説明

熱硬化型接着シート及びフレキシブル印刷回路基板

【課題】本発明の目的は、硬化後には高い接着性と極めて優れた湿熱後耐熱性を発揮できる熱硬化型接着剤層を有する熱硬化型接着シートを提供することにある。
【解決手段】本発明の熱硬化型接着シートは、−50℃以上10℃以下、及び20℃以上100℃以下にそれぞれガラス転移点を有する熱硬化型接着剤層を有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱硬化型接着剤層を有する熱硬化型接着シートに関する。さらに詳細には、フレキシブル印刷回路基板等に好ましく用いることができる熱硬化型接着シートに関する。また、該熱硬化型接着シートを有するフレキシブル印刷回路基板に関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器では、フレキシブル印刷回路基板(「FPC」と称する場合がある)が広く利用されている。このようなFPCでは、(1)ポリイミド製基材やポリアミド製基材等の耐熱基材に、銅箔やアルミニウム箔等の導電性金属箔を接着積層して、FPCを作製する過程や、(2)FPCをアルミニウム板、ステンレス板、ポリイミド板等の補強板に接着する過程などで、接着剤が使用される。
【0003】
このようなFPCの接着の際に用いられる接着剤としては、フェノール樹脂やエポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂を含む熱硬化型接着剤が知られている。これら熱硬化型接着剤は、例えば、150℃以上の加熱により、接着剤に含まれる熱硬化性樹脂が硬化することで接着力を発揮する。
【0004】
上記熱硬化型接着剤を用いて被着体(FPC等)を接着して作製した積層体を、リフロー工程等の高温工程で処理する際には、接着剤や被着体に含まれる水分等が蒸発することにより、接着剤の発泡(膨れ)や浮き剥がれが生じることがあった。そこで、上記問題を解決し、硬化後には優れた接着性及び湿熱後耐熱性(高温高湿条件下で保存後、高温工程で処理した場合にも接着剤層の発泡や浮き剥がれが生じにくい特性)を発揮できる熱硬化型接着剤層を有する熱硬化型接着シートとして、アクリル系ポリマーを主成分とし、さらにエーテル化フェノール樹脂を含有する熱硬化型接着剤組成物から形成された熱硬化型接着剤層を有する熱硬化型接着シートが知られている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2011/004710号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、近年では、従来のリフロー工程等の高温工程よりも厳しい処理条件(より長時間、高温下で処理をする条件)でも発泡や浮き剥がれが生じない、より高い湿熱後耐熱性が求められるようになってきている。このような要求に対しては、上記の熱硬化型接着シートであっても、湿熱後耐熱性が不十分となる場合があった。
【0007】
従って、本発明の目的は、硬化後には高い接着性(高い接着力)と極めて優れた湿熱後耐熱性を発揮できる熱硬化型接着剤層を有する熱硬化型接着シートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
高温高湿条件下で保存後、高温工程で処理した場合に接着剤(接着剤層)の発泡や浮き剥がれが生じる現象は、接着剤の強度不足が原因と考えられるが、接着剤を硬くして接着剤の強度を向上させようとすると、被着体への密着が悪くなり、接着力が低下してしまうという問題があった。
【0009】
そこで、上記問題を解決するために本発明者は鋭意検討した結果、特定の領域と、他の特定の領域にそれぞれガラス転移点を有する熱硬化型接着剤層を有することで、硬化後には高い接着性と極めて優れた湿熱後耐熱性を発揮できる熱硬化型接着剤層を有する熱硬化型接着シートが得られることを見出し、本発明を完成した。また、特定のモノマー成分から構成されたアクリル系ポリマーと、他の特定のモノマー成分から構成されたアクリル系ポリマーを主成分とし、さらに熱硬化性樹脂を含有する熱硬化型接着剤組成物から熱硬化型接着剤層を形成することで、硬化後には高い接着性と極めて優れた湿熱後耐熱性を発揮できる熱硬化型接着剤層を有する熱硬化型接着シートが得られることを見出した。
【0010】
すなわち、本発明は、−50℃以上10℃以下、及び20℃以上100℃以下にそれぞれガラス転移点を有する熱硬化型接着剤層を有することを特徴とする熱硬化型接着シートを提供する。
【0011】
上記熱硬化型接着層は、下記アクリル系ポリマー(X)及び下記アクリル系ポリマー(Y)を主成分として含有し、かつ熱硬化性樹脂(Z)を含有する熱硬化型接着剤組成物から形成された熱硬化型接着剤層であることが好ましい。上記アクリル系ポリマー(X)は、炭素数が1〜3である直鎖又は分岐鎖状のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル(a1)を必須のモノマー成分として構成されたアクリル系ポリマーであって、該アクリル系ポリマーを構成するモノマー成分全量(100重量%)中の、上記(メタ)アクリル酸アルキルエステル(a1)の含有量が50重量%以上であるアクリル系ポリマーである。また、上記アクリル系ポリマー(Y)は、炭素数が4〜12である直鎖又は分岐鎖状のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル(a2)を必須のモノマー成分として構成されたアクリル系ポリマーであって、該アクリル系ポリマーを構成するモノマー成分全量(100重量%)中の、上記(メタ)アクリル酸アルキルエステル(a2)の含有量が50重量%以上であるアクリル系ポリマーである。
【0012】
上記アクリル系ポリマー(Y)の含有量は、上記アクリル系ポリマー(X)100重量部に対して、1〜100重量部が好ましい。
【0013】
上記アクリル系ポリマー(X)は、さらに、シアノ基含有モノマー(b1)及びカルボキシル基含有モノマー(c1)を必須のモノマー成分として構成されたアクリル系ポリマーであることが好ましい。
【0014】
上記アクリル系ポリマー(Y)は、さらに、シアノ基含有モノマー(b2)及びカルボキシル基含有モノマー(c2)を必須のモノマー成分として構成されたアクリル系ポリマーであることが好ましい。
【0015】
上記熱硬化性樹脂(Z)は、フェノール樹脂であることが好ましく、さらに好ましくはエーテル化フェノール樹脂である。
【0016】
上記熱硬化性樹脂(Z)の含有量は、上記アクリル系ポリマー(X)100重量部に対して、1〜40重量部が好ましい。
【0017】
本発明の熱硬化型接着シートは、フレキシブル印刷回路基板用熱硬化型接着シートであることが好ましい。
【0018】
また、本発明は、上記の熱硬化型接着シートを有するフレキシブル印刷回路基板を提供する。
【0019】
また、本発明は、上記の熱硬化型接着シートを熱硬化して得られた、熱硬化された熱硬化型接着シートを提供する。
【0020】
また、本発明は、上記の熱硬化された熱硬化型接着シートを有するフレキシブル印刷回路基板を提供する。
【0021】
また、本発明は、第一のアクリル系ポリマーと第二のアクリル系ポリマーを主成分として含有し、かつ熱硬化性樹脂を含有する熱硬化型接着剤組成物から形成された熱硬化型接着剤層を有し、上記第一のアクリル系ポリマーを構成するモノマー成分と上記第二のアクリル系ポリマーを構成するモノマー成分とが異なることを特徴とする熱硬化型接着シートを提供する。
【0022】
また、本発明は、下記アクリル系ポリマー(X)及び下記アクリル系ポリマー(Y)を主成分として含有し、かつ熱硬化性樹脂(Z)を含有する熱硬化型接着剤組成物から形成された熱硬化型接着剤層を有することを特徴とする熱硬化型接着シートを提供する。上記アクリル系ポリマー(X)は、炭素数が1〜3である直鎖又は分岐鎖状のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル(a1)を必須のモノマー成分として構成されたアクリル系ポリマーであって、該アクリル系ポリマーを構成するモノマー成分全量(100重量%)中の、上記(メタ)アクリル酸アルキルエステル(a1)の含有量が50重量%以上であるアクリル系ポリマーである。また、上記アクリル系ポリマー(Y)は、炭素数が4〜12である直鎖又は分岐鎖状のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル(a2)を必須のモノマー成分として構成されたアクリル系ポリマーであって、該アクリル系ポリマーを構成するモノマー成分全量(100重量%)中の、上記(メタ)アクリル酸アルキルエステル(a2)の含有量が50重量%以上であるアクリル系ポリマーである。上記アクリル系ポリマー(Y)の含有量は、上記アクリル系ポリマー(X)100重量部に対して、1〜100重量部が好ましい。上記アクリル系ポリマー(X)は、さらに、シアノ基含有モノマー(b1)及びカルボキシル基含有モノマー(c1)を必須のモノマー成分として構成されたアクリル系ポリマーであることが好ましい。上記アクリル系ポリマー(Y)は、さらに、シアノ基含有モノマー(b2)及びカルボキシル基含有モノマー(c2)を必須のモノマー成分として構成されたアクリル系ポリマーであることが好ましい。上記熱硬化性樹脂(Z)は、フェノール樹脂であることが好ましく、さらに好ましくはエーテル化フェノール樹脂である。上記熱硬化性樹脂(Z)の含有量は、上記アクリル系ポリマー(X)100重量部に対して、1〜40重量部が好ましい。本発明の熱硬化型接着シートは、フレキシブル印刷回路基板用熱硬化型接着シートであることが好ましい。また、本発明は、上記の熱硬化型接着シートを有するフレキシブル印刷回路基板を提供する。また、本発明は、上記の熱硬化型接着シートを熱硬化して得られた、熱硬化された熱硬化型接着シートを提供する。また、本発明は、上記の熱硬化された熱硬化型接着シートを有するフレキシブル印刷回路基板を提供する。
【発明の効果】
【0023】
本発明の熱硬化型接着シートは、上記構成上の特徴を有することにより、硬化後には、熱硬化型接着剤層が、高い接着性と極めて優れた湿熱後耐熱性を発揮できる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下に、本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0025】
本発明は、−50℃以上10℃以下、及び20℃以上100℃以下にそれぞれガラス転移点を有する熱硬化型接着剤層を少なくとも1層有する熱硬化型接着シート、及び、アクリル系ポリマー(X)及びアクリル系ポリマー(Y)を主成分として含有し、かつ熱硬化性樹脂(Z)を含有する熱硬化型接着剤組成物から形成された熱硬化型接着剤層を少なくとも1層有する熱硬化型接着シートを含む。
【0026】
なお、本明細書において、上記「−50℃以上10℃以下、及び20℃以上100℃以下にそれぞれガラス転移点を有する熱硬化型接着剤層を少なくとも1層有する熱硬化型接着シート」を「熱硬化型接着シート(S1)」と称する場合があり、上記「アクリル系ポリマー(X)及びアクリル系ポリマー(Y)を主成分として含有し、かつ熱硬化性樹脂(Z)を含有する熱硬化型接着剤組成物から形成された熱硬化型接着剤層を少なくとも1層有する熱硬化型接着シート」を「熱硬化型接着シート(S2)」と称する場合がある。また、上記「−50℃以上10℃以下、及び20℃以上100℃以下にそれぞれガラス転移点を有する熱硬化型接着剤層」を「熱硬化型接着剤層(L1)」と称する場合がある。なお、上記熱硬化型接着剤層(L1)を形成する熱硬化型接着剤組成物を「熱硬化型接着剤組成物(M1)」と称する場合がある。さらに、上記「アクリル系ポリマー(X)及びアクリル系ポリマー(Y)を主成分として含有し、かつ熱硬化性樹脂(Z)を含有する熱硬化型接着剤組成物」を「熱硬化型接着剤組成物(M2)」と称する場合があり、上記「アクリル系ポリマー(X)及びアクリル系ポリマー(Y)を主成分として含有し、かつ熱硬化性樹脂(Z)を含有する熱硬化型接着剤組成物から形成された熱硬化型接着剤層」(即ち、熱硬化型接着剤組成物(M2)から形成された熱硬化型接着剤層)を「熱硬化型接着剤層(L2)」と称する場合がある。
【0027】
また、本明細書において、上記熱硬化型接着シート(S1)及び上記熱硬化型接着シート(S2)を総称して「本発明の熱硬化型接着シート」と称する場合があり、上記熱硬化型接着剤層(L1)及び上記熱硬化型接着剤層(L2)を総称して「本発明の熱硬化型接着剤層」と称する場合がある。また、「熱硬化型接着シート」には、「熱硬化型接着テープ」の意味も含むものとする。即ち、本発明の熱硬化型接着シートは、テープ状の形態を有する熱硬化型接着テープであってもよい。
【0028】
