説明

液圧式車両用ディスクブレーキ

【課題】簡単な構造でロールバック量を小さくすることができ、無効ストロークを小さくすることのできる液圧式車両用ディスクブレーキを提供する。
【解決手段】ピストンシールの径方向の幅寸法を1.5mm以上、2.5mm以下に設定し、ピストンシール装着溝9のシリンダ孔開口側の溝開口縁角部に面取部9cを設ける。面取部9cのシリンダ孔軸線方向の長さ寸法B1を、ピストンシール11の軸線方向の厚さ寸法C1に対して1/10以下、1/20以上の範囲に設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液圧式車両用ディスクブレーキに係り、詳しくは、シリンダ孔の内周面に周設したピストンシール装着溝に、ピストンを液密かつ移動可能に支持するとともに、ピストンをロールバックさせるピストンシールを嵌着した液圧式車両用ディスクブレーキに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、シリンダ孔の内周面に周設した断面角形のピストンシール装着溝にピストンを液密かつ移動可能に支持し、かつ、復元力によって前記ピストンをロールバックさせる断面角形のピストンシール(リトラクションリング)を嵌着した液圧式車両用ディスクブレーキが知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3218258号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上述の液圧式車両用ディスクブレーキでは、ピストンシールのロールバック量が大きいと制動初期の無効ストロークも大きくなるため、無効ストロークを小さくすることが求められている。
【0005】
そこで本発明は、簡単な構造でロールバック量を小さくすることができ、無効ストロークを小さくすることのできる液圧式車両用ディスクブレーキを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明の液圧式車両用ディスクブレーキは、キャリパボディに形成されたシリンダ孔に、摩擦パッドをディスクロータの側面に向けて押動するピストンを内挿し、前記シリンダ孔の内周面に周設した断面角形のピストンシール装着溝に、前記ピストンを液密かつ移動可能に支持し、かつ、復元力によって前記ピストンをロールバックさせる断面角形のピストンシールを嵌着した液圧式車両用ディスクブレーキにおいて、前記ピストンシールの径方向の幅寸法を1.5mm以上、2.5mm以下に設定した上で、第1の構成は、前記ピストンシール装着溝のシリンダ孔開口側の溝開口縁角部に面取部を設けるとともに、該面取部のシリンダ孔軸線方向の長さ寸法を、前記ピストンシールの軸線方向の厚さ寸法に対して1/10以下、1/20以上の範囲に設定したことを特徴としている。
【0007】
第2の構成は、前記ピストンシール装着溝のシリンダ孔開口側の溝開口縁角部に面取部を設けるとともに、該面取部のシリンダ孔径方向の長さ寸法を、前記ピストンシールの径方向の幅寸法に対して1/10以下、1/20以上の範囲に設定したことを特徴としている。
【0008】
第3の構成は、前記ピストンシールの軸線方向の厚さ寸法に対する前記ピストンのロールバック量を、1/40以下、1/70以上の範囲に設定したことを特徴としている。
【0009】
第4の構成は、前記ピストンシールの径方向の幅寸法に対する前記ピストンのロールバック量を、1/40以下、1/70以上の範囲に設定したことを特徴としている。
【0010】
さらに、前記各構成において、前記ピストンの直径が、20mm以上、40mm以下であることを特徴としている。
【発明の効果】
【0011】
本発明の液圧式車両用ディスクブレーキによれば、前記ピストンシールの径方向の幅寸法を1.5mm以上、2.5mm以下に設定し、ピストンシール装着溝のシリンダ孔開口側の溝開口縁角部に面取部を設けるとともに、該面取部のシリンダ孔軸線方向の長さ寸法をピストンシールの軸線方向の厚さ寸法に対して1/10以下、1/20以上の範囲に設定すること、前記面取部のシリンダ孔径方向の長さ寸法をピストンシールの径方向の幅寸法に対して1/10以下、1/20以上の範囲に設定すること、ピストンシールの軸線方向の厚さ寸法に対するピストンのロールバック量を1/40以下、1/70以上の範囲に設定すること、ピストンシールの径方向の幅寸法に対するピストンのロールバック量を1/40以下、1/70以上の範囲に設定すること、のいずれか少なくとも一つを採用することにより、ロールバック量を小さくすることができる。特に、前記ピストンの直径を、20mm以上、40mm以下とすることにより、ロールバック量を小さくすることができ、また、ロールバック量が小さいことから制動時に必要な作動液量も少なくて済むので、液圧室に作動液を供給するマスタシリンダの小型化も図れる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図3のI-I断面図である。
