説明

油圧式ショックアブソーバ

【課題】ショックアブソーバにおいて、ストローク終端において安定的に緩衝停止可能にし、しかも、要求される衝撃吸収モデルに容易に対応できるようにする。
【解決手段】ピストン室2に油が充填されたショックアブソーバにおいて、ピストンのストローク範囲内に、ピストンが移動を開始する開始部Sと、主減速部Mと、ピストンを停止させる終息部Eとを備える。開始部Sにおいては、ピストンのストローク範囲に設定される仮想的なテーパー面より大径でピストン室の中心軸線L側に凹の曲面に形成され、主減速部Mにおいては、縮径変化率を次第に増大させて上記テーパー面よりも小径化し、縮径変化率の変化が正から負に逆転する最大変化率部位Pに至る曲面に形成され、終息部Eにおいては、縮径変化率が次第に低減してピストンが緩衝停止を行う曲面に形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、移動物体を停止させる際の機械的衝撃を、シリンダハウジングのピストン室から流出する油の流動抵抗を利用して吸収する油圧式のショックアブソーバに関するものである。
【背景技術】
【0002】
油圧式のショックアブソーバとして、衝突の際の緩衝能力を制御し、あるいは、衝撃加速度のピーク値をできるだけ小さくするようにしたものは、例えば、特許文献1や特許文献2等に既に開示されている。上記特許文献1に開示されているショックアブソーバは、油を充填するシリンダハウジングのピストン室を、ピストンが作動する方向に向かって直線状あるいは2次曲線状に細くなるようなテーパー状に形成したものであり、また、上記特許文献2に開示されているショックアブソーバは、ピストン室の内部をピストンが作動する方向に向かって直線状に細くなる、テーパー比が1/50〜1/130の範囲のテーパー状に形成したものである。
【0003】
上記特許文献1のショックアブソーバでは、シリンダハウジングとピストンとの間の隙間に形成されるオリフィスがピストンの移動に伴って小さくなるので、緩衝開始時には衝撃の吸収能力が小さく、ロッドが移動してオリフィスが小さくなるとエネルギーの吸収量が増大し、緩衝停止させようとする移動物体のスピードが低速に変化する旨が説明され、また、上記特許文献2のショックアブソーバでは、ある特定の実験装置を用いて特定条件による実験を行った際に、テーパー比が1/50〜1/130の範囲において衝撃加速度ピーク値が低かったとの実験結果が得られたことから、その範囲が衝撃緩和に有効であるとするものである。
【0004】
しかしながら、シリンダハウジングとピストンとの間に形成される上記オリフィスは、望ましくは、ロッドの先端に緩衝停止させようとする移動物体が衝突してその緩衝停止を開始する初期段階では、そのオリフィス面積を大きい状態に保って衝撃力を緩和することにより衝突音や発塵を低減させ、それに続く中間段階では、エネルギーの吸収量を大きくして、最終段階で移動物体が跳ね返るのを抑制できるところまで減速したうえで、最終段階で緩衝停止させるものとするのが望ましく、上記特許文献1及び2に記載のショックアブソーバはこれらの望ましい条件を満足できるものではない。
【0005】
即ち、上記特許文献1に記載のもの、特に当該文献の第1図に示されているような2次曲線状のテーパーのものでは、移動物体の緩衝停止を開始する初期段階では多少衝撃力を緩和して衝突音や発塵を低減させることができるにしても、それに続く中間段階でのエネルギーの吸収量が不十分であって、ストローク終端付近で急激に大きな抗力を与えることになるため、移動物体が停止位置で跳ね返るのを避けることが困難になり、特に、ロッドに対する移動物体の衝突速度が高速になるに従って、移動物体が停止位置付近で跳ね返るのを避けることができず、到底満足できる緩衝停止を期待することができない。
【0006】
これを本発明者らによる実験結果との関連において説明すると、図2においては、本発明におけるピストン室の代表的形態例の場合(a)と、特許文献1または2のショックアブソーバのように、ピストン室をテーパー状に形成した場合(b)との該ピストン室の内径とピストンストローク位置との関係を(A)図として示し、また、それらの場合におけるストローク位置とロッドにより移動物体に与えられる抗力との関係を(B)図として模式的に示している。
