説明

炭化水素流体処理プロセスにおける自然放射性物質の蓄積量の予測方法

【課題】炭化水素流体処理プロセスでの210Pb、210Biまたは210Poのいずれか1種以上の蓄積量を予測する方法を提供する。
【解決手段】本発明の予測方法は、充填剤を入れた容器に222Rnを含む炭化水素流体もしくは222Rnを含む模擬流体を流通させ、破過するまで該充填剤に222Rnを吸着させる工程と、前記222Rnの吸着試験工程での破過曲線を求め、該破過曲線から前記吸着剤の平衡吸着係数を算出する工程と、前記平衡吸着係数の算出工程で得られた平衡吸着係数と前記不純物除去工程における処理条件とから、所定の時間における210Pb、210Biまたは210Poのいずれか1種以上の蓄積量を予測する工程とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭化水素流体処理プロセスにおける自然放射性物質の蓄積量の予測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
天然ガスおよび原油には、ウランまたはトリウムを起源とする自然放射性物質が含まれている(非特許文献1など)。このウランを起源とする自然放射性物質としては、具体的にはラドン(222Rn)などが挙げられる。このため、天然ガスおよび原油またはこれら
の製品を処理するプラントでは、ガスまたは油を処理するための吸着剤(例えば、脱水プロセスに用いられるモレキュラーシーブ、シリカゲルなど)に222Rnが吸着し、222Rnの崩壊生成物の内でも半減期が22.3年と長い210Pbおよびその崩壊生成物である210Bi、210Poが蓄積する場合がある。したがって、使用済み吸着剤の交換時に吸着剤を
放射性物質として取り扱う必要が生じ得る(非特許文献2など)。
【0003】
従来、交換時に使用済み吸着剤をサンプリングし、該吸着剤中の210Pb、210Biまたは210Po量を測定し、使用済み吸着剤が自然放射性物質を含む放射性廃棄物に該当する
かどうかを判定している(非特許文献2など)。すなわち、交換時に初めて、使用済み吸着剤が放射性廃棄物に該当するかどうかを判定している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】IAEA, Radiation Protraction and the Management of Radioactive Waste in the Oil and Gas Industry, IAEA Safety Report Series No.34 (2003)
【非特許文献2】Tan, J. A. et al., Dealing with NORM at Shell Canada Limited's Jumping Pound gas plant, Proceedings of Laurance Reid Gas Conditioning Conference (LRGCC), 329-345, Oklahoma USA, 22-25 February (2009)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
また、先にあげた3核種210Pb、210Biまたは210Poが放出する放射線は測定が困
難なため、放射線測定に先立ち専門家による前処理が必要であるという問題もあった。
【0006】
このため、炭化水素流体処理プロセスにおいて、どの程度の年数が経つとどの程度の222Rnの崩壊生成物が吸着剤に蓄積するかを簡便に予測できれば非常に有効である。
【0007】
したがって、本発明の目的は、炭化水素流体処理プロセスにおいて、どの程度の年数が経つとどの程度の222Rnの崩壊生成物が吸着剤に蓄積するかをあらかじめ簡便に予測す
る方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る210Pb、210Biまたは210Poのいずれか1種以上の蓄積量を予測する
方法は、吸着剤が充填された吸着カラムに、炭化水素流体を流通させ、該炭化水素流体の不純物を除去する不純物除去工程を含む炭化水素流体処理プロセスにおいて、該吸着剤に対し、該不純物とともに吸着する222Rnが崩壊して生成する210Pb、210Biまたは210Poのいずれか1種以上の蓄積量を予測する方法であって、上記吸着カラムに充填する吸着剤と同一の充填剤を入れた容器に、222Rnを含む炭化水素流体もしくは222Rnを含む模擬流体を流通させ、破過するまで該充填剤に222Rnを吸着させる、222Rnの吸着試験
工程と、上記222Rnの吸着試験工程での破過曲線を求め、該破過曲線から上記吸着剤の
平衡吸着係数を算出する、平衡吸着係数の算出工程と、上記平衡吸着係数の算出工程で得られた平衡吸着係数と、上記不純物除去工程における処理条件とから、上記不純物除去工程を開始してから所定の時間における210Pb、210Biまたは210Poのいずれか1種以
上の蓄積量を予測する、210Pb、210Biまたは210Poのいずれか1種以上の蓄積量の
予測工程とを含む。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、炭化水素流体処理プロセスにおいて、どの程度の年数が経つとどの程度の222Rnの崩壊生成物が吸着剤に蓄積するかをあらかじめ予測できる。
【0010】
このように、吸着剤の放射能濃度が予測できるため、使用済み吸着剤を放射性廃棄物として取り扱う必要がない交換時期をあらかじめ設定することもできる。もちろん、上記交換時期が過ぎて使用済み吸着剤を放射性廃棄物として取り扱う必要がある場合であっても、その放射能濃度があらかじめ把握できるため、使用済み吸着剤の処理に関する対策も容易に検討できる。
【0011】
また、本発明では、測定が困難な放射能(210Pb、210Biまたは210Poが放出する
放射線)を測定するのではなく、222Rnの平衡吸着量を測定するため、222Rnの崩壊生成物(210Pb、210Biまたは210Poのいずれか1種以上)の蓄積量を簡便に評価でき
る。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、本発明に用いる装置の概要図である。
【図2】図2は、本発明に用いる装置の概要図である。
【図3】図3は、実施例1で作成した破過曲線を示す図である。
【図4】図4は、実施例2におけるモレキュラーシーブの使用期間と210Pbの蓄積量との関係を示す図である。
【図5】図5は、実施例2における、天然ガス中の222Rn濃度と、210Pbの蓄積量が1Bq/gに達するまでのモレキュラーシーブの使用期間との関係を示す図である。
【図6】図6は、実施例3で作成した破過曲線を示す図である。
【図7】図7は、実施例4におけるシリカゲルの使用期間と210Pbの蓄積量との関係を示す図である。
【図8】図8は、実施例4における、天然ガス中の222Rn濃度と、210Pbの蓄積量が1Bq/gに達するまでのシリカゲルの使用期間との関係を示す図である。
【図9】図9は、実施例5における、シリカゲル通気時の222Rn濃度の経時変化を示す図である。
【図10】図10は、実施例5における、各吸着剤の吸着係数を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0014】
210Pb、210Biまたは210Poのいずれか1種以上の蓄積量を予測する方法>
本発明に係る210Pb、210Biまたは210Poのいずれか1種以上の蓄積量を予測する
方法は、吸着剤が充填された吸着カラムに、炭化水素流体を流通させ、該炭化水素流体の不純物を除去する不純物除去工程を含む炭化水素流体処理プロセスにおいて用いられる。
【0015】
炭化水素流体処理プロセスとしては、具体的には、天然ガスおよび原油またはこれらの製品を処理するプロセスが挙げられ、この場合の不純物除去工程では、吸着剤が充填された吸着カラムで、天然ガスおよび原油またはこれらの製品に含まれる不純物としての水、
硫黄、水銀等の重金属などが除去される。また、炭化水素流体処理プロセスとしては、より具体的な例として、天然ガスを液化するプロセスが挙げられ、この場合の不純物除去工程では、シリカ(シリカゲル)、アルミナ、シリカ−アルミナ、ゼオライト(モレキュラーシーブ)等のセラミックス、ガラス、樹脂、活性炭などの吸着剤が充填された吸着カラムで、天然ガスに含まれる不純物としての水、硫黄、水銀などが除去される。
【0016】
なお、吸着剤としては、上記のうちで、シリカ(シリカゲル)、ゼオライト(モレキュラーシーブ)、活性炭が用いられる。これらの吸着剤は、水酸化アルミおよび/または炭酸アルカリが担持されていてもよい。また、Mo、Cu、V、W等の硫化物からなる吸着剤を用いてもよく、これらの硫化物にCoおよび/またはNiが取り込まれていてもよい。
