説明

熱伝導性接着剤組成物及び接着方法

【課題】発熱体からの熱伝導の用途において、より好適に使用可能な熱伝導性接着剤及び接着方法を提供する。
【解決手段】熱伝導性接着剤組成物11は、(A)(メタ)アクリル系モノマー及び(メタ)アクリル系オリゴマーの少なくとも一方からなる重合性(メタ)アクリル系化合物、(B)有機過酸化物、(C)熱伝導性充填材、及び(D)バナジウム化合物を含有している。下記式(1)により求められる、前記(A)重合性(メタ)アクリル系化合物と(C)熱伝導性充填材との体積比αは0.40〜0.65である。前記(C)熱伝導性充填材の40〜100重量%に疎水性表面処理が施されている。
体積比α=(C)熱伝導性充填材の体積/((A)重合性(メタ)アクリル系化合物の体積+(C)熱伝導性充填材の体積)…(1)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば発熱体である各種の電子部品から発生した熱の外部への放散に用いられる熱伝導性接着剤組成物および接着方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電気機器に使用される各種の電子部品の多くは、その使用中に熱を発生する。電子部品を適切に機能させるためには電子部品から発生した熱を該電子部品から取り除く必要がある。そのため、必要に応じて、熱伝導性接着剤組成物などの熱伝導性材料を使用して、電子部品にヒ―トシンクなどの放熱部材が取り付けられている。
【0003】
従来、熱伝導性接着剤組成物として、エポキシ樹脂、(メタ)アクリル系モノマー、又は(メタ)アクリル系オリゴマーからなるバインダと、熱伝導性充填材とを含有したものが知られている。また、特許文献1〜5には、熱伝導以外の用途に用いられ、バナジウム化合物を含有することにより良好な硬化性及び接着性を発揮するアクリル系接着剤組成物が開示されている。
【0004】
バインダとしてエポキシ樹脂を含有する熱伝導性接着剤組成物は、良好な接着強度を有する。しかしながら、この熱伝導性接着剤組成物には、接着に加熱を必要としたり、硬化に時間を要したりするなど、場合によっては取り扱い難いという問題がある。
【0005】
バインダとして(メタ)アクリル系モノマー又は(メタ)アクリル系オリゴマーを含有する熱伝導性接着剤組成物は、常温(例えば20〜25℃)下においても比較的短時間で接着可能であり、優れた作業性を有している。しかしながら、熱伝導性接着剤組成物の熱伝導性を向上させるために、熱伝導性接着剤組成物中の熱伝導性充填材の含有量が増加した場合、熱伝導性充填材が熱伝導性接着剤組成物の硬化を阻害して該組成物の硬化性が悪化したり、熱伝導性接着剤組成物の粘度が上昇して該組成物の作業性が悪化したりするという問題が生じる。熱伝導性接着剤組成物の粘度の上昇に起因する作業性の悪化という問題を解決するための手段として、バインダである(メタ)アクリル系モノマー及び(メタ)アクリル系オリゴマーの粘度を低下させることにより、熱伝導性接着剤組成物の粘度を低下させる方法が挙げられる。しかしながら、この場合には、静置された熱伝導性接着剤組成物中において、熱伝導性充填材同士が凝集して沈降したり、(メタ)アクリル系モノマー及び(メタ)アクリル系オリゴマーが他の成分から分離したりする。そのため、熱伝導性接着剤組成物の使用前に該組成物を十分に撹拌する必要があり、該組成物の作業性が悪化するという問題があった。
【特許文献1】特開平9−132761号公報
【特許文献2】特開平9−132760号公報
【特許文献3】特開平9−53051号公報
【特許文献4】特開平6−80937号公報
【特許文献5】特開平5−125331号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、このような従来技術に存在する問題点に着目してなされたものである。その目的とするところは、発熱体からの熱伝導の用途において、より好適に使用可能な熱伝導性接着剤組成物及び接着方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、(A)(メタ)アクリル系モノマー及び(メタ)アクリル系オリゴマーの少なくとも一方からなる重合性(メタ)アクリル系化合物、(B)有機過酸化物、(C)熱伝導性充填材、及び(D)バナジウム化合物を含有する熱伝導性接着剤組成物であって、下記式(1)により求められる、前記(A)重合性(メタ)アクリル系化合物と(C)熱伝導性充填材との体積比αが0.40〜0.65であり、前記(C)熱伝導性充填材の40〜100重量%に疎水性表面処理が施されている熱伝導性接着剤組成物を提供する。
【0008】
体積比α=(C)熱伝導性充填材の体積/((A)重合性(メタ)アクリル系化合物の体積+(C)熱伝導性充填材の体積)…(1)
請求項2に記載の発明は、前記(C)熱伝導性充填材に施される疎水性表面処理が、ステアリン酸又はチタネートカップリング剤による表面処理である請求項1に記載の熱伝導性接着剤組成物を提供する。
【0009】
請求項3に記載の発明は、前記熱伝導性接着剤組成物は(E)アルデヒドとアミンとの縮合物を更に含有し、前記(A)重合性(メタ)アクリル系化合物、(B)有機過酸化物、及び(C)熱伝導性充填材を含有する主剤と、前記(D)バナジウム化合物及び(E)アルデヒドとアミンとの縮合物を含有するプライマーとから構成されている請求項1又は請求項2に記載の熱伝導性接着剤組成物を提供する。
【0010】
請求項4に記載の発明は、前記熱伝導性接着剤組成物は、第1剤と、第2剤とから構成され、前記第1剤及び第2剤の両方が(A)重合性(メタ)アクリル系化合物を含有し、更に第1剤及び第2剤の内の一方のみが(B)有機過酸化物を含有するとともに他方のみが(D)バナジウム化合物を含有する請求項1又は請求項2に記載の熱伝導性接着剤組成物を提供する。
【0011】
請求項5に記載の発明は、請求項3に記載の熱伝導性接着剤組成物を用いて第1被着体と第2被着体とを接着させる方法であって、主剤を第1被着体に塗布する工程と、プライマーを第2被着体に塗布する工程と、接合界面上で主剤とプライマーとが互いに接触するように第1被着体と第2被着体とを接合させることにより、第1被着体と第2被着体とを接着させる工程とを備える方法を提供する。
