説明

液晶配向剤、液晶配向膜とその形成方法および液晶表示素子

【課題】ラビング処理を行わずに、偏光または非偏光の放射線照射によって好適な液晶配向能およびプレチルト角発現性を付与することが可能な液晶配向剤を提供すること。
【解決手段】上記液晶配向剤は、テトラカルボン酸二無水物と、1−(3,5−ジアミノフェニル)−3−ドデシルスクシンイミドに代表される特定の化合物を含むジアミンとを反応させて得られるポリアミック酸およびそのイミド化重合体よりなる群から選択される少なくとも1種を含有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶配向剤、液晶配向膜とその形成方法および液晶表示素子に関する。さらに詳しくは、ラビング処理を行わずに、偏光または非偏光の放射線の照射によって好適な液晶配向能を付与することできる液晶配向剤、これを用いて製造される液晶配向膜とその形成方法および液晶表示素子に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、正の誘電異方性を有するネマチック型液晶を、液晶配向膜を有する透明電極付き基板でサンドイッチ構造にし、必要に応じて液晶分子の長軸が基板間で0〜360°連続的に捻れるようにしてなる、TN(Twisted Nematic)型、STN(Super Twisted Nematic)型、IPS(In Plane Switching)型などの液晶セルを有する液晶表示素子が知られている(特許文献1および2参照)。
このような液晶セルにおいては、液晶分子を基板面に対し所定の方向に配向させるため、基板表面に液晶配向膜を設ける必要がある。この液晶配向膜は、通常、基板表面に形成された有機膜表面をレーヨンなどの布材で一方向にこする方法(ラビング法)により形成されている。しかし、液晶配向膜の形成をラビング処理により行うと、工程内でほこりや静電気が発生し易いため、配向膜表面にほこりが付着して表示不良発生の原因となるという問題があった。特にTFT(Thin Film Transistor)素子を有する基板の場合には、発生した静電気によってTFT素子の回路破壊が起こり、歩留まり低下の原因となるという問題もあった。さらに、今後ますます高精細化される液晶表示素子においては、画素の高密度化に伴い基板表面に凹凸が生じるために、均一にラビング処理を行うことが困難となりつつある。
液晶セルにおける液晶を配向させる別の手段として、基板表面に形成したポリビニルシンナメート、ポリイミド、アゾベンゼン誘導体などの感光性薄膜に偏光または非偏光の放射線を照射することにより、液晶配向能を付与する光配向法が知られている。この方法によれば、静電気やほこりを発生することなく、均一な液晶配向を実現することができる(特許文献3〜13参照)。
ところで、TN(Twisted Nematic)型、STN(Super Twisted Nematic)型などの液晶セルにおいては、液晶配向膜は、液晶分子を基板面に対して所定の角度で傾斜配向させる、プレチルト角特性を有する必要がある。光配向法により液晶配向膜を形成する場合においては、プレチルト角特性は、通常、基板面への入射方向が基板法線から傾斜した放射線の照射により付与される。
【0003】
一方、上記とは別の液晶表示素子の動作モードとして、負の誘電異方性を有する液晶分子を基板に垂直に配向させる垂直(ホメオトロピック)配向モードも知られている。この動作モードでは、基板間に電圧を印加して液晶分子が基板に平行な方向に向かって傾く際に、液晶分子が基板法線方向から基板面内の一方向に向かって傾くようにする必要がある。このための手段として、例えば、基板表面に突起を設ける方法、透明電極にストライプを設ける方法、ラビング配向膜を用いることにより液晶分子を基板法線方向から基板面内の一方向に向けてわずかに傾けておく(プレチルトさせる)方法などが提案されている。
前記光配向法は、垂直配向モードの液晶セルにおいて液晶分子の傾き方向を制御する方法としても有用であることが知られている。すなわち、光配向法により配向規制能およびプレチルト角発現性を付与した垂直配向膜を用いることにより、電圧印加時の液晶分子の傾き方向を均一に制御できることが知られている(特許文献11〜14参照)。
このように、光配向法により製造した液晶配向膜は、各種の液晶表示素子に有効に適用されうるものである。しかしながら、従来の光配向膜は、適正なプレチルト角付与性を発現するのが困難であるとの問題があった。
【特許文献1】特開昭56−91277号公報
【特許文献2】特開平1−120528号公報
【特許文献3】特開平6−287453号公報
【特許文献4】特開平10−251646号公報
【特許文献5】特開平11−2815号公報
【特許文献6】特開平11−152475号公報
【特許文献7】特開2000−144136号公報
【特許文献8】特開2000−319510号公報
【特許文献9】特開2000−281724号公報
【特許文献10】特開平9−297313号公報
【特許文献11】特開2003−307736号公報
【特許文献12】特開2004−163646号公報
【特許文献13】特開平9−211468号公報
【特許文献14】特開2003−114437号公報
【特許文献15】特開平9−278724号公報
【特許文献16】特開2007−300250号公報
【特許文献17】特開2008−250302号公報
【非特許文献1】T. J. Scheffer et. al. J. Appl. Phys. vo. 19, p2013(1980)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、ラビング処理を行わずに、偏光または非偏光の放射線照射によって好適な液晶配向能およびプレチルト角発現性を付与することが可能な液晶配向剤、それを用いた液晶配向膜の形成方法、好適な液晶配向性およびプレチルト角発現性を示す液晶配向膜および表示特性に優れる液晶表示素子を提供することにある。
本発明のさらに他の目的および利点は、以下の説明から明らかになろう。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明によれば、本発明の上記目的および利点は、第1に、
テトラカルボン酸二無水物と、
下記式(1)
【0006】
【化1】

【0007】
(式(1)中、Zは下記式(Z−1)〜(Z−3)
【0008】
【化2】

【0009】
(式(Z−1)および(Z−2)中、Rは、それぞれ、水素原子またはメチル基であり、そして「*」を付した結合手がベンゼン環と結合する。)
のいずれかで表される2価の基であり、Zは単結合またはメチレン基であり、Zが単結合であるときZは炭素数6〜30のアルキル基または炭素数6〜30のアルコキシル基であり、Zがメチレン基であるときZは炭素数6〜30のアルコキシル基である。)
で表される化合物を含むジアミンと
を反応させて得られるポリアミック酸およびそのイミド化重合体よりなる群から選択される少なくとも1種を含有する液晶配向剤によって達成される。
本発明の上記目的および利点は、第2に、
基板上に、上記の液晶配向剤を塗布して塗膜を形成し、該塗膜に放射線を照射する液晶配向膜の形成方法によって達成される。
本発明の上記目的および利点は、第3に上記の方法により形成される液晶配向膜によって達成され、第4に該液晶配向膜を具備する液晶表示素子によって達成される。
【発明の効果】
【0010】
本発明の液晶配向剤は、ラビング処理を行わずに偏光または非偏光の放射線を照射することにより、静電気やほこりを発生することがない製造工程において、好適な液晶配向能およびプレチルト角発現性を有する液晶配向膜を形成することができる。この液晶配向膜を具備する本発明の液晶表示素子は、表示特性に優れたものであり、種々の装置に有効に適用することができる。本発明の液晶表示素子は、例えば卓上計算機、腕時計、置時計、計数表示板、ワードプロセッサ、パーソナルコンピューター、または液晶テレビなどの装置に好適に用いられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の液晶表示素子は、テトラカルボン酸二無水物と、上記式(1)で表される化合物を含むジアミンとを反応させて得られるポリアミック酸およびそのイミド化重合体よりなる群から選択される少なくとも1種を含有する。
<ポリアミック酸>
本発明に使用されるポリアミック酸は、テトラカルボン酸二無水物と、上記式(1)で表される化合物を含むジアミンとを反応させることにより合成することができる。
[テトラカルボン酸二無水物]
本発明に使用されるポリアミック酸を合成するために用いられるテトラカルボン酸二無水物としては、例えばブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2−ジメチル−1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,3−ジメチル−1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,3−ジクロロ−1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4−テトラメチル−1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4−シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ジシクロヘキシルテトラカルボン酸二無水物、2,3,5−トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物、2,3,4,5−テトラヒドロフランテトラカルボン酸二無水物、1,3,3a,4,5,9b−ヘキサヒドロ−5−(テトラヒドロ−2,5−ジオキソ−3−フラニル)−ナフト[1,2−c]−フラン−1,3−ジオン、1,3,3a,4,5,9b−ヘキサヒドロ−5−メチル−5(テトラヒドロ−2,5−ジオキソ−3−フラニル)−ナフト[1,2−c]−フラン−1,3−ジオン、1,3,3a,4,5,9b−ヘキサヒドロ−5−エチル−5−(テトラヒドロ−2,5−ジオキソ−3−フラニル)−ナフト[1,2−c]−フラン−1,3−ジオン、1,3,3a,4,5,9b−ヘキサヒドロ−7−メチル−5−(テトラヒドロ−2,5−ジオキソ−3−フラニル)−ナフト[1,2−c]−フラン−1,3−ジオン、1,3,3a,4,5,9b−ヘキサヒドロ−7−エチル−5−(テトラヒドロ−2,5−ジオキソ−3−フラニル)−ナフト[1,2−c]−フラン−1,3−ジオン、1,3,3a,4,5,9b−ヘキサヒドロ−8−メチル−5−(テトラヒドロ−2,5−ジオキソ−3−フラニル)−ナフト[1,2−c]−フラン−1,3−ジオン、1,3,3a,4,5,9b−ヘキサヒドロ−8−エチル−5−(テトラヒドロ−2,5−ジオキソ−3−フラニル)−ナフト[1,2−c]−フラン−1,3−ジオン、1,3,3a,4,5,9b−ヘキサヒドロ−5,8−ジメチル−5−(テトラヒドロ−2,5−ジオキソ−3−フラニル)−ナフト[1,2−c]−フラン−1,3−ジオン、5−(2,5−ジオキソテトラヒドロフラニル)−3−メチル−3−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸無水物、ビシクロ[2.2.2]−オクト−7−エン−2,3,5,6−テトラカルボン酸二無水物、3−オキサビシクロ[3.2.1]オクタン−2,4−ジオン−6−スピロ−3’−(テトラヒドロフラン−2’,5’−ジオン)、5−(2,5−ジオキソテトラヒドロ−3−フラニル)−3−メチル−3−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸無水物、3,5,6−トリカルボキシ−2−カルボキシメチルノルボルナン−2:3,5:6−二無水物、4,9−ジオキサトリシクロ[5.3.1.02,6]ウンデカン−3,5,8,10−テトラオン、下記式(T−I)および(T−II)
【0012】
【化3】

