説明

溶接トーチ及び溶接装置

【課題】溶接電源52から溶接トーチ51まで接続されたプラス側の電圧検出線を省略することができる溶接装置53を提供する。
【解決手段】溶接電源52内の起動信号出力回路18にトーチスイッチ33の制御線が接続されて、トーチスイッチ33がONのときに起動信号出力回路18が制御回路12へ起動信号を出力する。溶接トーチの給電部32とトーチスイッチ33とが溶接トーチ51内で接続されている。溶接電源52内のアイソレーションアンプ13のプラス入力端子と起動信号出力回路18とが溶接電源52内で接続され、マイナス入力端子が被加工物41に接続されている。溶接トーチの給電部32で検出された電圧信号がトーチスイッチ33の制御線を介してアイソレーションアンプ13のプラス入力端子へ伝達され、被加工物41からの電圧信号がマイナス入力端子へ伝達される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶接電圧の検出回路を改善した溶接トーチ及び溶接装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
図2は、従来技術の溶接装置のブロック図である。同図において、3相交流電源である商用電源1から供給された電力が、溶接装置26の溶接電源2内の一次側整流器3によって整流され、この整流された直流電力が平滑コンデンサ4によって平滑される。半導体素子からなるインバータ回路5によって平滑された電力が高周波の電力に変換される。高周波電力がトランス6によって昇圧又は降圧されて、二次側整流器7によって整流される。この整流された直流電力の高周波成分が二次側リアクトル8によってカットされて平滑され、平滑された直流電力が溶接電源のプラス出力端子10及びマイナス出力端子11から出力される。
【0003】
制御回路12は電流検出器9によって検出された溶接電流が入力されて、出力電流値が予め定めた電流設定値になるようにインバータ回路5を制御する。溶接電源のプラス出力端子10は、ワイヤ送給機21のコネクション22までプラス側のパワーケーブル43によって接続されて、ワイヤ送給機21から作業者が把持する溶接トーチ31の給電部32まで一線式パワーケール34によって接続されている。また、溶接電源2のマイナス出力端子11は、マイナス側のパワーケーブル42によって被加工物41まで接続されている。(例えば、特許文献1参照。)。
【0004】
溶接中に溶接電源2の出力波形の制御を行うために溶接電圧を検出するとき、溶接電源2のプラス出力端子10とマイナス出力端子11の間や、ワイヤ送給機におけるプラス側のパワーケーブル43とマイナス側のパワーケーブル42との間の電圧を検出する方法がある。しかし、この方法よりも、よりアークに近い溶接トーチ31の給電部32と被加工物41との間の電圧を検出する方が、より微妙で精密な溶接電源2の出力制御を行うことができる。そのために、溶接トーチ31の給電部32から一線式パワーケーブル34内のプラス側の電圧検出線15aによってワイヤ送給機21のコネクション22まで接続されて、ワイヤ送給機21から溶接電源2のコネクション17まで多芯ケーブル35内のプラス側の電圧検出線15bによって接続されている。外部から制御回路12に入力される信号は、パワーケーブル42、43によって伝搬されるノイズを遮断する必要があるために、溶接電圧を検出する回路として、通常、アイソレーションアンプ13が使用される。アイソレーションアンプ13は入出力間が絶縁されているので、ノイズの伝搬が遮断される。溶接電源2のコネクション17からアイソレーションアンプ13のプラス端子までプラス側の電圧検出線15cによって接続されている。
【0005】
マイナス側の電圧検出線16aは、被加工物41に直接、接続されるか、又は被加工物41に接続されたマイナス側のパワーケーブル42に接続されている。このマイナス側の電圧検出線16aは、被加工物41からワイヤ送給機21まで外配されて、ワイヤ送給機21からは多芯ケーブル35内を挿通して溶接電源2のコネクション17まで接続されている。そして、コネクション17からアイソレーションアンプ13のマイナス入力端子までマイナス側の電圧検出線16cによって接続されている。このアイソレーションアンプ13は溶接トーチの給電部32と被加工物41とが導通したときに入力される電圧信号を検出して変換し出力する。この出力された電圧信号がオペレーションアンプ14によって増幅されて制御回路12へ入力される。