また、本明細書において、「アクリル系ポリマー(X)及びアクリル系ポリマー(Y)を主成分として含有する」とは、熱硬化型接着剤組成物(M2)の全不揮発分(100重量%)中の、アクリル系ポリマー(X)の含有量とアクリル系ポリマー(Y)の含有量の合計量(合計含有量)が50重量%以上であることを意味する。
【0029】
上記熱硬化型接着剤層(L1)は、特に限定されないが、アクリル系ポリマー(X)及びアクリル系ポリマー(Y)を主成分として含有し、かつ熱硬化性樹脂(Z)を含有する熱硬化型接着剤組成物から形成された熱硬化型接着剤層(即ち、上記熱硬化型接着剤層(L2))であることが好ましい。従って、上記熱硬化型接着シート(S1)は、熱硬化型接着シート(S1)かつ熱硬化型接着シート(S2)であることが好ましい。
【0030】
[熱硬化型接着剤組成物(M1)]
上記熱硬化型接着剤組成物(M1)は、特に限定されないが、例えば、アクリル系ポリマー、ゴム系ポリマー、ビニルアルキルエーテル系ポリマー、シリコーン系ポリマー、ポリエステル系ポリマー、ポリアミド系ポリマー、ウレタン系ポリマー、フッ素系ポリマー、エポキシ系ポリマーなどのポリマーを必須の成分として含有することが好ましい。上記ポリマーとしては、中でも、アクリル系ポリマーがより好ましい。上記熱硬化型接着剤組成物(M1)は、特に限定されないが、さらに、熱硬化性樹脂を含有することが好ましい。また、上記ポリマー及び熱硬化性樹脂の他に、溶剤(溶剤及び/又は分散媒)を含有していてもよく、添加剤を含有していてもよい。上記の各成分(ポリマー、熱硬化性樹脂、溶剤や添加剤)は、それぞれ、単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0031】
上記熱硬化型接着剤組成物(M1)はアクリル系ポリマーを主成分として含有し、且つ、熱硬化性樹脂を含有する熱硬化型接着剤組成物であることが好ましく、より好ましくは、熱硬化型接着剤組成物(M2)である。なお、「アクリル系ポリマーを主成分として含有」とは、熱硬化型接着剤組成物(M1)の全不揮発分(100重量%)中の、アクリル系ポリマーの含有量が50重量%以上であることを意味する。
【0032】
上記アクリル系ポリマーは、特に限定されないが、直鎖又は分岐鎖状のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルを必須のモノマー成分として構成(又は形成)されたアクリル系ポリマーであることが好ましい。上記(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、特に限定されないが、例えば、炭素数が1〜14である(メタ)アクリル酸アルキルエステルが好ましく、より好ましくは1〜12である(メタ)アクリル酸アルキルエステルである。中でも、後述する(メタ)アクリル酸アルキルエステル(a1)として例示された(メタ)アクリル酸アルキルエステル、後述するアクリル酸アルキルエステル(a2)として例示された(メタ)アクリル酸アルキルエステルが好ましい。上記(メタ)アクリル酸アルキルエステルは、単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0033】
上記アクリル系ポリマーを構成するモノマー成分中の、(メタ)アクリル酸アルキルエステルの含有量(含有割合)は、特に限定されないが、上記アクリル系ポリマーを構成するモノマー成分全量(100重量%)に対して、50重量%以上が好ましく、より好ましくは50〜75重量%、さらに好ましくは55〜75重量%であり、さらに好ましくは60〜72重量%である。
【0034】
上記アクリル系ポリマーを構成するモノマー成分としては、特に限定されないが、さらに、シアノ基含有モノマー、カルボキシル基含有モノマーを含有することが好ましく、より好ましくはシアノ基含有モノマー、且つ、カルボキシル基含有モノマーを含有することであり、さらに好ましくは、後述するシアノ基含有モノマー(b1)として例示されたモノマー成分、且つ、後述するカルボキシル基含有モノマー(c1)として例示されたモノマー成分を含有することである。上記モノマー成分は単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。シアノ基含有モノマーを用いることにより、熱硬化型接着剤層(L1)の強度(バルク強度)を向上させ、湿熱後耐熱性を向上させることができるため好ましい。また、熱硬化型接着剤層(L1)が脆くなることを防ぐことができるため好ましい。上記カルボキシル基含有モノマーを用いることにより、熱硬化型接着シート(S1)の湿熱後耐熱性及び接着力を向上させることができるため好ましい。
【0035】
上記シアノ基含有モノマーの含有量は、特に限定されないが、上記アクリル系ポリマーを構成するモノマー成分全量(100重量%)に対して、20〜49.5重量%が好ましく、より好ましくは24〜40重量%、さらに好ましくは26〜35重量%である。上記含有量が20重量%以上であることにより、熱硬化型接着シート(S1)の湿熱後耐熱性がより向上するため好ましい。一方、上記含有量が49.5重量%を超えると、熱硬化型接着剤層(L1)の柔軟性が低下する場合がある。
【0036】
上記カルボキシル基含有モノマーの含有量は、特に限定されないが、上記アクリル系ポリマーを構成するモノマー成分全量(100重量%)に対して、0.5〜10重量%が好ましく、より好ましくは1〜8重量%、さらに好ましくは2〜6重量%である。上記含有量が0.5重量%以上であることにより、熱硬化型接着シート(S1)の湿熱後耐熱性及び接着力が向上するため好ましい。一方、上記含有量が10重量%を超えると、熱硬化型接着剤層(L1)の柔軟性が低下する場合がある。
【0037】
上記アクリル系ポリマーを構成するモノマー成分としては、さらに、他の共重合性モノマーを含有していても良い。上記他の共重合性モノマーとしては、特に限定されないが、例えば、炭素数が15〜20である直鎖又は分岐鎖状のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル、後述する非芳香族性環含有(メタ)アクリル酸アルキルエステル、後述する芳香族性環含有(メタ)アクリル酸アルキルエステル、後述するエポキシ基含有アクリル系モノマー、後述するビニルエステル系モノマー、後述するスチレン系モノマー、後述するヒドロキシル基含有モノマー、後述する(メタ)アクリル酸アルコキシアルキル系モノマー、後述する(メタ)アクリル酸アミノアルキル系モノマー、後述する(N−置換)アミド系モノマー、後述するオレフィン系モノマー、後述するビニルエーテル系モノマー、後述する多官能モノマーなどが挙げられる。
【0038】
上記アクリル系ポリマーは、公知乃至慣用の重合方法(例えば、溶液重合方法、エマルション重合方法、懸濁重合方法、塊状重合方法や紫外線照射による重合方法など)により調製することができる。
【0039】
なお、上記アクリル系ポリマーの重合に際して必要に応じて用いられる重合開始剤、乳化剤、連鎖移動剤などは、特に限定されず、公知乃至慣用のものの中から適宜選択して使用することができる。より具体的には、それぞれ、後述するアクリル系ポリマー(X)の重合に際して必要に応じて用いられる重合開始剤、乳化剤、連鎖移動剤として例示された、重合開始剤(アゾ系重合開始剤や過酸化物系重合開始剤など)、乳化剤(アニオン系乳化剤やノニオン系乳化剤など)、連鎖移動剤が挙げられる。上記重合開始剤、乳化剤及び連鎖移動剤は、それぞれ、単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。上記重合開始剤の使用量は、特に限定されず、通常の使用量の範囲から適宜選択することができる。
【0040】
なお、溶液重合では、各種の一般的な溶剤を用いることができる。上記溶剤としては、特に限定されないが、例えば、酢酸エチル、酢酸n−ブチル等のエステル類;トルエン、ベンゼン等の芳香族炭化水素類;n−ヘキサン、n−ヘプタン等の脂肪族炭化水素類;シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン等の脂環式炭化水素類;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類などの有機溶剤が挙げられる。上記溶剤は単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0041】
上記アクリル系ポリマーの重量平均分子量(Mw)は、特に限定されないが、熱硬化型接着剤組成物(M1)の塗工性を向上させ生産性を向上させる観点や、熱硬化型接着剤層(L1)の強度を向上させ湿熱後耐熱性を向上させる観点から、50万〜400万が好ましく、より好ましくは80万〜350万、さらに好ましくは100万〜320万である。上記アクリル系ポリマーの重量平均分子量は、重合開始剤や連鎖移動剤の種類やその使用量、重合の際の温度や時間の他、モノマー濃度、モノマー滴下速度などによりコントロールすることができる。
【0042】
上記重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)により測定することができる。より具体的には、例えば、後述するアクリル系ポリマー(X)の重量平均分子量と同様に、後述の<GPCの測定方法>で測定して求めることができる。
【0043】
上記熱硬化性樹脂は、熱硬化性を付与するために用いられる。上記熱硬化性樹脂としては、特に限定されず、加熱により硬化して接着作用を発揮する公知慣用の熱硬化性樹脂を用いることができる。中でも、後述する熱硬化性樹脂(Z)として例示された熱硬化性樹脂が好ましく、より好ましくはエーテル化フェノール樹脂である。上記熱硬化性樹脂は単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0044】
上記熱硬化型接着剤組成物(M1)中の、アクリル系ポリマーの含有量は、特に限定されないが、湿熱後耐熱性と接着力の両立の観点から、熱硬化型接着剤組成物(M1)の全不揮発分(100重量%)に対して、50重量%以上が好ましく、より好ましくは70〜99重量%、さらに好ましくは80〜95重量%である。
【0045】
上記熱硬化型接着剤組成物(M1)中において、上記熱硬化性樹脂の含有量(含有割合、配合割合)は、特に限定されないが、上記アクリル系ポリマー100重量部に対して、1〜40重量部が好ましく、より好ましくは5〜20重量部、さらに好ましくは10〜15重量部である。上記熱硬化性樹脂の含有量を1重量部以上とすることにより、熱硬化型接着剤層(L1)の熱硬化性が向上するため好ましい。また、40重量部以下とすることにより、高温プレス時に接着剤がはみ出さないため好ましい。
【0046】
上記熱硬化型接着剤組成物(M1)は、溶剤を含むことが好ましい。上記溶剤としては、特に限定されないが、例えば、酢酸エチル、酢酸n−ブチル等のエステル類;メタノール、エタノール、ブタノール、プロパノール、イソプロパノール等のアルコール類;トルエン、ベンゼン等の芳香族炭化水素類;n−ヘキサン、n−ヘプタン等の脂肪族炭化水素類;シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン等の脂環式炭化水素類;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類などの有機溶剤が挙げられる。上記溶剤は単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。なお、上記溶剤には分散媒の意味も含むものとする。
【0047】
上記熱硬化型接着剤組成物(M1)には、上記アクリル系ポリマー及び上記熱硬化性樹脂以外に、必要に応じて、老化防止剤、後述する熱硬化型接着剤組成物(M2)で用いられる充填剤(フィラー)、着色剤(顔料や染料など)、紫外線吸収剤、酸化防止剤、架橋剤、粘着付与剤、可塑剤、軟化剤、界面活性剤、帯電防止剤などの公知の添加剤が本発明の特性を損なわない範囲で含まれていてもよい。上記添加剤は単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0048】
[熱硬化型接着剤組成物(M2)]
上記熱硬化型接着剤組成物(M2)は、アクリル系ポリマー(X)、アクリル系ポリマー(Y)及び熱硬化性樹脂(Z)を、必須の成分として含有する。上記熱硬化型接着剤組成物(M2)は、アクリル系ポリマー(X)、アクリル系ポリマー(Y)及び熱硬化性樹脂(Z)の他に、溶剤(溶剤及び/又は分散媒)を含有していてもよく、添加剤を含有していてもよい。上記の各成分(アクリル系ポリマー(X)、アクリル系ポリマー(Y)、熱硬化性樹脂(Z)、溶剤や添加剤)は、それぞれ、単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0049】
(アクリル系ポリマー(X))
