説明

画像処理装置、撮像装置、画像処理プログラム、および画像処理方法

【課題】撮像光学系を介して撮像された画像の撮影条件に対応する光学伝達関数または点像強度分布関数を補間することによって生成し、高精度な画像回復を行うことが可能な画像処理装置および撮像装置を提供すること
【解決手段】画像処理装置20は、撮像光学系のOTFまたはPSFの情報を撮影条件ごとに記憶する記憶部24と、前記撮像光学系を介して撮像された画像の撮影条件が前記記憶部に記憶された撮影条件に一致しない場合には前記記憶部に記憶された情報を使用して2つの異なる撮影条件の点像強度分布関数の重心位置を一致させた状態で前記画像の撮影条件に対応するOTFまたはPSFの情報を補間によって取得し、それを使用して前記画像を回復する処理を施す画像処理演算部22と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学系の収差によって劣化した画像(劣化画像)を劣化する前の画像(原画像)に回復(復元)する処理を施す画像処理装置、撮像装置、画像処理プログラム、および画像処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、光学系の収差により劣化した画像を回復する技術(以下、画像回復処理とする)が知られている。画像回復処理として、光学系のOTF(OpticalTransfer Function:光学伝達関数)またはこれとフーリエ変換の関係にある光学系のPSF(PointSpread Function:点像強度分布関数)の情報を用いる方法がある。
【0003】
OTFは、実部と虚部を持ち、一般的には2次元のデータとしてメモリ等の記憶手段に格納される。以下、この2次元のデータをOTFデータと称する。一般的な画像回復処理では、RGBのごとにOTFデータを用意するので、1像高のOTFデータは、x方向のタップ数×y方向のタップ数×2(実部、虚部)×3(色成分)となる。また、OTFやPSFは、光学系を介して形成される像の像高、光学系の焦点距離、F値、および被写体距離を含む撮影条件ごとに異なる。
【0004】
特許文献1は、任意の物体距離のメガネの光学特性を補間生成する方法を提案し、特許文献2は楕円形状のPSFを仮定し、像高位置に応じて補間生成する方法を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−308490号公報
【特許文献2】特開2003−132351号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述のようなOTFデータを色成分ごと、および撮影条件ごとに記憶すると膨大なデータ量になってしまう。そこで、本発明者は、OTFデータを代表的な撮影条件について離散的に画像処理装置(または撮像装置)に記憶させ、残りの撮影条件のOTFデータを、記憶されているOTFデータを補間して生成することを検討した。このとき、OTFデータのデータ量の削減と補間精度(画像回復精度)とはトレードオフの関係となる。
【0007】
しかしながら、補間のために用いるPSFの重心位置が一致しない状態で(即ち、OTFの位相の1次成分が一致しない状態で)PSFまたはOTFデータを補間すると、高精度な補間を行うことができない。そして、この問題の解決策について上述した従来技術は何ら提案していない。
【0008】
本発明は、あらかじめ記憶すべきOTFデータの容量を抑えつつ、高精度な画像回復を行うことが可能な画像処理装置、撮像装置、画像処理プログラム、画像処理方法を提供することを例示的な目的とする。
【0009】
