説明

物品の取り付け方法又は物品の取り付けを改善する方法

本開示は、第1の材料及び第2の材料を含む物品であって、気相堆積及び/又は反応により第1の材料と第2の材料の間に新たな及び接着性の1つ又は複数の固相を形成することで、第1の材料と第2の材料の間の取り付けが改善されるか又は作られる物品に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書の記載は、一般的には、切削工具インサート及び/又は1つ若しくは複数の超砥粒切削チップを有する工具、並びにこのような切削工具の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
機械加工、切削、切断又は穴あけの切削工具は、多くの場合、超硬合金又はセラミックス(例えば、Si34、TiC−Al23複合体)などの従来の材料を含む取り外し可能なインサートを備えている。図1は、ネジ又は他のクランプ機構によって切削工具ホルダー5にしっかりと保持及び固定されたインサートを表している。機械加工操作において、インサートはワークピースと接触して保持されそして最終的に交換を必要とする程度まですり減るので、これらのインサートは、機械切削工具システムの使い捨て部品である。
【0003】
ダイヤモンド、例えば多結晶ダイヤモンド(PCD)及び/又は立方晶窒化ホウ素、例えば多結晶立方晶窒化ホウ素(PCBN)を含有する超砥粒材料は、従来の材料に比べて向上した機械加工性能を提供し、また切削工具インサートとして広く用いられている。しかしながら、材料及び/又はコストのために、超砥粒材料の使用は多くの用途において実用的でない場合がある。したがって、高い材料及び/又は製造コストのために、超砥粒の使用、例えば、インサート又はドリルビットのチップ上の超砥粒の使用を低減するように製作技術が開発及び最適化されている。
【0004】
このような技術の1つは、図1に表される切削工具インサートの製造である。切削工具インサート1は、基材材料を含むインサート本体3と、超砥粒材料であることができる1つ又は複数の砥粒切れ刃を含む砥粒切削チップ2とを含むことができ、インサート本体3は、予備製造された超硬炭化タングステン、硬鋼又は金属材料から典型的に製作される。超砥粒切削チップ2は、ろう付けプロセスによってインサート本体3の角部、端部、中心又は周囲に取り付けることができるか、さもなければインサート本体3に接触して取り付けることができる。ろう付けは切削の力及び熱に耐えるのに十分な結合力を提供し、小さな砥粒切れ刃を取り付けるのに都合が良い。次いで、インサート1はクランプ4又はくさびによって切削工具ホルダー5に固定することができる。次いで、切削工具ホルダーは切削機にクランプ留め又はくさび留めされる。
【0005】
従来技術のろう付けプロセスでは超砥粒インサートを製造する材料コストが低減されるものの、プロセス、特にはろう付け操作自体は労働集約的であり、場合によっては費用がかかる。ろう付けプロセスは、操作者が接合界面すなわち砥粒切れ刃、ろう付け界面層及びインサート本体に細心の注意を払わなければならず、そして良好な位置精度と良好な結合を確実にするため必要に応じて溶融時に材料を再配置しなければならないので労働集約的である。インサート本体内の砥粒切れ刃の最終的な位置及びその取り付けの品質は、変動するろう付け金属のメルトフロー、付属物の湿潤力、及びこれらの流体力に耐えるようチップの位置を制御する必要性のために変化しうる。非湿潤性チップに関する溶融流体の毛細管力は、チップが例えばセラミックピンで保持されない限りチップを持ち上げそしてチップを「浮かせる」傾向がある。これは、チップの間に薄い金属層が見られる図3bにおいて明確に示される。
【0006】
金属溶融流体の性質とは、温度に応じて、溶融物が非常に低い粘度となりうるので、流体が非粘性となり、純粋な潤滑剤として作用するというものである。チップの保持はより困難になる。小さなインサートに、ドリルチップ上の位置に又はマルチチップ工具ホルダーに複数のチップを保持することは、不可能ではないにしても非常に困難な場合がある。実際、チップが互いに近い場合には、他の接合を溶融することなしにそれぞれを個々にろう付けすることは不可能な場合がある。このため、複数の小さなチップを小さな工具にろう付けすることは非常に困難である。溶融流体が滑りやすくなる場合には、特殊な固定方法がろう付け溶融の際にチップを保持するのに必要とされる。