【0013】
(式中、RおよびRは、それぞれ、芳香環を有する2価の有機基を示し、RおよびRは、それぞれ、水素原子またはアルキル基を示し、複数存在するRおよびRはそれぞれ同一でも異なっていてもよい。)
のそれぞれで表される化合物などの脂肪族テトラカルボン酸二無水物および脂環式テトラカルボン酸二無水物;
ピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルエーテルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ジメチルジフェニルシランテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−テトラフェニルシランテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4−フランテトラカルボン酸二無水物、4,4’−ビス(3,4−ジカルボキシフェノキシ)ジフェニルスルフィド二無水物、4,4’−ビス(3,4−ジカルボキシフェノキシ)ジフェニルスルホン二無水物、4,4’−ビス(3,4−ジカルボキシフェノキシ)ジフェニルプロパン二無水物、3,3’,4,4’−パーフルオロイソプロピリデンジフタル酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、ビス(フタル酸)フェニルホスフィンオキサイド二無水物、p−フェニレン−ビス(トリフェニルフタル酸)二無水物、m−フェニレン−ビス(トリフェニルフタル酸)二無水物、ビス(トリフェニルフタル酸)−4,4’−ジフェニルエーテル二無水物、ビス(トリフェニルフタル酸)−4,4’−ジフェニルメタン二無水物、エチレングリコール−ビス(アンヒドロトリメリテート)、プロピレングリコール−ビス(アンヒドロトリメリテート)、1,4−ブタンジオール−ビス(アンヒドロトリメリテート)、1,6−ヘキサンジオール−ビス(アンヒドロトリメリテート)、1,8−オクタンジオール−ビス(アンヒドロトリメリテート)、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン−ビス(アンヒドロトリメリテート)、下記式(T−1)〜(T−4)
【0014】
【化4】

【0015】
のそれぞれで表される化合物などの芳香族テトラカルボン酸二無水物を挙げることができる。なお、上記芳香族テトラカルボン酸二無水物のベンゼン環は、一つまたは二つ以上の炭素数1〜4のアルキル基(好ましくはメチル基)で置換されていてもよい。これらは1種単独でまたは2種以上組み合わせて用いられる。
本発明に用いられるポリアミック酸を合成するために用いられるテトラカルボン酸二無水物としては、上記のうち、ブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,3−ジメチル−1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4−シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物、2,3,5−トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物、1,3,3a,4,5,9b−ヘキサヒドロ−5−(テトラヒドロ−2,5−ジオキソ−3−フラニル)−ナフト[1,2−c]フラン−1,3−ジオン、1,3,3a,4,5,9b−ヘキサヒドロ−8−メチル−5−(テトラヒドロ−2,5−ジオキソ−3−フラニル)−ナフト[1,2−c]フラン−1,3−ジオン、1,3,3a,4,5,9b−ヘキサヒドロ−5,8−ジメチル−5−(テトラヒドロ−2,5−ジオキソ−3−フラニル)−ナフト[1,2−c]フラン−1,3−ジオン、ビシクロ[2.2.2]−オクト−7−エン−2,3,5,6−テトラカルボン酸二無水物、3−オキサビシクロ[3.2.1]オクタン−2,4−ジオン−6−スピロ−3’−(テトラヒドロフラン−2’,5’−ジオン)、5−(2,5−ジオキソテトラヒドロ−3−フラニル)−3−メチル−3−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸無水物、3,5,6−トリカルボキシ−2−カルボキシメチルノルボルナン−2:3,5:6−二無水物、4,9−ジオキサトリシクロ[5.3.1.02,6]ウンデカン−3,5,8,10−テトラオン、ピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、上記式(T−I)で表される化合物のうち下記式(T−5)〜(T−7)
【0016】
【化5】

