移動農機
【課題】走行中にブレーキ装置を作動させて制動する際、前輪駆動系と後輪駆動系の回転を同調させて、後輪のブレーキ容量を従来に比して小さくすることを可能にする移動農機を提供する。
【解決手段】走行動力伝達機構のフロントデファレンシャル装置292とリヤデファレンシャル装置272の分岐部にセンターデファレンシャル装置252を配置し、リヤデファレンシャル装置出力軸である左右アクスル軸281L・281Rにブレーキ装置282・282を設ける四輪駆動の移動農機において、前記センターデファレンシャル装置252は、デフロック機構260を有し、該デフロック機構260は、運転部2に設けた手動操作具となるデフロックレバー32の操作、もしくは、左右一対のブレーキペダル22L・22Rの同時踏み込みに連動してセンターデファレンシャル装置252を固定又は解除可能とする。
【解決手段】走行動力伝達機構のフロントデファレンシャル装置292とリヤデファレンシャル装置272の分岐部にセンターデファレンシャル装置252を配置し、リヤデファレンシャル装置出力軸である左右アクスル軸281L・281Rにブレーキ装置282・282を設ける四輪駆動の移動農機において、前記センターデファレンシャル装置252は、デフロック機構260を有し、該デフロック機構260は、運転部2に設けた手動操作具となるデフロックレバー32の操作、もしくは、左右一対のブレーキペダル22L・22Rの同時踏み込みに連動してセンターデファレンシャル装置252を固定又は解除可能とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、果樹園に薬剤を散布するスピードスプレーヤ等の移動農機の技術に関し、特にデフロック機構を有するセンターデファレンシャル装置を設けた移動農機の技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、移動農機の一形態として、機体フレームの前部に運転部を配設し、該運転部の後方位置に薬液タンク部を配設し、該薬液タンク部の後方位置にミッション部とエンジンとを配設し、該エンジンの後方位置に薬液散布部を配設したスピードスプレーヤが公知となっている(特許文献1参照)。
また、走行動力伝達機構の前輪駆動系と後輪駆動系の分岐部にセンターデファレンシャル装置を配置し、リヤデファレンシャル装置出力軸である左右アクスル軸にブレーキ装置を設ける四輪駆動車がある。
該四輪駆動車は、センターデファレンシャル装置によって前後輪に連続的にトルクを分配し、旋回時に生じるスリップや横滑りを軽減し、タイヤの摩耗や圃場を傷つけることを低減しようとするものである。さらにセンターデファレンシャル装置を採用した場合、前輪が空転し、前輪駆動軸がある一定回転を超える場合のスリップを防止するために、ワンウェイクラッチを用いたデフロック機構をセンターデファレンシャル装置に並設するものである(特許文献2参照)。このようにデフロック機構をセンターデファレンシャル装置に並設することにより、前輪が空転し、センターデファレンシャル装置の作用により前輪駆動系に動力が多く伝達され、後輪駆動系に動力が十分伝達されないためスリップが発生することを防止することができる。
【特許文献1】特開2005−112077号公報
【特許文献2】特開平5−85213号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、上記従来技術の構造において、走行中に走行機体を停止させようとする場合、ブレーキペダルによりリヤデファレンシャル装置出力軸である左右アクスル軸に設けたブレーキ装置を作動させるが、センターデファレンシャル装置により、後輪駆動系に動力が十分に伝達されない状況にある場合、容量の大きなブレーキ装置を装着する必要があり、コスト的に高くなると共に、部品点数も多くなるという不具合がある。また、後輪のブレーキ装置を容量の小さいもので構成する場合には、前輪駆動系にもブレーキを装着することも考えられるが、この場合も部品点数が多くなり、コスト的にも高くなるという不具合がある。
そこで、本発明はかかる課題に鑑み、走行中にブレーキ装置を作動させて制動する際、前輪駆動系と後輪駆動系の回転を同調させて、後輪のブレーキ容量を従来に比して小さくすることを可能にする移動農機を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
【0005】
即ち、請求項1においては、走行動力伝達機構のフロントデファレンシャル装置とリヤデファレンシャル装置の分岐部にセンターデファレンシャル装置を配置し、リヤデファレンシャル装置出力軸である左右アクスル軸にブレーキ装置を設ける四輪駆動の移動農機において、前記センターデファレンシャル装置は、デフロック機構を有し、該デフロック機構は、運転部に設けた手動操作具の操作、もしくは、左右一対のブレーキペダルの同時踏み込みに連動してセンターデファレンシャル装置を固定又は解除可能とするものである。
【発明の効果】
【0006】
本発明の効果として、以下に示すような効果を奏する。
【0007】
請求項1においては、運転部に設けた手動操作具にてデフロックを入切可能であるため、操作性が向上する。また、左右一対のブレーキペダルを同時に踏み込むことに連動してセンターデファレンシャル装置をデフロックすることができるため、制動時に前輪駆動系と後輪駆動系の回転を同調させることができ、従来技術と比較して容量の小さなブレーキで構成することが可能となり、部品点数を減少させ、コストを低減することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
次に、発明の実施の形態を説明する。
図1は本発明の一実施例に係るスピードスプレーヤの全体的な構成を示した側面図、図2はスピードスプレーヤの平面図、図3は運転部の平面図である。図4は主クラッチの背面図、図5は主クラッチの側面図、図6は伝動機構部の断面側面図、図7はミッション部の断面側面図、図8はリヤアクスル部の断面側面図、図9は動力伝達機構のスケルトン図、図10はデフロック作動機構及びブレーキを示した平面図、図11は駐車ブレーキを示した平面図、図12はデフロック作動機構を示した平面図、図13はリンク機構及びブレーキロッド等を示した前方斜視図、図14はデフロック作動機構を示した側面図、図15はデフロック作動機構の前下方斜視図、図16は出力カムの側面図、図17はリヤアクスルケースの側面図、図18はリヤアクスルケースの平面断面図である。
【0009】
まず、本発明にかかる移動農機の一例であるスピードスプレーヤについて説明する。なお本実施例にかかるスピードスプレーヤは図1の矢印A方向を前方とし、図1中の紙面手前側をスピードスプレーヤの左側面と定義する。
図1及び図2に示すスピードスプレーヤは、機体フレーム1上において、前部に運転部2を配設し、該運転部2の後方位置に薬液タンク部3を配設し、該薬液タンク部3の後方位置にエンジン60を設けた原動機部4とミッション部5と両者を連動連結する伝動機構部6とポンプ等を配設し、これらの後方位置に上記伝動機構部6と連動連結した薬液散布部7を配設している。
【0010】
そして、図1及び図2に示すように、機体フレーム1の前部にフロントアクスル部8を介して左右一対の前車輪9・9を取り付ける一方、前記ミッション部5の後部にリヤアクスル部10を介して左右一対の後車輪11・11を取り付け、上記ミッション部5にドライブシャフト12を介してフロントアクスル部8を連動連結して、前後車輪による四輪駆動が行えるようにしている。
【0011】
[機体フレーム1の説明]
前記機体フレーム1は、図1及び図2に示すように、主として、運転部2とフロントアクスル部8とを支持する前部機体フレーム形成体15と主として薬液タンク部3と原動機部4とミッション部5と伝動機構部6と薬液散布部7とを支持する後部機体フレーム形成体16とから形成しており、前記前部機体フレーム形成体15及び後部機体フレーム形成体16は前後方向に伸延する四角形枠状に形成している。
【0012】
[運転部2の説明]
前記運転部2は、図1及び図2に示すように、前部機体フレーム形成体15の前部に立設したステアリングポスト17にホイール支軸18を介してステアリングホイール19を取り付け、同ステアリングホイール19の後方位置に運転席支持枠体20を介して運転席21を配置している。
次に、運転席21周辺の装置について説明する。運転席21の前方には、図3に示すように、ステアリングホイール19が設けられており、運転席21の右前下方には左右後輪それぞれに対応した右ブレーキペダル22R及び左ブレーキペダル22Lが設けられている。前記右ブレーキペダル22Rにはブレーキ連結コネクタ22aが回動自在に設けられており、左ブレーキペダル22Lと連結することにより、路上走行時などの制動ブレーキとして使用することが可能となっている。また、ブレーキペダル22の右方にはアクセルペダル23が設けられている。一方ステアリングホイール19近傍にはアクセルレバー24が設けられており、エンジン回転数を調節することが可能となっている。また、ステアリングホイール19の左下方にはクラッチペダル25が設けられている。
