説明

異方導電性シートとその製造方法

【課題】導電路と導電路との中心間隔をより小さくして微細な中心間隔の電極に対応することができるだけでなく、電極端子の高さに高低差があっても、すべての電極端子を電気的に接触させることができる異方導電性シートを提供する。
【解決手段】電気的絶縁性を有する材料からなる絶縁シート部材4と、この絶縁シート部材4の中に保持され、両端部が絶縁シート部材4の両面に露出した状態で、絶縁シート部材4の表面から裏面にかけて伸びている互いに電気的に絶縁された複数の導電路5とを備え、導電路5は、長手方向が、互いに概ね平行になるような状態で絶縁シート部材4に保持されることにより、互いに電気的に絶縁されている柱状のカーボンナノチューブ群で構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば集積回路の検査の際などに用いられる異方導電性シートと、その製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、集積回路の検査に、図6に示すようないわゆる異方導電性シートと呼ばれる補助的導電路が集積回路と検査装置との間で用いられることがある。図6は、従来の異方導電性シート21の一例を示す斜視図である。この図に示すように、従来の異方導電性シート21は、一般に電気的絶縁性を有する材料からなる絶縁シート部材24と、この絶縁シート部材24の中に保持され、互いに電気的に絶縁された複数の導電路25とを備えている。そして、それぞれの導電路25は、両端部が絶縁シート部材24の両面に露出した状態で、絶縁シート部材24の表面から裏面にかけて伸びている。
【0003】
そのため、この異方導電性シート21は、絶縁シート部材24の表面から裏面にかけて電気を局所的かつ離散的に伝導させ、集積回路などの電子部品22に設けられた多数の電極端子22aをそれぞれに対応した検査装置23のプローブ電極23aと接続して、この集積回路を検査することができるようになっている。
【0004】
このような異方導電性シートの例として、例えば、特許文献1には、導電路25として、被覆銅線を用いて製作する異方導電性フィルムの製造方法の技術が開示されている。
【特許文献1】特開2005−135772号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述の特許文献1の異方導電性フィルムは、導通路52が柱状の固体金属である被覆銅線で構成されているので、導通路52の中心間隔はせいぜい60ミクロン程度にしか小さくすることができなかった。このため、例えば、電極端子22aの中心間隔が15ミクロン程度という微細な電気部品22などの場合は対応することができないという問題があった。
【0006】
また、導通路52が柱状の固体金属で構成されているので、電極端子22aの高さに高低差がある場合は、部分的に導通路52と電極端子22aとの間に隙間が生じるという問題があった。
【0007】
本発明は上記不具合に鑑みてなされたものであり、導電路と導電路との中心間隔をより小さくして微細な中心間隔の電極に対応することができるだけでなく、電極端子の高さに高低差があっても、すべての電極端子を電気的に接触させることができる異方導電性シートを提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するための本発明に係る異方導電性シートは、電気的絶縁性を有する材料からなる絶縁シート部材と、この絶縁シート部材の中に保持され、両端部が絶縁シート部材の両面に露出した状態で、絶縁シート部材の表面から裏面にかけて伸びている互いに電気的に絶縁された複数の導電路とを備え、上記導電路は、長手方向が、互いに概ね平行になるような状態で絶縁シート部材に保持されることにより、互いに電気的に絶縁されている柱状のカーボンナノチューブ群で構成されていることを特徴とするものである。
【0009】
本発明によれば、互いに電気的に絶縁された複数の導電路が、絶縁シート部材の表面から裏面にかけて伸びているので、局所的かつ離散的に表面から裏面にかけて電気を伝導させることができるようになる。
【0010】
特に、この導電路が、柱状のカーボンナノチューブ群で構成されているので、導電路と導電路との中心間隔をより小さくすることができる結果、微細な中心間隔の電極に対応することができるようになる。
