発酵ソバ抽出物
【課題】血圧降下作用を有し、機能性健康食品あるいは医薬品組成物として有用なソバ抽出物を提供する。
【解決手段】ソバ植物体を発酵処理して得られる発酵ソバの抽出物、より詳しくはソバ植物体、好ましくは発芽して間もないソバ幼植物体の破砕物を乳酸菌を用いて発酵処理して得られる発酵ソバ上清の水溶性抽出物を、ODSカラムで分画して得られる、新規な発酵ソバ抽出物、当該抽出物または少なくともその一部を有効成分として含有する機能性健康食品あるいは医薬品組成物に関する。
【解決手段】ソバ植物体を発酵処理して得られる発酵ソバの抽出物、より詳しくはソバ植物体、好ましくは発芽して間もないソバ幼植物体の破砕物を乳酸菌を用いて発酵処理して得られる発酵ソバ上清の水溶性抽出物を、ODSカラムで分画して得られる、新規な発酵ソバ抽出物、当該抽出物または少なくともその一部を有効成分として含有する機能性健康食品あるいは医薬品組成物に関する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血圧降下作用および血管拡張作用を有し、機能性健康食品あるいは医薬品組成物として有用なソバ抽出物、具体的には、ソバ植物体、好ましくは発芽して間もないソバ幼植物体の破砕物を発酵処理して得られる発酵ソバ上清の水溶性抽出物であって、以下に示すHPLC分析条件(1)で保持時間約18分〜約21分の範囲においてほぼ単一のピーク(ピークY)として検出される成分(成分Y)を含むことを特徴とする抽出物に関するものである。なお、本発明でのHPLC分析は、全て以下のHPLC分析機器で行った。
HPLC分析機器
HPLCシステム:Prominence (株式会社島津製作所)
構成 ワークステーション:LC-solution
システムコントローラー:CBM-20A
送液ユニット:LC-20AD
カラムオーブン:CTO-10A
検出器:SPD-M20A
HPLC分析条件 (1)
カラム:CHEMCOBOND
5-ODS-W (4.6×150 mm, 5 micro
m)
移動相:トリフルオロ酢酸(TFA)含有水(pH 2.0)
流速:0.8 ml/min
分離温度:30度(C)
検出波長:215 nm
【0002】
また本発明は、当該抽出物に含まれる、血圧降下作用および血管拡張作用成分のオリゴペプチドに関するものである。さらに本発明は、当該抽出物または当該抽出物に含まれる血圧降下作用および血管拡張作用成分を活性成分として含有する食品または医薬組成物に関するものである。なお、本発明でのアミノ酸およびペプチドを構成しているアミノ酸は全てL体である。
【背景技術】
【0003】
ソバは、ルチンを始めとするポリフェノール等の成分を含む食品として知られ、各種食品に加工され、食されている。また、近年特に、その機能性が注目され、機能性健康食品や医薬品への応用も数多く提案されている。
【0004】
例えば、血管拡張作用を有するソバ由来化合物(特許文献1)、ダッタンソバ抽出物とキレート剤および/または抗酸化剤を配合した美白化粧料(特許文献2)などが報告されている。これらはいずれもソバの実の抽出物であり、本発明のソバ植物体発酵物の抽出物とは当然、成分が異なるものである。
【0005】
また、ソバ植物体の抽出物として、結実前のソバの若株粉末と甘草または甘草抽出物のうち少なくとも一種を含む機能性食品も報告されている。(特許文献3)
このソバ抽出物は、本発明のようなソバ植物体発酵物の抽出物ではなく、しかも、結実前のソバの若株の粉末そのものであり、上記と同様に、本発明の抽出物とは含有する成分が異なるものである。
【0006】
さらにまた、ソバ植物体の発酵物に関するものとして、ソバの葉、茎および根から選ばれた少なくとも一種を含む原料を搾汁し、加熱殺菌後、乳酸菌により発酵した発酵液を凍結乾燥して得た抗アレルギー性化粧料組成物およびソバ抽出物含有固形組成物が報告されている。(特許文献4、5)
【0007】
この組成物は、ソバの葉、茎および根から選ばれた少なくとも1種の搾汁を乳酸菌発酵した発酵液の凍結乾燥品であり、上記と同様に、本発明の抽出物とは含有成分が異なるものである。しかも、この組成物は、血流改善、血行促進作用、血圧の正常化など、血管拡張作用あるいは血圧降下作用に基づくと思われる作用効果も記載されてはいるが、冷え症、しもやけの予防、肌荒れ、乾燥肌、アトピー性皮膚炎や花粉症などのアレルギー性疾患の改善、静脈瘤の改善、育毛・増毛効果、肩こり、腰痛、関節炎の解消、動脈硬化改善、気管支喘息の改善、貧血予防、生理痛の緩和、生理前の胸の張りの緩和、生理による於血の正常化、不眠症の改善、虫刺されによるかゆみ止め、視力向上、人工透析患者の貧血防止作用、カリウム低下作用、体重維持、体調維持作用など幅広い生理作用を有し、アレルギーや生活習慣病の症状改善効果を示す機能性食品に利用されるものであり、本発明の抽出物とは作用効果においても異なっている。
【0008】
また、血圧降下作用あるいは、ACE阻害作用を有するペプチド類として、ソバの脱穀種子またはそば粉の水溶性溶出物から単離されるアンジオテンシン−I変換酵素阻害活性を示す物質が報告されている(特許文献6)。
しかしながら、この成分は、本発明の血圧降下作用および血管拡張作用活性成分のペプチドとは全く化学構造が異なるものである。
【0009】
さらにまた、ACE阻害ペプチドとして、亜麻、アブラナ、大豆などの種子の粗びき粉から抽出されたVal-Ser-ValおよびPhe-Leuなどのペプチド(特許文献7)、あるいは、燕麦の粉末から抽出されたVIEPQGL、NIVQMSATR、VQVVNNNGQTVF、IVPQHFなどのペプチド(特許文献8)、などが報告されている。
しかしながら、これらのペプチドも本発明の血圧降下作用および血管拡張作用活性成分のペプチドとは全く異なるものである。
【0010】
本発明者らは、先に、ソバ発芽体搾汁の発酵物をそのまま凍結乾燥して得た粉末がACE阻害作用を示すことを見出し、当該粉末からなる機能性食品や、ソバの芽の搾汁を発酵して得た上清液からなる機能性飲料を報告している。(特許文献9)
この食品や、飲料は、ソバ発芽体搾汁の発酵物をそのまま凍結乾燥して得た粉末あるいはソバの芽の搾汁を発酵して得た上清液そのものであり、本発明の抽出物とは含有する成分において全く異なるものである。
【0011】
また、本発明者は、このACE阻害物質の分画方法および当該方法で分離された画分についても報告している。(特許文献10)
本方法で分離された画分は、明細書記載からも明らかなとおり、下記のHPLC分析条件(2)で、保持時間約4分〜約17分の範囲において複数のピークとして検出される成分を含むものであり、本発明の抽出物とは全く成分の異なるものである。
【0012】
HPLC分析条件 (2)
カラム:CHEMCOBOND
5-ODS-W (4.6×150 mm, 5 micro
m)
移動相:TFA含有水(pH 2.0)
流速:0.8 ml/min
分離温度:19度(C)
検出波長:215 nm
【0013】
本発明は、発酵ソバ抽出物に含まれる血圧降下作用および血管拡張作用活性成分を分離精製し、そのいくつかの成分を同定したものである。すなわち、当該抽出物の血圧降下作用および血管拡張作用活性成分として、アミノ酸のチロシン(Tyr)、およびオリゴペプチドのYAFDVWY(Tyr-Ala-Phe-Asp-Val-Trp-Tyr)、DVWY(Asp-Val-Trp-Tyr)、FDART(Phe-Asp-Ala-Arg-Thr)、WTFR(Trp-Thr-Phe-Arg)、FQ(Phe-Gln)、VVG(Val-Val-Gly)およびVAE(Val-Ala-Glu)などが含まれていることを見出したものであるが、これらのオリゴペプチドは、上記の特許文献6、7および8に報告されているペプチドとは異なるものである。
【0014】
しかもこれらのペプチドのうち、YAFDVWY、WTFR、DVWYおよびVAEはこれまで報告されていない新規なペプチドである。
また、これまでに、チロシン(Tyr)については、降圧作用を示すことが報告されている(非特許文献1)ものの、オリゴペプチドについては、血圧降下作用を有することについては全く報告されていない。また、これらのアミノ酸またはペプチドの血管拡張作用については全く報告例が無い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開2007−254410号公報
【特許文献2】特開2000−212061号公報
【特許文献3】特開平5−292918号公報
【特許文献4】特開2006−76903号公報
【特許文献5】特開2006−76904号公報
【特許文献6】特開平5−97798号公報
【特許文献7】特表2006−512371号公報
【特許文献8】特開2009−73765号公報
【特許文献9】特開2005−304355号公報
【特許文献10】特開2008−239498号公報
【非特許文献】
【0016】
【非特許文献1】Sved AF,Fernstrom JD, Wurtman RJ; Proc. Natl. Acad. Sci. 76(7), 3511-3514, (1979)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明の目的は、血圧降下作用および血管拡張作用を有し、機能性健康食品あるいは医薬品組成物として有用な、新規な発酵ソバ抽出物、当該抽出物または当該抽出物に含まれている活性成分の少なくともその一部を有効成分として含有する機能性健康食品あるいは医薬品組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ね、本発明を成した。すなわち、ソバ植物体の破砕物を発酵処理によって血圧降下作用が飛躍的に向上することに注目し、発酵によって変化するソバ植物体破砕物に含まれる成分について研究を重ねた結果、発酵処理によって変化した成分の中から極めて顕著な血圧降下作用および血管拡張作用を発揮する活性成分を分離することに成功し、さらに、その中のいくつかの活性成分を同定し、本発明を完成した。
【0019】
より詳細には、本発明は、
[1] ソバ植物体、好ましくは発芽して間もないソバ幼植物体の破砕物を乳酸菌発酵処理して得られる発酵ソバ上清の水溶性抽出物であって、少なくとも、下記HPLC分析条件(1)で保持時間約18分〜約21分の範囲においてほぼ単一のピーク(ピークY)として検出される成分(成分Y)を含むことを特徴とする抽出物、
HPLC分析条件(1)
カラム:CHEMCOBOND
5-ODS-W (4.6×150 mm, 5 micro
m)
移動相:TFA含有水(pH 2.0)
流速:0.8 ml/min
分離温度:30度(C)
検出波長:215 nm、
[2] ソバ植物体が、ソバ(Fagopyrum esulentum)またはダッタンソバ(Fagopyrum
tataricum)であることを特徴とする、[1]に記載の抽出物、
[3] 乳酸菌が、ラクトバチルス・プランタルム(Lactobacillus plantarum)、ラクトバチルス・ブルガリクス(Lactobacillus bulgaricus)、ラクトバチルス・アシドフィルス(Lactobacillus acidophilus)、ラクトバチルス・カゼイ(Lactobacillus
casei)、ラクトバチルス・ファーメンタム(Lactobacillus fermentum)、ストレプトコッカス・ラクティス(Streptococcus lactis)、ストレプトコッカス・クレモリス(Streptococcus cremoris)、ストレプトコッカス・サーモフィルス(Streptococcus thermophilus)の群から選ばれる一種であることを特徴とする、[1]に記載の抽出物、
[4] 乳酸菌が、ラクトバチルス・プランタルム(Lactobacillus plantarum)であることを特徴とする、[3]に記載の抽出物、
[5] 乳酸菌発酵処理が、殺菌処理したソバ植物体破砕物に、[3]に記載の乳酸菌の群から選ばれる一種を添加し、常温で発酵させるものであることを特徴とする、[1]に記載の抽出物、
[6] 以下の工程によって抽出、分取されたものであることを特徴とする、[1]に記載の抽出物、
工程1:ソバ植物体を殺菌液に浸して殺菌した後、水切りし、破砕機で破砕してソバ植物体破砕物を得る、
工程2:ソバ植物体破砕物を、乳酸菌を用いて発酵させ、発酵物を遠心分離し、その上清を減圧濃縮、凍結乾燥して発酵ソバ上清粉末を得る、
工程3:発酵ソバ上清粉末を固相抽出により前処理したものを、下記HPLC分析条件(1)で、保持時間約18分〜約21分の範囲においてほぼ単一のピーク(ピークY)として検出される成分(成分Y)が検出される画分を集めて減圧濃縮、凍結乾燥して発酵ソバ抽出物を得る、
HPLC分析条件 (1)
カラム:CHEMCOBOND
5-ODS-W (4.6×150 mm, 5 micro
m)
移動相:TFA含有水(pH 2.0)
流速:0.8 ml/min
分離温度:30度(C)
検出波長:215 nm、
および、
[7] 工程1の殺菌処理が、ソバ植物体を次亜塩素酸ナトリウム水溶液に浸して殺菌するものであり、工程2の発酵処理が、[3]に記載の乳酸菌の群から選ばれる一種を添加し、常温で2週間発酵させるものであり、工程3の固相抽出法が、カラムとしてSep-Pak(登録商標) Vac C18カートリッジ(ウォーターズ社製)を用い、溶出液としてTFA含有水(pH 2.0):メタノール=1:9混合液を用いるものであることを特徴とする、[6]に記載の抽出物、
に関する。
【0020】
また、本発明は、
[8] [1]に記載の抽出物に含まれる血圧降下作用および血管拡張作用活性成分であって、
化学式、
YAFDVWY(Tyr-Ala-Phe-Asp-Val-Trp-Tyr) ・・・・ (1)
化学式、
WTFR(Trp-Thr-Phe-Arg) ・・・・ (2)
化学式、
DVWY(Asp-Val-Trp-Tyr) ・・・・ (3)
または化学式、
VAE(Val-Ala-Glu) ・・・・ (4)
の何れかで表されるオリゴペプチド、
に関する。
【0021】
さらに、本発明は、
[9] 活性成分として、チロシン (Tyr)、並びにオリゴペプチドのYAFDVWY(Tyr-Ala-Phe-Asp-Val-Trp-Tyr)、DVWY(Asp-Val-Trp-Tyr)、FDART(Phe-Asp-Ala-Arg-Thr)、WTFR(Trp-Thr-Phe-Arg)、FQ(Phe-Gln)、VVG(Val-Val-Gly)およびVAE(Val-Ala-Glu)の群から選ばれる少なくとも1種または2種以上を含有することを特徴とする、[1]に記載の抽出物、および、
[10] 活性成分として、さらに、下記HPLC分析条件(3)で保持時間約37分にピーク(ピークI)を示す成分(成分I)、保持時間約38分にピーク(ピークII)を示す成分(成分II)、保持時間約59分にピーク(ピークIII)を示す成分(成分III)および保持時間約65分にピーク(ピークIV)を示す成分(成分IV)の群から選ばれる少なくとも1種または2種以上を含有することを特徴とする、[9]に記載の抽出物。
HPLC分析条件 (3)
カラム:TSKgel
Amide-80 (4.6×250 mm, 5 micro
m)
移動相A:TFA含有水(pH 2.0)
移動相B:アセトニトリル
流速:0.8 ml/min
分離温度:30度(C)
検出波長:215 nm
グラジエント:5% (0→15分)、5→10% (15→20分)、10→25% (20→80分)、
25→55% (80→105分)、55% (105→125分)、
に関する。
【0022】
さらに、本発明は、
[11] [1]〜 [10]の何れかに記載の抽出物および[8]に記載のオリゴペプチドの何れかを活性成分として含有することを特徴とする食品または医薬組成物、
[12] 活性成分が、オリゴペプチドのYAFDVWY(Tyr-Ala-Phe-Asp-Val-Trp-Tyr)、DVWY(Asp-Val-Trp-Tyr)、FDART(Phe-Asp-Ala-Arg-Thr)、WTFR(Trp-Thr-Phe-Arg)、FQ(Phe-Gln)、VVG(Val-Val-Gly)およびVAE(Val-Ala-Glu)、並びに、 [10]に記載の成分I、成分II、成分III、および成分IVの群から選ばれる少なくとも1種または2種以上である、[11]に記載の食品または医薬組成物、
[13] 活性成分が、DVWY(Asp-Val-Trp-Tyr)、FQ(Phe-Gln)、VVG(Val-Val-Gly)および成分IIの群から選ばれる少なくとも1種または2種以上である、[12]に記載の食品または医薬組成物に関する。
【発明の効果】
【0023】
本発明の新規なソバ抽出物は、顕著な血圧降下作用および血管拡張作用を有しており、機能性健康食品あるいは医薬品組成物の有効成分として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】図1は、発芽ソバ試料および発酵ソバ試料のHPLC分析チャートである。
【図2】図2は、発酵ソバ固相抽出物のHPLC分析チャートである。
【図3】図3は、ピークY試料(Y成分)のSuperdex Peptide 10/300 GLによる分画ピークを示すHPLC分析チャートである。
【図4】図4は、TOSOHTSKgel Amide-80 (4.6×250 mm, 5 microm)によるピークY試料(Y成分)のHPLC分析チャートである。
【図5】図5は、実施例3で細分画した6個のピークの画分のうちの、約28〜30分に溶出されるピーク(28〜30分溶出ピーク)の、1つめの化合物(化合物1)のアミノ酸配列分析チャート(1 cycle)である。
【図6】図6は、上記化合物1のアミノ酸配列分析チャート(2 cycle)である。
【図7】図7は、上記化合物1のアミノ酸配列分析チャート(3 cycle)である。
【図8】図8は、上記28〜30分溶出ピークのLC-MS/MS分析チャートである。
【図9】図9は、本発明の抽出物に含まれる降圧作用成分の、収縮期血圧降下作用(対照群との比較において、最大の血圧降下を示した時の値)を示すグラフである。
【図10】図10は、上記作用成分の、拡張期血圧降下作用(対照群との比較において、最大の血圧降下を示した時の値)を示すグラフである。
【図11】図11は、上記作用成分のうちDVWY(Asp-Val-Trp-Tyr)、FQ(Phe-Gln)、VVG(Val-Val-Gly)および成分IIと既存医薬品(カプトプリルおよびロサルタン)の収縮期血圧降下作用を示すグラフである。
【図12】図12は、上記作用成分のうちDVWY(Asp-Val-Trp-Tyr)、FQ(Phe-Gln)、VVG(Val-Val-Gly)および成分IIと既存医薬品(カプトプリルおよびロサルタン)の拡張期血圧降下作用を示すグラフである。
【図13】図13は、マグヌス試験における発酵ソバ上清粉末添加による胸部大動脈血管リング標本の張力変化を示すチャートである。
【図14】図14は、マグヌス試験におけるVAE(Val-Ala-Glu)添加による胸部大動脈血管リング標本の張力変化を示すチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
ソバ植物体、特にソバ幼植物体を発酵処理した発酵ソバの降圧作用が高いことが知られている。本発明者は、この発酵処理したソバ植物体の降圧作用物質を解明すべく以下のように検討を行った。
【0026】
まず、約15 cm程度に成長したソバ幼植物体を適当な殺菌液、例えば次亜塩素酸水溶液で殺菌処理した後、ジューサーで破砕してソバ幼植物体の破砕物を製造し、その上清を減圧濃縮、凍結乾燥してソバ幼植物体上清粉末(以下、発芽ソバ試料という)を製造した。次いで、ソバ幼植物体の破砕物を乳酸菌発酵させ、発酵液の上清を減圧濃縮、凍結乾燥して、発酵ソバ上清粉末(以下、発酵ソバ試料という)を製造した。
【0027】
上記で製造した発芽ソバ試料と発酵ソバ試料について、発酵処理による成分の変化を確認すべく、HPLC分析により両者に含まれる成分を測定したところ、下記HPLC分析条件(1)で保持時間約11.5分に単一ピーク(ピークX)として検出される成分(成分X)および保持時間約21分に単一ピーク(ピークY)として検出される成分(成分Y)が大きく変化していることを見出した。このピークXおよびピークYの保持時間は、カラムの劣化により多少変動するが、概ね、ピークXは保持時間約11分〜約13分の範囲内でほぼ単一ピークとして検出され、ピークYは保持時間約18分〜約21分の範囲内でほぼ単一ピークとして検出される。
【0028】
HPLC分析条件 (1)
カラム:CHEMCOBOND
5-ODS-W (4.6×150 mm, 5 micro
m)
移動相:TFA含有水(pH 2.0)
流速:0.8 ml/min
分離温度:30度(C)
検出波長:215 nm
【0029】
この成分Xおよび成分Yを純度よく分取すべく、まず、一般的な、エタノール含有水を用いた有機溶媒抽出法を検討した。その結果、エタノール濃度の上昇に応じて成分Xおよび成分Yが効率よく抽出されるものの、100%エタノールでは成分Xおよび成分Yの抽出効率が低下し、さらに、最も抽出効率の良い90%エタノール含有水では、フェノール類などの極性の低い物質も抽出されてしまい、あまり効率の良い抽出ができなかった。
【0030】
そこで、Sep-Pak(登録商標) Vac C18カートリッジ(ウォーターズ社製)を用いた固相抽出法について検討を行った。その結果、以下に示す方法によって純度よく両成分が分取できることを見出した。
【0031】
すなわち、固相抽出カートリッジに、Sep-Pak(登録商標) Vac C18カートリッジ(ウォーターズ社製)を用い、これをメタノールで活性化し、TFA含有水(pH 2.0):メタノール=1:9に調製した固相抽出液で平衡化した後、発酵ソバ試料の溶液をカートリッジにアプライする。次いで、上記の固相抽出液で溶出し、ピークXおよびピークYが検出される画分をそれぞれ集めて減圧濃縮、凍結乾燥して、成分Xおよび成分Yを効率よく得ることができた。
【0032】
この成分Xと成分Yについて降圧作用を測定したところ、成分Yの方が、用量相関性はないものの、低用量でも顕著な血圧降下作用を示したことから、成分Yの方が、より強い血圧降下作用を示す成分が含まれていると考え、成分Yについて、その分画に含まれる成分の分離、精製を以下のようにして行った。
【0033】
まず、成分Yを各種のHPLCカラムを用いて検討して、逆相カラムよりも順相カラムの方が、分離が良好であることを確認した。この中でも特にTOSOH TSKgel Amide-80カラムは非常に分離が良好であった。この、TOSOH TSKgel Amide-80カラムによる成分Yの分離についてさらに検討を加え、その結果、下記HPLC分析条件 (3)で最も良好にピークが分離され、215 nmで比較的吸光の高いピークが複数、分離された。
【0034】
HPLC分析条件 (3)
カラム:TSKgel
Amide-80 (4.6×250 mm, 5 micro
m)
移動相A:TFA含有水(pH 2.0)
移動相B:アセトニトリル
流速:0.8 ml/min
分離温度:30度(C)