【0017】
吸着剤の形状は特に制限されないが、吸着カラムに充填することを鑑み、粉体状のもの、球(ビーズ)、立方体、円柱(ペレット)、円筒、ハニカム等の所定の形状に成形されたものが挙げられる。これらの混合物も用いられている。
【0018】
吸着剤の比表面積は大きい方が接触効率を向上でき、たとえば5〜400m2/g、特
に100〜250m2/gが用いられる。
【0019】
炭化水素流体と吸着剤との接触方法は、特に制限されないが、連続運転を行える点で固定床流通方式が通常、用いられている。
【0020】
炭化水素流体には、上記不純物の他、222Rnが含まれている場合が多いため、不純物
除去工程では、上記吸着剤に対し、不純物とともに222Rnが崩壊して生成する210Pb、210Biおよび210Poも蓄積する。これは、不純物とともに222Rnが吸着剤に吸着する
と、222Rnが以下のように崩壊することによる。なお、カッコ内の時間は、半減期を表
している。
【0021】
ラドン−222(222Rn、3.824日)→ポロニウム−218(218Po、3.05分)→鉛
−214(214Pb、26.8分)→ビスマス−214(214Bi、19.9分)→ポロニウム−214(214Po、0.00016秒)→鉛−210(210Pb、22.3年)→ビスマス−210(210Bi、5.012日)→ポロニウム−210(210Po、138.38日)
そして、210Pbは半減期が長いため、上記吸着剤には不純物とともに210Pbが蓄積されることとなる。また、210Pbの崩壊生成物である210Bi、210Poが蓄積する場合があ
る。本発明では、この210Pb、210Biまたは210Poのいずれか1種以上の蓄積量を予
測する。
【0022】
本発明に係る210Pb、210Biまたは210Poのいずれか1種以上の蓄積量を予測する
方法は、上記吸着カラムに充填する吸着剤と同一の充填剤を入れた容器に、222Rnを含
む炭化水素流体もしくは222Rnを含む模擬流体を流通させ、破過するまで該充填剤に222Rnを吸着させる、222Rnの吸着試験工程と、上記222Rnの吸着試験工程での破過曲線を求め、該破過曲線から上記吸着剤の平衡吸着係数を算出する、平衡吸着係数の算出工程と、上記平衡吸着係数の算出工程で得られた平衡吸着係数と、上記不純物除去工程における処理条件とから、上記不純物除去工程を開始してから所定の時間における210Pb、210Biまたは210Poのいずれか1種以上の蓄積量を予測する、210Pb、210Biまたは210Poのいずれか1種以上の蓄積量の予測工程とを含む。
【0023】
このように、222Rnの吸着試験工程で、吸着剤に特有の平衡吸着係数を求めておくと
、この平衡吸着係数、222Rn濃度と実際の炭化水素流体処理プロセスでの処理条件とか
ら、210Pb、210Biまたは210Poのいずれか1種以上の蓄積量が簡便に予測できる。
炭化水素流体処理プロセス開始前に、222Rnの吸着試験工程により、吸着剤に特有の平
衡吸着係数を求めておけば、炭化水素流体処理プロセス開始後において、どの程度の年数が経つとどの程度の210Pb、210Biまたは210Poが吸着剤に蓄積するかをあらかじめ
把握できる。もちろん、炭化水素流体処理プロセス開始後に、222Rnの吸着試験工程に
より、吸着剤に特有の平衡吸着係数を求めてもよい。この場合、既にどの程度の210Pb
210Biまたは210Poが吸着剤に蓄積しているかを把握でき、さらに年数が経つとどの程度の210Pb、210Biまたは210Poが吸着剤に蓄積するかを把握できる。
【0024】
また、上記平衡吸着係数の算出工程において、上記222Rnの吸着試験工程での破過曲
線を求め、該破過曲線から上記吸着剤の平衡吸着係数を算出する代わりに、上記222Rn
の吸着試験工程で吸着した222Rnを脱着させて、222Rnの脱着量から上記吸着剤の平衡吸着係数を算出してもよい。
【0025】
以下、本発明に係る210Pb、210Biまたは210Poのいずれか1種以上の蓄積量を予
測する方法について具体的に説明する。
【0026】
ここでは、吸着剤が充填された吸着カラムに、222Rn濃度がG222(Bq/Nm3)で
ある炭化水素流体を圧力P(MPa)で流通させ、該炭化水素流体の不純物を除去する不純物除去工程を含む炭化水素流体処理プロセスついて説明する。炭化水素流体に含まれる222Rn量は、原油、天然ガスを算出する油田やガス田、炭田、ガス鉱床によって変動す
るが、炭化水素流体が天然ガスである場合は、222Rn濃度G222は通常1〜106Bq/
Nm3である。また、炭化水素流体処理プロセスが天然ガスを液化するプロセスである場
合は、圧力Pは通常3〜10MPaである。
【0027】
上記210Pb、210Biまたは210Poのいずれか1種以上の蓄積量を予測する方法は、222Rnの吸着試験工程、平衡吸着係数の算出工程および210Pb、210Biまたは210Po
のいずれか1種以上蓄積量の予測工程を含む。
【0028】
222Rnの吸着試験工程〕
222Rnの吸着試験工程では、上記吸着カラムに充填する吸着剤と同一の充填剤を入れ
た容器に、222Rn濃度がG222’(Bq/Nm3)である222Rnを含む炭化水素流体もしくは模擬流体を圧力P’(MPa)で流通させ、該容器の出口での222Rn濃度がG222’(Bq/Nm3)となって破過するまで、該充填剤に222Rnを吸着させる。
【0029】
吸着カラムとしては、実際の不純物除去工程で用いる吸着カラムとは異なる小型カラムを用いればよい。
【0030】
また、吸着カラムに充填する吸着剤と同一の吸着剤は、温度が同一であれば平衡吸着係数が同一の値となる。したがって、222Rnの吸着試験工程で実際の不純物除去工程と同
一の充填剤を用いて平衡吸着係数を求めておけば、この平衡吸着係数から不純物除去工程での210Pb、210Biまたは210Poのいずれか1種以上の蓄積量の予測が可能となる。
【0031】
流通させる模擬流体としては、222Rnを濃度G222’(Bq/Nm3)で含むArガス
222Rn−Ar混合ガス)が好適に用いられる。また、実際の炭化水素流体中の222Rn濃度が1,000Bq/m3以上ある場合は、実際の炭化水素流体を用いて平衡吸着係数
を求めることができる。具体的には、流通させる222Rnを含む炭化水素流体として、蓄
積量予測の対象となる実際の流体(天然ガス、原油)を用いることができる。
【0032】
また、222Rn濃度G222’(Bq/Nm3)および圧力P’(MPa)は、平衡吸着係
数の算出に影響しないため、実際の不純物除去工程の222Rn濃度G222(Bq/Nm3
および圧力P(MPa)と同一であっても異なっていてもよい。一方、実際の不純物除去工程では、平衡吸着係数の算出工程で求めた平衡吸着係数を用いて210Pb、210Biまたは210Poのいずれか1種以上の蓄積量を予測するため、222Rnの吸着試験工程で容器に流通させる模擬流体の温度は、不純物除去工程で吸着カラムに流通させる炭化水素流体の温度と同一とすることが好ましい。
【0033】
なお、流通させる模擬流体の流量は、222Rnの吸着に実質的に影響しないため適宜設
定すればよい。
【0034】
222Rnの吸着試験工程では、上記容器に、上記模擬流体を、該容器の出口での222Rn濃度がG222’(Bq/Nm3)となって破過するまで流通させ、該充填剤に222Rnを吸
着させる。いいかえると、吸着剤に222Rnが吸着されなくなって、模擬流体が容器に供
給したときの状態のまま、容器の出口から排出されるようになるまで、該充填剤に222
nを吸着させる。
【0035】
〔平衡吸着係数の算出工程〕
平衡吸着係数の算出工程では、上記222Rnの吸着試験工程での破過曲線を求め、該破
過曲線から上記吸着剤の単位質量あたりの222Rn平衡吸着量A222’(Bq/g)を算出する。
【0036】
具体的には、模擬流体の流通を開始してからの時間に対して吸着剤の出口での222Rn
濃度(Bq/Nm3)をプロットして破過曲線を求める。この破過曲線を用いて供給222Rn濃度G222’(Bq/Nm3)と出口での222Rn濃度の差を積分することによって吸着
剤への222Rn吸着量の総量が得られるため、この値より上記吸着剤の単位質量あたりの222Rn平衡吸着量A222’(Bq/g)を求める。
【0037】
次いで、下記式(1)より上記吸着剤の平衡吸着係数k(m3/kg)を算出する。
【0038】
k=100A222’/P’G222’ (1)
式(1)は、以下のようにして導き出される。すなわち、上記吸着剤の単位質量あたりの222Rn平衡吸着量は、吸着剤と接触する模擬流体の222Rn濃度に比例し、このときの比例定数が平衡吸着係数である。また、吸着剤と接触する模擬流体の222Rn濃度は、222Rnの吸着試験工程における模擬流体の圧力がP’(MPa)であり、222Rn濃度がG222’(Bq/Nm3)であることから、10P’G222’(Bq/m3)となる。したがっ
