説明

焼結体とその製造方法、ならびに回転工具

【課題】耐摩耗性が高く、摩擦撹拌接合の回転工具のプローブに好適に利用することができる焼結体と、この焼結体を用いた回転工具を提供する。
【解決手段】軸部10と、軸部10よりも細径で、軸部10の先端に設けられるプローブ12とを備え、摩擦撹拌接合に利用される回転工具1である。この回転工具1の少なくともプローブ12の部分は、第1相と第2相と不可避的不純物とからなる焼結体である。第1相は、窒化珪素またはサイアロンからなる。第2相は、B,Al,Ti,Siから選択される元素の窒化物、炭化物、酸化物、および炭窒化物あるいはこれらの固溶体であり、かつ、窒化珪素およびサイアロンではない材料からなる。また、第1相と第2相の合計体積に占める第1相の体積割合は、50〜90%である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、摩擦撹拌接合の回転工具に用いられるプローブを構成する焼結体とその製造方法、ならびにその焼結体をプローブに適用した回転工具に関するものである。特に、耐摩耗性に優れ、生産性良く摩擦撹拌接合することができる焼結体とその製造方法、ならびに回転工具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車、鉄道車両といった各種車両や航空機などの輸送機器、建築材などを含む構造物、その他、家庭用電気製品などでは、金属材料からなる種々の部材(例えば、車両のボディなど)を備える。これら金属材料からなる部材同士を接合する場合、リベットを用いたり、抵抗スポット溶接といった点接合方法が広く利用されている。
【0003】
その他の接合方法として、特許文献1,2に記載される摩擦撹拌接合(Friction Stir Spot Welding)と呼ばれる方法が近年検討されてきている。摩擦撹拌接合は、回転工具の先端に設けられたプローブを回転させながら、重ね合わせた接合対象の重複部分に押し込み、このときの摩擦熱により軟化した接合対象の構成材料を撹拌(塑性流動)することで接合する。この摩擦撹拌接合は、固相接合であることから、接合時、接合対象への入熱が少ないため、接合対象の軟化や歪みの程度が少ない上に、上記抵抗スポット溶接やリベットによる接合よりも、継手品質がよく、良好な接合状態が安定して得られる。
【0004】
上記摩擦撹拌接合に用いられる回転工具のプローブには、耐摩耗性に優れることが望まれる。そこで、プローブの構成材料として、特許文献1では、工具鋼といった鋼を挙げており、特許文献2では、更に耐摩耗性に優れる超硬合金を挙げている。超硬合金は、硬質相をWC(炭化タングステン)とし、結合相をCo(コバルト)とするWC−Co系超硬合金が代表的である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開WO93/10935号公報
【特許文献2】特開2001−314983号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
摩擦撹拌接合は、上述のように優れた接合状態を安定して得られることから、今後汎用されると考えられる。そのため、従来プローブに用いられていた材料よりも摩擦撹拌接合に適した材料を見出し、このような材料によりプローブを形成することで、プローブの耐摩耗性を向上させ、回転工具の長寿命化を達成することが望まれている。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的の一つは、耐摩耗性が高く、摩擦撹拌接合の回転工具のプローブに好適に利用することができる焼結体とその製造方法を提供することにある。また、本発明の他の目的は、本発明焼結体をプローブに用いた回転工具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、プローブの耐摩耗性を向上させ、プローブの長寿命化、ひいては回転工具の長寿命化を図る目的で、プローブを構成する焼結体の組成を種々検討した結果、本発明を完成するに至った。
【0009】
本発明焼結体は、摩擦撹拌接合に用いられる回転工具のプローブを構成する焼結体に関する。この本発明焼結体は、窒化珪素またはサイアロンからなる第1相と、B,Al,Ti,Siから選択される元素の窒化物、炭化物、酸化物、および炭窒化物あるいはこれらの固溶体であり、かつ、窒化珪素およびサイアロンではない材料からなる第2相と、不可避的不純物と、からなる。そして、本発明焼結体は、第1相と第2相の合計体積に占める第1相の体積割合が、50〜90%であることを特徴とする。
