説明

減速装置

【課題】 ハウジング内に潤滑油を封止するシールが損傷した場合でも、潤滑油の漏れを容易に抑える。
【解決手段】 下側ハウジング13(フランジ部13A)の下面側に設けた突起部23の内周側の角隅に全周に亘って切欠溝24を設け、ピニオン18と下側軸受20との間に挟持された遮蔽板25の外周側に立上り壁部25Bを設け、切欠溝24の周壁24Aと立上り壁部25Bとの間に、補助シール27を取付けることができるシール取付空間26を形成する。これにより、例えばオイルシール22が損傷することにより、ハウジング12内の潤滑油がオイルシール22を通じて下方に漏れたとしても、応急処置としてシール取付空間26に補助シール27を取付けることにより、この補助シール27によって、潤滑油がハウジング12の外部に漏れるのを抑えることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば油圧ショベル、油圧クレーンの旋回装置等に好適に用いられる減速装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、油圧ショベル、油圧クレーン等の建設機械は、自走可能な下部走行体と、該下部走行体上に旋回可能に搭載された上部旋回体とにより大略構成されている。そして、下部走行体と上部旋回体との間には、上部旋回体を旋回させる旋回装置が設けられ、該旋回装置には、油圧モータ等からなる回転源の回転を減速してトルクを増大させる減速装置が設けられている。
【0003】
この従来技術による減速装置は、通常、上端側に回転源が設けられ下端側が上部旋回体に固定される中空なハウジングと、該ハウジング内に設けられ回転源の回転を減速する減速機構と、ハウジング内を上,下方向に延び該減速機構によって減速された回転を出力する出力軸と、該出力軸の下端側に設けられ上部旋回体と下部走行体との間に配置された旋回輪の内歯車に噛合するピニオンと、出力軸を回転可能に支持する上側軸受および下側軸受と、これら上,下の軸受間に位置してハウジングと出力軸との間に設けられたシールと、下側軸受とピニオンとの間に設けられた環状な遮蔽板とを備えて構成されている。
【0004】
そして、ハウジング内には、減速機構を構成する各歯車、上側軸受等を潤滑する潤滑油が充填され、この潤滑油は、上,下の軸受間に位置してハウジングと出力軸との間に設けられたシール(オイルシール)によって封止されている。
【0005】
ところで、ピニオンと旋回輪の内歯車との噛合部は、グリースバス内に保持されたグリースによって潤滑されるが、このグリースは、ピニオンと旋回輪の内歯車との噛合部から生じた摩耗粉、雨水等の水分が混入することにより早期に劣化することが知られている。このため、従来技術による減速装置は、下側軸受とピニオンとの間に環状な遮蔽板を設けることにより、劣化したグリースが旋回輪の内歯車とピニオンとが噛合するときのポンプ作用によってハウジング内へと噴出(浸入)するのを、遮蔽板によって遮断する構成としている(例えば、引用文献1参照)。
【0006】
【特許文献1】特開2003−156053号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、上述した従来技術による減速装置は、その作動時に減速機構を構成する各歯車の噛合部等から摩耗粉が発生すると、この摩耗粉はハウジング内の潤滑油中に混入するようになる。そして、潤滑油中に混入した摩耗粉がハウジングと出力軸との間に設けられたオイルシールに付着し、このオイルシールが損傷した場合には、ハウジング内に充填した潤滑油が外部に漏れることにより、減速機構等を適正に潤滑することができなくなるという問題がある。
【0008】
これに対し、潤滑油の漏れを防止するために損傷したオイルシールを交換する場合には、減速装置全体を分解するといった非常に煩雑な作業が必要となる上に、このオイルシールの交換に必要な工具等が揃っていない作業現場においては、オイルシールの交換作業そのものが困難であるという不具合がある。
【0009】