【0017】
のそれぞれで表される化合物および上記式(T−II)で表される化合物のうち下記式(T−8)
【0018】
【化6】

【0019】
で表される化合物よりなる群から選択される少なくとも1種(以下、「特定テトラカルボン酸二無水物」という。)を含むテトラカルボン酸二無水物を用いることが、形成される液晶配向膜が良好な液晶配向性を示すこととなる観点から好ましい。特定テトラカルボン酸二無水物としては、1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,3−ジメチル−1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、2,3,5−トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物、1,3,3a,4,5,9b−ヘキサヒドロ−5−(テトラヒドロ−2,5−ジオキソ−3−フラニル)−ナフト[1,2−c]フラン−1,3−ジオン、1,3,3a,4,5,9b−ヘキサヒドロ−8−メチル−5−(テトラヒドロ−2,5−ジオキソ−3−フラニル)−ナフト[1,2−c]フラン−1,3−ジオン、3−オキサビシクロ[3.2.1]オクタン−2,4−ジオン−6−スピロ−3’−(テトラヒドロフラン−2’,5’−ジオン)、5−(2,5−ジオキソテトラヒドロ−3−フラニル)−3−メチル−3−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸無水物、3,5,6−トリカルボキシ−2−カルボキシメチルノルボルナン−2:3,5:6−二無水物、4,9−ジオキサトリシクロ[5.3.1.02,6]ウンデカン−3,5,8,10−テトラオン、ピロメリット酸二無水物および上記式(T−5)で表される化合物よりなる群から選択される少なくとも1種がより好ましく、1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物および1,3−ジメチル−1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物よりなる群から選択される少なくとも1種が、液晶配向膜の形成に要する放射線の照射量が少なくてすむことから、特に好ましい。
本発明に用いられるポリアミック酸を合成するために用いられるテトラカルボン酸二無水物は、上記の如き特定テトラカルボン酸二無水物を、使用されるテトラカルボン酸二無水物の全量に対して10モル%以上含むことが好ましく、20モル%以上含むことがより好ましく、さらに50モル%以上含むことが好ましい。
【0020】
[ジアミン]
本発明に用いられるポリアミック酸を合成するために用いられるジアミンは、上記式(1)で表される化合物を含む。
上記式(1)におけるZの炭素数6〜30のアルキル基としては、炭素数10〜20のアルキル基が好ましく、具体的には例えばデシル基、ドデシル基、テトラデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、イコシル基などを;
の炭素数6〜30のアルコキシル基としては、炭素数10〜20のアルコキシル基が好ましく、具体的には例えばデシルオキシ基、ドデシルオキシ基、テトラデシルオキシ基、ヘキサデシルオキシ基、ヘプタデシルオキシ基、オクタデシルオキシ基、イコシルオキシ基などを、それぞれ挙げることができる。
上記式(1)で表される化合物の具体例としては、Zが上記式(Z−1)で表される2価の基であるものとして、例えば1−(3,5−ジアミノフェニル)−3−ドデシルスクシンイミド、1−(3,5−ジアミノフェニル)−3−ヘキサデシルスクシンイミド、1−(3,5−ジアミノフェニル)−3−ヘプタデシルスクシンイミド、1−(3,5−ジアミノフェニル)−3−オクタデシルスクシンイミド、1−(3,5−ジアミノフェニル)−3−ドデシルオキシスクシンイミド、1−(3,5−ジアミノフェニル)−3−ヘキサデシルオキシスクシンイミド、1−(3,5−ジアミノフェニル)−3−ヘプタデシルオキシスクシンイミド、1−(3,5−ジアミノフェニル)−3−オクタデシルオキシスクシンイミド、1−(3,5−ジアミノフェニル)−3−ドデシル−4−メチルスクシンイミド、1−(3,5−ジアミノフェニル)−3−ヘキサデシル−4−メチルスクシンイミド、1−(3,5−ジアミノフェニル)−3−ヘプタデシル−4−メチルスクシンイミド、1−(3,5−ジアミノフェニル)−3−オクタデシル−4−メチルスクシンイミド、1−(3,5−ジアミノフェニル)−3−ドデシルオキシ−4−メチルスクシンイミド、1−(3,5−ジアミノフェニル)−3−ヘキサデシルオキシ−4−メチルスクシンイミド、1−(3,5−ジアミノフェニル)−3−ヘプタデシルオキシ−4−メチルスクシンイミド、1−(3,5−ジアミノフェニル)−3−オクタデシルオキシ−4−メチルスクシンイミドなど;
【0021】
が上記式(Z−2)で表される2価の基であるものとして、例えば1−(3,5−ジアミノフェニル)−3−ドデシルマレイミド、1−(3,5−ジアミノフェニル)−3−ヘキサデシルマレイミド、1−(3,5−ジアミノフェニル)−3−ヘプタデシルマレイミド、1−(3,5−ジアミノフェニル)−3−オクタデシルマレイミド、1−(3,5−ジアミノフェニル)−3−ドデシルオキシメチルマレイミド、1−(3,5−ジアミノフェニル)−3−ヘキサデシルオキシメチルマレイミド、1−(3,5−ジアミノフェニル)−3−ヘプタデシルオキシメチルマレイミド、1−(3,5−ジアミノフェニル)−3−オクタデシルオキシメチルマレイミド、1−(3,5−ジアミノフェニル)−3−ドデシル−4−メチルマレイミド、1−(3,5−ジアミノフェニル)−3−ヘキサデシル−4−メチルマレイミド、1−(3,5−ジアミノフェニル)−3−ヘプタデシル−4−メチルマレイミド、1−(3,5−ジアミノフェニル)−3−オクタデシル−4−メチルマレイミド、1−(3,5−ジアミノフェニル)−3−ドデシルオキシメチル−4−メチルマレイミド、1−(3,5−ジアミノフェニル)−3−ヘキサデシルオキシメチル−4−メチルマレイミド、1−(3,5−ジアミノフェニル)−3−ヘプタデシルオキシメチル−4−メチルマレイミド、1−(3,5−ジアミノフェニル)−3−オクタデシルオキシメチル−4−メチルマレイミドなど;
が上記式(Z−3)で表される2価の基であるものとして、例えば1−(3,5−ジアミノフェニル)−4−ドデシルオキシグルタルイミド、1−(3,5−ジアミノフェニル)−4−ヘキサデシルオキシグルタルイミド、1−(3,5−ジアミノフェニル)−4−ヘプタデシルオキシグルタルイミド、1−(3,5−ジアミノフェニル)−4−オクタデシルオキシグルタルイミドなどを、それぞれ挙げることができる。
【0022】
これらのうち、1−(3,5−ジアミノフェニル)−3−ドデシルスクシンイミド、1−(3,5−ジアミノフェニル)−3−ヘキサデシルスクシンイミド、1−(3,5−ジアミノフェニル)−3−オクタデシルスクシンイミド、1−(3,5−ジアミノフェニル)−3−ドデシルマレイミド、1−(3,5−ジアミノフェニル)−3−ヘキサデシルマレイミド、1−(3,5−ジアミノフェニル)−3−オクタデシルマレイミド、1−(3,5−ジアミノフェニル)−3−ドデシルオキシメチルマレイミド、1−(3,5−ジアミノフェニル)−3−ヘキサデシルオキシメチルマレイミド、1−(3,5−ジアミノフェニル)−3−オクタデシルオキシメチルマレイミド、1−(3,5−ジアミノフェニル)−3−ヘプタデシル−4−メチルマレイミド、1−(3,5−ジアミノフェニル)−3−ドデシルオキシメチル−4−メチルマレイミド、1−(3,5−ジアミノフェニル)−3−ヘキサデシルオキシメチル−4−メチルマレイミドおよび1−(3,5−ジアミノフェニル)−3−オクタデシルオキシメチル−4−メチルマレイミドが好ましく、1−(3,5−ジアミノフェニル)−3−ドデシルスクシンイミド、1−(3,5−ジアミノフェニル)−3−ヘキサデシルスクシンイミド、1−(3,5−ジアミノフェニル)−3−オクタデシルスクシンイミド、1−(3,5−ジアミノフェニル)−3−ヘプタデシル−4−メチルマレイミド、1−(3,5−ジアミノフェニル)−3−ドデシルオキシメチル−4−メチルマレイミド、1−(3,5−ジアミノフェニル)−3−ヘキサデシルオキシメチル−4−メチルマレイミドおよび1−(3,5−ジアミノフェニル)−3−オクタデシルオキシメチル−4−メチルマレイミドが特に好ましい。
【0023】
本発明に用いられるポリアミック酸を合成するために用いられるジアミンとしては、上記式(1)で表される化合物のみを用いてもよく、上記式(1)で表される化合物と他のジアミンとを併用してもよい。
本発明において使用することのできる他のジアミンとしては、例えばp−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルエタン、4,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノベンズアニリド、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、1,5−ジアミノナフタレン、2,2’−ジメチル−4,4’−ジアミノビフェニル、3,3’−ジメチル−4,4’−ジアミノビフェニル、2,2’−ジトリフルオロメチル−4,4’−ジアミノビフェニル、3,3’−ジトリフルオロメチル−4,4’−ジアミノビフェニル、5−アミノ−1−(4’−アミノフェニル)−1,3,3−トリメチルインダン、6−アミノ−1−(4’−アミノフェニル)−1,3,3−トリメチルインダン、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,3’−ジアミノベンゾフェノン、3,4’−ジアミノベンゾフェノン、4,4’−ジアミノベンゾフェノン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス(4−アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、9,9−ビス(4−アミノフェニル)−10−ヒドロアントラセン、2,7−ジアミノフルオレン、9,9−ジメチル-2,7−ジアミノフルオレン、9,9−ビス(4−アミノフェニル)フルオレン、4,4’−メチレン−ビス(2−クロロアニリン)、2,2’,5,5’−テトラクロロ−4,4’−ジアミノビフェニル、2,2’−ジクロロ−4,4’−ジアミノ−5,5’−ジメトキシビフェニル、3,3’−ジメトキシ−4,4’−ジアミノビフェニル、4,4’−(p−フェニレンジイソプロピリデン)ビスアニリン、4,4’−(m−フェニレンジイソプロピリデン)ビスアニリン、2,2’−ビス[4−(4−アミノ−2−トリフルオロメチルフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、4,4’−ジアミノ−2,2’−ビス(トリフルオロメチル)ビフェニル、4,4’−ビス[(4−アミノ−2−トリフルオロメチル)フェノキシ]−オクタフルオロビフェニルなどの芳香族ジアミン;
【0024】
1,1−メタキシリレンジアミン、1,3−プロパンジアミン、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ヘプタメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、1,4−ジアミノシクロヘキサン、イソホロンジアミン、テトラヒドロジシクロペンタジエニレンジアミン、ヘキサヒドロ−4,7−メタノインダニレンジメチレンジアミン、トリシクロ[6.2.1.02,7]−ウンデシレンジメチレンジアミン、4,4’−メチレンビス(シクロヘキシルアミン)、1,3−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,4−ビス(アミノメチル)シクロヘキサンなどの脂肪族ジアミンおよび脂環式ジアミン;
2,3−ジアミノピリジン、2,6−ジアミノピリジン、3,4−ジアミノピリジン、2,4−ジアミノピリミジン、5,6−ジアミノ−2,3−ジシアノピラジン、5,6−ジアミノ−2,4−ジヒドロキシピリミジン、2,4−ジアミノ−6−ジメチルアミノ−1,3,5−トリアジン、1,4−ビス(3−アミノプロピル)ピペラジン、2,4−ジアミノ−6−イソプロポキシ−1,3,5−トリアジン、2,4−ジアミノ−6−メトキシ−1,3,5−トリアジン、2,4−ジアミノ−6−フェニル−1,3,5−トリアジン、2,4−ジアミノ−6−メチル−s−トリアジン、2,4−ジアミノ−1,3,5−トリアジン、4,6−ジアミノ−2−ビニル−s−トリアジン、2,4−ジアミノ−5−フェニルチアゾール、2,6−ジアミノプリン、5,6−ジアミノ−1,3−ジメチルウラシル、3,5−ジアミノ−1,2,4−トリアゾール、6,9−ジアミノ−2−エトキシアクリジンラクテート、3,8−ジアミノ−6−フェニルフェナントリジン、1,4−ジアミノピペラジン、3,6−ジアミノアクリジン、ビス(4−アミノフェニル)フェニルアミン、3,6-ジアミノカルバゾール、N−メチル−3,6−ジアミノカルバゾール、N−エチル−3,6−ジアミノカルバゾール、N−フェニル−3,6−ジアミノカルバゾール、N,N’−ビス(4−アミノフェニル)−ベンジジン、および下記式(D−I)
【0025】
【化7】

