磁気軸受式ポンプ
【課題】シンプルな構成で信頼性が高く高効率である磁気軸受式ポンプを提供する。
【解決手段】液体流路2cを有するケーシング2と、ケーシング2内に収容されて液体流路2c内の液体を移送するインペラ10bを有するロータ10と、ロータ10を非接触で支持する磁気軸受16とを備えたポンプ1であって、磁気軸受16は、ロータ10に回転軸線Zが一致するように設けられた透磁性及び導電性を有する円筒状導体11と、円筒状導体11の外周面に対向する状態で周方向に間隔をあけて極性が交互に異なるように設けられた複数の主磁石5を有するステータ9とを備えている。
【解決手段】液体流路2cを有するケーシング2と、ケーシング2内に収容されて液体流路2c内の液体を移送するインペラ10bを有するロータ10と、ロータ10を非接触で支持する磁気軸受16とを備えたポンプ1であって、磁気軸受16は、ロータ10に回転軸線Zが一致するように設けられた透磁性及び導電性を有する円筒状導体11と、円筒状導体11の外周面に対向する状態で周方向に間隔をあけて極性が交互に異なるように設けられた複数の主磁石5を有するステータ9とを備えている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化学プラント、エッチングライン、製紙工程等で用いられる化学薬品等の液体を移送するのに好適なポンプであって、磁気軸受によりロータを非接触で支持する磁気軸受式ポンプに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の一般的なポンプでは、ロータとステータとの間の軸受にメカニカルシールを用いて搬送液が外部へ漏れるのを防止している。このメカニカルシールは、摩耗・損傷などによりシール性が低下することが考えられる。そこで、磁気軸受を用いたメカニカルシールの存在しないポンプが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
この磁気軸受式のポンプでは、ロータの主軸に回転子側コイルが設けられていると共に、ステータの対応する位置に固定子側コイルが設けられ、これらコイルに電流を流して生じる電磁力によりロータを非接触で支持している。詳しくは、ロータとステータとの間のエアギャップを変位センサで検出し、その検出されたエアギャップ量に応じて各コイルに流す電流を制御し、電磁力のバランスを調節してロータが偏心しないように非接触で支持している。このようなポンプによれば、磁気軸受を用いることで摺動部分が存在しなくなるため、摩耗・損傷などが発生せず、液漏れも完全に防止することが可能となる。
【特許文献1】特開平5−187393号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1のポンプの場合、変位センサからの情報に基づいてコイルに流す電流量を調節しなければならず、軸受のために制御システムを必要とするため、構成が複雑になると共にコストも増大してしまう。さらに、構成が複雑になると故障の発生率が増大してポンプの信頼性も低下することとなる。
【0005】
また、磁気軸受の各コイルには給電しなければならないため、ロータの駆動力以外に軸受のためにも電力が必要となり、消費電力が増加して効率が良くないという問題もある。
【0006】
そこで、本発明は、構成がシンプルで信頼性が高く駆動効率の良い磁気軸受式ポンプを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は上述のような事情に鑑みてなされたものであり、本発明に係る磁気軸受式ポンプは、液体流路を有するケーシングと、前記ケーシング内に収容されて前記液体流路内の液体を移送するインペラを有するロータと、前記ロータを非接触で支持する磁気軸受とを備えたポンプであって、前記磁気軸受は、前記ロータに回転軸線が一致するように設けられた透磁性及び導電性を有する円筒状導体と、前記円筒状導体の外周面に対向する状態で周方向に間隔をあけて極性が交互に異なるように設けられた複数の主磁石を有するステータとを備えていることを特徴とする。
【0008】
このようにすると、周方向に間隔をあけて隣接する各主磁石により発生する磁場中を円筒状導体が回転することで円筒状導体に渦電流が発生し、その渦電流と磁場との相互作用により円筒状導体には中心に向かう成分を有するローレンツ力が発生する。そうすると、ロータが偏心しようとしても、該ローレンツ力によりロータに設けられた円筒状導体に中心へと向かう復元力が働き、ロータは回転軸線が安定した状態で非接触支持されることとなる。したがって、センサ等が要らないシンプルな構成で信頼性が高いと共に電力が不要で駆動効率が良い磁気軸受を有するポンプを実現することができる。
【0009】
前記ステータには、前記各主磁石の前記回転軸線方向の両側に前記主磁石と逆極性となる補助磁石が、周方向に間隔をあけて複数設けられていてもよい。
【0010】
このようにすると、主磁石と、その主磁石の回転軸線方向の両側に配置された補助磁石との間にも磁気回路が形成されるため、円筒状導体のうち主磁石と補助磁石との間に位置する領域で回転軸線方向の磁束が生じる。そして、円筒状導体が回転すると、該回転軸線方向の磁束の影響により円筒状導体に周方向の渦電流が生じる。そうすると、周方向の渦電流と回転軸線方向の磁束との相互作用により、円筒状導体には中心へと向かう復元力成分を有するローレンツ力が発生する。また、周方向に間隔をあけて隣接する各主磁石により円筒状導体に生じるローレンツ力は、円筒状導体の回転方向と逆方向に働くブレーキ力成分を有しているが、仮に補助磁石がないとブレーキ力の要因となる主磁石の磁束の一部が、補助磁石を付加することで復元力に寄与するように補助磁石との間で磁気回路を形成し、ブレーキ力が抑制される。
【0011】
前記補助磁石は前記主磁石よりも磁力が小であってもよい。
【0012】
このようにすると、主磁石は、隣接する他の主磁石と補助磁石との両方と安定して磁気回路を形成することができ、主磁石同士の磁気回路によるローレンツ力の発生を損なうことなく、効果的に円筒状導体の復元力の増加及びブレーキ力の低減を図ることができる。