検出波長:215 nm
グラジエント:5% (0→15分)、5→10% (15→20分)、10→25% (20→80分)、
25→55% (80→105分)、55% (105→125分)、
【0035】
しかしながら、TOSOH
TSKgel Amide-80カラムによる分離だけでは、ピークの重なりが確認され、物質の同定には分離が不十分であった。このため、TOSOH TSKgel Amide-80カラムで成分Y試料の分離を行う前にもう1ステップ他のカラムで分離を行うHPLC分離が必要であると考え、前処理方法について検討を加えた。
【0036】
このとき、他のカラムで成分Yの分離・分取を行う際に、成分Yがアセトニトリル(移動相B)には比較的溶解しにくく、反対に酸溶液(移動相A)には溶解されやすいという問題があった。
このことから、出来るだけ濃い濃度で試料をインジェクトするためには、成分Yを移動相Aに溶解させる分離モードが好ましく、さらに、ある程度試料の濃度が濃くても対応できるカラムが望ましいと考えられた。
【0037】
これらの点から、前処理の分画カラムとしては、ゲル濾過カラムのSuperdex Peptide 10/300 GLカラムが適していると考え、最初に、Superdex Peptide 10/300 GLカラムを用いてゲル濾過カラム分画を行い、その後、上記で良好な分離結果が得られた、TOSOH TSKgel Amide-80カラムで分離する方法を行った結果、極めて良好に、成分Yを細分画することができた。
【0038】
すなわち、まず下記のHPLC分析条件 (4)でHPLC分析を行い、約31.5〜34分(A)、約34〜38分(B)、約38〜43分(C)、約43〜44.5分(D)、約44.5〜49分(E)にピークを示す、5つの画分A〜Eに分画した。
【0039】
HPLC分析条件 (4)
カラム:Superdex
Peptide 10/300 GL (10×300 mm, 13 micro m)
移動相:TFA含有水(pH 2.0)
流速:0.5 ml/min
分離温度:30度(C)
検出波長:215 nm、
【0040】
上記で分画した、5つの画分A〜Eについて、更に、TOSOH
TSKgel Amide-80 (4.6×250 mm, 5 micro
m)を用いて細分画を行った。
HPLC分析条件は、移動相AにTFA含有水(pH 2.0)、移動相Bにアセトニトリルをそれぞれ用い、流速0.8 ml/min、分離温度30度(C)、検出波長215 nm、注入量20 micro lで行った。
また、画分Aは移動相Aを5% (0→15分)、5→10% (15→20分)、10→19% (20→56分)、19→55% (56 →60分)、55% (60→75分)の濃度でグラジエントを変化させ、画分Bは移動相Aを5% (0→15分)、5→10% (15→20分)、10→22% (20→68分)、22→55% (68 →70分)、55% (70→85分)の濃度でグラジエントを変化させ、画分Cは移動相Aを5 % (0→15分)、5→10% (15→20分)、10→23% (20→72分)、23→55% (72 →74分)、55% (74→90分)の濃度でグラジエントを変化させ、画分DおよびEは移動相Aを5 % (0→15分)、5→10% (15→20分)、10→16% (20→44分)、16→55% (44 →48分)、55% (48→65分)の濃度でグラジエントを変化させた。
【0041】
上記のようにして細分画した、各分離ピークの試料のアミノ酸配列分析、LC-MS/MS分析等を行い、各ピーク成分の同定を行った。
その結果、下記HPLC分析条件 (3)での分析において、約3〜7分および約12分にピークを示す成分については、オリゴペプチドのYAFDVWY(Tyr-Ala-Phe-Asp-Val-Trp-Tyr)、DVWY(Asp-Val-Trp-Tyr)、FDART(Phe-Asp-Ala-Arg-Thr)およびWTFR(Trp-Thr-Phe-Arg)の混合物であると同定された。
約16〜20分にピークを示す成分については、チロシン(Tyr)と同定できた。また、約28〜30分にピークを示す成分については、オリゴペプチドのVVG(Val-Val-Gly)、FQ (Phe-Gln)およびVAE (Val-Ala-Glu)の混合物であると同定できた。
【0042】
約38〜39分、約59分および約65分にそれぞれピークを示す成分については、確実な同定ができなかった。以下、下記HPLC分析条件 (3)のHPLC分析において保持時間約37分にピーク(ピークI)を示す成分を成分I、保持時間約38分にピーク(ピークII)を示す成分を成分II、保持時間約59分にピーク(ピークIII)を示す成分を成分III、保持時間約65分にピーク(ピークIV)を示す成分を成分IVとそれぞれ称する。
【0043】
HPLC分析条件 (3)
カラム:TSKgel
Amide-80 (4.6×250 mm, 5 micro
m)
移動相A:TFA含有水(pH 2.0)
移動相B:アセトニトリル
流速:0.8 ml/min
分離温度:30度(C)
検出波長:215 nm
グラジエント:5% (0→15分)、5→10% (15→20分)、10→25% (20→80分)、
25→55% (80→105分)、55% (105→125分)、
【0044】
上記のようにして分離、同定した成分について、本態性高血圧発症ラット(Spontaneously hypertensive rat、SHR)への単回経口投与および血圧測定を行って、降圧作用を測定したところ、収縮期血圧に対する血圧降下作用においては、オリゴペプチドのYAFDVWY(Tyr-Ala-Phe-Asp-Val-Trp-Tyr)、DVWY(Asp-Val-Trp-Tyr)、FQ(Phe-Gln)および成分IIが特に顕著な降圧作用を示した。
一方、拡張期血圧に対する血圧降下作用においては、オリゴペプチドのFQ(Phe-Gln)、VVG(Val-Val-Gly)、成分Iおよび成分IIが特に顕著な降圧作用を示した。
【0045】
また、成分Y含有物質の中で、高い降圧作用を示したDVWY(Asp-Val-Trp-Tyr)、FQ(Phe-Gln)、VVG(Val-Val-Gly)および成分IIの降圧作用のパターンについて、医薬品として用いられているカプトプリルおよびロサルタンカリウム(以下、ロサルタンという)の降圧作用パターンと比較した。なお、DVWY(Asp-Val-Trp-Tyr)、FQ(Phe-Gln)、VVG(Val-Val-Gly)および成分IIの投与量は0.1 mg/kg、カプトプリルおよびロサルタンの投与量は5 mg/kgとした。
【0046】
その結果、DVWY(Asp-Val-Trp-Tyr)を経口投与したときの収縮期血圧降下値はロサルタンと同程度で非常に高く、拡張期血圧はロサルタンよりも少し劣るが、カプトプリルよりも21.1 mmHg多く降下が見られた。しかし、血圧降下のパターンは投与3時間後に最も効果が表れるロサルタンとは異なり、カプトプリルと類似していた。
【0047】
また、上記の成分について、SHRから摘出した胸部大動脈標本を用いて、血管拡張作用を測定したところ、発酵ソバ上清粉末が極めて低濃度で顕著な血管拡張作用を示し、ピークY試料およびVAE(Val-Ala-Glu)が低濃度で顕著な血管拡張作用を示した。また、ピークX試料、チロシン(Tyr)、YAFDVWY(Tyr-Ala-Phe-Asp-Val-Trp-Tyr)、DVWY(Asp-Val-Trp-Tyr)、FDART(Phe-Asp-Ala-Arg-Thr)、WTFR(Trp-Thr-Phe-Arg)、FQ(Phe-Gln)およびVVG (Val-Val-Gly)も血管拡張作用を示した。
【0048】
また、血管内皮を除去した血管およびL-NAME(N(G)-nitro-L-arginine
methyl ester)共存下では、発酵ソバ上清粉末およびの血管拡張作用が顕著に抑制されたことから血管内皮に作用して血管拡張を引き起こしていることが示唆された。
【0049】
このように、本発明の発酵ソバ抽出物に含まれる活性成分は、これまで医薬品として用いられている、カプトプリルあるいはロサルタンと同等またはそれ以上の降圧作用を示し、有用な機能性健康食品あるいは医薬品となり得るものである。
【0050】
本発明の発酵ソバ抽出物は、例えば以下の工程に従い、通常の植物成分の抽出、分離技術を応用することにより製造することができる。
工程1:ソバ植物体を殺菌液に浸して殺菌した後、水切りし、破砕機で破砕してソバ植物体破砕物を得る。
工程2:ソバ植物体破砕物を、微生物を用いて発酵させ、発酵液を遠心分離し、その上清を減圧濃縮、凍結乾燥して発酵ソバ上清粉末を得る。
工程3:固相抽出法により前処理した発酵ソバ上清粉末を、下記HPLC分析条件(1)で、保持時間約21分にピーク(ピークY)を示す成分(成分Y)が検出される画分を集めて減圧濃縮、凍結乾燥して発酵ソバ抽出物を得る。
HPLC分析条件 (1)
カラム:CHEMCOBOND
5-ODS-W (4.6×150 mm, 5 micro
m)
移動相:TFA含有水(pH 2.0)
流速:0.8 ml/min
分離温度:30度(C)
検出波長:215 nm、
【0051】
また、本発明の発酵ソバ抽出物に含まれる活性成分の中のオリゴペプチドについては、例えば、実施例記載の分離精製方法に従って単離することにより得ることができる。公知のオリゴペプチドで、市販されているものについては、それを購入することもできる。さらに、公知、新規を問わず、文献記載の方法、またはその応用方法に従って合成することもできる。
本発明の発酵ソバ抽出物に含まれる活性成分の中の新規なオリゴペプチドのYAFDVWY(Tyr-Ala-Phe-Asp-Val-Trp-Tyr)(1)は、例えば、下記、反応式で示される合成チャートに従って合成することができる。
【0052】
【化1−1】
【0053】
【化1−2】
【0054】
【化1−3】
【0055】
【化1−4】
【0056】
【化1−5】
【0057】
【化1−6】
【0058】
【化1−7】
【0059】
【化1−8】
【0060】
【化1−9】
【0061】
【化1−10】
【0062】
【化1−11】
【0063】
【化1−12】
【0064】
【化1−13】
【0065】
また、WTFR(Trp-Thr-Phe-Arg)(2)は、例えば、下記、反応式で示される合成チャートに従って合成することができる。
【0066】
【化2−1】
【0067】
【化2−2】
【0068】
【化2−3】
【0069】
【化2−4】
【0070】
【化2−5】
【0071】
【化2−6】
【0072】
【化2−7】
【0073】
また、DVWY(Asp-Val-Trp-Tyr)(3)は、例えば、下記、反応式で示される合成チャートに従って合成することができる。
【0074】
【化3−1】
【0075】
【化3−2】
【0076】
【化3−3】
【0077】
【化3−4】
【0078】
【化3−5】
【0079】
【化3−6】
【0080】
【化3−6】
【0081】
さらに、Val-Ala-Glu(VAE)(4)は、例えば、下記、反応式で示される合成チャートに従って合成することができる。
【0082】
【化4−1】
【0083】
【化4−2】
【0084】
【化4−3】
【0085】
【化4−4】
【0086】
本発明の発酵ソバ抽出物の原料に用いるソバ植物体としては、発芽して間もないソバ幼植物体が好ましく、ソバ属植物であれば特に限定されず、ソバ(Fagopyrum esculentum)またはダッタンソバ(Fagopyrum
tataricum)を挙げることができる。
【0087】
本発明のソバ植物体破砕物の乳酸菌発酵に用いる乳酸菌としては、病原性のない乳酸菌であればどのようなものでもよく、例えば、ラクトバチルス属乳酸菌のラクトバチルス・プランタルム(Lactobacillus plantarum)、ラクトバチルス・ブルガリクス(Lactobacillus bulgaricus)、ラクトバチルス・アシドフィルス(Lactobacillus acidophilus)、ラクトバチルス・カゼイ(Lactobacillus
casei)、ラクトバチルス・ファーメンタム(Lactobacillus fermentum)など、および、ストレプトコッカス属乳酸菌のストレプトコッカス・ラクティス(Streptococcus lactis)、ストレプトコッカス・クレモリス(Streptococcus cremoris)、ストレプトコッカス・サーモフィルス(Streptococcus thermophilus)などを挙げることができ、その中では、ラクトバチルス属乳酸菌が好ましく、中でも、ラクトバチルス・プランタルム(Lactobacillus plantarum)が最も好ましい。
【0088】
本発明の抽出物は、各種の機能性健康食品あるいは医薬品組成物の有効成分として用いることができる。
【0089】
食品の場合、適当な食品添加物と組み合わせて、食品用組成物として用いることができる。また、このような食品用組成物に限らず、緑茶、紅茶、烏龍茶、雑穀茶等に配合して飲料として、あるいはビスケット、パン、飴等に配合して食品として、日常的に摂取可能な形態で提供することも可能である。また、下記医薬品の調剤に準じて錠剤とすることにより所謂サプリメントとしても利用可能である。
【0090】
医薬品とする場合は、適当な医薬品添加剤と組み合わせて、通常の調剤の手法に従って各種の剤形として用いることができる。このような剤形としては、例えば散剤、顆粒剤、カプセル剤、丸剤、錠剤等の固形製剤、水剤、懸濁剤、乳剤等の液剤等の経口投与剤が挙げられる。
【0091】
本発明の抽出物を食品として用いる場合、一般的な飲食品としてだけでなく、特定の機能を発揮して健康増進を図る機能性健康食品としての使用が挙げられる。この場合の具体的な形態としては、本発明の抽出物を有効成分として含有するカプセル剤、錠剤、粉末剤、顆粒剤等からなるサプリメント類、パン、ケーキ、クッキー等のベーカリー食品類、ソース、スープ、ドレッシング、マヨネーズ等の調味料類、牛乳、ヨーグルト、クリーム類等の乳製品類、チョコレート、キャンデー等の菓子類、あるいは緑茶、紅茶、烏龍茶、麦茶、雑穀茶、果汁、野菜、乳飲料、清涼飲料および炭酸飲料等の各種飲料類等が挙げられる。
【0092】
本発明の抽出物を医薬品組成物の有効成分として使用する場合の投与量は、各成分の比率によっても異なり、また、患者の年齢、体重、性別、症状、投与方法などの種々の要因によって異なるが、成人で、1日当たり、経口投与の場合は、概ね、1〜1000mg、非経口投与の場合は、概ね0.1〜100mgの範囲で選択することができる。また、症状改善の度合いによって、適宜増減することもできる。投与回数としては、1日1回〜数回に分けて投与することができる。
【0093】
本発明の抽出物を食品として使用する場合の摂取量は、上記医薬品の経口投与の場合に準じて選択することができる。但し、飲食物の場合は医薬品とは異なり、投与用量および投与回数が特に制限されないことから、特に重篤な症状を発生しない限りにおいて、健康維持という目的、並びに、呈味性、嗜好性を考慮して、上記の範囲に限定されずに摂取量を選択してもよい。
【実施例】
【0094】
以下に、本発明の実施の態様について実施例および試験例を挙げて説明するが、本発明は以下の例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0095】
発酵ソバ試料の製造
約15 cmに成長したソバ幼植物体20 kgを、有効塩素濃度100〜200 ppmの次亜塩素酸ナトリウム液約20Lに浸して殺菌した。殺菌したソバ幼植物体を水切りし、約2 cmの長さにカットした後ジューサーで破砕してソバ幼植物体破砕物を得た。
上記で得たソバ幼植物体破砕物の0.36
kgを分取し、これを50 ml容遠沈管10本に36 gずつ秤量し、遠心分離(5度(C), 4000 rpm, 30分)を行い、上清を回収した。回収した上清について減圧濃縮・凍結乾燥を行い、4.27 gの発芽ソバ試料を得た。
残りのソバ幼植物体搾汁液に、ソバ幼植物体搾汁液1 kgあたり26.7 mlの乳酸菌スターターを添加し、タンクに移した。ソバ幼植物体搾汁液を移したポリタンクは、脱気をした後に不活性化ガスで置換を行った。毎日1回攪拌をし、常温で2週間静置することにより、発酵ソバを製造した。
上記で製造した、発酵ソバ8.09
kgを500 ml容遠沈管20本に405 gずつ秤量し、遠心分離(5度(C), 4000 rpm, 30分)を行い、上清を回収した。回収した上清について減圧濃縮・凍結乾燥を行い、48.95 gの発酵ソバ試料を得た。
【0096】
[試験例1]
発芽ソバ試料と発酵ソバ試料の血圧降下作用測定
実施例1で製造した発芽ソバ試料および発酵ソバ試料を試験試料として、以下の試験を行った。
試験には14週齢の雄性SHR/Izm 10匹を日本チャールス・リバー株式会社より入手し、7日間の馴化飼育後、15週齢で試料の経口投与および血圧測定を行った。
実験に用いたラットは搬入後、金属製のケージに個別に収容し、クリーン条件下で飼育した。飼育室の環境は、室温23±4度(C)、湿度50±20%、明暗条件は明期が12時間(8〜20時)、残り12時間を暗期とした。馴化飼育期間中は市販固形飼料CRF-1(日本チャールス・リバー株式会社)と水道水の自由摂取で飼育した。試験物質投与前日に各個体の体重および血圧(収縮期血圧、拡張期血圧)を測定した後、各群内の平均体重および血圧が同程度になるように1群6匹ずつ、2群(発芽ソバ試料投与群、発酵ソバ試料投与群)に群分けを行った。また、試験物質の経口投与前に、14〜16時間の絶食を行った。
各試験物質を純水に溶解させた後、ステンレス製経口胃ゾンデ(株式会社夏目製作所)を用いて単回経口投与を行った。投与量は、発芽ソバ試料および発酵ソバ試料共に、ラットの体重1 kgあたり1 mg/kg(以下1 mg/kg b.w.)とした。
各試料を経口投与後、0、3、6、9、および24時間後にテイルカフ法で収縮期血圧、拡張期血圧をそれぞれ測定した。
試験物質投与後、0、3、6、9、および24時間後の血圧(収縮期血圧、拡張期血圧)を、0時間での血圧と比較した経時的な血圧変化の値(平均値±標準誤差)を求めた。また、各時間での発酵ソバ試料投与群の血圧変化値と発芽ソバ試料投与群の血圧変化値を比較してStudentのt検定を行った。なお、本発明では、p<0.1を有意差があるとした。
収縮期血圧変化について、発芽ソバ試料投与群と発酵ソバ試料投与群を比較すると、投与3、6、および9時間後に収縮期血圧降下値に有意差が確認され、その平均値の差はそれぞれ25.5 mmHg(投与3時間後)、31.8 mmHg(投与6時間後)、13.0 mmHg(投与9時間後)であった。なお、発芽ソバ試料投与群では投与前と比較して、投与6時間後に13.6 mmHgの収縮期血圧降下が確認された。
また、拡張期血圧変化について、発芽ソバ試料投与群と発酵ソバ試料投与群を比較すると、投与3、6、および9時間後に拡張期血圧降下値に有意差が確認され、その平均値の差はそれぞれ33.8 mmHg(投与3時間後)、47.7 mmHg(投与6時間後)、37.7 mmHg(投与9時間後)であった。なお、発芽ソバ試料投与群では投与前と比較して、投与6時間後に7.1 mmHgの拡張期血圧降下が確認された。
収縮期血圧変化および拡張期血圧変化の結果を、以下の表1および表2に示した。
【0097】
【表1】
【0098】
【表2】
【0099】
[試験例2]
発芽ソバ試料と発酵ソバ試料のHPLC分析測定
発芽ソバ試料および発酵ソバ試料をHPLC分析し、発酵ソバの発酵による変化を調べた。
実施例1で製造した発芽ソバ試料および発酵ソバ試料をそれぞれ1 mgずつ1.5 ml容マイクロチューブに秤量し、1 ml TFA含有水(pH 2.0)を加え、1 mg/mlの濃度に調製し、Millex-LH(登録商標)フィルター(0.45 micro l)を通したものをHPLC分析試料とした。
上記で調製した1 mg/mlの発芽ソバ試料、発酵ソバ試料を用いて、下記表3記載のHPLC分析条件(1)によりHPLC分析を行った。
【0100】
【表3】
【0101】
発芽ソバ試料と発酵ソバ試料におけるHPLC分析結果を比較したところ、保持時間約4.5 分、約11.5 分および約21分付近に溶出されたピークに大きな変化が見られた。このうち、保持時間約4.5 分付近に溶出されたピークは、乳酸であることが確認された。また、乳酸以外で発酵後に大きな変化が見られた、保持時間約11.5 分、および約21分付近にほぼ単一ピークとして溶出されたピークをそれぞれピークX、およびピークYとした。
発芽ソバ試料および発酵ソバ試料を1
mg/mlの濃度でHPLC分析した結果を図1に示す。
このピークXおよびピークYの保持時間は、その後の分析結果から、カラムの劣化により多少変動するものの、概ね、ピークXは保持時間約11分〜約13分の範囲内でほぼ単一ピークとして検出され、ピークYは保持時間約18分〜約21分の範囲内でほぼ単一ピークとして検出されることを確認した。
【実施例2】
【0102】
成分Xおよび成分Yの分離
(1)成分Xおよび成分Y含有画分の分取(検討試験)
固相抽出カートリッジとしてSep-Pak(登録商標) Vac C18 カートリッジ(2 g、ウォーターズ社製)を用い、固相抽出溶媒としてTFA含有水(pH 2.0)、およびTFA含有水(pH 2.0):MeOH=9:1に調整したものを使用した。
カートリッジをMeOH
24 mlで活性化し、各固相抽出溶媒 30 mlで平衡化した後、実施例1で製造した発酵ソバ試料(50 mg/ml)1 mlをアプライした。その後、各固相抽出溶媒を40 ml加え、1.5 ml容チューブに1 mlずつ溶離液を回収した。得られた溶離液は減圧濃縮・凍結乾燥後、上記表3に示したHPLC分析条件(1)でHPLC分析を行い、ピークX、ピークYの面積値比較を行った。
【0103】
固相抽出検討を行った結果、固相抽出溶媒にTFA含有水を使用して固相抽出を行うと、ピークXは19 mlから28 mlの間に溶出され、ピークYは21 mlから40 mlの間に溶出され、両ピークの溶出時間がずれることが確認された。
また、固相抽出溶媒にTFA含有水(pH 2.0):MeOH=9:1を使用して固相抽出を行うと、ピークXは5 mlから13 mlの間に溶出され、ピークYは5 mlから12 mlの間に溶出され、両ピークの溶出時間が殆ど重なることが確認された。
このことから、TFA含有水(pH 2.0):MeOH=9:1を溶媒として固相抽出を行う方が、より短時間でピークX、ピークYが効率良く抽出できることが確認された。
【0104】
(2)成分Xおよび成分Y含有画分の分取(スケールアップ)
上記でピークX、ピークYが効率良く抽出できることが確認された方法の、固相抽出溶媒にTFA含有水(pH 2.0):MeOH=9:1を使用する方法についてスケールアップを行った。なお、固相抽出カートリッジは、Sep-Pak(登録商標) Vac C18カートリッジ (ウォーターズ社製)を10 gに変更して行った。
Sep-Pak(登録商標)
Vac C18 カートリッジ
