説明

画像信号処理装置、撮像システム、及び電子内視鏡システム

【課題】被写体を表示形態の異なる複数種類の画像で表示する画像信号処理装置において表示対象である狭帯域光画像のコントラストが低いこと。
【解決手段】画像信号処理装置を、所定の狭帯域光で照射された被写体を撮影した撮像装置からの画像信号が入力する画像信号入力手段と、撮影された被写体の表示モードを複数種類の表示モードの中から指定する表示モード指定手段と、各表示モードで用いられる複数種類のカラーマトリクス係数を記憶するカラーマトリクス係数記憶手段と、指定された表示モードに対応する複数種類のカラーマトリクス係数をカラーマトリクス係数記憶手段から取得するカラーマトリクス係数取得手段と、取得された各カラーマトリクス係数を用いて画像信号に対して夫々異なる色変換処理を行う色変換処理実行手段と、夫々異なる色変換処理が行われた各画像信号を合成して各画像信号に対応する画像が一画面内に並んで配置される合成画像を生成する合成画像生成手段と、から構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、画像信号をモニタ表示可能に処理する画像信号処理装置に関連し、詳しくは、観察視野に含まれる種々の特定構造の狭帯域光画像をモニタの表示画面に表示させるのに好適な画像信号処理装置、撮像システム、及び電子内視鏡システムに関する。
【背景技術】
【0002】
医療機器分野においては、体腔内に狭帯域光を照射して体腔内の特定部位の強調画像(狭帯域光画像)を生成して表示する電子内視鏡システムが知られている。この種の電子内視鏡システムの具体的構成例は、特許文献1に記載されている。
【0003】
特許文献1に記載の電子内視鏡システムは、例えばBフィルタ(狭帯域光フィルタ)、Gフィルタ(広帯域光フィルタ)、Rフィルタ(広帯域光フィルタ)の各光学フィルタが配置された面順次方式対応の回転フィルタを有している。ビデオプロセッサは、狭帯域のB画像信号を擬似的に広帯域のB画像信号に変換し、変換後のB画像信号及び広帯域のG及びR画像信号を用いて通常光(白色光)画像を生成する。また、ビデオプロセッサは、RGBの各画像信号に所定の色変換処理を施して狭帯域光画像を生成する。モニタの表示画面には、通常光画像又は狭帯域光画像の一方が表示、若しくは両方が一画面内に同時に表示される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−43604号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このように、特許文献1に記載の電子内視鏡システムでは、通常光画像を擬似的に生成するため、G及びRフィルタに広帯域な分光特性を持たせている。しかし、G及びRフィルタに広帯域な分光特性を持たせた結果、狭帯域光画像のコントラストが低下するという弊害が生じている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決する本発明の一形態に係る画像信号処理装置は、所定の狭帯域光で照射された被写体を撮影した撮像装置からの画像信号が入力する画像信号入力手段と、撮影された被写体の表示モードを複数種類の表示モードの中から指定する表示モード指定手段と、各表示モードで用いられる複数種類のカラーマトリクス係数を記憶するカラーマトリクス係数記憶手段と、指定された表示モードに対応する複数種類のカラーマトリクス係数をカラーマトリクス係数記憶手段から取得するカラーマトリクス係数取得手段と、取得された各カラーマトリクス係数を用いて画像信号に対して夫々異なる色変換処理を行う色変換処理実行手段と、夫々異なる色変換処理が行われた各画像信号を合成して各画像信号に対応する画像が一画面内に並んで配置される合成画像を生成する合成画像生成手段とを有することを特徴とする装置である。
【0007】
本発明に係る画像信号処理装置によれば、特定波長域に半値幅の狭い透過ピークを持つ狭帯域光フィルタを用いて撮影された被写体像に対して夫々異なる複数種類の色変換処理が施されるため、コントラストの高い、夫々異なる特定構造の狭帯域光画像が一画面内に表示される。術者は、一画面内に表示される複数種類の狭帯域光画像を比較観察等することにより、生体組織等の被写体を多面的に診断等することができる。
【0008】
本発明に係る画像信号処理装置は、所定の狭帯域光を撮像装置が有するライトガイドを通じて被写体に照射する狭帯域光照射手段を有する構成としてもよい。
【0009】