本発明は上述した従来技術の問題に鑑みなされたもので、ハウジング内に潤滑油を封止するシールが損傷した場合でも、潤滑油の漏れを容易に抑えることができるようにした減速装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述した課題を解決するため本発明は、上端側に回転源が設けられ下端側が取付対象物に固定されるフランジ部となった中空なハウジングと、該ハウジング内に設けられ前記回転源の回転を減速する減速機構と、前記ハウジング内を上,下方向に延び該減速機構によって減速された回転を出力する出力軸と、該出力軸の下端側に設けられ歯車に噛合するピニオンと、前記ハウジングと前記出力軸との間に上,下方向に離間して設けられ該出力軸を回転可能に支持する上側軸受および下側軸受と、これら上,下の軸受間に位置して前記ハウジングと前記出力軸との間に設けられ前記ハウジング内に潤滑油を封止するシールと、前記下側軸受と前記ピニオンとの間に設けられ前記ピニオンと前記歯車との噛合部を潤滑するグリースが前記ハウジング内に侵入するのを遮断する遮蔽板とを備えてなる減速装置に適用される。
【0011】
そして、請求項1の発明が採用する構成の特徴は、前記ハウジングのフランジ部の下面側には前記下側軸受よりも大径な環状の突起部を下向きに突設し、該突起部の内周側の角隅には全周に亘って切欠溝を設け、前記遮蔽板は、前記下側軸受と前記ピニオンとの間に挟持され前記下側軸受の外輪よりも大きな外径を有する円板部と、該円板部の外周側から前記切欠溝内へ上向きに立上がった立上り壁部とにより構成し、前記切欠溝の周壁と前記遮蔽板の立上り壁部との間に補助シールを取付けることができるシール取付空間を形成したことにある。
【0012】
請求項2の発明は、前記突起部の下面と前記下側軸受の内輪の下面とはほぼ同一平面上に位置し、前記遮蔽板の円板部は前記下側軸受の内輪の下面と前記ピニオンの上面との間に挟持し、前記立上り壁部の上端は前記切欠溝の上壁の近傍まで立上る構成としたことにある。
【発明の効果】
【0013】
請求項1の発明によれば、ハウジングに設けた突起部の内周側の角隅に全周に亘って切欠溝を設け、この切欠溝の周壁と遮蔽板の立上り壁部との間にシール取付空間を形成したので、例えばハウジング内に潤滑油を封止するシールが損傷したとしても、シール取付空間に応急処置として補助シールを取付けることができる。これにより、シール取付空間に取付けた補助シールによってハウジング内に潤滑油を封止しておくことができ、ハウジング内の潤滑油が外部に流失するのを抑えることができる。従って、ハウジング内の減速機構等を潤滑油によって常時適正に潤滑することができ、減速装置の信頼性を高めることができる。
【0014】
この場合、シール取付空間は、ハウジングの下端側を構成するフランジ部の下面側に予め設けられているので、該シール取付空間への補助シールの取付作業を、減速装置全体を分解することなく容易に行うことができる。従って、工具等が揃っていない作業現場においても補助シールの取付作業を迅速に行うことができ、潤滑油の流失を抑えることができる。
【0015】
請求項2の発明によれば、遮蔽板の円板部を下側軸受の内輪の下面とピニオンの上面との間で挟持し、遮蔽板の立上り壁部の上端が円板部の外周側から切欠溝の上壁の近傍まで立上ることにより、遮蔽板によって下側軸受を下方から確実に覆うことができる。これにより、シール取付空間に補助シールを取付けていない状態において、ピニオンと歯車との噛合部からグリースが上方へと噴出したとしても、このグリースが下側軸受の内輪と外輪との間の隙間を通じてハウジング内に侵入するのを、遮蔽板によって確実に遮断することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明に係る減速装置の実施の形態を、油圧ショベルの旋回装置に用いた場合を例に挙げ、図1ないし図5を参照しつつ詳細に説明する。
【0017】
図中、1は油圧ショベルで、該油圧ショベル1は、自走可能なクローラ式の下部走行体2と、該下部走行体2上に旋回輪3を介して旋回可能に搭載された上部旋回体4と、該上部旋回体4の前部側に俯仰動可能に設けられ、土砂等の掘削作業を行う作業装置5とにより大略構成されている。
