説明

熱線センサ

【課題】警戒対象範囲内の侵入者の検知性能を低下させることなく、センサ直近を通る小動物と人体を確実に識別し得る熱線センサを提供する。
【解決手段】ベースの前面に配置され上下方向に複数のレンズが所定間隔で配置されると共に前記レンズに対応する位置に検出素子がそれぞれ実装された基板を有する光学ユニットと、前記検出素子で検出された信号を処理する制御手段とを備えて、侵入者等の移動物体を検知する熱線センサであって、前記複数のレンズの間隔は、人体の大きさに対して狭く小動物に対しては広くなるように設定されると共に、前記制御手段は、複数の検出素子で検出された各検出信号の同時性を判別処理するかもしくは各検出信号を加算処理することにより、移動物体が侵入者であるか小動物であるかを判定することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、焦電素子により人体の遠赤外線の熱変化を検出して移動物体としての侵入者を検知する熱線センサに関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、熱線センサは、例えば複数のミラー等により略容器状に形成されたハウジングと、該ハウジングの端部から略並行状態で延設された一対の側壁先端に取り付けられると共に焦電素子が実装された基板等からなる光学ユニットを備え、焦電素子により遠赤外線の熱変化を検出することにより、警戒対象範囲内の検知対象である侵入者(人体)を検知するようになっている。
【0003】
従来、このような熱線センサにおいては、警戒対象範囲内における小動物の移動による誤報の防止対策として、1つの光学ユニット内に別系統とした複数の焦電素子を配置することにより多素子化したり、あるいは警戒対象範囲を複数の光学ユニットにより監視する構成とする等、警戒対象範囲の分解能を上げる方法が採用されている。なお、この種の熱線センサとしては、例えば特許文献1に開示のものが知られている。
【特許文献1】特開平9−101376号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、このような熱線センサにあっては、検知対象としての人間が歩行する位置(例えば熱線センサから2m〜30m程度の距離)における誤報防止対策であり、熱線センサ直近においては小動物(例えば虫や鳥等)に対して十分な警戒ゾーンの大きさを確保することが困難で、直近を通る小動物に対しては有効な対策ではなかった。また、複数の光学ユニットを使用する場合、各光学ユニットの間隔が結果的に広くなったものも存在するが、間隔を広くすることの目的が異なるため、直近を通る小動物に対しては十分な間隔が確保されておらず、特にセンサ直近を通る浮遊する虫や鳥あるいはセンサ表面を移動する虫等の小動物と人体(人間)との識別が困難である。
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、その目的は、警戒対象範囲内の侵入者の検知性能を低下させることなく、センサ直近を通る小動物と侵入者とを確実に識別し得る熱線センサを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
かかる目的を達成すべく、本発明の請求項1に記載の発明は、ベースの前面に配置され上下方向に複数のレンズが所定間隔で配置されると共に前記レンズに対応する位置に検出素子がそれぞれ実装された基板を有する光学ユニットと、前記検出素子で検出された信号を処理する制御手段とを備えて、侵入者等の移動物体を検知する熱線センサであって、前記複数のレンズの間隔は、人体の大きさに対して狭く小動物に対しては広くなるように設定されると共に、前記制御手段は、複数の検出素子で検出された各検出信号の同時性を判別処理するかもしくは各検出信号を加算処理することにより、前記移動物体が侵入者であるか小動物であるかを判定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明の請求項1に記載の発明によれば、光学ユニットの複数のレンズが上下方向に所定間隔で配置されると共に、これらのレンズに対応して基板上に実装された各検出素子により検出された各検出信号が、制御手段により所定に処理されて検知された移動物体が侵入者であるか小動物であるかが判定されるため、各レンズを所定位置に配置することにより、警戒対象範囲内の侵入者の検知性能を低下させることなく、センサ直近を通る小動物と侵入者とを確実に識別して、例えば誤報を防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。
