説明

窒化珪素質焼結体およびその製造方法、並びに金属溶湯用部材、熱間加工用部材、掘削用部材

【課題】高い耐熱衝撃性を有する窒化珪素質焼結体およびその製造方法、並びに金属溶湯用部材、熱間加工用部材、掘削用部材を提供する。
【解決手段】組成式Si6-ZAlZZ8-Zで表され、固溶量z値が0.4〜0.7であるβ−サイアロンを主相とし、粒界相およびFe珪化物粒子を有する窒化珪素質焼結体であり、前記粒界相は、Y−Al−Si−Oを含有し、かつAl、Si、Yの構成比率がAl23、SiO2、Y23換算でAl2314〜42質量%、SiO28〜19質量%、残部がY23であり、該粒界相を焼結体100体積%に対して15体積%以下の範囲で含有し、前記Fe珪化物粒子をFe換算で焼結体100質量%に対して0.1〜1.5質量%含有する。この窒化珪素質焼結体は、高い耐熱衝撃性を有するため、金属溶湯用部材、熱間加工用部材、掘削用部材などの用途に好適に適用される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、室温および高温における熱伝導率と機械的特性に優れ、その結果、高い耐熱衝撃性を有する窒化珪素質焼結体およびその製造方法、並びに該窒化珪素質焼結体からなる金属溶湯用部材、熱間加工用部材、掘削用部材に関する。
【背景技術】
【0002】
窒化珪素質焼結体は、熱的特性や機械的特性に優れた素材であり、従来から種々の特許公報や文献で紹介されている。特に、主相をサイアロンとすることで機械的特性を向上させるという窒化珪素質焼結体が多数提案されている。
【0003】
特許文献1、2には、Si34−第1助剤−第2助剤の3元組成図において、第1助剤がY23及びMgOの2種よりなる組み合わせからなり、得られた焼結体中の結晶相にα−Si34とβ’−サイアロンの双方を含み、焼結体中のβ'−サイアロンは一般式Si6-ZAlZZ8-Z(式中0<z<1.0の範囲にある)であることにより結晶組織を制御することが可能となり、機械的特性を向上させた窒化ケイ素焼結体が提案されている。
【0004】
特許文献3には、結晶格子内へのAl及びOの固溶量の最適化が重要という観点より、焼結助剤として添加する希土類金属及びランタニド系金属酸化物の1種もしくは2種以上と酸化アルミニウム及び窒化アルミニウムの1種又は2種の添加質量比を縦軸にとり、焼結体のX線回折法により測定されるβ'−シリコンアルミニウムオキシナイトライド[β'−Si6-ZAlZZ8-Z(0≦Z≦4.2)]結晶相中のAl及びO元素の置換固溶量を示す測定z値と、添加した酸化アルミニウム及び窒化アルミニウムの1種又は2種のAl元素が全てβ'−シリコンアルミニウムオキシナイトライド結晶相中に置換固溶したとして算出される理論z値との比を横軸とした図において要求される範囲であることを提案している。これにより、繊維状Si34結晶粒の形態を制御することが可能となり、Si34系焼結体の強度及び靭性を向上させることができると記載されている。さらには、その製法として、イミド分解法により得られた粉末に含まれる酸素不純物の内その60%以上が原料粉末の表面部に存在しているSi34原料粉末を用い、これを1350〜1650℃、2時間以上、N2ガス雰囲気中で熱処理することが提案されている。
【0005】
特許文献4には、サイアロン粒子および粒界相により構成されるサイアロン焼結体であって、上記粒界相の総量が20wt%以下であるとともに、粒界相の酸化物換算したSi、Al、およびYがSiO2−Al23−Y23三成分系において、質量比における(SiO2、Al23、Y23)組成が、点A(20、10、70)、点B(20、25、65)、点C(30、25、55)、点D(30、10、60)の4点で囲まれる領域にあり、粒界相の組成と総量が高靱性化に重要であるという高靱性サイアロン焼結体が提案されている。
【0006】
特許文献5には、YおよびAl元素を含む窒化珪素系複合焼結体であり、平均短軸径が0.05〜3μm、アスペクト比が10以下の窒化珪素及び/又はサイアロン結晶粒内及び粒界相に、熱膨張係数が5×10-6/℃以上で平均粒径が1〜500nmの、周期律表IVa、Va族の酸化物又は窒素物である異種粒子が、0.5〜5体積%分散しており、ナノメーターサイズの異種粒子の分散により、結晶粒内および粒界相に残留応力を発生させることにより、その4点曲げ強度を140kg/mm2以上とする窒化珪素系複合焼結体が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第2539961号公報
【特許文献2】特許第2597774号公報
【特許文献3】特許第2539960号公報
【特許文献4】特許第2820846号公報
【特許文献5】特許第2776471号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、特許文献1〜5には耐熱衝撃性に関し、特に高温における熱伝導率と機械的強度の重要性が考慮されておらず、その結果、耐熱衝撃性の向上に関して下記のような問題点があった。
【0009】
すなわち、特許文献1、2では、第1助剤であるMgOは蒸気圧が高いことより焼成時に分解揮発しやすいので、表層部には助剤成分の揮発したピンホールの生成による強度低下が発生し、さらには内外成分が均一な焼結体を得にくいので、表層部と内部における材料特性が異なるという問題がある。さらには、焼結の進行度が異なるため、z値を目的の範囲内に制御することが困難であった。また、z値が1.0に近い焼結体は、熱伝導率が低下し、耐熱衝撃特性が劣化するという課題があった。特に、MgOを含有する粒界相の軟化温度は低く、高温強度が低いばかりでなく、粒界相中の高温におけるフォノンの伝搬が悪く、高温になると熱伝導率が極端に低下するなどの課題があり、耐熱衝撃性の向上は困難であった。
【0010】
特許文献3では、希土類金属及びランタニド系金属酸化物の1種もしくは2種以上と酸化アルミニウム及び窒化アルミニウムの1種又は2種の添加質量比に着目してはいるものの、イミド分解法により得られた窒化珪素粉末に含まれる酸素不純物、すなわちSiO2成分に関して制御できておらず、粒界相の組成の制御が不十分である。このため、特に高温における粒界相の軟化が生じ、フォノンの伝搬低下による高温熱伝導率と、高温強度が低く、耐熱衝撃性が十分ではなかった。
【0011】
特許文献4では、SiO2−Al23−Y23三成分系における粒界相の組成を制御しているものの、粒界相中のSiO2成分が20質量%以上であることから、SiO2−Al23−Y23三成分系における最低液相生成組成に近いため、粒界相の軟化温度が根本的に低く、高温強度の低下と高温における熱伝導率が低く、耐熱衝撃特性が十分ではないという課題があった。
【0012】
特許文献5では、分散粒子である周期律表IVa、Va族の酸化物又は窒素物(実施例ではTiN、ZrO2、ZrN、NbN)の平均粒径が1〜500nmの範囲であり、非常に微細である。このため、高価な原料を使用する必要があり、かつ湿式混合時の分散性が悪く、凝集部が破壊源となり室温および高温における強度低下を招きやすく、その結果、熱衝撃によるクラックの発生の起点になるという課題があった。
【0013】
したがって、本発明の課題は、高い耐熱衝撃性を有する窒化珪素質焼結体およびその製造方法、並びに金属溶湯用部材、熱間加工用部材、掘削用部材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
