説明

硬化性ポリイミド系樹脂組成物、ポリイミド樹脂及び半導体装置保護用材料並びに半導体装置

【解決手段】(A)一般式(1)で表されるシロキサン骨格を含有するポリアミック酸、
(B)一般式(2)で表される芳香族環又は脂肪族環含有のテトラカルボン酸ジエステル、
(C)2官能以上の芳香族ポリアミン、
(D)一般式(8)で示されるアルコキシシリル基含有ポリアミック酸樹脂、及び
(E)有機溶剤
を含有してなる硬化性ポリイミド系樹脂組成物。
【効果】本発明の組成物は、低粘度で作業性が良好であり、該組成物を硬化させることにより、耐熱性、機械的特性、電気的特性、耐溶剤性、接着性等に優れたポリイミド樹脂皮膜が得られ、半導体装置の保護用材料、特に半導体封止用エポキシ樹脂成形材料を用いて半導体を封止する際の保護用材料として有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子部品用保護膜等として適するポリイミド皮膜を形成し得る硬化性ポリイミド系樹脂組成物、及びこれを硬化してなるポリイミド樹脂、該樹脂からなる半導体装置保護用材料、該材料皮膜でコートされた半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリイミド樹脂は、耐熱性、電気的特性、機械的特性等に優れており、電子部品用の絶縁保護膜等に利用されている。しかし、ポリイミド樹脂は有機溶剤に不溶であるために、皮膜の形成に際してポリイミド樹脂を含む組成物を溶液化して基材に塗布することは困難である。そこで、ポリイミド樹脂からなる皮膜を形成するには、ポリイミド樹脂の前駆体であるポリアミック酸を含む溶液を基材に塗布し、加熱硬化してポリイミド樹脂皮膜を形成し、続いてエポキシ樹脂等の成型材料で封止する。しかし、このポリアミック酸を含む溶液は粘度が非常に高いために作業性に劣り、またニッケル、アルミニウム、シリコン、シリコン酸化膜等の半導体素子材料に対して得られるポリイミド樹脂皮膜の接着性が低い等の欠点がある。
【0003】
そこで、ジアミン成分の一部にシロキサン結合を有するジアミンを用いて合成されたシロキサン結合含有ポリアミック酸を用いることが提案されている(特公昭43−27439号公報、特公昭59−7213号公報:特許文献1,2)。しかし、こうして得られるポリイミド樹脂皮膜の基材に対する接着性は改善され、該シロキサン結合含有ポリアミック酸を含む溶液の粘度も比較的低下したものとなるものの、満足できるほどではなく、なお作業性が十分でない。またシロキサン結合含有量の増加により硬化膜のガラス転移温度(Tg)が低下し、樹脂の耐熱性が落ちるという問題があった。特に最近では、パッケージが益々小型化、薄型化されると共に、基盤への実装方法も表面実装方式が主流となり、従来のエポキシ樹脂組成物では十分な信頼性を維持できなくなってきた。また近年の半田の鉛フリー化によって、半田リフロー温度が260℃まで引き上げられており、パッケージ吸湿後に半田付けするとパッケージにクラックが発生する問題や、クラックが発生しないまでも耐湿性が低下してしまうという不具合が生じている。従って、この点でも高耐熱、高品質な保護膜の開発が要望されている。
【0004】
一方、芳香族ジアミンとシロキサンジアミンとの混合物に芳香族テトラカルボン酸エステルを反応させて得られる低分子量のポリアミック酸の利用が提案されている(特開昭61−83229号公報:特許文献3)。しかし、この場合、ポリアミック酸溶液の粘度は比較的低く、作業性は改良されるが、用いられるシロキサンジアミンが低分子量である場合には、該低分子量のシロキサンジアミンが揮発性であるために加熱硬化の際に揮発し、組成物中の酸/アミン比が変化してしまい、所望の硬化皮膜が得られず、シロキサンジアミンが高分子量である場合には、有機溶剤に対する相溶性が低いために均一な組成物の液を得ることができないことから、均一で良好な皮膜が得られないという問題があった。
【0005】
【特許文献1】特公昭43−27439号公報
【特許文献2】特公昭59−7213号公報
【特許文献3】特開昭61−83229号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、耐熱性、機械的特性、電気的特性、耐溶剤性、接着性等に優れたポリイミド樹脂皮膜を形成可能な、低粘度で作業性の良好な硬化性ポリイミド系樹脂組成物、及びこれを硬化してなるポリイミド樹脂、該樹脂からなる半導体装置保護用材料、該材料皮膜でコートされた半導体装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、(A)一般式(1)で表されるシロキサン骨格含有のポリアミック酸、(B)一般式(2)で表される芳香族環又は脂肪族環含有のテトラカルボン酸ジエステル、(C)2官能以上の芳香族ポリアミン、(D)一般式(8)で示されるアルコキシシリル基含有ポリアミック酸樹脂及び(E)有機溶剤を含有してなる硬化性ポリイミド系樹脂組成物が、低粘度で作業性が良好であり、該組成物を硬化させることにより、耐熱性、機械的特性、電気的特性、耐溶剤性、接着性等に優れたポリイミド樹脂皮膜となり得、半導体装置の保護用材料として有用であることを見出し、本発明をなすに至った。
【0008】
従って、本発明は、下記に示す硬化性ポリイミド系樹脂組成物、ポリイミド樹脂、半導体装置保護用材料及び半導体装置を提供する。
〔請求項1〕
(A)下記一般式(1):
【化1】

