説明

穂先竿及びその製造方法

【課題】 穂先竿の表面に刻設される螺旋状の条痕の捩じれ方向に工夫を凝らすことによって、巻き付き難くかつ巻き付いても解け易い外ガイド付き穂先竿を提供する。
【解決手段】 マンドレルにプリプレグシートを巻回して竿素材を形成し、その竿素材に対して螺旋状に成形テープを巻き付けたものを焼成するとともに、焼成後に成形テープを剥がすことによって螺旋状の条痕bを残し、剥がした後にバフ研磨仕上処理を施す。成形テープを竿素材に螺旋状に巻き付ける巻き付け方向を、スプール14Cに釣り糸aを巻き付けて釣り糸aを巻き取っていくスピニングリール14の釣り糸巻取り方向と反対方向に設定してある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、竿体の外面に釣り糸ガイドを備え、前記竿体の表面に螺旋状の条痕を形成している穂先竿及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
穂先竿の製造工程は次ぎのようになっている。マンドレルにプリプレグシートを巻回して竿素材を形成するとともに、その竿素材に対して螺旋状に成形テープを巻き付けたものを、焼成するとともに、焼成後に成形テープを剥がし、剥がした後に仕上処理を施す方法を採っている(特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】特開平9−172912号公報(公報段落番号〔0002〕、〔0022〕)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記した製造方法において、成形テープを剥がした後には、竿体の表面に成形テープを巻き付けた螺旋状の条痕が残される。この条痕を仕上処理の段階で削り取り平滑に表面処理することは、条痕内に位置する強化繊維を切断することによって強度低下を来たすことになる一方、デザイン上の見地より、条痕の表面だけに研磨処理を施した状態で、条痕が残る方法を採ることもある。
一方、スピニングリールを装着する釣り竿では、釣り糸をスプールに巻き付けて巻き取るために、釣り糸に巻き癖が付けられている。そうすると、魚を釣り上げる際に、釣り糸の張力が低下し過ぎて弛みが大きく生じた場合には、図7(イ)に示すように、その弛みを生じた部分adが巻き癖によって自己螺旋を形成する。その螺旋状となった輪部分は風等の影響を受けて、図7(ロ)に示すように、トップガイド13に近い輪部分aaからトップガイド13と、スピニングリール14から繰り出された糸acとを覆う状態で通過し、穂先竿1に絡み付くことがあった。
上記した場合においては、巻き上げ操作や仕掛けの投入が旨く行かなくなるものであるが、螺旋状の条痕の捩じれ方向が、釣り糸aに付けられた巻き癖方向と同方向に設定してあると、穂先竿1に釣り糸aが巻き付き易くかつ巻き付いた場合には解け難い状態となるところから、改善の余地が残されていた。
【0005】
本発明の目的は、穂先竿の表面に刻設される螺旋状の条痕の捩じれ方向に工夫を凝らすことによって、絡み付きや巻き付きが少なくかつ絡み付きや巻き付いても解け易い穂先竿を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
〔構成〕
請求項1に係る発明の特徴構成は、外面に釣り糸ガイドを備え、前記外面に製造工程時に形成される螺旋状の条痕の捩じれ方向を、スプールに釣り糸を巻き付けてその釣り糸を巻き取っていくスピニングリールの釣り糸巻付方向と反対方向に設定してある点にあり、その作用効果は次の通りである。
【0007】
〔作用〕
つまり、条痕の捩じれ方向を、スピニングリールの釣り糸巻付方向と反対方向に設定することによって、穂先竿にトップガイドに近い輪部分より被覆されて絡み付こうとする釣り糸が絡み付き難く、かつ、絡み付いても容易に外れ易くなる。
【0008】
〔効果〕
これによって、糸の絡み付きに基づく支障を回避できて、魚の巻き上げ操作を円滑に行うことができる。
しかも、このような効果を得るのに、条痕の捩れ方向を、スピニングリールの釣り糸巻付方向と反対方向に設定するだけでよい。
【0009】
請求項2に係る発明の特徴構成は、請求項1記載の発明において、前記製造工程時に形成される螺旋状の条痕が、プリプレグシートの表面に全長に亘って巻き付けられる保形用成形テープによって付けられるものである点にあり、その作用効果は次の通りである。