【0018】
ここで、旋回輪3は、図2に示すように、下部走行体2を構成する丸胴2A上に固定された内輪3Aと、上部旋回体4を構成する旋回フレーム4Aの下面側に固定された外輪3Bと、内輪3Aと外輪3Bとの間に配設された複数の鋼球3C(1個のみ図示)とにより構成されている。そして、内輪3Aの内周側には、後述のピニオン18が噛合する歯車としての内歯車3Dが全周に亘って形成され、内歯車3Dの内周側には、該内歯車3Dとピニオン18との噛合部を潤滑するグリス(図示せず)を収容したグリスバス6が設けられている。
【0019】
7は上部旋回体4を下部走行体2上で旋回させる旋回装置で、該旋回装置7は、回転源としての油圧モータ8と、該油圧モータ8のモータ軸8Aの回転を減速し、旋回輪3に大きな回転力(トルク)を伝達する後述の減速装置11とにより大略構成されている。そして、この減速装置11は、取付対象物としての旋回フレーム4Aに複数のボルト9を用いて固定されている。
【0020】
11は油圧モータ8(モータ軸8A)の回転を減速する減速装置で、該減速装置11は、後述のハウジング12、遊星歯車減速機構15,16、出力軸17、上側軸受19、下側軸受20、オイルシール22、突起部23、遮蔽板25、シール取付空間26等により構成されている。
【0021】
12は減速装置11の外殻をなす中空なハウジングで、該ハウジング12は、図2に示すように、複数のボルト9を用いて旋回フレーム4A上に固定された段付き円筒状の下側ハウジング13と、該下側ハウジング13上にボルトを用いて固定され、上端側に油圧モータ8が取付けられた円筒状の上側ハウジング14とにより、上,下方向に延びる円筒状に形成されている。
【0022】
ここで、下側ハウジング13の下端側は大径な円板状のフランジ部13Aとなり、該フランジ部13Aの外周側には、複数のボルト挿通孔13B(2個のみ図示)が周方向に間隔をもって環状に配置されている。そして、該各ボルト挿通孔13Bに挿通したボルト9を旋回フレーム4Aに螺着することにより、ハウジング12が旋回フレーム4A上に固定されている。また、フランジ部13Aの下面側には、各ボルト挿通孔13Bよりも径方向の内側に位置して後述の突起部23が下向きに突設されている。
【0023】
また、下側ハウジング13の内周側には、後述の上側軸受19が取付けられる上側軸受取付部13Cと、後述の下側軸受20が取付けられる下側軸受取付部13Dとが上,下方向に離間して設けられている。さらに、これら上,下の軸受取付部13C,13D間には、後述のオイルシール22が取付けられるシール取付部13Eが設けられている。
【0024】
一方、上側ハウジング14の上端側には油圧モータ8が取付けられ、該油圧モータ8のモータ軸8Aは上側ハウジング14内に延びている。また、上側ハウジング14の内周側には、後述の遊星歯車15Bが噛合する上側内歯14Aと、後述の遊星歯車16Bが噛合する下側内歯14Bとが、それぞれ全周に亘って形成されている。
【0025】
15は油圧モータ8の下側に位置してハウジング12内に設けられた1段目の遊星歯車減速機構で、該遊星歯車減速機構15は、油圧モータ8のモータ軸8Aにスプライン結合された太陽歯車15Aと、該太陽歯車15Aと上側ハウジング14の上側内歯14Aとに噛合し、太陽歯車15Aの周囲を自転しつつ公転する複数の遊星歯車15B(1個のみ図示)と、該各遊星歯車15Bを回転可能に支持するキャリア15Cとにより構成されている。
【0026】
16は遊星歯車減速機構15の下側に位置してハウジング12内に設けられた2段目の遊星歯車減速機構で、該遊星歯車減速機構16は、遊星歯車減速機構15のキャリア15Cにスプライン結合された太陽歯車16Aと、該太陽歯車16Aと上側ハウジング14の下側内歯14Bとに噛合し、太陽歯車16Aの周囲を自転しつつ公転する複数の遊星歯車16B(1個のみ図示)と、該各遊星歯車16Bを回転可能に支持するキャリア16Cとにより構成されている。
【0027】