(10 g、ウォーターズ社製)を用い、固相抽出溶媒にTFA含有水(pH2.0):MeOH=9:1を用いて溶離液を10 mlずつ分取した。この結果、ピークXは溶出20 mlから90 ml、ピークYは溶出30 mlから90 mlの間に含まれていることが確認された。
さらに、ピークXおよびYの溶出時間を詳細に調べるため、同様の固相抽出条件で3 mlずつ溶離液を回収し、HPLC分析を行った。HPLC分析の結果から、溶出割合の低い36 mlより前の溶離液を除き、36から78 mlまでの溶離液を回収して、ピークXおよびピークYを含む試料を効率良く得ることができた。
【0105】
(3)成分Xおよび成分Yの分離精製
上記で得たピークXおよびピークYを含む試料について、ODSカラムによるピークX、ピークYの精製を行った。
ピークXおよびピークYの分取にはCHEMCOBOND 5-ODS-W (4.6×150 mm)の分取用カラムである、CHEMCOBOND
5-ODS-W (20×250 mm)を用いた。
HPLC分析条件は、上記条件に加えて、移動相にTFA含有水(pH 2.0)を用い、流速10 ml/min、分離温度30度(C)、検出波長215 nm、注入量250 micro lで行った。HPLC分析条件を表5に示した。
また、ピークXおよびピークYを含む試料を50 mg/mlの濃度でHPLC分析を行った結果を図2に示した。
図2中に示したピークX、ピークYを分取し、減圧濃縮・凍結乾燥したものを、それぞれピークX試料、ピークY試料とした。
【0106】
【表4】
【0107】
[試験例3]
成分Xと成分Yの血圧降下作用測定
実施例2で得られたピークX試料、ピークY試料について、試験例1記載の方法と同様にして、血圧降下作用を測定した。
試験物質投与後、0、3、6、9、および24時間後に血圧(収縮期血圧、拡張期血圧)を測定し、0時間での血圧と比較した経時的な血圧変化の値(平均値±標準誤差)を求めた。また、試料投与群は、0.1 mg/kg投与群と0.01 mg/kg投与群の2群とし、対照群には、純水2 ml/kgを投与した。
各時間での試料投与群の血圧変化値と対照群の血圧変化値を比較してStudentのt検定を行った。
【0108】
(1)ピークX試料の降圧作用
収縮期血圧変化について、試料投与群と対照群を比較すると、0.1 mg/kg投与群では投与3、6および9時間後に、0.01 mg/kg投与群では投与6時間後に、対照群と比較して有意差が見られた。また、0.1 mg/kg投与群では最大53.5 mmHgの、0.01 mg/kg投与群では最大30.0 mmHgの収縮期血圧の降下が見られた。
また、拡張期血圧変化について、試料投与群と対照群を比較すると、0.1 mg/kg投与群では対照群と比較して投与3、6および9時間後に有意差が見られた。0.01
mg/kg投与群では対照群と比較して投与6時間後に、有意差が見られた。また、0.1 mg/kg投与群では最大58.3 mmHgの、0.01 mg/kg投与群では最大25.0 mmHgの拡張期血圧の降下が見られた。
ピークX試料の収縮期血圧変化および拡張期血圧変化の結果を、以下の表5および表6に示した。
【0109】
【表5】
【0110】
【表6】
【0111】
(2)ピークY試料の降圧作用
収縮期血圧変化について、試料投与群と対照群を比較すると、0.1 mg/kg投与群では対照群と比較して投与3および 6時間後に有意差が見られた。0.01 mg/kg投与群では対照群と比較して投与3、6および9時間後に有意差が見られた。また、0.1 mg/kg投与群では最大41.1 mmHgの、0.01 mg/kg投与群では最大44.6 mmHgの収縮期血圧の降下が見られた。
また、拡張期血圧変化について、試料投与群と対照群を比較すると、0.1 mg/kg投与群では対照群と比較して投与3および6時間後に有意差が見られた。0.01 mg/kg投与群では対照群と比較して投与3、6および9時間後に有意差が見られた。また、0.1 mg/kg投与群では最大42.6 mmHgの、0.01 mg/kg投与群では最大51.8 mmHgの拡張期血圧の降下が見られた。
ピークY試料の収縮期血圧変化および拡張期血圧変化の結果を、以下の表7および表8に示した。
【0112】
【表7】
【0113】
【表8】
【実施例3】
【0114】
成分Yに含まれる成分の分離
実施例2と同様にして得たピークY試料を実験に用いた。
分画は2段階で行い、前処理の分画カラムとして、ゲル濾過カラムのSuperdex Peptide 10/300 GLカラムを用い、その後、TOSOH TSKgel Amide-80カラムで分離する方法を行った。
(1)ゲルろ過カラムによるピークY試料の分画
前処理として、ゲルろ過カラムを用いて、ピークY試料を分画した。
使用したカラムはSuperdex
Peptide 10/300 GL (10×300 mm, 13 micro m)で、HPLC分析条件は、下記、表9記載のHPLC分析条件 (4)で、注入量が100 micro lである。
【0115】
【表9】
【0116】
その結果、約31.5〜34分(A)、約34~38分(B)、約38〜43分(C)、約43〜44.5分(D)、約44.5〜49分(E)にピークを示す、5つの画分A~Eに分画した。
分画ピークを図3に示す。
【0117】
(2)TOSOH TSKgel
Amide-80カラムを用いた分析
シリカゲル基材にアクリルアミド基を固定化したTOSOH TSKgel Amide-80 (4.6×250 mm, 5 micro m)を用いてピークY試料の分析を行った。
HPLC分析条件は、移動相AにTFA含有水(pH 2.0)、移動相Bにアセトニトリルを用い、移動相Aを5% (0→15分)、5→10% (15→20分)、10→25% (20→80分)、25→55% (80→105分)、55% (105→125分)の濃度でグラジエントを変化させ、流速0.8 ml/min、分離温度30度(C)、検出波長215 nm、注入量20 micro lとした。
HPLC分析条件を表10に示した。
【0118】
【表10】
【0119】
また、TOSOH TSKgel
Amide-80 (4.6×250 mm, 5 micro
m)によるピークY試料の分析結果を図4に示した。
【0120】
(3)TOSOH TSKgel
Amide-80カラムを用いたピークY試料の細分画
上記で、ピークY試料の良好な分離結果が得られたカラムのTOSOH TSKgel Amide-80 (4.6×250 mm, 5 micro m)を用いて、上記で得た、各ゲルろ過画分A〜Fについて細分画を行った。
HPLC分析条件は、移動相AにTFA含有水(pH 2.0)、移動相Bにアセトニトリルを用い、流速0.8
ml/min、分離温度30度(C)、検出波長215 nm、注入量20 micro lとした。画分Aは移動相Aを5% (0→15分)、5→10% (15→20分)、10→19% (20→56分)、19→55% (56 →60分)、55% (60→75分)の濃度でグラジエントを変化させ、画分Bは移動相Aを5% (0→15分)、5→10% (15→20分)、10→22% (20→68分)、22→55% (68 →70分)、55% (70→85分)の濃度でグラジエントを変化させ、画分Cは移動相Aを5 % (0→15分)、5→10% (15→20分)、10→23% (20→72分)、23→55% (72 →74分)、55% (74→90分)の濃度でグラジエントを変化させ、画分DおよびEは移動相Aを5% (0→15分)、5→10% (15→20分)、10→16% (20→44分)、16→55% (44 →48分)、55% (48→65分)の濃度でグラジエントを変化させた。
画分AのHPLC分析条件(7)を表11に、画分BのHPLC分析条件(8)を表12に、画分CのHPLC分析条件(9)を表13に、画分D、EのHPLC分析条件(10)を表14に示した。
【0121】
【表11】
【0122】
【表12】
【0123】
【表13】
【0124】
【表14】
上記方法により分離したピークについて分取を行い、減圧濃縮・凍結乾燥して、以下の分析に供した。
【実施例4】
【0125】
成分Yに含まれる成分の細分画画分のアミノ酸配列分析
実施例3で分画した、成分Yに含まれる成分の細分画画分について、ペプチドシークエンサー装置に気相シーケンサーであるProcise492HT (Applied Biosystems)を用いて、アミノ酸配列分析を行った。
各試料は、N-methylpiperidine/H2O/MeOH
存在下でphenyl
isothiocyanateの 5% n-heptane 溶液と反応させ、N-phenyl isothiocarbamoyl ペプチド(PTC-peptide)を得た。酢酸エチルとn-butyl chlorideを用いて不純物を取り除いた後、PTC-peptideとTFAを反応させアミノ酸の2-アニリノ-5-チアゾリノン誘導体(ATZ-AA)の切り出しを行った。
さらにATZ-AAはTFAと64度(C)で9時間反応を行い、安定化した構造を持つフェニルチオヒダントイン化アミノ酸(PTH-AA)に変換した。このようにして得られたPTH-AAを、イオンペアー試薬を溶媒に添加してODSカラムを用いて分離を行うことで、含有アミノ酸の決定を行った。
以上を5 cycle行い、ペプチド配列を決定した。なお、試料調製はエドマン分解法により行った。本試験は、分析機関の株式会社ニッピにて実施した。
【実施例5】
【0126】
成分Yに含まれる成分の細分画画分のLC−MS/MS分析
TOSOH TSKgel Amide-80 (4.6×250 mm, 5 micro m)を用いて、ゲルろ過カラムにより分画した画分についてLC-MS/MS分析を行った。
移動相Aには、イオン化の効率化のため、TFA含有水(pH 2.0)の代わりにギ酸含有水(pH 2.0)を用いてLC-MS/MS分析を行った。
移動相にTFA含有水とギ酸含有水を用いる場合とでは、ピークの挙動が異なるが、TFA含有水を用いてLC-MS分析を行った時の質量電荷比(m/z)と、ギ酸含有水を用いてLC-MS分析を行った時のm/zとを比較することでピークを対応させた。
LC-MS/MS分析条件は、移動相Aにギ酸含有水(pH 2.0)、移動相Bにアセトニトリルを用い、流速が0.8 ml/min (LC)および0.3 ml/min (MS)、分離温度が30度(C)、注入量が20 micro l、Capillary 電圧が3500 V、N2
gas flow (desolvation)が350 L/hr、N2
gas flow (cone)が50 L/hr、N2 source tempが100度(C)、N2
desolvation tempが350度(C)である。
このとき、画分Aは移動相Aを5% (0→15分)、5→10% (15→20分)、10→19% (20→56分)、19→55% (56 →60分)、55% (60→75分)の濃度でグラジエントを変化させ、画分Bは移動相Aを5% (0→15分)、5→10% (15→20分)、10→22% (20→68分)、22→55% (68 →70分)、55% (70→85分)の濃度でグラジエントを変化させ、画分Cは移動相Aを5% (0→15分)、5→10% (15→20分)、10→23% (20→72分)、23→55% (72 →74分)、55% (74→90分)の濃度でグラジエントを変化させ、画分DおよびEは移動相Aを5% (0→15分)、5→10% (15→20分)、10→16% (20→44分)、16→55% (44 →48分)、55% (48→65分)の濃度でグラジエントを変化させた。また、イオン化電圧は分析を行うピークごとに10〜100 Vで検討を行い、最もイオン化が良好であった条件を用いた。なお、本発明における全てのLC-MS/MS分析は、Waters 2695 (LCユニット、Waters)、Quattro micro API (MSユニット、Waters)で構成されるLC-MS/MSシステムを用いて行った。
画分AのLC-MS/MS分析条件(1)を表15に、画分BのLC-MS/MS分析条件(2)を表16に、画分CのLC-MS/MS分析条件(3)を表17に、画分D、EのLC-MS/MS分析条件(4)を表18にそれぞれ示した。
【0127】
【表15】
【0128】
【表16】
【0129】
【表17】
【0130】
【表18】
【実施例6】
【0131】
成分Yに含まれる成分の細分画画分中の物質同定
実施例3で細分画した、図4に示される、6個のピークの画分について、上記実施例4、5および6記載の方法によるアミノ酸配列分析、LC-MS/MS分析、NMR分析の結果により、物質同定を行った。
このうち、特に215 nmで強い吸光が確認された約16〜20分のピークおよび約28〜30分のピークの中の最初のピーク(化合物1)についての解析データを以下に例示する。
【0132】
(1)約16〜20分ピーク含有物質の解析結果
上記、実施例3で細分画した、6個の画分のうちの、約16〜20分に溶出されるピークのH NMR、C NMR、LC-MS/MS分析の結果より、約16〜20分に溶出されるピークはチロシン(Tyr)であることが確認された。旋光性は測定していないが、ソバという生物体に含まれていることからL体であると考えられる。
【0133】
(2)約28〜30分に溶出される化合物1の解析結果
上記、実施例3で細分画した、6個の画分のうちの、約28〜30分に溶出されるピークの分析結果について、以下に示す。
約28〜30分に溶出されるピークは、分離検討によって2つのピークに分離することが出来たため、各々のピークが含有する物質について同定を行った。そのうちの、1つめの化合物(化合物1)におけるアミノ酸配列分析の結果を図5、図6および図7に、LC-MS/MS分析を行った結果を図8に示した。
これらの結果より、化合物1はVal-Val-Gly(VVG)であることが示された。
【0134】
(3)約28〜30分に溶出される化合物2の解析結果
上記と同様に、化合物2におけるアミノ酸配列分析およびLC-MS/MS分析を行い、アミノ酸配列分析の結果、および、274.2 m/zを親イオンとした、LC-MS/MS分析を行った結果より、化合物2はPhe-Gln(FQ)であることが示された。
【0135】
(4)約4〜8分ピーク含有物質の解析結果
上記と同様に、約4〜8分ピーク含有物質のアミノ酸配列分析およびLC-MS/MS分析を行った結果より、約4〜8分ピーク含有物質は、Tyr-Ala- Phe-Asp-Val-Trp-Tyr (YAFDVWY)、Asp-Val-Trp-Tyr (DVWY)、Phe-Asp-Ala-Arg-Thr (FDART)およびTrp-Thr-Phe-Arg (WTFR)であることが示された。
【0136】
(5)約32分に溶出される化合物の解析結果
上記と同様に、約32分に溶出される化合物のアミノ酸配列分析およびLC-MS/MS分析を行った結果、約32分に溶出される化合物は、Val-Ala-Glu (VAE)であることが示された。
【0137】
(6)ピークI(36〜38分)の分析結果
ピークIについて分取を行い、H NMR分析およびLC-MS/MS分析を行った結果、H NMRの2 ppm、8-9 ppm付近に検出されるスペクトルがピークII、III、IVと共通である、親イオン315.9 m/zの化合物であることが推察された。
【0138】
(7)ピークII(38〜40分)の分析結果
ピークIIについて分取を行い、H NMR分析およびLC-MS/MS分析を行った結果、H NMRの2 ppm、8-9 ppm付近に検出されるスペクトルがピークI、III、IVと共通である、親イオン345.9 m/zの化合物であることが推察された。
【0139】
(8)ピークIII(59〜61分)の分析結果
ピークIIIについて分取を行い、H NMR分析およびLC-MS/MS分析を行った結果、H NMRの2 ppm、8-9 ppm付近に検出されるスペクトルがピークI、II、IVと共通である、親イオン372.8 m/zの化合物であることが推察された。
【0140】
(9)ピークIV(64〜66分)の分析結果
ピークIVについて分取を行い、H NMR分析およびLC-MS/MS分析を行った結果、H NMRの2 ppm、8-9 ppm付近に検出されるスペクトルがピークI、II、IIIと共通である、親イオン477.9 m/zの化合物であることが推察された。
【実施例7】
【0141】
成分Yに含まれる成分の血圧降下作用
実施例7で同定(推定)した物質について、降圧作用を測定した。降圧作用は、SHRに各同定物質の合成物またはHPLC精製した物質を単回経口投与し、経時的な収縮期血圧変化、拡張期血圧変化を調べることで確認した。
【0142】
試験物質
試料のうち、チロシン(Tyr)は関東化学より購入したものを用いた。また、Tyr-Ala-
Phe-Asp-Val-Trp-Tyr (YAFDVWY)、Asp-Val-Trp-Tyr (DVWY)、Phe-Asp-Ala-Arg-Thr (FDART)、Trp-Thr-Phe-Arg (WTFR)、Val-Val-Gly (VVG)は、株式会社ベックスより固相合成されたものを購入した。Phe-Gln (FQ)、Val-Ala-Glu (VAE)は、前記式1および式2記載の合成チャートに従って合成したものを用いた。なお、これらの合成品は、LC-MS/MS分析により生成するフラグメントを確認した後に動物試験に使用した。
【0143】
動物実験
上記、YAFDVWY、DVWY、FDART、WTFR、Tyr、FQ、VVG、VAE、ピークI、ピークII、ピークIIIおよびピークIVの各試料について、SHRへの単回経口投与および血圧測定を行った。動物試験では、試験実施者に投与物質が分からないよう、二重盲目試験による血圧測定を実施した。本試験は、期間を3回に分けて行った。
【0144】
使用動物
試験には11〜15週齢の雄性SHR/Izm計75匹(日本チャールス・リバー株式会社より入手)を使用した。7日間の馴化飼育後、試料の単回経口投与および血圧測定を行った。試料の単回経口投与を行う2〜3日前には全SHRの血圧測定を行い、高血圧を発症していることを確認した。経口投与試験には11〜15週齢のSHRを使用した。
【0145】
飼育条件
実験に用いたラットは搬入後、金属製のケージに個別に収容し、クリーン条件下で飼育した。飼育室の環境は、室温23±4度(C)、湿度50±20%、明暗条件は明期が12時間(8〜20時)、残り12時間を暗期とした。馴化飼育期間中は市販固形飼料CRF-1(日本チャールス・リバー株式会社)と水道水の自由摂取で飼育した。試験物質投与前日に各個体の体重および血圧(収縮期血圧、拡張期血圧)を測定した後、各群内の平均体重および血圧が同程度になるように1群5匹ずつ群分けを行った。また、試験物質の経口投与前に、14〜16時間の絶食を行った。本実験は、試験期間を3回に分けて行った。
【0146】
試験物質投与方法
動物の体重1 kgあたり0.1 mgの各試験物質を、動物体重1 kgあたり2 mlの純水に溶かしたもの{0.1 mg/2 ml/ kg (b.w.)}を投与試料とし、ステンレス製経口胃ゾンデ(株式会社夏目製作所)を用いてSHRに単回経口投与を行った。投与物質は、YAFDVWY、DVWY、FDART、WTFR、Tyr、FQ、VVG、VAE、ピークI、ピークII、ピークIIIおよびピークIVである。対照には、ラットの体重1
kgあたり2 mlの純水を単回経口投与した。
【0147】
血圧測定方法
各試料を単回経口投与後、0、3、6、9および24時間後にテイルカフ法で収縮期血圧、拡張期血圧をそれぞれ測定した。
【0148】
実験結果
1.
Tyr-Ala-Phe-Asp-Val-Trp-Tyr(YAFDVWY)の単回経口投与試験結果
Tyr-Ala-Phe-Asp-Val-Trp-Tyr(YAFDVWY)を0.1 mg/2 ml/ kg (b.w.)の用量で単回経口投与試験を行った。
試験物質投与後、0、3、6、9および24時間後に血圧(収縮期血圧、拡張期血圧)を測定し、0時間での血圧と比較した経時的な血圧変化の値を平均値±標準誤差で表した。
対照として、純水を2 ml/kgの用量で投与したものを、対照群とした。
また、各時間でのYAFDVWY投与群と対照群の血圧変化値を比較してStudentのt検定を行った。
1-1. 収縮期血圧変化
YAFDVWY投与群は、対照群と比較して投与6時間後に有意な収縮期血圧降下の差が確認され、その差は35.4 mmHgであった。また、YAFDVWY投与群の血圧降下の最大値は投与6時間後の34.5mmHgであった。
1-2. 拡張期血圧変化
YAFDVWY投与群は、対照群と比較して投与6時間後に有意な拡張期血圧降下の差が確認され、その差は29.2 mmHgであった。また、YAFDVWY投与群の血圧降下の最大値は投与6時間後の29.2 mmHgであった。
YAFDVWYの収縮期血圧変化および拡張期血圧変化の結果を、以下の表19および表20に示した。
【0149】
【表19】
【0150】
【表20】
【0151】
2.
Asp-Val-Trp-Tyr(DVWY)の単回経口投与試験結果
上記と同様にして、Asp-Val-Trp-Tyr(DVWY)を0.1 mg/2 ml/ kg (b.w.)の用量で単回経口投与試験を行った。結果は以下のとおりであった。
2-1. 収縮期血圧変化
DVWY投与群は、対照群と比較して投与3、6時間後に有意な収縮期血圧降下の差が確認され、その差はそれぞれ35.5 mmHg、48.2 mmHgであった。また、DVWY投与群の血圧降下の最大値は投与6時間後の48.2 mmHgであった。
2-2. 拡張期血圧変化
DVWY投与群は、対照群と比較して投与3、9時間後に有意な拡張期血圧降下の差が確認され、その差はそれぞれ25.6 mmHg、27.8mmHgであった。また、DVWY投与群の血圧降下の最大値は投与6時間後の28.6 mmHgであった。
DVWYの収縮期血圧変化および拡張期血圧変化の結果を、以下の表21および表22に示した。
【0152】
【表21】
【0153】
【表22】
【0154】
3.
Phe-Asp-Ala-Arg-Thr(FDART)の単回経口投与試験結果
上記と同様にして、Phe-Asp-Ala-Arg-Thr(FDART)を0.1 mg/2 ml/ kg (b.w.)の用量で単回経口投与試験を行った。結果は以下のとおりであった。
3-1. 収縮期血圧変化
FDART投与群は、対照群と比較して投与3、9時間後に有意な収縮期血圧降下の差が確認され、その差はそれぞれ13.3 mmHg、24.3 mmHgであった。また、FDART投与群の血圧降下の最大値投与6時間後の29.0 mmHgであった。
3-2. 拡張期血圧変化
FDART投与群は、対照群と比較して投与3、9時間後に有意な拡張期血圧降下の差が確認され、その差はそれぞれ15.1 mmHg 、26.4 mmHgであった。また、FDART投与群の血圧降下の最大値は投与9時間後の26.4 mmHgであった。
FDARTの収縮期血圧変化および拡張期血圧変化の結果を、以下の表23および表24に示した。
【0155】
【表23】
【0156】
【表24】
【0157】
4.