また、運転席21左側方には薬液ポンプスイッチ26、送風機スイッチ27、補給ポンプランプ28、調圧弁圧力計29、メインコック30、散布コック31、後述するセンターデファレンシャル装置252用デフロック機構260の手動操作具であるデフロックレバー32及び主変速レバー33、副変速レバー34が設けられている。また、運転席の左側には駐車ブレーキレバー35が設けられている。
【0013】
次に、前記主変速レバー33の構造について図4及び図5を用いて説明する。前記主変速レバー33の回動支点であるレバー回動支点ボス40は固定部材40aにより固定されており、該レバー回動支点ボス40の左右両側には摩擦プレート41・41が設けられており、該摩擦プレート41・41の両外側に主変速レバーステー42を設けている。該主変速レバーステー42及び摩擦プレート41・41を両側からロックナット43・43を嵌設した螺子44・44を螺設することにより、左右両側から圧力をかけて摩擦プレート41・41と主変速レバーステー42との間に摩擦力を発生させている。
前記螺子44・44はそれぞれ右螺子で構成する。このように構成することにより、主変速レバー33を前後どちらの方向に動かしても螺子44・44が締まる方向へと回動するためレバー保持力が向上し、レバーが振動して中立状態に戻ることを防止する。
前記螺子44・44を右螺子と左螺子で構成することも可能である。このように構成することにより、前記主変速レバー33を片側に倒した場合のみレバー保持力を向上させることが可能となる。
【0014】
[薬液タンク部3の説明]
前記薬液タンク部3は、図1及び図2に示すように、運転部2の後方にタンク本体50を具備しており、該タンク本体50の天井部に薬液供給用開閉蓋体51を開閉自在に取り付けている。
【0015】
[伝動機構部6の説明]
前記伝動機構部6は、図6及び図9に示すように伝動機構ケース114内にエンジン60の駆動軸(クランク軸)62に取り付けたフライホイール130と、該フライホイール130に連動連結した第一伝動機構131と、フライホイール130にクラッチ機構132を介して連動連結した第二伝動機構133とを設けている。
【0016】
そして、前記伝動機構ケース114は、前半側ケース形成体134と後半側ケース形成体135とを前後方向から取付ボルト136により着脱自在に連結して形成している。
【0017】
また、第一伝動機構131は、図9にも示すように、駆動軸62と同一軸線上に配置したフライホイール130の中心部に、前後方向に軸線を向けた伝動内側軸137の前端部を連動連結すると共に、前半側ケース形成体134内に形成した仕切壁138に伝動内側軸137の中途部を支持させ、かつ、後半側ケース形成体135に伝動内側軸137の後端部を支持させている。
【0018】
そして、第一伝動機構131は、仕切壁138と後半側ケース形成体135との間に、前後方向に軸線を向けた中間軸139を架設し、前半側ケース形成体134と後半側ケース形成体135の下部間に前後方向に軸線を向けた薬液ポンプ駆動用動力取出軸140とミッション部伝動軸141とを、上下方向に平行させて架設すると共に、前半側ケース形成体134より各先端部を前方へ突出させている。
【0019】
また、図6及び図9において、伝動内側軸137の後端部に出力ギヤ144を取り付け、中間軸139の後端部には、前記出力ギヤ144に噛合させる入力ギヤ145を取り付け、中間軸139の前端部には出力ギヤ146を取り付けている。また、前記出力ギヤ146には中間ギヤ147が噛合しており、該中間ギヤ147は仕切壁138と後半側ケース形成体135との間にギヤ支軸148を介して取り付けている。また、前記中間ギヤ147には入力ギヤ149が噛合しており、該入力ギヤ149は薬液ポンプ駆動用動力取出軸140に取り付けている。また、薬液ポンプ駆動用動力取出軸140に出力ギヤ150を取り付けており、前記出力ギヤ150に入力ギヤ151を噛合しており、該入力ギヤ151はミッション部伝動軸141に取り付けている。
【0020】
このようにして、第一伝動機構131では、エンジン60の駆動軸39より駆動されるフライホイール130から動力を伝動内側軸137、出力ギヤ144、入力ギヤ145、中間軸139、出力ギヤ146、中間ギヤ147、入力ギヤ149、薬液ポンプ駆動用動力取出軸140、出力ギヤ150、入力ギヤ151、ミッション部伝動軸141に伝達するようにしている。
【0021】
そして、図9に示すように、前記薬液ポンプ駆動用動力取出軸140の先端部と、薬液ポンプ152の入力軸153の先端部との間にポンプ伝動機構154を介設しており、該ポンプ伝動機構154は、薬液ポンプ駆動用動力取出軸140の先端部と、薬液ポンプ152の入力軸153の先端部との間にプーリ155・156を介して伝動ベルト157を巻回して構成している。
【0022】
前記第二伝動機構133は、前記伝動内側軸137の外周面に筒状の伝動外側軸160を回動自在に嵌合させ、該伝動外側軸160とフライホイール130との間にクラッチ機構132を介設している。
【0023】
前記第二伝動機構133では、仕切壁138と後半側ケース形成体135との間に薬液散布用ファン駆動軸162を架設すると共に、該薬液散布用ファン駆動軸162の先端部163を後半側ケース形成体135より後方へ突出させて、図1に示すように、前記先端部163に伝動シャフト164を介して薬液散布用ファン支軸165を同一軸線上にて連動連結している。
【0024】
また、伝動外側軸160と薬液散布用ファン駆動軸162との間には二段変速機構166を介設しており、該二段変速機構166は、伝動外側軸160に高速側出力ギヤ169と低速側出力ギヤ168を取り付ける一方、前記薬液散布用ファン駆動軸162に、転動ギヤ172を転動自在に取り付けると共に、該転動ギヤ172を前記高速側出力ギヤ169に噛合させ、かつ、転動ギヤ172の後面に内歯ギヤ170を一体的に形成し、また、薬液散布用ファン駆動軸162にスライド体171をスライド自在にスプライン嵌合して、同スライド体171に内歯ギヤ170に貫入して噛合する転動ギヤ172と、前記低速側出力ギヤ168と噛合する大径ギヤ173とを設けて構成している。
【0025】
しかも、薬液散布用ファン駆動軸162の上方に位置する仕切壁138と後半側ケース形成体135との間に、シフトフォーク支軸174をその軸線方向に摺動自在に架設して、該シフトフォーク支軸174の後端部176を後半側ケース形成体135より後方へ突出させて、該後端部176にシフト操作アーム177を取り付けている。178はディテント機構である。
【0026】
このようにして、第二伝動機構133では、エンジン60の駆動軸39により駆動されるフライホイール130から動力をクラッチ機構132、伝動外側軸160、二段変速機構166、薬液散布用ファン駆動軸162、伝動シャフト164、薬液散布用ファン支軸165に伝達するようにしている。
【0027】
[走行ミッション部5の説明]
走行ミッション部5について図7及び図9を用いて説明する。
前記第一伝動機構131のミッション部伝動軸141の先端部は、図7に示すように、伝動ジョイント158を介して多板クラッチ201を有する入力軸202に連動連結している。
また、ミッション部5には、薬液攪拌駆動用動力取出軸203と、第一変速軸204、中間軸205、第二変速軸206とを横架しており、これらの軸はいずれも軸線を前後方向に向けて平行状態に架設している。
前記多板クラッチ201にクラッチ軸207が設けており、該クラッチ軸207には、出力側変速ギヤ208、209、210、211を連動連結して固定しており、それぞれの出力側変速ギヤは前進一速:210、前進二速:209、前進三速:208、後進速:207となっている。前記薬液攪拌駆動出力ギヤ211は薬液攪拌駆動用動力取出軸203に連動連結した入力ギヤ212と噛合している。
また、前記第一変速軸204には主変速機構214を構成する入力側変速ギヤ215a・215b・215c・215dが回転自在に支持され、これら入力側変速ギヤ215a・215b・215c・215dのいずれかに前記出力側変速ギヤ207・208・209・210を、シフタを介して選択的に噛合させて変速するようにしている。
【0028】
中間軸205には、前記第一変速軸204に連動連結した出力ギヤ216と噛合する入力兼出力ギヤ217・218・219が連動連結しており、それぞれの入力兼出力ギヤは低速:219、中速:218、高速217となっている。前記入力兼出力ギヤ217・218・219は第一変速軸204からの動力を第二変速軸206へと伝える。
【0029】
前記第二変速軸206には、副変速機構220を構成して、前記中間軸205に連動連結した入力兼出力ギヤ217・218・219と噛合する、入力側副変速ギヤ221a、221b、221c及び出力ギヤ224が連動連結しており、前記入力側副変速ギヤ221a・221b・221cに入力兼出力ギヤ217・218・219を選択的に噛合させて変速するようにしている。
【0030】
