説明

炭素繊維複合材料及びその製造方法並びに義肢補綴装置用ライナー

【課題】
カーボンナノファイバーを用いた炭素繊維複合材料及びその製造方法並びに義肢補綴用ライナーを提供する。
【解決手段】
本発明にかかる炭素繊維複合材料の製造方法は、工程(a)と、工程(b)と、工程(c)と、を含む。工程(a)は、シリコーンゴムに平均直径が0.4nm〜230nmのカーボンナノファイバーを混練して第1の混合物を得る工程である。工程(b)は、第1の混合物をロール間隔が0.1mm以下のオープンロールで3分〜10分間混練して第2の混合物を得る工程である。工程(c)は、第2の混合物をロール間隔が0.5mm以下のオープンロールで薄通しを行って炭素繊維複合材料を得る工程である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボンナノファイバーを用いた炭素繊維複合材料及びその製造方法並びに義肢補綴装置用ライナーに関する。
【背景技術】
【0002】
本発明者他が先に提案した炭素繊維複合材料の製造方法によれば、エラストマーを用いることで、これまで困難とされていたカーボンナノファイバーの分散性を改善し、エラストマーにカーボンナノファイバーを均一に分散させることができた(例えば、特許文献1参照)。このような炭素繊維複合材料の製造方法によれば、エラストマーとカーボンナノファイバーを混練し、剪断力によって凝集性の強いカーボンナノファイバーの分散性を向上させている。より具体的には、エラストマーとカーボンナノファイバーとを混合すると、粘性を有するエラストマーがカーボンナノファイバーの相互に侵入し、かつ、エラストマーの特定の部分が化学的相互作用によってカーボンナノファイバーの活性の高い部分と結合し、この状態で、分子長が適度に長く、分子運動性の高い(弾性を有する)エラストマーとカーボンナノファイバーとの混合物に強い剪断力が作用すると、エラストマーの変形に伴ってカーボンナノファイバーも移動し、さらに剪断後の弾性によるエラストマーの復元力によって、凝集していたカーボンナノファイバーが分離されて、エラストマー中に分散していた。このように、マトリックスへのカーボンナノファイバーの分散性を向上させることで、高価なカーボンナノファイバーを効率よく複合材料のフィラーとして用いることができるようになった。
【0003】
シリコーンゴムは、一般に生理的な不活性さや耐熱性等に優れているため、自動車部品分野、医療関連機器分野、食品関連機器分野及び事務機器分野等で幅広く使用されている。しかしながら、シリコーンゴムは、反発弾性や耐圧縮永久ひずみ性に優れるが、引張強さや引裂き強さなどの力学的性質が他の汎用ゴムに比べて劣る傾向があった。医療関連機器分野においては、例えば、義肢補綴装置が装着されるライナーにシリコーンゴムが用いられていた(例えば、特許文献2)。シリコーンゴムライナーは、残存四肢を被覆・保護し、補綴装置のソケットとの間の快適なクッション性を維持しつつ、着脱時にライナーが破損しない充分な補強が要求されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−97525号公報
【特許文献2】特開2004−160052号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、カーボンナノファイバーが分散した炭素繊維複合材料及びその製造方法並びに義肢補綴装置用ライナーを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明にかかる炭素繊維複合材料の製造方法は、
シリコーンゴムに平均直径が0.4nm〜230nmのカーボンナノファイバーを混合して第1の混合物を得る工程(a)と、
前記第1の混合物をロール間隔が0.1mm以下のオープンロールで3分〜10分間混練して第2の混合物を得る工程(b)と、
前記第2の混合物をロール間隔が0.5mm以下のオープンロールで薄通しを行って炭素繊維複合材料を得る工程(c)と、
を含むことを特徴とする。
【0007】
本発明にかかる炭素繊維複合材料の製造方法によれば、弾性の小さなシリコーンゴムを用いても、カーボンナノファイバーの凝集体を解繊して分散させた炭素繊維複合材料を得ることができる。
【0008】
本発明にかかる炭素繊維複合材料の製造方法において、
前記工程(a)に用いるシリコーンゴムは、未硬化の状態での可塑度(JIS K6249可塑度試験法に準拠)が50以上800以下であることができる。
【0009】
本発明にかかる炭素繊維複合材料は、前記炭素繊維複合材料の製造方法によって得られた炭素繊維複合材料の架橋体であって、
引張強さが1.5MPa〜3.5MPaであり、かつ、切断時伸びが200%〜280%であることを特徴とする。
