説明

磁性酸化物焼結体、並びにこれを用いたアンテナ及び無線通信機器

【課題】高周波帯域において広帯域で且つ高効率で使用可能であり、生産性及び経済性に優れた小型アンテナ等を実現し得る磁性酸化物焼結体、並びに、これを用いたアンテナ及び無線通信機器を提供する。
【解決手段】MAα[FeβMBγMnδ]O19 (式中、MAは、Sr及びBaからなる群より選択される少なくとも1種であり、MBはTi、Sn及びZrからなる群より選択される少なくとも1種であり、1≦α<1.4、7≦β≦11、11.8≦β+(γ+δ)≦12.1、1≦δ/γ≦1.2)で表されるM型六方晶フェライトを主相として含み、平均結晶粒子径(長径)が5μm以上であることを特徴とする磁性酸化物焼結体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アンテナ用途に適した磁性酸化物焼結体、並びにこれを用いたアンテナ及び無線通信機器に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話機や携帯情報端末等の無線通信機器で使用される無線信号周波数の高域化が進行している。例えば、第一世代の携帯電話機では、使用周波数が800MHz帯であったのに対し、2001年からサービスが開始された第三世代の携帯電話機では、使用周波数が2GHz帯と高周波化しており、GPSやBluetooth(登録商標)、無線LAN用途を含めGHz帯域で使用できるアンテナが求められている。また、無線通信機器の多機能化に伴い、複数の無線方式に対応したマルチバンド・モード化が進展しており、このような無線通信機器に用いられるアンテナに対しては、広い周波数帯域において使用可能であることも要求されている。さらに、近時、無線通信機器の小型化に伴って、アンテナ自体の更なる小型化も喫緊の課題となっている。このように、近年の無線通信機器に用いられるアンテナには、高周波数における広帯域化と小型化の両立が熱望されている。
【0003】
かかる技術に関し、例えば、特許文献1には、放射電極と接地電極の形状を適宜選択することにより、小型低背化、高利得、及び広帯域特性を得ることを目的としたマイクロストリップ構造のチップ型アンテナ素子が記載されている。また、特許文献2には、Y型フェライトを主相として含有する六方晶フェライト、及び、それを用いたアンテナが記載されている。さらに、特許文献3には、電磁界結合調整体として、超常磁性を有する磁性ナノ粒子を非磁性のマトリックス中に分散させたナノ複合磁性誘電材料を用いたアンテナが提案されている。またさらに、特許文献4には、Co置換型のW型六方晶フェライトを主相とする磁性酸化物が樹脂に分散されてなる複合磁性材料、及び、それを用いたアンテナが記載されている。さらにまた、特許文献5には、Y型、Z型、又はM型のフェライト化合物からなる酸化物系磁性材料で構成された絶縁体層を備えるアンテナ装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3625191号公報
【特許文献2】国際公開第2006/064839号パンフレット
【特許文献3】特開2008−228227号公報
【特許文献4】特開2010−238748号公報
【特許文献5】特開2005−278067号公報
【特許文献6】特開2006−117515号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、アンテナの小型化に関しては、電磁波の波長短縮率が伝送媒体中の電磁波の位相速度の低下率に等しく、その位相速度は、理論的に、媒体の比透磁率と比誘電率の積の平方根に反比例することから、一般に、アンテナの基材やマトリックスとして透磁率及び/又は誘電率が真空中のそれらに比してより大きな材料を用いることにより、そのアンテナ中を伝播する電磁波の波長が短縮され、その小型化が図られ得る。具体的には、磁性材料内を通過する電磁波(電波)の波長λは、λ∝1/√(μ’r×ε’r)で表される(波長短縮効果)。ここで、因子μ’rは、磁性材料の複素比透磁率μrの実数部を示し、因子ε’rは、磁性材料の複素比誘電率εrの実数部を示す。なお、ここでの「波長短縮率」とは、「伝送媒体を伝播する電磁波の波長/真空中の電磁波の波長」で表される値であり、この値が小さいほど、波長短縮効果が高いことを示す。
