説明

研削盤および研削加工方法

【課題】研削加工終了後の検査工程を不要としつつ、高精度な加工を行うことができる研削盤および研削加工方法を提供する。
【解決手段】円柱状または円筒状の工作物Wを回転可能に支持する主軸22と、主軸22に対して主軸22の回転軸に交差する方向に相対移動することにより、工作物Wの外周面を研削加工する砥石43と、主軸22の回転角に応じた工作物Wの外周面の位置を測定する測定器50と、研削加工中における測定器50による測定結果に基づいて工作物Wの外周面形状を算出する外周面形状算出部64と、算出された工作物Wの外周面形状に基づいて、測定器50により測定した後に行う研削加工の状態を決定する研削加工状態決定部65を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、円柱状または円筒状の工作物の外周面を研削加工する研削盤および研削加工方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、円柱状または円筒状の外周面を高精度に研削加工するために、例えば、特開昭62−282865号公報(特許文献1)などに、定寸装置を備えた研削盤が用いられている。特許文献1などに記載の定寸装置を用いて、粗研削加工から仕上げ研削加工への変更タイミング、および、仕上げ研削加工からスパークアウトへの変更タイミングを決定している。具体的には、定寸装置により計測される工作物の外径が予め設定されたそれぞれの変更タイミングの外径に達した時に定寸装置が信号を出力し、この出力される信号に基づいて次の研削加工へ変更している。
【特許文献1】特開昭62−282865号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、定寸装置は工作物の最小径が予め設定された外径に達したときに、信号を出力する。そのため、仮に工作物の径方向断面形状が真円形ではなく、楕円形に成形されてしまった場合には、工作物の短径は設定された外径に達しているが、工作物の長径は設定された外径に達していない場合がある。このように楕円形に加工されてしまう要因としては、研削抵抗の変動など種々の要因が考えられる。従って、研削加工後に、真円度測定器により、工作物の外周面形状を検査する必要がある。検査する工作物の外周面形状としては、例えば、工作物の回転中心に対する工作物の外周面形状、すなわち偏心していないか否かや、工作物の真円度や、工作物の表面性状などである。
【0004】
このように、研削加工終了後に検査により、不良と判定された場合には、製品として出荷できない。さらに、検査工程の存在により、工作物の加工開始から完成までのサイクルタイムが長くなってしまう。そして、検査工程の分、コスト高になる。
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、研削加工終了後の検査工程を不要としつつ、高精度な加工を行うことができる研削盤および研削加工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するため、請求項1に係る研削盤の発明の特徴は、
円柱状または円筒状の工作物を回転可能に支持する主軸と、
前記主軸に対して前記主軸の回転軸に交差する方向に相対移動することにより、前記工作物の外周面を研削加工する砥石と、
前記主軸の回転角に応じた前記工作物の外周面の位置を測定する測定器と、
研削加工中における前記測定器による測定結果に基づいて前記工作物の外周面形状を算出する外周面形状算出部と、
算出された前記外周面形状に基づいて、前記測定器により測定した後に行う研削加工の状態を決定する研削加工状態決定部と、
を備えることである。
【0007】
請求項2に係る発明の特徴は、請求項1において、
前記外周面形状算出部は、スパークアウト中における前記工作物の外周面形状を算出し、
前記研削加工状態決定部は、算出された前記外周面形状が予め設定された目標形状に達した時に前記スパークアウトを終了することである。
【0008】
請求項3に係る発明の特徴は、請求項1において、