以上の課題は、OTFデータを例に説明したが、PSFもOTFとはフーリエ変換の関係にあるので、PSFのデータを記憶して、画像回復処理に用いる場合も、同様の課題がある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の画像処理装置または撮像装置は、撮像光学系の光学伝達関数または点像強度分布関数の情報を、撮影条件ごとに記憶する記憶手段と、前記撮像光学系を介して撮像された画像の撮影条件が前記記憶手段に記憶された撮影条件に一致しない場合には、前記画像の撮影条件に対応する光学伝達関数の位相の2次以上の成分または点像強度分布関数の形状成分を、前記記憶手段に記憶された前記情報から得られ、互いに異なる撮影条件を有する少なくとも2つの光学伝達関数または点像強度分布関数をそれらの点像強度分布関数の重心位置が一致した状態で補間することによって生成し、補間によって生成された光学伝達関数または補間によって生成された点像強度分布関数から得られる光学伝達関数を使用して前記画像を回復する処理を行う画像処理手段と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、記憶手段の容量を抑えつつ、高精度な画像回復を行うことが可能な画像処理装置、撮像装置、画像処理プログラム、および画像処理装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1(a)は画像処理装置のブロック図であり、図1(b)は画像回復処理のフローチャートである。(実施例1)
【図2】図1(a)に示す記憶部が格納するデータの作成例を説明するための図である。(実施例1)
【図3】図1(b)に示すS16を説明するための図である。(実施例1)
【図4】デジタルカメラのブロック図である。(実施例2)
【発明を実施するための形態】
【0013】
画像回復において、実空間(x,y)上で、光学系による劣化を受ける前の原画像をf(x,y)、PSFをh(x,y)、劣化した劣化画像をg(x,y)とすると、次式が成立する。
【0014】
【数1】

【0015】
数式1にフーリエ変換を施し、実空間(x,y)から周波数空間(u,v)への変換を行うと次式が成立する。ここで、F(u,v)はf(x,y)のフーリエ変換、G(u,v)はg(x,y)のフーリエ変換、H(u,v)はh(x,y)のフーリエ変換であり、OTF(光学伝達関数)である。
【0016】
【数2】

【0017】
数式1、2から次式が成立する。
【0018】
【数3】

【0019】
このため、周波数空間上でフーリエ変換G(u,v)をH(u,v)で割ることにより、F(u,v)を得ることができ、F(u,v)に逆フーリエ変換を施せば原画像f(x,y)を得ることができる。
【0020】
上記処理は実際にはノイズを増幅させることになるため、次式で表されるウィーナー(Winner)フィルタを数式3の1/H(u,v)の代わりに用いることが知られている。ここで、Γはノイズの増幅量を低減するための定数である。
【0021】
【数4】

【0022】
数式4を、光学系の周波数と位相情報を持つOTFに積算すれば、光学系の回折や収差によって発生したPSFの位相を0にし、振幅の周波数特性を増幅することで高解像度かつ良好な画像を得ることができる。
【0023】
このため、撮像光学系の正確なOTF情報を得る必要があるが、カメラに用いられる撮像光学系は、一般にその光学性能(F値、収差等)が像高間で大きく変動する。被写体画像の劣化を補正するためには、数式4をそのままの形で周波数空間上の一括計算はできず、像高ごとに数式4を実空間上のフィルタ(画像回復フィルタ)に変換して劣化を補正する。
【0024】
画像回復フィルタを利用した画像回復においては、画像回復フィルタまたは画像回復フィルタを作成するためのOTF情報を装置に記憶させる必要がある。画像回復フィルタの情報を撮像装置内に記憶させれば画像の劣化補正に行う演算はフィルタ処理のみとなり処理は高速になるが画像回復フィルタの変更が不可能となり、劣化補正の強弱を制御することが困難となる。
【0025】
一方、画像回復フィルタを作成するためのOTF情報を記憶すれば、被写体画像の劣化の度合いに応じて自由に劣化補正の強弱を制御することができる。OTF情報にフーリエ変換を施すことによって画像回復フィルタを生成することができる。
【0026】
OTFは2次元データであり、実部と虚部を持ち、一般的な画像回復では波長をRGB3つの色成分の変数で持つため1像高のOTFデータは、x方向のタップ数×y方向のタップ数×2(実部、虚部)×3(色成分)となる。また、OTFは像高、焦点距離、F値および被写体距離からなる撮影条件ごとに異なる。従って、OTFデータを色成分ごとおよび撮影条件ごとに記憶すると膨大なデータ量になるため、現実的ではない。
