説明

移植機

【課題】乗用型田植機等の移植機の機体側部に装着する予備苗載せ台に、より多くの予備苗を載置できるように構成して苗補給作業の効率化を図る。
【解決手段】予備苗載せ台15を機体の左右中心側に向けて所定の傾斜角度で傾斜させた傾斜姿勢で支持すると共に、前記予備苗の長手方向を機体の左右に向けた状態で機体の前後方向に搬送可能に構成することによって、予備苗載せ台15の機体からの突出量を極力少なくし、且つ予備苗載せ台15の全長を延長せずに従来の約2倍の予備苗を当該予備苗載せ台15上に載置できるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、走行機体の側部に畦際から予備苗を連続的に補給するための予備苗載せ台を備えた乗用型田植機等の移植機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、乗用型田植機等の移植機においては、畦際から当該移植機に予備苗を補給する際は、畦際の補助作業者が移植機のオペレータに予備苗を一枚ずつ手渡ししていたが、作業性が極めて悪いことから、その改善策として、畦際から予備苗を連続的に補給することができる折畳み式の予備苗載せ台を機体の側部に配設したものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2005−176680号公報(第4−6頁、図1、図8)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところが、上述した従来の折畳み式の予備苗載せ台は、長方形の予備苗の長手方向を機体の前後に向けた状態で機体の前後方向に順次搬送しようとするものであり、この折畳み式の予備苗載せ台上には、乗用型田植機(移植機)の植え付け条数に対応する枚数程度の予備苗しか一度に載置することができないことから、更に多くの予備苗を当該予備苗載せ台上に載置できるように構成して苗補給作業を効率的に行なえるようにすることが期待されていた。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、上記課題を解決することを目的としたものであって、走行機体の後部に植付作業機を昇降自在に連結し、走行機体の側部に機体前端から前方に突出して畦際から長方形の予備苗を補給できる予備苗載せ台を備えた移植機において、前記予備苗載せ台を機体の左右中心側に向けて所定の傾斜角度で傾斜させた傾斜姿勢で支持すると共に、前記予備苗の長手方向を機体の左右に向けた状態で機体の前後方向に搬送可能に構成したことを第1の特徴としている。
【0005】
そして、前記予備苗載せ台を下方回動させて植付作業機の最大幅以内に収納可能に構成したことを第2の特徴としている。
【発明の効果】
【0006】
請求項1の発明によれば、予備苗載せ台を機体の左右中心側に向けて所定の傾斜角度で傾斜させた傾斜姿勢で支持すると共に、前記予備苗の長手方向を機体の左右に向けた状態で機体の前後方向に搬送可能に構成したことによって、予備苗載せ台の機体からの突出量を極力少なくし、且つ予備苗載せ台の全長を延長せずに従来の約2倍の予備苗を当該予備苗載せ台上に載置できるようになり、苗補給作業の効率化が図れる。
【0007】
そして、請求項2の発明によれば、前記予備苗載せ台を下方回動させて植付作業機の最大幅以内に収納可能に構成したことによって、省スペース化が図れると共に、移植機をトラック等で運搬する際や倉庫に格納する際に、移植機の最大幅部分となる植付作業機から予備苗載せ台が突出することがないので、当該運搬作業や格納作業を支障なく行なうことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
次に、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。図1及び図2は、移植機の一例である4条植えの乗用型田植機11の側面図と平面図であって、この乗用型田植機11は、左右一対の前輪12及び後輪13に支持された走行機体14を有し、その左右一側(本実施例では右側)に詳細は後述する折畳み式の予備苗載せ台15を配設すると共に、他側(左側)には、上下2段の予備苗台を備える予備苗載せ台16を設けている。
【0009】
そして、走行機体14の前側には、ボンネット17で覆われた図示しないエンジンを搭載すると共に、ボンネット17の後方には、ステアリングホイール18、図示しない主変速レバー、及び運転操作パネル19等を備えた操縦部21と、該操縦部21の床面を形成するステップ22、座席23を支持する機体カバー24を設けている。尚、機体カバー24の後部には、走行機体14に支持した平坦な苗補給用ステップ25を設けている。