前記外周面形状算出部は、粗研削加工の際、または、粗研削加工と仕上げ研削加工との間における前記工作物の外周面形状を算出し、
前記研削加工状態決定部は、算出された前記外周面形状が予め設定された所定の形状条件を満たしていない場合に研削加工を終了することである。
【0009】
請求項4に係る発明の特徴は、請求項1において、
前記外周面形状算出部は、粗研削加工の際、または、粗研削加工と仕上げ研削加工との間における前記工作物の外周面形状を算出し、
前記研削加工状態決定部は、算出された前記外周面形状に基づいて前記仕上げ研削加工における加工条件を変更することである。
【0010】
請求項5に係る発明の特徴は、請求項4において、
前記研削加工状態決定部は、算出された前記外周面形状に基づいて、前記仕上げ研削加工における単位時間当たりの研削量を変更することである。
【0011】
請求項6に係る発明の特徴は、請求項1〜5の何れか一項において、
前記工作物の外周面形状は、前記工作物の回転中心に対する前記工作物の外周面形状、前記工作物の真円度、および前記工作物の表面性状の少なくとも1つを含むことである。
【0012】
上記の課題を解決するため、請求項7に係る研削加工方法の発明の特徴は、
回転可能に支持された円柱状または円筒状の工作物に対して、前記工作物の回転軸に交差する方向に砥石を相対移動することにより、前記工作物の外周面を研削加工する研削加工方法において、
研削加工中に前記工作物の回転角に応じた前記工作物の外周面の位置を、測定器により測定する測定ステップと、
前記測定器による測定結果に基づいて前記工作物の外周面形状を算出する外周面形状算出ステップと、
算出された前記外周面形状に基づいて、前記測定器により測定した後に行う研削加工の状態を決定する研削加工状態決定ステップと、
を備えることである。
【発明の効果】
【0013】
上記のように構成した請求項1に係る発明によれば、従来研削加工後に行っていた測定を、研削加工中に行っている。そして、従来は、研削加工後に行っていた測定は、あくまで加工後の製品検査にすぎなかった。これに対して、本発明の研削加工中における測定は、その後の研削加工の状態を決定するものとなる。つまり、測定結果次第で、測定後の研削加工の状態を変更することが可能となる。このように、研削加工終了後の製品検査を不要としつつ、高精度な加工を行うことができる。
【0014】
ここで、従来の定寸装置は、工作物の最小径を計測していたのに対して、本発明の測定器は、主軸の回転角に応じた工作物の外周面の位置を測定している。つまり、測定器は、工作物の各回転位相に応じた工作物の外周面の位置座標を測定している。従って、外周面形状算出部は、従来の定寸装置により測定されていた工作物の最小径のみならず、工作物の外周面形状そのものを得ることができる。
【0015】
請求項2に係る発明によれば、スパークアウトを従来よりも短い時間で終了させることができる。従来、スパークアウトは、例えば、作業者による熟練の経験に基づいて、一定の時間または工作物の回転回数などを設定していた。これに対して、本発明は、測定結果に基づいて、算出された工作物の外周面形状が予め設定された目標形状に達した時にスパークアウトを終了させている。つまり、従来よりも短い時間で、且つ、確実な形状精度を満たした状態で、スパークアウトを終了することができる。
【0016】
請求項3に係る発明によれば、測定器による測定を、粗研削加工の途中に行うか、加工中のうち粗研削加工と仕上げ研削加工との切替の時に行うとしている。そして、粗研削加工の際または粗、仕上げ研削加工の間に測定した結果に基づいて、得られた工作物の外周面形状がその後の加工により修正困難な程度になったと判定された場合に、その時点で加工を終了するとしている。従来は、最終工程までの加工が終了しなければ、不良品であるか否かを判定できなかった。これに対して、本発明によれば、早期の段階で、不良品であるか否かを判定できる。
【0017】