【0011】
また、カーボンナノチューブ群は、弾力的に撓むことにより両端部が容易に絶縁シート部材の厚み方向に変位することができるので、電極端子の高さに高低差があっても、電気部品を絶縁シート部材に押し付けることによりすべての電極端子を電気的に接触させることができるようになる。
【0012】
ここで、上記絶縁シート部材は、弾力性を有していることが好ましい。
【0013】
このようにすれば、絶縁シート部材が、弾力性を有しているので、カーボンナノチューブ群の自由な撓みを妨げることがない結果、電気部品の電極端子とカーボンナノチューブ群との間に過剰な応力が発生しない良好な電気的接触を実現することができる。
【0014】
ここで、上記絶縁シート部材は、合成樹脂を主成分とするものであることが好ましい。
【0015】
このようにすれば、絶縁シート部材が合成樹脂を主成分とするので、適度な弾力性を有する絶縁シート部材とすることができる結果、電気部品の電極端子とカーボンナノチューブ群との間に適度な電気的接触を実現することができる。
【0016】
特に、上記合成樹脂は、シリコンゴムを主成分とするものであることが好ましい。
【0017】
このようにすれば、絶縁シート部材がシリコンゴムを主成分とするので、適度な弾力性を有するだけでなく、電気絶縁性と化学安定性とに富んだ絶縁シート部材とすることができる。
【0018】
また、隣接する上記カーボンナノチューブ群同士の中心間隔は、15ミクロン以下であることが好ましい。
【0019】
このようにすれば、電極端子の中心間隔が数十ミクロン程度という微細な電気部品であっても対応可能な絶縁シート部材を実現することができる。
【0020】
また、上記課題を解決するための本発明に係る異方導電性シートの製造方法は、電気的絶縁性を有する材料からなる絶縁シート部材と、この絶縁シート部材の中に保持され、両端部が絶縁シート部材の両面に露出した状態で、長手方向が絶縁シート部材の表面から裏面にかけて伸びている互いに電気的に絶縁された複数の導電路とを備えた異方導電性シートの製造方法であって、上記導電路を形成する導電路形成工程と、上記絶縁シート部材を形成する絶縁シート部材形成工程とを含み、上記導電路形成工程は、上記導電路を構成するカーボンナノチューブ群がそれぞれその上で成長することができる複数のベース部を基板上に形成するベース形成工程と、この複数のベース部の上にそれぞれカーボンナノチューブ群を成長させるカーボン成長工程とを含み、上記絶縁シート部材形成工程は、成長した上記カーボンナノチューブ群の間に流動化された合成樹脂を充填する充填工程と、この合成樹脂を硬化させる硬化工程と、この硬化した合成樹脂と、この合成樹脂に保持されるカーボンナノチューブ群とを、基板から離型する離型工程と、カーボンナノチューブ群の両端部を合成樹脂から露出させてカーボンナノチューブ群の端部を形成する端部形成工程とを含むことを特徴とするものである。
【0021】
本発明によれば、上記ベース形成工程とカーボン成長工程とを実施することにより、ベース部を基板上に形成するとともにこのベース部の上にカーボンナノチューブ群の導電路を成長させることができるので、微細な導電路を形成することができるようになる。
【0022】
また、上記充填工程と、硬化工程と、離型工程とを実施することにより、カーボンナノチューブ群の間に合成樹脂を充填して硬化させ、弾力性を有する絶縁シート部材を形成することができるようになる。また、上記端部形成工程を実施することにより、カーボンナノチューブ群の両端に導電路の端部を形成することができるようになる。
【0023】
このように、本発明に係る異方導電性シートの製造方法によれば、互いに電気的に絶縁された複数の導電路が、絶縁シート部材の表面から裏面にかけて伸びるように形成することができるので、局所的かつ離散的に表面から裏面にかけて電気を伝導させることができる異方導電性シートを製造することができるようになる。
【0024】
特に、導電路を、柱状のカーボンナノチューブ群で構成するので、導電路と導電路との中心間隔をより小さくすることができる結果、微細な中心間隔の電極に対応した異方導電性シートを製造することができる。
【0025】
