説明

移動農機

【課題】旋回時において自動的に旋回用ブレーキ機構を作動させ制動調整することが可能となる移動農機を提供する。
【解決手段】走行動力伝達機構のフロントデファレンシャル装置292とリヤデファレンシャル装置272の分岐部にセンターデファレンシャル装置252を配置し、リヤデファレンシャル装置出力軸である左右アクスル軸281L・281Rにブレーキ装置282・282を設ける四輪駆動の移動農機において、センターデファレンシャル装置252からリヤデファレンシャル装置272に動力を伝達する伝動経路251中途部に、旋回時に後輪駆動系に制動を付与することができるブレーキ機構300を設け、前記ブレーキ機構300はステアリングホイール19の回転角度が一定角度以上になった場合に自動的に制動状態となるように構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、果樹園に薬剤を散布するスピードスプレーヤ等の移動農機の技術に関し、特にデフロック機構を有するセンターデファレンシャル装置を設けた移動農機の技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、移動農機の一形態として、機体フレームの前部に運転部を配設し、該運転部の後方位置に薬液タンク部を配設し、該薬液タンク部の後方位置にミッション部とエンジンとを配設し、該エンジンの後方位置に薬液散布部を配設したスピードスプレーヤが公知となっている(特許文献1参照)。
また、走行動力伝達機構の前輪駆動系と後輪駆動系の分岐部にセンターデファレンシャル装置を配置し、リヤデファレンシャル装置出力軸である左右アクスル軸にブレーキ装置を設ける四輪駆動車がある。
該四輪駆動車は、前記センターデファレンシャル装置と後輪駆動系のリヤデファレンシャル装置との間に運転部側から制動調整可能に操作される旋回用ブレーキ機構を設けている(特許文献2参照)。
これにより、設定周速比によって前輪と後輪が回転し牽引するとき、ブレーキ機構を操作し後輪駆動系に任意な制動力を付与し、後輪を減速回転させると共に前輪を増速回転することにより、圃場の状況や作業者の好みにより前輪と後輪の周速を選択し、任意な速度で旋回することが可能となっている。
【特許文献1】特開2005−112077号公報
【特許文献2】特開2006−130972号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、上記従来技術の構造において、旋回時は常に作業者が旋回用ブレーキ機構を操作するための操作具を操作しなくてはならず、作業性が悪いという不具合を有している。また、旋回用ブレーキによる制動調整は経験を必要とし、作業者が不慣れな場合には、旋回用ブレーキ機構を手動操作することは困難であった。
そこで本発明はかかる課題に鑑み、旋回時において自動的に旋回用ブレーキ機構を作動させ制動調整することが可能となる移動農機を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
【0005】
即ち、請求項1においては、走行動力伝達機構のフロントデファレンシャル装置とリヤデファレンシャル装置の分岐部にセンターデファレンシャル装置を配置し、リヤデファレンシャル装置出力軸である左右アクスル軸にブレーキ装置を設ける四輪駆動の移動農機において、センターデファレンシャル装置からリヤデファレンシャル装置に動力を伝達する伝動経路中途部に、旋回時に後輪駆動系に制動を付与することができるブレーキ機構を設け、前記ブレーキ機構はステアリングホイールの回転角度が一定角度以上になった場合に自動的に制動状態となるように構成したものである。
【0006】
また、請求項2においては、前記ブレーキ機構は、油圧式または電気式のアクチュエータによりブレーキの制動力を制御すると共に、ブレーキの制動力を調整可能であるものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明の効果として、以下に示すような効果を奏する。
【0008】
請求項1においては、ステアリングの回転角度が一定角度以上となった場合に自動的に制動状態となるようにしたことから、旋回時の作業者の操作を簡素化することができ、快適に作業をすることができる。
【0009】
請求項2においては、圃場条件や作業者の好みによって、前車輪と後車輪の周速を容易に設定することができると共に、旋回操作時は常に同じ状態を再現することが可能となり、作業者の操作が容易になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
次に、発明の実施の形態を説明する。