【0012】
請求項6に記載の発明は、請求項4に記載の熱伝導性接着剤組成物を用いて第1被着体と第2被着体とを接着させる方法であって、第1剤及び第2剤を混合する工程と、混合された第1剤及び第2剤を、第1被着体と第2被着体との少なくとも一方に塗布する工程と、混合された第1剤及び第2剤が接合界面上に存在するように第1被着体と第2被着体とを接合させることにより、第1被着体と第2被着体とを接着させる工程とを備える方法を提供する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、発熱体からの熱伝導の用途において、より好適に使用可能な熱伝導性接着剤及び接着方法が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
(第1実施形態)
以下、本発明を熱伝導性接着剤組成物に具体化した第1実施形態を詳細に説明する。以下の説明において、熱伝導性接着剤組成物を単に接着剤という。本実施形態に係る接着剤は、下記の各成分を含有している。
【0015】
(A)(メタ)アクリル系モノマー及び(メタ)アクリル系オリゴマーの少なくとも一方からなる重合性(メタ)アクリル系化合物、
(B)有機過酸化物、
(C)熱伝導性充填材、
(D)バナジウム化合物、及び
(E)アルデヒドとアミンとの縮合物。
【0016】
本実施形態に係る接着剤は、(A)重合性(メタ)アクリル系化合物、(B)有機過酸化物、及び(C)熱伝導性充填材を含有する主剤と、(D)バナジウム化合物及び(E)アルデヒドとアミンとの縮合物を含有するプライマー(硬化促進剤)とから構成されている。接着剤は、第1被着体と第2被着体との接着、例えば発熱体としての電子部品と放熱部材としてのヒートシンクとの接着に用いられる。
【0017】
(A)(メタ)アクリル系モノマー及び(メタ)アクリル系オリゴマーの少なくとも一方からなる重合性(メタ)アクリル系化合物は、接着剤が使用される前においては、(B)有機過酸化物の溶媒として作用したり、(C)熱伝導性充填材の分散媒として作用したりする。更に、接着剤が使用される際には、(A)重合性(メタ)アクリル系化合物は、その重合に起因して接着剤を硬化させて例えば電子部品とヒートシンクとを接着させる。本願では、アクリルとメタクリルとを合わせて(メタ)アクリルと称する。(A)重合性(メタ)アクリル系化合物として、例えば(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸アルキルエステル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステル、アセトキシアルキル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、プロピレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、多価アルコールのポリ(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート、ウレタン(メタ)アクリレート、ポリエステル(メタ)アクリレート、及びアミド(メタ)アクリレートが挙げられる。(A)重合性(メタ)アクリル系化合物として、これらの具体例の中の一種のみが用いられてもよいし、二種以上が組み合わされて用いられてもよい。(A)重合性(メタ)アクリル系化合物の分子量は特に限定されない。
【0018】
(B)有機過酸化物は、その分解に起因して発生するラジカルによって(A)重合性(メタ)アクリル系化合物を重合させる。(B)有機過酸化物として、例えばクメンヒドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンヒドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンジヒドロパーオキサイド、t−ブチルヒドロパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、ビス(1−ヒドロキシシクロヘキシルパーオキサイド)、及びケトンパーオキサイドが挙げられる。(B)有機過酸化物として、これらの具体例の中の一種のみが用いられてもよいし、二種以上が組み合わされて用いられてもよい。これらの具体例の中でも、保存安定性が高いことから、前記各ヒドロパーオキサイドが好ましく、クメンヒドロパーオキサイドがより好ましい。
【0019】
接着剤中の(B)有機過酸化物の含有量は、好ましくは(A)重合性(メタ)アクリル系化合物100重量部に対して5〜10重量部である。(B)有機過酸化物の含有量が5重量部未満の場合には、(A)重合性(メタ)アクリル系化合物の重合の効率が低下して接着に時間を要するおそれがある。(B)有機過酸化物の含有量が10重量部を超えても、接着に要する時間を更に短縮することができないうえに、過剰に含有される(B)有機過酸化物に起因して接着剤の物性、例えば接着剤の安定性が悪化するおそれがある。
【0020】
(C)熱伝導性充填材は、接着剤が例えば電子部品とヒートシンクとの接着に用いられた際に、電子部品から発生した熱をヒートシンクへ伝導する。(C)熱伝導性充填材の材質は特に限定されないが、優れた熱伝導性を発揮することから、該材質として、酸化亜鉛、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化マグネシウム、酸化ケイ素、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、窒化ケイ素、炭化ケイ素、ダイヤモンド、アルミニウム、銀、銅、及び黒鉛が好ましい。(C)熱伝導性充填材として、同一の材質から形成される一種のみが用いられてもよいし、異なる材質から形成される二種以上が組み合わされて用いられてもよい。接着剤に電気絶縁性が要求される場合には通常、(C)熱伝導性充填材は電気絶縁性を有する材質により形成される。
【0021】
