説明

海洋水循環式天然型魚介類育成システム

【課題】地球温暖化の影響により、危機的な減少傾向にある水産資源の食糧自給率向上を目的として、地上において栽培漁業を行う海洋水循環式天然型魚介類育成システムを提供する。
【解決手段】内陸部の遊休農地、原野、不毛地、砂漠化した乾燥地帯等を活用して、掘削した地盤面、若しくはFRPまたはコンクリート構造の躯体で構成された周回式人工ラグーンA内に、海藻の胞子類を着定させて藻場礁を形成し、岩礁性底棲魚介類の育成を行う緩斜面Bと、海藻類と二枚貝による海水浄化作用と砂質性底棲魚介類の育成を行う砂質層Cとを備えさせ、当該ラグーン内に再生可能エネルギーを主動力源とする海洋水取水システム及びパイプライン輸送システムにより導入された海洋水を循環させて、ワカメなどの養殖技術による人工藻場礁を形成し、更に海洋水取水口から捕らえられた多様な動植物プランクトンの働きにより自然界の食物連鎖からなる海洋生態系を再現し無給餌で魚介類を育成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は水産資源の栽培漁業技術に関し、特に海棲魚介類の最適な育成環境に関する。
【背景技術】
【0002】
従来からの食用目的の魚介類飼育方法は、浮体付き漁網等によって囲まれた生け簀による海面養殖方法(例えば、特許文献1、2、3、参照。)と、陸上に設置した飼育水槽による養殖方法(例えば、特許文献4,5,6、参照。)が取られている。また、種苗から育てられた稚魚や稚貝を漁業対象海域の沿岸に放流し、減少傾向にある天然の水産資源を補充する栽培漁業(例えば、特許文献7,8,9参照。)も行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平6−007056号公報
【特許文献2】特開2005−013185号公報
【特許文献3】特開平6−209675号公報
【特許文献4】特開2008−283896号公報
【特許文献5】特開2008−148687号公報
【特許文献6】特開2002−233268号公報
【特許文献7】特開2007−082466号公報
【特許文献8】特開平09−037677号公報
【特許文献9】特開2002−233265号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら海面養殖においては、過度な利益追求による過剰給餌や過密飼育により、水質悪化に伴う周辺海域の環境破壊を引き起こし、さらに変化のない一辺倒な給餌と閉鎖的で単調な育成環境に由来する飼育生物のストレス障害を招き、皮膚がまだらになる、背骨が曲がる等の飼育魚の奇形や病気の多発、成長阻害、また赤潮による壊滅的な打撃、嵐による施設の損壊等の多くの解決困難な問題が生じている。
【0005】
また、海際に設けられた掛け流し式陸上養殖においても、海面養殖と同様に水質汚染による環境破壊を進行させ、さらに奇形や病気の発生の為に大量の抗生物質やホルマリン、多数種の治療薬が使用され薬物汚染が問題視されている。
【0006】
さらにまた近年普及傾向にある陸上の閉鎖型循環式飼育水槽に至っては、海水中の溶存酸素量を飽和状態まで近づけるために純酸素の添加まで行って、1m当たり100キロから150キロ(日本国内での一例を挙げると和歌山県水産試験場は1m当たり10キロ前後を推奨)という尋常ではない欧米式の超高密度飼育を模倣して硝化還元作用に基づく生物濾過を形成するための濾過システムを開発競争しているが、上記薬品漬けの劣悪環境に加えて複雑な濾過装置や海水配管と更に大型冷却設備等に大電力を必要とするとともに、人工飼料の給餌に多大なランニングコストが掛かる事に加えて、フジツボやイガイ及び牡蠣等の自然発生的な付着物の除去に掛かる永続的な装置のメンテナンスが困難を極めている。
【0007】
また、稚魚や稚貝を漁業対象区域の沿岸海域に放流するという、水産庁主導の現行の栽培漁業に至っても、魚介類の卵(種苗)から稚魚や稚貝を育てる技術は、世界レベルで見ても最先端を行っているにもかかわらず、放流した稚魚や稚貝の総数に比して圧倒的に漁獲高が少なく歩留まりが悪いと言う事と(他の魚の餌食になる。放流場所から離れてしまう。岩陰に隠れて収穫出来ない。生き延びる事が出来ない。等の理由による。)、地球温暖化の影響による海水温の上昇や海水の酸性化、赤潮、磯やけなど環境悪化による藻場礁の衰退が水産資源の減少を招いている。
