説明

溶接方法及び溶接装置

【課題】溶接異常を検知することができ、しかも、その異常の発生位置及び長さを検出することができ、また、溶接異常部の補修を行うことができる溶接方法及び溶接装置を提供する。
【解決手段】溶接開始信号を入力した後、溶接電流・電圧検出手段1にて検出した溶接電流及び溶接電圧が設定範囲外であるときを異常識別手段2でもって溶接異常とする。開始信号入力タイミングを時間軸基準にして、異常発生時刻及び異常終了時刻を時刻算出手段3にて算出する。これらのデータとロボット位置情報から異常発生位置11及び異常終端位置12を演算手段8にて演算する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、消耗電極式アーク溶接方法及び溶接装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より溶接ロボット等を用いてアーク溶接を自動で行う方法が知られている。このような自動アーク溶接において、溶接異常を検知することができる溶接装置があった(例えば、特許文献1参照)。すなわち、この特許文献1に記載の溶接装置は、溶接電流を検出する手段と、溶接電圧を検出する手段とを備え、溶接実行時に、溶接電流値と溶接電圧値とを検出し、溶接電圧が設定電圧しきい値以上の場合に、設定電流範囲内に溶接電流が存在するかを識別し、設定電流範囲外の場合に溶接異常として警告を発するものである。
【特許文献1】特開平8−267244号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記特許文献1に記載のものでは、アーク溶接現象不安定により溶接異常を溶接電流・電圧波形から検知できたとしても、どの部位でのどの位の長さ異常が発生したか否かを判断できない。このため、溶接不良品であるにもかかわらず、溶接検査工程へ流出させることになり、作業能率の低下を招いていた。
【0004】
この発明は、上記従来の欠点を解決するためになされたものであって、その目的は、溶接異常を検知することができ、しかも、その異常の発生位置及び長さを検出することができ、また、溶接異常部の補修をその場で行うことができる溶接方法及び溶接装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
そこで請求項1の溶接方法は、溶接開始信号を入力した後、溶接電流及び溶接電圧の少なくともいずれか一方が設定範囲外であるときを溶接異常とし、開始信号入力タイミングを時間軸基準にして、異常発生時刻及び異常終了時刻を算出し、これらのデータとロボットのツール先端位置情報から異常発生位置11及び異常終端位置12を演算して、溶接異常を検知することを特徴としている。
【0006】
請求項2の溶接方法は、溶接電流及び溶接電圧を検出して、この溶接電流及び溶接電圧に基づいて溶接異常を検知し、異常発生時刻から異常発生位置11を演算すると共に、異常終了時刻から異常終端位置12を演算して、この算出した溶接異常部13の範囲よりも大きい範囲を補修溶接範囲として溶接補修を行うことを特徴としている。
【0007】
請求項3の溶接方法は、溶接電流及び溶接電圧を検出して、この溶接電流及び溶接電圧に基づいて溶接異常を検知し、その異常区間の溶接電流及び溶接電圧のデータから異常の程度を判断して、この異常の程度に応じてトーチ角度や狙い位置等の溶接補修条件を選定し、この溶接補修条件で溶接補修を行うことを特徴としている。
【0008】
請求項4の溶接方法は、溶接電流及び溶接電圧を検出して、溶接電流及び溶接電圧の少なくともいずれか一方が設定範囲外である溶接異常部13の溶接異常時間T1が、第1設定時間Aよりも大であるときはその溶接異常部13の区間を溶接補修し、溶接異常時間T1が上記第1設定時間A以下である溶接異常部13と、溶接電流及び溶接電圧が設定範囲内の部位14とが並設されるときに、上記設定範囲内の部位14の異常間時間T2が基準時間Bよりも小さく、かつ溶接異常部13と部位14とが連続する範囲αの時間T3が第2設定時間Cを越えているときにはこの範囲αを連続した一つの異常区間として溶接補修を行うことを特徴としている。