また、カーボンナノチューブ群は、弾力的に撓むことにより両端部が容易に絶縁シート部材の厚み方向に変位することができるので、電極端子の高さに高低差があっても、すべての電極端子を電気的に接触させることができる異方導電性シートを製造することができる。
【0026】
また、カーボンナノチューブ群の間の合成樹脂が、弾力的に変形し、カーボンナノチューブ群の自由な撓みを妨げることがないので、電極端子とカーボンナノチューブ群との良好な電気的接触を実現することができる異方導電性シートを製造することができる。
【0027】
ここで、上記ベース形成工程は、基板上にフォトレジスト層を設けるフォトレジスト形成工程と、このフォトレジスト層をベース部のパターンに合わせて形成されたマスクで覆うとともに、このマスクの上から光を照射することによりベース部のパターン以外のフォトレジスト層を露光する露光工程と、フォトレジスト層を現像してベース部のパターンの未露光フォトレジスト層を取り除き、ベース部のパターンに基板を露出させる現像工程と、露光フォトレジスト層と基板の露出部分とを含む基板表面全体にベース成分を蒸着させて基板全体にベース層を形成するベース成分蒸着工程と、露光フォトレジスト層を取り除くことにより、この露光フォトレジスト層の上のベース層を取り除いて、ベース部のパターンのベース層を残して基板上にベース部を形成するリフトオフ工程とを含むことが好ましい。
【0028】
このようにすれば、上記の露光工程、現像工程、ベース成分蒸着工程、リフトオフ工程を行うことにより、マスクのパターンに合わせて基板上に微細なベース部を形成することができるようになる。
【0029】
また、上記カーボン成長工程は、化学気相成長法により上記ベース部の上にカーボンナノチューブ群を生成させるものであることが好ましい。
【0030】
このようにすれば、成膜制御が容易な化学気相成長法によりベース部の上にカーボンナノチューブ群を生成させるので、寸法や密度など、さまざまな仕様の中から所望のカーボンナノチューブ群を得ることができる。また、化学気相成長法によれば得られたカーボンナノチューブ群の品質が安定しているので、製品の歩留まりが良い。
【0031】
また、上記絶縁シート部材形成工程は、上記充填工程の後、合成樹脂の上から板材を型押しして合成樹脂の上面を形成する工程と、上記硬化工程の後、上記板材を合成樹脂の上面から取り除く工程とを含んでいることが好ましい。
【0032】
このようにすれば、合成樹脂を充填した後、合成樹脂の上から板材を型押しして合成樹脂の上面を形成するとともに、合成樹脂の硬化後、板材を合成樹脂の上面から取り除いて絶縁シート部材を形成することができるので、絶縁シート部材の表面を精度良く平面状に形成することができる。
【0033】
また、上記端部形成工程は、プラズマアッシングにより、合成樹脂の両面を削り取ってカーボンナノチューブ群の両端部の端部形成を行う工程を含んでいることが好ましい。
【0034】
このようにすれば、微細な研削制御が可能なプラズマアッシングにより、合成樹脂の両面を削り取ってカーボンナノチューブ群の両端部の端部形成を行うので、カーボンナノチューブ群の両端部の微細な端部形成を精度良く行うことができる。
【0035】
上記基板は、シリコンウェハーであることが好ましい。
【0036】
このようにすれば、異方導電性シートの製造に係る種々の化学的処理に対してほとんど影響を受けることがない化学的に安定なシリコンウェハーで基板を構成するので、異方導電性シートの品質を維持することができる結果、大量に異方導電性シートを生産することができるようになる。
【0037】
上記ベース成分は、鉄を主成分とするものであることが好ましい。
【0038】
このようにすれば、ベース成分が鉄を主成分とするものであるので、カーボンナノチューブ群をベースの上に容易に安定して成長させることができる。
【0039】
上記合成樹脂は、シリコンゴム系の合成樹脂を主成分とするものであることが好ましい。
【0040】
このようにすれば、絶縁シート部材がシリコンゴムを主成分とするので、適度な弾力性を有するだけでなく電気絶縁性と化学安定性とに富んだ絶縁シート部材とすることができる。
【0041】
上記板材は、ガラス板であることが好ましい。
【0042】
このようにすれば、製造に係る種々の化学的処理に対してほとんど影響を受けることがない化学的に安定なガラス板で基板を構成するので、異方導電性シートの品質を維持することができる結果、大量に異方導電性シートを生産することができるようになる。