(C)熱伝導性充填材の形状は特に限定されず、該形状として、例えば粒子状が挙げられる。粒子状を有する(C)熱伝導性充填材の平均粒径は、好ましくは0.2〜10μmである。(C)熱伝導性充填材の平均粒径が0.2μm未満の場合には、(C)熱伝導性充填材の接着剤への充填性が悪化し、接着剤中の(C)熱伝導性充填材の含有量を高めることが困難になる。接着剤は、例えば電子部品とヒートシンクとの接着に使用される際に、電子部品とヒートシンクとの間で圧縮された状態で硬化する。接着剤の硬化後、電子部品とヒートシンクとの間には、接着剤により構成された接着層が形成される。電子部品とヒートシンクとの距離が短いほど、即ち接着層が薄いほど、接着層の熱抵抗が低くなって該接着層の熱伝導性が向上される。(C)熱伝導性充填材の平均粒径が10μmを超える場合には、接着の際に接着剤が十分に圧縮されず、接着層が厚く形成されて該接着層の熱伝導性が低下するおそれがある。(C)熱伝導性充填材として、同一の平均粒径を有する一種類の熱伝導性充填材のみが用いられてもよいし、異なる平均粒径を有する二種類以上の熱伝導性充填材が組み合わされて用いられてもよい。(C)熱伝導性充填材の粒度分布についても特に限定されない。
【0022】
下記式(1)により求められる、(A)重合性(メタ)アクリル系化合物と(C)熱伝導性充填材との体積比αは0.40〜0.65である。体積比αが0.40未満の場合には、接着剤中の(C)熱伝導性充填材の含有量が過剰に低いことから、接着剤は、発熱体からの熱伝導の用途に使用される接着剤に要求される熱伝導性を発揮することができない。体積比αが0.65を超える場合には、接着剤の粘度が過剰に上昇し、接着剤の作業性が悪化して該接着剤を使用することができない。
【0023】
体積比α=(C)熱伝導性充填材の体積/((A)重合性(メタ)アクリル系化合物の体積+(C)熱伝導性充填材の体積)…(1)
(C)熱伝導性充填材の内、40〜100重量%の熱伝導性充填材に疎水性表面処理が施されている。疎水性表面処理が施されている熱伝導性充填材の割合が40重量%未満の場合には、(A)重合性(メタ)アクリル系化合物と(C)熱伝導性充填材とのなじみが悪く、(C)熱伝導性充填材の分散安定性が低下する。その結果、接着剤が静置された際に(C)熱伝導性充填材同士が凝集して沈降する。疎水性表面処理としては、例えばステアリン酸、チタネートカップリング剤、又はシランカップリング剤による表面処理が挙げられる。これらの中でも、(A)重合性(メタ)アクリル系化合物と(C)熱伝導性充填材とをなじませる効果が高いことから、ステアリン酸又はチタネートカップリング剤による表面処理が好ましい。ステアリン酸又はチタネートカップリング剤による(C)熱伝導性充填材の表面処理は、例えばステアリン酸又はチタネートカップリング剤と(C)熱伝導性充填材とをプラネタリーミキサー等の混合機にて混合した後、該(C)熱伝導性充填材を乾燥させることにより行われる。
【0024】
(D)バナジウム化合物は、(B)有機過酸化物と反応することにより該(B)有機過酸化物を分解させてラジカルを発生させる。(D)バナジウム化合物として、例えばバナジウムアセチルアセトネート、バナジルアセチルアセトネート、バナジルステアレート、バナジウムナフテネート、バナジウムベンゾイルアセトネート、及びシュウ酸バナジルが挙げられる。
【0025】
接着剤中の(D)バナジウム化合物の含有量は、該(D)バナジウム化合物の(B)有機過酸化物との反応性に依存しており、(D)バナジウム化合物として、例えば(B)有機過酸化物との高い反応性を有するバナジウムアセチルアセテートが用いられる場合には、(B)有機過酸化物5重量部に対して1〜5重量部である。
【0026】
(E)アルデヒドとアミンとの縮合物は常温で不揮発性を有する液体であり、接着剤の使用前においては(D)バナジウム化合物の溶媒として作用する。更に、接着剤が使用される際には、(E)アルデヒドとアミンとの縮合物は(A)重合性(メタ)アクリル系化合物の重合に悪影響を与えない。常温とは接着剤が通常使用される際の温度のことであり、例えば20〜25℃である。(E)アルデヒドとアミンとの縮合物として、例えばブチルアルデヒドとアニリンとの縮合物、ブチルアルデヒドとn−ブチルアミンとの縮合物、及びヘプトアルデヒドとアニリンとの縮合物が挙げられる。
【0027】
接着剤中の(E)アルデヒドとアミンとの縮合物の含有量は、好ましくは(D)バナジウム化合物5重量部に対して50〜200重量部である。(E)アルデヒドとアミンとの縮合物の含有量が50重量部未満の場合には、(D)バナジウム化合物を十分に溶解させることができなかったり、プライマーの粘度が上昇して該プライマーの塗布が困難になったりするおそれがある。(E)アルデヒドとアミンとの縮合物の含有量が200重量部を超えると、過剰な(E)アルデヒドとアミンとの縮合物に起因して接着剤の硬化が遅延したり、該接着剤の接着力が低下したりするおそれがある。
【0028】
接着剤は、必要に応じて前記各成分以外の成分を含有してもよい。前記各成分以外の成分として、例えば液状ゴム、重合禁止剤、酸化防止剤、腐食防止剤、紫外線吸収剤、錆止め剤、粘度調整剤、増ちょう剤、硬化促進剤、硬化促進助剤、揺変性付与剤、顔料、染料、消泡剤、可塑剤、及び(E)アルデヒドとケトンとの縮合物以外の溶媒が挙げられる。接着剤は、前記各成分を準備する工程と、各成分を適宜に混合して主剤及びプライマーを別々に調製する工程とを経て製造される。
【0029】
第1被着体としての例えば電子部品と、第2被着体としての例えばヒートシンクとの接着剤を用いた接着では、主剤を電子部品に塗布する工程と、プライマーをヒートシンクに塗布する工程と、電子部品とヒートシンクとを接着させる工程とを経て電子部品とヒートシンクとが接着される。電子部品とヒートシンクとを接着させる工程では、図1(a)に矢印で示すように、接合界面上で主剤12とプライマー13とが互いに接触するように電子部品14とヒートシンク15とを接合させる。電子部品14とヒートシンク15とが接合した際、主剤12とプライマー13とを十分に接触させるために、所定の荷重を例えばヒートシンク15に加え、電子部品14とヒートシンク15との間に位置する接着剤11を圧縮させる。
【0030】
