説明

燃焼排ガス処理方法

【課題】 活性炭の代替品としての処理剤を用いて、ダイオキシンやハイドロカーボンを有効に除去することが可能な燃焼排ガスの処理方法を提供する。
【解決手段】 モンモリロナイト族粘土鉱物またはその酸処理物からなり、且つSiO含量が75乃至80重量%、Al含量が8乃至12重量%及び固体酸としてのルイス酸含量が0.08mmol/g以上の範囲にあるダイオキシン吸着剤を用いて、廃棄物焼却炉から発生する燃焼排ガスを処理する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は燃焼排ガス処理方法に関するものであり、より詳細には、廃棄物焼却炉などから生成する燃焼排ガスからダイオキシンを除去して排出する燃焼排ガスの処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年において、都市ゴミや産業廃棄物などの廃棄物焼却炉から発生する燃焼排ガス中に含まれるダイオキシンによる環境汚染が問題となっている。ダイオキシンは、2個の酸素原子を環内に含む環状エーテルであり、塩化物とベンゼンやナフタレン等のハイドロカーボンとを加熱処理することにより生成することが知られている。従って、現在では、廃棄物焼却炉の加熱温度(焼却温度)を、ダイオキシン生成温度領域よりも高い800℃以上の高温に設定することにより、ダイオキシンの生成が抑えられている。
【0003】
しかしながら、焼却温度を800℃以上の高温に設定したとしても、このような高温に達するまでの領域でダイオキシンの発生を抑えることはできず、従って、燃焼排ガス中からダイオキシンを確実に除去する処理方法が求められている。
【0004】
このような燃焼排ガスの処理方法として、例えば特許文献1には、チタン−バナジウム触媒を担持させた濾布(バグフィルター)で燃焼排ガスを処理する方法が提案されている。即ち、チタン−バナジウム触媒によりダイオキシンが有効に分解されて排出されるというものである。
【0005】
また、特許文献2には、活性炭や活性白土を用いて燃焼排ガスを処理する方法が提案されている。即ち、活性炭や活性白土によりダイオキシンを吸着せしめることにより、ダイオキシンを燃焼排ガス中から除去するというものである。
【特許文献1】特開平10−66814号公報
【特許文献2】特開平4−87624号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1で提案されているようなチタン−バナジウム触媒は、ダイオキシン分解能に優れているとしても、ハイドロカーボンにより被毒してダイオキシン分解能が著しく低下してしまうという問題がある。即ち、燃焼排ガス中には、有機物が完全に熱分解せずに残ったハイドロカーボンが含まれているため、ハイドロカーボンによる触媒被毒を回避することが必要である。
【0007】
また、特許文献2で提案されている活性炭は、ダイオキシン吸着能に優れ、さらにハイドロカーボン吸着能も良好である。しかしながら、活性炭は炭素粉末であり、燃焼の問題がある。即ち、高温に保持されている燃焼排ガスの処理に活性炭を用いるときには、燃焼の問題を生じてしまうため、活性炭以外の吸着剤が求められているのが現状である。
【0008】
さらに、特許文献2で示されているような活性白土は、モンモリロナイト族粘土鉱物に属する酸性白土を酸処理したものであり、酸性白土に比して大きな比表面積や細孔容積を有しているが、活性炭に比してダイオキシン吸着効果がかなり低く、活性炭の代替品としては適当でなく、通常、それ単独で使用されることはなく、活性炭との併用で燃焼排ガスの処理に使用される。
【0009】
従って、本発明の目的は、活性炭の代替品としての処理剤を用いて、ダイオキシンやハイドロカーボンを有効に除去することが可能な燃焼排ガスの処理方法を提供することにある。
本発明の他の目的は、ダイオキシンに加えてハイドロカーボンを有効に除去することが可能な燃焼排ガスの処理方法を提供することにある。