【0008】
更に近年の消費者による魚類の養殖物離れは、食文化の進歩による永続的なグルメブームと日本人の繊細な味覚による天然物嗜好に基づくものであり、油が強く味が無く身に締りがないなど、どの魚も似たような食味、過剰給餌や過密飼育による水質悪化に伴う環境破壊、抗生物質や薬品の投与、ホルマリン垂れ流し問題などの養殖に対するイメージダウンが根底になっている。
【0009】
上記のような長年に亘る様々な問題点、すなわち野放図に利益のみを追求して環境破壊を加速させてきた海面養殖方法や、薬漬けで不健康な魚介類を生産し続けている陸上養殖方法を抜本的に改善するとともに、今後さらに沿岸域における地球温暖化の影響が著しく増大することを危惧し、対象魚介類が80数種類にも達する我が国の多様で優秀な稚魚、及び稚貝の生産技術を有する栽培漁業の放流場所である沿岸の岩礁域潮間帯部分を人工的に再現し、地上に自然の海と同様の成育環境を創造する事を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の課題解決手段は、上記目的を達成する為に、通常は沿岸域で行われる魚介類の栽培漁業を地上で行うものであり、逆台形を基本の断面形状とした水路で構成される長円形の周回式人工ラグーン内に、藻場礁を形成して岩礁性底棲魚介類の育成を行う緩斜面とベントス食性(ゴカイなど砂の中の生物を食べる魚)等の底棲魚介類の育成を行う砂質層とを設け、当該ラグーン内に再生可能エネルギーを主動力源とする海洋水取水システムによって、海水の酸性化や高水温化等の温暖化の影響を受けにくい深度の有光層水(海洋亜表層水)と、栄養塩を豊富に含む低温で無菌状態の補償深度以深(無光層)の海洋中深層水を、別々に取水及び混合して魚介類の天然の生育場所と同様の水温範囲に調整するとともに、混入してきた表層域から亜深海域までの多様な動植物プランクトンを含む海洋水を、再生可能エネルギーを主動力源とするパイプライン輸送によって導入することにより、植物プランクトンの基礎生産(一次生産)から始まる食物連鎖によって水圏の物質循環を人工的に創出し、地上に海洋生態系を再現する海洋水循環式天然型魚介類育成システムを設けたものである。
【発明の効果】
【0011】
1)海洋の表層水とは物理、化学、生物学的に性質の異なる低温で無菌状態の富栄養塩(硝酸塩、リン酸塩、ケイ酸塩、窒素等)に富む補償深度以深の海洋中深層水をベースとした海草及び海藻類や魚介類の育成は、自然界に比してより早い成長を促す。
2)天然物同様に自然な環境と多様な食性を確保出来る魚介類は、限りなく自然に近い美味なる生体に成長する。
3)水温調整が可能な事により、冷水域から熱帯域までの多様な海棲生物の育成が可能になる。
4)既存技術のみによるシンプルな構成のため、ポンプの故障以外のメカニカルトラブルは発生しない。
5)理想的環境で育った魚介類を適正価格で市場に流通させる事が出来る。
6)密生した藻場礁と二枚貝による温室効果ガスの吸収は水面面積の増大とともに地球温暖化の防止に貢献する。
7)システムの全動力源を再生可能エネルギーによって調達する事により、京都議定書に基づくカーボンマイナス(カーボンポジティブ)を達成することが可能になる。
8)アフリカ諸国、南アメリカ諸国、東南アジア諸国等の開発途上国で本発明を実施する場合、雇用と食糧の確保を永続的に達成することが出来、周辺地域の貧困層の経済を活性化させる事が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の概念図及び配管系統図である。
【図2】本発明を実施するための第1形態における基本的構造を示す斜視図である。
【図3】本発明を実施するための第1形態における斜視断面図である。
【図4】本発明を実施するための第1の形態における水路部分を3連結した変形例の部分斜視断面図である。
【図5】本発明を実施するための第1の形態を前後左右に連結した変形例の斜視図である。