【0007】
上記図2の(A)及び(B)によって明らかなように、既知のテーパー状のピストン室を備える油圧式のショックアブソーバにおいては、オリフィスが一定の場合(例えば、特許文献1の第3図等)に比して、移動物体の緩衝停止を開始する初期段階においてロッドから移動物体に与えられる抗力、つまり、ショックアブソーバのエネルギー吸収量が、移動物体が高速でロッドに衝突するにも拘わらずオリフィスの絞りが開始されることになるので、図2の(B)に曲線(b)で示しているように、該初期段階での衝撃力が十分に緩和されるとは言い難く、そのため、衝突音や発塵の低減が満足できるものではない。また、その初期段階に続く中間段階でのエネルギーの吸収量は、特許文献1の第2図の(a)及び上記図2の(B)における曲線(b)が、移動物体の緩衝停止直前のストローク終端付近での跳ね返り現象の原因となる大きな抗力を示していることからも、不十分なものであることは明らかである。
【0008】
このように、制御特性が必ずしも満足できない緩衝停止を行うのは、ショックアブソーバは極めて多様性のある移動物体の緩衝停止に対応させる必要があり、しかしながら、各種緩衝停止の事例に対応させたピストン室を得ることは困難であるため、該ピストン室を多様性のある緩衝停止の最大公約数的で、しかも加工性において優れた形態にしようとするためであると考えられる。
しかしながら、加工性を若干犠牲にしてでも、性能的により優れた特性を有するショックアブソーバが要求されることは多々存在し、そのため、加工の容易性についてもある程度考慮しながら、できる限りユーザーの要求を満たす性能のショックアブソーバを提供するのが適切である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】実開昭62−140241号公報
【特許文献2】特開2006−250309号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の技術的課題は、油圧式ショックアブソーバにおいて、ピストンのロッド先端に移動物体が衝突してピストンが移動を開始する段階と、それに続く主減速の段階と、その後に緩衝停止させる終息の段階とにおけるピストン室内周面の縮径変化をそれぞれ適切に設定し、ストローク終端においてピストンを安定的に緩衝停止させることを可能にすることにある。
本発明の他の技術的課題は、ショックアブソーバを構成するピストン室内を、開始部、主減速部及び終息部とを備えたものとし、それらの各部のストローク範囲及び該範囲内における縮径変化率等を、それぞれ要求される性能に適合するように設定して、より広範囲な衝撃吸収モデルに対応できる自由度をもたせ得るようにしたショックアブソーバを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、本発明によれば、シリンダハウジング内に油が充填されたピストン室を有し、該ピストン室内に緩衝用のピストンが該ピストン室の軸線方向に移動可能に収容され、該ピストンに基端を連結したロッドの先端部を上記シリンダハウジングの外部にシール状態で導出してなる油圧式ショックアブソーバにおいて、上記ピストン室の内周面が、上記ピストンのロッド先端に移動物体が衝突してピストンが移動を開始する開始部においては、上記ピストンのストローク範囲の始端と該始端に対し狭搾された終端との径差Dの間に設定される仮想的なテーパー面よりも拡径された曲面に形成され、上記開始部に続く主減速部においては、該内周面の縮径変化率を次第に増大させて、上記仮想的なテーパー面よりも小径化し、該縮径変化率の変化が正から負に逆転する最大変化率部位に至る曲面に形成され、上記主減速部の最大変化率部位に続く終息部においては、該縮径変化率が次第に低減してピストンが緩衝停止を行う曲面に形成されていることを特徴とする油圧式ショックアブソーバが提供される。
【0012】