【0009】
請求項5の溶接装置は、溶接電流及び溶接電圧を検出する溶接電流・電圧検出手段1と、溶接電流及び溶接電圧が設定範囲外であるときを溶接異常と識別する異常識別手段2と、開始信号入力タイミングを時間軸基準にして、上記異常識別手段2にて識別した溶接異常部13の異常発生時刻及び異常終了時刻を算出する時刻算出手段3と、ロボット5のアーム6のトーチ先端位置座標値を収集するロボット位置情報収集手段7と、時刻算出手段3のデータとロボット位置情報収集手段7のデータとに基づいて異常発生位置11及び異常終端位置12を演算する演算手段8とを備えたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0010】
請求項1の溶接方法によれば、溶接電流や溶接電圧が設定範囲外である溶接異常を検知することができ、しかもその溶接線での異常発生位置と異常終端位置を検知することができる。すなわち、異常の発生位置及び長さを検出することができ、この発生位置及び長さに基づいて補修作業を行うことができる。このため、溶接異常部を有するワークを、その後の作業工程(例えば、検査工程)に流すことが無くなって、作業性の向上を図ることができる。
【0011】
請求項2の溶接方法によれば、異常発生時刻から異常発生位置を演算すると共に、異常終了時刻から異常終端位置を演算して、この算出した溶接異常部の範囲よりも大きい範囲を補修溶接範囲として溶接補正する。このため、溶融金属の湯流れの不安定さにより異常発生時刻と異常発生位置が異なる場合があっても、算出した溶接異常部の範囲よりも大きい範囲を補修溶接範囲として溶接補正するので、その溶接異常部を確実に補正することができる。
【0012】
請求項3の溶接方法によれば、異常区間の溶接電流及び溶接電圧のデータから異常の程度を判断して、この異常の程度に応じてトーチ角度や狙い位置等の溶接補修条件を選定することができるので、異常の程度に応じて溶接異常部の補修を行うことができ、生産性の向上を図ることができる。
【0013】
請求項4の溶接方法によれば、溶接異常時間が第1設定時間よりも長ければ、連続した溶接異常部の長さが大であり、この範囲を溶接補修することになる。また、溶接異常部と部位(溶接電流及び溶接電圧が設定範囲内の部位)とが並設されるときに、異常間時間が基準時間以上になれば、発生した溶接異常部は短く、しかもこの溶接異常部が単独に発生しているので、溶接補修を行う必要がない。さらに、異常間時間が基準時間よりも短くても、溶接異常部と部位とが連続する範囲の時間が第2設定時間以下であれば、この範囲においても溶接補修を行う必要がない。このため、溶接補修を行わなくてもよい範囲を、溶接補修することがなくなって、溶接作業能率の向上を図ることができる。そして、異常間時間が基準時間よりも短くても、溶接異常部と部位とが連続する範囲の時間が第2設定時間を越えていれば、この範囲を連続した一つの異常区間として、溶接補修を行う。これにより、補修不要の微小異常連続発生区間に於ける補修漏れが生じるのを防止でき、製品の高品質化を達成できる。
【0014】
請求項5の溶接装置によれば、溶接電流・電圧検出手段にて溶接電流及び溶接電圧を検出することができ、また、異常識別手段にて、検出した溶接電流及び溶接電圧が設定範囲外であるときには溶接異常と識別することができる。そして、時刻算出手段にて、開始信号入力タイミングを時間軸基準にして、溶接異常部の異常発生時刻及び異常終了時刻を算出することができ、さらに、演算手段にて、時刻算出手段のデータとロボット位置情報収集手段のデータとに基づいて異常発生位置及び異常終端位置を演算することができる。すなわち、異常の発生位置及び長さを検出することができ、この発生位置及び長さに基づいて補修作業を行うことができる。このため、溶接異常部を有するワークを、その後の作業工程(例えば、検査工程)に流すことが無くなって、作業性の向上を図ることができる。