【0010】
本発明にかかる義肢補綴装置用ライナーは、円筒状のスリーブと、該スリーブの下端を閉塞する端部と、を含み、
前記スリーブ及び前記端部は、請求項1〜4のいずれか1項の炭素繊維複合材料の製造方法によって得られた炭素繊維複合材料の架橋体で形成されたことを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】炭素繊維複合材料の製造方法を模式的に示す図である。
【図2】炭素繊維複合材料の製造方法を模式的に示す図である。
【図3】炭素繊維複合材料の製造方法を模式的に示す図である。
【図4】炭素繊維複合材料の製造方法を模式的に示す図である。
【図5】義肢補綴装置用ライナーの断面図である。
【図6】炭素繊維複合材料の引裂き疲労試験を模式的に示す図である。
【図7】実施例1の破断面の電子顕微鏡写真である。
【図8】実施例1の破断面の電子顕微鏡写真である。
【図9】実施例1の破断面の電子顕微鏡写真である。
【図10】比較例2の破断面の電子顕微鏡写真である。
【図11】比較例2の破断面の電子顕微鏡写真である。
【図12】比較例2の破断面の電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
【0013】
本発明の一実施の形態にかかる炭素繊維複合材料の製造方法は、シリコーンゴムに平均直径が0.4nm〜230nmのカーボンナノファイバーを混合して第1の混合物を得る工程(a)と、前記第1の混合物をロール間隔が0.1mm以下のオープンロールで3分〜10分間混練して第2の混合物を得る工程(b)と、前記第2の混合物をロール間隔が0.5mm以下のオープンロールで薄通しを行って炭素繊維複合材料を得る工程(c)と、を含むことを特徴とする。本発明の一実施の形態にかかる炭素繊維複合材料は、前記炭素繊維複合材料の製造方法によって得られた炭素繊維複合材料の架橋体であって、引張強さが1.5MPa〜3.5MPaであり、かつ、切断時伸びが200%〜280%であることを特徴とする。本発明の一実施の形態にかかる義肢補綴装置用ライナーは、円筒状のスリーブと、該スリーブの下端を閉塞する端部と、を含み、前記スリーブ及び前記端部は、前記炭素繊維複合材料の製造方法によって得られた炭素繊維複合材料の架橋体で形成されたことを特徴とする。
【0014】
炭素繊維複合材料の製造方法に用いるシリコーンゴムは、ポリオルガノシロキサンの生ゴムであることができ、主鎖がシロキサン結合で構成され、側鎖にメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等のアルキル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基、ビニル基、アリル基、ブテニル基、ヘキセニル基等のアルケニル基、フェニル基、トリル基等のアリール基、ベンジル基、γ−フェニルプロピル基等のアラルキル基、又はこれらの基の炭素原子に結合した水素原子の一部又は全部をハロゲン原子、シアノ基などで置換した基、例えば、クロロメチル基、トリフルオロプロピル基、シアノエチル基などを持つことができる。シリコーンゴムの分子構造は、直鎖状であることができ、一部分岐を有した直鎖状であることができる。シリコーンゴムは、ミラブル型シリコーンゴムであって、熱加硫型のシリコーンゴムを用いることができる。シリコーンゴムは、未硬化の状態での可塑度(JIS K6249可塑度試験法に準拠)が50以上800以下であることができる。可塑度は、いわゆるウィリアムス可塑度であって、25℃において平行板可塑度計(ウイリアムスプラストメータ)を使用して、JIS K6249「未硬化及び硬化シリコーンゴムの試験方法」に規定する可塑度試験法に準じて測定することができる。
【0015】
炭素繊維複合材料の製造方法に用いるカーボンナノファイバーは、平均直径(繊維径)が0.4nm〜230nmである。さらに、カーボンナノファイバーは、平均直径(繊維径)が9nm〜110nmであることができ、特に9nm〜20nmまたは60nm〜110nmであることができる。カーボンナノファイバーは、その平均直径が比較的細いため、比表面積が大きく、マトリックスであるシリコーンゴムとの表面反応性が向上し、カーボンナノファイバーを解繊し、全体に分散させることができると、シリコーンゴムをカーボンナノファイバーによって少量でも効果的に補強することができる。特に、低粘度で可塑度の小さいシリコーンゴムの生ゴムは、カーボンナノファイバーを容易に分散させることができないので、カーボンナノファイバーの中でも比較的太い平均直径60nm〜110nmのカーボンナノファイバーを用いることでさらに分散性を向上させることができる。