説明

消火用薬剤の処理方法

【課題】
従来、塩素含有率の高い廃棄物をキルンで処理する場合に、前処理としての塩素を水洗を必要とせず、消火用薬剤の再利用と、セメント製造における廃棄物前処理の簡略化の問題点を解決するために、比較的高濃度の塩素化合物が含まれている廃棄物を原料としながらも高品質のセメントを安定して製造でき、しかも、消火用薬剤の処理方法ともなる方法を提供することを目的とする。
【解決手段】
セメントキルンを用いた消火用薬剤の処理方法であって、消火器から取り出した炭酸水素アルカリ塩及び炭酸アルカリ塩を含む消火用薬剤及び塩素化合物を含む廃棄物をセメントキルン内に投入し、セメントキルン内で気化した塩素を含むキルン排ガスをセメントキルン外へ抽気し、抽気したキルン排ガスを塩素化合物の融点以下の温度に急冷却することにより水溶性の塩素化合物を生成して除去することを特徴とする消火用薬剤の処理方法、を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、セメントキルンを用いたセメント製造において、アルカリ炭酸水素塩、アルカリ炭酸塩を含む消火用薬剤の再資源化する処理方法に関し、ごみ焼却炉等より排出される主灰や、廃プラスチック、家電製品や自動車のシュレッターダスト等の比較的高濃度の塩素化合物含有廃棄物を使用したセメント製造による回収消火用薬剤の処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
加圧ガスの圧力低下等によって使用不能となった消火器は、その一部が、廃棄消火器処理業者によってリサイクルされつつあるが、廃棄回収に費用負担がかかるためその大部分がそのまま放置され、または、そのまま廃棄され、再利用はほとんど進んでいないのが現状である。簡易に、且つ定常的に消火用薬剤を使用する再利用技術が存在していなかったこともその一因である。
【0003】
即ち、従来の消火用薬剤の再利用方法は、専ら消火用薬剤を再生し、再び消火器に充填するというリサイクル使用に限定されるものであった。特許文献1は、リン酸アンモニウムと硫酸アンモニウムとを主成分としかつ添加剤を含む回収粉末消火用薬剤に関し、特許文献2は、たん白泡消火用薬剤に関し、炭酸アルカリ塩、重炭酸アルカリ塩を含む消火用薬剤の再生利用に関しては,開示がされていない。
【特許文献1】特開2003−70935公報
【特許文献2】特開2000−63845公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
油火災及び電気火災用消火剤中には、主として、アルカリ炭酸水素塩、アルカリ炭酸塩が含有されている。このような消火剤は、充填ボンベ中の炭酸ガス等の加圧ガス圧が低下するとともに、有効な消火機能が失われ、放置、廃棄されるか、その一部が、消火用薬剤として、溶解、分解、乾燥、粉砕されて、適正な消火用薬剤であるか否かの検定を受けた後、ボンベに再充填され再利用される。しかし、このリサイクルは、コスト高となり、新規消火器に代替されることが多く、その利用が進んでいない。
【0005】
即ち、消火用薬剤を再生するためには、消火器点検時に防災業者が消火器を点検回収し、消火器を構成する消火用薬剤、ボンベ、ガスごとに分別処理することとなる。例えば、ボンベはその材質ごとに回収処理、ガスは放出処理をする。消火用薬剤は、上記一連の物理的・化学的処理を経て検定の後、再度消火用薬剤として、利用されるが、再使用率も一連の処理の歩留まりに影響され、その利用率は、小さいものとならざるを得ない。
その為の再生処理装置は、汎用機ではあるものの比較的大掛かりな装置となり、処理工程の多さと相俟って消火用薬剤再生コストを高騰させていた。
【0006】
上記のようなことから、再生消火用薬剤の利用は進まず、その大部分が未処理のまま放置されることとなるが、資源のリサイクル意識が高まった今日、これを資源として有効に利用でき、且つ大量に消費できる新たな再資源化技術の出現が強く望まれていた。