上記アクリル系ポリマー(X)は、炭素数が1〜3である直鎖又は分岐鎖状のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル(a1)を必須のモノマー成分として構成(又は形成)されたアクリル系ポリマーである。なお、本明細書においては、上記「炭素数が1〜3である直鎖又は分岐鎖状のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル(a1)」を、「(メタ)アクリル酸C1-3アルキルエステル(a1)」又は単に「(メタ)アクリル酸アルキルエステル(a1)」と称する場合がある。また、「(メタ)アクリル」とは、「アクリル」及び/又は「メタクリル」(「アクリル」及び「メタクリル」のうち一方又は両方)を意味し、以下も同様である。
【0050】
上記アクリル系ポリマー(X)は、(メタ)アクリル酸C1-3アルキルエステル(a1)、シアノ基含有モノマー(b1)及びカルボキシル基含有モノマー(c1)を必須のモノマー成分として構成されたアクリル系ポリマーであることが好ましい。中でも、上記アクリル系ポリマー(X)を構成するモノマー成分全量(100重量%)中の、(メタ)アクリル酸C1-3アルキルエステル(a1)の含有量が50〜75重量%、シアノ基含有モノマー(b1)の含有量が20〜49.5重量%、カルボキシル基含有モノマー(c1)の含有量が0.5〜10重量%であることが好ましい。なお、アクリル系ポリマー(X)を構成するモノマー成分としては、上記(メタ)アクリル酸C1-3アルキルエステル(a1)、シアノ基含有モノマー(b1)及びカルボキシル基含有モノマー(c1)以外のモノマー成分(他のモノマー成分)が用いられてもよい。上記アクリル系ポリマー(X)は、単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0051】
上記アクリル系ポリマー(X)は、ゴム弾性(エラストマー性)を発現するアクリル系ポリマー(アクリル系エラストマー)であることが好ましい。
【0052】
上記(メタ)アクリル酸C1-3アルキルエステル(a1)としては、特に限定されないが、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピルが挙げられる。中でも、アクリル酸エチルが好ましい。上記(メタ)アクリル酸C1-3アルキルエステル(a1)は、単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0053】
アクリル系ポリマー(X)を構成するモノマー成分中の、(メタ)アクリル酸C1-3アルキルエステル(a1)の含有量(含有割合)は、アクリル系ポリマー(X)を構成するモノマー成分全量(100重量%)に対して、50重量%以上であり、好ましくは50〜75重量%、より好ましくは55〜75重量%、さらに好ましくは60〜72重量%である。上記含有量が50重量%以上であることにより、アクリル系ポリマー(X)が比較的硬いポリマーとなり、熱硬化型接着剤層(L2)の強度(バルク強度)を向上させ、湿熱後耐熱性を向上させることができる。
【0054】
上記シアノ基含有モノマー(b1)は、シアノ基を有するモノマーであり、特に限定されないが、例えば、アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどが挙げられる。中でも、アクリロニトリルが好ましい。上記シアノ基含有モノマー(b1)は、単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。シアノ基含有モノマー(b1)を用いることにより、熱硬化型接着剤層(L2)の強度(バルク強度)を向上させ、湿熱後耐熱性を向上させることができるため好ましい。また、熱硬化型接着剤層(L2)が脆くなることを防ぐことができるため好ましい。
【0055】
アクリル系ポリマー(X)を構成するモノマー成分中の、シアノ基含有モノマー(b1)の含有量は、アクリル系ポリマー(X)を構成するモノマー成分全量(100重量%)に対して、20〜49.5重量%が好ましく、より好ましくは24〜40重量%、さらに好ましくは26〜35重量%である。上記含有量が20重量%以上であることにより、熱硬化型接着シート(S2)の湿熱後耐熱性がより向上するため好ましい。一方、上記含有量が49.5重量%を超えると、熱硬化型接着剤層の柔軟性が低下する場合がある。
【0056】
上記カルボキシル基含有モノマー(c1)は、カルボキシル基を有するモノマーであり、特に限定されないが、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、クロトン酸などが挙げられる。また、これらのカルボキシル基含有モノマーの酸無水物(例えば、無水マレイン酸、無水イタコン酸などの酸無水物基含有モノマー)も、カルボキシル基含有モノマーに含まれるものとする。中でも、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸が好ましく、特に好ましくはアクリル酸である。上記カルボキシル基含有モノマー(c1)は、単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。カルボキシル基含有モノマー(c1)を用いることにより、熱硬化型接着シート(S2)の湿熱後耐熱性及び接着力を向上させることができるため好ましい。
【0057】
アクリル系ポリマー(X)を構成するモノマー成分中の、カルボキシル基含有モノマー(c1)の含有量は、アクリル系ポリマー(X)を構成するモノマー成分全量(100重量%)に対して、0.5〜10重量%が好ましく、より好ましくは1〜8重量%、さらに好ましくは2〜6重量%である。上記含有量が0.5重量%以上であることにより、熱硬化型接着シート(S2)の湿熱後耐熱性及び接着力が向上するため好ましい。一方、上記含有量が10重量%を超えると、熱硬化型接着剤層の柔軟性が低下する場合がある。
【0058】
アクリル系ポリマー(X)を構成するモノマー成分としては、上記(メタ)アクリル酸C1-3アルキルエステル(a1)、シアノ基含有モノマー(b1)及びカルボキシル基含有モノマー(c1)の他に、他のモノマー成分(共重合性モノマー)が用いられていてもよい。上記他のモノマー成分(共重合性モノマー)は、単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。上記他のモノマー成分(共重合性モノマー)としては、例えば、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸s−ブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸ペンチル、(メタ)アクリル酸イソペンチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸ヘプチル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸イソオクチル、(メタ)アクリル酸ノニル、(メタ)アクリル酸イソノニル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸イソデシル、(メタ)アクリル酸ウンデシル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸トリデシル、(メタ)アクリル酸テトラデシル、(メタ)アクリル酸ペンタデシル、(メタ)アクリル酸ヘキサデシル、(メタ)アクリル酸ヘプタデシル、(メタ)アクリル酸オクタデシル、(メタ)アクリル酸ノナデシル、(メタ)アクリル酸エイコシル等の炭素数が4〜20である直鎖又は分岐鎖状のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル((メタ)アクリル酸C4-20アルキルエステル);(メタ)アクリル酸シクロアルキルエステル[(メタ)アクリル酸シクロヘキシルなど]や(メタ)アクリル酸イソボルニル等の非芳香族性環含有(メタ)アクリル酸エステル;(メタ)アクリル酸アリールエステル[(メタ)アクリル酸フェニルなど]、(メタ)アクリル酸アリールオキシアルキルエステル[(メタ)アクリル酸フェノキシエチルなど]、(メタ)アクリル酸アリールアルキルエステル[(メタ)アクリル酸ベンジルエステルなど]等の芳香族性環含有(メタ)アクリル酸エステル;(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸メチルグリシジル等のエポキシ基含有アクリル系モノマー;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル系モノマー;スチレン、α−メチルスチレン等のスチレン系モノマー;(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシブチル等のヒドロキシル基含有モノマー;(メタ)アクリル酸メトキシエチル、(メタ)アクリル酸エトキシエチル等の(メタ)アクリル酸アルコキシアルキル系モノマー;(メタ)アクリル酸アミノエチル、(メタ)アクリル酸N,N−ジメチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸t−ブチルアミノエチル等の(メタ)アクリル酸アミノアルキル系モノマー;(メタ)アクリル酸アミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N−ブチル(メタ)アクリルアミド、N−ヒドロキシ(メタ)アクリルアミド等の(N−置換)アミド系モノマー;エチレン、プロピレン、イソプレン、ブタジエン等のオレフィン系モノマー;メチルビニルエーテル等のビニルエーテル系モノマーなどが挙げられる。
【0059】
また、上記他のモノマー成分(共重合性モノマー)としては、ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、(ポリ)エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、(ポリ)プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレート、グリセリンジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ジビニルベンゼンなどの多官能モノマーを用いることもできる。
【0060】
言い換えると、アクリル系ポリマー(X)は、(メタ)アクリル酸C1-3アルキルエステル(a1)に由来する構成単位、シアノ基含有モノマー(b1)に由来する構成単位、及びカルボキシル基含有モノマー(c1)に由来する構成単位を少なくとも含むアクリル系ポリマーであることが好ましい。各構成単位は、それぞれ、1種であってもよいし、2種以上であってもよい。アクリル系ポリマー(X)(100重量%)中の、(メタ)アクリル酸C1-3アルキルエステル(a1)に由来する構成単位の含有量は、50重量%以上が好ましく、より好ましくは50〜75重量%、さらに好ましくは55〜75重量%、最も好ましくは60〜72重量%である。シアノ基含有モノマー(b1)に由来する構成単位の含有量は、20〜49.5重量%が好ましく、より好ましくは24〜40重量%、さらに好ましくは26〜35重量%である。カルボキシル基含有モノマー(c1)に由来する構成単位の含有量は0.5〜10重量%が好ましく、より好ましくは1〜8重量%、さらに好ましくは2〜6重量%である。
【0061】
上記アクリル系ポリマー(X)は、公知乃至慣用の重合方法(例えば、溶液重合方法、エマルション重合方法、懸濁重合方法、塊状重合方法や紫外線照射による重合方法など)により調製することができる。
【0062】
なお、アクリル系ポリマー(X)の重合に際して必要に応じて用いられる重合開始剤、乳化剤、連鎖移動剤などは、特に限定されず、公知乃至慣用のものの中から適宜選択して使用することができる。より具体的には、上記重合開始剤としては、例えば、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、1,1’−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)、2,2’−アゾビス(2,4,4−トリメチルペンタン)、ジメチル−2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオネート)、2,2’−アゾビス{2−[1−(2−ヒドロキシエチル)−2−イミダゾリン−2−イル]プロパン}ジハイドロクロライド等のアゾ系重合開始剤;ベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシベンゾエート、ジクミルパーオキサイド、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)シクロドデカン等の過酸化物系重合開始剤などが挙げられる。上記重合開始剤は、単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。上記重合開始剤の使用量は、特に限定されず、通常の使用量の範囲から適宜選択することができる。
