説明

炭化硅素(SiC)セラミック材料、その製造方法、食器、重粘土製品、および衛生陶器製品の焼成のための焼成用道具材、ならびに複合セラミック体

【課題】新規のSiCセラミック材料とその製造方法を提供する。
【解決手段】本発明は新規のSiCセラミック材料とその製造方法に関する。本発明の炭化硅素(SiC)材料は、炭化硅素(SiC)セラミック材料であって、セラミック材料が炭化硅素粒子及び1又は複数の酸化物結合相から成り、炭化硅素がセラミック材料の全重量に基づき少なくとも70重量%、好ましくは80重量%、より好ましくは80〜95重量%の範囲で存在し、炭化硅素粒子の粒度分布が、SiC細粒の少なくとも一部と非凝集SiC大粒の少なくとも一部を含む少なくとも二峰性であることを特徴とするセラミック材料二峰性である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の要旨
本発明は新規の炭化硅素(SiC)系セラミック材料、同材料から成るセラミック体、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
炭化硅素(SiC)は最も重要な非酸化物セラミック材料の一つである。炭化硅素は硬く、また熱伝導性や化学的安定性(腐食抵抗)も高いため、様々な用途で広く使用される魅力的な材料である。しかし、非酸化物セラミック材料の焼結過程は複雑で高価となりやすい。焼結条件にばらつきがあると、セラミック材料の最終的特性には大きな影響が出る。
【0003】
SiCセラミックスは通常、加圧や鋳造など従来のセラミックス成形技術を用いて成形される。成型過程後に炭化硅素を焼結してセラミック体を形成する。炭化硅素の焼結技術としてはこれまでに様々なものが開発されてきた。
【0004】
例えば、不活性(通常アルゴン)雰囲気中で2200℃以上の温度にてSiC原料を蒸発・凝縮させることで炭化硅素に再結晶過程を生じさせることができる。本過程により炭化硅素の微細構造が固化し、再結晶SiC(RSiC)として知られる材料が得られる。
【0005】
また、ホウ素−炭素系、又はアルミニウム−炭素系添加剤存在下でサブミクロンのSiC粉末を焼結することもできる。本過程は通常、不活性雰囲気中で1900〜2100℃の温度にて行われ、SSiCとして知られる材料が得られる。これらの製品の特徴は、SiC含有量が高い(通常99%以上)ことである。
【0006】
あるいは、Al2O3やY2O3などの添加剤存在下で、不活性雰囲気中で2000℃までの温度にてサブミクロンのSiC粉末を焼結することもできる。本過程では添加剤がSiCと結合して液相を形成し、材料の緻密化を加速させる。この結果得られるのがいわゆる液相焼結SiC(LPSSiC)である。
【0007】
さらに別の方法では、炭化硅素粒子を反応結合・含浸過程によって結合させることができる。この方法では、SiC原料を炭素又は炭素前駆体と混合し、これに真空含浸過程中に金属シリコンを含浸させる。1410℃以上の温度で溶融するシリコンはSiC−C体に浸透し、A)炭素と反応して微細構造中に二次SiCを形成し、B)残存する気孔を充填する。この方法は1650〜2000℃の温度で行われる。この結果得られる製品は、反応結合・シリコン含浸SiC(SiSiC)として知られる。
【0008】
また、付加的な金属シリコンを含有するSiC成形体を形成し、これを1450〜1550℃程度の温度で窒素雰囲気中で焼成する方法もある。窒素がシリコンと反応して窒化硅素Si3N4を形成し、これがSiCを結合させる。この結果得られる材料は、NSiCとして知られる。
【0009】
上述の焼結法は全て、不活性ガス又は真空条件下の焼結を必要とし、比較的高価となりやすい。
【0010】
上述の非酸化物セラミック材料は、(高温下であっても)高い曲げ強度、高温下の機械的負荷に対する小さい又は無クリープ性、侵食性環境における高温腐食抵抗、高い摩耗抵抗といった望ましい特性を有し、このためこれらの製品は高温用途の分野で注目されている。しかし、これらの高性能炭化硅素材料は製造コストが高いためにその使用が限られている。上述の高性能SiC材料は軽量炉用支持具製品の寿命を高めるためにその被覆物として用いられることがある。