17はハウジング12内に上,下方向に延びて設けられた出力軸で、該出力軸17は、後述の上側軸受19、下側軸受20を介して下側ハウジング13に回転可能に支持されている。そして、出力軸17は、遊星歯車減速機構15,16によって2段減速された油圧モータ8(モータ軸8A)の回転を出力するものである。
【0028】
ここで、出力軸17の上端側には、遊星歯車減速機構16のキャリア16Cがスプライン結合される雄スプライン(軸スプライン)17Aが形成され、この雄スプライン17Aの下側には、後述のナット部材21が螺着される雄ねじ部17Bが形成されている。
【0029】
18は出力軸17の下端側に一体に設けられたピニオンで、該ピニオン18は、ハウジング12(下側ハウジング13)の下端側から下方に突出し、旋回輪3の内歯車3Dに噛合している。そして、ピニオン18は出力軸17の回転を旋回輪3(内輪3A)に伝達するものである。
【0030】
19は下側ハウジング13と出力軸17との間に設けられた上側軸受で、図3等に示すように、上側軸受19は円錐ころ軸受からなり、下側ハウジング13の上側軸受取付部13Cに嵌合した外輪19Aと、出力軸17に嵌合して固定された内輪19Bと、外輪19Aと内輪19Bとの間に設けられた複数の略円錐状の転動体19Cとにより構成されている。
【0031】
20は上側軸受19よりも下側に位置して下側ハウジング13と出力軸17との間に設けられた下側軸受で、該下側軸受20は、上側軸受19と同様な円錐ころ軸受からなり、下側軸受取付部13Dに嵌合した外輪20Aと、出力軸17に嵌合して固定された内輪20Bと、外輪20Aと内輪20Bとの間に設けられた複数の略円錐状の転動体20Cとにより構成されている。
【0032】
そして、これら上側軸受19と下側軸受20とは、後述のナット部材21によって軸方向に適度に与圧された状態で、出力軸17をハウジング12に対して回転可能に支持するものである。
【0033】
21は遊星歯車減速機構16の下側に位置して出力軸17の雄ねじ部17Bに螺着されたナット部材で、該ナット部材21は、出力軸17の雄ねじ部17Bに螺着されることにより、その下面を上側軸受19の内輪19Bに当接させ、当該上側軸受19と下側軸受20とを軸方向に適度に与圧するものである。
【0034】
22は上側軸受19と下側軸受20との間に位置して下側ハウジング13と出力軸17との間に設けられたオイルシールで、該オイルシール22は、図3等に示すように、L字型の断面形状をもって環状に形成された芯金22Aと、該芯金22Aに焼付け等の手段を用いて固着されたゴム材料等からなるリップ部22Bとにより大略構成されている。
【0035】
そして、オイルシール22は、芯金22Aを下側ハウジング13のシール取付部13Eに嵌合させ、リップ部22Bを出力軸17の外周面に適度な弾性をもって摺接させることにより、ハウジング12内に潤滑油を封止するものである。そして、オイルシール22によってハウジング12内に封止された潤滑油により、遊星歯車減速機構15,16、上側軸受19等を常時潤滑することができる構成となっている。
【0036】
23は下側ハウジング13のフランジ部13Aの下面側に設けられた突起部で、該突起部23は、図3等に示すように下側軸受20よりも大径な環状をなし、下側軸受20の外輪20Aを全周に亘って外周側から取囲んだ状態で下向きに突出している。ここで、突起部23の下面23Aは、下側軸受20を構成する内輪20Bの下面20Dとほぼ同一平面A−A上に位置している。
【0037】
24は突起部23の内周側の角隅に設けられた切欠溝で、該切欠溝24は、突起部23の内周側の角隅を全周に亘って切欠くことにより、下側部位と内側部位とが開口した環状な溝として形成され、下側軸受20を外周側から取囲む周壁24Aと、該周壁24Aの上端側を閉塞する上壁24Bとにより構成されている。そして、切欠溝24内には、後述する遮蔽板25の立上り壁部25Bが配置される構成となっている。
【0038】
25はピニオン18と下側軸受20との間に設けられた環状な遮蔽板で、該遮蔽板25は、図3等に示すように、下側軸受20の外輪20Aよりも大きな外径を有し、中心部に出力軸17が挿通された平板状の円板部25Aと、該円板部25Aの外周側から鉛直上向きに折曲げられ、切欠溝24内へと立上った円筒状の立上り壁部25Bとにより一体形成されている。
