説明

湿式多板クラッチ

【課題】優れたな摩擦係数とトルク伝達性能が得られ、摩擦材表面を摩耗させることがなく、摩擦材、セパレータプレートの枚数削減による軽量化、高効率化を図ることができること。
【解決手段】摩擦材4aに潤滑油中で係合することによって回転トルクを伝達する湿式多板クラッチであって、少なくとも摩擦材4aに係合する面の摩擦材4aに接触する部分の全面に、摩擦面積に対する細溝30の溝面積(表面溝率)が10〜70%となるように複数本の細溝30を形成してなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油中に浸した状態で対向した湿式摩擦材とセパレータプレートとの間に圧力をかけることによってトルクを伝達する湿式多板クラッチであって、特に、摩擦材に対して高い摩擦係数を実現できるセパレータプレートを有する湿式多板クラッチに関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種の湿式多板クラッチは、自動車等の自動変速機(Automatic Transmission、以下、単に「AT」とも略する。)や、オートバイ等の変速機に用いられる複数または単数の摩擦板を設けた摩擦材係合装置用として用いるものである。
この湿式多板クラッチは、材料の歩留まり向上による低コスト化、引き摺りトルク低減による車両での低燃費化のために、平板リング状の芯金に平板リング形状に沿ったセグメントピースに切断した有機繊維に樹脂、摩擦調整材(有機分、無機分)等を配合し、熱硬化させてなる摩擦材と、複数枚の鋼材プレートのセパレータプレートを交互に重ね合わせて構成されている。この摩擦材は、複数枚のセグメントピースとし、相互間に油溝となる間隔をおいて接着剤で順次並べて全面の周囲に接着し、必要に応じて裏面にも同様にセグメントピースを接着してなるセグメントタイプ摩擦材が開発されている。
【0003】
例えば、自動車等のATには湿式多板クラッチが用いられており、複数枚のセグメントタイプ摩擦材と複数枚の鋼材からなるセパレータプレートとを交互に重ね合わせ、油圧で全セパレータプレートを圧接してトルク伝達を行うようになっている。非締結状態から締結状態に移行する際に生じる摩擦熱の吸収や摩擦材の摩耗防止等の理由から、両プレートの間に潤滑油(Automatic Transmission Fluid,自動変速機潤滑油、以下「ATF」とも略する。)を供給している(なお、「ATF」は出光興産株式会社の登録商標であるが、ここでは直接その商標を意味するものではない。)。そのため、係合時には、摩擦界面にATFが介在し、摩擦係数μは最大でも0.16程度に留まっている。
【0004】
近年、従来よりも低燃費化を目指したATの小型化・軽量化に伴い、セグメントタイプ摩擦材を始めとする湿式摩擦材を使用したAT等において、摩擦材の枚数削減による軽量化、及び高効率化の必要性が高まってきており、そのためには、摩擦係数μをさらに高くすることが必要となる。摩擦に関する性質としては、湿式摩擦材の相手材であるセパレータプレートに微小幅の油溝を設けることによって、係合時に発生する熱をATFにより効率的に下げ、耐熱性を向上させ、摩擦特性を安定化させることを目的として、次の、特許文献1及び特許文献2に開示された発明がある。
【0005】
特許文献1は湿式多板クラッチに用いられるセパレータプレートの発明であって、摩擦面に所定方向に規則性を持って延びた微小な凹凸が設けられ、この凹凸の相手側に突出した角が除去されて先端が平坦にされている技術を開示している。これによって、湿式多板クラッチの摩擦特性を向上させ、かつ、冷却効果を高めることができ、湿式摩擦材の摩耗を防止することができるとしている。
【0006】
また、特許文献2は、セパレータプレートが、フリクションプレートと接触する摩擦係合面に、円周方向の溝を形成したものであり、それにより、セパレータプレートとフリクションプレートとの摩擦係合面に十分な量の潤滑油を供給でき、摩擦による発熱量を抑制して摩耗を防止し、かつ、湿式摩擦材を十分に冷却することができるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−211728号公報
【特許文献2】特開2005−308183号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1の技術においては、摩擦特性を長期にわたって安定させることができるとされているが、溝面積が摩擦面積に占める割合が極めて小さく、このため潤滑油の拡がり量が向上するものでもなく、摩擦係数が十分に向上しないことになる。