【0011】
一方で、アルミナシリケート化合物を基礎とする従来のセラミック結合剤を用いて、いわゆるKSiC(セラミック結合SiC)を得ることが可能である。ここでは、比較的粗いSiC粒子をクレーやその他のシリケートなどのアルミノシリケートと混合し、成形した製品を1400℃までの温度で通常はガス窯内の酸化雰囲気下で焼成する。アルミノシリケート結合SiC材料の製造コストは上述の高性能SiCに比べ格段に低い。しかし、これら材料の曲げ強度や高温クリープ抵抗といった材料特性は高性能SiC材料に比べて相対的に劣っている。
【0012】
セラミック結合SiC製品は耐火材料として広く用いられ、通常、充分な機械的安定性を持たせるために高重量でなければならない。セラミック結合SiCは一般に、比較的強度が低く高温クリープ特性が劣るため、軽量炉用支持具に適用することはできない。
【0013】
ムライト、コーディエライト、アルミナシリケート、又はこれらの複合体に基づく酸化物セラミックスは比較的製造コストが低いため、高温用途において一般に用いられている。酸化物セラミックスの焼成は普通、空気雰囲気中でガス窯大気炉を用いて行われ、真空又は不活性ガス炉に比べてコストはかなり低い。
【0014】
従って、製造コストが低く、材料特性が許容範囲であることから、屋根瓦(後に重粘土製品と呼ぶ)焼成用の炉用支持具(Hカセット)などの用途において酸化物セラミックスが高性能SiCセラミックスの代わりに用いられることもしばしばである。コーディエライト系のHカセットは、熱機械的安定性を保つため比較的高重量であり、焼成過程においてエネルギー消費が比較的高い。高性能SiCセラミックス製のHカセットであれば、これよりかなり軽量に設計することができるだろう。しかし、高性能SiCは製造コストが高く、このような用途には用いることができないのが普通である。
【0015】
ガス窯大気炉にて空気雰囲気中で軽量・高性能SiCセラミックスを焼成する方法があれば、製造コストを大きく低減し用途分野を拡大することができるだろう。
【0016】
炉用支持具としての使用に適しているとされる酸化物結合炭化硅素は例えば欧州特許第1728774号公開公報に提供されている。欧州特許第1728774号公開公報に記載の材料は、SiCの粗骨材(50〜200ミクロン)と、より細かい(10ミクロン以下)SiC、SiO2個々の粒子と、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cuのいずれかより成る酸化物系の添加剤との混合物から成る。欧州特許第1728774号公開公報では、SiO2に加えてV2O5が好ましい焼成添加剤として挙げられているが、V2O5は毒性が極めて高く、工業製造における使用は望ましくない。
【0017】
食器、衛生陶器、重粘土製品等のセラミック製品製造に用いられる薄壁プレート、バット、その他複雑な形状の炉用支持具などの軽量酸化物結合SiC材料はこれまでに民間のセラミック用途に用いられることはなかった。既存の酸化物結合SiC材料は酸化抵抗が不十分で寿命が短いため、炉用支持具として問題なく使用するには限度があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】欧州特許第1728774号公開公報
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0019】
発明の簡単な説明
本明細書で述べる通り、本発明は炭化硅素(SiC)セラミック材料に関し、このセラミック材料は炭化硅素粒子及び1又は複数の酸化物結合相から成り、炭化硅素がセラミック材料の全重量に基づき少なくとも70重量%、好ましくは80重量%、より好ましくは80〜95重量%の範囲で存在し、炭化硅素粒子の粒度分布が、SiC細粒の少なくとも一部とSiC大粒の少なくとも一部を含む少なくとも二峰性であることを特徴とする。一実施形態において、炭化硅素粒子の粒度分布は二峰性であることがより好ましい。
