説明

温室暖房システム

【課題】施設園芸における温室のヒートポンプを利用した暖房システムであって、低温時における熱交換効率の低下を防止した温室暖房システムを提供する。
【解決手段】本発明の温室暖房システム1は温室2内に配置された室内機3、温室2の外部に配置された室外機4、温室2内を換気するための換気ダクト5、温室2下部から室外機4下部にわたる地中に埋設された蓄熱ダクト6を備えている。室内機3の内部には送風ファン21及び凝縮器22が収容されており、前記凝縮器22及び蒸発器24、圧縮機、キャピラリーチューブからヒートポンプが構成されている。暖房運転の停止時に温室2内の温度が高くなると、温室2内の空気が蓄熱ダクト6に導入され、その後、温室2に戻される。これにより、温室2内の余剰熱が蓄熱ダクト6を通して地中に蓄えられる。一方、低温時は外気が蓄熱ダクト6を通って室外機4に供給される。これにより、室外機4の着霜が防止される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒートポンプを利用した温室暖房システムに関する。
【背景技術】
【0002】
施設園芸における温室暖房装置は、主に、A重油などの化石燃料をエネルギー源とするものが用いられている。また、化石燃料の枯渇が懸念されていることから、化石燃料に代えて間伐材や廃材等の木質系燃料、産業廃棄物としての廃油等をエネルギー源とする暖房装置も使用されている。
しかし、これらの暖房装置は、いずれもエネルギー源の燃焼により得られる熱エネルギーを利用するものであるため、地球温暖化の発生要因の一つである二酸化炭素が運転時に多く発生する。
【0003】
そこで、運転時に二酸化炭素が発生しない温室暖房装置の開発が進められており、その一つにヒートポンプを利用した暖房装置がある(特許文献1参照)。
ヒートポンプは、圧縮機、凝縮器、キャピラリーチューブ、蒸発器を順に熱媒体の循環パイプで接続した構成を有しており、室外機に配置された蒸発器から室内機に配置された凝縮器に熱媒体を運ぶことで温室内を暖房するシステムであり、熱エネルギーを得る従来のシステムに比べて環境への負荷が少ない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平5-336847号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、ヒートポンプ式の暖房装置は、運転効率の指標であるCOP(暖房出力÷消費電力)が温室外気温度に大きく左右され、外気温度が低下するとその分、運転効率も低下する。また、温室の外部に設置される蒸発器は、外気との熱交換の際に外気を除湿するため結露したり着霜したりする。特に、外気温度が低くなると蒸発器に付着した霜がなかなか溶けずに成長するため、蒸発器を構成するフィン間が霜で塞がれる。このようにフィン間が霜で塞がれると空気の流通が妨げられるため、蒸発器の熱交換効率が著しく低下するという問題があった。
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、施設園芸における温室のヒートポンプを利用した暖房システムであって、低温時における熱交換効率の低下を防止した温室暖房システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は上記課題を解決するために成されたものであり、ヒートポンプを利用した温室暖房システムにおいて、
a)前記温室の外部に設けられ、該温室内の余剰熱を蓄える蓄熱手段と、
b)前記温室内の空気を前記蓄熱手段に導き、当該蓄熱手段を通過させた後、前記温室内に戻す蓄熱用風路と、
c)前記温室外の空気を前記蓄熱手段に導き、当該蓄熱手段を通過させた後、前記ヒートポンプの室外機に供給する除霜用風路と、
を設けたことを特徴とする。
【0008】
前記蓄熱手段としては、温室の下部の地中に管路を埋設することにより構成しても良く、また、蓄熱材が収容された蓄熱槽としても良い。
更に、温室内に配置された燃焼式炭酸ガス発生機を備える場合は、前記蓄熱用風路を、前記燃焼式炭酸ガス発生機付近の空気を前記蓄熱手段に導くように構成することが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