【0006】
これに関し、例えば、特許文献1には、比誘電率を高めることによるアンテナの小型化に関する記載がある。しかし、特許文献1記載のアンテナにおいて比誘電率が大きい基材を用いた場合、高効率が得られる周波数帯域が狭められてしまい、その結果、使用可能な周波数帯域が不都合な程度に制限されてしまう。
【0007】
また、特許文献2に記載されたY型六方晶フェライトのような磁性材料を用いると、GHz以上の高周波帯域における磁気損失が過大となってしまい、この場合にも、使用可能な周波数帯域が不都合な程度に制限されてしまう。
【0008】
さらに、特許文献3に記載されたアンテナにおいては、使用される磁性ナノ粒子の粒子径が、文字どおりナノメートルオーダーであるため、その分散媒である樹脂材料への分散性が不十分であり、また、高充填することが困難なことに起因して、十分なアンテナ性能が得られ難い。加えて、取扱性に劣り、また、製造コストの増大を招くため、このような磁性ナノ粒子が製品の量産に適しているとは言い難い。
【0009】
一方、本出願人による特許文献4に記載された複合磁性材料は、W型フェライトが用いられていることから、高周波数における磁気損失及び誘電損失を小さくできるという利点を有する。しかし、W型フェライトは透磁率が比較的小さく、また、W型フェライトを樹脂と混合して形成した複合体を採用しているため全体としての透磁率が更に低下してしまうので、特許文献4に記載された複合磁性材料は、上述した波長短縮率を十分に小さくしてアンテナの更なる小型化を図る観点では、不十分な場合がある。
【0010】
他方、特許文献5には、上述の如く、アンテナの材料として種々の組成のフェライトが開示されているものの、それらの詳細な材料物性は不明であり、一般的には、かかる材料を用いたアンテナも、GHz以上の高周波帯域における磁気損失が大きくなる可能性がある。
【0011】
また、種々の組成のM型フェライトは従来からフェライト磁石として数多くの研究がなされているが、磁石として使用する場合、磁石特性の一つである保磁力の大幅な低下を招くため、結晶粒成長を抑制し、異方性磁界の低減を抑制するのが一般的である(特許文献6)。かかるフェライト磁石用途のM型フェライトを用いたアンテナも、GHz以上の高周波帯域における磁気損失が大きくなる可能性がある。
【0012】
そこで本発明はかかる事情に鑑みてなされたものであり、M型六方晶フェライトの組成における、磁気損失及び誘電損失の低減に伴うアンテナとしての効率を満足する範囲を見出し、高周波帯域において、広帯域で使用可能であり、且つ高効率であるアンテナを提供することを目的とする。さらに、従来の誘電体材料(μ’r=1)、及び磁性体材料と比して、高い比透磁率実数部を有することから、材料全体の透磁率と誘電率との積が従来に比して大きくなり、これにより、波長短縮効果が有効に高められて受信対象の電磁波の波長を短縮させることができる。その結果、アンテナの小型化が図られる。それとともに、材料段階における粉体粒子径が1μm程度と十分に大きいので、上記従来の磁性ナノ粒子を用いる場合に比して取扱性に優れ、アンテナ製造時のコストの増大を防止することができ、その結果、製造時の取扱性と経済性に優れ、量産に適した小型アンテナを実現し得る、 磁性酸化物焼結体、並びに、これを用いたアンテナ及び無線通信機器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために、本発明者は、特定の結晶構造を有するフェライトの組成及び物性等に着目して鋭意研究を重ねた結果、上記課題に対する有効な解決手段を見出し、本発明を完成するに至った。
【0014】
すなわち、本発明による磁性酸化物焼結体は、下記一般式(1);
MAα[FeβMBγMnδ]O19・・・(1)
で表されるM型六方晶フェライトを主相として含み、且つ、平均結晶粒子径が5μm以上のものである。
【0015】
上記一般式(1)中、MAは、Sr及びBaからなる群より選択される少なくとも1種であり、MBはTi、Sn及びZrからなる群より選択される少なくとも1種であり、1≦α<1.4、7≦β≦11、11.8≦β+(γ+δ)≦12.1、1≦δ/γ≦1.2を満たす。