【0020】
さらなる実施形態において、セラミック材料中のSiC細粒の平均粒度(D50)が0.5〜6μm、好ましくは1.0〜5.0μm、より好ましくは1.0〜3.0μmの範囲であり、SiC細粒部分が30〜60重量%を占める。
【0021】
さらなる実施形態において、セラミック材料中のSiC大粒の平均粒度(D50範囲)が50〜800μm、好ましくは50〜100μm、より好ましくは60〜80μmの範囲であり、全組成中70〜40重量%を占めるか、あるいは、平均粒度(D50)が500〜800μm、より好ましくは600〜700μmの範囲であり、組成中70〜40重量%を占める。別の実施形態において、SiC大粒は主に上述の平均粒度を有する個別の非凝集粒子から成る。
【0022】
さらなる実施形態において、セラミック材料の酸化物結合相は、セラミック材料の全重量に基づく5〜25重量%、好ましくは5〜15重量%の範囲のクリストバライトから成る。さらなる実施形態において、セラミック材料の酸化物結合相はさらに、アルミニウム、マグネシウム、イットリウム、バナジウムから選択される1又は複数の元素を含む。
【0023】
セラミック材料の曲げ強度(MOR)は25〜200MPa、好ましくは60〜170MPa、より好ましくは80〜150MPaの範囲とすることができる。セラミック材料の熱クリープ抵抗は0.01〜4mm、好ましくは0.01〜1mm、より好ましくは0.01〜0.2mmの範囲とすることができる。室温から1000℃までの熱膨張係数は、4x10−6K−1〜6x10−6K−1の範囲とすることができる。
【0024】
本発明はさらに、上述の炭化硅素セラミック材料の製造過程に関し、
a) SiC細粒の少なくとも一部とSiC大粒の少なくとも一部を含む少なくとも二峰性の粒度分布を有する炭化硅素粒子の混合物を提供し、
b) 工程aの混合物を、無機バナジウム化合物、酸化イットリウム(Y2O3)、イットリウム・アルミナ組成物、イットリウム・アルミナ・ガーネット(YAG)、イットリウム・シリケート組成物、イットリウム・アルミナ・シリカ組成物、アルミナ・シリケート組成物、マグネシア・アルミナ組成物、マグネシア・アルミナ・スピネル組成物、シリカから選択される1又は複数の化合物から成る結合剤と混合し、結合剤は乾燥組成物中に合計で0.1〜10重量%で存在し、
c) 組成物に成型工程を施しセラミック素地を得て、
d) セラミック素地に、第1焼成工程を酸素含有雰囲気存在下で行なう一連の焼成工程から成る焼成サイクルを施すことを特徴とする。
【0025】
さらなる実施形態において、本発明の方法の焼成サイクルは2以上の焼成工程から成る。
【0026】
さらなる実施形態において、上記方法の第1焼成工程の雰囲気は6〜10容量%の酸素ガスから成る。
【0027】
さらなる実施形態において、上記方法の第1焼成工程は室温から1300℃の温度範囲で、好ましくは500〜1000℃の延長酸化期間を設けて行なわれる。
【0028】
第1焼成工程の後に1000〜1300℃の移行期間が続き、この間に雰囲気中の酸素量を徐々に低下させ第2焼成工程へと続ける。
【0029】
さらなる実施形態において、上記方法の第2焼成工程は1000〜1550℃、好ましくは1300〜1450℃の範囲の温度にて行なわれる。
【0030】
さらなる実施形態において、上記方法の第2焼成工程の雰囲気は1〜2.5%の一酸化炭素ガスから成り、すなわち雰囲気中に自由酸素のない状態である。
【0031】
あるいは、第2焼成工程の後に、大気などの酸化雰囲気下の冷却移行期間を続けて行なってもよい。
【0032】
本発明の方法において、SiC細粒部分のd50値は1.0〜5.0μm、好ましくは1.0〜3.0μmの範囲とすることができる。本発明の方法において、SiC大粒部分のd50値は50〜100μm、好ましくは60〜80μmの範囲であり、あるいは500〜800μm、好ましくは600〜700μmの範囲とすることができる。
【0033】