【0027】
そこで、OTFデータを代表的な撮影条件について離散的に画像処理装置(または撮像装置)に記憶させ、残りの撮影条件のOTFデータを、記憶されているOTFデータを用いて補間して生成する場合を考える。このとき、OTFのデータ量の削減と補間精度(画像回復精度)とはトレードオフの関係となる。
【0028】
一般的な撮像光学系において収差の絶対量を考えると、波長間の倍率色収差に起因する波長ごとの像点の位置ズレ量は、PSFの広がりと比べて大きく、特に軸外物点になるほど顕著になる。これはOTFでは位相の1次成分に相当する。ここでOTFの位相成分とはatan(Im(OTF)/Re(OTF))であり、この1次成分を1次の位相と呼ぶ。
【0029】
しかし、同一の波長でも撮影条件によってPSF(点像)の重心位置は異なる。例えば、XY座標系で第1の位置(例えば、(0,a))に重心位置があるPSFと第2の位置(例えば、(0,b))に重心位置があるPSFからその間にある目的位置のPSFを線形補間すると補間したPSFの形状が崩れる。
【0030】
そこで、本実施形態では、PSFの形状を高精度に補間する際に、2つの重心位置を一致させた状態で(例えば、原点に移動した状態で)2つの重心位置に応じた重み付けで形状を補間している。即ち、補間時に周波数空間においてPSFの重心位置を表すOTFの位相の1次成分を除去してPSFの形状成分を表すPTFの位相の2次以上の成分を使用して補間している。
【実施例1】
【0031】
図1(a)は実施例1の画像処理装置20のブロック図である。図1(b)は画像処理装置20によって実行される実施例1の画像回復処理のフローチャートであり、「S」はステップ(工程)の略である。図1(b)に示す画像処理方法(画像処理プログラム)はコンピュータを各ステップの手段として機能させるものとして働く。
【0032】
画像処理装置20は、図1(a)ではカメラ(撮像装置)10と別体であるが、後述するようにカメラ10に一体的に設けられてもよい。カメラ10は、被写体を撮像し、撮像光学系の収差による劣化をうけた被写体画像(劣化画像)を生成する。被写体画像は撮像光学系が撮像した光学像を撮像素子が光電変換することによって生成される。
【0033】
画像処理装置20は、画像処理演算部22と記憶部24とを有し、パーソナルコンピュータとそれにインストールされたソフトウェア(画像処理プログラム)から構成されてもよい。
【0034】
画像処理演算部22は、画像回復処理を含む画像処理を実行する画像処理部(画像処理手段)であり、マイクロコンピュータ(プロセッサ)から構成されている。画像処理演算部22は、記憶部24に格納された撮像光学系の光学伝達関数(OTF)または点像強度分布関数(PSF)の情報を用いて画像を回復することができる。
【0035】
記憶部24は、画像回復処理を含む画像処理を含むプログラムと、カメラの撮像光学系のOTFまたはPSFの情報を、像高、焦点距離、F値および被写体距離からなる撮影条件ごとに記憶するメモリ(記憶手段)である。なお、本実施例は、撮影条件として像高、焦点距離、F値および被写体距離以外の他の組み合わせを妨げるものではない。記憶部24は、撮影条件の一部の組み合わせについてOTFまたはPSFの情報を記憶しているだけであるので記憶容量を小さく抑えることができる。
【0036】
本実施例では、記憶部24が記憶するOTF(OTFデータ)またはPSFの情報は、OTFの位相の1次成分が除かれた2次以上の成分またはPSFの重心位置成分が除かれた形状成分の情報である。しかし、記憶部24が記憶するOTFまたはPSFの情報はOTFの位相の1次成分またはPSFの重心位置成分を含んでもよい。この場合には、画像処理演算部22がこれを使用してOTFの位相の1次成分が除かれた2次以上の成分またはPSFの重心位置成分が除かれた形状成分の補間前情報を生成することになる。
【0037】