耐熱衝撃性の向上には、室温における強度、熱伝導率だけではなく、高温における強度、熱伝導率の向上が耐熱衝撃性の向上に重要であり、そのためには、窒化珪素結晶中へのAl、O、Nの固溶量を示すz値を小さくすること、粒界相の化学組成、特にSiO2成分を最適化すること、さらにFe珪化物を存在させることが望ましい。
【0015】
本発明の窒化珪素質焼結体は、組成式Si6-ZAlZZ8-Zで表され、固溶量z値が0.4〜0.7であるβ−サイアロンを主相とし、粒界相およびFe珪化物粒子を有するものである。前記粒界相は、Y−Al−Si−Oを含有し、Al、Si、Yの構成比率がAl23、SiO2、Y23換算でAl2314〜42質量%、SiO28〜19質量%、残部がY23であり、該粒界相を焼結体100体積%に対して15体積%以下の範囲で含有し、前記Fe珪化物粒子をFe換算で焼結体100質量%に対して0.1〜1.5質量%含有する。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、窒化珪素結晶中へのAl,O,Nの固溶量を示すz値を小さくし、粒界相の化学組成、特にSiO2成分を最適化することで、室温における強度、熱伝導率の向上、高温における強度、熱伝導率の向上を達成することができ、耐熱衝撃性の高い窒化珪素質焼結体を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
<窒化珪素質焼結体>
本発明の窒化珪素質焼結体は、組成式Si6-ZAlZZ8-Zにおける固溶量z値が0.4〜0.7である低固溶量β−サイアロンを主相とし、残部がY−Al−Si−Oを含む粒界相とFe珪化物粒子で構成されている。上記粒界相のAl,Si,Yの構成比率は、Al23、SiO2、Y23換算としたときにAl2314〜42質量%、SiO28〜19質量%、残部がY23であり、上記粒界相が焼結体中の15体積%以下である。Fe珪化物粒子の含有量は、Fe換算で焼結体中の0.1〜1.5質量%である。この窒化珪素質焼結体の熱伝導は、主相である低固溶量β−サイアロン粒子内のフォノンの伝搬と、粒界相内のフォノンの伝搬で決定される。
【0018】
β−サイアロンSi6-ZAlZZ8-Zは、β−Si34結晶内へAl,O,N成分が固溶した結晶であるため、固溶量z値が0.7より大きいと、β−Si34の結晶対称性が大きく損なわれ、β−サイアロン粒子内の熱伝導率が低下する。また、z値が0.4より小さいと、焼結性が低下し、緻密化のために高温焼成が必要となり、粗大粒子の生成により強度が低くなる。従って、固溶量z値は0.4〜0.7であることにより、高熱伝導率と高強度が得られ、耐熱衝撃性が良好となり、800℃における熱伝導率が10W/(m・K)以上、かつ、800℃における四点曲げ強度が570MPa以上とすることができる。
【0019】
粒界相はY−Al−Si−Oを含み、Al,Si,Yの構成比率がAl23、SiO2、Y23換算としたときにAl2314〜42質量%、SiO28〜19質量%、残部Y23であり、上記粒界相が焼結体中の15体積%以下であることが重要である。本発明では、Y23およびAl23およびSiO2の総和を100質量%として粒界相の構成比率として表現する。
【0020】
Y−Al−Siを含む酸化物または酸窒化物は、一般的に、Y23、Al23、SiO2などの粉末原料が温度上昇に伴い反応し、1400℃以上で窒化珪素あるいはサイアロンと濡れのよい液相を生成し、窒化珪素あるいはサイアロンを溶解することにより生じる成分であり、窒化珪素あるいはサイアロンの緻密化を促進する。SiO2は粉末として添加される以外にも、窒化珪素あるいはサイアロン粉末の粒内または表面部に、さらには原料粉砕、混合時に生成する窒化珪素などのSi系粉末の表面部に生成する酸素をSiO2成分として考慮してもよい。これらの液相成分は、焼成後冷却することによって、Y−Al−Si−Oを含む粒界相となる。窒化珪素やサイアロンのN成分を含んでもよい。
【0021】
上記粒界相中のYは周期律表第3族元素であって、Yは周期律表第3族元素の中でも軽元素であるため、フォノンの伝搬が良く、粒界相の熱伝導率の向上に効果的である。
【0022】
粒界相のAlの構成比率がAl23換算で14〜42質量%である理由は、Al23が14質量%より小さいと、RE23−Al23−SiO2系の最低液相生成組成(以下、低融点組成)から大きくはずれるため、焼成温度が高温となり、β−サイアロン結晶が粗大となって低強度となる。また、Al23が42質量%より大きい場合も同様に、低融点組成から大きく外れて焼成温度が高くなり、β−サイアロン結晶が粗大となり、かつ、Al23成分が多いため、z値が0.7より大きくなりやすく、熱伝導率が低下する。
【0023】
また、Siの構成比率がSiO2換算で8〜19質量%である理由は、SiO2換算で8質量%より小さいと、Al23と同様に、低融点組成から大きくはずれ、焼成温度が高温となるからである。また、SiO2換算で19質量%より大きいと、逆に低融点組成に近づくが、そのために粒界相を構成する原子間の高温における結合力が弱くなるため、高温におけるフォノンの伝搬の低下による高温熱伝導率の低下と高温強度の低下が発生し、耐熱衝撃性が劣化する。したがって、Al,Si,Yの構成比率はAl23換算で14〜42質量%かつSiO2換算で8〜19質量%、残部Y23であることが重要であり、この構成比率は焼結性の向上だけではなく、特に高温における粒界相の原子間結合力を保持することによる高温熱伝導率の改善と、高温強度の改善に特に効果的である。また、上記粒界相が15体積%を超える場合は、高温熱伝導率と高温強度の低下が顕著となる。
【0024】
ここで、上記粒界相の構成比率の測定方法を説明する。まず、プラズマ発光分光分析(ICP発光分光分析;Inductively Coupled Plasma Atomic Emission Spectroscopy)により、窒化珪素質焼結体中のYおよびAlの含有量(質量%)を測定し、この含有量をY23およびAl23換算での含有量(質量%)に換算する。
【0025】
次に、例えばLECO社製の酸素分析(Oxygen Analysis)装置で、窒化珪素質焼結体中の全酸素含有量(質量%)を測定し、上記Y23およびAl23の酸素成分量(質量%)を差し引き、残りの酸素量(質量%)をSiO2量(質量%)に換算する。このようにして算出されたY23,Al23、SiO2の質量%、さらには残部をSi34と想定し、それぞれの理論密度Y23:5.02g/cm3、Al23:3.98g/cm3、SiO2:2.65g/cm3、Si34:3.18g/cm3で除した体積比率より、粒界相の体積%を算出できる。さらには、Y23、Al23、SiO2の質量%の総和を100%として粒界相の構成比率として算出できる。
【0026】
さらに、焼結体中にはFe換算で焼結体100質量%に対して0.1〜1.5質量%のFe珪化物粒子を含むことが重要である。Fe珪化物は、β−サイアロンの粒子間またはY−Al−Si−Oを含む粒界相中に粒径50μm以下、望ましくは粒径2〜30μmの粒子として点在する。Fe珪化物粒子は、FeSi2、FeSi、Fe2Si、Fe3Si、Fe5Si3の形態で存在することが好ましく、特にFeSi2(JCPDS#35−0822)であることが好ましい。本発明では、Fe珪化物粒子は、主相、粒界相と区別して含有量を示している。
【0027】
これらFe珪化物は、熱膨張率が大きく、β−サイアロン粒子、粒界相に対して残留応力を発生させていると思われ、焼結体の破壊靱性値を向上させる効果があり、耐熱衝撃性の向上に有効である。また、高温における破壊の形態である粒界滑りが発生する際に、β−サイアロン粒子の滑りを妨げるくさびの働きをしており、高温強度を向上させる効果があり、耐熱衝撃性の向上に有効である。