請求項4に係る発明によれば、測定器による測定を、その後の加工条件を変更することにより最終的に加工終了した時点の工作物の加工精度を高いものとすることができるタイミングに行っている。つまり、粗研削加工の際、または、粗研削加工と仕上げ研削加工との間に測定した結果に基づいて、仮に予め設定された加工条件で加工を継続すると不良品になるおそれがあると判定された場合に、その後の加工条件を変更することができる。一般に、砥石の磨耗などにより砥石の切れ味が悪くなる。砥石の切れ味が良好な時には、高速加工を行っても高精度な加工ができる。一方、砥石の切れ味が悪くなっていくと、研削速度(単位時間当たりの研削量)を低減することで、高精度な加工を得ることができる。また、砥石の磨耗の他に、工作物の加工精度に影響する要因は多々ある。このように加工精度に種々の要因が影響を及ぼすとしても、本発明により、不良品を出すことなく、且つ、可能な限り高速加工を行うことができる。つまり、高精度な加工と加工時間の短縮を実現できる。
請求項5に係る発明によれば、単位時間当たりの研削量を低減することで、確実に高精度に加工することができる。
【0018】
請求項6に係る発明のように、工作物の外周面形状として定義している。工作物の外周面形状としては、工作物の回転中心に対する工作物の外周面形状、工作物の真円度、および工作物の表面性状の何れか1つでもよいし、全てでもよい。また、選択した2つでもよい。これらは、要求される加工精度に応じて適宜変更可能である。
【0019】
請求項7に係る発明によれば、上述した請求項1に係る研削盤による効果と同一の効果を奏する。すなわち、本発明によれば、測定結果次第で、測定後の研削加工の状態を変更することが可能となる。このように、研削加工終了後の製品検査を不要としつつ、高精度な加工を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の研削盤を具体化した実施形態について図面を参照しつつ説明する。
(研削盤1の構成)
本実施形態の研削盤1の全体構成について、図1を参照して説明する。図1は、研削盤1の平面図である。図1に示すように、研削盤1は、ベッド10と、主軸台20と、心押台30と、砥石支持装置40と、測定器50とから構成される。
【0021】
ベッド10は、ほぼ矩形状からなり、床上に配置される。このベッド10の上面には、一対の砥石台用ガイドレール11a、11aが、図1の左右方向(Z軸方向)に延びるように、且つ、相互に平行に形成されている。一対の砥石台用ガイドレール11a、11aは、砥石支持装置40を構成する砥石台トラバースベース41が摺動可能なレールである。さらに、ベッド10の上面のうち、一対の砥石台用ガイドレール11a、11aより図1の下側(機械の手前側)には、主軸台20が摺動可能な一対の第一ガイドレール12a、12aが、図1の左右方向(Z軸方向)に延びるように、且つ、相互に平行に形成されている。また、ベッド10の上面のうち、一対の第一ガイドレール12a、12aより図1の右側には、心押台30が摺動可能な一対の第二ガイドレール13a、13aが、図1の左右方向(Z軸方向)に延びるように、且つ、相互に平行に形成されている。さらに、第一ガイドレール12aと第二ガイドレール13aとの間には、一対の第三ガイドレール14a、14aが、図1の左右方向(Z軸方向)に延びるように、且つ、相互に平行に形成されている。
【0022】
また、ベッド10には、一対の砥石台用ガイドレール11a、11aの間に、砥石台トラバースベース41を図1の左右方向に駆動するための、砥石台用Z軸ボールねじ11bが配置され、この砥石台用Z軸ボールねじ11bを回転駆動する砥石台用Z軸モータ11cが配置されている。さらに、ベッド10には、一対の第一ガイドレール12a、12aの間に、主軸台20を図1の左右方向に駆動するための、第一Z軸ボールねじ12bが配置され、この第一Z軸ボールねじ12bを回転駆動する第一Z軸モータ12cが配置されている。ベッド10には、一対の第二ガイドレール13a、13aの間に、心押台30を図1の左右方向に駆動するための、第二Z軸ボールねじ13bが配置され、この第二Z軸ボールねじ13bを回転駆動する第二Z軸モータ13cが配置されている。さらに、ベッド10には、一対の第三ガイドレール14a、14aの間に、測定器50を図1の左右方向に駆動するための、第三Z軸ボールねじ14bが配置され、この第三Z軸ボールねじ14bを回転駆動する第三Z軸モータ14cが配置されている。