【0007】
インサート本体、ドリルビット又は工具に1つ又は複数のチップをろう付けすることは高度な技能及び高度な技術操作である。このため、必然的にコスト、欠陥、検査が付加され、付刃工具の製造が遅くなる。
【0008】
ろう付けプロセスにおける別の困難は、異なる組成又は粒子サイズの切削工具材料では、異なるろう付け条件、すなわち温度、時間、ろう付け金属配合物が要求される場合が多いということである。加えて、異なるろう付け材料、例えば超硬合金のインサート本体に対する立方晶窒化ホウ素の切れ刃では、同じプロセスサイクルにおいて両方の材料を同時に結合することができる特殊なろう付け合金及び条件が要求される。PCBN及びPCDは、活性金属、例えばTi又はFeが金属の配合に含まれない限り、ろうで濡らすことが難しいことが知られている。このような活性金属は酸化感受性であり、結合を改善するのに不活性雰囲気又は真空炉の使用を必要とするか又は非常に速い誘導加熱ろう付けを必要とする場合がある。活性金属はまたより高い温度を必要とし、それは超砥粒材料の劣化をもたらす場合がある。
【0009】
ろう付け接合の品質は、ろう付け材料の溶融、流れ及び凝固に依存するので、温度における時間が重要である。プロセスが非常に長い時間にわたって高温であると、ろうは求められるよりもはるかに薄くなるか又は流れてしまう。これによって接合を妥協して貴重なろう付け金属を無駄にしてしまう。プロセスが冷たすぎる場合には、ろうは十分には流れず、接合中に空洞を残してしまう。プロセス時間が重要でない取り付けプロセスが有用であろう。
【0010】
PCBN及びPCDは非湿潤性チップであるので、流体力はより反発性であり、チップをよりろう−金属湿潤性の炭化物又は鋼材料から通常作製される工具ホルダーに引き込むよりはむしろ超砥粒チップを押し上げ及び押しのける傾向がある。
【0011】
従来のろう付けされたインサートのさらなる不利な点は、それらは一旦形成されると、以降の処理工程、例えば、インサートの化学気相成長(CVD)コーティングなどにおいてろう付け金属の昇華又は液相温度よりも高い温度に加熱することができないということである。ろう付け合金において用いられる低融点金属、例えばSn、Znは揮発性であるため、ろう付け後の熱処理によってろう付け結合が損なわれるか及び/又は真空部品が汚染される。加えて、ろう付けの際の熱膨張/収縮サイクルによって砥粒切れ刃又はインサート本体が損傷する可能性があり、ろう付けの温度及び時間を最小に保持することが必要とされる。場合によっては、ろう付けの欠陥を直すために切れ刃を再度ろう付けするか又は切れ刃を再研削することは不可能である。さらに、切削の際に切れ刃で生じた熱はろう付けによる取り付けにダメージを与える場合があり、特に取り付けが溶融可能な固体のみによって作られた場合には、切れ刃をホルダーにおいて移動させてしまう。これによって切削操作が中断してしまう。
【0012】
ろう付けの要件を除外する特殊な切削工具に関する幾つかの文献、例えば、「インサートのクランプ機構を備えた切削工具」と題した米国特許第5,829,924号、「使い捨て切削工具」と題した米国特許第4,909,677号、「使い捨て切削ドリルビット」と題した米国特許第5,154,550号、及び「精密溝加工のための切削工具システム」と題した米国特許第4,558,974号がある。これらの特許文献の教示では、インサートが操作中に切削工具ホルダーによってしっかりとつかまれることを確実にするために、インサート及び切削工具ホルダーの正確でかつ複雑な幾何学的形状に依存している。しかしながら、これらの文献では、切削工具ホルダーにインサートを保持するが、インサート本体自体の内部には砥粒切れ刃を保持しない機械的な手段が用いられている。
【0013】
ろう付けプロセスでは、同時に3つの部品、すなわち(1)1つ又は複数のチップ、(2)工具又はインサート、及び(3)ろう付け材料、例えばペースト、箔又はリボンを取り扱うことが要求される。ろう付け材料は、流体の付着力が接合においてろう付けを保持できるか又は保持できない溶融温度まで工具と1つ又は複数のチップとの間でしっかりと付着されなければならない。
【0014】