【0063】
上記連鎖移動剤としては、例えば、1−ドデカンチオール、tert−ラウリルメルカプタン、sec−ラウリルメルカプタン、2−メルカプトエタノール、グリシジルメルカプタン、メルカプト酢酸、チオグリコール酸2−エチルヘキシル、2,3−ジメルカプト−1−プロパノール、α−メチルスチレンダイマーなどが挙げられる。上記乳化剤としては、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸アンモニウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸アンモニウム、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸ナトリウムなどのアニオン系乳化剤;ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルなどのノニオン系乳化剤などが挙げられる。上記連鎖移動剤及び上記乳化剤は、それぞれ、単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0064】
なお、溶液重合では、各種の一般的な溶剤を用いることができる。上記溶剤としては、例えば、酢酸エチル、酢酸n−ブチル等のエステル類;トルエン、ベンゼン等の芳香族炭化水素類;n−ヘキサン、n−ヘプタン等の脂肪族炭化水素類;シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン等の脂環式炭化水素類;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類などの有機溶剤が挙げられる。上記溶剤は単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0065】
上記アクリル系ポリマー(X)の重量平均分子量(Mw)は、特に限定されないが、熱硬化型接着剤組成物(M2)の塗工性を向上させ生産性を向上させる観点や、熱硬化型接着剤層(L2)の強度を向上させ湿熱後耐熱性を向上させる観点から、50万〜400万が好ましく、より好ましくは80万〜350万、さらに好ましくは100万〜320万である。アクリル系ポリマー(X)の重量平均分子量は、重合開始剤や連鎖移動剤の種類やその使用量、重合の際の温度や時間の他、モノマー濃度、モノマー滴下速度などによりコントロールすることができる。
【0066】
上記重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)により測定することができる。より具体的には、例えば、以下の<GPCの測定方法>で測定して求めることができる。
<GPCの測定方法>
(サンプルの調製)
測定対象であるアクリル系ポリマーを溶離液に溶解して、該アクリル系ポリマーの0.1%THF溶液を調製し、1日放置した後、0.45μmメンブレンフィルターにてろ過し、得られたろ液をサンプルとして、下記測定条件でGPC測定を行う。
(測定条件)
GPC装置:HLC−8320GPC(東ソー株式会社製)
カラム:TSKgel GMH−H(S)(東ソー株式会社製)
カラムサイズ:7.8mmI.D.×300mm
カラム温度:40℃
溶離液:THF(テトラヒドロフラン)
流速:0.5ml/min
入口圧:4.6MPa
注入量:100μl
検出器:示差屈折計
標準試料:ポリスチレン
データ処理装置:GPC−8020(東ソー株式会社製)
【0067】
(アクリル系ポリマー(Y))
上記アクリル系ポリマー(Y)は、炭素数が4〜12である直鎖又は分岐鎖状のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル(a2)を必須のモノマー成分として構成(又は形成)されたアクリル系ポリマーである。なお、本明細書においては、上記「炭素数が4〜12である直鎖又は分岐鎖状のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル(a2)」を、「(メタ)アクリル酸C4-12アルキルエステル(a2)」又は単に「(メタ)アクリル酸アルキルエステル(a2)」と称する場合がある。
【0068】
上記アクリル系ポリマー(Y)は、(メタ)アクリル酸C4-12アルキルエステル(a2)、シアノ基含有モノマー(b2)及びカルボキシル基含有モノマー(c2)を必須のモノマー成分として構成されたアクリル系ポリマーであることが好ましい。中でも、上記アクリル系ポリマー(Y)を構成するモノマー成分全量(100重量%)中の、(メタ)アクリル酸C4-12アルキルエステル(a2)の含有量が50〜75重量%、シアノ基含有モノマー(b2)の含有量が20〜49.5重量%、カルボキシル基含有モノマー(c2)の含有量が0.5〜10重量%であることが好ましい。なお、アクリル系ポリマー(Y)を構成するモノマー成分としては、上記(メタ)アクリル酸C4-12アルキルエステル(a2)、シアノ基含有モノマー(b2)及びカルボキシル基含有モノマー(c2)以外のモノマー成分(他のモノマー成分)が用いられてもよい。上記アクリル系ポリマー(Y)は、単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0069】
上記アクリル系ポリマー(Y)は、ゴム弾性(エラストマー性)を発現するアクリル系ポリマー(アクリル系エラストマー)であることが好ましい。
【0070】
上記(メタ)アクリル酸C4-12アルキルエステル(a2)としては、特に限定されないが、例えば、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸s−ブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸ペンチル、(メタ)アクリル酸イソペンチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸ヘプチル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸イソオクチル、(メタ)アクリル酸ノニル、(メタ)アクリル酸イソノニル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸イソデシル、(メタ)アクリル酸ウンデシル、(メタ)アクリル酸ドデシルなどが挙げられる。中でも、炭素数が4〜8である直鎖又は分岐鎖状のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル((メタ)アクリル酸C4-8アルキルエステル)が好ましく、アクリル酸n−ブチルが特に好ましい。上記(メタ)アクリル酸C4-12アルキルエステル(a2)は、単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0071】
アクリル系ポリマー(Y)を構成するモノマー成分中の、(メタ)アクリル酸C4-12アルキルエステル(a2)の含有量は、アクリル系ポリマー(Y)を構成するモノマー成分全量(100重量%)に対して、50重量%以上であり、好ましくは50〜75重量%、より好ましくは55〜75重量%、さらに好ましくは60〜72重量%である。上記含有量が50重量%以上であることにより、アクリル系ポリマー(Y)が比較的柔軟なポリマーとなり、熱硬化型接着剤層(L2)が硬くなり過ぎることを防ぎ、接着力を向上させることができる。
【0072】
上記シアノ基含有モノマー(b2)は、シアノ基を有するモノマーであり、特に限定されないが、例えば、アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどが挙げられる。中でも、アクリロニトリルが好ましい。上記シアノ基含有モノマー(b2)は、単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。シアノ基含有モノマー(b2)を用いることにより、熱硬化型接着剤層(L2)の強度(バルク強度)を向上させ、湿熱後耐熱性を向上させることができるため好ましい。また、熱硬化型接着剤層(L2)が脆くなることを防ぐことができるため好ましい。
【0073】
アクリル系ポリマー(Y)を構成するモノマー成分中の、シアノ基含有モノマー(b2)の含有量は、アクリル系ポリマー(Y)を構成するモノマー成分全量(100重量%)に対して、20〜49.5重量%が好ましく、より好ましくは24〜40重量%、さらに好ましくは26〜35重量%である。上記含有量が20重量%以上であることにより、熱硬化型接着シート(S2)の湿熱後耐熱性が向上するため好ましい。一方、上記含有量が49.5重量%を超えると、熱硬化型接着剤層の柔軟性が低下する場合がある。
【0074】
上記カルボキシル基含有モノマー(c2)は、カルボキシル基を有するモノマーであり、特に限定されないが、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、クロトン酸などが挙げられる。また、これらのカルボキシル基含有モノマーの酸無水物(例えば、無水マレイン酸、無水イタコン酸などの酸無水物基含有モノマー)も、カルボキシル基含有モノマーに含まれるものとする。中でも、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸が好ましく、特に好ましくはアクリル酸である。上記カルボキシル基含有モノマー(c2)は、単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。カルボキシル基含有モノマー(c2)を用いることにより、熱硬化型接着シート(S2)の湿熱後耐熱性及び接着力を向上させることができるため好ましい。
【0075】
アクリル系ポリマー(Y)を構成するモノマー成分中の、カルボキシル基含有モノマー(c2)の含有量は、アクリル系ポリマー(Y)を構成するモノマー成分全量(100重量%)に対して、0.5〜10重量%が好ましく、より好ましくは1〜8重量%、さらに好ましくは2〜6重量%である。上記含有量が0.5重量%以上であることにより、熱硬化型接着シート(S2)の湿熱後耐熱性及び接着力が向上するため好ましい。一方、上記含有量が10重量%を超えると、熱硬化型接着剤層の柔軟性が低下する場合がある。
【0076】
アクリル系ポリマー(Y)を構成するモノマー成分としては、上記(メタ)アクリル酸C4-12アルキルエステル(a2)、シアノ基含有モノマー(b2)及びカルボキシル基含有モノマー(c2)の他に、他のモノマー成分(共重合性モノマー)が用いられていてもよい。上記他のモノマー成分(共重合性モノマー)は、単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。上記他のモノマー成分(共重合性モノマー)としては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル等の炭素数が1〜3である直鎖又は分岐鎖状のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル((メタ)アクリル酸C1-3アルキルエステル);(メタ)アクリル酸トリデシル、(メタ)アクリル酸テトラデシル、(メタ)アクリル酸ペンタデシル、(メタ)アクリル酸ヘキサデシル、(メタ)アクリル酸ヘプタデシル、(メタ)アクリル酸オクタデシル、(メタ)アクリル酸ノナデシル、(メタ)アクリル酸エイコシル等の炭素数が13〜20である直鎖又は分岐鎖状のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル((メタ)アクリル酸C13-20アルキルエステル)などが挙げられる。
【0077】
さらに、上記他のモノマー成分(共重合性モノマー)としては、アクリル系ポリマー(X)を構成するモノマー成分における他のモノマー成分(共重合性モノマー)として例示された、非芳香族性環含有(メタ)アクリル酸エステル;芳香族性環含有(メタ)アクリル酸エステル;エポキシ基含有アクリル系モノマー;ビニルエステル系モノマー;スチレン系モノマー;ヒドロキシル基含有モノマー;(メタ)アクリル酸アルコキシアルキル系モノマー;(メタ)アクリル酸アミノアルキル系モノマー;(N−置換)アミド系モノマー;オレフィン系モノマー;ビニルエーテル系モノマー;多官能モノマーなどを用いることもできる。
【0078】