【0039】
ここで、遮蔽板25は、円板部25Aの中心部を出力軸17に挿通した状態で、該円板部25Aの内周側がピニオン18の上面18Aと下側軸受20の内輪20Bの下面20Dとの間に挟持され、遮蔽板25の立上り壁部25Bは、切欠溝24内へと立上り、該切欠溝24の周壁24Aと全周に亘って対面する構成となっている。また、立上り壁部25Bの上端部25Cは、切欠溝24の上壁24Bの近傍まで立上り、該上壁24Bと僅かな隙間をもって対向している。
【0040】
そして、遮蔽板25は、下側軸受20を全周に亘って下側から覆った状態でピニオン18と一体に回転し、旋回輪3の内歯車3Dとピニオン18との噛合部を潤滑するグリースが当該噛合部から上向きに噴出したときに、このグリースが下側軸受20の外輪20Aと内輪20Bとの間の隙間を通じてハウジング12内に侵入するのを遮断するものである。
【0041】
26は切欠溝24の周壁24Aと遮蔽板25の立上り壁部25Bとの間に形成されたシール取付空間で、該シール取付空間26は、遮蔽板25の立上り壁部25Bを全周に亘って外周側から取囲む環状の空間として形成されている。そして、シール取付空間26は、例えばオイルシール22の損傷等によって潤滑油がハウジング12の外部(下方)に漏れる虞れがある場合に、応急処置として後述の補助シール27が取付けられるものである。
【0042】
27はシール取付空間26に取付けられる補助シールで、図4および図5に示すように、補助シール27はオイルシール22と同様なオイルシールからなり、L字型の断面形状をもって環状に形成された芯金27Aと、該芯金27Aに焼付け等の手段を用いて固着されたゴム材料等からなるリップ部27Bとにより大略構成されている。
【0043】
そして、補助シール27は、芯金27Aを切欠溝24の周壁24Aに嵌合させ、リップ部27Bを遮蔽板25の立上り壁部25Bに適度な弾性をもって摺接させることにより、該周壁24Aと立上り壁部25Bとの間を液密に封止するものである。このため、例えばオイルシール22が損傷することにより、ハウジング12内の潤滑油がオイルシール22を通じて下方に漏れたとしても、図5に示すように、応急処置としてシール取付空間26に補助シール27を取付けることにより、潤滑油がハウジング12の外部に流失してしまうのを抑えることができる構成となっている。
【0044】
本実施の形態による減速装置11は上述の如き構成を有するもので、油圧モータ8のモータ軸8Aが回転すると、このモータ軸8Aの回転が遊星歯車減速機構15,16によって2段減速されて出力軸17に伝わり、ピニオン18は大きな回転力(トルク)をもって回転する。
【0045】
そして、ピニオン18が旋回輪3の内輪3Aに設けた内歯車3Dと噛合しつつ内輪3Aに沿って公転し、このピニオン18の公転力がハウジング12を介して旋回フレーム4Aに伝わることにより、旋回フレーム4A(上部旋回体4)が丸胴2A(下部走行体2)上で旋回する。
【0046】
ここで、上述した減速装置11の作動時には、遊星歯車減速機構15の各遊星歯車15Bが太陽歯車15A、上側ハウジング14の上側内歯14Aに噛合することにより生じた摩耗粉、遊星歯車減速機構16の各遊星歯車16Bが太陽歯車16A、上側ハウジング14の下側内歯14Bに噛合することにより生じた摩耗粉が、ハウジング12内に充填された潤滑油中に混入する。
【0047】
ここで、潤滑油中に混入した摩耗粉が自重によって下方へと沈降し、オイルシール22のリップ部22Bと出力軸17との摺接部等に付着すると、このオイルシール22のリップ部22Bが早期に摩耗して損傷するようになる。そして、オイルシール22が損傷してシール性が損なわれた場合には、ハウジング12内に充填された潤滑油がオイルシール22を通じて下方へと漏れることにより、遊星歯車減速機構15,16、上側軸受19等に対する潤滑を適正に行うことができなくなる。
【0048】
このように、オイルシール22の損傷によってハウジング12内の潤滑油が漏れる虞れがある場合には、まず、図4に示すように、減速装置11のハウジング12(下側ハウジング13)を旋回フレーム4Aから取外し、旋回装置7全体を持上げる。