加えて、高熱の工具のろう付けに関するろう付け金属システムは、非酸化性の銀の相当量、ろう付け材料の最大80%を典型的に伴う。酸化物はろう付け金属の流れを害しそして接合を損なうことが知られている。銀は非常に高価である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
したがって、ろう付け溶融流体の毛細管力を制御するという問題なしに、超砥粒切削工具を製造するためのシステムに関するニーズがある。これにより、非金属湿潤性切削チップの金属湿潤性工具ホルダー材料への非接触の接着剤による取り付けが可能となる。
【課題を解決するための手段】
【0016】
実施態様は切削工具を含む。当該切削工具は、砥粒切れ刃と1つ又は複数の切れ刃が結合された材料とを含む。砥粒切れ刃は超砥粒材料を含むことができる。この砥粒切れ刃は非変形であることができる。砥粒切れ刃は、工具又は工具ホルダーを含む材料よりも高い硬度を有することができる。この材料は、インサート本体又は工具本体、ドリルビット、基材又は工具ホルダーであることができる。この材料は、以下の材料、すなわち鋼、金属、粉末状金属、炭化物、セラミック又はそれらの混合物のうち1つ又は複数を含むことができる。
【0017】
超砥粒チップ又は材料の工具本体への取り付けは、材料及び1つ又は複数の超砥粒チップの不完全に接触するガスアクセス可能な表面の間のギャップ及び/又はシームへの金属及び/又はセラミック前駆体の気相浸透(「CVD」としても知られる)によって達成及び/又は改善される。前駆体が堆積してギャップ及び/又はシームにおいて反応又は変化して1つ又は複数の固体の金属又はセラミック相を形成し、それら自体が工具ホルダー及び1つ又は複数の超砥粒チップに接着結合する。反応性ガスが固体に転化し、チップと材料の間のギャップ及び/又はシームを満たし、並びに1つ又は複数の切れ刃と材料ホルダーの間に新しい接着力を作り出す。形成された固体膜により、工具及び1つ又は複数のチップのすべてのガスアクセス可能な表面、例えば、亀裂、ひび、シーム、ギャップ及び接触領域がコーティングされる。これらのコーティング表面の間の距離がコーティング厚さの2分の1未満である場合には、固体セラミックの架橋結合が形成される。接着力によって1つ又は複数のチップを工具に保持するものがこの固体架橋結合である。
【0018】
結合は、セラミック又は金属の微結晶、多結晶又は単結晶であることができる。それは単一材料層又は多層を含むことができる。気相のCVD反応によって形成される固体結合の厚さは、電気伝導性を維持するよう薄く調整することができるか、又は粗く研削されるか若しくは切断された1つ又は複数の切削チップの取り付けを可能にするよう厚く調整することができる。
【0019】
固体の砥粒材料は耐火セラミックであることができ、したがって取り付けは従来のろう付けされた接合よりも高い温度に耐えることができる。本体は、結合を改善するために1つ又は複数の砥粒切れ刃を備えた特殊な幾何学的配置を有することができる。このように、流体相及び1つ又は複数のチップを移動させる流体相の毛細管力は存在しない。1つ又は複数のチップ又は材料ホルダーの濡れは重要ではない。取り付けの際に1つ又は複数のチップを保持、固定又は位置決めする必要はない。
【0020】
1つ又は複数の切れ刃と材料の間のギャップ及びシームの初期の取り付け又は作成は、圧入、締りばめ、熱収縮かん合、化学接着剤、例えばエポキシ、従来のはんだ、ろう付け金属、又は単に重力を含むことができる。工具のチップ表面は、シーム厚さを最小にし、したがって架橋結合を形成するのに必要とされるコーティング厚さを最小にするように研磨してもよい。種々のタイプの工具チップ材料、例えばセラミック、PCBN、ダイヤモンド又は炭化物は、特殊な接着を最適化するよう異なる固体膜を必要とする場合がある。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】旋削のための切削工具配置の一例の上面図及び側面図である。
【図2】取り付け強度の測定方法の描写である。
【図3】ろう付け及び研削前後のインサートの写真であり、インサートの主要部分、すなわち鋼工具材料(3)又はインサート本体、PCBN切削チップ(7)の炭化物支持体(6)を示している。