【0010】
また、本発明回転工具の製造方法は、摩擦撹拌接合に用いられる回転工具のプローブを構成する焼結体の製造方法であって、以下の工程を備えることを特徴とする。
窒化珪素粉末を含む第1相材料を用意する工程。
B,Al,Ti,Siから選択される元素の窒化物、炭化物、酸化物、および炭窒化物の少なくとも1種からなる第2相材料を用意する工程。
第1相材料と第2相材料とを体積比で90:10〜50:50の割合で混合する工程。
混合した材料を焼結する工程。
【0011】
さらに、本発明回転工具は、軸部と、この軸部よりも細径であり軸部の先端に設けられるプローブとを備え、摩擦撹拌接合に利用される回転工具に関する。そして、本発明回転工具は、回転工具に備わるプローブに本発明焼結体を用いたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明焼結体は、耐摩耗性に優れると共に、硬度が高い上、破壊靱性にも優れるので、摩擦撹拌接合のプローブとして優れた特性を発揮する。そのため、本発明焼結体をプローブに適用した本発明回転工具によれば、従来の回転工具と比較して、安定した接合状態の摩擦撹拌接合を長期間に亘って行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明回転工具の一例であって、(A)は側面図、(B)は端面図である。
【図2】図1の回転工具を用いた摩擦撹拌接合の手順を模式的に示す説明図であって、(A)は接合動作を開始する前の接合対象を、(B)は接合動作を開始するときの接合対象に対する工具の配置状態を、(C)は接合動作中の工具と接合対象の状態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施形態を説明する。
【0015】
[回転工具の全体構成]
図1に例示するように、本発明回転工具1は、軸部10と、軸部10の先端から突出したプローブ12とを備え、回転させながら水平方向に移動させることができるようになっている。軸部10は、図示しない回転機構に支持される棒状部材であり、回転機構を駆動することで回転する。一方、プローブ12は、軸部10よりも細径の棒状部材であって、摩擦撹拌接合を行う際に、接合対象の接合界面に圧接される箇所である。このプローブ12は、軸部10に一体に設けられていても良いが、軸部10に対して着脱自在に形成されていても良い。後者の場合、例えば、ネジ嵌合により軸部10にプローブ12を固定するネジ止め方式や、軸部10に凹部にプローブ12を押し込んで固定するセルフグリップ方式とすることが挙げられる。
【0016】
図1に示す回転工具1で摩擦撹拌接合を行う場合、図2(A)に示すように、まず一対の接合対象20を並列状態に突き合わせる。接合対象20を突き合わせたら、図2(B),(C)に示すように、回転工具1を回転させながら接合箇所に圧接し、接合対象20の突き合わせ界面に沿って回転工具1を移動させる。この回転工具1の回転と移動に伴って、突き合わせ箇所近傍の接合対象20が塑性流動され、両接合対象20が接合される。その他、この回転工具1を用いた摩擦撹拌接合により、スポット溶接のような点接合を行うこともできる。
【0017】
上述したような摩擦撹拌接合の過程を見れば、特に、回転工具1のプローブ12の部分において、高い強度と耐摩耗性が要求されることが分かる。そこで、工具寿命を長くし、接合効率を向上させるために、回転工具1のうち少なくともプローブ12の部分に本発明焼結体を用いる。もちろん、軸部10も含めて本発明焼結体で構成しても良い。以下、本発明焼結体を詳細に説明する。
【0018】
[焼結体]
摩擦撹拌接合に用いられる回転工具のプローブを構成する本発明焼結体は、第1相、第2相、および不可避的不純物で構成される。この焼結体は、第1相を主体として構成されており、第2相は、第1相中に分散した状態にある。第1相と第2相の合計体積を100とすると、第1相の体積割合は、50〜90%である。ここで、焼結体の主体は、あくまで第1相であり、より好ましい第1相の体積割合は、75〜90%である。
【0019】
<第1相>
第1相は、窒化珪素(Si)またはサイアロン(Si−Al−O−N)から構成される。窒化珪素は、強度が高く、耐熱性、耐食性に優れる材料であり、摩擦撹拌接合に用いる回転工具1のプローブ12の主成分として好適である。ここで、サイアロン(Si−Al−O−N)は、SiにAlとOが固溶したものであり、窒化珪素と同様に強度が高く、耐熱性、耐食性に優れる。
【0020】
