説明

田植機における苗植付け機構

【課題】分割爪を備えて上下に往復動する苗植ケースに,前記分割爪の長手方向に延びる押し出し軸を,その軸線方向に摺動自在に軸支して設けて,この押し出し軸における前記苗植ケースからの突出端に,前記分割爪にて分割した苗に対する押し出し片を設けた苗植付け機構において,前記苗植ケース内における潤滑剤が漏れ出すこと、及び圃場面の泥水が苗植ケース内に進入することを防止する。
【解決手段】苗植ケース18の押し出し軸25が突出する部分に、ゴム等の軟質弾性体製のシール体37を装填し、このシール体の一端部に、内周面が前記押し出し軸の外周面に対して接触する円錐状の内向きリップ片38を、前記シール体の他端部に、内周面が前記押し出し軸の外周面に対して接触する円錐状の外向きリップ片39,40を各々一体に設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,田植機において,苗載台上における苗マットから苗を一株ずつ分割し,この苗を圃場面に対して植付けるための苗植付け機構に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に,この種の苗植付け機構は,圃場面に対して上下方向に往復動する苗植ケースの先端部に,苗載台の方向に突出する分割爪を設けて,前記苗植ケースの圃場面に向かう下降動の途中において,前記分割爪の先端が前記苗載台を通過することによって,前記苗載台上における苗マットから一株の苗を分割し,次いで,前記分割爪の先端部が圃場面に進入することによって,前記一株の苗を圃場面に植付けるものである。
【0003】
この場合,従来の苗植付け機構においては,例えば,特許文献1等に記載されているように,前記苗植ケースに,前記分割爪の長手方向に延びる押し出し軸を,その軸線方向に摺動自在に軸支して設けて,この押し出し軸における前記苗植ケースからの突出端に,前記分割爪にて分割した苗に対する押し出し片を設ける一方,前記押し出し軸を、前記苗植ケースにおける往復動のうち下降行程の略下死点の時期において前記分割爪の先端に向かって前進動し、その往復動のうち下降行程の下死点を越えて上昇行程に移行した時期において後退動するように構成している。
【0004】
この構成によると,前記苗植ケースにおける分割爪の先端部が,その下降行程において,苗載台から一株の苗を分割し,この一株の苗を保持した状態で圃場面に進入した時期に,前記押し出し軸が前進動することにより,前記一株の苗を強制的に押し出すことになるから,苗の植付けの確実性を向上できるとともに,植付け姿勢の安定化を図ることができる。
【0005】
この場合、従来の苗植付け機構においては、前記苗植ケースのうち前記押し出し軸が突出する部分に、苗植ケース内における潤滑剤の漏れを阻止するための潤滑剤用シールリング体と、圃場における泥水が苗植ケース内に進入することを阻止するための泥水用シールリング体とを、潤滑剤用シールリング体を内側に泥水用シールリング体を外側に各々位置するようにして装填するという構成にしている。
【特許文献1】特開2000−139146号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、このように、前記苗植ケースのうち前記押し出し軸が突出する部分に、二つのシールリング体、つまり、潤滑剤用シールリング体及び泥水用シールリング体を装填することは、これだけ部品点数及び組み立てに要する手数が増大するという問題がある。
【0007】
しかも、前記苗植ケースのうち前記押し出し軸が突出する部分に、二つのシールリング体を装填するための寸法を確保することが必要であり、この分だけ、前記苗植ケースに取付けた分割爪のうち前記苗植ケースからの突出寸法を短くしなければならず、換言すると、分割爪の先端から苗植ケースまでのいわゆる懐寸法が小さくなるから、圃場面に対して苗を植付けるときに、前記苗植ケースの一部が泥水に漬かることになり、苗植ケース内へ泥水が進入するおそれが増大するばかりか、前記分割爪の先端部が苗載台を通過するとき、前記苗植ケースの一部が苗載台に接触して破損するおそれが増大する。
【0008】
この場合,前記分割爪における懐寸法を大きくするには、前記分割爪を苗植ケースから長く突出するように構成すれば良いが、このように構成することは、苗植付け機構の大型化を招来することになる。
【0009】
本発明は,これらの問題を、苗植付け機構を大型化を招来することなく、解消することを技術的課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この技術的課題を達成するため本発明の請求項1は,