【0006】
トーチスイッチ33の2本の制御線によって伝搬されるノイズが制御回路12に入力されることを遮断するために、起動信号出力回路18として、リレーコイル19とリレー接点20とから成るものが使用される。これらは入出力間が絶縁されているので、ノイズの伝搬が遮断される。リレーコイル19の一端がコイル電源30に接続され、リレーコイル19の他端がトーチスイッチ33を介してグランドに接続されている。トーチスイッチ33の2本の制御線が、溶接トーチ31からワイヤ送給機21のコネクション22まで一線式パワーケーブル34を挿通して接続され、ワイヤ送給機21から溶接電源2のコネクション17まで多芯ケーブル35内を挿通して接続され、溶接電源2内のリレーコイル19のグランド側に直列接続されている。トーチスイッチ33がONされると、リレーコイル19に電流が流れてリレー接点20が閉じて、制御回路12へ起動信号が出力される。ワイヤリール24から送出された溶接ワイヤ25は、ワイヤ送給機21の送給ロール23によって送出されて、一線式パワーケーブル34内を送給されて溶接トーチ31の先端部に設けられた給電部32の給電チップまで送給される。
【0007】
以下、動作を説明する。溶接開始前に、ワイヤリール24から送出された溶接ワイヤ25はワイヤ送給機21の送給ロール23によって溶接トーチ31の給電部32の給電チップまで送給される。溶接作業者が溶接トーチ31のトーチスイッチ33をONにすると、溶接電源2内のリレーコイル19に電流が流れてリレー接点20が閉じて、制御回路12へ起動信号が出力される。商用電源1から溶接電源2に電力が供給されて、変換された電力が溶接トーチ31及び被加工物41との間に供給される。
【0008】
アイソレーションアンプ13が、溶接トーチ31の給電部32と被加工物41との間の差の電圧信号を検出して変換する。この変換された電圧信号がオペレーションアンプ14によって増幅されて制御回路12へ入力される。制御回路12は電流検出器9によって検出された溶接電流と上述した電圧信号とを入力して、溶接電源2の出力電流値が予め定めた電流設定値になるようにインバータ回路5を制御する。これによって、商用電源1から溶接電源2に供給された電力が、制御回路12によって制御されて溶接トーチ31及び被加工物41との間に供給される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2005−279740号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上述したように、溶接トーチ31の給電部32に接続されたプラス側の電圧検出線15aは、一線式パワーケーブル34によってワイヤ送給機21のコネクション22まで接続されて、ワイヤ送給機21からは多芯ケーブル35内のプラス側の電圧検出線15bによって溶接電源2のコネクション17まで接続され、プラス側の電圧検出線15cによってアイソレーションアンプ13のプラス入力端子に接続されていた。そのために、一線式パワーケーブル34内にプラス側の電圧検出線15aを挿通させるための加工工数が増加し、また、多芯ケーブル35のプラス側の電圧検出線15bの芯線を設ける必要があった。
【0011】
本発明は、溶接電源から溶接トーチまで接続されたプラス側の電圧検出線を省略することができる溶接トーチ及び溶接装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上述した課題を解決するために、請求項1の発明は、
トーチスイッチと、
電力が供給される給電部とを備えた溶接トーチにおいて、
前記給電部と前記トーチスイッチとが接続されたことを特徴とする溶接トーチである。
【0013】
請求項2の発明は、
請求項1記載の溶接トーチと、
この溶接トーチの前記給電部と被加工物との間へ電力を供給する溶接電源と、
この溶接電源内に設けられて、この溶接電源の出力を制御する制御回路と、
前記溶接電源内に設けられて、前記トーチスイッチの制御線が接続されて、前記トーチスイッチがONのときに前記制御回路へ起動信号を出力する起動信号出力回路と、
前記溶接電源内に設けられて、プラス入力端子が前記起動信号出力回路に前記溶接電源内で接続され、前記溶接トーチの給電部と前記被加工物との間の電圧を検出して前記制御回路へ電圧信号を出力するアイソレーションアンプとを備え、