狭帯域光照射手段は、夫々異なる分光特性を有する複数種類の狭帯域光をライトガイドを通じて被写体に選択的に照射する構成としてもよい。また、カラーマトリクス係数記憶手段は、狭帯域光毎に別個に関連付けられた複数種類の表示モードで用いられる複数種類のカラーマトリクス係数を記憶したものとしてもよい。この場合、カラーマトリクス係数取得手段は、現在被写体に照射されている狭帯域光に関連付けられた複数種類の表示モードのうち指定された表示モードに対応する複数種類のカラーマトリクス係数をカラーマトリクス係数記憶手段から取得する構成としてもよい。
【0010】
狭帯域光照射手段は、所定の広帯域光を放射する光源と、広帯域光を夫々異なる分光特性を有する狭帯域光に分光する複数種類の狭帯域光フィルタと、複数種類の狭帯域光フィルタの何れか一つを指定するフィルタ指定手段と、指定された狭帯域光フィルタを広帯域光の光路に配置するフィルタ配置手段とを有する構成としてもよい。
【0011】
上記の課題を解決する本発明の一形態に係る撮像システムは、所定の狭帯域光を被写体に照射する狭帯域光照射手段と、狭帯域光が照射された被写体を撮影して画像信号を生成する撮影手段と、撮影された被写体の表示モードを複数種類の表示モードの中から指定する表示モード指定手段と、各表示モードで用いられる複数種類のカラーマトリクス係数を記憶するカラーマトリクス係数記憶手段と、指定された表示モードに対応する複数種類のカラーマトリクス係数をカラーマトリクス係数記憶手段から取得するカラーマトリクス係数取得手段と、取得された各カラーマトリクス係数を用いて画像信号に対して夫々異なる色変換処理を行う色変換処理実行手段と、夫々異なる色変換処理が行われた各画像信号を合成して各画像信号に対応する画像が一画面内に並んで配置される合成画像を生成する合成画像生成手段とを有することを特徴としたシステムである。
【0012】
また、上記の課題を解決する本発明の一形態に係る電子内視鏡システムは、上記画像信号処理装置と、所定の撮像装置である電子内視鏡を有することを特徴とするシステムである。
【0013】
また、上記の課題を解決する本発明の別の形態に係る電子内視鏡システムは、上記撮像システムの一形態であって、狭帯域光照射手段、表示モード指定手段、カラーマトリクス係数記憶手段、カラーマトリクス係数取得手段、色変換処理実行手段、及び合成画像生成手段を有するプロセッサと、撮影手段を有する電子内視鏡とを有することを特徴とするシステムである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、特定波長域に半値幅の狭い透過ピークを持つ狭帯域光フィルタを用いて撮影された被写体像に対して夫々異なる複数種類の色変換処理を施すことにより、コントラストの高い、夫々異なる特定構造の狭帯域光画像を一画面内に表示させることができる画像信号処理装置、撮像システム、及び電子内視鏡システムが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施形態に係る電子内視鏡システムの構成を示すブロック図である。
【図2】本発明の実施形態に係る電子内視鏡システムが有するプロセッサに搭載された回転式フィルタターレットの構成を示す図である。
【図3】本発明の実施形態に係る回転式フィルタターレットの各光学フィルタの分光特性を示す図である。
【図4】本発明の実施形態に係る内視鏡画像観察処理のフローチャートを示す図である。
【図5】本発明の実施形態に係るプロセッサに実装された色変換回路による色変換処理を概念的に説明する図である。
【図6】本発明の実施形態においてモニタの表示画面上で強調表示される生体の特定構造が色変換処理にて適用されるカラーマトリクス係数毎に異なることを説明するための図である。
【図7】本発明の実施形態における狭帯域光画像の表示画面例を示す図である。
【図8】別の実施形態における狭帯域光画像の表示画面例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態に係る電子内視鏡システムについて説明する。
【0017】
図1は、本実施形態の電子内視鏡システム1の構成を示すブロック図である。図1に示されるように、電子内視鏡システム1は、医療用の撮像システムであり、電子スコープ100、プロセッサ200、モニタ300を有している。電子スコープ100の基端は、プロセッサ200と接続されている。プロセッサ200は、電子スコープ100が出力する画像信号を処理して画像を生成する画像信号処理装置と、自然光の届かない体腔内を電子スコープ100を介して照明する光源装置とを一体に備えた装置である。別の実施形態では、画像信号処理装置と光源装置とを別体で構成してもよい。
【0018】