平均直径(繊維径)が0.4nm〜230nmであるカーボンナノファイバーを用いることで、シリコーンゴムを補強することができる。カーボンナノファイバーによって形成される微小セル構造は、カーボンナノファイバーが3次元に張り巡らされた網目構造によってマトリックス材料を囲むように形成されることができる。これまでの研究結果から1つのセルの最大径はおおよそカーボンナノファイバーの平均直径の2倍〜10倍程度になることが判っている。カーボンナノファイバーの平均直径は、電子顕微鏡による観察によって計測することができる。カーボンナノファイバーは、その表面におけるシリコーンゴムとの反応性を向上させるために、酸化処理することもできる。なお、本発明の詳細な説明においてカーボンナノファイバーの平均直径及び平均長さは、電子顕微鏡による例えば5,000倍の撮像(カーボンナノファイバーのサイズによって適宜倍率は変更できる)から200箇所以上の直径及び長さを計測し、その算術平均値として計算して得ることができる。
【0016】
炭素繊維複合材料におけるカーボンナノファイバーの配合量は、所望の特性に応じて適宜配合することができる。炭素繊維複合材料においてシリコーンゴム100質量部に対してカーボンナノファイバー5質量部以上100質量部以下を配合することができ、さらにカーボンナノファイバー10質量部以上60質量部以下を配合することができ、特にカーボンナノファイバー15質量部以上25質量部以下を配合することができる。炭素繊維複合材料においてシリコーンゴム100質量部に対して、カーボンナノファイバーが5質量部以上であると引裂き疲労耐久性を向上することができ、100質量部以下であれば加工することができる。また、炭素繊維複合材料には、カーボンナノファイバー以外にシリコーンゴムに一般に用いられている補強用充填材として例えばシリカ、アルミナ、酸化マグネシウム、酸化亜鉛などの金属酸化物、カーボンブラックなどを用いることができる。ここで、「質量部」は、特に指定しない限り「phr」を示し、「phr」は、parts per hundred of resin or rubberの省略形であって、ゴム等に対する添加剤等の外掛百分率を表すものである。
【0017】
カーボンナノファイバーは、炭素六角網面のグラファイトの1枚面(グラフェンシート)を巻いて筒状にした形状を有するいわゆる多層カーボンナノチューブ(MWNT:マルチウォールカーボンナノチューブ)であり、平均直径が10nm〜20nmのカーボンナノファイバーとしては、例えばバイエルマテリアルサイエンス社のバイチューブ(Baytubes)C150P及びC70P並びにナノシル(Nanocyl)社のNC−7000などを挙げることができ、平均直径が60nm〜110nmのカーボンナノファイバーとしては、例えば保土谷化学工業社のNT−7などを挙げることができる。また、部分的にカーボンナノチューブの構造を有する炭素材料も使用することができる。なお、カーボンナノチューブという名称の他にグラファイトフィブリルナノチューブ、気相成長炭素繊維といった名称で称されることもある。
【0018】
カーボンナノファイバーは、気相成長法によって得ることができる。気相成長法は、触媒気相合成法(Catalytic Chemical Vapor Deposition:CCVD)とも呼ばれ、炭化水素等のガスを金属系触媒の存在下で気相熱分解させて未処理の第1のカーボンナノファイバーを製造する方法である。より詳細に気相成長法を説明すると、例えば、ベンゼン、トルエン等の有機化合物を原料とし、フェロセン、ニッケルセン等の有機遷移金属化合物を金属系触媒として用い、これらをキャリアーガスとともに高温例えば400℃〜1000℃の反応温度に設定された反応炉に導入し、浮遊状態あるいは反応炉壁に第1のカーボンナノファイバーを生成させる浮遊流動反応法(Floating Reaction Method)や、あらかじめアルミナ、酸化マグネシウム等のセラミックス上に担持された金属含有粒子を炭素含有化合物と高温で接触させてカーボンナノファイバーを基板上に生成させる触媒担持反応法(Sub strate Reaction Method)等を用いることができる。平均直径が9nm〜20nmのカーボンナノファイバーは触媒担持反応法によって得ることができ、平均直径が60nm〜110nmのカーボンナノファイバーは浮遊流動反応法によって得ることができる。カーボンナノファイバーの直径は、例えば金属含有粒子の大きさや反応時間などで調節することができる。平均直径が9nm〜20nmのカーボンナノファイバーは、窒素吸着比表面積が10m/g〜500m/gであることができ、さらに100m/g〜350m/gであることができ、特に、150m/g〜300m/gであることができる。
