキー)を差し込んで回転子軸6に固着する。なお、キー7を使わずに、回転子コア組立体を回転子軸6に焼き嵌めして固着する方法も採用できる。
【0024】
上記した回転子の組立構造によれば、図4の従来構造で使用していた非磁性材の端板を排除し、その代わりにコア積層ブロック1の積層部品である電磁鋼板のコアプレート2を流用して裏向きに重ねることで、コア積層ブロック1に埋め込んだ永久磁石3を抜け止め保持することができ、これにより従来構造と比べて部品の種類削減,製造コストの低減が図れる。
【0025】
なお、磁石の抜け止め端板4としてコア積層ブロック1の両端に配した電磁鋼板製のコアプレート2には、その周域に形成した磁石挿入穴2aがそのまま磁路の空隙となるので、永久磁石3の漏れ磁束を低減して回転子コアの良好な磁気特性を確保できる。
【実施例2】
【0026】
次に、先記した実施例1の応用実施例として、本発明の請求項2に対応する実施例2の構成を図3に基づいて説明する。なお、図3の図中で図1に対応する部材には同じ符号を付している。
【0027】
この実施例2は、コアプレート2の磁石挿入穴2aとキー溝2dとの間に設定した周方向の相対的なズレ角度θ(例えば、θ=2.5°)を活用して回転子コアの積層ブロック1に段スキューを形成し、コギングトルク,トルクリップルの軽減化を図るようにしている。
【0028】
すなわち、図3(a)〜(e)においては、コアプレート2の積層体になる積層ブロック1が軸方向で二つのブロック1Aと1Bとに区分されている。ここで、ブロック1Aは、コアプレート2を表向き(図2(a)参照)に積層し、ブロック1Bはコアプレート2を裏向き(図2(b)参照)に積層し、この二つのブロック1Aと1Bはキー溝2dを基準に組み合わせた上で、各ブロック1A,1Bごとにそのコアプレート2の磁石挿入穴2aに永久磁石3を挿入する。さらに、積層ブロック1の両端には実施例1で述べたと同様に、永久磁石3の抜け止め用端板4としてブロック1Aの左側端面には裏向きのコアプレート2(図2(b)参照)を重ね、ブロック1Bの右側端面には表向きのコアプレート2(図2(a)参照)をそれぞれ重ね合わせた上で、ボルト穴2bに嵌挿したボルト5で一体に締結して回転子コアの組立体を構成する。
【0029】
このコア組立体によれば、図3(b),(c)で表すように、ブロック1Aの磁石挿入穴2aに装荷した永久磁石3とブロック1Bの磁石挿入穴2aに装荷した永久磁石3との間には、先記した時計方向,反時計方向のズレ角度θに相応した段スキュー角2×θが設定される。また、ブロック1A,1Bに埋め込んだ永久磁石3は、図3(d),(e)で表すように、積層ブロック1の端板4としてブロック1A,1Bの端面に重ね合わせた表裏逆向きのコアプレートで抜け止めされる。
【0030】
なお、図示実施例1,2では、回転子の磁極数を6極、コアプレート2の磁石挿入穴2aとキー溝2dとの相対的なズレ角度θ=2.5°に設定して、実施例2では段スキュー角2×θ=5°を形成しているが、磁極数,ズレ角度θはこれに限定されるものではない。
【符号の説明】
【0031】
1 回転子コアの積層ブロック。
1A,1B ブロック区分
2 コアプレート
2a 磁石挿入穴
2b 締結ボルト穴
2c 回転子軸穴
2d キー溝
3 永久磁石
4 端板
5 締結ボルト
6 回転子軸
7 キー
θ 磁石挿入穴/キー溝間の相対的ズレ角度


【特許請求の範囲】
【請求項1】
円盤状コアプレートの積層ブロックに永久磁石を埋め込み、かつ前記積層ブロックの両端に端板を重ねて一体にボルト締結した上で、回転子軸にマウントした構成になる永久磁石形回転機の回転子であり、前記コアプレートには磁石挿入穴,回転子軸穴,締結ボルト穴,および回転子軸穴の周上にキー溝を打ち抜き形成したものにおいて、
前記コアプレートのキー溝と磁石挿入穴の中心位置との間に周方向の相対的ズレ角度θを設定した上で、前記積層ブロックはキー溝を基準にコアプレートを同じ向きに積層するとともに、該積層ブロックの両端には、磁石抜け止め用の端板としてプレートの向きを積層ブロックと表裏逆向きにしたコアプレートを重ね合わせて一体にボルト締結したことを特徴とする永久磁石形回転機の回転子。
【請求項2】
請求項1に記載の回転子において、コアプレートの積層ブロックを軸方向で二つのブロックに区分けした上で、その一方のブロックはコアプレートを表向き,他方のブロックはコアプレートを裏向きに積層して、そのブロック相互間にコアプレートのズレ角度θに相応する段スキュー角2×θを形成したことを特徴とする永久磁石形回転機の回転子。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−23900(P2012−23900A)
【公開日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−160889(P2010−160889)
【出願日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【出願人】(000005234)富士電機株式会社 (3,146)
【Fターム(参考)】