【図6】本発明を実施するための第2の形態における水路部分の斜視断面図である。
【図7】本発明を実施するための第2の形態を3連結した変形例の部分斜視断面図である。
【図8】本発明を実施するための第3の形態における水路部分の斜視断面図である。
【図9】本発明を実施するための第3の形態を3連結した変形例の部分斜視断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態として第1の実施例から第7の実施例まで図1から図9に基づいて説明する。
【実施例1】
【0014】
図1の概念図中の配管系統図において、1及び2の海洋水取水口より取水された海水は、3及び4の取水管を通過し、5及び6の逆止弁を通って、7及び8のバルブにて適宜流量調整され、9のストレートティーズにより混合されて、10のエキセントリックレデューサーにて、圧送時の内部抵抗を軽減する目的と長期的な付着物の堆積による内径の縮小を考慮して大径化され、11のメインポンプにより12の送水管を通過して図2の周回式人工ラグーンに送られ複数台の水中ポンプにより良好な水流を発生させる。
【0015】
本実施例を海際に設ける場合は必要としないが、長距離若しくは標高の高い場所に海洋水を送る場合、13の中継ポンプステーションを多用して送給圧を高め、図2の人工ラグーンに圧送される。必要なら更なる水温の上昇のために海水を人工ラグーン内に導入する直前に送水管の終点付近を幅広いオープンカルバート構造にして流速を弱め、水面面積を増大するとともに太陽光エネルギーで海水を暖める。以下、人工ラグーンを満杯にした海洋水は14のオーバーフロー水の出口より排水され15の復水管を通過して海洋に放出される。なお、海水を海水淡水化プラント若しくは水素製造装置等に再利用する場合においては復水管を必要としない。
【0016】
図2の長円形を基本形状とした周回式人工ラグーンは、掘削した地盤面若しくはFRPまたはコンクリート等の構造躯体Aをベースとして緩斜面Bと砂質層Cを備え魚介類を育成するための逆台形の断面形状を持った循環式水路を構成する。基本的な大きさは水深8mから10m前後、水路の幅約35m、内周約400m、外周約650m、総水量概算で135,000m前後の規模を想定するが、人工ラグーン自体はパイプライン輸送を通じて海洋と繋がった単なる海水の受け皿であり、緩斜面と砂地にて構成される単純な仕組みなので規模はそれ以上でも以下でも可能である。
【0017】
アワビやウニ、イセエビ等の育成に用いる小規模のものはFRPもしくはコンクリート構造等でも可能であり、また広大な平地を利用した大規模のものは、計画する人工ラグーンの輪郭線に沿って内側の地盤面を掘削し、掘削した土は輪郭線の外側に盛り土して土手を造る。土質によっては防水処理を施し、さらに内側の地盤面には小島を沢山設けて藻場礁を形成する緩斜面を多く造成すれば極めて簡単な土木工法で人工の海が造れ、小島を橋でつなげれば島のスペースに居住施設等も造れる。
【0018】
以下に参考として、海洋水の輸送に流用可能な、現在稼働中の世界各国の石油パイプライン輸送システム及び本発明に併設を想定した海水淡水化プラントの代表的な能力を示す。この事により、本発明は充分に実現性があると考えられる。
【0019】
・・・パイプライン・・・
・トランスアラスカパイプライン(アメリカ アラスカ州)総延長約1300km(中継ポンプステーション11ヶ所、それぞれ4台のポンプ)輸送能力1日約11万4000m
・バクー トビリシ ジェイハン(BTC)パイプライン(アゼルバイジャン グルジア トルコ)総延長約1770km((最大標高2830m中継ポンプステーション8ヶ所)輸送能力一日約16万m
・ドルジバパイプライン(ロシア ウクライナ)総延長約4000km(中継ポンプステーション20ヶ所)輸送能力一日約20万m
【0020】
・・・海水淡水化プラント・・・
・・逆浸透方式(RO水)・・
・アシュケロン海水淡水化プラント(イスラエル)日量33万トン
・福岡市東区海水淡水化プラント(日本)日量5万トン
・・多段フラッシュ方式(蒸留法)・・
・ジェッダNo,4海水淡水化プラント(サウジアラビア)日量22万トン
・アシュベール海水淡水化プラント(サウジアラビア)日量100万トン