【0016】
なお、上記において、「主相」とは、磁性酸化物焼結体に主たる成分(結晶粒子全体に対する比率が、50質量%を超える成分。)として含まれるものをいう。また、「平均結晶粒子径(長径)」とは、後記の実施例において具体的に述べる方法によって測定されるメジアン径D50%である。
【0017】
本発明者らが、かかる構成を有する磁性酸化物焼結体を用いて作製したアンテナの特性を測定したところ、そのアンテナは、従来のものに比して、高周波帯域における有効な帯域幅及び効率に優れることが確認された。このような有利な効果が奏される作用機構の詳細は、未だ明らかではないものの、例えば、以下のとおり推定される。但し、作用はそれらに限定されない(以下同様)。
【0018】
上述した組成のフェライトを含み、且つ、平均結晶粒子径が5μm以上の磁性酸化物焼結体においては、主相であるM型六方晶フェライトが、主成分金属(上記MA及びFe)に加えて副成分金属(上記MB、Mn)を含むので、結晶磁気異方性エネルギーが低下し、これにより、自然共鳴周波数f0(n)がより低周波数側へシフトする。 同時に複素比透磁率の実数部μ‘rがより高められる。より具体的には、自然共鳴が5GHz程度以上の周波数帯域に出現し、それ未満の周波数における自然共鳴に起因する磁気損失は十分に抑えられる。また、磁性酸化物焼結体は、特に平均結晶粒子径が5μm以上となるように十分に結晶成長されているので、磁壁の共鳴がより低い周波数の交流磁界で顕著となり、すなわち、磁壁共鳴周波数f0(d・w)がより低周波数側へシフトする。より具体的には、磁壁共鳴が1GHz程度以下の周波数帯域に出現し、それを超える周波数における磁壁共鳴に起因する磁気損失が十分に抑えられる。これらの結果、1〜5GHz程度の広い高周波帯域に亘って、透磁率の損失係数tanδμ(複素比透磁率μrの虚数部μ”r/複素比透磁率μrの実数部μ’r)が効果的に低減され、磁気損失の増大に起因するアンテナ効率の過度の低下が効果的に抑制されたものと推察される。
【0019】
さらに上述した磁性酸化物焼結体は、通常のM型化学量論組成と比してMAを過剰に含有し、副成分金属MB、Mnの比率がMn過剰組成となっていることから、誘電率の損失係数tanδε(複素比誘電率εrの虚数部ε”r/複素比誘電率εrの実数部ε’r)が効果的に低減され、誘電損失の増大に起因するアンテナ効率の過度の低下が効果的に抑制されたものと推察される。
【0020】
また従来の誘電体材料(μ’r=1)、及び磁性体材料と比して、高い比透磁率実数部を有することから、1〜5GHz程度の広い周波数帯における材料全体の透磁率と誘電率との積が従来に比して大きくなり、これにより、波長短縮効果が有効に高められて受信対象の電磁波の波長を短縮させることができ、その結果、アンテナの小型化が図られる。それとともに、材料段階における粉体粒子径が1μm程度と十分に大きいので、上記従来の磁性ナノ粒子を用いる場合に比して取扱性に優れ、アンテナ製造時のコストの増大を防止することができ、その結果、製品の量産性及び経済性を格段に向上させることが可能となる。
【0021】
また、前記平均結晶粒子径(長径)を100μm以上に粒成長させることで、磁壁共鳴周波数f0(d・w)がより低周波数側へシフトし、その結果、アンテナ動作周波数域における、磁壁共鳴に起因する磁気損失の更なる低減が可能となる。
【0022】
さらに本発明による磁性酸化物焼結体は、含有される全Mn量に対するMn3+の比率を増加させ、全Fe量に対するFe2+の比率を低減することによっても誘電損失の低減が可能となり、アンテナ効率が向上する。特に全Mn量に対するMn3+の比率が5%以上、全Fe量に対するFe2+の比率が0.2%以下であると好ましい。
【0023】
また、当該磁性酸化物焼結体は、自然共鳴周波数f0(n)が5GHz以上であり、且つ、磁壁共鳴周波数f0(d・w)が0.5GHz以下であると好ましい。
【0024】
本発明によるアンテナは、本発明の磁性酸化物焼結体を用いて有効に製造可能なものであり、その磁性酸化物焼結体を含む基体と、その基体の表面又は内部に設けられた導体と、この導体に接続されており、且つ、その導体に電気エネルギーを供給するための給電端子とを備える。