そして、前記第二変速軸206の出力ギヤ224は前後輪駆動軸250・251に設けたセンターデファレンシャル装置252のリングギヤ253に噛合している。該リングギヤ253は、支持体にベアリング254を介して取り付ける一方、デファレンシャルケース255の中央部を取り付けるとともに、該デファレンシャルケース255の端部に前記リングギヤ253の内側面に一体的に連結し、該デファレンシャルケース255に直交する方向に軸線を向けたピニオンシャフト256を介して一対のピニオンギヤ257を取り付け、両ピニオンギヤ257に左右一対のサイドギヤ258・259を噛合させると共に、各サイドギヤ258・259を左右方向に軸線を向け一対の前後輪駆動軸250・251を連動連結させたものである。
【0031】
前記センターデファレンシャル装置252は図7及び図9に示すように、デフロック機構260を有している。前記デフロック機構260は、デフロック軸346、シフトフォーク261、デフロックスライダ262などで構成されている。前記デフロック軸346上にシフトフォーク261が固設されて、該デフロック軸346の回動でデフロックスライダ262を摺動して、デフロック機構260を作動可能としている。
【0032】
前記多板クラッチ201、主変速機構214、副変速機構220及びセンターデファレンシャル装置252、デフロック機構260はミッションケース268内に設けており、ミッションケース268は鋳物などにより一体形成されている。
【0033】
次にリヤアクスル部10について図8及び図9を用いて説明する。
前記後輪駆動軸251の先端部に連動連結したベベルギヤ270がデフケース271内のリヤデファレンシャル装置272のリングギヤ273に噛合している。
前記デフケース271は前記ミッション部5を内設するミッションケース268とは別体で設けている。このように構成することにより、例えば4WS(四輪操舵車)仕様等に変更することが容易に可能となる。
【0034】
前記リヤデファレンシャル装置272において、リングギヤ273は、支持体274にベアリング275を介して取り付ける一方、デファレンシャルケース276の中央部を取り付けるとともに、該デファレンシャルケース276の端部に、前記リングギヤ273の内側面に一体的に連結し前記デファレンシャルケース276に直交する方向に軸線を向けたピニオンシャフト277を介してピニオンギヤ278を取り付け、ピニオンギヤ278に左右一対のサイドギヤ279・280を噛合させると共に、各サイドギヤ279・280から一対の左右リヤアクスルシャフト281L・281Rを連動連結させたものである。前記左右リヤアクスルシャフト281L・281Rはブレーキ装置282・282を有している。前記ブレーキ装置282はリヤアクスルシャフト281L・281Rに嵌設したブレーキ板282a・282aとリヤアクスルケース289に設けられた摩擦板で形成されており、左右それぞれの後車輪11・11を停止させることが可能となっている。前記左右リヤアクスルシャフト281L・281Rの中途部に連動連結した出力ギヤ283と入力ギヤ284が噛合しており、該入力ギヤ284は左右後輪車軸285に連結しており、左右後輪車軸285の端部に左右後輪11・11が設けられている。
【0035】
前記デフケース271の両側には左右後輪車軸285を格納するリヤアクスルケース289・289が固設され、図17及び図18に示すように、該リヤアクスルケース289の前記入力ギヤ284の外周側と対向する内面に一つまたは複数の突起部286が設けられている。該突起部286はブレーキ装置が位置しない外周部に適宜間隔をあけて配置することにより、例えば、メンテナンス時等に後輪11及び後輪車軸285を取り外した場合に、入力ギヤ284が外側へ飛び出すこと及び傾斜する(倒れる)ことを防止する。すなわち、前記入力ギヤ284は前記突起部286及びアクスルシャフト281Lを支持するベアリング281aに当接することにより外側へ移動することを防止できる。
また、図17及び図18に示すように、前記入力ギヤ284を収納する部分のデフケース271の下部内周部には軸心側に突出する突起部287が入力ギヤ284の外周と干渉しない程度に設けられている。このように構成することにより、例えば、メンテナンス時等に後輪11及び後輪車軸285を取り外した場合に、入力ギヤ284がリヤアクスルケース271下方へ落ち込むことを防止する。すなわち、前記入力ギヤ284は前記突起部287及び出力ギヤ283に当接することによりリヤアクスルケース271下側へ落ち込むことを防止し、シール交換等のメンテナンス後に入力ギヤ284に後輪車軸285を容易に挿入することができる。
【0036】
一方、図9に示すように、前輪駆動軸250の先端部に連動連結したベベルギヤ290がフロントアクスルケース291内のフロントデファレンシャル装置292のリングギヤ293に噛合している。前記フロントデファレンシャル装置292は前記リヤデファレンシャル装置272と同様の構造を有している。そして前記フロントデファレンシャル装置292に左右フロントアクスルシャフト294L・294Rを連動連結しており、該左右フロントアクスルシャフト294L・294Rは複数のギヤやシャフトを介して前車輪9・9へと連結している。
【0037】
次に、センターデファレンシャル装置252のデフロック機構260を作動させるためのデフロック作動機構300について、図10乃至図16を用いて説明する。前記デフロック作動機構300はブレーキペダル22L・22R、リンク機構312L・312R、ブレーキロッド318L・318Rと連結されている。ここでは、左右のブレーキペダルの構造はほぼ同様であるので、左側のブレーキペダル22Lについて説明する。
【0038】
まず、ブレーキペダル22Lからブレーキ装置282を作動させて制動するためのブレーキアーム301への伝達について図10及び図12を用いて説明する。前記ブレーキペダル22Lを踏み込むと、リンク機構312Lが前方へと移動することとなる。該リンク機構312Lの後部にはアーム313Lが枢結され、該アーム313Lの基部(下部)は枢支軸339(図14参照)に回転自在に枢支された連結パイプ314Lの一端(内側端)に固設され、他端にはステー316Lを突設してブレーキロッド318Lの前端を枢支している。該ブレーキロッド318Lの後端にブレーキアーム301が枢結されている。
また、前記ブレーキアーム301の基部はブレーキ軸に固設され、該ブレーキアーム301の回動により、図8に示すブレーキ装置282Lが作動して、前記リヤアクスルシャフト281Lを制動して後車輪11を停止する構成としている。
【0039】
前記リンク機構312Lの後部に連結したアーム313L・313Rの間にイコライザ機構320が構成されている。該イコライザ機構320は左右のアーム313L・313Rと、該アーム313L・313Rの前部に形成したカム部313a・313aに当接する左右一対のローラー324・324と、該ローラー324・324を回転自在に支持する支持軸325と、該支持軸325に直交して固設した軸326と、該軸326を枢支するステー327と、該ステー327を固設して前記枢支軸339(図14参照)に枢支されるボス321等を備える。前記カム部313aは段付円弧状に段部313bを構成し、段部にローラー324の下部が当接するように構成している。つまり、カム部313aは、前方へ回転した際に、前記段部313bがローラー324を前方へ押すように構成している。
【0040】
このような構成において、図13に示すように、左右一方のブレーキペダル22を踏み込むと、リンク機構312が前方へと移動し、該リンク機構312と連結したアーム313と該アーム313を固設した連結パイプ314とが枢支軸339を軸に前方へ回動し、前記連結パイプ314の他端に突設したステー316が連結パイプ314と一体的に回動して、前記ステー316に連結したブレーキロッド318が前方に移動することにより制動が行われる。このとき、アーム313に当接したローラー324は支持軸325を軸に回動しながら、支持軸325自体に前方へ押す力を伝達するが、支持軸325は直交する軸326を中心に傾倒するためステー327は回動されない。しかし、左右両側のブレーキペダル22L・22Rを同時に踏み込むと、左右両側のブレーキロッド318が前方に移動して左右のブレーキ装置を作動して制動し、同時に、左右のアーム313L・313Rが同量回動し、カム部313a・313aに当接した左右のローラー324・324は同時に同じ力で押されることで、支持軸325は傾倒することなく前方に押されて、ステー327は回動することになる。
【0041】
該ステー327を固設したボス321の後面にはステー331が後方に突設され、該ステー331の後部(先端)には連結リンク332が枢結されている。一方、前記枢支軸339の後方であって平行に、枢支軸335が横架され、該枢支軸335に支持パイプ334が回転自在に外嵌され、該支持パイプ334の左右一端にアーム333が前方に突設され、該アーム333の先端に前記連結リンク322の下部が枢結されている。
そして、前記支持パイプ334の左右他側に第一アーム323が下方に突設され、該第一アーム323の上下中途部の後部にバネ336の一端が係止され、該バネ336の他端は後方へ延出して機体に係止され、該バネ336の付勢力により第一アーム323が後方へ回動するように付勢している。