(式中、R1は同一でも異なってもよく、炭素原子数1〜10の2価の有機基であり、R2は同一でも異なってもよく、炭素原子数1〜8の1価の有機基であり、Xは芳香族環又は脂肪族環を含む4価の有機基であり、mは1〜200の整数であり、nは2以上の整数である。)
で表される、シロキサン骨格を含有するポリアミック酸、
(B)下記一般式(2):
【化2】

(式中、R3は同一でも異なってもよく、アルキル基であり、Xは前記の通りである。)
で表される芳香族環又は脂肪族環含有のテトラカルボン酸ジエステル、
(C)2官能以上の芳香族ポリアミン、
(D)下記一般式(8):
【化3】

(式中、X’は4価の有機基、Y’は2価の有機基、Zは下記式
【化4】

で示される基、R4は炭素原子数1〜3のアルキル基、R5は炭素原子数1〜3のアルキル基又はアルコキシ基、aは0〜4の整数、pは1〜300の整数、qは1〜300の整数、rは1〜100の整数である。但し、p、qで示される各繰り返し単位の配列はランダムである。)
で示されるアルコキシシリル基含有ポリアミック酸樹脂、及び
(E)有機溶剤
を含有してなる硬化性ポリイミド系樹脂組成物。
〔請求項2〕
上記一般式(1)及び/又は(2)のXが、
【化5】

からなる群より選ばれる4価の芳香族基である請求項1記載の硬化性ポリイミド系樹脂組成物。
〔請求項3〕
請求項1又は2に記載の組成物を硬化させることにより得られるポリイミド樹脂。
〔請求項4〕
請求項3に記載のポリイミド樹脂からなる半導体装置保護用材料。
〔請求項5〕
請求項4に記載の半導体装置保護用材料の皮膜でコートされた半導体装置。
〔請求項6〕
請求項5記載の皮膜を介して半導体封止用エポキシ樹脂成形材料で封止された半導体装置。
【発明の効果】
【0009】
本発明の硬化性ポリイミド系樹脂組成物は、低粘度で作業性が良好であり、該組成物を硬化させることにより、耐熱性、機械的特性、電気的特性、耐溶剤性、接着性等に優れたポリイミド樹脂皮膜が得られ、半導体装置の保護用材料、特に半導体封止用エポキシ樹脂成形材料を用いて半導体を封止する際の保護用材料として有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の組成物において、(A)成分のシロキサン骨格含有のポリアミック酸は、下記一般式(1)で表されるもので、ポリイミド前駆体であり、該酸が脱水閉環して、或いは、(B)成分の芳香族環又は脂肪族環含有のテトラカルボン酸ジエステル、(C)成分の2官能以上の芳香族ポリアミン、更には(D)成分のアルコキシシリル基含有ポリアミック酸樹脂と共に脱水縮合して耐熱性に優れたポリイミド樹脂を形成する。
【0011】
【化6】

