説明

研磨用組成物並びにそれを用いた研磨方法及び基板の製造方法

【課題】貴金属の研磨に適した研磨用組成物及びその用途を提供する。
【解決手段】本発明の研磨用組成物は、貴金属を含むバリア層と金属配線層を有する研磨対象物を研磨する用途で使用される研磨用組成物であって、砥粒、特定の酸化剤及び水を含有し、特定の酸化剤は、ペルオキシ基(−O−O−)の酸素上にアンモニウム、アルカリ金属、アルカリ土類金属から選ばれるいずれか一が置換した構造を有する。また、任意で研磨促進剤及び保護膜形成剤の両方又はいずれか一方を含有し、研磨促進剤は、前記貴金属を含むバリア層の研磨速度を維持又は向上させる効果を持ち、保護膜形成剤は、貴金属を含むバリア層の研磨速度を抑制しない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、貴金属の研磨に適した研磨用組成物及びその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、LSIの高集積化、高性能化に伴って新たな微細加工技術が開発されている。化学機械研磨(以下、CMPと記す)法もその一つであり、LSI製造工程、特に多層配線形成工程における層間絶縁膜の平坦化、金属プラグ形成、埋め込み配線(ダマシン配線)形成において頻繁に利用される技術である。この技術は、例えば特許文献1に開示されている。ダマシン配線技術は配線工程の簡略化、歩留まりと信頼性の向上が可能であり、今後適用が拡大していくと考えられる。
【0003】
ダマシン配線としては、高速ロジックデバイスには、現在、低抵抗であるが故に銅が配線金属として主に用いられている。また、今後DRAMに代表されるメモリデバイスにも使用が拡大されると考えられる。金属CMPの一般的な方法は、円形の研磨定盤(プラテン)上に研磨パッドを貼り付け、研磨パッド表面を研磨剤で浸し、基板の金属膜を形成した面を押し付けて、その裏面から所定の圧力(以下研磨圧力と記す)を加えた状態で研磨定盤を回し、研磨剤と金属膜の凸部との機械的摩擦によって凸部の金属膜を除去するものである。
【0004】
一方、配線の銅或いは銅合金等の下層には、層間絶縁膜中への銅拡散防止のためにバリア層として、タンタル、タンタル合金、及びタンタル化合物等が形成される。したがって、銅或いは銅合金を埋め込む配線部分以外では、露出したバリア層をCMPにより取り除く必要がある。しかし、バリア層導体膜は、銅或いは銅合金に比べ一般に硬度が高いために、銅または銅合金用の研磨材料の組み合わせでは十分なCMP速度が得られない場合が多い。
【0005】
一方、バリア層として用いられるタンタル、タンタル合金及びタンタル化合物等は化学的に安定でエッチングが難しく、硬度が高いために機械的な研磨も銅及び銅合金ほど容易ではない。さらに近年、バリア層用の材料として、ルテニウム、ルテニウム合金及びルテニウム化合物が検討されている。ルテニウム、ルテニウム合金及びルテニウム化合物はタンタル、タンタル合金及びタンタル化合物に比べ抵抗率が低く、化学的気相成長(CVD)成膜が可能でより細幅配線に対応可能な点で優れている。しかし、ルテニウム、ルテニウム合金及びルテニウム化合物はタンタル、タンタル合金及びタンタル化合物と同様に化学的に安定で硬度が高いことから研磨が難しい。
【0006】
CMPに用いられる研磨剤は、一般には酸化剤及び砥粒からなっており、このCMP用研磨剤によるCMPの基本的なメカニズムは、まず、酸化剤によって金属膜表面を酸化し、その酸化層を砥粒によって削り取るというものであると考えられている。凹部の金属膜表面の酸化層は研磨パッドにあまり触れず、砥粒による削り取りの効果が及ばないので、CMPの進行とともに凸部の金属膜が除去されて基板表面は平坦化される。
【0007】
CMPにおいては、配線金属に対する高い研磨速度、研磨速度安定性および研磨表面における低い欠陥密度が要求される。しかしながら、ルテニウム膜は、銅、タングステンのような他のダマシン配線金属膜よりも化学的に安定かつ高硬度であるために、研磨し難い。このような貴金属、特にルテニウム膜研磨用研磨液としては、例えば特許文献2に示されるような研磨液が提案されている。しかしながら化学的に安定な貴金属酸化物の除去には一般に時間がかかるため、この種の研磨用組成物に対してはスループット向上のためのさらなる改良のニーズが強い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国特許第4944836号明細書
【特許文献2】特開2004−172326号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで本発明の目的は、貴金属を含むバリア層と金属配線層を有する研磨対象物、特に貴金属を含むバリア層に対して高い除去速度を有する研磨用組成物並びにそれを用いた研磨方法及び基板の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、鋭意検討の結果、砥粒と特定の酸化剤を含むことで、貴金属を含むバリア層と金属配線層を有する研磨対象物、特に貴金属を含むバリア層に対して高い除去速度を有する研磨用組成物を見出した。
【0011】
すなわち、本発明の要旨は下記の通りである。