【0007】
さらに、近年、最終処分場用地の狭小化が問題となっており、特に都市部においては人口および産業の集中により、ごみの発生量が増加しているにも関わらず、最終処分場の確保が困難な状況となっており、その延命を図るため、埋め立て処理に代わる廃棄物の有効利用技術の確立が求められている。この様な状況を鑑みて、廃棄物をセメント原料の一部代替としてリサイクルしようとした場合、廃棄物に含まれる塩素が問題となる。また、JIS規格においてもセメントの塩素濃度は350ppm以下と定められている。近年、鉄鋼スラグや焼却灰などがセメントの原料になるため産業廃棄物の受け皿として注目されており、その安全性が確認され、セメント全体の7割を占めるポルトランドセメントの塩化物イオンは従来200ppm以下だったが、03年11月に350ppm以下に許容値を引き上げた。しかし、セメントキルン等における塩素濃度のコントロール技術の重要性は、いささかも減じられているわけではない。
【0008】
また、塩素含有率の高い廃棄物をキルンで処理する場合は、前処理としての塩素を水洗等で除去することが必要であった。都市ごみ焼却飛灰等には含まれている塩素の多くが水溶性塩化物として存在しているため、水を添加し、この水溶性塩化物を溶出させ、濾過して塩素を除去する、或いは、都市ごみ焼却主灰や、家電製品、自動車等のシュレッダーダスト等には難水溶性塩素化合物が含まれているため、水洗では十分に塩素を除去することができず、セメント原料としての実質的な使用は困難であった。
この発明は、消火用薬剤の再利用と、セメント製造における廃棄物の前処理の問題点を一挙に解消するためになされたもので、比較的高濃度の塩素化合物が含まれている廃棄物を原料としながらも高品質のセメントを安定して製造でき、しかも、消火用薬剤の処理方法ともなる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、セメントキルンを用いた消火用薬剤の処理方法において、炭酸水素アルカリ塩及び/又は炭酸アルカリ塩を含む消火用薬剤並びに塩素化合物を含む廃棄物をセメントキルン内に投入し、セメントキルン内で気化した塩素を含むキルン排ガスをセメントキルン外へ抽気し、抽気したキルン排ガスを塩素化合物の融点以下の温度に急冷却することにより水溶性の塩素化合物を生成して除去することを特徴とする消火用薬剤の処理方法(請求項1)、キルン排ガスの抽気率を10%以下とし、抽気したキルン排ガスを塩素化合物の融点以下の温度に急冷却した後に5〜7マイクロメータを分級点としてこのキルン排ガス中のダストを粗粉と微粉とに分離し、分離された粗粉をセメントキルン内へ戻すことを特徴とする請求項1に記載のセメント製造方法(請求項2)、塩素化合物を含有する廃棄物から異物を除去すると共に水洗により水溶性塩素化合物を除去する前工程を経ることなく、この廃棄物をセメントキルンに投入することを特徴とする請求項1または2に記載のセメント製造方法(請求項3)、廃棄物が、都市ごみ焼却主灰であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のセメント製造方法(請求項4)、を提供する。
【0010】
この発明に係る高濃度塩化物含有廃棄物を使用したセメント製造方法は、セメントキルンを用いて消火用薬剤を処理するにおいて、塩素化合物を含む廃棄物をセメントキルン内に投入する際に、消火用薬剤中のアルカリ金属炭酸塩、アルカリ金属重炭酸塩を塩素量に対応する量を投入し、セメントキルン内で気化した塩素をアルカリ金属成分とともに、キルン排ガスをセメントキルン外へ抽気し、抽気したキルン排ガスを塩素化合物の融点以下の温度に急冷却することにより水溶性の塩素化合物を生成して除去する方法である。すなわち、塩素化合物を含む廃棄物がセメントキルンに投入され、この廃棄物の持ち込む塩素をキルン内の高温下で気化させて効率的に除去しながらセメントが製造される。
【0011】