「分割爪を備えて苗載台と圃場面との間を上下に往復動する苗植ケースに,前記分割爪の長手方向に延びる押し出し軸を,その軸線方向に摺動自在に軸支して設けて,この押し出し軸における前記苗植ケースからの突出端に,前記分割爪にて分割した苗に対する押し出し片を設ける一方,前記押し出し軸を、前記苗植ケースにおける往復動のうち下降行程の略下死点の時期において前記分割爪の先端に向かって前進動し、その往復動のうち下降行程の下死点を越えて上昇行程に移行する時期において後退動するように構成して成る苗植付け機構において,
前記苗植ケースのうち前記押し出し軸が突出する部分に、ゴム等の軟質弾性体にてリング状に構成したシール体を、前記押し出し軸に被嵌するように装填し、このシール体のうち苗植ケース内側への一端部に、内周面を前記押し出し軸の外周面に対して接触するように苗植ケース内に向かって内窄まりの円錐状にした内向きリップ片を、前記シール体のうち苗植ケース外側への他端部に、内周面を前記押し出し軸の外周面に対して接触するように苗植ケース外に向かって内窄まりの円錐状にした外向きリップ片を各々一体に設ける。」
ことを特徴としている。
【0011】
また,本発明の請求項2は,
「前記請求項1の記載において,前記外向きリップ片を、前記押し出し軸の軸線方向に並べて設けた複数個のリップ片にする。」
ことを特徴としている。
【0012】
更にまた、本発明の請求項3は,
「前記請求項1又は2の記載において、前記内向きリップ片における高さ方向の途中における外周面を、前記苗植ケースに接当して支持する。」
ことを特徴としている。
【発明の効果】
【0013】
この構成において、押し出し軸には、軟質弾性体製のシール体に一体に設けた内向きリップ片と、外向きリップ片との両方が接触していることにより、前記苗植ケース内に充填されている潤滑用グリス等の潤滑剤が漏れ出すことを、前記内向きリップ片によって確実に防止できる一方、圃場面において泥水が苗植ケース内に進入することを、前記外向きリップ片によって確実に防止することができる。
【0014】
従って、本発明によると、苗植ケースのうち押し出し軸が突出する部分に一つのシール体を装着するだけで良いから、従来に比べて、部品点数及び組み立てに要する手数を大幅に低減でき、しかも、前記分割爪の先端から苗植ケースまでの懐寸法を、苗植付け機構の大型化を招来することなく、従来の場合によりも大きくできる。
【0015】
また、請求項2に記載した構成によると、泥水の進入を複数個の外向きリップ片にて阻止できるから、泥水に対するシール性をより向上できる。
【0016】
更にまた、請求項3にした構成によると、内向きリップ片における押し出し軸に対する押圧力を増大できるから、潤滑剤に対するシール性をより向上できるととも、シール体における耐久性を向上できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態を、乗用型の多条植え田植機に適用した場合の図面について説明する。
【0018】
図において,符号1は,8条植えの乗用型田植機を示し,この田植機1は,左右一対の前輪3及び後輪4にて支持された走行機体2と,この走行機体2の後部に昇降可能に装着した苗植装置5とを備えて,前記走行機体2には,エンジン6が搭載されるとともに,操縦座席7が設けられている。
【0019】
前記苗植装置5は,前記エンジン6から動力伝達される伝動ケース8と,この伝動ケース8に横方向に適宜の条間隔で並列に配設した8個のロータリー式苗植付け機構9と,左右往復移動するように後方下向き傾斜配設された苗載台10と,前記各苗植付け機構9の間において圃場面11の表面を滑走するように配設した複数個のフロート12とによって構成されている。
【0020】
前記各苗植付け機構9は,図3〜図6に示すように構成されている。
【0021】
すなわち,前記伝動ケース8に水平横向きにして軸支され,且つ,前記エンジン6から動力される駆動軸13を備えて,この駆動軸13のうち前記伝動ケース8から突出する部分には,側面視小判型の回転ケース14を着脱可能に固着して,この回転ケース14を,前記駆動軸13によって田植機1の側面視において矢印Aで示すように,反時計方向に回転するもので,この回転ケース14内における前記駆動軸13上には,太陽歯車15が回転自在に被嵌され,該太陽歯車15は,前記伝動ケース8に対して連結部材35を介して回転不能に係止されている。
【0022】
前記回転ケース14の外周部,つまり,左右両端部には,前記駆動軸13からの距離が等しい位置に,後述する押し出し具用の作動軸16が駆動軸13と平行に軸支されている。また,前記回転ケース14内における両作動軸16上には,中空状の植付け軸17が回転自在に被嵌されている。
【0023】