<1>貴金属を含むバリア層と金属配線層を有する研磨対象物を研磨する用途で使用される研磨用組成物であって、砥粒、酸化剤、水並びに任意で研磨促進剤及び保護膜形成剤の両方又はいずれか一方を含有し、前記酸化剤は、ペルオキシ基(−O−O−)の酸素上にアンモニウム、アルカリ金属、アルカリ土類金属から選ばれるいずれか一が置換した構造を有することを特徴とする研磨用組成物。
<2>酸化剤が、ペルオキソ一硫酸のアンモニウム塩、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩から選ばれるいずれか一以上である。
<3>さらに研磨促進剤を含有する。
<4>研磨促進剤が、前記貴金属を含むバリア層の研磨速度を維持又は向上させる効果を持つ。
<5>さらに保護膜形成剤を含有する。
<6>保護膜形成剤が、前記貴金属を含むバリア層の研磨速度を維持する又は抑制しない。
<7>貴金属が、ルテニウムである。
<8>前記<1>〜<7>のいずれかの研磨用組成物を用いて、貴金属を含むバリア層と金属配線層を有する研磨対象物の表面を研磨することを含む研磨方法。
<9>前記<1>〜<8>のいずれかに記載の研磨用組成物を用いて、貴金属を含むバリア層と金属配線層を含む基板を得るべく、貴金属を含むバリア層と金属配線層を有する研磨対象物の表面を研磨して貴金属を含むバリア層の一部を除去することを含む、貴金属を含むバリア層を有する基板の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、貴金属を含むバリア層と金属配線層を有する研磨対象物、特に貴金属を含むバリア層に対して高い除去速度を有する研磨用組成物並びにそれを用いた研磨方法及び基板の製造方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態を説明する。
本実施形態の研磨用組成物は、砥粒と特定の酸化剤を水に混合し、必要に応じてpH調整剤を添加してpHを所望の値に調整することにより調製される。従って、本実施形態の研磨用組成物は、砥粒、特定の酸化剤及び水を含有し、必要に応じてさらにpH調整剤を含有する。この研磨用組成物は、貴金属を研磨する用途、さらに言えば貴金属を含むバリア層と金属配線層を有する研磨対象物の表面を研磨して貴金属を含むバリア層部分の一部を除去することを通じて貴金属を含むバリア層を有する基板を製造する用途で使用される。なお、貴金属とは一般に、銀、金、パラジウム、白金、ロジウム、イリジウム、ルテニウム及びオスミウムが該当する。従って、本実施形態の研磨用組成物はこれらの貴金属を研磨する用途で使用されるものである。中でも、パラジウム、白金、ロジウム、イリジウム、ルテニウム又はオスミウムを含むバリア層を研磨する用途、特にルテニウムを含むバリア層を研磨する用途で好適に用いられる。
【0014】
(酸化剤)
研磨用組成物中に含まれる酸化剤は、ペルオキシ基(−O−O−)の酸素上にアンモニウム、アルカリ金属、アルカリ土類金属から選ばれるいずれか一が置換した構造を有する(以下、「特定の酸化剤」という。)。例えば、ルテニウムは、+2、+3、+4、+6、+7、及び+8酸化状態に酸化され得る(例えば、M.Pourbaix,
Atlas of Electrochemical Equilibria in Aqueous Solutions, 343−349 (Pergamon Press
1966)を参照)。一般的な酸化形態は、Ru、すなわち、Ru(OH)及びRuOであり、それぞれ、ルテニウムは、+3及び+4酸化状態に酸化されている。+4酸化状態へのルテニウムの酸化、すなわちRuOの形成は、ルテニウムの表面への保護層の形成をもたらし、また、+3酸化状態へのルテニウムの酸化、すなわちRu(OH)の形成は、保護的ではない層をもたらす。そのため、いずれの状態においても、砥粒での機械的除去が可能になると考えられ、前記条件の酸化剤を用いれば、ルテニウムを+3及び+4酸化状態に酸化することが可能となる。このようなペルオキシ基(−O−O−)の酸素上にアンモニウム、アルカリ金属、アルカリ土類金属から選ばれるいずれか一が置換した構造を有する酸化剤としては、例えば、ペルオキシプロピオン酸(CHCHC(=O)−O−OH)、ジペルオキシコハク酸(HO−O−C(=O)CHCH−C(=O)−O−OH)、過安息香酸(C11C(=O)−O−OH)、シクロヘキサンペルオキシカルボン酸(cyclo−C11C(=O)−O−OH)、モノペルオキシヘキサン二酸(HO−C(=O)−(CH−C(=O)−O−OH)、モノペルオキシテレフタル酸(HO−C(=O)−C−C(=O)−O−OH)、シクロヘキサンモノペルオキシ−1,4−ジカルボン酸(HO−C(=O)−C10−C(=O)−O−OH)、過酢酸(CH−C(=O)−O−OH)、ペルオキソ一過塩素酸(HO−O−Cl(=O))、ペルオキソ一リン酸((HO)−PO−O−OH)、ペルオキソ一炭酸(HO−C(=O)−O−OH)及びペルオキソ一硫酸(HO−SO−O−OH)の末端のH基がアンモニウム塩、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属に置換された塩が挙げられる。これらは、単独又はこれらの組み合わせから選択され、少なくとも1種の酸化剤を含むと好ましい。中でも好ましくは、ペルオキソ一硫酸(HO−SO−O−OH)のアンモニウム塩、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩から選ばれるいずれか一以上であり、最も好ましくはペルオキソ一硫酸のカリウム塩(HO−SO−O−OK)である。