【発明の効果】
【0043】
以上説明したように、本発明によれば、導電路が、柱状のカーボンナノチューブ群で構成されているので、導電路と導電路との中心間隔をより小さくすることができる結果、微細な中心間隔の電極に対応することができるようになる。
【0044】
また、カーボンナノチューブ群は、弾力的に撓むことにより両端部が容易に絶縁シート部材の厚み方向に変位することができるので、電極端子の高さに高低差があっても、電気部品を絶縁シート部材に押し付けることによりすべての電極端子を電気的に接触させることができるようになるという顕著な効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0045】
以下、添付図面を参照しながら本発明の好ましい実施の一形態について詳述する。図1は、本発明の実施の形態に係る異方導電性シート1の概略の構成を示す斜視図であり、図2は、異方導電性シート1の概略の構成を示す断面図である。
【0046】
図1と図2とを参照して、図示の本発明の第1の実施の形態に係る異方導電性シート1は、集積回路である電子部品2の検査の際に、電子部品2と検査装置3との間で用いられるものであり、絶縁シート部材4と、この絶縁シート部材4の中に保持された複数の導電路5とを備えている。そして、この異方導電性シート1は、絶縁シート部材4の表面から裏面にかけて電気を局所的かつ離散的に伝導させ、集積回路などの電子部品2に設けられた多数の電極端子2aをそれぞれに対応した検査装置3のプローブ電極3aと接続して、この電子部品2を検査することができるように構成されている。
【0047】
上記電子部品2と検査装置3との組み合わせは、例えば携帯電話の画像制御用の超小型集積回路とその検査装置の組み合わせなどが挙げられる。
【0048】
上記絶縁シート部材4は、合成樹脂からなる薄いシート状の平板であり、本実施形態では、弾力性と電気的絶縁性とを有する材料としてシリコンゴムが用いられる。
【0049】
上記複数の導電路5は、長手方向が、互いに概ね平行になるような状態で絶縁シート部材4に保持されることにより、互いに電気的に絶縁されている柱状のカーボンナノチューブ群5aで構成されており、この導電路5は、両端部が絶縁シート部材4の両面に露出した状態で、絶縁シート部材4の表面から裏面にかけて絶縁シート部材4の面に対して概ね垂直に伸びている。そして、隣接するこのカーボンナノチューブ群5a同士の中心間隔と、検査装置3のプローブ電極3a同士の中心間隔とは、それぞれ約15ミクロンとなっている。
【0050】
ここで、図3を参照して、本発明の実施の形態に係る異方導電性シート1の作用について説明する。図3は、異方導電性シート1の作用を説明する断面図であり、異方導電性シート1が、電子部品2に設けられた多数の電極端子2aと検査装置3のプローブ電極3aとを電気的に接続している状態を示している。
【0051】
図3に示すように、図示の本発明の実施の形態に係る異方導電性シート1においては、互いに電気的に絶縁された複数の導電路5が、絶縁シート部材4の表面から裏面にかけて伸び、局所的かつ離散的に表面から裏面にかけて電気を伝導させるので、集積回路などの電子部品2に設けられた多数の電極端子2aをそれぞれに対応した検査装置3のプローブ電極3aと接続して、この電子部品2を検査することができるようになっている。
【0052】
また、カーボンナノチューブ群5aからなる導電路5が、弾力的に撓むことにより両端部が容易に絶縁シート部材4の厚み方向に変位して電極端子2aのそれぞれの高低差を吸収している。
【0053】
さらに、絶縁シート部材4が、弾力性を有しているので、カーボンナノチューブ群5aの自由な撓みを妨げないようになっている。
【0054】
以上説明したように、本実施形態に係るによれば、互いに電気的に絶縁された複数の導電路5が、絶縁シート部材4の表面から裏面にかけて伸びているので、局所的かつ離散的に表面から裏面にかけて電気を伝導させることができるようになる。
【0055】
特に、この導電路5が、柱状のカーボンナノチューブ群5aで構成されているので、導電路5と導電路5との中心間隔をより小さくすることができる結果、微細な中心間隔の電極に対応することができるようになる。