【0042】
また、図14に示すように、前記枢支軸335上には前記支持パイプ334の他側端の側部にボス337・338が並列に外嵌され、該ボス337から下方に第二アーム329と第三アーム342が平行に突設され、ボス338から下方に第四アーム341が突設され、該第二アーム329と第三アーム342と第四アーム341と前記第一アーム323は略同じ形状として平行に配設されている。
【0043】
そして、前記第二アーム329と第三アーム342の下端には連結杆330の前端が枢支されている。つまり、第二アーム329と第三アーム342の下部間に連結杆330を配置してこれらを枢支ピン330aで連結している。図14に示すように、該連結杆330の後部はバネ343を介してデフロックアーム344の下部に連結されている。該デフロックアーム344の中途部にはデフロック軸346が固設され、図7に示すように、該デフロック軸346はミッションケース268内に挿入されている。また、図7及び図9に示すように、該ミッションケース268内のデフロック軸346上にシフトフォーク261が固設されて、該デフロック軸346の回動でデフロックスライダ262を摺動して、デフロック機構260を作動可能としている。前記デフロックアーム344の上部にはバネ347が係止され、デフロック解除方向に付勢している。
【0044】
また、前記前記第二アーム329と第三アーム342の上下中途部には、図16に示すように、枢支軸335を中心とした円弧状の長孔329a・342aがそれぞれ同位置に開口されている。一方、前記第一アーム323と第四アーム341の上下中途部には連動ピン323a・341aがそれぞれ前記長孔329a・342aに挿入するように、側方へ同一軸心上となるように突設している。こうして融通機構が形成されている。
【0045】
前記第四アーム341の下端には、連結ワイヤー340の一端が係止され、該連結ワイヤー340の他端は前記運転席21の近傍に設けたデフロックレバー32と連結されている。
【0046】
このような構成において、デフロックレバー32を前方へ回動することにより、デフロックレバー32と連動連結した連結ワイヤー340は前方へ移動し、第四アーム341を前方に回動する。この第四アーム341の回動により連動ピン341aも前方へ回動し、該連動ピン341aは第三アーム342の長孔342aの前端に当接して第二アーム329と第三アーム342が前方へ回動され、連結杆330を介してデフロックアーム344を回動し、デフロック機構260を作動させることができる。このとき、連動ピン323aは長孔329a内を摺動し、第一アーム323は回動されることはなく、ブレーキも作動されない。
つまり、デフロックレバー32の回動により、デフロック機構260を作動させることはできるが、融通機構によりブレーキ装置282L・282Rやブレーキペダル22L・22Rには影響を与えない構成としている。
【0047】
また、左右両方のブレーキペダル22L・22Rを踏むと、前述の如く、リンク機構312及びイコライザ機構320を介して支持パイプ334が回動され、第一アーム323が前方に回動される。この回動により、連動ピン323aが長孔329aの前端に当接して第二アーム329と第三アーム342が前方へ回動され、連結杆330を介してデフロックアーム344を回動し、左右のブレーキ装置282L・282Rの作動と同時にデフロック機構260を作動させることができる。このとき、連動ピン341aは長孔342a内を摺動し、第四アーム341は回動されることはなく、デフロックレバー32が回動されることもないのである。なお、左右一方のブレーキペダル22L・22Rを踏んだ場合には、前述の如く、左右一方のブレーキ装置282L・282Rが作動して制動され、イコライザ機構320により回動力が第一アーム323に伝えられず、デフロック機構260も作動することはない。
なお、本実施例ではデフロック機構260を操作する手段としてデフロックレバー32を用いているが、センターデフロックペダルを設けても良い。
【0048】
また、図10及び図11に示すように、前記駐車ブレーキレバー35はステー35aに連結されており,前記ステー35aは回動軸36に軸支された連結パイプ37の端部(外側端)に固設されており、前記連結パイプ37の他端には図示せぬステーを介してリンク機構345が連結されており、該リンク機構345の前端には前記リンク機構312L・312Rの前部に当接可能に配置され、駐車ブレーキレバー35を引くことによって左右の前記リンク機構312L・312Rが前方に押されて左右のブレーキ装置282L・282Rが作動して制動する構成としている。
【0049】
このように構成することにより、直進走行時に、後輪ブレーキで制動した場合、トルクが過剰に前輪に流れてしまうことを防ぐことが可能となる。そのため、後輪ブレーキの容量を小さくすることが可能となる。また、前輪に制動手段を設けずとも後輪ブレーキのみで直進走行時に制動することが可能となる。
【0050】
また、左右両方のブレーキを作動させたときにのみデフロック機構260が作動するように構成したことにより、後輪が制動されて回転が止まると前輪の回転も止まるようになり、制動力をアップすることができ、安定した姿勢で止まることが可能となる。また、旋回時に左右一方のみのブレーキを使用すると、センターデファレンシャル装置252が作動することとなり、トルクがフロントアクスル部とリヤアクスル部に分配されることとなり、旋回駆動力が前輪にも伝えられて、前輪が空転し、センターデファレンシャル装置の作用により前輪駆動系に動力が多く伝達され、後輪駆動系に動力が十分伝達されないためスリップが発生することを防止することができる。
【0051】
[薬液散布部7の説明]
前記薬液散布部7は、図1及び図2に示すように、前後方向に軸線を向けた前記薬液散布用ファン支軸165に薬液散布用ファン(図示せず)を取り付け、該薬液散布用ファンの前方位置に導風体351を対向状態に配置し、該導風体351の外周部に多数の薬液散布用ノズル352を円周方向に間隔を開けて配置している。
【0052】
このようにして、薬液散布用ファンを回転させて、該薬液散布用ファンより生起される送風を導風体351を介して外周方向に案内すると共に、各薬液散布用ノズル352に薬液タンク部3のタンク本体50に貯留している薬液を薬液ポンプ152より圧送して、各薬液散布用ノズル190より散布される薬液を送風により広く外周に散布することができるようにしている。
【0053】
以上のように、本発明にかかる移動農機は、走行動力伝達機構のフロントデファレンシャル装置292とリヤデファレンシャル装置272の分岐部にセンターデファレンシャル装置252を配置し、リヤデファレンシャル装置出力軸である左右アクスル軸281L・281Rにブレーキ装置282・282を設ける四輪駆動の移動農機において、前記センターデファレンシャル装置252は、デフロック機構260を有し、該デフロック機構260は、運転部2に設けた手動操作具となるデフロックレバー32の操作、もしくは、左右一対のブレーキペダル22L・22Rの同時踏み込みに連動してセンターデファレンシャル装置252を固定又は解除可能とするものである。このように構成することにより、運転部に設けた手動操作具にてデフロックを入切可能であるため、操作性が向上する。また、左右一対のブレーキペダルを同時に踏み込むことに連動してセンターデファレンシャル装置をデフロックすることができるため、制動時に前輪駆動系と後輪駆動系の回転を同調させることができ、従来技術と比較して容量の小さなブレーキで構成することが可能となり、部品点数を減少させ、コストを低減することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明の一実施例に係るスピードスプレーヤの全体的な構成を示した側面図。
【図2】スピードスプレーヤの平面図。
【図3】運転部の平面図。
【図4】主クラッチの背面図。
【図5】主クラッチの側面図。
【図6】伝動機構部の断面側面図。
【図7】ミッション部の断面側面図。
【図8】リヤアクスル部の断面側面図。
【図9】動力伝達機構のスケルトン図。
【図10】デフロック作動機構及びブレーキを示した平面図。
【図11】駐車ブレーキを示した平面図。
【図12】デフロック作動機構を示した平面図。
【図13】リンク機構及びブレーキロッド等を示した前方斜視図。
【図14】デフロック作動機構を示した側面図。
【図15】デフロック作動機構の前下方斜視図。
【図16】出力カムの側面図。
【図17】リヤアクスルケースの側面図。
【図18】リヤアクスルケースの平面断面図。
【符号の説明】
【0055】
1 機体フレーム
2 運転部
3 薬液タンク部
4 原動機部
5 ミッション部
6 伝動機構部
7 薬液散布部
22L・22R ブレーキペダル
252 センターデファレンシャル装置
260 デフロック機構
300 デフロック作動機構
【技術分野】
【0001】