て、上記吸着剤の単位質量あたりの222Rn平衡吸着量A222’(Bq/g)は、(k×10P’G222’)/1000で表され、これを変形すると上記式(1)が得られる。
【0039】
210Pb、210Biまたは210Poのいずれか1種以上の蓄積量の予測工程〕
210Pb、210Biまたは210Poのいずれか1種以上の蓄積量の予測工程では、上記平
衡吸着係数の算出工程で得られた平衡吸着係数k(m3/kg)と、上記不純物除去工程
における上記圧力P(MPa)および上記222Rn濃度G222(Bq/Nm3)とから、下
記式(2)より、上記吸着剤の単位質量あたりの222Rn吸着量A222(Bq/g)を算出する。なお、本発明では、不純物除去工程での圧力P(MPa)および222Rn濃度G222(Bq/Nm3)が一定である場合を想定している。また、不純物除去工程で吸着カラム
に流通させる炭化水素流体の温度は、通常0〜100℃であり、かつ222Rnの吸着試験
工程で容器に流通させる模擬流体の温度と同一とする。
【0040】
222=kPG222/100 (2)
式(2)は、不純物除去工程においても、222Rnの吸着試験工程と同様に、以下のよ
うにして導き出される。上記吸着剤の単位質量あたりの222Rn平衡吸着量は、吸着剤と
接触する炭化水素流体の222Rn濃度に比例し、このときの比例定数が平衡吸着係数であ
る。平衡吸着係数は、上述の平衡吸着係数の算出工程で求められている。また、吸着剤と接触する炭化水素流体の222Rn濃度は、222Rnの吸着試験工程における炭化水素流体の圧力がP(MPa)であり、222Rn濃度がG222(Bq/Nm3)であることから、10
PG222(Bq/m3)となる。したがって、上記吸着剤の単位質量あたりの222Rn平衡
吸着量A222(Bq/g)は、(k×10PG222)/1000で表され、これより上記式(2)が得られる。
【0041】
このように、222Rnの吸着試験工程と不純物除去工程とで温度および吸着剤の条件が
同一であれば、222Rnの吸着試験工程で求めた平衡吸着係数は、不純物除去工程のもの
と同一とみなすことができる。したがって、平衡吸着係数および不純物除去工程での処理条件から、不純物除去工程での吸着剤の単位質量あたりの222Rn平衡吸着量が簡便に求
められる。
【0042】
次いで、算出された上記222Rn吸着量A222(Bq/g)と210Pbの壊変定数λ210(9.85×10-10(s-1))とから、下記式(3)より、上記不純物除去工程(稼働率
τ(-)のときの不純物除去工程)を開始してからの時間(吸着カラムに炭化水素流体の
流通を開始してからの時間)T(s)における210Pbの蓄積量C210(Bq/g)を予測する。
【0043】
210=τ*A222*(1−EXP(−λ210*T)) (3)
式(3)は、以下のようにして導き出される。まず、吸着剤使用期間で(不純物除去工程で)吸着カラムに流通させる炭化水素流体中の222Rn濃度が変化しないと仮定すると
222Rnの短半減期崩壊生成物(218Po、214Pb、214Bi、214Po)は3時間程度
で放射平衡に達し、これら全ての核種について吸着剤中の放射能量は等しくなる。すなわち、蓄積が問題となる長命核種210Pbの親核種214Poの濃度も222Rnの放射能濃度と
等しくなる。このため、210Pbの生成率B210(atm/s/g)はA222と等しくなる
。すなわち、210Pbの原子数の変化率(dN210/dt)は、下記式(4)で表される。
【0044】
dN210/dt=B210−λ210210=A222−λ210210 (4)
ここで、N210は時刻tに存在する210Pbの原子数、λ210210Pbの壊変定数(9.85×10-10(s-1))である。
【0045】
t=0のときN210=0で式(4)を解くと、不純物除去工程の開始後T(s)におけ
210Pbの原子量蓄積量は、下記式(5)で表される。
【0046】
210=A222/λ210*(1−EXP(−λ210*T)) (5)
ここで、不純物除去工程は期間Tにわたって連続して稼働するわけでなく、再生等で休止する期間がある。再生により蓄積した222Rn崩壊生成物は脱離しないため、単純に稼働
率τ(-)を乗じることで、休止期間に関する補正を行う。
【0047】
210Pbの蓄積量C210(Bq/g)は、λ210*N210で表されることから、上記式(5)を変形し、τを乗じると上記式(3)が導かれる。
【0048】
このように、吸着剤の単位質量あたりの222Rn平衡吸着量が求められていれば、上記
式(3)より簡便に210Pbの蓄積量が予測できる。210Pbの崩壊生成物である210Bi
または210Poの蓄積量については、210Pbと放射平衡にあるとして210Pb放射能蓄積
量に等しいと評価することができる。なお、本発明の「210Pb、210Biまたは210Po
のいずれか1種以上の蓄積量の予測方法」には、以下の態様が含まれる。すなわち、(1)210Pbの蓄積量の予測方法、(2)210Biの蓄積量の予測方法、(3)210Poの蓄
積量の予測方法、(4)210Pbおよび210Biの蓄積量の予測方法、(5)210Pbおよ
210Poの蓄積量の予測方法、(6)210Biおよび210Poの蓄積量の予測方法、(7
210Pb、210Biおよび210Poの蓄積量の予測方法が含まれる。上述のように210Pbの蓄積量が求められれば、210Biの蓄積量や210Poの蓄積量は、210Poの蓄積量と等
しいため、(2)〜(7)の態様も簡便に実施できる。
【0049】
また、上記平衡吸着係数の算出工程において、上記222Rnの吸着試験工程での破過曲
線を求め、該破過曲線から上記吸着剤の単位質量あたりの222Rn平衡吸着量A222’(Bq/g)を算出する代わりに、上記222Rnの吸着試験工程で吸着した222Rnを脱着させて、222Rnの脱着量から上記吸着剤の単位質量あたりの222Rn平衡吸着量A222’(B
q/g)を算出してもよい。この場合は、具体的には、上記222Rnの吸着試験工程で吸
着した222Rnを脱着させて、吸着剤への222Rn吸着量の総量を得た後、この値より上記吸着剤の単位質量あたりの222Rn平衡吸着量A222’(Bq/g)を求める。
【0050】
また、本発明に係る210Pb、210Biまたは210Poのいずれか1種以上の蓄積量を予
測する方法について、222Rnの吸着試験工程に用いる装置を示しながら、より具体的に
説明する。
【0051】
本発明に用いる装置は、図1に示すように、模擬ガス調製部100、吸着試験部200および222Rn濃度測定部300からなる。
【0052】
模擬ガス調製部100は、ガスボンベ1、222Rn供給容器2、フィルター3、移送ポ
ンプ4、および模擬ガスリザーブバッグ5を備えている。ガスボンベ1と222Rn供給容
器2とはバルブ102付の管で接続され、222Rn供給容器2とフィルター3とはバルブ
104付の管で接続され、フィルター3と移送ポンプ4とは管で接続され、移送ポンプ4と模擬ガスリザーブバッグ5とはバルブ106付の管で接続されている。また、222Rn
供給容器2には、バルブ108付の管を介して圧力計110が接続されている。さらに、バルブ106と模擬ガスリザーブバッグ5との間には、バルブ109付の管を介してガスボンベ112が挿入されている。
【0053】
ガスボンベ1には、模擬ガスを調製するためのキャリアガスとして、たとえばArガスが充填されている。222Rn供給容器2には、ラジウム(226Ra)を含む物質として、ウランまたはラジウム(226Ra)含有量が多い土壌、ラジウム溶液またはラジウム溶液を
含浸させた担体などを入れておく。
【0054】
模擬ガスの調製において、まず、キャリアガスは、ガスボンベ1からバルブ102を通じて、222Rn供給容器2に供給される。222Rn供給容器2で、このキャリアガスは226
Raを含む物質から生成する222Rnと混合され、模擬ガスが調製される。また、模擬ガ
スの圧力は、圧力計110により測定される。次いで、調製された模擬ガスは、バルブ104を通じて、フィルター3に導入される。フィルター3で、模擬ガス中の土壌等の粒子が下流に移行しないように除去される。次いで、粒子が除去された模擬ガスは、移送ポンプ4およびバルブ106を通じて、模擬ガスリザーブバッグ5に貯められる。ここで、必要に応じて、ガスボンベ112に入れられたキャリアガスが模擬ガスリザーブバッグ5に供給され、模擬ガスリザーブバッグ5中の模擬ガスの222Rn濃度がG222’(Bq/Nm3)となるように調整される。このように、模擬ガスリザーブバッグ5に模擬ガスを貯め