【0019】
炭素繊維複合材料の製造方法
本発明の一実施の形態にかかる炭素繊維複合材料の製造方法は、シリコーンゴムに平均直径が0.4nm〜230nmのカーボンナノファイバーを混合して第1の混合物を得る工程(a)と、第1の混合物をロール間隔が0.1mm以下のオープンロールで3分〜10分間混練して第2の混合物を得る工程(b)と、第2の混合物をロール間隔が0.5mm以下のオープンロールで薄通しを行って炭素繊維複合材料を得る工程(c)と、を含むことを特徴とする。シール部材の製造方法について図1〜図4を用いて詳細に説明する。
【0020】
図1〜図4は、本発明の一実施形態にかかるオープンロール法によるシール部材の製造方法を模式的に示す図である。
【0021】
図1〜図4に示すように、2本ロールのオープンロール2における第1のロール10と第2のロール20とは、所定の間隔d、例えば0.5mm〜1.5mmの間隔で配置され、図1〜図4において矢印で示す方向に回転速度V1,V2で正転あるいは逆転で回転する。
【0022】
まず、図1に示すように、生ゴムのシリコーンゴム30を第1のロール10に巻き付ける。シリコーンゴム30は、可塑度が小さくがかろうじて第1のロール10に巻き付けることができる。
【0023】
次に、図2に示すように、工程(a)は、第1のロール10に巻き付けられたシリコーンゴム30のバンク34に、カーボンナノファイバー80及び必要に応じて図示していない充填剤を投入し、混合して第1の混合物を得る。この混練におけるシリコーンゴム30の温度は、例えば0℃〜50℃であることができ、さらに10℃〜20℃であることができる。工程(a)において、シリコーンゴム30は可塑度が小さいため、混練してもカーボンナノファイバーは小さな凝集塊のまま全体に分散するだけであって、カーボンナノファイバーの凝集塊を解繊することがほとんどできていない。工程(a)における混練は、例えば、目視でシリコーンゴムにカーボンナノファイバーが入り込む程度の混練であることができる。工程(a)は、オープンロール法に限定されず、例えば密閉式混練法あるいは多軸押出し混練法を用いることもできる。
【0024】
次に、図3に示すように、工程(b)は、第1のロール10と第2のロール20とのロール間隔dを、0.1mm以下の間隔に設定し、第1の混合物35を第1のロール10に巻き付け、3分〜10分間混練して第2の混合物を得る。工程(b)のロール間隔dは、0.1mm以下であり、オープンロールのサイズや混合物の加工量によって加工が可能な0〜0.1mmの範囲で適宜調整することができる。工程(b)の混練時間は、3分〜10分間であり、さらに4分〜8分間であることができ、特に4分〜6分間であることができる。この混練における第1の混合物35の温度は、例えば0℃〜50℃であることができ、さらに10℃〜20℃であることができる。カーボンナノファイバー80が混合されたことで第1の混合物35は生ゴムのシリコーンゴム30に比べて可塑度が大きくなり、工程(b)を行うことによって徐々に弾性を増すことができる。工程(b)において第2の混合物を取り出す直前のロールのトルクは、工程(a)において第1の混合物を取り出す直前のロールのトルクよりも高くすることができる。工程(b)の第2の混合物を取り出す直前のロールのトルクは、工程(a)において第1の混合物を取り出す直前のロールのトルクの2倍以上10倍以下であることができ、さらに3倍以上10倍以下であることができる。工程(b)においてロールのトルクが十分に高くなるまで追加の混練りを行うことによって第2の混合物の強度を向上させることができ、第2の混合物の弾性を向上させることができる。また、工程(b)において狭いロール間隔dによって混練りを行うことで、シリコーンゴム分子鎖を適度に切断してフリーラジカルを生成し、このシリコーンゴム分子のフリーラジカルとカーボンナノファイバーとが結びつきやすくなると推測できる。なお、ロールのトルクは、オープンロールにおけるロールにかかる負荷であり、一般にオープンロールは常時トルクが計測され表示されている。
【0025】
さらに、図4に示すように、工程(c)は、第1のロール10と第2のロール20とのロール間隔dを、例えば0.5mm以下、より好ましくは0〜0.5mmの間隔に設定し、第2の混合物36をオープンロール2に投入して薄通しを行なう。薄通しの回数は、例えば1回〜10回程度行なうことができる。このように狭いロール間から押し出された炭素繊維複合材料50は、シリコーンゴムの弾性による復元力で図4のように大きく変形し、その際にシリコーンゴムと共にカーボンナノファイバーが大きく移動する。薄通しして得られた炭素繊維複合材料50は、ロールで圧延されて所定厚さのシート状に分出しされる。この薄通しの工程では、できるだけ高い剪断力を得るために、ロール温度を例えば0〜50℃、より好ましくは5〜30℃の比較的低い温度に設定して行われ、第2の混合物36及炭素繊維複合材料50の実測温度も0〜50℃に調整されることができる。