【0049】
この状態で、ピニオン18に下側から補助シール27を挿通し、該補助シール27の芯金27Aを切欠溝24の周壁24Aに嵌合させ、リップ部27Bを遮蔽板25の立上り壁部25Bに適度な弾性をもって摺接させる。これにより、ピニオン18と下側軸受20との間に挟持された遮蔽板25の立上り壁部25Bと、ハウジング12(下側ハウジング13)の下面側に設けた切欠溝24の周壁24Aとの間を、補助シール27によって液密に封止することができる。
【0050】
そして、シール取付空間26に補助シール27を取付けた後には、図5に示すように、下側ハウジング13をボルト9を用いて旋回フレーム4Aに固定することにより、補助シール27によって潤滑油の漏れに対する応急処置が施された減速装置11を、迅速に旋回フレーム4Aに取付けることができ、旋回装置7によって上部旋回体4の旋回動作を行うことができる。
【0051】
かくして、本実施の形態によれば、下側ハウジング13(フランジ部13A)の下面側に設けた突起部23の内周側の角隅に全周に亘って切欠溝24を設け、ピニオン18と下側軸受20との間に挟持された遮蔽板25の外周側に立上り壁部25Bを設け、切欠溝24の周壁24Aと立上り壁部25Bとの間に、補助シール27を取付けることができるシール取付空間26を形成する構成としている。
【0052】
これにより、例えばオイルシール22が損傷することにより、ハウジング12内の潤滑油がオイルシール22を通じて下方に漏れたとしても、応急処置としてシール取付空間26に補助シール27を取付けることにより、この補助シール27によって、潤滑油がハウジング12の外部に漏れるのを抑えることができる。この結果、ハウジング12内に適量な潤滑油を保持しておくことができ、この潤滑油によって遊星歯車減速機構15,16、上側軸受19等を適正に潤滑することができるので、減速装置11の安定した作動を確保し、その信頼性を高めることができる。
【0053】
従って、例えば減速装置11を分解し、損傷したオイルシール22を新たなものに交換するといった煩雑な交換作業を行う必要がなく、予めハウジング12の下面側に設けられているシール取付空間26に補助シール27を取付けるだけで、ハウジング12からの潤滑油の漏れを抑えることができるので、その作業性を高めることができる。
【0054】
しかも、シール取付空間26はハウジング12の下面側に形成されているため、工具等が揃っていない作業現場において、オイルシール22の損傷による潤滑油の漏れが生じた場合でも、減速装置11のハウジング12を旋回フレーム4Aから取外すだけで、このハウジング12の下面側に形成されたシール取付空間26に迅速に補助シール27を取付けることができる。この結果、ハウジング12の外部への潤滑油の流失を最小限に抑えることができる。
【0055】
また、本実施の形態では、下側ハウジング13の下面側に突設した突起部23の下面23Aと、下側軸受20の内輪20Bの下面20Dとがほぼ同一平面A−A上に位置し、遮蔽板25の円板部25Aは、内輪20Bの下面20Dとピニオン18の上面18Aとの間に挟持し、遮蔽板25の立上り壁部25Bの上端部25Cは、切欠溝24の上壁24Bの近傍まで立上り該上壁24Bと僅かな隙間をもって対向している。
【0056】
これにより、遮蔽板25によって下側軸受20を下方から全周に亘って確実に覆うことができるので、シール取付空間26に補助シール27を取付けていない状態において、旋回輪3の内歯車3Dとピニオン18との噛合部からグリースが上方へと噴出したとしても、このグリースが下側軸受20の外輪20Aと内輪20Bとの間の隙間を通じてハウジング12内に侵入するのを、遮蔽板25によって確実に遮断することができ、ハウジング12内の潤滑油を清浄に保つことができる。
【0057】
なお、上述した実施の形態では、遮蔽板25を構成する円板部25Aの外周側を鉛直上向きに折曲げることにより、遮蔽板25の外周側に立上り壁部25Bを一体形成した場合を例示している。しかし、本発明はこれに限るものではなく、例えば遮蔽板25とは別部材からなる円筒体を形成し、この円筒体を円板部25Aの外周に嵌合して固着する構成としてもよい。