図2(a)、(b)は、記憶部24が記憶するデータの作成例を説明するための図である。OTFはPSFのフーリエ変換で計算できるPSFの周波数応答であり、PSFとOTFの持つ情報は等価である。PSFを得るためには、光学系の波面収差を計算してフーリエ変換を施せばよい。
【0038】
波面収差を計算する際の基準波長と参照球面の取り方は任意であるが、例えば、光学系の近軸倍率で決まる理想像点を中心に計算する場合と、実際の光学系で光線追跡した主光線の到達点を中心に計算する場合などがあり両者で取得できるPSFが異なる。
【0039】
前者ではPSFに基準波長の歪曲収差の成分が入るためPSF全体が歪曲収差分だけシフトするのに対して、後者ではPSFに基準波長の歪曲収差の成分が入らないため、PSFはシフトしない。
【0040】
本実施例では、PSF算出の際の参照球面中心をどのように設定してもよいが、参照球面の中心を主光線の到達点に取らなかった場合には、発生する基準波長の歪曲収差成分は各計算波長においてPSF計算後に除去するものとする。
【0041】
一例としてズーム可能な光学系において、焦点距離のみが異なる2つのPSFに対して、その中間の焦点距離のPSFを補間生成する場合について示す。像高間、F値間、被写体距離間におけるPSF補間においても同様の手法を用いることが可能である。
【0042】
補間に用いるPSFは単一波長でもよいが、複数の波長を任意の光源のスペクトル強度分布に応じて重み付けして足し合わせてもよい。
【0043】
まず、画像処理演算部22は、第1の撮影条件(h1,f1,F1,d1)のPSFと第2の撮影条件(h1,f2,F1,d1)のPSFを、補間に用いる2つの異なるPSFデータとして選択する。なお、補間には少なくとも2つのPSFまたはOTFが使用されれば足り、また、これらの撮影条件は異なる。補間生成されるPSFデータを画像の撮影条件(hi,fj,Fk,dl)に対応するPSFとし、像高hi、焦点距離fj、F値Fk、被写体距離dlを有する。
【0044】
第1の撮影条件(h1,f1,F1,d1)のPSFと第2の撮影条件(h1,f2,F1,d1)のように撮影条件が異なるPSFでは倍率色収差成分が異なる。第1の撮影条件(h1,f1,F1,d1)のPSFをf(x,y−a)、第2の撮影条件(h1,f2,F1,d1)のPSFをg(x,y−b)とすると倍率色収差成分によってPSFの重心位置はそれぞれy方向にa、bだけシフトしている。なお、XY座標系は数式1において説明したPSFであるh(x,y)のxy座標系と一致している。
【0045】
そのために、画像処理演算部22は、2つのPSFの最大強度位置もしくは重心位置を座標原点にシフトさせ、2つのPSFの重心位置を一致させる。なお、PSFの重心位置が一致した状態ではOTFの位相の1次成分が一致している。
【0046】
次に、画像処理演算部22は、PSFにフーリエ変換を施し、OTFへ変換して撮影条件の数だけ記憶部24に保存する。図2(a)では、実線で囲まれているように、第1の撮影条件のOTFはH1(u,v)であり、第2の撮影条件のOTFはH2(u,v)であり、これらのOTFが記憶部24に保存される。
【0047】
画像の撮影条件(h1,f3,F1,d1)に対応するOTFであるH3(u,v)を取得する場合、第1の撮影条件(h1,f1,F1,d1)と第2の撮影条件(h1,f2,F1,d1)のOTFを記憶部24から取得して重み付けして足し合わせればよい。
【0048】
例えば、h1<h2<h3なる関係にある像高において、h1とh3の像高におけるOTFからh2の像高におけるOTFを補間生成してもよい。あるいは、ズーム時の焦点距離がf1≦f2≦f3なる関係にある場合において、f1とf3の焦点距離におけるOTFからf2の焦点距離におけるOTFを補間生成してもよい。若しくは、F値がF1≦F2≦F3なる関係にある絞り状態において、F1とF3の絞り状態におけるOTFからF2の絞り状態におけるOTFを補間生成してもよい。また、被写体と撮像素子までの距離がd1≦d2≦d3なる関係にある被写体距離において、d1とd3の被写体距離におけるOTFからd2の被写体距離におけるOTFを補間生成してもよい。
【0049】