【0009】
また、特許文献2の技術は、摩耗による発熱量を抑制するために凹部がセパレータプレートの円周方向に形成されているが、係合時に摩擦界面に存在する油膜の厚みを薄くし得るのは摩擦材によってのみである。そして、凹部の深さを摩擦材の厚さ(一般的に約0.5mm)より深く形成していることから、凹凸が大き過ぎて相手材となる湿式摩擦材の摩擦面が摩耗し易くなり、セグメントタイプ摩擦材を始めとする湿式摩擦材の寿命が短くなってしまう。更に、摩耗による発熱量を抑制するための凹部の幅が広過ぎるため、湿式摩擦材との接触面積が小さくなり、良好な摩擦係数とトルク伝達性能が得られない可能性がある。
【0010】
そこで、本発明は、優れたな摩擦係数とトルク伝達性能が得られ、摩擦材の表面を摩耗させることがなく、摩擦材、セパレータプレートの枚数削減による軽量化、高効率化を図ることができる湿式多板クラッチを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
請求項1の発明に係る湿式多板クラッチは、平板リング形状の芯金の両面若しくは片面に摩擦材が接着されてなるフリクションプレートと、潤滑油中で前記フリクションプレートの摩擦材とセパレータプレートとが係合またはその係合を解くことによって、回転トルクの伝達を制御する湿式多板クラッチにおいて、前記セパレータプレートの前記摩擦材に係合する面の前記摩擦材に接触する部分の摩擦面積に対する表面溝率、即ち、摩擦面積に対するセパレータプレートの表面に設けた溝面積の割合が10〜70%となるように複数本の細溝を形成したものである。
ここで、上記セパレータプレートの前記摩擦材に係合する面の前記摩擦材に接触する部分の摩擦面積とは、前記セパレータプレートと対向する前記摩擦材の対向面に対する面積である。
また、上記フリクションプレートとは、平板リング形状の芯金の両面若しくは片面に摩擦材が接着されてなるものである。
【0012】
請求項2の発明に係る湿式多板クラッチは、前記摩擦係数μを0.16〜0.20としたものである。
【0013】
請求項3の発明に係る湿式多板クラッチの前記セパレータプレートは、前記複数本の細溝の幅及び深さを10〜500μmとしたものである。
【0014】
請求項4の発明に係る湿式多板クラッチの前記セパレータプレートは、前記複数本の細溝の全てが格子状に100μm以上の間隔で等間隔に設けられたものである。
【0015】
請求項5の発明に係る湿式多板クラッチの前記セパレータプレートは、前記複数本の細溝が両面に設けられたものである。
【発明の効果】
【0016】
請求項1の発明は、セパレータプレートに形成された複数本の細溝(油溝)の摩擦面積に対する比率を10〜70%とすることにより、摩擦材との係合時に摩擦界面に存在する油が油路を通って円滑に排出されるので、油膜厚を薄くすることができ、それにより、正勾配のμ−V特性を維持しつつ、高い摩擦係数μを実現することができる。
このため、本発明のセパレータプレートを使用して湿式多板クラッチを構成する場合には、必要とする摩擦材とセパレータプレートの枚数を削減することが可能となり、湿式多板クラッチの軽量化、小型化、高効率化を図ることが可能となる。
【0017】
請求項2の発明は、摩擦係数μが0.16〜0.20であるから、請求項1の発明の効果に加えて、正勾配のμ−V特性を維持しつつ、高い摩擦係数μを実現することができる。
【0018】
請求項3の発明は、細溝の深さが10〜500μmであるから、請求項1または請求項2の発明の効果に加えて、細溝を通る油の排出がより円滑であり、摩擦材とセパレータプレートとの係合時に摩擦界面に存在する油が油路を通って円滑に排出され、油膜厚を薄くすることができる。
【0019】
請求項4の発明は、細溝の間隔が100μm以上であると、摩擦材との接触面積を十分にとることが可能となるから、請求項1乃至請求項3の何れかの効果に加えて、高い摩擦係数μを維持できる。
【0020】
請求項5の発明のように、セパレータプレートの両面に細溝を設けると1種類のセパレータプレートが各種の態様の摩擦材に適用できるから、請求項1乃至請求項4の何れかの効果に加えて、フリクションプレートの一面のみセパレータプレートと係合するものと、フリクションプレートの両面がセパレータプレートと係合するものとの区別なく製造ができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の実施の形態1の湿式多板クラッチの全体をシャフト方向に切断した要部断面図である。