Trp-Thr-Phe-Arg(WTFR)の単回経口投与試験結果
上記と同様にして、Trp-Thr-Phe-Arg(WTFR)を0.1 mg/2 ml/ kg (b.w.)の用量で単回経口投与試験を行った。結果は以下のとおりであった。
4-1. 収縮期血圧変化
WTFR投与群は、対照群と比較して投与3、6、9時間後に有意な収縮期血圧降下の差が確認され、その差はそれぞれ26.5 mmHg、29.5 mmHg、27.8 mmHgであった。また、WTFR投与群の血圧降下の最大値は投与6時間後の29.5 mmHgであった。
4-2. 拡張期血圧変化
WTFR投与群は、対照群と比較して投与3、6、9時間後に有意な拡張期血圧降下の差が確認され、その差はそれぞれ18.4 mmHg、18.5 mmHg、30.2 mmHgであった。また、WTFR投与群の血圧降下の最大値は投与9時間後の30.2 mmHgであった。
WTFRの収縮期血圧変化および拡張期血圧変化の結果を、以下の表25および表26に示した。
【0158】
【表25】
【0159】
【表26】
【0160】
5. チロシン(Tyr)の単回経口投与試験結果
上記と同様にして、チロシン(Tyr)を0.1 mg/2 ml/ kg (b.w.)の用量で単回経口投与試験を行った。結果は以下のとおりであった。
5-1. 収縮期血圧変化
Tyr投与群は、対照群と比較して投与6時間後に有意な収縮期血圧降下の差が確認され、その差は24.8 mmHgであった。また、Tyr投与群の血圧降下の最大値は投与6時間後の24.8 mmHgであった。
5-2. 拡張期血圧変化
Tyr投与群は、対照群と比較して投与3、9時間後に有意な拡張期血圧降下の差が確認され、その差はそれぞれ12.5 mmHg、24.4 mmHg、であった。また、Tyr投与群の血圧降下の最大値は投与9時間後の24.4 mmHgであった。
Tyrの収縮期血圧変化および拡張期血圧変化の結果を、以下の表27および表28に示した。
【0161】
【表27】
【0162】
【表28】
【0163】
6.
Phe-Gln(FQ)の単回経口投与試験結果
上記と同様にして、Phe-Gln(FQ)を0.1 mg/2 ml/ kg (b.w.)の用量で単回経口投与試験を行った。結果は以下のとおりであった。
6-1. 収縮期血圧変化
FQ投与群は、対照群と比較して投与3、6、9、24時間後に有意な収縮期血圧降下の差が確認され、その差はそれぞれ28.8 mmHg 、29.5 mmHg、33.6 mmHg、12.3 mmHgであった。また、FQ投与群の血圧降下の最大値は投与9時間後の33.6 mmHgであった。
6-2. 拡張期血圧変化
FQ投与群は、対照群と比較して投与3、9、24時間後に有意な拡張期血圧降下の差が確認され、その差はそれぞれ33.2 mmHg、41.4 mmHg、11.3 mmHgであった。また、FQ投与群の血圧降下の最大値は投与9時間後の41.4 mmHgであった。
FQの収縮期血圧変化および拡張期血圧変化の結果を、以下の表29および表30に示した。
【0164】
【表29】
【0165】
【表30】
【0166】
7.
Val-Val-Gly(VVG)の単回経口投与試験結果
上記と同様にして、Val-Val-Gly(VVG)を0.1 mg/2 ml/ kg (b.w.)の用量で単回経口投与試験を行った。結果は以下のとおりであった。
7-1. 収縮期血圧変化
VVG投与群は、対照群と比較して投与3、6、9時間後に有意な収縮期血圧降下の差が確認され、その差はそれぞれ19.3 mmHg 、23.5 mmHg、28.3 mmHgであった。また、VVG投与群の血圧降下の最大値は投与9時間後の28.3 mmHgであった。
7-2. 拡張期血圧変化
VVG投与群は、対照群と比較して投与3、6、9、24時間後に有意な拡張期血圧降下の差が確認され、その差はそれぞれ31.9 mmHg、28.6 mmHg、37.1 mmHg、13.1 mmHgであった。また、VVG投与群の血圧降下の最大値は投与9時間後の37.1 mmHgであった。
VVGの収縮期血圧変化および拡張期血圧変化の結果を、以下の表31および表32に示した。
【0167】
【表31】
【0168】
【表32】
【0169】
8.
Val-Ala-Glu(VAE)の単回経口投与試験結果
上記と同様にして、Val-Ala-Glu(VAE)を0.1 mg/2 ml/ kg (b.w.)の用量で単回経口投与試験を行った。結果は以下のとおりであった。
8-1. 収縮期血圧変化
VAE投与群は、対照群と比較して投与6時間後に有意な収縮期血圧降下の差が確認され、その差はそれぞれ24.1 mmHgであった。また、VAE投与群の血圧降下の最大値は投与6時間後の24.1 mmHgであった。
8-2. 拡張期血圧変化
VAE投与群は、対照群と比較して投与3時間後に有意な拡張期血圧降下の差が確認され、その差はそれぞれ17.7 mmHgであった。また、VAE投与群の血圧降下の最大値は投与3時間後の17.7 mmHgであった。さらに、投与6時間後においても血圧降下値17.5 mmHgという、投与3時間後と同程度の血圧降下が確認された。
VAEの収縮期血圧変化および拡張期血圧変化の結果を、以下の表33および表34に示した。
【0170】
【表33】
【0171】
【表34】
【0172】
9. ピークIの単回経口投与試験結果
上記と同様にして、ピークIを0.1 mg/2 ml/ kg (b.w.)の用量で単回経口投与試験を行った。結果は以下のとおりであった。
9-1. 収縮期血圧変化
ピークI投与群は、対照群と比較して投与3、6、24時間後に有意な収縮期血圧降下の差が確認され、その差はそれぞれ19.7 mmHg、27.6 mmHg、18.0 mmHgであった。また、ピークI投与群の血圧降下の最大値は投与6時間後の27.6 mmHgであった。
9-2. 拡張期血圧変化
ピークI投与群は、対照群と比較して投与3、6、24時間後に有意な拡張期血圧降下の差が確認され、その差はそれぞれ33.4 mmHg、28.4 mmHg、11.4 mmHg、であった。また、ピークI投与群の血圧降下の最大値は投与6時間後の28.4 mmHgであった。
ピークIの収縮期血圧変化および拡張期血圧変化の結果を、以下の表35および表36に示した。
【0173】
【表35】
【0174】
【表36】
【0175】
10. ピークIIの単回経口投与試験結果
上記と同様にして、ピークIIを0.1 mg/2 ml/ kg (b.w.)の用量で単回経口投与試験を行った。結果は以下のとおりであった。
10-1. 収縮期血圧変化
ピークII投与群は、対照群と比較して投与3、6、9、24時間後に有意な収縮期血圧降下の差が確認され、その差はそれぞれ21.9 mmHg、34.6 mmHg、27.8 mmHg、19.3 mmHgであった。また、ピークII投与群の血圧降下の最大値は投与6時間後の34.6 mmHgであった。
10-2. 拡張期血圧変化
ピークII投与群は、対照群と比較して投与3、6、9、24時間後に有意な拡張期血圧降下の差が確認され、その差はそれぞれ33.5 mmHg、30.5 mmHg、30.7 mmHg、19.9 mmHgであった。また、ピークII投与群の血圧降下の最大値は投与9時間後の30.7 mmHgであった。さらに、投与6時間後においても血圧降下値30.5 mmHgという、投与9時間後と同程度の血圧降下が確認された。
ピークIIの収縮期血圧変化および拡張期血圧変化の結果を、以下の表37および表38に示した。
【0176】
【表37】
【0177】
【表38】
【0178】
11. ピークIIIの単回経口投与試験結果
上記と同様にして、ピークIIIを0.1 mg/2 ml/ kg (b.w.)の用量で単回経口投与試験を行った。結果は以下のとおりであった。
11-1. 収縮期血圧変化
ピークIII投与群は、対照群と比較して投与6時間後に有意な収縮期血圧降下の差が確認され、その差は27.2 mmHgであった。また、ピークIII投与群の血圧降下の最大値は投与6時間後の27.2 mmHgであった。
11-2. 拡張期血圧変化
ピークIII投与群は、対照群と比較して有意差は見られなかった。また、ピークIII投与群の血圧降下の最大値は投与6時間後の12.6 mmHgであった。
ピークIIIの収縮期血圧変化および拡張期血圧変化の結果を、以下の表39および表40に示した。
【0179】
【表39】
【0180】
【表40】
【0181】
12. ピークIVの単回経口投与試験結果
上記と同様にして、ピークIVを0.1 mg/2 ml/ kg (b.w.)の用量で単回経口投与試験を行った。結果は以下のとおりであった。
12-1. 収縮期血圧変化
ピークIV投与群は、対照群と比較して有意差は見られなかった。また、ピークIV投与群の血圧降下の最大値は投与3時間後の13.8 mmHgであった。
12-2. 拡張期血圧変化
ピークIV投与群は、対照群と比較して投与6時間後に有意な拡張期血圧降下の差が確認され、その差は17.5 mmHgであった。また、ピークIV投与群の血圧降下の最大値は投与9時間後の21.2 mmHgであった。
ピークIVの収縮期血圧変化および拡張期血圧変化の結果を、以下の表41および表42に示した。
【0182】
【表41】
【0183】
【表42】
【0184】
13.全成分の結果比較
上記の各物質投与群と対照群との比較において、最大の血圧降下を示した時の値を、図9および図10に示した。
収縮期血圧では、12種の投与物質の中でDVWYの降圧作用が一番高く、その次にYAFDVWY、ピークII、FQが並ぶ。特にDVWYは一番収縮期血圧降下値の小さいピークIVと比較し、血圧降下値に34.4
mmHgもの差が見られ、収縮期血圧降下作用を有していることが確認された。
また、拡張期血圧では、12種の投与物質の中でFQの降圧作用が一番高く、その次にVVG、ピークI、ピークIIが続く。特にFQは一番拡張期血圧降下値の低いピークIIIと比較し、血圧降下値に28.8
mmHgもの差が見られ、拡張期血圧降下作用を有していることが確認された。
【実施例8】
【0185】
血圧降下作用パターンの比較
上記の試験で、高い降圧作用を示したピークY試料含有物質の4種(DVWY、FQ、VVG、ピークII)の物質について、現在医薬品として使用されているカプトプリル(ACE阻害剤)、ロサルタン(AT-II受容体拮抗薬)と、降圧作用を比較した。
本試験で比較したロサルタンおよびカプトプリルの投与量は5 mg/kgとし、DVWY、FQ、VVG、ピークIIの投与量は上記と同じ0.1 mg/kgとした。
収縮期血圧降下作用を図11に、拡張期血圧降下作用を図12に示した。DVWYの収縮期血圧降下作用は、ロサルタンと同程度で非常に高く、拡張期血圧降下作用は、ロサルタンよりも少し劣るが、カプトプリルよりも21.0 mmHg多く降下が見られた。血圧降下のパターンは、投与3時間後に最も効果が表れるロサルタンとは異なり、カプトプリルと類似していた。
FQの収縮期血圧降下作用は、DVWY同様ロサルタンと同程度で非常に高く、拡張期血圧降下作用では、ロサルタンよりも投与6、9時間後に高い血圧降下を示した。FQの血圧降下のパターンは、投与3〜9時間にかけてゆっくりと効果が表れる傾向にあり、ロサルタン、カプトプリルとは異なっていた。
VVGの収縮期血圧降下作用は、ロサルタンよりも少し劣るがカプトプリルと比較して21.4 mmHg多く血圧降下が見られ、拡張期血圧降下作用は、ロサルタンよりも投与6、9時間後に高い血圧降下を示した。血圧降下のパターンは、投与3〜9時間にかけてゆっくりと効果が表れる傾向にあり、FQと類似し、ロサルタン、カプトプリルとは異なっていた。
ピークIIの収縮期血圧降下作用は、ロサルタンと同程度の血圧降下が見られ、拡張期血圧降下作用は、ロサルタンよりも少し劣るものの、カプトプリルと比較して23.2 mmHgの血圧降下が確認された。血圧降下のパターンは、投与6時間後に最大の血圧降下が見られるカプトプリルと類似していた。
以上のように、ピークY試料が含有する物質のうち、DVWY、FQ、VVG、ピークIIは、既存の医薬品のロサルタンまたはカプトプリルよりも少量で同程度またはそれ以上の降圧作用を示した。また、血圧降下パターンは、DVWY、ピークIIはカプトプリルの血圧降下パターンと類似しており、さらにFQとVVGは互いに血圧降下パターンが類似し、ロサルタン、カプトプリルの何れとも異なっていた。
【実施例9】
【0186】
マグヌス試験
試験には12〜13週齢の雄性SHR/Izm(日本チャールス・リバー株式会社より入手)を使用した。3〜7日間の馴化飼育後、エーテル麻酔下でラットを開腹、放血死させ、速やかに胸部大動脈を摘出した。摘出した大動脈を、4度(C)に保冷したKrebs-Henseleit溶液に浸し、血液をよく洗い流した後、血管に付着した結合組織および脂肪組織を除去し、幅約2〜3 mmのリング標本を作製した。内皮細胞の除去は血管を濾紙に軽く擦りつけることで行い、これを内皮細胞除去標本とした。
【0187】
リング標本は、37度(C)に保った混合ガス(95%O2、5%CO2)を通気したKrebs-Henseleit溶液を満たしたオーガンバス内に懸垂し、その収縮張力をトランスデューサーを用いて測定しレコーダーに記録した。Krebs-Henseleit溶液の組成(mM)はNaCl 118、KCl 4.7、CaCl2・2H2O 2.5、MgSO4・7H2O 1.2、KH2PO4 1.2、NaHCO3 25、glucose 11.1であった。リング標本には1.0 g〜1.5 gの至適静止張力を負荷し、約60分間安定させた。この間15分間隔で新鮮なKrebs-Henseleit溶液と交換した。以降の操作は、リング標本の収縮または拡張反応をトランスデューサーを用いて測定しレコーダーに記録したものを確認しながら行った。
【0188】
血管収縮剤であるフェニレフリンを、オーガンバス内(4 ml)の溶液の終濃度が0.3 μMになるように添加しリング標本を収縮させた後、アセチルコリンを、オーガンバス内(5 ml)の溶液の終濃度が0.1 mMになるように添加しリング標本を拡張させて血管内皮の状態を確認した。血管内皮が損傷もしくは除去されたリング標本ではアセチルコリンによる拡張作用が不十分である。血管内皮を除去したリング標本を用いた試験を除く、他の全てのマグヌス試験には血管内皮が無傷であるリング標本を用いた。
【0189】
リング標本を数回Krebs-Henseleit溶液で洗浄し、張力を静止張力に戻して安定したところで、再びフェニレフリンを同じ濃度になるように添加し収縮させた。この操作を2回繰り返して血管が十分に安定したところで、同濃度のフェニレフリン共存下で試料を終濃度0.1 mg/mlになるように添加し張力変化を記録した。測定が終了したら血管弛緩剤であるパパベリンを、オーガンバス内(5 ml)の終濃度が0.1 mMになるように添加し、リング標本を完全に弛緩させて血管の状態を確認した。なお、一酸化窒素合成酵素阻害剤であるL-NAMEを添加する場合には、サンプル添加15分前に100 μMの終濃度になるように添加した。
【0190】
発酵ソバ上清粉末およびVAE
(Val-Ala-Glu)添加によるリング標本の張力変化を図13、図14に示した。
【0191】
至適静止張力でのリング標本の安定状態を弛緩率100%、フェニレフリンで収縮させてリング標本がプラトーに達した状態(フェニレフリン収縮張力)を弛緩率0%とし、試料による弛緩率(%)を下記計算式で求めた。複数回マグヌス試験を行った場合の弛緩率は、平均値±標準誤差(Mean±S.E.)で表示した。
【0192】
【数1】
【0193】
発酵ソバ上清粉末、ピークX試料、ピークY試料、チロシン(Tyr)、YAFDVWY
(Tyr-Ala-Phe-Asp-Val-Trp-Tyr)、DVWY (Asp-Val-Trp-Tyr)、FDART (Phe-Asp-Ala-Arg-Thr)、WTFR (Trp-Thr-Phe-Arg)、FQ (Phe-Gln)、VVG (Val-Val-Gly) およびVAE (Val-Ala-Glu)のマグヌス試験結果を表43に示す。
【0194】
【表43】
【産業上の利用可能性】
【0195】
本発明の新規なソバ抽出物は、顕著な血圧降下作用を有しており、これを活性成分として含有させることにより、機能性健康食品あるいは高血圧症等の治療用医薬品を製造することができる。
【技術分野】
【0001】
本発明は、血圧降下作用および血管拡張作用を有し、機能性健康食品あるいは医薬品組成物として有用なソバ抽出物、具体的には、ソバ植物体、好ましくは発芽して間もないソバ幼植物体の破砕物を発酵処理して得られる発酵ソバ上清の水溶性抽出物であって、以下に示すHPLC分析条件(1)で保持時間約18分〜約21分の範囲においてほぼ単一のピーク(ピークY)として検出される成分(成分Y)を含むことを特徴とする抽出物に関するものである。なお、本発明でのHPLC分析は、全て以下のHPLC分析機器で行った。
HPLC分析機器
HPLCシステム:Prominence (株式会社島津製作所)
構成 ワークステーション:LC-solution
システムコントローラー:CBM-20A
送液ユニット:LC-20AD
カラムオーブン:CTO-10A
検出器:SPD-M20A
HPLC分析条件 (1)
カラム:CHEMCOBOND
5-ODS-W (4.6×150 mm, 5 micro
m)
移動相:トリフルオロ酢酸(TFA)含有水(pH 2.0)
流速:0.8 ml/min
分離温度:30度(C)
検出波長:215 nm
【0002】
また本発明は、当該抽出物に含まれる、血圧降下作用および血管拡張作用成分のオリゴペプチドに関するものである。さらに本発明は、当該抽出物または当該抽出物に含まれる血圧降下作用および血管拡張作用成分を活性成分として含有する食品または医薬組成物に関するものである。なお、本発明でのアミノ酸およびペプチドを構成しているアミノ酸は全てL体である。
【背景技術】
【0003】
ソバは、ルチンを始めとするポリフェノール等の成分を含む食品として知られ、各種食品に加工され、食されている。また、近年特に、その機能性が注目され、機能性健康食品や医薬品への応用も数多く提案されている。
【0004】
例えば、血管拡張作用を有するソバ由来化合物(特許文献1)、ダッタンソバ抽出物とキレート剤および/または抗酸化剤を配合した美白化粧料(特許文献2)などが報告されている。これらはいずれもソバの実の抽出物であり、本発明のソバ植物体発酵物の抽出物とは当然、成分が異なるものである。
【0005】
また、ソバ植物体の抽出物として、結実前のソバの若株粉末と甘草または甘草抽出物のうち少なくとも一種を含む機能性食品も報告されている。(特許文献3)
このソバ抽出物は、本発明のようなソバ植物体発酵物の抽出物ではなく、しかも、結実前のソバの若株の粉末そのものであり、上記と同様に、本発明の抽出物とは含有する成分が異なるものである。
【0006】
さらにまた、ソバ植物体の発酵物に関するものとして、ソバの葉、茎および根から選ばれた少なくとも一種を含む原料を搾汁し、加熱殺菌後、乳酸菌により発酵した発酵液を凍結乾燥して得た抗アレルギー性化粧料組成物およびソバ抽出物含有固形組成物が報告されている。(特許文献4、5)
【0007】
この組成物は、ソバの葉、茎および根から選ばれた少なくとも1種の搾汁を乳酸菌発酵した発酵液の凍結乾燥品であり、上記と同様に、本発明の抽出物とは含有成分が異なるものである。しかも、この組成物は、血流改善、血行促進作用、血圧の正常化など、血管拡張作用あるいは血圧降下作用に基づくと思われる作用効果も記載されてはいるが、冷え症、しもやけの予防、肌荒れ、乾燥肌、アトピー性皮膚炎や花粉症などのアレルギー性疾患の改善、静脈瘤の改善、育毛・増毛効果、肩こり、腰痛、関節炎の解消、動脈硬化改善、気管支喘息の改善、貧血予防、生理痛の緩和、生理前の胸の張りの緩和、生理による於血の正常化、不眠症の改善、虫刺されによるかゆみ止め、視力向上、人工透析患者の貧血防止作用、カリウム低下作用、体重維持、体調維持作用など幅広い生理作用を有し、アレルギーや生活習慣病の症状改善効果を示す機能性食品に利用されるものであり、本発明の抽出物とは作用効果においても異なっている。
【0008】
また、血圧降下作用あるいは、ACE阻害作用を有するペプチド類として、ソバの脱穀種子またはそば粉の水溶性溶出物から単離されるアンジオテンシン−I変換酵素阻害活性を示す物質が報告されている(特許文献6)。
しかしながら、この成分は、本発明の血圧降下作用および血管拡張作用活性成分のペプチドとは全く化学構造が異なるものである。
【0009】
さらにまた、ACE阻害ペプチドとして、亜麻、アブラナ、大豆などの種子の粗びき粉から抽出されたVal-Ser-ValおよびPhe-Leuなどのペプチド(特許文献7)、あるいは、燕麦の粉末から抽出されたVIEPQGL、NIVQMSATR、VQVVNNNGQTVF、IVPQHFなどのペプチド(特許文献8)、などが報告されている。
しかしながら、これらのペプチドも本発明の血圧降下作用および血管拡張作用活性成分のペプチドとは全く異なるものである。
【0010】
本発明者らは、先に、ソバ発芽体搾汁の発酵物をそのまま凍結乾燥して得た粉末がACE阻害作用を示すことを見出し、当該粉末からなる機能性食品や、ソバの芽の搾汁を発酵して得た上清液からなる機能性飲料を報告している。(特許文献9)
この食品や、飲料は、ソバ発芽体搾汁の発酵物をそのまま凍結乾燥して得た粉末あるいはソバの芽の搾汁を発酵して得た上清液そのものであり、本発明の抽出物とは含有する成分において全く異なるものである。
【0011】
また、本発明者は、このACE阻害物質の分画方法および当該方法で分離された画分についても報告している。(特許文献10)
本方法で分離された画分は、明細書記載からも明らかなとおり、下記のHPLC分析条件(2)で、保持時間約4分〜約17分の範囲において複数のピークとして検出される成分を含むものであり、本発明の抽出物とは全く成分の異なるものである。
【0012】
HPLC分析条件 (2)
カラム:CHEMCOBOND
5-ODS-W (4.6×150 mm, 5 micro
m)
移動相:TFA含有水(pH 2.0)
流速:0.8 ml/min
分離温度:19度(C)
検出波長:215 nm
【0013】