主剤12とプライマー13とが接触したときには、液状の主剤12とプライマー13とが混ざり合うことにより、主剤12中の(B)有機過酸化物とプライマー13中の(D)バナジウム化合物とが反応して(B)有機過酸化物が分解し、ラジカルが発生する。このラジカルにより(A)重合性(メタ)アクリル系化合物が重合し、図1(b)に示すように、接着剤が硬化して接着層16が形成される。そして、電子部品14とヒートシンク15とが接着層16を介して接着される。
【0031】
前記実施形態によって発揮される効果について、以下に記載する。
・ 本実施形態に係る接着剤11は、(A)重合性(メタ)アクリル系化合物と、(B)有機過酸化物と、(C)熱伝導性充填材と、(D)バナジウム化合物とを含有している。更に、前記式(1)により求められる、(A)重合性(メタ)アクリル系化合物と(C)熱伝導性充填材との体積比αが0.40〜0.65に設定されているとともに、(C)熱伝導性充填材の40〜100重量%に疎水性表面処理が施されている。
【0032】
一般的に、接着剤中の(C)熱伝導性充填材の含有量の増加に伴い、該(C)熱伝導性充填材に起因して接着剤の硬化が遅延する。これに対して、本実施形態では、(D)バナジウム化合物によって(B)有機過酸化物を速やかに分解してラジカルを発生させ、(A)重合性(メタ)アクリル系化合物の重合を促進することにより、接着剤11の硬化の遅延を抑制することができる。また、(C)熱伝導性充填材に疎水性表面処理を施すことにより、(A)重合性(メタ)アクリル系化合物と(C)熱伝導性充填材とをよくなじませて(C)熱伝導性充填材の分散安定性を向上させることができる。そのため、本実施形態に係る接着剤11では、前記体積比αが0.40〜0.65となるように(C)熱伝導性充填材を高い割合で接着剤11に含有させても、該接着剤11の作業性を向上させるとともに常温において接着剤11を速やかに硬化させることができる。その結果、接着に要する時間を短縮することができるとともに、接着に要する設備を簡略化することができる。
【0033】
・ 本実施形態に係るプライマー13は、(D)バナジウム化合物の溶媒として作用する(E)アルデヒドとアミンとの縮合物を含有しており、該(E)アルデヒドとアミンとの縮合物は常温で不揮発性を有している。そのため、プライマー13が例えばヒートシンク15に塗布された際に、(D)バナジウム化合物の溶媒が常温において揮発することによりプライマー13が固化することを抑制する。そして、電子部品14とヒートシンク15との接合の際に主剤12とプライマー13とが混ざり合い難くなったり、電子部品14とヒートシンク15とが密着し難くなったりすることを抑制することができる。
【0034】
・ 本実施形態に係る接着剤11は、主剤12とプライマー13とから構成されており、例えば主剤12が電子部品14に塗布されるとともにプライマー13がヒートシンク15に塗布される。主剤12中の(A)重合性(メタ)アクリル系化合物は、主剤12とプライマー13とが接触するまで重合しない。そのため、本実施形態では、ポットライフの問題がほとんど発生せず、且つ接着剤11の使用前に主剤12とプライマー13とを予め混合する必要がないことから、接着剤11の作業性を向上させることができる。特に、本実施形態に係る接着剤11は、多量の被着体の接着に適している。
【0035】
(第2実施形態)
次に、本発明を接着剤11に具体化した第2実施形態を詳細に説明する。第2実施形態においては、第1実施形態との説明の重複を避けるために、第1実施形態と同一の成分、作用、及び効果についての説明を省略する。本実施形態に係る接着剤11は下記の各成分を含有しており、第1剤と、第2剤とから構成されている。
【0036】
(A)(メタ)アクリル系モノマー及び(メタ)アクリル系オリゴマーの少なくとも一方からなる重合性(メタ)アクリル系化合物、
(B)有機過酸化物、
(C)熱伝導性充填材、及び
(D)バナジウム化合物。
【0037】
第1剤及び第2剤の両方は(A)重合性(メタ)アクリル系化合物をそれぞれ含有している。更に、第1剤及び第2剤の内の一方のみが(B)有機過酸化物を含有し、他方のみが(D)バナジウム化合物を含有している。(C)熱伝導性充填材は、第1剤及び第2剤の内の一方のみに含有されてもよいし、第1剤及び第2剤の両方に含有されてもよい。
【0038】
(A)重合性(メタ)アクリル系化合物は、接着剤11が使用される前においては、(B)有機過酸化物及び(D)バナジウム化合物の溶媒として作用したり、(C)熱伝導性充填材の分散媒として作用したりする。更に、接着剤11が使用される際には、(A)重合性(メタ)アクリル系化合物は、その重合に起因して接着剤11を硬化させて例えば電子部品14とヒートシンク15とを接着させる。接着剤11は、前記各成分を準備する工程と、各成分を適宜に混合して第1剤及び第2剤を調製する工程とを経て製造される。
【0039】
第1被着体としての例えば電子部品14と、第2被着体としての例えばヒートシンク15との接着剤11を用いた接着では、以下の工程を経て電子部品14とヒートシンク15とが接着される。即ち、電子部品14とヒートシンク15とは、第1剤及び第2剤を混合して接着剤11を調製する工程と、混合された第1剤及び第2剤、即ち接着剤11を例えば電子部品14のみに塗布する工程と、電子部品14とヒートシンク15とを接着させる工程とを経て接着される。電子部品14とヒートシンク15とを接着させる工程では、図1(c)に矢印で示すように、接着剤11が接合界面上に存在するように電子部品14とヒートシンク15とを接合させる。電子部品14とヒートシンク15とが接合した際、接着剤11を接合界面の全体にわたって均一に存在させるために、所定の荷重を例えばヒートシンク15に加え、電子部品14とヒートシンク15との間に位置する接着剤11を圧縮させる。
【0040】
接着剤11中では、(B)有機過酸化物と(D)バナジウム化合物とが反応して(B)有機過酸化物が分解し、ラジカルが発生する。このラジカルにより(A)重合性(メタ)アクリル系化合物が重合し、図1(d)に示すように、接着剤が硬化して接着層16が形成される。そして、電子部品14とヒートシンク15とが接着層16を介して接着される。
【0041】
前記実施形態によって発揮される効果について、以下に記載する。