本発明はさらに、食器、衛生陶器、重粘土製品等の焼成用の、酸化物結合炭化硅素材料から成る軽量炉用支持具に関し、同材料は炭化硅素粒子及び1又は複数の酸化物結合相から成り、炭化硅素はセラミック材料の全重量に基づき少なくとも70重量%、好ましくは80重量%、より好ましくは80〜95重量%の範囲で存在し、炭化硅素粒子の粒度分布が、SiC細粒の少なくとも一部とSiC大粒の少なくとも一部を含む少なくとも二峰性である。
【0034】
本発明はさらに、食器、衛生陶器、重粘土製品等の焼成用の、炭化硅素セラミック製炉用支持具の製造過程に関し、
a) SiC細粒の少なくとも一部とSiC大粒の少なくとも一部を含む少なくとも二峰性の粒度分布を有する炭化硅素粒子の混合物を提供し、
b) 工程aの混合物を、無機バナジウム化合物、酸化イットリウム(Y2O3)、イットリウム・アルミナ組成物、イットリウム・アルミナ・ガーネット(YAG)、イットリウム・シリケート組成物、イットリウム・アルミナ・シリカ組成物、アルミナ・シリケート組成物、マグネシア・アルミナ組成物、マグネシア・アルミナ・スピネル組成物、シリカから選択される1又は複数の化合物から成る結合剤と混合し、結合剤は乾燥組成物中に合計で0.1〜10重量%で存在し、
c) 組成物に、好ましくは鋳造工程を含む成型工程を施し、食器、衛生陶器、重粘土製品等の焼成用の、炉用支持具セラミック素地体を得て、
d) 食器、衛生陶器、重粘土製品等の焼成用の炉用支持具セラミック素地体に、第1焼成工程を酸素含有雰囲気存在下で行なう一連の焼成工程から成る焼成サイクルを施すことを特徴とする。
【0035】
本発明はさらに、SiO2から成る外側保護層に囲まれる酸化物結合炭化硅素芯部から成るセラミック複合体に関する。酸化物結合炭化硅素芯部は炭化硅素粒子及び1又は複数の酸化物結合相から成る。好ましくは、炭化硅素がセラミック材料の全重量に基づき少なくとも70重量%、より好ましくは80重量%、さらに好ましくは80〜95重量%の範
囲で存在する。炭化硅素粒子の粒度分布が、SiC細粒の少なくとも一部とSiC大粒の少なくとも一部を含む少なくとも二峰性であることが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】図1は本発明に係るセラミック材料の試料断面を倍率50倍で示す顕微鏡写真である。
【図2】図2は本発明に係るセラミック材料の試料断面を倍率2500倍で示す顕微鏡写真である。
【図3】図3は本発明に係るセラミック材料の試料の一端縁断面を倍率200倍で示す顕微鏡写真である。
【図4】図4は本発明に係るセラミック材料の試料断面を倍率50倍で示す顕微鏡写真である。
【図5】図5は本発明に係るセラミック材料の試料断面を倍率2500倍で示す顕微鏡写真である。
【図6】図6は本発明に係るセラミック材料の試料の一端縁断面を倍率200倍で示す顕微鏡写真である。
【図7】図7は本発明に係るセラミック材料の試料断面を倍率50倍で示す顕微鏡写真である。
【図8】図8は本発明に係るセラミック材料の試料断面を倍率2500倍で示す顕微鏡写真である。
【図9】図9は本発明に係るセラミック材料の試料の一端縁断面を倍率200倍で示す顕微鏡写真である。
【図10】図10は本発明に係るセラミック材料の試料断面を倍率50倍で示す顕微鏡写真である。
【図11】図11は本発明に係るセラミック材料の試料断面を倍率2500倍で示す顕微鏡写真である。
【図12】図12は本発明に係るセラミック材料の試料の一端縁断面を倍率200倍で示す顕微鏡写真である。
【図13】図13は本発明のセラミック材料の高温クリープ抵抗測定に用いる技術機器を示す。
【発明を実施するための形態】
【0037】
発明の詳細な説明
本発明のSiCセラミック材料は、最終製品におけるSiC粒度分布が少なくとも二峰性であることを特徴とする。SiC大粒は酸化物結合相中に埋め込まれ、同酸化物結合相はさらにSiC細粒を含んでいる。
【0038】