ておくと、一定の圧力で222Rnの吸着試験が実施できる。また、模擬ガスリザーブバッ
グ5は模擬ガス中に含まれるトロン(220Rn)を除去するため少なくとも30分〜2時
間放置される。その後、模擬ガス中の222Rn濃度G222’(Bq/Nm3)は、222Rn濃度測定部300を用いて測定する。
【0055】
なお、ガスボンベ1は、試験設備等のガス供給ラインであってもよい。
【0056】
吸着試験部200は、模擬ガスリザーブバッグ5、供給ポンプ6、マスフローコントローラー7、吸着カラム8および模擬ガス回収バッグ9を備えている。模擬ガスリザーブバッグ5と供給ポンプ6とはバルブ202付の管で接続され、供給ポンプ6とマスフローコントローラー7とは管で接続され、マスフローコントローラー7と吸着カラム8とは管で接続され、吸着カラム8と模擬ガス回収バッグ9とはバルブ204付の管で接続されている。また、マスフローコントローラー7と吸着カラム8との間には、バルブ207付の管を介して圧力計210および模擬ガスをパージするためのバルブ206が備えられている。なお、模擬ガスリザーブバッグ5は、模擬ガス調製部100の模擬ガスリザーブバッグ5に対応する。
【0057】
吸着カラム8には、実際の不純物除去工程に用いる吸着剤と同一の吸着剤が充填されている。
【0058】
222Rnの吸着試験において、まず、222Rn濃度G222’(Bq/Nm3)である模擬ガスは、模擬ガスリザーブバッグ5からバルブ202を通じて、供給ポンプ6に導入される。供給ポンプ6で、模擬ガスの圧力がP’(MPa)となるように調整される。次いで、222Rn濃度G222’(Bq/Nm3)である模擬ガスは、圧力P’(MPa)でマスフロ
ーコントローラー7に導入される。このときの圧力P’は圧力計210で測定される。マスフローコントローラー7で、模擬ガスの流量が制御される。ここで、供給ポンプ6およびマスフローコントローラー7の流路表面が吸着平衡に達するまでは、模擬ガスは、バルブ206を通じて排出される。上記流路表面が吸着平衡に達した後、222Rn濃度G222’(Bq/Nm3)である模擬ガスは、圧力P’(MPa)で吸着カラム8に供給される。
吸着カラム8において、模擬ガス中の222Rnは吸着剤に吸着される。次いで、吸着カラ
ム8通気後の模擬ガスは、バルブ204を通じて、模擬ガス回収バッグ9に貯められる。模擬ガス回収バッグ9は、所定の時間(たとえば10〜20分など)ごとに取り替え、吸着カラム8通気後の模擬ガスは分割して回収される。それぞれの模擬ガス回収バッグ9には、吸着試験開始後いつからいつまでの模擬ガスを貯めたか、いくつめのバッグであるかなどを記録しておく。
【0059】
222Rn濃度測定部300は、模擬ガス回収バッグ9あるいは模擬ガスリザーブバッグ
5、フィルター303、222Rn濃度モニター10、移送ポンプ11および測定済み模擬
ガス回収バッグ304を備えている。模擬ガス回収バッグ9とフィルター303とはバルブ302付の管で接続され、フィルター303と222Rn濃度モニター10とは管で接続
され、222Rn濃度モニター10と移送ポンプ11とは管で接続され、移送ポンプ11と
測定済み模擬ガス回収バッグ304とは管で接続されている。なお、模擬ガス回収バッグ9は、吸着試験部200の模擬ガス回収バッグ9あるいは模擬ガスリザーブバッグ5に対応するが、以下模擬ガス回収バッグ9として説明する。
【0060】
222Rn濃度測定において、まず、模擬ガス回収バッグ9(吸着試験部200で得られ
た一つめのバッグ)に回収された模擬ガスは、バルブ302を通じて、フィルター303に導入される。フィルター303で222Rn崩壊生成物やエアロゾル等が除去された後、222Rn濃度モニター10に模擬ガスが導入される。222Rn濃度モニター10で、模擬ガ
ス中の222Rn濃度が測定される。測定は使用するモニターに依存するが、ポンプを停止
し大気圧で実施することが望ましい。次いで、222Rn濃度測定後の模擬ガスは、移送ポ
ンプ11を通じて、測定済み模擬ガス回収バッグ304に回収される。吸着試験部200で得られた二つめ以降の模擬ガス回収バッグについても、順次模擬ガス中の222Rn濃度
が測定される。
【0061】
ここで、模擬ガス回収バッグ9中の模擬ガスの222Rn濃度が、G222’(Bq/Nm3
)となって破過するまで吸着試験が行われる。すなわち、吸着試験部200では破過するまで模擬ガス回収バッグ9が作製される。そして、222Rn濃度測定部300では、最後
に得られた模擬ガス回収バッグ9まで、模擬ガス中の222Rn濃度が測定される。
【0062】
さらに、吸着試験部200で吸着試験を開始してからの時間(模擬ガス回収バッグ9中の模擬ガスが回収された時間)に対して、222Rn濃度測定部300で得られた222Rn濃度(模擬ガス回収バッグ9中の模擬ガスの222Rn濃度)をプロットして、破過曲線を描
いてゆく。破過曲線が得られた後、吸着剤への222Rn吸着量の総量、次いで上記吸着剤
の単位質量あたりの222Rn平衡吸着量A222’(Bq/g)を算出する。
【0063】
また、上述のように、上記平衡吸着係数の算出工程において、破過曲線から上記吸着剤の単位質量あたりの222Rn平衡吸着量A222’(Bq/g)を算出する代わりに、上記222Rnの吸着試験工程で吸着した222Rnを脱着させて、222Rnの脱着量から上記吸着剤
の単位質量あたりの222Rn平衡吸着量A222’(Bq/g)を算出してもよい。この脱着法の場合について、脱着法による吸着量測定に用いる装置を示しながら、より具体的に説明する。
【0064】
この脱着法による吸着量測定部400は、図2に示すように、ガスボンベ402、マスフローコントローラー7、吸着カラム8および222Rn含有ガス回収バッグ13で形成さ
れている。脱着法による吸着量測定部400は、具体的には、吸着試験において破過が確認された後、ガスボンベ402をバルブ404付の管を介してマスフローコントローラー7につなげて形成される。なお、マスフローコントローラー7、吸着カラム8、バルブ204およびバルブ206は、吸着試験部200のマスフローコントローラー7、吸着カラム8、バルブ204およびバルブ206に対応する。
【0065】
ガスボンベ402には、脱着キャリアガスを充填しておく。
【0066】
脱着法による吸着量測定において、まず、脱着キャリアガスは、ガスボンベ402からバルブ404を通じて、マスフローコントローラー7に導入される。マスフローコントローラー7で、脱着キャリアガスの流量が制御される。ここで、マスフローコントローラー7の流路表面の222Rnが脱着するまでは、脱着キャリアガスは、バルブ206を通じて
排出される。上記流路表面の222Rnが脱着した後、脱着キャリアガスは吸着カラム8に
供給される。吸着カラム8で、脱着キャリアガスにより吸着剤に吸着していた222Rnが
脱着し、222Rnおよび脱着キャリアガスが混合した222Rn含有ガスが得られる。次いで、吸着カラム8通気後の222Rn含有ガスは、バルブ204を通じて、222Rn含有ガス回収バッグ13に貯められる。222Rn含有ガス回収バッグ13は、所定の時間(たとえば
10〜20分など)ごとに取り替え、吸着カラム8通気後の222Rn含有ガスは分割して
回収される。それぞれの222Rn含有ガス回収バッグ13には、いくつめのバッグである
かを記録しておく。
【0067】
続いて、222Rn含有ガス回収バッグ13(脱着法による吸着量測定部400で得られ
た一つめのバッグ)に回収された222Rn含有ガスは、222Rn濃度測定部300に導入される。222Rn濃度測定部300により、222Rn含有ガス中に含まれる222Rnの総量が
求められる。次いで、吸着量測定部400で得られた二つめ以降のバッグについても、順次222Rnの総量を求める。222Rn濃度測定部300において、222Rn含有ガス回収バ
ッグ13中の222Rn含有ガスは222Rnを含まず脱着キャリアガスそのものであることが確認された時点で、222Rnの脱着が終了したこと分かる。そして、全222Rn含有ガス回収バッグ13についての測定値から、吸着剤に吸着されていた222Rnの総量、次いで上
記吸着剤の単位質量あたりの222Rn平衡吸着量A222’(Bq/g)を求める。
【0068】
なお、脱着法による吸着量測定部400には、図2に示すように、吸着カラム8を加熱するための加熱ヒーター12を備えておくことも好ましい。加熱ヒーター12により吸着カラム8に充填されている吸着剤を加熱すると、222Rnの脱着を促進することができる

【0069】
210Pb、210Biまたは210Poのいずれか1種以上が蓄積した吸着剤の交換時期を
選定する方法>
本発明に係る210Pb、210Biまたは210Poのいずれか1種以上が蓄積した吸着剤の