【図4】切削チップの鋼と炭化物部分の間に新規のセラミックが存在すること、及びPCBNと鋼の間に新規のセラミックが存在しないことを示すTiNセラミックのCVD気相堆積後のインサートの一連の3つの写真である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本明細書で用いられる場合には、「インサート」という用語は、ダイ又は切削工具上の位置に機械的に保持されるか、ろう付けされるか、はんだ付けされるか又は溶接され、擦り切れた場合には捨てられそしてそれらの場所に別のものが取り付けられる超砥粒、セラミック及び/又は炭化物(例えば炭化タングステン)又は別の切削材料のピースを言うものである。例が図1に示され、インサート1はインサート本体3と砥粒切れ刃2を含む。また、A Dictionary of Machining(Eric N.Simmons,Philosophical Library,New York,1972)を参照されたい。
【0023】
本明細書で用いられる場合には、「切削工具ホルダー」という用語は、旋削、転削、中ぐり、切削又は穴あけ用途において利用することができるように所定の場所にしっかりと1つ又は複数のインサートを保持する硬質本体を言うものである(例えば図1を参照)。
【0024】
本発明は、一般的に砥粒切れ刃2とインサート本体3を含むインサート1に関する。とりわけ、インサート1は、砥粒切れ刃2の一部上でインサート成形される材料を含む。
【0025】
当技術分野で周知の焼結技術によって砥粒切れ刃2を製造することができる。砥粒切れ刃2は、機械加工、切削、又は穴あけ用途において使用できる任意の材料を含むことができ、限定されないが、炭化物、セラミックス又は超砥粒、例えば、窒化ケイ素、炭化ケイ素、炭化ホウ素、炭化チタン−アルミナセラミックス、例えば、炭化チタン、溶融酸化アルミニウム、セラミック酸化アルミニウム、熱処理された酸化アルミニウム、アルミナジルコニア、酸化鉄、炭化タンタル、酸化セリウム、ガーネット、超硬合金(例えばWC−Co)、合成及び天然ダイヤモンド、酸化ジルコニウム、立方晶窒化ホウ素、これらの材料の積層体、それらの混合物及び複合材料を含むことができる。これらの材料は、単結晶又は焼結された多結晶本体の形態であることができる。一般的に、砥粒切れ刃は、ワークピース材料よりも変形可能ではなく(より硬く)又はより耐摩耗性であり及び材料又はインサート本体よりも耐摩耗性である任意の材料であることができる。
【0026】
本発明の1つの実施態様では、砥粒切れ刃2はインサート本体3と同様の厚さを有することができる。この組み合わせにより、砥粒切れ刃からの上部及び底部の切れ刃の使用が可能となる。厚い切れ刃は、単結晶、焼結多結晶本体、又は組立体の上層及び下層上に砥粒材料を備えた積層体本体の形態であることができる。
【0027】
多結晶ダイヤモンド(PCD)又は多結晶立方晶窒化ホウ素(PCBN)を含む砥粒成形体又はブランクは、ダイヤモンド・イノベーションズ社を含む複数の供給元から、それぞれCOMPAX(登録商標)及びBZN(登録商標)の商標名で商業的に入手可能である。PCD及びPCBN成形体は、自己結合することができるか又は約5〜約80体積%の適切な結合マトリクスを含むことができる。結合マトリクスは、コバルト、鉄、ニッケル、白金、チタン、クロム、タンタル、銅、それらの合金若しくは混合物などの金属、及び/又はそれらの炭化物、ホウ化物、窒化物若しくは混合物であることができる。マトリクスは、追加として再結晶化又は成長触媒、例えばCBNに関してアルミニウム又はダイヤモンドに関してコバルトを含有することができる。
【0028】
成形体は、約1〜約15mmの厚さを有するPCBNディスクであることができる。別の実施態様では、PCBN成形体は、約1.6〜約6.4mmの厚さを有することができる。成形体の形成は、当技術分野で公知のプロセス、例えば、放電加工(EDM)、放電研削(EDG)、レーザー、プラズマ及びウォータージェットによって行うことができる。切断されるピースの形状は、厳しい精度を維持するために予め決定してコンピュータ制御することができる。
【0029】
1つの実施態様では、PCBNブランクは、砥粒ウォータージェットの手段によりある形状に成形することができる。本発明の別の実施態様では、PCBNブランクは、所定のコンピュータ制御されたパターンに従って表面上の選択された位置でレーザーエッチングすることができ、例えば、2つの辺が約5.0mmの切れ刃長さを有する約80°の三角形を形成し、残りの真っ直ぐな辺がインサート本体における嵌め合いの特徴を備えた以降の連結のためのジグザグ形状を形成した多角形を形成する。