・ 本実施形態に係る接着剤11は、第1剤と第2剤とから構成されている。第1剤及び第2剤は、接着剤11の使用前に予め混合された後、例えば電子部品14のみに塗布される。そのため、本実施形態では、接着剤11の一度の塗布で接着を行うことができ、接着剤11の作業性を向上させることができる。本実施形態は、第1実施形態に対して、少量の被着体の接着に適している。
【0042】
・ 本実施形態に係る接着剤11は第1実施形態に係る(E)アルデヒドとアミンとの縮合物を含有しないことから、第1実施形態に比べて接着剤11の組成を簡略化することができる。
【0043】
各実施形態は、以下のように変更して具体化されてもよい。
・ 各実施形態において、第1被着体として電子部品14以外の発熱体が用いられるととともに、第2被着体としてヒートシンク15以外の放熱部材、例えば電子機器の筐体が用いられてもよい。
【0044】
・ 第1実施形態において、主剤12がヒートシンク15に塗布されるとともにプライマー13が電子部品14に塗布されてもよい。
・ 第2実施形態において、混合された第1剤及び第2剤が例えばヒートシンク15のみに塗布されてもよいし、電子部品14とヒートシンク15との両方に塗布されてもよい。
【0045】
・ 第2実施形態において、第1剤及び第2剤を混合することなく、例えば第1剤を電子部品14に塗布するとともに第2剤をヒートシンク15に塗布した後、電子部品14及びヒートシンク15を接合させることによりそれらを接着してもよい。この場合、例えば、第1剤が(A)重合性(メタ)アクリル系化合物としての2−ヒドロキシエチルメタクリレート100重量部、(D)バナジウム化合物5重量部、及びアセトン200重量部を含有し、第2剤が(A)重合性(メタ)アクリル系化合物、(B)有機過酸化物、及び(C)熱伝導性充填材を含有する。2−ヒドロキシエチルメタクリレートは(メタ)アクリル系モノマーであり、例えば(A)重合性(メタ)アクリル系化合物としてのポリカーボネート系ウレタンアクリレートに比べて低粘度である。そのため、この第1剤を第1実施形態のプライマーの様に用いて電子部品14とヒートシンク15とを接着させることができる。
【実施例】
【0046】
次に、実施例及び比較例を挙げて前記実施形態をさらに具体的に説明する。
(実施例1)
実施例1においては、第1実施形態に対応する接着剤を調製した。即ち、(A)重合性(メタ)アクリル系化合物としての、ポリカーボネート系ウレタンアクリレート及び2−ヒドロキシエチルメタクリレートと、(B)有機過酸化物としてのクメンヒドロパーオキサイドと、(C)熱伝導性充填材としての水酸化アルミニウムの粒子とをプラネタリーミキサーに投入し、20℃で1時間撹拌して主剤を調製した。各成分の投入割合を表1に示す。水酸化アルミニウムの粒子の平均粒径は3μmであり、水酸化アルミニウムの粒子の内の100重量%、即ち全ての粒子にチタネートカップリング剤による疎水性表面処理を施した。主剤において、各成分の比重及び配合割合(重量部)に基づいて前記式(1)により求められる、(A)重合性(メタ)アクリル系化合物と(C)熱伝導性充填材との体積比αは0.40であった。
【0047】
また、(D)バナジウム化合物としてのバナジウムアセチルアセトネート、(E)アルデヒドとアミンとの縮合物としてのブチルアルデヒドとアニリンとの縮合物、及び(D)バナジウム化合物の溶媒としてアセトンを撹拌機に投入し、20℃で5時間撹拌してプライマーを調製した。各成分の投入割合を表1に示す。
【0048】
(実施例2)
実施例2においては、第2実施形態に対応する接着剤を調製した。即ち、(A)重合性(メタ)アクリル系化合物としての、ポリカーボネート系ウレタンアクリレート及び2−ヒドロキシエチルメタクリレートと、(B)有機過酸化物としてのクメンヒドロパーオキサイドと、(C)熱伝導性充填材としての水酸化アルミニウムの粒子とをプラネタリーミキサーに投入し、20℃で1時間撹拌して第1剤を調製した。各成分の投入割合を表1に示す。水酸化アルミニウムの粒子の平均粒径は3μmであり、水酸化アルミニウムの粒子の内の100重量%、即ち全ての粒子にチタネートカップリング剤による疎水性表面処理を施した。第1剤において、各成分の比重及び配合割合(重量部)に基づいて前記式(1)により求められる、(A)重合性(メタ)アクリル系化合物と(C)熱伝導性充填材との体積比αは0.63であった。
【0049】
また、(A)重合性(メタ)アクリル系化合物としての、ポリカーボネート系ウレタンアクリレート及び2−ヒドロキシエチルメタクリレートと、(D)バナジウム化合物としてのバナジウムアセチルアセトネートとを撹拌機に投入し、20℃で5時間撹拌して第2剤を調製した。各成分の投入割合を表1に示す。接着剤において、即ち510重量部の第1剤と102重量部の第2剤との混合物において、各成分の比重及び配合割合(重量部)に基づいて前記式(1)により求められる、(A)重合性(メタ)アクリル系化合物と(C)熱伝導性充填材との体積比αは0.45であった。
【0050】
(実施例3)
実施例3においては、第1実施形態に対応する接着剤を調製した。即ち、(A)重合性(メタ)アクリル系化合物としての、ポリカーボネート系ウレタンアクリレート及び2−ヒドロキシエチルメタクリレートと、(B)有機過酸化物としてのクメンヒドロパーオキサイドと、(C)熱伝導性充填材としての水酸化アルミニウムの粒子とをプラネタリーミキサーに投入し、20℃で1時間撹拌して主剤を調製した。各成分の投入割合を表1に示す。水酸化アルミニウムの粒子の平均粒径は3μmであり、水酸化アルミニウムの粒子の内の100重量%、即ち全ての粒子にステアリン酸による疎水性表面処理を施した。主剤において、各成分の比重及び配合割合(重量部)に基づいて前記式(1)により求められる、(A)重合性(メタ)アクリル系化合物と(C)熱伝導性充填材との体積比αは0.56であった。また、実施例1と同様にしてプライマーを調製した。
【0051】
(実施例4)