実際には、まず、塩素化合物を含む廃棄物から磁選機や篩い分け装置により金物や粗大物といった異物を除去した後、この原燃料として使用する廃棄物をセメント原料の一部としてセメントキルン内に、消火用薬剤中のアルカリ金属炭酸塩、アルカリ金属重炭酸塩を塩素量に対応する量を投入し、次に、いわゆるアルカリバイパス設備によって、キルン内において高温下で気化したこの廃棄物の持ち込む塩素およびナトリウムやカリウム等のアルカリ金属成分を含む排ガスの例えば数十%をキルン入口のハウジングから抽気し、抽気したキルン排ガスを塩化アルカリ化合物の融点以下の温度に急冷却し、集塵機によって水溶性の塩素化合物を含むダストとして回収する。高濃度塩素化合物を含む廃棄物を大量にセメント原料として使用してセメントを製造することができる。
【0012】
なお、キルン排ガスの抽気率を10%以下とし、抽気したキルン排ガスを塩素化合物の融点以下の温度に急冷却した後に5〜7マイクロメータを分級点としてこのキルン排ガス中のダストを粗粉と微粉とに分離し、分離された粗粉をセメントキルン内へ戻すようにすることもできる。実際には、まず、塩素化合物を含む廃棄物から磁選機や篩い分け装置により金物や粗大物といった異物を除去した後、この廃棄物を消火用薬剤中のアルカリ金属炭酸塩、アルカリ金属重炭酸塩を塩素量に対応する量とともに、セメントキルン内に投入する。次に、いわゆる塩素バイパス設備によりキルン排ガスのうち10%以下のガスをキルンから抽気し、抽気した排ガスを塩素化合物の融点以下の温度に急冷却し、分級点を5〜7マイクロメータとして排ガス中のダストを分級機により粗粉と微粉とに分離し、分離された粗粉をセメントキルンに戻し、一方塩素化合物が多量に含まれる微粉を分級機の下流側に送出して系外へ排出する。排出されたダストはセメント製造工程に戻される。
【0013】
この場合、塩素バイパスの抽気量は10%程度でキルン排ガス中の塩素低減率が90%に達し、経済性および実用性を勘案すると抽気量は10%以下で充分である。また、分級後の抽気ガスはキルンに戻されるため、アルカリバイパスと比較して熱量損失を低減することができる。さらに、冷却工程で生成するダスト中の塩素は、微粉に遍在しており、5〜7マイクロメータで分級し微粉を回収することで効率的に脱塩でき、ダスト量も低減できる。
【0014】
塩素バイパス設備を用いて、より高濃度に塩素を濃縮して除去した場合に、回収したダストの塩素含有量はおよそ20%前後であるため、アルカリバイパス設備あるいは塩素バイパス設備を用いて塩素を除去する本願発明の方法は、特に塩素の含有量が20%以下の廃棄物に対して有効である。
【0015】
また、塩素化合物含有廃棄物には水溶性塩素化合物と難水溶性塩素化合物の両方を含有しているものがある。このような難水溶性塩素化合物と水溶性塩素化合物の両方を含有する廃棄物を用い、この廃棄物から異物を除去する通常の処理以外には、水洗等により水溶性塩素化合物を除去する処理を行わなくても、廃棄物をセメントキルンに投入するようにすることができる。実際には、まず、篩い分け装置により廃棄物から異物を除去した後に、該廃棄物をアルカリバイパス設備または塩素バイパス設備を有するセメントキルンにセメント原料の一部代替として投入する。ここで、キルンおよびプレヒーター内において高温下で気化した廃棄物に残留した塩素化合物の持ち込む塩素に対応する消火用薬剤中の重炭酸アルカリ塩、炭酸アルカリ塩等で高濃度の塩素分に対応するおよびナトリウムやカリウム等のアルカリ成分を補充することができる。具体的には、使用する廃棄物の塩素濃度を蛍光エックス線分析等により定量し、他のセメント原料中のアルカリ成分では、生成すべきアルカリ塩素化物量に不足する場合は、この不足分に見合う消火用薬剤中の重炭酸アルカリ塩、炭酸アルカリ塩で補充することが適切である。セメントキルンでは、排ガスの一部をアルカリバイパス設備または塩素バイパス設備によってキルン入口のハウジングから抽気し、抽気した排ガスを塩素化合物の融点以下の温度に急冷却し、水溶性の塩素化合物を含むダストとして回収する。