本発明に係る上記ショックアブソーバの好ましい実施形態においては、上記ピストン室の内周面におけるピストンの移動の開始部及び主減速部において、ピストン室の内周面が該ピストン室の中心軸線側に凹の曲面に形成され、上記終息部においては、ピストン室の中心軸線側に凸の曲面部分を備えているものとして構成される。また、上記ピストンのストローク範囲における主減速部の終端の最大変化率部位Pの位置が、少なくとも、この後の終息部のストローク範囲でピストンが緩衝停止を行うに必要な運動エネルギーの減衰を達成できる位置にあるものとして構成される。
【0013】
本発明に係る上記ショックアブソーバにおいては、上記開始部が、上記ピストン室の内周面におけるピストンのストローク始端から該ストロークの15%の範囲内にあり、上記主減速部が上記開始部に続く60%までの範囲内にあり、上記主減速部後の残る範囲が終息部であるものとして構成するのが適切である。
また、上記開始部から主減速部に移行する段階における縮流変化率(ε/D)を、6%以下とし、上記最大変化率部位Pにおけるピストン室の内径変化C/Dが、40〜70%の範囲内にあるものとし、更に、上記終息部において、上記仮想的なテーパー面に対するピストン室内の曲面の最大内径差δの上記径差Dに対する比が、δ/D=10〜25%の範囲内にあるものとするのが適切である。
【発明の効果】
【0014】
以上に詳述した本発明の油圧式ショックアブソーバによれば、ピストンのロッド先端に移動物体が衝突してピストンが移動を開始する段階と、それに続く主減速の段階と、その後に緩衝停止させる終息の段階とにおけるピストン室内周面の縮径変化をそれぞれ適切に設定することにより、ピストンをストローク終端において安定的に緩衝停止させることが可能になり、また、ショックアブソーバを構成するピストン室内を、開始部、主減速部及び終息部とを備えたものとし、それらの各部のストローク範囲及び該範囲内における縮径変化率等を、それぞれ要求される性能に適合するように設定して、より広範囲な衝撃吸収モデルに対応できる自由度をもたせ得るようにしたショックアブソーバを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明に係る油圧式ショックアブソーバの実施例の全体的形態を示す断面図である。
【図2】(A)は本発明に係るショックアブソーバにおけるピストン室の内面形状を、既知のテーパー面を有するものとの対比において模式的に示した説明図であり、(B)はそれらのショックアブソーバにおけるストローク位置とロッドにより移動物体に与えられる抗力との関係を模式的に示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1は、本発明に係る油圧式ショックアブソーバの実施例の全体的構成を示すものである。このショックアブソーバは、円筒状のシリンダハウジング1内に油が加圧状態で充填されるピストン室2を有し、該ピストン室2内に緩衝用のピストン3が、該ピストン室2の軸線方向に移動可能に収容され、該ピストン3に基端を連結したロッド4の先端部を上記シリンダハウジング1の外部にシール状態で導出して、その先端を、緩衝停止させるべき移動物体の衝突端4aとしたものである。
【0017】
上記シリンダハウジング1の構成について更に具体的に説明すると、該シリンダハウジングは、その中心軸線L方向の基端側に位置するヘッド側端壁2aに、その内側に設けられているピストン室2に上記油を充填するための注油孔6が形成されて、該注油孔6がプラグ7により封止され、該ヘッド側端壁2aと上記シリンダハウジング1の軸線L方向先端側に配設したアキュムレータ室8の区画壁9との間に、上記ピストン室2が形成されている。上記区画壁9の一部は、上記ピストン室2のロッド側の隔壁をも形成するものであるが、該隔壁として必ずしもアキュムレータ室8の区画壁9を利用する必要はない。
【0018】