【0013】
前記主磁石と、その前記軸線方向の両側に配置された前記補助磁石との間の距離は、前記主磁石の前記軸線方向の厚みよりも小であってもよい。
【0014】
このようにすると、主磁石と補助磁石とが近接配置されており、主磁石と補助磁石との間で安定して磁気回路を形成することができ、補助磁石による円筒状導体の復元力の増加及びブレーキ力の低減の効果をより安定して発揮することができる。
【0015】
また、前記円筒状導体は銅からなると透磁性及び導電性が良好であるため、円筒状導体に効率良くローレンツ力を発生させることができる。
【発明の効果】
【0016】
以上の説明から明らかなように、本発明によれば、シンプルな構成で信頼性が高く且つ駆動効率が良好な磁気軸受を有するポンプを実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明に係る実施形態を図面を参照して説明する。
【0018】
図1は本発明の実施形態に係る磁気軸受式ポンプ1を示す垂直断面図である。図1に示すように、磁気軸受式ポンプ1は、鋳鉄からなるケーシング2と、ケーシング2内に収容された樹脂からなるロータ10とを備えている。ケーシング2は、吸引口20を有する吸引フランジ部2aと、排出口21を有する排出フランジ部2bとを備えている。ケーシング2内には、吸引口20と排出口21とを連通する液体流路2cと、その液体流路2cに面する有底円筒状のロータ収容凹部2dとが形成されている。そして、液体流路2c及びロータ収容凹部2dの液体に接する内面にはフッ素樹脂からなる保護層3が設けられている。
【0019】
ロータ10は、ロータ収容凹部2dに収容されてロータ収容凹部2dの図中右側の底壁面に向けて開口する凹部10cを有するロータ本体部10aと、ロータ本体部10aの液体流路2cに面する側に一体的に設けられた液体を移送するためのインペラ10bとを有している。また、ロータ本体部10aの開口側の端部に対応する位置には、ロータ10を回転させる駆動部15が設けられている。
【0020】
駆動部15は、ロータ10と回転軸線Zが一致するようにロータ本体部10aに埋設された永久磁石からなる界磁体12と、界磁体12の内周面に接するようにロータ本体部10aに埋設されたSS400(一般構造用圧延鋼)からなる円筒状のヨーク13と、界磁体12の外周面に対向するようにケーシング2に埋設された複数の電機子コイル7と、電機子コイル7の外周面に接するようにケーシング2に埋設されたSS400からなる円筒状のヨーク8とを備えている。即ち、電機子コイル7に流す電流を制御して回転磁界を発生させることで、界磁体12との相互作用によりロータ10が回転駆動される。
【0021】
ロータ10の回転軸線Z方向の中央位置には、ロータ10を非接触で支持する磁気軸受16が設けられている。磁気軸受16は、ロータ10と回転軸線Zが一致するようにロータ本体部10aに埋設された銅製の円筒状導体11と、円筒状導体11の外周面に対向するようにケーシング2に埋設されたステータ9とを備えている。ステータ9は、SS400からなる円筒状のヨーク4と、ヨーク4の内周面に接するように回転軸線Z方向の中央位置でケーシング2に埋設された複数の永久磁石からなる主磁石5と、ヨーク4の内周面に接する回転軸線Z方向の両端位置でケーシング2に埋設された複数の永久磁石からなる補助磁石6とを備えている。なお、主磁石5と補助磁石6とは同一材料から構成されている。
【0022】
図2は図1のII−II線断面の主に磁気軸受16を表した図面である。図2に示すように、主磁石5は、周方向に等間隔をあけた状態で極性が交互に入れ替わるように8個設けられている。また、図2中には図示されていないが、補助磁石6は、図2に示す目視方向から見て主磁石5と同一形状・同一サイズで、各主磁石5の回転軸線Z方向の両側に一対に配置され、計16個の補助磁石6が設けられている。
【0023】
図3は図2のIII−III線断面図である。図3に示すように、補助磁石6は、各主磁石5の回転軸線Z方向の両側で主磁石5と逆極性となるように配置されている。主磁石5と補助磁石6との回転軸線Z方向の距離Lは、主磁石5の回転軸線Z方向の厚みt1よりも小であり、補助磁石6が主磁石5に対して近接配置されている。また、主磁石5の回転軸線Z方向の厚みをt1、補助磁石6の回転軸線Z方向の厚みをt2とすると、t2/t1=0.1〜0.3に設定されており、補助磁石6の磁力が主磁石5の磁力よりも小となるようにしている。その際、t2/t1が0.1以上に設定されているのは、それより小さいと補助磁石6の磁力が弱くなり主磁石5と補助磁石6との間のサブ磁気回路が有効に形成されないからである。一方、t2/t1が0.3以下に設定されているのは、それを超えると主磁石5と補助磁石6との間のサブ磁気回路が強く形成されてしまい周方向に隣接する主磁石5間でのメイン磁気回路が形成されにくくなるからである。
【0024】
図4は図2に示す磁気軸受16でのローレンツ力の発生原理を説明する要部拡大図である。図4に示すように、駆動部15(図1)によりロータ10(図1)が磁場中を回転駆動されることで、円筒状導体11が速度vで回転し、円筒状導体11には渦電流が発生する。その渦電流と磁場との相互作用により円筒状導体11にはローレンツ力fが発生する。このローレンツ力fは、円筒状導体11の円周方向のブレーキ力fθの成分と、円筒状導体11の中心に向かう半径方向の復元力frの成分とを有している。この復元力frにより、回転中のロータ10が偏心しようとしても、ロータ10に設けられた円筒状導体11に中心へと向かう力が働き、ロータ10は回転軸線Zが安定した状態で非接触支持される。
【0025】