特に、1ビード溶接終了後、その場で補修位置、区間、及び補修条件等を判定し、補修溶接するようにしているので、溶接品質不良の次工程(溶接検査工程)への流出を大幅に低減することができる。すなわち、溶接異常部が発生しても、この1ビード溶接終了後にロボット(溶接ロボット)による補修(再溶接)を行うことができ、作業者による溶接不良品の補修作業が不要となり、安定した溶接品質の確保が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
次に、この発明の溶接方法及び溶接装置の具体的な実施の形態について、図面を参照しつつ詳細に説明する。図1は溶接装置(アーク溶接機)の簡略ブロック図である。この溶接装置は、溶接時の溶接電流及び溶接電圧を検出する溶接電流・電圧検出手段1と、溶接電流及び溶接電圧が設定範囲外であるときを溶接異常と識別する異常識別手段2と、溶接異常部の異常発生時刻及び異常終了時刻を算出する時刻算出手段3と、異常識別手段2に溶接開始信号(例えばWCR信号)を入力する開始信号入力手段(WCR信号入力手段)4と、ロボット5のアーム6(図2参照)のトーチ先端位置座標値を収集するロボット位置情報収集手段7と、時刻算出手段3のデータとロボット位置情報収集手段7のデータとに基づいて異常発生位置11及び異常終端位置12(図6参照)を演算する演算手段8とを備える。なお、上記WCR信号は溶接開始信号の一つである。
【0016】
また、ロボット5のアーム6は、図2に示すように、本体部15側の回転軸16に連設される第1アーム17と、この第1アーム17に第1軸18を介して揺動自在に連結される第2アーム19と、この第2アーム19に第2軸20を介して揺動自在に連結される第3アーム21と、この第3アーム21に連結される先端ツール取付部22とを備える。そして、回転軸16、第1アーム17、第2アーム19、第3アーム21、及び先端ツール取付部22を移動させることによって、相互に直交する3軸(X軸、Y軸、Z軸)座標上を先端ツール取付部22に取り付けられたツール(溶接トーチ)を移動させることができる。なお、図2はこの溶接装置を使用して、被溶接部材(ワーク)Wに溶接を行っている状態を示している。
【0017】
ところで、異常識別手段2は開始信号入力手段(WCR信号入力手段)4からの入力信号が入力された後に、溶接電圧しきい値以上で溶接電流しきい値以下の場合に、その範囲を溶接異常部と識別するものである。また、異常識別手段2にて溶接異常部が識別されれば、時刻算出手段3にて、開始信号入力タイミングを時間軸基準にして、溶接異常部の異常発生時刻と異常終端時刻とを算出することができる。そして、演算手段8には、ロボット位置情報収集手段7からのロボット5のアーム6のトーチ先端位置座標値(X座標値、Y座標値、及びZ座標値)が入力されている。この位置座標値は、溶接時にトーチ先端の移動(溶接)時間に対する位置座標値である。このため、上記演算手段8は、時刻算出手段3からの溶接異常部の異常発生時刻と異常終端時刻のデータと、ロボット位置情報収集手段7からの位置座標値のデータとに基づいて異常発生位置11及び異常終端位置12を演算することになる。
【0018】
また、異常識別手段2は、溶接異常が間欠的に連続して発生した場合、異常発生間隔が所定間隔以下の微小な連続異常であれば、これらの範囲を連続した一つの異常区間(溶接異常部13)とすることができる。さらに、後述するように、溶接装置では溶接補修作業を行うことができるので、この溶接補修作業時において、その異常区間の溶接電流及び溶接電圧のデータから異常の程度を判断して、この異常の程度に応じてトーチ角度や狙い位置等の溶接補修条件を選定することができる。
【0019】