【0030】
1つの実施態様では、砥粒切れ刃は、任意の参考平面において約20°〜約90°の角度を有する長さ「a」が約0.5mm〜約25.4mmの切れ刃を有することができる。第2の実施態様では、砥粒切れ刃は約0.5mm〜約7mmの厚さであることができる。砥粒切れ刃は、円、楕円、八角形、六角形、部分的若しくは完全なリング形状、又は切削工具において用いられる任意の形状若しくはサイズであることができる。
【0031】
CVD処理の前に、表面の予備洗浄が必要とされる場合がある。非結合酸化物及び炭素汚染物質の除去は、酸化又は水素還元によって典型的に行われる。
【0032】
1つ又は複数の切れ刃は、幾つかの方法によって工具保持材料に取り付けられる。次いで、1つ又は複数の切削工具はCVD(化学気相成長)反応容器に配置され、空気が不活性種と反応性種の両方を含むガスによって除去及び置換される。金属の堆積は、金属カルボニル又は金属−アセタール−アセトネート、例えば鉄ペンタカルボニルを含むガスを使用することができる。セラミック堆積の前駆体は、TiCl4、NH3、CH4、AlCl3、(CH33Alなど又はそれらの混合物を含むことができる。ガスは拡散によってギャップ、シーム、接触空間に浸透し、設備の外部又は内部においてガスがアクセス可能な任意の及びすべての加熱固体表面に堆積する。表面上で凝縮した後、凝縮相が化学的に反応して新たな固相を形成する。例えば、TiCl4+NH3→TiC固体+気相HClである。この固相は、化学親和力に応じて固体表面に接着結合する。固相の品質(結晶完全性、密度)は、温度及び凝縮される1つ又は複数の固体表面に対する親和性に左右される。新たな固相を形成するための浸透、凝縮及び反応のプロセスは、表面が新たな固相で覆われるか又はコーティングされるまで続けられ、そして反応が停止される。
【0033】
ガスのアクセス性は、温度及び圧力に依存するガスの拡散によって決定される。より低い圧力では、反応性ガスが工具組立体のシーム及びギャップにより深く拡散することができる。ガス拡散、反応及び固体を形成する凝固速度は、狭いギャップ及びシームの早期の「閉塞」、したがって膜接触領域及び接合強度の低減を防ぐよう制御されなければならない。これは、温度の低下、又は反応体の気相分圧の調整を典型的に必要とする。最終的には、形成される膜の品質、その結晶性、及び結晶方位は温度及び時間に依存している。膜が形成されそして急激に冷却された場合には、不十分な品質及び膜内部又は膜−チップ若しくは膜−工具界面において亀裂が生じる場合がある。
【0034】
気相前駆体が、反応器における配向に関係なく無差別に固体表面と反応することが重要である。いわゆる「視線」堆積プロセス、例えばPVDは、気相前駆体がギャップ及びシームに浸透せず、したがって接着領域及び接着強度が相当に低減するのであまり有効ではない。
【0035】
さらに、非視線CVDコーティングは、均一なコーティングを形成するために工具を何度もひっくり返して処理する必要がない。CVDによって1つの炉サイクルにおいてガスがアクセス可能な表面のすべてがコーティングされる。
【0036】
CVDであるとも考えられる気相反応は、任意のガス−固体反応、例えば酸化、水和又は炭化を含む。固体成分は、まず表面上に吸着し、次いで反応及び結晶化することができ、反応及び結晶化の前に固体−表面張力によって表面の上に形成しそして堆積することができる。
【0037】
CVD後処理、例えばアニーリングを、膜又は膜−チップ/膜−工具の接着の品質を改善するために行うことができる。
【0038】
この「気相」又は「乾燥ろう付け」プロセスの堆積におけるカギとなるプロセス変数としては、反応器の温度及び圧力、並びに凝縮及び反応が生じることになる初期の固体表面の清浄度及び状態が挙げられる。反応器の温度は約200℃〜約2000℃であることができ、圧力は約100Pa〜約150Paであることができる。使用できる反応器としては、限定されないが、CVD反応器、マイクロ波CVD(MWCVD)反応器、プラズマCVD(PECVD)反応器及び他の気相プロセスが挙げられる。
【0039】
気相堆積プロセスにおいて新たな力はなく、したがって1つ又は複数の切れ刃が切削工具又は工具インサートの材料に関して移動することはない。ギャップ及びシームが満たされ及び架橋されると、プロセスは有効に停止する。固体材料は外表面に継続して蓄積する。