(式中、R1は同一でも異なってもよく、炭素原子数1〜10の2価の有機基であり、R2は同一でも異なってもよく、炭素原子数1〜8の1価の有機基であり、Xは芳香族環又は脂肪族環を含む4価の有機基であり、mは1〜200の整数であり、nは2以上の整数である。)
【0012】
上記一般式(1)において、R1で表される炭素原子数1〜10の2価の有機基としては、非置換もしくは置換のエーテル結合酸素原子が介在してもよい2価炭化水素基が例示でき、例えば、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、イソプロピレン基、ブチレン基、イソブチレン基、ヘキシレン基、オクチレン基等のアルキレン基;p−フェニレン基、m−フェニレン基、トリレン基等のアリーレン基;
【化7】

等、並びにこれらの炭化水素基の水素原子の一部又は全部が塩素、フッ素等で置換された置換炭化水素基などが挙げられる。好ましくは、プロピレン基、ブチレン基、p−フェニレン基、m−フェニレン基及び
【化8】

である。原料の入手の容易さからは、R1はプロピレン基、ブチレン基、p−フェニレン基及びm−フェニレン基が代表的である。分子中に含まれる2以上のR1は同種のものでも異種のものでもよい。
【0013】
2で表される、ジアミン残基を構成するシロキサン骨格中のケイ素原子に結合した炭素原子数1〜8の1価の有機基としては、非置換もしくは置換のエーテル結合酸素原子が介在してもよい1価炭化水素基が例示でき、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、デシル基等のアルキル基;フェニル基、トリル基等のアリール基;クロロメチル基、3,3,3−トリフロロプロピル基等の水素原子が塩素、フッ素等で置換されたアルキル基等が挙げられる。好ましくは、メチル基及びフェニル基である。原料の入手の容易さからは、R2はメチル基、イソプロピル基及びフェニル基が代表的である。分子中の2以上のR2は同種のものでも異種のものでもよい。
【0014】
Xは、芳香族環又は脂肪族環を含む4価の有機基であり、芳香族環含有の4価の有機基であることが好ましく、特に下記に示す4価の芳香族基から選ばれるものであることが好ましい。なお、Xにおける脂肪族環とは、環状構造の脂肪族基(即ち、脂環式炭化水素基)を意味する。
【化9】

【0015】
分子中のシロキサン鎖の長さを示すmは1〜200の整数であり、好ましくは1〜50の整数である。mが200を超えると基材に対する接着性が低下する。該ポリアミック酸の重合度を示すnは2以上の整数であり、得られる硬化皮膜の特性、例えば、引張り強さが特に良好なものが得られる点で10以上が好ましく、一般には10〜1,000がよい。
【0016】
該ポリアミック酸は、下記一般式(3):
【化10】

(式中、Xは前記の通りである。)
で表される芳香族環又は脂肪族環含有のテトラカルボン酸二無水物と、下記一般式(4):
【化11】

(式中、R1、R2及びmは前記の通りである。)
で表されるシロキサンジアミンとを有機溶媒中、公知の方法で反応させることにより得ることができる。具体的には、有機溶剤に溶解した芳香族環又は脂肪族環含有のテトラカルボン酸二無水物の溶液中にシロキサンジアミンを滴下する、或いは有機溶剤に溶解したシロキサンジアミンの溶液中に芳香族環又は脂肪族環含有のテトラカルボン酸二無水物を添加する等の方法により得られる。
【0017】
一般式(3)で表される芳香族環又は脂肪族環含有のテトラカルボン酸二無水物としては、
【化12】

【化13】

等が挙げられ、好ましくは芳香族環含有のテトラカルボン酸二無水物であり、より好ましくはピロメリット酸二無水物、ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物であるが、これらに限定されるものではない。なお、上記式(3)で表されるテトラカルボン酸二無水物は、所望により一種単独でも二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0018】
一般式(4)で表されるシロキサンジアミンとしては、例えば、
【化14】

【化15】

等が挙げられる。上記式(4)で表されるシロキサンジアミンは、一種単独でも二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0019】
(B)成分の芳香族環又は脂肪族環含有のテトラカルボン酸ジエステルは、下記一般式(2)で表されるものである。
【化16】