言い換えると、アクリル系ポリマー(Y)は、(メタ)アクリル酸C4-12アルキルエステル(a2)に由来する構成単位、シアノ基含有モノマー(b2)に由来する構成単位、及びカルボキシル基含有モノマー(c2)に由来する構成単位を少なくとも含むアクリル系ポリマーであることが好ましい。各構成単位は、それぞれ、1種であってもよいし、2種以上であってもよい。アクリル系ポリマー(Y)(100重量%)中の、(メタ)アクリル酸C4-12アルキルエステル(a2)に由来する構成単位の含有量は、50重量%以上が好ましく、より好ましくは50〜75重量%、さらに好ましくは55〜75重量%、最も好ましくは60〜72重量%である。シアノ基含有モノマー(b2)に由来する構成単位の含有量は、20〜49.5重量%が好ましく、より好ましくは24〜40重量%、さらに好ましくは26〜35重量%である。カルボキシル基含有モノマー(c2)に由来する構成単位の含有量は0.5〜10重量%が好ましく、より好ましくは1〜8重量%、さらに好ましくは2〜6重量%である。
【0079】
上記アクリル系ポリマー(Y)は、公知乃至慣用の重合方法(例えば、溶液重合方法、エマルション重合方法、懸濁重合方法、塊状重合方法や紫外線照射による重合方法など)により調製することができる。
【0080】
なお、アクリル系ポリマー(Y)の重合に際して必要に応じて用いられる重合開始剤、乳化剤、連鎖移動剤などは、特に限定されず、公知乃至慣用のものの中から適宜選択して使用することができる。より具体的には、それぞれ、アクリル系ポリマー(X)の重合に際して必要に応じて用いられる重合開始剤、乳化剤、連鎖移動剤として例示された、重合開始剤(アゾ系重合開始剤や過酸化物系重合開始剤など)、乳化剤(アニオン系乳化剤やノニオン系乳化剤など)、連鎖移動剤が挙げられる。上記重合開始剤、乳化剤及び連鎖移動剤は、それぞれ、単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。上記重合開始剤の使用量は、特に限定されず、通常の使用量の範囲から適宜選択することができる。
【0081】
なお、溶液重合では、各種の一般的な溶剤を用いることができる。上記溶剤としては、例えば、酢酸エチル、酢酸n−ブチル等のエステル類;トルエン、ベンゼン等の芳香族炭化水素類;n−ヘキサン、n−ヘプタン等の脂肪族炭化水素類;シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン等の脂環式炭化水素類;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類などの有機溶剤が挙げられる。上記溶剤は単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0082】
上記アクリル系ポリマー(Y)の重量平均分子量(Mw)は、特に限定されないが、熱硬化型接着剤組成物(M2)の塗工性を向上させ生産性を向上させる観点や、熱硬化型接着剤層(L2)の強度を向上させ湿熱後耐熱性を向上させる観点から、50万〜200万が好ましく、より好ましくは60万〜180万、さらに好ましくは60万〜150万、さらに好ましくは80万〜120万である。アクリル系ポリマー(Y)の重量平均分子量は、重合開始剤や連鎖移動剤の種類やその使用量、重合の際の温度や時間の他、モノマー濃度、モノマー滴下速度などによりコントロールすることができる。
【0083】
上記重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)により測定することができる。より具体的には、例えば、アクリル系ポリマー(X)の重量平均分子量と同様に、上述の<GPCの測定方法>で測定して求めることができる。
【0084】
(熱硬化性樹脂(Z))
上記熱硬化性樹脂(Z)としては、特に限定されず、加熱により硬化して接着作用を発揮する公知慣用の熱硬化性樹脂を用いることができる。熱硬化性樹脂(Z)は、熱硬化性を付与するために用いられる。上記熱硬化性樹脂(Z)としては、例えば、フェノール樹脂、アミノ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、シリコーン樹脂、熱硬化性ポリイミド樹脂などが挙げられる。中でも、上記熱硬化性樹脂(Z)は、フェノール樹脂及び/又はエポキシ樹脂が好ましく、より好ましくはフェノール樹脂である。上記熱硬化性樹脂(Z)は、単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0085】
上記フェノール樹脂としては、特に限定されず、公知慣用のフェノール樹脂を用いることができる。例えば、レゾール型フェノール樹脂、ノボラック型フェノール樹脂や、各種の変性フェノール樹脂(例えば、アルキル変性フェノール樹脂等)などが挙げられる。上記フェノール樹脂は、単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。上記フェノール樹脂としては、エーテル化フェノール樹脂が特に好ましい。エーテル化フェノール樹脂は加熱硬化時の反応性に優れるため、熱硬化性樹脂(Z)としてエーテル化フェノール樹脂を用いる場合には、接着力及び湿熱後耐熱性の向上の効果が特に優れる。
【0086】
上記エーテル化フェノール樹脂は、フェノール樹脂の有するメチロール基(フェノール樹脂中のメチロール基)の一部がエーテル化されているフェノール樹脂である。即ち、エーテル化されていないメチロール基及びエーテル化されたメチロール基を少なくとも有するフェノール樹脂である。
【0087】
さらに、上記エーテル化フェノール樹脂は、フェノール樹脂の有するメチロール基の一部がアルキル基でエーテル化されているフェノール樹脂である、アルキルエーテル化フェノール樹脂が好ましい。上記アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、2−エチルヘキシル基、イソオクチル基、ノニル基、イソノニル基、デシル基、イソデシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、エイコシル基などの炭素数が1〜20のアルキル基が挙げられる。中でも、メチル基、エチル基、n−ブチル基が好ましく、さらに好ましくはn−ブチル基である。
【0088】
上記エーテル化フェノール樹脂において、骨格となるフェノール樹脂は、特に限定されない。上記エーテル化フェノール樹脂としては、例えば、エーテル化ノボラック型フェノール樹脂、エーテル化レゾール型フェノール樹脂、エーテル化クレゾール樹脂などが挙げられる。中でも、エーテル化クレゾール樹脂が好ましく、より好ましくはブチルエーテル化クレゾール樹脂(メチロール基の一部がブチルエーテル化されたクレゾール樹脂)である。上記エーテル化フェノール樹脂は、単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0089】
上記エーテル化フェノール樹脂における、エーテル化されたメチロール基の割合としては、例えば、エーテル化されたメチロール基とエーテル化されていないメチロール基の合計(100モル%)に対する、エーテル化されたメチロール基の割合が、50モル%以上(50モル%以上、100モル%未満)であることが好ましく、より好ましくは70モル%以上である。エーテル化されたメチロール基の割合が50モル%未満では、エーテル化フェノール樹脂の常温での反応が促進されたり、加熱硬化時の反応性が低下する場合がある。
【0090】
上記エーテル化フェノール樹脂としては、市販されているエーテル化フェノール樹脂を使用することもでき、例えば、商品名「スミライトレジンPR−55317」(住友ベークライト株式会社製、ブチルエーテル化クレゾール樹脂、エーテル化されたメチロール基の割合:90モル%)、商品名「CKS−3898」(昭和電工株式会社製、ブチルエーテル化クレゾール樹脂)などを使用することができる。
【0091】
(熱硬化型接着剤組成物(M2)中の含有成分の含有量)
上記熱硬化型接着剤組成物(M2)中の、アクリル系ポリマー(X)の含有量とアクリル系ポリマー(Y)の含有量の合計量(合計含有量)は、湿熱後耐熱性と接着力の両立の観点から、熱硬化型接着剤組成物(M2)の全不揮発分(100重量%)に対して、50重量%以上であり、70〜99重量%が好ましく、より好ましくは80〜95重量%、さらに好ましくは85〜95重量%である。
【0092】
上記熱硬化型接着剤組成物(M2)中において、アクリル系ポリマー(Y)の含有量(含有割合、配合割合)は、アクリル系ポリマー(X)100重量部に対して、1〜100重量部が好ましく、より好ましくは2〜45重量部、さらに好ましくは4〜25重量部、最も好ましくは5〜20重量部である。上記アクリル系ポリマー(Y)の含有量を1重量部以上とすることにより、熱硬化型接着シート(S2)の接着力が向上し、湿熱後耐熱性も向上するため好ましい。また、100重量部以下とすることにより、熱硬化型接着剤層(L2)の強度が向上し、熱硬化型接着シート(S2)の湿熱後耐熱性が向上するため好ましい。
【0093】
上記熱硬化型接着剤組成物(M2)中において、熱硬化性樹脂(Z)の含有量(含有割合、配合割合)は、アクリル系ポリマー(X)100重量部に対して、1〜40重量部が好ましく、より好ましくは5〜20重量部、さらに好ましくは10〜15重量部である。上記熱硬化性樹脂(Z)の含有量を1重量部以上とすることにより、熱硬化型接着剤層(L2)の熱硬化性が向上するため好ましい。また、40重量部以下とすることにより、高温プレス時に接着剤がはみ出さないため好ましい。特に、アクリル系ポリマー(X)100重量部に対する、エーテル化フェノール樹脂の含有量が上記範囲を満たすことが好ましい。
【0094】
(溶剤、添加剤)
上記熱硬化型接着剤組成物(M2)は、溶剤を含むことが好ましい。上記溶剤としては、例えば、酢酸エチル、酢酸n−ブチル等のエステル類;メタノール、エタノール、ブタノール、プロパノール、イソプロパノール等のアルコール類;トルエン、ベンゼン等の芳香族炭化水素類;n−ヘキサン、n−ヘプタン等の脂肪族炭化水素類;シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン等の脂環式炭化水素類;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類などの有機溶剤が挙げられる。上記溶剤は単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。なお、上記溶剤には分散媒の意味も含むものとする。
【0095】
上記熱硬化型接着剤組成物(M2)には、アクリル系ポリマー(X)、アクリル系ポリマー(Y)及び熱硬化性樹脂(Z)以外に、必要に応じて、老化防止剤、充填剤(フィラー)、着色剤(顔料や染料など)、紫外線吸収剤、酸化防止剤、架橋剤、粘着付与剤、可塑剤、軟化剤、界面活性剤、帯電防止剤などの公知の添加剤が本発明の特性を損なわない範囲で含まれていてもよい。上記添加剤は単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0096】
上記充填剤(フィラー)としては、特に限定されず、公知慣用の有機充填剤や無機充填剤を用いることができる。中でも、熱硬化型接着剤層(L2)の強度を向上させ、熱硬化型接着シート(S2)の湿熱後耐熱性をさらに向上させる観点から、シリカフィラー、銅フィラーが好ましい。上記充填剤は単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0097】
特に、上記熱硬化型接着剤組成物(M2)は、(メタ)アクリル酸C1-3アルキルエステル(a1)、シアノ基含有モノマー(b1)及びカルボキシル基含有モノマー(c1)を必須のモノマー成分として構成されたアクリル系ポリマー(X)、並びに、(メタ)アクリル酸C4-12アルキルエステル(a2)、シアノ基含有モノマー(b2)及びカルボキシル基含有モノマー(c2)を必須のモノマー成分として構成されたアクリル系ポリマー(Y)を主成分として含有することが好ましい。さらに、エーテル化フェノール樹脂を含有することが好ましい。
【0098】
上記熱硬化型接着剤組成物(M2)は、例えば、アクリル系ポリマー(X)、アクリル系ポリマー(Y)及び熱硬化性樹脂(Z)(特に、エーテル化フェノール樹脂)と、必要に応じて各種添加剤等を混合することにより調製することができる。なお、上記アクリル系ポリマー(X)、アクリル系ポリマー(Y)、熱硬化性樹脂(Z)は、溶剤に溶解させることにより溶液の状態として、又は分散媒に分散させることにより分散液の状態として、熱硬化型接着剤組成物(M2)の調製に用いることもできる。
【0099】
[本発明の熱硬化型接着剤層(L1、L2)]
本発明の熱硬化型接着剤層は、熱硬化型接着剤層(L1)の場合は、熱硬化型接着剤組成物(M1)から形成された熱硬化型の接着剤層であり、熱硬化型接着剤層(L2)の場合は、熱硬化型接着剤組成物(M2)から形成された熱硬化型の接着剤層である。本発明の熱硬化型接着剤層は単層、複層のいずれの形態を有していてもよい。