【0026】
工程(a)〜工程(c)において、第1のロール10の表面速度をV1、第2のロール20の表面速度をV2とすると、薄通しにおける両者の表面速度比(V1/V2)は、1.05〜3.00であることができ、さらに1.05〜1.2であることができる。このような表面速度比を用いることにより、特に工程(b)及び工程(c)において所望の剪断力を得ることができる。
【0027】
こうして得られた炭素繊維複合材料は、パルス法NMRを用いてハーンエコー法によって150℃、観測核がHで測定した、無架橋体における、第1のスピン−スピン緩和時間(T2n)は100〜9000μ秒であり、第2のスピン−スピン緩和時間を有する成分の成分分率(fnn)は0〜0.2であることができ、特に、第2のスピン−スピン緩和時間を有する成分の成分分率(fnn)は0であることができる。炭素繊維複合材料の150℃で測定したT2n及びfnnは、シリコーンゴム分子の分子運動性を表わしており、マトリックスであるシリコーンゴムにカーボンナノファイバーが均一に分散されていることを表すことができる。つまり、シリコーンゴムにカーボンナノファイバーが均一に分散されているということは、シリコーンゴムの分子がカーボンナノファイバーによって拘束されている状態であるともいえる。この状態では、カーボンナノファイバーによって拘束を受けたシリコーンゴムの分子の運動性は、カーボンナノファイバーの拘束を受けない場合に比べて小さくなる。また、パルスNMRを用いた反転回復法によって測定されたスピン−格子緩和時間(T1)は、第1のスピン−スピン緩和時間(T2n)と共に物質の分子運動性を表す尺度である。そのため、炭素繊維複合材料の第1のスピン−スピン緩和時間(T2n)及びスピン−格子緩和時間(T1)は、カーボンナノファイバーを含まないシリコーンゴム単体の場合より短くなり、特にカーボンナノファイバーが均一に分散することでより短くなる。
【0028】
工程(c)において得られた剪断力により、シリコーンゴムに高い剪断力が作用し、凝集していたカーボンナノファイバーがシリコーンゴム分子に1本ずつ引き抜かれるように相互に分離し、シリコーンゴム中に分散される。特に、第2の混合物は、工程(b)でロールのトルクが十分に高くなるまで混練することでシリコーンゴム分子がカーボンナノファイバーに拘束された結果として弾性が向上するため、弾性と、粘性と、カーボンナノファイバーとの化学的相互作用と、を有することができ、工程(c)においてカーボンナノファイバーを分散させることができる。そして、カーボンナノファイバーの分散性および分散安定性(カーボンナノファイバーが再凝集しにくいこと)に優れた炭素繊維複合材料を得ることができる。
【0029】
より具体的には、オープンロールでシリコーンゴムとカーボンナノファイバーとを混合すると、粘性を有するシリコーンゴムがカーボンナノファイバーの相互に侵入し、かつ、シリコーンゴムの特定の部分が化学的相互作用によってカーボンナノファイバーの活性の高い部分と結合する。カーボンナノファイバーの表面の活性が適度に高いと、特にシリコーンゴム分子と結合し易くなることができる。次に、シリコーンゴムに強い剪断力が作用すると、シリコーンゴム分子の移動に伴ってカーボンナノファイバーも移動し、工程(b)において特に弾性が向上されていることによって、工程(c)において剪断後の弾性によるシリコーンゴムの復元力によって、凝集していたカーボンナノファイバーが分離されて、シリコーンゴム中に分散されることになる。本実施の形態によれば、炭素繊維複合材料が狭いロール間から押し出された際に、工程(b)によって得られた第2の混合物の弾性による復元力で炭素繊維複合材料はロール間隔より厚く変形する。その変形は、強い剪断力の作用した炭素繊維複合材料をさらに複雑に流動させ、カーボンナノファイバーをシリコーンゴム中に分散させると推測できる。そして、一旦分散したカーボンナノファイバーは、シリコーンゴムとの化学的相互作用によって再凝集することが防止され、良好な分散安定性を有することができる。
【0030】
シリコーンゴムにカーボンナノファイバーを剪断力によって分散させる工程は、前記オープンロール法に限定されず、密閉式混練法あるいは多軸押出し混練法を用いることもできる。要するに、この工程では、凝集したカーボンナノファイバーを分離できる剪断力をシリコーンゴムに与えることができればよい。特に、オープンロール法は、ロール温度の管理だけでなく、混合物の実際の温度を測定し管理することができるため、好ましい。シリコーンゴムとカーボンナノチューブとの混合前、混合中、あるいは薄通し後の分出しされた炭素繊維複合材料に、架橋剤を混合することができ、架橋して架橋体の炭素繊維複合材料とすることができる。シリコーンゴムの架橋は、公知の架橋剤によって架橋することができ、例えばパーオキサイドによって行うことができる。