実施例4においては、第1実施形態に対応する接着剤を調製した。即ち、(A)重合性(メタ)アクリル系化合物としての、ポリカーボネート系ウレタンアクリレート及び2−ヒドロキシエチルメタクリレートと、(B)有機過酸化物としてのクメンヒドロパーオキサイドと、(C)熱伝導性充填材としての水酸化アルミニウムの粒子とをプラネタリーミキサーに投入し、20℃で1時間撹拌して主剤を調製した。各成分の投入割合を表1に示す。水酸化アルミニウムの粒子の平均粒径は3μmであり、水酸化アルミニウムの粒子の内の100重量%、即ち全ての粒子にチタネートカップリング剤による疎水性表面処理を施した。主剤において、各成分の比重及び配合割合(重量部)に基づいて前記式(1)により求められる、(A)重合性(メタ)アクリル系化合物と(C)熱伝導性充填材との体積比αは0.63であった。また、実施例1と同様にしてプライマーを調製した。
【0052】
(実施例5)
実施例5においては、第1実施形態に対応する接着剤を調製した。即ち、(A)重合性(メタ)アクリル系化合物としての、ポリカーボネート系ウレタンアクリレート及び2−ヒドロキシエチルメタクリレートと、(B)有機過酸化物としてのクメンヒドロパーオキサイドと、(C)熱伝導性充填材としての水酸化アルミニウムの粒子とをプラネタリーミキサーに投入し、20℃で1時間撹拌して主剤を調製した。(C)熱伝導性充填材として、疎水性表面処理が施されていない水酸化アルミニウムの粒子と、チタネートカップリング剤による疎水性表面処理が施された水酸化アルミニウムの粒子とを用いた。各成分の投入割合を表1に示す。水酸化アルミニウムの粒子の平均粒径は3μmであった。水酸化アルミニウムの粒子の内、疎水性表面処理が施された粒子の割合は40重量%であった。主剤において、各成分の比重及び配合割合(重量部)に基づいて前記式(1)により求められる、(A)重合性(メタ)アクリル系化合物と(C)熱伝導性充填材との体積比αは0.45であった。また、実施例1と同様にしてプライマーを調製した。
【0053】
(実施例6)
実施例6においては、第1実施形態に対応する接着剤を調製した。即ち、(A)重合性(メタ)アクリル系化合物としての、ポリカーボネート系ウレタンアクリレート及び2−ヒドロキシエチルメタクリレートと、(B)有機過酸化物としてのクメンヒドロパーオキサイドと、(C)熱伝導性充填材としての水酸化アルミニウムの粒子とをプラネタリーミキサーに投入し、20℃で1時間撹拌して主剤を調製した。各成分の投入割合を表1に示す。水酸化アルミニウムの粒子の平均粒径は50μmであり、水酸化アルミニウムの粒子の内の100重量%、即ち全ての粒子にチタネートカップリング剤による疎水性表面処理を施した。主剤において、各成分の比重及び配合割合(重量部)に基づいて前記式(1)により求められる、(A)重合性(メタ)アクリル系化合物と(C)熱伝導性充填材との体積比αは0.56であった。また、実施例1と同様にしてプライマーを調製した。
【0054】
(比較例1)
比較例1においては、主剤と、プライマーとから構成される接着剤を調製した。即ち、(A)重合性(メタ)アクリル系化合物としての、ポリカーボネート系ウレタンアクリレート及び2−ヒドロキシエチルメタクリレートと、(B)有機過酸化物としてのクメンヒドロパーオキサイドと、(C)熱伝導性充填材としての水酸化アルミニウムの粒子とをプラネタリーミキサーに投入し、20℃で1時間撹拌して主剤を調製した。各成分の投入割合を表2に示す。水酸化アルミニウムの粒子の平均粒径は3μmであり、水酸化アルミニウムの粒子の内の100重量%、即ち全ての粒子にチタネートカップリング剤による疎水性表面処理を施した。主剤において、各成分の比重及び配合割合(重量部)に基づいて前記式(1)により求められる、(A)重合性(メタ)アクリル系化合物と(C)熱伝導性充填材との体積比αは0.35であった。また、実施例1と同様にしてプライマーを調製した。
【0055】
(比較例2)
比較例2においては、主剤と、プライマーとから構成される接着剤を調製した。即ち、(A)重合性(メタ)アクリル系化合物としての、ポリカーボネート系ウレタンアクリレート及び2−ヒドロキシエチルメタクリレートと、(B)有機過酸化物としてのクメンヒドロパーオキサイドと、(C)熱伝導性充填材としての水酸化アルミニウムの粒子とをプラネタリーミキサーに投入し、20℃で1時間撹拌して主剤を調製した。各成分の投入割合を表2に示す。水酸化アルミニウムの粒子の平均粒径は3μmであり、水酸化アルミニウムの粒子の内の100重量%、即ち全ての粒子にチタネートカップリング剤による疎水性表面処理を施した。主剤において、各成分の比重及び配合割合(重量部)に基づいて前記式(1)により求められる、(A)重合性(メタ)アクリル系化合物と(C)熱伝導性充填材との体積比αは0.68であった。また、実施例1と同様にしてプライマーを調製した。
【0056】
(比較例3)
比較例3においては、主剤と、プライマーとから構成される接着剤を調製した。即ち、(A)重合性(メタ)アクリル系化合物としてのポリカーボネート系ウレタンアクリレート及び2−ヒドロキシエチルメタクリレートと、(B)有機過酸化物としてのクメンヒドロパーオキサイドと、(C)熱伝導性充填材としての水酸化アルミニウムの粒子とをプラネタリーミキサーに投入し、20℃で1時間撹拌して主剤を調製した。(C)熱伝導性充填材として、疎水性表面処理が施されていない水酸化アルミニウムの粒子と、チタネートカップリング剤による疎水性表面処理が施された水酸化アルミニウムの粒子とを用いた。各成分の投入割合を表2に示す。水酸化アルミニウムの粒子の平均粒径は3μmであった。水酸化アルミニウムの粒子の内、疎水性表面処理が施された粒子の割合は30重量%であった。主剤において、各成分の比重及び配合割合(重量部)に基づいて前記式(1)により求められる、(A)重合性(メタ)アクリル系化合物と(C)熱伝導性充填材との体積比αは0.45であった。また、実施例1と同様にしてプライマーを調製した。
【0057】
(比較例4)