本発明は、果樹園に薬剤を散布するスピードスプレーヤ等の移動農機の技術に関し、特にデフロック機構を有するセンターデファレンシャル装置を設けた移動農機の技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、移動農機の一形態として、機体フレームの前部に運転部を配設し、該運転部の後方位置に薬液タンク部を配設し、該薬液タンク部の後方位置にミッション部とエンジンとを配設し、該エンジンの後方位置に薬液散布部を配設したスピードスプレーヤが公知となっている(特許文献1参照)。
また、走行動力伝達機構の前輪駆動系と後輪駆動系の分岐部にセンターデファレンシャル装置を配置し、リヤデファレンシャル装置出力軸である左右アクスル軸にブレーキ装置を設ける四輪駆動車がある。
該四輪駆動車は、センターデファレンシャル装置によって前後輪に連続的にトルクを分配し、旋回時に生じるスリップや横滑りを軽減し、タイヤの摩耗や圃場を傷つけることを低減しようとするものである。さらにセンターデファレンシャル装置を採用した場合、前輪が空転し、前輪駆動軸がある一定回転を超える場合のスリップを防止するために、ワンウェイクラッチを用いたデフロック機構をセンターデファレンシャル装置に並設するものである(特許文献2参照)。このようにデフロック機構をセンターデファレンシャル装置に並設することにより、前輪が空転し、センターデファレンシャル装置の作用により前輪駆動系に動力が多く伝達され、後輪駆動系に動力が十分伝達されないためスリップが発生することを防止することができる。
【特許文献1】特開2005−112077号公報
【特許文献2】特開平5−85213号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、上記従来技術の構造において、走行中に走行機体を停止させようとする場合、ブレーキペダルによりリヤデファレンシャル装置出力軸である左右アクスル軸に設けたブレーキ装置を作動させるが、センターデファレンシャル装置により、後輪駆動系に動力が十分に伝達されない状況にある場合、容量の大きなブレーキ装置を装着する必要があり、コスト的に高くなると共に、部品点数も多くなるという不具合がある。また、後輪のブレーキ装置を容量の小さいもので構成する場合には、前輪駆動系にもブレーキを装着することも考えられるが、この場合も部品点数が多くなり、コスト的にも高くなるという不具合がある。
そこで、本発明はかかる課題に鑑み、走行中にブレーキ装置を作動させて制動する際、前輪駆動系と後輪駆動系の回転を同調させて、後輪のブレーキ容量を従来に比して小さくすることを可能にする移動農機を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
【0005】
即ち、請求項1においては、走行動力伝達機構のフロントデファレンシャル装置とリヤデファレンシャル装置の分岐部にセンターデファレンシャル装置を配置し、リヤデファレンシャル装置出力軸である左右アクスル軸にブレーキ装置を設ける四輪駆動の移動農機において、前記センターデファレンシャル装置は、デフロック機構を有し、該デフロック機構は、運転部に設けた手動操作具の操作、もしくは、左右一対のブレーキペダルの同時踏み込みに連動してセンターデファレンシャル装置を固定又は解除可能とするものである。
【発明の効果】
【0006】
本発明の効果として、以下に示すような効果を奏する。
【0007】
請求項1においては、運転部に設けた手動操作具にてデフロックを入切可能であるため、操作性が向上する。また、左右一対のブレーキペダルを同時に踏み込むことに連動してセンターデファレンシャル装置をデフロックすることができるため、制動時に前輪駆動系と後輪駆動系の回転を同調させることができ、従来技術と比較して容量の小さなブレーキで構成することが可能となり、部品点数を減少させ、コストを低減することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
次に、発明の実施の形態を説明する。
図1は本発明の一実施例に係るスピードスプレーヤの全体的な構成を示した側面図、図2はスピードスプレーヤの平面図、図3は運転部の平面図である。図4は主クラッチの背面図、図5は主クラッチの側面図、図6は伝動機構部の断面側面図、図7はミッション部の断面側面図、図8はリヤアクスル部の断面側面図、図9は動力伝達機構のスケルトン図、図10はデフロック作動機構及びブレーキを示した平面図、図11は駐車ブレーキを示した平面図、図12はデフロック作動機構を示した平面図、図13はリンク機構及びブレーキロッド等を示した前方斜視図、図14はデフロック作動機構を示した側面図、図15はデフロック作動機構の前下方斜視図、図16は出力カムの側面図、図17はリヤアクスルケースの側面図、図18はリヤアクスルケースの平面断面図である。
【0009】
まず、本発明にかかる移動農機の一例であるスピードスプレーヤについて説明する。なお本実施例にかかるスピードスプレーヤは図1の矢印A方向を前方とし、図1中の紙面手前側をスピードスプレーヤの左側面と定義する。
図1及び図2に示すスピードスプレーヤは、機体フレーム1上において、前部に運転部2を配設し、該運転部2の後方位置に薬液タンク部3を配設し、該薬液タンク部3の後方位置にエンジン60を設けた原動機部4とミッション部5と両者を連動連結する伝動機構部6とポンプ等を配設し、これらの後方位置に上記伝動機構部6と連動連結した薬液散布部7を配設している。
【0010】
そして、図1及び図2に示すように、機体フレーム1の前部にフロントアクスル部8を介して左右一対の前車輪9・9を取り付ける一方、前記ミッション部5の後部にリヤアクスル部10を介して左右一対の後車輪11・11を取り付け、上記ミッション部5にドライブシャフト12を介してフロントアクスル部8を連動連結して、前後車輪による四輪駆動が行えるようにしている。
【0011】
[機体フレーム1の説明]
前記機体フレーム1は、図1及び図2に示すように、主として、運転部2とフロントアクスル部8とを支持する前部機体フレーム形成体15と主として薬液タンク部3と原動機部4とミッション部5と伝動機構部6と薬液散布部7とを支持する後部機体フレーム形成体16とから形成しており、前記前部機体フレーム形成体15及び後部機体フレーム形成体16は前後方向に伸延する四角形枠状に形成している。
【0012】
[運転部2の説明]
前記運転部2は、図1及び図2に示すように、前部機体フレーム形成体15の前部に立設したステアリングポスト17にホイール支軸18を介してステアリングホイール19を取り付け、同ステアリングホイール19の後方位置に運転席支持枠体20を介して運転席21を配置している。
次に、運転席21周辺の装置について説明する。運転席21の前方には、図3に示すように、ステアリングホイール19が設けられており、運転席21の右前下方には左右後輪それぞれに対応した右ブレーキペダル22R及び左ブレーキペダル22Lが設けられている。前記右ブレーキペダル22Rにはブレーキ連結コネクタ22aが回動自在に設けられており、左ブレーキペダル22Lと連結することにより、路上走行時などの制動ブレーキとして使用することが可能となっている。また、ブレーキペダル22の右方にはアクセルペダル23が設けられている。一方ステアリングホイール19近傍にはアクセルレバー24が設けられており、エンジン回転数を調節することが可能となっている。また、ステアリングホイール19の左下方にはクラッチペダル25が設けられている。
また、運転席21左側方には薬液ポンプスイッチ26、送風機スイッチ27、補給ポンプランプ28、調圧弁圧力計29、メインコック30、散布コック31、後述するセンターデファレンシャル装置252用デフロック機構260の手動操作具であるデフロックレバー32及び主変速レバー33、副変速レバー34が設けられている。また、運転席の左側には駐車ブレーキレバー35が設けられている。
【0013】
次に、前記主変速レバー33の構造について図4及び図5を用いて説明する。前記主変速レバー33の回動支点であるレバー回動支点ボス40は固定部材40aにより固定されており、該レバー回動支点ボス40の左右両側には摩擦プレート41・41が設けられており、該摩擦プレート41・41の両外側に主変速レバーステー42を設けている。該主変速レバーステー42及び摩擦プレート41・41を両側からロックナット43・43を嵌設した螺子44・44を螺設することにより、左右両側から圧力をかけて摩擦プレート41・41と主変速レバーステー42との間に摩擦力を発生させている。
前記螺子44・44はそれぞれ右螺子で構成する。このように構成することにより、主変速レバー33を前後どちらの方向に動かしても螺子44・44が締まる方向へと回動するためレバー保持力が向上し、レバーが振動して中立状態に戻ることを防止する。
前記螺子44・44を右螺子と左螺子で構成することも可能である。このように構成することにより、前記主変速レバー33を片側に倒した場合のみレバー保持力を向上させることが可能となる。
【0014】
[薬液タンク部3の説明]
前記薬液タンク部3は、図1及び図2に示すように、運転部2の後方にタンク本体50を具備しており、該タンク本体50の天井部に薬液供給用開閉蓋体51を開閉自在に取り付けている。
【0015】
[伝動機構部6の説明]
