説明

田植機の植苗機構用密封装置

【課題】田植機の植苗機構に用いられる密封装置において、泥面や泥水中に繰り返し没入される過酷な条件でも長期にわたって優れた密封性を維持し得る密封装置を提供する。
【解決手段】植苗爪を支持する爪支持ハウジング1の軸孔11aに密封的に取り付けられて、シールリップ113が、軸孔11aに軸方向往復動可能に挿通された植苗ロッド3の外周面に摺動可能に密接されたオイルシール110と、このオイルシール110の軸方向外側に配置され、一端の第一取付部122が金属バンド124で爪支持ハウジング1の外周に密封的に緊結されると共に、他端の第二取付部123が金属バンド125で植苗ロッド3の外周に密封的に緊結されて、軸方向伸縮可能なブーツ120とからなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、田植機の植苗機構に装着されて、植苗爪から苗を押し出す植苗ロッドの軸周を密封する密封装置に関する。
【背景技術】
【0002】
図3は、従来技術による田植機の植苗機構用密封装置を、植苗機構の一部と共に示す断面図である。この種の植苗機構は、爪支持ハウジング1と、この爪支持ハウジング1から突設された植苗爪2と、前記爪支持ハウジング1の軸孔11aに挿通され先端に植苗爪2の突出方向に沿って動作可能な苗押し出し部31を有する植苗ロッド3と、この植苗ロッド3を軸方向往復動させるためのカム装置4及びバネ5とを備えている。
【0003】
爪支持ハウジング1の軸孔11aには、植苗ロッド3の外周面に摺動可能に密接された密封装置10が装着されている。この密封装置10は、爪支持ハウジング1内に封入されたグリースが植苗ロッド3の軸周隙間から流出するのを防止すると共に、爪支持ハウジング1の内部へ泥が侵入するのを防止するものである。
【0004】
上記植苗機構は、植苗爪2が爪支持ハウジング1と共に図示の断面上で鉛直方向に細長い楕円状の回転軌跡を描くように移動し、その過程で、植苗爪2の先端部が不図示の苗供給台の下端部を経由して田の泥面に所要の深さまで没入されるようになっている。そして、植苗爪2が降下して行く過程で、前記苗供給台の下端部から一株分の稲苗を取り込み、植苗爪2の先端部が泥面に没入される際に、バネ5で付勢された植苗ロッド3によって、苗押し出し部31が植苗爪2に取り込まれた稲苗を押し出し、前記泥面に植え付けるものである(例えば特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2001−69828号公報
【0005】
しかしながら、苗押し出し部31を有する植苗ロッド3の先端部及びその近傍は、当該植苗機構の周期的な植苗動作に伴って、泥面や泥水中に繰り返し没入されるため、密封装置10の植苗ロッド3との摺動面が摩耗して、泥水の侵入やグリースの漏洩が発生するおそれがあった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、以上のような点に鑑みてなされたものであって、その技術的課題とするところは、田植機の植苗機構に用いられる密封装置において、泥面や泥水中に繰り返し没入される過酷な条件でも長期にわたって優れた密封性を維持し得る密封装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した技術的課題を有効に解決するための手段として、請求項1の発明に係る田植機の植苗機構用密封装置は、植苗機構の爪支持ハウジングの軸孔に密封的に取り付けられて、シールリップが、前記軸孔に軸方向往復動可能に挿通された植苗ロッドの外周面に摺動可能に密接されたオイルシールと、このオイルシールの軸方向外側に配置され、一端の取付部が前記爪支持ハウジングに密封的に結合されると共に、他端の取付部が前記植苗ロッドの外周に密封的に結合されて軸方向伸縮可能なブーツと、からなるものである。
【0008】