図1に示されるように、プロセッサ200は、システムコントローラ202、タイミングコントローラ204を有している。システムコントローラ202は、電子内視鏡システム1を構成する各要素を制御する。タイミングコントローラ204は、信号の処理タイミングを調整するクロックパルスを電子内視鏡システム1内の各回路に出力する。
【0019】
ランプ208は、ランプ電源イグナイタ206による始動後、主に可視光領域から不可視である赤外領域に広がる波長域の光を放射する。ランプ208には、キセノンランプ、ハロゲンランプ、水銀ランプ、メタルハライドランプ等の高輝度ランプが適している。ランプ208から放射された照明光は、集光レンズ210によって集光されると共に絞り212を介して適正な光量に制限される。
【0020】
絞り212には、図示省略されたアームやギヤ等の伝達機構を介してモータ214が機械的に連結している。モータ214は例えばDCモータであり、ドライバ216のドライブ制御下で駆動する。絞り212は、モニタ300の表示画面に表示される映像を適正な明るさにするため、モータ214によって動作して開度が変化して、ランプ208から放射された照明光の光量を開度に応じて制限する。適正とされる映像の明るさの基準は、術者によるフロントパネル218又は電子スコープ100の手元操作部(不図示)に対する輝度調節操作に応じて設定変更される。
【0021】
フロントパネル218の構成には種々の形態が想定される。フロントパネル218の具体的構成例には、プロセッサ200のフロント面に実装された機能毎のハードウェアキーや、タッチパネル式GUI(Graphical User Interface)、ハードウェアキーとGUIとの組合せ等が想定される。
【0022】
絞り212を通過した照射光は、回転式フィルタターレット213に入射する。図2は、回転式フィルタターレット213の構成を示す図である。図2に示されるように、回転式フィルタターレット213は、円周方向に配置された複数の光学フィルタF1〜F3、及び開口APを有している。開口APは、何れの光学フィルタも貼り付けられていない開口である。また、開口APは、可視光領域全域の光を透過させるフィルタに置き換えてもよい。
【0023】
図3は、光学フィルタF1〜F3の分光特性の一例を示す。図3中、縦軸は、分光透過率(正規化されているため単位無し)を示し、横軸は、波長(単位:nm)を示す。図3に示されるように、光学フィルタF1は、三つの波長域に半値幅の狭い透過ピークを持つ狭帯域光フィルタである。光学フィルタF2は、例えばヘモグロビンの吸収に適した波長域に半値幅の狭い透過ピークを持つ狭帯域光フィルタである。光学フィルタF3は、光学フィルタF2と異なる特定構造(例えば胃の腺管構造等)に対応する波長域に半値幅の狭い透過ピークを持つ狭帯域光フィルタである。各狭帯域光フィルタは、例えばディテクション用(体腔内の広い範囲の中から病変部を探し出すのに適した分光特性を持つフィルタ)や精査用(発見した病変部の精査に適した分光特性を持つフィルタ)など、用途毎に備えられていてもよい。
【0024】
モータ215は、例えばドライバ216のドライブ制御下で駆動するステップモータであり、図示省略されたアームやギヤ等の伝達機構を介して回転式フィルタターレット213と機械的に連結している。モータ215は、回転式フィルタターレット213を印加電圧(パルス)に応じた角度だけ回転させる。
【0025】
術者は、フロントパネル218に対するフィルタ切替操作又は電子スコープ100の手元操作部に設置されたフィルタ切替ボタン114の操作を通じて回転式フィルタターレット213を回転させることができる。なお、図1中、図面を簡明化するため、フィルタ切替ボタン114(及び後述する表示モード切替ボタン116)と他のブロックとの結線は省略している。
【0026】
回転式フィルタターレット213は、フィルタ切替操作が行われる毎に90°回転して、光学フィルタF1、F2、F3、開口APを照明光路に選択的に挿入させて配置する。回転式フィルタターレット213の外周縁付近には、ホームポジションを検出するための位置検出用穴Hが開けられている。システムコントローラ202は、フォトインタラプタFIを通じた位置検出用穴Hの検出とモータ215への印加パルス数を基に、照明光路に何れの光学フィルタ又は開口APが挿入され配置されているかを認識する。
【0027】
照射光は、照明光路に配置されている光学フィルタ(F1〜F3の何れか)によって特定の狭帯域光に分光されて、LCB(Light Carrying Bundle)102の入射端に入射する。開口APが照明光路に配置されている場合は、絞り212を通過した照射光(すなわち、可視光領域を含む広帯域の光)がLCB102の入射端に直接入射する。
【0028】