図1は本発明の一実施例に係るスピードスプレーヤの全体的な構成を示した側面図、図2はスピードスプレーヤの平面図、図3は運転部の平面図である。図4は主クラッチの背面図、図5は主クラッチの側面図、図6は伝動機構部の断面側面図、図7はミッション部の断面側面図、図8はリヤアクスル部の断面側面図、図9は動力伝達機構のスケルトン図、図10は後輪駆動軸ブレーキの制御装置を示すブロック図である。
【0011】
まず、本発明にかかる移動農機の一例であるスピードスプレーヤについて説明する。なお本実施例にかかるスピードスプレーヤは図1の矢印A方向を前方とし、図1中の紙面手前側をスピードスプレーヤの左側面と定義する。
図1及び図2に示すスピードスプレーヤは、機体フレーム1上において、前部に運転部2を配設し、該運転部2の後方位置に薬液タンク部3を配設し、該薬液タンク部3の後方位置にエンジン60を設けた原動機部4とミッション部5と両者を連動連結する伝動機構部6とポンプ等を配設し、これらの後方位置に上記伝動機構部6と連動連結した薬液散布部7を配設している。
【0012】
そして、図1及び図2に示すように、機体フレーム1の前部にフロントアクスル部8を介して左右一対の前車輪9・9を取り付ける一方、前記ミッション部5の後部にリヤアクスル部10を介して左右一対の後車輪11・11を取り付け、上記ミッション部5にドライブシャフト12を介してフロントアクスル部8を連動連結して、前後車輪による四輪駆動が行えるようにしている。
【0013】
[機体フレーム1の説明]
前記機体フレーム1は、図1及び図2に示すように、主として、運転部2とフロントアクスル部8とを支持する前部機体フレーム形成体15と主として薬液タンク部3と原動機部4とミッション部5と伝動機構部6と薬液散布部7とを支持する後部機体フレーム形成体16とから形成しており、前記前部機体フレーム形成体15及び後部機体フレーム形成体16は前後方向に伸延する四角形枠上に形成している。
【0014】
[運転部2の説明]
前記運転部2は、図1及び図2に示すように、前部機体フレーム形成体15の前部に立設したステアリングポスト17にホイール支軸18を介してステアリングホイール19を取り付け、同ステアリングホイール19の後方位置に運転席支持枠体20を介して運転席21を配置している。
次に、運転席21周辺の装置について説明する。運転席21の前方には、図3に示すように、ステアリングホイール19が設けられており、運転席21の右前下方には左右後輪それぞれに対応した右ブレーキペダル22R及び左ブレーキペダル22Lが設けられている。前記右ブレーキペダル22Rにはブレーキ連結コネクタ22aが回動自在に設けられており、左ブレーキペダル22Rと連結することにより、路上走行時などの制動ブレーキとして使用することが可能となっている。また、ブレーキペダル22の右方にはアクセルペダル23が設けられている。一方ステアリングホイール19近傍にはアクセルレバー24が設けられており、エンジン回転数を調節することが可能となっている。また、ステアリングホイール19の左下方にはクラッチペダル25が設けられている。
また、運転席21左側方には薬液ポンプスイッチ26、送風機スイッチ27、補給ポンプランプ28、調圧弁圧力計29、メインコック30、散布コック31、後述するセンターデファレンシャル装置252用デフロック機構260の手動操作具であるデフロックレバー32及び主変速レバー33、副変速レバー34が設けられている。また、運転席の左側には駐車ブレーキレバー35が設けられている。
【0015】
次に、前記主変速レバー33の構造について図4及び図5を用いて説明する。前記主変速レバー33の回動支点であるレバー回動支点ボス40は固定部材40aにより固定されており、該レバー回動支点ボス40の左右両側には摩擦プレート41・41が設けられており、該摩擦プレート41・41の両外側に主変速レバーステー42を設けている。該主変速レバーステー42及び摩擦プレート41・41を両側からロックナット43・43を嵌設した螺子44・44を螺設することにより、左右両側から圧力をかけて摩擦プレート41・41と主変速レバーステー42との間に摩擦力を発生させている。
前記螺子44・44はそれぞれ右螺子で構成する。このように構成することにより、主変速レバー33を前後どちらの方向に動かしても螺子44・44が締まる方向へと回動するためレバー保持力が向上し、レバーが振動して中立状態に戻ることを防止する。
前記螺子44・44を右螺子と左螺子で構成することも可能である。このように構成することにより、前記主変速レバー33を片側に倒した場合のみレバー保持力を向上させることが可能となる。
【0016】
[薬液タンク部3の説明]
前記薬液タンク部3は、図1及び図2に示すように、運転部2の後方にタンク本体50を具備しており、該タンク本体50の天井部に薬液供給用開閉蓋体51を開閉自在に取り付けている。