(式中、R3は同一でも異なってもよく、アルキル基であり、Xは前記の通りである。)
【0020】
上記一般式(2)において、R3で表されるアルキル基としては、特に炭素原子数1〜4のものが挙げられ、例えばメチル基、エチル基、プロピル基及びブチル基である。Xは前述の通り、芳香族環又は脂肪族環を含む4価の有機基であり、上記で例示したものを用いることができる。なお、(B)成分としての式(2)におけるXと前記(A)成分としての式(1)におけるXとは、互いに独立であって、同一であっても、異なるものであってもよい。
【0021】
該芳香族環又は脂肪族環含有のテトラカルボン酸ジエステルの具体例としては、シクロブタンテトラカルボン酸ジアルキルエステル、ノルボルナンテトラカルボン酸ジアルキルエステル、ピロメリット酸ジアルキルエステル、ベンゾフェノンテトラカルボン酸ジアルキルエステル及び3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸ジアルキルエステル等が例示される。これらは一種単独でも二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0022】
この芳香族環又は脂肪族環含有のテトラカルボン酸ジエステルは、例えば、前記した一般式(3)で表される芳香族環又は脂肪族環含有のテトラカルボン酸二無水物と、下記一般式(5):
3OH (5)
(式中、R3は前記の通りである。)
で表されるアルコールとを公知の方法により反応させて得られる。具体的には、適切な溶媒中で、必要量の芳香族環又は脂肪族環含有のテトラカルボン酸二無水物とアルコールとを仕込み、そのまま放置或いは必要に応じて30〜70℃程度で加熱するといった方法がとられる。また、この時アミン系等の触媒を用いてもよい。一般式(5)のアルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール等が挙げられる。
【0023】
(C)成分の2官能以上の芳香族ポリアミンは、主に芳香族ジアミンと3官能以上の芳香族ポリアミンに分類される。芳香族ジアミンは、下記一般式(6)で表される。
2N−Y−NH2 (6)
(式中、Yは2価の芳香族基を示す。)
【0024】
該芳香族ジアミンとしては、例えば、p−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン等のフェニレンジアミン;4,4’−ジアミノジフェニルメタン等のジアミノジフェニルメタン;4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3−カルバモイル−4−アミノフェニル(4’−アミノフェニル)エーテル等のジアミノジフェニルエーテル;4,4’−ジアミノビフェニル、3−カルバモイル−4,4’−ジアミノビフェニル等のジアミノビフェニル;2,2’−ビス(4−アミノフェニル)プロパン等のビス(アミノフェニル)プロパン;4,4’−ジアミノジフェニルスルホン等のジアミノジフェニルスルホン;4,4’−ジアミノジフェニルスルフィド等のジアミノジフェニルスルフィド;1,4−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン等のビス(アミノフェノキシ)ベンゼン;1,4−ビス(p−アミノフェニルスルホニル)ベンゼン、1,4−ビス(m−アミノフェニルスルホニル)ベンゼン等のビス(アミノフェニルスルホニル)ベンゼン、1,4−ビス(p−アミノフェニルチオエーテル)ベンゼン、1,4−ビス(m−アミノフェニルチオエーテル)ベンゼン等のビス(アミノフェニルチオエーテル)ベンゼン;2,2−ビス〔4−(p−アミノフェノキシ)フェニル〕プロパン、2,2−ビス〔3−メチル−4−(p−アミノフェノキシ)フェニル〕プロパン、2,2−ビス〔3−クロロ−4−(p−アミノフェノキシ)フェニル〕プロパン等のビス〔4−(p−アミノフェノキシ)フェニル〕プロパン;1,1−ビス〔4−(p−アミノフェノキシ)フェニル〕エタン、1,1−ビス〔3−メチル−4−(p−アミノフェノキシ)フェニル〕エタン、1,1−ビス〔3−クロロ−4−(p−アミノフェノキシ)フェニル〕エタン、1,1−ビス〔3,5−ジメチル−4−(p−アミノフェノキシ)フェニル〕エタン等のビス〔4−(p−アミノフェノキシ)フェニル〕エタン;ビス〔4−(p−アミノフェノキシ)フェニル〕メタン、ビス〔3−メチル−4−(p−アミノフェノキシ)フェニル〕メタン、ビス〔3−クロロ−4−(p−アミノフェノキシ)フェニル〕メタン、ビス〔3,5−ジメチル−4−(p−アミノフェノキシ)フェニル〕メタン等のビス〔4−(p−アミノフェノキシ)フェニル〕メタン;ビス〔4−(p−アミノフェノキシ)フェニル〕スルホン;2,2−ビス〔4−(p−アミノフェノキシ)フェニル〕パーフルオロプロパン等のビス〔4−(p−アミノフェノキシ)フェニル〕パーフルオロプロパン等が挙げられる。これらの中でも、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、ビス(アミノフェニル)プロパン、ビス(アミノフェニル)スルホン、ビス(アミノフェニル)パーフルオロプロパン、ビス(アミノフェノキシ)ベンゼン、2,2−ビス〔4−(p−アミノフェノキシ)フェニル〕プロパン等が好ましい。もちろん、これらに限定されるものではない。また、これらのジアミン化合物は所望により一種単独でも二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0025】
一方、3官能以上の芳香族ポリアミンは、下記一般式(7)で表される。
Z(NH2k (7)
(式中、Zは3価以上の芳香族基、kは3以上の整数で、Zの価数と一致する。)
【0026】
該芳香族ポリアミンとしては、例えば、1,2,4−トリアミノベンゼン、3,4,4’−ビフェニルトリアミン、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラアミン、3,4,4’−トリアミノジフェニルエーテル、3,3’,4,4’−テトラアミノジフェニルエーテル、3,4,4’−トリアミノベンゾフェノン、3,3’,4,4’−テトラアミノベンゾフェノン、3,4,4’−トリアミノジフェニルメタン、3,3’,4,4’−テトラアミノジフェニルメタン、N,N,N’,N’−テトラキス(4−アミノフェニル)ベンジジン、トリス(4−アミノフェニル)メタン、トリス(4−アミノフェニル)メタノール、1,3,5−トリス(1−(4−アミノフェニル)−1−メチルエチル)ベンゼン、トリス(p−アミノフェニル)アミン、ポリメチレンポリフェニルアミン等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。3官能以上の芳香族ポリアミンは所望により一種単独でも二種以上を組み合わせて用いてもよい。更に、上記ジアミン化合物の一種又は二種以上と、3官能以上の芳香族ポリアミンの一種又は二種以上とを組み合わせて用いてもよい。
【0027】
本発明の(D)成分は、下記一般式(8)で示されるアルコキシシリル基含有ポリアミック酸樹脂である。
【化17】