交換時期を選定する方法は、吸着剤が充填された吸着カラムに、炭化水素流体を流通させ、該炭化水素流体の不純物を除去する不純物除去工程を含む炭化水素流体処理プロセスにおいて用いられる。なお、210Pb、210Biまたは210Poのいずれか1種以上の蓄積量
を予測する方法で述べたように、210Pb、210Biまたは210Poは、上記不純物ととも
に吸着剤に吸着する222Rnが崩壊して生成する。
【0070】
上記炭化水素流体処理プロセスは、210Pb、210Biまたは210Poのいずれか1種以
上の蓄積量を予測する方法で説明したプロセスと同じである。
【0071】
本発明に係る210Pb、210Biまたは210Poのいずれか1種以上が蓄積した吸着剤の
交換時期を選定する方法は、上記吸着カラムに充填する吸着剤と同一の充填剤を入れた容器に、222Rnを含む模擬流体を流通させ、破過するまで該充填剤に222Rnを吸着させる、222Rnの吸着試験工程と、上記222Rnの吸着試験工程での破過曲線を求め、該破過曲線から上記吸着剤の平衡吸着係数を算出する、平衡吸着係数の算出工程と、上記平衡吸着係数の算出工程で得られた平衡吸着係数と、上記不純物除去工程における処理条件とから、上記不純物除去工程を開始してから、210Pb、210Biまたは210Poのいずれか1種
以上の蓄積量が所定の210Pb、210Biまたは210Poのいずれか1種以上の蓄積量を超
えない時間を算出する、交換時期の選定工程とを含む。
【0072】
このように、222Rnの吸着試験工程で、吸着剤に特有の平衡吸着係数を求めておくと
、この平衡吸着係数と実際の炭化水素流体処理プロセスでの処理条件とから、210Pb、210Biまたは210Poのいずれか1種以上の蓄積量が簡便に予測できる。炭化水素流体処
理プロセス開始前に、222Rnの吸着試験工程により、吸着剤に特有の平衡吸着係数を求
めておけば、炭化水素流体処理プロセス開始後において、どの程度の年数が経つとどの程度の210Pb、210Biまたは210Poのいずれか1種以上が吸着剤に蓄積するかをあらか
じめ把握できる。したがって、上記不純物除去工程を開始してから、210Pb、210Biまたは210Poのいずれか1種以上の蓄積量が所定の量を超えない時間すなわち交換時期を
選定できる。もちろん、炭化水素流体処理プロセス開始後に、222Rnの吸着試験工程に
より、吸着剤に特有の平衡吸着係数を求めてもよい。この場合、既にどの程度の210Pb
210Biまたは210Poのいずれか1種以上が吸着剤に蓄積しているかを把握でき、さらに年数が経つとどの程度の210Pb、210Biまたは210Poのいずれか1種以上が吸着剤
に蓄積するかを把握できる。したがって、この場合も、上記不純物除去工程を開始してから、210Pb、210Biまたは210Poのいずれか1種以上の蓄積量が所定の量を超えない
時間すなわち交換時期を選定できる。
【0073】
また、上記平衡吸着係数の算出工程において、上記222Rnの吸着試験工程での破過曲
線を求め、該破過曲線から上記吸着剤の平衡吸着係数を算出する代わりに、上記222Rn
の吸着試験工程で吸着した222Rnを脱着させて、222Rnの脱着量から上記吸着剤の平衡吸着係数を算出してよい。
【0074】
以下、本発明に係る210Pb、210Biまたは210Poのいずれか1種以上が蓄積した吸
着剤の交換時期を選定する方法について具体的に説明する。
【0075】
ここでは、吸着剤が充填された吸着カラムに、222Rn濃度がG222(Bq/Nm3)で
ある炭化水素流体を圧力P(MPa)で流通させ、該炭化水素流体の不純物を除去する不純物除去工程を含む炭化水素流体処理プロセスついて説明する。炭化水素流体が天然ガスである場合は、222Rn濃度G222は通常1〜106Bq/Nm3である。また、炭化水素流体処理プロセスが天然ガスを液化するプロセスである場合は、圧力Pは通常3〜10MPaである。
【0076】
上記210Pb、210Biまたは210Poのいずれか1種以上が蓄積した吸着剤の交換時期
を選定する方法は、222Rnの吸着試験工程、平衡吸着係数の算出工程および交換時期の
選定工程を含む。
【0077】
222Rnの吸着試験工程〕
222Rnの吸着試験工程では、上記吸着カラムに充填する吸着剤と同一の充填剤を入れ
た容器に、222Rn濃度がG222’(Bq/Nm3)である222Rnを含む炭化水素流体もしくは模擬流体を圧力P’(MPa)で流通させ、該容器の出口での222Rn濃度がG222’(Bq/Nm3)となって破過するまで該充填剤に222Rnを吸着させる。この222Rnの
吸着試験工程は、210Pb、210Biまたは210Poのいずれか1種以上の蓄積量を予測す
る方法で説明した222Rnの吸着試験工程と同じである。
【0078】
〔平衡吸着係数の算出工程〕
平衡吸着係数の算出工程では、上記222Rnの吸着試験工程での破過曲線を求め、該破
過曲線から上記吸着剤の単位質量あたりの222Rn平衡吸着量A222’(Bq/g)を算出し、次いで、下記式(1)より上記吸着剤の平衡吸着係数k(m3/kg)を算出する。
この平衡吸着係数の算出工程は、210Pb、210Biまたは210Poのいずれか1種以上の
蓄積量を予測する方法で説明した平衡吸着係数の算出工程と同じである。
【0079】
〔交換時期の選定工程〕
交換時期の選定工程では、上記平衡吸着係数の算出工程で得られた平衡吸着係数k(m3/kg)と、上記不純物除去工程における上記圧力P(MPa)および上記222Rn濃度G222(Bq/Nm3)とから、下記式(2)より、上記吸着剤の単位質量あたりの222
n吸着量A222(Bq/g)を算出する。
【0080】
222=kPG222/100 (2)
この上記吸着剤の単位質量あたりの222Rn吸着量A222(Bq/g)の算出は、210
b、210Biまたは210Poのいずれか1種以上の蓄積量を予測する方法で説明した算出と同じである。
【0081】
次いで、算出された上記222Rn吸着量A222(Bq/g)と210Pbの壊変定数λ210(9.85×10-10(s-1))とから、下記式(6)より、上記不純物除去工程(稼働率
τ(-)のときの不純物除去工程)を開始してから(吸着カラムに炭化水素流体の流通を
開始してから)、210Pbの蓄積量C210(Bq/g)が所定の210Pb蓄積量E210(Bq/g)を超えない時間T(s)を算出する。なお、C210(Bq/g)がE210(Bq/g)を超えない時点まで、すなわちC210(Bq/g)がE210(Bq/g)以下の時点までは、吸着剤は廃棄の際に放射性廃棄物とする必要がなくなる。
【0082】
210≧C210=τ*A222*(1−EXP(−λ210*T)) (6)
式(6)は、以下のようにして導き出される。まず、吸着剤使用期間で(不純物除去工程で)吸着カラムに流通させる炭化水素流体中の222Rn濃度が変化しないと仮定すると
222Rnの短半減期崩壊生成物(218Po、214Pb、214Bi、214Po)は3時間程度
で放射平衡に達し、これら全ての核種について吸着剤中の放射能量は等しくなる。すなわち、蓄積が問題となる長命核種210Pbの親核種214Poの濃度も222Rnの放射能濃度と
等しくなる。このため、210Pbの生成量B210(atm/s/g)はA222と等しくなる
。すなわち、210Pbの原子数の変化率(dN210/dt)は、下記式(4)で表される。
【0083】
dN210/dt=B210−λ210210=A222−λ210210 (4)
ここで、N210は時刻tに存在する210Pbの原子数、λ210210Pbの壊変定数(9.85×10-10(s-1))である。
【0084】
t=0のときN210=0で式(4)を解くと、不純物除去工程の開始後T(s)におけ
210Pbの原子量蓄積量は、下記式(5)で表される。
【0085】
210=A222/λ210*(1−EXP(−λ210*T)) (5)
ここで、不純物除去工程は期間Tにわたって連続して稼働するわけでなく、再生等で休止する期間がある。再生により蓄積した222Rn崩壊生成物は脱離しないため、単純に稼働
率τ(-)を乗じることで、休止期間に関する補正を行う。
【0086】
210Pbの蓄積量C210(Bq/g)は、λ210*N210で表されることから、式(5)を変形しτ(-)を乗じることにより、下記式(3)が導かれる。
【0087】
210=τ*A222*(1−EXP(−λ210*T)) (3)
また、C210がE210を超えるときが吸着剤の交換時期である。したがって、交換時期を選定する式として、上記式(6)に示す関係E210≧C210が導かれる。210Biまたは210Poの蓄積量については、210Pbと放射平衡にあるとして210Pb放射能蓄積量に等しいと評価することができる。したがって、210Biまたは210Poが蓄積した吸着剤の交換時期は、交換すべき蓄積量が同じであるときは、210Pbが蓄積した吸着剤の交換時期と等し