【図2】本発明の実施の形態1の湿式多板クラッチのセパレータプレートの正面図である。
【図3】本発明の実施の形態2の湿式多板クラッチ用セパレータプレートの要部拡大正面図である。
【図4】本発明の実施の形態3の湿式多板クラッチ用セパレータプレートの要部拡大正面図である。
【図5】本発明の実施の形態1の湿式多板クラッチの40℃における回転数別の摩擦 係数であるμ−V特性を示す特性図である。
【図6】本発明の実施の形態1の湿式多板クラッチの100℃における回転数別の摩擦係数であるμ−V特性を示す特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
なお、本実施の形態において、同一の記号及び同一の符号は、同一または相当する部分及び機能を意味するものであるから、ここでは重複する説明を省略する。
【0023】
[概略説明]
本発明の実施の形態1の湿式多板クラッチの構成について概略を説明する。
図1は実施の形態1の湿式多板クラッチ1の基本的な構成を示す断面図である。クラッチ機能部品を収容するクラッチケース2には、クラッチケース2に対してその動力を伝達するシャフトの長さ方向の移動を自在とし、回転方向の移動を拘束するセパレータプレート3及び周囲に摩擦材4aを配設したフリクションプレート4を有している。セパレータプレート3はその外周のスプライン8によってクラッチケース2のスプライン溝7と嵌合している。
【0024】
ピストン5はセパレータプレート3を止め輪6方向に押圧し、またはその押圧を解除するものである。具体的には、油室11に油圧を導入することにより図示のセパレータプレート3を右方に押圧し、フリクションプレート4とセパレータプレート3を挟圧する。また、油室11から圧油を減ずると、ピストン押さえ9とピストン5との間に介装されたリターンスプリング10によってピストン5は図の左方に戻される。
【0025】
また、図2はセパレータプレート3の正面図であって、外周の凸部はスプライン8を示している。両側の面または片側の面の摩擦面31には、細溝30が設けられていて、ATFの通り道を形成している。細溝30は10〜500μmの幅及び深さで形成している。また、望ましくは、細溝30の何本かが、セパレータプレート3の内周から外周を結ぶ直線位置に形成されている。
【0026】
図3は実施の形態2のセパレータプレート3の正面図で他の第1事例である。外周の凸部はスプライン8を示している。両側の面または片側の面の摩擦面31には、その中心から放射状に延びた細溝30が設けられていて、ATFの通り道を形成している。細溝30は10〜500μmの幅及び深さで形成している。この細溝30は摩擦面31の中央の密度を高くしている。
【0027】
また、図4は実施の形態3のセパレータプレート3の正面図で他の第2事例である。外周の凸部はスプライン8を示している。両側の面または片側の面の摩擦面31には、その格子状の細溝30が設けられていて、ATFの通り道を形成している。この細溝30は10〜500μmの幅及び深さで形成している。セパレータプレート3の内周側と外周側が連通する溝となっている。
なお、発明者等の実験によると、更に多くの細溝30のパターンを実験したが、大差のない結果が得られた。
【0028】
[実施の形態]
次に、本発明の各実施の形態の湿式多板クラッチの構成について詳述する。
本発明を実施する場合のフリクションプレート4の摩擦材4aとしては、平板リング状の芯金に摩擦材基材としてのセグメントピースをリング状の両面または片面に接着してなるセグメントタイプ摩擦材、平板リング形状の芯金の両面または片面にリング状摩擦材基材を接着したリング状摩擦材、リング状摩擦材の両面または片面をプレス加工若しくは切削加工して半径方向に複数の油溝を形成してなるリングタイプ摩擦材等の公知の摩擦材の何れを用いてもよい。
【0029】
また、少なくともフリクションプレート4の摩擦材4aに係合する面とは、両面が摩擦材4aに係合するセパレータプレートの場合は両面に複数本の細溝30を形成するが、片面のみが摩擦材4aに係合するセパレータプレートの場合にはその片面のみに複数本の細溝30を形成してもよいし、両面に複数本の細溝30を形成してもよいことを意味する。