【0023】
主軸台20は、主軸台本体21と、主軸22と、主軸センタ23とを備えている。主軸台本体21は、ベッド10の上面のうち、一対の第一ガイドレール12a、12a上を摺動可能に配置されている。そして、主軸台本体21は、第一Z軸ボールねじ12bのナット部材に連結されており、第一Z軸モータ12cの駆動により一対の第一ガイドレール12aに沿って移動する。この主軸台本体21の内部には、主軸22が軸周り(図1のZ軸周り)に回転可能に挿通支持されている。この主軸22は、図示しないモータにより回転駆動される。また、主軸22の右端に、長尺の工作物Wの軸方向一端を支持する主軸センタ23が取り付けられている。
【0024】
心押台30は、心押台本体31と、心押センタ32とを備えている。心押台本体31は、ベッド10の上面のうち、一対の第二ガイドレール13a、13a上を摺動可能に配置されている。そして、心押台本体31は、第二Z軸ボールねじ13bのナット部材に連結されており、第二Z軸モータ13cの駆動により一対の第二ガイドレール13a、13aに沿って移動する。この心押台本体31は、図1の左右方向に貫通する穴が形成されている。この心押台本体31の貫通孔に、心押センタ32が回転可能に挿通支持されている。この心押センタ32の回転軸は、主軸22の回転軸と同軸上に位置している。そして、この心押センタ32は、工作物Wの軸方向他端を支持する。つまり、心押センタ32は、主軸センタ23に対向するように配置されている。そして、主軸センタ23と心押センタ32とにより、工作物Wの両端を支持している。このように、工作物Wは、主軸センタ23および心押センタ32により、主軸軸周り(Z軸周り)に回転可能に保持されている。
【0025】
砥石支持装置40は、砥石台トラバースベース41と、砥石台42と、砥石車43と、砥石回転用モータ44とを備えている。砥石台トラバースベース41は、矩形の平板状に形成されており、ベッド10の上面のうち、一対の砥石台用ガイドレール11a、11a上を摺動可能に配置されている。砥石台トラバースベース41は、砥石台用Z軸ボールねじ11bのナット部材に連結されており、砥石台用Z軸モータ11cの駆動により一対の砥石台用ガイドレール11a、11aに沿って移動する。この砥石台トラバースベース41の上面には、砥石台42が摺動可能な一対のX軸ガイドレール41a、41aが、図1の上下方向(X軸方向)に延びるように、且つ、相互に平行に形成されている。さらに、砥石台トラバースベース41には、一対のX軸ガイドレール41a、41aの間に、砥石台42を図1の上下方向に駆動するための、X軸ボールねじ41bが配置され、このX軸ボールねじ41bを回転駆動するX軸モータ41cが配置されている。
【0026】
砥石台42は、砥石台トラバースベース41の上面のうち、一対のX軸ガイドレール41a、41a上を摺動可能に配置されている。そして、砥石台42は、X軸ボールねじ41bのナット部材に連結されており、X軸モータ41cの駆動により一対のX軸ガイドレール41aに沿って移動する。つまり、砥石台42は、ベッド10、主軸台20および心押台30に対して、X軸方向およびZ軸方向(トラバース送り方向)に相対移動可能となる。
【0027】
そして、この砥石台42のうち図1の下側部分には、図1の左右方向に貫通する穴が形成されている。この砥石台42の貫通孔に、砥石車回転軸部材(図示せず)が、砥石中心軸周り(Z軸周り)に回転可能に支持されている。この砥石車回転軸部材の一端(図1の左端)に、砥石車43が同軸的に取り付けられている。また、砥石台42の上面には、砥石回転用モータ44が固定されている。そして、砥石車回転軸部材の他端(図1の右端)と砥石回転用モータ44の回転軸とにプーリが懸架されることで、砥石回転用モータ44の駆動により、砥石車43が砥石軸周りに回転する。
【0028】