【0028】
また、これらFe珪化物は、焼成時の液相成分の一つとして作用し、焼結性の向上に効果的である。その含有量はFe換算で0.1質量%より少ないと焼結体の破壊靱性値向上効果、高温強度向上効果が低く、焼結性の向上効果が少ない。また、Fe珪化物は熱伝導率が低いため、1.5質量%を超えると焼結体の熱伝導率が低下する。Fe珪化物は、例えば粉末X線回折法(Powder X-Ray Diffraction)や、波長分散型X線マイクロアナライザ分析(EPMA;Electron Probe Micro Analysis)等による元素分析によってその形態、粒子径を確認することができる。また、ICP分光分析法により定量化することができる。
【0029】
さらに、高温高強度を発現させるためには、Fe珪化物だけでなく、β−サイアロン結晶の平均粒子径を短軸径2μm以下、さらには1μm以下、長軸径30μm以下、さらには15μm以下とすることで粒界滑りを抑制する効果がある。また、長軸方向の最大粒径は50μm以下、さらには30μm以下であることが室温強度の向上の観点から望ましい。また、最大ボイド径は100μm以下、さらには30μm以下が望ましく、理論密度に対する相対密度は96%以上、さらには98%以上が望ましい。
【0030】
なお、粒子径の測定は、任意の400μm2の測定領域において、5,000倍の走査型電子顕微鏡写真(SEM写真)を観察することによって測定可能である。最大ボイド径は、鏡面研磨による任意の1mm2の領域を100倍の顕微鏡観察によって測定することが可能である。
【0031】
以上のような焼結体は、800℃における熱伝導率が10W/(m・K)以上、かつ、800℃における四点曲げ強度が570MPa以上となり、800℃において高熱伝導率かつ高強度となる。外部からの急加熱、急冷により焼結体内外の温度差が大きくなり、焼結体内外の熱膨張差、熱収縮差(体積変化)が大きくなることがクラック発生の駆動力であるが、熱伝導率の低下により体積変化が大きくなるため、熱伝導率の低い高温域の熱伝導率に律速される。
【0032】
従って、800℃における熱伝導率が10W/(m・K)未満の場合、放熱性が低下して焼結体内外の体積変化が大きくなり、クラックが発生しやすくなる。また、その体積変化に耐えうるか否かは強度に依存するが、セラミックス焼結体は粒界相の軟化により高温域で低強度となることから、800℃における強度(四点曲げ)が500MPa未満であればクラックが発生しやすくなる。なお、熱伝導率はJIS R 1611、四点曲げ強度はJIS R 1601に準ずる方法で測定する。
【0033】
さらに、W珪化物粒子をW換算で焼結体に対し0.1〜5質量%含有することが好ましい。W珪化物は、Fe珪化物と同様β−サイアロンの粒子間またはRE−Al−Si−Oを含む粒界相中に粒径50μm以下、望ましくは5〜20μmとして点在し、好ましい形態としてはWSi2、W5Si3、WSi3、W2Si3であり、特にWSi2(JCPDS#11−0195)が好ましい。
【0034】
W珪化物は室温〜800℃における熱伝導率が高く、サイアロン粒子同士の熱伝導の役目をしているものと思われ、特に高温域での熱伝導率の向上に効果的である。その含有量はWとして0.1質量%より少ないと熱伝導率向上効果が低く、5質量%を超えると50μm以上の凝集体となりやすく、焼結体の強度が低下する。W珪化物粒子と上記Fe珪化物粒子は互いに隣接して存在する場合があるが、本発明の特性を低下させるものではない。
【0035】
Fe珪化物粒子とW珪化物粒子は、一方の粒子が他方の粒子を取り囲むようにして存在する場合があるが、本発明の特性を低下させるものではない。また、一方の珪化物粒子中に他方の元素や、酸素を溶解する場合があるが、本発明の特性を低下させるものではない。なお、これらの金属珪化物は粉末X線回折法や、EPMAによる元素分析によってその形態、粒子径を確認することができる。また、ICP分光分析法により定量化することができる。
【0036】
さらに、Y−Al−Si−Oを含む粒界相は、非晶質であることが好ましい。非晶質の形成は、焼成時に液相であった成分が冷却中に結晶化することなく固化冷却されたものである。非晶質が存在する場合、クラックが非晶質部を優先的に進展するためクラックの偏向による破壊靱性値の向上効果があり、耐熱衝撃性が向上する。この効果は特に室温〜800℃の温度域で顕著である。
【0037】
さらには、上記粒界相の一部が、ボラステナイト相、アパタイト相、ダイシリケート相、モノシリケート相から選ばれる少なくとも1種に結晶化しているのが好ましい。これらの結晶は、焼成時に液相であった成分が冷却中に結晶化されたものであり、特に上記粒界相中のAl23成分が15質量%以下の場合には、結晶化しやすい傾向にある。上記結晶相が存在する場合、結晶の対称性がよいため、全温度域において熱伝導率が向上し、さらに軟化しにくいため、800℃付近の高温熱伝導率の向上にも寄与する。
【0038】
なお、ボラステナイト相はYSiO2N、アパタイト相はY5(Si43N、ダイシリケート相はY2Si27、モノシリケート相はY2SiO5で表される化合物である。さらには上記非晶質を1000〜1400℃で熱処理して結晶化させた場合も同様の効果が得られる。
【0039】
上記で説明した本発明の窒化珪素質焼結体は、破壊靭性値(JIS R 1607,SEPB法)が5MPa・m1/2以上、HV1硬度(JIS R 1610)が12GPa以上、圧縮強さ(JIS R 1608)が2GPa以上、弾性率(JIS R 1602,超音波パルス法)が260GPa以上、1000℃で200MPaの応力を10時間印加した後のひずみ量が2%以下(JIS R 1612,荷重点変位量測定方法)、室温〜800℃の間の線熱膨張率(JIS R 1618)が3.5×10-6/K以下、20〜30℃における線熱膨張率が1.5×10-6/K以下となる。
【0040】
また、室温における熱伝導率が20W/(m・K)以上、200℃で17W/(m・K)以上、400℃で15W/(m・K)以上、600℃で12W/(m・K)以上、さらには1000℃で8W/(m・K)以上の熱伝導率となる。さらに、四点曲げ強度が室温で750MPa以上、400℃で600MPa以上、1000℃で450MPa以上となる。
【0041】
<製造方法>
(第1の製造方法)
次に、本発明の窒化珪素質焼結体の製造方法について説明する。先ず第1の方法として、β化率40%以下の窒化珪素質粉末であって、含有するβ型窒化珪素質部のz値が0.5以下である粉末、すなわち組成式をSi6-ZAlZZ8-Zとしたときの固溶量z値が0.5以下であるβ化率40%以下の窒化珪素質粉末と、添加物成分としてY23粉末と、Al23粉末と、Fe23粉末と、あるいはWO3粉末とを混合、成形し、窒素分圧50〜300kPa、温度1800℃以下において開気孔率5%以下となるまで焼成し、その後相対密度96%以上となるまで緻密化させる。
【0042】
β型窒化珪素質粉末は、粒成長の核となって粗大かつアスペクト比の小さい結晶となりやすいので、β化率が40%を超えると強度、破壊靱性値が低下する。また、含有するβ型窒化珪素質部のz値が0.5を超えると、該粉末が粒成長の核となり、焼結後の主相となるβ−サイアロンのz値が1を超えやすく、熱伝導率が低下する。従って、β化率は40%以下が良く、望ましくはβ化率10%以下がよい。また、z値は0.5以下がよい。このようにすると、アスペクト比5以上の針状結晶組織が得られ高強度となる。
【0043】