【0030】
セパレータプレート3は、摩擦材4aとセパレータプレート3と対向させ、係合させることによりクラッチとして機能させるものである。片面のみが摩擦材4aに係合する場合においても、両面に、即ち、摩擦材4aに係合しない側の面にも複数本の細溝30を設けることは、使用上一向に差支えがなく、寧ろ両面とも摩擦材4aに係合するセパレータプレート3と区別して製造する必要がなくなるため、生産性が向上する。
【0031】
更に、少なくとも、摩擦材4aに接触する部分とは、通常はセパレータプレート3の全面が相手の摩擦材4aに接触するのではなく、セパレータプレート3の面の外周側及び内周側には摩擦材4aに接触しない部分があるため、その部分を除いた摩擦材4aに接触する部分を指している。本発明を実施する場合には、その少なくとも摩擦材4aに接触する部分に複数本の細溝30を形成しても良いし、摩擦材4aに接触しない内周側を含めた面、若しくは摩擦材4aに接触しない外周側を含めた面、更には摩擦材4aに接触しない内周側及び外周側をも含めた全面に複数本の細溝30を形成しても良いことを意味する。
【0032】
また、摩擦材4aに接触しない部分をも含めた全面に複数本の細溝30を形成しても、使用上において何らの支障があるわけではなく、全面に亘って複数本の細溝30を設ける方が一般的に加工が容易であり、生産性が向上する。
【0033】
更に、本発明を実施する場合において、複数本の細溝30を形成する方法としては、フォトエッチング、加圧プレス、切削加工、放電加工、レーザ加工等の方法があり、複数本の細溝30を形成する工程は、セパレータプレート3の打ち抜きの前後の何れにおいても実施することが可能である。フォトエッチングによる細溝30の形成は、CAD等で作成した微細な格子状のパターンをエッチング液に侵されない感光性のレジスト膜が塗布されたセパレータプレート3の面上にかぶせて露光し、光が当たった部分を残し、その他の部分のレジスト膜を除去する。これをエッチング液に浸漬することによりレジスト膜を除去した部分が侵食されて微細な細溝30を有することになる。この際、パターンの形状、幅、エッチング液に浸漬する時間を考慮することによるエッチング深さ等を調整することにより、目的とする溝の形状、幅と深さを調整することができる。
【0034】
本発明を実施する場合、セパレータプレート3の摩擦面積に対する細溝30の溝面積(表面溝率)は10〜70%であることが必要であり、その範囲内であれば、摩擦材4aとセパレータプレート3の間に存在する油を素早く排出でき、その結果、摩擦材4aとセパレータプレート3の間の油層の厚さを薄くすることが可能となり、摩擦係数が向上する。好ましくは、30〜70%であり、この範囲では回転数が20rpmを超えるときに摩擦係数が0.18を超え、更に好ましくは50〜70%であり、この範囲では回転数が20rpmを超えるときに摩擦係数が0.19程度か、0.19を超える程度に向上する。
【0035】
本発明を実施する場合において、セパレータプレート3に形成される細溝30は格子状に形成されてもよく、また半径方向のみ、或いは円周方向のみ、更に、半径方向に対して斜めの方向に形成されていてもよい。好ましくは、セパレータプレート3の内周側から外周側に連続していて、両側からATFの供給、排出がなされ、摩擦界面の状態をより理想的な状態とすることができる。
【0036】
その細溝30の幅及び深さはそれぞれ10〜500μmが好適であり、この範囲内の場合には、摩擦界面に存在する油が油路である細溝30を通過して排出、供給を円滑に行うことができ、かつ、摩擦界面には必要な量の油を存在させることができる。
更に好ましくは、セパレータプレート3に形成される細溝30の幅は15〜150μm、細溝30の深さは15〜50μmである。細溝30の間隔は100μm以上、かつ、等間隔で設けられていることが必要で、この範囲とすることにより、セパレータプレート3の面の細溝30でない平坦部の面積を摩擦材4aと十分に接触できる程度に設けることができる。
【0037】
[実施例]
以下、本発明の実施の形態について、実施例に基づいて説明する。
本発明に基づく実施例1乃至実施例4にて使用したセパレータプレートは以下のようにして作製した。