【0010】
〔作用効果〕
つまり、製造工程時に形成される条痕の捩じれ方向を、スピニングリールの釣り糸巻取り方向と反対方向に設定することによって、穂先竿に巻き付こうとする釣り糸が巻き付き難く、かつ、巻きついても容易に外れ易くなる。
これによって、糸の巻き付きに基づく支障を回避できて、魚の巻き上げ操作を円滑に行うことができる。
この条痕の捩じり方向をスピニングリールの釣り糸巻付方向との関係で、請求項1に記載したように釣り糸巻取り方向と反対方向に設定することによって、請求項1と同様の作用効果を奏することができる。
【0011】
請求項3に係る発明の特徴構成は、請求項1記載の発明において、マンドレルにプリプレグシートを巻回して竿素材を形成し、その竿素材に対して螺旋状に成形テープを巻き付けたものを焼成するとともに、焼成後に成形テープを剥がすことによって螺旋状の条痕を残し、剥がした後にバフ研磨仕上処理を施す点にあり、その作用効果は次の通りである。
【0012】
〔作用効果〕
マンドレルにプリプレグシートを巻回した後に、その巻回したプリプレグシートの外面に螺旋状に成形テープを巻き付けていく。これは、成形テープを巻いた状態で焼成することによって、加熱されるプリプレグの含浸された合成樹脂が溶け出すことを防止すると同時に加熱後の竿の形態保持に機能させる為である。
このような機能を有する成形テープであるが、製造用に使用されるだけのものであるので、成形後は剥離される。そして、剥離後の表面をバフ研磨処理することによって、条痕を残しながら表面を粗面化することによって、塗料の乗りをよくするところから、竿体の表面に螺旋状の条痕がのこる。
この条痕の捩じり方向をスピニングリールの釣り糸巻付方向との関係で、請求項1に記載したように釣り糸巻取方向と反対方向に設定することによって、請求項1と同様の作用効果を奏することができる。
【0013】
請求項4に係る発明の特徴構成は、請求項1記載の発明において、前記螺旋状の条痕が形成された外面に、直接、物理的又は化学的蒸着方法によって蒸着物を付着させ、光線の干渉を利用して発色させる干渉薄膜層を形成する点にあり、その作用効果は次の通りである。
【0014】
〔作用効果〕
干渉薄膜層を形成するのに、蒸着方法を用いているので、薄く広く均一に干渉薄膜層を形成することができ、竿の軽量化、装飾化に寄与できる。そうすると、条痕の突出状態がより明確に認識できる為に、穂先竿に巻き付く釣り糸が巻き付き易く、解き難いものとなっている。
そこで、請求項1で記載したように、螺旋状の条痕の捩じれ方向を、スプールに釣り糸を巻き付けてその釣り糸を巻き取っていくスピニングリールの釣り糸巻付方向と反対に設定することによって、巻き付き(絡み付き)難くかつ解き易くなる穂先竿を提供できるに至った。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
穂先竿1について説明する。
〔第1実施形態〕
図1に示すように、マンドレル9を使用して穂先竿用の竿体を形成する方法について、順を追って説明する。
<1> 図1に示すように、周方向に炭素繊維等の強化繊維2を引き揃えその強化繊維2にエポキシ等の熱硬化性樹脂3を含浸させたプリプレグ4を第1層としてマンドレル9に巻き付ける。
【0016】
<2> 図1に示すように、軸芯方向に炭素繊維等の強化繊維2を引き揃えその強化繊維2にエポキシ等の熱硬化性樹脂3を含浸させたプリプレグ4を第2層として巻き付ける。
【0017】
<3> 図1に示すように、更に、周方向に炭素繊維等の強化繊維2を引き揃えその強化繊維2にエポキシ等の熱硬化性樹脂3を含浸させたプリプレグ4を第3層として巻き付け、竿素材5を形成する。
【0018】
<4> 図1に示すように、更に、軸芯方向に炭素繊維等の強化繊維2を引き揃えその強化繊維2にエポキシ等の熱硬化性樹脂3を含浸させたプリプレグ4を第4層として巻き付けるとともに竿先部分と竿尻部分とに補強プリプレグ16,16を巻き付けて、竿素材5を形成する。
上記した各層をマンドレル9に巻き付けるには、プリプレグ4を定盤上にセットしておき、プリプレグ4の一端を加熱処理してマンドレル9に載せ付けてプリプレグ4をマンドレル9に巻き付けて成形する。
【0019】
<5> 図2に示すように、最外層の外周面にスパイラル状にポリエステル等の成形テープ6を巻回し、その巻回して成形した竿素材5を、図3に示すように、焼成炉7に入れて焼成処理する。