【0016】
このようにして、従来、水洗等で除去していた塩素化合物も効果的に除去されるため、低融点化合物によるプレヒーターの閉塞やセメント製品の塩素含有量の増加を防止しつつ、廃棄物を大量にセメント原料として使用してセメントを製造することができる。大部分の塩素をアルカリバイパス設備または塩素バイパス設備のみで塩素を除去することができ、設備コストおよびランニングコスト面でも有利となる。水溶性塩素化合物の少ない廃棄物の使用に特に有効である。
【0017】
廃棄物としては、都市ごみ焼却主灰を用いることができる。ごみ焼却炉より排出される主灰は、通常Al23,SiO2,CaO等のセメント成分を含む物質である。また、主灰には3%前後の塩素が含まれており、そのうちの50%前後の塩素は難水溶性の塩素化合物として存在している。したがって、水洗などの簡単な方法では十分に塩素を除去できず、セメント原料として使用しようとした場合、持ち込む塩素量によってその使用量は制限を余儀なくされていた。しかしながら、本願発明による方法によれば、消火用薬剤からのアルカリ金属成分が補充され、主灰の持ち込む塩素を十分に除去でき、大量にセメント原料として使用することが可能となる。また、廃棄物として、電化製品または自動車のシュレッターダストを用いることもできる。電化製品や自動車のシュレッターダストは、およそ6割が可燃分であり、残り4割の不燃分には通常Fe23,SiO2,CaO等のセメント成分が含まれている。また、このようなシュレッターダストには、ほとんどが塩化ビニル等の不溶性の塩素化合物として存在する数%の塩素が含まれている。そこで、本願発明の方法によってシュレッターダストから塩素を除去することにより、電化製品や自動車のシュレッターダストをセメント製造設備で燃料または原料の一部代替として使用することが可能となる。
【0018】
なお、本願発明の方法を実施するためには、気化した塩素を除去するアルカリバイパス装置または塩素バイパス装置を有するセメントキルンを含むセメント製造設備が必要となる。さらに、塩素化合物含有廃棄物から異物を除去するための磁選機および篩い分け装置の双方またはいずれか一方の装置に塩素濃度減少処理も望ましい。
【発明の効果】
【0019】
本発明の方法によって以下のような効果が得られる。塩素化合物含有廃棄物を磁選機および篩い分け装置で鉄くずやその他の粗大物などの異物を除去し、セメント原料としてセメントキルンへ投入し、キルン内で廃棄物の持ち込む塩素を気化させ、消火用薬剤からのアルカリ金属成分を補充して、この塩素をアルカリバイパス設備または塩素バイパス設備によってセメントキルンから排ガスの一部と共に抽気し、水溶性塩素化合物として塩素を除去することによって、塩素によるセメント品質が低下することなく、塩素化合物含有廃棄物を大量に使用してセメントを製造することができる。この方法は特に塩素含有量が20%以下の塩素化合物を多く含有する廃棄物に有効であり、都市ごみ焼却炉より排出される主灰や電化製品および自動車のシュレッターダストを使用してセメントを製造する場合に有効である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、この発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
(A)アルカリバイパスによる方法:塩素はセメントの品質の低下を引き起こすため、JISでもセメントの塩素含有量は350ppm以下という基準が設けられている。セメント原料または燃料から持ち込まれた塩素は揮発し、キルン・プレヒーター系で循環濃縮し、低融点の化合物が生成して、プレヒーターの閉塞を引き起こす原因となる。また、製品であるセメントの塩素濃度も高くなり、品質低下をもたらす要因となる。
【0021】
そこで、この塩素化合物含有廃棄物をアルカリバイパス設備7を有するセメントキルンからなるセメント製造設備6で使用する。まず、塩素化合物含有廃棄物1は磁選機2に導入され、ここで鉄くず3等が除去される。次に、廃棄物は篩い分け装置4に導入され、粗大物や、磁選機で除去できなかったアルミなどの粗大金属等の異物5を除去することがより好ましい。