また、図2(b)のように、記憶部24は、PSFの最大強度位置もしくは重心位置を原点位置にシフトさせたPSFデータを記憶部24に記憶して上記処理を行ってもよい。即ち、図2(b)では、実線で囲まれた2つのPSF(f(x、y)とg(x、y))が記憶部24に記憶される。なお、色成分ごとのPSFのRMS値が最小となるようにPSFのシフト量を決めてもよい。
【0050】
例えば、h1<h2<h3なる関係にある像高において、h1とh3の像高におけるPSFからh2の像高におけるPSFを補間生成してもよい。あるいは、ズーム時の焦点距離がf1≦f2≦f3なる関係にある場合において、f1とf3の焦点距離におけるPSFからf2の焦点距離におけるPSFを補間生成してもよい。若しくは、F値がF1≦F2≦F3なる関係にある絞り状態において、F1とF3の絞り状態におけるPSFからF2の絞り状態におけるPSFを補間生成してもよい。また、被写体と撮像素子までの距離がd1≦d2≦d3なる関係にある被写体距離において、d1とd3の被写体距離におけるPSFからd2の被写体距離におけるPSFを補間生成してもよい。
【0051】
これはPSFで補間を行うこととOTFで補間を行うことが等価であるためである。下記に一例を示す。
【0052】
【数5】

【0053】
なお、h(x,y)は補間後の撮影条件(h1,f2,F1,d1)におけるPSFを示しており、OTF(u,v)はそのOTFを示している。
【0054】
なお、第1の撮影条件(h1,f1,F1,d1)と第2の撮影条件(h1,f2,F1,d1)のPSFの最大強度位置や、差分二乗平均平方根(RootMean Square:RMS)値が最小になるようにシフトさせてもよい。あるいは、原点ではなく別の位置に一致させてもよい。
【0055】
画像処理演算部22は、画像回復処理を開始すると撮影された画像の撮影条件が記憶部24に記憶された撮影条件と一致するかどうかを判断する(S12)。格納されていれば(S12のYes)、画像処理演算部22は、それに対応するOTFデータを用いて画像回復フィルタを作成してこれを用いて画像回復を行う(S14)。
【0056】
一方、撮像時の状況に対応するOTFが記憶部24に格納されていなければ(S12のNo)、記憶部24に格納されたOTFを用いて補間生成し(S16)、これを用いて画像回復を行う(S18)。
【0057】
図3は、S16の詳細を説明するための図である。まず、図3(a)に示すように、撮像領域を、軸上像高から最軸外像高までをN分割し、それぞれOTFを撮影条件と共に記憶させておく。撮影条件とOTFが存在しない領域は最も近接した2点の像高位置からその距離に応じた重み付けを行い補間生成する。
【0058】
撮像光学系のOTFは撮影条件に応じて異なるため、離散的に存在する実際の撮影条件とOTFのデータから被写体を撮影した際の撮影条件のOTFを補間生成する。例えば、撮影条件は、焦点距離f=20mm、F値=2.8、被写体距離d=∞などとなる。
【0059】
簡単のため、像高位置第I番目の処理について説明する。実際の撮影条件の位置を、図3(b)に示すように、焦点距離、F値、被写体距離を変数とする3次元空間の格子点上に配置する。実際にOTFデータが存在する3次元空間上の撮影条件を黒丸で示す。なお、画像が撮影された撮影条件(hI,fJ,FK,dL)を(i,j,k,l)=(I,J,K,L)と略する場合がある。
【0060】
まず、図3(b)の黒丸で示す8つの実際の撮影条件(i,j,k,l)=(I,1,1,1)、(I,2,1,1)、(I,1,1,2)、(I,2,1,2)、(I,1,2,1)、(I,2,2,1)、(I,1,2,2)、(I,2,2,2)を取得する。この時、対応するOTFも取得する。
【0061】
次に、これらを用いて、図3(b)の黒三角形に示すように、4つの第1補間撮影条件を作成する。即ち、(I,1,1,1)と(I,2,1,1)の2点のOTFから(I,J,1,1)に対応するOTFを作成し、(I,1,1,2)と(I,2,1,2)の2点のOTFから(I,J,1,2)に対応するOTFを作成する。また、(I,1,2,1)と(I,2,2,1)の2点のOTFから(I,J,2,1)に対応するOTFを作成し、(I,1,2,2)と(I,2,2,2)の2点のOTFから(I,J,2,2)に対応するOTFを作成する。