β化率は、α(102)回折線とα(210)回折線のピーク強度の和をIα、β(101)回折線とβ(210)回折線のピーク強度の和をIβとしたときに、下記式(A)によって算出される。
【数1】

【0044】
上記窒化珪素質粉末は、Y23粉末と、Al23粉末と、Fe23粉末と、あるいはWO3粉末とを、旧知の方法、例えばバレルミル、回転ミル、振動ミル、ビーズミルなどによって湿式混合して粉砕し、湿式スラリーを得る。粉砕メディアは、窒化珪素質、ジルコニア質、アルミナ質のものが使用可能であるが、不純物として混入の影響の少ない材質、望ましくは同じ材料組成の窒化珪素質がよい。
【0045】
粉砕により、粒度D90を3μm以下となるように微粉砕することが焼結性の向上、結晶組織の針状化の点から望ましい。混合、粉砕工程に置いて微粉砕するため、粒径の大きいY23粉末、Al23粉末、Fe23粉末、あるいはWO3粉末を使用してもよい。また、前もって上記添加物粉末を微粉砕させてもよい。なお微粉砕方法は、粉砕メディアの小径化、粉砕メディア使用量の増量、スラリー粘度の低粘度化、粉砕時間の延長などの方法によって達成できる。また、スラリー粘度の低粘度化には分散剤を添加することが望ましい。しかしながら、短時間粉砕のためには、平均粒径1μm以下の粉末を使用する方が望ましい。
【0046】
次に、上記で得られた湿式スラリーを乾燥させて乾燥粉体を得る。湿式スラリーは、#200より細かいメッシュを通した後に磁力を用いて脱鉄するなどの方法で極力異物を除去する方が望ましい。また、湿式スラリーの段階でパラフィンワックスやPVA(ポリビニルアルコール)、PEG(ポリエチレングリコール)などの有機バインダーを粉体重量100質量%に対して1〜10質量%添加、混合することが成形性が向上するために望ましい。乾燥方法は、ビーカーなどで乾燥させてもよいし、スプレードライヤーにて乾燥させてもよく、他の方法であっても何ら問題ない。
【0047】
次に、得られた乾燥粉体をプレス成形、CIP成形(Cold Isostatic Pressing)などによって相対密度45〜60%の所望の形状を有する成形体とする。成形圧力は500〜3000kgf/cm2の範囲であるのが、成形体の密度の向上、乾燥粉体の潰れ性の観点より望ましい。特に、プレス成形の場合は成形クラックの防止のためにも、500〜1200kgf/cm2の範囲が望ましい。
【0048】
また、鋳込み成形、射出成形、テープ成形などの成形方法であっても何ら問題ない。成形後、成形体を切削、積層、接合することによって所望の形状としても何ら問題はない。得られた成形体は、窒素、真空中などで脱脂した方がよい。脱脂温度は添加した有機バインダーの種類によって異なるが、900℃以下がよい。特に好ましくは500〜800℃である。
【0049】
成形体は焼成サヤ中に配置するのが好ましい。これにより、焼成による成分の揮発を抑制でき、さらに外部からの異物の付着を防止することができる。焼成サヤは、窒化珪素質や炭化珪素質、またはその複合物などの材質がよい。また焼成サヤの気孔率が高い場合は、その表面に窒化珪素質の粉末を塗布してもよい。また、カーボン質の材質表面に窒化珪素質の粉末を塗布してもよい。焼成サヤ内には成形体の含有成分の揮発を抑制するためにY23、Al23、SiO2などの成分を含んだ共材を配置してもよい。
【0050】
次に、焼成過程について説明する。焼成炉は、一般的な窒化珪素質焼結体に用いる黒鉛抵抗発熱体を使用した焼成炉などが使用可能である。また、カーボン粉末など大気中の酸素ガスを除去可能な粉末中に焼成サヤごと埋設する方法や、焼成サヤ内に窒化珪素質粉末、炭化珪素質粉末中を充填し、その中に成形体を埋設する方法を用いれば、電気炉(大気中)で焼成することも可能である。この場合、大気中の酸素ガスは除去され、窒素分圧=大気圧となり、以下に説明する本発明の窒素分圧の範囲内となる。
【0051】
次に、焼成炉内に焼成サヤごと配置し、窒素分圧50〜300kPa、温度1800℃以下において開気孔率5%以下となるまで焼成し、その後相対密度96%以上となるまで緻密化させる。
【0052】
具体的には、室温から300〜1000℃までは真空にて昇温し、その後50〜300kPaの窒素ガスを導入する。このとき成形体の開気孔率は40〜55%程度であるため、成形体中には窒素ガスが十分充填される。ついで、1000〜1400℃付近で焼結助剤成分が固相反応を経て、液相成分を形成し、約1400℃以上の温度域でSi34(サイアロン)成分を溶解し、β−サイアロンを析出し、緻密化が開始する。
【0053】
β−サイアロンは、β−Si34のSi4+位置にAl3+、N3-の位置にO2-が置換固溶したものであるが、Si34−AlN−Al23−SiO2系の多くの状態図(例えば、K.H.Jack,J.Mater.Sci.、11(1976)1135−1158、Fig.11)にあるように、β(またはβ'とも言う)−サイアロン相の安定領域はSi34−Al23−SiO2系に対してN3-が価数の安定には不足であり、N成分の外部からの供給が必要となる。本発明者は誠心誠意検討した結果、焼成雰囲気である窒素ガスが上記不足分のN成分となる事を突き止め、窒素ガス分圧を低く抑えることによってβ−サイアロンのz値を低くすることが可能であることを見出した。
【0054】
すなわち、開気孔率が十分大きな場合(開気孔率が40〜55%から5%に達するまでの段階)は、できるだけ窒素分圧を低く設定する必要があり、本発明においては300kPaが上限である。300kPaを超える窒素分圧の場合、β−Si34中へのAl,O,Nの置換固溶が進み、z値が0.7を超えやすくなり、熱伝導率が低下する。また、50kPaより小さい場合、β−サイアロン(またはSi34)の平衡窒素分圧より小さくなり、β−サイアロン(またはSi34)の分解反応が進行し溶融金属Siとなるため、正常な窒化珪素質焼結体にならない。
【0055】
また、温度が1800℃を超えるとAl,O,Nの置換固溶が進行し、z値が0.7を超えやすくなり、熱伝導率が低下する。焼結が進行し、開気孔率が5%以下となった場合、試料中へのN2の供給量が少なくなるため、300kPaを超える窒素分圧であっても構わないし、1800℃以上の温度にしても構わず、最終的には相対密度96%以上まで緻密化を進行させることで、高強度、高熱伝導の窒化珪素質焼結体が得られる。望ましくは、最終緻密化温度は1800℃以下とした方が、微細な結晶組織とするためには有効である。
【0056】
また、窒素分圧を全て150kPa以下とした方が経済的観点からも望ましい。また、より緻密化を促進するために、開気孔率が5%以下となった段階で200MPa以下の高圧ガス圧処理、HIP処理(Hot Isostatic Pressing)を施しても構わない。この場合、望ましくは開気孔率1%以下で、相対密度が97%以上、さらには99%以上まで焼結を促進させた後に高圧ガス圧処理、HIP処理を施す方がよい。
【0057】
また本発明では、添加したFe23粉末、あるいはWO3粉末が焼成によりFe珪化物、あるいはW珪化物となる際の酸素成分の存在がβ−サイアロンのz値を低くすることに効果的であることを発明するに至った。Fe23粉末、あるいはWO3粉末は、主相であるβ−サイアロン(Si34)と反応して珪化物を生成するが、その際に脱離した酸素成分の存在によりβ−サイアロン化するためにさらなるN成分の供給が必要となるため、z値を低くできるものと思われる。
【0058】
(第2の製造方法)
上記のような製造方法によって窒化珪素質焼結体を得ることができるが、本発明の窒化珪素質焼結体では、以下のような第2の製造方法を用いることが好ましい。