前記溶接トーチの前記給電部で検出された電圧信号が前記トーチスイッチの前記制御線を介して前記アイソレーションアンプの前記プラス入力端子へ伝達されることを特徴とする溶接装置である。
【発明の効果】
【0014】
本発明の溶接装置は、溶接トーチからワイヤ送給機まで接続された一線式パワーケーブル内のプラス側の電圧検出線を省略することができる。さらに、ワイヤ送給機から溶接電源まで接続された多芯ケーブル内のプラス側の電圧検出線を省略することができる。そのために、一線式パワーケーブル34の加工工数を低減することができ、多芯ケーブルの芯線を減少させることができ、コストダウンを図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の溶接装置のブロック図である。
【図2】従来技術の溶接装置のブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
発明の実施の形態を実施例に基づき図面を参照して説明する。図1は、本発明の溶接装置のブロック図である。同図において、溶接装置53の溶接トーチ51のトーチスイッチ33の2本の制御線が、溶接トーチ51からワイヤ送給機21のコネクション44まで一線式パワーケーブル47を挿通して接続され、ワイヤ送給機21から溶接電源52のコネクション46まで多芯ケーブル45内を挿通して接続され、溶接電源52内のリレーコイル19のグランド側に直列接続されている。また、溶接トーチ51の給電部32とトーチスイッチ33とが、溶接トーチ51内で接続されている。これによって、溶接トーチ51の給電部32が、トーチスイッチ33の制御線によってワイヤ送給機21のコネクション44及び溶接電源52のコネクション46を経由して、リレーコイル19のグランドに接続される。また、アイソレーションアンプ13のプラス入力端子とリレーコイル19のグランドとがプラス側の電圧検出線15cによって溶接電源2内で接続される。
【0017】
溶接電源52のコネクション46は、図2に示した従来技術の溶接電源2のコネクション17からプラス側の電圧検出線15b、15cが接続される端子が省略され、ワイヤ送給機21のコネクション44は、図2に示した従来技術のワイヤ送給機21のコネクション22からプラス側の電圧検出線15a、15bが接続される端子が省略されている。一線式パワーケーブル47は、図2に示した従来技術の一線式パワーケーブル34からプラス側の電圧検出線15aが省略されている。その他の機能は、図2に示した従来技術の溶接装置26の機能と同機能に同符号を付して説明を省略する。
【0018】
これによって、アイソレーションアンプ13のプラス入力端子がリレーコイル19のグランドに接続されるために、アイソレーションアンプ13のプラス入力端子に入力される電圧信号が基準信号となって、アイソレーションアンプ13のマイナス入力端子に入力される電圧信号がアイソレーションアンプ13によって変換される。この変換された電圧信号がオペレーションアンプ14によって増幅されて、制御回路12へ入力される。
【0019】
以下、動作を説明する。溶接開始前に、ワイヤリール24から送出された溶接ワイヤ25はワイヤ送給機21の送給ロール23によって溶接トーチ51の給電部32の給電チップまで送給される。溶接作業者が溶接トーチ51のトーチスイッチ33をONにすると、溶接電源52内のリレーコイル19に電流が流れてリレー接点20が閉じて、制御回路12へ起動信号が出力される。商用電源1から溶接電源52に電力が供給されて、変換された電力が溶接トーチ51及び被加工物41との間に供給される。
【0020】
溶接トーチ51の給電部32の電圧信号が、トーチスイッチ33の制御線を経由してアイソレーションアンプ13のプラス入力端子へ伝送される。アイソレーションアンプ13のプラス入力端子がリレーコイル19のグランドに接続されるために、アイソレーションアンプ13のプラス入力端子に入力される電圧信号が基準信号となって、マイナス入力端子に入力される電圧信号がアイソレーションアンプ13によって変換される。この変換された電圧信号がオペレーションアンプ14によって増幅されて制御回路12へ入力される。
【0021】
制御回路12は電流検出器9によって検出された溶接電流と上述した電圧信号とを入力して、溶接電源52の出力電流値が予め定めた電流設定値になるようにインバータ回路5を制御する。これによって、商用電源1から溶接電源52に供給された電力が、制御回路12によって制御されて溶接トーチ51及び被加工物41との間に供給される。