【0062】
次に、図3(b)の黒菱形に示すように、4つの第2補間撮影条件から2つの第2補間撮影条件を作成する。即ち、(I,J,1,1)と(I,J,2,1)の2点のOTFから(I,J,K,1)に対応するOTFを作成し、(I,J,1,2)と(I,J,2,2)の2点のOTFから(I,J,K,2)に対応するOTFを作成する。
【0063】
次に、2つの第2補間撮影条件(I,J,K,1)と(I,J,K,2)のOTFから画像の撮影条件(I,J,K,L)に対応するOTFを作成する。本実施例では、このように補間に際して、像高、焦点距離、F値および被写体距離のうち3つを共通にした状態で補間している。
【0064】
上記例では、焦点距離、F値、被写体距離の順にOTFデータの補間を行ったが、補間順序は特にこの順には限定されない。また、本実施例では線形な重みづけで補間処理した例をあげたが、三次関数を使用するバイキュービック補間等を用いてもよい。
【0065】
また、同様の手法を用いて実空間領域においてPSFを補間し、これに周波数変換をほどこしてOTFを得てもよい。
【0066】
S14とS18における画像回復処理では、補間されたOTFのH3(u,v)を数式3、4のH(u、v)として使用する。この時、補間されたOTFは位相の1次成分がないために撮像光学系の収差のうち倍率色収差とディストーションによる劣化を回復することができない。但し、他の収差成分による劣化を回復することはできる。
【0067】
そこで、ある実施例では、補間によって生成されたOTFまたは補間によって生成されたPSFをフーリエ変換して得られるOTFにOTFの位相の1次成分を加えてから画像を回復する処理を施す。あるいは、本実施例のS14とS18のように、画像処理演算部22は、(位相の1次成分を有しない)補間によって生成されたOTFまたは補間によって生成されたPSFをフーリエ変換して得られるOTFによって画像を回復する処理を行ってもよい。そして、図1に示す画像回復処理とは別個に、回復された画像に対して倍率色収差またはディストーションを軽減する既知の処理を施してもよい。
【0068】
図2(a)では、2つのPSFの重心位置を一致させた状態でそれぞれをフーリエ変換してOTFを生成し、その位相の2次以上の成分を補間することによってOTFを補間している。また、図2(b)では、2つのPSFの重心位置を一致させた状態で画像の撮影条件に対応するPSFの形状成分を補間によって取得し、その後、フーリエ変換して対応するOTFの位相の2次以上の成分を生成している。
【0069】
しかしながら、本発明は図2の実施例には限定されない。例えば、画像処理演算部22は、2つのPSFを重心位置が一致していない状態でそれぞれをフーリエ変換する。そして、画像処理演算部22は、フーリエ変換によって生成された2つのOTFから位相の1次成分を除去してから補間することによって画像の撮影条件に対応するOTFの位相の2次以上の成分を生成してもよい。
【0070】
また、上述したように、画像処理演算部22は、RGBの色成分別にOTFまたはPSFを補間によって生成してもよい。
【実施例2】
【0071】
図4は、実施例2のデジタルカメラ(撮像装置)のブロック図である。デジタルカメラは絞り401aとフォーカスレンズ401bを有する撮像光学系401によって被写体の光学像を形成し、撮像素子402が光学像を光電変換してアナログ電気信号に変換する。A/D変換器403がアナログ電気信号をデジタル信号に変換し、画像処理部404がこれに各種の画像処理を施す。
【0072】
各種の画像処理は、上述した画像回復処理を含んでいる。即ち、本実施例では、上述の画像処理装置は画像処理部404としてカメラ内部に組み込まれている。この場合、離散的なOTFデータ(またはPSFデータ)は記憶部408に格納されている。画像回復を含む各種の処理が施された画像は、表示部405に表示されたり、画像記録媒体409に記録される。カメラの各部はシステムコントローラ410によって制御される。
【0073】