LCB102の入射端に入射した照射光は、LCB102内を全反射を繰り返すことによって伝播する。LCB102内を伝播した照射光は、電子スコープ100の先端に配されたLCB102の射出端から射出する。LCB102の射出端から射出した照射光は、配光レンズ104を介して被写体を照射する。被写体からの反射光は、対物レンズ106を介して固体撮像素子108の受光面上の各画素で光学像を結ぶ。
【0029】
固体撮像素子108は、例えば補色市松型画素配置を有するインターレース方式の単板式カラーCCD(Charge Coupled Device)イメージセンサである。固体撮像素子108は、受光面上の各画素で結像した光学像を光量に応じた電荷として蓄積して、イエローYe、シアンCy、グリーンG、マゼンタMgの各補色に対応する画像信号を得る。
【0030】
固体撮像素子108は、実質的な感度向上やフレームレート向上のため、垂直方向に隣接する2つの画素の画像信号を加算して混合信号Wr、Gb、Wb、Grを生成して出力する。混合信号Wr、Gb、Wb、Grは、プリアンプ110による信号増幅後、内視鏡側信号処理回路112に入力する。なお、固体撮像素子108のカラー配列は、例えばベイヤ型であってもよい。また、固体撮像素子108は、CMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)イメージセンサに置き換えてもよい。
【0031】
タイミングコントローラ204は、システムコントローラ202によるタイミング制御に従って、内視鏡側信号処理回路112にクロックパルスを供給する。内視鏡側信号処理回路112は、タイミングコントローラ204から供給されるクロックパルスに従って、固体撮像素子108をプロセッサ200側で処理される映像のフレームレートに同期したタイミングで駆動制御する。
【0032】
内視鏡側信号処理回路112に入力した画像信号は、所定のアナログ信号処理の後、AD変換されて、プロセッサ側信号処理回路220に入力する。
【0033】
プロセッサ側信号処理回路220は、色変換回路222、メモリ224、画像処理回路226を有している。色変換回路222は、メモリ224に記憶された所定のカラーマトリクス係数を用いてプロセッサ側信号処理回路220に入力した画像信号(補色信号(MGYC))を原色信号(RGB)に変換し、画像処理回路226に出力する。画像処理回路226は、入力した原色信号に対してγ補正や輪郭強調等の所定の画像処理を行い、各色信号別にフレーム単位でR、G、Bの各色対応のフレームメモリ(不図示)にバッファリングする。画像処理回路226は、バッファリングされた各色信号をタイミングコントローラ204によって制御されたタイミングでフレームメモリから掃き出して、NTSC(National Television System Committee)やPAL(Phase Alternating Line)等の所定の規格に準拠した映像信号に変換する。変換された映像信号がモニタ300に順次入力することにより、被写体の画像がモニタ300の表示画面に表示される。
【0034】
モニタ300の表示画面には、被写体の画像が例えば表示モードに応じた形態で表示される。表示モードは、術者によるフロントパネル218に対する表示モード設定操作又は電子スコープ100の手元操作部に設置された表示モード切替ボタン116の操作に従って設定変更される。
【0035】
術者は、照明光路に挿入され配置される光学フィルタ毎に種々の異なる表示モードを設定することができる。具体的には、術者は、光学フィルタF1が照明光路に配置されている期間、光学フィルタF1の分光特性に対応する夫々異なる特定構造を強調表示する複数種類の表示モードを選択し設定することができる。光学フィルタF2、F3が照明光路に配置されている期間中は夫々、光学フィルタF2、F3の分光特性に対応する夫々異なる特定構造を強調表示する複数種類の表示モードを選択し設定することができる。
【0036】
メモリ224には、各光学フィルタF1〜F3に対応付けられた複数種類の表示モードで用いられるカラーマトリクス係数が記憶されている。説明の便宜上、光学フィルタF1に係る各表示モードで用いられるn種類のカラーマトリクス係数に符号M11〜M1nを付し、光学フィルタF2に係る各表示モードで用いられるm種類のカラーマトリクス係数に符号M21〜M2mを付し、光学フィルタF3に係る各表示モードで用いられるl種類のカラーマトリクス係数に符号M31〜M3lを付す。
【0037】
(内視鏡画像観察処理)