【0015】
研磨用組成物中の酸化剤の含有量の上限は、3質量%であることが好ましく、より好ましくは2質量%、さらに好ましくは1質量%である。酸化剤の含有量が少なくなるにつれて、金属配線層の研磨速度を抑制できるとともにディッシング等の欠陥を抑制できる。
【0016】
研磨用組成物中の酸化剤の含有量の下限は、0.001質量%であることが好ましく、より好ましくは0.01質量%、さらに好ましくは0.1質量%である。酸化剤の含有量が多くなるにつれて、研磨速度が向上する。
【0017】
(砥粒)
研磨用組成物には、砥粒を含む。砥粒は、無機粒子、有機粒子、及び有機無機複合粒子のいずれであってもよい。無機粒子の具体例としては、例えば、シリカ、アルミナ、セリア、チタニアなどの金属酸化物からなる粒子、並びに窒化ケイ素粒子、炭化ケイ素粒子及び窒化ホウ素粒子が挙げられる。有機粒子の具体例としては、例えばポリメタクリル酸メチル(PMMA)粒子が挙げられる。その中でもシリカ粒子が好ましく、特に好ましいのはコロイダルシリカである。
【0018】
砥粒は表面修飾されていてもよい。通常のコロイダルシリカは、酸性条件下でゼータ電位の値がゼロに近いために、酸性条件下ではシリカ粒子同士が互いに電気的に反発せず凝集を起こしやすい。これに対し、酸性条件でもゼータ電位が比較的大きな正もしくは負の値を有するように表面修飾された砥粒は、酸性条件下においても互いに強く反発して良好に分散する結果、研磨用組成物の保存安定性を向上させることになる。このような表面修飾砥粒は、例えば、アルミニウム、チタン又はジルコニウムなどの金属あるいはそれらの酸化物を砥粒と混合して砥粒の表面にドープさせることや、スルホン酸基やホスホン酸基により、アミノ基を有したシランカップリング剤を用いて砥粒の表面に修飾して得ることができる。
【0019】
研磨用組成物中の砥粒の含有量は0.1質量%以上であることが好ましく、より好ましくは0.5質量%以上、さらに好ましくは1質量%以上である。砥粒の含有量が多くなるにつれて、研磨用組成物による研磨対象物の除去速度が向上する利点がある。
【0020】
研磨用組成物中の砥粒の含有量はまた、25質量%以下であることが好ましく、より好ましくは15質量%以下、さらに好ましくは10質量%以下である。砥粒の含有量が少なくなるにつれて、研磨用組成物の材料コストを抑えることができるのに加え、砥粒の凝集が起こりにくい。また、研磨用組成物を用いて研磨対象物を研磨することにより表面欠陥の少ない研磨面を得られやすい。
【0021】
砥粒の平均一次粒子径は5nm以上であることが好ましく、より好ましくは7nm以上、さらに好ましくは10nm以上である。砥粒の平均一次粒子径が大きくなるにつれて、研磨用組成物による研磨対象物の除去速度が向上する有利がある。なお、砥粒の平均一次粒子径の値は、例えば、BET法で測定される砥粒の比表面積に基づいて計算することができる。
【0022】
砥粒の平均一次粒子径はまた、100nm以下であることが好ましく、より好ましくは90nm以下、さらに好ましくは80nm以下である。砥粒の平均一次粒子径が小さくなるにつれて、研磨用組成物を用いて研磨対象物を研磨することにより表面欠陥の少ない研磨面を得られやすい。
【0023】
砥粒の平均二次粒子径は150nm以下であることが好ましく、より好ましくは120nm以下、さらに好ましくは100nm以下である。砥粒の平均二次粒子径の値は、例えば、レーザー光散乱法により求めた体積平均粒子径を用いることができる。
【0024】
砥粒の平均二次粒子径の値を平均一次粒子径の値で除することにより得られる砥粒の平均会合度は1.2以上であることが好ましく、より好ましくは1.5以上である。砥粒の平均会合度が大きくなるにつれて、研磨用組成物による研磨対象物の除去速度が向上する利点がある。
【0025】
砥粒の平均会合度はまた、4以下であることが好ましく、より好ましくは3以下、さらに好ましくは2以下である。砥粒の平均会合度が小さくなるにつれて、研磨用組成物を用いて研磨対象物を研磨することにより表面欠陥の少ない研磨面を得られやすい。
【0026】
(無機塩及び有機塩)
研磨用組成物は、砥粒と特定の酸化剤以外に、任意で無機塩及び有機塩から選ばれる1以上をさらに含有させることができる。無機塩及び有機塩は、本実施形態における特定の酸化剤と一緒に用いる場合、当該特定の酸化剤の安定性を維持又は向上させることができる。無機塩及び有機塩の種類は特に限定されないが、無機塩及び有機塩を構成するアニオンは、具体的には硫酸基、リン酸基、硝酸基及び塩化物が挙げられる。それに対して、これらアニオンと対になって塩を構成するカチオンは、具体的にはアンモニウム塩、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属が挙げられる。これら無機塩及び有機塩は、単独又はこれらの組み合わせから選択され、少なくとも1以上の無機塩及び有機塩を含むと好ましい。また、本実施形態の特定の酸化剤と複塩を構成した形で提供されても良い。これらの中でも、好ましくは塩化カリウム、硫酸カリウム、硫酸水素カリウムから選ばれる1以上である。