【0058】
また、上述した実施の形態では、ハウジング12内に2段の遊星歯車減速機構15,16を設けた場合を例示している。しかし、本発明はこれに限らず、例えば1段の遊星歯車減速機構、または3段以上の遊星歯車減速機構を設ける構成としてもよい。
【0059】
さらに、上述した実施の形態では、油圧ショベル1の旋回装置7に適用した場合を例に挙げて説明したが、本発明はこれに限らず、例えば油圧クレーン等の他の建設機械の旋回装置や、旋回装置以外に用いられる各種の減速装置に適用してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明の実施の形態による減速装置が適用された油圧ショベルを示す正面図である。
【図2】実施の形態による減速装置を示す縦断面図である。
【図3】図2中の下側軸受、切欠溝、遮蔽板、シール取付空間等の要部を拡大して示す拡大断面図である。
【図4】シール取付空間に補助シールを取付ける状態を示す断面図である。
【図5】シール取付空間に補助シールを取付けた状態を示す図3と同様な拡大断面図である。
【符号の説明】
【0061】
3D 内歯車(歯車)
4A 旋回フレーム(取付対象物)
8 油圧モータ(回転源)
11 減速装置
12 ハウジング
13 下側ハウジング
13A フランジ部
15,16 遊星歯車減速機構(減速機構)
17 出力軸
18 ピニオン
19 上側軸受
20 下側軸受
20A 外輪
20B 内輪
22 オイルシール(シール)
23 突起部
24 切欠溝
24A 周壁
24B 上壁
25 遮蔽板
25A 円板部
25B 立上り壁部
26 シール取付空間
27 補助シール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上端側に回転源が設けられ下端側が取付対象物に固定されるフランジ部となった中空なハウジングと、該ハウジング内に設けられ前記回転源の回転を減速する減速機構と、前記ハウジング内を上,下方向に延び該減速機構によって減速された回転を出力する出力軸と、該出力軸の下端側に設けられ歯車に噛合するピニオンと、前記ハウジングと前記出力軸との間に上,下方向に離間して設けられ該出力軸を回転可能に支持する上側軸受および下側軸受と、これら上,下の軸受間に位置して前記ハウジングと前記出力軸との間に設けられ前記ハウジング内に潤滑油を封止するシールと、前記下側軸受と前記ピニオンとの間に設けられ前記ピニオンと前記歯車との噛合部を潤滑するグリースが前記ハウジング内に侵入するのを遮断する遮蔽板とを備えてなる減速装置において、
前記ハウジングのフランジ部の下面側には前記下側軸受よりも大径な環状の突起部を下向きに突設し、
該突起部の内周側の角隅には全周に亘って切欠溝を設け、
前記遮蔽板は、前記下側軸受と前記ピニオンとの間に挟持され前記下側軸受の外輪よりも大きな外径を有する円板部と、該円板部の外周側から前記切欠溝内へ上向きに立上がった立上り壁部とにより構成し、
前記切欠溝の周壁と前記遮蔽板の立上り壁部との間に補助シールを取付けることができるシール取付空間を形成する構成としたことを特徴とする減速装置。
【請求項2】
前記突起部の下面と前記下側軸受の内輪の下面とはほぼ同一平面上に位置し、前記遮蔽板の円板部は前記下側軸受の内輪の下面と前記ピニオンの上面との間に挟持し、前記立上り壁部の上端は前記切欠溝の上壁の近傍まで立上る構成としてなる請求項1に記載の減速装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−2981(P2007−2981A)
【公開日】平成19年1月11日(2007.1.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−186930(P2005−186930)
【出願日】平成17年6月27日(2005.6.27)
【出願人】(000005522)日立建機株式会社 (2,611)
【Fターム(参考)】