【0010】
また、走行機体14の後方には、昇降リンク機構26を介して植付作業機27を昇降自在に連結している。植付作業機27は、前高後低状に傾斜して設けた苗載せ台28と、該苗載せ台28から苗を掻取って植え付ける複数の植付杆29を備えた移植装置31と、この移植装置31の下方には、植付け田面を整地するフロート32等を設けているが、これらの基本的な構成は何れも従来通りであり詳細な説明を省略する。
【0011】
そして、ボンネット17の左右両側に形成されているフロントステップ33の右側下方には、走行機体14から外側方に延出させて立ち上げた2本の支柱34f,34rを備えるブラケット34が設けてあり、このブラケット34に、圃場からの段差が大きい畦際の道路や畦から予備苗(マット苗)を連続的に補給することができる折畳み式の予備苗載せ台15を装着している。尚、フロントステップ33の左側下方には、走行機体14から外側方に延出させて立ち上げた一本の支柱56を有し、この支柱56に、苗載せ姿勢から上方に折り畳んだ図示しない格納姿勢に姿勢変更可能な上下2段の予備苗台57,57を装着している。
【0012】
更に詳しくは、上述したブラケット34を構成する2本の支柱34f,34rの上部には、前高後低状の支持パイプ35が固設してあり、この支持パイプ35の前後両端部に嵌装する側面視でコ字状の断面形状を有するホルダ36,36に、図3及び図4に示す如く折畳み式の予備苗載せ台15を構成する固定苗台15aを螺設すると共に、詳細は後述する姿勢保持手段Kを介して、当該固定苗台15aを機体の左右中心側に向けて所定の傾斜角度で傾斜させた傾斜姿勢で支持している。
【0013】
そして、固定苗台15aの前端部の支点P1に可動苗台15bを回動可能に支持してあり、この可動苗台15bは、図1に実線で示すように、固定苗台15a前方のボンネット17より高い位置に展開して走行機体14の前端から大きく突出する展開姿勢状態と、二点鎖線で示すように固定苗台15aの上方に折畳んだ格納姿勢状態に姿勢変更することができるようになっている。
【0014】
尚、可動苗台15bが展開姿勢状態または格納姿勢状態にある時は、この可動苗台15bと固定苗台15aは、上述した支持パイプ35と同様な前高後低の傾斜姿勢に保持されるようになっている。また、可動苗台15bを固定苗台15aの上方に折畳んだ格納姿勢状態において、両苗台15a,15bの夫々に予備苗を載置できるように両苗台15a,15bの上下間隔を設定している。この時可動苗台15bはステアリングホイール18の上方に位置すると共に、当該可動苗台15bの後端部は、座席23の前端とステアリングホイール18の後端との間に収まっている。
【0015】
そして、座席23前側の左右側方には、ステップ22が回り込んで形成されており、このステップ22が回り込んで形成された部分に臨んで、当該ステップ22よりも一段低い位置に補助ステップSが設けてあることから、該補助ステップSを利用して乗用型田植機11のオペレータがステップ22へ乗降しようとする際、可動苗台15bと固定苗台15aが邪魔になることがないのでスムーズな乗降が可能である。
【0016】
また、上述した固定苗台15aと可動苗台15bは、軽量部材であるアルミ合金製の左右の外枠F,F、またはポリアミド(ナイロン)等の熱可塑性樹脂を用いて射出成形した左右の外枠F,F間に、所定の前後間隔で複数の転動ローラ41を取り付けたローラコンベアの形態を採用しており、それによって予備苗を搬送するための所定幅を有する搬送作用面と脱落防止枠を構成している。更に転動ローラ41の長さLは、長方形の予備苗を長手方向に載置できるように設定してあり、図5に示すように、予備苗載せ台15の全長を延長することなく従来の約2倍の予備苗(具体的には二点鎖線で示す6枚の予備苗)Nを当該予備苗載せ台15上に載置できるように構成している。
【0017】
したがって、圃場面からの段差が大きい畦際の道路や畦等から予備苗載せ台15に予備苗Nを補給する際は、従来と同様に、先ず走行機体14の前端から大きく突出する可動苗台15bを、例えば畦際に進入させ、しかる後に予備苗Nが育苗されている方形状の苗箱、あるいは苗箱に育苗されている予備苗Nを図示しない苗スクレーパで掬い取った状態で、予備苗載せ台15の複数の転動ローラ41上を走行機体14の後方に向けて滑らせることにより、当該予備苗Nを畦際から連続的に予備苗載せ台15上に補給することができる。
【0018】
この時、従来は、長方形の予備苗Nの長手方向を機体の前後に向けた状態で機体の前後方向に順次搬送するのに対し、本発明は、長方形の予備苗Nの長手方向を機体の左右に向けた状態で機体の前後方向に順次搬送するものであり、予備苗載せ台15の全長を延長せずに従来の約2倍の予備苗Nを当該予備苗載せ台15上に載置できるようになり、苗補給作業の効率化が図れる。