上記構成において、オイルシールは、爪支持ハウジングの内部に封入された油脂類を密封対象とするものであり、ブーツは、外部の泥や泥水等を密封対象とするものである。ブーツは、植苗ロッドの外周面等と摺動するものではなく、伸縮によって植苗ロッドの軸方向往復動作を許容しながら軸孔開口部を外側から覆うようにして密封するものであり、摺動による摩耗を生じない。
【発明の効果】
【0009】
請求項1の発明に係る田植機の植苗機構用密封装置によれば、軸方向伸縮可能なブーツによって、爪支持ハウジングの軸孔と植苗ロッドの軸周との間を外側から密閉するため、前記軸孔への泥や水の侵入を確実に遮断することができる。またこのため、ブーツの軸方向内側に位置するオイルシールも、泥の侵入によって爪支持ハウジングの内部の油脂類に対する密封性が損なわれることがなく、したがって植苗動作に伴う前記油脂類の移動によるブーツの膨張も防止され、優れた耐久性を奏することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明について、図面を参照しながら説明する。図1は、本発明に係る田植機の植苗機構用密封装置の好ましい実施の形態を、植苗機構の一部と共に示す断面図、図2は、図1の要部を拡大して示す断面図である。
【0011】
まず図1に示される植苗機構は、先に説明した図3と同様の構成を備えるものであって、すなわち爪支持ハウジング1と、この爪支持ハウジング1におけるアーム部11に複数のボルト21によって取り付けられたフォーク状の植苗爪2と、前記アーム部11に開設された軸孔11aに挿通され先端に植苗爪2の突出方向に沿って動作可能な苗押し出し部31を有する植苗ロッド3と、この植苗ロッド3を軸方向往復動させるカム装置4及びバネ5とを備える。
【0012】
詳しくは、爪支持ハウジング1は、第一の水平軸心Oの周りに回転される回転ハウジング6の、前記第一の水平軸心Oから離れた端部に、第二の水平軸心Oを介して回転可能に取り付けられており、図1における反時計方向への回転ハウジング6の回転運動と、この回転ハウジング6に対する爪支持ハウジング1の相対回転運動が、回転ハウジング6内の不図示のギヤ機構を介して連動するようになっている。そして、このような回転ハウジング6と爪支持ハウジング1との複合運動によって、植苗爪2の先端が、図示の断面上で、鉛直方向に細長い楕円状の回転軌跡を描くように反時計回りに移動し、その過程で、植苗爪2の先端が、不図示の苗供給台の下端を経由して田の泥面に所要の深さまで没入されるようになっている。
【0013】
爪支持ハウジング1におけるケース状本体12の内室12aに収納されたバネ5は、この爪支持ハウジング1におけるアーム部11の軸孔11aに挿通された植苗ロッド3を、前記軸孔11aから外側へ常時突出する方向に付勢するものである。一方、カム装置4は、前記内室12aに配置されて、第二の水平軸心Oと同心のカム軸の周りに回転されるカム41と、一端42aがこのカム41の外周カム面に摺動可能に接触されると共に、他端42bが植苗ロッド3の内端とリンクされ、第三の水平軸心Oを中心として揺動される揺動アーム42とを備える。
【0014】
すなわちカム装置4は、カム41が図1における反時計回りに回転するのに伴って、揺動アーム42の一端42aが、カム41の外周カム面の大径部へ乗り上がって行くと、これに伴い、第三の水平軸心Oを中心として揺動される揺動アーム42の他端42bが、植苗ロッド3をバネ5の付勢力に抗して爪支持ハウジング1への没入方向へ変位させる。そして、更にカム41が回転して行くと、やがて揺動アーム42の一端42aが前記外周カム面の最大径部41aから外れるので、この時点で、バネ5が植苗ロッド3を突出方向へ変位させ、これに伴い、植苗ロッド3の先端の苗押し出し部31が、植苗爪2の先端へ向かって押し出し動作するようになっている。また、この苗押し出し部31の押し出し動作は、植苗爪2が下降してその先端部が泥面に没入される際に行われる。
【0015】
なお、参照符号7は、バネ5による植苗ロッド3の突出動作の際に、揺動アーム42と弾性的に接触することによって、植苗ロッド3のストロークを規制する弾性ストッパであり、ゴム状弾性材料からなる。