この植付け軸17及び前記作動軸16の各端部を回転ケース14の側面から外に突出して,この各植付け軸17の突出端の各々に,アルミ合金等の軽合金にて上面に開放するように中空状にした苗植ケース18をボルト19にて取付け,この各苗植ケース18の先端におけるボス部18aには,分割爪20が前記苗載台10に向かう姿勢位置にして固着されている一方,前記作動軸16の先端は,前記苗植ケース18の中空部内に突出して,この部分に,押し出し作動用のカム21が固着されており,前記苗植ケース18の上面には,当該苗植ケース18内を密封するための蓋体33が取付けられている。
【0024】
そして,前記各植付け軸17上には,前記太陽歯車15と同歯数の遊星歯車22が嵌着されている一方,前記回転ケース14内には,前記太陽歯車15と前記遊星歯車22とに同時に噛合する中間歯車23を設けて,歯車列機構を構成して,この歯車列機構にて,前記回転ケース14における反時計方向の一回転中に,前記各植付け軸17を時計方向に一回転することにより,前記各苗植ケース18を,その分割爪20が苗載台10に向かう姿勢を保持した状態で,前記苗載台10と圃場面11との間を往復動するように構成している。
【0025】
この場合,前記歯車機構を構成する前記太陽歯車15,前記遊星歯車22及び前記中間歯車23を例えば特公昭63−20486号公報及び特開昭63−74413号公報等に記載されているように偏芯歯車等の非円形歯車に構成することにより,前記各苗植ケース18における分割爪20の先端が,図3に図示したように,上下方向に長い楕円状閉ループの運動軌跡24を描くように構成している。
【0026】
前記各苗植ケース18におけるボス部18aには,その分割爪20の長手方向と平行に延びる押し出し軸25が,その軸線方向に摺動自在に貫通するように設けられ,その下端には断面U字状にした押し出し片26が,前記分割爪20の後面に近接するように固定されており,前記押し出し軸25の上端は苗植ケース18内に突出され,この押し出し軸25の上端に,前記苗植ケース18内に上下方向に揺動回動するようにピン27にて枢着して成る押し出しレバー28の先端が,当該押し出しレバー28における下向き回動により前記押し出し軸25が分割爪20の先端部に向かう方向に前進動し,当該押し出しレバー28における上向き回動により前記押し出し軸25が分割爪20の先端部から根元部の方向に後退動するように,連結片34を介して連結されている。
【0027】
また,前記苗植ケース18内には,前記押し出しレバー28を下向き方向に付勢するばね手段29が,前記押し出しレバー28と蓋体33との間に設けられている一方,前記押し出しレバー28における基端を,前記押し出し作動用カム21の外周面に接当することにより,前記回転ケース14の回転に連動して,前記各苗植ケース18における分割爪20の先端が回転ケース14の回転に伴ってその往復動のうち下降下限における下死点の近傍に来たとき,前記押し出しレバー28が前記ばね手段29の押圧付勢によって下向きに回動し,各苗植ケース18が回転ケース14の回転に伴ってその往復動のうち下死点から上昇動するとき,前記押し出しレバー28が前記ばね手段29に抗して上向きに回動するように構成している。
【0028】
更にまた、前記苗植ケース18における底面板18bには,苗植ケース18内に突出するボス部31を一体的に設け,このボス部31内に,ゴム等の軟質弾性体32を,着脱可能に装填して,この軟質弾性体32の上面に,前記押し出しレバー28がその下向き回動の終端において接当するように構成する。
【0029】
そして、前記苗植ケース18のうち、前記押し出し軸25が貫通するボス部18a内には、前記押し出し軸25に対する軸受けメタル36と、耐油性ゴム等の軟質弾性体にリング状に構成したシール体37とが、前記押し出し軸25に被嵌して装着されている。
【0030】
前記シール体37のうち苗植ケース18内側への一端部には、図6に示すように、苗植ケース内に向かって内窄まりの円錐状にした内向きリップ片38を一体に設けて,この内向きリップ片38の内周面を前記押し出し軸25の外周面に対して接触するように構成する。
【0031】
この場合、前記内向きリップ片38の内周面には、押し出し軸25に対して接触する複数本のリング状突起38a,38bが設けられており、しかも、この内向きリップ片38における高さ方向の途中における外周面は、前記苗植ケース18におけるボス部18aに接当して支持されている。
【0032】
一方、前記シール体37のうち苗植ケース18外側への他端部には、図6に示すように、内周面を前記押し出し軸の外周面に対して接触するように苗植ケース18外に向かって内窄まりの円錐状にした第1の外向きリップ片39と、第2の外向きリップ片40とを一体に設けて、これら各外向きリップ片39,40の内周面を前記押し出し軸25の外周面に対して接触するように構成する。
【0033】
この場合、前記第1の外向きリップ片39の内周面には、押し出し軸25に対して接触する複数本のリング状突起39a,39bが設けられている。
【0034】