比較例4においては、主剤と、プライマーとから構成される接着剤を調製した。即ち、(A)重合性(メタ)アクリル系化合物としての、ポリカーボネート系ウレタンアクリレート及び2−ヒドロキシエチルメタクリレートと、(B)有機過酸化物としてのクメンヒドロパーオキサイドと、(C)熱伝導性充填材としての水酸化アルミニウムの粒子とをプラネタリーミキサーに投入し、20℃で1時間撹拌して主剤を調製した。各成分の投入割合を表2に示す。水酸化アルミニウムの粒子の平均粒径は50μmであり、水酸化アルミニウムの粒子の内の100重量%、即ち全ての粒子にチタネートカップリング剤による疎水性表面処理を施した。主剤において、各成分の比重及び配合割合(重量部)に基づいて前記式(1)により求められる、(A)重合性(メタ)アクリル系化合物と(C)熱伝導性充填材との体積比αは0.35であった。また、実施例1と同様にしてプライマーを調製した。
【0058】
(比較例5)
比較例5においては、主剤と、プライマーとから構成される接着剤を調製した。即ち、(A)重合性(メタ)アクリル系化合物としてのポリカーボネート系ウレタンアクリレート及び2−ヒドロキシエチルメタクリレートと、(B)有機過酸化物としてのクメンヒドロパーオキサイドと、(C)熱伝導性充填材としての水酸化アルミニウムの粒子とをプラネタリーミキサーに投入し、20℃で1時間撹拌して主剤を調製した。各成分の投入割合を表2に示す。水酸化アルミニウムの粒子の平均粒径は3μmであり、水酸化アルミニウムの粒子の内の100重量%、即ち全ての粒子にステアリン酸による疎水性表面処理を施した。主剤において、各成分の比重及び配合割合(重量部)に基づいて前記式(1)により求められる、(A)重合性(メタ)アクリル系化合物と(C)熱伝導性充填材との体積比αは0.56であった。
【0059】
また、ナフテン酸コバルト、(E)アルデヒドとアミンとの縮合物としてのブチルアルデヒドとアニリンとの縮合物、及びナフテン酸コバルトの溶媒としてのアセトンを撹拌機に投入し、20℃で5時間撹拌してプライマーを調製した。各成分の投入割合を表2に示す。
【0060】
そして、各例の接着剤について、下記の各項目に関して測定又は評価を行った。その結果を表1及び表2に示す。表1及び表2中の主剤又は第1剤において、各成分の比重及び配合割合(重量部)に基づいて前記式(1)により求められる、(A)重合性(メタ)アクリル系化合物と(C)熱伝導性充填材との体積比αの値を“主剤又は第1剤における体積比α”欄に示す。また、接着剤において、各成分の比重及び配合割合(重量部)に基づいて前記式(1)により求められる、(A)重合性(メタ)アクリル系化合物と(C)熱伝導性充填材との体積比αの値を“接着剤における体積比α”欄に示す。
【0061】
<粘度>
各例の主剤又は第1剤について、ブルックフィールド型回転粘度計を用いて粘度を測定した。粘度の測定を、20℃雰囲気下で行うとともに、10rpmの回転数で行った。表2の“粘度”欄において、“−”は主剤が液状化せず、粘度を測定することができなかったことを示す。
【0062】
<分離性>
各例の主剤又は第1剤について、各成分の分離性を評価した。即ち、各例の主剤又は第1剤を20℃雰囲気下で10日間静置した後、目視により成分の分離及び沈降の有無を確認した。表1及び表2の“分離性”欄において、“○”は成分の分離及び沈降を確認することができなかったことを示し、“×”は成分の分離又は沈降を確認したことを示す。表2の“粘度”欄において、“−”は主剤が液状化せず、分離性を評価することができなかったことを示す。
【0063】
<硬化性>
各例の接着剤について、所定の時間における硬化の程度に基づいて硬化性を評価した。即ち、実施例2以外の各例においては、10重量部の主剤を第1の被着体としての一方のポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムに塗布するとともに、1重量部のプライマーを第2の被着体としての他方のPETフィルムに塗布した後、各PETフィルムを貼り合わせた。実施例2においては、5重量部の第1剤及び1重量部の第2剤を混合した後、混合された第1剤及び第2剤を一対のPETフィルムにそれぞれ塗布し、各PETフィルムを貼り合わせた。そして、貼り合わせたPETフィルムを20℃雰囲気下において1時間養生した後、接着剤の硬化の度合いを評価した。表1及び表2の“硬化性”欄において、“○”は接着剤が完全に硬化していたことを示し、“×”は硬化が不十分な部位が存在していたことを示す。表2の“硬化性”欄において、“−”は主剤が液状化せず、硬化性を評価することができなかったことを示す。
【0064】
<接着強度>
各例の接着剤について、日本工業規格であるJIS K6850に基づいて接着強度を測定した。被着体として複数のアルミニウム板(縦25mm、横100mm、厚さ1.5mm)を用い、アルミニウム板の表面に縦25mm及び横12.5mmの接着面を設けた。実施例2以外の各例においては、10重量部の主剤を第1の被着体としての一方のアルミニウム板に塗布するとともに、1重量部のプライマーを第2の被着体としての他方のアルミニウム板に塗布した後、各アルミニウム板を貼り合わせた。実施例2においては、5重量部の第1剤及び1重量部の第2剤を混合した後、混合された第1剤及び第2剤を一対のアルミニウム板の内の一方のアルミニウム板に塗布し、各アルミニウム板を貼り合わせた。そして、貼り合わせたアルミニウム板を20℃雰囲気下において24時間養生後、50mm/minの引張スピードで接着強度を測定した。表1及び表2の“接着強度”欄において、“>8”は、接着強度の値が8N/mmを超えていることを示す。また、表2の“接着強度”欄において、“−”は、主剤が液状化せず、接着強度を測定することができなかったことを示す。
【0065】
<熱抵抗>
各例の接着剤から構成される接着層について、米国材料試験協会の規格であるASTM D54770に基づき、熱抵抗測定機を用いて熱抵抗を測定した。図2に示すように、熱抵抗測定機21は、断熱材22上に設置された銅製ブロック23と、該銅製ブロック23の上方に位置する銅製ブロック24とを備えている。各銅製ブロック23,24の断面積は1cmである。銅製ブロック23には発熱量が25Wであるヒータが内蔵されており、銅製ブロック24にはファン付きのヒートシンク25が接続されている。
【0066】
実施例2以外の各例においては、銅製ブロック23上に10重量部の主剤を吐出するとともに、銅製ブロック24上に1重量部のプライマーを塗布した。次いで、プライマーから揮発成分が完全に揮発した後、各銅製ブロック23,24を接合した。実施例2においては、5重量部の第1剤及び1重量部の第2剤を混合した後、混合された第1剤及び第2剤を銅製ブロック23上に塗布した。そして、下記の2種類の条件下で接着剤を硬化させて接着層16を形成した。