【0022】
この結果、本発明の溶接装置53は、溶接トーチ51からワイヤ送給機21まで接続された一線式パワーケーブル47内のプラス側の電圧検出線を省略することができる。さらに、ワイヤ送給機21から溶接電源52まで接続された多芯ケーブル45内のプラス側の電圧検出線を省略することができる。そのために、一線式パワーケーブル47の加工工数を低減することができ、多芯ケーブル45の芯線を減少させることができ、コストダウンを図ることができる。
【0023】
なお上述したように、本発明の溶接装置53は、溶接トーチ51のトーチスイッチ33の2本の制御線を溶接電源52のリレーコイル19のグランド側に接続している。この代わりに、トーチスイッチ33の2本の制御線をリレーコイル19のコイル電源30側に接続しても良い。この場合、アイソレーションアンプ13のプラス入力端子がリレーコイル19のコイル電源30側に接続されて、アイソレーションアンプ13はコイル電源30の電圧を基準電圧として、アイソレーションアンプ13のマイナス入力端子に入力される電圧信号がアイソレーションアンプ13によって変換される。この変換された電圧信号がオペレーションアンプ14によって増幅されて、制御回路12へ入力される。
【0024】
また上述したように、本発明の溶接装置53の溶接電源52内の起動信号出力回路18として、リレーコイル19とリレー接点20とから成るものを説明した。この代わりに、公知のフォトカプラを使用して、リレーコイル19の代わりに発光ダイオードを使用し、リレー接点20の代わりにフォトトランジスタを使用しても良い。
【符号の説明】
【0025】
1 商用電源
2 溶接電源
3 一次側整流器
4 平滑コンデンサ
5 インバータ回路
6 トランス
7 二次側整流器
8 二次側リアクトル
9 電流検出器
10 プラス出力端子
11 マイナス出力端子
12 制御回路
13 アイソレーションアンプ
14 オペレーションアンプ
15a、15b、15c プラス側の電圧検出線
16a、16c マイナス側の電圧検出線
17 コネクション
18 起動信号出力回路
19 リレーコイル
20 リレー接点
21 ワイヤ送給機
22 コネクション
23 送給ロール
24 ワイヤリール
25 溶接ワイヤ
26 溶接装置
30 コイル電源
31 溶接トーチ
32 給電部
33 トーチスイッチ
34 一線式パワーケーブル
35 多芯ケーブル
41 被加工物
42 マイナス側のパワーケーブル
43 プラス側のパワーケーブル
44 コネクション
45 多芯ケーブル
46 コネクション
47 一線式パワーケーブル
51 溶接トーチ
52 溶接電源
53 溶接装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トーチスイッチと、
電力が供給される給電部とを備えた溶接トーチにおいて、
前記給電部と前記トーチスイッチとが接続されたことを特徴とする溶接トーチ。
【請求項2】
請求項1記載の溶接トーチと、
この溶接トーチの前記給電部と被加工物との間へ電力を供給する溶接電源と、
この溶接電源内に設けられて、この溶接電源の出力を制御する制御回路と、
前記溶接電源内に設けられて、前記トーチスイッチの制御線が接続されて、前記トーチスイッチがONのときに前記制御回路へ起動信号を出力する起動信号出力回路と、
前記溶接電源内に設けられて、プラス入力端子が前記起動信号出力回路に前記溶接電源内で接続され、前記溶接トーチの給電部と前記被加工物との間の電圧を検出して前記制御回路へ電圧信号を出力するアイソレーションアンプとを備え、
前記溶接トーチの前記給電部で検出された電圧信号が前記トーチスイッチの前記制御線を介して前記アイソレーションアンプの前記プラス入力端子へ伝達されることを特徴とする溶接装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2012−110960(P2012−110960A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−264493(P2010−264493)
【出願日】平成22年11月29日(2010.11.29)
【出願人】(000000262)株式会社ダイヘン (990)
【Fターム(参考)】