【0056】
また、カーボンナノチューブ群5aは、弾力的に撓むことにより両端部が容易に絶縁シート部材4の厚み方向に変位することができるので、電極端子2aの高さに高低差があっても、電気部品2を絶縁シート部材4に押し付けることによりすべての電極端子2aを電気的に接触させることができるようになる。
【0057】
また、絶縁シート部材4が、弾力性を有しているので、カーボンナノチューブ群5aの自由な撓みを妨げることがない結果、電気部品2の電極端子2aとカーボンナノチューブ群5aとの間に過剰な応力が発生しない良好な電気的接触を実現することができる。
【0058】
さらに、絶縁シート部材4が合成樹脂を主成分とするので、適度な弾力性を有する絶縁シート部材4とすることができる結果、電気部品2の電極端子2aとカーボンナノチューブ群5aとの間に適度な電気的接触を実現することができる。
【0059】
そして、絶縁シート部材4がシリコンゴムを主成分とするので、適度な弾力性を有するだけでなく、電気絶縁性と化学安定性とに富んだ絶縁シート部材4とすることができる。
【0060】
また、電極端子2aの中心間隔が15ミクロン程度という微細な電気部品2であっても対応可能な絶縁シート部材4を実現することができる。
【0061】
ここで、図4と図5とを参照して、本発明の実施の形態に係る異方導電性シート1の製造方法について説明する。図4は、導電路形成工程の概略を示す説明図であり、図5は、絶縁シート部材形成工程の概略を示す説明図である。
【0062】
まず、図4を参照して、異方導電性シート1の導電路形成工程は、図4(a)〜(d)のベース形成工程と、図4(e)のカーボン成長工程とを含んでおり、ベース形成工程において、導電路5を構成するカーボンナノチューブ群5aがそれぞれその上で成長することができる複数のベース部6を基板7上に形成する(ベース部6は、カーボンナノチューブ5aが成長するための触媒として作用する)。そして、カーボン成長工程において、ベース部6の上にそれぞれカーボンナノチューブ群5aを成長させる。
【0063】
ここで、上記ベース形成工程は、次の通りである。すなわち、まず、図略のフォトレジスト形成工程において、基板7上にフォトレジスト層7aを設ける。この時、基板7は、シリコンウェハーが用いられる。
【0064】
次に、図4(a)の露光工程において、このフォトレジスト層7aをベース部6のパターンに合わせて形成されたマスク8で覆うとともに、このマスク8の上から光9を照射することにより、ベース部6のパターン以外のフォトレジスト層7aを露光する。この時、マスク8は、光9を透過させるガラス8aに光9を遮る転写パターン8bが描かれたものである。
【0065】
また、図4(b)の現像工程において、フォトレジスト層7aを現像してベース部6のパターンの未露光フォトレジスト層を取り除き、ベース部6のパターンに基板7を露出させる。
【0066】
その後、図4(c)のベース成分蒸着工程において、露光フォトレジスト層7aと基板7の露出部分とを含む基板7表面全体にベース成分を蒸着させて基板7全体にベース層6aを形成する。この時、ベース成分としては、鉄が用いられ、4±0.5ナノメータの厚みのベース層6aに成層される。
【0067】
そして、図4(d)のリフトオフ工程において、露光フォトレジスト層7aを取り除くことにより、この露光フォトレジスト層7aの上のベース層6aを取り除いて、ベース部6のパターンのベース層6aを残し、基板7上にベース部6を形成する。
【0068】
そして、この後、図4(e)のカーボン成長工程において、ベース部6の上にそれぞれカーボンナノチューブ群5aを化学気相成長法(熱CVD法)により所定の長さとして約100ミクロンの長さに生成させる。この時、カーボンナノチューブの原料としては、アセチレンガスが用いられ、ベース部6、基板7などは約700℃に保たれる。
【0069】
次に、図5を参照して、上記絶縁シート部材形成工程は、次の通りである。すなわち、まず、図5(a)の充填工程において、成長したカーボンナノチューブ群5aの間に流動化された合成樹脂4aを充填する。この時、本実施形態では、上記合成樹脂4aとして、シリコンゴム系の合成樹脂を有機溶媒で溶解して流動化させたものが用いられる。
【0070】