【0026】
(式(D−I)中、Rはピリジン、ピリミジン、トリアジン、ピペリジンおよびピペラジンよりなる群から選ばれる窒素原子を含む環構造を有する1価の有機基を示し、Xは2価の有機基を示す。)
で表される化合物、下記式(D−II)
【0027】
【化8】

【0028】
(式中、Rはピリジン、ピリミジン、トリアジン、ピペリジンおよびピペラジンよりなる群から選ばれる窒素原子を含む環構造を有する2価の有機基を示し、Xは、それぞれ、2価の有機基を示し、複数存在するXはそれぞれ同一でも異なっていてもよい。)
で表される化合物などの分子内に2つの1級アミノ基および該1級アミノ基以外の窒素原子を有するジアミン;
下記式(D−III)
【0029】
【化10】

【0030】
(式(D−III)中、Rは−O−、−COO−、−OCO−、−NHCO−、−CONH−または−CO−(ただし、「*」を付した結合手がRと結合する。)であり、Rはステロイド骨格、トリフルオロメチルフェニル基、トリフルオロメトキシフェニル基およびフルオロフェニル基よりなる群から選択される骨格もしくは基を有する1価の有機基または炭素数6〜30のアルキル基もしくはフッ化アルキル基である。)
のそれぞれで表される化合物などのモノ置換フェニレンジアミン;
下記式(D−IV)
【0031】
【化11】

【0032】
(式(D−IV)中、Rは、それぞれ、炭素数1〜12の炭化水素基を示し、複数存在するRはそれぞれ同一でも異なっていてもよく、pは、それぞれ、1〜3の整数であり、qは1〜20の整数である。)
で表される化合物などのジアミノオルガノシロキサン;
下記式(D−1)〜(D−5)
【0033】
【化12】

【0034】
【化9】

【0035】
(式(D−4)中のyは2〜12の整数であり、式(D−5)中のzは1〜5の整数である。)
のそれぞれで表される化合物などを挙げることができる。なお、上記芳香族ジアミン及びモノ置換フェニレンジアミンのベンゼン環は、一つまたは二つ以上の炭素数1〜4のアルキル基(好ましくはメチル基)で置換されていてもよい。これらのジアミンは、単独でまたは2種以上組み合わせて用いることができる。
本発明に用いられるポリアミック酸を合成するために用いることのできる他のジアミンとしては、上記のうちp−フェニレンジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、1,5−ジアミノナフタレン、2,2’−ジメチル−4,4’−ジアミノビフェニル、2,2’−ジトリフルオロメチル−4,4’−ジアミノビフェニル、2,7−ジアミノフルオレン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、9,9−ビス(4−アミノフェニル)フルオレン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス(4−アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、4,4’−(p−フェニレンジイソプロピリデン)ビスアニリン、4,4’−(m−フェニレンジイソプロピリデン)ビスアニリン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、1,4−ジアミノシクロヘキサン、4,4’−メチレンビス(シクロヘキシルアミン)、1,3−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、上記式(D−1)〜(D−5)のそれぞれで表される化合物、2,6−ジアミノピリジン、3,4−ジアミノピリジン、2,4−ジアミノピリミジン、3,6−ジアミノアクリジン、3,6−ジアミノカルバゾール、N−メチル−3,6−ジアミノカルバゾール、N−エチル−3,6−ジアミノカルバゾール、N−フェニル−3,6−ジアミノカルバゾール、N,N’−ビス(4−アミノフェニル)−ベンジジン、上記式(D−I)で表される化合物で表される化合物のうち下記式(D−6)
【0036】
【化13】