図1〜図9は、本発明に係わる熱線センサの一実施形態を示し、図1がその斜視図、図2がそのカバーを取り外した状態の斜視図、図3がそのレンズ集合体を取り外した状態の斜視図、図4が制御系のブロック図、図5がその動作の一例を示すフローチャート、図6がその説明図、図7及び図8が設置状態の説明図、図9が他の動作を示すフローチャートである。
【0009】
図1〜図3に示すように、熱線センサ1は、所定の壁面等の取付面に取り付けられる正面視縦長のベース2と、遠赤外線透過窓3aを有してベース2の前面に着脱可能に取り付けられると共に内部に光学ユニット4が配置されたカバー3等を備えている。
【0010】
前記光学ユニット4は、図2に示すように、上下に一対の開口6aを有するハウジング6と、このハウジング6の開口6a部分に例えば縦方向に複数配置されたレンズ7aからなる上下一対のレンズ集合体7(または多数のミラーからなるミラー集合体)と、このレンズ集合体7の内側に配置された基板5等を有している。この時、上下一対のレンズ集合体7の間隔は、センサ直近において人体(侵入者)に対しては狭く小動物に対しては広くなるように設定されている。そして、各レンズ集合体7は、ハウジンク6に対して軸8を中心に回動可能に配設されて、その向きが同一角度に調整可能に構成されている。また、前記基板5は、図3に示すように、例えば正面視縦長のプリント基板で形成され、その上下部で前記レンズ集合体7の略中心位置と対応する位置には、焦電素子からなる検出素子9a、9bが実装されている。また、この基板5(もしくは別途設けたプリント基板)上には、制御部10(制御手段)が構築されている。
【0011】
この制御部10は、図4に示すように、前記各検出素子9a、9bに接続され各検出素子9a、9bで検出された検出信号を増幅する増幅部11a、11bと、この増幅部11a、11bの信号を後述する如く処理するマイコン等からなる判定部12と、この判定部12の判定結果を出力する出力部13等を備えている。そして、この制御部10は、内部の図示しない記憶部に記憶されたプログラムにしたがって図5に示すように動作する。
【0012】
すなわち、先ず、熱線センサ1は、図7及び図8に示すように、警戒すべき例えば室内の壁面14の所定高さ位置に設置され、上下一対の検出素子9a、9bによる平面方向における複数の警戒ゾーンWaからなる警戒対象範囲Wが、図7に示すように平面視で扇形状に設定されると共に、上下方向の警戒ゾーンWbが図8(a)(b)に示すように設定され、センサ直近の平面視扇形状の警戒対象範囲W1においては各検出素子9a、9bによる警戒ゾーンWbが重ならず、該範囲W1より遠方側の範囲W2においては警戒ゾーンWbが概ね重なるように設定されている。
【0013】
つまり、光学ユニット4のレンズ集合体7等が、基準に対して同一角度となるように配置されると共に、熱線センサ1から十分離れた位置から見てそれぞれの警戒ゾーンが重なるように構成されている。なお、熱線センサ1は、その光学ユニット4を前記軸8を中心に回動させること等により、各レンズ集合体7の向き等が同一角度に設定されて設置されている。
【0014】
そして、このような設置状態において、図5に示すように、プログラムが開始(S100)されると、先ず検出素子9aによる検出信号(信号1という)が、予め判定部12内に設定されている閾値以上か否かが判断(S101)され、この判断S101は「YES」になるまで繰り返される。この判断S101で「YES」となった時点で、検出素子9bによる検出信号(信号2という)が前記判定部12内に設定してある閾値以上か否かが判断(S102)され、この判断S102も「YES」になるまで繰り返され、「YES」となった時点で信号1と信号2のピークが検出(S103)される。
【0015】