図4は、本発明の実施形態に係る内視鏡画像観察処理のフローチャートを示す。内視鏡画像観察処理においては、被写体を通常のカラー画像又は表示モードに対応した形態で表示する。内視鏡画像観察処理の実行は、電子内視鏡システム1のシステム起動時、又はフロントパネル218若しくはフィルタ切替ボタン114に対するフィルタ切替操作が行われたときに開始される。また、内視鏡画像観察処理の実行中にフィルタ切替操作が行われると、内視鏡画像観察処理は、S1の処理に強制的に戻される。なお、説明の便宜上、本明細書中の説明並びに図面において、処理ステップは「S」と省略して記す。
【0038】
<図4のS1(フィルタ判定処理)>
システムコントローラ202は、フォトインタラプタFIを通じた位置検出用穴Hの検出とモータ215への印加パルス数を基に、何れの光学フィルタ又は開口APが照明光路に挿入され配置されているかを認識する。なお、電子内視鏡システム1のシステム起動時には、開口APが照明光路に挿入され配置される。具体的には、システムコントローラ202は、システムの起動と共に、モータ215に対する駆動制御を通じて回転式フィルタターレット213を回転させて位置検出用穴Hを検出し、開口APが照明光路に挿入され配置されるように回転式フィルタターレット213を穴Hの検出位置から所定角度回転させる。
【0039】
システムコントローラ202は、開口APが照明光路に配置されている場合(S1:NO)、処理をS2に進める。光学フィルタF1〜F3の何れかが照明光路に配置されている場合は(S1:YES)、処理をS3に進める。
【0040】
<図4のS2(通常カラー画像生成処理)>
開口APが照明光路に配置されているため、被写体には可視光領域を含む広帯域の光が照射される。固体撮像素子108は、広帯域光によって照射された被写体からの反射光を受光して画像信号に変換する。画像信号は、プリアンプ110、内視鏡側信号処理回路112、プロセッサ側信号処理回路220の各回路における信号処理を経て、モニタ300に出力される。これにより、モニタ300の表示画面には、被写体の通常のカラー画像が表示されて、本フローチャートの処理が終了する。表示画面上の通常のカラー画像の表示は、例えば電子内視鏡システム1のシステム停止まで又はフィルタ切替操作が行われるまで継続する。
【0041】
<図4のS3(狭帯域光画像生成処理)>
光学フィルタF1〜F3の何れかが照明光路に配置されているため(以下、説明の便宜上、現在照明光路に配置されている光学フィルタを「光路配置フィルタ」と記す。)、被写体には光路配置フィルタの分光特性に応じた狭帯域光が照射される。固体撮像素子108は、狭帯域光によって照射された被写体からの反射光を受光して画像信号に変換する。画像信号は、プリアンプ110、内視鏡側信号処理回路112の各回路における信号処理を経て、プロセッサ側信号処理回路220に入力する。
【0042】
色変換回路222は、システムコントローラ202からの所定の制御信号に従い、光路配置フィルタと、現在設定されている表示モード(便宜上「設定表示モード」と記す。)によって特定される二種類のカラーマトリクス係数をメモリ224内のカラーマトリクス係数群の中から選択する。色変換回路222は、内視鏡側信号処理回路112からの画像信号に対して、選択された各カラーマトリクス係数による二通りの色変換処理を行う。色変換処理後の二種類の画像信号IS1、IS2は、画像処理回路226に入力する。
【0043】
例えば光路配置フィルタが光学フィルタF1である場合を考える。この場合、色変換回路222は、システムコントローラ202からの所定の制御信号に従い、光学フィルタF1に対応付けられたカラーマトリクス係数M11〜M1nの中から設定表示モードに対応する二種類のカラーマトリクス係数をメモリ224内のカラーマトリクス係数群の中から選択し、それを用いて二通りの色変換処理を行う。
【0044】
画像処理回路226は、画像信号IS1、IS2に対してγ補正や輪郭強調等の所定の画像処理を行い、画像処理後の各画像信号を合成して各画像信号IS1、IS2に対応する画像が一画面内に並んで配置される一枚の合成画像をなす画像信号を生成する。画像処理回路226は、生成した画像信号をフレームメモリにバッファリングし、所定のタイミングで映像信号に変換してモニタ300に出力する。
【0045】
図7(a)、(b)は、モニタ300における狭帯域光画像の表示画面例を示す図である。説明の便宜上、画像信号IS1に基づく狭帯域光画像を「狭帯域光画像IS1」と記し、画像信号IS2に基づく狭帯域光画像を「狭帯域光画像IS2」と記す。図7(a)に示されるように、モニタ300の表示画面には、設定表示モードに対応する狭帯域光画像であって、同一性(観察視野及び撮影時刻が同一)を有する被写体の二種類の狭帯域光画像が一画面に同時に表示される。なお、フィルタ切替操作直後は、切替後の光路配置フィルタに対応する既定の表示モードが設定表示モードとなる。