くなる。なお、本発明の「210Pb、210Biまたは210Poのいずれか1種以上が蓄積し
た吸着剤の交換時期を選定する方法」には、以下の態様が含まれる。すなわち、(1)210Pbが蓄積した吸着剤の交換時期を選定する方法、(2)210Biが蓄積した吸着剤の交換時期を選定する方法、(3)210Poが蓄積した吸着剤の交換時期を選定する方法、(
4)210Pbおよび210Biが蓄積した吸着剤の交換時期を選定する方法、(5)210Pb
および210Poが蓄積した吸着剤の交換時期を選定する方法、(6)210Biおよび210
oが蓄積した吸着剤の交換時期を選定する方法、(7)210Pb、210Biおよび210Po
が蓄積した吸着剤の交換時期を選定する方法が含まれる。上述のように210Poの蓄積量
が求められれば、210Biの蓄積量や210Poの蓄積量は、210Poの蓄積量と等しいため
、(2)〜(7)の態様も簡便に実施できる。
【0088】
このように、上述のように上記吸着剤の単位質量あたりの222Rn吸着量が求められて
いれば、上記式(6)より簡便に210Pbが蓄積した吸着剤の交換時期が選定できる。
【0089】
また、上記平衡吸着係数の算出工程において、上記222Rnの吸着試験工程での破過曲
線を求め、該破過曲線から上記吸着剤の単位質量あたりの222Rn平衡吸着量A222’(Bq/g)を算出する代わりに、上記222Rnの吸着試験工程で吸着した222Rnを脱着させて、222Rnの脱着量から上記吸着剤の単位質量あたりの222Rn平衡吸着量A222’(B
q/g)を算出してもよい。この場合は、具体的には、上記222Rnの吸着試験工程で吸
着した222Rnを脱着させて、吸着剤への222Rn吸着量の総量を得た後、この値より上記吸着剤の単位質量あたりの222Rn平衡吸着量A222’(Bq/g)を求める。
【0090】
また、本発明に係る210Pb、210Biまたは210Poのいずれか1種以上が蓄積した吸
着剤の交換時期を算出する方法においても、210Pb、210Biまたは210Poのいずれか
1種以上の蓄積量を予測する方法で説明した装置が用いられる。
【0091】
以上、本発明に係る210Pb、210Biまたは210Poのいずれか1種以上の蓄積量を予
測する方法は、具体的には、吸着剤が充填された吸着カラムに、222Rn濃度がG222(Bq/Nm3)である炭化水素流体を圧力P(MPa)で流通させ、該炭化水素流体の不純
物を除去する不純物除去工程を含む炭化水素流体処理プロセスにおいて、該吸着剤に対し、該不純物とともに吸着する222Rnが崩壊して生成する210Pb、210Biまたは210Poのいずれか1種以上の蓄積量を予測する方法であって、上記吸着カラムに充填する吸着剤と同一の充填剤を入れた容器に、222Rn濃度がG222’(Bq/Nm3)である模擬流体
を圧力P’(MPa)で流通させ、該容器の出口での222Rn濃度がG222’(Bq/Nm3)となって破過するまで、該充填剤に222Rnを吸着させる、222Rnの吸着試験工程と
、上記222Rnの吸着試験工程での破過曲線を求め、該破過曲線から上記吸着剤の単位質
量あたりの222Rn平衡吸着量A222’(Bq/g)を算出し、次いで、下記式(1)より上記吸着剤の平衡吸着係数k(m3/kg)を算出する、平衡吸着係数の算出工程と、上
記平衡吸着係数の算出工程で得られた平衡吸着係数k(m3/kg)と、上記不純物除去
工程の稼働率τ(-)と、上記不純物除去工程における上記圧力P(MPa)および上記222Rn濃度G222(Bq/Nm3)とから、下記式(2)より、上記吸着剤の単位質量あたりの222Rn吸着量A222(Bq/g)を算出し、次いで、算出された前記222Rn吸着量
222(Bq/g)と210Pbの壊変定数λ210(9.85×10-10(s-1))とから、下記式(3)より、上記不純物除去工程を開始してからの時間T(s)における210Pbの
蓄積量C210(Bq/g)を算出する、210Pb蓄積量の予測工程とを含む。
【0092】
k=100A222’/P’G222’ (1)
222=kPG222/100 (2)
210=τ*A222*(1−EXP(−λ210*T)) (3)
また、上記平衡吸着係数の算出工程において、上記222Rnの吸着試験工程での破過曲
線を求め、該破過曲線から上記吸着剤の単位質量あたりの222Rn平衡吸着量A222’(Bq/g)を算出する代わりに、上記222Rnの吸着試験工程で吸着した222Rnを脱着させて、222Rnの脱着量から上記吸着剤の単位質量あたりの222Rn平衡吸着量A222’(B
q/g)を算出することができる。
【0093】
さらに、本発明に係る吸着剤の交換時期を選定する方法は、具体的には、吸着剤が充填された吸着カラムに、222Rn濃度がG222(Bq/Nm3)である炭化水素流体を圧力P
(MPa)で流通させ、該炭化水素流体の不純物を除去する不純物除去工程を含む炭化水素流体処理プロセスにおいて、該不純物とともに吸着する222Rnが崩壊して生成する210Pb、210Biまたは210Poのいずれか1種以上が蓄積した該吸着剤の交換時期を選定する方法であって、上記吸着カラムに充填する吸着剤と同一の充填剤を入れた容器に、222
Rn濃度がG222’(Bq/Nm3)である模擬流体を圧力P’(MPa)で流通させ、該容器の出口での222Rn濃度がG222’(Bq/Nm3)となって破過するまで、該充填剤
222Rnを吸着させる、222Rnの吸着試験工程と、上記222Rnの吸着試験工程での破
過曲線を求め、該破過曲線から上記吸着剤の単位質量あたりの222Rn平衡吸着量A222’(Bq/g)を算出し、次いで、下記式(1)より上記吸着剤の平衡吸着係数k(m3
kg)を算出する、平衡吸着係数の算出工程と、上記平衡吸着係数の算出工程で得られた平衡吸着係数k(m3/kg)と、上記不純物除去工程の稼働率τ(-)と、上記不純物除去工程における上記圧力P(MPa)および上記222Rn濃度G222(Bq/Nm3)とか
ら、下記式(2)より、上記吸着剤の単位質量あたりの222Rn吸着量A222(Bq/g)を算出し、次いで、算出された上記222Rn吸着量A222(Bq/g)と210Pbの壊変定
数λ210(9.85×10-10(s-1))とから、下記式(6)より、上記不純物除去工程を開始してから、210Pbの蓄積量C210(Bq/g)が所定の210Pb蓄積量E210(Bq
/g)を超えない時間T(s)を算出する、交換時期の選定工程とを含む。
【0094】
k=100A222’/P’G222’ (1)
222=kPG222/100 (2)
210≧C210=τ*A222*(1−EXP(−λ210*T)) (6)
[実施例]
以下、実施例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されない。
【0095】
[実施例1]
吸着剤としてモレキュラーシーブを用い、この場合の222Rn破過曲線を求め、平衡吸
着係数を算出した。なお、平衡吸着係数の定義は、上述したように次の通りとする。
【0096】
平衡吸着係数(m3/kg)=吸着剤中の222Rn濃度(Bq/kg)/模擬ガス中の222Rn濃度(Bq/m3
ただし、これらの濃度は平衡吸着到達時の濃度である。
【0097】
(i)吸着剤
吸着剤として、乾燥処理したモレキュラーシーブ4Aを用いた。
【0098】
(ii)実施方法
図1の概要図に示す装置を用いた。図1に示すように、装置は模擬ガス調製部100、吸着試験部200および222Rn濃度測定部300から構成した。
【0099】
<模擬ガス調製部100>
222Rn供給容器(密閉容器)2内に226Raを含む物質(高い濃度で226Raを含有す
る土壌、226Ra溶液を含浸したろ紙等)を入れ、ガスボンベ1からのキャリアガス(A
rガス)に226Raの崩壊で生成する222Rnを供給した。このようにして模擬ガスが得られた。
【0100】
次いで、土壌等が下流に移行しないようにフィルター3で模擬ガス中の粒子を除去した。
【0101】
次いで、一定の圧力で吸着試験が実施できるように模擬ガスリザーブバッグ5に222
n含有模擬ガスを移した。このとき、試験に用いるガス量を任意の量に調整するため、ガスボンベ112から模擬ガスリザーブバッグ5にキャリアガス(Arガス)を加えた。
【0102】
なお、模擬ガスリザーブバッグ5中の222Rn含有模擬ガスの222Rn濃度は、トロン(220Rn)の崩壊による消滅を待つため少なくとも30分〜2時間放置した後、222Rn濃度測定部300において模擬ガス回収バッグ9の代わりに模擬ガスリザーブバッグ5をつなげることにより測定した。すなわち、模擬ガスリザーブバッグ5中のガスを移送ポンプ(図示せず)により222Rn濃度モニター10に移送した。模擬ガスリザーブバッグ5中