【0019】
また、可動苗台15bを走行機体14の前端から大きく突出する展開姿勢状態とした時は、この可動苗台15bも固定苗台15aと同様に機体の中心側に所定の下がり傾斜角度で保持されるようになっており、それによって予備苗載せ台15の機体からの突出量を極力少なくすることができる。
【0020】
そして、予備苗Nが育苗されている方形状の苗箱や苗スクレーパで掬い取った状態の予備苗Nを畦際から連続的に予備苗載せ台15上に補給する際は、予備苗載せ台15に備える複数の転動ローラ41上を機体14の後方に向けて滑らせながら搬送するが、上述の如く予備苗載せ台15は、機体の左右中心側に向けて所定の傾斜角度で傾斜させた傾斜姿勢で支持されており、その機体中心側の外枠Fと前記苗箱や苗スクレーパとの摺動抵抗が生じてスムーズな搬送が阻害されるので、図6に示すように、当該外枠Fの内面側に複数のローラ42を設けることにより摺動抵抗の低減を図っている。尚、前記ローラ42に変えて適切なリブを設けてもよい。
【0021】
また、可動苗台15bを固定苗台15aの上方に折畳んだ格納姿勢状態で、両苗台15a,15bを下方移動可能、即ち図2、図7、及び図8に示すように、両苗台15a,15bを下方に折畳むことができるようになっている。
【0022】
更に詳しく説明すると、図3及び図4に示すように、支持パイプ35の後端部に嵌装して固定苗台15aの後部を支持する側面視でコ字状の断面形状を有するホルダ36には、このホルダ36の一側に固設したボス36aに貫通すると共に、支持パイプ35側に固設した固定苗台15aの前後の位置決め手段を兼ねるプレート35aに係止するL字状のロックピン45を設けている。
【0023】
そして、このロックピン45は、その先端部がプレート35aに穿設した係止孔H1,H2のうち、何れか一方の孔に常時は係止させることができるように圧縮スプリング46を介して付勢している。即ち、前記ロックピン45、圧縮スプリング46、及び係止孔H1,H2によって固定苗台15aの姿勢保持手段Kを構成しており、図3及び図4に示すように、ロックピン45の先端をプレート35aに穿設した係止孔H1に係止させた固定苗台15aの姿勢保持状態、即ち予備苗載せ台15を機体の中心側に所定の下がり傾斜角度で保持した状態で、可動苗台15bを展開姿勢状態と格納姿勢状態とに姿勢変更することができる。
【0024】
また、可動苗台15bを固定苗台15aの上方に折畳んだ格納姿勢状態において、上述した係止孔H1に対するロックピン45の係止を解除することにより、両苗台15a,15bを支持パイプ35を支点として一体に下方回動させ、次いでロックピン45の先端をプレート35aに穿設した係止孔H2に係止することによって、両苗台15a,15bを図2、図7、及び図8に示すように下方に折畳むことができるように構成している。
【0025】
そして、図示するように可動苗台15bと固定苗台15aを一体に下方に折畳んだ状態では、両苗台15a,15bの上部は、ステアリングホイール18と略同じ高さに位置すると共に、両苗台15a,15bを下方に折畳む前の横幅よりも折畳んだ後の横幅のほうが狭くなるので、詳細は後述する植付作業機27の最大幅以内に両苗台15a,15bを収納することができる。
【0026】
尚、上述したように可動苗台15bを固定苗台15aの上方に折畳んだ格納姿勢状態から、両苗台15a,15bを一体に下方に折畳む時は、固定苗台15aの前端部の支点P1に回動可能に支持されている可動苗台15bが、当該支点P1を中心として外側に開くことがないように、図示しない固定フックやゴムバンド等を用いた適切な開き防止手段を設けることが好ましい。
【0027】
以上説明したように折畳み式の予備苗載せ台15を構成することによって、乗用型田植機11を比較的高速で路上走行させる際や、乗用型田植機11を凹凸の大きい圃場へ出入りさせる場合には、当該予備苗載せ台15を下方に移動させておけば走行機体14の重心位置を下げることができ、乗用型田植機11の安全且つ安定した走行が可能になる。そして、本実施例の如く植付条数の少ない4条植えの乗用型田植機11のように、前後輪12,13の輪距が狭い走行機体14を有する小型の移植機であっても、その転倒角が低下することを回避可能であり、特に走行機体14の左右一側にのみに折畳み式の予備苗載せ台15を設ける場合には極めて有効である。
【0028】