【図2】図4のII-II断面図である。
【図3】本発明の一形態例を示すディスクブレーキの正面図である。
【図4】同じくディスクブレーキの平面図である。
【図5】同じくピストンシール装着溝の拡大断面図である。
【図6】同じくピストンシールの一部切欠き断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1乃至図6は本発明の液圧式車両用ディスクブレーキの一形態例を示し、図1は図3のI-I断面図、図2は図4のII-II断面図、図3はディスクブレーキの正面図、図4はディスクブレーキの平面図、図5はピストンシール溝の拡大断面図、図6はピストンシールの一部切欠き断面図である。
【0014】
本形態例に示す液圧式車両用ディスクブレーキ1は、車両前進時に車輪と一体に矢印A方向に回転するディスクロータ2と、該ディスクロータ2の一側部で車体に取り付けられるキャリパボディ3と、ディスクロータ2を挟んで対向配置される摩擦パッド4,4とを備えている。
【0015】
キャリパボディ3は、ディスクロータ2を挟んで対向配置される一対の作用部3a,3aを、ディスクロータ2の外周側を跨ぐブリッジ部3bにて一体に連結したモノコック構造の4ポットピストン対向型に形成されている。車体外側に配置される一方の作用部3aのディスク周方向両側部には、ディスク半径方向の取付ボス部3c,3cが形成され、該取付ボス部3c,3cに挿通した取付ボルトを車体側に設けたキャリパ取付部にねじ込むことにより、キャリパボディ3が車体に取り付けられる。
【0016】
作用部3a,3aには、2個ずつのシリンダ孔5が対向してそれぞれ形成されている。各シリンダ孔5内にはピストン6が軸線方向に移動可能な状態でそれぞれ収容され、シリンダ孔5とピストン6との間には液圧室7がそれぞれ画成され、各ピストン6とディスクロータ2との間には、摩擦パッド4が配置されている。
【0017】
摩擦パッド4は、ディスクロータ2の側面に摺接するライニング4aと、該ライニング4aが貼着された金属製の裏板4bとを備え、裏板4bの上部中央に設けた吊下げ片にディスク軸方向のハンガーピン8が挿通され、ディスクロータ2の両側部にディスク軸方向へ移動可能に吊持されている。
【0018】
各シリンダ孔5の内周面には、軸方向中間部に環状のピストンシール溝9が周設されるとともに、該ピストンシール装着溝9よりもシリンダ孔開口側に環状のダストシール装着溝10が周設されている。ピストンシール装着溝9には、ピストン6の外周面に液密かつ移動可能に摺接するとともに、その復元力でピストン6をロールバックさせるピストンシール11が嵌着しており、ダストシール装着溝10には、ピストン6の外周面に移動可能に摺接してシリンダ孔内への塵埃の侵入を防止するダストシール12が嵌着している。
【0019】
図5に示すように、前記ピストンシール装着溝9は、底部9aがシリンダ孔5の開口側に向かって拡開する傾斜面となる円錐面で形成され、シリンダ孔開口側面9bが、底部9aの前記円錐面と直角に交わる傾斜面となる緩やかな傘状の円錐面で形成されている。さらに、ピストンシール装着溝9のシリンダ孔開口側面9bの溝開口縁角部に、シリンダ孔開口側に所定角度傾斜させた面取部9cが設けられ、シリンダ孔底部側面9dの溝開口縁角部に、シリンダ孔底部側に所定角度傾斜させて、シリンダ孔5内にピストン6を押し込む際にピストンシール11の弾性変形を許容するための傾斜部9eが設けられている。ピストンシール装着溝9の深さはピストンシール11の径方向の幅寸法より僅かに小さく、底部9aの径は、ピストンシール11がピストンシール装着溝9に装着される範囲内において、ピストンシール11の外径より僅かに小さい。さらに、溝幅(シリンダ軸線方向の寸法)は、ピストンシール11の幅寸法(軸線方向の長さ)よりも大きく設定されている。