【0040】
砥粒切れ刃は、従来、軟性体、例えば焼結炭化タングステンに結合された硬質層、例えば焼結ダイヤモンドを含む。しかしながら、それは硬質材料の単一層又は異なる材料の多層、例えば硬質ダイヤモンド層及び/又は炭化物層に結合された純粋な金属若しくは純粋なセラミック層を含んでもよい。これらの層は、断熱材、(ダイヤモンドのコストを低減するための)空間充填剤、及び摩擦防止層又はろう付け層として機能することができる。
【0041】
旋削、転削、中ぐり、切断、及び穴あけ用途において使用するための種々の切削工具ホルダーに取り付けることができる任意の種々の形状、サイズ、又は厚さのインサートを作ることができる。本発明の結合インサートは、複数の砥粒切れ刃(インサート形状によってのみ限定される)を含むことができ、外部のクランプ、本体くさび、又は固定拘束物を必要としない場合がある。
【0042】
超砥粒切れ刃を含む切削工具には、種々のサイズ及び形状があり、例えば、中ぐり工具、リーマ、及びドリル、並びに転削工具がある。
【0043】
超砥粒材料の同様の材料への結合、例えばPCBNのPCBNへの結合、炭化物の炭化物又は他の材料への結合は、「乾燥ろう付け」プロセスによって達成できることも見出された。
【0044】
以下の例は、本発明の教示に寄与する研究の典型例に過ぎず、本発明は以下の例によって限定されるものではない。
【実施例】
【0045】
[例1]
WC/Co層に結合したPCBNを含む焼結ブランクから精密切断されたBZN6000チップを精密切断された硬質のA2鋼本体にプレスすることにより、PCBNグレードBZN6000を含むインサートSNGA43を製作した。チップの取り付け強度は、チップがポケットから押し出されるまでチップに押し付け(図2を参照)、必要とされる最大力を観測することによって測定した。測定された強度は46、35及び191ポンドの力であった。凹凸及び表面汚染物質による寸法の不正確さが、ばらつきがあるが適切な取り付け強度をもたらすことは、EDM切断された表面に関する圧入の特性である。
【0046】
取り付け強度を改善するために、例1からの同じインサートを空気中500℃で12時間にわたり加熱オーブンに置いた。これにより、組み立てられたインサート中のギャップ又はシームの開口を熱膨張させ、高温の酸素ガスにさらし、続いて鋼及び炭化物の表面を酸化して、炭化物上のW又はCo酸化物に対して新たな固相の鉄酸化物、鉄水酸化物を形成する。インサートの質量の増加はほぼ0.9%であり、全体として鋼の酸化に起因するものである。精密マイクロメーターにより、鋼本体全体の外表面のサイズの増加はほぼ0.020mmであることが示される。この同じ新たな固体膜はまた、熱膨張によって形成された鋼とチップの間のギャップであって、最初の圧入操作において生じなかった凹凸間のギャップに形成される。これら新たな酸化物相は炭化物と鋼の両方に接着し、したがって締りばめ又は圧入から得られた強度が増す。新たな固相を効率的に冷却することで、低膨張PCBNと高膨張鋼との間の締りばめが向上し、したがって取り付けが改善される。最後に、新たな酸化物がギャップを満たし、チップと鋼本体の接触面積が増加する。測定強度は368、478、365ポンドであり、ほぼ4倍の増加であり、取り付けのばらつきも減少した。
【0047】
[例2]
精密切断されたチップを硬鋼の精密切断されたポケットにプレスすることにより、PCBNグレードHTMを有するDNGA43インサートを製作した。取り付けは押し出し試験により測定し、押し出し方向における軸方向応力に対する抵抗性を試験し、254、279ポンドであった。空気中600℃で6時間にわたる酸化により、取り付け強度が421、424ポンドまで増加した(押し出し試験の測定)。より大きなチップを有する場合には、Dインサートは、取り付け強度に対する酸化の利益が増すことを示す。
【0048】
[例3]