【0016】
上述の構成を備える植苗機構は、植苗爪2が楕円状の回転軌跡を描きながら下降する過程で、フォーク状の植苗爪2が、不図示の苗供給台の下端から一株分の稲苗を取り込み、更に下降して植苗爪2の先端部が泥面に没入される際に、バネ5によって植苗ロッド3が下降し、その先端の苗押し出し部31が、植苗爪2に取り込まれた稲苗を押し出して、前記泥面に植え付けるように植苗動作するものである。
【0017】
参照符号100は、本発明に係る密封装置であって、爪支持ハウジング1の軸孔11aの内周に配置されたオイルシール110と、その軸方向外側に配置されたブーツ120とからなる。
【0018】
詳しくは図2に示されるように、密封装置100のうち、オイルシール110はゴム状弾性材料からなるものであって、爪支持ハウジング1におけるアーム部11の軸孔11aの開口端部である円筒状のオイルシール装着部13の内周面に密嵌される外周嵌合部111と、その内周側にあって爪支持ハウジング1内を向き、植苗ロッド3の外周面に摺動可能に密接されるシールリップ113が、腰部112を介して互いに連続して形成されており、外周嵌合部111から腰部112にかけて、補強用の金属環114が一体的に埋設された構造を有する。
【0019】
外周嵌合部111は、軸孔11aの内周面と、金属環114の外周部との間で径方向に適当に圧縮されることにより、軸孔11a(オイルシール装着部13)の内周面に所定の潰し代をもって密接されている。また、シールリップ113の外周にはエキステンションスプリング115が装着されている。
【0020】
すなわち、このオイルシール110は、爪支持ハウジング1の内室12aに封入されて植苗ロッド3と軸孔11aとの間や、カム装置4などを潤滑するグリースGが流出するのを防止するものである。
【0021】
また、ブーツ120は、ゴム状弾性材料あるいは可撓性を有する合成樹脂材でブロー成形あるいは射出成形等により成形されたものであって、円周方向に延びる山部121a及び谷部121bが反復形成された蛇腹状本体部121と、この蛇腹状本体部121の軸方向一端に形成された大径の環状の第一取付部122と、軸方向他端に形成された小径の環状の第二取付部123とを有する。蛇腹状本体部121は、軸方向に隣り合う山部121a及び谷部121bが、大径側の第一取付部122から小径側の第二取付部123へ向けて、半径が漸次小さくなるように形成されている。
【0022】
ブーツ120における大径側の第一取付部122の外周面には、円周方向に連続したバンド装着溝122aが形成されており、内周面には円周方向に連続したシール突条122bが形成されている。また同様に、ブーツ120における小径側の第二取付部123の外周面には、円周方向に連続したバンド装着溝123aが形成されており、内周面には円周方向に連続したシール突条123bが形成されている。
【0023】
爪支持ハウジング1におけるシール装着部13の外周面には、円周方向に連続した取付溝13aが形成されており、ブーツ120の大径側の第一取付部122は、内周のシール突条122bが前記取付溝13aに密嵌された状態で、金属バンド124により、前記シール装着部13の外周面に密封的に締め付け固定されている。一方、植苗ロッド3のうち、爪支持ハウジング1の軸孔11aから常に突出している外端近傍の外周面には、円周方向に連続した取付溝3aが形成されており、ブーツ120の小径側の第二取付部123は、内周のシール突条123bが前記取付溝3aに密嵌された状態で、金属バンド125により、前記植苗ロッド3の外端近傍の外周面に密封的に締め付け固定されている。
【0024】
すなわち、このブーツ120は、蛇腹状本体部121の伸縮性によって、植苗ロッド3の軸方向往復動作を許容しながら、軸孔11aの開口部を、外側から覆うようにして密封し、外部から爪支持ハウジング1内へ泥や水が侵入するのを防止するものである。また、両端の第一取付部122及び第二第二取付部123は、金属バンド124,125によって、シール突条122b,123bが取付溝13a,3aに嵌合した状態で取り付けられているため、植苗ロッド3の高速の往復動に対しても、取付位置のずれを生じることがない。