【0027】
研磨用組成物中の無機塩及び有機塩の含有量の上限は、特に限定されるものではないが、0.05mol/Lであることが好ましく、より好ましくは0.03mol/L、さらに好ましくは0.01mol/Lである。無機塩及び有機塩の含有量が少なくなるにつれて、研磨用組成物の材料のコストを抑えることができるので好ましい。
【0028】
研磨用組成物中の無機塩及び有機塩の含有量の下限は、特に限定されるものではないが、0.00001mol/Lであることが好ましく、より好ましくは0.0001mol/L、さらに好ましくは0.001mol/Lである。無機塩及び有機塩の含有量が多くなるにつれて、研磨用組成物に含まれる特定の酸化剤の安定性が向上するので好ましい。
【0029】
(研磨促進剤)
研磨用組成物は、砥粒と特定の酸化剤以外に、任意で研磨促進剤をさらに含有させることができる。研磨促進剤は、例えば錯化剤であれば、貴金属を含むバリア層の表面を化学的にエッチングする作用を有し、研磨用組成物による研磨速度を向上させる働きをする。しかし、本実施形態における特定の酸化剤と一緒に用いる場合、研磨促進剤は貴金属を含むバリア層の研磨速度を維持又は向上させる効果を持っているものでなければならない。すなわち、酸化剤の安定性を損なう物質であってはならず、酸化剤の貴金属を含むバリア層に対する酸化作用を阻害しない研磨促進剤を選定すべきである。このような研磨促進剤としては、例えばキレート作用を持たない無機酸、有機酸及びそれらの塩、有機溶媒が挙げられる。キレート作用を示す構造を持たない無機酸としては、具体的には、塩酸、硝酸、硫酸、ホウ酸、炭酸、リン酸、次亜リン酸、亜リン酸及びそれらの塩などが挙げられる。キレート作用を示す構造を持たない有機酸としては、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、2−メチル酪酸、n−ヘキサン酸、3,3−ジメチル酪酸、2−エチル酪酸、4−メチルペンタン酸、n−ヘプタン酸、2−メチルヘキサン酸、n−オクタン酸、2−エチルヘキサン酸、安息香酸、グリコール酸、サリチル酸、グリセリン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、マレイン酸、フタル酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸及び乳酸などのカルボン酸、並びにメタンスルホン酸、エタンスルホン酸及びイセチオン酸等の有機硫酸が挙げられる。また、有機溶媒としては、水と任意で混合できるものが好ましい。例えばエチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルエチルカーボネート等の炭酸エステル;ブチロラクトン、プロピロラクトン等のラクトン;エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリエチレングリコール、トリプロピレングリコール等のグリコール、グリコールモノエーテルグリコール、ジエーテル;テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジメトキシエタン、ポリエチレンオキサイド、エチレングリコールモノメチルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等のエーテル;メタノール、エタノール、プロパノール、n−ブタノール、n−ペンタノール、n−ヘキサノール、イソプロパノール等のアルコール;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン;酢酸エチル、乳酸エチル等のカルボン酸エステル;その他アセトニトリル、ジメチルスルホキシド、フェノール、ジメチルホルムアミド、ホルムアルデヒド、n−メチルピロリドン、スルホラン等が挙げられる。
【0030】
これらは、単独又はこれらの組み合わせから選択され、少なくとも1種の研磨促進剤を含むと好ましい。中でも好ましくは、炭酸カリウム、イセチオン酸、ギ酸、アセトニトリル、ホルムアルデヒド又はその塩である。
【0031】
研磨用組成物中の研磨促進剤の含有量の上限は特に限定されないが、50質量%であることが好ましく、より好ましくは10質量%、さらに好ましくは1質量%である。研磨促進剤の含有量が少なくなるにつれて、金属配線層のディッシング等の欠陥効果を向上させることができる。
【0032】
研磨用組成物中の研磨促進剤の含有量の下限も特に限定されないが、0.001質量%であることが好ましく、より好ましくは0.01質量%、さらに好ましくは0.1質量%である。研磨促進剤の含有量が多くなるにつれて、研磨速度が向上する。
【0033】
(保護膜形成剤)