(以上ウィキペディアUSAより抜粋。)
【0021】
使用する海水は、表層水に比して明確な温度差と物理的特性の違いを有する水深300m以深の海洋中深層水と、地球温暖化による海水の高温化や酸性化の影響を受けにくい水深15m前後の有光層水(海洋亜表層水)を別々のパイプで取水する。
配管は海水による腐食に耐え得る塩化ビニールライニング、ポリエチレンライニング、ナイロンライニング、FRPライニング、スーパーステンレス、SUS304L、SUS316L、ABS樹脂管、ポリエチレン管、等の材質を選択し、炭素鋼を使用した配管にはさらなる腐食防止に再生可能エネルギーを利用した通電式電気防食を採用する。
【0022】
図2の緩斜面Bは、太陽光エネルギーにより光合成を効率よく行うために、入射角がもっとも浅い冬季の太陽の軌道を基準とし、周回水路に組み込まれたときに全ての藻場礁面に満遍なく日差しが当たるように緩やかなスロープに造成する。
【0023】
表面は単なる平面ではなく有効栽培面積を増やす目的により水族館のように人工的な潮間帯の岩礁地帯を再現する。デザインは魚介類の隠れる穴等を多く造形した複雑な立体にする。また、貝類の採集が容易になるように手の届かないデッドスポットは造らない事およびアワビ等の餌になる流出海藻が留まり易い形状とする。
【0024】
藻場礁を形成するための海藻類の増殖時は海に戻すオーバーフロー水の中に遊走子類が流出しないよう海水の取水を一時止めてクローズドサーキット(閉鎖循環回路)を造り、水温を最適温に上昇させて、養殖ワカメ等の生産技術を流用して海藻類の雌株からつくられた遊走子類を人工ラグーン内に大量に放出する。遊走子の定着が確認出来たら必要にして充分な量の海水を循環させる。
【0025】
海藻が育ってきたらアワビやサザエ、ウニの稚貝、伊勢海老、メバルやアイナメ、カサゴ、ソイなどの魚介類の稚魚を放流する。タコやイシダイ、カニなどの貝類を食性とする魚介類は稚貝を食べてしまうので混泳させることは出来ない。
【0026】
導入海水中に捕らえられた動植物プランクトンは次第に単細胞原始藻類や海藻類、フジツボやイガイ、カキ、ホヤ類、海綿、甲殻類、ゴカイやワムシ等の形となって徐々に姿を現し、やがて魚介類に消費されて無給餌による食物連鎖が再現される。
【0027】
藻場礁や砂地の面ではアマモなどの海草やワカメ等の一年草、多年草を多数種栽培し、次世代より胞子を人工ラグーン内で自然増殖させ植物の自然循環を構築する。
【0028】
図2の砂質層Cは、取水システム、中継ポンプステーション、ワイヤーブラシ付きピグを使用したパイプラインのメンテナンス時及び、海藻胞子類の有効着定期間、魚貝類の自然産卵時期等の一時的取水停止時において、魚類の排泄物等の分解により堆積する可能性のある硝酸銀を窒素として大気に放出する為の嫌気層を生成する目的により、厚い砂の層で構成される。
【0029】
また上記砂質層の表面ではアナゴ、カレイやキス、ハゼ、マゴチ、舌ビラメなどのベントス食性を含む魚類やタイラギ、ホタテ等の貝類などの底棲性生物を育成する。
【実施例2】
【0030】
図4は魚介類育成エリアの増大目的で図2の水路部分を3連結した変形例である。
【実施例3】
【0031】
図5は魚介類育成エリアの更なる増大を目的として図2の基本的構成を前後左右に多数連結した変形例である。
【実施例4】
【0032】
図6は図2の水路部分から砂質層Cのみを取り去った構成であり、藻場礁を形成する緩斜面において稚貝類を食性としない岩礁性底棲魚類及び、アワビ、トコブシ、イセエビ、サザエ、ウニ等の無脊椎動物のみの育成に用いる。
【実施例5】
【0033】
図7は魚介類育成エリアの増大を目的として図6の構成を3連結した変形例である。
【実施例6】
【0034】
図8は図2の水路部分から緩斜面Bを取り去った砂質層Cのみによる構成であり、砂質層単体での構成では、平坦な海底にして水深を浅く取り、砂質性底棲魚介類の育成とともに高級海苔であるハバ海苔やアサクサ海苔等の栽培も可能とする。また、水深を深くしてホヤ、カキ、ワカメなど延縄式の養殖を可能とする。
【実施例7】
【0035】
図9は魚介類育成エリアの増大を目的として図8の構成を3連結した変形例である。