【0017】
[伝動機構部6の説明]
前記伝動機構部6は、図6及び図9に示すように伝動機構ケース114内にエンジン60の駆動軸(クランク軸)62に取り付けたフライホイール130と、該フライホイール130に連動連結した第一伝動機構131と、フライホイール130にクラッチ機構132を介して連動連結した第二伝動機構133とを設けている。
【0018】
そして、前記伝動機構ケース114は、前半側ケース形成体134と後半側ケース形成体135とを前後方向から取付ボルト136により着脱自在に連結して形成している。
【0019】
また、第一伝動機構131は、図9にも示すように、駆動軸62と同一軸線上に配置したフライホイール130の中心部に、前後方向に軸線を向けた伝動内側軸137の前端部を連動連結すると共に、前半側ケース形成体134内に形成した仕切壁138に伝動内側軸137の中途部を支持させ、かつ、後半側ケース形成体135に伝動内側軸137の後端部を支持させている。
【0020】
そして、第一伝動機構131は、仕切壁138と後半側ケース形成体135との間に、前後方向に軸線を向けた中間軸139を架設し、前半側ケース形成体134と後半側ケース形成体135の下部間に前後方向に軸線を向けた薬液ポンプ駆動用動力取出軸140とミッション部伝動軸141とを、上下方向に平行させて架設すると共に、前半側ケース形成体134より各先端部を前方へ突出させている。
【0021】
また、図6及び図9において、伝動内側軸137の後端部に出力ギヤ144を取り付け、中間軸139の後端部には、前記出力ギヤ144に噛合させる入力ギヤ145を取り付け、中間軸139の前端部には出力ギヤ146を取り付けている。また、前記出力ギヤ146には中間ギヤ147が噛合しており、該中間ギヤ147は仕切壁138と後半側ケース形成体135との間にギヤ支軸148を介して取り付けている。また、前記中間ギヤ147には入力ギヤ149が噛合しており、該入力ギヤ149は薬液ポンプ駆動用動力取出軸140に取り付けている。また、薬液ポンプ駆動用動力取出軸140に出力ギヤ150を取り付けており、前記出力ギヤ150に入力ギヤ151を噛合しており、該入力ギヤ151はミッション部伝動軸141に取り付けている。
【0022】
このようにして、第一伝動機構131では、エンジン60の駆動軸39より駆動されるフライホイール130から動力を伝動内側軸137、出力ギヤ144、入力ギヤ145、中間軸139、出力ギヤ146、中間ギヤ147、入力ギヤ149、薬液ポンプ駆動用動力取出軸140、出力ギヤ150、入力ギヤ151、ミッション部伝動軸141に伝達するようにしている。
【0023】
そして、図9に示すように、前記薬液ポンプ駆動用動力取出軸140の先端部と、薬液ポンプ152の入力軸153の先端部との間にポンプ伝動機構154を介設しており、該ポンプ伝動機構154は、薬液ポンプ駆動用動力取出軸140の先端部と、薬液ポンプ152の入力軸153の先端部との間にプーリ155・156を介して伝動ベルト157を巻回して構成している。
【0024】
前記第二伝動機構133は、前記伝動内側軸137の外周面に筒状の伝動外側軸160を回動自在に嵌合させ、該伝動外側軸160とフライホイール130との間にクラッチ機構132を介設している。
【0025】
前記第二伝動機構133では、仕切壁138と後半側ケース形成体135との間に薬液散布用ファン駆動軸162を架設すると共に、該薬液散布用ファン駆動軸162の先端部163を後半側ケース形成体135より後方へ突出させて、図1に示すように、前記先端部163に伝動シャフト164を介して薬液散布用ファン支軸165を同一軸線上にて連動連結している。
【0026】
また、伝動外側軸160と薬液散布用ファン駆動軸162との間には二段変速機構166を介設しており、該二段変速機構166は、伝動外側軸160に高速側出力ギヤ169と低速側出力ギヤ168を取り付ける一方、前記薬液散布用ファン駆動軸162に、転動ギヤ172を転動自在に取り付けると共に、該転動ギヤ172を前記高速側出力ギヤ169に噛合させ、かつ、転動ギヤ172の後面に内歯ギヤ170を一体的に形成し、また、薬液散布用ファン駆動軸162にスライド体171をスライド自在にスプライン嵌合して、同スライド体171に内歯ギヤ170に貫入して噛合する転動ギヤ172と、前記低速側出力ギヤ168と噛合する大径ギヤ173とを設けて構成している。
【0027】
しかも、薬液散布用ファン駆動軸162の上方に位置する仕切壁138と後半側ケース形成体135との間に、シフトフォーク支軸174をその軸線方向に摺動自在に架設して、該シフトフォーク支軸174の後端部176を後半側ケース形成体135より後方へ突出させて、該後端部176にシフト操作アーム177を取り付けている。178はディテント機構である。