【0025】
またさらに、本発明による無線通信機器は、本発明のアンテナを用いて有効に得られるものであって、上述した本発明のアンテナを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0026】
本発明の磁性酸化物焼結体によれば、特定のM型六方晶フェライトを主相として含み、且つ、平均結晶粒子径が5μm以上とされているので、高周波帯域において、帯域幅を十分に広く維持しつつ、受信対象の電磁波の波長を短縮させてアンテナやそれを備える無線通信機器の小型化を図ることができ、さらに、製造工程における取り扱いが平易である(ハンドリング性が高い)ので、量産にも非常に適しており、その結果、これを用いたアンテナ及び無線通信機器の特性、生産性、及び経済性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明に係る磁性酸化物焼結体を用いて形成されるアンテナの好適な一実施形態の構成を概念的に示す斜視図である。
【図2】本発明に係る磁性酸化物焼結体を用いたアンテナを備える無線通信機器の好適な一実施形態の概略構成を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。なお、上下左右等の位置関係は、特に断らない限り、図面に示す位置関係に基づくものとする。また、図面の寸法比率は、図示の比率に限定されるものではない。さらに、以下の実施の形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明をその実施の形態のみに限定する趣旨ではない。またさらに、本発明は、その要旨を逸脱しない限り、さまざまな変形が可能である。
【0029】
[磁性酸化物焼結体]
本実施形態の磁性酸化物焼結体は、主相としてM型六方晶フェライトを含有しており、且つ、平均結晶粒子径D50が5μm以上とされている。そのM型六方晶フェライトは、下記式(1);
MAα[FeβMBγMnδ]O19 ・・・(1)
で表され、式中、「MA」は、Sr及びBaからなる群より選択される少なくとも1種であり、「MB」はTi、Sn及びZrからなる群より選択される少なくとも1種であり、α、β、γ、δはそれぞれ1≦α<1.4(好ましくは、1<α<1.2)、7≦β≦11(好ましくは、7.5≦β≦9)、11.8≦β+(γ+δ)≦12.1(好ましくは、11.9≦β+(γ+δ)≦12.0)、1≦δ/γ≦1.2(好ましくは、1.05≦δ/γ≦1.2)である。
【0030】
また、本実施形態の磁性酸化物焼結体は、上記式(1)で表されるM型六方晶フェライトの単相からなる相でも、M型六方晶フェライトとは異なる相を含んでいてもよい。
【0031】
このように組成制御された磁性酸化物焼結体によれば、主相として含まれるM型六方晶フェライトが、主成分金属(上記MA及びFe)に加えて副成分金属(MB及びMn)を含むことにより、複素比透磁率の実数部がより高められ、平均結晶粒子径が5μm以上となるように十分に結晶成長されているので、磁壁共鳴周波数f0(d・w)をより低周波数側へシフトさせることができる。これにより、1〜5GHz程度の広い高周波帯域に亘って、透磁率の損失係数tanδμを格段に低下させることが可能となり、その結果、磁気損失の増大に起因するアンテナ効率の過度の低下を十分に抑止することができる。また、磁壁共鳴を低周波側へシフトさせ、アンテナ動作周波数域において、磁壁共鳴に起因する磁気損失を低減させるという観点から、平均結晶粒子径(長径)は100μm以上であると、より好ましい。
【0032】
また、上述した磁性酸化物焼結体は通常のM型化学量論組成と比してMAを過剰に含有し、副成分金属MB、Mnの比率がMn過剰組成となっていることから、誘電率の損失係数tanδεを低下させることが可能となる。同様に、含有される全Mn量に対するMn3+の比率を増加させ、全Fe量に対するFe2+の比率を低減することによっても誘電率の損失係数の低減が可能となり、誘電損失の増大に起因するアンテナ効率の過度の低下が効果的に抑制されアンテナ効率が向上する。
【0033】
前記磁性酸化物焼結体に含有される全Mn量に対するMn3+の比率が5%未満となると、誘電損失係数の増大、アンテナ効率の低下を招く。