次に、上記溶接装置を使用した溶接方法を説明する。すなわち、図3のステップS1のように、リアルタイムで溶接状況のモニタリングを行う。ここで、溶接状況とは、溶接電流・電圧検出手段1による溶接電流と溶接電圧と、ロボット位置情報収集手段7によるロボット5のトーチ先端位置座標値と、WCR信号入力手段4による開始信号(WCR信号)等である。次にステップS2へ移行して、溶接終了後に、上記溶接状況に基づいて溶接良否判定と不良個所の抽出を行う。溶接良否判定とは、上記したように、溶接電圧しきい値以上で溶接電流しきい値以下の場合に、その範囲を「要補修」と判断する。なお、図6には、溶接後に形成される溶接線10に生じる溶接異常部13の一例が示されている。
【0020】
その後、ステップS3へ移行して、開始信号入力タイミング(WCR信号入力タイミング)を時間軸基準にして、不良発生時刻から不良位置を算出する。すなわち、開始信号入力タイミングを時間軸基準にして、異常発生時刻及び異常終了時刻を算出し、これらのデータとロボット位置情報から、図6に示すように、異常発生位置11及び異常終端位置12を演算する。この際、溶接異常時間に基づいて不良種別を検知しておく。次に、ステップS4のように、上記不良種別のデータと、不良位置データとをロボット5へ送る。これによって、これらのデータに基づいて、補修すべき部位の溶接補修を行うことになる。この際、図3のデータ集9のように、不良種別、不良個所数、不良開始位置(異常発生位置)、不良終了位置(異常終端位置)等がロボット5へ送られる。なお、このデータ集9において、不良種別の「3」等は、不良度合いを示すものである。
【0021】
さらに上記溶接方法について図5を使用して詳しく説明する。まず、ステップS11のように、溶接電流・電圧検出手段1にて溶接電流と溶接電圧とのサンプリングを行うと共に、ロボット位置情報収集手段7によるロボット座標値のサンプリングを行い、さらに、WCR信号入力手段4によるWCR信号のサンプリングを行う。次に、ステップS12のように、WCRオンタイミングを演算手段8に記憶する。その後、ステップS13へ移行して、上記ステップS11でのデータと、異常識別手段2に設定されている電流しきい値と電圧しきい値とを比較して、溶接電圧しきい値以上で溶接電流しきい値以下(溶接電流及び溶接電圧が設定範囲外)の場合に、その発生時間を異常時間と判定すると共に、溶接異常部13が発生している間隔を判定する。次に、ステップS14へ移行して、溶接異常時間T1がAよりも大きいか否かを判断する。溶接異常時間>Aであれば、図7(a)に示す状態であって、ステップS15へ移行して、溶接異常時間≦Aであれば、ステップS16へ移行する。ここで、Aは第1設定時間であって、溶接異常判断基準時間である。なお、この図7(a)や上記図6において、Hは後述するように溶接補修を行う範囲であって、溶接異常部13の範囲に対応している。
【0022】
ステップS15では、溶接異常発生位置・区間を演算手段8に記憶する。また、ステップS16では、異常間時間T2がBよりも小さいか否かを判断する。ここで、異常間時間T2とは、一の溶接異常部13と他の溶接異常部13との間の時間であって、溶接電流及び溶接電圧が設定範囲内の部位14(イメージ図である図7参照)が発生している時間である。Bは基準時間であって、溶接微小異常判定基準時間(溶接異常部間隔時間)である。そして、ステップS16において、異常間時間T2<Bであれば、ステップS17へ移行する。また、異常間時間≧Bであれば、溶接異常部13間の間隔(異常間時間)が大であると共に、発生している溶接異常部13が小であるので、図7(b)に示す状態であって、微小異常の単独発生として補修は必要無しと判断し終了する。ステップS17では、溶接異常部13と部位14とが連続する範囲αを連続した一つの区間として、溶接異常時間を連結する。この際、この範囲αの時間をT3とし、例えば、図7(c)において、T3=(T1+T2+T1)となっている。
【0023】