本発明は、発酵ソバ抽出物に含まれる血圧降下作用および血管拡張作用活性成分を分離精製し、そのいくつかの成分を同定したものである。すなわち、当該抽出物の血圧降下作用および血管拡張作用活性成分として、アミノ酸のチロシン(Tyr)、およびオリゴペプチドのYAFDVWY(Tyr-Ala-Phe-Asp-Val-Trp-Tyr)、DVWY(Asp-Val-Trp-Tyr)、FDART(Phe-Asp-Ala-Arg-Thr)、WTFR(Trp-Thr-Phe-Arg)、FQ(Phe-Gln)、VVG(Val-Val-Gly)およびVAE(Val-Ala-Glu)などが含まれていることを見出したものであるが、これらのオリゴペプチドは、上記の特許文献6、7および8に報告されているペプチドとは異なるものである。
【0014】
しかもこれらのペプチドのうち、YAFDVWY、WTFR、DVWYおよびVAEはこれまで報告されていない新規なペプチドである。
また、これまでに、チロシン(Tyr)については、降圧作用を示すことが報告されている(非特許文献1)ものの、オリゴペプチドについては、血圧降下作用を有することについては全く報告されていない。また、これらのアミノ酸またはペプチドの血管拡張作用については全く報告例が無い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開2007−254410号公報
【特許文献2】特開2000−212061号公報
【特許文献3】特開平5−292918号公報
【特許文献4】特開2006−76903号公報
【特許文献5】特開2006−76904号公報
【特許文献6】特開平5−97798号公報
【特許文献7】特表2006−512371号公報
【特許文献8】特開2009−73765号公報
【特許文献9】特開2005−304355号公報
【特許文献10】特開2008−239498号公報
【非特許文献】
【0016】
【非特許文献1】Sved AF,Fernstrom JD, Wurtman RJ; Proc. Natl. Acad. Sci. 76(7), 3511-3514, (1979)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明の目的は、血圧降下作用および血管拡張作用を有し、機能性健康食品あるいは医薬品組成物として有用な、新規な発酵ソバ抽出物、当該抽出物または当該抽出物に含まれている活性成分の少なくともその一部を有効成分として含有する機能性健康食品あるいは医薬品組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ね、本発明を成した。すなわち、ソバ植物体の破砕物を発酵処理によって血圧降下作用が飛躍的に向上することに注目し、発酵によって変化するソバ植物体破砕物に含まれる成分について研究を重ねた結果、発酵処理によって変化した成分の中から極めて顕著な血圧降下作用および血管拡張作用を発揮する活性成分を分離することに成功し、さらに、その中のいくつかの活性成分を同定し、本発明を完成した。
【0019】
より詳細には、本発明は、
[1] ソバ植物体、好ましくは発芽して間もないソバ幼植物体の破砕物を乳酸菌発酵処理して得られる発酵ソバ上清の水溶性抽出物であって、少なくとも、下記HPLC分析条件(1)で保持時間約18分〜約21分の範囲においてほぼ単一のピーク(ピークY)として検出される成分(成分Y)を含むことを特徴とする抽出物、
HPLC分析条件(1)
カラム:CHEMCOBOND
5-ODS-W (4.6×150 mm, 5 micro
m)
移動相:TFA含有水(pH 2.0)
流速:0.8 ml/min
分離温度:30度(C)
検出波長:215 nm、
[2] ソバ植物体が、ソバ(Fagopyrum esulentum)またはダッタンソバ(Fagopyrum
tataricum)であることを特徴とする、[1]に記載の抽出物、
[3] 乳酸菌が、ラクトバチルス・プランタルム(Lactobacillus plantarum)、ラクトバチルス・ブルガリクス(Lactobacillus bulgaricus)、ラクトバチルス・アシドフィルス(Lactobacillus acidophilus)、ラクトバチルス・カゼイ(Lactobacillus
casei)、ラクトバチルス・ファーメンタム(Lactobacillus fermentum)、ストレプトコッカス・ラクティス(Streptococcus lactis)、ストレプトコッカス・クレモリス(Streptococcus cremoris)、ストレプトコッカス・サーモフィルス(Streptococcus thermophilus)の群から選ばれる一種であることを特徴とする、[1]に記載の抽出物、
[4] 乳酸菌が、ラクトバチルス・プランタルム(Lactobacillus plantarum)であることを特徴とする、[3]に記載の抽出物、
[5] 乳酸菌発酵処理が、殺菌処理したソバ植物体破砕物に、[3]に記載の乳酸菌の群から選ばれる一種を添加し、常温で発酵させるものであることを特徴とする、[1]に記載の抽出物、
[6] 以下の工程によって抽出、分取されたものであることを特徴とする、[1]に記載の抽出物、
工程1:ソバ植物体を殺菌液に浸して殺菌した後、水切りし、破砕機で破砕してソバ植物体破砕物を得る、
工程2:ソバ植物体破砕物を、乳酸菌を用いて発酵させ、発酵物を遠心分離し、その上清を減圧濃縮、凍結乾燥して発酵ソバ上清粉末を得る、
工程3:発酵ソバ上清粉末を固相抽出により前処理したものを、下記HPLC分析条件(1)で、保持時間約18分〜約21分の範囲においてほぼ単一のピーク(ピークY)として検出される成分(成分Y)が検出される画分を集めて減圧濃縮、凍結乾燥して発酵ソバ抽出物を得る、
HPLC分析条件 (1)
カラム:CHEMCOBOND
5-ODS-W (4.6×150 mm, 5 micro
m)
移動相:TFA含有水(pH 2.0)
流速:0.8 ml/min
分離温度:30度(C)
検出波長:215 nm、
および、
[7] 工程1の殺菌処理が、ソバ植物体を次亜塩素酸ナトリウム水溶液に浸して殺菌するものであり、工程2の発酵処理が、[3]に記載の乳酸菌の群から選ばれる一種を添加し、常温で2週間発酵させるものであり、工程3の固相抽出法が、カラムとしてSep-Pak(登録商標) Vac C18カートリッジ(ウォーターズ社製)を用い、溶出液としてTFA含有水(pH 2.0):メタノール=1:9混合液を用いるものであることを特徴とする、[6]に記載の抽出物、
に関する。
【0020】
また、本発明は、
[8] [1]に記載の抽出物に含まれる血圧降下作用および血管拡張作用活性成分であって、
化学式、
YAFDVWY(Tyr-Ala-Phe-Asp-Val-Trp-Tyr) ・・・・ (1)
化学式、
WTFR(Trp-Thr-Phe-Arg) ・・・・ (2)
化学式、
DVWY(Asp-Val-Trp-Tyr) ・・・・ (3)
または化学式、
VAE(Val-Ala-Glu) ・・・・ (4)
の何れかで表されるオリゴペプチド、
に関する。
【0021】
さらに、本発明は、
[9] 活性成分として、チロシン (Tyr)、並びにオリゴペプチドのYAFDVWY(Tyr-Ala-Phe-Asp-Val-Trp-Tyr)、DVWY(Asp-Val-Trp-Tyr)、FDART(Phe-Asp-Ala-Arg-Thr)、WTFR(Trp-Thr-Phe-Arg)、FQ(Phe-Gln)、VVG(Val-Val-Gly)およびVAE(Val-Ala-Glu)の群から選ばれる少なくとも1種または2種以上を含有することを特徴とする、[1]に記載の抽出物、および、
[10] 活性成分として、さらに、下記HPLC分析条件(3)で保持時間約37分にピーク(ピークI)を示す成分(成分I)、保持時間約38分にピーク(ピークII)を示す成分(成分II)、保持時間約59分にピーク(ピークIII)を示す成分(成分III)および保持時間約65分にピーク(ピークIV)を示す成分(成分IV)の群から選ばれる少なくとも1種または2種以上を含有することを特徴とする、[9]に記載の抽出物。
HPLC分析条件 (3)
カラム:TSKgel
Amide-80 (4.6×250 mm, 5 micro
m)
移動相A:TFA含有水(pH 2.0)
移動相B:アセトニトリル
流速:0.8 ml/min
分離温度:30度(C)
検出波長:215 nm
グラジエント:5% (0→15分)、5→10% (15→20分)、10→25% (20→80分)、
25→55% (80→105分)、55% (105→125分)、
に関する。
【0022】
さらに、本発明は、
[11] [1]〜 [10]の何れかに記載の抽出物および[8]に記載のオリゴペプチドの何れかを活性成分として含有することを特徴とする食品または医薬組成物、
[12] 活性成分が、オリゴペプチドのYAFDVWY(Tyr-Ala-Phe-Asp-Val-Trp-Tyr)、DVWY(Asp-Val-Trp-Tyr)、FDART(Phe-Asp-Ala-Arg-Thr)、WTFR(Trp-Thr-Phe-Arg)、FQ(Phe-Gln)、VVG(Val-Val-Gly)およびVAE(Val-Ala-Glu)、並びに、 [10]に記載の成分I、成分II、成分III、および成分IVの群から選ばれる少なくとも1種または2種以上である、[11]に記載の食品または医薬組成物、
[13] 活性成分が、DVWY(Asp-Val-Trp-Tyr)、FQ(Phe-Gln)、VVG(Val-Val-Gly)および成分IIの群から選ばれる少なくとも1種または2種以上である、[12]に記載の食品または医薬組成物に関する。
【発明の効果】
【0023】
本発明の新規なソバ抽出物は、顕著な血圧降下作用および血管拡張作用を有しており、機能性健康食品あるいは医薬品組成物の有効成分として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】図1は、発芽ソバ試料および発酵ソバ試料のHPLC分析チャートである。
【図2】図2は、発酵ソバ固相抽出物のHPLC分析チャートである。
【図3】図3は、ピークY試料(Y成分)のSuperdex Peptide 10/300 GLによる分画ピークを示すHPLC分析チャートである。
【図4】図4は、TOSOHTSKgel Amide-80 (4.6×250 mm, 5 microm)によるピークY試料(Y成分)のHPLC分析チャートである。
【図5】図5は、実施例3で細分画した6個のピークの画分のうちの、約28〜30分に溶出されるピーク(28〜30分溶出ピーク)の、1つめの化合物(化合物1)のアミノ酸配列分析チャート(1 cycle)である。
【図6】図6は、上記化合物1のアミノ酸配列分析チャート(2 cycle)である。
【図7】図7は、上記化合物1のアミノ酸配列分析チャート(3 cycle)である。
【図8】図8は、上記28〜30分溶出ピークのLC-MS/MS分析チャートである。
【図9】図9は、本発明の抽出物に含まれる降圧作用成分の、収縮期血圧降下作用(対照群との比較において、最大の血圧降下を示した時の値)を示すグラフである。
【図10】図10は、上記作用成分の、拡張期血圧降下作用(対照群との比較において、最大の血圧降下を示した時の値)を示すグラフである。
【図11】図11は、上記作用成分のうちDVWY(Asp-Val-Trp-Tyr)、FQ(Phe-Gln)、VVG(Val-Val-Gly)および成分IIと既存医薬品(カプトプリルおよびロサルタン)の収縮期血圧降下作用を示すグラフである。
【図12】図12は、上記作用成分のうちDVWY(Asp-Val-Trp-Tyr)、FQ(Phe-Gln)、VVG(Val-Val-Gly)および成分IIと既存医薬品(カプトプリルおよびロサルタン)の拡張期血圧降下作用を示すグラフである。
【図13】図13は、マグヌス試験における発酵ソバ上清粉末添加による胸部大動脈血管リング標本の張力変化を示すチャートである。
【図14】図14は、マグヌス試験におけるVAE(Val-Ala-Glu)添加による胸部大動脈血管リング標本の張力変化を示すチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
ソバ植物体、特にソバ幼植物体を発酵処理した発酵ソバの降圧作用が高いことが知られている。本発明者は、この発酵処理したソバ植物体の降圧作用物質を解明すべく以下のように検討を行った。
【0026】
まず、約15 cm程度に成長したソバ幼植物体を適当な殺菌液、例えば次亜塩素酸水溶液で殺菌処理した後、ジューサーで破砕してソバ幼植物体の破砕物を製造し、その上清を減圧濃縮、凍結乾燥してソバ幼植物体上清粉末(以下、発芽ソバ試料という)を製造した。次いで、ソバ幼植物体の破砕物を乳酸菌発酵させ、発酵液の上清を減圧濃縮、凍結乾燥して、発酵ソバ上清粉末(以下、発酵ソバ試料という)を製造した。
【0027】
上記で製造した発芽ソバ試料と発酵ソバ試料について、発酵処理による成分の変化を確認すべく、HPLC分析により両者に含まれる成分を測定したところ、下記HPLC分析条件(1)で保持時間約11.5分に単一ピーク(ピークX)として検出される成分(成分X)および保持時間約21分に単一ピーク(ピークY)として検出される成分(成分Y)が大きく変化していることを見出した。このピークXおよびピークYの保持時間は、カラムの劣化により多少変動するが、概ね、ピークXは保持時間約11分〜約13分の範囲内でほぼ単一ピークとして検出され、ピークYは保持時間約18分〜約21分の範囲内でほぼ単一ピークとして検出される。
【0028】
HPLC分析条件 (1)
カラム:CHEMCOBOND
5-ODS-W (4.6×150 mm, 5 micro
m)
移動相:TFA含有水(pH 2.0)
流速:0.8 ml/min
分離温度:30度(C)
検出波長:215 nm
【0029】
この成分Xおよび成分Yを純度よく分取すべく、まず、一般的な、エタノール含有水を用いた有機溶媒抽出法を検討した。その結果、エタノール濃度の上昇に応じて成分Xおよび成分Yが効率よく抽出されるものの、100%エタノールでは成分Xおよび成分Yの抽出効率が低下し、さらに、最も抽出効率の良い90%エタノール含有水では、フェノール類などの極性の低い物質も抽出されてしまい、あまり効率の良い抽出ができなかった。
【0030】
そこで、Sep-Pak(登録商標) Vac C18カートリッジ(ウォーターズ社製)を用いた固相抽出法について検討を行った。その結果、以下に示す方法によって純度よく両成分が分取できることを見出した。
【0031】
すなわち、固相抽出カートリッジに、Sep-Pak(登録商標) Vac C18カートリッジ(ウォーターズ社製)を用い、これをメタノールで活性化し、TFA含有水(pH 2.0):メタノール=1:9に調製した固相抽出液で平衡化した後、発酵ソバ試料の溶液をカートリッジにアプライする。次いで、上記の固相抽出液で溶出し、ピークXおよびピークYが検出される画分をそれぞれ集めて減圧濃縮、凍結乾燥して、成分Xおよび成分Yを効率よく得ることができた。
【0032】
この成分Xと成分Yについて降圧作用を測定したところ、成分Yの方が、用量相関性はないものの、低用量でも顕著な血圧降下作用を示したことから、成分Yの方が、より強い血圧降下作用を示す成分が含まれていると考え、成分Yについて、その分画に含まれる成分の分離、精製を以下のようにして行った。
【0033】
まず、成分Yを各種のHPLCカラムを用いて検討して、逆相カラムよりも順相カラムの方が、分離が良好であることを確認した。この中でも特にTOSOH TSKgel Amide-80カラムは非常に分離が良好であった。この、TOSOH TSKgel Amide-80カラムによる成分Yの分離についてさらに検討を加え、その結果、下記HPLC分析条件 (3)で最も良好にピークが分離され、215 nmで比較的吸光の高いピークが複数、分離された。
【0034】
HPLC分析条件 (3)
カラム:TSKgel
Amide-80 (4.6×250 mm, 5 micro
m)
移動相A:TFA含有水(pH 2.0)
移動相B:アセトニトリル
流速:0.8 ml/min
分離温度:30度(C)
検出波長:215 nm
グラジエント:5% (0→15分)、5→10% (15→20分)、10→25% (20→80分)、
25→55% (80→105分)、55% (105→125分)、
【0035】
しかしながら、TOSOH
TSKgel Amide-80カラムによる分離だけでは、ピークの重なりが確認され、物質の同定には分離が不十分であった。このため、TOSOH TSKgel Amide-80カラムで成分Y試料の分離を行う前にもう1ステップ他のカラムで分離を行うHPLC分離が必要であると考え、前処理方法について検討を加えた。
【0036】
このとき、他のカラムで成分Yの分離・分取を行う際に、成分Yがアセトニトリル(移動相B)には比較的溶解しにくく、反対に酸溶液(移動相A)には溶解されやすいという問題があった。
このことから、出来るだけ濃い濃度で試料をインジェクトするためには、成分Yを移動相Aに溶解させる分離モードが好ましく、さらに、ある程度試料の濃度が濃くても対応できるカラムが望ましいと考えられた。
【0037】
これらの点から、前処理の分画カラムとしては、ゲル濾過カラムのSuperdex Peptide 10/300 GLカラムが適していると考え、最初に、Superdex Peptide 10/300 GLカラムを用いてゲル濾過カラム分画を行い、その後、上記で良好な分離結果が得られた、TOSOH TSKgel Amide-80カラムで分離する方法を行った結果、極めて良好に、成分Yを細分画することができた。
【0038】
すなわち、まず下記のHPLC分析条件 (4)でHPLC分析を行い、約31.5〜34分(A)、約34〜38分(B)、約38〜43分(C)、約43〜44.5分(D)、約44.5〜49分(E)にピークを示す、5つの画分A〜Eに分画した。
【0039】
HPLC分析条件 (4)
カラム:Superdex
Peptide 10/300 GL (10×300 mm, 13 micro m)
移動相:TFA含有水(pH 2.0)
流速:0.5 ml/min
分離温度:30度(C)
検出波長:215 nm、
【0040】
上記で分画した、5つの画分A〜Eについて、更に、TOSOH
TSKgel Amide-80 (4.6×250 mm, 5 micro
m)を用いて細分画を行った。
HPLC分析条件は、移動相AにTFA含有水(pH 2.0)、移動相Bにアセトニトリルをそれぞれ用い、流速0.8 ml/min、分離温度30度(C)、検出波長215 nm、注入量20 micro lで行った。
また、画分Aは移動相Aを5% (0→15分)、5→10% (15→20分)、10→19% (20→56分)、19→55% (56 →60分)、55% (60→75分)の濃度でグラジエントを変化させ、画分Bは移動相Aを5% (0→15分)、5→10% (15→20分)、10→22% (20→68分)、22→55% (68 →70分)、55% (70→85分)の濃度でグラジエントを変化させ、画分Cは移動相Aを5 % (0→15分)、5→10% (15→20分)、10→23% (20→72分)、23→55% (72 →74分)、55% (74→90分)の濃度でグラジエントを変化させ、画分DおよびEは移動相Aを5 % (0→15分)、5→10% (15→20分)、10→16% (20→44分)、16→55% (44 →48分)、55% (48→65分)の濃度でグラジエントを変化させた。
【0041】
上記のようにして細分画した、各分離ピークの試料のアミノ酸配列分析、LC-MS/MS分析等を行い、各ピーク成分の同定を行った。
その結果、下記HPLC分析条件 (3)での分析において、約3〜7分および約12分にピークを示す成分については、オリゴペプチドのYAFDVWY(Tyr-Ala-Phe-Asp-Val-Trp-Tyr)、DVWY(Asp-Val-Trp-Tyr)、FDART(Phe-Asp-Ala-Arg-Thr)およびWTFR(Trp-Thr-Phe-Arg)の混合物であると同定された。
約16〜20分にピークを示す成分については、チロシン(Tyr)と同定できた。また、約28〜30分にピークを示す成分については、オリゴペプチドのVVG(Val-Val-Gly)、FQ (Phe-Gln)およびVAE (Val-Ala-Glu)の混合物であると同定できた。
【0042】
約38〜39分、約59分および約65分にそれぞれピークを示す成分については、確実な同定ができなかった。以下、下記HPLC分析条件 (3)のHPLC分析において保持時間約37分にピーク(ピークI)を示す成分を成分I、保持時間約38分にピーク(ピークII)を示す成分を成分II、保持時間約59分にピーク(ピークIII)を示す成分を成分III、保持時間約65分にピーク(ピークIV)を示す成分を成分IVとそれぞれ称する。
【0043】
HPLC分析条件 (3)
カラム:TSKgel
Amide-80 (4.6×250 mm, 5 micro
m)
移動相A:TFA含有水(pH 2.0)
移動相B:アセトニトリル
流速:0.8 ml/min
分離温度:30度(C)
検出波長:215 nm
グラジエント:5% (0→15分)、5→10% (15→20分)、10→25% (20→80分)、
25→55% (80→105分)、55% (105→125分)、
【0044】
上記のようにして分離、同定した成分について、本態性高血圧発症ラット(Spontaneously hypertensive rat、SHR)への単回経口投与および血圧測定を行って、降圧作用を測定したところ、収縮期血圧に対する血圧降下作用においては、オリゴペプチドのYAFDVWY(Tyr-Ala-Phe-Asp-Val-Trp-Tyr)、DVWY(Asp-Val-Trp-Tyr)、FQ(Phe-Gln)および成分IIが特に顕著な降圧作用を示した。
一方、拡張期血圧に対する血圧降下作用においては、オリゴペプチドのFQ(Phe-Gln)、VVG(Val-Val-Gly)、成分Iおよび成分IIが特に顕著な降圧作用を示した。
【0045】
また、成分Y含有物質の中で、高い降圧作用を示したDVWY(Asp-Val-Trp-Tyr)、FQ(Phe-Gln)、VVG(Val-Val-Gly)および成分IIの降圧作用のパターンについて、医薬品として用いられているカプトプリルおよびロサルタンカリウム(以下、ロサルタンという)の降圧作用パターンと比較した。なお、DVWY(Asp-Val-Trp-Tyr)、FQ(Phe-Gln)、VVG(Val-Val-Gly)および成分IIの投与量は0.1 mg/kg、カプトプリルおよびロサルタンの投与量は5 mg/kgとした。
【0046】
その結果、DVWY(Asp-Val-Trp-Tyr)を経口投与したときの収縮期血圧降下値はロサルタンと同程度で非常に高く、拡張期血圧はロサルタンよりも少し劣るが、カプトプリルよりも21.1 mmHg多く降下が見られた。しかし、血圧降下のパターンは投与3時間後に最も効果が表れるロサルタンとは異なり、カプトプリルと類似していた。
【0047】
また、上記の成分について、SHRから摘出した胸部大動脈標本を用いて、血管拡張作用を測定したところ、発酵ソバ上清粉末が極めて低濃度で顕著な血管拡張作用を示し、ピークY試料およびVAE(Val-Ala-Glu)が低濃度で顕著な血管拡張作用を示した。また、ピークX試料、チロシン(Tyr)、YAFDVWY(Tyr-Ala-Phe-Asp-Val-Trp-Tyr)、DVWY(Asp-Val-Trp-Tyr)、FDART(Phe-Asp-Ala-Arg-Thr)、WTFR(Trp-Thr-Phe-Arg)、FQ(Phe-Gln)およびVVG (Val-Val-Gly)も血管拡張作用を示した。
【0048】
また、血管内皮を除去した血管およびL-NAME(N(G)-nitro-L-arginine
methyl ester)共存下では、発酵ソバ上清粉末およびの血管拡張作用が顕著に抑制されたことから血管内皮に作用して血管拡張を引き起こしていることが示唆された。
【0049】
このように、本発明の発酵ソバ抽出物に含まれる活性成分は、これまで医薬品として用いられている、カプトプリルあるいはロサルタンと同等またはそれ以上の降圧作用を示し、有用な機能性健康食品あるいは医薬品となり得るものである。
【0050】
本発明の発酵ソバ抽出物は、例えば以下の工程に従い、通常の植物成分の抽出、分離技術を応用することにより製造することができる。
工程1:ソバ植物体を殺菌液に浸して殺菌した後、水切りし、破砕機で破砕してソバ植物体破砕物を得る。
工程2:ソバ植物体破砕物を、微生物を用いて発酵させ、発酵液を遠心分離し、その上清を減圧濃縮、凍結乾燥して発酵ソバ上清粉末を得る。
工程3:固相抽出法により前処理した発酵ソバ上清粉末を、下記HPLC分析条件(1)で、保持時間約21分にピーク(ピークY)を示す成分(成分Y)が検出される画分を集めて減圧濃縮、凍結乾燥して発酵ソバ抽出物を得る。
HPLC分析条件 (1)
カラム:CHEMCOBOND
5-ODS-W (4.6×150 mm, 5 micro
m)
移動相:TFA含有水(pH 2.0)
流速:0.8 ml/min
分離温度:30度(C)
検出波長:215 nm、
【0051】
また、本発明の発酵ソバ抽出物に含まれる活性成分の中のオリゴペプチドについては、例えば、実施例記載の分離精製方法に従って単離することにより得ることができる。公知のオリゴペプチドで、市販されているものについては、それを購入することもできる。さらに、公知、新規を問わず、文献記載の方法、またはその応用方法に従って合成することもできる。
本発明の発酵ソバ抽出物に含まれる活性成分の中の新規なオリゴペプチドのYAFDVWY(Tyr-Ala-Phe-Asp-Val-Trp-Tyr)(1)は、例えば、下記、反応式で示される合成チャートに従って合成することができる。
【0052】
【化1−1】
【0053】
【化1−2】
【0054】
【化1−3】
【0055】
【化1−4】
【0056】
【化1−5】
【0057】
【化1−6】
【0058】
【化1−7】
【0059】
【化1−8】
【0060】
【化1−9】
【0061】
【化1−10】
【0062】
【化1−11】
【0063】
【化1−12】
【0064】
【化1−13】
【0065】
また、WTFR(Trp-Thr-Phe-Arg)(2)は、例えば、下記、反応式で示される合成チャートに従って合成することができる。
【0066】
【化2−1】
【0067】
【化2−2】
【0068】
【化2−3】
【0069】
【化2−4】
【0070】
【化2−5】
【0071】
【化2−6】
【0072】
【化2−7】
【0073】
また、DVWY(Asp-Val-Trp-Tyr)(3)は、例えば、下記、反応式で示される合成チャートに従って合成することができる。
【0074】
【化3−1】
【0075】
【化3−2】
【0076】
【化3−3】
【0077】
【化3−4】
【0078】
【化3−5】
【0079】
【化3−6】
【0080】
【化3−6】
【0081】
さらに、Val-Ala-Glu(VAE)(4)は、例えば、下記、反応式で示される合成チャートに従って合成することができる。
【0082】
【化4−1】
【0083】
【化4−2】
【0084】
【化4−3】
【0085】
【化4−4】
【0086】
本発明の発酵ソバ抽出物の原料に用いるソバ植物体としては、発芽して間もないソバ幼植物体が好ましく、ソバ属植物であれば特に限定されず、ソバ(Fagopyrum esculentum)またはダッタンソバ(Fagopyrum
tataricum)を挙げることができる。
【0087】
本発明のソバ植物体破砕物の乳酸菌発酵に用いる乳酸菌としては、病原性のない乳酸菌であればどのようなものでもよく、例えば、ラクトバチルス属乳酸菌のラクトバチルス・プランタルム(Lactobacillus plantarum)、ラクトバチルス・ブルガリクス(Lactobacillus bulgaricus)、ラクトバチルス・アシドフィルス(Lactobacillus acidophilus)、ラクトバチルス・カゼイ(Lactobacillus
casei)、ラクトバチルス・ファーメンタム(Lactobacillus fermentum)など、および、ストレプトコッカス属乳酸菌のストレプトコッカス・ラクティス(Streptococcus lactis)、ストレプトコッカス・クレモリス(Streptococcus cremoris)、ストレプトコッカス・サーモフィルス(Streptococcus thermophilus)などを挙げることができ、その中では、ラクトバチルス属乳酸菌が好ましく、中でも、ラクトバチルス・プランタルム(Lactobacillus plantarum)が最も好ましい。
【0088】
本発明の抽出物は、各種の機能性健康食品あるいは医薬品組成物の有効成分として用いることができる。
【0089】
食品の場合、適当な食品添加物と組み合わせて、食品用組成物として用いることができる。また、このような食品用組成物に限らず、緑茶、紅茶、烏龍茶、雑穀茶等に配合して飲料として、あるいはビスケット、パン、飴等に配合して食品として、日常的に摂取可能な形態で提供することも可能である。また、下記医薬品の調剤に準じて錠剤とすることにより所謂サプリメントとしても利用可能である。
【0090】
医薬品とする場合は、適当な医薬品添加剤と組み合わせて、通常の調剤の手法に従って各種の剤形として用いることができる。このような剤形としては、例えば散剤、顆粒剤、カプセル剤、丸剤、錠剤等の固形製剤、水剤、懸濁剤、乳剤等の液剤等の経口投与剤が挙げられる。
【0091】
本発明の抽出物を食品として用いる場合、一般的な飲食品としてだけでなく、特定の機能を発揮して健康増進を図る機能性健康食品としての使用が挙げられる。この場合の具体的な形態としては、本発明の抽出物を有効成分として含有するカプセル剤、錠剤、粉末剤、顆粒剤等からなるサプリメント類、パン、ケーキ、クッキー等のベーカリー食品類、ソース、スープ、ドレッシング、マヨネーズ等の調味料類、牛乳、ヨーグルト、クリーム類等の乳製品類、チョコレート、キャンデー等の菓子類、あるいは緑茶、紅茶、烏龍茶、麦茶、雑穀茶、果汁、野菜、乳飲料、清涼飲料および炭酸飲料等の各種飲料類等が挙げられる。
【0092】
本発明の抽出物を医薬品組成物の有効成分として使用する場合の投与量は、各成分の比率によっても異なり、また、患者の年齢、体重、性別、症状、投与方法などの種々の要因によって異なるが、成人で、1日当たり、経口投与の場合は、概ね、1〜1000mg、非経口投与の場合は、概ね0.1〜100mgの範囲で選択することができる。また、症状改善の度合いによって、適宜増減することもできる。投与回数としては、1日1回〜数回に分けて投与することができる。
【0093】
本発明の抽出物を食品として使用する場合の摂取量は、上記医薬品の経口投与の場合に準じて選択することができる。但し、飲食物の場合は医薬品とは異なり、投与用量および投与回数が特に制限されないことから、特に重篤な症状を発生しない限りにおいて、健康維持という目的、並びに、呈味性、嗜好性を考慮して、上記の範囲に限定されずに摂取量を選択してもよい。
【実施例】
【0094】
以下に、本発明の実施の態様について実施例および試験例を挙げて説明するが、本発明は以下の例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0095】
発酵ソバ試料の製造
約15 cmに成長したソバ幼植物体20 kgを、有効塩素濃度100〜200 ppmの次亜塩素酸ナトリウム液約20Lに浸して殺菌した。殺菌したソバ幼植物体を水切りし、約2 cmの長さにカットした後ジューサーで破砕してソバ幼植物体破砕物を得た。
上記で得たソバ幼植物体破砕物の0.36
kgを分取し、これを50 ml容遠沈管10本に36 gずつ秤量し、遠心分離(5度(C), 4000 rpm, 30分)を行い、上清を回収した。回収した上清について減圧濃縮・凍結乾燥を行い、4.27 gの発芽ソバ試料を得た。
残りのソバ幼植物体搾汁液に、ソバ幼植物体搾汁液1 kgあたり26.7 mlの乳酸菌スターターを添加し、タンクに移した。ソバ幼植物体搾汁液を移したポリタンクは、脱気をした後に不活性化ガスで置換を行った。毎日1回攪拌をし、常温で2週間静置することにより、発酵ソバを製造した。
上記で製造した、発酵ソバ8.09
kgを500 ml容遠沈管20本に405 gずつ秤量し、遠心分離(5度(C), 4000 rpm, 30分)を行い、上清を回収した。回収した上清について減圧濃縮・凍結乾燥を行い、48.95 gの発酵ソバ試料を得た。
【0096】
[試験例1]
発芽ソバ試料と発酵ソバ試料の血圧降下作用測定
実施例1で製造した発芽ソバ試料および発酵ソバ試料を試験試料として、以下の試験を行った。
試験には14週齢の雄性SHR/Izm 10匹を日本チャールス・リバー株式会社より入手し、7日間の馴化飼育後、15週齢で試料の経口投与および血圧測定を行った。
実験に用いたラットは搬入後、金属製のケージに個別に収容し、クリーン条件下で飼育した。飼育室の環境は、室温23±4度(C)、湿度50±20%、明暗条件は明期が12時間(8〜20時)、残り12時間を暗期とした。馴化飼育期間中は市販固形飼料CRF-1(日本チャールス・リバー株式会社)と水道水の自由摂取で飼育した。試験物質投与前日に各個体の体重および血圧(収縮期血圧、拡張期血圧)を測定した後、各群内の平均体重および血圧が同程度になるように1群6匹ずつ、2群(発芽ソバ試料投与群、発酵ソバ試料投与群)に群分けを行った。また、試験物質の経口投与前に、14〜16時間の絶食を行った。
各試験物質を純水に溶解させた後、ステンレス製経口胃ゾンデ(株式会社夏目製作所)を用いて単回経口投与を行った。投与量は、発芽ソバ試料および発酵ソバ試料共に、ラットの体重1 kgあたり1 mg/kg(以下1 mg/kg b.w.)とした。
各試料を経口投与後、0、3、6、9、および24時間後にテイルカフ法で収縮期血圧、拡張期血圧をそれぞれ測定した。
試験物質投与後、0、3、6、9、および24時間後の血圧(収縮期血圧、拡張期血圧)を、0時間での血圧と比較した経時的な血圧変化の値(平均値±標準誤差)を求めた。また、各時間での発酵ソバ試料投与群の血圧変化値と発芽ソバ試料投与群の血圧変化値を比較してStudentのt検定を行った。なお、本発明では、p<0.1を有意差があるとした。
収縮期血圧変化について、発芽ソバ試料投与群と発酵ソバ試料投与群を比較すると、投与3、6、および9時間後に収縮期血圧降下値に有意差が確認され、その平均値の差はそれぞれ25.5 mmHg(投与3時間後)、31.8 mmHg(投与6時間後)、13.0 mmHg(投与9時間後)であった。なお、発芽ソバ試料投与群では投与前と比較して、投与6時間後に13.6 mmHgの収縮期血圧降下が確認された。
また、拡張期血圧変化について、発芽ソバ試料投与群と発酵ソバ試料投与群を比較すると、投与3、6、および9時間後に拡張期血圧降下値に有意差が確認され、その平均値の差はそれぞれ33.8 mmHg(投与3時間後)、47.7 mmHg(投与6時間後)、37.7 mmHg(投与9時間後)であった。なお、発芽ソバ試料投与群では投与前と比較して、投与6時間後に7.1 mmHgの拡張期血圧降下が確認された。
収縮期血圧変化および拡張期血圧変化の結果を、以下の表1および表2に示した。
【0097】
【表1】
【0098】
【表2】
【0099】
[試験例2]
発芽ソバ試料と発酵ソバ試料のHPLC分析測定
発芽ソバ試料および発酵ソバ試料をHPLC分析し、発酵ソバの発酵による変化を調べた。
実施例1で製造した発芽ソバ試料および発酵ソバ試料をそれぞれ1 mgずつ1.5 ml容マイクロチューブに秤量し、1 ml TFA含有水(pH 2.0)を加え、1 mg/mlの濃度に調製し、Millex-LH(登録商標)フィルター(0.45 micro l)を通したものをHPLC分析試料とした。
上記で調製した1 mg/mlの発芽ソバ試料、発酵ソバ試料を用いて、下記表3記載のHPLC分析条件(1)によりHPLC分析を行った。
【0100】
【表3】
【0101】
発芽ソバ試料と発酵ソバ試料におけるHPLC分析結果を比較したところ、保持時間約4.5 分、約11.5 分および約21分付近に溶出されたピークに大きな変化が見られた。このうち、保持時間約4.5 分付近に溶出されたピークは、乳酸であることが確認された。また、乳酸以外で発酵後に大きな変化が見られた、保持時間約11.5 分、および約21分付近にほぼ単一ピークとして溶出されたピークをそれぞれピークX、およびピークYとした。
発芽ソバ試料および発酵ソバ試料を1
mg/mlの濃度でHPLC分析した結果を図1に示す。
このピークXおよびピークYの保持時間は、その後の分析結果から、カラムの劣化により多少変動するものの、概ね、ピークXは保持時間約11分〜約13分の範囲内でほぼ単一ピークとして検出され、ピークYは保持時間約18分〜約21分の範囲内でほぼ単一ピークとして検出されることを確認した。
【実施例2】
【0102】
成分Xおよび成分Yの分離
(1)成分Xおよび成分Y含有画分の分取(検討試験)
固相抽出カートリッジとしてSep-Pak(登録商標) Vac C18 カートリッジ(2 g、ウォーターズ社製)を用い、固相抽出溶媒としてTFA含有水(pH 2.0)、およびTFA含有水(pH 2.0):MeOH=9:1に調整したものを使用した。
カートリッジをMeOH
24 mlで活性化し、各固相抽出溶媒 30 mlで平衡化した後、実施例1で製造した発酵ソバ試料(50 mg/ml)1 mlをアプライした。その後、各固相抽出溶媒を40 ml加え、1.5 ml容チューブに1 mlずつ溶離液を回収した。得られた溶離液は減圧濃縮・凍結乾燥後、上記表3に示したHPLC分析条件(1)でHPLC分析を行い、ピークX、ピークYの面積値比較を行った。
【0103】
固相抽出検討を行った結果、固相抽出溶媒にTFA含有水を使用して固相抽出を行うと、ピークXは19 mlから28 mlの間に溶出され、ピークYは21 mlから40 mlの間に溶出され、両ピークの溶出時間がずれることが確認された。
また、固相抽出溶媒にTFA含有水(pH 2.0):MeOH=9:1を使用して固相抽出を行うと、ピークXは5 mlから13 mlの間に溶出され、ピークYは5 mlから12 mlの間に溶出され、両ピークの溶出時間が殆ど重なることが確認された。
このことから、TFA含有水(pH 2.0):MeOH=9:1を溶媒として固相抽出を行う方が、より短時間でピークX、ピークYが効率良く抽出できることが確認された。
【0104】
(2)成分Xおよび成分Y含有画分の分取(スケールアップ)
上記でピークX、ピークYが効率良く抽出できることが確認された方法の、固相抽出溶媒にTFA含有水(pH 2.0):MeOH=9:1を使用する方法についてスケールアップを行った。なお、固相抽出カートリッジは、Sep-Pak(登録商標) Vac C18カートリッジ (ウォーターズ社製)を10 gに変更して行った。
Sep-Pak(登録商標)
Vac C18 カートリッジ
(10 g、ウォーターズ社製)を用い、固相抽出溶媒にTFA含有水(pH2.0):MeOH=9:1を用いて溶離液を10 mlずつ分取した。この結果、ピークXは溶出20 mlから90 ml、ピークYは溶出30 mlから90 mlの間に含まれていることが確認された。
さらに、ピークXおよびYの溶出時間を詳細に調べるため、同様の固相抽出条件で3 mlずつ溶離液を回収し、HPLC分析を行った。HPLC分析の結果から、溶出割合の低い36 mlより前の溶離液を除き、36から78 mlまでの溶離液を回収して、ピークXおよびピークYを含む試料を効率良く得ることができた。
【0105】
(3)成分Xおよび成分Yの分離精製
上記で得たピークXおよびピークYを含む試料について、ODSカラムによるピークX、ピークYの精製を行った。
ピークXおよびピークYの分取にはCHEMCOBOND 5-ODS-W (4.6×150 mm)の分取用カラムである、CHEMCOBOND
5-ODS-W (20×250 mm)を用いた。
HPLC分析条件は、上記条件に加えて、移動相にTFA含有水(pH 2.0)を用い、流速10 ml/min、分離温度30度(C)、検出波長215 nm、注入量250 micro lで行った。HPLC分析条件を表5に示した。
また、ピークXおよびピークYを含む試料を50 mg/mlの濃度でHPLC分析を行った結果を図2に示した。
図2中に示したピークX、ピークYを分取し、減圧濃縮・凍結乾燥したものを、それぞれピークX試料、ピークY試料とした。
【0106】
【表4】
【0107】
[試験例3]
成分Xと成分Yの血圧降下作用測定
実施例2で得られたピークX試料、ピークY試料について、試験例1記載の方法と同様にして、血圧降下作用を測定した。
試験物質投与後、0、3、6、9、および24時間後に血圧(収縮期血圧、拡張期血圧)を測定し、0時間での血圧と比較した経時的な血圧変化の値(平均値±標準誤差)を求めた。また、試料投与群は、0.1 mg/kg投与群と0.01 mg/kg投与群の2群とし、対照群には、純水2 ml/kgを投与した。
各時間での試料投与群の血圧変化値と対照群の血圧変化値を比較してStudentのt検定を行った。
【0108】
(1)ピークX試料の降圧作用
収縮期血圧変化について、試料投与群と対照群を比較すると、0.1 mg/kg投与群では投与3、6および9時間後に、0.01 mg/kg投与群では投与6時間後に、対照群と比較して有意差が見られた。また、0.1 mg/kg投与群では最大53.5 mmHgの、0.01 mg/kg投与群では最大30.0 mmHgの収縮期血圧の降下が見られた。
また、拡張期血圧変化について、試料投与群と対照群を比較すると、0.1 mg/kg投与群では対照群と比較して投与3、6および9時間後に有意差が見られた。0.01
mg/kg投与群では対照群と比較して投与6時間後に、有意差が見られた。また、0.1 mg/kg投与群では最大58.3 mmHgの、0.01 mg/kg投与群では最大25.0 mmHgの拡張期血圧の降下が見られた。
ピークX試料の収縮期血圧変化および拡張期血圧変化の結果を、以下の表5および表6に示した。
【0109】
【表5】
【0110】
【表6】
【0111】
(2)ピークY試料の降圧作用
収縮期血圧変化について、試料投与群と対照群を比較すると、0.1 mg/kg投与群では対照群と比較して投与3および 6時間後に有意差が見られた。0.01 mg/kg投与群では対照群と比較して投与3、6および9時間後に有意差が見られた。また、0.1 mg/kg投与群では最大41.1 mmHgの、0.01 mg/kg投与群では最大44.6 mmHgの収縮期血圧の降下が見られた。
また、拡張期血圧変化について、試料投与群と対照群を比較すると、0.1 mg/kg投与群では対照群と比較して投与3および6時間後に有意差が見られた。0.01 mg/kg投与群では対照群と比較して投与3、6および9時間後に有意差が見られた。また、0.1 mg/kg投与群では最大42.6 mmHgの、0.01 mg/kg投与群では最大51.8 mmHgの拡張期血圧の降下が見られた。
ピークY試料の収縮期血圧変化および拡張期血圧変化の結果を、以下の表7および表8に示した。
【0112】
【表7】
【0113】
【表8】
【実施例3】
【0114】
成分Yに含まれる成分の分離
実施例2と同様にして得たピークY試料を実験に用いた。
分画は2段階で行い、前処理の分画カラムとして、ゲル濾過カラムのSuperdex Peptide 10/300 GLカラムを用い、その後、TOSOH TSKgel Amide-80カラムで分離する方法を行った。
(1)ゲルろ過カラムによるピークY試料の分画
前処理として、ゲルろ過カラムを用いて、ピークY試料を分画した。
使用したカラムはSuperdex
Peptide 10/300 GL (10×300 mm, 13 micro m)で、HPLC分析条件は、下記、表9記載のHPLC分析条件 (4)で、注入量が100 micro lである。
【0115】
【表9】
【0116】
その結果、約31.5〜34分(A)、約34~38分(B)、約38〜43分(C)、約43〜44.5分(D)、約44.5〜49分(E)にピークを示す、5つの画分A~Eに分画した。