冬季であっても晴天の日の昼間は温室内の温度が高温になるため、換気して温室内の温度を低下させる必要がある。本発明の温室暖房システムでは、日中、温室内に生じる余剰熱を蓄え、この余剰熱を利用して温室外部の空気を加温し、室外機に供給するようにしたため、室外機の着霜の発達を遅らせたり、除霜したりすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の実施例1に係る温室暖房システムの全体構成図であって暖房運転時の動作を説明するための図。
【図2】蓄熱運転時の動作説明図。
【図3】除霜運転時の動作説明図。
【図4】ヒートポンプの熱媒体循環回路を示す図。
【図5】電気的構成を示すブロック図。
【図6】本発明の実施例2に係る温室暖房システムの蓄熱運転時の動作説明図。
【図7】除霜運転時の動作説明図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の温室暖房システムの具体的な実施例について図面を参照しながら説明する。
【実施例1】
【0012】
図1〜図3は本発明の実施例1に係る温室暖房システムの全体構成図、図4はヒートポンプサイクルの熱媒体回路図である。
本実施例に係る温室暖房システム1は、温室2内に配置された室内機3、温室2の外部に配置された室外機4、温室2内を換気するための換気ダクト5、温室2下部から室外機4下部にわたる地中に埋設された蓄熱ダクト6を備えて構成されている。蓄熱ダクト6は熱遮断性を有さない、例えば塩化ビニルパイプ、ポリエチレンパイプ、或いは土管を用いることができる。また、有穴ブロックを地中に敷き詰めても良い。ここで、「地中」とは、土や砂等からなる地面の中だけでなく、コンクリート等の人工物の中も含む。
【0013】
前記換気ダクト5は温室2内外を連通しており、その両端の開口部はダンパ7,8によってそれぞれ開閉されるようになっている。温室2内に位置する換気ダクト5の途中部は通気ダクト9を介して前記蓄熱ダクト6の一端部に接続されている。通気ダクト9内には送風ファン10が配設されている。
また、前記蓄熱ダクト6の他端部には除霜用ダクト11が、途中部には通気ダクト12がそれぞれ接続されている。除霜用ダクト11は地中から地上まで延びており、その端部開口は前記室外機4と対向している。前記通気ダクト12は、蓄熱ダクト6から温室2内まで延びており、温室2内と蓄熱ダクト6とを連通させている。除霜用ダクト11の端部開口、及び通気ダクト12の温室2内に位置する端部開口は、それぞれダンパ13、14によって開閉されるようになっている。
前記温室2の側壁部には操作パネル15が取り付けられている。詳しい図示は省略するが、操作パネル15には電源スイッチや温室内の温度や除霜開始温度を設定するためのテンキー等が設けられている。
【0014】
室内機3の内部には送風ファン21及び凝縮器22が収容されている。室外機4の内部には送風ファン23及び蒸発器24が収容されている。図4に示すように、前記凝縮器22及び蒸発器24は圧縮機26、減圧手段としてのキャピラリーチューブ28と共にヒートポンプ(冷凍サイクル)30を構成している。
ヒートポンプ30は、圧縮機26、凝縮器22、キャピラリーチューブ(絞り)28、蒸発器24を順に熱媒体循環パイプ32で接続した構成となっており、圧縮機26が駆動されることにより当該圧縮機26から吐出された熱媒体が、凝縮器22、キャピラリーチューブ28、蒸発器24の順に循環して圧縮機26に戻されるようになっている。凝縮器22及び蒸発器24はいずれも多数のフィンを熱媒体用のチューブに交差させた構成を有している。
【0015】
図5は、本実施例の温室暖房システム1の電気的構成を示すブロック図である。制御装置40には、温度センサ42、外気温センサ44、操作パネル15、ダンパ7,8,1314、圧縮機26、送風ファン10,21,23が接続されている。温度センサ42は温室2内に設置され、温室2内の温度を検出する。外気温センサ44は室外機4に設置され、外気温を検出する。制御装置40は、温度センサ42及び外気温センサ44の検出信号、操作パネル15の操作信号に基づきダンパ7,8,13,14や圧縮機26、送風ファン10,21,23の駆動を制御する。
【0016】
次に、温室暖房システム1の動作を説明する。なお、図中、空気の流れを破線で示す。
まず、通常の暖房運転のときの動作を図1を参照して説明する。操作パネル15の操作信号、或いは温度センサ42の検出信号に基づき制御装置40は圧縮機26を駆動して、暖房運転を開始する。このとき、換気ダクト5の温室内の開口及び通気ダクト12の開口はダンパ7,14によって閉鎖され、換気ダクト5の温室外の開口及び除霜用ダクト11の開口は開放される。また、室内機3及び室外機4の内部に設置されている送風ファン21,23はいずれも駆動される。