本発明のさらに他の目的は、活性炭と同等のダイオキシン吸着能を示し、且つハイドロカーボンに対しても優れた吸着能を示す燃焼排ガス処理剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明によれば、モンモリロナイト族粘土鉱物またはその酸処理物からなり、且つSiO含量が70乃至85重量%、Al含量が8乃至12重量%及び固体酸としてのルイス酸含量が0.08mmol/g以上の範囲にあるダイオキシン吸着剤を用いて、廃棄物焼却炉から発生する燃焼排ガスを処理することを特徴とする燃焼排ガス処理方法が提供される。
【0011】
本発明の燃焼排ガス処理方法においては、
(1)前記ダイオキシン吸着剤と共に、モンモリロナイト族粘土鉱物の酸処理物からなり、且つルイス酸含量が0.075mmol/g以下の範囲にあり、SiO含量が77乃至90重量%、Al含量が5乃至10重量%の範囲にあり、BET比表面積が250m/g以上、細孔容積が0.25cm/g以上の範囲にあるハイドロカーボン吸着剤を用いて、廃棄物焼却炉から発生する燃焼排ガスを処理すること、
(2)ダイオキシン吸着剤及びハイドロカーボン吸着剤を、粒径が10乃至100μmの微粉末として使用すること、
(3)ダイオキシン吸着剤は、BET比表面積が80乃至150m/gの範囲にあること、
(4)ダイオキシン吸着剤及びハイドロカーボン吸着剤による処理後に、チタン−バナジウム触媒を用いてダイオキシン分解処理を行うこと、
(5)ダイオキシン吸着剤及びハイドロカーボン吸着剤をバグフィルターに担持させておき、燃焼排ガスを、該バグフィルターを通過させて排出すること、
が好ましい。
【0012】
本発明によれば、また、モンモリロナイト族粘土鉱物またはその酸処理物からなり、且つSiO含量が70乃至85重量%、Al含量が8乃至12重量%及び固体酸としてのルイス酸含量が0.08mmol/g以上の範囲にあることを特徴とするダイオキシン吸着剤が提供される。
【0013】
本発明によれば、更にまた、前記ダイオキシン吸着剤と、ルイス酸含量が0.075mmol/g以下の範囲にあり、SiO含量が77乃至90重量%、Al含量が5乃至10重量%の範囲にあり、BET比表面積が250m/g以上、細孔容積が0.25cm/g以上の範囲にあるモンモリロナイト族粘土鉱物の酸処理物とからなる燃焼排ガス処理剤が提供される。
【発明の効果】
【0014】
本発明は、ダイオキシン吸着剤を用いて燃焼排ガスの処理を行うものであるが、このダイオキシン吸着剤として、SiO含量及びAl含量が一定の範囲内にあり、且つ固体酸としてのルイス酸含量が一定の範囲内にあるモンモリロナイト族粘土鉱物もしくはその酸処理物を用いることが重要な特徴である。即ち、このような特性を有するモンモリロナイト族粘土鉱物等は、活性炭のような燃焼性を有しておらず、しかも活性炭に近いダイオキシン吸着能を示す。また、このようなモンモリロナイト族粘土鉱物等からなるダイオキシン吸着剤は、Pb等の重金属捕捉能にも優れている。従って、このようなダイオキシン吸着剤を用いて燃焼排ガスの処理を行うことにより、燃焼等の不都合を発生することなく、排ガス中からダイオキシンや重金属イオン等の有害な成分を有効に除去することができる。
【0015】
また、本発明においては、特に上記のダイオキシン吸着剤を用いて処理を行うと共に、ハイドロカーボン吸着剤を用いての処理も行うことが最も好適である。即ち、このハイドロカーボン吸着剤はモンモリロナイト族粘土鉱物の酸処理物からなるものであるが、基本的には、ダイオキシン吸着剤として使用し得るモンモリロナイト族粘土鉱物の酸処理物に比して、酸処理の程度を強くすることにより得られるものであり、ルイス酸含量がダイオキシン吸着剤よりも低い範囲にあり、また、傾向として、SiO含量及びAl含量がダイオキシン吸着剤とは異なる範囲にあり、BET比表面積及び細孔容積が一定の範囲にあり、特にBET比表面積は、ダイオキシン吸着剤に比して大きい。前述したダイオキシン吸着剤は、ハイドロカーボン吸着能はほとんど示さないが、上記のモンモリロナイト族粘土鉱物の酸処理物からなるハイドロカーボン吸着剤は、活性炭と比較しても極めて高いハイドロカーボン吸着能を示す。従って、このようなハイドロカーボン吸着剤を用いての処理を併用することにより、ダイオキシンの前駆体となるベンゼンやナフタレン等のハイドロカーボンを有効に吸着除去することができ、ダイオキシンの発生を有効に抑制できることとなる。