測定器50は、ベッド10の上面のうち、一対の第三ガイドレール14a、14a上を摺動可能に配置されている。そして、測定器50は、第三Z軸ボールねじ14bのナット部材に連結されており、第三Z軸モータ14cの駆動により一対の第三ガイドレール14a、14aに沿って移動する。さらに、測定器50は、対向して配置された一対の測定子51を備えている。この一対の測定子51を工作物Wに対して接近させたり遠ざけたりすることができる。具体的には、測定子51をX方向に移動させることができる。この一対の測定子51は、主軸22の回転軸を通る鉛直平面上にて工作物Wに当接するように設けられている。そして、それぞれの測定子51は、工作物Wのうち主軸22の回転軸を通る鉛直平面上に位置する部位のY軸座標値を測定することができる。つまり、一対の測定子51は、工作物Wの外径を測定するいわゆる定寸装置としての機能を有する。さらに、一対の測定子51は、主軸22の回転角に応じた工作物Wの外周面の位置を測定できる。なお、主軸22の回転角に応じた工作物Wの外周面の位置を測定するには、一対の測定子51の何れか一方のみの信号を用いることで足りる。
【0029】
次に、制御装置60の詳細構成について、図2を参照して説明する。図2は、制御装置60のブロック構成図である。図2に示すように、制御装置60は、指令部61と、加工制御部62と、測定制御部63と、外周面形状算出部64と、研削加工状態決定部65とから構成される。
【0030】
指令部61は、所定のプログラムに基づいて、円筒状または円柱状の工作物Wの加工および測定に関しての指令を出力する。加工制御部62は、指令部61から出力された指令および研削加工状態決定部65から出力される指令に基づいて、加工に必要な各種モータを制御する。
【0031】
測定制御部63は、指令部61から出力された指令に基づいて、測定器50により研削加工中の工作物Wを測定するために測定器50を制御する。具体的には、測定制御部63は、第三Z軸モータ14c(図2の「測定用モータ」に相当)を制御することにより測定器50のZ軸方向位置を位置決めし、且つ、測定用油圧シリンダー(図2の「測定用油圧装置」に相当)により測定器50のX軸方向への移動を制御する。さらに、測定制御部63は、測定器50により工作物Wの測定を行わせる。
【0032】
外周面形状算出部64は、研削加工中における測定器50による測定結果に基づいて工作物Wの外周面形状を算出する。上述したように、測定器50は、主軸22の回転角に応じた工作物Wの外周面の位置を測定する。そこで、外周面形状算出部64は、測定器50から出力される測定結果と、その測定の時における主軸22の回転角とに基づいて、工作物Wの外周面形状を算出する。ここで、工作物Wの外周面形状とは、工作物Wの回転中心に対する工作物Wの外周面形状、工作物Wの真円度、および工作物Wの表面性状の少なくとも1つを含む。本実施形態においては、工作物Wの外周面形状として、上記3種全てを含むものとする。なお、工作物Wの回転中心に対する工作物Wの外周面形状とは、例えば、偏心している場合にはその偏心量に相当する。さらに、外周面形状算出部64は、測定器50を定寸装置として機能させることで、工作物Wの外径を算出する。つまり、外周面形状算出部64は、偏心量、真円度および表面性状の他に、工作物Wの外径も算出する。ただし、ここで測定される外径とは、一対の測定子51の間の距離のうち最小値としている。
【0033】
研削加工状態決定部65は、外周面形状算出部64により算出された工作物Wの外周面形状および工作物Wの外径に基づいて、測定器50により測定した後に行う研削加工の状態を決定する。この研削加工の状態についての詳細は、後述する。
【0034】
(研削加工方法)
次に、上述した研削盤1を用いた研削加工方法について、図3を参照して説明する。図3は、研削盤1を用いた研削加工方法を示すフローチャートである。
【0035】