【0020】
一方、図6に示すように、ピストンシール11は、角シールとも呼ばれる断面が四角形状を有するものであって、特に径方向と軸方向に沿った辺を含む断面四辺形を成している。ピストンシール11を、上述のような断面形状に形成したピストンシール装着溝9に嵌着すると、底部9aの径がピストンシール11の外径より僅かに小さく、さらに底部9aがシリンダ孔開口方向に拡開した円錐面となっているので、ピストンシール11が僅かに変形して、ピストンシール11の外周面11aとピストンシール装着溝9の底部9aとが密着し、さらに、ピストンシール11とピストンシール装着溝9のシリンダ孔開口側面9bとが密着する。
【0021】
運転者の制動操作によってキャリパボディ3の液圧室7に昇圧した作動液(ブレーキ液)が供給されると、ピストン6がシリンダ孔5内を開口方向(ディスクロータ方向)へ前進し、各摩擦パッド4,4をディスクロータ2の方向に押動し、各摩擦パッド4のライニング4aをディスクロータ2の側面へ押圧し、ディスクロータ2に制動力が作用する。
【0022】
制動時のピストン6の前進によってピストンシール11の内周面11bがピストン6の外周面に引き摺られ、ピストンシールのシリンダ孔開口側面は、その内周端部分が面取部9cに当接し、それよりも外周側がピストンシール装着溝9のシリンダ孔開口側面9bに当接するように弾性変形する。
【0023】
制動操作の解除によって液圧室7の圧力が低下すると、ピストンシール11が、元の形状に戻る復元力によってピストン6がロールバックする。このロールバック量は、ピストンシール11の内周部分がシリンダ孔開口側に弾性変形する変形量に対応しているため、ピストンシール11の軸線方向の厚さ寸法C1及びピストンシール11の径方向の幅寸法C2に対して、ピストンシール装着溝9の形状や寸法、例えば、シリンダ孔開口側面9bに対する面取部9cの角度や径方向の寸法等の形状を適宜設定することにより最適化することができる。
【0024】
特に、ロールバック量を小さくするため、前記ピストンシール11の径方向の幅寸法C2を1.5mm以上、2.5mm以下とし、好ましくはピストンシール11を2mm角程度の寸法に設定した上で、本形態例では、前記面取部9cのシリンダ孔軸線方向の長さ寸法B1を前記厚さ寸法C1に対して1/10以下、1/20以上の範囲に設定し、面取部9cのシリンダ孔径方向の長さ寸法B2を前記幅寸法C2に対して1/10以下、1/20以上の範囲に設定するとともに、前記ピストン6のロールバック量は、前記厚さ寸法C1に対して1/40以下、1/70以上の範囲に、前記幅寸法C2に対して1/40以下、1/70以上の範囲にそれぞれ設定している。
【0025】
このように設定することにより、制動解除時にピストン6がロールバックするロールバック量を小さくできると同時に、ピストンシール装着溝9も小さくでき、結果としてシリンダ孔5を含むキャリパボディ3の小型化を図ることができる。さらに、ロールバック量が小さいことから制動時に必要な作動液量も少なくて済むので、液圧室7に作動液を供給するマスタシリンダの小型化も図れる。
【0026】
なお、本発明のピストンシール装着溝とピストンシールとピストンのロールバック量との関係は、ピストンシールの径方向の幅寸法を1.5mm以上、2.5mm以下に設定した上で、面取部のシリンダ孔軸線方向の長さ寸法をピストンシールの軸線方向の厚さ寸法に対して1/10以下、1/20以上の範囲に設定すること、前記面取部のシリンダ孔径方向の長さ寸法をピストンシールの径方向の幅寸法に対して1/10以下、1/20以上の範囲に設定すること、ピストンシールの軸線方向の厚さ寸法に対するピストンのロールバック量を1/40以下、1/70以上の範囲に設定すること、ピストンシールの径方向の幅寸法に対するピストンのロールバック量を1/40以下、1/70以上の範囲に設定すること、のすべてを採用することによって大きな効果を得られるが、いずれか少なくとも一つを採用するだけでも所定の効果を期待することができる。また、ピストンシール溝の形状は、本形態例に限定されるものではなく、たとえば、面取部の角度は任意に設定することができ、ピストンシールの締め代が設定されるピストンシールの幅寸法とピストンシール溝の底部の深さ寸法との関係も任意に設定することができる。さらに、本発明は、上述の形態例のように、ピストン対向型モノコック構造のディスクブレーキに限るものではなく、どのようなタイプのディスクブレーキにも適用することができる。