【0100】
本発明の熱硬化型接着剤層の厚みは、特に限定されないが、5〜100μmが好ましく、より好ましくは10〜50μm、特に好ましくは20〜40μmである。上記厚みが5μm以上であることにより、接着力が向上するため好ましい。一方、上記厚みが100μmを超える場合は、高温プレス時に接着剤がはみ出す場合がある。
【0101】
上記熱硬化型接着層(L1)は、−50℃以上10℃以下の温度範囲、及び20℃以上100℃以下の温度範囲にそれぞれガラス転移点を少なくとも1つずつ有する。熱硬化型接着剤層(L1)は、本発明の効果を損なわない範囲で、上記温度範囲以外にもガラス転移点を有していてもよい。なお、熱硬化型接着剤層(L1)が−50℃以上10℃以下に有するガラス転移点を「TgA」、熱硬化型接着剤層(L1)が20℃以上100℃以下に有するガラス転移点を「TgB」と称する場合がある。TgA、TgBはそれぞれ1つのみでもよいし、2以上であってもよい。
【0102】
上記熱硬化型接着剤層(L1)は、上記TgAを−50℃以上10℃以下、好ましくは−30℃以上10℃以下、より好ましくは−10℃以上10℃以下に有する。上記TgAを−50℃以上に有することにより、湿熱後耐熱性を低下させないため好ましい。一方、上記TgAを10℃以下に有することにより、接着力が向上するため好ましい。
【0103】
上記熱硬化型接着剤層(L1)は、上記TgBを20℃以上100℃以下、好ましくは20℃以上30℃以下、より好ましくは20℃以上40℃以下に有する。上記TgBを20℃以上に有することにより、湿熱後耐熱性が向上するため好ましい。一方、上記TgBを100℃以下に有することにより、硬くなりすぎることを防ぎ接着力を低下させないため好ましい。
【0104】
本明細書において、ガラス転移点は、例えば、JIS K 7121に準拠して測定することができる。具体的には、以下の<ガラス転移点の測定方法>により測定される。
<ガラス転移点の測定方法>
熱硬化型接着シートより、熱硬化型接着剤層を採取し、ガラス転移点測定用のサンプルとする。上記サンプルを用い、示差走査熱量測定(DSC)を行うことで上記サンプルの吸熱曲線を得る。なお、上記示差走査熱量測定は、窒素雰囲気下、−50℃から100℃まで昇温速度10℃/分で昇温させて、吸熱曲線を得る。上記吸熱曲線から得られる屈曲点の中間点をガラス転移点とする。得られたガラス転移点のうちの、−50℃以上10℃以下であるガラス転移点を「TgA」、20℃以上100℃以下であるガラス転移点を「TgB」とする。
【0105】
本発明の熱硬化型接着剤層(硬化前)のゲル分率は、特に限定されないが、本発明の熱硬化型接着剤層の柔軟性の観点から、70%(重量%)未満(例えば、0%以上70%未満)が好ましく、より好ましくは60%未満、より好ましくは50%未満である。上記ゲル分率は、メチルエチルケトン不溶分として求めることができ、具体的には、メチルエチルケトン中に室温(23℃)で7日間浸漬した後の不溶分の浸漬前の試料に対する重量分率(単位:重量%)として求められる。上記ゲル分率が70%未満であることにより、本発明の熱硬化型接着剤層の柔軟性が向上し接着力が向上するため好ましい。
【0106】
上記ゲル分率(メチルエチルケトン不溶分の割合)は、具体的には、例えば、以下の<ゲル分率の測定方法>により測定し、算出できる。
<ゲル分率の測定方法>
本発明の熱硬化型接着シートより、本発明の熱硬化型接着剤層を約0.1g採取し、ゲル分率測定用の熱硬化型接着剤層とする。上記ゲル分率測定用の熱硬化型接着剤層を、平均孔径0.2μmの孔を有する多孔質テトラフルオロエチレンシート(商品名「NTF1122」、日東電工(株)製)に包んだ後、凧糸で縛り、その際の重量を測定し、該重量を浸漬前重量とする。なお、該浸漬前重量は、熱硬化型接着剤層と、テトラフルオロエチレンシートと、凧糸の総重量である。また、テトラフルオロエチレンシートと凧糸の合計重量も測定しておき、該重量を包袋重量とする。
次に、上記の熱硬化型接着剤層をテトラフルオロエチレンシートで包み凧糸で縛ったもの(「サンプル」と称する)を、メチルエチルケトンで満たした50mL容器に入れ、室温(23℃)にて1週間(7日間)静置する。その後、容器からサンプル(メチルエチルケトン処理後)を取り出して、アルミニウム製カップに移し、130℃で2時間、乾燥機中で乾燥してメチルエチルケトンを除去した後、重量を測定し、該重量を浸漬後重量とする。
そして、下記の式からゲル分率を算出する。
ゲル分率(重量%)=(A−B)/(C−B) × 100
(上記式において、Aは浸漬後重量であり、Bは包袋重量であり、Cは浸漬前重量である。)
【0107】
本発明の熱硬化型接着剤層(硬化前)の40℃7日間保存後のゲル分率差(以下、単に「ゲル分率差」と称する場合がある)は、特に限定されないが、15%(重量%)以下が好ましく、より好ましくは13%以下である。上記ゲル分率差の上限については、特に限定されず、例えば、100%である。上記ゲル分率差が15%以下であることにより、長期保存安定性に優れるため好ましい。
【0108】
上記ゲル分率差は、下記の式から算出する。
ゲル分率差(重量%)=(40℃7日間保存後のゲル分率(重量%))
−(本発明の熱硬化型接着剤層(硬化前)のゲル分率(重量%))
なお、上記の40℃7日間保存後のゲル分率は、具体的には、例えば、本発明の熱硬化型接着シートを40℃で7日間保存した後の熱硬化型接着シートから採取した熱硬化型接着剤層(硬化前)を「ゲル分率測定用の熱硬化型接着剤層」として、上記の<ゲル分率の測定方法>と同様にして、測定し算出できる。
【0109】
本発明の熱硬化型接着剤層の150℃1時間の硬化処理後のゲル分率は、特に限定されないが、90%(重量%)以上が好ましく、より好ましくは92%以上、さらに好ましくは96%以上である。本発明の熱硬化型接着剤層の150℃1時間の硬化処理後のゲル分率の上限については、特に限定されず、例えば、100%である。上記ゲル分率が90%以上であることにより、本発明の熱硬化型接着剤層の硬化処理をすばやく十分に進行させることができ、硬化後の接着性、湿熱後耐熱性により優れるため好ましい。上記ゲル分率が90%未満では、150℃1時間の硬化処理では硬化反応の進行が十分でなく、硬化後の接着力や湿熱後耐熱性が不足する場合があり、十分に接着させるためにさらに高い硬化温度や長い硬化時間を必要とするためコストが高くなる場合がある。
【0110】
なお、上記の熱硬化型接着剤層の150℃1時間の硬化処理後のゲル分率は、具体的には、例えば、本発明の熱硬化型接着シートを150℃で1時間加熱し、硬化処理を施した後の熱硬化型接着シートから採取した熱硬化型接着剤層(硬化後の熱硬化型接着剤層)を「ゲル分率測定用の熱硬化型接着剤層」として、上記の<ゲル分率の測定方法>と同様にして、測定し算出できる。
【0111】
[本発明の熱硬化型接着シート]
本発明の熱硬化型接着シートは、本発明の熱硬化型接着剤層を少なくとも1層有する。本発明の熱硬化型接着シートは、本発明の熱硬化型接着剤層以外にも、基材、本発明の熱硬化型接着剤層以外の熱硬化型接着剤層等を有していてもよい。熱硬化型接着シート(S1)は、熱硬化型接着剤層(L1)を少なくとも1層有し、熱硬化型接着剤層(L1)以外にも、基材、熱硬化型接着剤層(L1)以外の熱硬化型接着剤層等を有していてもよい。また、熱硬化型接着シート(S2)は、熱硬化型接着剤層(L2)を少なくとも1層有し、熱硬化型接着剤層(L2)以外にも、基材、熱硬化型接着剤層(L2)以外の熱硬化型接着剤層等を有していてもよい。また、本発明の熱硬化型接着シートは、本発明の効果を損なわない範囲で、他の層(例えば、中間層、下塗り層など)を有していてもよい。熱硬化型接着剤層(L1)以外の層、又は熱硬化型接着剤層(L2)以外の層は、それぞれ、1層のみ設けられていても、2層以上設けられていてもよい。
【0112】
本発明の熱硬化型接着シートは、該シートの片面のみが接着剤層表面(接着面)である(即ち、本発明の熱硬化型接着剤層表面である)片面接着シートであってもよいし、該シートの両面が接着剤層表面(接着面)である両面接着シートであってもよい。本発明の熱硬化型接着シートは、特に限定されないが、物品(被着体)同士の貼り合わせに用いる等の観点から、両面接着シートであることが好ましく、より好ましくは、該シートの両面が熱硬化型接着剤層の表面である両面接着シートである。
【0113】
本発明の熱硬化型接着シートは、基材を有する熱硬化型接着シート(基材付き熱硬化型接着シート)であってもよく、基材を有していない熱硬化型接着シート(基材レス熱硬化型接着シート)であってもよい。本発明の熱硬化型接着シートとしては、例えば、(1)本発明の熱硬化型接着剤層のみからなる熱硬化型接着シート(基材レス熱硬化型接着シート)、(2)基材の少なくとも一方の面側(両面側又は片面側)に本発明の熱硬化型接着剤層を有する熱硬化型接着シート(基材付き熱硬化型接着シート)(例えば、基材の少なくとも一方の面側(両面側又は片面側)に熱硬化型接着剤層(L1)を有する熱硬化型接着シート、基材の少なくとも一方の面側(両面側又は片面側)に熱硬化型接着剤層(L2)を有する熱硬化型接着シート)などが挙げられる。本発明の熱硬化型接着シートとしては、基材レス熱硬化型接着シートが好ましく、中でも、製造の簡便さの観点から、上記(1)の構成の、本発明の熱硬化型接着剤層のみからなる基材レス熱硬化型接着シートが好ましい。なお、上記「基材」には、熱硬化型接着シートの使用時に剥離される剥離ライナー(セパレータ)は含まない。
【0114】
なお、本発明の熱硬化型接着シートが基材付き熱硬化型接着シートである場合、基材の少なくとも一方の面側に、本発明の熱硬化型接着剤層が設けられていればよい。基材の、本発明の熱硬化型接着剤層が設けられた側とは反対面側には、本発明の熱硬化型接着剤層以外の熱硬化型接着剤層や、熱硬化型接着剤層以外の公知の接着剤層[例えば、粘着剤層(感圧性接着剤層)等]が設けられていてもよい。
【0115】
上記基材としては、特に限定されず、例えば、紙などの紙系基材;布、不織布、ネットなどの繊維系基材;金属箔、金属板などの金属系基材;各種樹脂(ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、酢酸ビニル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)など)によるフィルムやシートなどのプラスチック系基材;ゴムシートなどのゴム系基材;発泡シートなどの発泡体系基材や、これらの積層体(特にプラスチック系基材と他の基材との積層体や、プラスチックフィルム(又はシート)同士の積層体など)等の適宜なシート状物を用いることができる。
【0116】
上記基材の厚みは、特に限定されないが、10〜500μmが好ましく、より好ましくは12〜200μm、さらに好ましくは15〜100μmである。なお、基材は単層の形態を有していてもよく、また、複層の形態を有していてもよい。また、基材には、必要に応じて、背面処理、帯電防止処理、下塗り処理などの各種処理が施されていてもよい。
【0117】
本発明の熱硬化型接着シートは、例えば、ロール状に巻回された形態や、シートが積層された形態であってもよい。すなわち、本発明の熱硬化型接着シートは、シート状、テープ状などの形態を有することができる。なお、本発明の熱硬化型接着シートがロール状に巻回された形態を有している場合、例えば、熱硬化型接着剤層が、剥離ライナーや基材の背面側に形成された剥離処理層により保護された状態でロール状に巻回された形態であってもよい。
【0118】
本発明の熱硬化型接着シートにおける接着剤層(例えば、本発明の熱硬化型接着剤層)の表面は、剥離ライナー(セパレータ)によって保護されていてもよい。上記剥離ライナーとしては、特に限定されず、公知の剥離ライナーから適宜選択して用いることができる。上記剥離ライナーとしては、例えば、紙やプラスチックフィルム等の基材(ライナー基材)の表面がシリコーン処理された剥離ライナー、又は、紙やプラスチックフィルム等の基材(ライナー基材)の表面がポリオレフィン系樹脂によりラミネートされた剥離ライナーが好ましい。上記ポリオレフィン系樹脂は、特に限定されないが、ポリエチレン系樹脂が好ましい。
【0119】
本発明の熱硬化型接着シートは、公知乃至慣用の接着シートの製造方法に従って製造することができる。例えば、本発明の熱硬化型接着シートが基材レス熱硬化型接着シートである場合、剥離ライナーの剥離面に、熱硬化型接着剤組成物(M1)又は熱硬化型接着剤組成物(M2)を、乾燥後の厚さが所定の厚さとなるように塗布し、乾燥させる方法により本発明の熱硬化型接着剤層を形成して、本発明の熱硬化型接着シートを作製することができる。