以上、本発明の実施例について説明したが、本発明は実施例に限定されず、その要旨の範囲内で種々の変形及び変更が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明の画像処理装置はカメラなどの撮像装置が撮影した画像を回復する用途に適用することができる。
【符号の説明】
【0075】
20…画像処理装置、22、404…画像処理部、24、408…記憶部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
撮像光学系の光学伝達関数または点像強度分布関数の情報を、撮影条件ごとに記憶する記憶手段と、
前記撮像光学系を介して撮像された画像の撮影条件が、前記記憶手段に記憶された撮影条件に一致しない場合には、前記画像の撮影条件に対応する光学伝達関数の位相の2次以上の成分または点像強度分布関数の形状成分を、前記記憶手段に記憶された前記情報から得られ、互いに異なる撮影条件を有する少なくとも2つの光学伝達関数または点像強度分布関数をそれらの点像強度分布関数の重心位置が一致した状態で補間することによって生成し、補間によって生成された光学伝達関数または補間によって生成された点像強度分布関数から得られる光学伝達関数を使用して前記画像を回復する処理を行う画像処理手段と、
を有することを特徴とする画像処理装置。
【請求項2】
前記記憶手段が記憶する前記情報は、前記光学伝達関数の位相の1次成分が除かれた2次以上の成分または前記点像強度分布関数の重心位置成分が除かれた形状成分の情報であることを特徴とすることを特徴とする請求項1に記載の画像処理装置。
【請求項3】
前記記憶手段が記憶する前記情報は、前記光学伝達関数の位相の1次成分または前記点像強度分布関数の重心位置成分を含み、
前記画像処理手段は、前記記憶手段に記憶された前記情報を使用して前記光学伝達関数の位相の1次成分が除かれた2次以上の成分または前記点像強度分布関数の重心位置成分が除かれた形状成分の補間前情報を生成し、前記補間前情報を使用して補間を行うことを特徴とすることを特徴とする請求項1に記載の画像処理装置。
【請求項4】
前記画像処理手段は、前記補間によって生成された光学伝達関数または補間によって生成された点像強度分布関数をフーリエ変換して得られる光学伝達関数に前記光学伝達関数の位相の1次成分を加えてから前記画像を回復する処理を施すことを特徴とする請求項1乃至3のうちいずれか1項に記載の画像処理装置。
【請求項5】
前記画像処理手段は、前記補間によって生成された光学伝達関数または補間によって生成された点像強度分布関数をフーリエ変換して得られる光学伝達関数によって前記画像を回復する処理を施し、回復された画像に倍率色収差またはディストーションを軽減する処理を施すことを特徴とする請求項1乃至3のうちいずれか1項に記載の画像処理装置。
【請求項6】
前記画像処理手段は、異なる撮影条件の2つの点像強度分布関数の重心位置を一致させた状態でそれぞれをフーリエ変換し、フーリエ変換によって生成された2つの光学伝達関数の位相の2次以上の成分を補間することによって、前記画像の撮影条件に対応する光学伝達関数の位相の2次以上の成分を生成することを特徴とする請求項1に記載の画像処理装置。
【請求項7】
前記画像処理手段は、異なる撮影条件の2つの点像強度分布関数の重心位置を一致させた状態で前記画像の撮影条件に対応する点像強度分布関数の形状成分を補間によって取得し、その後、フーリエ変換することによって前記画像の撮影条件に対応する光学伝達関数の位相の2次以上の成分を生成することを特徴とする請求項1に記載の画像処理装置。
【請求項8】
前記画像処理手段は、異なる撮影条件の2つの点像強度分布関数を重心位置が一致していない状態でそれぞれをフーリエ変換し、フーリエ変換によって生成された2つの光学伝達関数から位相の1次成分を除去してから補間することによって、前記画像の撮影条件に対応する光学伝達関数の位相の2次以上の成分を生成することを特徴とする請求項1に記載の画像処理装置。
【請求項9】
前記画像処理手段は、RGBの色成分別に光学伝達関数または点像強度分布関数を補間によって生成することを特徴とする請求項1乃至8のうちいずれか1項に記載の画像処理装置。
【請求項10】