SiCセラミック最終製品中の粒度分布は、セラミック素地調合時の出発材料として少なくとも二峰性の粒度分布を有するSiC粒子混合物を用いることによって生成される。出発材料の粒度は焼結過程中も基本的に維持されるため、最終製品中の粒度分布は出発材料中の粒度分布によってほとんど決定される。
【0039】
本明細書中で使用する「二峰性粒度分布」とは、全粒度範囲に渡る累積粒度(%)の微分係数を粒度の関数として表したとき、得られる関数に2つの極大値(本明細書中では最頻値ともいう)が現れる粒度分布を意味する。
【0040】
一局面において、本発明は酸化物結合を利用した新規のSiC結合メカニズムを提供するもので、この酸化物結合は、原料混合物中のSiC粉体の二峰性分布のうち細粒部分の比較的大きな比表面積に合わせて酸化を行なうことで得られる。SiCの酸化は、例えば空気雰囲気中のガス窯など、酸素含有雰囲気中の大気炉内にてSiC粒子表面を熱酸化さ
せることで得られる。SiC粒子表面が酸化する結果、SiO2が形成されるが、これは主な酸化物結合相として存在するか、あるいは以下の実施例で述べるようにその他の酸化物相と共に存在する。
【0041】
この酸化過程で生成される酸化物結合部は、製品断面全体に渡ってSiC粒子を結合させるに充分なよう均一化することができ、その結果、曲げ強度(MOR)などの機械的強度が高いものとなる。
【0042】
SiC粒子表面が完全に酸化し粒子間に結合部が形成された後は、SiC粒子表面が所望の程度を越えて酸化するのを防止するため、製品の外表面を非晶質SiO2を主成分とする層により密封してもよい。これは、成形後のSiC製品に対し2工程から成る別個の焼成サイクルを行なうことで得られる。まず、SiC細粒表面が製品断面全体に渡って酸化するに充分な高さの比較的低温に製品を熱するが、これは機械的に安定な結合部を形成するための前条件となる。第1酸化加熱工程の後に、製品を最大焼成温度にまで熱し、
A:外表面にSiO2を主成分とする非晶質層を形成し、製品の内部断面を密封してSiCが過度に、すなわち破壊的に酸化するのを防ぎ、
B:さらに結晶化過程を加えればSiC粒子間に均質な化学結合部が形成される。
【0043】
第2加熱サイクル工程は好ましくは炉雰囲気の酸素量調節と併せて行なうとよく、これにより多価成分を選択的に還元することができる。
【0044】
理論に制限されるべきものではないが、本発明における素地体中に、SiC細粒部分が30〜60%の範囲の重量%を占め、d50値が1.0〜5.0μm、好ましくは1.0〜3.0μmの範囲である、少なくとも2要素を含む(sic)粒度分布を用いることにより、以下の利点が得られると考えられる:
A:30〜60重量%の緻密な極細粒子結合マトリックスにより、ミクロン、サブミクロンレベルでのSiC細粒のSiO2結合が非常に緩やかに、かつ制御し易く進み、さらに、SiC粗粒は粗粒同士が直接接触することなく埋め込まれる(図1〜12)。この結合マトリックスはSiC細粒と、SiO2と、無機バナジウム化合物、酸化イットリウム(Y2O3)、イットリウム・アルミナ組成物、イットリウム・アルミナ・ガーネット(YAG)、イットリウム・シリケート組成物、イットリウム・アルミナ・シリカ組成物、アルミナ・シリケート組成物、マグネシア・アルミナ組成物、マグネシア・アルミナ・スピネル組成物、シリカから選択される1又は複数の化合物から成る結合剤とから成り、その微細構造中に細孔を有し(図1〜12)、これが炉用支持具としての使用から発生する熱サイクルによる熱機械的ストレスを相殺すると考えられる。本明細書中で述べるように高純度SiC及び高純度焼結添加剤を用いる結果、SiC細粒表面の酸化もまた高純度で行われ、これにより非晶質相含有量が非常に低くなり、負荷及び高温下の極めて高いクリープ抵抗が得られる。
B:従来の鋳造法、低圧鋳造、高圧鋳造などのスリップ鋳込み成形法に特に適したスリップ組成物は、粘性が低いながら含水量は低く、非常に安定した流動学的特性を有する。これにより、重粘土製品用の軽量Hカセットや食器用の二重セッターなどの、複雑形状で薄壁の炉用支持具を製造する上で有利となる。ここで、壁厚みは8mm又は7mm又は6mm又は5mm又は4mm又は3mmの範囲とすることができるが、これに限られない。