上記ピストン室2の内部には、後述するような該ピストン室2の内径よりも外径の小さい緩衝用のピストン3が、ピストン室2の軸線(シリンダハウジング1の軸線Lと同じ)の方向に移動可能に収容され、該ピストン3にロッド4の基端部が連結されているが、該ロッド4には、該ピストン3と共にばね座板13がナット14により取り付けられ、このばね座板13と上記ヘッド側端壁2aとの間に、上記ピストン3を隔壁に当接する初期位置(図1の位置)に向けて常時付勢する復帰ばね12が配設されている。
そして、上記ピストン3に連結したロッド4は、上記アキュムレータ室8の区画壁9の中心孔9aを貫通し、更に、該区画壁9とシリンダハウジング1のロッド側端を閉鎖する端蓋15との間に配設したリング状のロッドパッキン16、及び該端蓋15の中心孔を通してシール状態で外部に導出している。
【0019】
上記シリンダハウジング1の内面と上記区画壁9との間に形成されたアキュムレータ室8は、独立気泡の発泡材等で構成された収縮膨張自在の弾性部材18が収容されたもので、該アキュムレータ室8は上記区画壁9に設けた連通孔9bでピストン室2と相互に連通させ、これらの両室の内部に前記油が加圧状態で充填されている。
従って、上記ロッド4が図1の初期位置にある状態において、緩衝停止させようとする移動物体がその先端に衝突すると、該ロッド4がピストン3を押圧して後退させ、その際にピストン3の周囲の流通間隙(オリフィス)を流れる油の流動抵抗により、上記移動物体の運動エネルギーが吸収され、それを緩衝停止させることになる。
なお、上記ピストン3及びロッド4が初期位置から後退する際に、アキュムレータ室8には、ピストン室2に進入したロッド4の体積分に相当する量の油が、その弾性部材18の収縮により受容される。
【0020】
次に、図2を参照して、上記ピストン室2の内周面の具体的な形態、つまり、ピストン3のストローク範囲内における該ピストンのストローク位置とピストン室2の内径によって決まるピストン3の周囲の流通間隙(オリフィス)との関係について説明する。
【0021】
図2の(A)は、本発明におけるピストン室2の代表的形態例におけるピストン3のストローク位置とピストン室2の内径との関係を、周知のショックアブソーバのように、ピストン室の内周面をテーパー状に形成した場合との対比において示すものである。
即ち、ここでは、先ず、ピストン3のストローク位置を、該ピストン3のロッド4の先端に移動物体が衝突して該ピストン3が移動を開始する段階の開始部Sと、上記開始部Sに続く主減速部Mと、該主減速部Mにおいて減速したピストン3を停止させる終息部Eという三部に大別している。そして、それらの各部においては、ピストン3のストローク位置とピストン室2の内径との関係を次のように設定している。
【0022】
まず、上記開始部Sにおいては、ピストン室2の内径が、該ピストン室2内におけるピストン3のストローク範囲の始端と、該始端に対しリニアに狭搾された終端との径差Dの間に設定される仮想的なテーパー面に対し、該ピストン室2の内周面の方が拡径され、しかも、ピストン室2の中心軸線L側に凹の曲面に形成される。上記開始部Sは、上記ピストン3のロッド4先端に移動物体が衝突してピストン3が移動を開始する段階での衝突音と発塵を低減させながら、ピストン室2の内周面の縮径を開始し、それに続くこのショックアブソーバによる本来のピストン3の減速のために、ピストン室2の内周面の縮径によりピストン3のエネルギー吸収を行う主減速部Mに入るまでのストローク範囲である。
【0023】
なお、上記開始部Sにおける中心軸線L側に凹の曲面とは、原則的に、上記軸線Lを含む断面において2元2次方程式のように簡単な数式で表される曲線で形成され、それによって、製造工程での制御等を簡単にするものである。また、上記仮想的なテーパー面に対してピストン室2の内周面が大径であるというのは、ピストン室2の内周面がテーパー面の初期の最大径よりも大きくなる場合を含み、これによって移動物体がロッド4の先端に衝突したときの衝撃を確実に緩和する場合を含むことを意味している。
【0024】