また、可動苗台15bと固定苗台15aを一体に下方に折畳み(下方回動)可能に構成したことにより、図2に示すように、両苗台15a,15bを植付作業機27の最大幅以内、即ち左右一対のエプロンガード51,51よりも内側に両苗台15a,15bを収納することができると共に、両苗台15a,15bの先端が走行機体14の前端から突出することがないので省スペース化が図れる。したがって、乗用型田植機11をトラック等で運搬する際や倉庫に格納する際に、乗用型田植機11の最大幅部分となる植付作業機27から両苗台15a,15bが突出することがないので、当該運搬作業や格納作業を支障なく行なうことができる。
【0029】
そして、可動苗台15bと固定苗台15aを下方に折畳んだ状態の時も、乗用型田植機11のオペレータは、ステップ22よりも一段低い位置に設けられた補助ステップSを利用して、支障なく当該ステップ22へ乗降することができる。尚、可動苗台15bと固定苗台15aを一体に折畳むことなく下方移動させるには、折畳み式の予備苗載せ台15を装着する2本の支柱34f,34rを上下に伸縮自在に構成することによっても可能である。
【0030】
ところで、固定苗台15aの姿勢保持手段Kを構成する係止孔H1,H2を穿設したプレート35aに、ロックピン45が係止可能な図示しない更なる係止孔を穿設することによって、固定苗台15aの保持姿勢を図4に示す状態よりも、更に機体の中心側に下がり傾斜で保持できるように構成すれば、乗用型田植機11のオペレータが予備苗載せ台15から予備苗を取り出して後方の苗載せ台28に供給する際、この予備苗を手で持ち易くなり作業性が向上する。
【0031】
尚、上述した予備苗載せ台15を装着するブラケット34の走行機体14側、即ちフロントステップ33側には、図示しない苗箱に育苗されている予備苗を掬い取る苗スクレーパを収容可能な籠状の収納具55取り付けている。
【0032】
また、図9及び図10に示すように、予備苗載せ台15を支持するブラケット34の基部と固定苗台15aの最外側下面とに連結するスライド式のステー61を設け、このステー61を介して予備苗載せ台15を機体の左右中心側に向けて所定の傾斜角度で傾斜させた傾斜姿勢で支持できるように構成してもよい。更に詳しくは、スライド式のステー61は、ブラケット34の基部に連結する下部ステー61aと固定苗台15aの最外側下面に連結する上部ステー61bとを備え、この上部ステー61bにスライド調節用の長穴H3を形成すると共に、下部ステー61aの先端側には、前記長穴H3に挿通して両ステー61a,61bを固定するノブ付ボルト62を螺設できるように構成している。
【0033】
即ち、図9に示す状態は、予備苗載せ台15が略水平状態となるように長穴H3の略中間部でスライド式のステー61を調節固定したものであり、また図10に示す状態は、上部ステー61bを図中B矢印方向に引き上げて、長穴H3の下端とノブ付ボルト62を当接させた状態で下部ステー61aと上部ステー61bを固定したものであり、それによって当該予備苗載せ台15を機体の左右中心側に向けて所定の傾斜角度で傾斜させた傾斜姿勢で支持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】乗用型田植機の側面図。
【図2】乗用型田植機の平面図。
【図3】固定苗台の装着構成を示す一部省略側面図。
【図4】図3におけるA矢視図(姿勢保持手段の構成を示す正面図)。
【図5】予備苗載せ台上に予備苗を載置した状態を示す一部省略平面図。
【図6】予備苗載せ台に備える転動ローラの構成を示す乗用型田植機の側面図。
【図7】予備苗載せ台を下方に折畳んだ状態を示す乗用型田植機の側面図。
【図8】予備苗載せ台を下方に折畳んだ状態を示す一部省略正面図。
【図9】予備苗載せ台を略水平姿勢に保持した状態を示す一部省略正面図。
【図10】予備苗載せ台を下がり傾斜姿勢で保持した状態を示す一部省略平面図。
【符号の説明】
【0035】
14 走行機体
15 載せ台
27 植付作業機
N 予備苗

【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行機体(14)の後部に植付作業機(27)を昇降自在に連結し、走行機体(14)の側部に機体前端から前方に突出して畦際から長方形の予備苗(N)を補給できる予備苗載せ台(15)を備えた移植機において、前記予備苗載せ台(15)を機体の左右中心側に向けて所定の傾斜角度で傾斜させた傾斜姿勢で支持すると共に、前記予備苗(N)の長手方向を機体の左右に向けた状態で機体の前後方向に搬送可能に構成したことを特徴とする移植機。
【請求項2】
前記予備苗載せ台(15)を下方回動させて植付作業機(27)の最大幅以内に収納可能に構成した請求項1に記載の移植機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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