【符号の説明】
【0027】
1…液圧式車両用ディスクブレーキ、2…ディスクロータ、3…キャリパボディ、3a…作用部、3b…ブリッジ部、3c…取付ボス部、4…摩擦パッド、4a…ライニング、4b…裏板、5…シリンダ孔、6…ピストン、7…液圧室、8…ハンガーピン、9…ピストンシール装着溝、9a…底部、9b…シリンダ孔開口側面、9c…面取部、9d…シリンダ孔底部側面、9e…傾斜部、10…ダストシール装着溝、11…ピストンシール、11a…外周面、11b…内周面、12…ダストシール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
キャリパボディに形成されたシリンダ孔に、摩擦パッドをディスクロータの側面に向けて押動するピストンを内挿し、前記シリンダ孔の内周面に周設した断面角形のピストンシール装着溝に、前記ピストンを液密かつ移動可能に支持し、かつ、復元力によって前記ピストンをロールバックさせる断面角形のピストンシールを嵌着した液圧式車両用ディスクブレーキにおいて、前記ピストンシールの径方向の幅寸法を1.5mm以上、2.5mm以下に設定し、前記ピストンシール装着溝のシリンダ孔開口側の溝開口縁角部に面取部を設けるとともに、該面取部のシリンダ孔軸線方向の長さ寸法を、前記ピストンシールの軸線方向の厚さ寸法に対して1/10以下、1/20以上の範囲に設定したことを特徴とする液圧式車両用ディスクブレーキ。
【請求項2】
キャリパボディに形成されたシリンダ孔に、摩擦パッドをディスクロータの側面に向けて押動するピストンを内挿し、前記シリンダ孔の内周面に周設した断面角形のピストンシール装着溝に、前記ピストンを液密かつ移動可能に支持し、かつ、復元力によって前記ピストンをロールバックさせる断面角形のピストンシールを嵌着した液圧式車両用ディスクブレーキにおいて、前記ピストンシールの径方向の幅寸法を1.5mm以上、2.5mm以下に設定し、前記ピストンシール装着溝のシリンダ孔開口側の溝開口縁角部に面取部を設けるとともに、該面取部のシリンダ孔径方向の長さ寸法を、前記ピストンシールの径方向の幅寸法に対して1/10以下、1/20以上の範囲に設定したことを特徴とする液圧式車両用ディスクブレーキ。
【請求項3】
キャリパボディに形成されたシリンダ孔に、摩擦パッドをディスクロータの側面に向けて押動するピストンを内挿し、前記シリンダ孔の内周面に周設した断面角形のピストンシール装着溝に、前記ピストンを液密かつ移動可能に支持し、かつ、復元力によって前記ピストンをロールバックさせる断面角形のピストンシールを嵌着した液圧式車両用ディスクブレーキにおいて、前記ピストンシールの径方向の幅寸法を1.5mm以上、2.5mm以下に設定するとともに、前記ピストンシールの軸線方向の厚さ寸法に対する前記ピストンのロールバック量を、1/40以下、1/70以上の範囲に設定したことを特徴とする液圧式車両用ディスクブレーキ。
【請求項4】
キャリパボディに形成されたシリンダ孔に、摩擦パッドをディスクロータの側面に向けて押動するピストンを内挿し、前記シリンダ孔の内周面に周設した断面角形のピストンシール装着溝に、前記ピストンを液密かつ移動可能に支持し、かつ、復元力によって前記ピストンをロールバックさせる断面角形のピストンシールを嵌着した液圧式車両用ディスクブレーキにおいて、前記ピストンシールの径方向の幅寸法を1.5mm以上、2.5mm以下に設定するとともに、該幅寸法に対する前記ピストンのロールバック量を、1/40以下、1/70以上の範囲に設定したことを特徴とする液圧式車両用ディスクブレーキ。
【請求項5】
前記ピストンの直径が、20mm以上、40mm以下であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項記載の液圧式車両用ディスクブレーキ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−133553(P2010−133553A)
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−207861(P2009−207861)
【出願日】平成21年9月9日(2009.9.9)
【出願人】(000226677)日信工業株式会社 (840)
【Fターム(参考)】