【0036】
なお魚類の収穫方法は、水路を横断する二枚の刺し網にて囲い込み、適正に成長した生体のみを無傷で生きたまま収穫する。海藻類および貝類の収穫方法は、港湾潜水工事で一般的に行われていて軽装備で長時間潜水の可能な陸上からのエアコンプレッサーとエアホースによるフーカー式潜水にてダイバー作業で行う。労働安全衛生規則による潜水病(減圧症)の適用深度は12メートル以深なのでラグーンの深度をそれ未満の水深に設定することにより一日に8時間まで潜っていられ、さらにドライスーツを着用することにより冬季の潜水作業も快適である。
【産業上の利用可能性】
【0037】
以下に補足として本発明によるその他の活用構想例を述べる。
【0038】
現在、日本の原子力発電所は、旧ソビエト連邦のチェルノブイリ原発事故の原因であった人為的ミスの影響により、電力の需要に応じて出力を上下させる「負荷追従運転」が出来ない状態に置かれており、常に最大出力付近で運転されている。海水温が下がり熱効率の良い冬季及び日常夜間などの膨大な余剰エネルギーは、東京電力福島第二原子力発電所を例に挙げると毎秒300トン以上(一日2500万トン以上)もの大量の海水によって熱交換され、冷却に使用された海水は水温を上げられ海に戻されている。この膨大な余剰エネルギーを再利用して取水システム、パイプライン輸送の動力源などに使用し内陸部に広大な海洋牧場や安全な人工の珊瑚礁を実現すれば、原発の立地候補地のコンセンサスを得る可能性も充分期待される。
【0039】
再生可能エネルギーによる海水の電気分解によって、純酸素と純水素を作り出す事が可能になるので、近未来に計画されている次世代エネルギーの水素を貯留する施設を造る。また、水素ステーションのインフラを整備する事も出来、京都議定書によるCDM(クリーン開発メカニズム)に選定される可能性もある。同時に生成された純酸素は医療用や工業用に使われる。また今後、CO2の余剰排出枠の削減が厳しい企業はカーボンオフセットとして途上国を支援し、企業のブランドイメージを向上させるとともに資源を有効に活用することが出来る。
【0040】
海水中には全ての元素が含まれており、推定で45億トンのウランや600万トンの純金などが含まれている(ウィキペディアより)。近未来に海水から、あらゆる成分を取り出す方法が開発されれば、ほぼ無尽蔵に近い新しい資源が利用出来る。
【0041】
日本国内において、現在高齢化により減少傾向にある農業従事者は、全国で相当量の遊休農地を抱えており、スペースが無駄な状態におかれている。
漁業従事者もまた高齢化問題や地球温暖化の影響による漁獲高の減少により生活が脅かされている。農家の遊休スペースを借地などで活用し、漁業者が内陸で本発明による漁業活動を行えば双方の問題は解決する。荒れた海など存在しないので収穫も楽であるし、人件費と費用の掛かる給餌は全く必要ない。
【0042】
国連の援助機関や海外協力機関、政府開発援助(ODA)等の有償または無償援助で飢餓問題の残るアフリカ諸国、中国や東南アジア、南米などの沿岸域に本発明を実施し、地球温暖化の影響による水産資源の減少によって拡大する貧困層を救う。
【0043】
原子力発電所の新設時に、本発明を実施して海棲哺乳類であるイルカの持つ高度な知能を活用し、珊瑚礁を備えたメンタルヘルスリハビリテーション施設を併設する。
【0044】
猛毒クラゲの大量発生によりオープンしたばかりの海水浴場が僅か一週間で閉鎖される(2008年夏季日本国内)と言うような、地球温暖化の影響によると思われる異常な事態が既に始まっている。海洋気象もまた年々悪化傾向にある。このような状況を回避するには、内陸の遊休地に広大な人工の海を設ければ鮫などの危険生物のいない安全な子供達の海洋生物学習やスキューバダイビング、マリンフィッシング等の海洋レジャーを可能にし、また周辺に収穫した魚介類を利用した飲食施設や宿泊施設等を設ければ、一大海洋レクリエーションスポットを創ることが可能になる。
【0045】
ジオフロント(大深度地下)構想を活用して50メートル以上の深海を再現し、毛ガニやタラバガニ、キンキ、タラなどの深海性の海棲魚介類や宝石珊瑚の育成、加圧環境下での実験研究施設なども可能である。