【0031】
シール部材は、炭素繊維複合材料を一般に採用されるシリコーンゴムの成形加工例えば、射出成形法、トランスファー成形法、プレス成形法、押出成形法、カレンダー加工法などによって所望の形状例えば無端状に成形することで得ることができる。シール部材は、架橋された炭素繊維複合材料からなることができる。
【0032】
本実施の形態にかかる炭素繊維複合材料の製造方法において、通常、シリコーンゴムの加工で用いられる配合剤を加えることができる。配合剤としては公知のものを用いることができる。配合剤としては、例えば、架橋剤、加硫剤、加硫促進剤、加硫遅延剤、軟化剤、可塑剤、硬化剤、補強剤、充填剤、老化防止剤、着色剤などを挙げることができる。これらの配合剤は、混合の過程の適切な時期にシリコーンゴムに投入することができる。架橋剤としては、パーオキサイドを用いることができ、例えばカーボンナノファイバーをシリコーンゴムへ混合する前、カーボンナノファイバーと一緒、あるいはカーボンナノファイバーとシリコーンゴムを混合した後に投入することができ、例えばスコーチ防止のために架橋剤は薄通し後の未架橋の炭素繊維複合材料に配合することができる。
【0033】
このように成形された炭素繊維複合材料は、シリコーンゴムをカーボンナノファイバーによって補強することによって、剛性を含む引張試験特性を向上させ、シリコーンゴムの欠点でもあった引き裂き強さも向上することができる。炭素繊維複合材料の架橋体は、例えば、23±2℃、引張速度500mm/minでJIS K6251に基づいて引張試験において、引張強さが1.5MPa〜3.5MPaであり、かつ、切断時伸びが200%〜280%であることができ、さらに、引張強さが1.8MPa〜3.2MPaであり、かつ、切断時伸びが230%〜270%であることができ、特に、引張強さが2.0MPa〜3.0MPaであり、かつ、切断時伸びが240%〜260%であることができる。また、炭素繊維複合材料は、引き裂き疲労試験においては、破断するまでの寿命(引張り回数)が長くなることができる。引き裂き疲労試験は、材料の耐摩耗性の評価としても用いることができる。
【0034】
また、カーボンナノファイバーの周囲には、シリコーンゴムの一部が混練中に分子鎖切断され、それによって生成されたフリーラジカルがカーボンナノファイバーの表面をアタックして吸着したシリコーンゴム分子の凝集体と考えられる界面相が形成される。界面相は、例えばエラストマーとカーボンブラックとを混練した際にカーボンブラックの周囲に形成されるバウンドラバーに類似するものと考えられる。このような界面相は、カーボンナノファイバーを被覆して保護し、また、カーボンナノファイバーを所定量以上配合することで界面相同士が連鎖した界面相に囲まれてナノメートルサイズに分割されたシリコーンゴムの小さなセルを形成すると推定される。このような小さなセルが炭素繊維複合材料の全体にほぼ均質に形成されることで、単に2つの材料を複合したことによる効果を超えた効果を期待することができる。
【0035】
さらに、本発明の一実施形態によって得られた炭素繊維複合材料は、義肢補綴装置用のライナーに使用可能である。上述のように、この炭素繊維複合材料は、優れた引張特性、引裂き強さ及び引裂き疲労寿命特性を有しているから特にライナーに有用である。以下に、炭素繊維複合材料で成形した義肢補綴用のライナーについて説明する。
【0036】
ライナー200は、残存四肢が挿入される円筒状のスリーブ210と、スリーブ210の下端を閉塞するドーム状の端部212と、端部212の中央先端部から外方へ突出する金具214と、を含む。スリーブ210及び端部212は、図示しない義肢補綴用装置の比較的固い材料で作られたソケットに挿入することができ、残存四肢とソケットとの間で快適なクッション性を有することができる。金具214は、図示しない義肢補綴装置の結合部材と結合することができる。スリーブ210及び端部212は、シリコーンゴムをマトリックス材料とした炭素繊維複合材料の架橋体によって形成することができる。ライナー200は、炭素繊維複合材料を用いることにより、優れた反発弾性や耐圧縮永久ひずみ性を有するとともに、引張強さや引裂き強さにも優れることができる。
【0037】
上記のように、本発明の実施形態について詳細に説明したが、本発明の新規事項及び効果から実体的に逸脱しない多くの変形が可能であることは当業者には容易に理解できよう。したがって、このような変形例はすべて、本発明の範囲に含まれるものとする。