222Rn濃度は、222Rn濃度モニター10により測定した。得られた222Rn濃度は1
2000(Bq/Nm3)であった。
【0103】
<吸着試験部200>
模擬ガスリザーブバッグ5内の222Rn含有模擬ガスを移送ポンプ(供給ポンプ6)で
流した。このときマスフローコントローラー7で流量を制御した。流路表面(供給ポンプ6およびマスフローコントローラー7)が吸着平衡に達するまでは吸着剤には通気せず、バルブ206を通じてパージラインから排気した。
【0104】
吸着平衡に達した後、222Rn濃度(G222’)12000(Bq/Nm3)である222Rn含有模擬ガスを、圧力(P’)0.1(MPa)で吸着剤に通気し、通気後の模擬ガスを模擬ガス回収バッグ9に回収した。回収バッグを10分または20分ごとに交換し、模擬ガス回収バッグにガスを回収した。
【0105】
222Rn濃度測定部300>
それぞれの模擬ガス回収バッグ9中のガスを移送ポンプ11により222Rn濃度モニタ
ー10に移送した。それぞれの模擬ガス回収バッグ9中の222Rn濃度は、ポンプを停止
し大気圧とした後、222Rn濃度モニター10によりただちに測定した。
【0106】
ここで、得られた模擬ガス回収バッグ9中の222Rn濃度を順次求めたが、4個目のバ
ッグの測定により、破過が確認された。このため、吸着試験部200での吸着試験は4個目のバッグで終了した。
【0107】
次いで、ガス体積を流量および時間から計算し、破過曲線から222Rn吸着量を求めた

【0108】
(iii)結果
モレキュラーシーブ4Aへの222Rn吸着試験の破過曲線と平衡吸着係数を求めた。
【0109】
図3にモレキュラーシーブ4Aへの222Rn吸着試験の破過曲線(1回目の破過曲線)
を示す。
【0110】
なお、図3において、縦軸の222Rn濃度比は、(模擬ガス回収バッグ中の222Rn濃度/模擬ガスリザーブバッグ中の222Rn濃度)を計算して求めた値であり、(容器の出口
での222Rn濃度/容器の入口での222Rn濃度)とみなせる。横軸の接触時間は、吸着カラム8への模擬ガスの流通を開始してからの時間である。
【0111】
この破過曲線から、吸着剤の単位質量あたりの222Rn平衡吸着量(A222’)を求め、さらに上記式(1)より平衡吸着係数(k)を求めたところ、平衡吸着係数(k)は、0.037(m3/kg)となった。
【0112】
吸着試験において、222Rn含有模擬ガス中の222Rn濃度(G222’)を8200また
は17000(Bq/Nm3)としたこと以外は1回目と同様にして、222Rn吸着試験の破過曲線を求めた。図3に、2回目の破過曲線および3回目の破過曲線も合わせて示す。222Rn濃度(G222’)が異なっても1回目と同様の破過曲線が得られた。
【0113】
[実施例2]
実施例1で求めたモレキュラーシーブ4Aへの平衡吸着係数(k)をもとに、LNGプ
ラントの脱水プロセスおける222Rn崩壊生成物(210Pb)の蓄積量および吸着剤交換期間を求めた。
【0114】
(i)吸着剤
乾燥処理したモレキュラーシーブ4A(実施例1と同一の吸着剤であり、平衡吸着係数
(k)は、0.037(m3/kg))を用いる場合を想定した。
【0115】
(ii−1)蓄積量の評価方法
LNGプラントの脱水プロセスを想定した。計算条件は、天然ガス中222Rn濃度(G222)1000Bq/m3、常温(25℃)、圧力(P)5.5MPaとした。また、稼働
率τは吸着剤の乾燥工程を考慮して総運転時間の2/3とした。すなわち、吸着剤を充填した吸着塔を複数並列につなげ、これらの吸着塔を交互に使用する場合を想定した。
【0116】
このとき、吸着剤に接するガス中の222Rn濃度(10PG222)は55000Bq/m3となるため、吸着剤中の222Rn濃度は平衡吸着係数を乗じた値2035Bq/kg(2.035Bq/g)となる。プロセス稼働中吸着剤は常に222Rnと接するため222Rn濃度が一定であると仮定すると、吸着剤中の222Rn濃度も一定に維持されることになる。
このとき、短寿命の222Rn崩壊生成物は直ちに放射平衡に到達し、210Pbが2.035atm/g/sで生成される。次いで、上記式(3)より、210Pb蓄積量(C222)と使用時間(T)との関係を求めた(図4)。
【0117】
(iii−1)蓄積量の評価結果
吸着剤使用年数と210Pbの蓄積量との関係を示した図4より、モレキュラーシーブ4
Aを用いた脱水プロセスにおいては、222Rn濃度1000Bq/m3の天然ガスを処理した場合、吸着剤中の210Pbの蓄積量は、たとえば5年後において0.20Bq/g程度
となることが予測できた。
【0118】
(ii−2)交換時期の評価方法
また、天然ガス中222Rn濃度(G222)を上記の1000Bq/m3以外に変化させた
場合についても、上記と同様に吸着剤使用年数と210Pbの蓄積量との関係が求められる
ため、該関係を求めた後、222Rn濃度(G222)に対して、吸着剤中の210Pb蓄積量が
規制免除レベルに達する期間(吸着剤の交換期間)をプロットした。ここで、規制免除レベルとはこの濃度以下であれば放射性物質としての規制を適用する必要がない濃度であり、今回はIAEAが提唱している1Bq/gとして計算した。
【0119】
(iii−2)交換時期の評価結果
天然ガス中222Rn濃度と吸着剤中の210Pb蓄積量が規制免除レベルに達する使用期間との関係を示した図5より、この吸着剤で、たとえば222Rn濃度10000Bq/m3の天然ガスを処理する場合、交換期間を2.5年程度以下に設定すれば、1Bq/gに達することなく、使用済み吸着剤を放射性物質として取り扱う必要がないことが予測できた。
【0120】
[実施例3]
吸着剤としてシリカゲルを用い、この場合の222Rn破過曲線を求め、平衡吸着係数を
算出した。なお、平衡吸着係数の定義は、上述したように次の通りとする。
【0121】
平衡吸着係数(m3/kg)=吸着剤中の222Rn濃度(Bq/kg)/模擬ガス中の222Rn濃度(Bq/m3
ただし、これらの濃度は平衡吸着到達時の濃度である。
【0122】
(i)吸着剤
吸着剤として、乾燥処理した耐水性シリカゲルを用いた。
【0123】
(ii)実施方法
試験装置・試験方法は実施例1と同様である。すなわち、吸着剤としてシリカゲルを用
いたこと、回収バッグを15分または20分ごとに交換し、模擬ガス回収バッグ4個にガス全量を回収したこと以外は、は実施例1と同様に行った。
【0124】
なお、実施例3においても、得られた模擬ガス回収バッグ9中の222Rn濃度を順次求
めたが、実施例1と同様に、4個目のバッグの測定により、破過が確認された。このため、吸着試験部200での吸着試験は4個目のバッグで終了した。
【0125】
(iii)結果
シリカゲルへの222Rn吸着試験の破過曲線と平衡吸着係数を求めた。
【0126】
図6にシリカゲルへの222Rn吸着試験の破過曲線を示す。
【0127】
なお、図6において、縦軸の222Rn濃度比は、(模擬ガス回収バッグ中の222Rn濃度/模擬ガスリザーブバッグ中の222Rn濃度)を計算して求めた値であり、(容器の出口
での222Rn濃度/容器の入口での222Rn濃度)とみなせる。横軸の接触時間は、吸着カラム8への模擬ガスの流通を開始してからの時間である。
【0128】
この破過曲線から、吸着剤の単位質量あたりの222Rn平衡吸着量(A222’)を求め、さらに上記式(1)より平衡吸着係数(k)を求めたところ、平衡吸着係数(k)は、0.076(m3/kg)となった。
【0129】
[実施例4]
実施例3で求めたシリカゲルへの平衡吸着係数(k)をもとに、LNGプラントの脱水プロセスおける222Rn崩壊生成物(210Pb)の蓄積量および吸着剤交換期間を求めた。
【0130】
(i)吸着剤
乾燥処理したシリカゲル(実施例3と同一の吸着剤であり、平衡吸着係数(k)は、0
.076(m3/kg))を用いる場合を想定した。
【0131】
(ii−1)蓄積量の評価方法
LNGプラントの脱水プロセスを想定した。計算条件は、天然ガス中222Rn濃度(G222)1000Bq/m3、常温(25℃)、圧力(P)5.5MPaとした。また、稼働
率τは吸着剤の乾燥工程を考慮して総運転時間の2/3とした。すなわち、吸着剤を充填した吸着塔を複数並列につなげ、これらの吸着塔を交互に使用する場合を想定した。
【0132】
このとき、吸着剤に接するガス中の222Rn濃度(10PG222)は55000Bq/m3となるため、吸着剤中の222Rn濃度は平衡吸着係数を乗じた値4180Bq/kg(4.18Bq/g)となる。プロセス稼働中吸着剤は常に222Rnと接するため222Rn濃度が一定であると仮定すると、吸着剤中の222Rn濃度も一定に維持されることになる。こ