(式中、X’は4価の有機基、Y’は2価の有機基、Zは下記式
【化18】

で示される基、R4は炭素原子数1〜3のアルキル基、R5は炭素原子数1〜3のアルキル基又はアルコキシ基、aは0〜4の整数、pは1〜300の整数、qは1〜300の整数、rは1〜100の整数である。但し、p、qで示される各繰り返し単位の配列はランダムである。)
【0028】
上記一般式(8)において、X’は4価の有機基であり、前記Xで例示したものと同様の芳香族環又は脂肪族環含有の4価の有機基が挙げられ、Y’は2価の有機基であり、前記Yで例示したものと同様の2価の芳香族基(即ち、一般式(6)で示される芳香族ジアミンの残基)と同じものが挙げられる。R4はメチル基、エチル基、プロピル基等の炭素原子数1〜3のアルキル基であり、R5はメチル基、エチル基、プロピル基等の炭素原子数1〜3のアルキル基、又はメトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基等の炭素原子数1〜3のアルコキシ基である。
【0029】
aは0〜4の整数であるが、0,1,2又は3であることが好ましい。p,qはそれぞれ独立に1〜300の整数であり、特に2〜200の整数であることが好ましい。rは1〜100の整数であり、特に2〜80の整数であることが好ましい。また、p、qで示されるそれぞれの繰り返し単位の配列はランダムである。
【0030】
該アルコキシシリル基含有ポリアミック酸樹脂は、ポリアミック酸樹脂とエポキシ基含有アルコキシシラン化合物を反応させることによって得られる。
【0031】
ポリアミック酸樹脂は、上記(A)成分と同様にテトラカルボン酸二無水物とジアミンとを常法に従って、ほぼ等モルで有機溶媒中にて反応させることによって得ることができる。テトラカルボン酸二無水物としては上記式(3)で示される化合物、ジアミンとしては上記式(4)及び(6)で示される化合物と同様の具体例が挙げられる。
【0032】
ポリアミック酸樹脂の分子量は、GPC等におけるポリスチレン換算による重量平均分子量として3,000〜100,000程度が好ましい。上記分子量が3,000未満だと硬化膜の強じん性、柔軟性が低下する場合があり、100,000を超えると高粘度のため作業性が低下する場合がある。
【0033】
このようにして得られたポリアミック酸樹脂のカルボキシル基に、下記一般式(9)
【化19】