分画ピークを図3に示す。
【0117】
(2)TOSOH TSKgel
Amide-80カラムを用いた分析
シリカゲル基材にアクリルアミド基を固定化したTOSOH TSKgel Amide-80 (4.6×250 mm, 5 micro m)を用いてピークY試料の分析を行った。
HPLC分析条件は、移動相AにTFA含有水(pH 2.0)、移動相Bにアセトニトリルを用い、移動相Aを5% (0→15分)、5→10% (15→20分)、10→25% (20→80分)、25→55% (80→105分)、55% (105→125分)の濃度でグラジエントを変化させ、流速0.8 ml/min、分離温度30度(C)、検出波長215 nm、注入量20 micro lとした。
HPLC分析条件を表10に示した。
【0118】
【表10】
【0119】
また、TOSOH TSKgel
Amide-80 (4.6×250 mm, 5 micro
m)によるピークY試料の分析結果を図4に示した。
【0120】
(3)TOSOH TSKgel
Amide-80カラムを用いたピークY試料の細分画
上記で、ピークY試料の良好な分離結果が得られたカラムのTOSOH TSKgel Amide-80 (4.6×250 mm, 5 micro m)を用いて、上記で得た、各ゲルろ過画分A〜Fについて細分画を行った。
HPLC分析条件は、移動相AにTFA含有水(pH 2.0)、移動相Bにアセトニトリルを用い、流速0.8
ml/min、分離温度30度(C)、検出波長215 nm、注入量20 micro lとした。画分Aは移動相Aを5% (0→15分)、5→10% (15→20分)、10→19% (20→56分)、19→55% (56 →60分)、55% (60→75分)の濃度でグラジエントを変化させ、画分Bは移動相Aを5% (0→15分)、5→10% (15→20分)、10→22% (20→68分)、22→55% (68 →70分)、55% (70→85分)の濃度でグラジエントを変化させ、画分Cは移動相Aを5 % (0→15分)、5→10% (15→20分)、10→23% (20→72分)、23→55% (72 →74分)、55% (74→90分)の濃度でグラジエントを変化させ、画分DおよびEは移動相Aを5% (0→15分)、5→10% (15→20分)、10→16% (20→44分)、16→55% (44 →48分)、55% (48→65分)の濃度でグラジエントを変化させた。
画分AのHPLC分析条件(7)を表11に、画分BのHPLC分析条件(8)を表12に、画分CのHPLC分析条件(9)を表13に、画分D、EのHPLC分析条件(10)を表14に示した。
【0121】
【表11】
【0122】
【表12】
【0123】
【表13】
【0124】
【表14】
上記方法により分離したピークについて分取を行い、減圧濃縮・凍結乾燥して、以下の分析に供した。
【実施例4】
【0125】
成分Yに含まれる成分の細分画画分のアミノ酸配列分析
実施例3で分画した、成分Yに含まれる成分の細分画画分について、ペプチドシークエンサー装置に気相シーケンサーであるProcise492HT (Applied Biosystems)を用いて、アミノ酸配列分析を行った。
各試料は、N-methylpiperidine/H2O/MeOH
存在下でphenyl
isothiocyanateの 5% n-heptane 溶液と反応させ、N-phenyl isothiocarbamoyl ペプチド(PTC-peptide)を得た。酢酸エチルとn-butyl chlorideを用いて不純物を取り除いた後、PTC-peptideとTFAを反応させアミノ酸の2-アニリノ-5-チアゾリノン誘導体(ATZ-AA)の切り出しを行った。
さらにATZ-AAはTFAと64度(C)で9時間反応を行い、安定化した構造を持つフェニルチオヒダントイン化アミノ酸(PTH-AA)に変換した。このようにして得られたPTH-AAを、イオンペアー試薬を溶媒に添加してODSカラムを用いて分離を行うことで、含有アミノ酸の決定を行った。
以上を5 cycle行い、ペプチド配列を決定した。なお、試料調製はエドマン分解法により行った。本試験は、分析機関の株式会社ニッピにて実施した。
【実施例5】
【0126】
成分Yに含まれる成分の細分画画分のLC−MS/MS分析
TOSOH TSKgel Amide-80 (4.6×250 mm, 5 micro m)を用いて、ゲルろ過カラムにより分画した画分についてLC-MS/MS分析を行った。
移動相Aには、イオン化の効率化のため、TFA含有水(pH 2.0)の代わりにギ酸含有水(pH 2.0)を用いてLC-MS/MS分析を行った。
移動相にTFA含有水とギ酸含有水を用いる場合とでは、ピークの挙動が異なるが、TFA含有水を用いてLC-MS分析を行った時の質量電荷比(m/z)と、ギ酸含有水を用いてLC-MS分析を行った時のm/zとを比較することでピークを対応させた。
LC-MS/MS分析条件は、移動相Aにギ酸含有水(pH 2.0)、移動相Bにアセトニトリルを用い、流速が0.8 ml/min (LC)および0.3 ml/min (MS)、分離温度が30度(C)、注入量が20 micro l、Capillary 電圧が3500 V、N2
gas flow (desolvation)が350 L/hr、N2
gas flow (cone)が50 L/hr、N2 source tempが100度(C)、N2
desolvation tempが350度(C)である。
このとき、画分Aは移動相Aを5% (0→15分)、5→10% (15→20分)、10→19% (20→56分)、19→55% (56 →60分)、55% (60→75分)の濃度でグラジエントを変化させ、画分Bは移動相Aを5% (0→15分)、5→10% (15→20分)、10→22% (20→68分)、22→55% (68 →70分)、55% (70→85分)の濃度でグラジエントを変化させ、画分Cは移動相Aを5% (0→15分)、5→10% (15→20分)、10→23% (20→72分)、23→55% (72 →74分)、55% (74→90分)の濃度でグラジエントを変化させ、画分DおよびEは移動相Aを5% (0→15分)、5→10% (15→20分)、10→16% (20→44分)、16→55% (44 →48分)、55% (48→65分)の濃度でグラジエントを変化させた。また、イオン化電圧は分析を行うピークごとに10〜100 Vで検討を行い、最もイオン化が良好であった条件を用いた。なお、本発明における全てのLC-MS/MS分析は、Waters 2695 (LCユニット、Waters)、Quattro micro API (MSユニット、Waters)で構成されるLC-MS/MSシステムを用いて行った。
画分AのLC-MS/MS分析条件(1)を表15に、画分BのLC-MS/MS分析条件(2)を表16に、画分CのLC-MS/MS分析条件(3)を表17に、画分D、EのLC-MS/MS分析条件(4)を表18にそれぞれ示した。
【0127】
【表15】
【0128】
【表16】
【0129】
【表17】
【0130】
【表18】
【実施例6】
【0131】
成分Yに含まれる成分の細分画画分中の物質同定
実施例3で細分画した、図4に示される、6個のピークの画分について、上記実施例4、5および6記載の方法によるアミノ酸配列分析、LC-MS/MS分析、NMR分析の結果により、物質同定を行った。
このうち、特に215 nmで強い吸光が確認された約16〜20分のピークおよび約28〜30分のピークの中の最初のピーク(化合物1)についての解析データを以下に例示する。
【0132】
(1)約16〜20分ピーク含有物質の解析結果
上記、実施例3で細分画した、6個の画分のうちの、約16〜20分に溶出されるピークのH NMR、C NMR、LC-MS/MS分析の結果より、約16〜20分に溶出されるピークはチロシン(Tyr)であることが確認された。旋光性は測定していないが、ソバという生物体に含まれていることからL体であると考えられる。
【0133】
(2)約28〜30分に溶出される化合物1の解析結果
上記、実施例3で細分画した、6個の画分のうちの、約28〜30分に溶出されるピークの分析結果について、以下に示す。
約28〜30分に溶出されるピークは、分離検討によって2つのピークに分離することが出来たため、各々のピークが含有する物質について同定を行った。そのうちの、1つめの化合物(化合物1)におけるアミノ酸配列分析の結果を図5、図6および図7に、LC-MS/MS分析を行った結果を図8に示した。
これらの結果より、化合物1はVal-Val-Gly(VVG)であることが示された。
【0134】
(3)約28〜30分に溶出される化合物2の解析結果
上記と同様に、化合物2におけるアミノ酸配列分析およびLC-MS/MS分析を行い、アミノ酸配列分析の結果、および、274.2 m/zを親イオンとした、LC-MS/MS分析を行った結果より、化合物2はPhe-Gln(FQ)であることが示された。
【0135】
(4)約4〜8分ピーク含有物質の解析結果
上記と同様に、約4〜8分ピーク含有物質のアミノ酸配列分析およびLC-MS/MS分析を行った結果より、約4〜8分ピーク含有物質は、Tyr-Ala- Phe-Asp-Val-Trp-Tyr (YAFDVWY)、Asp-Val-Trp-Tyr (DVWY)、Phe-Asp-Ala-Arg-Thr (FDART)およびTrp-Thr-Phe-Arg (WTFR)であることが示された。
【0136】
(5)約32分に溶出される化合物の解析結果
上記と同様に、約32分に溶出される化合物のアミノ酸配列分析およびLC-MS/MS分析を行った結果、約32分に溶出される化合物は、Val-Ala-Glu (VAE)であることが示された。
【0137】
(6)ピークI(36〜38分)の分析結果
ピークIについて分取を行い、H NMR分析およびLC-MS/MS分析を行った結果、H NMRの2 ppm、8-9 ppm付近に検出されるスペクトルがピークII、III、IVと共通である、親イオン315.9 m/zの化合物であることが推察された。
【0138】
(7)ピークII(38〜40分)の分析結果
ピークIIについて分取を行い、H NMR分析およびLC-MS/MS分析を行った結果、H NMRの2 ppm、8-9 ppm付近に検出されるスペクトルがピークI、III、IVと共通である、親イオン345.9 m/zの化合物であることが推察された。
【0139】
(8)ピークIII(59〜61分)の分析結果
ピークIIIについて分取を行い、H NMR分析およびLC-MS/MS分析を行った結果、H NMRの2 ppm、8-9 ppm付近に検出されるスペクトルがピークI、II、IVと共通である、親イオン372.8 m/zの化合物であることが推察された。
【0140】
(9)ピークIV(64〜66分)の分析結果
ピークIVについて分取を行い、H NMR分析およびLC-MS/MS分析を行った結果、H NMRの2 ppm、8-9 ppm付近に検出されるスペクトルがピークI、II、IIIと共通である、親イオン477.9 m/zの化合物であることが推察された。
【実施例7】
【0141】
成分Yに含まれる成分の血圧降下作用
実施例7で同定(推定)した物質について、降圧作用を測定した。降圧作用は、SHRに各同定物質の合成物またはHPLC精製した物質を単回経口投与し、経時的な収縮期血圧変化、拡張期血圧変化を調べることで確認した。
【0142】
試験物質
試料のうち、チロシン(Tyr)は関東化学より購入したものを用いた。また、Tyr-Ala-
Phe-Asp-Val-Trp-Tyr (YAFDVWY)、Asp-Val-Trp-Tyr (DVWY)、Phe-Asp-Ala-Arg-Thr (FDART)、Trp-Thr-Phe-Arg (WTFR)、Val-Val-Gly (VVG)は、株式会社ベックスより固相合成されたものを購入した。Phe-Gln (FQ)、Val-Ala-Glu (VAE)は、前記式1および式2記載の合成チャートに従って合成したものを用いた。なお、これらの合成品は、LC-MS/MS分析により生成するフラグメントを確認した後に動物試験に使用した。
【0143】
動物実験
上記、YAFDVWY、DVWY、FDART、WTFR、Tyr、FQ、VVG、VAE、ピークI、ピークII、ピークIIIおよびピークIVの各試料について、SHRへの単回経口投与および血圧測定を行った。動物試験では、試験実施者に投与物質が分からないよう、二重盲目試験による血圧測定を実施した。本試験は、期間を3回に分けて行った。
【0144】
使用動物
試験には11〜15週齢の雄性SHR/Izm計75匹(日本チャールス・リバー株式会社より入手)を使用した。7日間の馴化飼育後、試料の単回経口投与および血圧測定を行った。試料の単回経口投与を行う2〜3日前には全SHRの血圧測定を行い、高血圧を発症していることを確認した。経口投与試験には11〜15週齢のSHRを使用した。
【0145】
飼育条件
実験に用いたラットは搬入後、金属製のケージに個別に収容し、クリーン条件下で飼育した。飼育室の環境は、室温23±4度(C)、湿度50±20%、明暗条件は明期が12時間(8〜20時)、残り12時間を暗期とした。馴化飼育期間中は市販固形飼料CRF-1(日本チャールス・リバー株式会社)と水道水の自由摂取で飼育した。試験物質投与前日に各個体の体重および血圧(収縮期血圧、拡張期血圧)を測定した後、各群内の平均体重および血圧が同程度になるように1群5匹ずつ群分けを行った。また、試験物質の経口投与前に、14〜16時間の絶食を行った。本実験は、試験期間を3回に分けて行った。
【0146】
試験物質投与方法
動物の体重1 kgあたり0.1 mgの各試験物質を、動物体重1 kgあたり2 mlの純水に溶かしたもの{0.1 mg/2 ml/ kg (b.w.)}を投与試料とし、ステンレス製経口胃ゾンデ(株式会社夏目製作所)を用いてSHRに単回経口投与を行った。投与物質は、YAFDVWY、DVWY、FDART、WTFR、Tyr、FQ、VVG、VAE、ピークI、ピークII、ピークIIIおよびピークIVである。対照には、ラットの体重1
kgあたり2 mlの純水を単回経口投与した。
【0147】
血圧測定方法
各試料を単回経口投与後、0、3、6、9および24時間後にテイルカフ法で収縮期血圧、拡張期血圧をそれぞれ測定した。
【0148】
実験結果
1.
Tyr-Ala-Phe-Asp-Val-Trp-Tyr(YAFDVWY)の単回経口投与試験結果
Tyr-Ala-Phe-Asp-Val-Trp-Tyr(YAFDVWY)を0.1 mg/2 ml/ kg (b.w.)の用量で単回経口投与試験を行った。
試験物質投与後、0、3、6、9および24時間後に血圧(収縮期血圧、拡張期血圧)を測定し、0時間での血圧と比較した経時的な血圧変化の値を平均値±標準誤差で表した。
対照として、純水を2 ml/kgの用量で投与したものを、対照群とした。
また、各時間でのYAFDVWY投与群と対照群の血圧変化値を比較してStudentのt検定を行った。
1-1. 収縮期血圧変化
YAFDVWY投与群は、対照群と比較して投与6時間後に有意な収縮期血圧降下の差が確認され、その差は35.4 mmHgであった。また、YAFDVWY投与群の血圧降下の最大値は投与6時間後の34.5mmHgであった。
1-2. 拡張期血圧変化
YAFDVWY投与群は、対照群と比較して投与6時間後に有意な拡張期血圧降下の差が確認され、その差は29.2 mmHgであった。また、YAFDVWY投与群の血圧降下の最大値は投与6時間後の29.2 mmHgであった。
YAFDVWYの収縮期血圧変化および拡張期血圧変化の結果を、以下の表19および表20に示した。
【0149】
【表19】
【0150】
【表20】
【0151】
2.
Asp-Val-Trp-Tyr(DVWY)の単回経口投与試験結果
上記と同様にして、Asp-Val-Trp-Tyr(DVWY)を0.1 mg/2 ml/ kg (b.w.)の用量で単回経口投与試験を行った。結果は以下のとおりであった。
2-1. 収縮期血圧変化
DVWY投与群は、対照群と比較して投与3、6時間後に有意な収縮期血圧降下の差が確認され、その差はそれぞれ35.5 mmHg、48.2 mmHgであった。また、DVWY投与群の血圧降下の最大値は投与6時間後の48.2 mmHgであった。
2-2. 拡張期血圧変化
DVWY投与群は、対照群と比較して投与3、9時間後に有意な拡張期血圧降下の差が確認され、その差はそれぞれ25.6 mmHg、27.8mmHgであった。また、DVWY投与群の血圧降下の最大値は投与6時間後の28.6 mmHgであった。
DVWYの収縮期血圧変化および拡張期血圧変化の結果を、以下の表21および表22に示した。
【0152】
【表21】
【0153】
【表22】
【0154】
3.
Phe-Asp-Ala-Arg-Thr(FDART)の単回経口投与試験結果
上記と同様にして、Phe-Asp-Ala-Arg-Thr(FDART)を0.1 mg/2 ml/ kg (b.w.)の用量で単回経口投与試験を行った。結果は以下のとおりであった。
3-1. 収縮期血圧変化
FDART投与群は、対照群と比較して投与3、9時間後に有意な収縮期血圧降下の差が確認され、その差はそれぞれ13.3 mmHg、24.3 mmHgであった。また、FDART投与群の血圧降下の最大値投与6時間後の29.0 mmHgであった。
3-2. 拡張期血圧変化
FDART投与群は、対照群と比較して投与3、9時間後に有意な拡張期血圧降下の差が確認され、その差はそれぞれ15.1 mmHg 、26.4 mmHgであった。また、FDART投与群の血圧降下の最大値は投与9時間後の26.4 mmHgであった。
FDARTの収縮期血圧変化および拡張期血圧変化の結果を、以下の表23および表24に示した。
【0155】
【表23】
【0156】
【表24】
【0157】
4.
Trp-Thr-Phe-Arg(WTFR)の単回経口投与試験結果
上記と同様にして、Trp-Thr-Phe-Arg(WTFR)を0.1 mg/2 ml/ kg (b.w.)の用量で単回経口投与試験を行った。結果は以下のとおりであった。
4-1. 収縮期血圧変化
WTFR投与群は、対照群と比較して投与3、6、9時間後に有意な収縮期血圧降下の差が確認され、その差はそれぞれ26.5 mmHg、29.5 mmHg、27.8 mmHgであった。また、WTFR投与群の血圧降下の最大値は投与6時間後の29.5 mmHgであった。
4-2. 拡張期血圧変化
WTFR投与群は、対照群と比較して投与3、6、9時間後に有意な拡張期血圧降下の差が確認され、その差はそれぞれ18.4 mmHg、18.5 mmHg、30.2 mmHgであった。また、WTFR投与群の血圧降下の最大値は投与9時間後の30.2 mmHgであった。
WTFRの収縮期血圧変化および拡張期血圧変化の結果を、以下の表25および表26に示した。
【0158】
【表25】
【0159】
【表26】
【0160】
5. チロシン(Tyr)の単回経口投与試験結果
上記と同様にして、チロシン(Tyr)を0.1 mg/2 ml/ kg (b.w.)の用量で単回経口投与試験を行った。結果は以下のとおりであった。
5-1. 収縮期血圧変化
Tyr投与群は、対照群と比較して投与6時間後に有意な収縮期血圧降下の差が確認され、その差は24.8 mmHgであった。また、Tyr投与群の血圧降下の最大値は投与6時間後の24.8 mmHgであった。
5-2. 拡張期血圧変化
Tyr投与群は、対照群と比較して投与3、9時間後に有意な拡張期血圧降下の差が確認され、その差はそれぞれ12.5 mmHg、24.4 mmHg、であった。また、Tyr投与群の血圧降下の最大値は投与9時間後の24.4 mmHgであった。
Tyrの収縮期血圧変化および拡張期血圧変化の結果を、以下の表27および表28に示した。
【0161】
【表27】
【0162】
【表28】
【0163】
6.
Phe-Gln(FQ)の単回経口投与試験結果
上記と同様にして、Phe-Gln(FQ)を0.1 mg/2 ml/ kg (b.w.)の用量で単回経口投与試験を行った。結果は以下のとおりであった。
6-1. 収縮期血圧変化
FQ投与群は、対照群と比較して投与3、6、9、24時間後に有意な収縮期血圧降下の差が確認され、その差はそれぞれ28.8 mmHg 、29.5 mmHg、33.6 mmHg、12.3 mmHgであった。また、FQ投与群の血圧降下の最大値は投与9時間後の33.6 mmHgであった。
6-2. 拡張期血圧変化
FQ投与群は、対照群と比較して投与3、9、24時間後に有意な拡張期血圧降下の差が確認され、その差はそれぞれ33.2 mmHg、41.4 mmHg、11.3 mmHgであった。また、FQ投与群の血圧降下の最大値は投与9時間後の41.4 mmHgであった。
FQの収縮期血圧変化および拡張期血圧変化の結果を、以下の表29および表30に示した。
【0164】
【表29】
【0165】
【表30】
【0166】
7.
Val-Val-Gly(VVG)の単回経口投与試験結果
上記と同様にして、Val-Val-Gly(VVG)を0.1 mg/2 ml/ kg (b.w.)の用量で単回経口投与試験を行った。結果は以下のとおりであった。
7-1. 収縮期血圧変化
VVG投与群は、対照群と比較して投与3、6、9時間後に有意な収縮期血圧降下の差が確認され、その差はそれぞれ19.3 mmHg 、23.5 mmHg、28.3 mmHgであった。また、VVG投与群の血圧降下の最大値は投与9時間後の28.3 mmHgであった。
7-2. 拡張期血圧変化
VVG投与群は、対照群と比較して投与3、6、9、24時間後に有意な拡張期血圧降下の差が確認され、その差はそれぞれ31.9 mmHg、28.6 mmHg、37.1 mmHg、13.1 mmHgであった。また、VVG投与群の血圧降下の最大値は投与9時間後の37.1 mmHgであった。
VVGの収縮期血圧変化および拡張期血圧変化の結果を、以下の表31および表32に示した。
【0167】
【表31】
【0168】
【表32】
【0169】
8.