のとき、短寿命の222Rn崩壊生成物は直ちに放射平衡に到達し、210Pbが4.18atm/g/sで生成される。上記式(3)より、210Pb蓄積量(C222)と使用時間(T)との関係を求めた(図7)。
【0133】
(iii−1)蓄積量の評価結果
吸着剤使用年数と210Pbの蓄積量との関係を示した図7より、シリカゲルを用いた脱
水プロセスにおいては、222Rn濃度1000Bq/m3の天然ガスを処理した場合、吸着剤中の210Pbの蓄積量は、たとえば5年後において0.40Bq/g程度となることが
予測できた。
【0134】
(ii−2)交換時期の評価方法
また、天然ガス中222Rn濃度(G222)を上記の1000Bq/m3以外に変化させた
場合についても、上記と同様に吸着剤使用年数と210Pbの蓄積量との関係が求められる
ため、該関係を求めた後、222Rn濃度(G222)に対して、吸着剤中の210Pb蓄積量が
規制免除レベルに達する期間(吸着剤の交換期間)をプロットした。ここで、規制免除レベルとはこの濃度以下であれば放射性物質としての規制を適用する必要がない濃度であり、今回はIAEAが提唱している1Bq/gとして計算した。
【0135】
(iii−2)交換時期の評価結果
天然ガス中222Rn濃度と吸着剤中の210Pb蓄積量が規制免除レベルに達する使用期間との関係を示した図8より、この吸着剤で、たとえば222Rn濃度10000Bq/m3の天然ガスを処理する場合、交換期間を1年程度以下に設定すれば、1Bq/gに達することなく、使用済み吸着剤を放射性物質として取り扱う必要がないことが予測できた。
【0136】
[実施例5]
内径2cmのU字ガラス管にシリカゲルおよびモレキュラーシーブ(4A)を20g充填し、222Rn濃度8〜15kBq/m3のArガスを温度を変化させて異なる温度で流通させた。流通前後での222Rn濃度を測定し、222Rnの減少量の経時変化から吸着剤の222Rn吸着係数(平衡吸着係数(m3/kg)=吸着剤中の222Rn濃度(Bq/kg)/Arガス中の222Rn濃度(Bq/m3))を測定した。すなわち、実施例1と同様の手順で222Rn吸着係数を求めた。
【0137】
吸着前後の222Rn濃度比の経時変化を図9に示す。222Rnはシリカゲルおよびモレキュラーシーブに平衡吸着することが分かった。各吸着剤の222Rn吸着係数の温度依存性
と温度の関係を図10に示す(なお、図10において、モレキュラーシーブのデータはイメージである。)。
【0138】
この吸着係数を用いて、210Pbの蓄積により放射能がIAEAの提唱する規制除外濃
度(1Bq/g)(*1)に達するまでの操業期間と天然ガス中222Rn濃度の関係を解明し
た。すなわち、実施例2と同様の手順で上記関係を求めた。一方、大部分のガス田における222Rn濃度は数kBq/m3以下である(*2)。その結果、LNGプラントの脱水塔において吸着剤を5〜10年間使用する場合、大部分のガス田では210Pb蓄積量は規制除外
濃度に達しないという評価結果が得られた。
【0139】
(*1)IAEA, IAEA Safety Guide No.RS-G-1.7 (2004)
(*2)Hamlat, M. S. et al., Applied Radiation and Isotopes, 58, 125-130 (2003)
【符号の説明】
【0140】
100: 模擬ガス調製部
1: キャリアガスボンベ
2: 222Rn供給容器
3: フィルター
4: 移送ポンプ
5: 模擬ガスリザーブバッグ
200: 吸着試験部
6: 供給ポンプ
7: マスフローコントローラー
8: 吸着カラム
9: 模擬ガス回収バッグ
300: 222Rn濃度測定部
10: 222Rn濃度モニター
11: 移送ポンプ
303: フィルター
304: 測定済み模擬ガス回収バッグ
400: 脱着法による吸着量測定部
402: 脱着キャリアガスボンベ
12: 加熱ヒーター
13: 222Rn含有ガス回収バッグ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸着剤が充填された吸着カラムに、炭化水素流体を流通させ、該炭化水素流体の不純物を除去する不純物除去工程を含む炭化水素流体処理プロセスにおいて、該吸着剤に対し、該不純物とともに吸着する222Rnが崩壊して生成する210Pb、210Biまたは210Poのいずれか1種以上の蓄積量を予測する方法であって、
前記吸着カラムに充填する吸着剤と同一の充填剤を入れた容器に、222Rnを含む炭化
水素流体もしくは222Rnを含む模擬流体を流通させ、破過するまで該充填剤に222Rnを吸着させる、222Rnの吸着試験工程と、
前記222Rnの吸着試験工程での破過曲線を求め、該破過曲線から前記吸着剤の平衡吸
着係数を算出する、平衡吸着係数の算出工程と、
前記平衡吸着係数の算出工程で得られた平衡吸着係数と、前記不純物除去工程における処理条件とから、前記不純物除去工程を開始してから所定の時間における210Pb、210Biまたは210Poのいずれか1種以上の蓄積量を予測する、210Pb、210Biまたは210Poのいずれか1種以上の蓄積量の予測工程と、
を含む210Pb、210Biまたは210Poのいずれか1種以上の蓄積量を予測する方法。
【請求項2】
前記平衡吸着係数の算出工程において、前記222Rnの吸着試験工程での破過曲線を求
め、該破過曲線から前記吸着剤の平衡吸着係数を算出する代わりに、前記222Rnの吸着
試験工程で吸着した222Rnを脱着させて、222Rnの脱着量から前記吸着剤の平衡吸着係数を算出することを特徴とする請求項1に記載の210Pb、210Biまたは210Poのいず
れか1種以上の蓄積量を予測する方法。
【請求項3】
吸着剤が充填された吸着カラムに、炭化水素流体を流通させ、該炭化水素流体の不純物を除去する不純物除去工程を含む炭化水素流体処理プロセスにおいて、該不純物とともに吸着する222Rnが崩壊して生成する210Pb、210Biまたは210Poのいずれか1種以上が蓄積した該吸着剤の交換時期を選定する方法であって、
前記吸着カラムに充填する吸着剤と同一の充填剤を入れた容器に、222Rnを含む炭化
水素流体もしくは222Rnを含む模擬流体を流通させ、破過するまで該充填剤に222Rnを吸着させる、222Rnの吸着試験工程と、
前記222Rnの吸着試験工程での破過曲線を求め、該破過曲線から前記吸着剤の平衡吸
着係数を算出する、平衡吸着係数の算出工程と、
前記平衡吸着係数の算出工程で得られた平衡吸着係数と、前記不純物除去工程における処理条件とから、前記不純物除去工程を開始してから、210Pb、210Biまたは210Po
のいずれか1種以上の蓄積量が所定の210Pb、210Biまたは210Poのいずれか1種以
上の蓄積量を超えない時間を算出する、交換時期の選定工程と
を含む吸着剤の交換時期を選定する方法。
【請求項4】
吸着剤が充填された吸着カラムに、炭化水素流体を流通させ、該炭化水素流体の不純物を除去する不純物除去工程を含む炭化水素流体処理プロセスにおいて、該不純物とともに吸着する222Rnが崩壊して生成する210Pb、210Biまたは210Poのいずれか1種以上が蓄積した該吸着剤の交換時期を選定する方法であって、
前記吸着カラムに充填する吸着剤と同一の充填剤を入れた容器に、222Rnを含む炭化
水素流体もしくは222Rnを含む模擬流体を流通させ、破過するまで該充填剤に222Rnを吸着させる、222Rnの吸着試験工程と、
前記222Rnの吸着試験工程で吸着した222Rnを脱着させて、222Rnの脱着量から前
記吸着剤の平衡吸着係数を算出する、平衡吸着係数の算出工程と、
前記平衡吸着係数の算出工程で得られた平衡吸着係数と、前記不純物除去工程における処理条件とから、前記不純物除去工程を開始してから、210Pb、210Biまたは210Po
のいずれか1種以上の蓄積量が所定の210Pb、210Biまたは210Poのいずれか1種以
上の蓄積量を超えない時間を算出する、交換時期の選定工程と
を含む吸着剤の交換時期を選定する方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−174883(P2011−174883A)
【公開日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−40723(P2010−40723)
【出願日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成21年8月28日 社団法人日本原子力学会発行の「日本原子力学会 2009年秋の大会 予稿集 第6頁」に発表
【出願人】(504139662)国立大学法人名古屋大学 (996)
【出願人】(000004411)日揮株式会社 (94)
【Fターム(参考)】