ステップS17からはステップS19へ移行する。ステップS19では、上記範囲αの時間T3と第2設定時間Cと比較する。この第2設定時間Cは、連続異常判定基準時間であって、この実施の形態においては、上記第1設定時間Aと同一に設定した。T3>Cであれば、図7(d)又は図7(e)に示す状態となって、ステップS15へ移行する。また、T3≦Cであれば、図7(c)に示す状態であって、補修は必要無しと判断し終了する。ステップS15からはステップS18へ移行して、溶接補修位置・区間データをロボット5に送信することになる。これによって、溶接異常部13の補修を行うことができる。
【0024】
すなわち、溶接異常時間T1が第1設定時間Aよりも長ければ、連続した溶接異常部13の長さが大であり、図7(a)に示す状態であって、この範囲Hを溶接補修することになる。また、図7(b)に示すように、溶接異常時間T1、T1間である異常間時間T2(溶接電流及び溶接電圧が設定範囲内の部位14の時間)が基準時間B以上のときには、発生した溶接異常部13は短く、しかもこの溶接異常部13が単独に発生しているので、溶接補修を行わない。さらに、異常間時間T2が基準時間Bよりも短く、図7(c)に示すように、溶接異常部13と部位14とが連続する範囲αの時間T3が第2設定時間C以下であれば、この範囲αの溶接補修を行わない。また、異常間時間T2が基準時間Bよりも短くても、図7(d)(e)に示すように、溶接異常部13と部位14とが連続する範囲αの時間T3が第2設定時間Cを越えていれば、この範囲αを連続した一つの異常区間として、溶接補修を行う。なお、図7(d)の範囲αは、一対の溶接異常部13、13と、これらの間に設けられる一つの部位14とからなり、溶接異常部13と部位14とが交互に並設された場合の溶接補修の要否判断基準の最小範囲である。これに対して、図7(e)は、多数の溶接異常部13と部位14とが連続する場合の範囲を示している。このように、溶接補修を行ったり、行わなかったりする範囲αは、少なくとも図7(d)のように、一対の溶接異常部13、13と一つの部位14からなり、溶接異常部13及び部位14の数は任意となる。
【0025】
また、上記溶接方法では、溶接異常時間を算出して、この溶接異常時間より異常の程度を判断して、この異常の程度に応じてトーチ角度や狙い位置等の溶接補修条件を選定するので、この溶接補修条件で溶接補修を行うようにすることができる。ところで、溶接補修作業を行う際には、溶接異常時間におけるしきい値を設定し、溶接異常時間がこのしきい値未満であれば、溶接補修作業を行うと判断し、しきい値以上となったときにこの溶接補修作業では補修できないと判断するようにしてもよい。すなわち、溶接異常においては、溶け落ち不良及び入熱過大による孔明き不良等の溶接補修不能の場合がある。このため、上記溶接状況から溶接補修可能か否かを判断し、溶接補修可能であれば、補修作業を行うようにし、不能と判断されれば、溶接不良品シュート等に搬出するようにするのが好ましい。
【0026】
さらに、溶融金属の湯流れの不安定さにより異常発生時刻から異常発生位置を演算した場合に、この演算した異常発生位置と、実際の異常発生位置とがずれている場合がある。このため、補修作業を行う際に、この検知した溶接異常部13の範囲よりも大きい範囲を補修するのが好ましい。すなわち、異常発生位置11よりも上流側から異常終端位置12よりも下流側における範囲を補修することになり、補修作業の際の補修開始教示位置と補修終端教示位置を溶接線10の前後方向(上下流方向)に補正することになる。
【0027】
ところで、上記溶接装置を使用した溶接動作では、溶接時間とロボットXYZ座標軸との関係は図4に示すようになる。なお、図4において、グラフ25はX軸方向の変位を示し、グラフ26はY軸方向の変位を示し、グラフ27はZ軸方向の変位を示している。また、図4における不良溶接箇所とは溶接異常部13である。
【0028】