図5は図2に示す磁気軸受16の円筒状導体11の外周面における磁束密度ベクトルの分布図である。図5に示すように、N極の主磁石5から周方向に隣接するS極の主磁石5に向けて磁束が流れてメイン磁気回路Aが形成されている。それに加えて、N極の主磁石5から回転軸線Z方向の両側に隣接するS極の補助磁石6に向けて磁束が流れてサブ磁気回路B,Cが形成されていると共に、N極の補助磁石6から隣接するS極の主磁石5に向けて磁束が流れてサブ磁気回路D,Eが形成されている。
【0026】
図6は図2に示す磁気軸受16の円筒状導体11の外周面における電流密度ベクトルの分布図である。図6に示すように、円筒状導体11には、図5に示す磁束と略直交する方向に渦電流が発生している。円筒状導体11のメイン磁気回路Aの領域では、隣接する各主磁石5の間で生じる磁束と渦電流との相互作用により、円筒状導体11の中心へと向かう復元力frの成分を有するローレンツ力が生じる。それに加えて、円筒状導体11のサブ磁気回路B〜Eの領域でも、主磁石5と補助磁石6との間で生じる磁束と渦電流との相互作用により、円筒状導体11の中心へと向かう復元力frの成分を有するローレンツ力が生じることとなる。
【0027】
即ち、円筒状導体11に働くローレンツ力のうち中心に向いた成分である復元力frは、周方向の渦電流Jθと回転軸線Z方向の磁束密度Bzとの積Jθ×Bzと、回転軸線Z方向の渦電流Jzと周方向の磁束密度Bθとの積Jz×Bθから発生する。そして、Jθ×BzとJz×Bθとを比較するとJθ×Bzの方が大きな成分であり、補助磁石6によりJθ×Bzが増加させられるので、復元力frが向上する。これにより、ロータ10が偏心しようとしても、ローレンツ力によりロータ10に設けられた円筒状導体11に中心へと向かう復元力frが十分に働き、ロータ10は回転軸線Zが安定した状態で非接触支持される。
【0028】
図7は補助磁石がない場合の円筒状導体11の外周面における磁束密度ベクトルの分布図である。図8は補助磁石がない場合の円筒状導体11の外周面における電流密度ベクトルの分布図である。図5及び図6(補助磁石あり)と図7及び図8(補助磁石なし)とを比較すると、補助磁石6がある図5及び図6の方が復元力frの発生に寄与する磁束・渦電流が大きいことが分かる。
【0029】
以上に説明したように、磁気軸受16はセンサ等が要らないシンプルな構成で信頼性が向上すると共に、磁気軸受16には電力が不要でありポンプ1の駆動効率も向上する。さらに、仮に補助磁石6がないとブレーキ力の発生に寄与する主磁石5の磁束の一部が、補助磁石6を設けることで復元力frに寄与するように補助磁石6との間でサブ磁気回路を形成するので、ブレーキ力も抑制することができる。なお、本実施形態では円筒状導体11に銅を用いているが、透磁性及び導電性を有するものであれば他の材料を用いてもよい。
【0030】
(実施例)
次に、前記実施形態についての具体的な実施例を説明する。本実施例では、市販の有限要素法を用いた解析ソフトFEMAP version 7.01(Enterprise Software Products Inc.)と、ソルバーであるEDDY version 5.0(株式会社フォトン)とを使用して計算機シミュレーションを行った。その際、ジオメトリ及びメッシュの生成と境界条件の設定はFEMAP、計算にはEDDYを用いた。生成したメッシュは三次元六面体メッシュとした。円筒状導体11の径方向の厚さは5mm、円筒状導体11の回転軸線Z方向の幅は60mm、主磁石5の回転軸線Z方向の厚さt1は30mm、補助磁石6の回転軸線Z方向の厚さt2は5mm、各磁石5,6と円筒状導体11の間の距離(エアギャップ)は6mmとした。各境界の比透磁率と導電率の設定は表1のように設定した。但し、ヨーク4の比透磁率は、図9に示すSS400の磁化曲線に基づいて設定した。円筒状導体11の回転数は3000rpmとした。また、渦電流は時間に依存する現象であるので非定常解析を用いた。タイムステップは50μsで、計算の繰り返し回数は200回とした。
【0031】
【表1】
【0032】
図10(a)は径方向の磁束密度Brと周角度との関係を表すグラフ、(b)は周方向の磁束密度Bθと周角度との関係を表すグラフ、(c)は回転軸線方向の磁束密度Bzと周角度との関係を表すグラフである。なお、図10(a)(b)(c)は主磁石5と補助磁石6との回転軸線Z方向の中点における計算値であり、横軸は円筒状導体11を平面に投影した周角度、縦軸は磁束密度を示している。
【0033】
図10(a)(b)(c)中、実線は補助磁石6がある場合の計算値であり、破線は同条件下で補助磁石がない場合の計算値である。補助磁石6がある場合とない場合とで磁束密度を比較するために、磁束密度を絶対値で表して周角度に沿って積分すると、補助磁石6がある場合の方が補助磁石6のない場合に比べて、磁束密度Bzが20.3%程度増加している。即ち、補助磁石6は周方向および径方向の磁束密度Bθ及びBrには殆ど影響を与えないが,回転軸線Z方向の磁束密度Bzを増加させることが分かった。
【0034】
図11(a)は径方向の電流密度Jrと周角度との関係を表すグラフ、(b)は周方向の電流密度Jθと周角度との関係を表すグラフ、(c)は回転軸線方向の電流密度Jzと周角度との関係を表すグラフである。なお、図11(a)(b)(c)は主磁石5と補助磁石6との回転軸線Z方向の中点における計算値であり、横軸は円筒状導体11を平面に投影した周角度、縦軸は電流密度を示している。
【0035】
図11(a)(b)(c)中、実線は補助磁石6がある場合の計算値であり、破線は同条件下で補助磁石6がない場合の計算値である。補助磁石6がある場合の方が補助磁石のない場合に比べて、JrとJθは増加し、Jzは変化しなかった。復元力frはJθ×BzとJz×Bθの2成分で発生するので、補助磁石6を付加すると磁束密度Bzの成分と電流密度Jθの成分が増加して復元力frが増加し、円筒状導体11の回転軸線Z(ロータ10の回転軸線Z)の偏心が抑制された。
【0036】