次に、上記開始部Sに続く主減速部Mにおいては、上記仮想的なテーパー面よりも大径の部分において上記開始部Sにおけるピストン室2の内周面と滑らかに連なり、次いで、このショックアブソーバによる本来のピストン3の減速を行うために、ピストン室2の内周面の縮径変化率を次第に増大させ、上記仮想的なテーパー面よりも小径化したうえで、該縮径変化率の変化が正から負に逆転する最大変化率部位Pに至る曲面に形成される。そのため、この主減速部Mにおいては、ピストン室2の中心軸線L側に凹の曲面に形成される。
【0025】
この主減速部Mにおいても、隣接する曲面を滑らかに連ねる部分等を除き、上記曲面部分は、前記開始部Sにおける曲面と同様に、原則的に軸線Lを含む断面において2元2次方程式のように簡単な数式で表される曲線で形成するのが望ましいが、この主減速部Mにおいて重要なことは、移動物体が保有するエネルギー量に応じてその吸収量を調整するように設定でき、最終段階である終息部Eにおいて移動物体を緩衝停止させ、ストロークの終端までに運動エネルギーの吸収ができず、その結果、ストロークの終端に強く衝突したりその終端付近で跳ね返ったりするのを抑制できるところまで、早期に抗力を高めることにある。そのため、この主減速部Mにおいて設定されたピストン室2の内径に基づく抗力によりピストン3は減速を続け、それに続く終息部Eにおいて円滑に緩衝停止するところまで減速させることになる。これは、図2の(B)に示す抗力のピーク値をできるだけ低下させることにもなる。
【0026】
上述したところからすれば、上記主減速部のストローク終端における最大変化率部位Pの位置は、少なくとも、この後の終息部Eのストローク範囲でピストン3が緩衝停止(ソフトランディング)を行うに必要な運動エネルギーの減衰を達成できる位置にあることが必要になり、この終息部Eのストローク範囲を確保することも考慮して、上記最大変化率部位Pの位置を設定する必要がある。
【0027】
更に、上記主減速部Mの最大変化率部位Pに続く上記終息部Eは、上記主減速部Mの曲面に滑らかに連なり、上記縮径変化率を次第に低減させてピストン3を緩衝停止させる曲面に形成されるものである。そのため、この終息部Eにおいては、上記主減速部Mにおける制御で減速させた移動物体について、ストロークの終端までに運動エネルギーの吸収を行い、その結果、ストロークの終端に強く衝突したりその終端付近で跳ね返ったりするのを抑制して、円滑に停止させるように制御することになる。上述のように、この終息部Eにおいて上記縮径変化率を次第に低減させれば、縮径するピストン室2はその中心軸線L側に凸の曲面部分を備えることになるが、ストロークの終端部においては、既知のショックアブソーバと同様に、ピストン3とピストン室2の内面との間に、1/100〜5/100mmのクリアランスを持たせることになる。
【0028】
ピストン3のストローク位置とピストン室2の内径との間に上述したような関係を付与するに当たり、上記開始部Sは、通常、上記ピストン室2の内周面におけるピストン3のストローク始端から該ストロークの15%の範囲内にあり、上記主減速部Mは、上記開始部Sに続く60%までの範囲内にあり、上記主減速部M後の残る範囲を上記終息部Eとするのが望ましく、この数値範囲は、本発明をなすに至る実験やコンピュータによるシミュレーションにおいて確認されている。
【0029】
また、上記実験やコンピュータによるシミュレーションにおいては、ストロークの始端と終端とにおけるピストン室内径の径差Dに対し、開始部Sから主減速部Mに移行する段階におけるピストン室内周面の径差εの比(ε/D)、つまり、開始部Sにおける平均的な縮流変化率が6%以下であるのが適切であり、同様に、上記最大変化率部位Pにおけるピストン室の内径変化C/Dが、40〜70%の範囲内にあるのが適切であることを確かめている。
【0030】
一方、上記終息部Eにおいては、上記仮想的なテーパー面に対するピストン室内の曲面の最大内径差δの上記径差Dに対する比が、δ/D=10〜25%の範囲内にあるのが望ましく、上記比が25%を超えるとストローク端付近でピストンの跳ね返り現象が生じやすくなり、それに対して上記比が10%未満の場合には、縮流不足になってエネルギーの吸収不足が発生し、ストローク端でピストンが底付する現象(ボトミング)またはストローク端付近での跳ね返り現象が生じやすくなることを確かめている。