【0034】
前記磁性酸化物焼結体に含有される全Fe量に対するFe2+の比率が0.2%より大きくなると、誘電損失係数の増大、アンテナ効率の低下を招く。
【0035】
上記(1)式中、α<1となると、全Fe量に対するFe2+の比率が増加し、誘電損失係数の増大、アンテナ効率の低下を招く。一方、1.4≦αとなると、複素透磁率μ’が低下し、波長短縮効果が不十分となる。
またβ<7となると、自然共鳴が5GHzより低周波側に現われ、アンテナ動作周波数域において、自然共鳴に起因する磁気損失係数が増大し、アンテナ効率の低下を招く。一方、11<βとなると、結晶磁気異方性エネルギーの低下が不十分となり、複素透磁率μ’が低下し、波長短縮効果が不十分となる。
また、β+(γ+δ)<11.8になると、電荷補償によるαの増加が見られ、複素透磁率μ’が低下し、波長短縮効果が不十分となる。一方、12.1<β+(γ+δ)になると、電荷補償によるαの減少が見られ、全Fe量に対するFe2+の比率が増加し、誘電損失係数の増大、アンテナ効率の低下を招く。
また、δ/γ<1となると、全Fe量に対するFe2+の比率が増加し、誘電損失係数の増大、アンテナ効率の低下を招く。一方、1.2<δ/γとなると、全Mn量に対するMn3+の比率が低下し、磁気損失係数の増加、誘電損失係数の増加、アンテナ効率の低下を招く。
また平均結晶粒子径(長径)が5μm未満であると、磁壁共鳴が0.5GHzより高周波に現われ、アンテナ動作周波数域において、磁壁共鳴に起因する磁気損失係数が増大し、アンテナ効率の低下を招く。
【0036】
なお、それらの点を考慮すると、本実施形態の磁性酸化物焼結体は、自然共鳴周波数f0(n)が5GHz以上であり、且つ、磁壁共鳴周波数f0(d・w)が0.5GHz以下であると好適である。
【0037】
さらに、主相としてM型六方晶フェライトを含む磁性成分に加えて、SiO2、CaO、及び、Bi2O3からなる群より選択される少なくとも1種の副成分を、本願発明の作用効果を逸脱しない範囲で含有させるようにしてもよい。
【0038】
[アンテナ]
図1は、本発明の磁性酸化物焼結体を用いて形成されるアンテナの好適な一実施形態の構成を概念的に示す斜視図である。アンテナ1は、基体2の表面及び/又は内部に少なくとも1つの導体4が形成されたものである。この基体2は、上述した本実施形態の磁性酸化物焼結体を用いて形成されており、その形状は、特に限定されず、無線通信機器に搭載する際に求められる種々の形状を採用することができ、一般的には、例えば、図1に示すような直方体ブロック状のもの等が好ましく用いられる。
【0039】
かかる基体2が焼結体である場合、それは通常のセラミック作製プロセスで製造することができる。その一例について説明すると、まず、焼結後の組成が所望の組成となるように各原料を秤量し、所定の時間湿式混合し、M型六方晶フェライトを構成する金属元素を含有する金属化合物からなるフェライト前駆体を調製する。当該金属化合物は、鉄(Fe)化合物と、マンガン(Mn)化合物、及び他の金属(MA、MB)化合物を含むものであり、素材料としては、例えば、鉄化合物としてFeといった酸化物、マンガン(Mn)化合物としてMnといった酸化物、また他の金属化合物としてBaCO(SrCO)等の炭酸塩、並びにTiO、ZrO、SnO等の酸化物を用いることができる。
【0040】
なお、湿式混合処理には、例えば、鉄鋼製のメディアを用いたボールミルやビーズミル等の他、混合機、攪拌機、或いは分散機等を適宜適用することができる。
【0041】
次に、そのフェライト前駆体を、例えば、大気中、適宜の温度且つ時間仮焼し、その後、適宜の時間粉砕処理を行い、M型六方晶フェライトの粉末(粉体)を得る。一方、この粉末に対して、必要に応じて、後の焼成処理において消失する、分散剤等の当業界において公知の添加剤を添加してもよい。
【0042】