【0017】
圧縮機26の駆動が開始されると、高温高圧の熱媒体が凝縮器22に流れ室内機3内の空気と熱交換する。これにより、熱媒体の温度は低下して液化され、キャピラリーチューブ28を通過する。キャピラリーチューブ28を通過する際に熱媒体は減圧され、低温低圧の気液混合状態となって蒸発器24に流入する。蒸発器24に流入した低温の熱媒体は室外機4内の空気と熱交換する。これにより、蒸発器24を通過した熱媒体は温度上昇して圧縮機26に戻される。このとき、室外機4内の空気は冷却され、空気中の水分が蒸発器24の表面に結露する。また、凝縮器22と熱交換して加熱された空気は温室2内に戻され、この結果、温室2内の空気が温められる。
【0018】
上記暖房運転は、温室2内の温度が所定の設定温度(T)に達すると停止される。その後、温室2内の温度が所定の蓄熱温度T(T>T)を超えると、制御装置40は図2に示すように、ダンパ7,14を開放すると共にダンパ8,13を閉鎖する。また、通気ダクト9内の送風ファン10を駆動して蓄熱運転を開始する。すなわち、温室2内の空気が換気ダクト5,通気ダクト9を通って蓄熱ダクト6に流入する。温室2内の空気は地中の温度よりも高いため、温室2内の空気が蓄熱ダクト6内を通過する際に蓄熱ダクト6周囲の地中に余剰熱が蓄えられる。また、温室2内の空気は冷却された後、通気ダクト12を通って温室2内に戻される。従って、本実施例では、換気ダクト5,通気ダクト9、通気ダクト12から蓄熱用風路が構成され、地中に埋設された蓄熱ダクト6から蓄熱手段が構成される。
【0019】
一方、暖房運転中に外気温度が低下し、蒸発器24への着霜が予想される温度になると、制御装置40は、図3に示すようにダンパ7,14の閉鎖状態、ダンパ8,13の開放状態を維持したまま送風ファン10を駆動して除霜運転を開始する。これにより、換気ダクト5の温室外開口から外気が取り込まれ、通気ダクト9、蓄熱ダクト6、除霜用ダクト11を通って室外機4に吹き当てられる。上述した蓄熱運転により蓄熱ダクト6周囲の地中の温度は外気温よりも高くなっている。従って、換気ダクト5に取り込まれた外気は蓄熱ダクト6を通過する際に加熱された後、室外機4に吹き当てられる。
従って、本実施例では、換気ダクト5,通気ダクト9,除霜用ダクト11から除霜用風路が構成される。
【0020】
このように、本実施例によれば、温室2内の温度が高いときにその余剰熱を温室2下部の地中に蓄えた。そして、暖房運転時に外気温が低くなると、外気を温室2下部の地中を通過させた後、室外機4に吹き当てるようにした。従って、従来は廃棄されていた余剰熱を利用して蒸発器24の着霜を防止したり着霜の進行を遅らせたりすることができ、低温時におけるヒートポンプ30の熱交換効率の低下を抑えることができる。
【実施例2】
【0021】
図6及び図7を参照して本発明の実施例2に係る温室暖房システムを説明する。なお、実施例1と同一部分には同一符号を付し、その説明を省略する。
実施例2の温室暖房システム1は、温室下部の地中に蓄熱ダクトを埋設することが困難な場合に有用なシステムである。具体的には、本実施例の温室暖房システム1は、ヒートポンプ30、温室2の横に設置された蓄熱槽50、この蓄熱槽50と温室2内とを繋ぐ蓄熱ダクト52、前記蓄熱槽50内から室外機4まで延びる除霜用ダクト54、前記蓄熱槽50に外気を取り込むための通気ダクト56、除霜用ダクト54と温室2内とを連通する通気ダクト58を備えている。
【0022】
蓄熱槽50はケース501内に蓄熱材502を収容した構成を有している。蓄熱材502としては顕熱蓄熱材及び潜熱蓄熱材のいずれを用いても良い。蓄熱ダクト52は、温室2内の上部から下部に向かって延び、温室2の側壁部を貫通して前記ケース501に接続されている。蓄熱ダクト52の上部はダンパ53によって開閉されるようになっている。
除霜用ダクト54の一端部はケース501に接続され、その内部には送風ファン60が配置されている。また、除霜用ダクト54の他端部には室外機4と対向する開口が設けられている。さらに、前記通気ダクト56,58の端部開口はそれぞれダンパ61,62によって開閉され、除霜用ダクト54の途中部はダンパ63によって開閉されるようになっている。暖房運転中はダンパ53,62は閉鎖され、ダンパ61,63は開放されている。また、送風ファン60は停止している。