【0028】
このようにして、第二伝動機構133では、エンジン60の駆動軸39により駆動されるフライホイール130から動力をクラッチ機構132、伝動外側軸160、二段変速機構166、薬液散布用ファン駆動軸162、伝動シャフト164、薬液散布用ファン支軸165に伝達するようにしている。
【0029】
[走行ミッション部5の説明]
走行ミッション部5について図7及び図9を用いて説明する。
前記第一伝動機構131のミッション部伝動軸141の先端部は、図7に示すように、伝動ジョイント158を介して多板クラッチ201を有する入力軸202に連動連結している。
また、ミッション部5には、薬液攪拌駆動用動力取出軸203と、第一変速軸204、中間軸205、第二変速軸206とを横架しており、これらの軸はいずれも軸線を前後方向に向けて平行状態に架設している。
前記多板クラッチ201にクラッチ軸207が設けており、該クラッチ軸207には、出力側変速ギヤ208、209、210、211を連動連結して固定しており、それぞれの出力側変速ギヤは前進一速:210、前進二速:209、前進三速:208、後進速:207となっている。前記薬液攪拌駆動出力ギヤ211は薬液攪拌駆動用動力取出軸203に連動連結した入力ギヤ212と噛合している。
また、前記第一変速軸204には主変速機構214を構成する入力側変速ギヤ215a・215b・215c・215dが回転自在に支持され、これら入力側変速ギヤ215a・215b・215c・215dのいずれかに前記出力側変速ギヤ207・208・209・210を、シフタを介して選択的に噛合させて変速するようにしている。
【0030】
中間軸205には、前記第一変速軸204に連動連結した出力ギヤ216と噛合する入力兼出力ギヤ217・218・219が連動連結しており、それぞれの入力兼出力ギヤは低速:219、中速:218、高速217となっている。前記入力兼出力ギヤ217・218・219は第一変速軸204からの動力を第二変速軸206へと伝える。
【0031】
そして、前記第二変速軸206の出力ギヤ224は前後輪駆動軸250・251に設けたセンターデファレンシャル装置252のリングギヤ253に噛合している。該リングギヤ253は、支持体にベアリング254を介して取り付ける一方、デファレンシャルケース255の中央部を取り付けるとともに、該デファレンシャルケース255の端部に前記リングギヤ253の内側面に一体的に連結し、該デファレンシャルケース255に直交する方向に軸線を向けたピニオンシャフト256を介して一対のピニオンギヤ257を取り付け、両ピニオンギヤ257に左右一対のサイドギヤ258・259を噛合させると共に、各サイドギヤ258・259を左右方向に軸線を向け一対の前後輪駆動軸250・251を連動連結させたものである。
【0032】
前記センターデファレンシャル装置252は図8及び図9に示すように、デフロック機構260を有している。前記デフロック機構260は、デフロック軸346、シフトフォーク261、デフロックスライダ262などで構成されている。前記デフロック軸346上にシフトフォーク261が固設されて、該デフロック軸346の回動でデフロックスライダ262を摺動して、デフロック機構260を作動可能としている。
また、前記センターデファレンシャル装置252と後輪駆動系のリヤデファレンシャル装置272との間に運転部側から制動調整可能に操作される旋回用ブレーキ機構300を設けている。本実施例では、前記旋回用ブレーキ機構300はディスクブレーキで構成しているが、ディスクブレーキに限定せず、例えばドラムブレーキによって構成することも可能である。
【0033】
前記多板クラッチ201、主変速機構214、副変速機構220及びセンターデファレンシャル装置252、デフロック機構260はミッションケース268内に設けており、ミッションケース268は鋳物などにより一体形成されている。
【0034】
次にリヤアクスル部10について図8及び図9を用いて説明する。
前記後輪駆動軸251の先端部に連動連結したベベルギヤ270がデフケース271内のリヤデファレンシャル装置272のリングギヤ273に噛合している。
前記デフケース271は前記ミッション部5を内設するミッションケース268とは別体で設けている。このように構成することにより、例えば4WS(四輪操舵車)仕様等に変更することが容易に可能となる。
【0035】