上記溶接装置を使用した溶接を行えば、溶接電流・電圧検出手段1にて溶接電流及び溶接電圧を検出することができ、また、異常識別手段2にて、検出した溶接電流及び溶接電圧が設定範囲外であるときには溶接異常と識別することができる。そして、時刻算出手段3にて、開始信号入力タイミングを時間軸基準にして、溶接異常部13の異常発生時刻及び異常終了時刻を算出することができ、さらに、演算手段8にて、時刻算出手段3のデータとロボット位置情報収集手段7のデータとに基づいて異常発生位置11及び異常終端位置12を演算することができる。すなわち、異常の発生位置及び長さを検出することができ、この発生位置及び長さに基づいて補修作業を行うことができる。このため、溶接異常部を有するワークWを、その後の作業工程(例えば、検査工程)に流すことが無くなって、作業性の向上を図ることができる。
【0029】
また、異常発生時刻から異常発生位置11を演算すると共に、異常終了時刻から異常終端位置12を演算して、この算出した溶接異常部13の範囲よりも大きい範囲を補修溶接範囲として溶接補正することになる。このため、溶融金属の湯流れの不安定さにより異常発生時刻と異常発生位置11が異なる場合あっても、算出した溶接異常部13の範囲よりも大きい範囲を補修溶接範囲として溶接補正するので、その溶接異常部13を確実に補正することができる。
【0030】
さらに、溶接異常時間より異常の程度を判断して、この異常の程度に応じてトーチ角度や狙い位置等の溶接補修条件を選定することができるので、異常の程度に応じて溶接異常部13の補修を行うことができ、生産性の向上を図ることができる。また、溶接異常時間T1が第1設定時間Aよりも長ければ、連続した溶接異常部13の長さが大であり、この範囲を溶接補修することになる。そして、溶接異常部13と部位14(溶接電流及び溶接電圧が設定範囲内の部位)とが並設されるときに、異常間時間T2が基準時間B以上になれば、発生した溶接異常部13は短く、しかもこの溶接異常部13が単独に発生しているので、溶接補修を行う必要がない。さらに、異常間時間T2が基準時間Bよりも短くても、溶接異常部13と部位14とが連続する範囲αの時間が第2設定時間C以下であれば、この範囲αにおいても溶接補修を行う必要がない。このため、溶接補修を行わなくてもよい範囲を、溶接補修することがなくなって、溶接作業能率の向上を図ることができる。ところが、異常間時間T2が基準時間Bよりも短くても、溶接異常部13と部位14とが連続する範囲αの時間が第2設定時間Cを越えていれば、この範囲αを連続した一つの異常区間として、溶接補修を行う。これにより、補修不要の微小異常連続発生区間に於ける補修漏れが生じるのを防止でき、製品の高品質化を達成できる。
【0031】
特に、1ビード溶接終了後、その場で補修位置、区間、及び補修条件等を判定し、補修溶接するようにしているので、溶接品質不良の次工程(溶接検査工程)への流出を大幅に低減することができる。すなわち、溶接異常部13が発生しても、この1ビード溶接終了後にロボット(溶接ロボット)5による補修(再溶接)を行うことができ、作業者による溶接不良品の補修作業が不要となり、安定した溶接品質の確保が可能となる。
【0032】
以上にこの発明の具体的な実施の形態について説明したが、この発明は上記形態に限定されるものではなく、この発明の範囲内で種々変更して実施することができる。例えば、溶接異常部13と判断する際に使用した溶接電流しきい値及び溶接電圧しきい値としては、その溶接異常部13が製品として許容範囲に収まる範囲において任意に設定することができる。また、設定時間A、Cや基準時間B等も、製品として許容範囲に収まる範囲において任意に設定することができる。第1設定時間Aと第2設定時間Cとは、同じであっても、相違していてもよい。相違させる場合、どちらが長くてもよい。さらに、上記実施の形態では、溶接電流及び溶接電圧が設定範囲外であるときを溶接異常部13としているが、溶接電流及び溶接電圧のいずれか一方が設定範囲外であるときを溶接異常部13としてもよい。また、上記実施の形態では、開始信号にWCR信号を使用したが、このWCR信号以外の他の信号(例えばTS信号等)を使用してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】この発明の溶接装置の実施形態の簡略ブロック図である。