【0046】
狭帯域光画像IS1と狭帯域光画像IS2のレイアウトは、術者によるフロントパネル218又は電子スコープ100の手元操作部に対するレイアウト切替操作に従って変更することができる。図7(b)は、レイアウト切替後の狭帯域光画像IS1と狭帯域光画像IS2の画面表示の一例を示す。図7(b)の画面表示例においては、狭帯域光画像IS1を主画面(親画面)とし、狭帯域光画像IS2を副画面(子画面)とする。狭帯域光画像IS2は、主画面として大きく表示される狭帯域光画像IS1の右上領域に重畳表示される。
【0047】
<図4のS4(表示モード切替待機処理)>
システムコントローラ202は、フロントパネル218又は表示モード切替ボタン116に対する表示モードの切替操作の実行を待機する。待機中は、例えば設定表示モードに対応する狭帯域光画像の表示(図4のS3)を継続する。システムコントローラ202は、表示モードの切替操作が行われた場合(S4:YES)、処理をS5に進める。
【0048】
<図4のS5(表示モード切替後の狭帯域光画像生成処理)>
色変換回路222は、システムコントローラ202からの所定の制御信号に従い、光路配置フィルタと切替後の設定表示モードによって特定される二種類のカラーマトリクス係数をメモリ224内のカラーマトリクス係数群の中から新たに選択し、選択された各カラーマトリクス係数を用いて二通りの色変換処理を行う。そのため、モニタ300の表示画面には、切替後の設定表示モードに対応する狭帯域光画像IS1と狭帯域光画像IS2が表示される。S5の処理後、本フローチャートの処理はS4に戻る。表示画面上の表示モード切替後の狭帯域光画像の表示は、例えば電子内視鏡システム1のシステム停止まで、又はフィルタ切替操作若しくは表示モード切替操作が行われるまで継続する。
【0049】
ここで、図5(a)、(b)に、色変換回路222による色変換処理の概念図を示す。図5(a)の左図は、混合信号Wr、Gb、Wb、Grの強度分布Pを示し、同(a)の中央図は、照明光路に配置されている回転式フィルタターレット213の光学フィルタ(ここでは光学フィルタF1)の分光特性Fを示し、同(a)の右図は、色変換回路222による色変換処理で用いられるカラーマトリクス係数Mを示す。なお、強度分布Pは、固体撮像素子108のオンチップカラーフィルタの垂直方向に隣接する2画素の各々に対応する分光特性を2画素加算処理の数式に適用したときに算出される波長と強度との関係を示す分布である。図5(b)は、図5(a)の強度分布P、分光特性F、カラーマトリクス係数Mを掛け合わせた結果得られる波長と強度との関係を示す強度分布P’を示す。
【0050】
本実施形態においては、図5(a)に示される分光特性F又はカラーマトリクス係数Mの少なくとも一方を変えることによって強度分布P’を変更し、モニタ300の表示画面上で強調表示される生体の特定構造を変化させる。そこで、色変換回路222では、同一の観察対象について二通りの異なる特定構造を強調表示(同一の観察対象を二種類の異なる形態で強調表示)させるため、二種類の異なるカラーマトリクス係数Mを用いた色変換処理が行われている。
【0051】
図6(a)、(b)に、モニタ300の表示画面上で強調表示される生体の特定構造が色変換処理にて適用されるカラーマトリクス係数毎に異なることを説明するための図を示す。図6(a)に示されるように、照射光の深達度は、波長に依存する。具体的には、照射光の波長が長いほど深達度が深くなるため、深層の生体構造の観察が可能になる。
【0052】
色変換処理にて適用される二種類のカラーマトリクス係数Mが夫々、強度分布Pと分光特性Fを掛け合わせた被写体像の強度分布中、短波長成分、長波長成分を重点的に強調するように設計されている場合を考える。この場合、前者のカラーマトリクス係数Mを適用して生成される強調画像は、例えば浅層の被写体像(ここでは浅層の血管)を重点的に強調した画像(図6(b)の浅層A)となり、後者のカラーマトリクス係数Mを適用して生成される強調画像は、例えば深層の被写体像(ここでは深層の血管)を重点的に強調した画像(図6(b)の深層B)となる。図6(b)の例では、同一の観察視野内の浅層と深層の血管画像が一画面内に表示されることになる。
【0053】
狭帯域光画像IS1と狭帯域光画像IS2には、例えば以下の表示形態の組合せが想定される。表示形態の組合せは、例えばフロントパネル218の操作を通じて術者が自由に設定することもできる。なお、擬似的な通常カラー画像は、光学フィルタF1の三つの透過ピークがB帯域、G帯域、R帯域に配置されている場合に生成することができる。