研磨用組成物は、砥粒と特定の酸化剤以外に、保護膜形成剤をさらに含有させることができる。ここでいう保護膜形成剤とは、金属配線層の表面に対して保護膜を形成する作用を有する物質である(例えば、特開2005−150757号参照)。しかし、本実施形態における特定の酸化剤と一緒に用いる場合、保護膜形成剤は貴金属を含むバリア層の研磨速度を維持したまま又は抑制せずに金属配線層の表面に対して保護膜を形成する作用を有する物質でなければならない。すなわち、酸化剤の安定性を損なう物質であってはならず、酸化剤の貴金属を含むバリア層に対する酸化作用を阻害しない保護膜形成剤を選定すべきである。このような保護膜形成剤としては、例えばキレート作用を示す構造を持たない、また、−N=N−結合を持たない保護膜形成剤が挙げられる。例えば、アンモニア、ジメチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、プロピレンジアミン等のアルキルアミンや、エチレンジアミン四酢酸(以下、EDTAと略す)、ジエチルジチオカルバミン酸ナトリウム及びキトサン等のアミン、グリシン、L−アラニン、β−アラニン、L−2−アミノ酪酸、L−ノルバリン、L−バリン、L−ロイシン、L−ノルロイシン、L−イソロイシン、L−アロイソロイシン、L−フェニルアラニン、L−プロリン、サルコシン、L−オルニチン、L−リシン、タウリン、L−セリン、L−トレオニン、L−アロトレオニン、L−ホモセリン、L−チロシン、3,5−ジヨード−L−チロシン、β−(3,4−ジヒドロキシフェニル)−L−アラニン、L−チロキシン、4−ヒドロキシ−L−プロリン、L−システィン、L−メチオニン、L−エチオニン、L−ランチオニン、L−シスタチオニン、L−シスチン、L−システィン酸、L−アスパラギン酸、L−グルタミン酸、S−(カルボキシメチル)−L−システィン、4−アミノ酪酸、L−アスパラギン、L−グルタミン、アザセリン、L−アルギニン、L−カナバニン、L−シトルリン、δ−ヒドロキシ−L−リシン、クレアチン、L−キヌレニン、L−ヒスチジン、1−メチル−L−ヒスチジン、3−メチル−L−ヒスチジン、エルゴチオネイン、L−トリプトファン、アクチノマイシンC1、アパミン、アンギオテンシンI、アンギオテンシンII及びアンチパイン等のアミノ酸、ノニルメルカプタン、ドデシルメルカプタン、トリアジンチオール、トリアジンジチオール、トリアジントリチオール等のメルカプタン、グルコース、セルロース等の糖類、1−プロパノール、2−プロパノール、2−プロピン−1−オール、アリルアルコール、エチレンシアノヒドリン、1−ブタノール、2−ブタノール、(S)−(+)−2−ブタノール、2−メチル−1−プロパノール、t−ブチルアルコール、パーフルオロ−t−ブチルアルコール、クロチルアルコール、1−ペンタノール、2,2−ジメチル−1−プロパノール、2−メチル−2−ブタノール、3−メチル−1−ブタノール、S−アミルアルコール、1−ヘキサノール、4−ヒドロキシ−4−メチル−2−ペンタノン、4−メチル−2−ペンタノール、シクロヘキサノール、DL−3−ヘキシルアルコール、1−ヘプタノール、2−エチルヘキシルアルコール、(S)−(+)−2−オクタノール、1−オクタノール、DL−3−オクチルアルコール、2−ヒドロキシベンジルアルコール、2−ニトロベンジルアルコール、3,5−ジヒドロキシベンジルアルコール、3,5−ジニトロベンジルアルコール、3−フルオロベンジルアルコール、3−ヒドロキシベンジルアルコール、4−フルオロベンジルアルコール、4−ヒドロキシベンジルアルコール、ベンジルアルコール、m−(トリフルオロメチル)ベンジルアルコール、m−アミノベンジルアルコール、m−ニトロベンジルアルコール、o−アミノベンジルアルコール、o−ヒドロキシベンジルアルコール、p−ヒドロキシベンジルアルコール、p−ニトロベンジルアルコール、2−(p−フルオロフェニル)エタノール、2−アミノフェネチルアルコール、2−メトキシベンジルアルコール、2−メチル−3−ニトロベンジルアルコール、2−メチルベンジルアルコール、2−ニトロフェネチルアルコール、2−フェニルエタノール、3,4−ジメチルベンジルアルコール、3−メチル−2−ニトロベンジルアルコール、3−メチル−4−ニトロベンジルアルコール、3−メチルベンジルアルコール、4−フルオロフェネチルアルコール、4−ヒドロキシ−3−メトキシベンジルアルコール、4−メトキシベンジルアルコール、4−メチル−3−ニトロベンジルアルコール、5−メチル−2−ニトロベンジルアルコール、DL−α−ヒドロキシエチルベンゼン、o−(トリフルオロメチル)ベンジルアルコール、p−(トリフルオロメチル)ベンジルアルコール、p−アミノフェネチルアルコール、p−ヒドロキシフェニルエタノール、p−メチルベンジルアルコール及びS−フェネチルアルコール等のアルコール、4−メチルフェノール、4−エチルフェノール及び4−プロピルフェノール等のフェノール、グリセリンエステル、ソルビタンエステル、メトキシ酢酸、エトキシ酢酸、3−エトキシプロピオン酸及びアラニンエチルエステル等のエステル、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ポリエチレングリコールアルキルエーテル、ポリエチレングリコールアルケニルエーテル、アルキルポリエチレングリコール、アルキルポリエチレングリコールアルキルエーテル、アルキルポリエチレングリコールアルケニルエーテル、アルケニルポリエチレングリコール、アルケニルポリエチレングリコールアルキルエーテル、アルケニルポリエチレングリコールアルケニルエーテル、ポリプロピレングリコールアルキルエーテル、ポリプロピレングリコールアルケニルエーテル、アルキルポリプロピレングリコール、アルキルポリプロピレングリコールアルキルエーテル、アルキルポリプロピレングリコールアルケニルエーテル、アルケニルポリプロピレングリコール、アルケニルポリプロピレングリコールアルキルエーテル及びアルケニルポリプロピレングリコールアルケニルエーテル等のエーテル、アルギン酸、ペクチン酸、カルボキシメチルセルロース、カードラン及びプルラン等の多糖類、グリシンアンモニウム塩及びグリシンナトリウム塩等のアミノ酸塩、ポリアスパラギン酸、ポリグルタミン酸、ポリリシン、ポリリンゴ酸、ポリメタクリル酸、ポリメタクリル酸アンモニウム塩、ポリメタクリル酸ナトリウム塩、ポリアミド酸、ポリマレイン酸、ポリイタコン酸、ポリフマル酸、ポリ(p−スチレンカルボン酸)、ポリアクリル酸、ポリアクリルアミド、アミノポリアクリルアミド、ポリアクリル酸アンモニウム塩、ポリアクリル酸ナトリウム塩、ポリアミド酸、ポリアミド酸アンモニウム塩、ポリアミド酸ナトリウム塩及びポリグリオキシル酸等のポリカルボン酸及びその塩、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン及びポリアクロレイン等のビニル系ポリマ、メチルタウリン酸アンモニウム塩、メチルタウリン酸ナトリウム塩、硫酸メチルナトリウム塩、硫酸エチルアンモニウム塩、硫酸ブチルアンモニウム塩、ビニルスルホン酸ナトリウム塩、1−アリルスルホン酸ナトリウム塩、2−アリルスルホン酸ナトリウム塩、メトキシメチルスルホン酸ナトリウム塩、エトキシメチルスルホン酸アンモニウム塩、3−エトキシプロピルスルホン酸ナトリウム塩、メトキシメチルスルホン酸ナトリウム塩、エトキシメチルスルホン酸アンモニウム塩、3−エトキシプロピルスルホン酸ナトリウム塩、ベンゼンスルホン酸塩及びスルホコハク酸ナトリウム塩等のスルホン酸及びその塩、リン酸メチル、リン酸ジメチル、リン酸トリメチル、リン酸エチル、リン酸ジエチル、リン酸トリエチル、リン酸ブチル、リン酸ジブチル、リン酸トリブチル、2−ヒドロキシエチルホスホン酸ジメチル、亜リン酸ジメチル、亜リン酸ジエチル、1−ヒドロキシエタン−1,1−ジホスホン酸、ニトリロトリスメチレンホスホン酸、テトラキス(ヒドロキシメチル)−ホスホニウムスルフェート、リン酸α−ナフチル、リン酸フェニル、リン酸ジフェニル、リン酸トリフェニル、p−エチルベンゼンホスホン酸、フェニルホスホン酸、フェニルホスフィン酸、これらのエステル類及びその塩、アニリン、N,N―ジメチルアニリン及びベンジルアミン等の芳香族アミン、アセトニトリル及びベンゾニトリル等のニトリル、プロピオンアミド、アクリルアミド、メチル尿素、ニコチンアミド、コハク酸アミド、フェニル酢酸アミド、ピリジン−4−カルボキサミド、N,N’−ジベンジル−L−酒石酸アミド及びスルファニルアミド等のアミド、1,1’−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)、1,1’−アゾビス(1−アセトキシ−1−フェニルエタン)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(イソ酪酸)ジメチル、2,2’−アゾビス(イソブチロニトリル)、2−[2−(3,5−ジブロモピリジル)アゾ]−5−ジメチルアミノ安息香酸、4,4’−アゾビス(4−シアノ吉草酸)、4,4’−アゾキシアニソール、アゾキシメタン、アゾベンゼン、アゾキシベンゼン、アゾジカルボンアミド、アゾジカルボン酸ジイソプロピル、アゾジカルボン酸ジ(t−ブチル)、フェナジン、マラカイトグリーン、メチルオレンジ、コンゴ−レッド及びクリスタルバイオレット等のアゾ化合物、モリブデン(VI)酸二ナトリウム二水和物及び七モリブデン(VI)酸六アンモニウム四水和物等のモリブデン化合物、ラウリル硫酸トリエタノールアミン、ラウリル硫酸アンモニウム、ラウリルベンゼンスルホン酸トリエタノールアミン、ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸トリエタノールアミン、ポリカルボン酸型高分子界面活性剤、ヤシ油脂肪酸アシルアラニントリエタノールアミン、ヤシ油脂肪酸グルタミン酸トリエタノールアミン、ラウリル酸グルタミン酸トリエタノールアミン、ヤシ油脂肪酸アラニネートトリエタノールアミン、サルコシン誘導体、ラウリル酸トリエタノールアミン等の陰イオン界面活性剤、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンセチルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレン高級アルコールエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン誘導体、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノパルミテート、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート、ポリオキシエチレンソルビタントリステアレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート、ポリオキシエチレンソルビタントリオレエート、テトラオレイン酸ポリオキシエチレンソルビット、ポリエチレングリコールモノラウレート、ポリエチレングリコールモノステアレート、ポリエチレングリコールジステアレート、ポリエチレングリコールモノオレエート、ポリオキシエチレンアルキルアミン、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、アルキルアルカノールアミド等の非イオン性界面活性剤、ココナットアミンアセテート、ステアリルアミンアセテート等が挙げられ、水溶性両性界面活性剤としては、例えば、ラウリルベタイン、ステアリルベタイン、ラウリルジメチルアミンオキサイド、2−アルキル−N−カルボキシメチル−N−ヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタイン等の陽イオン界面活性剤が挙げられる。
【0034】
これらは単独で用いてもよく、適宜組み合わせて用いてもよい。これらの中でも、好ましくはポリアクリル酸、ベンゼンスルホン酸、ベンゾニトリル、フェニルホスホン酸、ヤシ油脂肪酸サルコシントリエタノールアミンである。
【0035】
研磨用組成物中の保護膜形成剤の含有量の上限は特に限定されないが、50質量%であることが好ましく、より好ましくは10質量%、さらに好ましくは1質量%である。保護膜形成剤の含有量が少なくなるにつれて、研磨速度が向上する。
【0036】
研磨用組成物中の保護膜形成剤の含有量の下限も特に限定されないが、0.001質量%であることが好ましく、より好ましくは0.01質量%、さらに好ましくは0.1質量%である。保護膜形成剤の含有量が多くなるにつれて、金属配線層のディッシング等の欠陥を抑制できる。
【0037】
前記の保護膜形成剤に対し、本実施形態における特定の酸化剤の安定性を損なう物質としては、ジチゾン、クプロイン(2,2’−ビキノリン)、ネオクプロイン(2,9−ジメチル−1,10−フェナントロリン)、バソクプロイン(2,9−ジメチル−4,7−ジフェニル−1,10−フェナントロリン)及びキュペラゾン(ビスシクロヘキサノンオキサリルヒドラゾン)等のイミン、ベンズイミダゾール−2−チオール、2−[2−(ベンゾチアゾリル)]チオプロピオン酸、2−[2−(ベンゾチアゾリル)]チオブチル酸、2−メルカプトベンゾチアゾール)、1,2,3−トリアゾール、1,2,4−トリアゾール、3−アミノ−1H−1,2,4−トリアゾール、ベンゾトリアゾール、1−ヒドロキシベンゾトリアゾール、1−ジヒドロキシプロピルベンゾトリアゾール、2,3−ジカルボキシプロピルベンゾトリアゾール、4−ヒドロキシベンゾトリアゾール、4−カルボキシル−1H−ベンゾトリアゾール、4−メトキシカルボニル−1H−ベンゾトリアゾール、4−ブトキシカルボニル−1H−ベンゾトリアゾール、4−オクチルオキシカルボニル−1H−ベンゾトリアゾール、5−ヘキシルベンゾトリアゾール、N−(1,2,3−ベンゾトリアゾリル−1−メチル)−N−(1,2,4−トリアゾリル−1−メチル)−2−エチルヘキシルアミン、トリルトリアゾール、ナフトトリアゾール、ビス[(1−ベンゾトリアゾリル)メチル]ホスホン酸等のアゾールが挙げられる。これらが本実施形態における特定の酸化剤の安定性を損なう原因は明確ではないが、おそらくキレート作用を示す構造、また、−N=N−結合が本実施形態における特定の酸化剤と優先的に反応してしまうためと思われる。
【0038】
研磨用組成物中は、本実施形態における特定の酸化剤の安定性を損なう物質ができる限り含まれない又は低い含有量であることが好ましい。この場合、含有量の上限は、好ましくは5質量%である。
【0039】
(研磨用組成物のpH及びpH調整剤)
研磨用組成物のpHの上限は特に限定されないが、12であることが好ましく、より好ましくは10、さらに好ましくは8である。研磨用組成物のpHが小さくなるにつれて、酸化剤の安定性向上効果があり、その結果としてRuの高い研磨速度の再現性やその安定性を高める効果を得ることができる。
【0040】
研磨用組成物のpHの下限も特に限定されないが、4であることが好ましく、より好ましくは3、さらに好ましくは2である。研磨用組成物のpHが小さくなるにつれて、さらに酸化剤の安定性向上効果があり、その結果としてRuの高い研磨速度の再現性やその安定性を高める効果を得ることができる。
【0041】
研磨用組成物のpHを所望の値に調整するために必要に応じて使用されるpH調整剤は酸及びアルカリのいずれであってもよく、また無機及び有機の化合物のいずれであってもよい。本実施形態の研磨用組成物による研磨速度向上の効果を損なわないように適宜選択されればよい。
【0042】
本実施形態によれば以下の作用及び効果が得られる。
本実施形態の研磨用組成物は砥粒と特定の酸化剤を含有している。この酸化剤は、特性が安定な貴金属を含むバリア層の表面を酸化状態にする能力をもち、すなわち貴金属の酸化膜を形成する能力が高い。これにより、砥粒の機械的除去が可能となる。このことが、本実施形態の研磨用組成物を用いて貴金属を含むバリア層を研磨した場合に高い除去速度を得ることができる理由と考えられる。そのため、本実施形態の研磨用組成物は、貴金属を研磨する用途、さらに言えば貴金属を含むバリア層を有する研磨対象物の表面を研磨して貴金属酸化物部分の一部を除去することを通じて貴金属を含むバリア層を有する基板を製造する用途で好適に使用することができる。