そして、調製された原料粉末を適宜の方法で造粒し、それを所定の圧力で所望の形状に成形した後、その成形体を、適宜の雰囲気かつ適宜の温度、適宜の時間熱処理(焼成)し、焼結体である基体2を得る。この焼結体の平均結晶粒子径は、焼成条件を適宜制御することにより、1μm以下の微細な結晶粒子径から5μm以上に成長するように形成することができる。同様に焼成条件を適宜制御することにより、焼結体中に含有される全Fe量に対するFe2+の比率、及び含有される全Mn量に対するMn3+の比率を増減させることができる。例えば、処理温度を高くする程、また、処理時間が長くなる程、焼結体の平均結晶粒子径が大きくなる傾向にある。また、焼成時の酸素分圧を高く設定することでFe2+比率が低減し、Mn3+比率が増加する傾向にある。具体的には、処理温度が1100℃〜1380℃、酸素分圧0%〜100%の雰囲気中で適宜設定し、焼結体中に含有される全Fe量に対するFe2+の比率、及び含有される全Mn量に対するMn3+の比率の調整をした。
【0043】
また、基体2の一面に形成された導体4は、例えば、銅や銅合金を、印刷、蒸着、貼合、又はメッキ等の適宜の方法によって形成することができ、図1においては、その導体4に、基体2の他面に設けられた給電端子6が電気的に接続されている。この導体4の形状も、特に制限されず、図1に記載されているような平面シート状又は平面フィルム状のほか、例えば、ミアンダ状、ヘリカル状等の様々な形状とすることができる。また、給電端子6は、導体4と外部の給電線とを電気的に接続するための端子であり、所定の給電線から供給された電圧が、その給電端子6を経由して導体4に印加される。
【0044】
[無線通信機器]
図2は、本発明の磁性酸化物焼結体を用いたアンテナを備える無線通信機器の好適な一実施形態の概略構成を示す平面図(正面図)である。無線通信機器である携帯電話機10は、第1筐体10CAと第2筐体10CBとがヒンジ13で連結された折り畳み式の携帯端末の一種であり、その使用周波数帯域が、例えば2GHz帯のものである。第2筐体10CBの内部において、ヒンジ13側の反対側に位置する端部には、第1アンテナ11(アンテナ)が配置されている。この第1アンテナ11は、携帯電話機10の無線通信に供される送受信アンテナであり、携帯電話機10と基地局との間で、通話や電子メール等のデータ交換を行うための電波の送受信に用いられる。
【0045】
また、第2筐体10CBの内部において、ヒンジ13側の反対側の部位には、第2アンテナ12(アンテナ)が配置されている。この第2アンテナ12は、例えば、GPS無線信号の受信に用いられる受信アンテナであり、GPS衛星から発信される電波の受信に用いられ、その周波数帯域は、例えば1.5GHz帯である。
【0046】
かかる構成を有する携帯電話機10においては、第1アンテナ11の基体が、本発明による磁性酸化物焼結体を用いて形成されており、これにより、第1アンテナ11を小型化することができるとともに、携帯電話機10の無線通信に用いる周波数(上記の例では2GHz帯)において、第1アンテナ11を広帯域(例えば数十MHz)で使用することができる。また、第1アンテナ11を小型化することができるので、携帯電話機10の内部に設けられる機器、部品、配線等の配置自由度が高められ、これにより、携帯電話機10の筐体の小型化を図ることもできる。
【0047】
また、第2アンテナ12の基体も、本発明によるアンテナ用磁性材料である磁性酸化物焼結体を用いて形成されており、これにより、第2アンテナ12の小型化も図ることができるとともに、GPS無線信号の受信に用いる周波数帯域において、第2アンテナ12を広帯域(例えば数十MHz)で使用することができる。さらに、第2アンテナ12は、通常、携帯電話機10の筐体内における配置が制限される傾向にあるものの、本実施形態によれば、第2アンテナ12を小型化することができるので、筐体内における第2アンテナ12の配置自由度を向上させることも可能である。
【0048】
なお、上述したとおり、本発明は上記各実施形態に限定されるものではなく、その要旨を変更しない限度において様々な変形が可能である。例えば、本発明による磁性酸化物焼結体は、アンテナ1、及び、携帯電話機10のアンテナに制限されず、GHz帯、殊に2〜5GHz帯を使用する無線通信機器全般に対して適用することができる。また、本発明による無線通信機器は、携帯機器の他にも、例えば、携帯電話機用の室内外アンテナ、無線LAN用の送受信機(親機、子機)等が挙げられ、本発明は、これらの中でも、特に小型化が要求されるものに対して極めて有用である。
【実施例】