【0016】
従って、本発明においては、上記の二種類の吸着剤を用いての処理を行った後、さらにチタン−バナジウム触媒を用いての処理を行えば、ハイドロカーボンによる触媒被毒をも有効に回避することができ、残存するダイオキシンをも確実に分解除去することができ、長期間にわたって安定に処理を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明において用いるダイオキシン吸着剤及びハイドロカーボン吸着剤は、何れもモンモリロナイト族粘土鉱物或いはその酸処理物であり、その組成及び特性に応じて、特にダイオキシンに対して高い吸着能を示すダイオキシン吸着剤、或いはハイドロカーボンに対して高い吸着能を示すハイドロカーボン吸着剤として使用される。
【0018】
<ダイオキシン吸着剤>
本発明において、ダイオキシン吸着剤としては、基本的には、酸性白土に代表されるモンモリロナイト族粘土鉱物が使用されるが、あらゆるモンモリロナイト族粘土鉱物を使用できるわけではなく、SiO含量及びAl含量が所定の範囲内にあり、さらに固体酸としてのルイス酸含量も所定の範囲にあるものでなければならない。
【0019】
即ち、酸性白土に代表されるモンモリロナイト族粘土鉱物は、SiO四面体層−AlO八面体層−SiO四面体層から成る三層構造を基本構造とし、このような三層構造が数枚積層した微小な単結晶の集合体である。また、このような三層構造の積層層間に、Ca、K、Na等の陽イオンとそれに配位している水分子が存在している。
【0020】
ところで、上記のようなモンモリロナイト族粘土鉱物では、基本三層構造中のAlの一部がMgやFe(II)に置換し、Siの一部がAlに置換しており、結晶格子はマイナスの電荷を有しているため、固体酸として機能する。従って、その酸性は、基本層間に存在するアルカリイオンの量に応じて中和され、プロトンの量に応じて、その酸性度が異なったものとなっており、例えば結晶中に存在しているSi−OH基がHイオンを放出するブレンステッド酸として機能し、AlOH基が電子供与性を示すルイス酸として機能する。
【0021】
本発明でダイオキシン吸着剤として用いるモンモリロナイト族粘土鉱物では、固体酸としてのルイス酸含量が0.08mmol/g以上、好ましくは0.08乃至0.12mmol/gの範囲にあるものでなければならない。即ち、ダイオキシンは、2個の酸素原子を環内に有するエーテル構造を有しており、ベンゼン環やナフタレン環等の芳香族環が、2個の酸素原子を含む環を間に挟んで結合した分子構造を有している。このような酸素原子の不対電子がルイス酸と反応するため、上記のモンモリロナイト族粘土鉱物は、ダイオキシンに対して優れた吸着能を示すものとなるのである。ルイス酸含量が上記範囲よりも小さいものでは、多量にブレンステッド酸分を含むものであっても、ブレンステッド酸はダイオキシンとは反応性を示さないため、ダイオキシン吸着剤として使用することができない。
【0022】
また、ダイオキシン吸着剤として使用するモンモリロナイト族粘土鉱物は、SiO含量が70乃至85重量%、好ましくは75乃至80重量%、Al含量が8乃至12重量%の範囲にあることも極めて重要である。即ち、モンモリロナイト族粘土鉱物は、例えば酸性白土として種々の産地から産出されるが、その産地によって組成が異なり、多くの産地から産出される酸性白土は、SiO含量が比較的少なく、上記のようなSiO含量及びAl含量を有する酸性白土は、例えば山形県の一部で産出されるかなり特殊なものである。即ち、前述した説明から理解されるようにルイス酸含量は、SiとAlの量的バランスに依存しており、上述した固体酸としてのルイス酸含量を示すためには、SiO含量及びAl含量が上記範囲内であることが必要であり、上記範囲外では、所定のルイス酸含量を示さず、ダイオキシン吸着能を示さないからである。
【0023】