【0045】
実験の部
A.方法及び機器
スラリーの粘性は、30SWGねじりワイヤ及び1/4インチシリンダを用い、GALLENKAMP社製のねじり粘度計VHA−200−Mにて測定した。
【0046】
密度、気孔率、吸水率は、EN規格993−1に従って測定した。
曲げ強度は、150x20x8mmの試料の焼成表面に対して、120mm範囲で負荷速度0.15MPa/secにて3点曲げ試験を行い測定した。機器は、METEFEM社製の曲げ試験機XP−01のMH−1/AS102型を使用した。
【0047】
高温クリープ試験は150x20x8mmの棒状試料に対して行った。試料は125mmの間隔をあけて両端で支持されている。
【0048】
試料上面の62.5mm間隔の2点に、圧力10MPaに相当する重りを用いて負荷を加えた。実負荷のグラム数は棒状試料の実寸法に基づき各試料ごとに算出している。
【0049】
負荷後の試料は以下のサイクルで焼成している:
加熱工程 加熱速度0.69℃/分で100−700℃
酸化工程 700−800℃で35時間
加熱工程 加熱速度0.73℃/分で800−1400℃
浸漬時間 1400℃にて4時間
冷却工程 冷却速度1.12℃/分で1400−200℃
変形は焼成前及び焼成後の試料の平坦度差として記録している。図4に平坦度測定機器を示している。
【0050】
酸化抵抗試験は実験炉内で電気加熱により行なった。試料に繰り返し熱処理を施し、重量増加率(%)を測定した。熱処理は次の工程で構成した:
加熱工程 加熱速度3.1℃/分で100−1330℃
浸漬時間 1330℃にて3時間
冷却工程 冷却速度4.1℃/分で1330−100℃
熱膨張率はNetsch社製膨張計402Eにて加熱速度10℃/分にて測定した。試料の支持体にはAl2O3を用いた。
【0051】
相分析はJEOL社製X線回折装置JDX−8S型にて行い、ソフトウェアXDB(粉末回折相分析システム)を用いて相を分析した。
【0052】
B.実施例
以下の実施例を用いて本発明をさらに説明する。
【0053】
スラリー調合:
スラリー調合は6kg単位で行なう。水と解膠剤を混ぜ合わせる。結合剤を形成する成分を加え、混合物を15分間均質化する。SiC粉末の細粒分を加え、スラリーを1時間均質化する。SiC粉末の粗粒分を加え、スラリーを再び1時間均質化する。スラリーを鋳造する前に24時間低速撹拌し続ける。
鋳造:
試料の成形は石膏型を用い従来の鋳造法で行なう。試料は150x20x8mm寸法で棒状に鋳造する。約60分間の固化時間後、棒状素地を型から取り出す。試料を空気中で2時間乾燥させた後、110℃の乾燥機内に3時間置く。
焼成:
焼成はガス炉にて次のサイクルで行なう:
加熱工程 加熱速度0.69℃/分で100−700℃(酸素:6〜10%)
酸化工程 700−800℃で35時間(酸素:6〜10%)
加熱工程 加熱速度0.73℃/分で800−1300℃、酸素量低下(酸素:4〜8%)
加熱工程 加熱速度0.73℃/分で1300−1410℃(一酸化炭素:1〜2.5%)
浸漬時間 1410℃にて4時間(一酸化炭素:1〜2.5%)
冷却工程 冷却速度1.12℃/分にて1300−200℃(酸素:20〜21%)
全15個の実施例を作製した。実施例に使用したスラリーの厳密な組成は表1に示す通りである。得られたセラミック材料の特性を表2、表3にそれぞれまとめる。
【0054】
本発明に係るセラミック材料の内部微細構造は図1〜12に示す通りである。図1〜3は、実施例8(Y4、表1〜3を参照)の組成を有する本発明のセラミック材料試料の断面を示している。マトリックス中のSiC粒子の二峰性粒度分布は図1、2から明らかである。図3はセラミック試料の一端縁の断面を示し、非晶質層がセラミック材料の外側にあるのが見える。
【0055】