【0049】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0050】
(実施例1〜15及び比較例1〜9)
磁性酸化物焼結体が表1のα、β、γ、δで示す組成比となるよう各原料粉末を調製し、各実施例及び各比較例の物性及び特性評価用試料を作製した。なお、原料粉末は、各材料の湿式混合を鋼鉄製ボールミルで16時間かけて行い、その混合粉を大気中、1200℃で2時間仮焼した後、鉄鋼製ボールミルで20時間粉砕することにより調製した。また、原料粉末の焼成処理は、原料粉末を造粒したものを100MPaの圧力で所定の形状に成形した後、その成形体を酸素分圧0〜100%の雰囲気中(実施例8では20%、実施例9では100%とし、他のものはこれらを指標として目的とするFe2+比率、Mn3+比率となるよう微調整した)、1100〜1380℃の温度(実施例1では1350℃、実施例2では1300℃とし、他のものはこれらを指標として目的とする平均結晶粒子径に応じて微調整した)で2時間行った。
【0051】
(参考例1)
式CaTiO3をベースとした誘電粉を原料粉末として用いたこと以外は、上記の実施例及び比較例と同様にして、参考例1の物性及び特性評価用試料を作製した。
【0052】
(物性及び特性評価)
<平均結晶粒子径>
濃塩酸でエッチング後の焼結体試料表面を走査型電子顕微鏡にて観察し、N=150個の平均から求めた。その際に各粒子に対して面積が最小となる、外接する四角形の長辺の長さにπ/2を乗じて平均結晶粒子径とした。
<Fe2+/Fe、Mn3+/Mn>
組成分析と、Fe2+とMn3+の定量によって行った。組成分析は、焼結体を粉砕し、粉末状にした後、蛍光X線分析装置(リガク(株)製、サイマルティック3530)を用いガラスビード法によって測定した。Fe2+量は上記粉末状にした試料200mgにシュウ酸、強リン酸を加え加熱溶解後、脱気水を加えN/500 K2Cr2O7溶液を用いた電位差滴定で求めた。Mn3+量は上記粉末状にした試料200mgに強リン酸を加え加熱溶解後、脱気水を加えN/100 硫酸第一鉄アンモニウム溶液を用いた電位差滴定及び先に求めたFe2+量の値より求めた。
【0053】
<材料定数>
調製した各原料粉末の焼結体からリング状試料(外径7mm×内径3.04mm×厚さ1〜2mm)を各々成形加工し、得られた各リング状試料の室温25℃における複素比透磁率μrの実数部μr’、虚数部μr’’、及び、磁気損失tanδμを、ネットワークアナライザ(Agilent社製:HP8510C)を用いて測定した周波数0.1〜18GHzにおけるSパラメーターの結果から導出した。また、調製した各原料粉末の焼結体から棒状試料(1mm×1mm×80mm)を各々成形加工し、得られた各棒状試料の室温25℃における複素比誘電率εrの実数部εr’、虚数部εr’’、及び、誘電損失tanδεを、同ネットワークアナライザを用いて、周波数2GHzにおいて空洞共振器摂動法により測定した。
【0054】
さらに、各リング状試料の複素比透磁率の虚数部μr’’の周波数依存性から、自然共鳴周波数f0(n)(5GHz以上の周波数帯域において虚数部μ’’の値がピークを示す周波数)、及び、磁壁共鳴周波数f0(d・w)(1GHz以下の周波数帯域において虚数部μ’’の値がピークを示す周波数)を同定した。
【0055】
<アンテナ特性>
調製した各原料粉末の焼結体から直方体ブロック状試料(10mm×3mm×4mm)を各々成形加工し、得られた各直方体ブロック状試料の表面に電極を形成して(それぞれの試料によって電極パターンを適宜調整した)、図1に示すものと略同等の構成を有する、共振周波数が1.5GHzである各チップ型アンテナを作製した。得られたチップ型アンテナをそれぞれ平面基板に実装し、電極の一端を給電電極に接続した状態で、小型3D放射指向性測定機(SATIMO社製:STARLAB)を用いて測定した放射効率から、最大放射効率と帯域幅(放射効率が50%以上となる1.5GHzを中心とした周波数の範囲)を評価した。
【0056】