この構成において,回転ケース14の矢印A方向への公転回転に伴って,その公転の回転角度と同じ回転角度だけ矢印A方向とは逆向きの方向に植付け軸17を中心として苗植ケース18が自転するから,各苗植ケース18は,その分割爪20が苗載台10の方向を向いた状態で上下方向に往復動するように旋回運動することになり,この旋回運動中において,苗載台10の上面に面する側において上から下に下降するとき,先端の分割爪20にて苗載台10上の苗マット30から苗を一株だけ分割したのち,この一株の苗を,その下降下限の下死点近傍において分割爪20の先端が圃場面11中に進入する。
【0035】
このとき,前記苗植ケース18内における押し出しレバー28が,ばね手段29のはね力にて下向きに回動することにより,押し出し片26が分割爪20の先端に向かって前進動するから,前記分割爪20の先端における一株の苗は,押し出されるようにして圃場面11に植付けられる。
【0036】
この苗の植付けが終わると,分割爪20は,圃場面11より上昇動する。この上昇動と同時に,前記押し出しレバー28が,ばね手段29に抗して上向きに回動することにより,前記押し出し片26は,分割爪20の先端から根元部の方向に後退動する。
【0037】
そして,前記したように往復動する押し出し軸25には、軟質弾性体製のシール体37に一体に設けた内向きリップ片38と、外向きリップ片39,40との両方が接触していることにより、前記苗植ケース18内に充填されている潤滑用グリス等の潤滑剤が漏れ出すことを、前記内向きリップ片38によって確実に防止できる一方、圃場面における泥水が苗植ケース18内に進入することを、前記外向きリップ片39,40によって確実に防止することができる。
【0038】
つまり、前記した一つのシール体37にて、潤滑剤と泥水との両方に対するシール性を確保できるから、部品点数及び組み立てに要する手数を低減できるとともに、前記分割爪の先端から苗植ケースまでの懐寸法Lを、苗植ケース18の回転中心から分割爪20における先端までの長さ寸法Sを増大することなく、ひいては、苗植付け機構9における大型化を招来することなく、大きくできる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】乗用型田植機の側面図である。
【図2】乗用型田植機の平面図である。
【図3】図1における苗植付け機構の拡大側面図である。
【図4】図3のIV−IV視拡大断面図である。
【図5】図4のV−V視拡大断面図である。
【図6】シール体の拡大図である。
【符号の説明】
【0040】
1 田植機
2 走行機体
3,4 車輪 5 苗植装置
8 伝動ケース
9 苗植付け機構
10 苗載台
11 圃場面
12 フロート
13 駆動軸
14 回転ケース
18 苗植ケース
20 分割爪
21 押し出し作動用カム
25 押し出し軸
26 押し出し片
28 押し出しレバー
29 ばね手段
32 軟質弾性体
37 シール体
38 内向きリップ片
39,40 外向きチップ片


【特許請求の範囲】
【請求項1】
分割爪を備えて苗載台と圃場面との間を上下に往復動する苗植ケースに,前記分割爪の長手方向に延びる押し出し軸を,その軸線方向に摺動自在に軸支して設けて,この押し出し軸における前記苗植ケースからの突出端に,前記分割爪にて分割した苗に対する押し出し片を設ける一方,前記押し出し軸を、前記苗植ケースにおける往復動のうち下降行程の略下死点の時期において前記分割爪の先端に向かって前進動し、その往復動のうち下降行程の下死点を越えて上昇行程に移行する時期において後退動するように構成して成る苗植付け機構において,
前記苗植ケースのうち前記押し出し軸が突出する部分に、ゴム等の軟質弾性体にてリング状に構成したシール体を、前記押し出し軸に被嵌するように装填し、このシール体のうち苗植ケース内側への一端部に、内周面を前記押し出し軸の外周面に対して接触するように苗植ケース内に向かって内窄まりの円錐状にした内向きリップ片を、前記シール体のうち苗植ケース外側への他端部に、内周面を前記押し出し軸の外周面に対して接触するように苗植ケース外に向かって内窄まりの円錐状にした外向きリップ片を各々一体に設けることを特徴とする田植機における苗植付け機構。
【請求項2】
前記請求項1の記載において,前記外向きリップ片を、前記押し出し軸の軸線方向に並べて設けた複数個のリップ片にしたことを特徴とする田植機における苗植付け機構。
【請求項3】
前記請求項1又は2の記載において、前記内向きリップ片における高さ方向の途中における外周面を、前記苗植ケースに接当して支持することを特徴とする田植機における苗植付け機構。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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