【0037】
で表される化合物、上記式(D−II)で表される化合物で表される化合物のうち下記式(D−7)
【0038】
【化14】

【0039】
で表される化合物、上記式(D−III)で表される化合物のうち下記式(D−8)〜(D−16)
【0040】
【化15】

【0041】
【化16】

【0042】
【化17】

【0043】
のそれぞれで表される化合物および上記式(D−IV)で表される化合物のうちの1,3−ビス(3−アミノプロピル)−テトラメチルジシロキサンよりなる群から選択される少なくとも1種(以下、「特定ジアミン」という。)を含むことが好ましい。特定ジアミンとしては、好適なプレチルト角発現性の付与を容易にすることから、9,9−ビス(4−アミノフェニル)フルオレンが特に好ましい。
本発明に用いられるポリアミック酸を合成するために使用されるジアミンは、上記式(1)で表される化合物を、使用されるジアミンの全量に対して1モル%以上含むことが好ましく、1〜50モル%含むことがより好ましく、さらに2〜20モル%含むことが好ましい。
本発明に用いられるポリアミック酸を合成するために使用されるジアミンは、上記の如き特定ジアミン、特に9,9−ビス(4−アミノフェニル)フルオレンを、使用されるジアミンの全量に対して、98モル%以下含むものであることが好ましく、50〜95モル%含むものであることがより好ましく、さらに75〜95モル%含むものであることが好ましい。
【0044】
[ポリアミック酸]
本発明に用いられるポリアミック酸は、上記の如きテトラカルボン酸二無水物とジアミンとを反応させることにより合成することができる。
ポリアミック酸の合成反応に供されるテトラカルボン酸二無水物とジアミンの使用割合は、ジアミンに含まれるアミノ基1当量に対して、テトラカルボン酸二無水物の酸無水物基が0.2〜2当量となる割合が好ましく、さらに好ましくは0.3〜1.2当量となる割合である。
ポリアミック酸の合成反応は、有機溶媒中において、好ましくは−20〜150℃、より好ましくは0〜100℃の温度条件下において、好ましくは0.5〜120時間、より好ましくは2〜10時間の反応時間で行われる。ここで、有機溶媒としては、合成されるポリアミック酸を溶解できるものであれば特に制限はなく、例えばN−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、γ−ブチロラクトン、テトラメチル尿素、ヘキサメチルホスホルトリアミドなどの非プロトン系極性溶媒;m−クレゾール、キシレノール、フェノール、ハロゲン化フェノールなどのフェノール系溶媒を挙げることができる。また、有機溶媒の使用量(a)は、テトラカルボン酸二無水物およびジアミンの総量(b)が、反応溶液の全量(a+b)に対して0.1〜30重量%になるような量であることが好ましい。
【0045】
前記有機溶媒には、ポリアミック酸の貧溶媒であるアルコール、ケトン、エステル、エーテル、ハロゲン化炭化水素、炭化水素などを、生成するポリアミック酸が析出しない範囲で併用することができる。かかる貧溶媒の具体例としては、例えばメチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、シクロヘキサノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、トリエチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、乳酸エチル、乳酸ブチル、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、メチルメトキシプロピオネ−ト、エチルエトキシプロピオネ−ト、シュウ酸ジエチル、マロン酸ジエチル、ジエチルエーテル、エチレングリコールメチルエーテル、エチレングリコールエチルエーテル、エチレングリコール−n−プロピルエーテル、エチレングリコール−i−プロピルエーテル、エチレングリコール−n−ブチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、テトラヒドロフラン、ジクロロメタン、1,2−ジクロロエタン、1,4−ジクロロブタン、トリクロロエタン、クロルベンゼン、o−ジクロルベンゼン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ベンゼン、トルエン、キシレン、ジイソブチルケトン、イソアミルプロピオネート、イソアミルイソブチレート、ジイソペンチルエーテルなどを挙げることができる。
有機溶媒および貧溶媒を併用する場合、貧溶媒の使用割合は、有機溶媒および貧溶媒の合計量に対して好ましくは50重量%以下であり、より好ましくは20重量%以下であり、さらに10重量%以下であることが好ましい。
【0046】
以上のようにして、ポリアミック酸を溶解してなる反応溶液が得られる。この反応溶液はそのまま液晶配向剤の調製に供してもよく、反応溶液中に含まれるポリアミック酸を単離したうえで液晶配向剤の調製に供してもよく、または単離したポリアミック酸を精製したうえで液晶配向剤の調製に供してもよい。ポリアミック酸の単離は、上記反応溶液を大量の貧溶媒中に注いで析出物を得、この析出物を減圧下乾燥する方法、あるいは、反応溶液をエバポレーターで減圧留去する方法により行うことができる。また、このポリアミック酸を再び有機溶媒に溶解し、次いで貧溶媒で析出させる方法、あるいは、エバポレーターで減圧留去する工程を1回または数回行う方法により、ポリアミック酸を精製することができる。
【0047】
<イミド化重合体>
本発明の液晶配向剤に含有されるイミド化重合体は、テトラカルボン酸二無水物および上記式(1)で表される化合物を含むジアミンを用いて上記の如くして合成されたポリアミック酸を脱水閉環することにより得られる。
[テトラカルボン酸二無水物]
本発明に用いられるイミド化重合体の合成に使用されテトラカルボン酸二無水物としては、上述したポリアミック酸の合成に使用されるテトラカルボン酸二無水物と同様である。テトラカルボン酸二無水物が上記の特定テトラカルボン酸二無水物を含むものであることが好ましい点も、ポリアミック酸の場合と同様である。ただし、イミド化重合体の合成に使用される好ましい特定テトラカルボン酸二無水物は、2,3,5−トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物、1,3,3a,4,5,9b−ヘキサヒドロ−5−(テトラヒドロ−2,5−ジオキソ−3−フラニル)−ナフト[1,2−c]フラン−1,3−ジオン、1,3,3a,4,5,9b−ヘキサヒドロ−8−メチル−5−(テトラヒドロ−2,5−ジオキソ−3−フラニル)−ナフト[1,2−c]フラン−1,3−ジオン、3−オキサビシクロ[3.2.1]オクタン−2,4−ジオン−6−スピロ−3’−(テトラヒドロフラン−2’,5’−ジオン)、5−(2,5−ジオキソテトラヒドロ−3−フラニル)−3−メチル−3−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸無水物、3,5,6−トリカルボキシ−2−カルボキシメチルノルボルナン−2:3,5:6−二無水物および4,9−ジオキサトリシクロ[5.3.1.02,6]ウンデカン−3,5,8,10−テトラオンよりなる群から選択される少なくとも1種であり、特に好ましくは2,3,5−トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物である。
本発明に用いられるイミド化重合体の合成に使用されるテトラカルボン酸二無水物は、上記の如き特定テトラカルボン酸二無水物を、使用されるテトラカルボン酸二無水物の全量に対して10モル%以上含むことが好ましく、20モル%以上含むことがより好ましく、さらに50モル%以上含むことが好ましい。
【0048】
[ジアミン]
本発明に用いられるイミド化重合体の合成に使用されるジアミンは、上述したポリアミック酸の合成に使用されるジアミンと同様である。イミド化重合体の合成に使用されるジアミンは上記式(1)で表される化合物を含み、これとともに他のジアミン、好ましくは上記の特定ジアミンを併用することができる点も、ポリアミック酸の場合と同様である。ただし、イミド化重合体の合成に使用されるジアミンのうち、特に好ましいものはp−フェニレンジアミンである。
本発明に用いられるイミド化重合体を合成するために使用されるジアミンは、上記式(1)で表される化合物を、使用されるジアミンの全量に対して1モル%以上含むことが好ましく、1〜50モル%含むことがより好ましく、さらに2〜20モル%含むことが好ましい。
本発明に用いられるイミド化重合体を合成するために使用されるジアミンは、上記の如き特定ジアミン、特にp−フェニレンジアミンを、使用されるジアミンの全量に対して98モル%以下含むことが好ましく、50〜98モル%含むことがより好ましく、さらに75〜95モル%含むことが好ましい。
【0049】
[イミド化重合体の合成]
本発明の液晶配向剤に含有されるイミド化重合体は、前駆体たるポリアミック酸の有するアミック酸単位のすべてが脱水閉環されてなる完全イミド化体であってもよく、あるいはアミック酸単位と脱水閉環されたイミド環とが併存する部分イミド化物であってもよい。イミド化重合体のイミド化率としては、好ましくは80%以上であり、より好ましくは85%以上である。ここで、「イミド化率」とは、重合体におけるアミック酸構造の数とイミド環の数の合計に対する、イミド環の数の割合を百分率で表したものである。このとき、イミド環の一部がイソイミド環であっても良い。イミド化率はイミド化重合体を適当な重水素化溶媒(例えば重水素化ジメチルスルホキシド)に溶解し、テトラメチルシランを基準物質として室温でH−NMRを測定した結果から、下記数式(i)により求めることができる。

イミド化率(%)=(1−A/A×α)×100 (i)