図12(a)は回転方向のローレンツ力密度Jr×Bzと周角度との関係を表すグラフ、(b)は逆回転方向のローレンツ力密度Jz×Brと周角度との関係を表すグラフである。なお、図12(a)(b)は、主磁石5と補助磁石6との回転軸線Z方向の中点における計算値である。図12(a)に示すように、ローレンツ力密度Jr×Bzを絶対値で表して周角度に沿って積分すると、補助磁石6がある場合の方が補助磁石6のない場合に比べて、回転方向のローレンツ力密度Jr×Bzは49.5%増加した。一方、図12(b)に示すように、回転方向と反対向きにブレーキ力として作用するローレンツ力密度Jz×Brは、補助磁石6の有無によって変化しなかった。そのため、円筒状導体11(ロータ10)全体として補助磁石6の影響でブレーキ力が減少することとなった。
【0037】
次に、前述した計算結果で得られた復元力frとブレーキ力fθのデータから円筒状導体11(ロータ10)の回転挙動を計算した。円筒状導体11に作用する径方向の荷重は主に(1)復元力、(2)スラスト・ラジアル荷重、(3)液体の抗力、(4)重力の4つの力が考えられ、以下の数式1の運動方程式が導出される。
【0038】
f=ma=fr+fpump−(ρv2CDA)/2−mg ・・・・・(式1)
なお、fは円筒状導体11に作用する力[N]、mは円筒状導体11の質量[kg]、aは加速度[m/s2]、frは復元力[N]、fpumpはラジアル荷重[N]、ρは液密度[kg/m3]、vは回転速度[m/s]、CDは抗力係数、Aは投影面積[m2]、gは重力加速度[m/s2]である。また、変位量と復元力は一次式的に増減すると仮定する。
【0039】
計算処理は市販の流体解析ソフトFluent 6.2とGAMBIT 2.2 (Fluent Inc.)用い、定常計算にてスラスト荷重と抗力係数を計算した。搬送流体は水、体積流量が300liter/min(5.0×10-3m3/s)、全揚程が20m(1.97×105Pa)、回転数は3000rpmで設計された半径流遠心ポンプに対して計算を行った。また、得られたラジアル荷重と抗力係数は円筒状導体の回転軸線の中心からの変位量が少ない場合は一定であると仮定した。
【0040】
流体解析ソフトの計算結果および物性値と形状からfr=27.2N、m=1kg、ρ=998.2kg/m3、CD=140、A=7.02m2の各値を式1に代入する。本計算では外乱が働かない状態で座標(x,y)=(0,0)から計算を始め、時間t=0〜10sの間に円筒状導体11の回転軸線が描く軌跡を図13に示した。図13の縦軸と横軸はそれぞれx,y軸方向の変位を表し、中央の半径6mmの円が最大可動範囲を示す。回転軸線は座標(x,y)=(0,0)から運動を始めて、歳差運動をしながら徐々に(x,y)=(0.6,−0.8)を中心とする半径0.1の円周に収束する。したがって、本計算条件では可動範囲内に円筒状導体11(ロータ10)回転軸線の挙動が収まり、安定であると言える。
【産業上の利用可能性】
【0041】
以上のように、本発明に係る磁気軸受式ポンプは、シンプルな構成で信頼性が高いと共に駆動効率も良好となる優れた効果を有し、この効果の意義を発揮できるポンプに広く適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明の実施形態に係る磁気軸受式ポンプを示す垂直断面図である。
【図2】図1のII−II線断面の主に磁気軸受を表した図面である。
【図3】図2のIII−III線断面図である。
【図4】図2に示す磁気軸受でのローレンツ力の発生原理を説明する要部拡大図である。
【図5】図2に示す磁気軸受の円筒状導体の外周面における磁束密度ベクトルの分布図である。
【図6】図2に示す磁気軸受の円筒状導体の外周面における電流密度ベクトルの分布図である。
【図7】補助磁石がない場合の円筒状導体の外周面における磁束密度ベクトルの分布図である。
【図8】補助磁石がない場合の円筒状導体の外周面における電流密度ベクトルの分布図である。
【図9】SS400の磁化曲線を示すグラフである。
【図10】(a)は径方向の磁束密度Brと周角度との関係を表すグラフ、(b)は周方向の磁束密度Bθと周角度との関係を表すグラフ、(c)は回転軸線方向の磁束密度Bzと周角度との関係を表すグラフである。
【図11】(a)は径方向の電流密度Jrと周角度との関係を表すグラフ、(b)は周方向の電流密度Jθと周角度との関係を表すグラフ、(c)は回転軸線方向の電流密度Jzと周角度との関係を表すグラフである。
【図12】(a)はローレンツ力密度Jr×Bzと周角度との関係を表すグラフ、(b)はローレンツ力密度Jz×Brと周角度との関係を表すグラフである。
【図13】円筒状導体の回転軸線の挙動を示すグラフである。
【符号の説明】
【0043】
1 磁気軸受式ポンプ
2 ケーシング
5 主磁石
6 補助磁石
9 ステータ
10 ロータ
10b インペラ
11 円筒状導体
Z 回転軸線
【技術分野】
【0001】
本発明は、化学プラント、エッチングライン、製紙工程等で用いられる化学薬品等の液体を移送するのに好適なポンプであって、磁気軸受によりロータを非接触で支持する磁気軸受式ポンプに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の一般的なポンプでは、ロータとステータとの間の軸受にメカニカルシールを用いて搬送液が外部へ漏れるのを防止している。このメカニカルシールは、摩耗・損傷などによりシール性が低下することが考えられる。そこで、磁気軸受を用いたメカニカルシールの存在しないポンプが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
この磁気軸受式のポンプでは、ロータの主軸に回転子側コイルが設けられていると共に、ステータの対応する位置に固定子側コイルが設けられ、これらコイルに電流を流して生じる電磁力によりロータを非接触で支持している。詳しくは、ロータとステータとの間のエアギャップを変位センサで検出し、その検出されたエアギャップ量に応じて各コイルに流す電流を制御し、電磁力のバランスを調節してロータが偏心しないように非接触で支持している。このようなポンプによれば、磁気軸受を用いることで摺動部分が存在しなくなるため、摩耗・損傷などが発生せず、液漏れも完全に防止することが可能となる。