【0046】
島嶼や標高の高い地域において本発明を実施する場合、最初に海洋水を最も標高の高い建設予定地に圧送し、以下、自然落下エネルギーを利用してオーバーフロー水を次第に標高の低い場所に送れば落下には動力源を必要とせずに段々畑状の複数の魚介類育成施設を造ることが可能であり、最終的に海際に最も近い建設予定地からオーバーフロー水を海洋に放出すれば復水管は必要としない。
【0047】
近未来に核融合炉が実現し、実用可能となった時、必要な重水素は海水中から取り出すので併設して本発明を実施する。
【0048】
今後原子力発電所や化学プラントなど、大量の海水を冷却材として使用する施設の新設には、本発明を併設して余剰エネルギーや海洋水の有効利用性を高める。
【0049】
例えば、ナショナルジオグラフィック誌日本語版2009年4月号P78からP79掲載の記録的な干ばつで死の湖となり再生不可能になったオーストラリア南東部マレー・ダーリング盆地のボガ湖に本発明を実施する事も考えられる。
【0050】
本発明により、食用にならない海藻であるホンダワラ類やアオサ類などを大量に栽培し、バイオエタノールを生産する。
【符号の説明】
【0051】
A 掘削した地盤面、FRPまたはコンクリート等の構造躯体。
B 藻場礁を形成する緩斜面。
C 好、嫌気層を生成する砂質層。
1 深層水取水口
2 表層水取水口
3 深層水取水管
4 表層水取水管
5 深層水チェッキバルブ(逆止弁)
6 表層水チェッキバルブ(逆止弁)
7 深層水流量調整バタフライバルブ
8 表層水流量調整バタフライバルブ
9 ストレートティーズ(フィッティング)
10 エキセントリックレデューサー(フィッティング)
11 海洋水取水メインポンプ
12 海洋水送水管
13 中継ポンプステーション
14 オーバーフロー水出口
15 オーバーフロー水復水管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
地上において魚介類の栽培漁業を行うシステムであって、逆台形の断面形状をもつ水路で構成された長円形を基本形状とする周回式の人工ラグーン内に、藻場礁を形成して岩礁性底棲魚介類の育成を行う緩斜面と砂質性底棲魚介類の育成を行う砂質層とを設け、当該ラグーン内にパイプライン輸送による海洋水を循環させる事によって自然界の食物連鎖による海洋生態系を再現し、無給餌で複数種の魚介類を育成すると共に、海洋植物や海棲二枚貝の水質浄化作用と水面面積の増大により温室効果ガスを吸収して食糧生産時のエネルギー効率を改善する事を特徴とする海洋水循環式天然型魚介類育成システム。
【請求項2】
前記緩斜面は、海藻遊走子類の着定基質を備えると共に潮間帯の岩礁地帯を模した造形を持ち、光合成を効率良く行う為の0度より大きく30度までの緩やかなスロープを持つ岩礁性底棲魚介類の育成エリアを備え、当該着定基質は海藻の胞子類を着定させて人工の藻場礁を形成する事を特徴とする請求項1記載の海洋水循環式天然型魚介類育成システム。
【請求項3】
前記砂質層は、海草及び海藻栽培と砂質性底棲魚介類の育成エリアであると共に、好気バクテリア及び嫌気バクテリアの自然発生に由来する好気層並びに嫌気層を生成して硝化還元作用に基づく窒素循環を促すことを特徴とする請求項1及び2記載の海洋水循環式天然型魚介類育成システム。
【請求項4】
前記海洋水は海洋亜表層の有光層水と補償深度以深の無光層水とを別々に取水及び混合し、水深の違いによる温度差を利用して魚介類の天然の成育場所と同様の適正水温範囲に調整する事を特徴とする請求項1乃至3記載の海洋水循環式天然型魚介類育成システム。
【請求項5】
前記周回式人工ラグーン内に導入する海洋水の取水ポンプシステム、パイプライン輸送システムに係る中継ポンプ、人工ラグーン内の水流発生用水中ポンプ、通電式電気防食等の主動力源は、再生可能エネルギーである事を特徴とする請求項1乃至4記載の海洋水循環式天然型魚介類育成システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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