また、本発明においては、前述した範囲のルイス酸含量、SiO含量及びAl含量を示す限り、モンモリロナイト族粘土鉱物を酸処理して得られる活性白土もダイオキシン吸着剤として使用でき、例えば、ルイス酸含量等が上記範囲外にある酸性白土を酸処理することにより、ルイス酸含量等が上記範囲内に調整された活性白土をダイオキシン吸着剤として使用することができる。但し、その酸処理の程度をあまり強くすると、過剰にAl分が除去されてしまい、基本三層構造が破壊されたり、或いはルイス酸量が大幅に低下してしまうため、その酸処理の程度は当然制限される。
【0024】
モンモリロナイト族粘土鉱物の酸処理は、一般に硫酸等の鉱酸によって行われるが、酸処理によって比表面積が増大することが知られている。このため、このような酸処理物をダイオキシン吸着剤として使用するためには、具体的には、硫酸30乃至50重量%の濃度で、温度60乃至90℃で30分間以内で酸処理して得られるもので、その物性はBET比表面積が80乃至150m/g、特に90乃至130m/gの範囲であることが好ましい。即ち、酸性白土等のモンモリロナイト族粘土鉱物は、一般に比表面積が小さく、酸処理により比表面積は増大するが、BET比表面積が上記範囲よりも高くなると、Al分の脱落等により、ルイス酸含量が低下してしまい、ダイオキシン吸着能が損なわれてしまうからである。
【0025】
また、本発明において用いるダイオキシン吸着剤は、前述した特性を有するモンモリロナイト族粘土鉱物或いはその酸処理物であるため、一般に、そのカチオン交換容量が50meq/100g以上、好ましくは50乃至150meq/100gの範囲にあり、またBET法で測定した細孔容積は、0.25乃至0.3cm/gの範囲にある。特に上記のような大きなカチオン交換容量を示すため、PbやCr等の重金属イオンに対して大きな吸着能を示すこととなり、これは、前述したモンモリロナイト族粘土鉱物等をダイオキシン吸着剤として用いた大きな利点である。しかも、このような重金属イオンは、ダイオキシン吸着剤を構成しているモンモリロナイト族粘土鉱物の層間に取り込まれるため、吸着した重金属イオンが離脱しにくいという性質も有している。例えば、後述する実施例には、このようなダイオキシン吸着剤では、Pbイオンが有効に吸着され、Pbイオンが吸着されたダイオキシン吸着剤を水中で攪拌処理した場合、Pbイオンの溶出量は著しく少ないことが示されている。
本発明のダイオキシン吸着剤は、上記の特徴を有することから廃水、地下水等のダイオキシン、重金属イオン吸着剤としても使用できる。
【0026】
本発明においてダイオキシン吸着剤として用いるモンモリロナイト族粘土鉱物(酸性白土)或いはその酸処理物の代表的な組成は、酸化物換算での重量基準で表して以下の通りである。
(重量%)
SiO:76.04
Al:11.20
NaO:0.04
MO(M:アルカリ土類金属):3.58
Fe:2.11
O:6.29
【0027】
<ハイドロカーボン吸着剤>
前述したダイオキシン吸着剤は、ダイオキシンに対しては活性炭と同程度の高い吸着能を示すが、ハイドロカーボンに対しての吸着能は低い。このため、ダイオキシンの前駆体であるベンゼンやナフタレン等のハイドロカーボンを吸着するハイドロカーボン吸着剤を併用することが好適である。本発明において、ハイドロカーボン吸着剤としては、酸性白土等のモンモリロナイト族粘土鉱物の酸処理物が使用されるが、この酸処理物は、モンモリロナイト族粘土鉱物に特有の基本層構造が損なわれない程度の酸処理により得られるものであり、具体的には、硫酸30乃至50重量%の濃度で、温度60乃至95℃で1乃至10時間酸処理して得られるもので、その物性は、ルイス酸含量が0.075mmol/g以下の範囲にあり、SiO含量が77乃至90重量%、Al含量が5乃至10重量%の範囲にあるものでなければならない。即ち、酸処理をある程度十分に行うことにより、SiやAl分が脱落し、基本層の積層構造が破壊され、ルイス酸含量は減少するが、BET比表面積の増大をもたらし、ハイドロカーボン吸着能が増大することとなる。
【0028】