【0067】
条件I:荷重が4kgである重り26を熱抵抗測定機21に載置し、図2の矢印で示すように、銅製ブロック24を銅製ブロック23に向かって押圧する。
条件II:荷重が4kgである重り26を熱抵抗測定機21に載置するとともに熱抵抗測定機21にストッパ27を設け、接着層16の厚さを100μmに調整する。
【0068】
続いて、銅製ブロック24に荷重を加えた状態でヒータを加熱させ、温度が定常状態になった時点での各銅製ブロック23,24の温度を測定し、下記式(2)から接着層16の熱抵抗を算出した。
【0069】
熱抵抗=(θj1−θj0)/発熱量Q…(2)
前記式(2)において、θj1は銅製ブロック23の温度を示し、θj0は銅製ブロック24の温度を示し、発熱量Qは25Wである。表2の“熱抵抗”欄において、“−”は主剤が液状化せず、熱抵抗を測定することができなかったことを示す。
【0070】
【表1】

【0071】
【表2】

表1に示すように、各実施例に係る接着剤においては、各項目について優れた評価及び結果が得られた。そのため、各実施例の接着剤の作業性は良好であるとともに常温においても速やかに硬化し、該接着剤により構成される接着層16は高い熱伝導性を有していた。また、条件Iでの熱抵抗の測定結果より、実施例1〜5に係る接着剤は実施例6に係る接着剤に比べて容易に圧縮され、薄い接着層16を形成することができることが分かった。実施例6においては、同じ平均粒径を有する水酸化アルミニウムの粒子を用いる比較例4に比べて接着剤における体積比αが大きいことから、条件Iでの熱抵抗について比較例4に比べて優れた結果が得られた。
【0072】
一方、表2に示すように、比較例1及び比較例4に係る接着剤においては、体積比αの値が0.40未満であることから、接着層16の厚さが100μmの場合における熱抵抗が高くて熱伝導性が低かった。比較例2に係る接着剤においては、体積比αの値が0.65を超えることから、主剤が液状化せず、接着剤として用いることができなかった。比較例3においては、疎水性表面処理が施された熱伝導性充填材の割合が40重量%未満であることから、各成分の分散安定性が低かった。比較例5に係る接着剤においては、プライマーが(D)バナジウム化合物を含有しないことから、接着剤の硬化性が低く、且つ接着強度も低かった。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】(a)及び(b)は、第1実施形態に係る電子部品とヒートシンクとの接着の工程を示す概略図、(c)及び(d)は、第2実施形態に係る電子部品とヒートシンクとの接着の工程を示す概略図。
【図2】熱抵抗測定機を示す概略図。
【符号の説明】
【0074】
11…接着剤、12…主剤、13…プライマー、14…第1被着体としての電子部品、15…第2被着体としてのヒートシンク。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)(メタ)アクリル系モノマー及び(メタ)アクリル系オリゴマーの少なくとも一方からなる重合性(メタ)アクリル系化合物、
(B)有機過酸化物、
(C)熱伝導性充填材、及び
(D)バナジウム化合物を含有する熱伝導性接着剤組成物であって、
下記式(1)により求められる、前記(A)重合性(メタ)アクリル系化合物と(C)熱伝導性充填材との体積比αが0.40〜0.65であり、
体積比α=(C)熱伝導性充填材の体積/((A)重合性(メタ)アクリル系化合物の体積+(C)熱伝導性充填材の体積)…(1)
前記(C)熱伝導性充填材の40〜100重量%に疎水性表面処理が施されていることを特徴とする熱伝導性接着剤組成物。
【請求項2】
前記(C)熱伝導性充填材に施される疎水性表面処理が、ステアリン酸又はチタネートカップリング剤による表面処理である請求項1に記載の熱伝導性接着剤組成物。
【請求項3】
前記熱伝導性接着剤組成物は(E)アルデヒドとアミンとの縮合物を更に含有し、
前記(A)重合性(メタ)アクリル系化合物、(B)有機過酸化物、及び(C)熱伝導性充填材を含有する主剤と、
前記(D)バナジウム化合物及び(E)アルデヒドとアミンとの縮合物を含有するプライマーとから構成されている請求項1又は請求項2に記載の熱伝導性接着剤組成物。
【請求項4】
前記熱伝導性接着剤組成物は、第1剤と、第2剤とから構成され、
前記第1剤及び第2剤の両方が(A)重合性(メタ)アクリル系化合物を含有し、更に第1剤及び第2剤の内の一方のみが(B)有機過酸化物を含有するとともに他方のみが(D)バナジウム化合物を含有する請求項1又は請求項2に記載の熱伝導性接着剤組成物。
【請求項5】
請求項3に記載の熱伝導性接着剤組成物を用いて第1被着体と第2被着体とを接着させる方法であって、
主剤を第1被着体に塗布する工程と、
プライマーを第2被着体に塗布する工程と、
接合界面上で主剤とプライマーとが互いに接触するように第1被着体と第2被着体とを接合させることにより、第1被着体と第2被着体とを接着させる工程とを備える方法。
【請求項6】
請求項4に記載の熱伝導性接着剤組成物を用いて第1被着体と第2被着体とを接着させる方法であって、
第1剤及び第2剤を混合する工程と、
混合された第1剤及び第2剤を、第1被着体と第2被着体との少なくとも一方に塗布する工程と、
混合された第1剤及び第2剤が接合界面上に存在するように第1被着体と第2被着体とを接合させることにより、第1被着体と第2被着体とを接着させる工程とを備える方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−297399(P2008−297399A)
【公開日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−143523(P2007−143523)
【出願日】平成19年5月30日(2007.5.30)
【出願人】(000237020)ポリマテック株式会社 (234)
【Fターム(参考)】