前記リヤデファレンシャル装置272において、リングギヤ273は、支持体274にベアリング275を介して取り付ける一方、デファレンシャルケース276の中央部を取り付けるとともに、該デファレンシャルケース276の端部に、前記リングギヤ273の内側面に一体的に連結し前記デファレンシャルケース276に直交する方向に軸線を向けたピニオンシャフト277を介してピニオンギヤ278を取り付け、ピニオンギヤ278に左右一対のサイドギヤ279・280を噛合させると共に、各サイドギヤ279・280から一対の左右リヤアクスルシャフト281L・281Rを連動連結させたものである。前記左右リヤアクスルシャフト281L・281Rはブレーキ装置282・282を有している。前記ブレーキ装置282はリヤアクスルシャフト281L・281Rに嵌設したブレーキ板282a・282aとリヤアクスルケース289に設けられた摩擦板とで形成されており、前記左右リヤアクスルシャフト281L・281Rの中途部に連動連結した出力ギヤ283と入力ギヤ284が噛合しており、該入力ギヤ284は左右後輪車軸285に連結しており、左右後輪車軸285の端部に左右後輪11・11が設けられている。
【0036】
一方、図9に示すように、前輪駆動軸250の先端部に連動連結したベベルギヤ290がフロントアクスルケース291内のフロントデファレンシャル装置292のリングギヤ293に噛合している。前記フロントデファレンシャル装置292は前記リヤデファレンシャル装置272と同様の構造を有している。そして前記フロントデファレンシャル装置292に左右フロントアクスルシャフト294L・294Rを連動連結しており、該左右フロントアクスルシャフト294L・294Rは複数のギヤやシャフトを介して前車輪9・9へと連結している。
【0037】
次に、後輪駆動軸251の中途部に設けた旋回用ブレーキ機構300を用いた前後輪駆動制御について説明する。
前記旋回用ブレーキ機構300は、図7に示すように、後輪駆動軸251に相対回転不能に装着された摩擦板とミッションケース268に設けられた摩擦板とが交互に配置され、該摩擦板をブレーキカム310で押し付けて圧接することにより、後輪駆動軸251の回転を制動する構成としている。該ブレーキカム310を摺動させるためのアクチュエータがミッションケース268の外側に配置されている。該アクチュエータは油圧シリンダまたはモータにより構成している。
【0038】
このような構成において、エンジン60からの動力が変速装置により変速されて、センターデファレンシャル装置252に伝えられる。該センターデファレンシャル装置252において、動力は前輪駆動軸250と後輪駆動軸251に分配して伝えられるが、アクチュエータを作動させて旋回用ブレーキ機構300を作動して制動すると、後輪駆動軸251の回転は減少され、前輪駆動軸250の回転はその分増速される。つまり、前輪増速されることになり、旋回時にアクチュエータを作動させることで、容易に旋回して圃場面を荒らすことなく旋回して旋回半径を減少させることが可能となる。
【0039】
このアクチュエータを作動させる構成について説明する。まず、油圧式のアクチュエータについて説明する。図10に示すように、ステアリングホイール19の回転軸近傍または前輪の左右回転軸の近傍にステアリング回転角度センサ301が配置され、該ステアリング回転角度センサ301は制御装置302と接続されている。該制御装置302には油圧ブレーキシリンダ307への圧油の送油方向を切り換える電磁バルブ306のソレノイド304・305と接続されている。
【0040】
このような構成において、旋回するためにステアリングホイール19を回転し、その回転角度が設定角以上になった場合に自動的に旋回用ブレーキ機構300が制動されるように構成されている。すなわち、ステアリング回転角度センサ301によってステアリングホイール19の回転角度を計測し、制御装置302においてステアリングホイール19の回転角度が設定角度以上であるかどうかを判断する。ステアリングホイール19の回転角度が設定角度以上であるならば、ソレノイド305を作動させて、電磁バルブ306を切り換えて、油圧ブレーキシリンダ307を伸長し、摩擦板をブレーキカム310で押し付けて圧接して(旋回用ブレーキ機構300を作動して)制動させ、前輪増速させるのである。
【0041】
ステアリングホイール19を逆方向に回転し、設定角度以下となると、ソレノイド304を作動させて電磁バルブ306を切り換えて油圧ブレーキシリンダ307を縮小し、制動を解除し、前輪と後輪に動力を伝達するのである。
なお、前記電磁バルブ306は電磁比例弁により構成することも可能である。また、油圧アクチュエータ(油圧ブレーキシリンダ307)を用いる代わりに、電動モータやソレノイド等の電気式アクチュエータを用いることによっても同様の効果を得ることが可能である。
【0042】