【0022】
このようにして異物を除去した廃棄物、或いは処理を施さない焼却飛灰等は、アルカリバイパス7を付帯するセメント製造設備6で、原料の一部代替としてセメントキルン内に投入されるが、異物処理後あるいは、処理を施さない焼却飛灰等のアルカリ濃度、塩素濃度をキルン投入前に測定する。このとき、回収消火器から取り出された消火用薬剤9を、消火用薬剤中のアルカリ金属炭酸塩、アルカリ金属重炭酸塩が、測定された塩化アルカリを形成するのに不足する塩素量に対応する量となるように投入される。廃棄物が持ち込んだ塩素は、キルン内の高温下で気化する。一方、原料、廃棄物中のアルカリ成分及び消化薬剤由来のアルカリ成分も気化する。これら気化成分をアルカリ塩素の気化物として、キルン排ガスの数十%をアルカリバイパス設備7により抽気し、およそ1100℃前後の温度のキルン排ガスを冷却器に導入し、ここでファンからの冷却空気を混合して排ガスを塩素化合物の生成する400〜450℃の温度域に急冷却する。この時、ガス温度の低下によってダストの表面に塩素を含む揮発性成分の化合物が凝集吸着する。次に、このガスにスプレー塔出水を噴霧してさらに温度150℃前後まで冷却した後、電気集塵機にて集塵し、ダスト10を除去したガスは大気中に排出する。このようにして、廃棄物の持ち込んだ塩素及び消化薬剤由来のアルカリ成分は、スプレー塔および電気集塵機にて水溶性塩素化合物含有ダストとして回収、除去される。一方、セメントキルンからは、塩素が十分に除去された、高品質のセメントが安定して製造される。
【0023】
これにより、セメント製品の塩素含有量を増加させることが防止され、塩素化合物含有廃棄物を大量に使用して、高品質のセメントを製造することが可能である。
【0024】
(B)塩素バイパスによる方法:図1において、アルカリバイパス設備の代わりに塩素バイパス設備7を使用して、塩素バイパスによる塩素化合物含有廃棄物の持ち込む塩素の除去も有効である。塩素バイパスは、キルン排ガスの一部をセメント製造設備6のキルンから抽気する工程と、抽気した排ガスを塩素化合物の融点以下の温度に急冷却する工程と、急冷却された排ガス中のダストを分級機により粗粉と微粉とに分離する工程と、分離された粗粉および排ガスをキルンに戻す一方、微粉を分級機の下流側に送出する工程とを備え、排ガス抽気量の割合が、0%を越え、10%以下であり、分級機の分級点が5〜7マイクロメータである。この塩素バイパスによる方法では、アルカリバイパスによる方法と比べて、排ガスの抽気率も小さく、しかも分級後の排ガスは再びキルンに戻されるため、熱量損失を低減できる。また、分級機により、微粉を回収することでダスト量を低減でき、より効率的に塩素化合物含有廃棄物1の持ち込む塩素の除去を行うことが可能である。
【0025】
以上のアルカリバイパス設備または塩素バイパス設備を使用して脱塩する方法は、設備コスト、ランニングコストが安価であり、塩素含有量が20%以下の廃棄物や、水溶性塩素化合物が含まれていない廃棄物に対して特に有効である。
【0026】
以下に本発明の実施例を示す。これらは例示であり本発明の範囲を限定するものではない。
実施例1:図1に示したような設備を仮設し、高濃度の塩素化合物を含有するごみ焼却主灰を原料としてセメントの製造実験を行った。ごみ焼却主灰からなる廃棄物1を4.25t/hrの投入量で磁選機2および篩い分け装置4から構成される前処理装置によって処理した。投入量の21%の890kg/hrの鉄くず3および異物5が除去され、3.31t/hrのセメント原料化主灰が得られた。この主灰の成分を分析したところ、水分:28.7%,SiO2:34.0%,Al23:14.2%,CaO:21.0%,MgO:3.1%,Cl:2.25%であった。このようにして前処理した主灰を、炭酸水素ナトリウムを178Kg/hr供給できる量の消化薬剤9を供給した。クリンカ生産量7000t/dayのセメント製造設備6のセメントキルンで塩素バイパス設備7によってキルン入口ハウジングよりキルン排ガスをおよそ2〜10%以下の抽気量で抽気しながら、18.01kg/t−clの投入量で粘土の一部代替原料として使用した。塩素バイパス設備7から排出されるダスト量は0.991kg/t−clとなった。製造されたセメントの品質を測定したところ、次のような結果が得られた。