平板リング状の鋼板からなるセパレータプレート3を用意し、この両面にフォトレジスト膜を形成し、次いで、CADにより作成した微細な格子状のパターンマスクを該フォトレジスト膜上に被覆した。次いで、両面に該パターンマスク上から光を照射して光が照射された部分を硬化した後に、光が照射されなかった部分のフォトレジスト膜を除去した。これをエッチング液に浸漬することによりレジスト膜が除去された部分の鋼板が浸食されて細溝30が形成された。この結果、セパレータプレート3の両面に微細な格子状の細溝30からなるパターンが形成された。
この工程により、表1に記載の構造を有する実施例1乃至実施例4のセパレータプレート3を得た。なお、本発明に基づかない比較例1に使用したセパレータプレートは従来の溝が形成されていない平板のものである。
【0038】
【表1】

【0039】
実施例1乃至実施例4及び比較例1のセパレータプレート3について、〔油拡がり特性〕、〔μ,μ−V特性〕及び〔相手材攻撃性(標準負荷耐久性)〕を測定した。
〔油拡がり特性の試験方法〕
【表2】

【0040】
セパレータプレート3の表面に5μl(マイクロリットル)のATF(登録商標のもの)を滴下し、常温下120秒後における油が拡がった程度を比較例1の拡がった後の面積を基準にし、実施例1乃至実施例4のセパレータプレート3では油が拡がった面積が基準の何倍の面積であるかを測定した。
【0041】
〔μ、μ−V特性試験方法〕
【表3】

【0042】
試験装置としては、テスターSAE#2を使用し、ディスク(湿式摩擦材)は摩擦面を6面とし、摩擦材4aとしてはセグメントタイプ摩擦材の、セグメントピース枚数を片面40枚で溝幅2mm、セグメントピースの寸法が外径130mm、内径107mm、厚さ2mmのものを使用した。
また、潤滑油としてはATF(登録商標のもの)を使用し、潤滑油量1000ml/min、油温40℃と100℃、摩擦回転数は0.72、2、5、10、25、50、75、100rpm、の各回転数、面圧0.8MPa、イナーシャは0.343kg・m2とした。
【0043】
〔相手材攻撃性(標準負荷耐久性)試験方法〕
【表4】

【0044】
試験装置としては、テスターSAE#2を使用し、ディスク(湿式摩擦材)は3枚で摩擦面6面(セパレータプレートは4枚)とし、摩擦材4aとしてはセグメントタイプ摩擦材の、セグメントピース枚数を片面40枚で溝幅2mm、セグメントピース(摩擦材基材)の寸法が外径130mm、内径107mm、厚さ2mmのものを使用した。
また、潤滑油としてはATF(登録商標)を使用し、潤滑油量1000ml/min、油温100℃、摩擦回転数3600rpm、面圧0.8MPa、イナーシャは0.343kg・m2であり、負荷を5000サイクル行った。
【0045】
試験結果〔油拡がり特性試験及び相手材攻撃性(標準負荷耐久性)試験〕
【表5】

【0046】
セパレータプレート3の表面に5μl(マイクロリットル)のATF(登録商標のもの)を滴下し、常温下120秒後における油が拡がった程度が、比較例1の拡がった後の面積を基準「1」とし、実施例1乃至実施例4のセパレータプレート3では油が拡がった面積が基準の1.3〜2倍の面積の範囲であれば、後述するように、高い摩擦係数μが得られることが確認された。
【0047】
試験結果〔μ、μ−V特性試験〕
図5及び図6の特性図に示されたように、μ,μ−V特性のデータによれば、40℃及び100℃におけるμ−V特性に共通して、本発明の実施の形態に基づく実施例1乃至実施例4の全てのセパレータプレート3は、本発明に基づかない比較例1のセパレータプレートの摩擦係数μである0.16または0.16を若干下回る値と比較して、0.17〜0.2程度の摩擦係数を示し、μ−V特性は正勾配性を示している。
【0048】
特に、細溝30の表面溝率が30〜70%の範囲では、回転数が20rpmを超える範囲で摩擦係数が0.18を超え、50〜70%では回転数が20rpmを超える範囲で摩擦係数が0.19または0.19を超える程度に向上している。
【0049】
上記3種類の試験によれば、表面に細溝30を有しない表面溝率が0(ゼロ)である比較例1と比較して、本発明の実施の形態に基づく実施例1乃至実施例4のセパレータプレート3は所定の表面溝率を備えているために、油の拡がり量が大きくなった。これは表面の細溝30内に油が浸透することにより、表面上を油が拡散しやすくなったことを意味する。
【0050】
このように油が拡がることによって、結果的に摩擦材4aとセパレータプレート3との間の油の層が薄くなるために摩擦材4aに対するセパレータプレート3の摩擦係数μが増大する。