本実施形態においては、工作物Wに対して、粗研削加工、仕上げ研削加工、スパークアウトの順に行う。図3に示すように、まず、粗研削加工を行う(S1)。粗研削加工は、単位時間当たりの研削量が多くなるように、砥石車43による切り込み速度を早くする。ここで、粗研削加工を開始してから、全ての研削加工を終了するまでの間、測定器50により、定寸装置として工作物Wの外径の測定を行う。つまり、外周面形状算出部64は、研削加工を行っている間、工作物Wの外径を算出している。続いて、測定器50による工作物Wの外周面位置の測定を開始し、且つ、その測定結果に基づいて外周面形状算出部64により工作物Wの外周面形状を算出する(S2)。
【0036】
続いて、粗研削加工用の定寸信号P2がONするまで、粗研削加工を継続する(S3)。ここで、粗研削加工用の定寸信号P2は、外周面形状算出部64により算出された工作物Wの外径が研削加工状態決定部65に予め設定されている粗研削加工の定寸値に達した場合に、ONされる信号である。そして、粗研削加工用の定寸信号P2がONすると、粗研削加工を終了する(S4)。続いて、測定器50による測定も終了する(S5)。
【0037】
そして、外周面形状算出部64により算出された工作物Wの外周面形状が、予め設定された粗許容値以内であるか否かを判定する(S6)。具体的には、偏心量、真円度、表面性状のそれぞれに粗許容値を設定しておき、外周面形状算出部64により算出された工作物Wの偏心量、真円度、表面性状が、対応する粗許容値以内であるか否かを判定する。この粗許容値とは、後の仕上げ研削加工を行うことにより、最終の目標の偏心量、真円度、表面性状(以下、包括する意味で「目標形状」とも称する。また、本発明の「目標形状」に相当する。)に達することができる範囲である。
【0038】
そして、算出された工作物Wの偏心量、真円度および表面性状の少なくとも何れか1つが対応する粗許容値を超えている場合には(S6:No)、研削加工状態決定部65の指令に基づいて異常と判定して研削加工を終了する(S8)。つまり、この状態とは、後の工程である仕上げ研削加工を行ったとしても、目標形状に達することができず、修復不能である場合である。
【0039】
一方、算出された工作物Wの偏心量、真円度および表面性状の全てが対応する粗許容値以内である場合には(S6:Yes)、さらに、算出された工作物Wの外周面形状が、予め設定された条件変更基準値以内であるか否かを判定する(S7)。この条件変更基準値とは、上述した粗許容値よりも低い基準値である。この条件変更基準値は、粗許容値と同様に、具体的には、偏心量、真円度、表面性状のそれぞれの基準値からなる。
【0040】
そして、算出された工作物Wの偏心量、真円度および表面性状の全てが対応する条件変更基準値以内である場合には(S7:Yes)、予め設定された仕上げ研削条件により仕上げ研削加工を開始する(S9)。一方、算出された工作物Wの偏心量、真円度および表面性状の少なくとも何れか1つが対応する条件変更基準値を超えている場合には(S7:No)、研削加工状態決定部65の指令に基づいて、当初設定されていた仕上げ研削条件を変更して、変更した仕上げ研削条件により仕上げ研削加工を開始する(S10)。この変更される仕上げ研削条件は、変更前の仕上げ研削条件に対して、単位時間当たりの研削量を低減することができる条件である。例えば、砥石車43の切り込み速度を遅くしたり、主軸22または砥石車43の回転速度を早くしたりする。
【0041】
続いて、仕上げ研削加工用の定寸信号P1がONするまで、仕上げ研削加工を継続する(S11)。ここで、仕上げ研削加工用の定寸信号P1は、外周面形状算出部64により算出された工作物Wの外径が研削加工状態決定部65に予め設定されている仕上げ研削加工の定寸値に達した場合に、ONされる信号である。そして、仕上げ研削加工用の定寸信号P1がONすると、仕上げ研削加工を終了する(S12)。続いて、測定器50による工作物Wの外周面位置の測定を開始し、且つ、その測定結果に基づいて外周面形状算出部64により工作物Wの外周面形状および工作物Wの外径を算出する(S13)。つまり、仕上げ研削加工の後に行うスパークアウト中における工作物Wの外周面形状(偏心量、真円度、表面性状)を算出する。ここでは、同時に、スパークアウト中における工作物Wの外径も算出する。
【0042】