【図2】上記溶接装置のロボットの簡略図である。
【図3】この発明の溶接方法の簡略フローチャート図である。
【図4】溶接時の溶接異常発生状況を示し、溶接時間とロボットのトーチ先端位置座標値との関係の概略図である。
【図5】上記溶接方法のフローチャート図である。
【図6】溶接後の溶接状態を示す簡略図である。
【図7】溶接後の溶接状態を示し、(a)は溶接異常時間が第1設定時間より長い場合のイメージ図であり、(b)は異常間時間が基準時間より長い場合のイメージ図であり、(c)は溶接異常時間を連結した際にその連結時間が第2設定時間よりも短い場合のイメージ図であり、(d)は溶接異常時間を連結した際にその連結時間が第2設定時間よりも長い場合のイメージ図であり、(e)は多数の溶接異常部と設定範囲内の部位とが連続する場合のイメージ図である。
【符号の説明】
【0034】
1・・溶接電流・電圧検出手段、2・・異常識別手段、3・・時刻算出手段、4・・開始信号入力手段、5・・ロボット、6・・アーム、7・・ロボット位置情報収集手段、8・・演算手段、11・・異常発生位置、12・・異常終端位置、13・・溶接異常部、14・・部位

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶接開始信号を入力した後、溶接電流及び溶接電圧の少なくともいずれか一方が設定範囲外であるときを溶接異常とし、開始信号入力タイミングを時間軸基準にして、異常発生時刻及び異常終了時刻を算出し、これらのデータとロボット位置情報から異常発生位置(11)及び異常終端位置(12)を演算して、溶接異常を検知することを特徴とする溶接方法。
【請求項2】
溶接電流及び溶接電圧を検出して、この溶接電流及び溶接電圧に基づいて溶接異常を検知し、異常発生時刻から異常発生位置(11)を演算すると共に、異常終了時刻から異常終端位置(12)を演算して、この算出した異常発生部(13)の範囲よりも大きい範囲を補修溶接範囲として溶接補修を行うことを特徴とする溶接方法。
【請求項3】
溶接電流及び溶接電圧を検出して、この溶接電流及び溶接電圧に基づいて溶接異常を検知し、その異常区間の溶接電流及び溶接電圧のデータから異常の程度を判断して、この異常の程度に応じてトーチ角度や狙い位置等の溶接補修条件を選定し、この溶接補修条件でもって溶接補修を行うことを特徴とする溶接方法。
【請求項4】
溶接電流及び溶接電圧を検出して、溶接電流及び溶接電圧の少なくともいずれか一方が設定範囲外である溶接異常部(13)の溶接異常時間(T1)が、第1設定時間(A)よりも大であるときはその溶接異常部(13)の区間を溶接補修し、上記溶接異常時間(T1)が上記第1設定時間(A)以下である溶接異常部(13)と、溶接電流及び溶接電圧が設定範囲内の部位(14)とが並設されるときに、上記設定範囲内の部位(14)の異常間時間(T2)が基準時間(B)よりも小さく、かつ溶接異常部(13)と部位(14)とが連続する範囲(α)の時間(T3)が第2設定時間(C)を越えているときにはこの範囲(α)を連続した一つの異常区間として溶接補修を行うことを特徴とする溶接方法。
【請求項5】
溶接電流及び溶接電圧を検出する溶接電流・電圧検出手段(1)と、溶接電流及び溶接電圧が設定範囲外であるときを溶接異常と識別する異常識別手段(2)と、開始信号入力タイミングを時間軸基準にして、上記異常識別手段(2)にて識別した溶接異常部(13)の異常発生時刻及び異常終了時刻を算出する時刻算出手段(3)と、ロボット(5)のアーム(6)のトーチ先端位置座標値を収集するロボット位置情報収集手段(7)と、時刻算出手段(3)のデータとロボット位置情報収集手段(7)のデータとに基づいて異常発生位置(11)及び異常終端位置(12)を演算する演算手段(8)とを備えたことを特徴とする溶接装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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