他方、摩擦係数μの増大により摩擦材4aの摩耗量が増大することが考えられるにも関わらず、それに反して実際は本発明に基づかない比較例1のセパレータプレートと同程度の摩耗量、即ち、同程度の相手材攻撃性(標準負荷耐久性)に留まるという性質を示す。
これらの3種の試験結果を総合すると、本発明の実施の形態によれば、高い摩擦係数を有し、相手材攻撃性が良好で、μ−V特性が正勾配性を示すセパレータプレートを得ることができる。
【0051】
上記実施の形態の平板リング形状の芯金のリング状の両面または片面に摩擦材4aがリング状に接着されたフリクションプレート4が、潤滑油中でリング状のセパレータプレート3と係合またはその係合を解除することによって回転トルクの伝達を制御する湿式多板クラッチ1は、セパレータプレート3に形成された複数本の細溝30の摩擦面積に対する比率を10〜70%とすることにより、摩擦材4aとの係合時に摩擦界面に存在する油が細溝30を油路として、細溝30を通って円滑に排出されるので、油膜厚を薄くすることができ、それにより、正勾配のμ−V特性を維持し、高い摩擦係数μを実現することができる。セパレータプレート3を使用して湿式多板クラッチを構成する場合には、必要とする摩擦材4aとセパレータプレート3の枚数を削減することが可能となり、湿式多板クラッチ1の軽量化、小型化、高効率化を図ることが可能となる。
【0052】
また、上記実施の形態の湿式多板クラッチ1は、摩擦係数μが0.16〜0.20であるから、正勾配のμ−V特性を維持し、高い摩擦係数μを実現することができる。
そして、細溝30の深さが10〜500μmとしたものは、細溝30を通る油の排出がより円滑であり、摩擦材4aとセパレータプレート3との係合時に摩擦界面に存在する油が油路とする細溝30を通って円滑に排出され、油膜厚を薄くすることができる。
更に、細溝30の間隔が100μm以上であると、摩擦材4aとの接触面積を十分にとることが可能となるから、高い摩擦係数μを維持できる。
【0053】
加えて、上記実施の形態の湿式多板クラッチ1は、セパレータプレート3の両面に細溝30を設けると1種類のセパレータプレート3が各種の態様の摩擦材4aに適用できるから、フリクションプレート4の一面のみセパレータプレート3と係合するものと、フリクションプレート4の両面がセパレータプレート3と係合するものとの区別なく製造ができる。
【符号の説明】
【0054】
1 湿式多板クラッチ
3 セパレータプレート
4 フリクションプレート
4a 摩擦材
30 細溝

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平板リング形状の芯金のリング状の両面または片面に摩擦材がリング状に接着されたフリクションプレートが、潤滑油中でリング状のセパレータプレートと係合またはその係合を解除することによって回転トルクの伝達を制御する湿式多板クラッチにおいて、
前記摩擦材に係合またはその係合を解除する前記セパレータプレートの対向面の少なくとも前記摩擦材に接触する前記セパレータプレートのリング状の両面または片面に、前記摩擦材に係合する摩擦面積に対する表面溝率が10〜70%となるように複数本の細溝を形成してなることを特徴とするセパレータプレート。
【請求項2】
前記湿式多板クラッチの摩擦係数μは、0.16〜0.20としたことを特徴とする請求項1に記載のセパレータプレート。
【請求項3】
前記湿式多板クラッチの前記細溝の幅及び深さは、10〜500μmとしたことを特徴とする請求項1または請求項2に記載のセパレータプレート。
【請求項4】
前記湿式多板クラッチの前記細溝は、その全てが格子状に100μm以上の間隔で、また、等間隔に設けられたことを特徴とする請求項1乃至請求項3の何れか1つに記載のセパレータプレート。
【請求項5】
前記湿式多板クラッチの前記細溝は、両面に設けられていることを特徴とする請求項1乃至請求項4の何れか1つに記載のセパレータプレート。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−17808(P2012−17808A)
【公開日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−155843(P2010−155843)
【出願日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【出願人】(000100780)アイシン化工株式会社 (171)
【Fターム(参考)】