(式中、R4,R5,a,rは上記と同じである。)
で示されるエポキシ基を含有するアルコキシシリル基含有(ポリ)シロキサンのエポキシ基を付加反応させることにより、上記式(8)で示されるアルコキシシリル基含有ポリアミック酸樹脂を得ることができる。
【0034】
また、上記カルボキシル基とエポキシ基との反応は、常法に従って行うことができ、反応温度は30〜130℃、反応時間は1〜10時間程度とし、必要によりポリアミック酸樹脂合成の際の溶媒を用いて行うことができる。なお、上記ポリアミック酸樹脂とエポキシ基含有アルコキシシラン化合物の使用割合(モル割合)は、上記式(8)の化合物を形成可能な量とするが、好ましくはポリアミック酸樹脂中のカルボキシル基に対するエポキシ基含有アルコキシシラン化合物中のエポキシ基のモル比が(エポキシ基/カルボキシル基)=0.005〜0.5、より好ましくは0.01〜0.4程度とすることができる。
【0035】
なお、上記アルコキシシリル基含有ポリアミック酸樹脂としては、市販品を用いることもでき、市販品としては、コンポセランH801D、H850D(荒川化学工業(株)製)等が挙げられる。
【0036】
(E)成分の有機溶剤は特に限定されないが、極性の有機溶剤が好適である。有機溶剤としては、例えば、N−メチル−2−ピロリドン等の環状アミン;ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、ヘキサメチルホスホルアミド等のアミド;メチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン等のエーテル;シクロヘキサノン等のケトン;γ−ブチロラクトン、ブチルセロソルブアセテート等のエステル等が挙げられる。これらの溶剤は、一種単独で又は二種以上組み合わせて用いることができる。また、溶解性を損なわない範囲で、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類、メタノール、エタノール、プロパノール等のアルコール類等を併用できる。特にアルコール類は、(D)成分のアルコキシシリル基含有ポリアミック酸樹脂の保存安定性の面からも好ましい。
【0037】
本発明の組成物における芳香族環又は脂肪族環含有のテトラカルボン酸ジエステル(B)及び2官能以上の芳香族ポリアミン(C)の使用量は、ポリアミック酸(A)100質量部に対して、芳香族環又は脂肪族環含有のテトラカルボン酸ジエステル(B)と芳香族ポリアミン(C)との合計で10〜10,000質量部が好ましく、より好ましくは80〜2,000質量部である。
このとき、芳香族環又は脂肪族環含有のテトラカルボン酸ジエステル(B)/芳香族ポリアミン(C)の使用比は、カルボン酸エステル当量/アミン当量比で0.9〜1.1の範囲であることが好ましく、より好ましくは0.95〜1.05の範囲である。
【0038】
また、アルコキシシリル基含有ポリアミック酸樹脂(D)の使用量は、ポリアミック酸(A)と芳香族環又は脂肪族環含有のテトラカルボン酸ジエステル(B)と芳香族ポリアミン(C)の合計〔(A)+(B)+(C)〕100質量部当り、1〜10,000質量部の範囲であることが好ましく、より好ましくは5〜1,000質量部の範囲である。
【0039】
有機溶剤(E)の使用量は、ポリアミック酸(A)と芳香族環又は脂肪族環含有のテトラカルボン酸ジエステル(B)と芳香族ポリアミン(C)とアルコキシシリル基含有ポリアミック酸樹脂(D)の合計〔(A)+(B)+(C)+(D)〕100質量部当り、50〜10,000質量部の範囲であることが好ましく、より好ましくは50〜2,000質量部の範囲である。
【0040】
本発明の組成物には、上記(A)〜(E)成分の他に、目的に応じて、アミノプロピルトリエトキシシラン、酸化防止剤、熱安定剤、無機質充填剤(例えばシリカ、アルミナ等)、顔料、染料等の着色剤などを添加することができる。これらは得られる硬化皮膜の特性を損なわない範囲で添加される。
【0041】
本発明の組成物は、上記(A)〜(E)成分及び必要に応じて添加されるその他の任意的な成分を適量配合して得られる。こうして得られる組成物溶液は、固形分(即ち、(A)〜(D)成分の合計質量として)を25質量%以上含むことがあるが、その場合でも低粘度(例えば10,000mPa・s(25℃)未満、好ましくは5,000mPa・s以下)であり、作業性は良好である。
【0042】
本発明の組成物を用いてポリイミド樹脂皮膜を形成するには、例えばポッティング、スピンコート、浸漬、印刷等の公知の方法により該組成物を基材上に塗布したのち、50℃以上の温度(例えば50〜250℃、好ましくは80〜200℃程度)で数十分〜数時間加熱することにより、水分及び溶剤が除去され、表面が平坦で均一な硬化皮膜を形成することができる。なお、樹脂組成物中の水分及び溶剤を効率的に系外へ除去すると共に、樹脂の反応(即ち、脱水閉環によるイミド化反応)を効果的に進行させるため、場合によっては、段階的(例えば2段階又は3段階以上)に硬化温度を上げていく多段階加熱硬化が好ましい。加熱手段は種々利用でき、例えば乾燥器、電気炉等が挙げられる。
【0043】
本発明の組成物を硬化させることにより得られるポリイミド樹脂皮膜は、半導体装置の保護用材料、例えばダイオード、トランジスタ、IC、LSI等の電子部品の保護皮膜として有用である。具体的には、例えば、ダイオード、トランジスタ、IC、LSI等の半導体素子表面のジャンクションコート膜、パッシベーション膜及びバッファーコート膜;LSI等のα線遮蔽膜;多層配線の層間絶縁膜;プリントサーキットボードのコンフォーマルコート;液晶表示素子の配向膜;イオン注入マスク;ガラスファイバーの保護膜;太陽電池の表面保護膜;更に樹脂組成物に無機フィラーを配合した印刷用ペースト組成物;導電性充填剤を配合した導電性ペースト組成物といったペースト組成物など、幅広い範囲にわたり利用することができる。