ここで、成形テープ6の巻回方向について説明すると、図2に示すように、巻回方向は、竿先側から竿軸線方向に沿って見た場合に、反時計回り方向となるように巻回していく。
【0020】
<6> 焼成後、図4に示すように、成形テープ6を剥離して後竿素材5を所定長さに裁断して、図示しない、バフ研磨機によって表面処理加工を施す。
【0021】
次に、穂先竿1に釣り糸aが絡み付く現象について概略説明したが、ここではより詳述に説明する。図5〜図7に示すように、穂先竿1の竿先端に釣り糸ガイドとしてのトップガイド13を取り付けるとともに、スピニングリール14より延出された釣り糸aを、トップガイド13を通して錘りとともに水面に向けて投入している。
【0022】
通常の釣り操作においては、釣り糸aにテンション力を持たせた状態で魚をある程度巻き上げ、十分に巻き上げた状態で巻き上げ力を緩めて穂先竿1を下方に降ろしながら、素早く、釣り糸aを巻き取る操作を行う。引き上げ力を緩めて穂先竿1を下方に降ろして行く際に、図7(イ)で示すように、釣り糸aに弛みが生じる。
【0023】
一方、図6に示すように、トップガイド13に案内される釣り糸aはスピニングリール14のロータ14Aに設けた揺動アーム14Bのラインローラ14aに案内されて、ロータ14Aの回転に連れて、スプール14Cに巻き取られているので、巻き癖が付いている。したがって、弛みが生じた時点で釣り糸aの弛みを生じた部分adは巻き癖によって、巻き取られていた状態に戻ろうとして、螺旋状態となる。
【0024】
この場合に、穂先竿1が下向きになっているところから、風によって螺旋状態となった釣り糸aが、トップガイド13に近い輪aaの部分から遠い輪abの部分にかけて順番に、トップガイド13を通り抜け、スピニングリール14とトップガイド13までの間に位置する釣り糸acの部分と穂先竿1とに被さるように外嵌されて、穂先竿1に釣り糸aが絡み付いた状態となる。
【0025】
絡み付く方向は、図6及び図7に示すように、スプール14Cから繰り出された釣り糸aが螺旋状を呈した状態で穂先竿1に被さっていくので、スピニングリール14のロータ14Aが回転する方向と同方向である。ロータ14Aの回転方向は、スピニングリール14を正面から見た場合の時計回り方向であるから、釣り糸aは穂先竿1に対して時計回り方向に沿って螺旋状に絡み付く。
【0026】
一方、図2に示すように、穂先竿1を形成する際に使用された成形テープ6は、反時計回り方向に巻き付けられている。これによって、成形テープ6によって穂先竿1の表面に付けられた螺旋状の条痕bの捩じり方向も反時計回り方向となるので、螺旋状の条痕bと釣り糸aの絡み付き方向とが相異なる方向となり、絡み付き難く、かつ、絡み付いても解れ易くなる。
【0027】
〔第2実施形態〕
ここでは、請求項4に対応する実施形態を説明する。
竿素材1を製造する過程は前記した第1実施形態の<1>から<5>までの過程と同様である。
<7> 次に、焼成後、成形テープ6を剥離して竿素材5を所定長さに裁断し、つぎのような干渉薄膜層8を裁断した竿素材5に塗布する。干渉薄膜層8を形成するには、真空蒸着法を用いて行う。
<8> 図8に示すように、真空チャンバー10内に竿素材5を載置し、ルツボ11内の蒸着物を抵抗式加熱器12で加熱蒸発させて、竿素材5の螺旋状の条痕を有する外周面5Aに付着させ、光線の干渉を利用して発色する干渉薄膜層8を形成する。
干渉薄膜層8を施した後、釣り糸ガイド13等を取付けて、穂先竿1を構成する。
真空蒸着法について、図示してはいなが、真空蒸着法を実施する他の構成としては、真空チャンバー内に公転しながら自転する複数の竿体を縦向き姿勢で支持したホルダーを設置し、そのホルダーに向けて蒸発させた蒸着物を竿体に付着させるように構成する。
【0028】
蒸発方法としては、抵抗加熱方式、電子銃方式、プラヅマ方式等あるが、適宜選択できる。竿体に付着させる蒸着物としては、金属蒸着物、又は、セラミック蒸着物が選定される。つまり、
(イ) 金属蒸着物としては、クロム、アルミニューム、モリブデン等が使用できる。
(ロ) 一方、セラミック蒸着物としては、窒化クロム(CrN)、酸化チタン(TiO)や窒化チタン(TiN)が使用される。これらの生成膜の厚さとしては、約1ミクロンより薄く形成する。
【0029】
図9に示すように、干渉薄膜層8は上下二層8A,8Bからなり、後記するように、異なる蒸着物を蒸着して構成される。その蒸着法としては、同一真空チャンバー10内に複数のルツボ11を設けて行ってもよい。