【実施例】
【0038】
(1)実施例1〜2及び比較例1〜2のサンプルの作製
以下、本発明の実施例について述べるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0039】
工程(a):オープンロール(ロール温度10〜20℃、ロール間隔0.5mm〜1.0mm)に、シリコーンゴム(表1では「シリコーン」)を投入し、表1に示す配合に従って、カーボンナノファイバー(表1では「MWCNT−1」、「MWCNT−2」)をシリコーンゴムに投入し、10分間混合した後、第1の混合物をロールから取り出した。第1の混合物をロールから取り出す直前のロールのトルクは、0.3kNであった。
【0040】
工程(b):次に、その第1の混合物をオープンロール(ロール温度10〜20℃、ロール間隔0.1mm)に巻きつけ、5分間の混練りを行い、第2の混合物をロールから取り出した。第2の混合物をロールから取り出す直前のロールのトルクは、1.0kNであった。
【0041】
工程(c):さらに、その第2の混合物をロール間隔0.1mmに設定したオープンロールで薄通しを繰り返し5回行なった。工程(a)〜(c)における、2本のロールの表面速度比を1.1とした。
【0042】
薄通しして得られた未架橋の炭素繊維複合材料に、表1に示す配合に従って、架橋剤としてパーオキサイド(PO)を加えて混練し、分出ししたシートをプレス架橋(170℃/10分)、二次架橋(200℃/4時間)で成形して厚さ1mmの実施例1〜2のシート状の炭素繊維複合材料の架橋体サンプルを得た。なお、比較例1はシリコーンゴム単体を架橋した架橋体サンプルであり、比較例2は工程(b)を経ずに工程(a)と工程(c)とを実施して得られた炭素繊維複合材料の架橋体サンプルであった。
【0043】
表1において、実施例1〜2及び比較例1〜2の「シリコーンゴム」は、比重(23℃)が0.98、JIS K6249ウィリアムス可塑度(23℃、3分間)が96、加熱減量(150℃、24時間)3.0のジメチルビニルシリコーン生ゴム、「MWCNT−1」は高温熱処理して黒鉛化した平均直径67nmの多層カーボンナノチューブ、「MWCNT−2」は低温熱処理した平均直径67nmの多層カーボンナノチューブであった。
【0044】
架橋剤を配合していない無架橋体の実施例1及び比較例1の炭素繊維複合材料のサンプルについて、パルス法NMRを用いてハーンエコー法及び反転回復法による測定を行った。この測定は、日本電子(株)製「JMN−MU25」を用いて行った。測定は、観測核がH、共鳴周波数が25MHz、90゜パルス幅が2μsecの条件で行い、ハーンエコー法のパルスシーケンス(90゜x−Pi−180゜x)にて、Piをいろいろ変えて減衰曲線を測定した。また、サンプルは、磁場の適正範囲までサンプル管に挿入して測定した。測定温度は、150℃であった。測定結果を表1にNMRとしてT1,T2n,fnnを示した。
【0045】
【表1】

【0046】
(2)物理試験
実施例1〜2及び比較例1〜2の架橋体サンプルについて、ゴム硬度(Hs(JIS−E))をJIS K 6253に基づいて測定した。
【0047】
実施例1〜2及び比較例1〜2の架橋体サンプルをJIS6号形のダンベル形状に打ち抜いた試験片について、島津製作所社製オートグラフAG−Xの引張試験機を用いて、23±2℃、引張速度500mm/minでJIS K6251に基づいて引張試験を行い、50%応力(σ50(MPa))、100%応力(σ100(MPa))、引張強さ(TS(MPa))及び切断時伸び(Eb(%))を測定した。また、引張試験で破断した架橋体サンプルの破断面を電子顕微鏡で観察した。図7〜図9は実施例1の破断面であり、図10〜図12は比較例2の破断面であった。なお、電子顕微鏡の倍率は、図7及び図10が50倍、図8及び図11が1000倍、図9及び図12が2000倍であった。
【0048】
実施例1〜2及び比較例1〜2の架橋体サンプルをJIS K 6252切込み無しのアングル形試験片に打ち抜き、島津製作所社製オートグラフAG−Xを用いて、引張速度500mm/minでJIS K 6252に準拠して引裂き試験を行い、最大引裂き力(N)を測定し、その測定結果を試験片の厚さ1mmで除して、引裂き強さ(TR(N/mm))を測定した。
【0049】
実施例1〜2及び比較例1〜2の架橋体サンプルを、図6に示すような10mm×幅4mm×厚さ1mmの短冊状の試験片100に打ち抜き、その試験片100の長辺の中心から幅方向へカミソリ刃によって深さ1mmの切込み106を入れ、SII社製TMA/SS6100試験機を用いて、試験片100の両端の短辺104,104付近をチャック110,110にて保持して、200℃の大気雰囲気中、周波数1Hzの条件で図6の矢印T方向に繰り返し引張荷重(0N/mm〜2N/mm)をかけて引裂き疲労試験を行い、試験片が破断するまでの引張回数((a)疲労(回))を測定した。