例えば、このモンモリロナイト族粘土鉱物の酸処理物は、上記基本層構造を有しているが、酸処理により基本層の積層構造は崩壊して多孔質化しており、BET比表面積が250m/g以上、特に250乃至350m/gの範囲にあり、細孔容積が0.25cm/g以上、特に0.4cm/g以上の範囲にあることが必要である。即ち、前述したダイオキシン吸着剤は、所謂化学吸着によりダイオキシンを捕捉するものであるが、その比表面積はかなり小さく、従って物理吸着能は希薄であり、このためハイドロカーボン吸着能に乏しい。しかるに、上記のようなモンモリロナイト族粘土鉱物の酸処理物は、モンモリロナイト族粘土鉱物の基本構造を有しながら多孔質化されており、一定値以上のBET比表面積と細孔容積を有している。従って、このような酸処理物は、物理吸着能が極めて高く、物理吸着によりハイドロカーボンを捕捉することができるのである。例えば、後述する実施例に示されているように、かかる酸処理物(ハイドロカーボン吸着剤)は、クロルベンゼンやクロロフェノールに対して高い吸着能を有している。このことから、上記熱処理物をハイドロカーボン吸着剤として使用することにより、ベンゼンやナフタレンなどのダイオキシン前駆体を有効に除去することができ、かかる吸着剤の併用により、ダイオキシンの排出を有効に抑制することが可能となるのである。
【0029】
上記の説明から理解されるように、ハイドロカーボン吸着剤として用いるモンモリロナイト族粘土鉱物の酸処理物は、ダイオキシン吸着剤に比して高い比表面積及び細孔容積を有しているが、半面、基本層間の金属イオン等が酸処理によって溶出しているため、カチオン交換容量はダイオキシン吸着剤よりも小さく、例えば、49meq/100g以下、特に20乃至45meq/100gの範囲にあり、従って重金属イオン捕捉性の点では、ダイオキシン吸着剤の方が勝っている。
【0030】
本発明においてハイドロカーボン吸着剤として用いるモンモリロナイト族粘土鉱物の酸処理物の代表的な組成は、酸化物換算での重量基準で表して以下の通りである。
(重量%)
SiO:83.62
Al:6.56
NaO:0.004
MO(Mはアルカリ土類金属):1.03
Fe:1.97
O:4.91
【0031】
本発明において、上述したダイオキシン吸着剤及びハイドロカーボン吸着剤は、一般に、粒径が10乃至100μm、特に15乃至25μmの微粉末の形で使用に供することが好ましい。即ち、粒径があまり小さいと、フィルターの目詰まりを生じ易くなり、また目詰まりした吸着剤をフィルターから剥離することも困難となるおそれがあり、さらに粒径があまり大きいと、フィルターの目詰まりやフィルターからの剥離性の点では問題がないが、吸着能が低下するおそれがあるからである。
【0032】
また、上記のダイオキシン吸着剤及びハイドロカーボン吸着剤は、それぞれ別個に使用に供することもできるが、両者を混合して燃焼排ガス処理剤として使用に供することも可能である。この場合、両者の混合比率は、燃焼排ガスを発生する廃棄物焼却炉の特性(例えばハイドロカーボン発生量やダイオキシン発生量)などに応じて、適宜設定すればよい。
【0033】
<燃焼排ガスの処理>
ゴミ焼却炉などから発生した燃焼排ガスは、濾布などからなるバグフィルターで集塵された後に煙突から排出されるが、バグフィルターを通す前に、前述したダイオキシン吸着剤或いはダイオキシン吸着剤とハイドロカーボン吸着剤とによって処理される。特にダイオキシン吸着剤による処理とハイドロカーボン吸着剤による処理とを行なう場合には、既に述べた通り、発生したダイオキシンを吸着により排ガス中から除去できると同時に、ダイオキシンの前駆体である芳香族炭化水素をも有効に除去できるため、ダイオキシンの排出を一層有効に抑制することができる。
【0034】