【0043】
前記実施形態は次のように変更されてもよい。
・ 前記実施形態の研磨用組成物は、特定の酸化剤の安定性を損なう物質でなく、特定の酸化剤の貴金属を含むバリア層に対する酸化作用を阻害しない物質であれば、必要に応じて、界面活性剤や水溶性高分子、防腐剤のような公知の添加剤をさらに含有してもよい。
・ 前記実施形態の研磨用組成物は一液型であってもよいし、二液型を始めとする多液型であってもよい。
・ 前記実施形態の研磨用組成物は、研磨用組成物の原液を水で希釈することにより調製されてもよい。
【0044】
次に、本発明の実施例及び比較例を説明する。
表1及び表2に記載の組成となるように各成分を混合することにより、実施例1〜12及び比較例1〜26の研磨用組成物を調整した。表1及び表2の“砥粒”欄の“含有量(質量%)”欄には、各研磨用組成物中の砥粒の含有量を示す。ここでの砥粒は、約70nmの体積平均粒子径(平均一次粒子径35nm、平均会合度2)を有するコロイダルシリカを使用した。表1及び表2の“酸化剤”欄の“種類”欄には、各実施例又は比較例において各研磨用組成物中に含まれる酸化剤の種類を示す。また、表1及び表2の“酸化剤”欄の“含有量(質量%)”欄には、各研磨用組成物中の酸化剤の含有量を示す。表2の“研磨促進剤又は保護膜形成剤”欄の“種類”欄には、表2に示される各実施例又は比較例において各研磨用組成物中に含まれる研磨促進剤又は保護膜形成剤の種類を示す。なお、同欄の物質名の下に示すカッコ書きは、各研磨用組成物中での当該物質の添加目的を示す。また、表2の“研磨促進剤又は保護膜形成剤”欄の“含有量(質量%)”欄には、各研磨用組成物中の研磨促進剤又は保護膜形成剤の含有量を示す。ここでの“-”表記は、当該添加剤を含有していないことを示す。表1及び表2の“pH”欄には、各研磨用組成物中のpHを示す。なお、pHは70質量%濃度のイセチオン酸水溶液又は48質量%濃度の水酸化カリウム水溶液を適宜添加して所定の値に調整した。
【0045】
実施例1〜12及び比較例1〜26の各研磨用組成物を用いて、Ruのブランケットウェーハを、表3に示す条件で研磨した。表3に示す条件で一定時間研磨したときの研磨速度について、直流4探針法によるシート抵抗の測定から求められる研磨前後のパターンウェーハの厚みの差を研磨時間で除することにより求めた。その結果を表1及び表2の“評価”欄の“除去速度”欄に示す。
【0046】
【表1】

【0047】
【表2】

【0048】
【表3】

【0049】
表1及び表2に示すように、実施例1〜12の研磨用組成物を用いた場合には、本発明の条件を満たさない比較例1〜26の研磨用組成物に比べて、研磨速度において顕著に優れた効果を奏することが認められた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
貴金属を含むバリア層と金属配線層を有する研磨対象物を研磨する用途で使用される研磨用組成物であって、
砥粒、酸化剤、及び水を含有し、
前記酸化剤は、ペルオキシ基(−O−O−)の酸素上にアンモニウム、アルカリ金属、アルカリ土類金属から選ばれるいずれか一が置換した構造を有することを特徴とする研磨用組成物。
【請求項2】
前記酸化剤が、ペルオキソ一硫酸のアンモニウム塩、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩から選ばれるいずれか一以上である、請求項1に記載の研磨用組成物。
【請求項3】
さらに研磨促進剤を含有する、請求項1又は2に記載の研磨用組成物。
【請求項4】
前記研磨促進剤が、前記貴金属を含むバリア層の研磨速度を維持又は向上させる効果を持つ、請求項3に記載の研磨用組成物。
【請求項5】
さらに保護膜形成剤を含有する、請求項1〜4のいずれか一項に記載の研磨用組成物。
【請求項6】
前記保護膜形成剤が、前記貴金属を含むバリア層の研磨速度を維持する又は抑制しない、請求項5に記載の研磨用組成物。
【請求項7】
前記貴金属が、ルテニウムである、請求項1〜6のいずれか一項に記載の研磨用組成物。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか一項に記載の研磨用組成物を用いて、貴金属を含むバリア層と金属配線層を有する研磨対象物の表面を研磨することを含む研磨方法。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか一項に記載の研磨用組成物を用いて、貴金属を含むバリア層と金属配線層を含む基板を得るべく、貴金属を含むバリア層と金属配線層を有する研磨対象物の表面を研磨して貴金属を含むバリア層の一部を除去することを含む、貴金属を含むバリア層を有する基板の製造方法。

【公開番号】特開2013−89819(P2013−89819A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−230078(P2011−230078)
【出願日】平成23年10月19日(2011.10.19)
【出願人】(000236702)株式会社フジミインコーポレーテッド (126)
【Fターム(参考)】