【0025】
以上の構成において、図1に示される植苗機構は、先に説明したように、植苗爪2が、下降の過程で不図示の苗供給台の下端から稲苗を取り込んで泥面に没入され、その際に、カム装置4とバネ5からなる機構によって植苗ロッド3が下降して、苗押し出し部31が植苗爪2に保持された稲苗を押し出して、前記泥面に植え付けるように動作する。このため、植苗ロッド3の先端部は、泥や泥水に繰り返し接触されることになるが、植苗ロッド3の先端部と爪支持ハウジング1における軸孔11aの開口部との間は、軸方向伸縮可能なブーツ120によって、外側から密閉されているため、軸孔11aへの泥や水の侵入を確実に遮断することができる。
【0026】
しかも、このブーツ120は、植苗ロッド3の外周面との摺動によって密封を行うものではないため、摩耗によって密封性が損なわれることはなく、両端の第一取付部122及び第二第二取付部123は、金属バンド124,125の緊結力によって、シール突条122b,123bが取付溝13a,3aに適当な面圧で密嵌されているため、泥や水に対する優れた密封性を奏する。このため、ブーツ120の軸方向内側に位置するオイルシール110によるシール部に泥が侵入することはなく、したがってシールリップ113の摩耗が抑制され、爪支持ハウジング1内のグリースGに対する優れた密封性が長期間にわたって維持される。
【0027】
ここで、例えばオイルシール110を装着しない場合は、爪支持ハウジング1内のグリースGの一部が、ブーツ120内にも充満する。そして、この場合、回転ハウジング6の回転に伴い、回転軌跡を描くように動作する爪支持ハウジング1の植苗運動によって、ブーツ120内のグリースGに与えられる遠心力が、ブーツ120を膨らますように作用することになるため、ブーツ120の耐久性に悪影響が与えられる懸念がある。
【0028】
これに対し、本発明では、ブーツ120の軸方向内側に存在するオイルシール110が、ブーツ120内へのグリースGの流出を遮断するため、上述のようなブーツ120の膨張は起こらない。しかも、爪支持ハウジング1内へのグリースGの封入量も節減できるといった利点もある。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明に係る田植機の植苗機構用密封装置の好ましい実施の形態を、植苗機構と共に示す断面図である。
【図2】図1の要部を拡大して示す断面図である。
【図3】従来技術による田植機の植苗機構用密封装置を、植苗機構と共に示す断面図である。
【符号の説明】
【0030】
1 爪支持ハウジング
11 アーム部
11a 軸孔
12 ケース状本体
13 シール装着部
13a,3a 取付溝
2 植苗爪
3 植苗ロッド
100 密封装置
110 オイルシール
113 シールリップ
120 ブーツ
121 蛇腹状本体部
122 第一取付部
122b,123b シール突条
123 第二取付部
124,125 金属バンド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
植苗機構の爪支持ハウジング(1)の軸孔(11a)に密封的に取り付けられて、シールリップ(113)が、前記軸孔(11a)に軸方向往復動可能に挿通された植苗ロッド(3)の外周面に摺動可能に密接されたオイルシール(110)と、このオイルシール(110)の軸方向外側に配置され、一端の取付部(122)が前記爪支持ハウジング(1)に密封的に結合されると共に、他端の取付部(123)が前記植苗ロッド(3)の外周に密封的に結合されて軸方向伸縮可能なブーツ(120)と、からなることを特徴とする田植機の植苗機構用密封装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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