上述と同様の構造上の特徴は、実施例9、10、11の組成を有するセラミック材料にも存在する。図4〜6は実施例9(Sp2V、表1〜3を参照)の組成を有する本発明のセラミック材料試料の断面を示している。図7〜9は実施例10(713/1、表1〜3を参照)の組成を有する本発明のセラミック材料試料の断面を示している。図10〜12は実施例11(713/3、表1〜3を参照)の組成を有する本発明のセラミック材料試料の断面を示している。
【0056】
上述の材料特性から、本発明の材料が食器、衛生陶器、重粘土製品等の焼成に用いられる炉の炉用支持具や裏張り材料など、高温かつ化学的ストレスを受ける過酷な用途に適していることが分かる。
【0057】
【表1】

【0058】
【表2】

【0059】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化硅素(SiC)セラミック材料であって、セラミック材料が炭化硅素粒子及び1又は複数の酸化物結合相から成り、炭化硅素がセラミック材料の全重量に基づき少なくとも70重量%、好ましくは80重量%、より好ましくは80〜95重量%の範囲で存在し、炭化硅素粒子の粒度分布が、SiC細粒の少なくとも一部と非凝集SiC大粒の少なくとも一部を含む少なくとも二峰性であることを特徴とするセラミック材料。
【請求項2】
SiC細粒の平均粒度が0.5〜6μm、好ましくは1.0〜5.0μm、より好ましくは1.0〜3.0μmの範囲である請求項1に記載のセラミック材料。
【請求項3】
SiC大粒の平均粒度が50〜800μm、好ましくは50〜100μm、より好ましくは60〜80μmの範囲、あるいは、好ましくは500〜800μm、より好ましくは600〜700μmの範囲である請求項1又は2に記載のセラミック材料。
【請求項4】
酸化物結合相が、セラミック材料の全重量に基づく5〜25重量%、好ましくは5〜15重量%の範囲のクリストバライトから成る請求項1〜3のいずれか一項に記載のセラミック材料。
【請求項5】
酸化物結合相がさらに、アルミニウム、マグネシウム、イットリウム、バナジウムから選択される1又は複数の元素を含む請求項4に記載のセラミック材料。
【請求項6】
材料の曲げ強度(MOR)が25〜200MPa、好ましくは60〜170MPa、より好ましくは80〜150MPaの範囲であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載のセラミック材料。
【請求項7】
材料の熱クリープ抵抗が0.01〜4mm、好ましくは0.01〜1mm、より好ましくは0.01〜0.2mmの範囲であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載のセラミック材料。
【請求項8】
室温から1000℃までの熱膨張係数が4x10−6K−1〜6x10−6K−1の範囲であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載のセラミック材料。
【請求項9】
SiC細粒部分が組成の30〜60重量%を占めることを特徴とする請求項1〜8のいずれか一項に記載のセラミック材料。
【請求項10】
SiC粗粒部分が組成の70〜40重量%を占めることを特徴とする請求項1〜9のいずれか一項に記載のセラミック材料。
【請求項11】
a)SiC細粒の少なくとも一部とSiC大粒の少なくとも一部を含む少なくとも二峰性の粒度分布を有する炭化硅素粒子の混合物を提供し、
b)工程aの混合物を、無機バナジウム化合物、酸化イットリウム(Y2O3)、イットリウム・アルミナ組成物、イットリウム・アルミナ・ガーネット(YAG)、イットリウム・シリケート組成物、イットリウム・アルミナ・シリカ組成物、アルミナ・シリケート組成物、マグネシア・アルミナ組成物、マグネシア・アルミナ・スピネル組成物、シリカから選択される1又は複数の化合物から成る結合剤と混合し、結合剤は乾燥組成物中に合計で0.1〜10重量%で存在し、
c)組成物に成型工程を施しセラミック素地を得て、
d)セラミック素地に、第1焼成工程を酸素含有雰囲気存在下で行なう一連の焼成工程から成る焼成サイクルを施すことを特徴とする、請求項1に記載の炭化硅素セラミック材料