上記第1相は、窒化珪素(サイアロン)の他に、窒化珪素(サイアロン)の結晶粒子を繋ぐバインダーを含むことを許容する。窒化珪素(サイアロン)はもともと高温で安定な化合物であるため、窒化珪素(サイアロン)の粉末のみを焼結して焼結体を得ることは難しい。そのため、窒化珪素(サイアロン)の焼結体を作製する際は、窒化珪素(サイアロン)粉末に少量の焼結助剤(代表的には酸化物)を添加して焼結することで、窒化珪素(サイアロン)の結晶粒子の界面にガラス相を析出させ、このガラス相をバインダーとすることが行われている。第1相の強度や耐熱性、耐食性などの特性は、ガラス相の体積割合が多くなるほど低下する傾向にある。
【0021】
<第2相>
第2相は、B,Al,Ti,Siから選択される元素の窒化物、炭化物、酸化物、炭窒化物、あるいはこれらの固溶体から構成される。第2相を構成する化合物として具体的には、cBNや、TiB,AlB、SiC、TiN、TiCN、SiCNなどを挙げることができる。このような第2相を前述の第1相中に分散して配置することにより、焼結体の破壊靭性を向上させることができる。
【0022】
ここで、第2相を構成する化合物の平均結晶粒径は、1〜20μmであることが好ましい。化合物の平均結晶粒径は、より好ましくは5〜20μm、さらに好ましくは10〜20μm、最も好ましくは15〜20μmである。第2相を構成する粒子の粒径が上記範囲にあれば、耐摩耗性に優れ、摩擦撹拌接合に用いる回転工具のプローブとして好適な焼結体となる。
【0023】
[焼結体の製造方法]
上述した本発明焼結体は、以下の工程1〜工程4を経ることにより作製することができる。
【0024】
<工程1>
工程1では、窒化珪素粉末を主体とする第1相材料を用意する。この第1相材料を起源として本発明焼結体の第1相が形成される。用意する窒化珪素の平均粒径は、0.1〜3μmとすることが好ましい。また、第1相材料として、サイアロン粉末を用意しても良く、その場合のサイアロンの平均結晶粒径は、0.1〜3μmとすることが好ましい。
【0025】
第1相材料を焼結して得られる第1相が窒化珪素焼結体である場合、第1相材料は、窒化珪素粉末の他に、Yや、MgOなどの焼結助剤を含有させると良い。一方、第1相材料を焼結して得られる第1相がサイアロン焼結体である場合、第1相材料は、窒化珪素粉末の他に、焼結助剤としてAlなどのAlとOを含有する化合物を含有させて構成しても良いし、サイアロン粉末と焼結助剤(特に限定されない)とで構成しても良い。前者の場合、焼結により窒化珪素粒子に焼結助剤のAlとOが固溶してサイアロンとなる。なお、第1相材料に含有させる焼結助剤の量を少なくすると、出来上がる第1相にガラス相は形成されない。
【0026】
<工程2>
工程2では、B,Al,Ti,Siから選択される元素の窒化物、炭化物、酸化物、および炭窒化物の少なくとも1種からなる第2相材料を用意する。この第2相材料を起源として本発明焼結体の第2相が形成される。第2相材料を構成する化合物の平均粒径は、1〜20μmとすることが好ましい。
【0027】
<工程3>
工程3では、用意した第1相材料と第2相材料とを混合する。混合の際は、作製する焼結体における第1相と第2相とが、本発明焼結体に規定する体積比率となるように、第1相材料と第2相材料の混合比を決定する。この混合比は、例えば、質量比で決定すれば良く、この質量比は実験結果をフィードバックすることで決定できる。具体的な第1相材料:第2相材料は、体積比で90:10〜50:50とすると良い。
【0028】
<工程4>
工程4では、混合した第1相材料と第2相材料を焼結する。焼結により第1相材料を起源として形成される第1相と、第2相材料を起源として形成される第2相とを有する焼結体を作製できる。焼結の温度は、第1相材料・第2相材料に何を使用するか、どの程度の量とするかにより好適な値が変化するが、概ね1300〜1800℃とすれば良い。また、焼結時間も概ね0.2〜4hとすると良い。
【0029】
ここで、焼結体の第1相を、サイアロンではなく窒化珪素から形成する場合、既に述べたように、第1相に含まれるガラス相をできるだけ小さくすることが好ましい。その場合、焼結時に材料を急速に加熱することができる放電プラズマ焼結(Spark Plasma Sintering)を利用すると、第1相材料に含有させる焼結助剤の量を少なくでき、ひいては第1相におけるガラス相(粒界相)の割合を小さくすることができる。また、放電プラズマ焼結であれば、短時間で焼結を終了することができるので、高温・長時間の焼結によりcBNがhBNに変態することを抑制することができる。