(数式(i)中、Aは化学シフト10ppm付近に現れるNH基のプロトン由来のピーク面積であり、Aはその他のプロトン由来のピーク面積であり、αはイミド化重合体の前駆体(ポリアミック酸)におけるNH基のプロトン1個に対するその他のプロトンの個数割合である。)
【0050】
本発明の液晶配向剤を構成するイミド化重合体は、ポリアミック酸を脱水閉環することにより得られる。ポリアミック酸の脱水閉環は、(i)ポリアミック酸を加熱する方法により、または(ii)ポリアミック酸を有機溶媒に溶解し、この溶液中に脱水剤および脱水閉環触媒を添加し必要に応じて加熱する方法により行われる。
上記(i)のポリアミック酸を加熱する方法における反応温度は、好ましくは50〜200℃であり、より好ましくは60〜170℃である。反応温度が50℃未満では脱水閉環反応が十分に進行せず、反応温度が200℃を超えると得られるイミド化重合体の分子量が低下することがある。反応時間は、好ましくは1〜120時間であり、より好ましくは2〜30時間である。
一方、上記(ii)のポリアミック酸の溶液中に脱水剤および脱水閉環触媒を添加する方法において、脱水剤としては、例えば無水酢酸、無水プロピオン酸、無水トリフルオロ酢酸などの酸無水物を用いることができる。脱水剤の使用量は、ポリアミック酸の繰り返し単位1モルに対して0.01〜20モルとするのが好ましい。また、脱水閉環触媒としては、例えばピリジン、コリジン、ルチジン、トリエチルアミンなどの3級アミンを用いることができる。しかし、これらに限定されるものではない。脱水閉環触媒の使用量は、使用する脱水剤1モルに対して0.01〜10モルとするのが好ましい。なお、脱水閉環反応に用いられる有機溶媒としては、ポリアミック酸の合成に用いられるものとして例示した有機溶媒を挙げることができる。そして、脱水閉環反応の反応温度は、好ましくは0〜180℃、より好ましくは10〜150℃であり、反応時間は好ましくは0.5〜30時間であり、より好ましくは2〜10時間である。
上記方法(i)において得られるイミド化重合体は、これをそのまま液晶配向剤の調製に供してもよく、あるいは得られるイミド化重合体を精製したうえで液晶配向剤の調製に供してもよい。一方、上記方法(ii)においては、上記のようにして反応溶液が得られる。本発明の液晶配向剤を調製する際には、この反応溶液をそのまま液晶配向剤の調製に供してもよく、反応溶液から脱水剤および脱水閉環触媒を除いたうえで液晶配向剤の調製に供してもよく、イミド化重合体を単離したうえで液晶配向剤の調製に供してもよく、または単離したイミド化重合体を精製したうえで液晶配向剤の調製に供してもよい。反応溶液から脱水剤および脱水閉環触媒を除くには、例えば溶媒置換などの方法を適用することができる。イミド化重合体の単離、精製は、ポリアミック酸の単離、精製方法と同様の操作を行うことにより行うことができる。
【0051】
−末端修飾型の重合体−
上記ポリアミック酸およびイミド化重合体は、分子量が調節された末端修飾型のものであってもよい。このような末端修飾型のものは、ポリアミック酸を合成する際に、分子量調節剤を反応系に添加することにより合成することができる。上記分子量調節剤としては、例えば酸一無水物、モノアミン化合物、モノイソシアネート化合物などを挙げることができる。
ここで、酸一無水物としては、例えば無水マレイン酸、無水フタル酸、無水イタコン酸、n−デシルこはく酸無水物、n−ドデシルこはく酸無水物、n−テトラデシルこはく酸無水物、n−ヘキサデシルこはく酸無水物などを挙げることができる。また、モノアミン化合物としては、例えば、アニリン、シクロヘキシルアミン、n−ブチルアミン、n−ペンチルアミン、n−ヘキシルアミン、n−ヘプチルアミン、n−オクチルアミン、n−ノニルアミン、n−デシルアミン、n−ウンデシルアミン、n−ドデシルアミン、n−トリデシルアミン、n−テトラデシルアミン、n−ペンタデシルアミン、n−ヘキサデシルアミン、n−ヘプタデシルアミン、n−オクタデシルアミン、n−エイコシルアミンなどを挙げることができる。また、モノイソシアネート化合物としては、例えばフェニルイソシアネート、ナフチルイソシアネートなどを挙げることができる。
分子量調節剤は、ポリアミック酸を合成する際に使用するテトラカルボン酸二無水物およびジアミンの合計100重量部に対して好ましくは20重量部以下、より好ましくは10重量部以下の範囲で用いられる。
−溶液粘度−
以上のようにして得られるポリアミック酸またはイミド化重合体は、濃度10重量%の溶液としたときに、20〜800mPa・sの溶液粘度を持つものであることが好ましく、30〜500mPa・sの溶液粘度を持つものであることがより好ましい。
上記重合体の溶液粘度(mPa・s)は、溶媒としてN−メチル−2−ピロリドンを用い、10重量%の濃度とした重合体溶液についてE型回転粘度計を用いて25℃で測定した値である。
【0052】
<他の成分>
本発明の液晶配向剤は、上記の如きポリアミック酸およびそのイミド化重合体よりなる群から選択される少なくとも1種を含有する。
本発明の液晶配向剤は、上記の如きポリアミック酸およびそのイミド化重合体よりなる群から選択される少なくとも1種のほかに、本発明の効果を損なわない限り、さらに他の成分を含有していてもよい。このような他の成分としては、例えば分子内に少なくとも一つのエポキシ基を有する化合物(以下、「エポキシ化合物」という。)、官能性シラン化合物などを挙げることができる。
本発明の液晶配向剤は、基板表面に対する接着性を向上させる観点から、エポキシ化合物を含有することができる。かかるエポキシ化合物としては、例えばエチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、トリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、グリセリンジグリシジルエーテル、2,2−ジブロモネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、N,N,N’,N’−テトラグリシジル−m−キシレンジアミン、1,3−ビス(N,N−ジグリシジルアミノメチル)シクロヘキサン、N,N,N’,N’−テトラグリシジル−4,4’−ジアミノジフェニルメタン、N,N−ジグリシジル−ベンジルアミン、N,N−ジグリシジル−アミノメチルシクロヘキサンなどを好ましいものとして挙げることができる。これらエポキシ化合物の配合割合は、重合体の合計(上記ポリアミック酸およびそのイミド化重合体の合計をいう。以下同じ。)100重量部に対して、好ましくは40重量部以下であり、より好ましくは0.1〜30重量部である。
【0053】
上記官能性シラン化合物としては、例えば3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、2−アミノプロピルトリメトキシシラン、2−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、3−ウレイドプロピルトリメトキシシラン、3−ウレイドプロピルトリエトキシシラン、N−エトキシカルボニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−エトキシカルボニル−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−トリエトキシシリルプロピルトリエチレントリアミン、N−トリメトキシシリルプロピルトリエチレントリアミン、10−トリメトキシシリル−1,4,7−トリアザデカン、10−トリエトキシシリル−1,4,7−トリアザデカン、9−トリメトキシシリル−3,6−ジアザノニルアセテート、9−トリエトキシシリル−3,6−ジアザノニルアセテート、9−トリメトキシシリル−3,6−ジアザノナン酸メチル、9−トリエトキシシリル−3,6−ジアザノナン酸メチル、N−ベンジル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−ベンジル−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、グリシドキシメチルトリメトキシシラン、グリシドキシメチルトリエトキシシラン、2―グリシドキシエチルトリメトキシシラン、2―グリシドキシエチルトリエトキシシラン、3―グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3―グリシドキシプロピルトリエトキシシランなどを挙げることができる。
官能性シラン化合物の配合割合は、重合体の合計100重量部に対して、好ましくは1重量部以下であり、より好ましくは0.1重量部以下である。
【0054】
<液晶配向剤>
本発明の液晶配向剤は、上記の如きポリアミック酸およびイミド化重合体よりなる群から選択される少なくとも1種ならびに必要に応じて任意的に配合されるその他の成分が、好ましくは有機溶媒中に溶解含有されて構成される。
本発明の液晶配向剤に使用できる有機溶媒としては、例えばN−メチル−2−ピロリドン、γ−ブチロラクトン、γ−ブチロラクタム、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、4−ヒドロキシ−4−メチル−2−ペンタノン、エチレングリコールモノメチルエーテル、乳酸ブチル、酢酸ブチル、メチルメトキシプロピオネ−ト、エチルエトキシプロピオネ−ト、エチレングリコールメチルエーテル、エチレングリコールエチルエーテル、エチレングリコール−n−プロピルエーテル、エチレングリコール−i−プロピルエーテル、エチレングリコール−n−ブチルエーテル(ブチルセロソルブ)、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジイソブチルケトン、イソアミルプロピオネート、イソアミルイソブチレート、ジイソペンチルエーテル、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネートなどを挙げることができる。これらは単独で使用することができ、または2種以上を混合して使用することができる。