ダイオキシン吸着剤やハイドロカーボン吸着剤による処理は、通常、これらの吸着剤を煙道に吹き込むことにより行なわれ、ダイオキシン吸着剤を吹き込んだ後にハイドロカーボン吸着剤を吹き込んでもよいし、ハイドロカーボン吸着剤を吹き込んだ後にダイオキシン吸着剤を吹き込んでもよいし、これらの吸着剤を混合した前記燃焼排ガス処理剤を吹き込んでもよい。また、バグフィルターを2段で設け、ダイオキシン吸着剤或いはハイドロカーボン吸着剤の吹き込みによる処理を行なった後に一段目のバグフィルターを通し、次いでハイドロカーボン吸着剤或いはダイオキシン吸着剤の吹き込みによる処理を行なった後に、二段目のバグフィルターを通して排ガスを排出することもできる。さらには、これらの吸着剤をバグフィルターに担持させておくこともできる。なお、各吸着剤の吹き込み量や担持量等は、焼却炉の性能(排ガス量やダイオキシンもしくはハイドロカーボンの発生量等)に応じて適宜設定すればよい。
【0035】
また、本発明において、ハイドロカーボン吸着剤を用いての処理を行なった場合には、ダイオキシン分解触媒、例えばチタン酸化物−バナジウム酸化物などのチタン−バナジウム系酸化物による処理を行なうことが好適である。即ち、このようなダイオキシン分解触媒は、ハイドロカーボンによる被毒により触媒活性が低下することが知られている。しかるに、本発明にしたがって、ハイドロカーボン吸着剤による処理を行なった後に、ダイオキシン分解触媒による処理を行なえば、ハイドロカーボンによる触媒被毒を有効に回避することができるので、かかる触媒機能を長期間にわたって持続させることができるという点で極めて望ましい。かかるダイオキシン分解触媒は、バグフィルターに担持させておくことが最も簡便である。
【0036】
上述した本発明においては、ダイオキシン吸着剤やハイドロカーボン吸着剤を用いての処理と併用して、それ自体公知の処理を行なうことも勿論可能である。例えば、消石灰等のアルカリ粉末を吹き込み、HClなどの酸性ガスを吸収させることもできるし、或いは白金触媒層を通すことにより、COやハイドロカーボンを燃焼乃至熱分解し、有害ガスを低減させることもできる。
【実施例】
【0037】
本発明を、次の実施例で更に説明する。なお、実施例で行った試験方法は、以下の通りである。
【0038】
(1)化学組成
JIS.M.8855に準拠して測定した。なお、測定試料は110℃乾燥物を基準とする。
【0039】
(2)固体酸測定
n-ブチルアミン滴定法[参考文献:「触媒」Vol.11,No6,P210-216(1969)]にて測定した。
【0040】
(3)比表面積及び細孔容積
Micromeritics社製Tri Star 3000を用いて測定を行った。細孔容積は比圧0.975において吸着した窒素の容積とし、比表面積は比圧が0.05から0.25の吸着枝側窒素吸着等温線からBET法で解析した。
【0041】
(4)粒径測定
粒径(メジアン径;μm)はベックマンコールター(株)社製のレーザ回折型粒子サイズアナライザー(コールター LS13 320)を用いて測定した。
【0042】
(5)ダイオキシン吸着試験
下記条件で、吸着剤を充填した固定床にダイオキシン含有ガスを通過させ、通過前後のダイオキシン(DXN)の濃度から除去率を求め、グラフを積分してトータルの吸着容量を算出した。
DXN濃度 :20ppm
吸着塔 :2.5cmφ
吸着剤充填量 :10mg
ガス温度 :200℃
ガス流速 :1.2m/min
【0043】
(6)ハイドロカーボン吸着試験
吸着剤を充填した固定床に、ハイドロカーボン含有ガスを一定の条件で通過させ、そのときの動的吸着容量を測定した。
下記条件で、吸着剤を充填した固定床にハイドロカーボン含有ガスを通過させ、通過前後のハイドロカーボン(HC)の濃度から除去率を求め、グラフを積分してトータルの吸着容量を算出した。
HC濃度 :5ppm
吸着塔 :2.5cmφ
吸着剤充填量 :10mg
ガス温度 :200℃
ガス流速 :1.2m/min
【0044】
(7)鉛溶出試験
環境庁告示第13号に準拠して行った。
【0045】
(実施例1)
表1に示した組成と物性をもつモンモリロナイト族粘土鉱物を、ダイオキシン吸着剤に用いた。ダイオキシン吸着試験及び鉛溶出試験を行い、結果を表1に示す。
【0046】
(実施例2)
実施例1で用いたモンモリロナイト族粘土鉱物を原料として用い、この原料を粗砕混練し、5mm径に造粒し造粒物を得た。次に処理槽に、硫酸濃度34重量%に調整した硫酸水溶液を入れた後、造粒物を入れ、85℃に達した時点で反応を終了し、ダイオキシン吸着剤を得た。各試験について測定を行い、結果を表1に示す。