【0027】
実施例1の結果
セメント強度 材令 3日(N/mm2) 28.1
セメント強度 材令 7日(N/mm2) 42.0
セメント強度 材令28日(N/mm2) 59.0
塩素含有量(%) 0.005
【0028】
このように消化薬剤の添加及び塩素バイパス設備7を使用することにより、主灰の持ち込む塩素を効果的に除去することができ、高塩分濃度の主灰を大量に使用することが可能となり、製造されたセメントはJIS規格を充分に満足する品質とすることができた。
【0029】
実施例2:実施例1において、炭酸ナトリウムを112Kg/hr供給できる量の消化薬剤9を供給した。これ以外は、同条件下で実施したところ次のような結果が得られた。
【0030】
実施例2の結果
セメント強度 材令 3日(N/mm2) 30.1
セメント強度 材令 7日(N/mm2) 41.5
セメント強度 材令28日(N/mm2) 60.0
塩素含有量(%) 0.005
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明に係る消化薬剤の処理方法を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0032】
1:塩素化合物含有廃棄物
2:磁選機
3:鉄くず
4:篩い分け装置
5:異物
6:セメント製造装置
7:アルカリバイパス設備又は塩素バイパス設備
8:セメント
9:消火用薬剤(炭酸水素アルカリ及び/又は炭酸アルカリを含む)
10:水溶性アルカリ塩化物含有ダスト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメントキルンを用いた消火用薬剤の処理方法において、
消火器から取り出した炭酸水素アルカリ塩及び/又は炭酸アルカリ塩を含む消火用薬剤、並びに塩素化合物を含む廃棄物をセメントキルン内に投入し、
セメントキルン内で気化した塩素を含むキルン排ガスをセメントキルン外へ抽気し、
抽気したキルン排ガスを塩素化合物の融点以下の温度に急冷却することにより水溶性の塩素化合物を生成して除去する
ことを特徴とする消火用薬剤の処理方法。
【請求項2】
キルン排ガスの抽気率を10%以下とし、
抽気したキルン排ガスを塩素化合物の融点以下の温度に急冷却した後に5〜7マイクロメータを分級点としてこのキルン排ガス中のダストを粗粉と微粉とに分離し、
分離された粗粉をセメントキルン内へ戻す
ことを特徴とする請求項1に記載の消火用薬剤の処理方法。
【請求項3】
塩素化合物を含有する廃棄物から異物を除去すると共に
水洗により水溶性塩素化合物を除去する前工程を経ることなく、
この廃棄物をセメントキルンに投入する
ことを特徴とする請求項1または2に記載の消火用薬剤の処理方法。
【請求項4】
廃棄物が、都市ごみ焼却主灰であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の消火用薬剤の処理方法。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2006−21118(P2006−21118A)
【公開日】平成18年1月26日(2006.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−201240(P2004−201240)
【出願日】平成16年7月8日(2004.7.8)
【出願人】(000000240)太平洋セメント株式会社 (1,449)
【Fターム(参考)】