Val-Ala-Glu(VAE)の単回経口投与試験結果
上記と同様にして、Val-Ala-Glu(VAE)を0.1 mg/2 ml/ kg (b.w.)の用量で単回経口投与試験を行った。結果は以下のとおりであった。
8-1. 収縮期血圧変化
VAE投与群は、対照群と比較して投与6時間後に有意な収縮期血圧降下の差が確認され、その差はそれぞれ24.1 mmHgであった。また、VAE投与群の血圧降下の最大値は投与6時間後の24.1 mmHgであった。
8-2. 拡張期血圧変化
VAE投与群は、対照群と比較して投与3時間後に有意な拡張期血圧降下の差が確認され、その差はそれぞれ17.7 mmHgであった。また、VAE投与群の血圧降下の最大値は投与3時間後の17.7 mmHgであった。さらに、投与6時間後においても血圧降下値17.5 mmHgという、投与3時間後と同程度の血圧降下が確認された。
VAEの収縮期血圧変化および拡張期血圧変化の結果を、以下の表33および表34に示した。
【0170】
【表33】
【0171】
【表34】
【0172】
9. ピークIの単回経口投与試験結果
上記と同様にして、ピークIを0.1 mg/2 ml/ kg (b.w.)の用量で単回経口投与試験を行った。結果は以下のとおりであった。
9-1. 収縮期血圧変化
ピークI投与群は、対照群と比較して投与3、6、24時間後に有意な収縮期血圧降下の差が確認され、その差はそれぞれ19.7 mmHg、27.6 mmHg、18.0 mmHgであった。また、ピークI投与群の血圧降下の最大値は投与6時間後の27.6 mmHgであった。
9-2. 拡張期血圧変化
ピークI投与群は、対照群と比較して投与3、6、24時間後に有意な拡張期血圧降下の差が確認され、その差はそれぞれ33.4 mmHg、28.4 mmHg、11.4 mmHg、であった。また、ピークI投与群の血圧降下の最大値は投与6時間後の28.4 mmHgであった。
ピークIの収縮期血圧変化および拡張期血圧変化の結果を、以下の表35および表36に示した。
【0173】
【表35】
【0174】
【表36】
【0175】
10. ピークIIの単回経口投与試験結果
上記と同様にして、ピークIIを0.1 mg/2 ml/ kg (b.w.)の用量で単回経口投与試験を行った。結果は以下のとおりであった。
10-1. 収縮期血圧変化
ピークII投与群は、対照群と比較して投与3、6、9、24時間後に有意な収縮期血圧降下の差が確認され、その差はそれぞれ21.9 mmHg、34.6 mmHg、27.8 mmHg、19.3 mmHgであった。また、ピークII投与群の血圧降下の最大値は投与6時間後の34.6 mmHgであった。
10-2. 拡張期血圧変化
ピークII投与群は、対照群と比較して投与3、6、9、24時間後に有意な拡張期血圧降下の差が確認され、その差はそれぞれ33.5 mmHg、30.5 mmHg、30.7 mmHg、19.9 mmHgであった。また、ピークII投与群の血圧降下の最大値は投与9時間後の30.7 mmHgであった。さらに、投与6時間後においても血圧降下値30.5 mmHgという、投与9時間後と同程度の血圧降下が確認された。
ピークIIの収縮期血圧変化および拡張期血圧変化の結果を、以下の表37および表38に示した。
【0176】
【表37】
【0177】
【表38】
【0178】
11. ピークIIIの単回経口投与試験結果
上記と同様にして、ピークIIIを0.1 mg/2 ml/ kg (b.w.)の用量で単回経口投与試験を行った。結果は以下のとおりであった。
11-1. 収縮期血圧変化
ピークIII投与群は、対照群と比較して投与6時間後に有意な収縮期血圧降下の差が確認され、その差は27.2 mmHgであった。また、ピークIII投与群の血圧降下の最大値は投与6時間後の27.2 mmHgであった。
11-2. 拡張期血圧変化
ピークIII投与群は、対照群と比較して有意差は見られなかった。また、ピークIII投与群の血圧降下の最大値は投与6時間後の12.6 mmHgであった。
ピークIIIの収縮期血圧変化および拡張期血圧変化の結果を、以下の表39および表40に示した。
【0179】
【表39】
【0180】
【表40】
【0181】
12. ピークIVの単回経口投与試験結果
上記と同様にして、ピークIVを0.1 mg/2 ml/ kg (b.w.)の用量で単回経口投与試験を行った。結果は以下のとおりであった。
12-1. 収縮期血圧変化
ピークIV投与群は、対照群と比較して有意差は見られなかった。また、ピークIV投与群の血圧降下の最大値は投与3時間後の13.8 mmHgであった。
12-2. 拡張期血圧変化
ピークIV投与群は、対照群と比較して投与6時間後に有意な拡張期血圧降下の差が確認され、その差は17.5 mmHgであった。また、ピークIV投与群の血圧降下の最大値は投与9時間後の21.2 mmHgであった。
ピークIVの収縮期血圧変化および拡張期血圧変化の結果を、以下の表41および表42に示した。
【0182】
【表41】
【0183】
【表42】
【0184】
13.全成分の結果比較
上記の各物質投与群と対照群との比較において、最大の血圧降下を示した時の値を、図9および図10に示した。
収縮期血圧では、12種の投与物質の中でDVWYの降圧作用が一番高く、その次にYAFDVWY、ピークII、FQが並ぶ。特にDVWYは一番収縮期血圧降下値の小さいピークIVと比較し、血圧降下値に34.4
mmHgもの差が見られ、収縮期血圧降下作用を有していることが確認された。
また、拡張期血圧では、12種の投与物質の中でFQの降圧作用が一番高く、その次にVVG、ピークI、ピークIIが続く。特にFQは一番拡張期血圧降下値の低いピークIIIと比較し、血圧降下値に28.8
mmHgもの差が見られ、拡張期血圧降下作用を有していることが確認された。
【実施例8】
【0185】
血圧降下作用パターンの比較
上記の試験で、高い降圧作用を示したピークY試料含有物質の4種(DVWY、FQ、VVG、ピークII)の物質について、現在医薬品として使用されているカプトプリル(ACE阻害剤)、ロサルタン(AT-II受容体拮抗薬)と、降圧作用を比較した。
本試験で比較したロサルタンおよびカプトプリルの投与量は5 mg/kgとし、DVWY、FQ、VVG、ピークIIの投与量は上記と同じ0.1 mg/kgとした。
収縮期血圧降下作用を図11に、拡張期血圧降下作用を図12に示した。DVWYの収縮期血圧降下作用は、ロサルタンと同程度で非常に高く、拡張期血圧降下作用は、ロサルタンよりも少し劣るが、カプトプリルよりも21.0 mmHg多く降下が見られた。血圧降下のパターンは、投与3時間後に最も効果が表れるロサルタンとは異なり、カプトプリルと類似していた。
FQの収縮期血圧降下作用は、DVWY同様ロサルタンと同程度で非常に高く、拡張期血圧降下作用では、ロサルタンよりも投与6、9時間後に高い血圧降下を示した。FQの血圧降下のパターンは、投与3〜9時間にかけてゆっくりと効果が表れる傾向にあり、ロサルタン、カプトプリルとは異なっていた。
VVGの収縮期血圧降下作用は、ロサルタンよりも少し劣るがカプトプリルと比較して21.4 mmHg多く血圧降下が見られ、拡張期血圧降下作用は、ロサルタンよりも投与6、9時間後に高い血圧降下を示した。血圧降下のパターンは、投与3〜9時間にかけてゆっくりと効果が表れる傾向にあり、FQと類似し、ロサルタン、カプトプリルとは異なっていた。
ピークIIの収縮期血圧降下作用は、ロサルタンと同程度の血圧降下が見られ、拡張期血圧降下作用は、ロサルタンよりも少し劣るものの、カプトプリルと比較して23.2 mmHgの血圧降下が確認された。血圧降下のパターンは、投与6時間後に最大の血圧降下が見られるカプトプリルと類似していた。
以上のように、ピークY試料が含有する物質のうち、DVWY、FQ、VVG、ピークIIは、既存の医薬品のロサルタンまたはカプトプリルよりも少量で同程度またはそれ以上の降圧作用を示した。また、血圧降下パターンは、DVWY、ピークIIはカプトプリルの血圧降下パターンと類似しており、さらにFQとVVGは互いに血圧降下パターンが類似し、ロサルタン、カプトプリルの何れとも異なっていた。
【実施例9】
【0186】
マグヌス試験
試験には12〜13週齢の雄性SHR/Izm(日本チャールス・リバー株式会社より入手)を使用した。3〜7日間の馴化飼育後、エーテル麻酔下でラットを開腹、放血死させ、速やかに胸部大動脈を摘出した。摘出した大動脈を、4度(C)に保冷したKrebs-Henseleit溶液に浸し、血液をよく洗い流した後、血管に付着した結合組織および脂肪組織を除去し、幅約2〜3 mmのリング標本を作製した。内皮細胞の除去は血管を濾紙に軽く擦りつけることで行い、これを内皮細胞除去標本とした。
【0187】
リング標本は、37度(C)に保った混合ガス(95%O2、5%CO2)を通気したKrebs-Henseleit溶液を満たしたオーガンバス内に懸垂し、その収縮張力をトランスデューサーを用いて測定しレコーダーに記録した。Krebs-Henseleit溶液の組成(mM)はNaCl 118、KCl 4.7、CaCl2・2H2O 2.5、MgSO4・7H2O 1.2、KH2PO4 1.2、NaHCO3 25、glucose 11.1であった。リング標本には1.0 g〜1.5 gの至適静止張力を負荷し、約60分間安定させた。この間15分間隔で新鮮なKrebs-Henseleit溶液と交換した。以降の操作は、リング標本の収縮または拡張反応をトランスデューサーを用いて測定しレコーダーに記録したものを確認しながら行った。
【0188】
血管収縮剤であるフェニレフリンを、オーガンバス内(4 ml)の溶液の終濃度が0.3 μMになるように添加しリング標本を収縮させた後、アセチルコリンを、オーガンバス内(5 ml)の溶液の終濃度が0.1 mMになるように添加しリング標本を拡張させて血管内皮の状態を確認した。血管内皮が損傷もしくは除去されたリング標本ではアセチルコリンによる拡張作用が不十分である。血管内皮を除去したリング標本を用いた試験を除く、他の全てのマグヌス試験には血管内皮が無傷であるリング標本を用いた。
【0189】
リング標本を数回Krebs-Henseleit溶液で洗浄し、張力を静止張力に戻して安定したところで、再びフェニレフリンを同じ濃度になるように添加し収縮させた。この操作を2回繰り返して血管が十分に安定したところで、同濃度のフェニレフリン共存下で試料を終濃度0.1 mg/mlになるように添加し張力変化を記録した。測定が終了したら血管弛緩剤であるパパベリンを、オーガンバス内(5 ml)の終濃度が0.1 mMになるように添加し、リング標本を完全に弛緩させて血管の状態を確認した。なお、一酸化窒素合成酵素阻害剤であるL-NAMEを添加する場合には、サンプル添加15分前に100 μMの終濃度になるように添加した。
【0190】
発酵ソバ上清粉末およびVAE
(Val-Ala-Glu)添加によるリング標本の張力変化を図13、図14に示した。
【0191】
至適静止張力でのリング標本の安定状態を弛緩率100%、フェニレフリンで収縮させてリング標本がプラトーに達した状態(フェニレフリン収縮張力)を弛緩率0%とし、試料による弛緩率(%)を下記計算式で求めた。複数回マグヌス試験を行った場合の弛緩率は、平均値±標準誤差(Mean±S.E.)で表示した。
【0192】
【数1】
【0193】
発酵ソバ上清粉末、ピークX試料、ピークY試料、チロシン(Tyr)、YAFDVWY
(Tyr-Ala-Phe-Asp-Val-Trp-Tyr)、DVWY (Asp-Val-Trp-Tyr)、FDART (Phe-Asp-Ala-Arg-Thr)、WTFR (Trp-Thr-Phe-Arg)、FQ (Phe-Gln)、VVG (Val-Val-Gly) およびVAE (Val-Ala-Glu)のマグヌス試験結果を表43に示す。
【0194】
【表43】
【産業上の利用可能性】
【0195】
本発明の新規なソバ抽出物は、顕著な血圧降下作用を有しており、これを活性成分として含有させることにより、機能性健康食品あるいは高血圧症等の治療用医薬品を製造することができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ソバ植物体、好ましくは発芽して間もないソバ幼植物体の破砕物を乳酸菌発酵処理して得られる発酵ソバ上清の水溶性抽出物であって、少なくとも、下記HPLC分析条件(1)で保持時間約18分〜約21分の範囲においてほぼ単一のピーク(ピークY)として検出される成分(成分Y)を含むことを特徴とする抽出物。
HPLC分析条件 (1)
カラム:CHEMCOBOND
5-ODS-W (4.6×150 mm, 5 micro
m)
移動相:TFA含有水(pH 2.0)
流速:0.8 ml/min
分離温度:30度(C)
検出波長:215 nm、
【請求項2】
ソバ植物体が、ソバ(Fagopyrum esculentum)またはダッタンソバ(Fagopyrum
tataricum)であることを特徴とする、請求項1に記載の抽出物。
【請求項3】
乳酸菌が、ラクトバチルス・プランタルム(Lactobacillus plantarum)、ラクトバチルス・ブルガリクス(Lactobacillus bulgaricus)、ラクトバチルス・アシドフィルス(Lactobacillus acidophilus)、ラクトバチルス・カゼイ(Lactobacillus
casei)、ラクトバチルス・ファーメンタム(Lactobacillus fermentum)、ストレプトコッカス・ラクティス(Streptococcus lactis)、ストレプトコッカス・クレモリス(Streptococcus cremoris)、ストレプトコッカス・サーモフィルス(Streptococcus thermophilus)の群から選ばれる一種であることを特徴とする、請求項1に記載の抽出物。
【請求項4】
乳酸菌が、ラクトバチルス・プランタルム(Lactobacillus plantarum)であることを特徴とする、請求項3に記載の抽出物。
【請求項5】
乳酸菌発酵処理が、殺菌処理したソバ植物体破砕物に、請求項3に記載の乳酸菌の群から選ばれる一種を添加し、常温で発酵させるものであることを特徴とする、請求項1に記載の抽出物。
【請求項6】
以下の工程によって抽出、分取されたものであることを特徴とする、請求項1に記載の抽出物。
工程1:ソバ植物体を殺菌液に浸して殺菌した後、水切りし、破砕機で破砕してソバ植物体破砕物を得る、
工程2:ソバ植物体破砕物を、乳酸菌を用いて発酵させ、発酵物を遠心分離し、その上清を減圧濃縮、凍結乾燥して発酵ソバ上清粉末を得る、
工程3:発酵ソバ上清粉末を固相抽出により前処理したものを、下記HPLC分析条件(1)で、保持時間約18分〜約21分の範囲においてほぼ単一のピーク(ピークY)として検出される成分(成分Y)が検出される画分を集めて減圧濃縮、凍結乾燥して発酵ソバ抽出物を得る。
HPLC分析条件(1)
カラム:CHEMCOBOND
5-ODS-W (4.6×150 mm, 5 micro
m)
移動相:TFA含有水(pH 2.0)
流速:0.8 ml/min
分離温度:30度(C)
検出波長:215 nm、
【請求項7】
工程1の殺菌処理が、ソバ植物体を次亜塩素酸ナトリウム水溶液に浸して殺菌するものであり、工程2の発酵処理が、請求項3に記載の乳酸菌の群から選ばれる一種を添加し、常温で2週間発酵させるものであり、工程3の固相抽出法が、カラムとしてSep-Pak(登録商標) Vac C18カートリッジ(ウォーターズ社製)を用い、溶出液としてTFA含有水(pH 2.0):メタノール=1:9混合液を用いるものであることを特徴とする、請求項6に記載の抽出物。
【請求項8】
請求項1に記載の抽出物に含まれる血圧降下作用および血管拡張作用活性成分であって、
化学式、
YAFDVWY (Tyr-Ala-Phe-Asp-Val-Trp-Tyr) ・・・・ (1)
化学式、
WTFR (Trp-Thr-Phe-Arg) ・・・・ (2)
化学式、
DVWY (Asp-Val-Trp-Tyr) ・・・・ (3)
または化学式、
VAE (Val-Ala-Glu) ・・・・ (4)
の何れかで表されるオリゴペプチド。
【請求項9】
活性成分として、アミノ酸のチロシン (Tyr)、並びにオリゴペプチドのYAFDVWY
(Tyr-Ala-Phe-Asp-Val-Trp-Tyr)、DVWY (Asp-Val-Trp-Tyr)、FDART (Phe-Asp-Ala-Arg-Thr)、WTFR (Trp-Thr-Phe-Arg)、FQ (Phe-Gln)、VVG (Val-Val-Gly)およびVAE (Val-Ala-Glu)の群から選ばれる少なくとも1種または2種以上を含有することを特徴とする、請求項1に記載の抽出物。
【請求項10】
活性成分として、さらに、下記HPLC分析条件(3)で保持時間約37分にピーク(ピークI)を示す成分(成分I)、保持時間約38分にピーク(ピークII)を示す成分(成分II)、保持時間約59分にピーク(ピークIII)を示す成分(成分III)および保持時間約65分にピーク(ピークIV)を示す成分(成分IV)の群から選ばれる少なくとも1種または2種以上を含有することを特徴とする、請求項9に記載の抽出物。
HPLC分析条件 (3)
カラム:TSKgel
Amide-80 (4.6×250 mm, 5 micro
m)
移動相A:TFA含有水(pH 2.0)
移動相B:アセトニトリル
流速:0.8 ml/min
分離温度:30度(C)
検出波長:215 nm
グラジエント:5% (0→15分)、5→10% (15→20分)、10→25% (20→80分)、
25→55% (80→105分)、55% (105→125分)
【請求項11】
請求項1〜10の何れかに記載の抽出物および請求項8に記載のオリゴペプチドの何れかを活性成分として含有することを特徴とする食品または医薬組成物。
【請求項12】
活性成分が、オリゴペプチドのYAFDVWY(Tyr-Ala-Phe-Asp-Val-Trp-Tyr)、DVWY(Asp-Val-Trp-Tyr)、FDART (Phe-Asp-Ala-Arg-Thr)、WTFR(Trp-Thr-Phe-Arg)、FQ(Phe-Gln)、VVG(Val-Val-Gly)およびVAE(Val-Ala-Glu)、並びに、請求項10に記載の成分I、成分II、成分III、および成分IVの群から選ばれる少なくとも1種または2種以上である、請求項11に記載の食品または医薬組成物。
【請求項13】
活性成分が、DVWY(Asp-Val-Trp-Tyr)、FQ(Phe-Gln)、VVG(Val-Val-Gly)および成分IIの群から選ばれる少なくとも1種または2種以上である、請求項12に記載の食品または医薬組成物。
【請求項1】
ソバ植物体、好ましくは発芽して間もないソバ幼植物体の破砕物を乳酸菌発酵処理して得られる発酵ソバ上清の水溶性抽出物であって、少なくとも、下記HPLC分析条件(1)で保持時間約18分〜約21分の範囲においてほぼ単一のピーク(ピークY)として検出される成分(成分Y)を含むことを特徴とする抽出物。
HPLC分析条件 (1)
カラム:CHEMCOBOND
5-ODS-W (4.6×150 mm, 5 micro
m)
移動相:TFA含有水(pH 2.0)
流速:0.8 ml/min
分離温度:30度(C)
検出波長:215 nm、
【請求項2】
ソバ植物体が、ソバ(Fagopyrum esculentum)またはダッタンソバ(Fagopyrum
tataricum)であることを特徴とする、請求項1に記載の抽出物。
【請求項3】
乳酸菌が、ラクトバチルス・プランタルム(Lactobacillus plantarum)、ラクトバチルス・ブルガリクス(Lactobacillus bulgaricus)、ラクトバチルス・アシドフィルス(Lactobacillus acidophilus)、ラクトバチルス・カゼイ(Lactobacillus
casei)、ラクトバチルス・ファーメンタム(Lactobacillus fermentum)、ストレプトコッカス・ラクティス(Streptococcus lactis)、ストレプトコッカス・クレモリス(Streptococcus cremoris)、ストレプトコッカス・サーモフィルス(Streptococcus thermophilus)の群から選ばれる一種であることを特徴とする、請求項1に記載の抽出物。
【請求項4】
乳酸菌が、ラクトバチルス・プランタルム(Lactobacillus plantarum)であることを特徴とする、請求項3に記載の抽出物。
【請求項5】
乳酸菌発酵処理が、殺菌処理したソバ植物体破砕物に、請求項3に記載の乳酸菌の群から選ばれる一種を添加し、常温で発酵させるものであることを特徴とする、請求項1に記載の抽出物。
【請求項6】
以下の工程によって抽出、分取されたものであることを特徴とする、請求項1に記載の抽出物。
工程1:ソバ植物体を殺菌液に浸して殺菌した後、水切りし、破砕機で破砕してソバ植物体破砕物を得る、
工程2:ソバ植物体破砕物を、乳酸菌を用いて発酵させ、発酵物を遠心分離し、その上清を減圧濃縮、凍結乾燥して発酵ソバ上清粉末を得る、
工程3:発酵ソバ上清粉末を固相抽出により前処理したものを、下記HPLC分析条件(1)で、保持時間約18分〜約21分の範囲においてほぼ単一のピーク(ピークY)として検出される成分(成分Y)が検出される画分を集めて減圧濃縮、凍結乾燥して発酵ソバ抽出物を得る。
HPLC分析条件(1)
カラム:CHEMCOBOND
5-ODS-W (4.6×150 mm, 5 micro
m)
移動相:TFA含有水(pH 2.0)
流速:0.8 ml/min
分離温度:30度(C)
検出波長:215 nm、
【請求項7】
工程1の殺菌処理が、ソバ植物体を次亜塩素酸ナトリウム水溶液に浸して殺菌するものであり、工程2の発酵処理が、請求項3に記載の乳酸菌の群から選ばれる一種を添加し、常温で2週間発酵させるものであり、工程3の固相抽出法が、カラムとしてSep-Pak(登録商標) Vac C18カートリッジ(ウォーターズ社製)を用い、溶出液としてTFA含有水(pH 2.0):メタノール=1:9混合液を用いるものであることを特徴とする、請求項6に記載の抽出物。
【請求項8】
請求項1に記載の抽出物に含まれる血圧降下作用および血管拡張作用活性成分であって、
化学式、
YAFDVWY (Tyr-Ala-Phe-Asp-Val-Trp-Tyr) ・・・・ (1)
化学式、
WTFR (Trp-Thr-Phe-Arg) ・・・・ (2)
化学式、
DVWY (Asp-Val-Trp-Tyr) ・・・・ (3)
または化学式、
VAE (Val-Ala-Glu) ・・・・ (4)
の何れかで表されるオリゴペプチド。
【請求項9】
活性成分として、アミノ酸のチロシン (Tyr)、並びにオリゴペプチドのYAFDVWY
(Tyr-Ala-Phe-Asp-Val-Trp-Tyr)、DVWY (Asp-Val-Trp-Tyr)、FDART (Phe-Asp-Ala-Arg-Thr)、WTFR (Trp-Thr-Phe-Arg)、FQ (Phe-Gln)、VVG (Val-Val-Gly)およびVAE (Val-Ala-Glu)の群から選ばれる少なくとも1種または2種以上を含有することを特徴とする、請求項1に記載の抽出物。
【請求項10】
活性成分として、さらに、下記HPLC分析条件(3)で保持時間約37分にピーク(ピークI)を示す成分(成分I)、保持時間約38分にピーク(ピークII)を示す成分(成分II)、保持時間約59分にピーク(ピークIII)を示す成分(成分III)および保持時間約65分にピーク(ピークIV)を示す成分(成分IV)の群から選ばれる少なくとも1種または2種以上を含有することを特徴とする、請求項9に記載の抽出物。
HPLC分析条件 (3)
カラム:TSKgel
Amide-80 (4.6×250 mm, 5 micro
m)
移動相A:TFA含有水(pH 2.0)
移動相B:アセトニトリル
流速:0.8 ml/min
分離温度:30度(C)
検出波長:215 nm
グラジエント:5% (0→15分)、5→10% (15→20分)、10→25% (20→80分)、
25→55% (80→105分)、55% (105→125分)
【請求項11】
請求項1〜10の何れかに記載の抽出物および請求項8に記載のオリゴペプチドの何れかを活性成分として含有することを特徴とする食品または医薬組成物。
【請求項12】
活性成分が、オリゴペプチドのYAFDVWY(Tyr-Ala-Phe-Asp-Val-Trp-Tyr)、DVWY(Asp-Val-Trp-Tyr)、FDART (Phe-Asp-Ala-Arg-Thr)、WTFR(Trp-Thr-Phe-Arg)、FQ(Phe-Gln)、VVG(Val-Val-Gly)およびVAE(Val-Ala-Glu)、並びに、請求項10に記載の成分I、成分II、成分III、および成分IVの群から選ばれる少なくとも1種または2種以上である、請求項11に記載の食品または医薬組成物。
【請求項13】
活性成分が、DVWY(Asp-Val-Trp-Tyr)、FQ(Phe-Gln)、VVG(Val-Val-Gly)および成分IIの群から選ばれる少なくとも1種または2種以上である、請求項12に記載の食品または医薬組成物。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2012−162503(P2012−162503A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−25751(P2011−25751)
【出願日】平成23年2月9日(2011.2.9)
【出願人】(504180239)国立大学法人信州大学 (759)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年2月9日(2011.2.9)
【出願人】(504180239)国立大学法人信州大学 (759)
【Fターム(参考)】
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