本発明の熱硬化型接着シートが基材付き熱硬化型接着シートである場合、上記と同様にして、剥離ライナーの剥離面上に本発明の熱硬化型接着剤層を形成した後、該熱硬化型接着剤層を基材の表面上に転写する方法により、本発明の熱硬化型接着シートを作製することができる。また、基材の表面上に、熱硬化型接着剤組成物(M1)又は熱硬化型接着剤組成物(M2)を、乾燥後の厚さが所定の厚さとなるように塗布し、乾燥させる方法により本発明の熱硬化型接着剤層を形成して、本発明の熱硬化型接着シートを作製することができる。
【0120】
なお、熱硬化型接着剤組成物(M1)の塗布や熱硬化型接着剤組成物(M2)の塗布に際しては、慣用のコーター(例えば、グラビヤロールコーター、リバースロールコーター、キスロールコーター、ディップロールコーター、バーコーター、ナイフコーター、スプレーロールコーターなど)を用いることができる。
【0121】
本発明の熱硬化型接着シート及び本発明の熱硬化型接着剤層は、加熱によって硬化反応を進行(熱硬化)させることにより、優れた接着力を発揮することができる。本発明の熱硬化型接着シートを加熱して本発明の熱硬化型接着剤層を硬化させる(熱硬化する)ことにより、強固な接着力を有する接着シート(熱硬化された熱硬化型接着シート)が得られる。上記硬化条件(加熱条件)は、特に限定されないが、100℃以上(例えば、100〜200℃)の温度にて30分以上(例えば、30〜360分)加熱することが好ましく、より好ましくは150℃以上(例えば、150〜200℃)の温度にて60分以上(例えば、60〜360分)である。
【0122】
熱硬化型接着シート(S1)においては、上記熱硬化型接着剤層(L1)は、TgA及びTgBを有することにより、加湿後260℃はんだディップしても発泡が確認されない強度を持たせることができ、かつ、接着性を付与することができる。
上記熱硬化型接着剤層(L1)は、20℃以上100℃以下にガラス転移点を有していることにより、接着後に、高温、長時間の処理条件等の非常に厳しい温度条件下に晒された場合であっても、接着剤層の発泡が抑制され、極めて優れた湿熱後耐熱性を発揮する。
加えて、−50℃以上10℃以下にガラス転移点を有していることにより、ある程度の柔軟性も有するため、硬くなり過ぎることによる接着力の低下を防止して、高い接着力(接着性)も両立しうる。さらに、接着後に、非常に厳しい温度条件下に晒された場合であっても、接着剤層の浮き剥がれが抑制され、極めて優れた湿熱後耐熱性を発揮する。
【0123】
熱硬化型接着シート(S2)においては、上記熱硬化型接着剤組成物(M2)がアクリル系ポリマー(X)を含有することにより、該組成物より形成される熱硬化型接着剤層(L2)は、強度(バルク強度)が高い接着剤層となる。これにより、接着後に、高温、長時間の処理条件等の非常に厳しい温度条件下に晒された場合であっても、接着剤層の発泡が抑制され、熱硬化型接着シート(S2)は、極めて優れた湿熱後耐熱性を発揮する。
加えて、上記熱硬化型接着剤組成物(M2)がアクリル系ポリマー(Y)を含有することにより、該組成物より形成される熱硬化型接着剤層(L2)は、ある程度の柔軟性も有するため、硬くなり過ぎることによる接着力の低下を防止して、高い接着力(接着性)も両立しうる。さらに、接着後に、非常に厳しい温度条件下に晒された場合であっても、接着剤層の浮き剥がれが抑制され、熱硬化型接着シート(S2)は、極めて優れた湿熱後耐熱性を発揮する。
なお、熱硬化性樹脂(Z)として、エーテル化フェノール樹脂を用いる場合には、熱硬化型接着剤層(L2)の接着力及び湿熱後耐熱性が特に向上するため、接着力と湿熱後耐熱性を極めて高いレベルで両立することが可能となるため好ましい。
【0124】
なお、上記熱硬化型接着シート(S2)は、熱硬化型接着シート(S1)であるか否かに関わらず、本発明の効果を満たすことができる。
【0125】
本発明の熱硬化型接着シートは、加熱による硬化後には高い接着力と特に優れた湿熱後耐熱性を発揮することができる。そのため、本発明の熱硬化型接着シートは、強固に接着し、かつ、接着後に極めて厳しい温度条件下で処理される場合でも発泡や浮き剥がれなどが生じない優れた湿熱後耐熱性が求められる用途等に好ましく使用することができる。具体的には、本発明の熱硬化型接着シートは、例えば、フレキシブル印刷回路基板(FPC)における接着の際に好ましく使用できる。即ち、本発明の熱硬化型接着シートは、好ましくは、FPC用熱硬化型接着シートである。なお、FPCにおける接着とは、例えば、FPCを作製する際の接着や、FPCを補強板に貼り合わせる際の接着を意味している。
【0126】
FPCは最終製品に組み込まれるまでに高温のリフロー工程を通ることが多く、使用される熱硬化型接着シートには、リフロー工程を通った後に、発泡や浮き剥がれが発生しないことが求められる。このようなFPC用途では特に、信頼性の観点から、「湿熱後耐熱性」が重要視されている。なお、上記「湿熱後耐熱性」とは、熱硬化型接着シートを用いて被着体を接着して作製した積層体を、高温高湿下(例えば、温度40〜60℃、湿度60〜95%RHの環境下)で保存した後に、厳しい温度条件(例えば、温度250〜270℃で1〜3分間)で処理した場合にも、上記熱硬化型接着シート(熱硬化型接着剤層)に発泡や浮き剥がれが生じにくい特性を意味する。本発明の熱硬化型接着シートは、熱硬化後には、高い接着力と共に、極めて優れた湿熱後耐熱性を発揮することができるため、特にFPC用途において信頼性の高い熱硬化型接着シートとして使用することができる。
【0127】
本発明は、他の実施形態として、第一のアクリル系ポリマーと第二のアクリル系ポリマーを主成分として含有し、かつ熱硬化性樹脂を含有する熱硬化型接着剤組成物から形成された熱硬化型接着剤層を有し、上記第一のアクリル系ポリマーを構成するモノマー成分と上記第二のアクリル系ポリマーを構成するモノマー成分とが異なることを特徴とする熱硬化型接着シート(以下、「他の実施形態の熱硬化型接着シート」と称する場合がある)であってもよい。上記熱硬化型接着剤組成物の全不揮発分(100重量%)中の、第一のアクリル系ポリマーの含有量と第二のアクリル系ポリマーの含有量の合計量(合計含有量)が50重量%以上である。
【0128】
上記他の実施形態の熱硬化型接着シートにおける、第一のアクリル系ポリマーと第二のアクリル系ポリマーは、特に限定されず、それぞれ、公知慣用のアクリル系モノマーを必須のモノマー成分として構成されたアクリル系ポリマーである。中でも、炭素数が1〜12である直鎖又は分岐鎖状のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル、シアノ基含有モノマー、カルボキシル基含有モノマーを必須のモノマー成分として構成されたアクリル系ポリマーであることが好ましい。さらに、上記モノマー以外のモノマー成分(他のモノマー成分)が用いられてもよい。
【0129】
上記第一のアクリル系ポリマーを構成するモノマー成分と上記第二のアクリル系ポリマーを構成するモノマー成分とは異なる。即ち、第一のアクリル系ポリマーを構成するモノマー成分と第二のアクリル系ポリマーを構成するモノマー成分とが、完全に一致(全てのモノマー成分が一致)するわけではないことが必要である。これにより、他の実施形態の熱硬化型接着シートの熱硬化型接着剤層の強度と柔軟性を両立させ、高い接着力と優れた湿熱後耐熱性を両立させることができる。
【0130】
[フレキシブル印刷回路基板(FPC)]
本発明の熱硬化型接着シートを用いてFPCを作製することにより、又は、本発明の熱硬化型接着シートを用いてFPCを補強板に貼り合わせることにより、本発明の熱硬化型接着シートを有するFPCを得ることができる。
【0131】
本発明の熱硬化型接着シートを有するFPCにおいては、該接着シートを熱硬化させることにより、強固な接着力を有する熱硬化型接着シートを有するFPC(熱硬化された熱硬化型接着シートを有するFPC)を得ることができる。上記の熱硬化における硬化条件としては、特に限定されないが、100℃以上(例えば、100〜200℃)の温度にて30分以上(例えば、30〜360分)加熱することが好ましく、より好ましくは150℃以上(例えば、150〜200℃)の温度にて60分以上(例えば、60〜360分)である。
【実施例】
【0132】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0133】
表1には、実施例及び比較例における、アクリル系ポリマーの種類、モノマー組成、重量平均分子量(Mw)及び熱硬化型接着剤組成物中の含有量(配合量)、並びに、熱硬化性樹脂(エーテル化フェノール樹脂等)の種類及び熱硬化型接着剤組成物中の含有量(配合量)を示した。なお、表1において、アクリル系ポリマーのモノマー組成は、該アクリル系ポリマーを構成するモノマー成分全量(100重量%)中の各モノマーの含有量(重量%)で表した。また、アクリル系ポリマー及び熱硬化性樹脂の含有量は、不揮発分としての含有量(重量部)で表した。
【0134】
実施例1
(アクリル系ポリマー(X1)の調製)
冷却管、窒素導入管、温度計および攪拌機を備えた反応器に、2,2’−アゾビス{2−[1−(2−ヒドロキシエチル)−2−イミダゾリン−2−イル]プロパン}ジハイドロクロライド(商品名「VA−060」、和光純薬工業株式会社製)(重合開始剤)0.279g、イオン交換水100gを投入し、窒素ガスを導入しながら1時間攪拌した。これを60℃に保ち、ここにエチルアクリレート(アクリル酸エチル)(EA)65重量部、アクリロニトリル(AN)30重量部、アクリル酸(AA)5重量部、1−ドデカンチオール(連鎖移動剤)0.04重量部及びポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム(乳化剤)2重量部をイオン交換水41重量部に添加して乳化したもの(モノマー原料のエマルション)400gを3時間かけて徐々に滴下して、乳化重合反応を進行させた。モノマー原料のエマルションの滴下終了後、さらに3時間同温度に保持して熟成させた。このようにして重合したアクリル系ポリマーの水分散液(エマルション)を乾燥し、アクリル系ポリマー(X1)(重量平均分子量150万)を得た。
【0135】
(アクリル系ポリマー(Y1)の調製)
冷却管、窒素導入管、温度計および攪拌機を備えた反応器に、2,2’−アゾビス{2−[1−(2−ヒドロキシエチル)−2−イミダゾリン−2−イル]プロパン}ジハイドロクロライド(商品名「VA−060」、和光純薬工業株式会社製)(重合開始剤)0.279g、イオン交換水100gを投入し、窒素ガスを導入しながら1時間攪拌した。これを60℃に保ち、ここにブチルアクリレート(アクリル酸n−ブチル)(BA)66重量部、アクリロニトリル(AN)29重量部、アクリル酸(AA)5重量部、1−ドデカンチオール(連鎖移動剤)0.04重量部及びポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム(乳化剤)2重量部をイオン交換水41重量部に添加して乳化したもの(モノマー原料のエマルション)400gを3時間かけて徐々に滴下して、乳化重合反応を進行させた。モノマー原料のエマルションの滴下終了後、さらに3時間同温度に保持して熟成させた。このようにして重合したアクリル系ポリマーの水分散液(エマルション)を乾燥し、アクリル系ポリマー(Y1)(重量平均分子量100万)を得た。
【0136】
(熱硬化型接着剤組成物の調製)
上記アクリル系ポリマー(X1)[エチルアクリレート(EA)65重量%、アクリロニトリル(AN)30重量%、アクリル酸(AA)5重量%をモノマー成分として構成された共重合体]:100重量部及び上記アクリル系ポリマー(Y1)[ブチルアクリレート(BA)66重量%、アクリロニトリル(AN)29重量%、アクリル酸(AA)5重量%をモノマー成分として構成された共重合体]:3重量部が溶解された酢酸エチル溶液に、エーテル化フェノール樹脂(Z1)として商品名「CKS−3898」(昭和電工株式会社製):12重量部(不揮発分)が溶解されたブタノール溶液を混合し攪拌して、熱硬化型接着剤組成物(溶液)を調製した。
すなわち、該熱硬化型接着剤組成物中には、アクリル系ポリマー(X1)が100重量部、アクリル系ポリマー(Y1)が3重量部、エーテル化フェノール樹脂(熱硬化性樹脂)(Z1)が12重量部含まれている。該熱硬化型接着剤組成物の全不揮発分(100重量%)中のアクリル系ポリマー(X1)の含有量とアクリル系ポリマー(Y1)の含有量の合計量は90重量%である。
【0137】
(熱硬化型接着シートの作製)
上記熱硬化型接着剤組成物を、乾燥後の厚みが25μmとなるように、剥離ライナーの剥離面に塗布し、100℃で3分間乾燥して、熱硬化型接着剤層(厚み25μm)を形成し、熱硬化型接着シート(熱硬化型接着剤層のみからなる基材レス熱硬化型接着シート)を得た。
【0138】
実施例2〜4
表1に示すように、アクリル系ポリマー(Y1)の含有量、エーテル化フェノール樹脂(Z1)の含有量を変更して、実施例1と同様にして、熱硬化型接着剤組成物及び熱硬化型接着シートを得た。
【0139】
実施例5〜8
(アクリル系ポリマー(X2)の調製)