次に、図5(b)の硬化工程において、この合成樹脂4aに熱を加えて有機溶媒を蒸発させ、硬化させるが、この時、合成樹脂4aの上から板材11を型押しして合成樹脂4aの上面を形成する。なお、上記板材11としては、熱を加えても変形せず、化学的にも安定なガラス板が用いられる。また、この板材11は、この硬化工程の後、合成樹脂4aの上面から取り除かれる。
【0071】
その後、図5(c)の離型工程において、この硬化した合成樹脂4aと、この合成樹脂4aに保持されるカーボンナノチューブ群5aとを、基板7から離型する。
【0072】
そして、図5(d)の端部形成工程において、カーボンナノチューブ群5aの両端部を合成樹脂4aから露出させてカーボンナノチューブ群5aの端部を形成するが、この時、プラズマアッシングにより、合成樹脂4aの両面を削り取ってカーボンナノチューブ群5aの両端部の端部形成を行う。
【0073】
以上説明したように、本発明に係る異方導電性シート1の製造方法によれば、上記ベース形成工程とカーボン成長工程とを実施することにより、ベース部6を基板7上に形成するとともにこのベース部6の上にカーボンナノチューブ群5aの導電路5を成長させることができるので、微細な導電路5を形成することができるようになる。
【0074】
また、上記充填工程と、硬化工程と、離型工程とを実施することにより、カーボンナノチューブ群5aの間に合成樹脂4aを充填して硬化させ、弾力性を有する絶縁シート部材4を形成することができるようになる。また、上記端部形成工程とを実施することにより、カーボンナノチューブ群5aの両端に導電路5の端部を形成することができるようになる。
【0075】
このように、本発明に係る異方導電性シート1の製造方法によれば、互いに電気的に絶縁された複数の導電路5が、絶縁シート部材4の表面から裏面にかけて伸びるようにすることができるので、局所的かつ離散的に表面から裏面にかけて電気を伝導させることができる異方導電性シート1を製造することができるようになる。
【0076】
特に、導電路5を、柱状のカーボンナノチューブ群5aで構成するので、導電路5と導電路5との中心間隔をより小さくすることができる結果、微細な中心間隔の電極に対応した異方導電性シート1を製造することができる。
【0077】
また、カーボンナノチューブ群5aは、弾力的に撓むことにより両端部が容易に絶縁シート部材4の厚み方向に変位することができるので、電極端子2aの高さに高低差があっても、すべての電極端子2aを電気的に接触させることができる異方導電性シート1を製造することができる。
【0078】
また、カーボンナノチューブ群5aの間の合成樹脂4aが、弾力的に変形し、カーボンナノチューブ群5aの自由な撓みを妨げることがないので、電極端子2aとカーボンナノチューブ群5aとの良好な電気的接触を実現することができる異方導電性シート1を製造することができる。
【0079】
また、上記の露光工程、現像工程、ベース成分蒸着工程、リフトオフ工程を行うことにより、マスク8のパターンに合わせて基板7上に微細なベース部6を形成することができるようになる。
【0080】
また、成膜制御が容易な化学気相成長法によりベース部6の上にカーボンナノチューブ群5aを生成させるので、寸法や密度など、さまざまな仕様の中から所望のカーボンナノチューブ群5aを得ることができる。また、化学気相成長法によれば得られたカーボンナノチューブ群5aの品質が安定しているので、製品の歩留まりが良い。
【0081】
また、合成樹脂4aを充填した後に上から板材11を型押しして合成樹脂4aの上面を形成するとともに、合成樹脂4aの硬化後に板材11を上面から取り除くことにより、絶縁シート部材4を形成することができるので、絶縁シート部材4の表面を精度良く平面状に形成することができるようになる。
【0082】
また、微細な研削制御が可能なプラズマアッシングにより、合成樹脂4aの両面を削り取ってカーボンナノチューブ群5aの両端部の端部形成を行うので、カーボンナノチューブ群5aの両端部の微細な端部形成を精度良く行うことができる。
【0083】
また、異方導電性シート1の製造に係る種々の化学的処理に対してほとんど影響を受けることがない化学的に安定なシリコンウェハーで基板7を構成するので、異方導電性シート1の品質を維持することができる結果、大量に異方導電性シート1を生産することができるようになる。