【特許文献1】特開平5−187393号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1のポンプの場合、変位センサからの情報に基づいてコイルに流す電流量を調節しなければならず、軸受のために制御システムを必要とするため、構成が複雑になると共にコストも増大してしまう。さらに、構成が複雑になると故障の発生率が増大してポンプの信頼性も低下することとなる。
【0005】
また、磁気軸受の各コイルには給電しなければならないため、ロータの駆動力以外に軸受のためにも電力が必要となり、消費電力が増加して効率が良くないという問題もある。
【0006】
そこで、本発明は、構成がシンプルで信頼性が高く駆動効率の良い磁気軸受式ポンプを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は上述のような事情に鑑みてなされたものであり、本発明に係る磁気軸受式ポンプは、液体流路を有するケーシングと、前記ケーシング内に収容されて前記液体流路内の液体を移送するインペラを有するロータと、前記ロータを非接触で支持する磁気軸受とを備えたポンプであって、前記磁気軸受は、前記ロータに回転軸線が一致するように設けられた透磁性及び導電性を有する円筒状導体と、前記円筒状導体の外周面に対向する状態で周方向に間隔をあけて極性が交互に異なるように設けられた複数の主磁石を有するステータとを備えていることを特徴とする。
【0008】
このようにすると、周方向に間隔をあけて隣接する各主磁石により発生する磁場中を円筒状導体が回転することで円筒状導体に渦電流が発生し、その渦電流と磁場との相互作用により円筒状導体には中心に向かう成分を有するローレンツ力が発生する。そうすると、ロータが偏心しようとしても、該ローレンツ力によりロータに設けられた円筒状導体に中心へと向かう復元力が働き、ロータは回転軸線が安定した状態で非接触支持されることとなる。したがって、センサ等が要らないシンプルな構成で信頼性が高いと共に電力が不要で駆動効率が良い磁気軸受を有するポンプを実現することができる。
【0009】
前記ステータには、前記各主磁石の前記回転軸線方向の両側に前記主磁石と逆極性となる補助磁石が、周方向に間隔をあけて複数設けられていてもよい。
【0010】
このようにすると、主磁石と、その主磁石の回転軸線方向の両側に配置された補助磁石との間にも磁気回路が形成されるため、円筒状導体のうち主磁石と補助磁石との間に位置する領域で回転軸線方向の磁束が生じる。そして、円筒状導体が回転すると、該回転軸線方向の磁束の影響により円筒状導体に周方向の渦電流が生じる。そうすると、周方向の渦電流と回転軸線方向の磁束との相互作用により、円筒状導体には中心へと向かう復元力成分を有するローレンツ力が発生する。また、周方向に間隔をあけて隣接する各主磁石により円筒状導体に生じるローレンツ力は、円筒状導体の回転方向と逆方向に働くブレーキ力成分を有しているが、仮に補助磁石がないとブレーキ力の要因となる主磁石の磁束の一部が、補助磁石を付加することで復元力に寄与するように補助磁石との間で磁気回路を形成し、ブレーキ力が抑制される。
【0011】
前記補助磁石は前記主磁石よりも磁力が小であってもよい。
【0012】
このようにすると、主磁石は、隣接する他の主磁石と補助磁石との両方と安定して磁気回路を形成することができ、主磁石同士の磁気回路によるローレンツ力の発生を損なうことなく、効果的に円筒状導体の復元力の増加及びブレーキ力の低減を図ることができる。
【0013】
前記主磁石と、その前記軸線方向の両側に配置された前記補助磁石との間の距離は、前記主磁石の前記軸線方向の厚みよりも小であってもよい。
【0014】
このようにすると、主磁石と補助磁石とが近接配置されており、主磁石と補助磁石との間で安定して磁気回路を形成することができ、補助磁石による円筒状導体の復元力の増加及びブレーキ力の低減の効果をより安定して発揮することができる。
【0015】
また、前記円筒状導体は銅からなると透磁性及び導電性が良好であるため、円筒状導体に効率良くローレンツ力を発生させることができる。
【発明の効果】
【0016】
以上の説明から明らかなように、本発明によれば、シンプルな構成で信頼性が高く且つ駆動効率が良好な磁気軸受を有するポンプを実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明に係る実施形態を図面を参照して説明する。
【0018】
図1は本発明の実施形態に係る磁気軸受式ポンプ1を示す垂直断面図である。図1に示すように、磁気軸受式ポンプ1は、鋳鉄からなるケーシング2と、ケーシング2内に収容された樹脂からなるロータ10とを備えている。ケーシング2は、吸引口20を有する吸引フランジ部2aと、排出口21を有する排出フランジ部2bとを備えている。ケーシング2内には、吸引口20と排出口21とを連通する液体流路2cと、その液体流路2cに面する有底円筒状のロータ収容凹部2dとが形成されている。そして、液体流路2c及びロータ収容凹部2dの液体に接する内面にはフッ素樹脂からなる保護層3が設けられている。
【0019】
ロータ10は、ロータ収容凹部2dに収容されてロータ収容凹部2dの図中右側の底壁面に向けて開口する凹部10cを有するロータ本体部10aと、ロータ本体部10aの液体流路2cに面する側に一体的に設けられた液体を移送するためのインペラ10bとを有している。また、ロータ本体部10aの開口側の端部に対応する位置には、ロータ10を回転させる駆動部15が設けられている。
【0020】
駆動部15は、ロータ10と回転軸線Zが一致するようにロータ本体部10aに埋設された永久磁石からなる界磁体12と、界磁体12の内周面に接するようにロータ本体部10aに埋設されたSS400(一般構造用圧延鋼)からなる円筒状のヨーク13と、界磁体12の外周面に対向するようにケーシング2に埋設された複数の電機子コイル7と、電機子コイル7の外周面に接するようにケーシング2に埋設されたSS400からなる円筒状のヨーク8とを備えている。即ち、電機子コイル7に流す電流を制御して回転磁界を発生させることで、界磁体12との相互作用によりロータ10が回転駆動される。