【0031】
更に、上述した曲面によってピストン室内周面を形成した場合におけるストローク位置とロッドにより移動物体に与えられる抗力との関係を、ピストン室内面をテーパー面とした場合との比較において、図2の(B)として模式的に示しているが、本発明に基づく曲線(a)の場合に抗力のピーク値が十分に低く、結果的に無理な減速を行っていないことが明らかである。
【0032】
以上に詳述した油圧式ショックアブソーバによれば、各段階におけるピストン室内周面の縮径変化をそれぞれ適切に設定することにより、ストローク終端において安定的に緩衝停止させることができ、その際に、ショックアブソーバを構成するピストン室内の各領域における縮径変化率等を、それぞれ要求される性能に適合するように設定することによって、より広範囲な衝撃吸収モデルに対応できる自由度をもったショックアブソーバを提供することができる。
【符号の説明】
【0033】
1 シリンダハウジング
2 ピストン室
3 ピストン
4 ロッド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダハウジング内に油が充填されたピストン室を有し、該ピストン室内に緩衝用のピストンが該ピストン室の軸線方向に移動可能に収容され、該ピストンに基端を連結したロッドの先端部を上記シリンダハウジングの外部にシール状態で導出してなる油圧式ショックアブソーバにおいて、
上記ピストン室の内周面が、上記ピストンのロッド先端に移動物体が衝突してピストンが移動を開始する開始部においては、上記ピストンのストローク範囲の始端と該始端に対し狭搾された終端との径差Dの間に設定される仮想的なテーパー面よりも拡径された曲面に形成され、
上記開始部に続く主減速部においては、該内周面の縮径変化率を次第に増大させて、上記仮想的なテーパー面よりも小径化し、該縮径変化率の変化が正から負に逆転する最大変化率部位に至る曲面に形成され、
上記主減速部の最大変化率部位に続く終息部においては、該縮径変化率が次第に低減してピストンが緩衝停止を行う曲面に形成されている、
ことを特徴とする油圧式ショックアブソーバ。
【請求項2】
上記ピストン室の内周面におけるピストンの移動の開始部及び主減速部においては、ピストン室の内周面が該ピストン室の中心軸線側に凹の曲面に形成され、
上記終息部においては、ピストン室の中心軸線側に凸の曲面部分を備えている、
ことを特徴とする請求項1に記載の油圧式ショックアブソーバ。
【請求項3】
上記開始部は、上記ピストン室の内周面におけるピストンのストローク始端から該ストロークの15%の範囲内にあり、上記主減速部が上記開始部に続く60%までの範囲内にあり、上記主減速部後の残る範囲が終息部である、
ことを特徴とする請求項1または2に記載の油圧式ショックアブソーバ。
【請求項4】
上記開始部から主減速部に移行する段階における縮流変化率(ε/D)が、6%以下である、
ことを特徴とする請求項3に記載の油圧式ショックアブソーバ。
【請求項5】
上記ピストンのストローク範囲における主減速部の終端の最大変化率部位Pの位置が、少なくとも、この後の終息部のストローク範囲でピストンが緩衝停止を行うに必要な運動エネルギーの減衰を達成できる位置にある、
ことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の油圧式ショックアブソーバ。
【請求項6】
上記最大変化率部位Pにおけるピストン室の内径変化C/Dが、40〜70%の範囲内にある、
ことを特徴とする請求項5に記載の油圧式ショックアブソーバ。
【請求項7】
上記終息部において、上記仮想的なテーパー面に対するピストン室内の曲面の最大内径差δの上記径差Dに対する比が、δ/D=10〜25%の範囲内にある、
ことを特徴とする請求項5または6に記載の油圧式ショックアブソーバ。

【図1】
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【図2】
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