【実施例】
【0030】
以下、実際に本発明焼結体をプローブに採用した回転工具を作製し、その工具寿命と耐摩耗性を調べた。
【0031】
[試験例1]
<回転工具の作製>
まず、第1相材料として、平均粒径0.3μmの窒化珪素(Si)粉末に、YとAlを添加したものを用意した。Yの添加量とAlの添加量は、Siを100質量%としたときに、それぞれ5質量%と2質量%とした。ここで、平均粒径とは、粒径のヒストグラム中、粒径の小さい粒子からの質量の和が総質量の50%に達する粒子の粒径、つまり50%粒径をいう。
【0032】
また、平均粒径10μmの立方晶窒化ホウ素(cBN)粉末を第2相材料として用意した。なお、このcBN粉末も、上述したSi粉末も市販品である。
【0033】
次いで、用意した第1相材料と第2相材料とをエタノールを用いて混合した後、エタノールを揮発させて、焼結体の材料となる焼結体原料を作製した。このとき、第1相材料と第2相材料の混合比を変化させた複数の焼結体原料を作製しておいた。
【0034】
作製した焼結体原料を黒鉛型に充填し、放電プラズマ焼結炉(株式会社住友石炭工業製:商品名SPS−2030)にて50MPaの圧力をかけ、1500℃×0.5時間焼結した。そして、得られた焼結体を加工して、図1に示すような軸部10とプローブ12とが一体に形成された回転工具1であって、摩擦撹拌接合に用いられる回転工具1を作製した(図1参照)。回転工具1の軸部10の寸法は、φ10mm×軸方向長さ20mm、回転工具1のプローブ12の寸法は、φ4mm×軸方向長さ2.4mmであった。
【0035】
<回転工具の評価方法と評価結果>
次に、摩擦撹拌接合を模した以下に示す条件で板材に作製した回転工具1を押し付ける操作を繰り返し、回転工具1の工具寿命と耐摩耗性を評価した。なお、実際の摩擦撹拌接合は、例えば、接合対象を突き合わせて、その境界部に回転工具1を押し付けるなどして行う。
板材 :厚さ4mmのSUS316
回転工具の回転数 :3000rpm
押し込み速度 :0.1mm/sec
加工時間 :40sec
【0036】
工具寿命は、回転工具に割れや欠けなどが生じるまでの摩擦撹拌接合の回数を測定することで評価した。また、耐摩耗性は、所定回数の摩擦撹拌接合を行う前と後で、プローブの直径(mm)がどのくらい変化したかを測定することで評価した。この測定の結果と、試料における第1相(サイアロン)と第2相(cBN)の体積割合を表1に示す。体積割合は、回転工具の断面における第1相と第2相の面積割合を体積割合と見なすことで求めた。面積割合は、少なくとも3つ以上の単位視野(0.5mm×0.5mm)における測定結果を平均したものである。
【0037】
【表1】

【0038】
表1に示すように、回転工具における第1相の体積割合が50%〜90%である試料1−1〜1−3は、その他の試料1−4〜1−6に比べて顕著に優れた工具寿命と耐摩耗性を有していた。特に、本発明である試料1−1〜1−3を比較すると、第1相の体積割合が高くなるにつれ、工具寿命・耐摩耗性が向上することがわかった。これらのことから、第1相が多すぎても少なすぎても、良好な工具寿命と耐摩耗性を得られないことがわかった。
【0039】
[試験例2]
実施例2では、工具寿命と耐摩耗性に及ぼす焼結体中のcBN粒径の影響について調べた。
【0040】
まず、実施例1と同様に平均粒径が0.3μmの窒化珪素粉末を主体とする第1相材料を用意すると共に、第2相材料として平均粒径が1,5,10,15,20,30μmの5種類のcBN粉末を用意した。そして、用意した各種cBN粉末と窒化珪素粉末とを混合し、焼結することで試料2−1〜2−6を得た。各種cBN粉末と窒化珪素粉末の混合比、および焼結の条件は、実施例1の試料1−2と同様である。
【0041】
得られた試料2−1〜2−6について、実施例1と同様の条件で接合回数と摩耗量を測定し、工具寿命と耐摩耗性を評価した。測定の結果は表2に示す。なお、表中のcBN粒径は、用意したcBN粉末の平均粒径を示しているが、この平均粒径は、試料の断面のSEM写真から実際に求めた第1相におけるcBN粒子の平均粒径と殆ど同じであった。これは、焼結の前後でcBNの粒径は殆ど変化しないためである。
【0042】
【表2】

【0043】
表2の結果から、cBNの平均粒径が1〜20μmの範囲にある試料2−1〜2−5は、cBNの平均粒径が30μmの試料2−6に比べて摩擦撹拌接合のプローブとして優れていることが分かった。特に、cBNの平均粒径が15μmの試料2−4は、極めて優れた工具寿命と耐摩耗性を有していた。