前記伝動機構部6は、図6及び図9に示すように伝動機構ケース114内にエンジン60の駆動軸(クランク軸)62に取り付けたフライホイール130と、該フライホイール130に連動連結した第一伝動機構131と、フライホイール130にクラッチ機構132を介して連動連結した第二伝動機構133とを設けている。
【0016】
そして、前記伝動機構ケース114は、前半側ケース形成体134と後半側ケース形成体135とを前後方向から取付ボルト136により着脱自在に連結して形成している。
【0017】
また、第一伝動機構131は、図9にも示すように、駆動軸62と同一軸線上に配置したフライホイール130の中心部に、前後方向に軸線を向けた伝動内側軸137の前端部を連動連結すると共に、前半側ケース形成体134内に形成した仕切壁138に伝動内側軸137の中途部を支持させ、かつ、後半側ケース形成体135に伝動内側軸137の後端部を支持させている。
【0018】
そして、第一伝動機構131は、仕切壁138と後半側ケース形成体135との間に、前後方向に軸線を向けた中間軸139を架設し、前半側ケース形成体134と後半側ケース形成体135の下部間に前後方向に軸線を向けた薬液ポンプ駆動用動力取出軸140とミッション部伝動軸141とを、上下方向に平行させて架設すると共に、前半側ケース形成体134より各先端部を前方へ突出させている。
【0019】
また、図6及び図9において、伝動内側軸137の後端部に出力ギヤ144を取り付け、中間軸139の後端部には、前記出力ギヤ144に噛合させる入力ギヤ145を取り付け、中間軸139の前端部には出力ギヤ146を取り付けている。また、前記出力ギヤ146には中間ギヤ147が噛合しており、該中間ギヤ147は仕切壁138と後半側ケース形成体135との間にギヤ支軸148を介して取り付けている。また、前記中間ギヤ147には入力ギヤ149が噛合しており、該入力ギヤ149は薬液ポンプ駆動用動力取出軸140に取り付けている。また、薬液ポンプ駆動用動力取出軸140に出力ギヤ150を取り付けており、前記出力ギヤ150に入力ギヤ151を噛合しており、該入力ギヤ151はミッション部伝動軸141に取り付けている。
【0020】
このようにして、第一伝動機構131では、エンジン60の駆動軸39より駆動されるフライホイール130から動力を伝動内側軸137、出力ギヤ144、入力ギヤ145、中間軸139、出力ギヤ146、中間ギヤ147、入力ギヤ149、薬液ポンプ駆動用動力取出軸140、出力ギヤ150、入力ギヤ151、ミッション部伝動軸141に伝達するようにしている。
【0021】
そして、図9に示すように、前記薬液ポンプ駆動用動力取出軸140の先端部と、薬液ポンプ152の入力軸153の先端部との間にポンプ伝動機構154を介設しており、該ポンプ伝動機構154は、薬液ポンプ駆動用動力取出軸140の先端部と、薬液ポンプ152の入力軸153の先端部との間にプーリ155・156を介して伝動ベルト157を巻回して構成している。
【0022】
前記第二伝動機構133は、前記伝動内側軸137の外周面に筒状の伝動外側軸160を回動自在に嵌合させ、該伝動外側軸160とフライホイール130との間にクラッチ機構132を介設している。
【0023】
前記第二伝動機構133では、仕切壁138と後半側ケース形成体135との間に薬液散布用ファン駆動軸162を架設すると共に、該薬液散布用ファン駆動軸162の先端部163を後半側ケース形成体135より後方へ突出させて、図1に示すように、前記先端部163に伝動シャフト164を介して薬液散布用ファン支軸165を同一軸線上にて連動連結している。
【0024】
また、伝動外側軸160と薬液散布用ファン駆動軸162との間には二段変速機構166を介設しており、該二段変速機構166は、伝動外側軸160に高速側出力ギヤ169と低速側出力ギヤ168を取り付ける一方、前記薬液散布用ファン駆動軸162に、転動ギヤ172を転動自在に取り付けると共に、該転動ギヤ172を前記高速側出力ギヤ169に噛合させ、かつ、転動ギヤ172の後面に内歯ギヤ170を一体的に形成し、また、薬液散布用ファン駆動軸162にスライド体171をスライド自在にスプライン嵌合して、同スライド体171に内歯ギヤ170に貫入して噛合する転動ギヤ172と、前記低速側出力ギヤ168と噛合する大径ギヤ173とを設けて構成している。
【0025】
しかも、薬液散布用ファン駆動軸162の上方に位置する仕切壁138と後半側ケース形成体135との間に、シフトフォーク支軸174をその軸線方向に摺動自在に架設して、該シフトフォーク支軸174の後端部176を後半側ケース形成体135より後方へ突出させて、該後端部176にシフト操作アーム177を取り付けている。178はディテント機構である。
【0026】
このようにして、第二伝動機構133では、エンジン60の駆動軸39により駆動されるフライホイール130から動力をクラッチ機構132、伝動外側軸160、二段変速機構166、薬液散布用ファン駆動軸162、伝動シャフト164、薬液散布用ファン支軸165に伝達するようにしている。
【0027】
[走行ミッション部5の説明]
走行ミッション部5について図7及び図9を用いて説明する。
前記第一伝動機構131のミッション部伝動軸141の先端部は、図7に示すように、伝動ジョイント158を介して多板クラッチ201を有する入力軸202に連動連結している。
また、ミッション部5には、薬液攪拌駆動用動力取出軸203と、第一変速軸204、中間軸205、第二変速軸206とを横架しており、これらの軸はいずれも軸線を前後方向に向けて平行状態に架設している。
前記多板クラッチ201にクラッチ軸207が設けており、該クラッチ軸207には、出力側変速ギヤ208、209、210、211を連動連結して固定しており、それぞれの出力側変速ギヤは前進一速:210、前進二速:209、前進三速:208、後進速:207となっている。前記薬液攪拌駆動出力ギヤ211は薬液攪拌駆動用動力取出軸203に連動連結した入力ギヤ212と噛合している。
また、前記第一変速軸204には主変速機構214を構成する入力側変速ギヤ215a・215b・215c・215dが回転自在に支持され、これら入力側変速ギヤ215a・215b・215c・215dのいずれかに前記出力側変速ギヤ207・208・209・210を、シフタを介して選択的に噛合させて変速するようにしている。
【0028】
中間軸205には、前記第一変速軸204に連動連結した出力ギヤ216と噛合する入力兼出力ギヤ217・218・219が連動連結しており、それぞれの入力兼出力ギヤは低速:219、中速:218、高速217となっている。前記入力兼出力ギヤ217・218・219は第一変速軸204からの動力を第二変速軸206へと伝える。
【0029】
前記第二変速軸206には、副変速機構220を構成して、前記中間軸205に連動連結した入力兼出力ギヤ217・218・219と噛合する、入力側副変速ギヤ221a、221b、221c及び出力ギヤ224が連動連結しており、前記入力側副変速ギヤ221a・221b・221cに入力兼出力ギヤ217・218・219を選択的に噛合させて変速するようにしている。
【0030】
そして、前記第二変速軸206の出力ギヤ224は前後輪駆動軸250・251に設けたセンターデファレンシャル装置252のリングギヤ253に噛合している。該リングギヤ253は、支持体にベアリング254を介して取り付ける一方、デファレンシャルケース255の中央部を取り付けるとともに、該デファレンシャルケース255の端部に前記リングギヤ253の内側面に一体的に連結し、該デファレンシャルケース255に直交する方向に軸線を向けたピニオンシャフト256を介して一対のピニオンギヤ257を取り付け、両ピニオンギヤ257に左右一対のサイドギヤ258・259を噛合させると共に、各サイドギヤ258・259を左右方向に軸線を向け一対の前後輪駆動軸250・251を連動連結させたものである。
【0031】
前記センターデファレンシャル装置252は図7及び図9に示すように、デフロック機構260を有している。前記デフロック機構260は、デフロック軸346、シフトフォーク261、デフロックスライダ262などで構成されている。前記デフロック軸346上にシフトフォーク261が固設されて、該デフロック軸346の回動でデフロックスライダ262を摺動して、デフロック機構260を作動可能としている。
【0032】
前記多板クラッチ201、主変速機構214、副変速機構220及びセンターデファレンシャル装置252、デフロック機構260はミッションケース268内に設けており、ミッションケース268は鋳物などにより一体形成されている。
【0033】
次にリヤアクスル部10について図8及び図9を用いて説明する。
前記後輪駆動軸251の先端部に連動連結したベベルギヤ270がデフケース271内のリヤデファレンシャル装置272のリングギヤ273に噛合している。
前記デフケース271は前記ミッション部5を内設するミッションケース268とは別体で設けている。このように構成することにより、例えば4WS(四輪操舵車)仕様等に変更することが容易に可能となる。
【0034】