【0084】
また、ベース成分が鉄を主成分とするものであるので、カーボンナノチューブ群5aをベースの上に容易に安定して成長させることができる。
【0085】
また、絶縁シート部材4がシリコンゴムを主成分とするので、適度な弾力性を有するだけでなく電気絶縁性と化学安定性とに富んだ絶縁シート部材4とすることができる。
【0086】
また、製造に係る種々の化学的処理に対してほとんど影響を受けることがない化学的に安定なガラス板で基板7を構成するので、異方導電性シート1の品質を維持することができる結果、大量に異方導電性シート1を生産することができるようになる。
【0087】
上述した実施の形態は本発明の好ましい具体例を例示したものに過ぎず、本発明は上述した実施の形態に限定されない。
【0088】
例えば、本発明の実施の形態に係る異方導電性シート1は、集積回路の検査の際に、集積回路と検査装置3との間で用いられるものに限定されない。集積回路と本体装置との間で採用されてもよいなど、種々の電気的接続に適用可能である。
【0089】
次に、絶縁シート部材4は、シリコンゴムを主成分とするものに限らない。弾力性と電気的絶縁性とを有する材料であれば、種々の設計変更が可能である。また必ずしも薄いシート状の平板に限らず、立体的な形状を有した部材であってもよい。
【0090】
また、カーボンナノチューブ群5a同士の中心間隔は、約15ミクロンに限定されず、種々の設計変更が可能である。
【0091】
次に、本発明の実施の形態に係る異方導電性シート1の製造方法のベース形成工程においても、基板7は、シリコンウェハーでなくともよい。また、硬化工程において合成樹脂4aの上面を形成する板材11も、ガラス板でなくともよい。それぞれ例えば化学的あるいは熱的に安定であるなど異方導電性シート1の製造工程に適した材料であれば、種々の材料が採用可能である。
【0092】
また、ベース成分蒸着工程において、ベース成分も、鉄に限定されない。カーボンナノチューブ5aが成長するための触媒として作用するものであれば、ベース部6は、アルミ、チタン、コバルトなど種々の材料が採用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0093】
【図1】本発明の実施の形態に係る異方導電性シートの概略の構成を示す斜視図である。
【図2】異方導電性シートの概略の構成を示す断面図である。
【図3】異方導電性シートの作用を説明する断面図であり、異方導電性シートが、電子部品に設けられた多数の電極端子と検査装置のプローブ電極とを電気的に接続している状態を示している。
【図4】導電路形成工程の概略を示す説明図である。
【図5】絶縁シート部材形成工程の概略を示す説明図である。
【図6】従来の異方導電性シートの一例を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0094】
1 異方導電性シート
4 絶縁シート部材
4a 合成樹脂
5 導電路
5a カーボンナノチューブ群
6 ベース部
6a ベース層
7 基板
7a フォトレジスト層
8 マスク
9 光
11 板材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気的絶縁性を有する材料からなる絶縁シート部材と、
この絶縁シート部材の中に保持され、両端部が絶縁シート部材の両面に露出した状態で、絶縁シート部材の表面から裏面にかけて伸びている互いに電気的に絶縁された複数の導電路とを備え、
上記導電路は、長手方向が、互いに概ね平行になるような状態で絶縁シート部材に保持されることにより、互いに電気的に絶縁されている柱状のカーボンナノチューブ群で構成されていることを特徴とする異方導電性シート。
【請求項2】
上記絶縁シート部材は、弾力性を有していることを特徴とする請求項1に記載の異方導電性シート。
【請求項3】
上記絶縁シート部材は、合成樹脂を主成分とするものであることを特徴とする請求項1または請求項2のいずれかに記載の異方導電性シート。
【請求項4】
上記合成樹脂は、シリコンゴムを主成分とするものであることを特徴とする請求項3に記載の異方導電性シート。
【請求項5】
隣接する上記カーボンナノチューブ群同士の中心間隔は、15ミクロン以下であることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の異方導電性シート。