この製造方法は、先ず、上述と同様の窒化珪素質粉末と、上記添加物粉末と、金属シリコン粉末とを、(金属シリコン粉末)/(窒化珪素質粉末)の質量比で1〜10となるように混合して成形し、成形体を調製する。ついで、この成形体を、窒素分圧50kPa〜1.1MPa、1000〜1400℃の温度範囲で焼成し、金属シリコン粉末を窒化珪素に変換した多孔質窒化体を調製する、ついで、この窒化体を窒素分圧50〜300kPa、温度1800℃以下において開気孔率5%以下となるまで焼成し、その後相対密度96%以上となるまで緻密化させて、窒化珪素質焼結体を得る。
【0059】
ここで、前記金属シリコン粉末は、上記窒化珪素質粉末と上記添加物粉末と同時にIPA(イソプロピルアルコール)などで湿式混合、粉砕することもできるし、別途粉砕した後に、湿式混合することもできるが、粗大な金属シリコン粒子はその後の窒化不足と、焼結不足の原因となりやすいので、金属シリコン粒子単独でD90を10μm以下、望ましくは6μm以下に粉砕することが重要である。さらには、同時に湿式混合、粉砕する場合や、別途粉砕した後に、湿式混合する場合には、混合粉のD90を5μm以下にすることが重要である。混合、粉砕工程に置いて微粉砕するため、例えば#40メッシュ以下の粒径の大きい安価な金属シリコン粉末を使用することは経済的に有効である。混合、粉砕方法、乾燥方法、成形方法、脱脂方法、焼成セット方法は上記の旧知の方法に従えばよい。なお、金属シリコン粉末を含有した成形体は含有しない場合より密充填に近づき、相対密度が50〜65%となる。
【0060】
(金属シリコン粉末)/(窒化珪素質粉末)の質量比が10より大きいと、急激な窒化反応を制御するのが困難であり、温度暴走を引き起こすことがあり、前記質量比が1より小さいと、上記メリットが十分生かせないことがある。従って、(金属シリコン粉末)/(窒化珪素質粉末)の質量比は1〜10、望ましくは3〜8がよい。
【0061】
次に、金属シリコン粉末を含有した成形体を前記した条件、すなわち窒素分圧50kPa〜1.1MPa、1000〜1400℃の温度範囲で焼成して金属シリコン粉末を窒化珪素に変換(窒化反応)した多孔質窒化体を得る。この多孔質窒化体は、窒化珪素部のβ化率が40%以下、z値が0.5以下である。
【0062】
具体的には、金属シリコン粉末は、N2ガスと窒化反応することでSi34成分となる。このとき、生成したSi34成分は金属シリコン粉末成分より大きな体積となるが、多孔質体の空隙部を埋めるように体積膨張するため、窒化反応により相対密度が55〜70%まで上昇するため、その後の焼成収縮率が小さくなり、焼成変形を抑制できる。
【0063】
また、相対密度の上昇によって開気孔率が減少し、成形体中に充填される窒素ガス量が少なくなるため、焼成時のβ−サイアロン化に必要なN成分の供給量を低減させ、z値が小さくなるメリットもある。
【0064】
1000〜1400℃の温度範囲で窒化する際には、Y23−Al23−SiO2が固相反応し、Al23がSi34中へ固溶しにくくなるメリットもある。しかしながら、窒化反応は発熱反応であるため、急激な窒化反応は自己発熱による温度暴走を引き起こし、α−Si34より焼結性の劣るβ−Si34(サイアロン)への窒化、さらにはSiメルトを生じる危険性がある。
【0065】
窒素分圧が50kPaより小さいと、窒化反応に長時間を要し、窒化不足となることもある。1.1MPaを超えると急激な窒化反応が発生し、温度暴走が生じやすくなる。また、1000℃より低い温度では窒化反応が進行しない。1400℃を超えると未窒化Siが溶融して割れの原因となるため望ましくない。また、1400℃を超えるとY−Al−Si−Oを含む液相が生成し、z値が大きなβ−サイアロンの析出が始まり、熱伝導率の低い焼結体となりやすい。
【0066】
より望ましくは、次のように窒化反応を進行させるのがよい。すなわち、Si粉末を含む成形体は、窒化工程において成形体の表面のSi粉末から窒化が始まり、時間の経過とともに成形体のより内部に存在するSi粉末の窒化が進行するので、窒化工程の途中または終了時には成形体表面よりも内部のSi量が多い状態が存在する。
【0067】
成形体をこの状態から完全に窒化させるには、低温での窒化(第1の窒化工程)の後、高温での窒化(第2の窒化工程)を行う必要がある。すなわち、1000〜1200℃の温度で上記成形体中のSi粉末の10〜70質量%を窒化すると共に、全窒化珪素(サイアロン)のβ化率を30%未満とする第1の窒化工程と、1100〜1400℃で上記脱脂体中のSi粉末の残部を窒化珪素(サイアロン)に変換して窒化体を得ると共に、窒化体中の全窒化珪素(サイアロン)のβ化率を40%未満とする第2の窒化工程とによって、窒化による発熱反応を制御し、その後の均一な焼結を進行することが好ましい。上記第2の窒化工程の温度は第1の窒化工程の温度よりも高くする。また、第1の窒化工程と第2の窒化工程は連続して実施した方が経済的であるため好ましい。
【0068】
以上のようにして金属シリコン粉末を窒化すると、窒化珪素部のβ化率が40%以下、z値が0.5以下の多孔質窒化体となる。望ましくは、β化率10%以下の多孔質窒化体とする方が、アスペクト比5以上の針状結晶組織が得られ高強度となり望ましい。また前述のように焼結前のz値は極力小さい方が望ましいが、特にz値が0.5を超えるようなβ−サイアロン粉末に窒化された場合、概粉末が粒成長の核となり、焼結後の主相となるβ−サイアロンのz値が1を超えやすく、熱伝導率が低下する。
【0069】
なお、焼成緻密化方法は前述の方法に従えばよいが、窒化反応工程と焼成緻密化工程は連続で行った方が工程短縮など経済的観点から望ましいが、別途分けて実施しても構わない。
【0070】
このような窒化珪素質焼結体は、次のような用途に好適である。すなわち、アルミニウム低圧鋳造用のストーク、バーナーチューブ、ヒーターチューブ、熱電対保護管、ダイカスト用のダイカストスリーブ、バーナーチューブ、ヒーターチューブ、熱電対保護管、ラドル、鋳込み型、ホットチャンバー用のピストン、スリーブ、ノズル、ピストン保持部品等のアルミニウム等の金属溶湯に用いる部材(金属溶湯用部材)として好適に用いることができる。
【0071】
例えばアルミニウム低圧鋳造用のストーク、バーナーチューブ、ヒーターチューブ、熱電対保護管では、アルミ溶湯温度付近の800℃において高熱伝導率である特性を生かし、熱の伝達効率の向上が可能であり、温度応答性の向上も可能である。また、800℃において高強度であり、耐熱衝撃性が良好なことより、急激な温度変化にも耐えうることが可能となる。その結果、各種の耐溶融金属用部材にも好適に利用可能となり、熱衝撃による部材の割れの混入が抑制され、不純物の少ない高品質の金属を鋳造することが可能となる。
【0072】
熱間加工用のスクイズロール、スキッドボタン、鍛造用の鍛造用ダイ、高周波焼入れ用の焼入れ治具、溶接用のスパッタリングノズル、エアーピン、高温耐磨耗用のライニング材などの金属・鉄鋼の加工用部材に好適に用いることができ、優れた耐熱衝撃性、高温強度も要求されるため好適である。特に本発明では、前記熱間加工用、すなわち熱間加工用部材として好適に用いることができる。
【0073】
粉砕機用のディスク、スリーブ、ノズル、ライナー、ロール、メディア、混合攪拌機用のタンク、アーム部品、遠心分離機用のスリーブ、ブッシュ等の、粉砕機用部材に好適に用いることができる。さらには、カッター、包丁、工具、製紙、インクジェット、流体軸受け、工作機械やハードディスクなどのベアリングボール、釣り具、糸道、成形金型等の部材としても好適に用いることができる。その気孔率を3%以下とすることにより、耐摩耗性をさらに向上させることができる。