【0047】
(比較例1)
実施例2において、酸処理時間を5時間に変更した以外は、同様に酸処理を行い、ダイオキシン吸着剤を得た。各試験について測定を行い、結果を表1に示す。
【0048】
(比較例2)
市販の活性炭をダイオキシン吸着剤に用いた。各試験について測定を行い、結果を表1に示す。
【0049】
【表1】

【0050】
(比較例3)
表2に示した組成と物性をもつモンモリロナイト族粘土鉱物を、ハイドロカーボン吸着剤に用いた。ハイドロカーボン吸着試験を行い、結果を表2に示す。
【0051】
(実施例3)
比較例3で用いたモンモリロナイト族粘土鉱物を原料として用い、この原料を粗砕混練し、5mm径に造粒し造粒物を得た。次に処理槽に、硫酸濃度38重量%に調整した硫酸水溶液を入れた後、造粒物を入れ、85℃で4時間酸処理を行い、ハイドロカーボン吸着剤を得た。各試験について測定を行い、結果を表2に示す。
【0052】
(実施例4)
実施例3において、酸処理時間を60分に変更した以外は、同様に酸処理を行い、ハイドロカーボン吸着剤を得た。各試験について測定を行い、結果を表2に示す。
【0053】
(比較例4)
比較例2で用いた活性炭を、ハイドロカーボン吸着剤に用いた。各試験について測定を行い、結果を表2に示す。
【0054】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
モンモリロナイト族粘土鉱物またはその酸処理物からなり、且つSiO含量
が70乃至85重量%、Al含量が8乃至12重量%及び固体酸としてのルイス酸含量が0.08mmol/g以上の範囲にあるダイオキシン吸着剤を用いて、廃棄物焼却炉から発生する燃焼排ガスを処理することを特徴とする燃焼排ガス処理方法。
【請求項2】
前記ダイオキシン吸着剤と共に、モンモリロナイト族粘土鉱物の酸処理物からなり、且つルイス酸含量が0.075mmol/g以下の範囲にあり、SiO含量が77乃至90重量%、Al含量が5乃至10重量%の範囲にあり、BET比表面積が250m/g以上、細孔容積が0.25cm/g以上の範囲にあるハイドロカーボン吸着剤を用いて、廃棄物焼却炉から発生する燃焼排ガスを処理する請求項1に記載の燃焼排ガス処理方法。
【請求項3】
ダイオキシン吸着剤及びハイドロカーボン吸着剤を、粒径が10乃至100μmの微粉末として使用する請求項2に記載の燃焼排ガス処理方法。
【請求項4】
ダイオキシン吸着剤は、BET比表面積が80乃至150m/gの範囲にある請求項1乃至3に記載の燃焼排ガス処理方法。
【請求項5】
ダイオキシン吸着剤及びハイドロカーボン吸着剤による処理後に、チタン−バナジウム触媒を用いてダイオキシン分解処理を行う請求項2に記載の燃焼排ガス処理方法。
【請求項6】
ダイオキシン吸着剤及びハイドロカーボン吸着剤をバグフィルターに担持させておき、燃焼排ガスを、該バグフィルターを通過させて排出する請求項2または5に記載の燃焼排ガス処理方法。
【請求項7】
モンモリロナイト族粘土鉱物またはその酸処理物からなり、且つSiO含量
が70乃至85重量%、Al含量が8乃至12重量%及び固体酸としてのルイス酸含量が0.08mmol/g以上の範囲にあることを特徴とするダイオキシン吸着剤。
【請求項8】
前記ダイオキシン吸着剤と、ルイス酸含量が0.075mmol/g以下の範囲にあり、SiO含量が77乃至90重量%、Al含量が5乃至10重量%の範囲にあり、BET比表面積が250m/g以上、細孔容積が0.25cm/g以上の範囲にあるモンモリロナイト族粘土鉱物の酸処理物とからなる燃焼排ガス処理剤。

【公開番号】特開2006−263587(P2006−263587A)
【公開日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−85659(P2005−85659)
【出願日】平成17年3月24日(2005.3.24)
【出願人】(505108373)水澤商事株式会社 (2)
【出願人】(000193601)水澤化学工業株式会社 (50)
【Fターム(参考)】