h1<h2<h3なる関係にある像高において、前記異なる撮影条件はh1とh3の像高を有し、前記画像の撮影条件はh2の像高を有することを特徴とする請求項1乃至9のうちいずれか1項に記載の画像処理装置。
【請求項11】
ズーム時の焦点距離がf1≦f2≦f3なる関係にある場合において、前記異なる撮影条件はf1とf3の焦点距離を有し、前記画像の撮影条件はf2の焦点距離を有することを特徴とする請求項1乃至9のうちいずれか1項に記載の画像処理装置。
【請求項12】
F値がF1≦F2≦F3なる関係にある絞り状態において、前記異なる撮影条件はF1とF3の絞り状態を有し、前記画像の撮影条件はF2の絞り状態を有することを特徴とする請求項1乃至9のうちいずれか1項に記載の画像処理装置。
【請求項13】
d1≦d2≦d3なる関係にある被写体距離において、前記異なる撮影条件はd1とd3の被写体距離を有し、前記画像の撮影条件はd2の被写体距離を有することを特徴とする請求項1乃至9のうちいずれか1項に記載の画像処理装置。
【請求項14】
前記撮影条件は、像高、焦点距離、F値、および被写体距離であることを特徴とする請求項1乃至13のうちいずれか1項に記載の画像処理装置。
【請求項15】
被写体の光学像を形成する撮像光学系と、
前記撮像光学系の光学伝達関数または点像強度分布関数の情報を、撮影条件ごとに記憶する記憶手段と、
前記撮像光学系を介して撮像された画像の撮影条件が、前記記憶手段に記憶された撮影条件に一致しない場合には、前記画像の撮影条件に対応する光学伝達関数の位相の2次以上の成分または点像強度分布関数の形状成分を、前記記憶手段に記憶された前記情報から得られ、互いに異なる撮影条件を有する少なくとも2つの光学伝達関数または点像強度分布関数をそれらの点像強度分布関数の重心位置が一致した状態で補間することによって生成し、補間によって生成された光学伝達関数または補間によって生成された点像強度分布関数から得られる光学伝達関数を使用して前記画像を回復する処理を行う画像処理手段と、
を有することを特徴とする撮像装置。
【請求項16】
記憶手段に、撮像光学系の光学伝達関数または点像強度分布関数の情報を、撮影条件ごとに記憶させ、
前記撮像光学系を介して撮像された画像の撮影条件が、前記記憶手段に記憶された撮影条件に一致しない場合には、前記画像の撮影条件に対応する光学伝達関数の位相の2次以上の成分または点像強度分布関数の形状成分を、前記記憶手段に記憶された前記情報から得られ、互いに異なる撮影条件を有する少なくとも2つの光学伝達関数または点像強度分布関数をそれらの点像強度分布関数の重心位置が一致した状態で補間することによって生成し、補間によって生成された光学伝達関数または補間によって生成された点像強度分布関数から得られる光学伝達関数を使用して前記画像を回復する処理を行う画像処理方法。
【請求項17】
コンピュータを、
撮像光学系の光学伝達関数または点像強度分布関数の情報を、撮影条件ごとに記憶手段に記憶させる手段、
前記撮像光学系を介して撮像された画像の撮影条件が、前記記憶手段に記憶された撮影条件に一致しない場合には、前記画像の撮影条件に対応する光学伝達関数の位相の2次以上の成分または点像強度分布関数の形状成分を、前記記憶手段に記憶された前記情報から得られ、互いに異なる撮影条件を有する少なくとも2つの光学伝達関数または点像強度分布関数をそれらの点像強度分布関数の重心位置が一致した状態で補間することによって生成し、補間によって生成された光学伝達関数または補間によって生成された点像強度分布関数から得られる光学伝達関数を使用して前記画像を回復する手段、
として機能させるための画像処理プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−16008(P2013−16008A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−148164(P2011−148164)
【出願日】平成23年7月4日(2011.7.4)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】