【0055】
本発明の液晶配向剤における固形分濃度(液晶配向剤の溶媒以外の成分の合計重量が液晶配向剤の全重量に占める割合)は、粘性、揮発性などを考慮して適宜に選択されるが、好ましくは1〜10重量%の範囲である。すなわち、本発明の液晶配向剤は、後述するように基板表面に塗布され、好ましくは加熱されることにより液晶配向膜となる塗膜が形成されるが、固形分濃度が1重量%未満である場合には、この塗膜の膜厚が過小となって良好な液晶配向膜を得ることができず、一方固形分濃度が10重量%を超える場合には、塗膜の膜厚が過大となって良好な液晶配向膜を得ることができず、また、液晶配向剤の粘性が増大して塗布特性が劣るものとなる。
特に好ましい固形分濃度の範囲は、基板に液晶配向剤を塗布する際に用いる方法によって異なる。例えばスピンナー法による場合には固形分濃度1.5〜4.5重量%の範囲が特に好ましい。印刷法による場合には、固形分濃度を3〜9重量%の範囲とし、それにより溶液粘度を12〜50mPa・sの範囲とすることが特に好ましい。インクジェット法による場合には、固形分濃度を1〜5重量%の範囲とし、それにより、溶液粘度を3〜15mPa・sの範囲とすることが特に好ましい。
【0056】
<液晶表示素子>
本発明の液晶表示素子は、上記の如き本発明の液晶配向剤から形成された液晶配向膜を具備するものである。
本発明の液晶表示素子は、例えば次の工程(1)〜(3)により製造することができる。すなわち、(1)基板上に本発明の液晶配向剤を塗布して塗膜を形成し、(2)該塗膜に放射線を照射することにより、基板上に液晶配向膜を形成し、次いで(3)これを用いて液晶表示素子を製造することができる。以下、本発明の液晶表示素子の製造方法についてさらに詳しく説明する。
【0057】
(1)パターニングされた透明導電膜が設けられている基板の一面に、本発明の液晶配向剤を、例えばロールコーター法、スピンナー法、印刷法、インクジェット法などの適宜の塗布方法によって塗布し、次いで塗布面を加熱することにより塗膜を形成する。ここに、基板としては、例えばフロートガラス、ソーダガラスなどのガラス;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエーテルスルホン、ポリカーボネート、脂環式ポリオレフィンなどのプラスチックからなる透明基板を用いることができる。基板の一面に設けられる透明導電膜としては、酸化スズ(SnO)からなるNESA膜(米国PPG社登録商標)、酸化インジウム−酸化スズ(In−SnO)からなるITO膜などを用いることができる。これらの透明導電膜のパターニングには、フォト・エッチング法や透明導電膜を形成する際にマスクを用いる方法などが用いられる。液晶配向剤の塗布に際しては、基板表面および透明導電膜と塗膜との接着性をさらに良好にするために、基板の該表面に、官能性シラン化合物、官能性チタン化合物などを予め塗布しておいてもよい。液晶配向剤塗布後、塗布した配向剤の液垂れ防止などを目的として、好ましくは予備加熱(プレベーク)が実施される。プレベーク温度は、好ましくは30〜200℃であり、より好ましくは40〜150℃であり、特に好ましくは40〜100℃である。プレベーク時間は好ましくは0.25〜10分、より好ましくは0.5〜5分、特に好ましくは1〜3分である。そして溶剤を完全に除去した後、さらに加熱(ポストベーク)工程が実施されることが好ましい。このポストベーク温度は好ましくは80〜300℃であり、より好ましくは120〜250℃である。ポストベーク時間は好ましくは5〜200分であり、より好ましくは10〜100分である。本発明の液晶配向剤は上記の如くして塗布後に有機溶媒を除去することによって配向膜となる塗膜を形成するが、本発明の液晶配向剤に含有される重合体がポリアミック酸であるかあるいはイミド環構造とアミック酸構造とを併有するイミド化重合体である場合には、塗膜形成後にさらに加熱することによって脱水閉環反応を進行させ、よりイミド化された塗膜としてもよい。
形成される塗膜の膜厚は、好ましくは0.001〜1μmであり、より好ましくは0.005〜0.5μmである。
【0058】
(2)次いで、前記塗膜に直線偏光もしくは部分偏光された放射線または無偏光の放射線を照射し、場合によってさらに150〜250℃の温度で好ましくは30〜150分間加熱処理を行うことにより、液晶配向能を付与して液晶配向膜とすることができる。ここで、放射線としては、例えば150〜800nmの波長の光を含む紫外線および可視光線を用いることができるが、200〜450nmの波長の光を含む紫外線が好ましい。放射線としては、直線偏光したものが、非偏光ないしは部分偏光のものより、配向規制力が高くなることから好ましい。また、液晶配向能をより改善するために、基板を50〜250℃に加熱しつつ、照射を行ってもよい。
放射線の照射量としては、好ましくは10〜100,000J/mであり、より好ましくは100〜10,000J/mであり、特に200〜5,000J/mであることが好ましい。
放射線照射に際しては、塗膜面内の異なる領域ごとに異なる配向方位を有する液晶配向膜を形成する目的で、塗膜面内の領域ごとに、偏光状態、光軸の方向およびエネルギーよりなる群から選択される少なくともひとつの条件の異なる放射線を照射してもよい。照射する放射線の偏光状態、光軸の方向およびエネルギーを変量する方法としては、フォトマスクを介して照射を行う方法、必要に応じて光強度、入射角などを変化させつつ、塗膜面を放射線により掃引する方法などを挙げることができる。これらの方法は、単独でまたは組み合わせて用いることができる。さらに、これらの方法のひとつまたは複数と、基板全面への一括照射とを組み合わせて行ってもよい。
放射線の光源としては、例えば低圧水銀ランプ、高圧水銀ランプ、重水素ランプ、メタルハライドランプ、アルゴン共鳴ランプ、キセノンランプ、エキシマーレーザーなどを使用することができる。前記の好ましい波長領域の紫外線は、例えばこれら光源とフィルターまたは回折格子とを併用する手段などにより得ることができる。
【0059】
(3)上記のようにして液晶配向膜が形成された基板を2枚(一対)作製し、それぞれの液晶配向膜において、照射された放射線の偏光方向又は入射方向が直交または逆平行となるように、2枚の基板を間隙(セルギャップ)を介して対向配置し、2枚の基板の周辺部をシール剤を用いて貼り合わせ、基板表面およびシール剤により区画されたセルギャップ内に液晶を注入充填し、注入孔を封止して液晶セルを構成する。そして、液晶セルの外表面、すなわち液晶セルを構成する透明基板側に、偏光板を配することにより、液晶表示素子を製造することができる。
ここに、シール剤としては、例えば硬化剤およびスペーサーとしての酸化アルミニウム球を含有するエポキシ樹脂などを用いることができる。
前記液晶としては、例えばネマティック型液晶、スメクティック型液晶などを用いることができる。これらのうち、ネマティック型液晶が好ましく、例えばシッフベース系液晶、アゾキシ系液晶、ビフェニル系液晶、フェニルシクロヘキサン系液晶、エステル系液晶、ターフェニル系液晶、ビフェニルシクロヘキサン系液晶、ピリミジン系液晶、ジオキサン系液晶、ビシクロオクタン系液晶、キュバン系液晶などが用いられる。また前記液晶に、例えばコレスチルクロライド、コレステリルノナエート、コレステリルカーボネートなどのコレステリック液晶;商品名「C−15」、「CB−15」(メルク社製)として販売されているようなカイラル剤;p−デシロキシベンジリデン−p−アミノ−2−メチルブチルシンナメートなどの強誘電性液晶などを、さらに添加して使用してもよい。
液晶セルの外側に使用される偏光板としては、ポリビニルアルコールを延伸配向させながらヨウ素を吸収させた「H膜」と呼ばれる偏光膜を酢酸セルロース保護膜で挟んだ偏光板、またはH膜そのものからなる偏光板などを挙げることができる。
かくして製造された本発明の液晶表示素子は、表示特性、長期信頼性などの諸性能に優れるものである。
【実施例】
【0060】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に制限されるものではない。
イミド化重合体のイミド化率は、イミド化重合体を室温にて減圧下で十分に乾燥した後、重水素化ジメチルスルホキシドに溶解し、テトラメチルシランを基準物質として室温にて測定したH−NMRスペクトルから上記数式(i)に従って計算した。
重合体溶液の溶液粘度は、E型回転粘度計を用いて25℃で測定した。
合成例1〜6および比較合成例1(ポリアミック酸の合成)
N−メチル−2−ピロリドン135gに、表1に示した種類および量のジアミンおよびテトラカルボン酸二無水物をこの順に加えて溶解し、ジアミンおよびテトラカルボン酸二無水物の総量(b)が、反応溶液の全量(a+b)に対して10重量%である溶液とし、これを60℃で6時間反応させることにより、ポリアミック酸(A−1)〜(A−6)および(R−1)をそれぞれ10重量%含有する溶液各150gずつを得た。この溶液の溶液粘度を表1に示した。
比較合成例2(ポリアミック酸の合成)
N−メチル−2−ピロリドン149gに、p−フェニレンジアミン4.9g(0.045モル)および下記スキーム1
【0061】
【化18】