圧入により組み立てられたDNG43インサートを850℃の炉内でCuAgによりろう付けし、次いですべての面を研削し、面取りしてDNG432切削インサートを形成した。研削力によりいずれの切削チップも動くことなく又は外れることもなかった。取り付けは押し出し試験によって測定され、ろう付けされそして研削されたインサートのチップ取り付け強度は190、224及び57ポンドであり、平均が157ポンドであった。例2からの圧入組立ての酸化されたDNG43インサートをすべての面について研削し、面取りしてDNG432切削インサートを形成した。これらのインサートをCVD反応器において、TiCl4、CH4、NH3、AlCl3ガス及び酸素を用いて1000℃で処理し、TiN、TiC、TiCN及び酸化アルミニウムを含む複数の固相を形成した。取り付けは押し出し試験により測定し、CVD乾燥ろう付け後のチップ取り付け強度が130ポンド、112ポンド、180ポンド及び159ポンドであり、平均が145ポンドであることがわかった。CVD気相ろう付けからのチップ取り付け強度は、溶融金属の従来の炉内ろう付けと同じくらい良好であった。
【0049】
[例4]
PCBNグレードHTMチップを精密切断された特大の炭化物ポケットに入れてCNMA43切削工具インサートを形成した。ポケットは、チップと工具本体の間に機械的なインターロックを作るために松の木のような形状にした。チップと炭化物ポケットの間のギャップは接触領域の大部分について0.020mm未満であった。組み立てられたインサートを金属トレイに入れ、CVD反応炉サイクルにおいて1000℃で処理し、反応体ガスTiCl4、H2及びCH4を入れて、インサート組立体、PCBN及び炭化物のすべての表面に接着性セラミック膜を形成した。チップと工具本体の表面の間のギャップが0.020mm未満である場合には、コーティングが広がりギャップを架橋することができ、したがって固体結合を形成した。これらの「乾燥ろう付けされた」インサートを研削してCNGA432の0.004インチ×30度面取り、0.001インチのホーンを製作し、656sfpm(標準フィート/分)、0.010インチの切削深さ、0.007インチipr、HRC61 8620鋼の乾燥OD旋削での高硬度旋削において試験した。インサートは、チップの移動又は破損はなかった。
【0050】
[例5]
炭化物上にHTM PCBNの小さな5mmピースを炭化物から炭化物へ互いの上部にセットし、例4と同様にCVD反応器に入れた。これらの小部品を互いに十分に結合させ、それらをある程度研削できるようにした。炭化物をこのCVD乾燥ろう付けセラミック膜プロセスによって炭化物に結合することができる。研磨は必要とされない。
【0051】
[例6]
上記と同じCVD反応器サイクルにおいて、炭化物上に12mm正方形のHTM PCBNを炭化物から炭化物へ互いの上部に配置した。これらの部品を互いに結合し、それは外周研削に耐えた。しかしながら、上部/底部の研削で、インサートは曲げ亀裂を示した。結合セラミック膜の浸透は4mmしか観測されなかった。反応体ガスによるギャップの完全な浸透の欠如により接合中にギャップが残り、上部/底部の研削で炭化物部品が離脱し、それらに亀裂が生じた。
【0052】
[例7]
HTM PCBNの小さな三角形を0.002mm未満の滑らかさに研磨し、研削したアルミナ酸化物のウェハ上に置き、上記と同じCVD反応器サイクルで処理した。サイクル後、気相がアクセス可能なすべての表面を、白酸化アルミニウムを除いて、接着性セラミック膜でコーティングした。したがって、アルミナと接触しているチップはすぐにバラバラになり、セラミック膜の酸化アルミニウムへの接着による架橋結合の形成がないことを確認し、アルミナと炭化物の接合は形成しなかった。
【0053】
上で開示された並びに他の特徴及び機能の幾つか又はそれらの代替の態様は、望ましくは他の多くの異なるシステム又は適用において組み合わせることができることが理解されるであろう。また、現在予測又は予期できない種々の代替の態様、変更、変形又は改良が今後、当業者によってなされることができ、それらは特許請求の範囲によって包含されるよう意図される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
a.1つ又は複数の切れ刃又は形削り刃、及び
b.工具保持材料
を含む切削又は形削り工具であって、気相堆積及び/又は反応により1つ又は複数の切れ刃と工具保持材料の間に新たな及び接着性の1つ又は複数の固相を形成することで、1つ又は複数の切れ刃と工具保持材料の間の取り付けが改善されるか又は作られる、切削又は形削り工具。
【請求項2】
前記材料が切削工具のインサート本体又はドリル本体である、請求項1に記載の切削工具。