【0030】
干渉薄膜層8の厚みは1〜5ミクロンであり望ましくは2〜3ミクロン、前記した螺旋状の条痕bが付けられた凹凸外周面5Aが呈する鋸歯状断面に沿って均一な厚みを維持する状態で堆積される。干渉薄膜層8に到達した光線は、上層8Aの表面に反射される光線と、上下層8A,8Bの境界層で反射される光線と、下層8Bと凹凸外周面5Aとの境界層で反射される光線とが干渉して、虹色の発色を呈する。干渉薄膜層8が単一層であれば、光線の干渉によって消滅する光線の持つ色とは補色関係にあるものが発色するが、多層膜となっているので、螺旋状の凹凸外周面5Aに反射して虹色の発色を呈するのではないかと考えられる。
【0031】
下層8B、上層8Aに使用される蒸着物としては、前記したもののなかから、下層8Bに蒸着される蒸着物はクロムが選定され、上層8Aに蒸着される蒸着物は酸化チタンが選定される。但し、前記したように、異なる蒸着物、例えば、アルミナ、モリブデン等を使用でき、これらは物理的蒸着法としてスパッタリング、窒化クロム等を使用する場合にはイオンプレーティングを使用できる。
竿体の装飾として、酸化珪素等を使用するならば、化学的蒸着法を使用することができる。
【0032】
〔第2実施形態における別実施形態〕
<1> 干渉薄膜層8としては、上下二層8A,8Bで構成したが、一層であってもよい。勿論、蒸着物もクロム又は酸化チタンのいずれでもよい。
<2> 干渉薄膜層8としては、螺旋状の凹凸外周面5Aに沿って、蒸着物を堆積させたが、凹凸外周面5Aと関係なく、干渉薄膜層8の外面を緩円錐台状に形成してもよい。これによって、薄膜層8の厚みが各部で異なり、虹色の発色を行わせやすい。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】プリプレグシートをマンドレルに巻回する状態を示す斜視図
【図2】成形テープを巻回する状態を示す斜視図
【図3】焼成状態を示す構成図
【図4】成形テープを剥離する状態を示す側面図
【図5】スピニングリールから繰出される釣り糸と、条痕が形成されている元竿を示す側面図
【図6】穂先竿に絡み付く釣り糸の巻き方向とスピニングリールの巻き取り方向とを示す正面図
【図7】釣り糸が穂先竿に絡み付く状態を示し、(イ)は釣り糸に緩み部分が生じた状態を示す側面図、(ロ)は釣り糸の螺旋状部分が穂先竿に絡み付いた状態を示す側面図、(ハ)は釣り糸の螺旋状部分が穂先竿から外れた状態を示す側面図
【図8】真空蒸着方法を示す構成図
【図9】二層の蒸着層を有する穂先竿を示す縦断側面図
【符号の説明】
【0034】
1 穂先竿
4 プリプレグシート
5 竿素材
6 成形テープ
8 干渉薄膜層
9 マンドレル
13 釣り糸ガイド
14 スピニングリール
14C スプール
a 釣り糸
b 条痕

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外面に釣り糸ガイドを備え、前記外面に製造工程時に形成される螺旋状の条痕の捩じれ方向を、スプールに釣り糸を巻き付けてその釣り糸を巻き取っていくスピニングリールの釣り糸巻付方向と反対方向に設定してある穂先竿。
【請求項2】
前記製造工程時に形成される螺旋状の条痕が、プリプレグシートの表面に全長に亘って巻き付けられる保形用成形テープによって付けられるものである請求項1記載の穂先竿。
【請求項3】
マンドレルにプリプレグシートを巻回して竿素材を形成し、その竿素材に対して螺旋状に成形テープを巻き付けたものを焼成するとともに、焼成後に成形テープを剥がすことによって螺旋状の条痕を残し、剥がした後にバフ研磨仕上処理を施す請求項1記載の穂先竿の製造方法。
【請求項4】
前記螺旋状の条痕が形成された外面に、直接、物理的又は化学的蒸着方法によって蒸着物を付着させ、光線の干渉を利用して発色させる干渉薄膜層を形成する請求項1記載の穂先竿の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−289066(P2007−289066A)
【公開日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−120739(P2006−120739)
【出願日】平成18年4月25日(2006.4.25)
【出願人】(000002439)株式会社シマノ (1,038)
【Fターム(参考)】