の製造過程。
【請求項12】
成型工程がスリップ鋳込み成形から成る請求項11に記載の過程。
【請求項13】
焼成サイクルが2以上の焼成工程から成る請求項11に記載の方法。
【請求項14】
第1焼成工程の雰囲気が6〜10容量%の酸素ガスから成る請求項11に記載の方法。
【請求項15】
第1焼成工程が室温から1300℃の温度範囲で、好ましくは500〜1000℃の延長酸化期間を設けて行なわれる請求項11に記載の方法。
【請求項16】
第2焼成工程が1200〜1550℃、好ましくは1300〜1450℃の温度範囲にて行なわれる請求項13に記載の方法。
【請求項17】
第2焼成工程が1200〜1550℃、好ましくは1300〜1450℃の温度範囲にて行なわれ、雰囲気が1〜2.5容量%の一酸化炭素から成る請求項11〜16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
SiC細粒部分のd50値が1.0〜5.0μm、好ましくは1.0〜3.0μmの範囲であり、全組成中の30〜60重量%を占める請求項11に記載の方法。
【請求項19】
SiC大粒部分のd50値が50〜100μm、好ましくは60〜80μmの範囲であり、あるいは500〜800μm、好ましくは600〜700μmの範囲であり、組成中の70〜40重量%を占める請求項11に記載の方法。
【請求項20】
炭化硅素(SiC)セラミック材料から成る食器焼成用の炉用支持具製品であって、セラミック材料が炭化硅素粒子及び1又は複数の酸化物結合相から成り、炭化硅素がセラミック材料の全重量に基づき少なくとも70重量%、好ましくは80重量%、より好ましくは80〜95重量%の範囲で存在し、炭化硅素粒子の粒度分布が、SiC細粒の少なくとも一部とSiC大粒の少なくとも一部を含む少なくとも二峰性であることを特徴とする、炉用支持具製品。
【請求項21】
炭化硅素(SiC)セラミック材料から成る重粘土製品焼成用の炉用支持具製品であって、セラミック材料が炭化硅素粒子及び1又は複数の酸化物結合相から成り、炭化硅素がセラミック材料の全重量に基づき少なくとも70重量%、好ましくは80重量%、より好ましくは80〜95重量%の範囲で存在し、炭化硅素粒子の粒度分布が、SiC細粒の少なくとも一部とSiC大粒の少なくとも一部を含む少なくとも二峰性であることを特徴とする、炉用支持具製品。
【請求項22】
炭化硅素(SiC)セラミック材料から成る衛生陶器製品焼成用の炉用支持具製品であって、セラミック材料が炭化硅素粒子及び1又は複数の酸化物結合相から成り、炭化硅素がセラミック材料の全重量に基づき少なくとも70重量%、好ましくは80重量%、より好ましくは80〜95重量%の範囲で存在し、炭化硅素粒子の粒度分布が、SiC細粒の少なくとも一部とSiC大粒の少なくとも一部を含む少なくとも二峰性であることを特徴とする、炉用支持具製品。
【請求項23】
SiO2から成る外側保護層に囲まれる酸化物結合炭化硅素芯部から成るセラミック複合体であって、前記酸化物結合炭化硅素芯部が炭化硅素粒子及び1又は複数の酸化物結合相から成り、炭化硅素がセラミック材料の全重量に基づき少なくとも70重量%、好ましくは80重量%、より好ましくは80〜95重量%の範囲で存在し、炭化硅素粒子の粒度
分布が、SiC細粒の少なくとも一部とSiC大粒の少なくとも一部を含む少なくとも二峰性であるセラミック複合体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2010−13344(P2010−13344A)
【公開日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2009−147944(P2009−147944)
【出願日】平成21年6月22日(2009.6.22)
【出願人】(509175861)アイメリーズ・キルン・ファーニチャー・ハンガリー・リミテッド (1)
【氏名又は名称原語表記】IMERYS KILN FURNITURE HUNGARY LTD.
【Fターム(参考)】