【0062】
に従って合成したジアミンAの2.2g(0.005モル)を溶解し、さらに、1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物9.5g(0.05モル)を添加して、室温で6時間反応を行うことにより、ポリアミック酸(R−2)を10重量%含有する溶液を得た。得られたポリアミック酸溶液の溶液粘度は74mPa・sであった。
比較合成例3(ポリアミック酸の合成)
N−メチル−2−ピロリドン150gに、p−フェニレンジアミン4.9g(0.045モル)および下記スキーム2
【0063】
【化19】

【0064】
に従って合成したジアミンBの2.3g(0.005モル)を溶解し、さらに、1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物9.5g(0.05モル)を添加して、室温で6時間反応を行うことにより、ポリアミック酸(R−3)を10重量%含有する溶液を得た。得られたポリアミック酸溶液の溶液粘度は58mPa・sであった。
比較合成例4(ポリアミック酸の合成)
N−メチル−2−ピロリドン146gに、p−フェニレンジアミン4.9g(0.045モル)および特許文献15(特開平09−278724号公報)に記載の方法に従って合成した下記式(C)
【0065】
【化20】

【0066】
で表される化合物1.8g(0.005モル)を溶解し、さらに、1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物9.5g(0.05モル)を添加して、室温で6時間反応を行うことにより、ポリアミック酸(R−4)を10重量%含有する溶液を得た。得られたポリアミック酸溶液の溶液粘度は67mPa・sであった。
比較合成例5(ポリアミック酸の合成)
N−メチル−2−ピロリドン247gに、9,9−ビス(4−アミノフェニル)フルオレン16.6g(0.0475モル)および上記式(D−10)で表される化合物1.3g(0.0025モル)を溶解し、さらに、1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物9.5g(0.05モル)を添加して、室温で6時間反応を行うことにより、ポリアミック酸(R−5)を10重量%含有する溶液を得た。得られたポリアミック酸溶液の溶液粘度は55mPa・sであった。
【0067】
合成例7〜10(イミド化重合体の合成)
N−メチル−2−ピロリドン135gに、表2に示した種類および量のジアミンおよびテトラカルボン酸二無水物をこの順に加えて溶解し、ジアミンおよびテトラカルボン酸二無水物の総量(b)が、反応溶液の全量(a+b)に対して10重量%である溶液とし、これを60℃で6時間反応させることにより、ポリアミック酸(A−7)〜(A−10)をそれぞれ10重量%含有する溶液各150gずつを得た。これら溶液の溶液粘度を表2に示した。
次いで、これらポリアミック酸を含有する溶液に、表2に示した量のピリジンおよび無水酢酸をそれぞれ添加し、110℃において4時間脱水閉環反応を行った。脱水閉環反応後、系内の溶剤を新たなN−メチル−2−ピロリドンで溶剤置換(本操作にて脱水閉環反応に使用したピリジンおよび無水酢酸を系外に除去した。)することにより、イミド化重合体(B−7)〜(B−10)をそれぞれ含有する溶液を得た。各溶液の収量および各イミド化重合体のイミド化率を表2に示した。また、各溶液を少量分取し、N−メチル−2−ピロリドンを加えてイミド化重合体濃度10重量%の溶液として測定した溶液粘度を表2に示した。
【0068】
【表1】

【0069】
【表2】

【0070】
表1および表2において、ジアミンおよびテトラカルボン酸の略称はそれぞれ以下の意味である。
[ジアミン]
d−1: 9,9−ビス(4−アミノフェニル)フルオレン
d−2:p−フェニレンジアミン
d−3:1−(3,5−ジアミノフェニル)−3−ドデシルスクシンイミド
d−4:1−(3,5−ジアミノフェニル)−3−オクタデシルスクシンイミド
d−5:1−(3,5−ジアミノフェニル)−3−ヘプタデシル−4−メチルマレイミド
d−6:1−(3,5−ジアミノフェニル)−3−ヘキサデシルオキシメチル−4−メチルマレイミド
d−A:上記スキーム1に従って合成したジアミンA
d−B:上記スキーム2に従って合成したジアミンB
d−C:特許文献15(特開平09−278724号公報)に記載の方法に従って合成した上記式(C)で表される化合物
D−10:上記式(D−10)で表される化合物
[テトラカルボン酸二無水物]
t−1:1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物
t−2:2,3,5−トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物
なお、ジアミン(d−3)〜(d−6)のそれぞれは、特許文献16(特開2007−300250号公報)または特許文献17(特開2008−250302号公報)に記載の方法に従って合成した。
【0071】
実施例1〜6および比較例1〜5
表3に記載したポリアミック酸をそれぞれ含有する溶液にN−メチル−2−ピロリドン(NMP)およびブチルセロソルブ(BC)を加えて希釈し、溶媒組成 がNMP:BC=40:60(重量比)、固形分濃度が2.5重量%である溶液とし、この溶液を孔径1μmのフィルターを用いて濾過することにより、液晶配向剤をそれぞれ調製した。
これら液晶配向剤を、スピンコート法によりITO膜からなる透明電極付きガラス基板の透明電極面にそれぞれ塗布し、80℃のホットプレート上で1分間加熱(プレベーク)し、次いで200℃のホットプレート上で10分間加熱(ポストベーク)することにより、平均膜厚600Åの塗膜をそれぞれ形成した。
これら塗膜の各表面に、Hg−Xeランプを用いて254nmの輝線を含む直線偏光の紫外線1,000J/mを、基板法線から45°傾いた方向から、偏光面が基板法線と光軸により作られる平面内に含まれるようにして照射して液晶配向膜とした。この操作を繰り返し、片面に液晶配向膜を有する基板を一対(2枚)得た。
次に、上記一対の基板の各液晶配向膜を有するそれぞれの外縁に、直径5.5μmの酸化アルミニウム球入りエポキシ樹脂接着剤を塗布した後、液晶配向膜面が相対し、且つ照射した紫外線の光軸の基板面への射影方向が逆平行となるように重ね合わせて圧着し、接着剤を硬化させた。次いで、液晶注入口より一対の基板間に、ネマチック型液晶(メルク社製、MLC−6221)を充填した後、アクリル系光硬化接着剤で液晶注入口を封止することにより、液晶セルを製造した。これら液晶セルにつき、下記のようにしてプレチルト角および液晶配向性をそれぞれ評価した。結果は表3に示した。
(1)プレチルト角の評価
上記で製造した液晶セルについて、非特許文献1(T.J.Scheffer et. al. J. Appl. Phys.vo.19, p.2013(1980))に記載の方法に準拠してHe−Neレーザー光を用いる結晶回転法により測定した液晶分子の基板面からの傾き角の値をプレチルト角とした。
(2)液晶配向性
上記で製造した液晶セルに、室温において5Vの電圧をオン・オフ(印加・解除)したときの異常ドメインの有無を偏光顕微鏡で観察し、異常ドメインのない場合を液晶配向性「良好」と判定した。
【0072】
実施例7〜10
表3に記載したイミド化重合体をそれぞれ含有する溶液にN−メチル−2−ピロリドン(NMP)およびブチルセロソルブ(BC)を加えて希釈し、溶媒組成 がNMP:BC=40:60(重量比)、固形分濃度が2.5重量%である溶液とし、この溶液を孔径1μmのフィルターを用いて濾過することにより、液晶配向剤をそれぞれ調製した。
上記液晶配向剤をそれぞれ用い、また、254nmの輝線を含む直線偏光の紫外線1,000J/mの代わりに254nmの輝線を含む非偏光の紫外線2,000J/mを使用し、ネマチック型液晶として、メルク社製MLC−6221に替えて、メルク社製MLC−6608を用いたほかは、実施例1〜6および比較例1と同様にして液晶セルを製造し、評価した。結果は表3に示した。
【0073】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
テトラカルボン酸二無水物と、
下記式(1)
【化1】

(式(1)中、Zは下記式(Z−1)〜(Z−3)
【化2】

(式(Z−1)および(Z−2)中、Rは、それぞれ、水素原子またはメチル基であり、そして「*」を付した結合手がベンゼン環と結合する。)
のいずれかで表される2価の基であり、Zは単結合またはメチレン基であり、Zが単結合であるときZは炭素数6〜30のアルキル基または炭素数6〜30のアルコキシル基であり、Zがメチレン基であるときZは炭素数6〜30のアルコキシル基である。)
で表される化合物を含むジアミンと
を反応させて得られるポリアミック酸およびそのイミド化重合体よりなる群から選択される少なくとも1種を含有することを特徴とする、液晶配向剤。
【請求項2】
基板上に、請求項1に記載の液晶配向剤を塗布して塗膜を形成し、該塗膜に放射線を照射することを特徴とする、液晶配向膜の形成方法。
【請求項3】
請求項2に記載の方法により形成される液晶配向膜。
【請求項4】
請求項1に記載の液晶配向剤から形成された液晶配向膜を具備することを特徴とする、液晶表示素子。

【公開番号】特開2009−193048(P2009−193048A)
【公開日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−282935(P2008−282935)
【出願日】平成20年11月4日(2008.11.4)
【出願人】(000004178)JSR株式会社 (3,320)
【Fターム(参考)】