【請求項6】
電気的絶縁性を有する材料からなる絶縁シート部材と、この絶縁シート部材の中に保持され、両端部が絶縁シート部材の両面に露出した状態で、長手方向が絶縁シート部材の表面から裏面にかけて伸びている互いに電気的に絶縁された複数の導電路とを備えた異方導電性シートの製造方法であって、
上記導電路を形成する導電路形成工程と、上記絶縁シート部材を形成する絶縁シート部材形成工程とを含み、
上記導電路形成工程は、
上記導電路を構成するカーボンナノチューブ群がそれぞれその上で成長することができる複数のベース部を基板上に形成するベース形成工程と、
この複数のベース部の上にそれぞれカーボンナノチューブ群を成長させるカーボン成長工程とを含み、
上記絶縁シート部材形成工程は、
成長した上記カーボンナノチューブ群の間に流動化された合成樹脂を充填する充填工程と、
この合成樹脂を硬化させる硬化工程と、
この硬化した合成樹脂と、この合成樹脂に保持されるカーボンナノチューブ群とを、基板から離型する離型工程と、
カーボンナノチューブ群の両端部を合成樹脂から露出させてカーボンナノチューブ群の端部を形成する端部形成工程とを含むことを特徴とする異方導電性シートの製造方法。
【請求項7】
上記ベース形成工程は、
基板上にフォトレジスト層を設けるフォトレジスト形成工程と、
このフォトレジスト層をベース部のパターンに合わせて形成されたマスクで覆うとともに、このマスクの上から光を照射することによりベース部のパターン以外のフォトレジスト層を露光する露光工程と、
フォトレジスト層を現像してベース部のパターンの未露光フォトレジスト層を取り除き、ベース部のパターンに基板を露出させる現像工程と、
露光フォトレジスト層と基板の露出部分とを含む基板表面全体にベース成分を蒸着させて基板全体にベース層を形成するベース成分蒸着工程と、
露光フォトレジスト層を取り除くことにより、この露光フォトレジスト層の上のベース層を取り除いて、ベース部のパターンのベース層を残して基板上にベース部を形成するリフトオフ工程と
を含むことを特徴とする請求項6に記載の異方導電性シートの製造方法。
【請求項8】
上記カーボン成長工程は、化学気相成長法により上記ベース部の上にカーボンナノチューブ群を生成させるものであることを特徴とする請求項6または請求項7のいずれかに記載の異方導電性シートの製造方法。
【請求項9】
上記絶縁シート部材形成工程は、
上記充填工程の後、合成樹脂の上から板材を型押しして合成樹脂の上面を形成する工程と、
上記硬化工程の後、上記板材を合成樹脂の上面から取り除く工程と
を含んでいることを特徴とする請求項6ないし請求項8のいずれかに記載の異方導電性シートの製造方法。
【請求項10】
上記端部形成工程は、プラズマアッシングにより、合成樹脂の両面を削り取ってカーボンナノチューブ群の両端部の端部形成を行う工程を含んでいることを特徴とする請求項6ないし請求項9のいずれかに記載の異方導電性シートの製造方法。
【請求項11】
上記基板は、シリコンウェハーであることを特徴とする請求項6ないし請求項10のいずれかに記載の異方導電性シートの製造方法。
【請求項12】
上記ベース成分は、鉄を主成分とするものであることを特徴とする請求項6ないし請求項11のいずれかに記載の異方導電性シートの製造方法。
【請求項13】
上記合成樹脂は、シリコンゴム系の合成樹脂を主成分とするものであることを特徴とする請求項6ないし請求項12のいずれかに記載の異方導電性シートの製造方法。
【請求項14】
上記板材は、ガラス板であることを特徴とする請求項9ないし請求項13のいずれかに記載の異方導電性シートの製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2007−188841(P2007−188841A)
【公開日】平成19年7月26日(2007.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−7855(P2006−7855)
【出願日】平成18年1月16日(2006.1.16)
【出願人】(505127721)公立大学法人大阪府立大学 (688)
【出願人】(301071413)株式会社 セルバック (9)
【Fターム(参考)】