【0021】
ロータ10の回転軸線Z方向の中央位置には、ロータ10を非接触で支持する磁気軸受16が設けられている。磁気軸受16は、ロータ10と回転軸線Zが一致するようにロータ本体部10aに埋設された銅製の円筒状導体11と、円筒状導体11の外周面に対向するようにケーシング2に埋設されたステータ9とを備えている。ステータ9は、SS400からなる円筒状のヨーク4と、ヨーク4の内周面に接するように回転軸線Z方向の中央位置でケーシング2に埋設された複数の永久磁石からなる主磁石5と、ヨーク4の内周面に接する回転軸線Z方向の両端位置でケーシング2に埋設された複数の永久磁石からなる補助磁石6とを備えている。なお、主磁石5と補助磁石6とは同一材料から構成されている。
【0022】
図2は図1のII−II線断面の主に磁気軸受16を表した図面である。図2に示すように、主磁石5は、周方向に等間隔をあけた状態で極性が交互に入れ替わるように8個設けられている。また、図2中には図示されていないが、補助磁石6は、図2に示す目視方向から見て主磁石5と同一形状・同一サイズで、各主磁石5の回転軸線Z方向の両側に一対に配置され、計16個の補助磁石6が設けられている。
【0023】
図3は図2のIII−III線断面図である。図3に示すように、補助磁石6は、各主磁石5の回転軸線Z方向の両側で主磁石5と逆極性となるように配置されている。主磁石5と補助磁石6との回転軸線Z方向の距離Lは、主磁石5の回転軸線Z方向の厚みt1よりも小であり、補助磁石6が主磁石5に対して近接配置されている。また、主磁石5の回転軸線Z方向の厚みをt1、補助磁石6の回転軸線Z方向の厚みをt2とすると、t2/t1=0.1〜0.3に設定されており、補助磁石6の磁力が主磁石5の磁力よりも小となるようにしている。その際、t2/t1が0.1以上に設定されているのは、それより小さいと補助磁石6の磁力が弱くなり主磁石5と補助磁石6との間のサブ磁気回路が有効に形成されないからである。一方、t2/t1が0.3以下に設定されているのは、それを超えると主磁石5と補助磁石6との間のサブ磁気回路が強く形成されてしまい周方向に隣接する主磁石5間でのメイン磁気回路が形成されにくくなるからである。
【0024】
図4は図2に示す磁気軸受16でのローレンツ力の発生原理を説明する要部拡大図である。図4に示すように、駆動部15(図1)によりロータ10(図1)が磁場中を回転駆動されることで、円筒状導体11が速度vで回転し、円筒状導体11には渦電流が発生する。その渦電流と磁場との相互作用により円筒状導体11にはローレンツ力fが発生する。このローレンツ力fは、円筒状導体11の円周方向のブレーキ力fθの成分と、円筒状導体11の中心に向かう半径方向の復元力frの成分とを有している。この復元力frにより、回転中のロータ10が偏心しようとしても、ロータ10に設けられた円筒状導体11に中心へと向かう力が働き、ロータ10は回転軸線Zが安定した状態で非接触支持される。
【0025】
図5は図2に示す磁気軸受16の円筒状導体11の外周面における磁束密度ベクトルの分布図である。図5に示すように、N極の主磁石5から周方向に隣接するS極の主磁石5に向けて磁束が流れてメイン磁気回路Aが形成されている。それに加えて、N極の主磁石5から回転軸線Z方向の両側に隣接するS極の補助磁石6に向けて磁束が流れてサブ磁気回路B,Cが形成されていると共に、N極の補助磁石6から隣接するS極の主磁石5に向けて磁束が流れてサブ磁気回路D,Eが形成されている。
【0026】
図6は図2に示す磁気軸受16の円筒状導体11の外周面における電流密度ベクトルの分布図である。図6に示すように、円筒状導体11には、図5に示す磁束と略直交する方向に渦電流が発生している。円筒状導体11のメイン磁気回路Aの領域では、隣接する各主磁石5の間で生じる磁束と渦電流との相互作用により、円筒状導体11の中心へと向かう復元力frの成分を有するローレンツ力が生じる。それに加えて、円筒状導体11のサブ磁気回路B〜Eの領域でも、主磁石5と補助磁石6との間で生じる磁束と渦電流との相互作用により、円筒状導体11の中心へと向かう復元力frの成分を有するローレンツ力が生じることとなる。
【0027】
即ち、円筒状導体11に働くローレンツ力のうち中心に向いた成分である復元力frは、周方向の渦電流Jθと回転軸線Z方向の磁束密度Bzとの積Jθ×Bzと、回転軸線Z方向の渦電流Jzと周方向の磁束密度Bθとの積Jz×Bθから発生する。そして、Jθ×BzとJz×Bθとを比較するとJθ×Bzの方が大きな成分であり、補助磁石6によりJθ×Bzが増加させられるので、復元力frが向上する。これにより、ロータ10が偏心しようとしても、ローレンツ力によりロータ10に設けられた円筒状導体11に中心へと向かう復元力frが十分に働き、ロータ10は回転軸線Zが安定した状態で非接触支持される。
【0028】
図7は補助磁石がない場合の円筒状導体11の外周面における磁束密度ベクトルの分布図である。図8は補助磁石がない場合の円筒状導体11の外周面における電流密度ベクトルの分布図である。図5及び図6(補助磁石あり)と図7及び図8(補助磁石なし)とを比較すると、補助磁石6がある図5及び図6の方が復元力frの発生に寄与する磁束・渦電流が大きいことが分かる。
【0029】
以上に説明したように、磁気軸受16はセンサ等が要らないシンプルな構成で信頼性が向上すると共に、磁気軸受16には電力が不要でありポンプ1の駆動効率も向上する。さらに、仮に補助磁石6がないとブレーキ力の発生に寄与する主磁石5の磁束の一部が、補助磁石6を設けることで復元力frに寄与するように補助磁石6との間でサブ磁気回路を形成するので、ブレーキ力も抑制することができる。なお、本実施形態では円筒状導体11に銅を用いているが、透磁性及び導電性を有するものであれば他の材料を用いてもよい。