得られた測定評価結果を表1、表2にまとめて示す。これらの結果より、本発明による実施例の磁性酸化物焼結体及びアンテナは、自然共鳴周波数f0(n)が5GHz以上であること、磁壁共鳴周波数f0(d・w)が0.5GHz以下であることが判明し、例えば2GHzにおける複素比透磁率の実数部(μ‘r)が1.2以上であり、且つ、同磁気損失(透磁率の損失係数tanδμ)が0.01以下となる。さらに、当該アンテナ用磁性材料は、2GHzにおける複素比誘電率の実数部(ε’r)が25以下であり、且つ、同誘電損失(誘電率の損失係数tanδε)が0.01以下となり、アンテナとしての放射効率、帯域幅において比較例及び参考例のものに比して、その優位性が確認された。
【0057】
【表1】

【0058】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0059】
以上説明したとおり、本発明の磁性酸化物焼結体によれば、特定のM型六方晶フェライトを主相として含み、且つ、平均結晶粒子径が5μm以上とされていることにより、高周波数において、高効率で且つ帯域幅を十分に広く維持しつつ、アンテナやそれを備える無線通信機器の小型化を図ることができ、さらに、生産性と経済性をも向上させることが可能であるので、本発明による磁性酸化物焼結体、並びに、それを用いたアンテナ及び無線通信機器は、例えば1GHz以上といった高周波信号を対象とするアンテナ用途における広帯域化及び小型化に有用であり、携帯電話機、DSC、DVカメラ、PND、カーナビ、ゲーム機、PDA、パーソナルコンピュータ、室内アンテナ、無線LAN用の送受信機、情報通信用カード等の各種無線通信機器や携帯通信機器、及びそれらを備えるシステムや設備等に、広く且つ有効に利用することが可能である。
【符号の説明】
【0060】
1 アンテナ
2 基体
4 導体
6 給電端子
10 携帯電話機(無線通信機器)
10CA 第1筐体
10CB 第2筐体
11 第1アンテナ(アンテナ)
12 第2アンテナ(アンテナ)
13 ヒンジ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
MAα[FeβMBγMnδ]O19 (式中、MAは、Sr及びBaからなる群より選択される少なくとも1種であり、MBはTi、Sn及びZrからなる群より選択される少なくとも1種であり、1≦α<1.4、7≦β≦11、11.8≦β+(γ+δ)≦12.1、1≦δ/γ≦1.2)で表されるM型六方晶フェライトを主相として含み、平均結晶粒子径(長径)が5μm以上であることを特徴とする磁性酸化物焼結体。
【請求項2】
前記平均結晶粒子径(長径)が100μm以上であることを特徴とする請求項1記載の磁性酸化物焼結体。
【請求項3】
前記磁性酸化物焼結体に含有される全Mn量に対するMn3+の比率が5%以上であることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の磁性酸化物焼結体。
【請求項4】
前記磁性酸化物焼結体に含有される全Fe量に対するFe2+の比率が0.2%以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の磁性酸化物焼結体。
【請求項5】
自然共鳴周波数f0(n)が5GHz以上であり、且つ、磁壁共鳴周波数f0(d・w)が0.5GHz以下である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の磁性酸化物焼結体。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の磁性酸化物焼結体を含む基体と、前記基体の表面又は内部に設けられた導体と、前記導体に接続されており、且つ、該導体に電気エネルギーを供給する給電端子と、を備えるアンテナ。
【請求項7】
請求項6に記載のアンテナを備える、無線通信機器。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−115089(P2013−115089A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−257297(P2011−257297)
【出願日】平成23年11月25日(2011.11.25)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】