【0044】
[試験例3]
実施例3では、工具寿命と耐摩耗性に及ぼす第2相を構成する化合物の影響について調べた。
【0045】
実施例1,2で用意したcBN粉末の他、第2相材料として、平均粒径が5μmのSiC粉末と、平均粒径が3μmのTiN粉末を用意した。次いで、cBN粉末、SiC粉末、およびTiN粉末から選択される2種類の粉末と、窒化珪素粉末を主体とする第1相材料とを混合し、実施例1と同様の条件で焼結することで試料3−1〜3−4を作製した。そして、得られた試料3−1〜3−4について、実施例1と同様の条件で試験を行い、工具寿命と耐摩耗性を評価した。これら試料の組成と試験結果を表3に示す。
【0046】
【表3】

【0047】
表3の結果から、第2相を構成する化合物がSiCやTiNであっても、cBNと同様に工具寿命と耐摩耗性の改善に効果を発揮することが明らかになった。また、cBNとSiCまたはTiNとの組み合わせも、工具寿命と耐摩耗性の改善に効果があることが明らかになった。
【0048】
なお、上述した実施の形態は、本発明の要旨を逸脱することなく、適宜変更することが可能であり、上述した構成に限定されるものではない。例えば、サイアロンに代えて窒化珪素を利用しても、優れた工具寿命と耐摩耗性を発揮することが期待される。窒化珪素からなる第1相を有する焼結体を作製するには、第1相材料に含有させる焼結助剤をMgOやYなどの、AlとOを同時に含まない材料を用いれば良い。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明焼結体を使用した回転工具は、特に、金属材料からなる部材、例えば、一般構造用鋼材、建築などに用いられる構造用鋼材、自動車用鋼板などの鉄鋼材料といった鉄系材料や、アルミニウム、マグネシウムなどの非鉄金属材料からなる部材同士を摩擦撹拌接合により接合することに好適に利用可能である。
【符号の説明】
【0050】
1 回転工具
10 軸部 12 プローブ
20 接合対象

【特許請求の範囲】
【請求項1】
摩擦撹拌接合に用いられる回転工具のプローブを構成する焼結体であって、
窒化珪素またはサイアロンからなる第1相と、
B,Al,Ti,Siから選択される元素の窒化物、炭化物、酸化物、および炭窒化物あるいはこれらの固溶体であり、かつ、窒化珪素およびサイアロンではない材料からなる第2相と、
不可避的不純物と、からなり、
前記第1相と第2相の合計体積に占める第1相の体積割合は、50〜90%であることを特徴とする焼結体。
【請求項2】
前記第2相を構成する化合物は、cBNであることを特徴とする請求項1に記載の焼結体。
【請求項3】
前記第2相を構成する化合物は、TiNであることを特徴とする請求項1に記載の焼結体。
【請求項4】
前記第2相を構成する化合物は、SiCであることを特徴とする請求項1に記載の焼結体。
【請求項5】
前記第2相を構成する化合物の平均粒径は、1〜20μmであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の焼結体。
【請求項6】
軸部と、
この軸部よりも細径で、軸部の先端に設けられるプローブと、
を備え、摩擦撹拌接合に利用される回転工具であって、
前記プローブは、請求項1〜5のいずれか一項に記載の焼結体からなることを特徴とする回転工具。
【請求項7】
前記プローブは、前記軸部に対して着脱自在であることを特徴とする請求項6に記載の回転工具。
【請求項8】
摩擦撹拌接合に用いられる回転工具のプローブを構成する焼結体の製造方法であって、
窒化珪素粉末を含む第1相材料を用意する工程と、
B,Al,Ti,Siから選択される元素の窒化物、炭化物、酸化物、および炭窒化物の少なくとも1種からなる第2相材料を用意する工程と、
第1相材料と第2相材料とを体積比で90:10〜50:50の割合で混合する工程と、
混合した材料を焼結する工程と、
を備えることを特徴とする焼結体の製造方法。
【請求項9】
前記焼結する工程は、放電プラズマ焼結であることを特徴とする請求項8に記載の焼結体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−98842(P2011−98842A)
【公開日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−252639(P2009−252639)
【出願日】平成21年11月4日(2009.11.4)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】