前記リヤデファレンシャル装置272において、リングギヤ273は、支持体274にベアリング275を介して取り付ける一方、デファレンシャルケース276の中央部を取り付けるとともに、該デファレンシャルケース276の端部に、前記リングギヤ273の内側面に一体的に連結し前記デファレンシャルケース276に直交する方向に軸線を向けたピニオンシャフト277を介してピニオンギヤ278を取り付け、ピニオンギヤ278に左右一対のサイドギヤ279・280を噛合させると共に、各サイドギヤ279・280から一対の左右リヤアクスルシャフト281L・281Rを連動連結させたものである。前記左右リヤアクスルシャフト281L・281Rはブレーキ装置282・282を有している。前記ブレーキ装置282はリヤアクスルシャフト281L・281Rに嵌設したブレーキ板282a・282aとリヤアクスルケース289に設けられた摩擦板で形成されており、左右それぞれの後車輪11・11を停止させることが可能となっている。前記左右リヤアクスルシャフト281L・281Rの中途部に連動連結した出力ギヤ283と入力ギヤ284が噛合しており、該入力ギヤ284は左右後輪車軸285に連結しており、左右後輪車軸285の端部に左右後輪11・11が設けられている。
【0035】
前記デフケース271の両側には左右後輪車軸285を格納するリヤアクスルケース289・289が固設され、図17及び図18に示すように、該リヤアクスルケース289の前記入力ギヤ284の外周側と対向する内面に一つまたは複数の突起部286が設けられている。該突起部286はブレーキ装置が位置しない外周部に適宜間隔をあけて配置することにより、例えば、メンテナンス時等に後輪11及び後輪車軸285を取り外した場合に、入力ギヤ284が外側へ飛び出すこと及び傾斜する(倒れる)ことを防止する。すなわち、前記入力ギヤ284は前記突起部286及びアクスルシャフト281Lを支持するベアリング281aに当接することにより外側へ移動することを防止できる。
また、図17及び図18に示すように、前記入力ギヤ284を収納する部分のデフケース271の下部内周部には軸心側に突出する突起部287が入力ギヤ284の外周と干渉しない程度に設けられている。このように構成することにより、例えば、メンテナンス時等に後輪11及び後輪車軸285を取り外した場合に、入力ギヤ284がリヤアクスルケース271下方へ落ち込むことを防止する。すなわち、前記入力ギヤ284は前記突起部287及び出力ギヤ283に当接することによりリヤアクスルケース271下側へ落ち込むことを防止し、シール交換等のメンテナンス後に入力ギヤ284に後輪車軸285を容易に挿入することができる。
【0036】
一方、図9に示すように、前輪駆動軸250の先端部に連動連結したベベルギヤ290がフロントアクスルケース291内のフロントデファレンシャル装置292のリングギヤ293に噛合している。前記フロントデファレンシャル装置292は前記リヤデファレンシャル装置272と同様の構造を有している。そして前記フロントデファレンシャル装置292に左右フロントアクスルシャフト294L・294Rを連動連結しており、該左右フロントアクスルシャフト294L・294Rは複数のギヤやシャフトを介して前車輪9・9へと連結している。
【0037】
次に、センターデファレンシャル装置252のデフロック機構260を作動させるためのデフロック作動機構300について、図10乃至図16を用いて説明する。前記デフロック作動機構300はブレーキペダル22L・22R、リンク機構312L・312R、ブレーキロッド318L・318Rと連結されている。ここでは、左右のブレーキペダルの構造はほぼ同様であるので、左側のブレーキペダル22Lについて説明する。
【0038】
まず、ブレーキペダル22Lからブレーキ装置282を作動させて制動するためのブレーキアーム301への伝達について図10及び図12を用いて説明する。前記ブレーキペダル22Lを踏み込むと、リンク機構312Lが前方へと移動することとなる。該リンク機構312Lの後部にはアーム313Lが枢結され、該アーム313Lの基部(下部)は枢支軸339(図14参照)に回転自在に枢支された連結パイプ314Lの一端(内側端)に固設され、他端にはステー316Lを突設してブレーキロッド318Lの前端を枢支している。該ブレーキロッド318Lの後端にブレーキアーム301が枢結されている。
また、前記ブレーキアーム301の基部はブレーキ軸に固設され、該ブレーキアーム301の回動により、図8に示すブレーキ装置282Lが作動して、前記リヤアクスルシャフト281Lを制動して後車輪11を停止する構成としている。
【0039】
前記リンク機構312Lの後部に連結したアーム313L・313Rの間にイコライザ機構320が構成されている。該イコライザ機構320は左右のアーム313L・313Rと、該アーム313L・313Rの前部に形成したカム部313a・313aに当接する左右一対のローラー324・324と、該ローラー324・324を回転自在に支持する支持軸325と、該支持軸325に直交して固設した軸326と、該軸326を枢支するステー327と、該ステー327を固設して前記枢支軸339(図14参照)に枢支されるボス321等を備える。前記カム部313aは段付円弧状に段部313bを構成し、段部にローラー324の下部が当接するように構成している。つまり、カム部313aは、前方へ回転した際に、前記段部313bがローラー324を前方へ押すように構成している。
【0040】
このような構成において、図13に示すように、左右一方のブレーキペダル22を踏み込むと、リンク機構312が前方へと移動し、該リンク機構312と連結したアーム313と該アーム313を固設した連結パイプ314とが枢支軸339を軸に前方へ回動し、前記連結パイプ314の他端に突設したステー316が連結パイプ314と一体的に回動して、前記ステー316に連結したブレーキロッド318が前方に移動することにより制動が行われる。このとき、アーム313に当接したローラー324は支持軸325を軸に回動しながら、支持軸325自体に前方へ押す力を伝達するが、支持軸325は直交する軸326を中心に傾倒するためステー327は回動されない。しかし、左右両側のブレーキペダル22L・22Rを同時に踏み込むと、左右両側のブレーキロッド318が前方に移動して左右のブレーキ装置を作動して制動し、同時に、左右のアーム313L・313Rが同量回動し、カム部313a・313aに当接した左右のローラー324・324は同時に同じ力で押されることで、支持軸325は傾倒することなく前方に押されて、ステー327は回動することになる。
【0041】
該ステー327を固設したボス321の後面にはステー331が後方に突設され、該ステー331の後部(先端)には連結リンク332が枢結されている。一方、前記枢支軸339の後方であって平行に、枢支軸335が横架され、該枢支軸335に支持パイプ334が回転自在に外嵌され、該支持パイプ334の左右一端にアーム333が前方に突設され、該アーム333の先端に前記連結リンク322の下部が枢結されている。
そして、前記支持パイプ334の左右他側に第一アーム323が下方に突設され、該第一アーム323の上下中途部の後部にバネ336の一端が係止され、該バネ336の他端は後方へ延出して機体に係止され、該バネ336の付勢力により第一アーム323が後方へ回動するように付勢している。
【0042】
また、図14に示すように、前記枢支軸335上には前記支持パイプ334の他側端の側部にボス337・338が並列に外嵌され、該ボス337から下方に第二アーム329と第三アーム342が平行に突設され、ボス338から下方に第四アーム341が突設され、該第二アーム329と第三アーム342と第四アーム341と前記第一アーム323は略同じ形状として平行に配設されている。
【0043】
そして、前記第二アーム329と第三アーム342の下端には連結杆330の前端が枢支されている。つまり、第二アーム329と第三アーム342の下部間に連結杆330を配置してこれらを枢支ピン330aで連結している。図14に示すように、該連結杆330の後部はバネ343を介してデフロックアーム344の下部に連結されている。該デフロックアーム344の中途部にはデフロック軸346が固設され、図7に示すように、該デフロック軸346はミッションケース268内に挿入されている。また、図7及び図9に示すように、該ミッションケース268内のデフロック軸346上にシフトフォーク261が固設されて、該デフロック軸346の回動でデフロックスライダ262を摺動して、デフロック機構260を作動可能としている。前記デフロックアーム344の上部にはバネ347が係止され、デフロック解除方向に付勢している。
【0044】
また、前記前記第二アーム329と第三アーム342の上下中途部には、図16に示すように、枢支軸335を中心とした円弧状の長孔329a・342aがそれぞれ同位置に開口されている。一方、前記第一アーム323と第四アーム341の上下中途部には連動ピン323a・341aがそれぞれ前記長孔329a・342aに挿入するように、側方へ同一軸心上となるように突設している。こうして融通機構が形成されている。
【0045】