【0074】
放電加工機用のワイヤーローラ、ワイヤーガイド、絶縁板、金属塑性加工用のキャプスタン、曲げロール、スピニングロール、製罐用部材、レーザー加工機用の絶縁部品などの加工機用部材に好適に用いることができる。
掘削部材用の耐摩耗シールリング(掘削用部材)、揚水用部品の大型縦軸受け、高温用のボールバルブなどの、ポンプ部品用部材として好適に用いることができる。
火力発電バーナー部品のバーナーリング、保炎リング、高温耐磨耗部品のライニング材、ノズルなどの、エネルギー用部材として好適に用いることができる。
【0075】
耐熱性、耐摩耗性、バラツキの少ない強度特性を生かして、ターボローター、カムローラー、スワールチャンバー、排気制御弁、吸排気バルブ、ロッカーアーム、ピストンピン、シールリング、高圧を含む燃料噴射ポンプ部品、グロープラグ、セラミックヒーターなどの自動車エンジン部材や、ヘッドライナー、シリンダーライナー、ピストンクラウン、バルブ、バルブガイドなどのガスエンジン部材や、タービンローター、コンバスター、各種リング、各種ノズルなどのガスタービン部材などの各種セラミックエンジン部材にも適用できる。
【0076】
本発明の窒化珪素質焼結体は、HV1硬度を12GPa以上、圧縮強さを2GPa以上とすることができるので無機物質例えば金属物質が生物や物体に飛来、衝突する際の保護材、衝撃吸収材として好適に使用することが可能となる。
【0077】
また、本発明の窒化珪素質焼結体は、弾性率が高く、20〜30℃における線熱膨張率が小さいため、高位置精度が要求される位置決めテーブル用部品として好適に用いることができる。特に、著しい位置精度制御が必要な半導体製造装置用の位置決め用テーブル部品として好適に用いることができる。さらに、半導体や液晶製造装置用として露光装置用のミラーにも適用できる。
【0078】
以下、実施例を挙げて本発明についてさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
[実施例1]
β化率10%(β−Si6-ZAlZZ8-Zとしたときのz≦0.1)の窒化珪素質粉末(平均粒径D50=3μm、Al含有量200ppm、酸素含有量0.9質量%)と、Y23粉末(平均粒径D50=0.9μm)、Er23粉末(平均粒径D50=0.9μm)、Yb23粉末(平均粒径D50=2.3μm)、Lu23粉末(平均粒径D50=0.6μm)、Al23粉末(平均粒径D50=0.5μm)、SiO2粉末(平均粒径D50=1.9μm)、Fe23粉末(平均粒径D50=0.6μm)の所定量を、水中にて振動ミルで72時間かけて粉砕混合し、D90=1.5μmとした混合粉末スラリーを作製した。
【0079】
次に、粉体重量に対してPVA(ポリビニルアルコール)を5質量%添加し、#400メッシュを通して異物を除去し、脱鉄器にて脱鉄した後、乾燥した。その後、乾燥粉体を800kgf/cm2の圧力で100mm角−厚み6mmの金型プレス成形体を得た。
【0080】
この成形体を600℃の窒素中でPVAを除去後、窒化珪素製の焼成サヤ中に配置し、110kPaの窒素中において1750℃で15時間かけて焼成した。アルキメデス法にて開気孔率を測定したところ、全て2%以下となっていた。さらに、300kPaの窒素中にて1800℃で5時間かけて再度焼成し、相対密度が97%以上の窒化珪素質焼結体を得た。
【0081】
得られた焼結体より、各種試験片を切りだし、800℃における熱伝導率(JIS R 1611)、800℃の四点曲げ強度(JIS R 1601)を測定した。また、耐熱衝撃性の評価方法としては、825℃に加熱したJIS R 1601に準ずる抗折試験片10本を25℃の水中に投下し(ΔT=800℃、JIS R 1648相対法)、熱衝撃ダメージを加えた後の残存曲げ強度(室温における四点曲げ強度の10本の平均値)を測定して、熱衝撃ダメージを付与しなかった場合の初期強度(室温における四点曲げ強度10本の平均値)に対する強度低下率を算出して判定した。A判定は強度低下率5%以内のもの、B判定は強度低下率5%を超え10%以内のもの、C判定は強度低下率10%を超え30%以内のもの、D判定は強度低下率30%を超えるものとし、D判定は本発明の範囲外とした。
【0082】
焼結体中のβ−サイアロンのz値の算出は、次のように行った。すなわち、焼結体を#200メッシュ以下に粉砕し、角度補正用サンプルとして高純度α−窒化珪素粉末(宇部興産製のE−10グレード、Al含有量20ppm以下)を約60質量%外添して乳鉢にて均一混合し、粉末X線回折法により解析範囲2θ=33〜37°、走査ステップ幅0.002°、Cu−Kα線(λ=1.54056Å)にてプロファイル強度を測定した。
【0083】
角度の補正は、角度補正用サンプルより得られるピークトップを用いて補正した。すなわち、2θ=34.565°付近に現れるα(102)の0.002°毎に得られるピーク強度の上位10点の平均2θと34.565°の差(Δ2θ1)を求める。ついで、2θ=35.333°付近に現れるα(210)の0.002°毎に得られるピーク強度の上位10点の平均2θと35.333°の差(Δ2θ2)を求め、その差の平均(Δ2θ1+Δ2θ2)/2を補正Δ2θとした。次に、2θ=36.055°付近に現れるβ(210)の0.002°毎に得られるピーク強度の上位10点の平均2θを、補正Δ2θによって補正した角度を本焼結体のβ(210)のピーク位置(2θβ)とした。このピーク位置(2θβ)を以下の算出式(B)に代入し、格子定数a(Å)を求めた。
【0084】
【数2】

【0085】
具体的には、(hkl)=(210)を上記式(B)に代入すると、上記式(B)の第2項、すなわち(λ22/4)/c2は0となり、さらに変形することで格子定数a(Å)を算出することができる。この格子定数a(Å)の値を、K.H.Jack,J.Mater.Sci.、11(1976)1135−1158、Fig.13に記載される格子定数a(Å)−固溶量zのグラフから読みとり、z値を求めた。
【0086】
また、RE23およびAl23およびSiO2の構成比率、粒界相量は次のように求めた。すなわち、ICP発光分光分析により窒化珪素質焼結体中のREおよびAlの含有量(質量%)を測定し、この含有量をRE23およびAl23換算での含有量(質量%)に換算する。次に、LECO社製の酸素分析装置で窒化珪素質焼結体中の全酸素含有量(質量%)を測定し、前記RE23およびAl23の酸素成分量(質量%)を差し引き、残りの酸素量(質量%)をSiO2量(質量%)に換算する。
【0087】
このようにして算出されたRE23,Al23、SiO2の質量%、さらには残部をSi34と想定し、それぞれの理論密度(Y23:5.02g/cm3、Er23:8.64g/cm3、Yb23:9.18g/cm3、Lu23:9.42g/cm3、Al23:3.98g/cm3、SiO2:2.65g/cm3、Si34:3.18g/cm3)で除した体積比率より、粒界相の体積%を算出した。
【0088】
さらには、RE23、Al23、SiO2の質量%の総和を100%として粒界相の構成比率として算出した。また、Fe含有量はICP発光分光分析により求めた。Fe珪化物種は粉末X線回折法により同定した。
これらの結果を、表1に併せて示す。
【0089】
【表1】

【0090】
表1から明らかなように、z値が0.4より小さく、粒界相のAl23構成比率が14質量%より小さい試料1、2、13、15は、焼結性が大幅に低下したため緻密化不十分であり、800℃強度が低いのがわかる。また、z値が0.7より大きく、粒界相のAl23構成比率が42質量%より大きい試料6、7は、800℃熱伝導率が非常に低く、耐熱衝撃性が悪かった。