【0044】
更に上記硬化膜を形成した後、半導体封止用エポキシ樹脂成形材料をモールドすることで半導体封止用エポキシ樹脂成形材料と基材との接着性を向上させることができる。このようにして得られた半導体装置は、吸湿後の半田リフローにおいて半導体封止用エポキシ樹脂成形材料のクラック及び基材との剥離が見られず、信頼性の高いものとなる。
【0045】
この場合、半導体封止用エポキシ樹脂成形材料としては、一分子中に2個以上のエポキシ基を有するエポキシ樹脂、フェノール樹脂、酸無水物等のエポキシ樹脂の硬化剤、無機質充填剤等を含む公知の半導体封止用エポキシ樹脂組成物を用いることができ、市販品を用いることもできる。
【実施例】
【0046】
以下、調製例、実施例及び比較例により本発明を詳細に説明するが、これらの実施例に限定されるものではない。なお、以下の記載において、粘度は25℃で回転粘度計により測定された値を示す。この実施例で使用する原料化合物を下記の省略記号で示す。
BPDA:3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物
BTDA:3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物
DPE:4,4’−ジアミノジフェニルエーテル
APM:1,3−ビス(3−アミノプロピル)−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン
NMP:N−メチル−2−ピロリドン
樹脂溶液A:アルコキシシリル基含有ポリアミック酸樹脂溶液
(コンポセランH801D:荒川化学工業(株)製、樹脂分15.0質量%)
【0047】
[調製例1](ポリアミック酸〔1〕の調製)
温度計、撹拌器及び窒素置換装置を装着したフラスコに、BTDA128.89g(0.4モル)及びNMP500gを仕込んだ。次いで、APM99.41g(0.4モル)をNMP185gに溶解した溶液を反応系の温度が40℃を超えないように滴下した。滴下終了後、やはり40℃を超えないように12時間撹拌熟成した。こうして、粘度が400mPa・sのポリアミック酸〔1〕の溶液を得た。なお、溶液中のポリアミック酸量は25.0質量%であった。
【0048】
[比較調製例1](ポリアミック酸〔2〕の調製)
芳香族テトラカルボン酸二無水物としてBTDA128.89gの代わりにBTDA38.67g(0.12モル)及びBPDA82.38g(0.28モル)を用い、その溶媒としてNMP143gを用いた。また、ジアミンとしてAPM99.41gの代わりに、APM29.82g(0.12モル)とDPE56.07g(0.28モル)をNMP340gに溶解して用いた。以上のように変更した以外は調製例1と同様にして粘度が14,800mPa・sのポリアミック酸〔2〕の溶液を得た。なお、溶液中のポリアミック酸量は30.0質量%であった。
【0049】
[実施例1]
調製例1で得られたポリアミック酸〔1〕の溶液274質量部に、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸ジメチル100.3質量部、DPE56.1質量部、及びNMP320質量部を添加混合し、更に樹脂溶液A500質量部を添加後、室温で12時間熟成して樹脂組成物溶液を得た。
【0050】
[比較例1]
比較調製例1で得られたポリアミック酸〔2〕の溶液600質量部に樹脂溶液A400質量部を添加後、室温で12時間熟成して樹脂組成物溶液を得た。
【0051】
[比較例2]
調製例1で得られたポリアミック酸〔1〕の溶液274質量部に、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸ジメチル100.3質量部、DPE56.1質量部、及びNMP320質量部を添加混合し、樹脂組成物溶液を得た。
【0052】
[比較例3]
3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸ジメチル100.3質量部、DPE56.1質量部、及びNMP365質量部を添加混合し、更に樹脂溶液A350質量部を添加後、室温で12時間熟成して樹脂組成物溶液を得た。
【0053】
以上のようにして得られた実施例1及び比較例1〜3の組成物溶液の固形分(配合量からの計算値)及び粘度(25℃における回転粘度計による測定値)を表1に示す。またこれらの硬化物物性(ガラス転移温度、接着性)を下記に示す方法により測定した。これらの結果を表1に示す。
【0054】
ガラス転移温度:
幅5mmのフィルムを作製し(硬化条件:100℃×1時間+150℃×1時間+200℃×16時間)、アルバック理工株式会社製熱機械試験機TM−7000により測定した。
【0055】
接着性:
各組成物をシリコンウエハー上にスピンコートした後、乾燥器を用いて100℃で1時間、150℃で1時間、更に200℃で16時間加熱して硬化させ、ポリイミド皮膜を形成した。これを85℃/85%RH雰囲気中に168時間放置して吸湿後、碁盤目試験により測定した。即ち、ウエハ上の皮膜に碁盤目(1マスの寸法:1mm×1mm)状に切れ目を入れた後、セロハンテープの粘着面を十分に張りつけた。次いで、テープをウエハに対し120度の方向に引きはがした。テープと共に剥離したポリイミド皮膜のマスを数え、25マス当りの剥離マス数を求めた。
【0056】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)下記一般式(1):
【化1】