続いて、スパークアウトを開始する(S14)。スパークアウトとは、砥石車43の工作物Wに対する移動指令をゼロとして行う処理である。このスパークアウト中に、継続して測定器50による測定と、外周面形状算出部64による工作物Wの外周面形状および工作物Wの外径の算出とが行われている。
【0043】
続いて、工作物Wの外径が、予め設定された仕上げ寸法許容値以内であるか否かを判定する(S15)。つまり、工作物Wの外径が、仕上げ寸法許容値より小さくなったか否かを判定する。そして、算出された工作物Wの外径が仕上げ寸法許容値を超えている場合には(S15:No)、研削加工状態決定部65の指令に基づいて異常により加工を終了する(S18)。
【0044】
一方、算出された工作物Wの外径が仕上げ寸法許容値以内である場合には(S15:Yes)、算出されている工作物Wの偏心量、真円度および表面性状の全てが、予め設定された目標の偏心量、真円度および表面性状(本発明の「目標形状」に相当する)に達したか否かを判定する(S16)。そして、工作物Wの偏心量、真円度および表面性状の全てが、対応する目標形状に達していないと判定されると、S15に戻る(S16:No)。つまり、工作物Wの外径が仕上げ寸法許容値以内であって、工作物Wの偏心量、真円度および表面性状の全てが、対応する目標形状に達したと判定されるまで、スパークアウトが継続される。
【0045】
そして、工作物Wの偏心量、真円度および表面性状の全てが対応する目標形状に達したと判定された場合には(S16:Yes)、研削加工状態決定部65の指令に基づいて、正常として加工を完了する(S17)。
【0046】
以上説明した研削加工方法によれば、以下の効果を奏する。従来研削加工後に行っていた測定を、本実施形態においては研削加工中に行っている。さらに、本実施形態の研削加工中における測定は、その後の研削加工の状態を決定するものである。つまり、測定器50の測定結果次第で、測定後の研削加工の状態を変更することが可能となる。このように、研削加工終了後の製品検査を不要としつつ、高精度な加工を行うことができる。
【0047】
また、外周面形状算出部64により算出された工作物Wの外周面形状に基づいて、スパークアウトを終了するか否かを決定している。従って、スパークアウトを従来よりも短い時間で終了させることができる。さらに、確実に目標形状に達し且つ仕上げ寸法許容値以内となったときに、スパークアウトを終了させるため、早期にスパークアウトを終了させたとしても、確実な目標の形状精度、すなわち目標の偏心量、真円度および表面性状を満たすことができる。
【0048】
また、スパークアウト中の他、測定器50による測定を、粗研削加工の途中に行っている。そして、粗研削加工の際に測定した結果に基づいて、得られた工作物Wの偏心量、真円度および表面性状がその後の加工により修正困難な程度になったと判定された場合に、その時点で加工を終了するとしている。これにより、本実施形態によれば、早期の段階で、不良品であるか否かを判定できる。
【0049】
また、粗研削加工の際に外周面形状算出部64により算出された工作物Wの外周面形状に基づいて、仕上げ研削加工における加工条件を変更している。これにより、粗研削加工の際、または、粗研削加工と仕上げ研削加工との間に測定した結果に基づいて、仮に予め設定された加工条件で研削加工を継続すると不良品になるおそれがあると判定された場合に、その後の加工条件を変更することができる。従って、加工精度に種々の要因が影響を及ぼすとしても、不良品を出すことなく、且つ、可能な限り高速加工を行うことができる。つまり、高精度な加工と加工時間の短縮を実現できる。
【0050】
<その他>
上記実施形態においては、粗研削加工の際に測定器50による測定を行うこととしたが、粗研削加工と仕上げ研削加工の間に測定器50による測定を行うようにしてもよい。このようにしたときにも、上記とほぼ同様の効果を得ることができる。ただし、粗研削加工と仕上げ研削加工の間に行う場合には、その測定時間を必要とするため、粗研削加工の際に測定を同時に行う方がサイクルタイムの短縮につながる。
【0051】