重合開始剤(商品名「VA−060」)の量を、0.279gから0.140gに変更した以外は、実施例1のアクリル系ポリマー(X1)の調製方法と同様にして、アクリル系ポリマー(X2)(重量平均分子量300万)を得た。
(熱硬化型接着剤組成物の調製、熱硬化型接着シートの作製)
表1に示すように、アクリル系ポリマー(X1)のかわりにアクリル系ポリマー(X2)を用い、さらに、アクリル系ポリマー(Y1)の含有量、エーテル化フェノール樹脂(Z1)の含有量を変更して、実施例1と同様にして、熱硬化型接着剤組成物及び熱硬化型接着シートを得た。
【0140】
比較例1
表1に示すように、アクリル系ポリマー(Y1)を用いずに、実施例1と同様にして、熱硬化型接着剤組成物及び熱硬化型接着シートを得た。
【0141】
比較例2
表1に示すように、アクリル系ポリマー(Y1)を用いず、さらに、アクリル系ポリマー(X1)のかわりにアクリル系ポリマー(X2)を用いて、実施例1と同様にして、熱硬化型接着剤組成物及び熱硬化型接着シートを得た。
【0142】
比較例3
表1に示すように、アクリル系ポリマー(X1)を用いず、さらに、アクリル系ポリマー(Y1)の含有量を変更して、実施例1と同様にして、熱硬化型接着剤組成物及び熱硬化型接着シートを得た。
【0143】
比較例4
(アクリル系ポリマー(Y2)の調製)
ブチルアクリレート(アクリル酸n−ブチル)(BA)の量を66重量部から64重量部、アクリロニトリル(AN)の量を29重量部から34重量部、アクリル酸(AA)の量を5重量部から2重量部に変更した以外は、実施例1のアクリル系ポリマー(Y1)の調製方法と同様にして、アクリル系ポリマー(Y2)を得た。
(熱硬化型接着剤組成物の調製)
上記アクリル系ポリマー(Y2)[ブチルアクリレート(BA)64重量%、アクリロニトリル(AN)34重量%、アクリル酸(AA)2重量%をモノマー成分として構成された共重合体]:100重量部が溶解された酢酸エチル溶液に、レゾール型フェノール樹脂(Z2)として商品名「PR−51283」(住友ベークライト株式会社製):10重量部(不揮発分)が溶解されたメタノール溶液を混合し攪拌して、熱硬化型接着剤組成物(溶液)を調製した。
すなわち、該熱硬化型接着剤組成物中には、アクリル系ポリマー(Y2)が100重量部、熱硬化性樹脂(Z2)が10重量部含まれている。該熱硬化型接着剤組成物の全不揮発分(100重量%)中のアクリル系ポリマー(Y2)の含有量は90重量%である。
【0144】
(熱硬化型接着シートの作製)
実施例1と同様にして、熱硬化型接着剤組成物及び熱硬化型接着シートを得た。
【0145】
(評価)
実施例及び比較例で得られた各熱硬化型接着シートについて、熱硬化型接着剤層の硬化後の接着力、湿熱後耐熱性、ガラス転移点(TgA、TgB)をそれぞれ、下記の測定方法又は評価方法により測定又は評価した。また、本発明の熱硬化型接着剤層(熱硬化前)のゲル分率、40℃7日間保存後のゲル分率差、及び、150℃1時間硬化処理後のゲル分率は、上述した評価方法により測定した。
【0146】
(1)接着力の測定方法
実施例及び比較例で得られた各熱硬化型接着シートにおける硬化後の熱硬化型接着剤層について、23℃における接着力(N/cm)を以下の方法で測定した。
フレキシブル印刷回路基板(FPC;サイズ:幅5cm×長さ8cm、厚み0.2mm)と、熱硬化型接着シートとを130℃でラミネートした後、1cm幅に切断した(熱硬化型接着シートはFPCの片面側(表面の材質:ポリイミド)の全面にラミネートされている)。これを、ステンレス鋼板(SUS304BA板)(SUS;サイズ:長さ5cm×幅5cm、厚み0.4mm)に、ラミネーターを用いて130℃でラミネートした後、160℃、2MPaで90秒間加熱圧着(プレス)して貼り付けた。さらに、150℃で1時間キュアー(加熱硬化)して試験体を作製した。
【0147】
上記試験体について、引張試験機(装置商品名「TCM−1kNB」、ミネベア(株)製)を用いて、FPC側を引っ張る方法により、90°ピール接着力(引張速度:50mm/分、23℃、50%RH;N/cm)を測定した。
なお、測定結果は、表1の「接着力(N/cm) SUS」の欄に示した。
【0148】
また、上記測定において、ステンレス鋼板のかわりに、ポリイミド板(PI;サイズ:長さ5cm×幅5cm、厚み0.13mm)を用いて、同様に90°ピール接着力を測定した。測定結果は、表1の「接着力(N/cm) PI」の欄に示した。
【0149】
(2)湿熱後耐熱性の評価方法(加湿後260℃はんだディップ)
実施例及び比較例で得られた各熱硬化型接着シートにおける硬化後の熱硬化型接着剤層について、湿熱後耐熱性を評価した。
銅張積層板(CCL;ポリイミド/銅の積層体、サイズ:幅5cm×長さ8cm、厚み45μm)と、熱硬化型接着シートとを130℃でラミネートした後、1cm幅に切断した(熱硬化型接着シートはCCLのポリイミド面の全面にラミネートされている)。これを、ステンレス鋼板(SUS304BA板)(SUS;サイズ:長さ5cm×幅5cm、厚み0.4mm)に、ラミネーターを用いて130℃でラミネートした後、160℃、2MPaで90秒間加熱圧着(プレス)して貼り付けた。さらに、150℃で1時間キュアー(加熱硬化)して試験体を作製した。
上記試験体を、加湿(温度:60℃、湿度:90%RH)の条件下で24時間静置させた後、試験体のステンレス鋼板側の表面を260℃のはんだ浴に3分間ディップ(浸漬)させた。
【0150】
上記試験体における熱硬化型接着シート(熱硬化型接着剤層)の浮き剥がれ、発泡の状態を目視にて観察し、以下の基準で湿熱後耐熱性を評価した。なお、評価結果は、表1の「湿熱後耐熱性 SUS」の欄に示した。
湿熱後耐熱性に優れる(◎): 熱硬化型接着剤層に浮き剥がれ、発泡が確認されなかった。
湿熱後耐熱性が良好(○): 貼付部分の端部に限り少量の浮き剥がれ、発泡が確認された。
湿熱後耐熱性がやや劣るが使用可能(△): 貼付部分の端部と、端部以外の一部に浮き剥がれ、発泡が確認された。
湿熱後耐熱性が劣る(×): 熱硬化型接着剤層の全面に浮き剥がれ、発泡が確認された。
【0151】
また、上記評価において、ステンレス鋼板のかわりに、ポリイミド板(PI;サイズ:長さ5cm×幅5cm、厚み0.13mm)を用いて、同様に湿熱後耐熱性を評価した。評価結果は、表1の「湿熱後耐熱性 PI」の欄に示した。
【0152】
(3)ガラス転移点(ガラス転移温度)の測定方法
実施例及び比較例で得られた各熱硬化型接着シートにおける熱硬化型接着剤層について、ガラス転移点(℃)を以下の方法で測定した。
熱硬化型接着シートより、熱硬化型接着剤層を約2mg秤取し、ガラス転移点測定用のサンプルとし、DSC測定に用いた。上記サンプルを、直径5mm、深さ2mmのアルミニウム製円筒型セルに入れ、蓋をかぶせた後に封印した。参照サンプルとして空のアルミニウム製円筒型セルを用意した。示差走査熱量計(商品名「Q2000」、TAインスツルメント社製)を用い、窒素雰囲気下(窒素流量:50ml/分)で−50℃から10℃/分の速度で100℃まで昇温した後、−50℃まで急冷し、再度10℃/分の速度にて−50℃〜100℃の範囲で昇温したときの上記サンプルの吸熱曲線を測定した。
得られた吸熱曲線における屈曲点の中間点をガラス転移点とした。得られたガラス転移点のうちの、−50℃以上10℃以下であるガラス転移点を「TgA」、20℃以上100℃以下であるガラス転移点を「TgB」とし、TgA及びTgBを表1の「TgA」の欄及び「TgB」の欄に示した。
【0153】
【表1】

【0154】
表1から明らかなように、本発明の熱硬化型接着シートは硬化後の接着力が高く接着性に優れ、さらに、加湿後260℃はんだディップの非常に厳しい温度条件の処理を施した場合においても、高い湿熱後耐熱性を有している。
一方、熱硬化型接着剤層が−50℃以上10℃以下にガラス転移点を有しない場合(熱硬化型接着剤層を形成する熱硬化型接着剤組成物中に、アクリル系ポリマー(Y)を含まない場合)(比較例1、2)には、熱硬化型接着剤層が硬くなり過ぎ、接着力が低下した。さらに、加湿後260℃はんだディップの処理により熱硬化型接着剤層と被着体との界面で浮き剥がれや発泡が生じ、湿熱後耐熱性が劣っていた。また、熱硬化型接着剤層が20℃以上100℃以下にガラス転移点を有しない場合(熱硬化型接着剤層を形成する熱硬化型接着剤組成物中に、アクリル系ポリマー(X)を含まない場合)(比較例3、4)には、熱硬化型接着剤層のバルク強度が低下して、加湿後260℃はんだディップの処理により熱硬化型接着剤層中で発泡が生じ、湿熱後耐熱性が劣っていた。
【産業上の利用可能性】
【0155】
本発明の熱硬化型接着シートは、強固に接着し、かつ、接着後に極めて厳しい温度条件下で処理される場合でも発泡や浮き剥がれなどが生じない優れた湿熱後耐熱性が求められる用途等に好ましく使用することができる。具体的には、本発明の熱硬化型接着シートは、例えば、フレキシブル印刷回路基板(FPC)における接着の際に好ましく使用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
−50℃以上10℃以下、及び20℃以上100℃以下にそれぞれガラス転移点を有する熱硬化型接着剤層を有することを特徴とする熱硬化型接着シート。
【請求項2】
前記熱硬化型接着剤層が、下記アクリル系ポリマー(X)及び下記アクリル系ポリマー(Y)を主成分として含有し、かつ熱硬化性樹脂(Z)を含有する熱硬化型接着剤組成物から形成された熱硬化型接着剤層である請求項1に記載の熱硬化型接着シート。
アクリル系ポリマー(X):炭素数が1〜3である直鎖又は分岐鎖状のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル(a1)を必須のモノマー成分として構成されたアクリル系ポリマーであって、該アクリル系ポリマーを構成するモノマー成分全量(100重量%)中の、前記(メタ)アクリル酸アルキルエステル(a1)の含有量が50重量%以上であるアクリル系ポリマー
アクリル系ポリマー(Y):炭素数が4〜12である直鎖又は分岐鎖状のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル(a2)を必須のモノマー成分として構成されたアクリル系ポリマーであって、該アクリル系ポリマーを構成するモノマー成分全量(100重量%)中の、前記(メタ)アクリル酸アルキルエステル(a2)の含有量が50重量%以上であるアクリル系ポリマー
【請求項3】
前記アクリル系ポリマー(Y)の含有量が、前記アクリル系ポリマー(X)100重量部に対して、1〜100重量部である請求項2に記載の熱硬化型接着シート。
【請求項4】
前記アクリル系ポリマー(X)が、さらに、シアノ基含有モノマー(b1)及びカルボキシル基含有モノマー(c1)を必須のモノマー成分として構成されたアクリル系ポリマーである請求項2又は3に記載の熱硬化型接着シート。
【請求項5】
前記アクリル系ポリマー(Y)が、さらに、シアノ基含有モノマー(b2)及びカルボキシル基含有モノマー(c2)を必須のモノマー成分として構成されたアクリル系ポリマーである請求項2〜4のいずれか1項に記載の熱硬化型接着シート。
【請求項6】
前記熱硬化性樹脂(Z)が、フェノール樹脂である請求項2〜5のいずれか1項に記載の熱硬化型接着シート。
【請求項7】
前記フェノール樹脂が、エーテル化フェノール樹脂である請求項6に記載の熱硬化型接着シート。
【請求項8】
前記熱硬化性樹脂(Z)の含有量が、前記アクリル系ポリマー(X)100重量部に対して、1〜40重量部である請求項2〜7のいずれか1項に記載の熱硬化型接着シート。
【請求項9】
フレキシブル印刷回路基板用熱硬化型接着シートである請求項1〜8のいずれか1項に記載の熱硬化型接着シート。
【請求項10】
請求項9に記載の熱硬化型接着シートを有するフレキシブル印刷回路基板。
【請求項11】
請求項1〜9のいずれか1項に記載の熱硬化型接着シートを熱硬化して得られた、熱硬化された熱硬化型接着シート。
【請求項12】
請求項11に記載の熱硬化された熱硬化型接着シートを有するフレキシブル印刷回路基板。
【請求項13】
第一のアクリル系ポリマーと第二のアクリル系ポリマーを主成分として含有し、かつ熱硬化性樹脂を含有する熱硬化型接着剤組成物から形成された熱硬化型接着剤層を有し、前記第一のアクリル系ポリマーを構成するモノマー成分と前記第二のアクリル系ポリマーを構成するモノマー成分とが異なることを特徴とする熱硬化型接着シート。

【公開番号】特開2013−32494(P2013−32494A)
【公開日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−119142(P2012−119142)
【出願日】平成24年5月25日(2012.5.25)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】