【0091】
また、粒界相のSiO2構成比率が8質量%より小さい試料7、8、9は、焼結不良によるボイドが多発し、800℃強度が低く、逆に粒界相のSiO2構成比率が19質量%より大きい試料11は、粒界相を構成する原子間の高温における結合力が弱くなるため、高温におけるフォノンの伝搬の低下による高温熱伝導率の低下と高温強度の低下が発生し、耐熱衝撃性が悪かった。
【0092】
また、粒界相が15体積%を超える試料13、14は、800℃熱伝導率または800℃強度が低く、耐熱衝撃性がいずれも悪かった。また、Fe含有量が0.1質量%より少ない試料15、16は、800℃強度が低く、1.5質量%を超える試料19、20は、800℃熱伝導率が低下するために耐熱衝撃性が悪かった。
【0093】
これに対し、試料3〜5、10、12、17、18は、800℃強度が630MPa以上、800℃熱伝導率が10W/(m・K)以上であり、ΔT=800℃における強度低下率が10%以内(耐熱衝撃性がB判定以上)であり良好であった。なお、REがEr、Yb、Luである試料21、22、23は、REがYであるときの類似組成である試料3と比較すると、800℃熱伝導率が低めであり、Yの方が良好であった。
【0094】
[実施例2]
β化率25%(β−Si6-ZAlZZ8-Zとしたときのz=0.5)の窒化珪素質粉末(平均粒径D50=4.5μm、酸素含有量0.7質量%)と、実施例1記載のY23粉末、Al23粉末、Fe23粉末と、平均粒径5.3μmのWO3粉末をIPA中にて回転ミルで120時間かけて粉砕混合し、D90=1.5μmとした混合粉末スラリーを作製した。
【0095】
次に、粉体重量に対してPVAを3質量%添加し、#400メッシュを通して異物を除去し、脱鉄器にて脱鉄した後、乾燥した。その後、乾燥粉体を800kgf/cm2の圧力で100mm角−厚み6mmの金型プレス成形体を得た。
【0096】
この成形体を600℃の窒素中でPVAを除去後、窒化珪素製の焼成サヤ中に配置し、110kPaの窒素中において1800℃で15時間かけて焼成した。アルキメデス法にて開気孔率を測定したところ、全て2%以下となっていた。さらに300kPaの窒素中にて1840℃5時間かけて再度焼成し、1時間当たり100℃で冷却して、相対密度が97%以上の窒化珪素質焼結体を得た。
【0097】
得られた焼結体は、実施例1記載の方法により試験片を作製し、800℃における熱伝導率(JIS R 1611)、800℃の四点曲げ強度(JIS R 1601)、耐熱衝撃性(ΔT=800℃、JIS R 1648相対法、残存曲げ強度測定)を実施例1と同様にして評価した。
【0098】
焼結体中のβ−サイアロンのz値の算出、粒界相中のY23およびAl23およびSiO2の構成比率、粒界相量、Fe含有量、Fe珪化物種は、実施例1記載の方法に従った。W含有量およびW珪化物種の同定についても、Feと同様ICP発光分光分析、粉末X線回折法により決定した。
これらの結果を、表2に併せて示す。
【0099】
【表2】

【0100】
表2から分かるように、いずれの試料においても耐熱衝撃性はC判定以上で良好であった。特に、W含有量が0.1〜5質量%の試料25〜28,30,31においては、800℃熱伝導率と800℃強度の向上が見られ、耐熱衝撃性がB判定以上となり、特に良好な範囲であった。
【0101】
[参考例1]
実施例2における試料28(B判定)のY−Al−Si−Oを含む粒界相は、粉末X線回折法でメリライト相であることが確認された。同一試料を実施例2と同一セット方法にて1840℃に昇温し、1時間当たり200℃で冷却した(試料28A)。試料は実施例1,2と同様の方法で各種分析し、z値、粒界相の構成比率、Fe,Wの含有量、珪化物種が実施例2の試料28と同一であることを確認した。さらには、JIS R 1607、SEPB法に準じる方法で破壊靱性値を測定した。その結果を、表3に示す。
【0102】
【表3】

【0103】
表3から分かるように、試料28Aは、冷却速度が速くなったため、粒界相が非晶質となっている。このため、室温〜800℃における破壊靱性値が向上しており、クラックの進展が抑制されており、耐熱衝撃性が向上したことが確認された。
【0104】
[参考例2]
実施例2における試料31(B判定)は、粒界相中のAl23成分が15質量%以下であったため、Y−Al−Si−Oを含む粒界相は、粉末X線回折法で非晶質であることが確認された。同一試料を実施例2と同一セット方法にて1300℃にて3時間保持して熱処理を行った(試料31A)。試料は実施例1、2、参考例1と同様の方法で各種分析し、z値、粒界相の構成比率、Fe,Wの含有量、珪化物種が実施例2の試料31と同一であることを確認した。これらの結果を、表4に併せて示す。
【0105】
【表4】

【0106】
表4から分かるように、試料31Aは、熱処理により粒界相が結晶化、すなわち粒界相の一部がダイシリケート相とアパタイト相とに結晶化しており、室温〜800℃における熱伝導率が向上しており、クラックが生じにくく、耐熱衝撃性が向上したことが確認された。
【0107】
[実施例3]
実施例1記載のY23粉末8質量%、Al23粉末5質量%、SiO2粉末2質量%、Fe23粉末1質量%、WO3粉末1質量%と、残部が表5に示す各種窒化珪素粉末とを、水中にてバレルミルで60時間かけて粉砕混合し、D90≦1.5μmとした混合粉末スラリーを作製した。
【0108】
次に、粉体重量に対してPVA、PEOを各2質量%添加し、#600メッシュを通して異物を除去し、脱鉄器にて脱鉄した後、乾燥した。その後、乾燥粉体を1000kgf/cm2の圧力で100mm角−厚み10mmの金型プレス成形体を得た。
【0109】
この成形体を700℃の窒素中でPVA、PEOを除去後、炭化珪素製の焼成サヤ中に配置し、表5に示す初期焼成条件で焼成した後一旦取り出し、アルキメデス法にて開気孔率を測定した。その後、再度焼成サヤに戻して後期焼成条件で緻密化を進行させた。
【0110】
得られた焼結体は実施例1記載の方法に従い、800℃における熱伝導率(JIS R 1611)、800℃の四点曲げ強度(JIS R 1601)、耐熱衝撃性(ΔT=800℃、JIS R 1648相対法、残存曲げ強度測定)、焼結体中のβ−サイアロンのz値を測定した。
【0111】
また、粒界相中のY23およびAl23およびSiO2の構成比率、粒界相量、FeおよびW含有量、FeおよびW珪化物種は実施例1記載の方法に従い、確認した。
これらの結果を、表5に併せて示す。
【0112】
【表5】

【0113】
表5において、使用した窒化珪素粉末のz値が0.5を超えた試料37は、焼結後の主相となるβ−サイアロンのz値が0.7を超え、熱伝導率が低下して、耐熱衝撃性が劣化した。
【0114】
初期焼成における窒素分圧が50kPaより低い試料38は、窒化珪素の分解によるSiが生成しクラックが多発し、焼結開始前に窒素分圧を300kPaより高くした試料41は、焼結しにくく開気孔率が5%以上であり、またサイアロン化するために必要なN供給が多かったために生成したサイアロンのz値が0.7を大きく超えており、800℃熱伝導率が低下して耐熱衝撃性が悪かった。
【0115】
焼結開始前の開気孔率が大きい初期の段階で1800℃を超える温度に投入された試料43は、サイアロン化が進行しやすくz値が0.7を超えており、800℃熱伝導率が低下して耐熱衝撃性が悪かった。初期焼成における窒素分圧、温度が発明の範囲内であるが開気孔率が5%より大きい状態において、窒素分圧300kPaを超え、かつ、焼成温度1800℃を超えた後期焼成条件に投じられた試料45は、相対密度が低く、かつz値が0.7を超えており、800℃強度、800℃熱伝導率がいずれも低く、耐熱衝撃性は悪かった。