【請求項3】
切削工具がリーマ、ドリル又は他の工具である、請求項1に記載の切削工具。
【請求項4】
切削工具の1つ又は複数の切れ刃が、インサート本体からチップを取り外すよう設計され、したがって本体を溶融、軟化又は劣化するようには設計されていない、請求項1に記載の切削工具。
【請求項5】
1つ又は複数の切れ刃が、気相堆積及び反応プロセスの前、その間又はその後にコーティングされ、1つ又は複数の切れ刃と工具保持材料の間に質量又は体積の新たな相が作り出され、工具保持材料に対する接着結合の改善が行われる、請求項1に記載の切削工具。
【請求項6】
切れ刃が本体を含む材料よりも高い硬度を有する、請求項1に記載の切削工具。
【請求項7】
1つ又は複数の切れ刃の工具保持材料への取り付けが、CVD、MW−CVD、PE−CVD又は他の気相プロセスによって改善又は達成され、1つ又は複数の切れ刃と工具保持材料の間に流体相の中間物又は毛細管力がないようにされた、請求項1に記載の切削工具。
【請求項8】
切れ刃を用意する工程、
インサート及び/又は工具本体を形成するための材料を用意する工程、並びに
1つ又は複数の切れ刃とインサート本体材料の間の固体のCVD堆積により、1つ又は複数の切れ刃を、インサート本体を形成する材料に取り付け又はその取り付けを改善する工程
を含む、切削工具を形成する方法。
【請求項9】
前記材料が切削工具のインサート本体又はドリル本体である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
切削工具がリーマ、ドリル又は他の工具である、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
切削工具の1つ又は複数の切れ刃が、インサート本体からチップを取り外すよう設計され、したがって本体を溶融、軟化又は劣化するようには設計されていない、請求項8に記載の切削工具。
【請求項12】
切れ刃が本体を含む材料よりも高い硬度を有する、請求項8に記載の方法。
【請求項13】
1つ又は複数の切れ刃のインサート及び/又は工具本体への取り付けがCVD堆積によって改善又は達成され、1つ又は複数の切れ刃とインサート及び/又は工具本体の間に流体相の中間物又は毛細管力がないようにされた、請求項8に記載の方法。
【請求項14】
1つ又は複数の切れ刃と工具保持材料を接着結合するか又はその結合を改善するのに用いられる同じCVDプロセスにより、インサート本体、及び切削工具又はインサート上のすべての固体表面をコーティングする工程をさらに含む、請求項8に記載の方法。
【請求項15】
切削工具インサートを研削する工程をさらに含む、請求項8に記載の方法。
【請求項16】
a.第1の材料、及び
b.第2の材料
を含む物品であって、気相堆積及び/又は反応により第1の材料と第2の材料の間に新たな及び接着性の1つ又は複数の固相を形成することで、第1の材料と第2の材料の間の取り付けが改善されるか又は作られる、物品。
【請求項17】
第1の材料のエッジが、気相堆積及び反応プロセスの前、その間又はその後にコーティングされ、1つ又は複数のエッジと第2の材料の間に質量又は体積の新たな相が作り出され、工具保持材料に対する接着結合の改善が行われる、請求項16に記載の物品。
【請求項18】
第1の材料の第2の材料への取り付けが、CVD、MW−CVD、PE−CVD又は他の気相プロセスによって改善又は達成され、第1の材料と第2の材料の間に流体相の中間物又は毛細管力がないようにされた、請求項16に記載の切削工具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2012−525274(P2012−525274A)
【公表日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−508639(P2012−508639)
【出願日】平成22年4月28日(2010.4.28)
【国際出願番号】PCT/US2010/032752
【国際公開番号】WO2010/126997
【国際公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【出願人】(504462548)ダイヤモンド イノベイションズ インコーポレーテッド (12)
【Fターム(参考)】