そして、ステップS103でピークが検出されると、信号1と信号2のピークが同時か否かが判断(S104)され、この判断S104で「YES」の場合は、侵入者有りとしてアラームを出力(S105)して、一連のプログラムを終了(S106)する。つまり、このフローチャートの場合、図6(a)に示すように、信号1と信号2のピークP1、P2が同一の場合、すなわち図8(a)に示すように前記範囲W内の移動物体が両検出素子9a、9bで検出された場合は、検知した移動物体(検知対象)が侵入者M(人体)であると判定する。
【0016】
また、図6(b)(c)に示すように検出信号が一方のみの場合、すなわち図8(b)に示すように、センサ直近の前記範囲W1内の虫等を検知した場合でピークP1、P2が同一でない場合は、移動物体が小動物Tであると判定する。また、図6(d)に示すように、ピークP1、P2が逆方向で同一でない場合も移動物体が小動物Tであると判定する。これにより、熱線センサ1の直近となる範囲W1内における侵入者Mと小動物Tの検知精度が高められることになる。
【0017】
なお、以上のフローチャートにおいては、信号1と信号2のピークP1、P2が同時であるか否かを判断することにより、移動物体が侵入者Mか小動物Tかを判定したが、例えば図9に示すように、各信号1、2の立ち上がり(もしくは立ち下がり)の同時性を判断することもできる。すなわち、プログラムが開始(S100)されて、判断S101と判断S102で信号1と信号2が共に閾値以上の場合に、この信号の立ち上がりU1、U2を検出(S107)して、この立ち上がりU1、U2が同時か否かが判断(S108)される。
【0018】
そして、この判断S108で「YES」の場合に、アラームを出力(S105)する。この場合も、図6(a)に示すように、信号1と信号2の立ち上がりU1、U2が同一の場合に移動物体を侵入者Mとして判定し、図6(b)〜(d)に示すように、信号1と信号2の立ち上がりU1、U2が一致せず同一でない場合は、移動物体を虫等の小動物Tとして判定することになる。
【0019】
このように、上記実施形態の熱線センサ1によれば、光学ユニット4の上下一対のレンズ集合体7に対応して基板5上に検出素子9a、9bがそれぞれ実装され、この各検出素子9a、9bにより検知された検出信号が、制御部10により処理されて検知された移動物体が侵入者Mであるか小動物Tであるかが判定されるため、一対のレンズ集合体7を所定向きで所定位置に配置することにより、警戒対象範囲W内の侵入者Mの検知性能を低下させることなく、センサ直近の警戒対象範囲W1を通る小動物Tを検知することができる。
【0020】
特に、制御部10が、一対の検出素子9a、9bの各検出信号のピークP1、P2や立ち上がりU1、U2を検出して、2つの信号が同時であるか否かを判定するため、2つの信号の処理を簡素にして制御部10の構成の複雑化を防止しつつ、移動物体の判定精度を高めることができる。その結果、熱線センサ1の直近を通る例えば浮遊する虫や鳥あるいは熱線センサ1の表面であるカバー3の表面に付着して移動する虫等の小動物Tと侵入者Mとを確実に識別できて、例えば熱線センサ1の誤報を防止することが可能となる。
【0021】
また、光学ユニット4が、同じ形態の多数のレンズ7aからなる一対のレンズ集合体7aをそれぞれの検出素子9a、9bに対して同じ位置関係となるように配置すると共に、上下一対のレンズ集合体7の間隔が、警戒対象範囲W1において人体(侵入者M)に対しては狭く小動物Tに対しては広く設定されているため、センサ直近の移動物体の判定精度を一層高めることができる。さらに、光学ユニット4のレンズ集合体7として、縦方向に配置された複数のレンズ7aを使用しているため、警戒対象範囲W内の熱線を確実に検出することができて、侵入者Mを検知する熱センサ1として好適に使用することが可能となる。
【0022】
図10〜図12は、本発明に係わる熱線センサの他の実施形態を示す制御系のブロック図、その動作の一例を示すフローチャート及びその説明図である。なお、上記実施形態と同一部位には、同一符号を付して説明する。この実施形態の熱線センサ1の特徴は、各検出素子9a、9bで検出された信号を加算処理して移動物体を侵入者Mか小動物Tであるかを判定するようにしたものである。すなわち、制御部10には、前記増幅部11a、11bと、この増幅部11a、11bで増幅された信号1、2を加算する加算部15と、この加算部15で加算された加算信号Sを判定する判定部12と、出力部13等を備えている。
【0023】
そして、この制御部10は、図11に示すように、プログラムが開始(S200)されると、加算信号Sが予め判定部12に設定されている閾値以上か否かが判断(S201)され、この判断S201は「YES」になるまで繰り返され、「YES」となった時点でアラーム出力(S202)して、プログラムを終了(S203)する。この実施形態によれば、図12(a)に示すように、信号1と信号2の加算信号Sが上下の閾値を超えている場合に、移動物体を侵入者Mとして判定し、図12(b)〜(d)に示すように、加算信号Sが上下の閾値を超えていない場合は、移動物体が小動物Tであると判定することになり、上記実施形態と同様の作用効果を得ることができる。
【0024】
なお、上記実施形態においては、光学ユニット4のレンズ集合体7として縦方向に配置したレンズ7aを使用したが、レンズ7a自体の形状や向き等は、警戒対象範囲Wの形態に応じて適宜に変更することができるし、検出素子9a、9bの数も2個に限らず、3個以上の複数配置する構成としても良い。また、検出素子9a、9b自体を多素子化したり、警戒対象範囲Wの各警戒ゾーンWa、Wbを複数の光学ユニットで警戒する構成として、各ゾーンの分解能を上げる従来の技術と組み合わせることにより、距離に係わらず警戒対象範囲W内における検知精度を一層高める等、本発明に係わる各発明の要旨を逸脱しない範囲において適宜に変更することができる。
【産業上の利用可能性】
【0025】
本発明は、ベースを介して室内の壁面の所定位置に設置される熱線センサに限らず、室内外を問わず壁面上部や天井等に取り付けられる各種熱線センサにも利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明に係わる熱線センサの一実施形態を示す斜視図
【図2】同そのカバーを取り外した状態の斜視図
【図3】同そのレンズ集合体を知り外した状態の斜視図
【図4】同制御系のブロック図
【図5】同その動作の一例を示すフローチャート
【図6】同その説明図
【図7】同設置状態の説明図
【図8】同設置状態の他の説明図
【図9】同他の動作を示すフローチャート
【図10】本発明に係わる熱線センサの他の実施形態を示す制御系のブロック図
【図11】同その動作の一例を示すフローチャート
【図12】同その説明図
【符号の説明】
【0027】
1・・・熱線センサ、2・・・ベース、3・・・カバー、3a・・・遠赤外線透過窓、4・・・光学ユニット、5・・・基板、6・・・ハウジング、6a・・・開口、7・・・レンズ集合体、7a・・・レンズ、8・・・軸、9a、9b・・・検出素子、10・・・制御部、11a、11b・・・増幅部、12・・・判定部、13・・・出力部、14・・・壁面、15・・・加算部、W、W1・・・警戒対象範囲、Wa、Wb・・・警戒ゾーン、M・・・侵入者、T・・・小動物、P1、P2・・・ピーク、U1、U2・・・立ち上がり、S・・・加算信号。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベースの前面に配置され上下方向に複数のレンズが所定間隔で配置されると共に前記レンズに対応する位置に検出素子がそれぞれ実装された基板を有する光学ユニットと、前記検出素子で検出された信号を処理する制御手段とを備えて、侵入者等の移動物体を検知する熱線センサであって、
前記複数のレンズの間隔は、人体の大きさに対して狭く小動物に対しては広くなるように設定されると共に、前記制御手段は、複数の検出素子で検出された各検出信号の同時性を判別処理するかもしくは各検出信号を加算処理することにより、前記移動物体が侵入者であるか小動物であるかを判定することを特徴とする熱線センサ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate


【公開番号】特開2008−197028(P2008−197028A)
【公開日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−34334(P2007−34334)
【出願日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【出願人】(000101400)アツミ電氣株式会社 (69)
【Fターム(参考)】