【0030】
(実施例)
次に、前記実施形態についての具体的な実施例を説明する。本実施例では、市販の有限要素法を用いた解析ソフトFEMAP version 7.01(Enterprise Software Products Inc.)と、ソルバーであるEDDY version 5.0(株式会社フォトン)とを使用して計算機シミュレーションを行った。その際、ジオメトリ及びメッシュの生成と境界条件の設定はFEMAP、計算にはEDDYを用いた。生成したメッシュは三次元六面体メッシュとした。円筒状導体11の径方向の厚さは5mm、円筒状導体11の回転軸線Z方向の幅は60mm、主磁石5の回転軸線Z方向の厚さt1は30mm、補助磁石6の回転軸線Z方向の厚さt2は5mm、各磁石5,6と円筒状導体11の間の距離(エアギャップ)は6mmとした。各境界の比透磁率と導電率の設定は表1のように設定した。但し、ヨーク4の比透磁率は、図9に示すSS400の磁化曲線に基づいて設定した。円筒状導体11の回転数は3000rpmとした。また、渦電流は時間に依存する現象であるので非定常解析を用いた。タイムステップは50μsで、計算の繰り返し回数は200回とした。
【0031】
【表1】
【0032】
図10(a)は径方向の磁束密度Brと周角度との関係を表すグラフ、(b)は周方向の磁束密度Bθと周角度との関係を表すグラフ、(c)は回転軸線方向の磁束密度Bzと周角度との関係を表すグラフである。なお、図10(a)(b)(c)は主磁石5と補助磁石6との回転軸線Z方向の中点における計算値であり、横軸は円筒状導体11を平面に投影した周角度、縦軸は磁束密度を示している。
【0033】
図10(a)(b)(c)中、実線は補助磁石6がある場合の計算値であり、破線は同条件下で補助磁石がない場合の計算値である。補助磁石6がある場合とない場合とで磁束密度を比較するために、磁束密度を絶対値で表して周角度に沿って積分すると、補助磁石6がある場合の方が補助磁石6のない場合に比べて、磁束密度Bzが20.3%程度増加している。即ち、補助磁石6は周方向および径方向の磁束密度Bθ及びBrには殆ど影響を与えないが,回転軸線Z方向の磁束密度Bzを増加させることが分かった。
【0034】
図11(a)は径方向の電流密度Jrと周角度との関係を表すグラフ、(b)は周方向の電流密度Jθと周角度との関係を表すグラフ、(c)は回転軸線方向の電流密度Jzと周角度との関係を表すグラフである。なお、図11(a)(b)(c)は主磁石5と補助磁石6との回転軸線Z方向の中点における計算値であり、横軸は円筒状導体11を平面に投影した周角度、縦軸は電流密度を示している。
【0035】
図11(a)(b)(c)中、実線は補助磁石6がある場合の計算値であり、破線は同条件下で補助磁石6がない場合の計算値である。補助磁石6がある場合の方が補助磁石のない場合に比べて、JrとJθは増加し、Jzは変化しなかった。復元力frはJθ×BzとJz×Bθの2成分で発生するので、補助磁石6を付加すると磁束密度Bzの成分と電流密度Jθの成分が増加して復元力frが増加し、円筒状導体11の回転軸線Z(ロータ10の回転軸線Z)の偏心が抑制された。
【0036】
図12(a)は回転方向のローレンツ力密度Jr×Bzと周角度との関係を表すグラフ、(b)は逆回転方向のローレンツ力密度Jz×Brと周角度との関係を表すグラフである。なお、図12(a)(b)は、主磁石5と補助磁石6との回転軸線Z方向の中点における計算値である。図12(a)に示すように、ローレンツ力密度Jr×Bzを絶対値で表して周角度に沿って積分すると、補助磁石6がある場合の方が補助磁石6のない場合に比べて、回転方向のローレンツ力密度Jr×Bzは49.5%増加した。一方、図12(b)に示すように、回転方向と反対向きにブレーキ力として作用するローレンツ力密度Jz×Brは、補助磁石6の有無によって変化しなかった。そのため、円筒状導体11(ロータ10)全体として補助磁石6の影響でブレーキ力が減少することとなった。
【0037】
次に、前述した計算結果で得られた復元力frとブレーキ力fθのデータから円筒状導体11(ロータ10)の回転挙動を計算した。円筒状導体11に作用する径方向の荷重は主に(1)復元力、(2)スラスト・ラジアル荷重、(3)液体の抗力、(4)重力の4つの力が考えられ、以下の数式1の運動方程式が導出される。
【0038】
f=ma=fr+fpump−(ρv2CDA)/2−mg ・・・・・(式1)
なお、fは円筒状導体11に作用する力[N]、mは円筒状導体11の質量[kg]、aは加速度[m/s2]、frは復元力[N]、fpumpはラジアル荷重[N]、ρは液密度[kg/m3]、vは回転速度[m/s]、CDは抗力係数、Aは投影面積[m2]、gは重力加速度[m/s2]である。また、変位量と復元力は一次式的に増減すると仮定する。
【0039】
計算処理は市販の流体解析ソフトFluent 6.2とGAMBIT 2.2 (Fluent Inc.)用い、定常計算にてスラスト荷重と抗力係数を計算した。搬送流体は水、体積流量が300liter/min(5.0×10-3m3/s)、全揚程が20m(1.97×105Pa)、回転数は3000rpmで設計された半径流遠心ポンプに対して計算を行った。また、得られたラジアル荷重と抗力係数は円筒状導体の回転軸線の中心からの変位量が少ない場合は一定であると仮定した。
【0040】
流体解析ソフトの計算結果および物性値と形状からfr=27.2N、m=1kg、ρ=998.2kg/m3、CD=140、A=7.02m2の各値を式1に代入する。本計算では外乱が働かない状態で座標(x,y)=(0,0)から計算を始め、時間t=0〜10sの間に円筒状導体11の回転軸線が描く軌跡を図13に示した。図13の縦軸と横軸はそれぞれx,y軸方向の変位を表し、中央の半径6mmの円が最大可動範囲を示す。回転軸線は座標(x,y)=(0,0)から運動を始めて、歳差運動をしながら徐々に(x,y)=(0.6,−0.8)を中心とする半径0.1の円周に収束する。したがって、本計算条件では可動範囲内に円筒状導体11(ロータ10)回転軸線の挙動が収まり、安定であると言える。