【0023】
本実施例では、暖房運転の停止中に温室2内の温度が蓄熱温度Tを上回ると、図6に示すように、送風ファン60が駆動されると共にダンパ53,62が開放され、ダンパ61,63が閉鎖される。これにより、温室2内の温かい空気が蓄熱ダクト52を通って蓄熱槽50に流入し、除霜用ダクト54,通気ダクト58を通って温室2内に戻される。特に本実施例では、蓄熱ダクト52の開口を温室2内の上部に配置したため、温室2内の比較的温度が高い空気が蓄熱槽50に取り込まれる。蓄熱槽50に取り込まれた空気は蓄熱材502との間で熱交換がなされ、蓄熱材502に熱が蓄えられる。また、温室2内には蓄熱材502に熱が奪われた空気が戻されるため、温室2内の温度が低下する。
【0024】
一方、暖房運転中に外気温度が低下し、蒸発器24への着霜が予想される温度になると、送風ファン60が駆動される。また、図7に示すように、ダンパ61,63が開放され、ダンパ53,62が閉鎖される。これにより、通気ダクト56から蓄熱槽50に外気が取り込まれ、除霜用ダクト54を通って室外機4に吹き当てられる。蓄熱槽50に取り込まれた外気は蓄熱材502との間で熱交換が行われて加熱される。このため、蒸発器24の着霜を防止することができる。
【0025】
なお、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、例えば次のような変形、拡張が可能である。
暖房運転や蓄熱運転、除霜運転は作業者が手動で開始させるようにしても良い。
複数本の蓄熱ダクトを温室下部の地中に設けても良い。
蓄熱用風路及び除霜用風路をそれぞれ別に設けても良い。
温室内に光合成を促進するための燃焼式炭酸ガス発生機を設置する場合には、この炭酸ガス発生機の近傍の空気を蓄熱手段に蓄熱用ダクトにより導入するようにすると良い。炭酸ガス発生機は灯油を燃焼させて二酸化炭素を発生させるものであり、燃焼により生じる熱エネルギーは必要とされない。この熱エネルギーによって温室内の温度が過度に上昇する場合は、温室内を換気して温室内の温度を下げる必要がある。従って、上記構成によれば、このような不要な熱エネルギーの有効利用を図ることができる。
【符号の説明】
【0026】
1…温室暖房システム
2…温室
3…室内機
4…室外機
6,52…蓄熱ダクト
9,12,56,58…通気ダクト
10…送風ファン
11,54…除霜用ダクト
12…通気ダクト
15…操作パネル
22…凝縮器
24…蒸発器
40…制御装置
50…蓄熱槽
502…蓄熱材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒートポンプを利用した温室暖房システムにおいて、
a)前記温室の外部に設けられ、該温室内の余剰熱を蓄える蓄熱手段と、
b)前記温室内の空気を前記蓄熱手段に導き、当該蓄熱手段を通過させた後、前記温室内に戻す蓄熱用風路と、
c)前記温室外の空気を前記蓄熱手段に導き、当該蓄熱手段を通過させた後、前記ヒートポンプの室外機に供給する除霜用風路と、
を設けたことを特徴とする温室暖房システム。
【請求項2】
蓄熱手段は、温室の下部の地中に管路を埋設することにより構成されていることを特徴とする請求項1に記載の温室暖房システム。
【請求項3】
蓄熱手段は、蓄熱材が収容された蓄熱槽であることを特徴とする請求項1に記載の温室暖房システム。
【請求項4】
蓄熱用風路に空気を流通させるための蓄熱用ファンと、
除霜用風路に空気を流通させるための除霜用ファンと、
ヒートポンプによる暖房運転、前記蓄熱用ファン及び前記除霜用ファンの駆動を制御する制御手段を備え、
前記制御手段は、外気温が予め設定された除霜温度以下のときは前記除霜用ファンを駆動し、前記温室内の温度が予め設定された蓄熱温度以上のときは前記蓄熱用ファンを駆動するように構成されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の温室暖房システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−178721(P2010−178721A)
【公開日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−27407(P2009−27407)
【出願日】平成21年2月9日(2009.2.9)
【出願人】(399109872)川合肥料株式会社 (7)
【Fターム(参考)】