このように構成することにより、ステアリングホイール19の回転角度が設定角度以上となった場合に自動的に制動状態となるようにすることが可能となり、旋回時に後車輪11・11を減速回転させる一方前車輪9・9を増速回転させることが可能となるため、旋回半径の小さい旋回をすることが可能となる。これにより、旋回時の作業者の操作を簡素化することができ、快適に作業をすることが可能となる。
【0043】
[薬液散布部7の説明]
前記薬液散布部7は、図1及び図2に示すように、前後方向に軸線を向けた前記薬液散布用ファン支軸165に薬液散布用ファン(図示せず)を取り付け、該薬液散布用ファンの前方位置に導風体351を対向状態に配置し、該導風体351の外周部に多数の薬液散布用ノズル352を円周方向に間隔を開けて配置している。
【0044】
このようにして、薬液散布用ファンを回転させて、該薬液散布用ファンより生起される送風を導風体351を介して外周方向に案内すると共に、各薬液散布用ノズル352に薬液タンク部3のタンク本体50に貯留している薬液を薬液ポンプ152より圧送して、各薬液散布用ノズル190より散布される薬液を送風により広く外周に散布することができるようにしている。
【0045】
以上のように、本発明にかかる移動農機は、走行動力伝達機構のフロントデファレンシャル装置292とリヤデファレンシャル装置272の分岐部にセンターデファレンシャル装置252を配置し、リヤデファレンシャル装置出力軸である左右アクスル軸281L・281Rにブレーキ装置282・282を設ける四輪駆動の移動農機において、センターデファレンシャル装置252からリヤデファレンシャル装置272に動力を伝達する伝動経路251中途部に、旋回時に後輪駆動系に制動を付与することができるブレーキ機構300を設け、前記ブレーキ機構300はステアリングホイール19の回転角度が一定角度以上になった場合に自動的に制動状態となるように構成したものである。このように構成することにより、ステアリングの回転角度が一定角度以上となった場合に自動的に制動状態となるようにしたことから、旋回時の作業者の操作を簡素化することができ、快適に作業をすることができる。
【0046】
また、前記ブレーキ機構は、油圧式または電気式のアクチュエータによりブレーキの制動力を制御すると共に、ブレーキの制動力を調整可能であるものである。このように構成することにより、圃場条件や作業者の好みによって、前車輪と後車輪の周速を容易に設定することができると共に、旋回操作時は常に同じ状態を再現することが可能となり、作業者の操作が容易になる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明の一実施例に係るスピードスプレーヤの全体的な構成を示した側面図。
【図2】スピードスプレーヤの平面図。
【図3】運転部の平面図。
【図4】主クラッチの背面図。
【図5】主クラッチの側面図。
【図6】伝動機構部の断面側面図。
【図7】ミッション部の断面側面図。
【図8】リヤアクスル部の断面側面図。
【図9】動力伝達機構のスケルトン図。
【図10】後輪駆動軸ブレーキの制御装置を示すブロック図。
【符号の説明】
【0048】
1 機体フレーム
2 運転部
3 薬液タンク部
4 原動機部
5 ミッション部
6 伝動機構部
7 薬液散布部
22L・22R ブレーキペダル
252 センターデファレンシャル装置
260 デフロック機構
300 旋回用ブレーキ機構
302 制御装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行動力伝達機構のフロントデファレンシャル装置とリヤデファレンシャル装置の分岐部にセンターデファレンシャル装置を配置し、リヤデファレンシャル装置出力軸である左右アクスル軸にブレーキ装置を設ける四輪駆動の移動農機において、センターデファレンシャル装置からリヤデファレンシャル装置に動力を伝達する伝動経路中途部に、旋回時に後輪駆動系に制動を付与することができるブレーキ機構を設け、前記ブレーキ機構はステアリングホイールの回転角度が一定角度以上になった場合に自動的に制動状態となるように構成したことを特徴とする移動農機。
【請求項2】
前記ブレーキ機構は、油圧式または電気式のアクチュエータによりブレーキの制動力を制御すると共に、ブレーキの制動力を調整可能であることを特徴とする請求項1に記載の移動農機。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−279867(P2008−279867A)
【公開日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−124955(P2007−124955)
【出願日】平成19年5月9日(2007.5.9)
【出願人】(000006781)ヤンマー株式会社 (3,810)
【Fターム(参考)】