前記第四アーム341の下端には、連結ワイヤー340の一端が係止され、該連結ワイヤー340の他端は前記運転席21の近傍に設けたデフロックレバー32と連結されている。
【0046】
このような構成において、デフロックレバー32を前方へ回動することにより、デフロックレバー32と連動連結した連結ワイヤー340は前方へ移動し、第四アーム341を前方に回動する。この第四アーム341の回動により連動ピン341aも前方へ回動し、該連動ピン341aは第三アーム342の長孔342aの前端に当接して第二アーム329と第三アーム342が前方へ回動され、連結杆330を介してデフロックアーム344を回動し、デフロック機構260を作動させることができる。このとき、連動ピン323aは長孔329a内を摺動し、第一アーム323は回動されることはなく、ブレーキも作動されない。
つまり、デフロックレバー32の回動により、デフロック機構260を作動させることはできるが、融通機構によりブレーキ装置282L・282Rやブレーキペダル22L・22Rには影響を与えない構成としている。
【0047】
また、左右両方のブレーキペダル22L・22Rを踏むと、前述の如く、リンク機構312及びイコライザ機構320を介して支持パイプ334が回動され、第一アーム323が前方に回動される。この回動により、連動ピン323aが長孔329aの前端に当接して第二アーム329と第三アーム342が前方へ回動され、連結杆330を介してデフロックアーム344を回動し、左右のブレーキ装置282L・282Rの作動と同時にデフロック機構260を作動させることができる。このとき、連動ピン341aは長孔342a内を摺動し、第四アーム341は回動されることはなく、デフロックレバー32が回動されることもないのである。なお、左右一方のブレーキペダル22L・22Rを踏んだ場合には、前述の如く、左右一方のブレーキ装置282L・282Rが作動して制動され、イコライザ機構320により回動力が第一アーム323に伝えられず、デフロック機構260も作動することはない。
なお、本実施例ではデフロック機構260を操作する手段としてデフロックレバー32を用いているが、センターデフロックペダルを設けても良い。
【0048】
また、図10及び図11に示すように、前記駐車ブレーキレバー35はステー35aに連結されており,前記ステー35aは回動軸36に軸支された連結パイプ37の端部(外側端)に固設されており、前記連結パイプ37の他端には図示せぬステーを介してリンク機構345が連結されており、該リンク機構345の前端には前記リンク機構312L・312Rの前部に当接可能に配置され、駐車ブレーキレバー35を引くことによって左右の前記リンク機構312L・312Rが前方に押されて左右のブレーキ装置282L・282Rが作動して制動する構成としている。
【0049】
このように構成することにより、直進走行時に、後輪ブレーキで制動した場合、トルクが過剰に前輪に流れてしまうことを防ぐことが可能となる。そのため、後輪ブレーキの容量を小さくすることが可能となる。また、前輪に制動手段を設けずとも後輪ブレーキのみで直進走行時に制動することが可能となる。
【0050】
また、左右両方のブレーキを作動させたときにのみデフロック機構260が作動するように構成したことにより、後輪が制動されて回転が止まると前輪の回転も止まるようになり、制動力をアップすることができ、安定した姿勢で止まることが可能となる。また、旋回時に左右一方のみのブレーキを使用すると、センターデファレンシャル装置252が作動することとなり、トルクがフロントアクスル部とリヤアクスル部に分配されることとなり、旋回駆動力が前輪にも伝えられて、前輪が空転し、センターデファレンシャル装置の作用により前輪駆動系に動力が多く伝達され、後輪駆動系に動力が十分伝達されないためスリップが発生することを防止することができる。
【0051】
[薬液散布部7の説明]
前記薬液散布部7は、図1及び図2に示すように、前後方向に軸線を向けた前記薬液散布用ファン支軸165に薬液散布用ファン(図示せず)を取り付け、該薬液散布用ファンの前方位置に導風体351を対向状態に配置し、該導風体351の外周部に多数の薬液散布用ノズル352を円周方向に間隔を開けて配置している。
【0052】
このようにして、薬液散布用ファンを回転させて、該薬液散布用ファンより生起される送風を導風体351を介して外周方向に案内すると共に、各薬液散布用ノズル352に薬液タンク部3のタンク本体50に貯留している薬液を薬液ポンプ152より圧送して、各薬液散布用ノズル190より散布される薬液を送風により広く外周に散布することができるようにしている。
【0053】
以上のように、本発明にかかる移動農機は、走行動力伝達機構のフロントデファレンシャル装置292とリヤデファレンシャル装置272の分岐部にセンターデファレンシャル装置252を配置し、リヤデファレンシャル装置出力軸である左右アクスル軸281L・281Rにブレーキ装置282・282を設ける四輪駆動の移動農機において、前記センターデファレンシャル装置252は、デフロック機構260を有し、該デフロック機構260は、運転部2に設けた手動操作具となるデフロックレバー32の操作、もしくは、左右一対のブレーキペダル22L・22Rの同時踏み込みに連動してセンターデファレンシャル装置252を固定又は解除可能とするものである。このように構成することにより、運転部に設けた手動操作具にてデフロックを入切可能であるため、操作性が向上する。また、左右一対のブレーキペダルを同時に踏み込むことに連動してセンターデファレンシャル装置をデフロックすることができるため、制動時に前輪駆動系と後輪駆動系の回転を同調させることができ、従来技術と比較して容量の小さなブレーキで構成することが可能となり、部品点数を減少させ、コストを低減することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明の一実施例に係るスピードスプレーヤの全体的な構成を示した側面図。
【図2】スピードスプレーヤの平面図。
【図3】運転部の平面図。
【図4】主クラッチの背面図。
【図5】主クラッチの側面図。
【図6】伝動機構部の断面側面図。
【図7】ミッション部の断面側面図。
【図8】リヤアクスル部の断面側面図。
【図9】動力伝達機構のスケルトン図。
【図10】デフロック作動機構及びブレーキを示した平面図。
【図11】駐車ブレーキを示した平面図。
【図12】デフロック作動機構を示した平面図。
【図13】リンク機構及びブレーキロッド等を示した前方斜視図。
【図14】デフロック作動機構を示した側面図。
【図15】デフロック作動機構の前下方斜視図。
【図16】出力カムの側面図。
【図17】リヤアクスルケースの側面図。
【図18】リヤアクスルケースの平面断面図。
【符号の説明】
【0055】
1 機体フレーム
2 運転部
3 薬液タンク部
4 原動機部
5 ミッション部
6 伝動機構部
7 薬液散布部
22L・22R ブレーキペダル
252 センターデファレンシャル装置
260 デフロック機構
300 デフロック作動機構
【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行動力伝達機構のフロントデファレンシャル装置とリヤデファレンシャル装置の分岐部にセンターデファレンシャル装置を配置し、リヤデファレンシャル装置出力軸である左右アクスル軸にブレーキ装置を設ける四輪駆動の移動農機において、前記センターデファレンシャル装置は、デフロック機構を有し、該デフロック機構は、運転部に設けた手動操作具の操作、もしくは、左右一対のブレーキペダルの同時踏み込みに連動してセンターデファレンシャル装置を固定又は解除可能とすることを特徴とする移動農機。
【請求項1】
走行動力伝達機構のフロントデファレンシャル装置とリヤデファレンシャル装置の分岐部にセンターデファレンシャル装置を配置し、リヤデファレンシャル装置出力軸である左右アクスル軸にブレーキ装置を設ける四輪駆動の移動農機において、前記センターデファレンシャル装置は、デフロック機構を有し、該デフロック機構は、運転部に設けた手動操作具の操作、もしくは、左右一対のブレーキペダルの同時踏み込みに連動してセンターデファレンシャル装置を固定又は解除可能とすることを特徴とする移動農機。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【公開番号】特開2008−279866(P2008−279866A)
【公開日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−124954(P2007−124954)
【出願日】平成19年5月9日(2007.5.9)
【出願人】(000006781)ヤンマー株式会社 (3,810)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年5月9日(2007.5.9)
【出願人】(000006781)ヤンマー株式会社 (3,810)
【Fターム(参考)】
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