・設定表示モードA
(狭帯域光画像IS1、IS2)=(擬似的な通常カラー画像、血管強調画像)
設定表示モードAに適した観察部位・・・食道など
・設定表示モードB
(狭帯域光画像IS1、IS2)=(表面構造の強調画像、深層の血管の強調画像)
設定表示モードBに適した観察部位・・・胃など
・設定表示モードC
(狭帯域光画像IS1、IS2)=(擬似的な通常カラー画像、浅層の血管の強調画像)
設定表示モードCに適した観察部位・・・胃など
・設定表示モードD
(狭帯域光画像IS1、IS2)=(擬似的な通常カラー画像、表面構造の強調画像)
設定表示モードDに適した観察部位・・・胃など
【0054】
本実施形態によれば、同一の観察対象が二種類の異なる狭帯域光画像で一画面内に表示されるため、診断能が向上する。術者は、一画面内に表示される二種類の狭帯域光画像を比較観察等することにより、生体を多面的に診断等することができる。また、各狭帯域光画像は、特定波長域に半値幅の狭い透過ピークを持つ狭帯域光フィルタを用いて生成されるため、狭帯域光画像のコントラストが低下する不都合が有効に避けられる。
【0055】
また、本実施形態によれば、照明光を分光する一種類の光学フィルタに対して夫々異なる特定構造を強調表示するための複数種類の表示モードが対応付けられている。術者は、被写体の表示形態が既定の二種類(通常光画像及び一種類の狭帯域光画像)に限られる特許文献1に記載の電子内視鏡システムと異なり、表示モードを切り替えることによって観察視野に含まれる多様な特定構造を観察することができる。そのため、重要な生体情報の見落とし等が好適に防がれる。
【0056】
また、図5(a)に示される分光特性Fは、フロントパネル218又はフィルタ切替ボタン114に対して操作を行い、光路配置フィルタを切り替えることで変更される。すなわち、モニタ300の表示画面上で強調表示される生体の特定構造を変化させること(強度分布P’の変更)は、光路配置フィルタの切替によっても達成される。例えば光学フィルタF1の分光特性では強調表示させ難い特定構造を狭帯域光観察する場合、術者は、光路配置フィルタを光学フィルタF2又はF3に切り替えると共に当該特定構造を強調表示するのに適した表示モードの設定を行う。これにより、光学フィルタF1の分光特性では強調表示させ難い特定構造の狭帯域光画像をモニタ300の表示画面に表示させることができる。
【0057】
以上が本発明の実施形態の説明である。本発明は、上記の構成に限定されるものではなく、本発明の技術的思想の範囲において様々な変形が可能である。例えば別の実施形態では、三種類以上の狭帯域光画像を一画面内に表示する構成としてもよい。
【0058】
図8(a)、(b)は、別の実施形態における狭帯域光画像の表示画面例を示す図である。別の実施形態では、色変換回路222は、システムコントローラ202からの所定の制御信号に従い、光路配置フィルタと設定表示モードによって特定される三種類のカラーマトリクス係数をメモリ224内のカラーマトリクス係数群の中から選択し、選択された各カラーマトリクス係数を用いて三通りの色変換処理を行う。そのため、図8(a)に示されるように、モニタ300の表示画面には、三種類の狭帯域光画像IS1〜IS3が表示される。なお、狭帯域光画像IS1〜IS3のレイアウトは、術者によるフロントパネル218又は電子スコープ100の手元操作部に対するレイアウト切替操作に従い、例えば図8(b)に示されるレイアウトに変更することができる。また、別の実施形態において、一画面内に表示させる狭帯域光画像の種類の数は、術者によるフロントパネル218又は電子スコープ100の手元操作部の操作を通じて一種類又は二種類若しくは四種類以上に適宜変更することができる。
【符号の説明】
【0059】
1 電子内視鏡システム
100 電子スコープ
200 プロセッサ
220 プロセッサ側信号処理回路
222 色変換回路
224 メモリ
226 画像処理回路
300 モニタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の狭帯域光で照射された被写体を撮影した撮像装置からの画像信号が入力する画像信号入力手段と、
前記撮影された被写体の表示モードを複数種類の表示モードの中から指定する表示モード指定手段と、
各前記表示モードで用いられる複数種類のカラーマトリクス係数を記憶するカラーマトリクス係数記憶手段と、
前記指定された表示モードに対応する複数種類のカラーマトリクス係数を前記カラーマトリクス係数記憶手段から取得するカラーマトリクス係数取得手段と、
前記取得された各カラーマトリクス係数を用いて前記画像信号に対して夫々異なる色変換処理を行う色変換処理実行手段と、
前記夫々異なる色変換処理が行われた各前記画像信号を合成して該各画像信号に対応する画像が一画面内に並んで配置される合成画像を生成する合成画像生成手段と、
を有することを特徴とする画像信号処理装置。
【請求項2】
前記所定の狭帯域光を前記撮像装置が有するライトガイドを通じて前記被写体に照射する狭帯域光照射手段
を有することを特徴とする、請求項1に記載の画像信号処理装置。
【請求項3】
前記狭帯域光照射手段は、夫々異なる分光特性を有する複数種類の狭帯域光を前記ライトガイドを通じて前記被写体に選択的に照射し、
前記カラーマトリクス係数記憶手段は、前記狭帯域光毎に別個に関連付けられた複数種類の表示モードで用いられる複数種類のカラーマトリクス係数を記憶しており、
前記カラーマトリクス係数取得手段は、現在前記被写体に照射されている狭帯域光に関連付けられた複数種類の表示モードのうち前記指定された表示モードに対応する複数種類のカラーマトリクス係数を前記カラーマトリクス係数記憶手段から取得することを特徴とする、請求項2に記載の画像信号処理装置。
【請求項4】
前記狭帯域光照射手段は、
所定の広帯域光を放射する光源と、
前記広帯域光を夫々異なる分光特性を有する狭帯域光に分光する複数種類の狭帯域光フィルタと、
前記複数種類の狭帯域光フィルタの何れか一つを指定するフィルタ指定手段と、
前記指定された狭帯域光フィルタを前記広帯域光の光路に配置するフィルタ配置手段と、
を有することを特徴とする、請求項3に記載の画像信号処理装置。
【請求項5】
所定の狭帯域光を被写体に照射する狭帯域光照射手段と、
前記狭帯域光が照射された被写体を撮影して画像信号を生成する撮影手段と、
前記撮影された被写体の表示モードを複数種類の表示モードの中から指定する表示モード指定手段と、
各前記表示モードで用いられる複数種類のカラーマトリクス係数を記憶するカラーマトリクス係数記憶手段と、
前記指定された表示モードに対応する複数種類のカラーマトリクス係数を前記カラーマトリクス係数記憶手段から取得するカラーマトリクス係数取得手段と、
前記取得された各カラーマトリクス係数を用いて前記画像信号に対して夫々異なる色変換処理を行う色変換処理実行手段と、
前記夫々異なる色変換処理が行われた各前記画像信号を合成して該各画像信号に対応する画像が一画面内に並んで配置される合成画像を生成する合成画像生成手段と、
を有することを特徴とする撮像システム。
【請求項6】
前記狭帯域光照射手段は、夫々異なる分光特性を有する複数種類の狭帯域光を前記被写体に選択的に照射し、
前記カラーマトリクス係数記憶手段は、前記狭帯域光毎に別個に関連付けられた複数種類の表示モードで用いられる複数種類のカラーマトリクス係数を記憶しており、
前記カラーマトリクス係数取得手段は、現在前記被写体に照射されている狭帯域光に関連付けられた複数種類の表示モードのうち前記指定された表示モードに対応する複数種類のカラーマトリクス係数を前記カラーマトリクス係数記憶手段から取得することを特徴とする、請求項5に記載の撮像システム。
【請求項7】
前記狭帯域光照射手段は、
所定の広帯域光を放射する光源と、
前記広帯域光を夫々異なる分光特性を有する狭帯域光に分光する複数種類の狭帯域光フィルタと、
前記複数種類の狭帯域光フィルタの何れか一つを指定するフィルタ指定手段と、
前記指定された狭帯域光フィルタを前記広帯域光の光路に配置するフィルタ配置手段と、
を有することを特徴とする、請求項6に記載の撮像システム。
【請求項8】
請求項1から請求項4の何れか一項に記載の画像信号処理装置と、
前記撮像装置である電子内視鏡と、
を有することを特徴とする電子内視鏡システム。
【請求項9】
請求項5から請求項7の何れか一項に記載の撮像システムであって、
前記狭帯域光照射手段、前記表示モード指定手段、前記カラーマトリクス係数記憶手段、前記カラーマトリクス係数取得手段、前記色変換処理実行手段、及び前記合成画像生成手段を有するプロセッサと、
前記撮影手段を有する電子内視鏡と、
を有することを特徴とする電子内視鏡システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−22219(P2013−22219A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−159479(P2011−159479)
【出願日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【出願人】(000113263)HOYA株式会社 (3,820)
【Fターム(参考)】