また、上記実施形態においては、工作物Wの外周面形状として、偏心量、真円度および表面性状の全てを対象として説明した。この他に、工作物Wに要求される精度によって、必要なパラメータを選択できる。例えば、真円度のみを対象とすることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】研削盤1の平面図である。
【図2】制御装置60のブロック構成図である。
【図3】研削盤1を用いた研削加工方法を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0053】
1:研削盤、 10:ベッド
20:主軸台、 21:主軸台本体、 22:主軸、 23:主軸センタ
30:心押台、 31:心押台本体、 32:心押センタ
40:砥石支持装置、 41:砥石台トラバースベース、 42:砥石台
43:砥石車、 44:砥石回転用モータ
50:測定器、 51:測定子
60:制御装置


【特許請求の範囲】
【請求項1】
円柱状または円筒状の工作物を回転可能に支持する主軸と、
前記主軸に対して前記主軸の回転軸に交差する方向に相対移動することにより、前記工作物の外周面を研削加工する砥石と、
前記主軸の回転角に応じた前記工作物の外周面の位置を測定する測定器と、
研削加工中における前記測定器による測定結果に基づいて前記工作物の外周面形状を算出する外周面形状算出部と、
算出された前記外周面形状に基づいて、前記測定器により測定した後に行う研削加工の状態を決定する研削加工状態決定部と、
を備えることを特徴とする研削盤。
【請求項2】
請求項1において、
前記外周面形状算出部は、スパークアウト中における前記工作物の外周面形状を算出し、
前記研削加工状態決定部は、算出された前記外周面形状が予め設定された目標形状に達した時に前記スパークアウトを終了することを特徴とする研削盤。
【請求項3】
請求項1において、
前記外周面形状算出部は、粗研削加工の際、または、粗研削加工と仕上げ研削加工との間における前記工作物の外周面形状を算出し、
前記研削加工状態決定部は、算出された前記外周面形状が予め設定された所定の形状条件を満たしていない場合に研削加工を終了することを特徴とする研削盤。
【請求項4】
請求項1において、
前記外周面形状算出部は、粗研削加工の際、または、粗研削加工と仕上げ研削加工との間における前記工作物の外周面形状を算出し、
前記研削加工状態決定部は、算出された前記外周面形状に基づいて前記仕上げ研削加工における加工条件を変更することを特徴とする研削盤。
【請求項5】
請求項4において、
前記研削加工状態決定部は、算出された前記外周面形状に基づいて、前記仕上げ研削加工における単位時間当たりの研削量を変更することを特徴とする研削盤。
【請求項6】
請求項1〜5の何れか一項において、
前記工作物の外周面形状は、前記工作物の回転中心に対する前記工作物の外周面形状、前記工作物の真円度、および前記工作物の表面性状の少なくとも1つを含むことを特徴とする研削盤。
【請求項7】
回転可能に支持された円柱状または円筒状の工作物に対して、前記工作物の回転軸に交差する方向に砥石を相対移動することにより、前記工作物の外周面を研削加工する研削加工方法において、
研削加工中に前記工作物の回転角に応じた前記工作物の外周面の位置を、測定器により測定する測定ステップと、
前記測定器による測定結果に基づいて前記工作物の外周面形状を算出する外周面形状算出ステップと、
算出された前記外周面形状に基づいて、前記測定器により測定した後に行う研削加工の状態を決定する研削加工状態決定ステップと、
を備えることを特徴とする研削加工方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−105059(P2010−105059A)
【公開日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−276538(P2008−276538)
【出願日】平成20年10月28日(2008.10.28)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】