【0116】
これに対し、試料34〜36、42、44、46、47は、800℃強度が570MPa以上、800℃熱伝導率が10W/(m・K)以上であり、ΔT=800℃における強度低下率が30%以内(耐熱衝撃性がC判定以上)であり良好であった。
【0117】
[実施例4]
実施例1記載のY23粉末10質量%、Al23粉末4質量%、Fe23粉末1質量%、WO3粉末2質量%と、残部が窒化珪素成分となるように秤量した。窒化珪素成分は、実施例1記載の窒化珪素質粉末(β化率10%、β−Si6-ZAlZZ8-Zとしたときのz≦0.1、平均粒径D50=3μm、Al含有量200ppm、酸素含有量0.9質量%)と金属シリコン粉末(平均粒径D50=30μm、Al含有量300ppm、Fe含有量5000ppm、酸素含有量0.7質量%)を表6記載の質量比(Si/Si34)となるように秤量した。
【0118】
これらの粉末合計質量1に対して、IPA1.2、窒化珪素質メディア2.5の質量比率でバレルミルに投入し、粉砕混合し、D90≦3.5μmとした混合粉末スラリーを作製した。窒化珪素粉末表面および金属シリコン粉末表面は酸化されており、酸素含有量としては、それぞれ窒化珪素粉末表面:1.8質量%、金属シリコン粉末表面:2.1質量%であった(それぞれの粉末を個別に同一条件で粉砕した試験より測定)。
【0119】
次に、#400メッシュを通して異物を除去し、脱鉄器にて脱鉄した後、粉体重量に対してPVA、PEOを各2質量%添加し、スプレードライヤーで造粒した。平均顆粒径は約60μmであった。その後、顆粒を800kgf/cm2の圧力でCIP成形し、外径80mm−厚み10mmになるよう切削して成形体を得た。
【0120】
この成形体を500℃の窒素気流中でPVA、PEOを除去後、窒化珪素製の焼成サヤ中に配置し、金属シリコンを窒化させた。窒化条件は、800℃で表6の窒素分圧とした後、1100℃、1200℃で各6時間保持した後、表6記載の最高温度で6時間保持するパターンとした。窒化後一旦取り出し、窒化体の分析を行った。窒化体の分析は粉末X線回折法によりSiの残存の有無と窒化体のβ化率を算出し、さらに実施例1記載の方法に従ってz値の測定を行った。
【0121】
その後、再度焼成サヤに戻して実施例5における試料47記載の焼成条件で焼成した。得られた焼結体は、実施例1記載の方法に従い、800℃における熱伝導率(JIS R 1611)、800℃の四点曲げ強度(JIS R 1601)、耐熱衝撃性(ΔT=800℃、JIS R 1648相対法、残存曲げ強度測定)、焼結体中のβ−サイアロンのz値を測定した。
【0122】
また、粒界相中のY23およびAl23およびSiO2の構成比率、粒界相量、FeおよびW含有量、FeおよびW珪化物種は実施例1記載の方法に従い、確認した。
これらの結果を、表6に併せて示す。
【0123】
【表6】

【0124】
窒化時の窒素分圧が50kPaより低い試料52は、窒化不足でありSiが残存しており、窒化時の窒素分圧が1.1MPaより高い試料57は、急激な窒化反応による発熱反応により温度暴走が生じSiメルトが生じ、窒化体にクラックが多発していた。
【0125】
窒化時の最高温度が1400℃より高い試料59は、窒化体のβ化率が40%を超え、窒化体のz値も0.5を超えているため、焼結体のz値が0.7より大きく、800℃強度が500MPa未満、800℃熱伝導率が10W/(m・K)未満であり、耐熱衝撃性が悪かった。
【0126】
これに対し、試料50,51、55、56は、800℃強度が650MPa以上、800℃熱伝導率が11W/(m・K)以上であり、ΔT=800℃における強度低下率が30%以内(耐熱衝撃性がC判定以上)であり良好であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
組成式Si6-ZAlZZ8-Zで表され、固溶量z値が0.4〜0.7であるβ−サイアロンを主相とし、粒界相およびFe珪化物粒子を有する窒化珪素質焼結体であり、前記粒界相は、Y−Al−Si−Oを含有し、かつAl、Si、Yの構成比率がAl23、SiO2、Y23換算でAl2314〜42質量%、SiO28〜19質量%、残部がY23であり、前記粒界相を焼結体100体積%に対して15体積%以下の範囲で含有し、前記Fe珪化物粒子をFe換算で焼結体100質量%に対して0.1〜1.5質量%含有する窒化珪素質焼結体。
【請求項2】
800℃における熱伝導率が10W/(m・K)以上であり、800℃における四点曲げ強度が630MPa以上である請求項1記載の窒化珪素質焼結体。
【請求項3】
さらにW珪化物粒子をW換算で焼結体100質量%に対して0.1〜5質量%含有する請求項1記載の窒化珪素質焼結体。
【請求項4】
前記粒界相が非晶質である請求項1記載の窒化珪素質焼結体。
【請求項5】
前記粒界相の一部が、ボラステナイト相、アパタイト相、ダイシリケート相およびモノシリケート相から選ばれる少なくとも1種に結晶化している請求項1記載の窒化珪素質焼結体。
【請求項6】
組成式をSi6-ZAlZZ8-Zとしたときの固溶量z値が0.5以下であるβ化率40%以下の窒化珪素質粉末と、添加物成分としてY23粉末、Al23粉末およびFe23粉末とを混合して混合物を調製する工程と、該混合物を成形して得られる成形体を窒素分圧50〜300kPa、温度1800℃以下で開気孔率5%以下となるまで焼成し、その後相対密度96%以上となるまで緻密化させる工程とを含む請求項1記載の窒化珪素質焼結体の製造方法。
【請求項7】
組成式をSi6-ZAlZZ8-Zとしたときの固溶量z値が0.5以下であるβ化率40%以下の窒化珪素質粉末と、金属シリコン粉末とを、質量比[(金属シリコン粉末)/(窒化珪素質粉末)]が1〜10となる割合で混合し、さらに添加物成分としてY23粉末、Al23粉末およびFe23粉末を混合して混合物を調製する工程と、該混合物を成形して得られる成形体を窒素分圧50kPa〜1.1MPa、1000〜1400℃の温度範囲で焼成し、前記金属シリコン粉末を窒化珪素に変換した多孔質窒化体を調製する工程と、該多孔質窒化体を窒素分圧50〜300kPa、温度1800℃以下で開気孔率5%以下となるまで焼成し、その後相対密度96%以上となるまで緻密化させる工程とを含む請求項1記載の窒化珪素質焼結体の製造方法。
【請求項8】
前記多孔質窒化体中の窒化珪素部のβ化率が40%以下、z値が0.5以下である請求項7記載の窒化珪素質焼結体の製造方法。
【請求項9】
前記混合物に、添加物成分としてさらにWO3粉末を混合する請求項6または7記載の窒化珪素質焼結体の製造方法。
【請求項10】
請求項1記載の窒化珪素質焼結体からなる金属溶湯用部材。
【請求項11】
請求項1記載の窒化珪素質焼結体からなる熱間加工用部材。
【請求項12】
請求項1記載の窒化珪素質焼結体からなる掘削用部材。

【公開番号】特開2012−51798(P2012−51798A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−259564(P2011−259564)
【出願日】平成23年11月28日(2011.11.28)
【分割の表示】特願2006−547778(P2006−547778)の分割
【原出願日】平成17年11月22日(2005.11.22)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】