(式中、R1は同一でも異なってもよく、炭素原子数1〜10の2価の有機基であり、R2は同一でも異なってもよく、炭素原子数1〜8の1価の有機基であり、Xは芳香族環又は脂肪族環を含む4価の有機基であり、mは1〜200の整数であり、nは2以上の整数である。)
で表される、シロキサン骨格を含有するポリアミック酸、
(B)下記一般式(2):
【化2】

(式中、R3は同一でも異なってもよく、アルキル基であり、Xは前記の通りである。)
で表される芳香族環又は脂肪族環含有のテトラカルボン酸ジエステル、
(C)2官能以上の芳香族ポリアミン、
(D)下記一般式(8):
【化3】

(式中、X’は4価の有機基、Y’は2価の有機基、Zは下記式
【化4】

で示される基、R4は炭素原子数1〜3のアルキル基、R5は炭素原子数1〜3のアルキル基又はアルコキシ基、aは0〜4の整数、pは1〜300の整数、qは1〜300の整数、rは1〜100の整数である。但し、p、qで示される各繰り返し単位の配列はランダムである。)
で示されるアルコキシシリル基含有ポリアミック酸樹脂、及び
(E)有機溶剤
を含有してなる硬化性ポリイミド系樹脂組成物。
【請求項2】
上記一般式(1)及び/又は(2)のXが、
【化5】

からなる群より選ばれる4価の芳香族基である請求項1記載の硬化性ポリイミド系樹脂組成物。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の組成物を硬化させることにより得られるポリイミド樹脂。
【請求項4】
請求項3に記載のポリイミド樹脂からなる半導体装置保護用材料。
【請求項5】
請求項4に記載の半導体装置保護用材料の皮膜でコートされた半導体装置。
【請求項6】
請求項5記載の皮膜を介して半導体封止用エポキシ樹脂成形材料で封止された半導体装置。

【公開番号】特開2010−70645(P2010−70645A)
【公開日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−239618(P2008−239618)
【出願日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】