【産業上の利用可能性】
【0041】
以上のように、本発明に係る磁気軸受式ポンプは、シンプルな構成で信頼性が高いと共に駆動効率も良好となる優れた効果を有し、この効果の意義を発揮できるポンプに広く適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明の実施形態に係る磁気軸受式ポンプを示す垂直断面図である。
【図2】図1のII−II線断面の主に磁気軸受を表した図面である。
【図3】図2のIII−III線断面図である。
【図4】図2に示す磁気軸受でのローレンツ力の発生原理を説明する要部拡大図である。
【図5】図2に示す磁気軸受の円筒状導体の外周面における磁束密度ベクトルの分布図である。
【図6】図2に示す磁気軸受の円筒状導体の外周面における電流密度ベクトルの分布図である。
【図7】補助磁石がない場合の円筒状導体の外周面における磁束密度ベクトルの分布図である。
【図8】補助磁石がない場合の円筒状導体の外周面における電流密度ベクトルの分布図である。
【図9】SS400の磁化曲線を示すグラフである。
【図10】(a)は径方向の磁束密度Brと周角度との関係を表すグラフ、(b)は周方向の磁束密度Bθと周角度との関係を表すグラフ、(c)は回転軸線方向の磁束密度Bzと周角度との関係を表すグラフである。
【図11】(a)は径方向の電流密度Jrと周角度との関係を表すグラフ、(b)は周方向の電流密度Jθと周角度との関係を表すグラフ、(c)は回転軸線方向の電流密度Jzと周角度との関係を表すグラフである。
【図12】(a)はローレンツ力密度Jr×Bzと周角度との関係を表すグラフ、(b)はローレンツ力密度Jz×Brと周角度との関係を表すグラフである。
【図13】円筒状導体の回転軸線の挙動を示すグラフである。
【符号の説明】
【0043】
1 磁気軸受式ポンプ
2 ケーシング
5 主磁石
6 補助磁石
9 ステータ
10 ロータ
10b インペラ
11 円筒状導体
Z 回転軸線
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体流路を有するケーシングと、前記ケーシング内に収容されて前記液体流路内の液体を移送するインペラを有するロータと、前記ロータを非接触で支持する磁気軸受とを備えたポンプであって、
前記磁気軸受は、前記ロータに回転軸線が一致するように設けられた透磁性及び導電性を有する円筒状導体と、前記円筒状導体の外周面に対向する状態で周方向に間隔をあけて極性が交互に異なるように設けられた複数の主磁石を有するステータとを備えていることを特徴とする磁気軸受式ポンプ。
【請求項2】
前記ステータには、前記各主磁石の前記回転軸線方向の両側に前記主磁石と逆極性となる補助磁石が、周方向に間隔をあけて複数設けられている請求項1に記載の磁気軸受式ポンプ。
【請求項3】
前記補助磁石は前記主磁石よりも磁力が小である請求項2に記載の磁気軸受式ポンプ。
【請求項4】
前記主磁石と、その前記軸線方向の両側に配置された前記補助磁石との間の距離は、前記主磁石の前記軸線方向の厚みよりも小である請求項2又は3に記載の磁気軸受式ポンプ。
【請求項5】
前記円筒状導体は銅からなる請求項1乃至4のいずれかに記載の磁気軸受式ポンプ。
【請求項1】
液体流路を有するケーシングと、前記ケーシング内に収容されて前記液体流路内の液体を移送するインペラを有するロータと、前記ロータを非接触で支持する磁気軸受とを備えたポンプであって、
前記磁気軸受は、前記ロータに回転軸線が一致するように設けられた透磁性及び導電性を有する円筒状導体と、前記円筒状導体の外周面に対向する状態で周方向に間隔をあけて極性が交互に異なるように設けられた複数の主磁石を有するステータとを備えていることを特徴とする磁気軸受式ポンプ。
【請求項2】
前記ステータには、前記各主磁石の前記回転軸線方向の両側に前記主磁石と逆極性となる補助磁石が、周方向に間隔をあけて複数設けられている請求項1に記載の磁気軸受式ポンプ。
【請求項3】
前記補助磁石は前記主磁石よりも磁力が小である請求項2に記載の磁気軸受式ポンプ。
【請求項4】
前記主磁石と、その前記軸線方向の両側に配置された前記補助磁石との間の距離は、前記主磁石の前記軸線方向の厚みよりも小である請求項2又は3に記載の磁気軸受式ポンプ。
【請求項5】
前記円筒状導体は銅からなる請求項1乃至4のいずれかに記載の磁気軸受式ポンプ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2008−50980(P2008−50980A)
【公開日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−227026(P2006−227026)
【出願日】平成18年8月23日(2006.8.23)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2006年3月17日 電気学会主催の「平成18年電気学会全国大会 磁気浮上[磁気軸受]セッション」において文書をもって発表
【出願人】(000107941)セイコー化工機株式会社 (5)
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年8月23日(2006.8.23)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2006年3月17日 電気学会主催の「平成18年電気学会全国大会 磁気浮上[磁気軸受]セッション」において文書をもって発表
【出願人】(000107941)セイコー化工機株式会社 (5)
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【Fターム(参考)】
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