【0050】
各測定結果は、表2において、ゴム硬度は「Hs(JIS−E)」、50%応力は「σ50(MPa)」、100%応力は「σ100(MPa)」、引張強さは「TS(MPa)」、切断時伸びは「Eb(%)」、引裂き強さは「TR(N/mm)」、及び引裂き疲労寿命の回数は「(a)疲労(回)」と示した。
【0051】
【表2】

【0052】
表2によれば、50%応力(MPa)、100%応力(MPa)、引張強さ(MPa)、切断時伸び(%)、引裂き強さは(N/mm)及び引き裂き寿命(回)は、比較例2の架橋体サンプルが比較例1に比べて向上したが、実施例1,2の架橋体サンプルが比較例2よりもさらに向上した。実施例1の未架橋体サンプルのT2nは、比較例1の未架橋体サンプルのT2nよりも短かった。
【0053】
図10〜図12における比較例2の破断面には、カーボンナノファイバーの凝集塊が多数観察でき、中には直径が20μm以上もある凝集塊が観察できた。これに対し、図7〜図9における実施例1の破断面には、カーボンナノファイバーの凝集塊は観察されず、カーボンナノファイバーが解繊された上で全体に分散していることが観察できた。
【符号の説明】
【0054】
2 オープンロール、10 第1のロール、20 第2のロール、30 エラストマー、34 バンク、36 第2の混合物、50 炭素繊維複合材料、80 カーボンナノファイバー、V1,V2 回転速度、100 試験片、106 切り込み、110 チャック、150 プラットホーム、151 デリック編成、151a フック、151b 回転スイベル、151c ケリー、151d 回転テーブル、152 海、153 ドリル・ストリング、154 海底、155 地表、156 坑井、156a 坑底部、160 坑底機器編成、160’ ダウンホール装置、162 ドリルビット、164 回転操作システム、166 マッドモータ、168 掘削同時測定モジュール、170 掘削同時検層モジュール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコーンゴムに平均直径が0.4nm〜230nmのカーボンナノファイバーを混練して第1の混合物を得る工程(a)と、
前記第1の混合物をロール間隔が0.1mm以下のオープンロールで3分〜10分間混練して第2の混合物を得る工程(b)と、
前記第2の混合物をロール間隔が0.5mm以下のオープンロールで薄通しを行って炭素繊維複合材料を得る工程(c)と、
を含む、炭素繊維複合材料の製造方法。
【請求項2】
請求項1において、
前記工程(a)に用いるシリコーンゴムは、未硬化の状態での可塑度(JIS K6249可塑度試験法に準拠)が50以上800以下である、炭素繊維複合材料の製造方法。
【請求項3】
請求項1または2において、
前記カーボンナノファイバーは、平均直径が60nm〜150nmである、炭素繊維複合材料の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項の炭素繊維複合材料の製造方法によって得られた炭素繊維複合材料の架橋体であって、
引張強さが1.5MPa〜3.5MPaであり、かつ、切断時伸びが200%〜280%である、炭素繊維複合材料。
【請求項5】
円筒状のスリーブと、該スリーブの下端を閉塞する端部と、を含み、
前記スリーブ及び前記端部は、請求項1〜3のいずれか1項の炭素繊維複合材料の製造方法によって得られた炭素繊維複合材料の架橋体で形成された、義肢補綴装置用ライナー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2013−49752(P2013−49752A)
【公開日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−187313(P2011−187313)
【出願日】平成23年8月30日(2011.8.30)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成23年度、独立行政法人科学技術振興機構「地域卓越研究者戦略的結集プログラム(エキゾチック・ナノカーボンの創成と応用プロジェクト)」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000226677)日信工業株式会社 (840)
【出願人】(504180239)国立大学法人信州大学 (759)
【Fターム(参考)】